説明

新規ベンゾ[c]フェナンスレン化合物及びこれを有する有機発光素子

【課題】 新規なベンゾ[c]フェナンスレン化合物及び発光効率が高く駆動耐久性の優れた有機発光素子を提供する。
【解決手段】 下記一般式[1]で示される新規ベンゾ[c]フェナンスレン化合物を提供する。
【化1】


〔一般式[1]において、R乃至R10はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、炭化水素芳香環基及び複素芳香環基から選ばれる。nは1乃至3の整数である。nが2以上の場合、異なるベンゾ[c]フェナンスレン環が有するR同士は同じでも異なっていてもよい。異なるベンゾ[c]フェナンスレン環が有するR乃至R10同士も同様である。Arはn価の置換基であって、炭化水素芳香環基または複素芳香環基を表す。但しnが2の場合、Arは単結合であってもよい。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ベンゾ[c]フェナンスレン化合物及びこれを有する有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は、一対の電極である陽極と陰極との間に蛍光発光有機化合物又は燐光発光有機化合物を有する発光層が配置されている素子である。
【0003】
そして、有機発光素子の発光効率や耐久性に改善の余地がある。
【0004】
特許文献1では、主に燐光発光層のホスト化合物として、下記に示すH03に代表されるベンゾ[c]フェナンスレン環の5位に芳香族置換基を有するベンゾ[c]フェナンスレン誘導体が開示されている。
【0005】
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−130142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されている化合物では、ベンゾ[c]フェナンスレン環と置換芳香環との二面角が大きいので、化合物全体の平面性が低く電子輸送性が低い。
【0008】
本発明では、前記二面角が小さいので電子輸送性が高い新規なベンゾ[c]フェナンスレン化合物を提供することを目的とする。さらにそれを有する有機発光素子によって、発光効率及び駆動耐久性の優れた有機発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
よって本発明は、下記一般式[1]で示されることを特徴とするベンゾ[c]フェナンスレン化合物を提供する。
【0010】
【化2】

【0011】
〔一般式[1]において、R乃至R10はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、炭化水素芳香環基及び複素芳香環基から選ばれる。nは1乃至3の整数である。nが2以上の場合、異なるベンゾ[c]フェナンスレン環が有するR同士は同じでも異なっていてもよい。異なるベンゾ[c]フェナンスレン環が有するR乃至R10同士も同様である。Arはn価の置換基であって、炭化水素芳香環基または複素芳香環基を表す。但しnが2の場合、Arは単結合であってもよい。〕
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電子輸送性が高い新規なベンゾ[c]フェナンスレン化合物を提供できる。そしてそれを有する発光効率が高く駆動耐久性の優れた有機発光素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】有機発光素子と有機発光素子と接続するスイッチング素子とを示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るベンゾ[c]フェナンスレン化合物は、下記一般式[1]で示される。
【0015】
【化3】

【0016】
〔一般式[1]において、R乃至R10はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、炭化水素芳香環基及び複素芳香環基から選ばれる。nは1乃至3の整数である。nが2以上の場合、異なるベンゾ[c]フェナンスレン環が有するR同士は同じでも異なっていてもよい。異なるベンゾ[c]フェナンスレン環が有するR乃至R10同士も同様である。Arはn価の置換基であって、炭化水素芳香環基または複素芳香環基を表す。但しnが2の場合、Arは単結合であってもよい。〕
【0017】
Arが単結合であってもよいとは、ベンゾ[c]フェナンスレン同士が直接結合することを意味する。これに該当する化合物は後述する例示化合物の中の301乃至304が該当する。
【0018】
ベンゾ[c]フェナンスレンのArと結合する結合手は2種類存在し、ベンゾ[c]フェナンスレンの2位および3位である。このうち、Arと結合しない結合手は水素原子と結合する。
【0019】
アルキル基の具体例は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基である。
【0020】
アルコキシ基の具体例は、メトキシ基、エトキシ基、iso−プロポキシ基、tert−ブトキシ基、アリロキシ基、ベンジルオキシ基である。
【0021】
炭化水素芳香環基の具体例は、フェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、フェナンスレニル基、アントラセニル基、フルオランテニル基、クリセニル基、ピレニル基、テトラセニル基、ナフタセニル基、トリフェニレニル基、ベンゾフルオランテニル基、ペリレニル基である。
【0022】
複素芳香環基の具体例は、ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、キノリル基、イソキノリル基、アザフルオレニル基、ジアザフルオレニル基、ナフチリジニル基、キノキサリニル基、カルバゾリル基、フェナントリジニル基、フェナントロリニル基、アクリジニル基、フェナジニル基、チエニル基、ベンゾチエニル基、ジベンゾチエニル基、フリル基、ベンゾフリル基、イソベンゾフリル基、ジベンゾフリル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基である。
【0023】
上記のアルキル基、アルコキシ基、炭化水素芳香環基及び複素芳香環基はさらに置換基を有してもよいものを含む。その置換基とはメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、フルオレニル基等の炭化水素芳香環基、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基等の複素芳香環基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ジアニソリルアミノ基等の置換アミノ基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基、ナフトキシ基等のアリールオキシ基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子、水酸基、シアノ基、ニトロ基である。
【0024】
次に、本発明に係るベンゾ[c]フェナンスレン化合物が有機発光素子の発光効率の改善に有用であることについて説明する。
【0025】
有機発光素子において発光効率を高くするには、発光層に含まれる発光中心材料そのものの発光効率を高めることはもちろんだが、発光層の陰極側に隣接する電子輸送層の性能を向上させることも必要となる。具体的には、以下の4つの性能の向上が素子の高発光効率化につながる。
(1)化学的安定性
(2)発光層へと電子を輸送する(電子輸送性能)
(3)発光層からの励起子の抜けを抑制する(エキシトンブロック性能)
(4)発光層からの正孔の漏れを抑制する(ホールブロック性能)
一般に、電子輸送層に用いられる電子輸送材料として、アントラセン環やピレン環のような炭化水素芳香環を主骨格とする有機化合物が挙げられる。このような炭化水素芳香環を主骨格とする電子輸送材料は、安定性の高い炭化水素のみを含む主骨格部位に電子輸送を主に担うLUMOが存在するので、電子輸送層に用いた場合の化学的安定性が非常に高い。
【0026】
このような炭化水素芳香環としては、電子輸送性能の向上に大きく寄与する広いπ共役面を有する炭化水素縮合多環が好ましい。その一つとしてベンゾ[c]フェナンスレン環に着目し、それを主骨格として有するベンゾ[c]フェナンスレン化合物を本発明者は考えた。
【0027】
ベンゾ[c]フェナンスレン化合物の電子輸送性能をより向上させるためには、LUMOを構成するπ共役をベンゾ[c]フェナンスレン環を主として分子全体に広げる必要がある。そのためには、ベンゾ[c]フェナンスレン環と置換芳香環との結合軸回りのねじれを小さくし、π共役を切断しないことが必要である。即ち、ベンゾ[c]フェナンスレン環と置換芳香環との二面角を小さくすることが必要である。
【0028】
そのような考えから、ベンゾ[c]フェナンスレン環と置換芳香環との二面角を、ベンゾ[c]フェナンスレン環の各置換位置で比較する。下記に示すベンゾ[c]フェナンスレン環の各置換位置に、置換芳香環の一例としてフェニル基が置換した化合物について、分子軌道計算(B3LYP/6−31G)によって、ベンゾ[c]フェナンスレン環とベンゼン環との二面角を求めた結果を表1に示す。なお1−フェニル置換体は、12位の水素原子とフェニル基との立体的な干渉が避けられず、安定な構造は得られない。
【0029】
【化4】

【0030】
【表1】

【0031】
この結果から、表中の2−フェニル置換体及び3―フェニル置換体の二面角は表中の他の置換位置よりも小さいことがわかる。従って、少なくとも2位または3位に置換芳香環を有している本発明に係るベンゾ[c]フェナンスレン化合物も、ベンゾ[c]フェナンスレン環と置換芳香環との二面角が小さい。よって本発明に係るベンゾ[c]フェナンスレン化合物は、π共役が芳香環置換基まで大きく広がるので、優れた電子輸送性能を有する。
【0032】
さらに、3―フェニル置換体の方が2―フェニル置換体よりも二面角がより小さく、全ての置換位置の中で最小となる。従って、3位の置換位置はπ共役の広がりが最大となり、電子輸送性能が最も優れたベンゾ[c]フェナンスレン化合物になる。これは2位の置換体の場合、置換フェニル基のα位の水素原子とベンゾ[c]フェナンスレン環の12位の水素原子との間にわずかな立体反発が存在するが、3位置換体では十分に距離が離れているのでそのような立体反発がないからである。
【0033】
さらに、有機発光素子の発光効率を高めるには、電子輸送層のエキシトンブロック性能を向上させる必要がある。エキシトンブロック性能を向上させるには、電子輸送層に用いる化合物のアモルファス膜状態でのHOMO準位とLUMO準位のエネルギー差(以下、エネルギーギャップ)を、発光層のエネルギーギャップよりも大きくすればよい。
【0034】
平面性が高くて且つ広い縮合多環、例えばピレン環を分子中に含む化合物は、アモルファス膜状態において分子間での縮合多環同士の相互作用による重なり合い(スタック)が顕著で、エネルギーギャップが小さくなる。従ってそのような化合物を電子輸送層に用いると、そのエキシトンブロック性能は低くなる。
【0035】
一方、本発明に係るベンゾ[c]フェナンスレン化合物は、アモルファス膜状態において大きなエネルギーギャップを有し、エキシトンブロック性能の高い電子輸送層材料である。これは、ベンゾ[c]フェナンスレン環の低平面性により、アモルファス膜状態での分子間スタックが抑制されるからである。この低平面性は、ベンゾ[c]フェナンスレンの1位と12位の水素原子の立体反発によって環自体が歪み、平面性が失われていることに由来する。
【0036】
またさらに、有機発光素子の発光効率を高めるには、電子輸送層のホールブロック性能を向上させる必要ある。ホールブロック性能を向上させるには、発光層材料よりもイオン化ポテンシャルの大きい(HOMO準位の深い)化合物を電子輸送層に用いればよく、HOMO準位が深い程その効果は大きい。
【0037】
ここでHOMO準位、LUMO準位が深いとは真空準位からの差が大きいことを示し、HOMO準位、LUMO準位が浅いとは真空準位からの差が小さいことを示す。
【0038】
本発明に係るベンゾ[c]フェナンスレン化合物は、ピレン化合物やアントラセン化合物と比較してHOMO準位が深く、ホールブロック性能の高い電子輸送材料である。これは、HOMOが主として存在するベンゾ[c]フェナンスレン環自体が、ピレン環やアントラセン環に比べてイオン化ポテンシャルが大きい芳香環だからである。
【0039】
以上のように、本発明に係るベンゾ[c]フェナンスレン化合物は、化学的安定性が高く、電子輸送性能が高く、エキシトンブロック性能が高く、ホールブロック性能の高い化合物である。従ってこれを電子輸送層に用いると、発光効率の高い有機発光素子を得ることができる。
【0040】
本発明に係るベンゾ[c]フェナンスレン化合物のうち下記一般式[2]及び[3]で示される化合物は、ベンゾ[c]フェナンスレン環と置換芳香環の二面角がより小さく、電子輸送性能が高いので特に好ましい。
【0041】
【化5】

【0042】
【化6】

【0043】
式[2]及び[3]において置換基Arは、式[1]中のArと同一の置換基である。
【0044】
本発明に係るベンゾ[c]フェナンスレン化合物は、有機発光素子の発光層に使用してもよい。
【0045】
発光層は本発明に係るベンゾ[c]フェナンスレン化合物のみから構成されていてもよいし、あるいは本発明に係るベンゾ[c]フェナンスレン化合物はホスト材料でもゲスト材料でもよい。ここでホスト材料とは発光層の中で最も重量比が大きい化合物であり、ゲスト材料とは重量比がホスト材料よりも小さい化合物である。ここでゲスト材料とは、発光層内で主たる発光を担う化合物である。これに対してホスト材料とは、発光層内でゲスト材料の周囲にマトリックスとして存在する化合物であって、主にキャリアの輸送、及びゲスト材料への励起エネルギー供与を担う化合物である。
【0046】
ホスト材料に対するゲスト材料の濃度は、発光層の構成材料の全体量を基準として、0.01wt%以上50wt%以下であり、好ましくは、0.1wt%以上20wt%以下である。さらに好ましくは、濃度消光を防ぐために、ゲスト材料の濃度は0・01wt%以上10wt%以下であることが望ましい。またゲスト材料は、ホスト材料からなる層全体に均一に含まれてもよいし、濃度勾配を有して含まれてもよいし、特定の領域に部分的に含ませてゲスト材料を含まないホスト材料層の領域を設けてもよい。
【0047】
本発明に係るベンゾ[c]フェナンスレン化合物は、前述した良好な電子輸送性能に加えて、主骨格が炭化水素で構成されるためにホール輸送性能も兼ね備えており、両キャリア輸送性の発光層ホスト材料として使用することができる。特に、本発明に係るベンゾ[c]フェナンスレン化合物は、そのエネルギーギャップ値から青色発光層のホスト材料として用いることが好ましい。
【0048】
さらに、前述した分子間スタックの抑制効果は、発光層内でのゲスト材料とのエキサイプレックス生成やホスト材料同士のエキサイマー生成も抑えるので、有機発光素子の発光効率の向上に効果がある。
【0049】
本発明に係るベンゾ[c]フェナンスレン化合物はHOMO準位が深いが、比較的浅い化合物は発光層ホスト材料として用いることが好ましい。なぜなら、ホール輸送層と発光層ホスト材料とのHOMO準位の差で生じるホール注入障壁が小さくなり、ホール注入性が向上して素子の発光効率を高くすることができるからである。本発明に係るベンゾ[c]フェナンスレン化合物のうち、ベンゾ[c]フェナンスレン環8位に芳香環置換基を有する化合物は、無置換のものと比較してHOMO準位が浅くなるので、発光層ホストとして用いることがより好ましい。
【0050】
以下、本発明に係るベンゾ[c]フェナンスレン化合物の具体的な構造式を例示する。
【0051】
【化7】

【0052】
【化8】

【0053】
【化9】

【0054】
【化10】

【0055】
【化11】

【0056】
上記化合物101乃至123(以下、100群と記す)は、本発明の化合物のうち、ベンゾ[c]フェナンスレンの3位に一つの炭化水素芳香環基を有する化合物の具体例である。これらの化合物は、電子輸送性能が高く、エネルギーギャップが大きく、HOMO準位が深いので、電子輸送層として用いることが好ましい。
【0057】
上記化合物201乃至220(以下、200群と記す)は、本発明の化合物のうち、ベンゾ[c]フェナンスレンの2位に一つの炭化水素芳香環基を有する化合物の具体例である。これらの化合物も、100群と同様に電子輸送性能が高く、エネルギーギャップが大きく、HOMO準位が深いので、電子輸送層として用いることが好ましい。
【0058】
上記化合物301乃至316(以下、300群と記す)は、本発明の化合物のうち、分子中にベンゾ[c]フェナンスレン環を二つ以上有する化合物の具体例である。300群の化合物は電子輸送性能が高く、HOMO準位が深いので、電子輸送層として用いることが好ましい。さらに、100群及び200群の化合物に比べてエネルギーギャップがより小さいので、発光層ホストとして用いる方がより好ましい。
【0059】
上記化合物401乃至422(以下、400群と記す)は、本発明の化合物のうち、ベンゾ[c]フェナンスレン環が二つ以上の炭化水素芳香環基を有する化合物の具体例である。400群の化合物の中でも、ベンゾ[c]フェナンスレンの8位に芳香環置換基を有する化合物は、他の例示化合物よりもHOMO準位が浅くなり、ホール注入性が高くなるので、発光層ホストとして用いることが好ましい。
【0060】
上記化合物501乃至518(以下、500群と記す)は、本発明の化合物のうち、ベンゾ[c]フェナンスレン環が複素芳香環基を有する化合物の具体例である。500群の化合物は、炭化水素芳香環置換基のみを有する化合物に比べてHOMO準位がより深いので、電子輸送層に用いることが好ましい。
【0061】
次に、本実施の形態に係る式[2]、[3]で示される3−アリール置換ベンゾ[c]フェナンスレン化合物、3−アリーレン置換ベンゾ[c]フェナンスレン化合物及びの合成方法について説明する。
【0062】
3−アリール置換ベンゾ[c]フェナンスレン化合物は、下記式[4]に示される鈴木−宮浦カップリング反応によって3−Cl原料または3−Bpin原料から合成することができる。
【0063】
【化12】

【0064】
〔式中、Arは置換あるいは無置換の炭化水素芳香環基または置換あるいは無置換の複素芳香環基を表す。〕
【0065】
同様に3−アリーレン置換ベンゾ[c]フェナンスレン化合物も、下記式[5]に示すように3−Cl原料または3−Bpin原料から合成することができる。
【0066】
【化13】

【0067】
〔式中、Arは置換あるいは無置換の炭化水素芳香環基または置換あるいは無置換の複素芳香環基を表す。〕
【0068】
式[4]及び[5]において、Arとして所望のアリール基を導入することによって、所望のArが置換したベンゾ[c]フェナンスレン化合物を合成することができる。この際、式中のハロゲン化合物またはボロン酸化合物として、所望のArに対応するハロゲン化合物またはボロン酸化合物を反応に用いればよい。
【0069】
なお式中の最終化合物であるベンゾ[c]フェナンスレン化合物に、アルキル基、アルコキシ基、炭化水素芳香環基、または複素芳香環基をベンゾ[c]フェナンスレン環の3位以外に導入する場合は、式中の3−Cl原料または3−Bpin原料をそれらの置換基で置換しておけばよい。
【0070】
さらに、2−アリール置換ベンゾ[c]フェナンスレン化合物及び2−アリーレン置換ベンゾ[c]フェナンスレン化合物も同様の鈴木−宮浦カップリング反応により合成することができる。すなわち、式[4]及び[5]おいて、合成原料に2−クロロベンゾ[c]フェナンスレンを用いて合成すればよい。
【0071】
次に、本発明に係る有機発光素子について詳細に説明する。
【0072】
本発明に係る有機発光素子は、一対の電極と、前記一対の電極間に配置される有機化合物層を有する有機発光素子において、前記有機化合物層が一般式[1]で示されるベンゾ[c]フェナンスレン化合物を含有する。
【0073】
以下に本発明に係るベンゾ[c]フェナンスレン化合物を有する有機発光素子の例を示す。
【0074】
本発明に係る有機発光素子は、一対の電極としての一例である陽極と陰極との間に発光層を設けた構成の他に、陽極と発光層との間にホール輸送層やホール注入層を有してよく、発光層と陰極との間に電子輸送層や電子注入層やホール・エキシトンブロッキング層等を有してよい。本発明に係る化合物を有する発光素子の有機化合物層の層構成はこれらに限られない。
【0075】
本発明に係る有機発光素子は、有機化合物層が複数層で構成されてもよい。この複数層としてはホール注入層、ホール輸送層、発光層、ホールブロッキング層、エキシトンブロッキング層、電子輸送層、電子注入層等が挙げられる。これらの層を適宜組み合わせて用いることができる。
【0076】
本発明に係るベンゾ[c]フェナンスレン化合物は、電子輸送層に用いられることが好ましい。
【0077】
また、本発明に係るベンゾ[c]フェナンスレン化合物は、電子輸送層以外の各層、即ちホール注入層、ホール輸送層、発光層、ホールブロッキング層、エキシトンブロッキング層、電子注入層の何れに用いてもよい。中でも本発明に係るベンゾ[c]フェナンスレン化合物がホスト材料として発光層に設けられることが好ましい。また本発明に係るベンゾ[c]フェナンスレン化合物が電子注入層に設けられる場合、陰極からの電子注入性を向上させる目的で、アルカリ金属等の還元性ドーパントが電子注入層にドープされていてもよい。
【0078】
ここで、本発明に係る有機発光素子は、本発明に係るベンゾ[c]フェナンスレン化合物以外にも、必要に応じて従来公知の低分子系及び高分子系のホール輸送性化合物、発光性化合物あるいは電子輸送性化合物等を一緒に使用することができる。
【0079】
以下にこれらの化合物例を挙げる。
【0080】
ホール注入輸送性材料としては、陽極からのホールの注入が容易で、注入されたホールを発光層へと輸送することができるように、ホール移動度が高い材料が好ましい。ホール注入輸送性能を有する低分子及び高分子系材料としては、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられる。
【0081】
主に発光機能に関わる発光材料としては、縮環化合物(例えばフルオレン誘導体、ナフタレン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、テトラセン誘導体、アントラセン誘導体、ルブレン誘導体、フルオランテン誘導体、ベンゾフルオランテン誘導体等)、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、スチルベン誘導体、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム等の有機アルミニウム錯体、有機ベリリウム錯体、及びポリ(フェニレンビニレン)誘導体、ポリ(フルオレン)誘導体、ポリ(フェニレン)誘導体等の高分子誘導体、および燐光発光性のイリジウム錯体、白金錯体等が挙げられる。
【0082】
電子注入輸送性材料としては、陰極からの電子の注入が容易で、注入された電子を発光層へ輸送することができるものから任意に選ぶことができ、ホール注入輸送性材料のホール移動度とのバランス等を考慮して選択される。電子注入輸送性能を有する材料としては、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機アルミニウム錯体等が挙げられる。
【0083】
陽極材料としては、仕事関数がなるべく大きなものがよい。例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、タングステン等の金属単体あるいはこれらを組み合わせた合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物が使用できる。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性ポリマーも使用できる。これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を併用して使用してもよい。また、陽極は一層で構成されていてもよく、複数の層で構成されていてもよい。
【0084】
一方、陰極材料としては、仕事関数の小さなものがよい。例えば、リチウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム、チタニウム、マンガン、銀、鉛、クロム等の金属単体が挙げられる。あるいはこれら金属単体を組み合わせた合金も使用することができる。例えば、マグネシウム−銀、アルミニウム−リチウム、アルミニウム−マグネシウム等が使用できる。酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を併用して使用してもよい。また、陰極は一層で構成されていてもよく、複数の層で構成されていてもよい。
【0085】
本発明の有機発光素子で使用される基板としては、特に限定するものではないが、金属製基板、セラミックス製基板等の不透明性基板、ガラス、石英、プラスチックシート等の透明性基板が用いられる。また、基板にカラーフィルター膜、蛍光色変換フィルター膜、誘電体反射膜等を用いて発色光をコントロールすることも可能である。
【0086】
尚、作製した素子に対して、酸素や水分等との接触を防止する目的で保護層あるいは封止層を設けることもできる。保護層としては、ダイヤモンド薄膜、金属酸化物、金属窒化物等の無機材料膜、フッ素樹脂、ポリエチレン、シリコン樹脂、ポリスチレン樹脂等の高分子膜、さらには、光硬化性樹脂等が挙げられる。また、ガラス、気体不透過性フィルム、金属等で被覆し、適当な封止樹脂により素子自体をパッケージングすることもできる。
【0087】
また、素子の光取り出し方向に関しては、ボトムエミッション構成(基板側から光を取り出す構成)及び、トップエミッション(基板の反対側から光を取り出す構成)のいずれも可能である。
【0088】
本発明に係る有機発光素子において、本発明に係るベンゾ[c]フェナンスレン化合物が含まれる層及びその他の有機化合物からなる層は、以下に示す方法により形成される。具体的には真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング、プラズマあるいは、適当な溶媒に溶解させて塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)により有機化合物層を形成する。ここで真空蒸着法や溶液塗布法等によって層を形成すると、結晶化等が起こりにくく経時安定性に優れる。また塗布法で成膜する場合は、適当なバインダー樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
【0089】
本発明に係る有機発光素子は、表示装置や照明装置に用いることができる。他にも電子写真方式の画像形成装置の露光光源や液晶表示装置のバックライトなどがある。
【0090】
表示装置は本発明に係る有機発光素子を表示部に有する。この表示部とは複数の画素を有しており、この画素は本発明に係る有機発光素子とスイッチング素子の一例としてTFT素子とを有し、この有機発光素子の陽極または陰極とTFT素子のドレイン電極またはソース電極とが接続されている。表示装置はPC等の画像表示装置として用いることができる。
【0091】
表示装置はデジタルカメラやデジタルビデオカメラ等の撮像装置の表示部に用いられてもよい。撮像装置は表示部と撮像するためのレンズ等の撮像光学系を有する撮像部とを有する。表示装置は撮像装置の表示部に用いられるだけでなく、インクジェットプリンタの表示部に用いられてもよい。
【0092】
表示装置は、エリアCCD、リニアCCD、メモリーカード等からの情報を入力する画像入力部を有する画像入力装置であってもよい。また、撮像装置やインクジェットプリンタが有する表示部として、外部から入力された画像情報に基づいて画像を表示する画像出力機能と操作パネルとして画像への加工情報を入力する入力機能との両方を有していてもよい。また表示装置はマルチファンクションプリンタの表示部に用いられてもよい。次に、本発明に係る有機発光素子を使用した表示装置について説明する。
【0093】
図1は、本発明に係る有機発光素子と、有機発光素子の発光と非発光をスイッチングするスイッチング素子の1例であるTFT素子とを示した断面模式図である。本図では有機発光素子とTFT素子との組が2組図示されている。構造の詳細を以下に説明する。
【0094】
図1の表示装置は、ガラス等の基板1とその上部にTFT素子又は有機化合物層を保護するための防湿膜2が設けられている。また符号3は金属のゲート電極3である。符号4はゲート絶縁膜4であり、5は半導体層である。
【0095】
TFT素子8は半導体層5とドレイン電極6とソース電極7とを有している。TFT素子8の上部には絶縁膜9が設けられている。コンタクトホール10を介して有機発光素子の陽極11とソース電極7とが接続されている。表示装置はこの構成に限られず、陽極または陰極のうちいずれか一方とTFT素子ソース電極またはドレイン電極のいずれか一方とが接続されていればよい。
【0096】
有機化合物層12は本図では多層の有機化合物層を1つの層の如く図示をしている。陰極13の上には有機発光素子の劣化を抑制するための第一の保護層14や第二の保護層15が設けられている。
【0097】
本実施形態に係る表示装置においてスイッチング素子に特に制限はなく、単結晶シリコン基板やMIM素子、a−Si型の素子等を用いてもよい。
【実施例】
【0098】
<実施例1>(例示化合物113の合成)
(1)3−Cl原料の合成
【0099】
【化14】

【0100】
以下に示す試薬、溶媒を200mLナスフラスコに投入した。
1−ブロモ−2−ナフトアルデヒド:2.00g(8.51mmol)
4−クロロ−2−ホルミルフェニルボロン酸:1.65g(8.93mmol)
テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0):0.29g(0.26mmol)
トルエン:60mL
エタノール:30mL
10wt%炭酸ナトリウム水溶液:30mL
この反応溶液を、窒素下、撹拌しながら4時間半加熱還流させた。反応終了後、反応溶液を水で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させた後に濃縮し粗生成物を得た。次にこの粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン/ヘプタン=8/1)で精製し、オイル状の1−(4−クロロ−2−ホルミルフェニル)−2−ナフトアルデヒドを1.95g(収率78%)得た。
【0101】
続いて、滴下漏斗を備えた300mL三口フラスコに、以下に示す試薬、溶媒を投入した。
1−(4−クロロ−2−ホルミルフェニル)−2−ナフトアルデヒド:1.95g(6.63mmol)
酢酸:115mL
この反応溶液を、窒素下、撹拌しながら加熱還流させ、そこへ、滴下漏斗から、酢酸10mLにヒドラジン1水和物0.44g(8.61mmol)を混合させた溶液を5分間かけて滴下し、滴下終了後、さらに3時間加熱還流を続けた。反応終了後、酢酸溶媒をエバポレーションによって留去して濃縮してから、ジエチルエーテルにて抽出後、水で洗浄後し、硫酸ナトリウム上で乾燥させた後にさらに濃縮して粗生成物を得た。次にこの粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘプタン/クロロホルム=4/1)で精製した後、メタノールにて再結晶を行い、3−Cl原料(3−クロロベンゾ[c]フェナンスレン)を1.24g(収率71%)得た。
【0102】
また、H−NMR測定により、得られた化合物の同定を行った。
H−NMR(400MHz、CDCl)]
δ 9.05(d,1H),9.03(d,1H),8.03(dd,1H),8.00(dd,1H),7.96−7.75(m,4H),7.75−7.55(m,3H).
【0103】
(2)3−Bpin原料の合成
【0104】
【化15】

【0105】
以下に示す試薬、溶媒を50mL三口フラスコに投入した。
3−Cl原料:713mg(2.71mmol)
ビス(ピナコラト)ジボロン:830g(3.27mmol)
ビス(ジベンジリデンアセトン) パラジウム(0):153mg(0.27mmol)
トリシクロヘキシルホスフィン:196mg(0.67mmol)
酢酸カリウム:800mg(8.15mmol)
1,4−ジオキサン:21mL
この反応溶液を、窒素下、90℃で12時間撹拌を行った。反応終了後、反応溶液を水で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させた後に濃縮し粗生成物を得た。次にこの粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘプタン/トルエン=1/1)で精製し、3−Bpin原料を306mg(収率32%)得た。
【0106】
(3)例示化合物113の合成
【0107】
【化16】

【0108】
以下に示す試薬、溶媒を50mLナスフラスコに投入した。
3−Bpin原料:263mg(0.74mmol)
ハロゲン化合物X−1:311mg(0.78mmol)
テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0):43mg(37μmol)
トルエン:10mL
エタノール:5mL
10wt%炭酸ナトリウム水溶液:5mL
この反応溶液を、窒素下、撹拌しながら5時間加熱還流させた。反応終了後、反応溶液に水及びエタノールを加えて攪拌し、析出した生成物をろ過して灰色粉の粗生成物を得た。次にこの粗生成物を加熱したトルエンに溶解させてから、短いシリカゲルカラムに通して残存触媒を除去してから、トルエン/ヘプタン混合溶媒、続いてクロロホルム/エタノール混合溶媒で2回再結晶を行って精製し、得られた結晶を150℃で真空乾燥後、10−Pa、330℃の条件下で昇華精製を行い、高純度の例示化合物113を122mg(収率30%)得た。
【0109】
得られた化合物の同定を行った結果を以下に示す。
[MALDI−TOF−MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)]
実測値:m/z=546.21 計算値:C4330=546.23
H−NMR(400MHz、CDCl)]
δ 9.26(d,1H),9.20(d,1H),8.40(s,1H),8.32(s,1H),8.23−7.54(m,17H),7.54−7.30(m,3H),1.60(s,6H).
【0110】
また例示化合物113について、以下の方法でエネルギーギャップの測定を行った。
【0111】
例示化合物113をガラス基板上に加熱蒸着し、膜厚20nmの蒸着薄膜を得た。この蒸着薄膜について、紫外可視分光光度計(日本分光株式会社製V−560)を用いて吸光スペクトルを測定した。得られた吸光スペクトルの吸収端を求めると407nmであり、例示化合物113のエネルギーギャップは3.05eVであった。
【0112】
さらに例示化合物113について、以下の方法でイオン化ポテンシャルの測定を行った。
【0113】
例示化合物113をガラス基板上に加熱蒸着し、膜厚20nmの蒸着薄膜を得た。この蒸着薄膜について、光電子分光装置AC−2(理研計器株式会社製)を用いてイオン化ポテンシャルを測定した。測定の結果、例示化合物113のイオン化ポテンシャルは5.82eVであった。
【0114】
<実施例2>(例示化合物118の合成)
【0115】
【化17】

【0116】
以下に示す試薬、溶媒を50mLナスフラスコに投入した。
3−Cl原料:400mg(1.52mmol)
ボロン酸化合物BO−1:819mg(1.60mmol)
酢酸パラジウム(II):34mg(152μmol)
ジシクロヘキシル(2’,6’−ジメトキシビフェニル−2−イル)ホスフィン:156mg(381μmol)
りん酸カリウム:0.97g(4.57mmol)
トルエン:20mL
水:0.5mL
この反応溶液を、窒素下において撹拌しながら100℃で4時間半加熱した。反応終了後、反応液に水を加えて攪拌し、析出した生成物をろ過して灰色粉の粗生成物を得た。次にこの粗生成物を加熱したトルエンに溶解させてから、短いシリカゲルカラムに通して残存触媒を除去してから、トルエン/オクタン混合溶媒で再結晶を行って精製し、得られた結晶を150℃で真空乾燥後、10−Pa、345℃の条件下で昇華精製を行い、高純度の例示化合物118を518mg(収率56%)得た。
【0117】
得られた化合物の同定を行った結果を以下に示す。
[MALDI−TOF−MS]
実測値:m/z=612.35 計算値:C4836=612.28
H−NMR(400MHz、CDCl)]
δ 9.24(d,1H),9.19(d,1H),8.32(s,1H),8.15−7.95(m,3H),7.95−7.53(m,15H),7.53−7.28(m,3H),1.68(s,6H),1.58(s,6H).
【0118】
また例示化合物118について、実施例1−(3)と同様の方法でエネルギーギャップの測定を行ったところ、吸光スペクトルの吸収端は409nmであり、例示化合物118のエネルギーギャップは3.03eVであった。
【0119】
さらに例示化合物118について、実施例1−(3)と同様の方法でイオン化ポテンシャルの測定を行ったところ、例示化合物118のイオン化ポテンシャルは5.80eVであった。
【0120】
<実施例3>(例示化合物310の合成)
【0121】
【化18】

【0122】
以下に示す試薬、溶媒を50mLナスフラスコに投入した。
3−Cl原料:500mg(1.90mmol)
ボロン酸化合物BO−2:425mg(0.95mmol)
酢酸パラジウム(II):21mg(95μmol)
ジシクロヘキシル(2’,6’−ジメトキシビフェニル−2−イル)ホスフィン:98mg(238μmol)
りん酸カリウム:1.01g(4.75mmol)
トルエン:25mL
水:0.6mL
この反応溶液を、窒素下において撹拌しながら100℃で5時間加熱した。反応終了後、反応液に水を加えて攪拌し、析出した生成物をろ過して灰色粉の粗生成物を得た。次にこの粗生成物を加熱したクロロベンゼンに溶解させてから、短いシリカゲルカラムに通して残存触媒を除去してから、クロロベンゼン/オクタン混合溶媒で2回再結晶を行って精製し、得られた結晶を150℃で真空乾燥後、10−Pa、385℃の条件下で昇華精製を行い、高純度の例示化合物310を241mg(収率39%)得た。
【0123】
得られた化合物の同定を行った結果を以下に示す。
[MALDI−TOF−MS]
実測値:m/z=646.39 計算値:C5134=646.27
H−NMR(400MHz、CDCl)]
δ 9.25(d,2H),9.20(d,2H),8.33(d,2H),8.15−8.00(m,6H),8.00−7.82(m,12H),7.73(t,2H),7.66(t,2H),1.72(s,6H).
また例示化合物310について、実施例1−(3)と同様の方法でエネルギーギャップの測定を行ったところ、吸光スペクトルの吸収端は416nmであり、例示化合物310のエネルギーギャップは2.98eVであった。
【0124】
さらに例示化合物310について、実施例1−(3)と同様の方法でイオン化ポテンシャルの測定を行ったところ、例示化合物310のイオン化ポテンシャルは5.82eVであった。
【0125】
<比較例1>(エネルギーギャップの比較)
下記に示す、比較化合物H01及びH02について、実施例1−(3)と同様の方法でエネルギーギャップ及びイオン化ポテンシャルの測定を行った。実施例1乃至3の結果と合わせて、結果を表2に示す。
【0126】
【化19】

【0127】
【表2】

【0128】
<実施例4>
本実施例では、基板上に順次陽極/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/陰極が設けられた構成の有機発光素子において、電子輸送層がイオン化ポテンシャルの異なる二層で構成される素子を、以下に示す方法で作製した。
【0129】
ガラス基板上に、陽極としてITOをスパッタ法にて膜厚120nmで成膜したものを透明導電性支持基板(ITO基板)として使用した。このITO基板上に、以下に示す有機化合物層及び電極層を、10−Paの真空チャンバー内で抵抗加熱による真空蒸着によって連続的に成膜した。このとき対向する電極面積は3mmになるように作製した。
ホール輸送層(50nm) HTL−1
発光層(30nm) ホスト:BH−1、ゲスト:BD−1(重量比 5%)
電子輸送層1(10nm) 例示化合物113
電子輸送層2(30nm) ETL−1
金属電極層1(0.5nm) LiF
金属電極層2(100nm) Al
【0130】
【化20】

【0131】
次に、有機発光素子が、水分の吸着によって素子劣化が起こらないように、乾燥空気雰囲気中で保護用ガラス板をかぶせ、アクリル樹脂系接着材で封止した。以上のようにして有機発光素子を得た。
【0132】
得られた有機発光素子について、ITO電極を正極、Al電極を負極にして、4.5Vの印加電圧をかけたところ、発光効率が9.3cd/Aで、輝度1000cd/mの青色発光が観測された。またこの素子において、CIE色度座標は、(x,y)=(0.16,0.25)であった。さらに、この素子を100mA/cmの定電流密度を保ちながら100時間耐久駆動させると、初期輝度からの輝度減少率は14%であった。
【0133】
<実施例5>
実施例4において、電子輸送層1を、例示化合物113に代えて、例示化合物118を使用した他は、実施例4と同様の方法で素子を作製した。また得られた素子について実施例4と同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0134】
<実施例6>
実施例4において、電子輸送層1を、例示化合物113に代えて、例示化合物310を使用した他は、実施例4と同様の方法で素子を作製した。また得られた素子について実施例4と同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0135】
<比較例2>
実施例4において、電子輸送層1を、例示化合物113に代えて、比較化合物H02を使用した他は、実施例4と同様の方法で素子を作製した。また得られた素子について実施例4と同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0136】
比較例2は輝度減少率が34%であり、20%を越えており輝度劣化が大きい。それに対して本発明に係る有機発光素子はそれぞれ20%を下回っているので輝度劣化が小さい。
【0137】
【表3】

【0138】
<実施例7>
本実施例では、基板上に順次陽極/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/陰極が設けられた構成の有機発光素子において、電子輸送層がイオン化ポテンシャルの異なる二層で構成される素子を、以下に示す方法で作製した。
【0139】
実施例4と同様の方法で作製したITO基板上に、以下に示す有機化合物層及び電極層を、10−Paの真空チャンバー内で抵抗加熱による真空蒸着によって連続的に成膜した。このとき対向する電極面積は3mmになるように作製した。
ホール輸送層(25nm) HTL−1
発光層(30nm) ホスト:例示化合物113、ゲスト:BD−2(重量比 5%)
電子輸送層1(10nm) ETL−2
電子輸送層2(25nm) ETL−1
金属電極層1(0.5nm) LiF
金属電極層2(100nm) Al
【0140】
【化21】

【0141】
次に、有機発光素子が、水分の吸着によって素子劣化が起こらないように、乾燥空気雰囲気中で保護用ガラス板をかぶせ、アクリル樹脂系接着材で封止した。以上のようにして有機発光素子を得た。
【0142】
得られた有機発光素子について、ITO電極を正極、Al電極を負極にして、4.7Vの印加電圧をかけたところ、発光効率が8.0cd/Aで、輝度1000cd/mの青色発光が観測された。またこの素子において、CIE色度座標は、(x,y)=(0.16,0.26)であった。さらに、この素子を50mA/cmの定電流密度を保ちながら100時間耐久駆動させると、初期輝度からの輝度減少率は15%であった。
【0143】
<実施例8>
実施例7において、発光層のホストを、例示化合物113に代えて、例示化合物118を使用した他は、実施例7と同様の方法で素子を作製した。また得られた素子について実施例7と同様に評価を行った。結果を表4に示す。
【0144】
<実施例9>
実施例7において、発光層のホストを、例示化合物113に代えて、例示化合物310を使用した他は、実施例7と同様の方法で素子を作製した。また得られた素子について実施例7と同様に評価を行った。結果を表4に示す。
【0145】
<比較例3>
実施例7において、発光層のホストを、例示化合物113に代えて、比較化合物H01を使用した他は、実施例7と同様の方法で素子を作製した。また得られた素子について実施例7と同様に評価を行った。結果を表4に示す。
【0146】
比較例3は輝度減少率が33%であり、30%を越えており輝度劣化が大きい。それに対して本発明に係る有機発光素子はそれぞれ30%を下回っているので輝度劣化が小さい。
【0147】
【表4】

【0148】
<実施例10>(例示化合物412の合成)
(1)BrCl原料の合成
【0149】
【化22】

【0150】
以下に示す試薬、溶媒を300mLナスフラスコに投入した。
1−ブロモ−4−ヨードナフタレン:5.00g(15.0mmol)
4−クロロ−2−ホルミルフェニルボロン酸:2.64g(14.3mmol)
テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0):0.50g(0.43mmol)
トルエン:100mL
エタノール:50mL
10wt%炭酸ナトリウム水溶液:50mL
【0151】
この反応溶液を、窒素下、撹拌しながら2時間半加熱還流させた。反応終了後、反応溶液を水で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させた後に濃縮し粗生成物を得た。次にこの粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘプタン/クロロホルム=3/1)で精製し、オイル状の1−ブロモ−4−(4−クロロ−2−ホルミルフェニル)ナフタレンを3.90g(収率79%)得た。
【0152】
続いて、窒素置換した300mLナスフラスコに、室温にて(メトキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド9.67g(28.2mmol)と脱水ジエチルエーテル48mLを投入して攪拌し、続いてtert−ブトキシカリウムの1MTHF溶液を28.2mL(28.2mmol)加えて1時間攪拌した。続いて93mLのTHF溶媒に1−ブロモ−4−(4−クロロ−2−ホルミルフェニル)ナフタレンを3.90g(11.3mmol)溶解させた溶液を反応液に加え、室温にてさらに4時間攪拌した後、水を加えて反応を停止した。次に、分液操作にて水相を酢酸エチルで3回抽出後、有機相を水で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させた後に濃縮し粗生成物を得た。次にこの粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘプタン/クロロホルム=20/1)で精製し、1−ブロモ−4−(4−クロロ−2−メトキシエテニルフェニル)ナフタレンを4.17g(収率99%)得た。
【0153】
続いて、窒素置換した300mLナスフラスコに、室温にて1−ブロモ−4−(4−クロロ−2−メトキシエテニルフェニル)ナフタレンを4.17g(11.2mmol)、脱水ジクロロメタン63mLを加えて攪拌し、メタンスルホン酸を1.2mL加え、室温にて4時間攪拌した後、メタノールを加えて反応を停止した。次に、分液操作にて有機相を水で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させた後に濃縮して得られる粗生成物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘプタン)で精製して、BrCl原料(3−クロロ−8−ブロモベンゾ[c]フェナンスレン)を334mg(収率9%)得た。
【0154】
(2)8−PhBpin体の合成
【0155】
【化23】

【0156】
以下に示す試薬、溶媒を50mL三口フラスコに投入した。
BrCl原料:260mg(0.76mmol)
フェニルボロン酸:97mg(0.80mmol)
テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0):53mg(46μmol)
トルエン:4mL
エタノール:1mL
20wt%炭酸ナトリウム水溶液:2mL
この反応溶液を、窒素下、撹拌しながら90℃で4時間加熱した。冷却後、水を加えてトルエン抽出を行い、有機相を水で2回洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥させた後に濃縮し粗生成物を得た。この粗生成物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム/ヘプタン=1/9)にて精製後、メタノールで洗浄を行い8−PhCl体の白色固体を180mg(収率:69%)得た。
【0157】
続いて、以下に示す試薬、溶媒を50mLナスフラスコに投入した。
8−PhCl体:180mg(0.53mmol)
ビス(ピナコラト)ジボロン:0.20g(0.79mmol)
トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0):48mg(53μmol)
トリシクロヘキシルホスフィン:37mg(0.13mmol)
酢酸カリウム:77mg(0.79mmol)
1,4−ジオキサン:5mL
この反応溶液を、窒素下、撹拌しながら95℃で3時間加熱した。冷却後、水を加えてトルエンで抽出を行い、有機相を水で洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥させた後に濃縮し粗生成物を得た。次にこの粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム/ヘプタン=1/1)で精製した後、メタノールで洗浄して8−PhBpin体の白色固体を68mg(収率:30%)得た。
【0158】
(3)例示化合物412の合成
【0159】
【化24】

【0160】
以下に示す試薬、溶媒を50mLナスフラスコに投入した。
8−PhBpin体:68mg(0.16mmol)
OTf−1:70mg(0.15mmol)
テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0):17mg(15μmol)
トルエン:2mL
エタノール:1mL
20wt%炭酸ナトリウム水溶液:1mL
この反応溶液を、窒素下、撹拌しながら90℃で2時間加熱した。冷却後、トルエンで抽出を行い、有機相を水で洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥させた後に濃縮して粗生成物を得た。次にこの粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム/ヘプタン=1/4)で精製した後、メタノールで洗浄を行って例示化合物412の白色固体を68mg(収率:69%)得た。
【0161】
得られた化合物の同定を行った結果を以下に示す。
【0162】
H−NMR(500MHz、CDCl)]
δ 9.26(t,2H,J=9.5Hz),8.41(s,1H),8.33(s,1H),8.19(s,1H),8.14(d,1H,J=8.5Hz),8.04−8.11(m,5H),7.90(d,2H,J=8.5Hz),7.86(d,1H,J=8.0Hz),7.83(s,2H),7.72−7.80(m,3H),7.64(d,2H,J=8.0Hz),7.55−7.61(m,3H),7.47−7.51(m,2H),7.34−7.40(m,2H),1.60(s,6H).
【0163】
また例示化合物412について、実施例1−(3)と同様の方法でエネルギーギャップの測定を行ったところ、吸光スペクトルの吸収端は409nmであり、例示化合物412のエネルギーギャップは3.03eVであった。
【0164】
さらに例示化合物412について、実施例1−(3)と同様の方法でイオン化ポテンシャルの測定を行ったところ、例示化合物412のイオン化ポテンシャルは5.63eVであった。
【符号の説明】
【0165】
8 TFT素子
11 陽極
12 有機化合物層
13 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[1]で示されることを特徴とするベンゾ[c]フェナンスレン化合物。
【化1】


〔一般式[1]において、R乃至R10はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、炭化水素芳香環基及び複素芳香環基から選ばれる。nは1乃至3の整数である。nが2以上の場合、異なるベンゾ[c]フェナンスレン環が有するR同士は同じでも異なっていてもよい。異なるベンゾ[c]フェナンスレン環が有するR乃至R10同士も同様である。Arはn価の置換基であって、炭化水素芳香環基または複素芳香環基を表す。但しnが2の場合、Arは単結合であってもよい。〕
【請求項2】
下記一般式[2]で示されることを特徴とする請求項1に記載のベンゾ[c]フェナンスレン化合物。
【化2】

【請求項3】
下記一般式[3]で示されることを特徴とする請求項1に記載のベンゾ[c]フェナンスレン化合物。
【化3】

【請求項4】
一対の電極と前記一対の電極の間に配置される有機化合物層とを有し、前記有機化合物層は請求項1乃至3のいずれか一項に記載のベンゾ[c]フェナンスレン化合物を有することを特徴とする有機発光素子。
【請求項5】
前記有機化合物層は電子輸送層であり、前記電子輸送層は発光層と陰極との間に配置されることを特徴とする請求項4に記載の有機発光素子。
【請求項6】
前記有機化合物層は発光層であることを特徴とする請求項4に記載の有機発光素子。
【請求項7】
複数の画素を有し、前記画素は請求項4乃至6のいずれか一項に記載の有機発光素子とスイッチング素子とを有し、前記有機発光素子が有する一対の電極のいずれか1つの電極と前記スイッチング素子のドレイン電極またはソース電極のいずれか1つの電極とが接続されることを特徴とする表示装置。
【請求項8】
表示部と画像を読み取るための画像入力部とを有し、前記表示部は複数の画素を有し、前記画素は請求項4乃至6のいずれか一項に記載の有機発光素子とスイッチング素子とを有し、前記有機発光素子が有する一対の電極のいずれか1つの電極と前記スイッチング素子のドレイン電極またはソース電極のいずれか1つの電極とが接続されることを特徴とする画像入力装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−116691(P2011−116691A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274965(P2009−274965)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】