説明

新規加水分解酵素

【課題】α−ヒドロキシカルボン酸エステルのラセミ混合物から光学活性α−ヒドロキシカルボン酸を効率的に製造できる手段を提供する。
【解決手段】下記の一般式(I):


〔Aは5員又は6員の環状化合物の残基を示し、Xは水素原子又はアルキル基を示し、Rはアルキル基を示し、**で示される炭素原子について光学的に純粋ではない〕で表される化合物を加水分解して光学活性α−ヒドロキシカルボン酸を製造することができる酵素であって、好ましくは特定な配列からなるアミノ酸配列を有するタンパク質;又は該アミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質からなる酵素。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学活性α−ヒドロキシカルボン酸の製造に有用な新規加水分解酵素、及び該加水分解酵素を用いた光学活性α−ヒドロキシカルボン酸の効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α−ヒドロキシカルボン酸又はその誘導体は、各種の医薬や農薬の製造用中間体として有用であり、特にα位に不斉中心を有する光学活性α−ヒドロキシカルボン酸又はそのエステル誘導体を用いて様々な生理活性化合物を製造することができることから、高い光学純度を有する光学活性α−ヒドロキシカルボン酸又はそのエステル誘導体を効率的に製造する方法の開発が鋭意行なわれている。例えば、血小板凝集阻害剤や抗血栓剤として高い有用性が期待されるクロピドグレル(clopidogrel: (S)-2(2-クロロフェニル)-2-(4,5,6,7-テトラヒドロチエノ[3,2-c]-5-ピリジル)酢酸メチル)を光学活性α−ヒドロキシカルボン酸エステルから効率よく製造できることが知られている(特開2001-519353号公報)。この方法は、(R)-2-クロロマンデル酸メチルのα-ヒドロキシル基をスルホニル化し、4,5,6,7-テトラヒドロチエノ[3,2-c]-5-ピリジンと反応させる工程を含んでいる。
【0003】
光学活性α−ヒドロキシカルボン酸又はそのエステルの製造方法としては、光学活性スレオ-1-(p-ニトロフェニル)-2-アミノ-1,3-プロパンジオールや光学活性リジンを用い、ジアステレオマー塩をたて2‐クロロマンデル酸ラセミ混合物を光学分割して光学活性2-クロロマンデル酸を製造する方法が知られている(特開2004-530717号公報)。しかしながら、この方法では光学分割のための分割剤として高価な試薬を使わなければならないという欠点がある。
【0004】
また、2-クロロベンズアルデヒドとシアニドドナー(シアン化水素など)からヒドロキシニトリルリアーゼを用いて光学活性シアノヒドリン(2-クロロマンデロニトリル)を製造する方法が提案されており、この光学活性シアノヒドリンから加水分解により光学活性2-クロロマンデル酸が得られる(特開2004-57005号公報)。2-クロロベンズアルデヒドとシアニドドナー(シアン化水素など)から得たシアノヒドリン(2-クロロマンデロニトリル)に対して不斉加水分解を行って光学活性2-クロロマンデル酸を得る方法も提案されている(特開平4-99496号公報)。しかしながら、これらの方法で用いるシアニドドナー(シアン化水素など)は取り扱いに危険性を伴うという欠点がある。
【0005】
フェニルグリオキシル酸誘導体に対してα位カルボニル基を立体選択的に還元する能力のもつ微生物を用いて光学活性なマンデル酸誘導体を得る方法も提案されている(特開2003-199595号公報及び特開2004-49028号公報)。しかしながら、原料として用いるαケト酸(フェニルグリオキシル酸誘導体)が高価であり、補酵素の再生系も必要となることから、この方法は製造コストが高いという欠点がある。さらに、マンデル酸誘導体を立体選択的に酸化してαオキソ体を生成する能力を有した微生物をマンデル酸誘導体のラセミ混合物に対して作用させ、未反応物を取り出して光学純度の高いマンデル酸誘導体を得る方法も提案されている(特開平6-165695号公報)。しかしながら、この方法では、αオキソ体とαヒドロキシ体の分離が煩雑であり、場合によっては分離自体が困難になるという欠点がある。
【0006】
α-アリール-α-ヒドロキシ酸エステルの酵素的加水分解を特徴とする光学活性体の製法に関する技術としては特開平2-53497号公報及び特開平2-156892号公報に記載された方法が知られているが、これらの特許公報に具体的に開示された実施例はマンデル酸を用いた方法に限定されており、有用性が低いという問題がある。また、Canadian Journal of Chemistry, 68(2), p.314, 1990には各種置換基を有するα-アリール-α-ヒドロキシ酸エステルを酵素的に加水分解する方法が開示されているが、使用される酵素は炭酸脱水酵素に限定されており、生成物の光学純度も40〜50% ee程度であり選択性が低いために有用性が低いという問題がある。
【0007】
また、国際公開WO 2007/26860号には微生物を用いた光学活性α−ヒドロキシカルボン酸の製造方法が開示されているが、微生物の菌体若しくは培養物、又はその処理物若しくはその抽出物で処理する工程が開示されているものの、反応に関与する酵素自体は特定されていない。なお、米国特許第6632650号明細書にはラウリルラクトンを加水分解することができるRhodococcus ruber由来の酵素が記載されており、国際公開2007/128496号には上記米国特許に記載された酵素をコードする塩基配列と65%の相同性の塩基配列によりコードされるカルボキシエステラーゼ活性を有する酵素が開示されているが、本発明により提供される酵素とのアミノ酸配列での相同性は、それぞれ56.2%及び54.5%である。
【特許文献1】特開2001-519353号公報
【特許文献2】特開2004-530717号公報
【特許文献3】特開2004-57005号公報
【特許文献4】特開平4-99496号公報
【特許文献5】特開2003-199595号公報
【特許文献6】特開2004-49028号公報
【特許文献7】特開平6-165695号公報
【特許文献8】特開平2-53497号公報
【特許文献9】特開平2-156892号公報
【特許文献10】国際公開WO 2007/26860号
【特許文献11】米国特許第6632650号明細書
【特許文献12】国際公開2007/128496号
【非特許文献1】Canadian Journal of Chemistry, 68(2), p.314, 1990
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、光学活性α−ヒドロキシカルボン酸の製造に有用な新規加水分解酵素を提供することにある。
また、本発明の別の課題は、上記の特徴を有する加水分解酵素を用いた光学活性α−ヒドロキシカルボン酸の効率的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行なった結果、エクソフィアラ(Exophiala)属に属する微生物から単離した新規な酵素を用いてα−ヒドロキシカルボン酸エステルのラセミ混合物を加水分解するとエステルの加水分解が立体選択的に進行すること、及びその加水分解反応を利用して光学活性α−ヒドロキシカルボン酸又は光学活性ヒドロキシカルボン酸エステルを極めて効率的に製造できることを見出した。また、上記酵素が2-クロロマンデル酸エステルの不斉加水分解酵素として極めて高い選択性を有しており、高い基質濃度においても効率的に不斉加水分解を行うことができることを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成されたものである。
【0010】
すなわち、本発明により、下記の一般式(I):
下記の一般式(I):
【化1】

〔式中、Aは5員又は6員の環状化合物の残基を示し、該環状化合物は芳香族化合物、部分飽和環状化合物、又は飽和環状化合物から選択され、環構成原子として1個以上のヘテロ原子を有していてもよく、環上には置換基を有していてもよく(該置換基はハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜4個のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜4個のアルキルオキシ基、及び保護基で保護されていてもよい水酸基、保護基で保護されていてもよいアミノ基、ニトロ基からなる群から選ばれる1又は2個以上の置換基であり、2個以上の置換基が存在する場合にはそれらは同一でも異なっていてもよく、2個以上の置換基が存在する場合にはそれらが結合して環を形成してもよい)、Xは水素原子又は炭素数1〜4個のアルキル基を示し、Rは炭素数1〜4個のアルキル基(該アルキル基はアリール基で置換されていてもよい)を示し、ただし、一般式(I)で表される化合物は**で示される炭素原子について光学的に純粋ではない〕
で表される化合物を加水分解して下記の一般式(II):
【化2】

〔式中、A及びXは上記定義と同義であり、*はS又はRのいずれかの立体配置を有する炭素原子を示す〕で表される化合物を製造することができる酵素、好ましくは単離された酵素、及び該酵素であって、
(a)配列表の配列番号1に記載されたアミノ酸配列を有するタンパク質;又は
(b)配列表の配列番号1に記載されたアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質
からなる酵素が提供される。
【0011】
上記発明の好ましい態様によれば、Aがクロロフェニル基であり、Rが炭素数1〜4個のアルキル基又はベンジル基であり、Xが水素原子であり、*で表される炭素原子がR配置である化合物を製造することができる上記の酵素;Aが2-クロロフェニル基であり、Rが炭素数1〜4個のアルキル基であり、Xが水素原子であり、*で表される炭素原子がR配置である化合物を製造することができる上記の酵素;エクソフィアラ・デルマチチジス(Exophiala dermatitidis)由来の上記酵素が提供される。また、配列表の配列番号1に記載のエクソフィアラ・ジーンセルメイ(Exophiala jeanselmei)・NBRC6857由来の酵素のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換、及び/又は付加を有するアミノ酸配列を有するタンパク質からなる上記酵素も提供される。さらに、活性ドメインである上記アミノ酸配列の部分配列を含むアミノ酸配列を有するタンパク質からなる酵素も提供される。
【0012】
別の観点からは、本発明により、上記酵素をコードする核酸が提供される。この発明の好ましい態様によれば、上記(a)のアミノ酸配列をコードする核酸;配列表の配列番号2に記載された塩基配列を含む核酸;配列表の配列番号2に記載された塩基配列と80%以上の相同性を有する塩基配列を含む核酸;配列表の配列番号2に記載された塩基配列により特定される核酸に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸;配列表の配列番号2に記載された塩基配列において1から数個の塩基の欠失、置換、及び/又は付加を有する塩基配列を含む核酸が提供される。
【0013】
さらに別の観点からは、本発明により、上記核酸を含む組み換えベクター、及び上記組み換えベクターを有する形質転換体が提供される。
また、本発明により、上記の形質転換体を培養し、得られた培養物から上記酵素を採取する工程を含む、上記酵素の製造方法;及び、上記一般式(II)で表される化合物の製造方法であって、上記一般式(I)で表される化合物を上記酵素および/または上記形質転換体若しくは培養物、又はその処理物若しくはその抽出物により不斉加水分解する工程を含む方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明により提供される新規な酵素はα−ヒドロキシカルボン酸エステルのラセミ混合物から立体選択的にエステルを加水分解して光学活性α−ヒドロキシカルボン酸を極めて効率的に製造することができる。特に、上記酵素は2-クロロマンデル酸アルキルエステルの不斉加水分解酵素として極めて高い選択性を有しているという特徴がある。また、本発明の酵素は形質転換微生物の短時間の培養により容易かつ大量に調製でき、微生物の菌体若しくは培養物などを用いる方法(国際公開WO 2007/26860号)に比べて高い基質濃度においても効率的に不斉加水分解を行うことができるという優れた特徴を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
一般式(I)及び(II)で表される化合物において、Aは5員又は6員の環状化合物の残基を示す。残基とは環状化合物の環構成原子に結合する水素を1つ除いて得られる1価の基のことである。該環状化合物は芳香族化合物、部分飽和環状化合物、又は飽和環状化合物のいずれであってもよく、環構成原子として1個以上のヘテロ原子を有していてもよい。ヘテロ原子の種類は特に限定されないが、例えば、窒素原子、酸素原子、又はイオウ原子などを用いることができ、2個以上の環構成ヘテロ原子を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。環状化合物としては、より具体的には、ベンゼン、5員又は6員の芳香族ヘテロ環化合物(例えばフラン、チオフェン、ピリジン、ピリミジンなど)、5員又は6員の脂肪族環状化合物(例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘキセンなど)、あるいは5員又は6員のヘテロ環化合物(例えば、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、ジヒドロフラン、テトラヒドロフランなど)などを挙げることができる。これらのうち、環状化合物としてはベンゼンが好ましい。
【0016】
環状化合物は置換基を有していてもよく、該置換基は、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜4個のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜4個のアルキルオキシ基、及び保護基で保護されていてもよい水酸基、保護基で保護されていてもよいアミノ基、ニトロ基からなる群から選ばれる1又は2個以上の置換基である。環状化合物が置換基を有する場合、置換基の個数及び置換位置は特に限定されない。2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。上記アルキル基又はアルキルオキシ基が置換基を有する場合、置換基の種類、個数、及び置換位置は特に限定されず、2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。上記アルキル基又はアルキルオキシ基の置換基としては、例えば、水酸基、ハロゲン原子、又はアミノ基などを例示することができるが、これらに限定されることはない。環状化合物が2個以上の置換基を有する場合には、それらの置換基は互いに結合して環を構成してもよい。この場合、環構造は芳香族、部分飽和、又は完全飽和のいずれであってもよい。例えば、2個のアルキル基が結合して炭素環を形成する場合や、1個のアルキルオキシ基と水酸基とが結合してアルキレンジオキシ基の環構造を形成する場合などを例示することができるが、これらに限定されることはない。
【0017】
保護基としては、例えば、Protective Groups in Organic Chemistry(J.F.W.McOmieeta1., P1enum Press; Protective Groups in Organic Synthesis,3rd Edition (Theodora W. Green, Peter G.M. Wuts, John Wi1y & Sons, Inc. (ISBN O-471-16019-9),April 1999)に記載の保護基が挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基、メトキシメチル基、ベンジルオキシメチル基、メトキシエトキシメチル基、メチルチオメチル基、フェニルチオメチル基、テトラヒドロピラニル基、p-ブロモフェナシル基、アリル基、シクロヘキシル基等のエーテル型保護基;ベンジル基、2,6-ジメチルベンジル基、4-メトキシベンジル基、2,6-ジクロロベンジル基、9-アントラニルメチル基、ジフェニルメチル基、フェネチル基、トリフェニルメチル基等のベンジル型保護基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、ジメチルエチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基等のシリル型保護基;アセチル基、クロロアセチル基、トリフルオロアセチル基、ピバロイル基等のアシル型保護基;ベンゾイル基、p-メチルベンゾイル基、p-クロロベンゾイル基、o-クロロベンゾイル基、p-ニトロベンゾイル基等のアロイル型保護基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、t-ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、p-メチルベンジルオキシカルボニル基等のカーボネート型保護基;ジメチルホスフィニル基、ジエチルホスフィニル基等のホスフィネート型保護基;メタンスルホニル基、エタンスルホニル基、クロロメタンスルホニル基、クロロエタンスルホニル基、トリクロロメタンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基、p-トルエンスルホニル基、o-ニトロベンゼンスルホニル基、m-ニトロベンゼンスルホニル基、p-ニトロベンゼンスルホニル基、o-クロロベンゼンスルホニル基、m-クロロベンゼンスルホニル基、p-クロロベンゼンスルホニル基等のスルホニル型保護基などが挙げられる。
【0018】
Xは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。該アルキル基は直鎖状であっても分枝鎖状のいずれであってもよい。
一般式(I)で表される化合物において、Rは炭素数1〜4個のアルキル基を示す。該アルキル基は1個又は2個以上のアリール基で置換されていてもよく、アリール基としてはフェニル基などが好適である。該アルキル基がフェニル基などのアリール基で置換された場合の例としては、ベンジル基、ベンズヒドリル基、フェネチル基などを挙げることができる。
【0019】
一般式(I)及び(II)で表される化合物においてAがクロロフェニル基であり、Xが水素原子であることが好ましく、Aが2-クロロフェニル基であることがさらに好ましい。一般式(I)で表される化合物において、Rが炭素数1〜4個のアルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。一般式(II)で表される化合物において、*で表される炭素原子はR配置であることが好ましい。
【0020】
本発明の酵素は上記一般式(I)で表される化合物を不斉加水分解して上記一般式(II)を製造することができることを特徴としており、好ましくは単離された酵素であり、さらに好ましくは(a)配列表の配列番号1に記載されたアミノ酸配列を有するタンパク質;又は(b)配列表の配列番号1に記載されたアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質からなる酵素である。上記(b)の態様において、相同性は70%以上であれば特に限定されないが、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%、特に好ましくは95%以上である。
【0021】
本発明の酵素としては、エクソフィアラ・デルマチチジス NBRC8193またはエクソフィアラ・デルマチチジス NBRC8193株由来の酵素のほか、(a)の態様、すなわち配列表の配列番号1に記載のエクソフィアラ・ジーンセルメイ・NBRC6857由来の酵素のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換、及び/又は付加を有するアミノ酸配列を有するタンパク質からなる上記酵素が好ましい。本明細書において1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列に言及する場合、「1から数個」の範囲は特には限定されないが、例えば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個程度である。上記のアミノ酸配列を全長の一部分の配列として含む酵素も好ましく、このような酵素も本発明の範囲に包含される。さらに、上記のアミノ酸配列において酵素活性に関与する部分(本明細書において「活性ドメイン」と呼ぶ)を含む酵素も好ましく、このような酵素も本発明の範囲に包含される。
【0022】
本発明の核酸は、上記の酵素のアミノ酸配列をコードする核酸であり、DNA又はRNAのいずれでもよいが、好ましくはDNAである。好ましい核酸としては、上記(a)の態様のアミノ酸配列をコードする核酸を挙げることができ、それらのうちの特に好ましい核酸として配列表の配列番号2に記載された塩基配列を含む核酸を挙げることができる。
【0023】
また、配列表の配列番号2に記載された塩基配列により特定される核酸に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸、又は配列表の配列番号2に記載された塩基配列において1から数個の塩基の欠失、置換、及び/又は付加を有する塩基配列を含む核酸を本発明の核酸として用いることもできる。1から数個の塩基の欠失、置換及び/又は付加を有する塩基配列において、1から数個の範囲は特には限定されないが、例えば、1から40個、好ましくは1から30個、より好ましくは1から20個、より好ましくは1から10個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個程度である。
【0024】
本明細書において「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列」とは、例えば、配列表の配列番号2に記載されたDNAをプローブとして使用し、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、又はサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAの塩基配列を意味しており、例えば、コロニー又はプラーク由来のDNA又は該DNAの断片を固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0 MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2×SSC溶液(1×SSC溶液は、150 mM塩化ナトリウム、15 mMクエン酸ナトリウム)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNA等を挙げることができる。ハイブリダイゼーションはMolecular Cloning: A laboratory Manual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989(以下、「モレキュラークローニング第2版」と略す場合がある)等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0025】
ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとしては、プローブとして使用する配列番号2に記載されたDNAの塩基配列と一定以上の相同性を有するDNAが挙げられるが、相同性は、例えば80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上である。
【0026】
配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列を有し、上記酵素活性を有するタンパク質をコードする核酸は、配列番号1に記載のアミノ酸配列の情報に基づいて、化学合成、遺伝子工学的手法、又は突然変異誘発などの当業者に既知の任意の方法で作製することができる。例えば、配列表の配列番号1に記載されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAに対し、変異原となる薬剤と接触作用させる方法、紫外線を照射する方法、又は遺伝子工学的手法等を用いて行うことができる。遺伝子工学的手法の一つである部位特異的変異誘発法は特定の位置に特定の変異を導入できる手法であることから有用であるが、この手法はモレキュラークローニング第2版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載の方法に準じて行うことができる。
【0027】
また、配列表の配列番号1に記載されたアミノ酸配列の情報に基づいて適当なプローブやプライマーを調製し、それらを用いて各種微生物の染色体DNAをスクリーニングすることにより本発明の核酸を単離することもできる。例えば、PCR法により本発明の核酸を取得することもできる。各種微生物由来の染色体DNAライブラリー又はcDNAライブラリーを鋳型として使用し、配列番号1に記載したアミノ酸配列をコードする塩基配列を増幅できるように設計した1対のプライマーを用いてPCRを行うことができる。PCRの反応条件は適宜設定することができ、例えば、94℃で30秒間(変性)、55℃で30秒〜1分間(アニーリング)、72℃で2分間(伸長)からなる反応工程を1サイクルとして、例えば30サイクル行った後、72℃で7分間反応させる条件などを挙げることができる。次いで、増幅されたDNA断片を、大腸菌等の宿主で増幅可能な適切なベクター中にクローニングすることができる。
【0028】
上記のプローブ又はプライマーの調製、cDNAライブラリーの構築、cDNAライブラリーのスクリーニング、並びに目的核酸のクローニングなどの手法は当業者に周知かつ慣用であり、例えば、モレキュラークローニング第2版、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38, John Wiley & Sons (1987-1997)(以下、「カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー」と略す場合がある)等に記載の方法に準じて行うことができる。
【0029】
本発明の核酸の好ましい態様として配列表の配列番号2に記載された塩基配列と、国際公開2007/128496号の配列番号1に記載されたカルボキシエステラーゼ活性を有する酵素をコードする塩基配列の相同性を容易に入手可能なプログラム(DNASIS(登録商標)Pro version 2.9、日立ソフトウェアエンジニアリング株式会社)により決定したところ66%であり、核酸全長(ストップコドンを含む遺伝子の塩基数)は、それぞれ1179塩基及び1131塩基であり、タンパク質のサイズが異なる。
【0030】
本発明の核酸は適当なベクター中に挿入して使用することができる。本発明で用いるベクターの種類は特に限定されず、例えば、自立的に複製するベクター(例えばプラスミド等)、あるいは宿主細胞に導入された際に宿主細胞のゲノムに組み込まれ、組み込まれた染色体と共に複製されるものであってもよい。好ましくは、本発明で用いるベクターは発現ベクターである。発現ベクターにおいて本発明の核酸は転写に必要な要素(例えばプロモーター等)と機能的に連結されていることが望ましい。プロモータは宿主細胞において転写活性を示すDNA配列であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。
【0031】
例えば、細菌細胞で作動可能なプロモータとしては、バチルス・ステアロテルモフィルス・マルトジェニック・アミラーゼ遺伝子(Bacillus stearothermophilus maltogenic amylase gene)、バチルス・リケニホルミスαアミラーゼ遺伝子(Bacillus licheniformis alpha-amylase gene)、バチルス・アミロリケファチエンス・BANアミラーゼ遺伝子(Bacillus amyloliquefaciens BAN amylase gene)、バチルス・サブチリス・アルカリプロテアーゼ遺伝子(Bacillus Subtilis alkaline protease gene)若しくはバチルス・プミルス・キシロシダーゼ遺伝子(Bacillus pumilus xylosldase gene)のプロモータ、又はファージ・ラムダのPR若しくはPLプロモータ、大腸菌の lac、trp、若しくはtacプロモータなどが挙げられる。昆虫細胞で作動可能なプロモータの例としては、ポリヘドリンプロモータ、P10プロモータ、オートグラファ・カリホルニカ・ポリヘドロシス塩基性タンパクプロモータ、バキュウロウイルス即時型初期遺伝子1プロモータ、またはバキュウロウイルス39K遅延型初期遺伝子プロモータ等がある。酵母宿主細胞で作動可能なプロモータの例としては、酵母解糖系遺伝子由来のプロモータ、アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子プロモータ、TPI1プロモータ、ADH2-4cプロモータなどが挙げられる。糸状菌細胞で作動可能なプロモータの例としては、ADH3プロモータまたはtpiAプロモータなどがある。
【0032】
本発明の組み換えベクターはさらに選択マーカーを含有してもよい。選択マーカーとしては、例えば、アンピシリン、カナマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、ネオマイシン、若しくはヒグロマイシンのような薬剤耐性遺伝子を挙げることができる。本発明の遺伝子、プロモータ、並びに所望によりターミネータ及び/又は分泌シグナル配列をそれぞれ連結し、これらを適切なベクターに挿入する方法は当業者に周知である。
【0033】
本発明の遺伝子又は組み換えベクターを適当な宿主に導入することによって形質転換体を作製することができる。本発明の遺伝子又は組み換えベクターを導入するための宿主細胞は、本発明の遺伝子を発現できる限り特にその種類は限定されない。例えば、細菌、酵母、真菌、及び高等真核細胞等が挙げられるが、細菌や酵母などが好ましい。細菌細胞の例としては、バチルス又はストレプトマイセス等のグラム陽性菌、あるいは大腸菌等のグラム陰性菌が挙げられるが、大腸菌などが好ましい。これらの細菌の形質転換は、プロトプラスト法又は公知の方法などによりコンピテント細胞を用いることにより行えばよい。
【0034】
酵母細胞の例としては、サッカロマイセス又はシゾサッカロマイセスに属する細胞が挙げられ、例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevis1ae)又はサッカロマイセス・クルイベリ(Saccharomyces kluyveri)等が挙げられる。酵母宿主への組み換えベクターの導入方法としては、例えば、エレクトロポレーション法、スフェロブラスト法、酢酸リチウム法等を挙げることができる。
【0035】
他の真菌細胞の例として、糸状菌、例えばアスペルギルス、ニューロスポラ、フザリウム、又はトリコデルマに属する細胞などを挙げることができる。宿主細胞として糸状菌を用いる場合、DNA構築物を宿主染色体に組み込んで組換え宿主細胞を得ることにより形質転換を行うことができる。DNA構築物の宿主染色体への組み込みは、公知の方法に従い、例えば相同組換え又は異種組換えにより行うことができる。
【0036】
昆虫細胞を宿主として用いる場合には、組み換えベクター及びバキュロウイルスを昆虫細胞に共導入して昆虫細胞培養上清中に組換えウイルスを得た後、さらに組換えウイルスを昆虫細胞に感染させ、タンパク質を発現させることができる(例えば、Baculovirus Expression Vectors, A Laboratory Manua1;及びカレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、Bio/Technology, 6, 47(1988)等)。
【0037】
バキュロウイルスとしては、例えば、ヨトウガ科昆虫に感染するウイルスであるアウトグラファ・カリフォルニカ・ヌクレアー・ポリヘドロシス・ウイルス(Autographa californica nuclear polyhedrosis virus)等を用いることができる。
昆虫細胞としては、Spodoptera frugiperdaの卵巣細胞であるSf9、Sf21〔バキュロウイルス・エクスプレッション・ベクターズ、ア・ラボラトリー・マニュアル、ダブリュー・エイチ・フリーマン・アンド・カンパニー(W. H. Freeman and Company)、ニューヨーク(New York)、(1992)〕、Trichoplusia niの卵巣細胞であるHiFive(インビトロジェン社製)等を用いることができる。
組換えウイルスを調製するための、昆虫細胞への組換え遺伝子導入ベクター及び上記バキュロウイルスの共導入方法としては、例えば、リン酸カルシウム法又はリポフェクション法等を挙げることができる。
【0038】
上記の形質転換体は、導入された遺伝子の発現を可能にする条件下で適切な栄養培地中で培養することができる。形質転換体の培養物から本発明の酵素を単離・精製する手段は特に限定されず、通常のタンパク質又は膜結合タンパク質の単離、精製法を用いることができる。例えば、本発明の酵素をコードする核酸を組換えベクターとしてプラスミドに導入し、この組換えベクターを大腸菌に導入して形質転換した後、大腸菌を培養することにより目的の酵素を分離することができるが、本発明は上記の特定の態様に限定されることはない。
【0039】
上記の形質転換体の培養における諸条件は特に制限されず、例えば微生物を形質転換体として用いる場合には、微生物の培養に適した通常の培養条件を適宜選択できる。培地の種類も特に限定されず、細菌、真菌、又は酵母それぞれに適した培地を適宜選択することができる。培地としては、通常は、炭素源、窒素源、及びその他の栄養素を含む液体培地を使用することができる。培地の炭素源は、上記微生物が利用可能であればその種類は特に限定されず、任意の炭素源を用いることができる。より具体的には、炭素源として資化性のものが挙げられ、例えば、グルコース、フルクトース、シュクロース、デキストリン、デンプン、ソルビトールなどの糖類、メタノール、エタノール、グリセロールなどのアルコール類、フマル酸、クエン酸、酢酸、プロピオン酸などの有機酸類及びその塩類、パラフィンなどの炭化水素類、糖蜜、又はこれらの混合物などが使用できる。
【0040】
窒素源は、上記微生物が利用可能であればその種類は特に限定されず、任意の窒素源を用いることができる。具体的には、資化性のものが挙げられ、例えば、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸アンモニウムなどの無機酸のアンモニウム塩、フマル酸アンモニウム、クエン酸アンモニウムなどの有機酸のアンモニウム塩、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムなどの硝酸塩、肉エキス、酵母エキス、麦芽エキス、ペプトン、コーンスティープリカー、大豆タンパク加水分解物などの無機または有機含窒素化合物、あるいはこれらの混合物などが使用できる。また、培地には、リン酸カリウム、硫酸鉄、硫酸亜鉛、硫酸マンガン等の無機物、微量金属塩、ビタミン類などの通常の培養に用いられる栄養源を適宜添加してもよい。必要に応じて、培地には微生物の活性を誘導する物質、培地のpH保持に有効な緩衝物質、消泡剤、シリコン、アデカノール、プルロニックなどを添加してもよい。
【0041】
微生物の培養は、それぞれの微生物の生育に適した条件下で行うことができ、そのような条件は当業者に適宜選択可能である。一例を挙げれば、培地のpHを 3〜10、好ましくは4〜9とし、温度0〜50℃、好ましくは20〜40℃で培養を行うことができる。微生物の培養は、それぞれの微生物の性質に応じて好気的又は嫌気的条件下で行うことができる。培養時間は、1〜300時間、好ましくは、10〜150時間であるが、それぞれの微生物により適宜決定することができる。
【0042】
形質転換体として大腸菌を用いる場合には、適宜の細菌用培地で培養した大腸菌を集菌してリゾチームなどで処理して溶菌し、菌体を遠心分離して得られるライセートから目的の酵素を分離・精製することができる。ライセートからの酵素の分離・精製は通常のタンパク質の単離精製法、例えば、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)セファロース等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(ファルマシア社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィ一法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法により行うことができ、必要に応じてこれらの手法を2以上組合わせて行うことができる。
【0043】
本発明の方法は、上記の一般式(II)で表される化合物の製造方法であって、上記の一般式(I)で表される化合物を上記の酵素で処理して不斉加水分解する工程を含むことを特徴としている。一般式(I)において*はS又はRのいずれかの立体配置を有する炭素原子を示し、一般式(I)で表される化合物は、この不斉炭素に関して実質的に光学的に純粋な化合物である。一般式(II)で表される化合物が他の不斉炭素を有する場合には、その立体配置は特に限定されない。また、一般式(I)で表される化合物において、**はこの炭素原子について一般式(I)で表される化合物が実質的に光学的に純粋ではないことを示す。例えば、この炭素原子に関してS体とR体との任意の割合の混合物やラセミ体などを用いることができる。
【0044】
上記の方法の好ましい一態様として、上記一般式(I)で表される化合物において**で表される炭素原子がR配置である化合物のエステル基を加水分解して上記一般式(II)で表される化合物において*で表される炭素原子がR配置である化合物を分離精製する工程を含む方法を挙げることができる。
【0045】
本発明の方法では、上記の酵素を用いて不斉加水分解を行うことができる。酵素を適宜の手段で固定化して用いることもできる。固定化は、当業者に周知の方法(例えば、架橋法、物理的吸着法、包括法等)で行うことができる。固定化担体としては、一般に用いられているものであれば何れでもよく、例えば、セルロース、アガロース、デキストラン、κ−カラギーナン、アルギン酸、ゼラチン、酢酸セルロース等の多糖類;例えば、グルテン等の天然高分子;例えば、活性炭、ガラス、白土、カオリナイト、アルミナ、シリカゲル、ベントナイト、ヒドロキシアパタイト、リン酸カルシウム等の無機物;例えば、ポリアクリルアミド、ポリビニルアセテート、ポリプロピレングリコール、ウレタン等の合成吸着剤等が挙げられる。本発明の酵素をマイクロカプセルに封入した形で使用することもできる。本発明の酵素の使用態様は上記のものに限定されることはなく、当業者が当業界で利用可能な方法から適宜選択して使用できることは言うまでもない。
【0046】
本発明の方法において、一般式(I)で表される化合物を上記の酵素で処理する条件は特に限定されず、上記の化合物が酵素と十分に接触でき、その結果、エステル部位の加水分解反応が進行する条件であれば、いかなる条件を選択することもできる。例えば、一般式(I)で表される化合物の溶液に、緩衝液又は水などに溶解した酵素を混合すればよい。上記の工程は、水性の均一系中で行うか、あるいは水に実質的に不溶性又は水に難溶性の有機溶媒と水との二相系中で行うことができるが、一般的には水性の均一系中で行うことが好ましい。水性の均一系を形成する溶媒としては、水のみを溶媒として用いるか、あるいは水と混和する適当な有機溶媒、例えば、エタノール、メタノール、ジオキサン、ジメチルスルホキシド等と水との混合物を用いてもよい。一般式(I)で表される化合物を上記の有機溶媒に溶解し、得られた溶液を上記の酵素溶液に添加して反応を行ってもよい。上記の酵素とともに、又は上記酵素に替えて上記形質転換体若しくは培養物、又はその処理物若しくはその抽出物を用いてもよい。培養物、又はその処理物若しくはその抽出物については国際公開WO 2007/26860号に調製方法が記載されており、上記国際公開の開示を参照により本明細書の開示として含める。
【0047】
処理条件は、エステルの不斉加水分解反応が進行する条件であれば特に限定されない。酵素の使用量は特に限定されないが、例えば、一般式(I)で表される化合物に対して10000分の1〜1000倍、好ましくは1000分の1〜100倍程度、さらに好ましくは100分の1〜10倍程度である。また、基質である一般式(I)で表される化合物の濃度は、反応系の全重量に対して0.1〜50重量%、好ましくは、0.5〜30重量%、さらに好ましくは1.0〜20重量%程度である。本発明の酵素を用いると、国際公開WO 2007/26860号に記載された微生物を用いる方法に比べて基質濃度を10倍程度高くでき、効率よく目的物を製造できる。反応液のpHは、4〜9、好ましくは5〜8であり、反応温度は、10〜50℃、好ましくは20〜40℃である。pHを安定させるために緩衝液を使用することもできる。緩衝液としては、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、酢酸緩衝液などを用いることができる。さらに、pHを調節するために、酸、塩基を使用して調節することもできる。また、反応時間は、1〜200時間、好ましくは5〜150時間であるが、酵素の種類に応じて適宜選択することが可能である。反応系内には、必要に応じて、基質及び/又は酵素を一度に添加するか、又は逐次添加するか、若しくは連続的に添加することもできる。生成物である加水分解物を連続的に取り出しながら反応速度を高めることもできる。上記の酵素とともに、又は上記酵素に替えて上記形質転換体若しくは培養物、又はその処理物若しくはその抽出物を用いる場合についても同様である。
【0048】
反応によって得られた一般式(II)で表される光学活性α−ヒドロキシカルボン酸は、慣用の分離精製手段によって単離精製できる。例えば、反応液から必要に応じて菌体を分離した後、培養物を膜分離、有機溶媒(例えば、トルエン、クロロホルム等)による抽出、カラムクロマトグラフィー、減圧濃縮、蒸留、晶析、再結晶等の通常の精製方法により精製して一般式(II)で表される光学活性α−ヒドロキシカルボン酸を得ることができる。また、例えば、反応終了後、酢酸ブチル、酢酸エチル、トルエン、クロロホルム等の有機溶媒で反応液から生成物を抽出し、溶媒を留去することにより粗生成物を得ることができ、該粗生成物は、必要によりシリカゲルクロマトグラフィー、再結晶(n-ヘキサン、酢酸エチル等)、減圧蒸留等により精製することができる。
【0049】
また、不斉加水分解反応を行うことにより、反応液中には、一般式(II)で表される光学活性α−ヒドロキシカルボン酸のほか、加水分解されずに反応液中に残存した光学的に純粋な未反応のエステル化合物(光学活性α−ヒドロキシカルボン酸エステル)が存在する。この光学活性α−ヒドロキシカルボン酸エステルを分離精製した後にエステル基を加水分解することにより、一般式(II)で表される光学活性α−ヒドロキシカルボン酸を製造することができる。加水分解に使用する酸又は塩基としては、通常の反応において酸又は塩基として使用されるものであれば特に制限はないが、例えば、塩酸、硫酸などの鉱酸類、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、水素化ナトリウム、水素化リチウム、又はアンモニア水等の塩基が挙げられ、好ましくは水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムなどを用いることができる。塩基による加水分解の際には、一般式(II)で表される化合物の立体反転が生じないように適宜の条件を選択することが望ましい。加水分解のための反応溶媒としては、反応の進行を妨げず、原料を十分に溶解できる溶媒であれば特に制限はないが、例えば、アルコール類(メタノール、エタノール等)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、水、アセトン、又はこれらの混合物などを挙げることができ、好ましくはアルコール類、水、又はこれらの混合物を用いることができる。反応温度は、通常は−20〜150℃であり、好ましくは10〜30℃である。反応時間は、使用する原料、溶媒、反応温度などにより異なるが、通常5分〜36時間であり、好ましくは10分〜16時間である。
基質は安価に供給される光学的に純粋でないα−ヒドロキシカルボン酸とアルコールから通常の方法によって製造できる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
例1
(酵素精製)
Exophiala dermatitidis NBRC 8193(独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジー本部 生物遺伝資源部門(NBRC) 郵便番号292−0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8より分譲)を100mLのGPY液体培地(1%グルコース(和光純薬工業株式会社)、0.5%ペプトン(和光純薬工業株式会社)、0.3%酵母エキス(和光純薬工業株式会社)、pH7.0)に植菌し、30℃、200rpmで96時間、振盪培養を行った。その100mLの培養液を3LのGPYA液体培地(1%グルコース、0.5%ペプトン、0.3%酵母エキス、0.03%アデカノール LG−109(株式会社ADEKA)、pH7.0)に加え、30℃、1vvm、400rpmで48時間、ジャー培養を行った。
【0051】
12Lのジャー培養液を12krpm、4℃で20分間遠心分離し上清を取り除いた後、0.8% NaCl(和光純薬工業株式会社)で懸濁した。その懸濁溶液を12krpm、4℃で20分間遠心分離し上清を取り除いた後、50mM MES(MES hydrate、シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社) Buffer(pH6.5)を加え30%菌体懸濁液とした。30%菌懸濁液を4等分し、氷中で各々300μA、3時間、10秒間破砕−20秒間休止の間欠で超音波処理を行った。超音波破砕機は株式会社 日本精機製作所の超音波ホモジナイザー モデル US−300を使用し、チップは直径12mmを使用した。超音波破砕した菌体を12krpm、4℃で20分間遠心分離した後上清を回収しクルードとした。250mLのクルードに対しComplete(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)を1錠加えた。また、クルードに終濃度が0.1%になるようにポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル(和光純薬工業株式会社)を加えた。さらに、100mLのクルードに対し22.6gの硫酸アンモニウムを加え、4℃で1時間穏やかに攪拌した。
【0052】
そのクルードを12krpm、4℃で30分間遠心分離し、上清を新しい容器に移し、100mLの上清に対し12.0gの硫酸アンモニウムを加え4℃で1時間穏やかに攪拌した。12krpm、4℃で30分間遠心分離した後、沈殿物に250mLあたりCompleteを1錠加え、さらに終濃度が0.1%になるようにポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテルを加えた50mM MES Buffer(pH6.5)(50mM MES−OS)を加え、18mLの酵素溶液とした。その酵素溶液をスペクトラ/ポア(登録商標)メンブレン MWCO:12000−14000(フナコシ株式会社)を用いて、2Lの50mM MES−OSに対して4℃で透析を行った(酵素溶液A)。
【0053】
25mM MES−OSで平衡化した40mLのDEAE Sepharose(登録商標)Fast Flow(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社)に酵素溶液Aをアプライした。40mLの25mM MES−OSを加えた後、グラジエントで溶出を行った。グラジエントは25mM MES−OSから0.2M NaClを含む25mM MES−OSまでの濃度で行い、溶出液は240mL使用した。溶出液を1mLずつ分取し、活性測定を行った。
【0054】
活性測定の反応は100mM MES Buffer(pH6.5)、0.05% クロロマンデル酸メチルエステル(CMM)、及び分取した酵素溶液を含む反応液を30分間、30℃で200rpmの振盪で行った。振盪後、10% 過塩素酸を加えることにより反応を停止した。CMMの合成は、メタノール(和光純薬工業株式会社)を使用して2−クロロマンデル酸(和光純薬工業株式会社)をエステル化することにより行った。酵素反応した溶液の加水分解反応の測定はAgilent 1100 series(アジレント・テクノロジー株式会社)を使用した。カラムはInertsil(登録商標)ODS−3(4.6×75mm)(ジーエルサイエンス株式会社)、溶離液は50mM リン酸緩衝液(pH2.5)(リン酸2水素ナトリウム2水和物(関東化学株式会社)とリン酸(和光純薬工業株式会社)より作製)):アセトニトリル(和光純薬工業株式会社)=75:25を使用した。流速は1.0mL/min、オーブン温度は40℃、分析時間は10分間、検出は254nmで行った。
【0055】
酵素反応した溶液の光学純度の測定はAgilent 1100 series(アジレント・テクノロジー株式会社)を使用した。カラムはMCI(登録商標)GEL PACKED COLUMN CRS10W(4.6×50mm)(三菱化学株式会社)、溶離液は 0.2mM 硫酸銅(II)(和光純薬工業株式会社):アセトニトリル=85:15を使用した。流速は2.0mL/min、オーブン温度は25℃、分析時間は30分間、検出は254nmで行った。このとき標品はR−2−クロロマンデル酸(東京化成工業株式会社)を使用した。
【0056】
活性測定し、活性画分を集め、塩化ナトリウムの濃度が1Mになるように、2M NaClを含む25mM MES−OSを加えた。 1M NaClを含む25mM MES−OSで平衡化した30mLのPhenyl Sepharose(登録商標)6 Fast Flow(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社)に酵素溶液Dをアプライし、90mLの1M NaClを含む25mM MES−OSを加えた後、90mLの0.1M NaClを含む25mM MES−OSを加えた。溶出はグラジエントで行った。グラジエントは0.1M NaClを含む25mM MES−OSから25mM MES−OSまでの濃度で行い、溶出液は120mL使用した。溶出液を1mLずつ分取し、活性測定を行った。
【0057】
活性測定の反応は100mM MES Buffer(pH6.5)、0.05% CMM、及び分取した酵素溶液を含む反応液を30分間、30℃で200rpmの振盪で行った。振盪後、10% 過塩素酸を加えることにより反応を停止した。酵素反応した溶液の加水分解反応の測定はAgilent 1100 seriesを使用した。カラムはInertsil(登録商標)ODS−3(4.6×75mm)、溶離液は 50mM リン酸緩衝液(pH2.5):アセトニトリル=75:25を使用した。流速は1.0mL/min、オーブン温度は40℃、分析時間は10分間、検出は254nmで行った。また、酵素反応した溶液の光学純度の測定はAgilent 1100 seriesを使用した。カラムはMCI(登録商標)GEL PACKED COLUMN CRS10W(4.6×50mm)、溶離液は 0.2mM 硫酸銅(II):アセトニトリル=85:15を使用した。流速は2.0mL/min、オーブン温度は25℃、分析時間は30分間、検出は254nmで行った。このとき標品はR−2−クロロマンデル酸を使用した。
【0058】
活性測定し、活性画分を集め、VIVASPIN 6(MWCO:10000)(家田貿易株式会社)を用いて、濃縮を行った。その酵素溶液をスペクトラ/ポア(登録商標)メンブレン MWCO:12000−14000(フナコシ株式会社)を用いて、20mM 酢酸緩衝液(pH5.0)(和光純薬工業株式会社)に対して4℃で透析を行った(酵素溶液P)。AKTAexplorer 10S(アマシャム ファルマシア バイオテク株式会社)を使用して、20mM 酢酸緩衝液(pH5.0)で平衡化したSOURCE(TM)15S PE 4.6/100(アマシャム ファルマシア バイオテク株式会社)に酵素溶液Pをアプライし、5mLの20mM 酢酸緩衝液(pH5.0)で溶出した後、VIVASPIN(MWCO:10000)を用いて濃縮を行った(酵素溶液S)。
【0059】
AKTAexplorer 10Sを使用して、20mM リン酸緩衝液(pH7.0)(リン酸水素2ナトリウム12水和物(関東化学株式会社)とリン酸2水素ナトリウム2水和物(関東化学株式会社)を用いて調製)で平衡化したHiLoad(登録商標)16/60 Superdex(TM) 200prep grade(アマシャム ファルマシア バイオテク株式会社)に酵素溶液Sをアプライし、160mLの20mM リン酸緩衝液(pH7.0)を加えて溶出した。1mLずつ分取し、活性測定を行った。
【0060】
活性測定の反応は100mM MES Buffer(pH6.5)、0.05% CMM、及び分取した酵素溶液を含む反応液を30分間、30℃で200rpmの振盪で行った。 振盪後、10% 過塩素酸を加えることにより反応を停止した。酵素反応した溶液の加水分解反応の測定はAgilent 1100 seriesを使用した。カラムはInertsil(登録商標)ODS−3(4.6×75mm)、溶離液は 50mM リン酸緩衝液(pH2.5):アセトニトリル=75:25を使用した。 流速は1.0mL/min、オーブン温度は40℃、分析時間は10分間、検出は254nmで行った。また、酵素反応した溶液の光学純度の測定はAgilent 1100 seriesを使用した。カラムはMCI(登録商標)GEL PACKED COLUMN CRS10W(4.6×50mm)、溶離液は 0.2mM 硫酸銅(II):アセトニトリル=85:15を使用した。 流速は2.0mL/min、オーブン温度は25℃、分析時間は30分間、検出は254nmで行った。このとき標品はR−2−クロロマンデル酸を使用した。活性を確認できた画分を精製酵素溶液とした。
精製酵素溶液をSDS−PAGEに供した。0.1% ドデシル硫酸ナトリウムを含む12%ポリアクリルアミドゲルに精製酵素溶液をアプライした。電気泳動した結果、約42kDaの位置に単一のバンドを確認した。このときサイズマーカーはSDS−PAGE Molecular Weight Standards、Broad Range(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社)を使用した。
【0061】
(遺伝子取得)
1.5mLの精製酵素を凍結乾燥し、2mLの50mM トリス塩酸緩衝液(pH8.6)(和光純薬工業株式会社)を加えた。さらに、11μLの30nmol/mL リシルエンドペプチターゼ(登録商標)、アクロモバクター属菌M497−1由来(和光純薬工業株式会社)を加えた後、37℃で6時間静置した(酵素溶液L)。
【0062】
AKTAexplorer 10Sを使用して、0.1% トリフルオロ酢酸(和光純薬工業株式会社)で平衡化したSephasil(登録商標)peptide C18 5μ ST 4.6/100(アマシャム ファルマシア バイオテク株式会社)に酵素溶液Lをアプライし、0.1%トリフルオロ酢酸から80%アセトニトリルを含む0.1%トリフルオロ酢酸のグラジエントで溶出した。溶出液は70mL使用し、1mLずつ分取した。
【0063】
分取した各々のサンプルを全自動タンパク質一次構造分析装置 PPSQ−21A(株式会社 島津製作所)に供したところ、アミノ酸配列「TVVDIWGGWADEEHTQPPTR」を得た。このアミノ酸配列をDNASIS(登録商標)Pro version 2.9(日立ソフトウェアエンジニアリング株式会社)を用いてBlast検索を行ったところStreptomyces avermitilis MA−4680のputative esterase(NCBI accession No.NP_822479.1)と71%の相同性があった。そこで、Streptomyces avermitilis MA−4680のputative esteraseのアミノ酸配列のうち、「YWPEFAAAGK」を基にプライマー Ester F100aa「5'TAYTGGCCNGARTTYGSNGCNGCNGGNAA」を作製した(北海道システム・サイエンス株式会社)。また、Streptomyces avermitilis MA−4680のputative esteraseのアミノ酸配列のうち「LADRGLLDFDAPVAAYWPEFAAAGKESVLVRHLLSHRAGL」とAspergillus oryzaeのunnamed protein product(NCBI accession No.BAE66212)をDNASIS(登録商標)Pro version 2.9を用いて相同性検索を行ったところ、75%の相同性があった。そこで、Aspergillus oryzaeのunnamed protein productのアミノ酸配列のうち「FWGGWGGSFA」を基にプライマー Lactam R330aa「 5’GCRAANSWNCCNCCCCANCCNCCCCARAA」を作製した(北海道システム・サイエンス株式会社)。なお配列表中の略号は次の核酸塩基を示す。
N:G(グアニン)とA(アデニン)とT(チミン)とC(シトシン)
W:A(アデニン)とT(チミン)
Y:C(シトシン)とT(チミン)
R:A(アデニン)とG(グアニン)
S:C(シトシン)とG(グアニン)
【0064】
Exophiala jeanselmei NBRC 6857(独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジー本部 生物遺伝資源部門(NBRC) 郵便番号292−0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8より分譲)を5mLのGPY液体培地に植菌し、30℃、200rpmで24時間、振盪培養を行った。培養液からゲノムDNAの取得を行った。ゲノムDNAの取得はGenomic DNA Buffer set(株式会社キアゲン)及びQIAGEN Genomic―tip 500/G(株式会社キアゲン)を用いた。取得したゲノムDNAを鋳型としてKOD ―plus―(東洋紡績株式会社)を用いてPCRを行った。 プライマーはEster F100aaとLactam R330aaを使用し、KOD ―plus―の説明書に従いPCRを行った。PCR産物を 1.5%アガロースゲル(ナカライテスク株式会社)を用いてアガロース電気泳動に供したところ、約0.8kbpのバンドを確認した。このときサイズマーカーはLoading Quick(登録商標)λ/EcoR I + Hind III double digest(東洋紡績株式会社)を使用した。
【0065】
約0.8kbpのバンドをQuantum Prep(登録商標)Freeze’N Squeeze DNA Gel Extraction Spin Columns(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社)を用いて精製し、このDNAとHinc II(東洋紡績株式会社)で消化したpUC18(タカラバイオ株式会社)を混合した溶液をLigation high(東洋紡績株式会社)を用いてライゲーションした。ライゲーションしたDNAをCompetent high JM109(東洋紡績株式会社)を用いて大腸菌JM109に遺伝子導入した。100μg/mLのアンピシリンナトリウム(和光純薬工業株式会社)を含むLB寒天培地(1%トリプトン(和光純薬工業株式会社)、0.5%酵母エキス、1%塩化ナトリウム(和光純薬工業株式会社)、2%アガー(和光純薬工業株式会社)、pH 7.2)で生育したコロニーを5mLの100μg/mLのアンピシリンナトリウムを含むLB液体培地(1%トリプトン、0.5%酵母エキス、1%塩化ナトリウム、pH 7.2)に植菌し、30℃、200rpmで一晩、振盪培養を行った。LaboPass(登録商標)Mini(北海道システム・サイエンス株式会社)を用いて、その培養液からプラスミドを精製した。pUC18にインサートDNAが挿入したプラスミドをスクリーニングするために 精製したDNAを0.8% アガロースゲルを用いたアガロース電気泳動に供した。
【0066】
インサートDNAの塩基配列の解読はプライマーウォーキング法で行った。塩基配列解読にはABI PRISM(登録商標)310NT Genetic Analyzer(アプライドバイオシステムズジャパン株式会社)とBigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(アプライドバイオシステムズジャパン株式会社)を使用した。
【0067】
塩基配列を解読した結果、酵素のオープン リーディング フレーム(orf)の一部であることが推定された。そこで、全長orfの塩基配列を取得するために、解読したインサートDNAの塩基配列を基にプライマー pECM―G28P8R300 「5'CGTGTCGTCGTGACTCCCGGCTGG」(北海道システム・サイエンス株式会社)、プライマー pECM―G28P8R250 「5'GTGGTCTGGCGAGAGTGTTGTCTACCGTC」(北海道システム・サイエンス株式会社)、プライマー pECM―G28P7R270 「5'CCTAAAGGCCTTGCTATCTCGTCGCGCAC」(北海道システム・サイエンス株式会社)、及びプライマー pECM―G28P7R230 「5'GCTTCATGGGCTTGTTGTCGGGCGTCACG」(北海道システム・サイエンス株式会社)を作製した。
【0068】
目的酵素のC末端をコードする塩基配列の取得を行った。TaKaRa LA PCR(登録商標)in vitro Cloning Kit(タカラバイオ株式会社)を使用し、その説明書に従い、プライマー pECM−G28P8R300、プライマー pECM−G28P8R250、及びPst I(東洋紡績株式会社)で消化したゲノムDNA(Exophiala jeanselmei NBRC 6857より精製)を使用した。得られたDNA産物を0.8% アガロースゲルを用いたアガロース電気泳動に供し(サイズマーカーはLoading Quick(登録商標)λ/EcoR I + Hind III double digestを使用)、約2.7kbpのバンドをQuantum Prep(登録商標)Freeze’N Squeeze DNA Gel Extraction Spin Columnsを用いて精製し、このDNAとHinc IIで消化したpUC18を混合した溶液をLigation highを用いてライゲーションした。ライゲーションしたDNAをCompetent high JM109を用いて大腸菌JM109に遺伝子導入した。100μg/mLのアンピシリンナトリウムを含むLB寒天培地で生育したコロニーを5mLの100μg/mLのアンピシリンナトリウムを含むLB液体培地に植菌し、30℃、200rpmで一晩、振盪培養を行った。LaboPass(登録商標)Miniを用いて、その培養液からプラスミドを精製した。pUC18にインサートDNAが挿入したプラスミドをスクリーニングするために精製したDNAを0.8% アガロースゲルを用いたアガロース電気泳動に供した。得られたプラスミドをpECM−G51と命名した。
【0069】
インサートDNAの塩基配列の解読はプライマーウォーキング法で行った。塩基配列解読にはABI PRISM(登録商標)310NT Genetic AnalyzerとBigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kitを使用し、目的酵素のC末端の塩基配列を得た。
【0070】
次に、目的酵素のN末端をコードする塩基配列の取得を行った。TaKaRa LA PCR(登録商標)in vitro Cloning Kitを使用し、その説明書に従い、プライマー pECM−G28P7R230、プライマー pECM−G28P7R270、及びSal I(東洋紡績株式会社)で消化したゲノムDNA(Exophiala jeanselmei NBRC 6857より精製)を使用した。得られたDNA産物を1.5% アガロースゲルを用いたアガロース電気泳動に供し(サイズマーカーはDNA Ladder Marker(200bp DNA Ladder)(東洋紡績株式会社)を使用)、約0.3kbpのバンドをQuantum Prep(登録商標)Freeze’N Squeeze DNA Gel Extraction Spin Columnsを用いて精製し、このDNAとHinc IIで消化したpUC18を混合した溶液をLigation highを用いてライゲーションした。
【0071】
ライゲーションしたDNAをCompetent high JM109を用いて大腸菌JM109に遺伝子導入した。100μg/mLのアンピシリンナトリウムを含むLB寒天培地で生育したコロニーを5mLの100μg/mLのアンピシリンナトリウムを含むLB液体培地に植菌し、30℃、200rpmで一晩、振盪培養を行った。LaboPass(登録商標)Miniを用いて、その培養液からプラスミドを精製した。pUC18にインサートDNAが挿入したプラスミドをスクリーニングするために精製したDNAを0.8% アガロースゲルを用いたアガロース電気泳動に供した。インサートDNAの塩基配列の解読はプライマーウォーキング法で行った。塩基配列解読にはABI PRISM(登録商標)310NT Genetic AnalyzerとBigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kitを使用した。
【0072】
得られた塩基配列を基にプライマー pECM−G31R70「5'CTCCAAATTCTGGCCAGTACTTCGCCAC」(北海道システム・サイエンス株式会社)を作製した。TaKaRa LA PCR(登録商標)in vitro Cloning Kitを使用し、その説明書に従い、プライマー pECM−G28P7R270、プライマー pECM−G31R70、及びEcoR I(東洋紡績株式会社)で消化したゲノムDNA(Exophiala jeanselmei NBRC 6857より精製)を使用した。得られたDNA産物を0.8% アガロースゲルを用いたアガロース電気泳動に供し(サイズマーカーはLoading Quick(登録商標)λ/EcoR I + Hind III double digestを使用)、約3.2kbpのバンドをQuantum Prep(登録商標)Freeze’N Squeeze DNA Gel Extraction Spin Columnsを用いて精製し、このDNAとHinc IIで消化したpUC18を混合した溶液をLigation highを用いてライゲーションした。ライゲーションしたDNAをCompetent high JM109を用いて大腸菌JM109に遺伝子導入した。100μg/mLのアンピシリンナトリウムを含むLB寒天培地で生育したコロニーを5mLの100μg/mLのアンピシリンナトリウムを含むLB液体培地に植菌し、30℃、200rpmで一晩、振盪培養を行った。LaboPass(登録商標)Miniを用いて、その培養液からプラスミドを精製した。pUC18にインサートDNAが挿入したプラスミドをスクリーニングするために精製したDNAを0.8% アガロースゲルを用いたアガロース電気泳動に供した。得られたプラスミドをpECM−G53と命名した。
【0073】
インサートDNAの塩基配列の解読はプライマーウォーキング法で行った。塩基配列解読にはABI PRISM(登録商標)310NT Genetic AnalyzerとBigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kitを使用し、目的酵素のN末端の塩基配列を得た。
【0074】
pECM−G51及びpECM−G53より得られた塩基配列を基にプライマー CMM F1Sp「5'ATCATCAGCATGCCAGCCGAAGTCCAAGGACACACCGAAG」(北海道システム・サイエンス株式会社)及びプライマー CMM R1170Bgl(St)「5'CGTCCAAGATCTCCTTCACTGTCCTTTCAGTATCCTTC」(北海道システム・サイエンス株式会社)、プライマー CMM R1150Bgl(Fu)「5' CACTGTCAGATCTGTATCCTTCGACCCCCAAAGCCTTGTAAGC」(北海道システム・サイエンス株式会社)を作製した。Exophiala jeanselmei NBRC 6857より精製したゲノムDNAを鋳型としてKOD ―plus―(東洋紡績株式会社)を用いてPCRを行った。 プライマーはCMM F1SpとCMM R1170Bgl(St)、または、CMM F1SpとCMM R1150Bgl(Fu)を使用し、KOD ―plus―の説明書に従いPCRを行った。
【0075】
PCR産物をSph I(東洋紡績株式会社)およびBgl II(東洋紡績株式会社)で消化し、0.8%アガロースゲルを用いてアガロース電気泳動に供したところ、それぞれ約1.2kbpのバンドを確認した。このときサイズマーカーはLoading Quick(登録商標)λ/EcoR I + Hind III double digest(東洋紡績株式会社)を使用した。約1.2kbpの各々のバンドをQuantum Prep(登録商標)Freeze’N Squeeze DNA Gel Extraction Spin Columns(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社)を用いて精製した(G65インサートDNA断片またはG64インサートDNA断片)。また、pQE−70(株式会社キアゲン)をSph I及びBgl IIで消化し、0.8%アガロースゲルを用いたアガロース電気泳動に供して確認された約3.4kbpのバンドをQuantum Prep(登録商標)Freeze’N Squeeze DNA Gel Extraction Spin Columnsを用いて精製した。このときサイズマーカーはLoading Quick(登録商標)λ/EcoR I + Hind III double digestを使用した。
【0076】
この精製したpQE−70のDNA断片とG65インサートDNA断片、またはこの精製したpQE−70のDNA断片とG64インサートDNA断片をLigation highを用いてライゲーションし、Competent high JM109を用いて大腸菌JM109に遺伝子導入した。100μg/mLのアンピシリンナトリウムを含むLB寒天培地で生育したコロニーを5mLの100μg/mLのアンピシリンナトリウムを含むLB液体培地に植菌し、30℃、200rpmで一晩、振盪培養を行った。LaboPass(登録商標)Miniを用いて、その培養液からプラスミドを精製した。pQE70にインサートDNA断片が挿入したプラスミドをスクリーニングするために 精製したDNAを0.8% アガロースゲルを用いたアガロース電気泳動に供した。得られたプラスミドをそれぞれpECM−G65またはpECM−G64と命名した。
【0077】
pECM−G65のインサートDNAの塩基配列の解読はプライマーウォーキング法で行った。塩基配列解読にはABI PRISM(登録商標)310NT Genetic AnalyzerとBigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kitを使用し、インサートDNAの塩基配列を得た。
【0078】
pECM−G53とpECM−G65から得られた塩基配列から目的酵素の遺伝子(cmm遺伝子)を取得した(配列表の配列番号2)。また、cmm遺伝子がコードしている酵素のアミノ酸配列を配列表の配列番号1に示した。配列番号2に示したcmm遺伝子配列を基に、DNASIS(登録商標)Pro version 2.9を使用して相同性検索を行った。相同性検索を行った結果、相同性が高かった上位の2つの配列について、再度、DNASIS(登録商標)Pro version 2.9を使用して相同性を解析したところ、Rhodococcus ruber strain SC1(遺伝子 ID:AY052630)との相同性は62.75%、Sphingomonas wittichii RW1(遺伝子 ID:CP000699)との相同性は58.46%の相同性であった。
【0079】
また、cmm遺伝子はカルボキシルエステルを加水分解する酵素であるが、カルボキシルエステルを分解する酵素はカルボキシルエステラーゼとして知られている。カルボキシルエステラーゼとしては国際公開WO2007/128496で報告されているが、記載されている塩基配列とcmm遺伝子の相同性についてDNASIS(登録商標)Pro version 2.9を使用して解析した。国際公開WO2007/128496に記載されている配列の中で最も相同性の高かった配列はmicroorganism gene Est1の遺伝子配列であるSEQ ID No.1であった。
【0080】
DNASIS(登録商標)Pro version 2.9を使用して、microorganism gene Est1の遺伝子配列SEQ ID No.1とcmm遺伝子の相同性検索を行ったところ66.19%であった。また、microorganism gene Est1の遺伝子配列 SEQ ID No.1とRhodococcus ruber strain SC1(遺伝子 ID:AY052630)との相同性は68.47%であった。一方、国際公開WO2007/128496に記載されているmicroorganism gene Est1の遺伝子配列 SEQ ID No.1とRhodococcus ruber strain SC1(遺伝子 ID:AY052630)との相同性は65.483%であった。従って、国際公開WO2007/128496に記載されている方法でmicroorganism gene Est1の遺伝子配列SEQ ID No.1とcmm遺伝子の相同性検索を行った場合の相同性は65.483%未満であることが示唆された。
【0081】
(目的酵素発現確認および活性測定)
pECM−G65またはpECM−G64をCompetent high JM109を用いて大腸菌JM109に遺伝子導入し、それぞれ大腸菌JM109/pECM−G65または大腸菌JM109/pECM−G64とした。大腸菌JM109/pECM−G65または大腸菌JM109/pECM−G64を100μg/mLのアンピシリンナトリウムを含むLB寒天培地で生育したコロニーを5mLの100μg/mLのアンピシリンナトリウム及び1mM イソプロピル−β−D(−)−チオガラクトピラノシド(和光純薬工業株式会社)を含むLB液体培地に植菌し、37℃、200rpmで一晩、振盪培養を行った。
【0082】
培養菌体をSDS−PAGEに供した。0.1% ドデシル硫酸ナトリウムを含む12%ポリアクリルアミドゲルを使用した。電気泳動した結果、大腸菌JM109/pECM−G65および大腸菌JM109/pECM−G64は大腸菌内で約42kDaの酵素が過剰発現していることを確認した。このときサイズマーカーはSDS−PAGE Molecular Weight Standards, Broad Range(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社)を使用した。cmm遺伝子がコードしている目的酵素のサイズは約42kDaであり、目的酵素が大腸菌内で過剰発現していることが示唆された。また、上記に記載したように精製酵素の分子量は約42kDaであるため、Exophiala dermatitidis NBRC 8193から精製した酵素とExophiala jeanselmei NBRC 6857のcmm遺伝子がコードしている酵素は同じ性質のものであることが示唆された。
【0083】
また、大腸菌JM109/pECM−G64をC−Terminus pQE Vector Set(株式会社キアゲン)を使用し、C−Terminus pQE Vector Setの説明書に従い、cmm遺伝子がコードしている酵素を精製した(酵素溶液N)。酵素溶液NをSDS−PAGEに供した。0.1% ドデシル硫酸ナトリウムを含む12%ポリアクリルアミドゲルを使用した。電気泳動した結果、約42kDaの酵素が精製できたことを確認した。このときサイズマーカーはSDS−PAGE Molecular Weight Standards、Broad Rangeを使用した。
【0084】
酵素溶液Nの活性測定を行った。活性測定の反応は100mM MES Buffer(pH6.5)、0.05% CMM、及び酵素溶液Nを含む反応液を30分間、30℃で200rpmの振盪で行った。 振盪後、10% 過塩素酸を加えることにより反応を停止した。酵素反応した溶液の加水分解反応の測定はAgilent 1100 seriesを使用した。カラムはInertsil(登録商標)ODS−3(4.6×75mm)、溶離液は 50mM リン酸緩衝液(pH2.5):アセトニトリル=75:25を使用した。 流速は1.0mL/min、オーブン温度は40℃、分析時間は10分間、検出は254nmで行った。また、酵素反応した溶液の光学純度の測定はAgilent 1100 seriesを使用した。カラムはMCI(登録商標)GEL PACKED COLUMN CRS10W(4.6×50mm)、溶離液は 0.2mM 硫酸銅(II):アセトニトリル=85:15を使用した。 流速は2.0mL/min、オーブン温度は25℃、分析時間は30分間、検出は254nmで行った。このとき標品はR−2−クロロマンデル酸を使用した。
【0085】
酵素溶液NはExophiala dermatitidis NBRC 8193から精製した酵素と同様の活性を有していた。また、Exophiala dermatitidis NBRC 8193から精製した酵素と同様にR−2−クロロマンデル酸メチルエステルの選択性が99%ee以上を示したため、Exophiala dermatitidis NBRC 8193から精製した酵素とcmm遺伝子がコードしている酵素は同じ性質のものであることが示唆された。
【0086】
(形質転換体の活性測定)
大腸菌JM109/pECM−G65または大腸菌JM109/pECM−G64を100μg/mLのアンピシリンナトリウムを含むLB寒天培地で生育したコロニーを5mLの100μg/mLのアンピシリンナトリウム及び1mM イソプロピル−β−D(−)−チオガラクトピラノシドを含むLB液体培地に植菌し、37℃、200rpmで一晩、振盪培養を行った。培養液を12krpm、4℃で5分間遠心分離した後0.9% 塩化ナトリウム水溶液に懸濁し、その懸濁液の一部、10% エタノール(和光純薬工業株式会社)、50mM MES Buffer(pH6.5)及び1% CMMを含む反応液で反応を行った。反応は200rpm、30℃で30分間行い、10% 過塩素酸を加えることにより反応を停止した。
【0087】
反応終了液の加水分解反応の測定はAgilent 1100 seriesを使用した。カラムはInertsil(登録商標)ODS−3(4.6×75mm)、溶離液は 50mM リン酸緩衝液(pH2.5):アセトニトリル=75:25を使用した。 流速は1.0mL/min、オーブン温度は40℃、分析時間は10分間、検出は254nmで行った。また、反応した溶液の光学純度の測定はAgilent 1100 seriesを使用した。カラムはMCI(登録商標)GEL PACKED COLUMN CRS10W(4.6×50mm)、溶離液は 0.2mM 硫酸銅(II):アセトニトリル=85:15を使用した。流速は2.0mL/min、オーブン温度は25℃、分析時間は30分間、検出は254nmで行った。このとき標品はR−2−クロロマンデル酸を使用した。1分間にR−2−クロロマンデル酸を1μmol生成する活性を1Uとした。反応液を分析した結果、大腸菌JM109/pECM−G65及び大腸菌JM109/pECM−G64の活性は培養液1mLあたり21Uであり同じ活性を示した。この大腸菌JM109/pECM−G65の活性と5mLのGPY液体培地で培養しExophiala jeanselmei NBRC 6857の活性と比較したところ、大腸菌JM109/pECM−G65の活性は552倍高い活性であった。
【0088】
光学純度に関してはExophiala dermatitidis NBRC 8193から精製した酵素、5mLのGPY液体培地で培養したExophiala jeanselmei NBRC 6857の培養菌体、cmm遺伝子を過剰発現した大腸菌JM109/pECM−G65及び大腸菌JM109/pECM−G64の培養菌体はすべてR−2−クロロマンデル酸メチルエステルの選択性が99%ee以上を示したため、Exophiala dermatitidis NBRC 8193から精製した酵素とcmm遺伝子がコードしている酵素は同じ性質のものであることが示唆された。
【0089】
大腸菌JM109/pECM−G65を100mLの100μg/mLのアンピシリンナトリウム及び1mM イソプロピル−β−D(−)−チオガラクトピラノシドを含むLB液体培地に植菌し、37℃、200rpmで12時間、フラスコ振盪培養を行った。培養液を12krpm、4℃で5分間遠心分離した後100mLの0.9% 塩化ナトリウム水溶液に懸濁し、5mLを恒温槽に設置した4口フラスコに投入し、0.9%塩化ナトリウム水溶液85mLを加えた。撹拌下、徐々に10gのCMMを投入した。その4口フラスコを30℃に維持し、pHは28%NaOHにて調整した。24時間後、溶液をHPLCに供した。Agilent 1100 seriesを使用した。カラムはInertsil(登録商標)ODS−3(4.6×75mm)、溶離液は 50mM リン酸緩衝液(pH2.5):アセトニトリル=75:25を使用した。流速は1.0mL/min、オーブン温度は40℃、分析時間は10分間、検出は254nmで行った。
【0090】
反応した溶液の光学純度の測定はAgilent 1100 seriesを使用した。カラムはMCI(登録商標)GEL PACKED COLUMN CRS10W(4.6×50mm)、溶離液は0.2mM 硫酸銅(II):アセトニトリル=85:15を使用した。 流速は2.0mL/min、オーブン温度は25℃、分析時間は30分間、検出は254nmで行った。このとき標品はR−2−クロロマンデル酸を使用した。1分間にR−2−クロロマンデル酸を1μmol生成する活性を1Uとした。反応液を分析した結果、精製した2−クロロマンデル酸はR体であり、光学純度は94.5%eeであった。
【0091】
(基質特異性)
Exophiala dermatitidis NBRC 8193由来精製酵素の基質特異性を調べるために、以下のように基質を合成した。
メタノールを使用して3−クロロマンデル酸(和光純薬工業株式会社)または、フェニル乳酸(和光純薬工業株式会社)、アトロラクチン酸(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社)、4−クロロマンデル酸(和光純薬工業株式会社)、4−メトキシマンデル酸(和光純薬工業株式会社)をエステル化し、3−クロロマンデル酸メチルエステルまたは、フェニル乳酸メチルエステル、アトロラクチン酸メチルエステル、4−クロロマンデル酸メチルエステル、4−メトキシマンデル酸メチルエステルを合成した。
エタノール(和光純薬工業株式会社)を使用して2−クロロマンデル酸をエステル化し、2−クロロマンデル酸エチルエステルを合成した。
イソプロパノール(東京化成工業株式会社)を使用して、2−クロロマンデル酸をエステル化し、2−クロロマンデル酸イソプロピルエステルを合成した。
ベンジルアルコール(東京化成工業株式会社)を使用して、2−クロロマンデル酸をエステル化し、2−クロロマンデル酸ベンジルエステルを合成した。
【0092】
基質特異性を解析するための活性測定の反応は100mM MES Buffer(pH6.5)、0.2% 酵素溶液Sを含む溶液に0.05% CMMまたは、3−クロロマンデル酸メチルエステル、フェニル乳酸メチルエステル、アトロラクチン酸メチルエステル、マンデル酸メチルエステル(関東化学株式会社)、2−クロロマンデル酸エチルエステル、2−クロロマンデル酸イソプロピルエステル、2−クロロマンデル酸ベンジルエステル、4−クロロマンデル酸メチルエステル、4−メトキシマンデル酸メチルエステルを加え30℃で30分間200rpmの振盪で行った。振盪後、10% 過塩素酸を加えることにより反応を停止した。
【0093】
酵素反応した溶液の加水分解反応の測定はAgilent 1100 seriesを使用した。カラムはInertsil(登録商標)ODS−3(4.6×75mm)を使用した。CMMまたは、3−クロロマンデル酸メチルエステル、フェニル乳酸メチルエステル、アトロラクチン酸メチルエステル、マンデル酸メチルエステル、2−クロロマンデル酸エチルエステル、2−クロロマンデル酸イソプロピルエステル、2−クロロマンデル酸ベンジルエステル、4−クロロマンデル酸メチルエステル、4−メトキシマンデル酸メチルエステルを基質とした場合は、溶離液は 50mM リン酸緩衝液(pH2.5):アセトニトリル=75:25を使用し、流速は2.0mL/min、オーブン温度は40℃、分析時間は20分間、検出は254nmで行い、DL−2−ヒドロキシ酪酸メチルエステルまたは、乳酸メチルエステルを基質とした場合は、溶離液は 50mM リン酸緩衝液(pH2.5):アセトニトリル=90:10を使用し、流速は1.0mL/min、オーブン温度は40℃、分析時間は20分間、検出は254nmで行った。
【0094】
酵素反応した溶液の光学純度の測定はAgilent 1100 seriesを使用した。3−クロロマンデル酸メチルエステルまたは、フェニル乳酸メチルエステル、アトロラクチン酸メチルエステル、マンデル酸メチルエステル、2−クロロマンデル酸エチルエステル、2−クロロマンデル酸イソプロピルエステル、2−クロロマンデル酸ベンジルエステル、4−クロロマンデル酸メチルエステル、4−メトキシマンデル酸メチルエステルを基質とした場合は、カラムはMCI(登録商標)GEL PACKED COLUMN CRS10W(4.6×50mm)、溶離液は 0.2mM 硫酸銅(II):アセトニトリル=85:15を使用し、流速は2.0mL/min、オーブン温度は25℃、分析時間は120分間、検出は254nmで行った。2−ヒドロキシ−n−オクタン酸メチルエステルを基質とした場合は、カラムはCHIRALPAK AD−RH(和光純薬工業株式会社)、溶離液は 50mM リン酸緩衝液(pH2.5):アセトニトリル=60:40を使用し、流速は0.5mL/min、オーブン温度は25℃、分析時間は20分間、検出は254nmで行った。活性測定した結果、すべての化合物について反応が進行することが確認された。CMMを基質とした場合の活性を基準とした場合の相対活性および光学活性選択性を表1に示した。
【0095】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I):
【化1】

〔式中、Aは5員又は6員の環状化合物の残基を示し、該環状化合物は芳香族化合物、部分飽和環状化合物、又は飽和環状化合物から選択され、環構成原子として1個以上のヘテロ原子を有していてもよく、環上には置換基を有していてもよく(該置換基はハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜4個のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜4個のアルキルオキシ基、及び保護基で保護されていてもよい水酸基、保護基で保護されていてもよいアミノ基、ニトロ基からなる群から選ばれる1又は2個以上の置換基であり、2個以上の置換基が存在する場合にはそれらは同一でも異なっていてもよく、2個以上の置換基が存在する場合にはそれらが結合して環を形成してもよい)、Xは水素原子又は炭素数1〜4個のアルキル基を示し、Rは炭素数1〜4個のアルキル基(該アルキル基はアリール基で置換されていてもよい)を示し、ただし、一般式(I)で表される化合物は**で示される炭素原子について光学的に純粋ではない〕
で表される化合物を加水分解して下記の一般式(II):
【化2】

〔式中、A及びXは上記定義と同義であり、*はS又はRのいずれかの立体配置を有する炭素原子を示す〕で表される化合物を製造することができる酵素。
【請求項2】
請求項1に記載の酵素であって、
(a)配列表の配列番号1に記載されたアミノ酸配列を有するタンパク質;又は
(b)配列表の配列番号1に記載されたアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質
からなる酵素。
【請求項3】
Aがクロロフェニル基であり、Rが炭素数1〜4個のアルキル基又はベンジル基であり、Xが水素原子であり、*で表される炭素原子がR配置である化合物を製造することができる請求項1又は2に記載の酵素。
【請求項4】
エクソフィアラ・デルマチチジス(Exophiala dermatitidis)またはエクソフィアラ・ジーンセルメイ(Exophiala jeanselmei)由来の請求項1ないし3のいずれか1項に記載の酵素。
【請求項5】
配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換、及び/又は付加を有するアミノ酸配列を有するタンパク質からなる請求項2又は3に記載の酵素。
【請求項6】
請求項2又は5のいずれか1項に記載の酵素をコードする核酸。
【請求項7】
請求項2に記載の(a)に記載のアミノ酸配列をコードする請求項6に記載の核酸。
【請求項8】
配列表の配列番号2に記載された塩基配列を含む請求項6に記載の核酸。
【請求項9】
配列表の配列番号2に記載された塩基配列と80%以上の相同性を有する塩基配列を含む請求項6に記載の核酸。
【請求項10】
配列表の配列番号2に記載された塩基配列により特定される核酸に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする請求項6に記載の核酸。
【請求項11】
請求項6ないし10のいずれか1項に記載の核酸を含む組み換えベクター。
【請求項12】
請求項11に記載の組み換えベクターを有する形質転換体。
【請求項13】
請求項12に記載の形質転換体を培養し、得られた培養物から上記酵素を分離採取する工程を含む請求項1ないし5のいずれか1項に記載の酵素の製造方法。
【請求項14】
請求項1に記載の一般式(II)で表される化合物の製造方法であって、請求項1に記載の一般式(I)で表される化合物を請求項1ないし5のいずれか1項に記載の酵素および/または請求項13に記載の形質転換体若しくは培養物、又はその処理物若しくはその抽出物により不斉加水分解する工程を含む方法。

【公開番号】特開2009−232693(P2009−232693A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−79514(P2008−79514)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(390010205)第一ファインケミカル株式会社 (23)
【Fターム(参考)】