説明

新規乳酸菌株とその用途。

【課題】耐酸性に優れた新規乳酸菌であり、新規乳酸菌を含む動植物資化に優れた微生物製剤及び新規乳酸菌を含む微生物製剤を用いた飼料及び肥料の生産方法を提供する。
【解決手段】新規乳酸菌株、ラクトバチルス・プランタルム(Lacutobacillusplantarum)ST2号株(NITEP−509)、及びラクトバチルス・プランタルム(Lacutobacillusplantarum)ST11号株(NITEP−510)。該菌株は、強い耐酸性を有し、これらを含む微生物製剤を家畜飼料の生産に用いた場合、得られた試料は胃液により分解されず腸にまで至り、優れた整腸機能を有する。また、いずれもすぐれた乳酸発酵能を有し、サトイモのような植物素材のサイレージ化や、動植物食品残渣を含む生ごみの肥料化、飼料化が容易で、高い資化効率を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規乳酸株とその用途、特に新規乳酸株を含む微生物製剤と、それを用いたサイレージや肥料の製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
BSEや鳥インフルエンザなどの人畜共通感染症が大きな社会問題になっていることから、酪農・畜産業に対する消費者の目は厳しいものがある。このような中、食の安心・安全に直接結びつく家畜の健康管理は重要な課題となっている。腸内細菌叢はその代謝活性や免疫調節能などを通じて宿主の健康に重要な役割を果たしていることが知られているが、近年、腸内細菌叢を改善するプレバイオティクス(有用菌の増殖を促進したり、その活性を高める難消化性物質)やプロバイオティクス(腸内細菌叢のバランスを改善する生菌添加物)が注目を集めている。
【0003】
発酵基質の素材として、さといもサイレージを用いた原料のさといも(学名:Colocasia antiquorum SCHOTT)は、種芋の頂芽が伸長してその基部が肥大し親芋となり、親芋の側芽が伸長するにつれてその基部が子芋となり、同様にして子芋から孫芋、孫芋からひ孫芋ができる。子芋用種の親芋は不味で一部は種芋や家畜飼料への転用が図られているが、各生産地で大量の親芋が食用とならず廃棄されているのが現状である。
【0004】
従来、サイレージ等の乳酸発酵を主体とする発酵飼料は、気密容器内で乳酸菌により嫌気的に発酵されるものであった。例えば、芋類の残渣(ポテトパルプ)を乳酸生成能の高い糸状菌により発酵させたサイレージ及びその調製方法(特許文献1参照)や食用として利用されず廃棄されているマッシュルーム菌柄をサイレージ添加物とし、家畜飼料とするもの(特許文献2参照)が提案されている。
【0005】
動物性素材の中で、魚の残渣は魚粉やフィッシュミール等の飼料が一般的で飼料のタンパク源として用いられている。しかし、魚の水分の除去にコストがかかり、給与量が多いと肉質等に魚臭が移る。また、生の魚の残渣の処理方法では、ギ酸などの有機酸の添加により、材料のpHを4.2以下に調節して貯蔵する方法で行われている。
【0006】
植物性素材の中で、とうふの残渣であるおからはタンパク質含量が高く、栄養価の高いものであるが、おから特有の臭いやバサバサした食感が食味品質を低下させる。また、おからの発酵飼料では、乳酸菌を含む液に浸漬し、嫌気性で発酵させるリキッドタイプの発酵飼料がある。
【0007】
動物性と植物性の混合素材の中で、食品残渣は、ご飯や肉・魚等が混合して出てくる為、それの分別にはコストがかかる。これまでの飼料化への処理方法は、乾燥化とリキッドフィーディング化が行われてきた。
【0008】
植物性素材の稲のサイレージに於いては、新規乳酸菌株を用いて発酵されるものであった。例えば、飼料用稲をロールベールサイレージに調製する際、飼料用稲1t当たり500gのサイレージ調製用L型乳酸菌製剤を添加した調製方法(特許文献3参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−265118号公報
【特許文献2】特開平7−147908号公報
【特許文献3】特開2002-202215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、植物からのエタノールの転換によって、今まで安価に得られたトウモロコシや大麦類が高騰してきた折、これに変わるタンパク源を確保する必要に迫られている。そこで、これまで安易に利用できなかった動物性素材等に着目した。
【0011】
動物性素材として、魚の残渣の処理は、水分の除去に設備投資がかかりコスト高になる。また、ギ酸等の有機酸添加もプラントを有し飼料コストの削減にはなかなか結びつかない。
【0012】
このことは、植物性素材のおからや混合素材の食品残渣も同様である。 従って、これらの問題を解決する技術が求められる。
更に、腸内細菌叢はその代謝活性や免疫調節能などを通じて宿主の健康に重要な役割を果たしている。このことから耐酸性のある乳酸菌を用いたサイレージを調製する技術を開発し、飼料自給率の向上を目指すことである。
【0013】
本発明は、耐酸性に優れた新規乳酸菌を提供することを目的としている。本発明は、新規乳酸菌を含む動植物資化に優れた微生物製剤を提供することを目的としている。本発明は、新規乳酸菌を含む微生物製剤を用いた飼料及び肥料の生産方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、さといもサイレージの微生物菌種構成とさといもサイレージを発酵基質にした動物性素材及び植物性素材の混合・発酵飼料の評価とさといもサイレージ調製における優良乳酸菌のスクリーニングを行なった。そこでさといもサイレージから乳酸菌を分離し、生理的・糖分解性状並びにサイレージの調製適正試験を実施し、優良菌株を選別した。さといもを原料にしたサイレージを調製する際選別した乳酸菌を添加してさといもサイレージを調製し、サイレージ発酵過程における有機酸組成の変化及び発酵損失を追及した。
本発明は、かかる知見にもとづくもので、下記の各項を特徴としている。
(項1)耐酸性と乳酸発酵能に優れた乳酸菌、ラクトバチルス・プランタルム(Lacutobacillus plantarum)ST2号株(NITE P−509)。
(項2)耐酸性と乳酸発酵能に優れた乳酸菌、ラクトバチルス・プランタルム(Lacutobacillus plantarum)ST11号株(NITE P−510)。
(項3)乳酸菌がpH3.0で生存し得る請求項1のラクトバチルス・プランタルム(Lacutobacillus plantarum)ST2号株(NITE P−509)。
(項4)乳酸菌がpH3.0で生存し得る請求項2のラクトバチルス・プランタルム(Lacutobacillus plantarum)ST11号株(NITE P−510)。
(項5)項1及び/又は2記載の乳酸菌を含有する微生物製剤。
(項6)項5の微生物製剤をサイレージ材料に添加するサイレージの生産方法。
(項7)項5の微生物製剤を肥料材料に添加する肥料の生産方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の新規乳酸菌株、ラクトバチルス・プランタルム(Lacutobacillus plantarum)ST2号株、及びラクトバチルス・プランタルム(Lacutobacillus plantarum)ST11号株は、以下の効果を奏する。
(1)新規乳酸菌株は、pH3の強酸下でも、前者で100%、後者でも80%以上が生存可能な強い耐酸性を有する。したがって、これらを含む微生物製剤を家畜飼料の生産に用いた場合、得られた試料は胃液により分解されず腸にまで至り、優れた整腸機能が期待できる。
(2)新規乳酸菌株は、いずれもすぐれた乳酸発酵能を有する。したがって、サトイモのような植物素材のサイレージ化や、動植物食品残渣を含む生ごみの肥料化、飼料化が容易で、資化効率が高い
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は資源の植物性素材や動物性素材そして植物性と動物性素材の混合物における利用方法について下記の図面に示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態を以下に説明する。
【実施例】
【0018】
請求項1及び2に記載の乳酸菌は、以下に示した方法で取得した。
宮崎県下で栽培したさといもを原料にしたさといもサイレージから乳酸菌の分離を行なった。
さといもサイレージ25gとトリトン0.05%液225mlをストマッカー用ビニール袋に採取し、この液をさらに108倍まで希釈した。
この希釈液を乳酸菌用培地であるLactobacilli MRS寒天培地(DIFCO Laboratories、Detroit、USA 及び炭酸カルシウム0.5%添加)に塗布して、嫌気培養ジャーで30℃にて72時間培養した。
培養物から分離した乳酸菌株について、耐酸性試験や糖類発酵特性試験を実施し、請求項1及び2の乳酸菌株を選別した。
【0019】
ラクトバチルス・プランタルム(Lacutobacillus plantarum)ST2号株(NITE P−509)と、ラクトバチルス・プランタルム(Lacutobacillus plantarum)ST11号株(NITE P−510)は、ホモ発酵型乳酸菌でpH3での耐酸性に優れた乳酸菌である。
これらの乳酸菌株は、基準株と最も近縁な系統関係にあるが、糖類発酵特性において基準株と異なることから、本発明者らは新菌種であると判定し、上記の如く命名した。これらの菌株は、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託されており、その受託番号はラクトバチルス・プランタルム(Lacutobacillus plantarum)ST2号株が(NITE P−509)であり、ラクトバチルス・プランタルム(Lacutobacillus plantarum)ST11号株が(NITE P−510)である。
【0020】
請求項5に記載の本発明は、これらの2種類の乳酸菌を単独で、もしくは組み合わせて含有するサイレージ調製用微生物製剤である。また、肥料用に応用が可能である。
【0021】
次に請求項6に記載の発明であるサイレージの生産方法について説明する。
(1)さといもは水洗い後チョッパーで切断し、副原料としてフスマを20重量%とラクトバチルス・プランタルム(Lacutobacillus plantarum)ST2号株(NITE P−509)と、ラクトバチルス・プランタルム(Lacutobacillus plantarum)ST11号株(NITE P−510)を添加したヨーグルト(脱脂乳で調製した発酵乳)1重量%を混合し、500kgのサイレージ専用袋に詰めた。袋詰めしたものは室温で63日間発酵させた。その後発酵品質を調べる上で一般成分と発酵組成を分析した。
(2)さといもにクトバチルス・プランタルム(Lacutobacillus plantarum)ST2号株(NITE P−509)と、ラクトバチルス・プランタルム(Lacutobacillus plantarum)ST11号株(NITE P−510)のヨーグルトを添加して得たサイレージを発酵基質として用いて、動物性素材及び植物性素材の混合・発酵飼料の評価の試験を行いそれぞれの一般成分と発酵組成を分析した。
【0022】
これらの乳酸菌の生理的性質を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
第1表から明らかなように、ラクトバチルス・プランタルム(Lacutobacillus plantarum)ST2号株(NITE P−509)と、ラクトバチルス・プランタルム(Lacutobacillus plantarum)ST11号株(NITE P−510)は、ホモ発酵型乳酸菌でpH3での耐酸性に優れた乳酸菌である。
【0025】
第2表は糖類発酵特性を示す。
【0026】
【表2】

【0027】
糖類発酵特性の結果、これらの菌株の糖類発酵特性は基準株と異なる。すなわち、ラクトバチルス・プランタルムST−2号株は、ラムノース、α―メチルーD−グルコシド、エスクリン、D−ラフィノース及びβ―ケ゛ンチオビオースの発酵特性において基準株と相違し、ラクトバチルス・プランタルムST-11号株は、ラムノース、α―メチルーD−グルコシド、エスクリン、D−ラフィノース及びβ―ジェンチオビーゼの発酵特性において基準株と相違する。
【0028】
第3表は上記の乳酸菌を添加して調製したさといもサイレージ(発酵基質飼料)の分析値を示す。
【0029】
【表3】

【0030】
第4表は各種動物性素材及び植物性素材の原料の分析値と上記のさといもサイレージをそれぞれ混合・発酵させた結果を示す。
【0031】
【表4】

【0032】
各植物性素材のおから、野菜残、焼酎廃液、パンそして動物性素材の水産残渣をさといもサイレージで混合・発酵させた結果、乳酸の生成量はグラスサイレージの基準である1.5%を上回っており、また、酪酸やプロピオン酸は極わずかであった。このことで、各素材は良質な発酵を呈している事が確認出来た。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の新規乳酸菌株は、強耐酸性と優れた乳酸発酵能を有する。したがって、これらの新規乳酸菌株を含む微生物製剤は、動物飼料の生産、あるいは食物残渣を利用した肥料の生産等に適用できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐酸性と乳酸発酵能に優れた乳酸菌、ラクトバチルス・プランタルム(Lacutobacillus plantarum)ST2号株(NITE P−509)。
【請求項2】
耐酸性と乳酸発酵能に優れた乳酸菌、ラクトバチルス・プランタルム(Lacutobacillus plantarum)ST11号株(NITE P−510)。
【請求項3】
乳酸菌がpH3.0で生存し得る請求項1のラクトバチルス・プランタラム ST2号株(NITE P−509)。
【請求項4】
乳酸菌がpH3.0で生存し得る請求項2のラクトバチルス・プランタラム ST11号株(NITE P−510)。
【請求項5】
請求項1及び/又は2記載の乳酸菌を含有する微生物製剤。
【請求項6】
請求項5の微生物製剤をサイレージ材料に添加するサイレージの生産方法。
【請求項7】
請求項5の微生物製剤を肥料材料に添加する肥料の生産方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−225792(P2009−225792A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45069(P2009−45069)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(599177330)
【出願人】(398052678)
【Fターム(参考)】