説明

新規排ガス浄化用触媒

【課題】従来困難であったディーゼル排NOxを効率的に浄化処理するための新規触媒を提供する。
【解決手段】リーンバーン内燃機関の排ガスを多孔性の多層構造機能性触媒[NOx酸化触媒層/NOx吸着剤層/NOx選択還元触媒層]によって浄化処理する。従来困難であったリーンバーン雰囲気(通常、5%以上の酸素濃度雰囲気)にあるNOxを180℃〜500℃で効率的に浄化処理できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排ガスに含まれるNOxを浄化するための排ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガソリン車の排ガスに含まれるNOx、一酸化炭素、及び炭化水素は、白金族元素から成る三元触媒によって浄化されている(特許文献1参照)。三元触媒の主成分である白金族触媒は、酸素濃度が1%以下であるリッチバーン排ガス中のNOをNOに酸化する能力が高く、NOを還元性物質によってNO及び窒素に還元する能力も高く、又、還元性物質を酸素によって完全酸化する能力も高い。三元触媒は、通常、触媒支持体としてコージェライト製のモノリス成形体を用い、該成形体のガス流路内壁に数μm〜数十μmの大きさの活性アルミナ粒子を塗布し、該塗布層に数10nm〜数100nmの大きさの白金−パラジウム−ロジウム粒子を担持させた構造となっている。三元触媒による浄化方法は、空気:燃料の重量混合比である空燃比を理論空燃比(=14.7)近傍に制御することで(この燃焼はリッチバーンと呼ばれている)排ガスに含まれる酸素濃度を1%以下に維持できるので、排ガスに含まれる一酸化炭素及び炭化水素をNOxの還元剤として利用できるという利点を持つが、排ガス中の酸素濃度が数%以上になると触媒の著しい酸化劣化が生じるという問題がある。
【0003】
また、軽油燃料で走行するトラック、バス等の大型ディーゼル車の排ガス処理は、触媒として遷移金属化合物及び又は白金族元素を用い還元剤として尿素水を用いる、所謂尿素SCR法が検討されている(特許文献2参照)。この方法は、100℃付近の比較的低温領域から600℃付近の比較的高温領域に渡ってNOxを効率的に浄化できるという利点を持つが、還元剤として高価な尿素水の搭載が必要であるという問題と、200℃付近以下の低温排NOxの多くが硝酸アンモニウムとして排出されるので水質環境汚染を招くという問題がある。
【0004】
尿素水以外の還元剤を用いる方法としては、自動車燃料(燃料に少量含有されるエチレン、プロピレン等の炭化水素が還元性を有する)を還元剤として用いるハイドロカーボンSCR法が検討されており、この方法はリッチバーン排NOxに対しては高い浄化率が得られるが、リーンバーン排NOxに対しては多量の還元剤が必要なので燃費上の問題がある。また、メタノールを還元剤として用いる方法が提案されているが(非特許文献1参照)、反応開始温度が300℃以上であるという問題がある。さらに、最近では、燃料を改質触媒で改質後に、排ガスに導入して排ガス浄化用触媒によって排NOxを処理する方法が提案されているが(特許文献4及び非特許文献2参照、)、反応開始温度が300℃以上であるという問題がある。また、ディーゼル排ガス等の排NOx浄化用に研究されているゼオライト担持触媒は、水熱条件下での水分及び酸素によって著しく活性が低下するという問題がある。
【0005】
一方、ディーゼル乗用車等の小型ディーゼル車の排NOx処理には三元触媒が使用できない。それは、空燃比がガソリンの空燃比の数倍以上であるので(ディーゼル燃料の燃焼はリーンバーンである)ディーゼル排ガス中の酸素濃度が通常5%以上であり還元性物質がほとんど含まれていないためである。同様の理由でリーンバーンガソリン車の排ガスも三元触媒だけでは浄化が難しい。三元触媒の主成分である白金族触媒は、前述の如く、NOをNOに酸化する能力が高いが、NOを還元性物質によってNO及び窒素に還元する能力も高く、又、還元性物質を酸素によって完全酸化する能力も高いので、従来の白金を主体とした触媒を酸素濃度の高いリーンバーンの排ガスと直接接触させる触媒構造で
は、リーンバーン排ガスに燃焼しやすい水素、一酸化炭素、ハイドロカーボン等の還元性物質を供給した場合でもNOxの処理温度帯域がおよそ200℃〜250℃の非常に狭い領域に限定されるという問題があった。一方、遷移金属酸化物触媒は実用に供されていないが、酸化還元力が白金よりも低いので、250℃〜400℃の範囲がNOxの処理温度帯域であることが報告されている。従来、処理温度帯域を拡大するために上記白金族触媒と遷移金属酸化物触媒を混合することが検討されているが、単に混合するだけでは目的を達成ことはできなかった。その理由として、混合触媒における白金触媒の酸化力が強すぎるために排ガス成分に含まれる還元性物質の殆どが白金触媒によって消費されてしまうからであると考えられる。リーンバーンガソリン車及び小型ディーゼル車の排NOx処理には、現在、触媒として白金族触媒にNOx吸蔵剤を添加した所謂NOx吸蔵還元触媒が検討されている(特許文献3参照)。この方法は、内燃機関がリーンバーンとリッチバーンを交互に繰り返す燃焼方式を行い、リーンバーン排NOxをNOx吸蔵剤で吸収し、吸収NOxをリッチバーン雰囲気下で放出させ、放出NOxをリッチバーン排ガス中に供給した燃料もしくはリッチバーン排ガス中に存在する多量の一酸化炭素、水素、炭化水素等の還元性物質を用い白金族触媒で還元処理するという考えに立脚している。リーンバーンとリッチバーンを交互に繰り返す燃焼方式とNOx吸蔵還元触媒を用いた浄化方法は、ガソリン乗用車の排ガス処理に用いられている三元触媒が使用できないような高濃度の酸素雰囲気中でも250℃付近から600℃付近に渡ってNOxを浄化できるという利点を持つが、200℃付近以下でのNOx浄化は非常に困難であるという問題があり、また、排ガス中の水分及び少量のSOxによってNOx吸蔵剤が著しく劣化するので、定期的な高温処理による触媒再生が必要であるという問題がある。これは、NOx吸蔵還元触媒の化学的性質に原因がある。リーンバーン雰囲気でNOを吸収するためのNOx吸蔵剤は、強塩基性のアルカリ金属やアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩等であるので、NOもしくは硝酸はこれらの金属化合物とマイルドな温度で容易に反応して硝酸塩として吸収される。リッチバーン雰囲気では、これらの硝酸塩が分解して元の金属化合物と遊離のNOを発生する。そのため排ガスの処理温度はNOx吸蔵剤である金属化合物の硝酸塩の分解温度に完全に依存している。公知のNOx吸蔵剤の分解温度は250℃以上であり、200℃以下で作動するような金属化合物は知られていない。また、上記金属化合物は水溶性でありSOxとも容易に反応して不活性な硫酸塩になるからである。
【0006】
ところで、国内ではディーゼル乗用車の排出する排ガスの温度は過渡走行時でおよそ120℃〜200℃であり安定走行時でおよそ200℃〜400℃であるが、排出されるNOxの約80%が過渡走行時に排出されている。
以上のことから、ディーゼル乗用車の排ガス処理に要求される触媒は、上記120℃〜200℃の低温領域のリーンバーン排NOxに対して高活性を有する触媒であることが望まれているが、現在の所、250℃以下のリーンバーン排NOxに対して有効な排NOx浄化触媒は見出されていない。また、低温から中温領域でのNOx浄化の大部分が、非常に大きな温暖化係数をもつ一酸化二窒素(NO)の段階で止まっているという問題も解決されていない。
【0007】
一般に、工業的な触媒は多孔性材料に担持した状態で使用されることが多い。多孔性材料の細孔は、IUPAC(国際純正及び応用化学連合)によると、細孔直径が2nm以下のミクロ細孔、2〜50nmのメソ細孔、及び50nm以上のマクロ細孔に分類されている。ミクロからメソの範囲にわたる広い分布をもつような単一の多孔性材料は活性炭以外には知られていない。
近年、細孔径が数nmの細孔が規則的に配列し、比表面積が400〜1100m/gという非常に大きな値を有するシリカ、アルミナ、及びシリカアルミナ系のメソポーラス分子篩が開発された。これらは、例えば、特許文献1、2、及び3等に開示されており、細孔の細孔配列があたかも結晶性物質の原子配列に類似していることから結晶性メソポーラス分子篩と命名されている。
【0008】
触媒反応は表面反応であるので触媒の比表面積が大きいほど触媒活性が高い。また、触媒を担持するための担体は比表面積が大きいほど触媒活性を発現しやすい。このような観点から自動車用三元触媒をみると、支持体としてのモノリス成形体は成形体の断面が網目状で、軸方向に平行に互いに薄い壁によって仕切られたガス流路を設けている成形体であり、比表面積が約0.2m/g、担体としてのアルミナ粒子の比表面積が110〜340m/gであり、触媒の比表面積は粒径から20〜40m/g程度であると推定される。したがって、従来の触媒粒子の粒径よりも一桁から二桁小さいナノサイズの触媒粒子を上記のようなメソポーラス材料の細孔内に担持することによって触媒の表面積は従来の三元触媒の10〜10倍大きくなるので、これをモノリス成形体に塗布することによって自動車排ガスに対する触媒活性の向上を図ることが考えられ、この考えは、例えば、特許文献5〜10に開示されている。しかし、ディーゼル乗用車等が排出する120℃〜200℃付近の低温排NOxを効果的に除去することは困難であった。
【0009】
【特許文献1】特開平5−254827号公報
【特許文献2】特表平5−503499号公表
【特許文献3】特表平6−509374号公表
【特許文献4】WO2005/103461号公報
【特許文献5】米国特許第5,143,707号明細書
【特許文献6】特開平8−257407号公報
【特許文献7】特開2001−9275号公報
【特許文献8】特開2002−210369号公報
【特許文献9】特開2002−320850号公報
【特許文献10】特開2003−135963号公報
【非特許文献1】Applied Catalysis B:Environmental17(1998)115−129.
【非特許文献2】Applied Catalysis B:Environmental17(1998)333−345.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記の事情に鑑み、従来困難であった低温領域のリーンバーン排NOxを効率的に浄化するための新規触媒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、多孔性NOx酸化触媒層、多孔性NOx吸着剤層、及び多孔性NOx選択還元触媒層を機能的に積層した多層構造の機能性触媒がリーンバーン排NOxに対して非常に有効であることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、
(1)内核に設けた多孔性NOx酸化触媒層とその上に設けた多孔性NOx選択還元触媒層から成る多層構造の機能性触媒であることを特徴とする排ガス浄化用触媒、
(2)多孔性NOx酸化触媒層と多孔性NOx選択還元触媒層の中間に多孔性NOx吸着剤層を設けた多層構造の機能性触媒であることを特徴とする上記(1)に記載の排ガス浄化用触媒、
(3)多孔性NOx酸化触媒層における触媒がミクロ・メソポーラス材料に白金族元素を担持したミクロ・メソポーラスNOx酸化触媒であり、多孔性NOx選択還元触媒層における触媒がマクロ・メソポーラス材料に遷移金属酸化物を担持したマクロ・メソポーラスNOx選択還元触媒であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の排ガス浄化用触媒、
(4)多孔性NOx吸着剤層における吸着剤がメソポーラス材料にインジウム合金を担持したメソポーラス吸着剤であることを特徴とする上記(2)又は(3)に記載の排ガス浄化用触媒、
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の排ガス浄化用触媒は、従来達成できなかったリーンバーン排NOx処理を低温領域でも極めて効率よく行うことができる。例えば、三元触媒では酸素濃度10%の雰囲気下におけるNOxはほとんど浄化できないが、本発明であるミクロ・メソポーラス白金触媒、メソポーラスインジウム合金、及びマクロ・メソポーラスコバルト酸化物触媒を順次積層した三層構造の機能性触媒は、酸素濃度10%のリーンバーン排ガスに対してNOxの60%以上を180℃〜500℃において浄化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
前述の如く白金族触媒を主成分とする三元触媒と遷移金属酸化物触媒の単なる混合触媒では、リーンバーン排NOx処理温度帯域を200℃以下の低温領域から400℃の中温領域に渡る広範な領域に拡大することができなかった。
本発明の触媒は、上記の問題を解決するために触媒の機能分離を行っていることに工夫がある。すなわち、本発明は、リーンバーンの内燃機関が排出するNOxを効率的に浄化するために、内核に設けた多孔性NOx酸化触媒層とその上に設けた多孔性NOx選択還元触媒層から成る多層構造の機能性触媒を提供するものであり、該NOx酸化触媒層とNOx選択還元触媒層の中間に多孔性NOx吸着剤層を設けた三層構造の機能性触媒をさらに好ましい機能性触媒として提供する。該機能性触媒におけるNOx酸化触媒層の役割は、リーンバーン雰囲気中のNOx(主としてNO)をより酸化度の高いNOx(主としてNO)に酸化することであり、NOx吸着剤層の役割は、NOx酸化触媒層によって生成したNOxを吸脱着することであり、NOx選択還元触媒層の役割は、NOx吸着剤層から放出されるNOxを還元性物質によって窒素及びNOに選択還元することである。それぞれの層は多孔性であり、上層のNOx選択還元触媒層は、排ガス中の成分の殆どを透過させるためにマクロ・メソポーラスであることが好ましい。中層のNOx吸着剤層は、NOxと酸素を選択的に透過させ還元性物質の透過を抑制するためにメソポーラスであることが好ましい。下層のNOx酸化触媒層は、NOxと酸素を選択的に透過させ還元性物質の透過を抑制するためにミクロ・メソポーラスであることが好ましい。下層のNOx酸化触媒層では酸素によるNOxの酸化が選択的に行われ還元性物質の無駄な消費が抑制される。上層のNOx選択還元触媒層では、より酸化力の高いNOx(NOよりもNOの方が酸化力が高い)が還元性物質によって選択的に還元処理される。中間層のNOx吸着剤層では飽和吸着に至るまではNOxを吸着し飽和吸着以上になるとNOxを放出するので上層の触媒層におけるNOx濃度の調整機能を持つ。すなわち、本発明触媒は、NOx除去のための触媒機能と排ガス成分の選択的透過性の機能を併せ持った全く新しい機能性触媒である。
【0014】
上記のそれぞれの触媒層及び吸着剤層は、排ガス成分の選択的透過性の役割を果たすために各層の厚みが適切な範囲に設定される。一般に多孔性材料にガスを通過させる時の多孔性材料の厚みは、ガス拡散速度に関係した多孔性材料の細孔径、ガス拡散係数、ガスの濃度勾配によって見積もることができるので、本発明の各層の厚みは、ミクロ・メソポーラスNOx酸化触媒層については10nm〜200nmの範囲にあることが好ましく、メソポーラス吸着剤層については10nm〜500nmの範囲にあることが好ましく、マクロ・メソポーラスNOx選択還元触媒層については100nm〜10μmの範囲にあることが好ましい。
【0015】
本発明では、それぞれの触媒層における触媒の選択が非常に重要である。下層のNOx酸化触媒層におけるNOを酸化してNOにするための触媒としては、白金族触媒であることが好ましく、該触媒層は酸素とNOを選択的に透過できる構造をもつ。白金族触媒とは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、及び白金の6元素の総称である白金族元素の触媒であり、これらの中で、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金が好ましく、中でも白金が最も好ましい。通常、本発明では、白金主体の触媒を用いるが、その理由は、触媒の主成分である白金が排NOxの主成分であるNOをNOに酸化する能力が高く、高濃度の酸素雰囲気中でも化学的に安定であり、又、白金族元素の中では白金が比較的低温高活性であるからでもある。
【0016】
上層のNOx選択還元触媒層におけるNOを還元性物質によって還元するための触媒としては、各種のヘテロポリリン酸塩、過酸化物、水素化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、金属状の遷移元素、及び遷移金属酸化物を挙げることができるが、これらの中で遷移金属酸化物が好ましく、NOの酸化よりもむしろNOの選択還元を行うことができる。上層に遷移金属酸化物触媒を設けるのは、NOxの主成分がNOであれば180℃付近で還元反応が著しくなり400℃の高温領域に渡って触媒性能を発揮することを見出したからである。遷移金属酸化物触媒の遷移元素としては、周期律表における3族〜11族の元素が挙げられるが、これらの中でバナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ニオブ、モリブデン、銀、タングステン、レニウム、が好ましく、中でも鉄、コバルト、タングステンが最も好ましい。これらの酸化物は単一成分で用いることもあるが、複数の元素から成る複酸化物であってもよいし、ランタノイド元素を含むペロブスカイト構造の複酸化物であってもよい。遷移金属酸化物触媒に異なる機能をもつ助触媒的成分を添加することによってシナジー効果による触媒性能の向上をはかることもできる。このような成分として、例えば、1族〜3族の元素を挙げることができ、これらの中で、アルカリ元素、又は、アルカリ土類元素の金属、酸化物、水酸化物、炭酸塩、及び重炭酸塩などは、還元剤としてアルコールを用いる場合、アルコールの改質反応を促進する効果をもつので好ましい。これらの助触媒的成分の添加質量は、通常、白金の0.01倍から100倍程度であるが、必要に応じて100倍以上であってもよい。
【0017】
また、NOx酸化触媒層とNOx選択還元触媒層の中間にNOx吸着剤層を設けるのは、NOx選択還元触媒層に供給されるNOの濃度調整を行うことがNOx処理温度帯域の拡大を実現するために好ましいことを見出したからである。NOx吸着剤の吸着と脱着の性質は、活性炭などの吸着剤の性質と同様、吸着物質の濃度には依存するが温度にはあまり依存しないので、NOx吸着剤層ではリーンバーン雰囲気では室温付近からNOxの吸着が始まり、NOx還元触媒による処理によってNOx濃度が低くなっている雰囲気では容易にNOxを脱着することができる。脱着NOxはNOx還元触媒によって還元処理される。したがって、本発明浄化用触媒が有効な排ガス温度は、NOx酸化及び選択還元触媒の活性温度にほとんど依存しており、その下限温度はおよそ160℃である。また、NOx吸着剤は、排ガス中に少量含まれるSOxも吸着するが容易に脱着するのでSOxによる触媒被毒はほとんどない。NOx吸着剤としては、窒化炭素化合物、炭窒化ホウ素化合物、窒化ホウ素、炭窒化ケイ素、炭化ホウ素、窒化物、炭化物、ホウ化物、活性炭、金属及び合金、及びゼオライトを挙げることができる。窒化炭素化合物としては、トリアジン環の1,3,5位がNH基で結合した平面構造のカーボンナイトライド、及びトリストリアジン環の1,5,9位がNH基で結合した平面構造のカーボンナイトライドを挙げることができる。炭窒化ホウ素化合物としては、黒鉛類似の構造をもつカーボンボロンナイトライドを挙げることができる。窒化物としては、窒化ケイ素、窒化酸化ケイ素(=シリコンオキシナイトライド)、窒化アルミニウム、遷移金属窒化物(窒化チタン、窒化酸化チタン、窒化バナジウム、窒化ジルコニウム、窒化クロム、窒化タングステン、窒化モリブデン、窒化鉄、窒化マンガン、窒化コバルト、窒化ニッケルの総称)、窒化スカンジウム、窒化ハフニウム、窒化ニオブ、窒化タンタル、及び窒化セリウム等の希土類元素の窒化物、を挙げることができる。金属及び合金としては、周期律表における1族〜14族の元素の金属及び合金を挙げることができる。ゼオライトとしては、天然ゼオライト及び合成ゼオライト(ゼオライトA、ゼオライトX、ゼオライトY、ゼオライトL、モルデナイト、ZSM−5、及び他の元素から成るゼオライト様の性質・構造をもつ化合物の総称)を挙げることができる。これらの中で、窒化炭素化合物、炭窒化ホウ素化合物、遷移金属窒化物、13属元素の金属及びその合金、及びゼオライトが好ましい吸着剤である。13属元素の金属及びその合金の中では、金属インジウム及びインジウム合金が最も好ましい。窒化炭素化合物、及び炭窒化ホウ素化合物を構成する窒素原子は孤立電子対をもつので、これがNOxの吸着サイトであると考えられる。遷移金属窒化物は、結合電子密度が窒素原子のほうに偏っているので、NOxが吸着しやすいものと考えられる。インジウムは最外殻電子不足の元素であるのでNOxが吸着しやすいものと考えられる。また、ゼオライトはアンモニア等を吸着する陽イオン交換能を持つので、その陽イオンにNOが吸着するものと考えられる。また、これらの化合物に配位結合やイオン結合によって陽イオンを導入したものもNOx吸着性に優れているので好ましい。上記のNOx吸着剤がNOxを吸着する性質をもつことは、NOx存在下での材料の質量増加を測定することによって実証される。またNOxの吸着であってNOxの吸収ではないことは、吸着後の材料の赤外吸収スペクトルがNOxの特性基振動数を示すが硝酸イオンあるいは亜硝酸イオンの特性基振動数を示さないことから実証される。
【0018】
本発明触媒は多孔性であり、ミクロ・メソポーラスNOx酸化触媒とは、細孔の大部分が2nm以下のミクロ領域から50nmのメソ領域に渡る細孔分布をもつ担体材料にNOx酸化触媒を担持した触媒をいう。細孔分布は、通常、平均細孔径(直径表示)で表示されるので、担体材料の平均細孔径の好ましい範囲は、0.4〜10nmの範囲にあり、より好ましくは1〜5nmの範囲にある。該平均細孔径は、触媒を担持する観点から0.4nm以上であることが好ましく、NOx及び酸素の選択透過の観点から10nm以下であることが好ましい。メソポーラスNOx吸着剤とは、細孔の大部分が2nm〜50nmのメソ領域に渡る細孔分布をもつ担体材料に吸着剤を担持したものをいう。担体材料の平均細孔径の好ましい範囲は、2〜10nmの範囲にあり、より好ましくは2〜5nmの範囲にある。該平均細孔径は、吸着剤を担持する観点から2nm以上であることが好ましく、NOx及び酸素の選択透過の観点から50nm以下であることが好ましい。又、マクロ・メソポーラスNOx選択還元触媒とは、細孔の大部分が2nm〜50nmメソ領域と50nm超のマクロ領域の細孔分布をもつ担体材料にNOx選択還元触媒を担持した触媒をいう。担体材料の平均細孔径の好ましい範囲は、2nm〜10μmの範囲にあり、より好ましくは10nm〜1μmの範囲にある。該平均細孔径は、炭化水素の透過の観点から2nm以上であることが好ましく、触媒の均一担持の観点から10μm以下であることが好ましい。尚、ここでいう細孔の大部分とは所望とする細孔が占める細孔容積が全細孔容積の60%以上であることをいう。
【0019】
さらに上記担体材料は、高比表面積であることが好ましい。そこに担持される触媒の比表面積を飛躍的に高められること、触媒を細孔内に担持することで触媒粒子の再凝集を抑制し触媒の均一高分散を図れること、などの優れた効果があるからである。担体材料の比表面積は、特別な事情がない限り高ければ高いほどよい。本発明に用いることのできる担体材料の比表面積は100〜4000m/gであり、好ましくは200〜3000m/g、さらに好ましくは、400〜2000m/gである。比表面積が担持触媒の触媒性能を引き出す上で100m/g以上であることが好ましい。担体材料の細孔に担持される触媒の粒径は、細孔径とほぼ同程度ないしそれ以下であるので、前記の細孔径の範囲は、高活性を発現する触媒の粒径範囲とも一致している。一般に、ナノサイズに微粒化された触媒粒子は、活性を示すエッジ、コーナー、ステップなどの高次数の結晶面を多量にもつので、触媒活性が著しく向上するだけでなく、バルクでは触媒活性を示さないような不活性金属でも予期しなかった触媒活性を発現する場合があることが知られている。した
がって、触媒能力の観点からは触媒は小さいほど好ましいのであるが、反面、微粒化による表面酸化、副反応などの好ましくない性質もでてくるので、微粒子の粒子径には最適範囲が存在する。本発明における目的のNOx浄化処理に対して効果的な活性を示す触媒の平均粒径は0.4〜50nmの範囲にあり、1〜20nmの範囲が好ましく、1〜10nmの範囲が特に好ましい。
【0020】
以上のような比表面積と細孔分布を併せ持った担体材料としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、カルシア、セリア、ニオビア、活性炭、多孔質黒鉛などを挙げることができ、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、カルシア、セリア、活性炭、及びこれらの複合材料が好ましく、シリカ、アルミナ、マグネシア、活性炭、及びこれらの複合材料がさらに好ましい。なお、上記担体材料の比表面積は、吸脱着の気体として窒素を用いたBET窒素吸着法によって測定される値であり、細孔径は、吸脱着の気体として窒素を用いた窒素吸着法によって測定される値でありBJH法によって求められる1〜200nmの範囲の細孔分布(微分分布表示)で示される。
【0021】
担体材料にNOx酸化触媒、吸着剤、又はNOx選択還元触媒を担持する時の触媒、又は吸着剤の担持量は0.01〜20質量%であり、好ましくは0.1〜10質量%であるが、量的な問題がなければ、通常は、1ないし数質量%の担持量で用いる。担持量は20質量%以上でも可能であるが、担持量が過剰になると反応にほとんど寄与しない細孔深部の触媒又は吸着剤が増えるので20質量%以下が好ましい。0.01質量%未満では活性が十分ではないので0.01質量%以上が好ましい
【0022】
本発明機能性触媒の製造は、通常、従来の方法である界面活性剤のミセルをテンプレートとして用いるゾル−ゲル法を応用することによって製造することができる。この方法では、最初に内核であるミクロ・メソポーラスNOx酸化触媒層を作製し、これに順次メソポーラス吸着剤層、マクロ・メソポーラスNOx選択還元触媒層をゾル−ゲル法によって積層していくことによって製造する。内核であるミクロ・メソポーラスNOx酸化触媒は、ミクロ・メソポーラス担体材料の前駆物質とテンプレートとしての界面活性剤を用いるゾル−ゲル法によって製造したミクロ・メソポーラス担体材料に触媒活性成分を担持することによって作製する。次に、この触媒を核にして同様にしてゾル−ゲル法によってメソポーラス吸着剤層を積層し、さらにこの触媒を核にして同様にしてゾル−ゲル法によってマクロ・メソポーラス選択還元触媒層を積層する。各層における担体材料の前駆物質には、メソポーラスシリカの場合、通常、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−i−ブトキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−t−ブトキシシラン等のアルコキシドを用いる。メソポーラスアルミナ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、カルシア、セリア、ニオビアについても、通常、アルコキシドを用いて製造することができる。ミセル形成の界面活性剤は、例えば、長鎖のアルキルアミン、長鎖の4級アンモニウム塩、長鎖のアルキルアミンN−オキシド、長鎖のスルホン酸塩、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等のいずれであってもよい。溶媒として、通常、水、アルコール類、ジオールの1種以上が用いられるが、水系溶媒が好ましい。反応系に金属への配位能を有する化合物を少量添加すると反応系の安定性を著しく高めることができる。このような安定剤としては、アセチルアセトン、テトラメチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸、ピリジン、ピコリンなどの金属配位能を有する化合物が好ましい。前駆物質、界面活性剤、溶媒及び安定剤からなる反応系の組成は、前駆物質のモル比が0.01〜0.60、好ましくは0.02〜0.50、前駆物質/界面活性剤のモル比が1〜30、好ましくは1〜10、溶媒/界面活性剤のモル比が1〜1000、好ましくは5〜500、安定化剤/前駆物質のモル比が0.01〜1.0、好ましくは0.2〜0.6である。反応温度は、20〜180℃、好ましくは20〜100℃の範囲である。反応時間は5〜100時間、好ましくは10〜50時間の範囲である。反応生成物は通常、濾過により分離し、十分に水洗、乾燥後、500〜1000℃の高温焼成によってテンプレートを熱分解除去し、メソポーラス材料を得ることができる。必要に応じて、焼成前に界面活性剤をアルコールなどで抽出することもできる。
【0023】
上記担体材料への触媒成分の担持は、例えば、イオン交換法又は含浸法によって行うことができる。これらの二つの方法は、担体への触媒の沈着化について、イオン交換法が担体表面のイオン交換能を利用し、含浸法が担体のもつ毛管作用を利用しているという違いはあるが、基本的なプロセスはほとんど同じである。すなわち、強塩基性のメソポーラス材料を触媒原料の水溶液に浸した後、濾過、乾燥し、必要に応じて水洗を行い、還元剤で還元処理することによって製造することができる。
【0024】
白金触媒の原料としては、例えば、HPtCl、(NHPtCl、HPtCl、(NHPtCl、Pt(NH(NO、Pt(NH(OH)、PtCl、白金のアセチルアセトナート、等を用いることができる。必要に応じて助触媒的成分を添加した触媒は、例えば、助触媒的成分の硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、酢酸塩などの水溶性塩類を白金触媒原料に混合して同様にして製造することができる。触媒活性成分の還元剤としては、水素、ヒドラジン水溶液、ホルマリン、等を用いることができる。還元は、それぞれの還元剤について知られている通常の条件で行なえばよい。例えば、水素還元は、ヘリウムなどの不活性ガスで希釈した水素ガス気流下にサンプルを置き、通常、300〜500℃で数時間処理することによって行なうことができる。還元後、必要に応じて、不活性ガス気流下500〜1000℃で数時間熱処理してもよい。
【0025】
本発明の機能性触媒は、通常、自動車用触媒の支持体として用いられているモノリス成形体に付着させて用いる。モノリス成形体とは、成形体の断面が網目状で、軸方向に平行に互いに薄い壁によって仕切られたガス流路を設けている成形体のことであり、モノリス成形体に触媒を付着させて成る触媒を以下ではモノリス触媒という。成形体の外形は、特に限定するものではないが、通常は、円柱形である。機能性触媒をモノリス成形体のガス流路内壁に付着させる時の触媒の付着量は、3〜30質量%が好ましい。担体内部に存在する触媒へのガス拡散の面から30%以下が好ましい。また、十分な触媒性能を引き出す上で3%以上が好ましい。モノリス成形体への触媒の塗布量相当の付着量は、成形体の0.03〜3質量%が好ましい。
【0026】
上記のモノリス触媒は、自動車用三元触媒を付着したモノリス成形体の製造方法に準じて製造することができる。例えば、本発明機能性触媒とバインダーとしてのコロイダルシリカを、通常、1:(0.01〜0.2)の質量割合で混合した混合物をつくり、これを水分散することによって通常10〜50質量%のスラリーを調整した後、該スラリーにモノリス成形体を浸漬してモノリス成形体のガス流路の内壁にスラリーを付着させ、乾燥後、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性雰囲気下500〜1000℃で数時間熱処理することによって製造することがきる。コロイダルシリカ以外のバインダーとしては、メチルセルロース、アクリル樹脂、ポリエチレングリコールなどを適宜用いることもできる。あるいは、モノリス成形体に多孔性の担体材料を塗布したのち、触媒原料を該担体材料に含浸し、還元処理、熱処理を行う方法によっても製造することができる。モノリス成形体に付着させる機能性触媒層の厚みは、前記のスラリーを付着させる方法では、通常、1μm〜100μmであるのが好ましく、10μm〜50μmの範囲が特に好ましい。反応ガスの拡散の面から100μm以下が好ましい。触媒性能の劣化を抑制する点から1μm以上が好ましい。
【0027】
本発明機能性触媒を用いたNOxの浄化処理には、NOxの還元剤として一酸化炭素、水素、炭化水素、水蒸気、炭化水素由来の改質ガス、アルコール及びアルコール由来の改質ガス、等の還元性物質を用いることができ、還元剤の供給方法としては、リッチバーン
の排ガスに含まれる水素、一酸化炭素、炭化水素、水蒸気を増加する方法、燃料を改質触媒を通して改質後にリッチバーンの排ガスに供給する方法、アルコールを直接的に排ガスに供給する方法、アルコールを改質触媒を通して改質後に排ガスに供給する方法、等を用いることができる。アルコールはガソリンの代替燃料として近年注目されているが、アルデヒド、一酸化炭素、水素等の還元性物質の原料としても用いられている物質であるので、NOxの還元剤としても利用できる。本発明者等の研究によれば、適切なアルコール用の改質触媒を用いれば、ハイドロカーボンSCR法で還元剤として機能する低級オレフィンと違って、酸化雰囲気の排NOxに対して高活性を示すことが見出されている。また、200℃付近以下から300℃付近の低温〜中温領域でも還元が窒素の段階まで進むという特長を持つことが見出されている。アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、等の低級アルコールと炭素数5以上のアルコールが有効であるが、これらの中でメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールが還元性に優れているので好ましく、中でもエタノールは、引火性が低く経口毒性も低いのでさらに好ましい。上記のアルコールは、含水アルコールでも有効である。含水アルコールでは、アルコールの水蒸気改質反応を起こすことができる。含水率は、アルコールの改質温度に影響を与えない程度であることが好ましく、通常は10%程度以内である。還元剤としてアルコール由来の改質ガスを用いる場合には、改質触媒を通して供給されるアルコールの供給量は、排ガス中の酸素濃度にも多少影響されるが、酸素濃度が20%以下の範囲ではNOxと同程度のモル数から数10倍程度のモル数であれば特に限定するものではない。また、酸化剤として少量の空気をアルコールに混合してもよい。空気量は、アルコールの部分酸化を起こさせる程度の量であれば特に限定するものではないが、通常は、数倍モル程度以下である。アルコールの改質温度は、アルコールの種類や改質触媒の種類によって適切な温度に設定する。本発明では、通常、100℃〜500℃の範囲で行う。改質触媒の加熱は、排熱回収、直接加熱、等の方法によって行うことができる。
【0028】
本発明の機能性触媒は、自動車、特にディーゼル自動車及びリーンバーンガソリン自動車に搭載することによって、自動車が排出するリーンバーン排NOxを160℃〜400℃の低温領域において極めて効果的に除去することができ、また、酸素濃度が低い時でも有効であるので、排ガス中の酸素濃度が高いリッチバーンと酸素濃度が低いリーンバーンを交互に行うことができる小型ディーゼルの排ガス浄化処理に用いると、160℃〜600℃の広い温度範囲において効率よく排NOxを浄化処理できる。また、トラックなどの大型車用の排NOx浄化方法としても用いることができる。
【実施例】
【0029】
以下に実施例などを挙げて本発明を具体的に説明する。
比表面積及び細孔分布は、脱吸着の気体として窒素を用い、カルロエルバ社製ソープトマチック1800型装置によって測定した。比表面積はBET法によって求めた。細孔分布は1〜200nmの範囲を測定し、BJH法で求められる微分分布で示した。製造した多孔性担体材料の多くは指数関数的に左肩上がりの分布における特定の細孔直径の位置にピークを示した。このピークを与える細孔直径が細孔径である。
【0030】
自動車排NOxのモデルガスとして、ヘリウム希釈一酸化窒素と酸素の混合ガスを用いた。減圧式化学発光法NOx分析計(日本サーモ株式会社製造:モデル42i−HL及び46C−H)によって処理前と処理後のガスに含まれるNOx(NOとNOの合計)とNO(NOxの仲間ではない)の濃度を測定し、NOx浄化率と窒素の選択率を、それぞれ式(1)及び式(2)によって算出した。
【0031】
【数1】

【0032】
【数2】

【0033】
「製造例1」排ガス浄化用触媒としての三元触媒類似の触媒の合成
0.215gのPtCl・5HO、0.106gのPdCl・2HO、及び0.162gのRh(NO・2HOを20mlの蒸留水に溶解した水溶液を蒸発皿に入れ、これに10gの活性アルミナ(日揮化学株式会社製造:比表面積250m/g、平均細孔径6.2nm、粒径2〜3μmの微粒子)を加え、スチームバスで蒸発乾固した後、真空乾燥機に入れ100℃で3時間真空乾燥を行った。この試料を石英管に入れヘリウム希釈水素ガス(10%v/v)気流下500℃で3時間還元し、貴金属の含有量が約2重量%の触媒を合成した。これを、三元触媒を模した貴金属触媒として比較実験に用いた。
【0034】
「製造例2」本発明二層構造の機能性触媒の製造
1リットルのビーカーに、蒸留水300g、エタノール240g、及びドデシルアミンN−オキシド30gを入れ、溶解させた。攪拌下でテトラエトキシシラン125gを加えて室温で22時間攪拌した。沈殿物を濾過、水洗し、110℃で5時間温風乾燥した後、空気中で750℃−5時間焼成して含有する界面活性剤を分解除去し、ミクロ・メソポーラスシリカ材料を得た。該ミクロ・メソポーラスシリカ材料を小角X線回折測定した結果、1本のブロードな回折ピークを示した。また、透過型電気顕微鏡観察の結果、細孔の配列には規則的な配列が観測されず無秩序に分散している状態が観測された。これらの結果から、製造したミクロ・メソポーラスシリカ材料は非晶性であることが確認された。また、細孔分布及び比表面積測定の結果、約1nmの位置に細孔ピークがあり、比表面積が820m/g、細孔容積が1.30cm/g、1〜50nmの細孔が占める容積は1.29cm/gであった。
蒸留水20gに塩化白金酸HPtCl・6HOを0.267gと硝酸ロジウムRh(NO・2HOを0.0016g溶解した水溶液を蒸発皿に入れ、これに上記のミクロ・メソポーラスシリカ材料5gを加え、スチームバスで蒸発乾固した後、真空乾燥機に入れ100℃−3時間真空乾燥を行った。この試料を石英管に入れ、ヘリウム希釈水素ガス(10v/v%)気流下500℃で3時間還元し、白金−ロジウムの担持量が約2質量%の[Pt−Rh/ミクロ・メソポーラスシリカ]触媒を合成した。メソポーラス触媒に坦持された白金−ロジウム粒子の平均粒径は約1.0nmであった。
【0035】
次に該[Pt−Rh/ミクロ・メソポーラスシリカ]触媒5gと蒸留水100gを1リットルのビーカーに入れ均一に分散させた後、これにエタノール80g、ドデシルアミン5g、及び分子量10万のポリエチレングリコール5g加えた。攪拌下でテトラエトキシシラン10gを加えて室温で22時間攪拌した。沈殿物を濾過、水洗し、110℃で5時間温風乾燥した後、空気中で550℃−5時間焼成して含有する界面活性剤を分解除去し、マクロ・メソポーラスシリカ材料で被覆された触媒を得た。該マクロ・メソポーラスシ
リカ材料は3nmの細孔と100nmの細孔を持ち、比表面積は600m/g、細孔容積が1.20cm/gであった。該マクロ・メソポーラスシリカ材料で被覆された触媒5gを蒸発皿に入れ、これに硝酸コバルト0.5gを溶解した水溶液を10g加え、スチームバスで蒸発乾固した後、真空乾燥機に入れ100℃−3時間真空乾燥を行った。この試料を石英管に入れ、空気中300℃で2時間焼成し、[Pt−Rh/メソポーラスシリカ]触媒上に[Co/マクロ・メソポーラスシリカ]触媒を積層した触媒を得た。この[Co/マクロ・メソポーラスシリカ]触媒におけるCoの担持率は約4質量%であった。
【0036】
「製造例3」本発明三層構造の機能性触媒の製造
製造例2で作製した[Pt−Rh/ミクロ・メソポーラスシリカ]触媒5gと蒸留水100gを1リットルのビーカーに入れ均一に分散させた後、これにエタノール80g、及びドデシルアミン10gを加えた。攪拌下でテトラエトキシシラン10gを加えて室温で22時間攪拌した。沈殿物を濾過、水洗し、110℃で5時間温風乾燥した後、空気中で550℃−5時間焼成して含有する界面活性剤を分解除去し、メソポーラスシリカ材料で被覆された[Pt−Rh/ミクロ・メソポーラスシリカ]触媒を得た。該メソポーラスシリカ材料の比表面積は930m/g、細孔容積が1.35cm/g、1〜50nmの細孔が占める容積は1.34cm/gであった。該メソポーラスシリカ材料で被覆された[Pt−Rh/ミクロ・メソポーラスシリカ]触媒5gを蒸発皿に入れ、これに硝酸インジウム0.3gと塩化第二スズ0.2gを溶解した水溶液を10g加え、スチームバスで蒸発乾固した後、真空乾燥機に入れ100℃−3時間真空乾燥を行った。この試料を石英管に入れ、ヘリウム希釈水素ガス(10v/v%)気流下500℃で3時間還元し、[Pt−Rh/メソポーラスシリカ]触媒上に[In−Sn合金/メソポーラスシリカ]吸着剤を積層した触媒を得た。この[In−Sn合金/メソポーラスシリカ]吸着剤におけるIn−Sn合金の担持率は約4質量%であった。
【0037】
次に該[Pt−Rh/ミクロ・メソポーラスシリカ]触媒上に[In−Sn合金/メソポーラスシリカ]吸着剤を積層した触媒5gと蒸留水100gを1リットルのビーカーに入れ均一に分散させた後、これにエタノール80g、ドデシルアミン5g、及び分子量10万のポリエチレングリコール5g加えた。攪拌下でテトラエトキシシラン10gを加えて室温で22時間攪拌した。沈殿物を濾過、水洗し、110℃で5時間温風乾燥した後、空気中で550℃−5時間焼成して含有する界面活性剤を分解除去し、マクロ・メソポーラスシリカ材料で被覆された触媒を得た。該マクロ・メソポーラスシリカ材料は3nmの細孔と100nmの細孔を持ち、比表面積は600m/g、細孔容積が1.20cm/gであった。該マクロ・メソポーラスシリカ材料で被覆された触媒5gを蒸発皿に入れ、これに硝酸コバルト0.5gを溶解した水溶液を10g加え、スチームバスで蒸発乾固した後、真空乾燥機に入れ100℃−3時間真空乾燥を行った。この試料を石英管に入れ、空気中300℃で2時間焼成し、[Pt−Rh/メソポーラスシリカ]触媒上に順次[In−Sn合金/メソポーラスシリカ]吸着剤と[Co/マクロ・メソポーラスシリカ]触媒を積層した触媒を得た。この[Co/マクロ・メソポーラスシリカ]触媒におけるCoの担持率は約4質量%であった。
【0038】
「製造例4」本発明機能性触媒の製造
製造例3の三層構造の機能性触媒の粉末1gを蒸着器に入れ金属セシウムを約0.01g蒸着した後、窒素気流中でアンプルに保存した。
「製造例5」モノリスに担持した本発明機能性触媒の製造
製造例3の本発明機能性触媒1g、及びコロイダルシリカ0.1gを蒸留水10mlに加え、攪拌して、スラリーを調整した。これに、市販のコージェライトモノリス成形体(400cells/in、直径118mm×長さ50mm、重量243g)から切り出したミニ成形体(21cells、直径8mm×長さ9mm、重量0.15g)を5個浸
漬し、試料をとりだし風乾した後、窒素気流下で500℃−3時間熱処理した。本発明機能性触媒の付着量は、ミニ成形体の約10質量%であった。
【0039】
「実施例1〜3」、「比較例1」
還元剤としてプロピレンを用いたリーンバーンNOx処理
製造例1〜3の触媒をそれぞれ石英製の流通式反応管に0.3g充填した。また、製造例5のモノリス触媒である触媒担持のミニ成形体は石英製の連続流通式反応管に5個充填した。それぞれの反応管を外部ヒーターによって150℃〜500℃までの任意の温度に調整した。次に、それぞれの反応管に、リーンバーンの模擬ガスを流通し、NOx処理を行った。リーンバーンの模擬ガスは、ヘリウムで濃度調整した一酸化窒素250ppm、酸素10%、水蒸気10%,プロピレン400ppm含有ガスであり流量は毎分100mLとした。排ガスをサンプリングし、NOx浄化率と窒素の選択率を測定した。結果を表1に示した。
【0040】
「実施例4〜6」、「比較例2」
還元剤としてプロピレンを用いたリーンバーン・リッチバーンNOx処理
実施例1のリーンバーンの模擬ガスの代りにリーンバーンとリッチバーンの模擬ガスを交互に1分間隔で流通した以外には実施例1と同様にして、NOx処理を行った。リーンバーンの模擬ガスは、ヘリウムで濃度調整した一酸化窒素250ppm、酸素10%、水蒸気10%,プロピレン400ppm含有ガスであり流量は毎分100mLとした。リッチバーンの模擬ガスは、ヘリウムで濃度調整した一酸化窒素250ppm、酸素1%、水蒸気10%,プロピレン4000ppm含有ガスであり流量は毎分100mLとした。排ガスをサンプリングし、NOx浄化率と窒素の選択率を測定した。結果を表2に示した。
【0041】
「実施例7」、「比較例3」
還元剤としてエタノールを用いたNOx処理
製造例1及び4の触媒をそれぞれ石英製の連続流通式反応管に0.3g充填した。それぞれの反応管を外部ヒーターによって150℃〜500℃までの任意の温度に調整した。次に、それぞれの反応管に、リーンバーンの模擬ガスを流通し、NOx処理を行った。リーンバーンの模擬ガスは、ヘリウムで濃度調整した一酸化窒素250ppm、酸素10%、水蒸気10%,エタノール4000ppm含有ガスであり流量は毎分100mLとした。排ガスをサンプリングし、NOx浄化率と窒素の選択率を測定した。結果を表3に示した。
【0042】
【表1】


表1に示すように180℃から500℃に渡って、本発明機能性触媒はリーンバーンNOxに対して60%以上の高いNOx浄化率が得られた。また、窒素の選択率は、180〜200℃で約10%、250〜500℃で約90%であった。
【0043】
【表2】


表2に示すように180℃から500℃に渡って、本発明機能性触媒はリーン・リッチバーンNOxに対して60%以上の高いNOx浄化率が得られた。また、窒素の選択率は、180〜200℃で約10%、250〜500℃で約90%であった。
【0044】
【表3】


表3に示すように180℃から500℃に渡って、本発明機能性触媒はリーンバーンNOxに対して60%以上の高いNOx浄化率が得られた。また、窒素の選択率は、180℃〜500℃で約90%であった。
以上のことから、本発明機能性触媒は、リーンバーン内燃機関の排ガス及びリーンバーンとリッチバーンを交互に繰り返す内燃機関の排ガスを低温領域から高温領域に渡って効率よく浄化できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の排ガス浄化用触媒は、ディーゼル排NOx浄化用触媒として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内核に設けた多孔性NOx酸化触媒層とその上に設けた多孔性NOx選択還元触媒層から成る多層構造の機能性触媒であることを特徴とする排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
多孔性NOx酸化触媒層と多孔性NOx選択還元触媒層の中間に多孔性NOx吸着剤層を設けた多層構造の機能性触媒であることを特徴とする請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
多孔性NOx酸化触媒層における触媒がミクロ・メソポーラス材料に白金族元素を担持したミクロ・メソポーラスNOx酸化触媒であり、多孔性NOx選択還元触媒層における触媒がマクロ・メソポーラス材料に遷移金属酸化物を担持したマクロ・メソポーラスNOx選択還元触媒であることを特徴とする請求項1又は2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
多孔性NOx吸着剤層における吸着剤がメソポーラス材料にインジウム合金を担持したメソポーラス吸着剤であることを特徴とする請求項2又は3に記載の排ガス浄化用触媒。

【公開番号】特開2008−200652(P2008−200652A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−42563(P2007−42563)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【出願人】(000173924)財団法人野口研究所 (108)
【Fターム(参考)】