説明

新規ピロリジン化合物又はその塩、その製造法及びそれを用いるピロリン環を有するニトロン化合物の製造法

【課題】スピントラップ剤として優れた特性を有するニトロン化合物を容易な方法で収率よく、且つ廉価に製造することができる新規合成中間体およびその製造法の提供。
【解決手段】新規ピロリジン化合物、就中1-ヒドロキシ-2-(5,5-ジメチル-2-オキソ-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン-2-イル)-2-メチルピロリジン(CYPMPOH)が安定性にすぐれ、且つ、酸化反応により容易にニトロン化合物に導くことができることを見出し、本発明を完成するに至った。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピントラップ剤であるピロリン環を有するニトロン化合物の新規な合成中間体、その製造法及びそれを用いるピロリン環を有するニトロン化合物の製造法に関するものである。
スピントラップ剤は電子スピン共鳴測定法(ESRまたはEPRと称される。)の際に使用される試薬であり、これまでにもいくつかの化合物が知られているが、その中でも最近開発されたCYPMPOは物理化学的に安定で、室温保存性に優れ、低毒性のスピントラップ剤として注目されている。
【背景技術】
【0002】
電子スピン共鳴測定法に用いるスピントラップ剤としては、ピロリン環を有するニトロン化合物が知られている。その中で汎用されてきた化合物がDMPO(5,5-Dimethyl-1-pyrroline 1-oxide)およびDEPMPO(5-Diethoxyphosphoryl-5-methyl-1-pyrroline 1-oxide)である。
【0003】
しかし特許文献1および非特許文献1で報告されたスピントラップ剤CYPMPO[5-(2,2-Dimethyl-1,3-propoxycyclophosphoryl)-5-methyl-1-pyrroline 1-oxide]が、物理化学的に安定で、室温保存性に優れ、低毒性の結晶で取扱い易く、且つ、正確なラジカル測定を実施するために好適なシグナル強度を有し、スピンアダクトの半減期が長く、スピンアダクト由来の副生物を生じることもない等のスピントラップ剤として優れた特性を有しているので、最近になって研究者の間では重用されはじめている。また、このCYPMPOを製造するための合成中間体として、ピロリジン化合物が特許文献2に報告されている。
【0004】
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】再公表特許WO2007/043202(特願2007-539811)
【特許文献2】特許第3910989号公報(特開2006-193439)
【非特許文献1】M. Kamibayashi et al., Free Radical Research, Vol. 40(11), 1166-1172(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、上記特許文献1および非特許文献の発明に関与した研究者であり、実際にCYPMPOの合成を担当したが、合成研究の途上で下記のような問題点が内在していることを経験した。
(1)上記の特許文献2では下記の反応経路Aにおいて、ピロリジン化合物の合成原料として2-メチル-1-ピロリンが用いられているが、この試薬が高価であること。
(2)特許文献2では下記の反応経路Bによるピロリジン化合物の合成を明細書中に記述しているが、実施例の記載はない。実際に反応を実施したところ、極めて低収率でかつ低純度のピロリジン化合物が得られたのみで、実用的な製造法とはなりえないこと。
(3)特許文献1ではピロリジン化合物を適当な酸化剤で酸化してCYPMPOに導くことになっているが、実際に合成する上で有効な酸化剤はm-クロロ過安息香酸のみであること。
(4)反応系からm-クロロ安息香酸および過剰で未反応のm-クロロ過安息香酸をアルカリ洗浄で除去する際に、水溶性のCYPMPOの逸失が避けられないこと。
(5)上記の(4)の状況と関連するが、酸化剤が混在したCYPMPOの精製に多大の労力を必要とすること。
以上のような問題点が未解決のままでは、安定した品質のCYPMPOを製造し、継続的に市場に供給することは困難である。
【0007】
反応経路 A
【化2】

[式中、R1、は水素原子、カルボキシル基、炭素数1〜4のアルコキシカルボニル基もしくはカルバモイル基を表し、R、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。]
【0008】
反応経路 B
【化3】

[式中、R1、は水素原子、カルボキシル基、炭素数1〜4のアルコキシカルボニル基もしくはカルバモイル基を表し、R、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。]
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の問題点を解決するために、CYPMPOを反応経路AやBとは異なる別経路で合成法を開発するべく、鋭意研究を行った結果、一般式(III)で表わされる新規な環状フォスファイト置換基を有するピロリジン誘導体、なかでも、1-ヒドロキシ-2-(5,5-ジメチル-2-オキソ-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン-2-イル)-2-メチルピロリジン(CYPMPOH)を経由する方法が工業的製法として極めて有利であることをつきとめた。すなわち一般式(III)で表される新規ピロリジン化合物は安定性に優れ、且つ酸化反応により簡単にCYPMPOに導くことができる。この知見を基にさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、下記一般式(III)
【化4】

[式中、R1、は水素原子、カルボキシル基、炭素数1〜4のアルコキシカルボニル基もしくはカルバモイル基を表し、R、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。]
で示される新規ピロリジン化合物およびその塩を提供するものである。
また、この新規ピロリジン化合物を製造する方法およびその新規ピロリジン化合物から有用なニトロン化合物を製造する方法を提供するものである。
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
上記一般式(III)において、RおよびRで示されるアルコキシカルボニル基のアルキル基としては直鎖、又は分枝状の炭素数1〜4のアルキル基が挙げられ、通常はメチル基が好ましいが、脂溶性を高めるためには炭素数の多いアルキル基、例えばt-ブチル基などを選択することが出来る。化合物(III)に水溶性を付加するには、カルボキシル基またはその塩が適している。RおよびRで示される炭素数1〜4のアルキル基としては、たとえばメチル、エチル、プロピル、イソプロピルなど直鎖、又は分枝状のアルキル基が挙げられる。
【0011】
本発明の新規ピロリジン化合物(III)の合成に使用するのに好適な原料である環状フォスファイト(I)は、A. Zwierzak, Canadian Journal of Chemistry, Vol.45, 2501-2512 (1967); R. L. McConnell et al., Journal of Organic Chemistry, Vol.24, 630-635 (1959)などの文献記載の方法に準じて合成することができる。
【化5】

[式中、R、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。]
【0012】
以下に本発明の新規ピロリジン化合物(III)の合成に好適な環状フォスファイト(I)を例示する。
2-Oxo-1,3,2-dioxaphosphorinane
4-Methyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinane
4,6-Dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinane
5-Methyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinane
5,5-Dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinane
5-t-Butyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinane
【0013】
本発明の新規ピロリジン化合物(III)の合成に用いる好適な原料であるピロリンオキシド(II)は、文献記載の方法(H. A. Brandman et al., Journal of Organic Chemistry, Vol. 38, 2236-2238 (1973)) に準じて合成することができる。
【化6】

[式中、R1、は水素原子、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基もしくはカルバモイル基を表す。]
【0014】
本発明の新規ピロリジン化合物(III)を合成するには、環状フォスファイト(I)とピロリンオキシド(II)と反応させる。化合物(I)は、文献記載の合成法(A. Zwierzak, Canadian Journal of Chemistry, Vol. 45, 2501-2512 (1967) )に準じて合成することができる。すなわち、ジオール類と三塩化リンとの反応により、環状クロロフォスファイトを合成したのち、加水分解により環状フォスファイト(I)を得る方法である。この文献においては、この方法が5〜7員環の環状ヒドロキシフォスファイトの一般的な合成法になり得ると報告している。Zwierzakの報告以前にも環状ヒドロキシフォスファイトの合成法は数多く報告されているが、いずれも収率や純度等の点で必ずしも有利な方法とはいえないものであった。すなわち、2-アルコキシ-1,3,2-ジオキサフォスフォリナンを加水分解する方法(A. E. Arbuzov and V. M.Zoroastrova, Izv. Akad. Nauk SSSR Otd. Khim. Nauk 770(1952); 779(1952) and their preceding papers)あるいはジオール類、三塩化リンおよびアルコールを反応させて一挙に環状ヒドロキシフォスファイトを得る方法(R. L. McConnell et al., Journal of Organic Chemistry, Vol. 24, 630-635 (1959))などがあるが、Zwierzak法に比べて低収率、低純度の生成物しか得られないものである。
【0015】
本発明の新規ピロリジン化合物(III)の製造に使用するに好適なピロリンオキシド(II)の合成は、文献記載の合成法(H. A. Brandman et al., Journal of Organic Chemistry, Vol. 38, 2236-2238 (1973))に準じて実施することができる。たとえば、5-クロロ-2-ペンタノンにヒドロキシルアミン塩酸塩と炭酸カリウムを反応させることにより、簡便に1工程で合成できる。
2-メチルピロリンオキシドの合成法は上記の方法以外にも数多く報告されている。例えば、ニトロメタンをメチルビニルケトンへMichael付加して5-ニトロ-2-ペンタノンを得たのち、亜鉛で還元的に環化させる方法(N. Sankuratri et al., Journalof Organic Chemistry, Vol. 62, 1176-1178 (1997))、5-ニトロ-2-ペンタノンをパラジウム−炭素存在下水素またはギ酸アンモニウムで還元的に環化させる方法(M. J. Turner et al., Synthetic Communications, Vol. 16, 1377-1385(1986); R. Zschiesche et al., Liebigs Annalen der Chemie, 551-557(1989))、5-クロロ-2-ペンタノンオキシムを加熱して環化させる方法(R. Grigg et al., Tetrahedron Letters, Vol. 31, 1191-1194 (1990))などがある。
【0016】
本発明に係る新規ピロリジン化合物(III)の合成は、環状フォスファイト(I)、より具体的には2-オキソ-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン誘導体とピロリンオキシド(II)との反応により達成される。反応は無溶媒でも進行するが、使用する環状フォスファイト(I)の種類によっては反応液が固化することがあるので、反応を制御するためには溶媒を使用することが望ましい。
【0017】
前記の反応溶媒として、クロロホルム、ジクロロメタンなどのハロゲン系溶媒、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジメトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなどのアミド類、酢酸エチルなどのエステル類、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素系溶媒の中から選択して使用することが出来る。
【0018】
上記の反応はたとえばR. Huber et al., Helvetica Chimica Acta, Vol. 68, 1730 -1747(1985) に記載された方法を適用することによって効率的に実施することができる。この方法はジアルキルフォスファイトアニオンをニトロンへ求核付加させるものであり、本発明の反応では環状フォスファイト(I)にリチウムt−ブトキシドを作用させてアニオンを生成させ、このアニオンをピロリンオキシド(II)に求核付加させるものである。塩基としてはリチウムジイソプロピルアミド、リチウムt-ブトキシド、カリウムt−ブトキシドなどを用いることができる。
反応は触媒なしでも室温以下でゆるやかに進行する。18℃、無溶媒の条件では反応は2週間で完結した。トルエンを溶媒にして希釈すると、反応の進行はさらに遅くなる。反応を加速するために加熱を試みると、40℃以上で原料化合物が分解する結果となり、加熱することはできない。
【0019】
本発明による新規ピロリジン化合物(III)の好適な化合物例を以下に示すが、用途に応じて適宜選択することができる。本発明の化合物において、ピロリジン環で形成される3級アミン部における塩の例としては、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、ブロム水素酸塩、ヨウ化水素酸塩などの無機酸塩、シュウ酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、ピクリン酸塩などの有機酸塩が挙げられ、またカルボキシル基における塩の例としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などが挙げられ、これらは必要に応じて合成工程、精製工程、もしくは保存のために有利な塩を選択して使用することができる。
1-Hydroxy-2-(2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-2-methyl-pyrrolidine
1-Hydroxy-2-(5-methyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-2-methylpyrrolidine
1-Hydroxy-2-(5-tert-butyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-2-methylpyrrolidine
1-Hydroxy-2-(4,5-dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-2-methylpyrrolidine
1-Hydroxy-2-(4,6-dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-2-methylpyrrolidine
1-Hydroxy-2-(5,5-dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-2-methylpyrrolidine
1-Hydroxy-5-(5,5-dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-methylpyrrolidine-2-carboxylic acid
1-Hydroxy-5-(5,5-dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-methylpyrrolidine-2-carboxylic acid ethyl ester
1-Hydroxy-5-(5,5-dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-methylpyrrolidine-2-carboxylic acid tert-butyl ester
1-Hydroxy-5-(5,5-dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-methylpyrrolidine-2-carboxamide
1-Hydroxy-5-(5,5-dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-methylpyrrolidine-3-carboxylic acid
1-Hydroxy-5-(5,5-dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-methylpyrrolidine-3-carboxylic acid ethyl ester
1-Hydroxy-5-(5,5-dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-methylpyrrolidine-3-carboxylic acid tert-butyl ester
1-Hydroxy-5-(5,5-dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-methylpyrrolidine-3-carboxamide
1-Hydroxy-2-(5,5-dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-2,5-dimethylpyrrolidine
【0020】
本発明の新規ピロリジン化合物(III)を酸化してニトロン化合物(IV)へ導く反応については、文献記載の方法(S. Barbati et al., Synthesis, No. 12, 2036-2040(1999))を適用することによって達成することができる。
【0021】
【化7】

[式中、R1、は水素原子、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基もしくはカルバモイル基を表し、R、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。]
この文献記載の方法は、新規ピロリジン化合物(III)をアセトニトリルに溶解し、酢酸銅存在下に空気を30分間吹き込むものという簡単な操作であり、ニトロン化合物(IV)が高収率(90%以上)で得られる。上記とは別の文献(E. G. Janzen et al., Journal of Organic Chemistry, Vol. 60, 5441-5445 (1995))では、酢酸銅を29%アンモニア水に溶解したのち、新規ピロリジン化合物(III)のエタノール溶液に加えて空気を約10分間吹き込むという操作でニトロン化合物(IV)を得ている。このように酢酸銅存在下に空気酸化を行う方法は極めて簡便で、かつ短時間に完結するので製造法としては優れており、将来の工業化にも十分対応できると考えられる。
【0022】
新規ピロリジン化合物(III)をニトロン化合物(IV)へ酸化する方法については、上記以外にも例えばN-メチルモルフォリン N-オキシド/テトラプロピルアンモニウムパールテネート(NMO/TRAP)を用いる方法(A. Goti et al., Tetrahedron Letters, Vol.35, 6571-6574 (1994))がある。その他にもm-クロロ過安息香酸、過安息香酸、過トリフルオロ酢酸、過酢酸などの過酸、酸化ビスマス、無水クロム酸、酸化鉛、酸化マンガン、酸化水銀、酸化ルテニウム、酸化銀、過マンガン酸カリウムなどの金属酸化物を用いても酸化反応を達成することができる。酸化水銀を用いる反応例がGotiらの文献(A.Goti et al.,Journal of Organic Chemistry, Vol.62, 3119-3125 (1997)andtheir preceding papers)に報告されている。
上記反応に用いる溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン系溶媒、ベンゼン、クロルベンゼン、トルエン、酢酸エチル、水、テトラヒドロフラン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメトキシエタン、アセトニトリルなどの中から選択し、原料化合物と溶媒の性質に適した酸化法を選択することができる。
反応実施後は、溶媒抽出法、カラムクロマトグラフィー、再結晶などにより精製して目的とするニトロン化合物(IV)を得ることができる。
【0023】
以下に本発明の新規ピロリジン化合物(III)を用いて合成が可能なスピントラップ剤として有用なニトロン化合物(IV)を例示する。
5-(2-Oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-methyl-1-pyrroline 1-oxide
5-(5-Methyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-methyl-1-pyrroline 1-oxide
5-(5-tert-Butyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-methyl-1-pyrroline 1-oxide
5-(4,5-Dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-methyl-1-pyrroline 1-oxide
5-(4,6-Dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-methyl-1-pyrroline 1-oxide
5-(5,5-Dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-methyl-1-pyrroline 1-oxide
5-(5,5-Dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-methyl-1-pyrroline-2-carboxylic acid 1-oxide
5-(5,5-Dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-methyl-1-pyrroline-2-carboxylic acid ethyl ester 1-oxide
5-(5,5-Dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-methyl-1-pyrroline-2-carboxylic acid tert-butyl ester 1-oxide
5-(5,5-Dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-methyl-1-pyrroline-2-carboxamide 1-oxide
5-(5,5-Dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-methyl-1-pyrroline-3-carboxylic acid 1-oxide
5-(5,5-Dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-methyl-1-pyrroline-3-carboxylic acid ethyl ester 1-oxide
5-(5,5-Dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-methyl-1-pyrroline-3-carboxylic acid tert-butyl ester 1-oxide
5-(5,5-Dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-5-methyl-1-pyrroline-3-carboxamide 1-oxide
5-(5,5-Dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-2,5-dimethyl-1-pyrroline 1-oxide
【発明の効果】
【0024】
一般式(III)で表わされる新規ピロリジン化合物、なかでも、1-ヒドロキシ-2-(5,5-ジメチル-2-オキソ-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン-2-イル)-2-メチルピロリジン(CYPMPOH)は、安定性にすぐれ、且つ、酸化反応により簡単に、高収率で目的物CYPMPOに導くことができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、実施例や参考例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
〔参考例1〕
2-クロロ-5,5-ジメチル-1,3,2-ジオキサフォスフォリナンの合成
【0026】
【化8】

2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール100g(960mmol)のトルエン溶液(200mL)に三塩化リン132g(960 mmol)を氷冷下滴下した。滴下終了後、得られた反応混合物を減圧蒸留(108-111℃/75mmHg)により精製し、2-クロロ-5,5-ジメチル-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン127.4g(756mmol、収率78.8%)を刺激臭のある無色透明液体として得た。
1H-NMR(CDCl3, 270MHZ):δ0.83(3H, s), 1.27(3H, s), 3.57(2H, dd, A part of AB, JAB=10.4Hz, J=9.9 Hz), 4.32(2H, dd, B part of AB, JAB=10.4Hz, J=5.8Hz).
31P-NMR(CDCl3, 109.25MHZ):δ150.54.
〔参考例2〕
2-ヒドロキシ-5,5-ジメチル-1,3,2-ジオキサフォスフォリナンの合成
【0027】
【化9】

2-クロロ-5,5-ジメチル-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン64.69g(384mmol)のトルエン溶液(130mL)に水7.11g(395mmol)を氷冷下に滴下した。室温まで昇温し1時間撹拌した後に塩化水素とトルエンを減圧留去した。得られた粗製物(59.66g)を蒸留(136-142℃/2mmHg)にて精製して、2-ヒドロキシ-5,5-ジメチル-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン 51.62g(344mmol, 収率89.6%)を無色蝋状固体として得た。
1H-NMR(CDCl3, 270MHZ):δ0.95(3H, s), 1.27(3H, s), 3.85-4.15 (4H, m), 6.91(1H, d, J=339.0 Hz).
13C-NMR(CDCl3, 67.80MHZ):δ20.8, 21.7, 32.2 , 76.0.
31P-NMR(CDCl3, 109.25MHZ):δ6.99.
〔参考例3〕
2-メチル-1-ピロリン 1-オキシド(2-MPO)の合成
【0028】
【化10】

5-クロロペンタン-2-オン50.0g(415mmol)のエタノール溶液(250mL)に塩化ヒドロキシルアンモニウム31.7g(456mmol)と炭酸カリウム28.6g(207mmol)、水(250mL)を加え、10分間加熱還流した。反応終了後、炭酸水素ナトリウム36.0g(429mmol)を加え、減圧濃縮した。得られた反応混合物(300g)をダイヤイオンHP-20(展開溶媒;水)にて精製し、目的の分画を濃縮した。得られた懸濁液(170g)から不溶物をろ別し、ろ液を塩化メチレンで抽出、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮して油状の2-メチル-1-ピロリン1-オキサイド 32.4g(収率;78.7%)を得た。
IRスペクトル(neat, cm-1):1620.2, 1453.3, 1394.5, 1263.4, 1219.0, 644.2.
1H-NMR(CDCl3, 270 MHZ):δ2.00-2.24 (2H, m, 4-CH2), 2.05(3H, s, 2-CH3), 2.70-2.80(2H, m, 3-CH2), 3.95-4.10(2H, m, 5-CH2).
13C-NMR(CDCl3, 67.80MHZ):δ12.5, 16.4, 32.9, 61.8, 144.7.
【実施例1】
【0029】
1-ヒドロキシ-2-(5,5-ジメチル-2-オキソ-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン-2-イル)-2-メチルピロリジン(CYPMPOH)の合成
【0030】
【化11】

5,5-ジメチル-2-オキソ-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン22.89g(152.5mmol)と2-メチル-1-ピロリン1-オキシド15.12g(152.5mmol)からなる混合物を18℃にて14日間反応させた。得られた反応混合物を酢酸エチル、テトラヒドロフランおよび2-プロパノールで洗浄し、減圧乾燥して、CYPMPOHの白色結晶を得た。収量15.61g(収率41.1%)。
【0031】
元素分析(C10H20NO4P Mol. Wt. :249.25):
Calc. C, 48.19; H, 8.09; N, 5.62
Found C, 48.16; H, 8.16; N, 5.58
高分解能ESIマススペクトル:Calcd for C10H20NO4P+H+, 250.255; Found,
250.1203.
融点:119.8℃(分解)
IRスペクトル(KBr, cm-1):3277.2, 2974.4, 2952.2, 2877.0, 2831.6, 1485.3, 1478.5,1468.9, 1448.6, 1368.6, 1253.8, 1225.8, 1200.7, 1172.7, 1158.3, 1141.9, 1129.4, 1064.8, 1025.2, 1019.4, 990.5, 952.9, 924.9, 896.9, 841.0, 828.5, 770.6, 710.8, 615.3, 538.2. 1H-NMR(CDCl3, 270 MHz): δ0.95(3H, s), 1.20(3H, s), 1.44(3H, d, J=16.3 Hz), 1.68-1.92(3H, m), 2.36-2.56(1H, m), 3.00-3.14(1H, m), 3.32-3.46(1H, m), 3.87(2H, ddd, A part of AB, JAB=9.4 Hz, J=16.6, 1.6 Hz), 4.31(2H, dd, B part of AB, JAB=9.4 Hz, J=9.6 Hz), 5.43(1H, s). 13C-NMR(CDCl3, 67.80 MHz):δ16.1, 19.4, 21.5, 21.9, 32.5, 32.8, 55.1, 65.5, 74.7. 31P-NMR(CDCl3, 109.25 MHz):δ30.09.
【実施例2】
【0032】
1-ヒドロキシ-2-(5,5-ジメチル-2-オキソ-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン-2-イル)-2-メチルピロリジン(CYPMPOH)の合成:
【0033】
【化12】

5,5-ジメチル-2-オキソ-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン41.80g(278.5mmol, 1.2eq)のテトラヒドロフラン(58.5mL)溶液を-47℃に冷却し、これにリチウムt-ブトキシド3.72g(46.4mmol,0.2eq)を加え、-49〜-40℃で10分間反応させた。反応混合物を-62℃まで冷却した後に、2-メチル-1-ピロリン1-オキシド23.00g(232.1mmol, 1.0eq)を滴下した。滴下に用いた滴下漏斗はテトラヒドロフラン(8.4mL)で洗いこみを行った。反応混合物は攪拌しながら6.5時間かけて0℃まで昇温させ、テトラヒドロフラン(66.9mL)を加え、10分間攪拌した。生じた白色の沈殿を濾取し、テトラヒドロフラン(33mL)で2回洗浄し、減圧乾燥させて、CYPMPOHの白色結晶を得た。収量39.59g(収率68.44%)。
【実施例3】
【0034】
5-(5,5-ジメチル-2-オキソ-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン-2-イル)-5-メチル-1-ピロリン1-オキサイド(CYPMPO)の合成:
【化13】

1-ヒドロキシ-2-(5,5-ジメチル-2-オキソ-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン-2-イル)-2-メチルピロリジン3.00g(12mmol)のエタノール溶液(20mL)に酢酸銅(II)30mg(0.165mmol)の25%アンモニア(90μL)、エタノール溶液(10mL)を加え、反応溶液に空気を吹き込んだ。反応終了後、溶媒を減圧留去し、得られた混合物をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒;ジクロロメタン:エタノール=9:1)、続いてダイヤイオンHP-20(展開溶媒;水)で精製し、CYPMPOを白色結晶として得た。収量2.34g(収率;78.6%)。
【0035】
IRスペクトル(KBr, cm-1):2956.9, 1573.9, 1473.6, 1465.9, 1249.9, 1060.9, 1020.3, 991.4, 831.3, 792.7. 1H-NMR(CDCl3, 270 MHz):δ0.91 (3H, s), 1.29(3H, s), 1.77(3H, d, J=15.0 Hz),2.20(1H, dddd, J=4.0, 9.5, 13.9, 19.8 Hz), 2.60-2.70(1H, m), 2.71-2.82(1H, m), 3.01(1H, dddd, J=4.0, 9.5, 13.9, 16.1 Hz), 3.91-4.01(2H, m), 4.22(1H, dd, J=3.8, 10.3 Hz), 4.79(1H, dd, J=3.7, 10.4 Hz), 6.94(1H, q, J=2.8 Hz). 13C-NMR(CDCl3, 67.80 MHz):δ20.4, 20.6, 22.0, 25.7, 30.9, 32.6, 75.3, 77.5, 79.3, 135.0. 31P-NMR(CDCl3, 109.25 MHz):δ14.5.
【産業上の利用可能性】
【0036】
スピントラップ剤は電子スピン共鳴測定法(ESRまたはEPRと称される。)の際に使用される試薬であり、これまでにもいくつかの化合物が知られているが、その中でも最近開発されたCYPMPOは物理化学的に安定で、室温保存性に優れ、低毒性のスピントラップ剤として注目されている。
一般式(III)で表わされる新規ピロリジン化合物、なかでも1-ヒドロキシ-2-(5,5-ジメチル-2-オキソ-1,3,2-ジオキサフォスフォリナン-2-イル)-2-メチルピロリジン(CYPMPOH)は安定性にすぐれ、且つ酸化反応により容易にCYPMPOに導くことができるCYPMPOの有用な中間体である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(III)
【化14】

[式中、R、Rは水素原子、カルボキシル基、炭素数1〜4のアルコキシカルボニル基又はカルバモイル基を表し、R、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。]
で示される新規ピロリジン化合物またはその塩。
【請求項2】
一般式(III)
【化15】

[式中、R,Rは水素原子、カルボキシル基、炭素数1〜4のアルコキシカルボニル基又はカルバモイル基を表し、R、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。]
で示される新規ピロリジン化合物又はその塩を酸化反応に賦する一般式(IV)
【化16】

[式中、R、R2、及びRは前記と同義である。]
で示されるニトロン化合物の製造法。
【請求項3】
一般式(I)
【化17】

[式中、R及びRは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。]
で示される環状フォスファイトまたはその塩を、式(II)
【化18】

[式中、R、Rは水素原子、カルボキシル基、炭素数1〜4のアルコキシカルボニル基又はカルバモイル基を表す。]
で示されるピロリンオキシドと反応させる一般式(III)
【化19】

[式中、R、R、R及びRは前記と同義を表す。]
で示される新規ピロリジン化合物又はその塩の製造法。

【公開番号】特開2011−98910(P2011−98910A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254754(P2009−254754)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(595115994)三國製薬工業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】