説明

新規の毒素−抗毒素系

mRNAをGCUで切断するmRNAインターフェラーゼの発現を誘導することを含む、細胞機能を阻害する方法が、或る特定の実施形態において開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本願は2008年8月20日付で出願された米国仮特許出願第61/189,639号(その開示全体が参照により本明細書中に援用される)に対する優先権を主張するものである。
【0002】
配列リスト
書面及びコンピュータ可読形式の配列リストを本明細書に添えて提出する。コンピュータ可読形式で記録された情報は、書面の配列リストと同一である。
【背景技術】
【0003】
クオラムセンシングがバイオフィルム形成に関与することが報告されている(1〜4)。MqsR発現がバイオフィルムにおいて(5)、また、大腸菌を含むグラム陰性菌及びグラム陽性菌の両方によって産生される、非種特異的(species-nonspecific)シグナリング分子であるクオラムセンシングシグナルオートインデューサー−2(AI−2)によって(6)8倍に誘導されることが見出された。MqsRの誘導によって、バイオフィルム形成において重要な役割を果たすことが知られている、二成分系であるqseBqseCオペロンが活性化されることが報告されている(6)。したがって、MqsR(98アミノ酸残基)が、大腸菌における運動性及びバイオフィルム形成に必要とされるflhDC発現を制御するqseBを活性化するため、バイオフィルム形成の調節因子であることが提唱されている(6)。しかしながら、MqsRの細胞機能は不明なままであった。
【0004】
興味深いことに、これまでに調査された自由生活性細菌は全て、そのゲノム内に多数の自殺遺伝子又は毒素遺伝子を含有している(7、8)。これらの毒素の多くは、1つのオペロン(毒素−抗毒素オペロンすなわちTAオペロンと称される)内のその同種(cognate)抗毒素と共転写され、通常の成長条件下でその毒性が抑制されるように、細胞内で安定な複合体を形成する(9〜11)。しかしながら、抗毒素の安定性はその同種毒素よりも実質的に低いため、プロテアーゼを誘導する細胞傷害又は成長阻害を引き起こす任意のストレスが毒素と抗毒素との間の平衡を変更させ、細胞における毒素放出をもたらす。
【0005】
これまで、大腸菌ゲノムについてrelB−relE(12、13)、chpBI−chpBK(14)、mazE−mazF(15〜17)、yefM−yoeB(18、19)、dinJ−yafQ(20、21)、hipB−hipA、hicA−hicB(25、26)、prlF−yhaV(27)及びybaJ−hha(28)を含む16個の(24)TA系が報告されている。興味深いことに、これらのTAオペロンは全て、同様の調節様式を用いるようである;毒素活性を中和する抗毒素とその同種毒素との間の複合体の形成、及びその発現を自己調節するTA複合体の能力。幾つかの毒素の細胞標的が同定されている:CcdBはジャイレースAと直接相互作用し、DNA複製を阻止する(29,30);RelE(それ自体はエンドリボヌクレアーゼ活性を有しない)は、リボソームA部位でのmRNA切断を促進するリボソーム結合因子として働くと考えられる(12、31、32)。PemK(33)、ChpBK(14)及びMazF(34)は、タンパク質合成を効率的に阻害し、それにより細胞成長を効率的に阻害するために、配列特異的エンドリボヌクレアーゼとして機能することによって細胞mRNAを分解の標的とするため、毒素の中でも独特である。
【0006】
MazF、ChpBK及びPemKは、mRNAをそれぞれACA、ACY(YはU、A又はGである)及びUAH(HはC、A又はUである)配列で切断する配列特異的エンドリボヌクレアーゼとして特徴付けられている。これらの毒素は細胞mRNAの機能を妨げることによってタンパク質合成阻害物質として機能するため、リボヌクレアーゼE、A及びT1といった他の既知のエンドリボヌクレアーゼとは完全に異なる。micRNA(mRNA干渉相補的RNA)(37)、miRNA(38)及びsiRNA(39)等の低分子RNAが、特定のRNAの機能を妨げることが知られている。これらの低分子RNAは特定のmRNAと結合してその発現を阻害する。リボザイムもその標的RNAに特異的に作用して、その機能を妨げる(40)。したがって、MazF、ChpBK及びPemKホモログは、mRNAを特異的な配列で切断することにより新たなmRNA干渉機構を示す新規のエンドリボヌクレアーゼファミリーを形成する。このため、これらは「mRNAインターフェラーゼ」と称されている(2)。
【0007】
本明細書中に記載される全ての参照文献は、その全体が全ての目的のために参照により本明細書中に援用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
大腸菌ゲノムについて、MqsR遺伝子が下流遺伝子のYgiTと共転写されることが発見されている。これら2つの遺伝子は、サイズが小さく(MqsRについては98残基、YgiTについては131残基)、それぞれのオープンリーディングフレームが一塩基対で隔てられていることからTA系として機能すると考えられる。本明細書中に開示されるように、MqsR/YgiTは毒素のMqsRと抗毒素のYgiTとからなる新たな大腸菌TA系である。さらに、本明細書中に開示されるように、MqsRはMazFに対して相同性を示さない新規のmRNAインターフェラーゼである。この毒素は、in vivo及びin vitroでRNAをGCU配列で切断し、したがって本明細書中に開示されるように細胞生理及びバイオフィルム形成に影響を与える。
【0009】
本明細書中に開示されるように、MqsR誘導は極めて有害であり、その毒性はYgiTの同時発現によって阻止され、MqsRが誘導されると細胞mRNAは分解される。このin vivo結果を、精製MqsRを用いてin vitroで立証した。大腸菌の全RNAをMqsRと共に37℃で30分間インキュベートすると、明らかに精製MqsRがRNAを切断することが示される。重要なことには、このエンドリボヌクレアーゼ活性は、その推定の抗毒素であるYgiTを反応混合物中に添加した場合に完全に阻害された。3.5kbのファージMS2のRNAを使用することによって、本発明者らはこの毒素による主要切断部位を同定した。これにより、この毒素はトリプレット配列GCUを認識する極めて配列特異的なmRNAインターフェラーゼであると考えられる。
【0010】
この配列は一部の遺伝子において過小発現(underrepresented)又は過剰発現される(overrepresented)場合があり、それらの遺伝子はクオラムセンシング及び/又はバイオフィルム形成と関連し得る。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、本発明は、大腸菌における新たなTA系であるMqsR YgiTに関する。大腸菌におけるMqsRの誘導は極めて有害であり、in vivoでmRNAの分解を引き起こした。精製MqsRはエンドリボヌクレアーゼ活性を示し、YgiTはin vitroでその活性を中和した。MqsRはMS2ファージRNAをGCUで切断する。
【0012】
本発明は、大腸菌及び哺乳動物細胞等の原核細胞及び真核細胞における単一タンパク質産生に使用することができる。本発明は癌、細菌感染及びAIDSを含むウイルス感染といった様々なヒト疾患を治療するための、MqsR/YgiT系を用いることによる遺伝子療法にも適用される。本発明はRNA構造研究のためのRNA制限酵素として使用することができる。
【0013】
或る特定の実施の形態では、本発明は細胞機能を阻害する方法であって、mRNAをGCx(ここでxはA、C、G又はUである)で切断するmRNAインターフェラーゼの発現を誘導することを含む、方法に関する。前記mRNAインターフェラーゼはリボソーム非依存性であってもよく、好ましくはMqsR又はそのホモログである。代替的な実施の形態では、前記誘導を抗毒素、例えばYgiTによって阻害することが可能である。前記細胞は例えば大腸菌又はヒトであり得る。
【0014】
本明細書中に開示される実施の形態では、前記mRNAインターフェラーゼの阻害はin vitro又はin vivoのいずれかであり得る。
【0015】
或る特定の実施の形態では、本発明は細胞機能を阻害する方法であって、MqsR又はそのホモログの発現を誘導することを含む、方法に関する。
【0016】
或る特定の実施の形態では、本発明はMqsR又はそのホモログをコードする遺伝子を含むプラスミドに関する。前記MqsRの発現は、例えばIPTGを用いて誘導することができ、該プラスミドは、例えばpET28aプラスミドであり得る。代替的な実施の形態では、前記遺伝子は配列番号1による配列を有する。
【0017】
或る特定の実施の形態では、本発明はYgiT又はそのホモログをコードする遺伝子を含むプラスミドに関する。前記YgiTの発現は、例えばアラビノースを用いて誘導することができ、該プラスミドは、例えばpBAD24プラスミドであり得る。代替的な実施の形態では、前記遺伝子は配列番号3による配列を有する。
【0018】
或る特定の実施の形態では、本発明は、プラスミドであって、
a)MqsR又はそのホモログをコードする遺伝子、及び
b)YgiT又はそのホモログをコードする遺伝子を含む、プラスミドに関する。代替的な実施の形態では、前記MqsRをコードする遺伝子は配列番号1による配列を有し、前記YgiTをコードする遺伝子は配列番号3による配列を有する。
【0019】
或る特定の実施の形態では、本発明は、本明細書中に開示される1つ又は複数のプラスミドによって形質転換される細胞(例えば大腸菌又はヒト)に関する。
【0020】
或る特定の実施の形態では、本発明は、MqsRエンドリボヌクレアーゼ活性を阻害する方法であって、MqsRをYgiTと接触させることを含む、方法に関する。代替的な実施の形態では、該方法はMqsRをYgiTと共にプレインキュベートすることを含む。
【0021】
或る特定の実施の形態では、本発明は、MqsRに対する抗毒素としてのYgiTの使用に関する。
【0022】
或る特定の実施の形態では、本発明は、大腸菌の細胞溶解を阻害する方法であって、MqsRを不活性化することを含む、方法に関する。代替的な実施の形態では、前記MqsRをYgiTによって不活性化する。
【0023】
或る特定の実施の形態では、本発明は、配列番号4によるアミノ酸配列を有する単離YgiTポリペプチドに関する。代替的な実施の形態では、該ポリペプチドは、このアミノ酸配列と90%相同であるアミノ酸配列を有し、抗毒素活性を有する。
【0024】
或る特定の実施の形態では、本発明は、配列番号3によるDNA配列を有する単離YgiTポリヌクレオチドに関する。代替的な実施の形態では、該ポリヌクレオチドは、このDNA配列と90%相同であるDNA配列を有し、抗毒素活性を有するポリペプチドをコードする。
【0025】
或る特定の実施の形態では、本発明は、MqsR及びYgiT、又はそれらのホモログを含む複合体に関する。代替的な実施の形態では、該複合体は、配列番号2によるポリペプチド及び配列番号4によるポリペプチドを含む。
【0026】
或る特定の実施の形態では、本発明は、エンドリボヌクレアーゼ活性を有するポリペプチドを製造する方法であって、
a)細胞を、該細胞にMqsRをコードするポリヌクレオチドを導入することによって形質転換すること、及び
b)形質転換した前記細胞を培養することを含む、方法に関する。
【0027】
或る特定の実施の形態では、本発明は、抗毒素活性を有するポリペプチドを製造する方法であって、
a)細胞を、該細胞にYgiTをコードするポリヌクレオチドを導入することによって形質転換すること、及び
b)形質転換した前記細胞を培養することを含む、方法に関する。
【0028】
或る特定の実施の形態では、本発明はmRNAを切断する方法であって、mRNAインターフェラーゼをmRNAと接触させることを含み、該mRNAインターフェラーゼがMazFと相同でない、方法に関する。代替的な実施の形態では、前記mRNAをGCx(ここでxはA、C、G又はUである)で切断する。
【0029】
或る特定の実施の形態では、本発明は、細胞機能を変化させる方法であって、MqsR及びYgiTの一方又は両方の発現を操作することを含む、方法に関する。
【0030】
或る特定の実施の形態では、本発明は、疾患を有する患者を治療する方法であって、該患者にmRNAをGCx(ここでxはA、C、G又はUである)で切断するmRNAインターフェラーゼを投与することを含む、方法に関する。前記疾患は例えば癌、細菌感染又はウイルス感染であり得る。前記ウイルス感染は、例えばHIV又はレトロウイルスによって引き起こされ得る。
【0031】
或る特定の実施の形態では、本発明は、疾患を有する患者を治療する方法であって、該患者にmRNAをGCx(ここでxはA、C、G又はUである)で切断するmRNAインターフェラーゼをコードする遺伝子を投与することを含む、方法に関する。前記疾患は例えば癌、細菌感染又はウイルス感染であり得る。前記ウイルス感染は、一本鎖RNAゲノムを有するウイルス、例えばHIV又はレトロウイルスによって引き起こされる感染であり得る。
【0032】
或る特定の実施の形態では、本発明は、配列番号5〜配列番号36のいずれかによるプライマーに関する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】大腸菌染色体上のMqsR−YgiTオペロンの遺伝子地図を示す図である。A:矢印はそれぞれの遺伝子:qseC、qseB、ygiW、ygiV、mqsR、ygiT、ygiS及びparCの方向及びサイズを示す。MqsRYgiTプロモーター配列も同様に示し、パリンドローム配列(1及び2)は枠で囲んでいる。曲がった矢印はMqsR−YgiTオペロンの転写開始部位を表す。MqsRYgiTプロモーターの−10領域及び−35領域は太字で示し、シャイン・ダルガノ配列GGAGGは枠で囲んでいる。下線を引いたDNA配列を図5に示すようなEMSAアッセイに使用した。B:MqsRYgiTオペロンのRT−PCR解析。37℃でO.D.600=0.8まで増殖させた大腸菌BL21株からの全RNAを使用して、cDNAを逆転写酵素を用いて合成した。cDNA産物を鋳型として使用して、PCRをRT−Fwプライマー及びRT−Rvプライマーを用いて行った。レーン1、100bpのDNAラダー(Genscript);レーン2及びレーン4、それぞれcDNA及びゲノムDNAを鋳型としてPCRに使用した;レーン3、逆転写酵素を用いないPCR産物。C:MqsRYgiTの転写開始部位。プライマー伸長解析を、図1Bの説明に記載されるものと同じRNA及びPX−RTプライマーを用いて行った。G、A、T及びC(レーン1〜レーン4)は、pCR(登録商標)2.1−Topo(登録商標)−MqsRYgiT及び同じプライマーを用いた配列ラダーを含む。転写開始部位は+1という文字で示す。
【図2】タンパク質及びDNAの合成並びにmRNA安定性に対するMqsR誘導の影響を示す図である。A:pET−MqsR及びpBAD−YgjTによって形質転換した大腸菌BL21を、0.1mM IPTG、0.2%アラビノース、0.1mM IPTG+0.2%アラビノースを含むか、又はどちらの誘導因子も含まないM9(グリセロール、CAA)プレート上に線条接種した(streaked)。プレートを37℃で18時間インキュベートした。B:pBAD−MqsRを有する大腸菌BL21細胞の成長曲線。細胞をM9−グリセロール液体培地中、0.2%アラビノースの存在下(黒丸)又は非存在下(白丸)で37℃で培養した。C:in vivoでの[35S]メチオニン取り込みに対するMqsRの影響。指定の種々の時間間隔で、0.4mlの培養物を30μCiの[35S]メチオニンを含有する試験管に取り出し、混合物を37℃で30秒間インキュベートした。インキュベーション後、50μlの反応混合物を円形濾紙(Whatman 3mm、2.3cm径)にアプライした。円形濾紙を、以前に記載されているように(34)、10%トリクロロ酢酸溶液中で処理した。濾紙上の放射能を液体シンチレーションカウンターで測定した。D:Cからの産物のSDS−PAGE解析。指定の時点で、400μlの反応混合物を、100μg/mlの非放射性メチオニンを含有する冷却した試験管中に入れ、細胞を遠心分離によって回収した。このペレットを40μlのSDS−PAGEローディングバッファー中に溶解させた。この試料を沸騰水浴内で10分間インキュベートした。不溶性物質を遠心分離によって除去した後、上清画分(12.5μl)を15%SDS−PAGEゲルにアプライした。E:in vivoでの[H]チミジン取り込みに対するMqsRの影響。pBAD−MqsRを有する大腸菌BL21細胞を37℃で増殖させた。培養物のO.D.600値が0.3に達した時点で、MqsRをアラビノース(0.2%)を用いて誘導した。指定の種々の時間間隔で、0.4mlの培養物を試験管に取り出し、10μCiの[H]チミジン+30μgの非放射性チミジンと共にインキュベートした。次いで、混合物を37℃で30秒間インキュベートした。インキュベーション後、細胞に取り込まれた放射能を、以前に記載されているように(34)測定した。F:細胞mRNA安定性に対するMqsRの影響。アラビノース(0.2%)の添加後、指定の様々な時点で、pBAD−MqsRを有する大腸菌BL21細胞から全RNAを抽出し、標識したompA、ompF及びlppをそれぞれプローブとして用いたノーザンブロット解析に供した。RNAをメンブレンに転写する前に、23S rRNA及び16S rRNAを検出するためにゲルをエチジウムブロマイドで染色した。
【図3】in vivoでのompF mRNA中のMqsR切断部位のプライマー伸長解析を示す図である。MqsRの誘導前及び誘導後の指定の時点で、全RNAをpBAD−MqsRを有する大腸菌BL21細胞から調製した。配列ラダーはpCR(登録商標)2.1−Topo(登録商標)−ompFを鋳型として用いて得た(34)。切断部位周辺の配列を下部に示し、切断部位を矢印で示す。
【図4】in vitroでのMqsRのmRNAインターフェラーゼ活性を示す図である。A:無細胞系におけるタンパク質合成に対するH−MqsRの影響。MazGタンパク質合成を、環状DNA用の大腸菌T7 S30抽出系(Promega)を使用して、peT11a−mazGを用いて行った。レーン1、H−MqsRを添加しない;レーン2〜レーン6、それぞれ5nM、10nM、20nM、40nM及び80nMのH−MqsRを添加した;レーン7、80nMのH−MqsR+40nMのYgiT−Hを添加した;レーン8、40nMのYgiT−Hを添加した。B:in vitroでの精製H−MqsRのmRNAインターフェラーゼ活性。MS2ファージRNA(0.8μg)をH−MqsRと共に、1mM DTTを含有する10mM Tris−HCl(pH8.0)中、37℃で10分間インキュベートした。産物を1.2%アガロースゲル上で分離した。ゲルをエチジウムブロマイドで染色した。
【図5】MqsRYgiTの5’−UTR領域におけるパリンドローム配列へのMqsR、MqsRYgiT及びYgiTの結合を示す図である。電気泳動移動度シフトアッセイ(EMSA)を、実験手順の項に記載されるような種々の濃度のタンパク質と共にインキュベートした5’末端標識パリンドローム1(レーン1〜レーン6)及び2(レーン7〜レーン12)のDNA断片(図1Aを参照されたい)を用いて行った。レーン1〜レーン6及びレーン7〜レーン12はそれぞれ0nM、5nM、10nM、20nM、40nM及び80nMのH−MqsR(A)、YgiT−H(B)及びH−MqsRYgiT(C)を表す。
【図6】TA遺伝子座の一般的な遺伝子コンテクスト(genetic context)を示す図である。
【図7】大腸菌におけるMqsRによるバイオフィルム形成の調節のモデルを示す図である。
【図8】mRNA安定性並びにタンパク質及びDNAの合成に対するMqsRの影響を示す図である。
【図9】無原核細胞系におけるタンパク質合成に対するHis−MqsRの影響を示す図である。
【図10】精製His−MqsRによる全RNA及びMS2ファージRNAの切断を示す図である。
【図11】in vitroでのMS2 RNA中のMqsR切断部位のプライマー伸長解析を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
[実施例]
実験手順
本発明を以下の非限定的な実験手順によってさらに説明する。
【0035】
大腸菌におけるMqsRの毒性
大腸菌BL21細胞を、pET−MqsR及びpBAD−YgiT又はpBAD及びpETプラスミドによって形質転換した。細胞を図2Aに示すように、誘導因子[アラビノース(0.2%)及びIPTG(0.1mM)]を含む、及び含まないグリセロール−M9−カザミノ酸寒天プレート上に広げ、これらのプレートを37℃で24時間インキュベートした。37℃で、0.2%アラビノースの存在下(黒丸)及び非存在(白丸)でのM9(グリセロール、CAA)液体培地における、pBAD−MqsRプラスミドを有する大腸菌BL21の成長曲線を図2Bに示す。細胞成長を600nmでのA(吸光度)によって測定した。
【0036】
mRNA安定性並びにタンパク質及びDNAの合成に対するMqsRの影響
アラビノースの添加後、指定の様々な時点で、pBAD−MqsRを含有する大腸菌BL21細胞から全細胞RNAを抽出し、放射標識したlpp、ompF及びompA ORF DNAをプローブとして用いたノーザンブロット解析に供した。in vivoでの[3H]dTTP取り込みに対するMqsRの影響を図4Aに示す。in vivoでの細胞mRNAに対するMqsRの影響を図4Bに示す。pBAD−MqsRを含有する大腸菌BL21細胞への35S−メチオニン取り込みを、MqsR誘導後の指定の様々な時点で測定した。in vivoでの35S−メチオニン取り込みに対するMqsRの影響を図4Cに示す。図4Cと同じ培養物を用いて、図8Dに示すように、MqsR誘導後のin vivoタンパク質合成のSDS−PAGE解析を示した。
【0037】
無原核細胞系におけるタンパク質合成に対するHis−MqsRの影響
MazGタンパク質合成を、大腸菌T7 S30抽出系(Promega)においてpET−11a−MazGを鋳型として用いて行った。結果を図9に示す。
【0038】
精製His−MqsRによる全RNA及びMS2ファージRNAの切断
大腸菌全RNAを、精製Hisタグ付きMqsRと共に37℃で30分間インキュベートした。最後のレーンには、精製YgiTを添加した。RNAを1.2%TBEアガロースゲル中で解析し、図10Aに示すように、ゲルをエチジウムブロマイド(EtBr)で染色した。
【0039】
MS2 ssRNAの切断及びYgiTによるその阻害
MS2 ssRNA(0.8μg;3569塩基;Roche)を、His−MqsRによって37℃で20分間消化した。His−MqsRを、精製YgiTと共に氷上で10分間プレインキュベートした後、MS2 RNAと共に30分間さらにインキュベートした。尿素中の変性産物を1.2%TBE未変性(native)アガロースゲル上で分離した。ゲルをEtBrで染色した。結果を図10B及び図10Cに示す。
【0040】
in vitroでのMS2 RNA中のMqsR切断部位のプライマー伸長解析
His−MqsRによるMS2 RNAのin vitro切断。レーン1、His−MqsRを添加したMS2 RNA;レーン2、タンパク質を添加しなかった対照反応を表す。切断部位はRNA配列上の赤色の矢印で表し、左に示したRNAラダーを用いて決定した。結果を図11に示す。
【0041】
さらに詳細な実験手順
細菌株及びプラスミド
大腸菌BL21(DE3)及びC43を使用した。MqsRYgiTオペロン中のMqsR遺伝子及びYgiT遺伝子の両方を、大腸菌ゲノムDNAを鋳型として使用するPCRによって別個に増幅し、初めにpET28a(Novagen)にクローニングした。MqsRYgiTオペロンも、大腸菌ゲノムDNAを鋳型として使用するMqsR−Fwプライマー及びYgiT−Rvプライマーを用いたPCRによって増幅し、pET28aにクローニングして、MqsR−YgiT複合体を発現させた。続いて、MqsR遺伝子及びYgiT遺伝子を、pBAD24に別個にクローニングし、pBAD−MqsR及びpBAD−YgiTをそれぞれ作製した。MqsRYgiTのプロモーター領域を、RT−proFプライマー及びRT−proRプライマーを用いたPCRによって増幅し、pCR(登録商標)2.1−Topo(登録商標)ベクター(invitrogen)にクローニングした。
【0042】
in vivoでのDNA及びタンパク質合成のアッセイ
pBAD−MqsRを有する大腸菌BL21(DE3)細胞を、0.5%グリセロール(グルコース無添加)及びメチオニン以外の各アミノ酸を1mM添加したM9培地中で増殖させた。培養物のO.D.600値が0.3に達した時点で、アラビノースを0.2%の最終濃度まで添加して、MqsRを誘導した。細胞培養物のアリコート(0.4ml)を図2に示されるような時間間隔で取り出し、それぞれ30μCiの[35S]−メチオニン又は10μCiの[H]チミジン+80μgの非放射性メチオニン及び30μgの非放射性チミジンと混合した)。37℃で30秒間のインキュベーションの後、タンパク質及びDNAの合成速度を以前に記載されているように(34)求めた。全細胞タンパク質合成のSDS−PAGE解析については、400μlの試料を[35S]−メチオニンを含有する反応混合物から図1Fに示されるような時間間隔で取り出し、100μg/mlの非放射性メチオニン溶液を100μl含有する冷却した試験管に移した。細胞ペレットを遠心分離によって回収し、40μlのLaemmliバッファー中に再懸濁して、SDS−PAGE、続いてオートラジオグラフィーに供した。
【0043】
RNA単離及びノーザンブロット解析
pBAD−MqsRを含有する大腸菌BL21(DE3)細胞を、0.2%グリセロールを添加した(グルコース無添加)M9培地中、37℃で増殖させた。O.D.600値が0.4に達した時点で、アラビノースを0.2%の最終濃度まで添加した。試料を図2に示されるような種々の間隔で採取した。全RNAを以前に記載されているように(35)、熱フェノール法(hot-phenol method)を用いて単離した。ノーザンブロット解析を以前に記載されているように(36)行った。
【0044】
in vivoでのプライマー伸長解析
in vivoでのmRNA切断部位のプライマー伸長解析については、全RNAをpBAD−MqsRを含有する大腸菌BL21(DE3)細胞から、図3に示されるようなMqsR誘導後の種々の時点で抽出した。プライマー伸長を、[γ−32P]−ATPと共に、15μgの全RNA及びT4ポリヌクレオチドキナーゼ(タカラバイオ株式会社)で標識した1pmolのプライマー(表1)を使用して、10単位のAMV逆転写酵素(AMV−RT)(Roche)を用いて47℃で1時間行った。12μlのシークエンシングローディングバッファー(95%ホルムアルデヒド、20mM EDTA、0.05%ブロモフェノールブルー及び0.05%キシレンシアノール)を添加することによって反応を停止させ、95℃で2分間加熱した後、氷上に載せた。産物を同じプライマーから作製したシークエンシングラダーを用いて、8M尿素を含有する6%ポリアクリルアミドゲル上で解析した。
【0045】
タンパク質精製
N末端ヒスチジンタグ付きMqsR(H−MqsR)及びC末端ヒスチジンタグ付きYgiT(YgiT−H)を精製するために、pET−MqsRYgiT及びpET−YgiTを大腸菌BL21(DE3)に導入した。H−MqsRYgiT複合体及びYgiT−Hの発現を、それぞれ1mMイソプロピル−b−D−1−チオガラクトシド(IPTG)を用いて3時間誘導した。H−MqsRYgiT複合体及びYgiT−Hを、Ni−NTAアガロース(Qiagen)を用いて、製造業者のプロトコルに従って精製した。続いて、H−MqsRYgiT複合体を6MグアニジンHClによって変性させた。次いで、変性H−MqsRをNi−NTAアガロースを用いて精製し、H−MqsRのリフォールディングを、MazFに関して以前に記載されているように(16)段階透析によって行った。
【0046】
in vitroでのタンパク質合成のアッセイ
無細胞タンパク質合成を、環状DNA用の大腸菌T7 S30抽出系(Promega)を用いて行った。反応混合物を製造業者のプロトコルに記載のように調製した。次いで、種々の量のH−MqsR及びYgiT−Hを29μlの最終容量で添加した。pET11a−mazGプラスミドDNAを添加することによって反応を開始させ(18、37)、混合物を37℃で1時間インキュベートした。タンパク質をアセトンで沈殿させ、15%SDS−PAGEによって解析した。乾燥させたゲルをオートラジオグラフィーによって解析した。
【0047】
MqsRのmRNAインターフェラーゼ活性
MS2ファージRNA(Roche)を、1mMジチオスレイトール(DTT)を含有する10mM Tris−HClバッファー(pH8.0)中、37℃で10分間H−MqsRと共にインキュベートした。YgiTの抗毒素機能を調査するために、H−MqsRをYgiT−Hと共に氷上で10分間プレインキュベートした後、MS2 RNAと共に10分間さらにインキュベートした。尿素中での変性の後、産物を0.5×TBEバッファー(44.5mM Trisホウ酸塩及び1mM EDTA)中、1.2%アガロースゲル上で分離した(38)。
【0048】
in vitroでのプライマー伸長解析
MS2 RNAを、1mM DTTを含有する10mM Tris−HCl(pH8.0)中で、精製H−MqsRを添加して又は添加せずに37℃で15分間インキュベートし、消化したMS2 RNA(0.8μg)を上記のようなプライマー伸長に使用した。
【0049】
電気泳動移動度シフトアッセイ(EMSA)
相補鎖(表1)をアニーリングさせ、精製して、パリンドローム1及びパリンドローム2の二本鎖DNAをそれぞれ得た。この二本鎖DNA断片を、T4キナーゼ(タカラバイオ株式会社)によって[g−32P]ATPで末端標識した。結合反応を50mM KCl、5%グリセロール、100ngのポリ(dI−dC)、標識DNA断片及び精製タンパク質を含有する50mM Tris−HCl(pH7.2)バッファー中、4℃で30分間行った。電気泳動を5%アクリルアミド/ビスアクリルアミド(40:1.2)ゲルにおいて、TEバッファー(10mM Tris−HCl、1mM EDTA、pH7.2)中、4℃、110Vで行った。電気泳動の後、ゲルを乾燥させて、オートラジオグラフィーによって解析した(39)。
【0050】
逆転写(RT)−PCR
大腸菌から全RNAを対数期(O.D.600=0.8)に上記のように抽出し、0.5μl(20単位)のリボヌクレアーゼ阻害物質(Roche)の存在下で、100単位のRNase−Free DNase I(Promega)で処理した。RT反応を、全RNA(20μg)及びプライマーYT−Rv(20pmol)を使用し、10単位のAMV−RT(Roche)を用いて47℃で1時間行った。合成したcDNAを鋳型として使用し、RT−Fwプライマー及びRT−Rvプライマー(表1)を用いてPCRを行った。
【0051】
結果
MqsR遺伝子及びYgiT遺伝子は1つのオペロン内にある
大腸菌K−12染色体上の68分でのMqsRYgiTオペロンの位置を図1Aに示す。MqsRは98残基のタンパク質であり、そのORF(オープンリーディングフレーム)に対する開始コドンの8塩基上流に、予測シャイン・ダルガノ配列(GGAGG)が存在する(図1A中、枠で囲んだ)。下流のYgiTは131残基のタンパク質であり、YgiTの開始コドンはMqsRの翻訳停止コドンの1塩基下流にある。MqsRYgiTがオペロンとして転写されるか否かを決定するために、大腸菌BL21(DE3)から抽出した全RNAを用いて逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)を行った。cDNAを実験手順に記載されるように、YgiT停止コドンの31bp上流に位置するYT−Rvプライマー(表1)を用いて全RNAから合成した。図1Bのレーン2に示すように、RT−Fw及びRT−Rv(表1)をプライマーとして用いたPCRによって、およそ600bpの位置にバンドが検出された。大腸菌ゲノムDNAを同じプライマーを用いたPCRの鋳型として使用した場合、期待される576bpのバンドが検出された(図1B;レーン3)。このバンドは、逆転写酵素を添加せずに行った反応においては検出されなかった(図1B;レーン2)。これらの結果によって、MqsR遺伝子が下流遺伝子のYgiTと共転写されることが実証される。転写開始部位を同定するために、上記と同じRNAを使用してPX−RTプライマーを用いたプライマー伸長を行った。このプライマーはMqsR遺伝子の開始コドンの2bp下流に位置する。図1Cに示すように、転写開始部位は矢印で示されるMqsR開始コドンの109bp上流に位置する。これにより、図1Aに示される転写開始部位の上流領域に、典型的なRNAポリメラーゼプロモーターである−10領域及び−35領域を同定した。MqsRとYgiTとの間の領域には転写開始部位は検出されず(データは示さない)、YgiT遺伝子に対する独立した転写単位がないことが示される。また、図1Aの枠内に示されるように、109塩基の5’非翻訳領域(5’−UTR)中に2つのパリンドローム配列が存在する。
【0052】
細胞成長に対するMqsRの影響
MqsR遺伝子及びYgiT遺伝子を、IPTG誘導性pET28aプラスミド(Novagen)及びアラビノース誘導性pBAD24プラスミド(40)のそれぞれにクローニングした。pET−MqsR及びpBAD−YgiTを有する大腸菌C43細胞は、アラビノース(0.2%)の存在下でM9−グリセロール−カザミノ酸寒天プレート上にコロニーを形成することができなかった(図2A)。しかしながら、0.2%アラビノース存在下でのYgiTの共誘導(co-induction)によってMqsRの毒性が中和され、コロニーの形成がもたらされたため、MqsRが毒素であり、YgiTがMqsRに対する抗毒素であることが示される。液体培養物におけるMqsRの毒性も調査した(図2B)。MqsRをアラビノース(0.2%)の添加によって誘導した場合、30分後に細胞成長が完全に阻害された。
【0053】
次に、[35S]メチオニン取り込みによって測定されるタンパク質合成に対するMqsR誘導の影響を調査した。MqsR誘導の5分以内に、タンパク質合成はほとんど完全に阻害された(図2C)。これらの試料をSDS−PAGEによって解析した(図2D)。図2Cの結果と一致して、MqsRによって細胞タンパク質への[35S]メチオニンの取り込みが完全に阻止された。見掛けの分子量が12kDaの2分時点に存在する強いバンド(矢印で示す)は、MqsR(MW 11232)であると考えられる。これらの結果から、MqsRが全ての細胞タンパク質合成の一般的な阻害物質であることが示された。実際には、[H]チミジンの取り込みは、MqsR誘導に有意に影響を受けず(図2E)、MqsRはタンパク質合成を阻害するが、DNA合成を阻害しないことが示される。pBAD−MqsRを保有する大腸菌BL21(DE3)細胞の細胞mRNA(ompA、ompF及びlpp)を、アラビノースによるMqsR誘導後の種々の時点でノーザンブロット解析によって解析すると、完全長mRNAはいかなる場合においても0時点でしか観察されなかった(図2F)。2分の時点では、フルサイズのmRNAは或る特定の長さだけ短縮され、試験した全てのmRNAが5’末端又は3’末端の近くに位置する優先的な初期切断部位を有することが示される。これらのバンドの強度は5分後には有意に減少した。これらのデータから、MqsRがエンドリボヌクレアーゼ活性を有し、mRNAの切断によってタンパク質合成を阻害することが示唆される。16S及び23S rRNAが、それらのバンド強度において有意な変化が観察されず、MqsR誘導の10分後でもin vivoで非常に安定であったことに留意することが重要である(図2F)。これは、MazF mRNAインターフェラーゼを用いて見られる結果(34)と同様であった。rRNAはリボソームタンパク質によるMqsR切断から保護されるようである。
【0054】
MqsRによるompA、ompF及びlpp mRNAのin vivo切断
次に、ompA、ompF及びlpp mRNAのMqsR媒介切断をプライマー伸長実験によって調査した。種々のプライマーを用いたompA、ompF及びlppのプライマー伸長解析によって、MqsR誘導の2分後に現れた、各々のmRNAにおける特異的な切断部位に相当する明らかなバンドが同定された(表2及び図3A〜図3D)。これらのバンドは0分では検出されなかった。全ての切断配列のアラインメントによると、切断はGCU配列のG残基の前後で起こり、in vivoでMqsRがmRNAを特異的な配列GCUで切断することが示された。ompF mRNA中のGCU配列は全て、MqsR誘導後に例外なく切断された(表2)。
【0055】
in vitroでのMqsRのmRNAインターフェラーゼ活性
精製MqsRを得るために、最初にN末端ヒスチジンタグ付きMqsR(H−MqsR)を、pET−MqsRYrgiTを有する大腸菌BL21(DE3)細胞からH−MqsRYgiT複合体として発現させ、複合体をNi−NTAアガロースを用いて精製した。次いで、精製H−MqsRYgiT複合体を6MグアニジンHClを用いて変性させた。変性H−MqsRをNi−NTAアガロース上に再捕捉し、溶出させて、段階透析によってリフォールディングさせた(16)。C末端ヒスチジンタグ付きYgiT(YgiT−H)を大腸菌中で発現させ、実験手順に記載されるように精製した。ゲル濾過によって、精製したH−MqsR、YgiT−H及びH−MqsRYgiT複合体の分子量が、それぞれ26kDa、32kDa及び90kDaであると求められた(データは示さない)。この結果から、MqsR及びYgiTの両方が二量体として存在し、MqsRYgiT複合体がおそらく2つのMqsR二量体及び1つのYgiT二量体からなり、MazEMazF複合体の場合もこれと同様であることが示唆される(16)。
【0056】
次に、無細胞タンパク質合成に対するH−MqsR及びH−MqsRYgiTの影響を、大腸菌T7 S30抽出系(Promega)を用いて調査した。MazGタンパク質の合成は、40nM以上の濃度のMqsRによってほとんど完全に阻害された(図4A;レーン5及びレーン6)。in vitroでのタンパク質合成の阻害は、MazF(34)及びYoeB(18)の場合に観察された。YgiT−H及びH−MqsRYgiT複合体はタンパク質合成を阻害しなかった(図4A;レーン7及びレーン8)。
【0057】
上で観察されたompA、ompF及びlpp mRNAのin vivo切断がMqsRのmRNAインターフェラーゼ活性によるものであることをさらに証明するために、MS2ファージRNA(3569塩基)を精製MqsR−Hを用いてin vitroで切断させた。この精製MqsR調製物はエンドリボヌクレアーゼ活性を明らかに示していた(図4B、レーン2及びレーン3)。精製YgiT−HをH−MqsRと共にプレインキュベートした場合に、エンドリボヌクレアーゼ活性は完全に阻害された(図4B、レーン4)。精製YgiT−H自体はmRNAに対する検出可能な影響を有しなかった(図4B、レーン5)。この結果から、YgiTが抗毒素として機能し、MqsR mRNAインターフェラーゼ活性を阻止することが確認される。YgiTがMqsRに対する特異的な阻害物質であることを確認するために、YgiTがmRNAをACA配列で切断するMazFを阻害するか否かを調査した。MazFはMS2 RNAを切断したが(図4B、レーン6)、その活性は精製MazE(MazFの解毒剤(antidote)である)と共にプレインキュベートした場合に完全に阻害された(図4B、レーン7)。しかしながら、MazFを精製YgiT−Hと共にインキュベートしても、その活性は阻害されなかった(図4B、レーン8)。この結果から、YgiTがMqsRエンドリボヌクレアーゼ活性を特異的に阻害することが示された。
【0058】
リボソームの非存在下でRNAを切断するMqsRの能力は、mRNAインターフェラーゼ活性がリボソームに依存するRelE又はYoeBとは明らかに異なる(12、18、41)。MqsR活性は、MazFに関して以前に記載されているように(34)、MgClによって阻害された(データは示さない)。
【0059】
精製MqsRによるMS2 RNAのin vitro切断部位
MS2 RNAに対するin vitroでのMqsR活性もプライマー伸長によって解析した。MS2 RNAをMqsRと共に37℃で10分間インキュベートした。産物をプライマー伸長の鋳型として使用した。MqsRはMS2 RNAを5つの切断部位で切断し、切断部位の全ての配列がGCUであることが決定された(表2)。総合すると、in vivo及びin vitroでのプライマー伸長実験の結果(図3及び表2)から、MqsRがRNAをGCU配列で特異的に切断するmRNAインターフェラーゼであることが示される。
【0060】
MqsRYgiTプロモーター領域へのMqsRYgiT複合体の結合
ccdAB(42、43)、parDE(44)、mazEF(45)及びrelBE(46)を含む他の多くのTA系のプロモーター領域にはパリンドローム配列が存在する。これらの抗毒素又は毒素−抗毒素複合体は、その同種パリンドローム配列に結合して、自身のオペロンを負に調節する。MqsRYgiTオペロンの5’−UTR領域中には2つのパリンドローム配列が存在するため(図1A)、次にMqsRYgiT複合体がそれらに結合することが可能か否かを調査した。パリンドローム1及びパリンドローム2のDNA断片を実験手順に記載されるように調製し、T4キナーゼによって[γ−32P]ATPで標識した。YgiT及びMqsRYgiT複合体を標識DNAと混合し、パリンドローム配列と結合するそれらの能力を試験した。YgiTはパリンドローム1断片及びパリンドローム2断片の移動度を、それぞれ10nM及び20nM以上の濃度でシフトさせることが可能であった(図5A;レーン3〜レーン6及びレーン10〜レーン12)。5nMでは、パリンドローム1断片又はパリンドローム2断片のいずれによってもシフトバンドは観察されなかった。注目すべきことに、H−MqsRタンパク質単独では、80nMの濃度であっても、いずれのパリンドローム配列にも結合することができなかった(図5A)。しかしながら、MqsRをYgiTに添加することによって、両方のパリンドローム配列へのYgiTの結合が増強された。MqsRはYgiTに2対1のモル比で添加した。複合体は両方のパリンドローム配列に、YgiT単独と比較してより強く結合する(図5C;それぞれレーン2〜レーン6及びレーン9〜レーン12)。これらの条件下では、パリンドローム配列を表すバンドの位置は、パリンドローム1断片及びパリンドローム2断片に対してそれぞれ5nM及び10nMのMqsRYgiT複合体でシフトした。この結果から、YgiT及びMqsRYgiT複合体の両方がパリンドローム配列に結合して、他のTA系と同様にMqsRYgiTオペロンを負に調節することが示唆される。
【0061】
考察
本明細書中に開示されるように、本発明者らは、大腸菌染色体上のMqsR遺伝子及びYgiT遺伝子が共転写され、MqsR−YgiTが新たな毒素−抗毒素系であることを実証した。他のTA系の多くとは対照的に、オペロン中の第1の遺伝子が毒素のMqsRをコードし、第2の遺伝子が抗毒素のYgiTをコードする。MqsRは、mRNA中のACA配列で特異的に切断する(29)、よく特徴付けられたmRNAインターフェラーゼであるMazFとは相同性を有しないが、MqsRはmRNAをGCU配列で切断するmRNAインターフェラーゼであることが見出された。注目すべきことに、MqsRはMazFと同様、RelE(12、46)、YoeB(18)及びHigB(47)といったリボソーム依存性mRNAインターフェラーゼとは明らかに異なるリボソーム非依存性のmRNAインターフェラーゼである。
【0062】
MqsRがバイオフィルム形成の際に(1)、またクオラムセンシングオートインデューサー−2(AI−2)によって(2)誘導されることが報告されている。MqsRの活性化は次に、バイオフィルム形成において重要な役割を果たすことが知られる二成分系qseBCを活性化する(2)。QseCはセンサーヒスチジンキナーゼであり、QseBはqseBCオペロンの5’−UTR領域に結合して、このオペロンの転写を活性化する転写調節因子である(48、49)。MqsR−YgiT複合体は、MqsRYgiTオペロンの5’−UTR中に存在する2つのパリンドローム配列に結合することが可能であり、MqsRYgiTの転写を抑制すると考えられる。本発明者らは、MqsR−YgiT複合体がqseBCオペロンの発現も調節することの可能性を調査した。しかしながら、H−MqsR−YgiT複合体は、QseB結合部位を含むqseBCプロモーター領域に結合可能ではなかった(データは示さない)。パリンドローム配列(パリンドローム1及びパリンドローム2;図1A)の両方が、この2つのパリンドローム配列をどちらも有する他の大腸菌遺伝子はMqsRYgiTオペロン以外にないため、大腸菌染色体で独特である。また、精製QseBはMqsRYgiTオペロンの5’−UTR領域に結合しなかった(データは示さない)。これらの結果から、MqsRがqseBCオペロンの活性化とは直接には関与しないことが示される。
【0063】
本発明者らは、GCU配列の存在について大腸菌ゲノム(NCBI RefSeq;アクセッション番号NC000091)上の4226個のORFの全てを解析し、単一のGCU配列を含有しないORFが14個しかないことを見出した(表3)。これらの14個の遺伝子のうち、6個の遺伝子(pheL、tnaC、trpL、yciG、ygaQ及びralR)が、大腸菌におけるバイオフィルム形成の際に誘導されることが示されている(50)。特に興味深いのはバイオフィルムにおいて32倍に誘導されるYgaQ(330bp)であり、大腸菌のスウォーミング運動(swarming mobility)に関与することも示されている(51)。これらの遺伝子はMqsR mRNAインターフェラーゼ活性に対して抵抗性であるため、バイオフィルム形成の際のMqsR誘導は、これら14個の遺伝子以外の全ての大腸菌mRNAを不活性化する場合があり、このことがバイオフィルム形成において重要な役割を果たし得る。ほとんど全ての細胞が緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)におけるバイオフィルム形成の際に死滅する(52)。バイオフィルム形成の際のMqsR誘導は、MazFによる場合と同様に(8、53)、細胞を準休眠状態(quasi-dormant state)に入らせ、最終的に細胞死をもたらし得る。
【0064】
本明細書(present paper)における大腸菌中の新たなTA系としてのMqsR−YgiT系の発見によって、MazF−MazE(16、34)、RelE−RelB(12、13)、ChpBK−ChpBI(14)、YafQ−DinJ(21)、YoeB−YefM(18、19)、HipA−HipB(22、23)、HicA−HicB(25、26)、YhaV−PrlF(27)及びYafO−YafN(24)を含む大腸菌TA系の総数が16個にまで増加する。
【0065】
【表1】



【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
本発明は、本発明の幾つかの態様を説明することを意図する実施例に開示される具体的な実施形態による範囲に限定されず、機能的に等価ないかなる実施形態も本発明の範囲内にある。実際に、本明細書中に示し、説明したもの以外の本発明の様々な変更形態が当業者に明らかであり、添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞機能を阻害する方法であって、mRNAをGCx(ここでxはA、C、G又はUである)で切断するmRNAインターフェラーゼの発現を誘導することを含む、方法。
【請求項2】
前記mRNAインターフェラーゼがmRNAをGCUで切断する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記mRNAインターフェラーゼがMqsR又はそのホモログである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記mRNAインターフェラーゼがリボソーム非依存性である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記誘導をYgiTによって阻害することが可能である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記mRNAインターフェラーゼをin vitroで阻害することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記mRNAインターフェラーゼをin vivoで阻害することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞が大腸菌である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
細胞機能を阻害する方法であって、MqsR又はそのホモログの発現を誘導することを含む、方法。
【請求項11】
MqsR又はそのホモログをコードする遺伝子を含むプラスミド。
【請求項12】
前記MqsRの発現をIPTGを用いて誘導することができる、請求項11に記載のプラスミド。
【請求項13】
前記プラスミドがpET28aプラスミドである、請求項11に記載のプラスミド。
【請求項14】
前記遺伝子が配列番号1による配列を有する、請求項11に記載のプラスミド。
【請求項15】
請求項11に記載のプラスミドによって形質転換される細胞。
【請求項16】
前記細胞が大腸菌である、請求項15に記載の細胞。
【請求項17】
YgiT又はそのホモログをコードする遺伝子を含むプラスミド。
【請求項18】
前記YgiTの発現をアラビノースを用いて誘導することができる、請求項17に記載のプラスミド。
【請求項19】
前記プラスミドがpBAD24プラスミドである、請求項17に記載のプラスミド。
【請求項20】
前記遺伝子が配列番号3による配列を有する、請求項17に記載のプラスミド。
【請求項21】
請求項17に記載のプラスミドによって形質転換される細胞。
【請求項22】
前記細胞が大腸菌である、請求項21に記載の細胞。
【請求項23】
請求項11に記載のプラスミド及び請求項17に記載のプラスミドによって形質転換される細胞。
【請求項24】
プラスミドであって、
a.MqsR又はそのホモログをコードする遺伝子、及び
b.YgiT又はそのホモログをコードする遺伝子を含む、プラスミド。
【請求項25】
前記MqsRをコードする遺伝子が配列番号1による配列を有し、前記YgiTをコードする遺伝子が配列番号3による配列を有する、請求項24に記載のプラスミド。
【請求項26】
請求項24に記載のプラスミドによって形質転換される細胞。
【請求項27】
前記細胞が大腸菌である、請求項26に記載の細胞。
【請求項28】
MqsRエンドリボヌクレアーゼ活性を阻害する方法であって、MqsRをYgiTと接触させることを含む、方法。
【請求項29】
MqsRをYgiTと共にプレインキュベートすることを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
MqsRに対する抗毒素としてのYgiTの使用。
【請求項31】
大腸菌の細胞溶解を阻害する方法であって、MqsRを不活性化することを含む、方法。
【請求項32】
前記MqsRをYgiTによって不活性化する、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
配列番号4によるアミノ酸配列を有する単離YgiTポリペプチド。
【請求項34】
請求項33に記載のポリペプチドのアミノ酸配列と90%相同であるアミノ酸配列を有し、抗毒素活性を有するポリペプチド。
【請求項35】
配列番号3によるDNA配列を有する単離YgiTポリヌクレオチド。
【請求項36】
請求項35に記載のポリヌクレオチドのDNA配列と90%相同であるDNA配列を有し、抗毒素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項37】
MqsR及びYgiT、又はそれらのホモログを含む複合体。
【請求項38】
配列番号2によるポリペプチド及び配列番号4によるポリペプチドを含む複合体。
【請求項39】
エンドリボヌクレアーゼ活性を有するポリペプチドを製造する方法であって、
a.細胞を、該細胞にMqsRをコードするポリヌクレオチドを導入することによって形質転換すること、及び
b.形質転換した前記細胞を培養することを含む、方法。
【請求項40】
抗毒素活性を有するポリペプチドを製造する方法であって、
a.細胞を、該細胞にYgiTをコードするポリヌクレオチドを導入することによって形質転換すること、及び
b.形質転換した前記細胞を培養することを含む、方法。
【請求項41】
mRNAを切断する方法であって、mRNAインターフェラーゼをmRNAと接触させることを含み、該mRNAインターフェラーゼがMazFと相同でない、方法。
【請求項42】
前記mRNAをGCx(ここでxはA、C、G又はUである)で切断する、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記mRNAをGCUで切断する、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
細胞機能を変化させる方法であって、MqsR及びYgiTの一方又は両方の発現を操作することを含む、方法。
【請求項45】
疾患を有する患者を治療する方法であって、該患者にmRNAをGCx(ここでxはA、C、G又はUである)で切断するmRNAインターフェラーゼを投与することを含む、方法。
【請求項46】
前記mRNAがGCUで切断される、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記疾患が癌、細菌感染又はウイルス感染である、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
前記ウイルス感染がHIVによって引き起こされる、請求項45に記載の方法。
【請求項49】
前記ウイルス感染が、一本鎖RNAゲノムを有するウイルスによって引き起こされる、請求項45に記載の方法。
【請求項50】
疾患を有する患者を治療する方法であって、該患者にmRNAをGCx(ここでxはA、C、G又はUである)で切断するmRNAインターフェラーゼをコードする遺伝子を投与することを含む、方法。
【請求項51】
前記mRNAがGCUで切断される、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記疾患が癌、細菌感染又はウイルス感染である、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
前記ウイルス感染がHIVによって引き起こされる、請求項50に記載の方法。
【請求項54】
前記ウイルス感染が、一本鎖RNAゲノムを有するウイルスによって引き起こされる、請求項50に記載の方法。

【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2012−500027(P2012−500027A)
【公表日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−523998(P2011−523998)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際出願番号】PCT/US2009/054503
【国際公開番号】WO2010/022260
【国際公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(510011293)ユニヴァーシティ オブ メディシン アンド デンティストリ オブ ニュージャーシィ (3)
【Fターム(参考)】