説明

新規な16SrRNAメチラーゼ遺伝子、該遺伝子から産生されるタンパク質、および、それらの検査方法

【課題】新規な耐性機構を付与する16S rRNAメチラーゼ遺伝子、その検査方法、その検査に使用するプライマー、該プライマーを用いた検査キット、プローブ、該プローブを用いた検査薬、並びに、前記遺伝子から産生されるタンパク質、該タンパク質を用いる該タンパク質を検出するための検査方法、該タンパク質に対する抗体、および該抗体を含有する検査薬を提供する。
【解決手段】特定の塩基配列から成ることを特徴とする遺伝子、および該遺伝子から産生された特定のアミノ酸配列からなるタンパク質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ配糖体に耐性を付与する新規な16Sr RNAメチラーゼ遺伝子および該遺伝子から産生されたタンパク質に関し、特に、腸内細菌から発見されたこれらの遺伝子や、該遺伝子によって産生されたタンパク質を用いた、上記遺伝子または該遺伝子によって産生されたタンパク質の検査方法、該方法に用いるプライマー、プローブ、検査キット、および、検査薬に関する。
【背景技術】
【0002】
アミノ配糖体系抗生物質における抗菌スペクトルは、グラム陽性菌、グラム陰性菌、結核菌と広範囲におよぶことが知られている。特にカナマイシン系アミノ配糖体は、緑膿菌や大腸菌を含むグラム陰性桿菌に対して強力な抗菌力を示すので、臨床上重要な抗生物質である。
【0003】
また、細菌のアミノ配糖体に対する耐性機構において、薬剤を修飾することによりその薬剤を不活化する酵素(修飾酵素)が知られている。このような修飾酵素として、アミノ配糖体のアミノ基を修飾するアセチル化酵素、水酸基を修飾するリン酸化酵素およびアデニリル化酵素、並びにアセチル化とリン酸化を同時に行う二機能酵素が報告されている(非特許文献1〜3)。細菌は、これらの修飾酵素を産生することにより、1〜数種類のアミノ配糖体に対して耐性化する(非特許文献4)。
【0004】
【非特許文献1】Shawら、Microbiol. Rev.、第57巻、第138-163頁、1993年
【非特許文献2】Aminoglycoside Resistance Study Groups、Trends Microbiol.、第2巻、第347-353頁、1994年
【非特許文献3】Daviesら、Trends Microbiol.、第5巻、第234-240頁、1997年
【非特許文献4】Kondoら、J. Infect. Chemother.、第5巻、第1-9頁、1999年
【0005】
日本で開発されたアミノ配糖体系抗生物質であるアルベカシンは、上記修飾酵素による耐性化機構を回避することを想定して創製されており、耐性菌が出現しにくい抗生物質であるといわれている。従って、アルベカシンはグラム陽性菌からグラム陰性菌に至るまで幅広い抗菌活性を示すという特徴を有しており、日本では、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症の治療薬として認可され、用いられている。
【0006】
アルベカシンに対する耐性菌の出現については、最小発育阻止濃度が12.5〜25μg/mlという中等度の耐性を示すMRSAがわずかながら出現しているとの、MRSAに関する報告がある(非特許文献5)。その耐性化機構は、アセチル化とリン酸化を同時に行う二機能酵素によるものであり、アルベカシンの6’位のアミノ基と2”位の水酸基が同時に修飾を受けることにより、アルベカシンが不活化される(前記非特許文献4)というものである。
【非特許文献5】出口ら、Jpn. J. Antibiot.、第50巻、第1-11頁、1997年
【0007】
また、1997年には、患者の喀痰から、アルベカシンに対して高度耐性を示す緑膿菌AR-2株が分離された。表1に示した種々のアミノ配糖体に対する最小発育阻止濃度から明らかなように、このAR-2株は、カナマイシンやゲンタマイシンなど、従来のアミノ配糖体に加え、アミカシンやイセパマイシンなどの新型のアミノ配糖体等、広範囲に渡って1000μg/ml以上の高度耐性を示す。従って、院内感染や術後感染の原因菌である緑膿菌で、AR-2株のような株が臨床現場に広まっている可能性があり、将来の化学療法の実施に深刻な影響を及ぼすことが懸念された。
【0008】
【表1】

尚、表1中の各略号は、KM:カナマイシン、GM:ゲンタマイシン、TOB:トブラマイシン、AMK:アミカシン、ABK:アルベカシン、SISO:シソマイシン、ISP:イセパマイシン、NEO:ネオマイシン、SM:ストレプトマイシン、HYG-B:ハイグロマイシンBを意味する。
【0009】
このため、人の医療で使用される抗生物質に対する耐性を獲得した病原菌に感染した患者をいち早く特定して治療を行い、院内感染等の耐性菌の拡散を防止することが必要である。
さらに抗生物質は、医療現場のみならずペットや家畜の治療としても多用されており、畜産現場等でも数多くの耐性菌が発生している。このような耐性菌が、畜産製品等を通じて人に感染する可能性も指摘されており、畜産現場等で多用されている抗生物質に対する耐性を獲得した病原菌についても、同様の対策が求められ、医療現場および畜産現場において耐性菌への感染の有無を簡単に検出できる方法の開発が期待されていた。
【0010】
一方、16S rRNAメチラーゼは、Streptomyces属やMicromonospora属などのアミノ配糖体系抗生物質を産生する菌が保有する酵素であり、カナマイシンやゲンタマイシンなどのアミノ配糖体系抗生物質を産生する放線菌等で確認されている。この酵素は、アミノ配糖体の標的部位である30Sリボソームにおける16S rRNA(リボゾーマルRNA)をメチル化することにより、アミノ配糖体が結合するのを妨げるものであり、アミノ配糖体産生菌が自己防衛手段として生来獲得している酵素である(非特許文献6)。上記16S rRNAメチラーゼは、S-アデノシルメチオニンを基質として16S rRNAをメチル化する酵素であるが、この種の酵素は、これまでアミノ配糖体産生菌以外では確認されていなかった。
【非特許文献6】Mol Gen Genet (1985) 200:415-421
【0011】
ところが、緑膿菌が有する、アミノ配糖体に対する耐性を付与する遺伝子をクローニングし、塩基配列を決定した後ホモロジー検索を行った結果、本発明者等は、放線菌以外の細菌では報告例のない酵素を前記緑膿菌がコードしていることを見いだすと共に、酵素としての特徴づけを行うことに成功した。そこで本発明者等は、これらの遺伝子等を利用したグラム陰性菌の16S rRNAメチラーゼの検査方法等を提案した(特許文献1)。
【特許文献1】特開2003−250554号公報
【0012】
さらに本発明者らは、腸内細菌群の中から、前記緑膿菌で発見された16S rRNAメチラーゼ等と3割程度共通する構造を有する新規な16S rRNAメチラーゼを見い出すと共に、これらの遺伝子等を利用した16S rRNAメチラーゼの検出方法を提案した。腸内細菌がこれらの酵素を産生した場合には、カナマイシンやゲンタマイシン等に加え、アミカシン、トブラマイシン、イセパマイシン、アルベカシン等の、臨床で汎用される比較的新しいアミノ配糖体に対して、耐性を生じることが判明している。
【0013】
そこで本発明者等は、アミノ配糖体系抗生物質に耐性を示す緑膿菌以外の菌についても鋭意研究を重ねた結果、アミノ配糖体系抗生物質に耐性を示す大腸菌(Escherichia coli)についても、カナマイシンやゲンタマイシンなどのアミノ配糖体系抗生物質を産生する、放線菌等が生産する16S rRNAメチラーゼをコードしている遺伝子と類似する新規な遺伝子を見出した。さらに、これらの病原菌がこの酵素を産生した場合には、医療現場で用いられる抗生物質のみならず、アプラマイシンなどの畜産現場で使用されるアミノ配糖体系抗生物質にも耐性が生じることを発見し、本発明を完成した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って本発明の第1の目的は、広範囲のアミノ配糖体に対して高度の耐性を獲得した病原菌が有する、前記耐性を付与する16S rRNAメチラーゼをコードする遺伝子を提供することにある。
本発明の第2の目的は、広範囲のアミノ配糖体に対して高度の耐性を獲得した病原菌が有する、前記16S rRNAメチラーゼをコードする遺伝子を検出するための検査方法を提供することにある。
本発明の第3の目的は、広範囲のアミノ配糖体に対して高度耐性を獲得した病原菌が有する前記16S rRNAメチラーゼを産生する遺伝子の塩基配列またはそれを特徴づける塩基配列部分を、PCR増幅するためのプライマーを提供することにあり、また、第4の目的は、該プライマーを有する検査キットを提供することにある。
本発明の第5の目的は、広範囲のアミノ配糖体に対して高度耐性を獲得した病原菌が有する前記16S rRNAメチラーゼを産生する遺伝子を識別するためのプローブを提供することにあり、また、第6の目的は、該プローブを有する検査薬を提供することにある。
【0015】
本発明の第7の目的は、請求項1に記載された遺伝子から産生されるタンパク質を提供することにある。
本発明の第8の目的は、請求項1に記載された遺伝子から産生されるタンパク質を検出するための検査方法を提供することにある。
更に本発明の第9の目的は、広範囲のアミノ配糖体に対して高度耐性を獲得した病原菌が有する請求項1に記載された遺伝子から産生されるタンパク質に対する抗体を提供することにあり、また、第10の目的は、該抗体を含有することを特徴とする検査薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の上記の諸目的は、
(a)配列番号1に示される塩基配列からなる遺伝子、
(b)16S rRNAメチラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であって、前記(a)に記載された塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された遺伝子、
(c)16S rRNAメチラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であって、前記(a)に記載された塩基配列との相同性が80%以上である遺伝子、
(d)16S rRNAメチラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であって、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、
(e)前記(a)〜(d)の何れかの塩基配列からなる遺伝子と相補的な塩基配列からなる遺伝子、
のいずれかに記載された遺伝子からなることを特徴とする16S rRNAメチラーゼ遺伝子、その検査方法、その検査に使用するプライマー、該プライマーを用いた検査キット、プローブ、該プローブを用いた検査薬、並びに、前記遺伝子から産生されるタンパク質、該タンパク質を用いる該タンパク質を検出するための検査方法、該タンパク質に対する抗体、および該抗体を含有する検査薬によって達成された。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、医療現場で用いられるアミノ配糖体系抗生物質に加え、畜産現場で使用されるアプラマイシンなどのアミノ配糖体系抗生物質にも耐性を示す病原菌を、容易に検出することができる。これによって医療機関等で容易に細菌検査を行なうことができるので、本発明は、このような多剤耐性菌感染者への適切な治療に有効であるだけでなく、耐性菌の拡散を迅速に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明における第1の発明は、
(a)配列番号1に示される塩基配列からなる遺伝子、
(b)16S rRNAメチラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であって、前記(a)に記載された塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された遺伝子、
(c)16S rRNAメチラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であって、前記(a)に記載された塩基配列との相同性が80%以上である遺伝子、
(d)16S rRNAメチラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であって、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、
(e)前記(a)〜(d)の何れかの塩基配列からなる遺伝子と相補的な塩基配列からなる遺伝子、
のいずれかに記載された遺伝子からなることを特徴とする16S rRNAメチラーゼ遺伝子である。
【0019】
本発明における配列番号1の塩基配列からなる遺伝子(図1,PamA)は、新規な遺伝子領域である。この遺伝子領域は660塩基からなり、遺伝子が産生するタンパク質は219のアミノ酸(配列番号2)からなっている。上記タンパク質は、図1に示すように、放線菌が産生する16S rRNAメチラーゼの一種である。
【0020】
アミノ配糖体抗生物質に耐性を付与する16S rRNAメチラーゼは、修飾対象となる16S rRNA内の塩基よって、二種類に大別される。1つは、16S rRNAの1405番目の塩基であるグアニンをメチル化する酵素であり、もう1つは1408番目の塩基であるアデニンをメチル化する酵素である。本発明の新規な16S rRNAメチラーゼ(PamA)は、後者の1408番目のアデニンをメチル化する16S rRNAメチラーゼである。
このようにメチル化される塩基の差異により、16S rRNAメチラーゼが耐性を付与することのできるアミノ配糖体系抗生物質の種類に違いが生じることが知られている。
【0021】
また本発明における第2の発明は、前記第1の発明に係る遺伝子の塩基配列又はそれを特徴づける塩基配列部分を用いた、本発明の16S rRNAメチラーゼ遺伝子を検出するための検査方法である。
本発明の検査方法は、公知の方法により適宜実施することができる。具体的には、前記第1の発明に係る遺伝子の塩基配列又はそれを特徴づける塩基配列をPCRにより増幅し、電気泳動やシーケンサーを用いて目的遺伝子を確認すれば良い。また、これらの塩基配列を持つヌクレオチドをプローブとして用い、サザンブロット法、DNAプローブ法やDNAマイクロチップ法により遺伝子を検出しても良い。
【0022】
なお、前記第1の発明に係る遺伝子を特徴づける塩基配列とは、第1の発明に係る遺伝子の塩基配列のうち、本発明の遺伝子に特異的な配列を意味し、このような配列であれば特に制限されることはない。このような配列としては、例えば表2のプライマーによりPCR増幅される塩基配列部分が挙げられる。具体的には、配列番号3のフォワードプライマーと配列番号11のリバースプライマーによって増幅される、配列番号1の塩基配列における205−594の塩基配列や、配列番号4のフォワードプライマーと配列番号12のリバースプライマーによって増幅される、配列番号1における226−610の塩基配列などを例示することができる(表2参照)。
【0023】
本発明における第3の発明は、前記第1の発明に係る遺伝子の塩基配列又はそれを特徴づける塩基配列部分をPCR増幅するためのプライマー、第4の発明はフォワードプライマー、第5の発明はリバースプライマーである。
PCR増幅用プライマーは、公知の方法により適宜作製することができ、前記第1の発明に係る遺伝子の塩基配列又はそれを特徴づける塩基配列部分を特異的に増幅しうる配列であれば、特に制限されることはない。
【0024】
第4の発明のフォワードプライマーとしては、配列番号3−10で示されるプライマーまたはこれらに相補的な塩基配列を有するプライマーが挙げられる。また、第5の発明のリバースプライマーとしては、配列番号11−17で示されるプライマーまたはこれらに相補的な塩基配列を有するプライマーが挙げられる。上記のフォワードプライマーから選択される1種と、上記のリバースプライマーから選択される1種を適宜選択して使用し、PCR増幅を行なうことができる。例えば、表2のような組み合わせで使用することが可能である。
【表2】

【0025】
本発明における第6の発明は、該プライマーを有する本発明の16S rRNAメチラーゼ遺伝子を検出するための検査キットである。
【0026】
本発明における第7の発明は、前記第1の発明に係る遺伝子の塩基配列又はそれを特徴づける塩基配列部分を有するプローブ、第8の発明は、該プローブを有する前記第1の発明に係る遺伝子を検出するための検査薬である。
本発明のプローブは、公知の方法により適宜産生することができ、本発明の16S rRNAメチラーゼ遺伝子の塩基配列又はそれを特徴づける塩基配列部分であれば特に制限されるものではない。例えば、前記した本発明のプライマーを用い、PCR法により増幅させたヌクレオチドでも良いし、合成したヌクレオチドを本発明のプローブとして用いても良い。
【0027】
また、本発明における第9の発明は、
(1)配列番号2のアミノ酸配列、
(2)16S rRNAメチラーゼ活性を有するタンパク質のアミノ酸配列であって、前記(1)に記載されたアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたタンパク質のアミノ酸配列、
(3)16S rRNAメチラーゼ活性を有するタンパク質のアミノ酸配列であって、前記(1)に記載されたアミノ酸配列との相同性が80%以上であるタンパク質のアミノ酸配列、
のいずれかに記載されたアミノ酸配列からなることを特徴とするタンパク質であり、第10の発明は、前記第9の発明に係るタンパク質を用いた、前記第9の発明に係るタンパク質を検出するための検査方法である。
【0028】
本発明の検査方法は、公知の方法により適宜行なうことができる。具体的には、ラテックス凝集法、ウエスタンブロット法、酵素免疫測定法(ELISA法)、イムノクロマト法などが挙げられる
例えば、Hujer et al.,ELISAs for CMY-2 and SHV β-lactamases.,J.Clin.Microbiol.Vol.40,2002,p.1947-1957.、Wu et al.,Influence of antibody on florfenicol accumulation,J.Clin.Microbiol.Vol.44,2006,p.378-382、Sueur et al.,Chlamydia pneumoniae 54-kDa protein ,Clinical Microbiology and Infection,Vol.12 No.5,May 2006,p.470-477等、公知の文献に記載されている方法を用いることが可能である。
【0029】
本発明における第11の発明は、前記第9の発明に係るタンパク質に対する抗体、第12の発明は該抗体を含有する前記第9の発明に係るタンパク質を検出するための検査薬であり、第13の発明は、アミノ配糖体に耐性を示す腸内細菌用の検査薬、第14の発明は、特に該腸内細菌がEscherichia coliである場合の検査薬である。
【0030】
本発明の新規な16S rRNAメチラーゼを産生する遺伝子を保有する菌は、多種類のアミノ配糖体系抗生物質に高度の耐性を有し、臨床上極めて危険であるので、迅速に検出して除去する必要がある。
本発明の遺伝子情報およびアミノ酸配列情報は、そのために必須の情報であり、その情報を公知の方法に応用し、前記本発明の16S rRNAメチラーゼを産生する遺伝子を保有する菌の検出に役立てることができる。
【0031】
即ち、本発明の遺伝子およびタンパク質は、これらをもたらす原因となる腸内細菌等の検出手段に利用することができる。例えば、塩基配列1の情報をもとにしてプライマーを設計し、PCR法によって検出したり、DNAマイクロチップなどの遺伝子を直接または間接的に検出するなど、臨床検査法に応用することができる。更に、公知の方法によって本発明のタンパク質に対する抗体を作成し、本発明の遺伝子やタンパク質の検査薬とすることも容易である。
【0032】
本発明においては、このように病原菌に内在する遺伝子や病原菌が産生するタンパク質を検出するため、アミノ配糖体系抗生物質に対する耐性を獲得したEscherichia coliのみならず、本発明に係る遺伝子が他のグラム陰性桿菌へ菌種を越え、プラスミドを介して伝播されることにより耐性を獲得した、Escherichia coli以外の緑膿菌などのグラム陰性桿菌を検出することも可能である。
このように本発明によれば、医療機関や臨床検査センター等における日常の細菌検査業務の中で、本耐性遺伝子を保有する菌を速やかに識別し除去することが可能となる。
【0033】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
まず、接合伝達実験を行い、腸内細菌Escherichia coliから、アミノ配糖体耐性遺伝子を受容菌(Escherichia coli CSH-2株)に移した。接合頻度は、2×10-8程度であった。
【0035】
得られた接合体よりプラスミドを回収し、プラスミドDNA及びクローニングベクターを制限酵素HindIIIで処理した後連結し、エレクトロポレーション法により大腸菌JM109に形質転換した。その際、クローニングベクターとしてpMCL210、宿主大腸菌としてJM109を用いた。更に、アプラマイシンを150mg/ml添加した培地に生育したコロニーから、アミノ配糖体耐性遺伝子を有する形質転換体を得た。これらの形質転換体について、最小発育阻止濃度を米国臨床検査標準委員会(Clinical Laboratory of Standard Institute)のガイドラインに準じて測定した。その結果を表3に示す。
【0036】
【表3】

【0037】
アミノ配糖体耐性遺伝子を有する形質転換体は、アミノ配糖体耐性遺伝子を有しない形質転換体と比較して、臨床現場で用いられるアミカシン、アルベカシン、トブラマイシン、ゲンタマイシン、ネチルマイシン、イセパマイシン、ネオマイシンだけでなく、畜産現場で用いられるゲンタマイシン、アプラマイシンにも耐性を示すことが確認された。特に、トブラマイシン、ネチルマイシン、アプラマイシンに対して強い耐性を示すことが判明した。
【0038】
次に、形質転換体からプラスミドDNAを回収し制限酵素で処理した後、電気泳動を行い、約4kbのDNA断片が挿入されている事を確認し、上記約4kbのDNA断片の一部について塩基配列を決定した。この操作により、アミノ配糖体耐性遺伝子として、配列番号1の塩基配列の情報を得た。
【0039】
得られた塩基配列(配列番号1)をQuery配列として、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)法を用い、BLASTX(DNA配列×アミノ酸配列DB)プログラムによりホモロジー検索を行った。その結果、本遺伝子(配列番号1)は イスタマイシン産生放線菌Streptomyces tenjimariensisが産生する16S rRNA メチレースやネブラマイシン産生放線菌Streptomyces tenebrariusが産生する16S rRNA メチレースとアミノ酸配列上約30%のホモロジーを示した。
【実施例2】
【0040】
リボソーム構成中におけるrRNAは、メチル化酵素によってメチル化され、細胞内RNaseによる分解から保護されることが知られている。この際に作用するメチル化酵素とホモロジー検索結果から得た16S rRNA メチラーゼとは、その構造及び酵素学的な特性が異なっており、転写後にrRNAを修飾する。
そこで本実施例においては、本発明の遺伝子(配列番号1)がコードしているタンパク質(配列番号2)が、16S rRNAをメチル化することを示すため、メチル基取り込み実験を行った。
本実施例で用いる精製酵素蛋白、及び反応基質となる30Sリボソームサブユニットの抽出を、以下のようにして行った。
【0041】
配列番号1の塩基配列から成るポリヌクレオチドを、蛋白発現用pCold-IIにクローニングし、大腸菌BL21(DE3)pLysSへ形質転換した。
得られた形質転換体を培養して菌体を集菌した後、緩衝液A (50mM リン酸緩衝液pH7.4、0.5M NaCl、10mMイミダゾール)を加え、120MPaの条件下でフレンチプレスにより菌体を破砕した。
【0042】
次に、100,000gで1時間超遠心処理を行い、上清をHisTrapカラムに通し、NaClで溶出した後緩衝液B(50mMリン酸緩衝液pH6.4)を用いて透析した。透析後の液をHitrapSカラムに通し、NaClで溶出した後緩衝液C(50mMリン酸緩衝液pH7.4)で透析し、精製酵素蛋白液を得た。
【0043】
大腸菌JM109を培養し、30Sリボソームの抽出を行った。培養した菌体に、緩衝液D(20mM Tris-HCl pH7.5、100mM NH4Cl、10mM MgCl2、6mM 2-ME)を加え、120MPaの条件下でフレンチプレスにより菌体を破砕した。前述した条件と同条件でフレンチプレスを用いて破砕した後、RNase-free DNase I(終濃度5μg/ml)を加え、再度、同じ条件でフレンチプレスにかけ、30,000gで45分間遠心処理を行った。得られた上清を緩衝液E(10mM Tris-HCl pH7.5、500mM NH4Cl、10mM MgCl2、6mM 2-ME)を用いて作成した20%ショ糖溶液に等量重層し、100,000gで15時間、超遠心処理を行った。得られたペレットを緩衝液Eに溶解し、同緩衝液を用いて作成した40%ショ糖溶液に等量重層し、先と同様の条件で超遠心処理を行った。得られたペレットを緩衝液Eに溶解し、脱塩をするため緩衝液F (10mM Tris-HCl、 pH7.5、 150mM NH4Cl、 1mM MgCl2、 6mM 2-mercaptoethanol)を用いて透析を行った。透析後の溶液を緩衝液Fで作成した10−30%ショ糖密度勾配溶液に重層し、48,000gで15時間、超遠心処理を行った。遠心処理後、260nmの波長でモニターを行い、30Sリボソームに相当する画分を採取した。
【0044】
メチル化の証明には、得られた基質、精製酵素蛋白抽出液及びメチル基供与体としてトリチウム標識されたS-アデノシルメチオニンを用いた。メチル化反応には、溶媒として緩衝液G (50mM Tris-HCl、 pH7.5、 37.5mM NH4Cl、 7.5mM MgCl2、 6mM 2-mercaptoethanol)を用い、基質濃度(30Sリボソーム)20 pmol、メチル基供与体5 μCi (500 mCi /mmol; 18.5 GBq /mmol)、及び精製蛋白を20pMol添加し、全容量を200 μlとした。反応温度を35℃とし、反応開始から0、5、15、30、45分経過後に、反応液を35μlずつ採取し、取り込まれたメチル基の放射能活性を液体シンチレーションカウンターにより測定した。
図2に示すように、時間とともにメチル基の取り込み活性が上昇した。
【実施例3】
【0045】
配列番号1の配列の205〜223と576〜594の配列をもとに作成したフォワードプライマー(配列番号3)とリバースプライマー(配列番号11)を用い、熱変性温度94℃で1分、アニーリニング温度55℃で1分、伸長反応温度72℃で1分を1サイクルとし、30サイクルの条件で、E. coli ARS3株(pamA+)、E.coli C600株(pamA-)についてPCR解析を行った。その結果、電気泳動によりARS3株について本発明の遺伝子を確認した(図3)。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】各種16S rRNAメチラーゼ中に占める、配列番号2で表されるタンパク質の位置関係を表す図である。
【図2】本発明のタンパク質(配列番号2)による30Sリボソームサブユニットのメチル化を示す図である。
【図3】E. coli ARS3株(pamA+)、E.coli C600株(pamA-)の電気泳動スペクトル(実施例3)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(e)のいずれかに記載された遺伝子からなることを特徴とする、16S rRNAメチラーゼ遺伝子。
(a)配列番号1に示される塩基配列からなる遺伝子。
(b)16S rRNAメチラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であって、前記(a)に記載された塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された遺伝子。
(c)16S rRNAメチラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であって、前記(a)に記載された塩基配列との相同性が80%以上である遺伝子。
(d)16S rRNAメチラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であって、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子。
(e)前記(a)〜(d)の何れかの塩基配列からなる遺伝子と相補的な塩基配列からなる遺伝子。
【請求項2】
請求項1に記載された遺伝子の塩基配列又はそれを特徴づける配列部分を用いることを特徴とする、前記16S rRNAメチラーゼ遺伝子を検出するための検査方法。
【請求項3】
請求項1に記載された遺伝子の塩基配列又はそれを特徴づける配列部分をPCR増幅するためのプライマー。
【請求項4】
フォワードプライマーが、配列番号3−10で示されるプライマーまたはこれらと相補的な塩基配列を有するプライマーから選択されることを特徴とする、請求項3に記載されたプライマー。
【請求項5】
リバースプライマーが、配列番号11−17で示されるプライマーまたはこれらと相補的な塩基配列を有するプライマーから選択されることを特徴とする請求項3に記載されたプライマー。
【請求項6】
請求項3−5の何れかに記載されたプライマーを有することを特徴とする、前記16S rRNAメチラーゼ遺伝子を検出するための検査キット。
【請求項7】
請求項1に記載された遺伝子の塩基配列又はそれを特徴づける配列部分を有するプローブ。
【請求項8】
請求項7に記載されたプローブを有することを特徴とする、前記16S rRNAメチラーゼ遺伝子を検出するための検査薬。
【請求項9】
下記(1)〜(3)のいずれかに記載されたアミノ酸配列からなることを特徴とするタンパク質。
(1)配列番号2のアミノ酸配列。
(2)16S rRNAメチラーゼ活性を有するタンパク質のアミノ酸配列であって、前記(1)に記載されたアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたタンパク質のアミノ酸配列。
(3)16S rRNAメチラーゼ活性を有するタンパク質のアミノ酸配列であって、前記(1)に記載されたアミノ酸配列との相同性が80%以上であるタンパク質のアミノ酸配列。
【請求項10】
請求項9に記載された何れかのタンパク質を用いることを特徴とする、請求項9に記載された何れかのタンパク質を検出するための検査方法。
【請求項11】
請求項9に記載された何れかのタンパク質に対する抗体。
【請求項12】
請求項11に記載された抗体を含有することを特徴とする、請求項9に記載された何れかのタンパク質を検出するための検査薬。
【請求項13】
請求項11に記載された抗体を含有することを特徴とする、アミノ配糖体に耐性を示す腸内細菌を検出するための検査薬。
【請求項14】
前記腸内細菌がEscherichia coliである、請求項13に記載された検査薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−61625(P2008−61625A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−245775(P2006−245775)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】