説明

新規ヌクレオシド誘導体、それを含むポリヌクレオチド及びそれを用いた塩基の識別方法

【課題】新規なヌクレオシド誘導体を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)〜(V)のいずれかで表されるヌクレオシド誘導体。


式中、R1は水素、炭素数1〜5のアルキル基またはアシル基であり、R2およびR3は独立して、水素、オリゴマー化のためのリン原子を含む置換基、リン酸基または水酸基の保護基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なヌクレオシド誘導体、それを含むポリヌクレオチド及びそれを用いた塩基の識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに核酸塩基の種類を見分ける種々の方法が開発されてきた。例えば、塩基特異的プローブを用いてハイブリダイゼーションの有無により塩基の種類を識別する方法や、塩基特異的プライマーを用いて遺伝子増幅の有無により塩基の種類を識別する方法などがある。
また、対合する塩基によって蛍光強度が変わるプローブ核酸も報告されている(非特許文献1および2)。これらのプローブ核酸は、一塩基多型(SNP)検出や遺伝子サイレンシング部位(眠っている部位)の同定などへの利用も期待されている。特に、後者はエピジェネシス研究にとって大変有用であり注目されている。しかし、遺伝子が活性化されているか眠っているかを知るためには、メチル化の有無、すなわち、メチルシトシンという塩基とシトシンという塩基との判別ができなくてはならない。シトシンのメチル化の有無を判別するためにはこれまでは、重亜硫酸塩などの試薬で処理した後にプローブとハイブリダイズさせて検出する方法が採用されてきたが、試薬で処理することなく、ハイブリダイズさせるのみでメチル化の有無を検出できる方法に使用できるプローブ核酸は知られていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Okamoto A.et al,J Am Chem Soc. 2004;126(15):4820-7.
【非特許文献2】Rajendar B. et al. Bioorg Med Chem Lett. 2007;17(13):3682-5.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、多型部位の塩基の種類又はメチル化部位におけるメチル化の有無を判別するためのプローブとして使用しうるポリヌクレオチドの合成に用いることのできる新規ヌクレオシド誘導体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、新規なヌクレオシド誘導体を合成することに成功し、さらに、それらの誘導体を用いることにより多型部位の塩基の種類又はメチル化部位におけるメチル化の有無を判別するためのプローブとして使用しうるポリヌクレオチドを得ることができることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)下記一般式(I)〜(V)のいずれかで表されるヌクレオシド誘導体。
【化1】

式中、R1は水素、炭素数1〜5のアルキル基またはアシル基であり、R2およびR3は独立して、水素、オリゴマー化のためのリン原子を含む置換基、リン酸基または水酸基の保護基である。
(2)(1)に記載のヌクレオシド誘導体のヌクレオシド残基を含むポリヌクレオチド。
(3)(1)に記載のヌクレオシド誘導体を含む、ポリヌクレオチド合成用試薬。
(4)(1)に記載のヌクレオシド誘導体を基質に用いて、ポリヌクレオチドを製造する方法。
(5)(2)に記載のポリヌクレオチドが固定化された、ポリヌクレオチド固定化担体。
(6)多型部位又はメチル化部位を含む標的核酸に対し、該標的核酸に相補的な配列を有し、該多型部位又はメチル化部位に相当する位置に(1)に記載のヌクレオシド誘導体のヌクレオシド残基を含むポリヌクレオチドをハイブリダイズさせ、ハイブリダイズ時の蛍光を測定することによって、多型部位の塩基の種類又はメチル化の有無を識別することを特徴とする、多型塩基またはメチル化の識別方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のヌクレオシド誘導体はシトシンと対合するときよりもメチルシトシンと対合するときの方が高い蛍光を発するので、本発明のヌクレオシド誘導体を用いることにより、対合塩基の5位にメチル基があるか否かという僅かな構造の違いを蛍光の強さで見分けることができる。これにより、重亜硫酸塩などの試薬を用いなくともメチル化の有無を検出することができる。
また、対合塩基の種類によって蛍光強度が変わるので、SNP(一塩基多型)検出への応用も期待される。これにより、対合塩基の種類に対応する複数のプローブを用意する必要がないので、簡便に塩基の識別を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明のヌクレオシド誘導体を含むオリゴヌクレオチドと、それに相補的な配列を有し、該誘導体と対合する位置に各種塩基を含むそれぞれのオリゴヌクレオチドをハイブリダイズさせ、蛍光スペクトルを測定した結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明を詳しく説明する。
本発明のヌクレオシド誘導体は、一般式(I)で表される。
【化2】

【0010】
式中、R1は水素、炭素数1〜5のアルキル基またはアシル基であり、R2は水素、オリゴマー化のためのリン原子を含む置換基、リン酸基、または5’水酸基の保護基であり、R3は水素、オリゴマー化のためのリン原子を含む置換基、リン酸基、または3’水酸基の保護基である。
ここで、5’および3’水酸基の保護基としては、Dimethoxytrityl(DMTr)基、ベンゾイル基、アセチル基などが挙げられるがこれらに限定されない。
リン酸基は一リン酸、二リン酸、三リン酸のいずれでもよい。
オリゴマー化のためのリン原子を含む置換基は、他のヌクレオチドの5'または3'の水酸基と縮合してオリゴマーを形成できる置換基であれば特に制限されないが、例えば、(i-Pr)2N-P(O(CH2)2CN)-(アミダイド基)などが挙げられる。
【0011】
本発明のヌクレオシド誘導体は、後述の実施例に示される方法によって合成することができる。なお、実施例では、上記式(I)の誘導体の合成例について示したが、一般式(II)〜(V)で示されるその他のヌクレオシド誘導体についても同様の方法によって得ることができる。例えば、実施例に記載されている合成スキームにおいて、2-Bromobenzoic acidの代わりに、2-Bromo-1-naphthoic acid、2-Bromo-1-anthracenecarboxylic acid、3-Bromo-2-naphthoic acid、または3-Bromo-2-anthracenecarboxylic acidを用いることによって一般式(II)〜(V)で示されるヌクレオシド誘導体を合成することができる。
【0012】
本発明のヌクレオシド誘導体を用いてポリヌクレオチド(オリゴヌクレオチドともいう)を合成することができる。本発明のヌクレオシド誘導体を用いて合成されるポリヌクレオチドは一本鎖でも二本鎖でもよいが、核酸プローブとして用いるためには一本鎖が好ましい。合成法は特に制限されず、化学合成法でもよいが、DNA合成機などを用いた従来のオリゴヌクレオチド合成法が好ましい。
【0013】
例えば、一般式(I)〜(V)において3’位(R3)にアミダイド基を有する化合物を用い、これとA、T、G、Cの各塩基に対応するアミダイド化合物を所望の配列が得られるように順次結合反応させることにより、本発明のヌクレオシド誘導体(R2およびR3を除いた残基部分)を含むポリヌクレオチドを得ることができる。
ポリヌクレオチドの長さは特に制限されないが、15〜50塩基が好ましく、20〜40塩基がより好ましい。ポリヌクレオチドにおけるヌクレオシド誘導体の位置は特に制限されないが、核酸プローブとして用いるためには両端には位置しないことが好ましい。
【0014】
本発明のポリヌクレオチドを用いることにより、多型部位の塩基の種類を識別したり、メチル化部位のメチル化の有無を識別したりすることができる。
ここで、多型は、一塩基多型(SNP)でもよいし、複数塩基の多型でもよい。また、塩基の欠失でもよい。この中では一塩基多型がより好ましい。
また、メチル化部位とは、CpG配列におけるシトシンを意味する。
【0015】
以下に多型部位の塩基の種類またはメチル化の有無を識別する方法について、手順を説明する。
まず、多型部位又はメチル化部位を含む標的核酸に対し、該標的核酸に相補的な配列を有し、該多型又はメチル化部位に相当する位置に本発明のヌクレオシド誘導体(残基部分)を含むポリヌクレオチドを用意する。
そして、このポリヌクレオチドを標的核酸とハイブリダイズさせ、ハイブリダイズ時の蛍光を測定する。
実施例に示されるように、多型部位の塩基の種類によって蛍光強度が異なるため、蛍光強度を調べることによって多型部位の塩基の種類を識別することができる。
また、メチル化の有無によっても蛍光強度が異なるため、蛍光強度を調べることによってメチル化の有無を識別することができる。
蛍光測定は382nmで励起し、400〜480nmの蛍光を測定することが好ましい。
【0016】
なお、多型又はメチル化の識別に際しては、標的核酸を含む、血液、細胞などの試料を用いてもよい。
本発明のヌクレオシド誘導体を含むポリヌクレオチドを基板やビーズなどの担体に固定化してマイクロチップなどを構成し、これに、血液、細胞などの試料またはこれらから得られる核酸含有画分を反応させて、ハイブリダイズを行うことにより、多検体の処理を行うこともできる。
【実施例】
【0017】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0018】
<ヌクレオシド誘導体の合成>
以下の合成スキームで化合物4〜6を合成した。
【化3】

具体的手順を以下に示す。
【0019】
真空乾燥した2-Bromobenzoic acid (1.534g, 7.63mmol, F.W.201.02)をdry DMF(30ml)で溶かしてK2CO3(556mg, 4.02mmol, F.W.138.21)、Cu(52mg, 0.818mmol, F.W.63.55)、4-Iodobenzenamine (3.31g, 15.1mmol, F.W.219.02)を加えて160℃で2時間還流した。反応液を減圧留去し、残渣を酢酸エチルで溶かし1N 塩酸で一度洗浄し有機相を硫酸マグネウムで乾燥させ減圧留去しシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Silica gel 60, 70〜230μm, 1%メタノール/クロロホルム)で精製し粉末状の化合物1を得た。Rf値 0.69 [10%メタノール/クロロホルム]
【0020】
化合物1の収量および各種スペクトルは以下のとおりであった。
収量2.49g 収率96%
1H NMR (300 MHz, CDCl3)δ8.03 (1H, d), 7.64 (2H, m), 7.40 (2H, m), 7.02 (1H, d),
7.31 (1H, t), 6.79 (1H, s)
ESI-MS(ネガティブ・モード) m/z [帰属]
Found:338.0, Calc.:337.98 [(M−H)-]
【0021】
真空乾燥した化合物1(830mg, 2.45mmol, F.W.338.98)にピロリン酸(15.3ml)を加えて90℃で1時間還流した。放冷後氷冷水を加えて吸引濾過を行った。ろ液からジクロロメタンで抽出を行い減圧留去し濾別した固体と共にシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Silica gel 60, 70〜230μm,0.5%メタノール/クロロホルム)で精製し粉末状の化合物2を得た。Rf値 0.89 [5%メタノール/クロロホルム]
【0022】
化合物2の収量および各種スペクトルは以下のとおりであった。
収量624mg 収率79%
1H NMR (300 MHz, DMSO)δ8.49(1H, s), 8.21(1H, d), 7.98 (1H, d), 7.73 (1H, s), 7.54 (1H, d), 7.39 (1H, d) , 7.27(1H, d)
ESI-MS(ポジティブ・モード) m/z [帰属]
Found:322.0, Calc.:321.97 [(M+H)+]
【0023】
真空乾燥した化合物2(1.68g, 5.23mmol, F.W.321.11)に1,4-anhydro-3,5-bis-O -(tert-butyldimethylsilyl)-2-deoxy-D-erythro-pent-1-enitol(2.76g, 8.00mmol, F.W.344.64)を加えて脱気dry DMF(45ml)で溶かしAS(ph)3(322mg, 1.05mmol, F.W.306.25)にPd(oAc)2
(135mg, 0.60mmol, F.W.224.5)と脱気dry-DMF(15ml)を加えて30分撹拌した物を加えた。Bu3N(1.9ml, 7.91mmol, F.W.185.35)を加えて90℃で1時間還流しその後氷浴下で30分撹拌した。TBAF(11ml)とAcOH(1ml)を加えて室温で終夜撹拌した。飽和重層水を加えた後、酢酸エチルで抽出し減圧留去しシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Silica gel 60, 70〜230μm, 0.5%メタノール/クロロホルム)で精製し粉末状の化合物3を得た。Rf値 0.09 [5%メタノール/クロロホルム]
【0024】
化合物3の収量および各種スペクトルは以下のとおりであった。
収量625mg 収率39%
1H NMR (300 MHz, CDCl3)δ7.59(7H, m), 5.29(1H, m), 4.06 (3H, d), 2.87(1H, d), 2.61(1H, d)
ESI-MS(ポジティブ・モード) m/z [帰属]
Found:310.0, Calc.:310.10 [(M+H)+]
Found:332.0, Calc.:332.10 [(M+Na)+]
【0025】
真空乾燥した化合物3(613mg, 1.98mmol, F.W.309.32)にAcOH(20ml)とCH3CN(20ml)を加えて溶かし氷冷下でNaBH(OAc)3を加えて室温で1時間撹拌した。飽和重層水を加えた後、酢酸エチルで抽出し減圧留去後シリカゲルカラムクロマトグラフィー(Silica gel 60, 70〜230μm, 1%メタノール/クロロホルム)で精製し粉末状の化合物4を得た。Rf値 0.81 [10%メタノール/クロロホルム]
【0026】
化合物4の収量および各種スペクトルは以下のとおりであった。
1H NMR (300 MHz, CDCl3)δ8.35(2H, m), 7.82(1H, m), 7.68 (1H, m), 7.30(2H, m), 7.27(1H, t), 5.26(1H, m), 4.38 (1H, d), 4.00(1H, m), 3.73(2H, d), 2.26(1H, m), 2.05(1H, m)
ESI-MS(ポジティブ・モード) m/z [帰属]
Found:334.0, Calc.:334.12 [(M+Na)+]
【0027】
真空乾燥した化合物4(327mg, 1.05mmol, F.W.311.33)をdry pyridine(4ml)に溶かしDMTr-Cl(500mg, 1.48mmol, F.W.338.83)を加えて常温で2時間撹拌した。さらにDMTr-Cl(198mg, 0.58mmol, F.W.338.83) を追加して終夜撹拌した。反応液を減圧留去し、残渣をジクロロメタンに溶かし飽和重層水で洗浄後、有機相を減圧留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(Silica gel 60, 70〜230μm,1:1:98=TEA:メタノール:クロロホルム)で精製し粉末状の化合物5を得た。Rf値 0.66[10%メタノール/クロロホルム]
【0028】
化合物5の収量および各種スペクトルは以下のとおりであった。
収量656mg 収率100%
1H NMR (300 MHz, CDCl3)δ 8.62(1H, m), 8.45(1H, d), 8.38(1H, s), 7.74 (1H, d), 7.61(1H, d), 7.45(1H, d), 7.35〜7.31(6H, m), 7.28〜7.16(4H, m), 6.81(4H, d), 5.28(1H, m), 4.43 (1H, s), 4.09(1H, s), 3.75(6H, m), 3.33(2H, d), 2.26(1H, m), 2.06(1H, m)
ESI-MS(ポジティブ・モード) m/z [帰属]
Found:637.0, Calc.:636.25 [(M+Na)+]
Found:653.0, Calc.:652.25 [(M+K)+]
【0029】
真空乾燥した化合物5(296mg, 0.48mmol, F.W.613.70)をdry CH2Cl2(2ml)に溶かし氷冷下でDIPEA(210μl, 1.21mmol, F.W.129.29)と(i-Pr)2NP(Cl)O(CH2)2CN(236μl, 1.06mmol, F.W.236.68)を順に加え常温で30分間撹拌した。その後dry MeOH(1ml)を加えさらに30分間撹拌した。飽和重層水で処理した酢酸エチルを加え飽和重層水で洗浄後減圧留去しシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Silica gel 60, 70〜230μm,1:1:98=TEA:メタノール:クロロホルム)で精製した後、ヘキサンによる再沈殿により粉末状の化合物6を得た。
【0030】
化合物6の収量および各種スペクトルは以下のとおりであった。
収量354mg 収率90%
1H NMR (300 MHz, CDCl3)δ 9.60(1H, d), 8.43(2H, d), 7.74(1H, t), 7.51 (3H, m,),
7.33(6H, d), 7.16(3H, m), 6.79(4H, d), 5.28(1H, m), 4.54 (1H, s), 4.25(1H, s),
3.85〜3.49(12H, m), 3.31(2H, m) , 2.61(1H, m), 2.45(1H, m), 1.30〜1.01(12H, m)
ESI-MS(ポジティブ・モード) m/z [帰属]
Found:836.0, Calc.:836.35 [(M+Na)+]
【0031】
<誘導体を含むオリゴヌクレオチドの合成>
化合物6を用い、DNA合成機を使用して配列番号1のポリヌクレオチドを合成した。
ODN#X10
5’-ACTGTTGGCXTGTACAATGG-3’ (配列番号1)
X=アクリドン誘導体(化合物4の塩基部分)
【0032】
ハイブリダイズの相手として、下記のオリゴヌクレオチドを合成した。
cODN#Y11 (Y = A, C, G, T, mC, U, S)
5’-CCATTGTACAYGCCAACAGT-3’ (配列番号2)
Y= A(アデニン),C(シトシン),G(グアニン),T(チミン), mC (5-メチルシトシン),U(ウラシル),またはS(塩基欠失;abasic)
【0033】
<ハイブリダイズ実験>
ODN#X10を紫外可視吸収(Abs260nm)に基づいて4μMの濃度になるようにリン酸緩衝液(最終濃度 0.01M Sodium phosphate(pH7), 0.1M NaCl, 0.1mM EDTA・2Na)で調製した。また、cODN#Y11 (Y = A, C, G, T, mC, U, S)を紫外可視吸収(Abs260nm)に基づいてそれぞれ4μMの濃度になるようにリン酸緩衝液(最終濃度0.01M Sodium phosphate(pH7), 0.1M NaCl, 0.1mM EDTA・2Na)で調製した。それぞれを35μlずつ混ぜ合わせ90℃の熱湯に漬け、さらにそれが室温になるまで放置した。その後、蛍光測定を25℃で行った。(PERKIN ELMER社製 LS 55 ルミネッセンス(蛍光・燐光)分光光度計, 励起波長382nm)
結果を図1に示した。それによると、蛍光強度は塩基対の種類によって異なり、X/A> X/T> X/U> X/mC> X/C> X/G> X/Sの順となった。
【0034】
<DNA二重鎖の熱力学パラメーターの測定>
ODN#F10 (F=X, A, C, G, T)とcODN#Y11 (Y= A, C, G, T, mC, U, S)を紫外可視吸収(Abs260nm)に基づいて50μMの濃度にそれぞれ調製した。ODN#F10とcODN#Y11を71μlずつ混ぜ90℃の熱湯に漬け、さらにそれが室温になるまで放置した。
そのDNA二重鎖を含む溶液をODNの全濃度が40, 12, 4, 3.5, 3, 2.5, 2, 1.5, 1μMになるように希釈し、それぞれの融解温度(Tm)の測定を行った。(測定温度80→20→80℃,降温・昇温速度0.5℃/min,測定波長260nm)
各ODN濃度におけるTmより熱力学パラメーター、ΔH(エンタルピー変化),ΔS(エントロピー変化),ΔG37 (37℃における自由エネルギー変化)を求めた(表1)。その結果、X(アクリドン誘導体)が対合する塩基が何であっても、二重鎖の安定性にはさほど影響がないことが分かった。つまり、蛍光スペクトル測定の条件下において、ODNは安定な二重鎖を形
成していると考えられる。
【0035】
ΔH,ΔS,ΔG37およびΔΔG*は、それぞれエンタルピー変化,エントロピー変化,37℃における自由エネルギー変化,およびの各々のDNA二重鎖の熱安定性とDNA二重鎖(F/Y =
C/G)の熱安定性との差である。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)〜(V)のいずれかで表されるヌクレオシド誘導体。
【化1】

式中、R1は水素、炭素数1〜5のアルキル基またはアシル基であり、R2およびR3は独立して、水素、オリゴマー化のためのリン原子を含む置換基、リン酸基または水酸基の保護基である。
【請求項2】
請求項1に記載のヌクレオシド誘導体のヌクレオシド残基を含むポリヌクレオチド。
【請求項3】
請求項1に記載のヌクレオシド誘導体を含む、ポリヌクレオチド合成用試薬。
【請求項4】
請求項1に記載のヌクレオシド誘導体を基質に用いて、ポリヌクレオチドを製造する方法。
【請求項5】
請求項2に記載のポリヌクレオチドが固定化された、ポリヌクレオチド固定化担体。
【請求項6】
多型部位又はメチル化部位を含む標的核酸に対し、該標的核酸に相補的な配列を有し、該多型部位又はメチル化部位に相当する位置に請求項1に記載のヌクレオシド誘導体のヌクレオシド残基を含むポリヌクレオチドをハイブリダイズさせ、ハイブリダイズ時の蛍光を測定することによって、多型部位の塩基の種類又はメチル化の有無を識別することを特徴とする、多型塩基またはメチル化の識別方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−222303(P2010−222303A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−72157(P2009−72157)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】