説明

新規ダニアレルゲン

【課題】イヌのダニアレルギー疾患の治療剤、診断薬としてアナフィラキシー誘発性不純物を含まない安全かつ有効な組換えダニアレルゲンを提供する。
【解決手段】以下の(a)または(b)の組換えタンパク質。(a)開示する特定のアミノ酸配列からなるタンパク質、(b)上記特定のアミノ酸配列において1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつダニアレルゲン活性を有するタンパク質。上記ダニアレルゲン、その断片ペプチドもしくは他のタンパク質との融合タンパク質は、ダニアレルギー疾患の治療剤や診断薬として、またその抗体はダニアレルゲン測定用として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレルゲン活性を有する組換えダニアレルゲンに関し、特にイヌのアトピーの原因となるダニアレルゲンに関する。本発明は、さらに該アレルゲンをコードする遺伝子、該遺伝子を発現させ得る発現ベクター、発現ベクターで形質転換された形質転換体、該組換えダニアレルゲンの製造方法、ダニアレルギー疾患治療剤、及びダニアレルギー疾患診断薬に関する。
【背景技術】
【0002】
アトピー性皮膚炎、気管支喘息等のアレルギー疾患の主要な原因として、屋内塵性ダニが知られている。従来、アレルギー疾患の治療剤としては、アレルギーの原因物質を用いる減感作療法が、最も重要な根本治療とされ、特に花粉症を始め屋内塵、真菌アレルギー等の吸入性アレルゲン等の回避が困難な抗原で引き起こされる疾患においては、該減感作療法が広く行われている。しかしながら、減感作療法では感作抗原によるアナフィラキシーの危険が伴う為、安全な治療用抗原の投与が必要とされ、そのような安全な感作抗原の研究が進められている。
【0003】
ダニアレルギー疾患については、屋内塵中のアレルゲン源としてヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)及びコナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae)の2種のダニが報告されている(非特許文献1及び2を参照)。これらのダニから、主要ダニアレルゲンが分画されており、それらはダニ排泄物及び/又はダニ虫体中に含有されている分子量24-28kDa の糖蛋白(pI 4.6〜7.2)、及び/又は分子量14.5-20kDa のタンパク質(pI 5〜7.2)であることがわかっている(非特許文献3から7を参照)。
【0004】
ダニアレルゲンの遺伝子について、ヤケヒョウヒダニの主要アレルゲンであるDer p 1(分子量:25,371) 及びDer p 2 (分子量:14,131)が、またコナヒョウヒダニの主要アレルゲンであるDer f 1 (分子量:25,191) 及びDer f 2(分子量:14,021)がクローニングされ塩基配列も決定されている(非特許文献8から15を参照)。これらのアレルゲンについて組換えアレルゲンも作製されており、アレルゲンの研究が進んでいる。また、分子量約30,000のアレルゲンとしてDer f 3もその塩基配列が報告されている(非特許文献16を参照)。さらにダニアレルゲンとして、ma10,ma3,ma15,ma29,ma44,ma50,ma113,ma114,ma115(特許文献1を参照)も報告されている。さらに、抗Der f 2血清と強い交差反応性を示す、ma124も報告されている(特許文献2を参照)。
【0005】
また、イヌにおいて98kDaと109kDaのDer f 15 (非特許文献17を参照)及び60kDaのDer f 18(非特許文献18を参照)がIgEが強く反応するアレルゲンであるとの報告がある。
【0006】
ダニアレルギー疾患の診断方法としては、従来、問診を主体とし、屋内塵(ハウスダスト)抽出物及び/又はダニ虫体抽出物を用いる皮内反応試験が主流であった。RAST(radio allergosorbent test)法による血清中のIgE 抗体価(相対値)の測定、吸入誘発試験、鼻粘膜誘発試験等も併用されてはいたが、ダニアレルギー疾患を直接的に診断するのはかなり困難であった。
【0007】
従来より、屋内塵(ハウスダスト)抽出液を用いて、屋内塵性ダニを特異的アレルゲンとする気管支喘息の減感作治療法が行われてきた。しかし、屋内塵の組成は十分分析されていなかった。また、屋内塵には多種類の不純物が含まれるので、アナフィラキシーを誘発する危険もあり、その際の屋内塵の投与量も極度に制限されていた。このため従来の減感作治療は効果が極めて低かった。従って、より有効でありかつ安全な減感作治療用抗原が望まれていた。従来より、高分子粗ダニ排泄物画分に減感作治療に有効なアレルゲンが存在することが知られていたが、このような画分からは減感作治療用に充分な量のダニアレルゲンは得られなかった。従って、ダニ飼育物からのダニアレルゲンの抽出、精製による方法では、治療用抗原の安定供給は困難である。また、前記のように、従来より遺伝子組換え技術による種々の組換えダニアレルゲンについて報告されていた。しかしながら、これらのアレルゲンは必ずしも、実際の治療に有効とはいえず、より有効な新たなダニアレルゲン活性の高い組換えダニアレルゲンの提供が望まれていた。
【0008】
【特許文献1】特開平7−112999号公報
【特許文献2】特開平7−278190号公報
【非特許文献1】Allerg. Asthma, 10, 329 〜334 (1964)
【非特許文献2】J. Allergy, 42, 14〜 28 (1968)
【非特許文献3】J. Immunol.,125, 587〜592 (1980)
【非特許文献4】J. Allergy Clin. Immunol.,76, 753 〜761 (1985)
【非特許文献5】Immunol., 46, 679 〜687 (1982)
【非特許文献6】Int. Arch. Allergy Appl. Immunol., 81, 214〜223 (1986)
【非特許文献7】J. Allergy Clin. Immunol.,75, 686 〜692 (1985)
【非特許文献8】Int. Arch. Allergy Appl. Immunol., 85,127〜129 (1988)
【非特許文献9】J. Exp. Med., 167, 175 〜182 (1988)
【非特許文献10】J. Exp. Med., 170, 1457 〜1462 (1989)
【非特許文献11】Int. Arch. Allergy Appl. Immunol., 91, 118 〜123(1990)
【非特許文献12】Int. Arch. Allergy Appl. Immunol., 91, 124〜129 (1990)
【非特許文献13】Jpn. J.Allergol., 39, 557〜561 (1990)
【非特許文献14】Clinical and Experimental Allergy, 21, 25 〜32 (1991)
【非特許文献15】Clinical and Experimental Allergy, 21, 33 〜37 (1991)
【非特許文献16】FEBS Lett., 377,62 〜66(1995)
【非特許文献17】Vet. Immunol. Immunopathol, 78, 231〜247 (2001)
【非特許文献18】J. Allergy Clin. Immunol, 112, 79 〜 86 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ダニアレルギー疾患の治療剤、診断薬としてアナフィラキシー誘発性不純物を含まない安全かつ有効な新規な組換えダニアレルゲンの提供を目的とする。より具体的には、本発明は、ダニ虫体由来の遺伝子を提供することを目的とし、また、該遺伝子を発現させ得る発現ベクターを提供することを目的とする。さらに、本発明は、ダニ虫体由来の遺伝子の発現によって得られるアレルゲン活性を有する新規なダニアレルゲンの提供を目的とする。さらにまた、本発明は、組換えダニアレルゲンを有効成分とする新規なダニアレルギー疾患治療剤の提供及び組換えダニアレルゲンを含む新規なダニアレルギー疾患診断薬の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らはアトピーイヌが反応するアレルゲンについて網羅的なアレルゲノム解析を行った。すなわち、トリクロロ酢酸処理したD. farinae虫体抽出物について、等電点3〜10及び分子量1万〜20万の成分を分離する二次元電気泳動を行い、PVDF膜に転写した後、ダニRAST陽性のアトピー性皮膚炎発症イヌの血清40検体で免疫染色を行った結果、100スポット以上に及ぶ多数のIgE反応成分が検出された。分子種同定のため、高頻度反応成分を中心にQ-TOF型nano ESI-MS/MSによる構造解析を行ったところ、ヒトにおける主要抗原とは異なる新規ダニアレルゲンの存在が確認された。本発明者は、このようにして、新規なダニアレルゲンを見出し、該アレルゲンが減感作治療に優れた効果を奏することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明は以下のとおりである。
[1] 以下の(a)又は(b)の組換えダニアレルゲン、
(a) 配列番号14で表わされるアミノ酸配列を含む組換えダニアレルゲン
(b) 配列番号14で表わされるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつダニアレルゲン活性を有する組換えダニアレルゲン
[2] 以下の(a)又は(b)のダニアレルゲンをコードする遺伝子、
(a) 配列番号14で表わされるアミノ酸配列を含むダニアレルゲン
(b) 配列番号14で表わされるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつダニアレルゲン活性を有するダニアレルゲン
[3] 以下の(c)又は(d)のDNAを含む遺伝子、
(c) 配列番号13で表わされる塩基配列を含むDNA
(d) 配列番号13の塩基配列を含むDNAと相補的な配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、ダニアレルゲン活性を有するタンパク質をコードするDNA
[4] [1]のダニアレルゲンの断片ペプチド、
[5] 配列番号5から7で表わされるアミノ酸配列を少なくとも1つ含むアミノ酸配列からなる[4]の断片ペプチド、
[6] [4]又は[5]の断片ペプチドをコードするダニアレルゲンの断片遺伝子、
[7] [2]若しくは[3]の遺伝子又は[6]に記載の断片遺伝子を含有する組換えベクター、
[8] [1]のダニアレルゲンと他のタンパク質との融合タンパク質、
[9] [7]の発現ベクターで形質転換された細菌、酵母、昆虫細胞又は動物細胞、
[10] [9]の細菌、酵母、昆虫細胞又は動物細胞を該遺伝子の発現可能な条件下で培養して、組換えダニアレルゲンを産生させ、次いで該組換えダニアレルゲンを回収することを特徴とする組換えダニアレルゲンの製造方法、
[11] [9]の細菌、酵母、昆虫細胞又は動物細胞を該遺伝子の発現可能な条件下で培養して、融合組換えダニアレルゲンを産生させ、該融合組換えダニアレルゲンを回収し、次いで、融合している他のタンパク質を脱離せしめることを特徴とする組換えダニアレルゲンの製造方法、
[12] [1]の組換えダニアレルゲン、[4]の断片ペプチド又は[8]記載の融合タンパク質を有効成分とするダニアレルギー疾患治療剤、
[13] [1]の組換えダニアレルゲン、[4]の断片ペプチド又は[8]記載の融合タンパク質を有効成分とするダニアレルギー疾患診断薬、
[14] [1]に記載のダニアレルゲンに対する抗体、
[15] モノクローナル抗体である[14]のダニアレルゲンに対する抗体、
[16] [15]のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ、
[17] [14]又は[15]の抗体を用いる屋内塵中のダニアレルゲンの免疫学的測定方法、ならびに
[18] ELISAである[17]の屋内塵中のダニアレルゲンの免疫学的測定方法。
[19] [12]のダニアレルギー疾患治療剤を非ヒト動物に投与し、減感作により非ヒト動物のアレルギー疾患を治療する方法。
[20] 非ヒト動物がイヌである[19]の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、ダニアレルギー疾患の治療剤、診断薬としてアナフィラキシー誘発性の不純物を含まない安全かつ有効な組換えダニアレルゲンを提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
(1) ダニアレルゲンSpot39/40タンパク質の単離及び部分配列決定
ダニ抽出物を2次元電気泳動にかけ、臨床的にダニアレルギーと診断された動物から得られたダニアレルゲン特異的IgEを用いて2次元電気泳動により分離されたダニアレルギーを特定する。
【0014】
具体的には、例えばダニアレルゲン特異的IgEを含む血清、ダニ抽出物及びアレルゲン特異的IgEを認識するIgEレセプターを用いたウエスタンブロッティングよりダニアレルゲンを同定すればよい。アレルゲンの同定は公知の方法により行うことができる。
【0015】
このようにして同定される本発明の新規なダニアレルゲンであるSpot39/40タンパク質は、SDS-PAGEで測定した分子量30kDa〜200kDa、等電点約9.5のタンパク質である。
抽出したダニアレルゲンを用いて、公知の方法で部分配列決定を行うことができる。部分配列を決定する公知の方法として、MS/MS解析によるde novo sequencingやペプチドマッピングがある。
【0016】
(2) RT-PCRによるcDNAクローンの作製
ダニよりmRNAを抽出し、該mRNAを鋳型にしてダニアレルゲンcDNAを合成し、cDNAライブラリーを作製し、スクリーニングすることにより、本発明のダニアレルゲンをコードするDNAを得ることができる。
【0017】
mRNAの供給源はコナヒョウヒダニ虫体である。mRNAの調製は、通常行われる手法により行うことができる。得られたmRNAを鋳型として、上記(1)により得られた配列情報に基づいてプライマーを設計し、ダニアレルゲンをコードするcDNA断片を合成する。得られた断片をpGEM(Promega製)等の適当なベクターにサブクローニングし、常法により、例えばサイクルシークエンス法により塩基配列を決定する。
【0018】
本発明のダニアレルゲンの部分アミノ酸配列を配列番号5から7に示す。
本発明は、ダニアレルゲンであるSpot39/40タンパク質の断片であって、配列番号5から7に示されるアミノ酸配列の少なくとも1つを含むアミノ酸配列からなるダニアレルゲンを含む。
【0019】
配列番号13に本発明のダニアレルゲンであるSpot39/40タンパク質をコードする遺伝子のDNAの塩基配列を、配列番号14に本発明のダニアレルゲンであるSpot39/40タンパク質のアミノ酸配列を例示する。
【0020】
このアミノ酸配列からなるタンパク質がダニアレルゲン活性を有する限り、当該アミノ酸配列において少なくとも1個、好ましくは1若しくは数個のアミノ酸に欠失、置換、付加等の変異が生じてもよい。このようなアミノ酸配列において少なくとも1個、好ましくは1若しくは数個のアミノ酸に欠失、置換、付加等の変異が生じアミノ酸配列を有するダニアレルゲンとして、配列番号14に表わされるアミノ酸配列を有するダニアレルゲンのアイソフォームが挙げられる。
【0021】
例えば、配列番号14で表わされるアミノ酸配列の少なくとも1個、好ましくは1又は数個(例えば1〜10個、さらに好ましくは1〜5個)のアミノ酸が欠失してもよく、配列番号14で表わされるアミノ酸配列に少なくとも1個、好ましくは1又は数個(例えば1〜10個、さらに好ましくは1〜5個)のアミノ酸が付加してもよく、あるいは、配列番号14で表わされるアミノ酸配列の少なくとも1個、好ましくは1又は数個(例えば1〜10個、さらに好ましくは1〜5個)のアミノ酸が他のアミノ酸に置換してもよい。
【0022】
このような配列番号14のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列として、配列番号14のアミノ酸配列と、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information(米国国立生物学情報センターの基本ローカルアラインメント検索ツール))等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータ)を用いて計算したときに、少なくとも85%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の相同性を有しているものが挙げられる。
【0023】
このような配列番号14のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質は配列番号14のアミノ酸配列を有するタンパク質と実質的に同一である。
【0024】
また、上記遺伝子と相補的な配列からなるDNAと下記の条件下でハイブリダイズすることができるDNAであってダニアレルゲン活性を有するタンパク質をコードするDNAも本発明の遺伝子に含まれる。すなわち、DNAを固定したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、68℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSCとは150mM NaCl、15mM クエン酸ナトリウムからなる)を用い、68℃で洗浄することにより同定することができる条件をいう。あるいは、サザンブロッティング法によりニトロセルロース膜上にDNAを転写、固定後、ハイブリダイゼーション緩衝液〔50% フォルムアミド、4×SSC、50mM HEPES(pH7.0)、10×デンハルツ(Denhardt, s)溶液、100μg/mlサケ精子DNA〕中で42℃で一晩反応させることによりハイブリッドを形成することができるDNAである。
【0025】
さらに、上記DNAに対するRNA、又は該RNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるRNAであってダニアレルゲン活性を有するタンパク質をコードするRNAも本発明に含まれる。
【0026】
本発明の組換えベクターは、適当なベクターに本発明の遺伝子を連結(挿入)することにより得ることができる。本発明の遺伝子を挿入するためのベクターは、細菌、酵母又は動物細胞等の宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミド DNA、ファージDNA等が挙げられる。発現ベクターの構築に用いられるベクターDNAは、広く普及した入手の容易なものが用いられる。例えば、pUC19、pTV118 N (宝酒造社製)、pUEX2(アマシャム社製)、pGEX-4T、pKK233-2(ファルマシア社製)、pMAM-neo(クロンテック社製)等が挙げられる。
【0027】
本発明の発現ベクターの構築方法は、特に限定されるものではなく常法により行うことができる。例えば、ダニアレルゲンcDNAのEcoRIで消化した断片を、プラスミドpUC19のマルチクローニング部位のEcoRI部位に挿入することができる。また、該断片をプラスミドベクターpGEX-4TのEcoRI部位に連結して発現ベクターを得ることができる。
【0028】
本発明の発現ベクターで形質転換された細菌、酵母又は動物細胞は、本発明の遺伝子を発現し得るものであれば特に制限されないが、例えば、細菌としては大腸菌、枯草菌等が、酵母としてはサッカロマイセス・セレビィシエ等が、動物細胞としては、チャイニーズ・ハムスター・卵巣(CHO)細胞、ヨトウガの卵巣細胞であるSf 21細胞やSf 9細胞、サルCOS細胞、マウス線維芽細胞等が挙げられる。
【0029】
本発明の組換えダニアレルゲンには、直接発現に加えて、他のタンパク質との融合タンパク質として発現されたものも含まれ、以下、該融合タンパク質を融合組換えダニアレルゲンという。ここで、融合する他のタンパク質としては特に限定されないが、例えば、β−ガラクトシダーゼ、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、プロテインA、マルトース結合タンパク質等が挙げられる。
【0030】
本発明の組換えダニアレルゲンは、アレルゲン活性に必須な領域のみのペプチド断片であってもよく、また、アレルゲン活性に必須な領域からなるものであってもよい。また、ダニアレルゲンタンパク質のみを発現させて得られたものの他に、融合タンパク質として発現したものから他のタンパク質を脱離せしめて得られたものでもよい。
【0031】
すなわち、本発明の組換えダニアレルゲンは、ダニ虫体由来の遺伝子の発現によって得られ、ダニアレルゲン活性を有するタンパク質である。ここで、ダニアレルゲン活性を有するとは、哺乳動物に対してアレルギー反応を誘導し得ることをいう。哺乳動物は限定されず、ヒト、イヌ、ヒツジ、ネコ、ウマ、ウシ、ヤギ、サル等が含まれる。好ましくはイヌである。Spot39/40タンパク質はイヌに対するアレルゲン活性が強い。
【0032】
本発明のダニアレルゲンは、以下の方法により製造することができる。上記形質転換株の培養終了後、菌体を集菌し、種々のプロテアーゼインヒビターを含む緩衝液に懸濁して超音波処理で破壊する。細胞デブリスにある膜局在性のタンパク質をフェニルメタンスルフォニル・フルオリド、モノヨード酢酸、ペプスタチンA、エチレンジアミン四酢酸等のプロテアーゼインヒビター及びラウリル硫酸ナトリウム(SDS)、トリトンX-100 、ノニデットP40等の界面活性剤を含む緩衝液で抽出する。その抽出液から、又は培養濃縮液から得られたダニアレルゲン・グルタチオンS−トランスフェラーゼ融合タンパク質を、例えばグルタチオン固定化アフィニティクロマトグラフィー及び抗ダニ虫体抗体固定化アフィニティクロマトグラフィー等で精製する。なお、グルタチオン固定化担体は、ファルマシア社製のものである。また、抗ダニ虫体抗体固定化担体は、活性化されたトレシル担体(例えば、トレシルGMゲル(栗田工業社製)、トレシルトヨパール(東ソー社製)、トレシルセファロース(ファルマシア社製)等が用いられる)にウサギ抗ダニ虫体抗体を共有結合させたものである。また、ダニアレルゲンと6×His等のHis tagとの融合タンパクを得て、金属を固定化した固定化金属アフィニティービーズ等を用いて精製することもできる。
【0033】
精製された融合組換えダニアレルゲンは、プロテアーゼで消化し、ELISA及びダニアレルギー疾患患者白血球ヒスタミン遊離試験(アレルギー, 37, 725(1988) )でモニター下に、例えばゲル濾過クロマトグラフィー、限外濾過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、クロマトフォカシング、等電点電気泳動法、ゲル電気泳動法等の公知の精製法を単独又は組み合わせて分画する。
【0034】
本発明は、ダニアレルゲンを有効成分として含むダニアレルギー疾患治療剤をも包含する。該治療剤は、各種のダニアレルギー疾患の治療剤として用いられる。ここでダニアレルギー疾患とは、アトピー性気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎等、ダニの特異抗原が原因となるあらゆるアレルギー疾患をいう。
【0035】
本発明のダニアレルギー疾患治療剤は、特に制限はないが、例えば、前記の方法により精製された組換えダニアレルゲン又はその断片ペプチドを乾燥して粉末状で採取し、ダニアレルギー疾患に対する減感作治療剤として調製することができる。本発明のダニアレルギー疾患治療剤は、減感作治療剤として用いられる場合、そのままで、又は必要に応じて一般的に用いられるアジュバントや各種の添加剤、例えば安定剤、賦形剤、溶解補助剤、乳濁化剤、緩衝剤、無痛化剤、保存剤、着色剤等を常法により添加した配合剤として用いることができる。例えば、粉末状の精製された組換えダニアレルゲンをフェノールを添加した生理食塩水に溶解し、減感作治療用抗原の原液として用いる。
【0036】
本発明のダニアレルギー疾患治療剤は、通常の投与経路例えば経皮、経口、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内等の投与方法により行うことができる。更に、例えば、トローチ、舌下錠、点眼剤、鼻腔内噴霧剤、パップ剤、クリーム剤、ローション剤等の経皮、経粘膜薬としても使用することができる。また、本発明のダニアレルギー疾患治療剤の投与量及び投与回数は、投与経路、症状などに応じて成人1回あたり約20μg以下の範囲となるように適宜選択し、毎週1から数回程度投与される。
【0037】
また、本発明のダニアレルギー疾患治療剤は、ダニアレルギー疾患に対する治療剤のみならず予防剤としても有用である。また、アナフィラキシー誘発作用もなく、人体に対して安全に用いることができる。
【0038】
本発明のダニアレルギー疾患診断薬は、ダニアレルギー疾患に対する皮内反応診断試薬及びダニアレルギー診断用滴定試薬として用いられる。皮内反応診断試薬として用いる場合は、前記の方法により精製された組換えダニアレルゲン又はその断片ペプチドを常法により調製して得るが、例えば組換えダニアレルゲンを乾燥して粉末状とし、これをフェノールを含む生理食塩水で溶解し、希釈して用いる。皮内反応診断試薬として用いる方法は、常法に従って用いられる。
【0039】
また、ダニアレルギー診断用滴定試薬として用いる場合も同様に常法により調製されるが、例えば、組換えダニアレルゲン又はその断片ペプチドをハンクス緩衝液で適当に溶解し、希釈してヒスタミン遊離滴定用試薬として用いる。この方法は通常、以下の操作手順によりなされる。即ち、ダニアレルギー疾患患者の血液及びこの血液から遠心分離により得られた血球画分を緩衝液に懸濁した血球浮遊液の一定量を、組換えダニアレルゲンを滴定試薬として用いて滴定し、アレルゲン刺激により好塩基球から遊離するヒスタミン量をHPLCを用いて測定する〔アレルギー,37, 725(1988)〕。
【0040】
このヒスタミン遊離滴定では、最大遊離量の50%量(滴定曲線の変曲点)から遊離されるヒスタミン量を求める。この滴定では、(1)血球浮遊液の滴定値から患者のアレルゲン感受性を直接測定することになる。(2)血漿と組換えダニアレルゲンとを予め反応させた後、その液で血球浮遊液を滴定して得られる値(血液滴定曲線値)は、通常、組換えダニアレルゲンで血球浮遊液を滴定して得られる値(血球浮遊液滴定曲線値)より高い値が得られる。これは、血漿中にアレルゲン中和能を持つIgG抗体(遮断抗体)が存在するためである。従って、対血液滴定曲線の、対血球浮遊液滴定曲線からのシフトの大きさから、遮断抗体価が得られる。アレルゲン感受性とこの遮断抗体価から、ダニアレルギーの正確な診断が可能となる。また、このヒスタミン遊離滴定試験は減感作治療効果のモニターとしても有用である。
【0041】
本発明は、本発明のダニアレルゲン又はその断片ペプチドに対する抗体も包含する。該抗体は公知の方法によりポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体として得られる。該抗体は、例えば屋内塵ダスト中のダニアレルゲンの有無等を測定するのに用いることができる。該測定は公知の免疫学的方法により行うことができ、例えばELISAにより行うことができる。この際、屋内塵からタンパク質を抽出し、測定すればよい。
【0042】
なお、本発明のダニアレルゲンの組換えタンパク質を発現させ、発現させた当該組換えタンパク質を用いてダニアレルギー患畜犬との特異IgE反応、あるいは皮内反応などの試験を実施することにより、本発明のダニアレルゲンタンパク質がアレルゲンタンパクとしての機能を確定させることが出来る。
【実施例】
【0043】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0044】
(材料と方法)
コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae)はマウス・ラット・ハムスター用粉末飼料(オリエンタル酵母工業株式会社、Tokyo,Japan)と襖の混合培地(7:3)中で湿度75%、25℃において30日間培養したものを用いた。ダニ培養物を飽和食塩水に懸濁して遠心分離した。その上清を含む浮遊物を濾過した。濾紙上(Tokyo Roshi Kaisha,Ltd.110 mm)に回収されたダニ虫体を、使用するまで−80℃で保存した。
【0045】
アトピー性皮膚炎発症イヌ血清は、ハウスダスト又はダニに対する皮内反応陽性の検体から採取した血液を遠心分離して、上清を採取して用いた。
【0046】
尚、各実施例において使用した試薬は特記しない限り、ナカライテスク、和光純薬、シグマ、ディフコなどから購入した市販のものを使用した。また、制限酵素などの遺伝子工学用試薬は宝酒造、東洋紡、インビトロジェン、などから購入し、販売者の指示に従って使用した。
【0047】
ダニ虫体を0.1 mM PMSF,5 mM EDTA,1 mM monoiodoacetic acid,5 mM EPNPを含むリン酸緩衝液,pH 7.2中で乳鉢を用いてすり潰した後、−80℃で一晩凍結させた。その後凍結乾燥を行ったものをダニ虫体抽出物(Dfb)とし、使用するまで−80℃で保存した。
【0048】
Dfb 3.6 gを溶解バッファー(5 M 尿素,2 M チオ尿素,2% CHAPS,2% SB 3-10,1% DTT,2% Ampholine)36 mlに溶解し、40,000 gで10分間遠心分離し不溶性成分を除去した。その後、60% TCAを終濃度20%となるように加え、氷上で1.5時間静置した。静地後、3500 rpm、0℃で30分間遠心分離し、上清を捨て、沈殿を氷冷アセトン10 mlで洗浄した。洗浄後、3500 rpmで20分、0℃で遠心分離し、遠心後上清を捨て、沈殿に氷冷ジエチルエーテルを加え十分懸濁した。再度3500 rpm、0℃で20分間遠心分離し、上清を捨て、遠心減圧乾固させた。得られたタンパクを溶解バッファーに溶解し、十分懸濁し、タンパク濃度を測定後、使用するまで−80℃で保存した。
【0049】
タンパク濃度は、標準として既知のタンパク濃度のBSAを用い、調整したTCA沈殿後のDfbをBio-Rad Protein Assay(Bio rad社)を用いて発色させ、595nmの吸光度を測定することによってBSA換算タンパク濃度で算出した。
【0050】
TCA沈殿処理後、溶解バッファーに溶解した試料を100μg/500μl溶解バッファーに調製し、500μlを再水和トレイにアプライした後、Immobiline DryStrip gel(Amersham Pharmacia Biotech社)の膨潤と試料の吸収を同時に行った。また、試料の乾燥防止のために、PlusOne DryStrip Cover Fluid(Amersham Pharmacia Biotech社)を適量重層した。なお、再水和は室温で一晩行った。
【0051】
再水和後のImmobiline DryStrip gelをMultiphorII水平型電気泳動装置上にゲル面が上、電極のマイナス側に塩基性、プラス側に酸性となるようにセットした。ゲルの上をPlusOne DryStrip Cover Fluidで満たし、高温循環槽で温度を20℃に保ち、約12時間電気泳動を行った。電気泳動後、Immobiline DryStrip gelはパスツールピペットに入れ、使用するまで−30℃で保存した。
【0052】
Immobiline DryStrip gelをゲル面が上になるように再水和トレイに並べ、平衡化バッファー(A)(尿素14.4 g, グリセロール15.125 g, 10% SDS 8 ml, 0.5 M Tris HCl(pH 6.8) 8 ml, DTT 200 mg / 40 ml MilliQ)を1本当たり3〜4 ml加え15分間振盪してImmobiline DryStrip gelの電荷をキャンセルし、またジスルフィド結合を還元して開裂した。平衡化バッファー(B)(尿素14.4 g, グリセロール15.125 g, 10% SDS 8 ml, 0.5 M Tris HCl(pH 6.8) 8 ml, ヨードアセトアミド3.6 g, ブロモフェノールブルー0.005 g / 40 ml MilliQ)を同様に加え15分間振盪して完全に平衡化を行い、またシステイン残基をカルバミドメチル化した。
【0053】
9〜18%グラジエントゲルを作成するために用いたアクリルアミド溶液は、グリセロール,アクリルアミド/BIS (アクリルアミド160 g, BIS 4.625 g / 400 ml)、1.5 M Tris-HCl (pH 8.8)、10% SDS、MilliQ水、10% 過硫酸アンモニウム、100% TEMEDを含み、Light solutionはそれぞれ、0 g,124 ml,137.5 ml,5.5 ml,280.5 ml,2.75 ml,0.0525 mlを,また,Heavy solutionはそれぞれ、55.44 g,247.5 ml,137.5 ml,5.5 ml,114 ml,1.375 ml,0.009 mlを含む。
【0054】
10枚のゲル板を100%メタノールでよく拭いてHoefer Daltマルチプルゲルキャスターにセットし、Iso-Dalt systemにLight solution及びHeavy solutionを入れてミリスタポンプで9〜18%のグラジエントをかけて泳動ゲルを作成した。固化するまで水飽和ブタノールを重層して室温で静置した。固化後MilliQでゲルを十分洗浄して電気泳動に用いた。
【0055】
アクリルアミドゲル(9〜18%グラジエントゲル)上に等電点電気泳動を行った後のDryStrip gelをゲル面が手前、酸性が左、塩基性が右にくるように乗せ、酸性側の左に分子量マーカーを2.3μgしみ込ませた濾紙を乗せてその上に低融点アガロース(1%)を重層し固化した。アガロースが固化したら泳動槽電気泳動バッファー(glycine 216 g, Tris 45 g, SDS 15g /15l)を入れ、恒温循環槽で温度を20℃に保ち80 Vで16〜18時間電気泳動を行った。
【0056】
2次元電気泳動後のゲルを固定化溶液(メタノール1l, 酢酸100 ml/2 l MilliQ)中で20分間以上振盪し、固定化した。固定後ゲル1枚当たり、50%メタノール 500 mlで振盪した後MilliQ水 500 mlで10分間振盪させ親水処理した。次にエンハンシング溶液(Na2S2O3・5H2O 25 mg/500 ml MilliQ)中で1分間振盪した後、MilliQ 500 mlで2回洗浄した。洗浄後染色溶液(AgNO3500 mg/500 ml MilliQ)で20分間振盪した後、MilliQ 500 mlで2回洗浄した。洗浄後発色溶液(HCHO 800μl, Na2CO340 g/2 l MilliQ)で発色させた。適度に発色したら、酢酸を適量入れ発色を停止させた。染色後のゲルをストック溶液(5%グリセロール/50%メタノール)に入れ、室温で保存した。
【0057】
2次元電気泳動後、Dfbを60 V, 6時間でPVDF膜に転写させた。転写後、ブロッキングバッファー(5% スキムミルク, 1% BSA, 0.1% Tween20/PBS)中で4℃でオーバーナイトでブロッキングした。ブロッキング後、PBST(PBS, 0.5% Tween20)で5分×1回、10分×1回洗浄した。洗浄後0.02% アジ化ナトリウム/PBSで4℃で保存した。
【0058】
メンブレンをPBSTで洗浄した後、イヌ血清を希釈バッファー(5%スキムミルク, 1% BSA, 0.1% Tween20/PBS)で10倍希釈させたものを、4℃で一晩振盪させながらインキュベートした。振盪後、PBSTで5分×1回、10分×3回、5分×1回洗浄した。洗浄後ヤギ抗-イヌIgE HRPコンジュゲート(BETHYL社)を0.5% Tween20を含む希釈バッファーで1万倍希釈したものと、室温で1時間振盪させながらインキュベートした。振盪後、PBSTで5分×1回、10分×3回、5分×1回洗浄した。洗浄後、ECL-Plus(Amersham Pharmacia Biotech UK社)15.375 mlと5分静置でインキュベート後、Hyper film ECL(Amersham Pharmacia Biotech UK社)に露光させて、陽性スポットを検出した。
【0059】
40検体について免疫染色を行った結果、スポットの分布は個体差があるものの、主に中性領域で高分子成分を中心に陽性スポットを確認した。1検体でも反応したDfbの構成成分に対し、スポット番号をつけ、反応頻度マップを作成した。
【0060】
2次元電気泳動後のゲルからメスでスポットを切り出し、ゲルを1 mm3程度にカットし、ワーキング溶液(30 mM フェリシアンカリウム:100 mM硫酸ナトリウム=1:1)を加えゲルの色と溶液の色(黄色)になるまでボルテックスを行った。溶液を除去し、MilliQでゲルが透明になるまで洗浄した。100 mM炭酸水素アンモニウムを加え10分間のボルテックスを2回行い、アセトニトリルを加え10分間ボルテックスを行い、100 mM炭酸水素アンモニウムを加え10分間ボルテックスを行い、アセトニトリルを加え10分のボルテックスを2回行い完全にゲルが白くなるまで脱水した。遠心濃縮機で20分間ゲルを乾燥させ、トリプシン溶液(10 ng/μlトリプシン, 40 mM炭酸水素アンモニウム, 10%アセトニトリル)をゲルに加え、室温で45分インキュベートした。トリプシン消化バッファー(40 mM炭酸水素アンモニウム, 10%アセトニトリル)をゲルの半分程度加え、37℃で16時間程度インキュベートした。その後、5% TFAで20分間ボルテックスを行い、5%TFA / 50%アセトニトリルで20分間のボルテックスを3回行いペプチドを抽出した。遠心濃縮器で10μl程度まで濃縮した。脱塩はZipTip C18を用いて行った。
【0061】
QSTAR XL Systemマニュアルに従って、positive modeでsex pheromone inhibitor iPD1 (MW+H=829.5393; BACHEM社)とヨウ化セシウム(MW+H=132.9049)を用いてキャリブレーションした。高濃度に濃縮し脱塩したべプチドをGELoader Tips を用いてNano Tip(Sigma社)にアプライし、先端にサンプルを集めた。装置にセットした後、適切な電圧(900〜1200 V)でTOF MSスペクトルを得た。強度の強い多価イオンはさらにproduct ion modeでMS/MS解析を行った。得られたMS/MSスペクトルをBioAnalyst softwareを用いて解析した。得られたアミノ酸配列についてDDBJ(日本DNAデータバンク)のBLASTにより相同性検索を行った。さらに、ハウスダストダニ(House dust mite) Der f ESTのcDNA断片配列との相同性検索を行った。
【0062】
D. farinae全RNAを調製するため、180℃、12時間乾熱滅菌した乳鉢にD.farinae虫体2 g(-80℃凍結保存状態)、適量の液体窒素、トリゾール20 mlを入れ、石英砂により粉状になるまで破砕した。60℃に保温しておいた5 mlのトリゾールを加え、ボルテックスで30秒攪拌し、15分,60℃でインキュベートして、遠心分離(14,000 rpm, 1分間, 4 ℃)した。1.5 mlマイクロチューブに上清を1 mlずつ分注し、5分室温でインキュベートした後、各チューブに200μlずつクロロホルムを加え、ボルテックスによりでエマルジョンになるまで激しく攪拌した。3分間室温でインキュベートし、遠心分離(14,000 rpm, 15分間, 4 ℃)して、2層に分かれた上層部分を別のマイクロチューブにとり、500μlのイソプロパノールを加えて10分間室温で静置した。遠心分離(14,000rpm, 10分間, 4℃)後、上清を除き、残存した沈殿に300μlの氷冷した4 M塩化リチウムを加え、ピペッティングにより溶解し、遠心分離(6,500 rpm, 5分間, RT)した。上清を除き、沈殿物に200μlの0.5% SDS-TE bufferと200μlのクロロホルムを加え、ボルテックスによりで攪拌した後、遠心分離(6,500 rpm, 10分間, RT)して、上層の水層部分を別のマイクロチューブにとった。その水層部分に1/10量の3 M酢酸ナトリウムと2倍量のエタノールを加え、5分間-80℃で静置した。遠心分離(14,000 rpm, 10分間, 4℃)して、上清を除いた沈殿(RNA)に75%エタノールを加えてリンスして遠心分離(14,000 rpm, 2分間)して得た沈殿を風乾した後、DEPC 処理水に溶解し、全RNAサンプルとした。mRNAはOligotex-dt30<super>mRNA Purification Kit(TaKaRa社)を用いて、メーカーの指示通り使用して、精製した。cDNAはBD SMART RACE cDNA Amplification Kit(BD Bioscienes社)を用いて、合成した。
【0063】
目的遺伝子をPCR法によって増幅するため、MS/MS解析で得たアミノ酸配列及び相同遺伝子配列を基にオリゴDNAプライマーを設計した。5’RACE用はGAACAGACAGCATTGCCTTTGG(配列番号1)とし,3’RACE用はGGATGGCATTCAACGTGTACTG(配列番号2)とした。合成したcDNAをテンプレートとして用い、Gene Amp PCR system 9600 (Perkin-Elmer corporation, Norwalk, CT, USA) により増幅させた。反応液組成は以下の通りである。5’RACE:TaKaRa Ex taq (5 units/μl) 0.5μl,10×Ex Taq Buffer 5μl,dNTP mix (2.5 mM each) 4μl ,Templete 5’RACE cDNA 2.5μl,Forward primer Universal Primer Mix (10×) 5μl,Reverse primer 5’RACE用 Primer (10μM) 1μl,MilliQ 32μl。3’RACE:TaKaRa Ex taq (5 units/μl)0.5μl,10×Ex Taq Buffer 5μl,dNTP mix (2.5 mM each) 4μl,Templete 3’RACE cDNA 2.5μl,Forward primer 3’RACE用 Primer (10μM) 1μl,Reverse primer Universal Primer Mix (10×) 5μl,MilliQ 32μl。反応条件は、94℃×5 min,[94℃×30 sec,61℃×30 sec,72℃×2 min]×35 cycles,72℃×7minとした。
【0064】
PCR産物の一部をとり、pGEM-T Easy vector (10 ng/μl)(Promega社)1μl、10×Ligation buffer 1.5μl、T4リガーゼ (3 Weiss units/μl)1μlを加えて15℃で一晩インキュベートした。この溶液15μlにコンピテントセル(E. coli DH5α)100μlを加え、5分間氷冷後、42℃で30秒インキュベートし、直ちに氷上に戻し2分おいた。次に、SOC培地を500μl加え37℃で1時間振盪培養した。この菌体懸濁液にあらかじめ100 mM IPTG 40μl、20 mg/ml X-gal 40μlをスプレッドしておいたLBプレート培地(50μg/mlアンピシリン)にまき、37℃、12時間培養した。形成されたコロニーをLB培地(50μg/ml アンピシリン)5 mlで37℃、12hr振盪培養し、得られた培養液からRapid Plasmid Miniprep System(MARLIGEN社)を用いてプラスミドを精製した。挿入断片の塩基配列をBig Dye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)及びABI PRISM 3100-Avant Genetic Analyzer(Applied Biosystem)を用いて決定した。
【0065】
Spot39/40をHis-Tag融合タンパク質として発現させるため、GTCCATATGATGAAGCAATCAATCG(配列番号3)及びCGGGTCGACTCAAGCAAGATAAAC(配列番号4)の塩基配列からなる遺伝子組換え用のオリゴDNAプライマーを作成し、PCR法によって増幅した後、制限酵素NdeI及びSalIで消化した。NdeI、SacIで消化したpET-28(b)ベクターに連結させ、E.coli BL21(DE3)へトランスフォーメーションした。LBプレート培地(50μg/mlカナマイシン)上に生育した形質転換体をLB液体培地(50μg/mlカナマイシン)で37℃にて培養し、OD600=0.5に達した時点で終濃度1.0 mMになるようにIPTGを添加し、その後16℃、11時間培養して、His-Tag融合タンパク質として発現させた。
【0066】
培養後の菌体成分をSDS-PAGEにより分画し、セミライド式転写装置によって、ゲルよりPVDF膜(メタノールに数秒浸した後、転写バッファー(25 m M Tris/20 mMグリシン/20 %メタノール)で平衡化したもの)に転写した。PVDF膜は、ブロッキングバッファー(0.5% Tween 20,3% スキムミルクを含むリン酸緩衝液)中にて1時間室温で振とうした。抗His抗体を同溶液で2万倍に希釈したもので膜を室温で1時間振盪した。PBSTで充分洗浄した後、抗マウスIgG HRPをブロッキングバッファーで2万倍に希釈したもので膜を室温で1時間振盪した。PBSTで充分洗浄した後、ECL plus Western blotting detection system (Amersham Bioscience) を使用してX線フィルムに露光させた。アトピー性皮膚炎発症イヌ血清を用いたIgE免疫染色は2次元電気泳動と同様の条件で行った。
【0067】
(結果)
ダニ虫体抽出物(Dfb)をTCA沈殿処理して、等電点3〜10、分子量1万〜20万までの成分を分離する2次元電気泳動を行って銀染色した結果、約500個のスポットが認められた(図1)。
【0068】
40検体について免疫染色を行い、少なくとも117個の陽性スポットが確認された(図2A〜図2C)。反応頻度マップを作成した。最も反応頻度が高いものは30kDa、等電点9.5付近のSpot 39で、反応頻度は90.5%だったが、検体により染色パターンが異なった。アトピー性皮膚炎発症イヌとダニアレルギー患者における各スポットの反応頻度を比較した。26個の共通した反応スポットのうち、同様に高頻度であるスポットは1個であったことから、イヌとヒトでは主要な抗原が異なることが示唆された。Spot 39及び40はそれぞれイヌ検体の90.5%,66.7%が陽性を示した(図10)。
【0069】
最も反応頻度の高かったSpot39と次に高かったSpot40をQ-TOF型 nano-ESI MS/MSを用いて解析したところ(図3〜7)、質量数608、780、882[M+2H]のペプチドイオンピークからそれぞれ、SLDSLLDGIQR(配列番号5)、INQFPDSIEDLNR(配列番号6)、NFIDTCTETSYEKR(配列番号7)のアミノ酸配列が得られた。
【0070】
公共のDNAデータバンクに対する相同性検索ではヒットするタンパク質はなかったが、House dust mite Der f ESTのcDNA断片配列情報に相同性が高い配列DF238(配列番号8)、DF370(配列番号9)、DF1272(配列番号10)が見つかった。これらの塩基配列は互いにオーバーラップしていたので、統合して一部修正した塩基配列(配列番号11)から翻訳可能なアミノ酸配列(配列番号12)を予想した。この情報を基に全長遺伝子を単離するため、ダニcDNAをテンプレートとした5’RACE及び3’RACEを行い、増幅したPCR産物をクローニングした。決定された塩基配列のオーバーラップした部分を繋ぎ合わせたところ、1011 bpからなる塩基配列(配列番号13)が得られた。これは241アミノ酸からなるペプチド(配列番号14)をコードしうるものであった。算出された理論等電点8.85,理論分子量27491.02は2次元電気泳動で観測されたものとほぼ一致した。
【0071】
Spot39/40の1次構造を基に機能ドメインの検索を行ったところ、相同部分のCys残基の位置が一致するSheep scab mite (Psoroptes ovis)の遺伝子(Acc No. BQ834862, BQ834731)が見つかった(Parasitology. 2003 May;126(Pt 5):451-60. Kenyon F et al)。

【0072】
組換えタンパク質を調製するためにSpot39/40のタンパク質コード領域を含む遺伝子断片をpET-28(b)ベクターに組み込み、His Tag融合タンパクとしてE.coli BL21(DE3)で発現させた。SDS-PAGE後のCBB染色及びウエスタンブロット(Anti-His)により、His-Tag融合タンパク質としての発現が確認できた(図8)。さらに、アトピー性皮膚炎発症イヌ血清IgEでの免疫染色より組換えSpot39/40タンパク質の活性を検討した結果、反応性が見られた(図9)。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】ダニ虫体抽出物を2次元電気泳動し、銀染色を行った結果を示す図である。
【図2】ダニ虫体抽出物の2次元電気泳動し、アトピー性皮膚炎発症イヌ血清を用いて免疫染色を行った結果を示す図である。
【図3】アトピー性皮膚炎発症イヌ血清と高頻度に反応した2次元電気泳動スポットの質量分析の結果を示す図である(その1)。
【図4】アトピー性皮膚炎発症イヌ血清と高頻度に反応した2次元電気泳動スポットの質量分析の結果を示す図である(その2)。
【図5】アトピー性皮膚炎発症イヌ血清と高頻度に反応した2次元電気泳動スポットの質量分析の結果を示す図である(その3)。
【図6】アトピー性皮膚炎発症イヌ血清と高頻度に反応した2次元電気泳動スポットの質量分析の結果を示す図である(その4)。
【図7】アトピー性皮膚炎発症イヌ血清と高頻度に反応した2次元電気泳動スポットの質量分析の結果を示す図である(その5)。
【図8】組換えSpot39/40タンパク質の抗His抗体による免疫染色の結果を示す図である。
【図9】組換えSopt39/40タンパク質のIgE反応性を示す図である。
【図10】ダニ虫体抽出物の2次元電気泳動により分離されたSpot 39/40とアトピー性皮膚炎発症イヌ血清との反応頻度マップを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)又は(b)の組換えダニアレルゲン。
(a) 配列番号14で表わされるアミノ酸配列を含む組換えダニアレルゲン
(b) 配列番号14で表わされるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつダニアレルゲン活性を有する組換えダニアレルゲン
【請求項2】
以下の(a)又は(b)のダニアレルゲンをコードする遺伝子。
(a) 配列番号14で表わされるアミノ酸配列を含むダニアレルゲン
(b) 配列番号14で表わされるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつダニアレルゲン活性を有するダニアレルゲン
【請求項3】
以下の(c)又は(d)のDNAを含む遺伝子。
(c) 配列番号13で表わされる塩基配列を含むDNA
(d) 配列番号13の塩基配列を含むDNAと相補的な配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、ダニアレルゲン活性を有するタンパク質をコードするDNA
【請求項4】
請求項1記載のダニアレルゲンの断片ペプチド。
【請求項5】
配列番号5から7で表わされるアミノ酸配列を少なくとも1つ含むアミノ酸配列からなる請求項4記載の断片ペプチド。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の断片ペプチドをコードするダニアレルゲンの断片遺伝子。
【請求項7】
請求項2若しくは3に記載の遺伝子又は請求項6に記載の断片遺伝子を含有する組換えベクター。
【請求項8】
請求項1記載のダニアレルゲンと他のタンパク質との融合タンパク質。
【請求項9】
請求項7記載の発現ベクターで形質転換された細菌、酵母、昆虫細胞又は動物細胞。
【請求項10】
請求項9記載の細菌、酵母、昆虫細胞又は動物細胞を該遺伝子の発現可能な条件下で培養して、組換えダニアレルゲンを産生させ、次いで該組換えダニアレルゲンを回収することを特徴とする組換えダニアレルゲンの製造方法。
【請求項11】
請求項9記載の細菌、酵母、昆虫細胞又は動物細胞を該遺伝子の発現可能な条件下で培養して、融合組換えダニアレルゲンを産生させ、該融合組換えダニアレルゲンを回収し、次いで、融合している他のタンパク質を脱離せしめることを特徴とする組換えダニアレルゲンの製造方法。
【請求項12】
請求項1記載の組換えダニアレルゲン、請求項4記載の断片ペプチド又は請求項8記載の融合タンパク質を有効成分とするダニアレルギー疾患治療剤。
【請求項13】
請求項1記載の組換えダニアレルゲン、請求項4記載の断片ペプチド又は請求項8記載の融合タンパク質を有効成分とするダニアレルギー疾患診断薬。
【請求項14】
請求項1に記載のダニアレルゲンに対する抗体。
【請求項15】
モノクローナル抗体である請求項14記載のダニアレルゲンに対する抗体。
【請求項16】
請求項15記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
【請求項17】
請求項14又は15に記載の抗体を用いる屋内塵中のダニアレルゲンの免疫学的測定方法。
【請求項18】
ELISAである請求項17記載の屋内塵中のダニアレルゲンの免疫学的測定方法。
【請求項19】
請求項12記載のダニアレルギー疾患治療剤を非ヒト動物に投与し、減感作により非ヒト動物のアレルギー疾患を治療する方法。
【請求項20】
非ヒト動物がイヌである請求項19記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−244216(P2007−244216A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−68146(P2006−68146)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(591281220)日本全薬工業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】