説明

新規有機化合物およびそれを有する有機発光素子

【課題】 量子収率の高い新規有機化合物を提供する。
【解決手段】 下記一般式[1]示されることを特徴とする有機化合物とそれを有する有機発光素子を提供する。
【化1】


一般式[1]中R乃至Rはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基から選ばれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規有機化合物およびそれを有する有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は一対の電極とこれら一対の電極の間に配置される有機化合物層とを有する素子である。これら一対の電極からキャリアを注入することで有機化合物が励起し、励起状態から基底状態に戻る際に発光する。
【0003】
有機発光素子は、有機エレクトロルミネッセンス素子、あるいは有機EL素子とも呼ばれる。
【0004】
これまでに新規有機化合物の開発が盛んに行われている。
【0005】
新規有機化合物の創出が高性能の有機発光素子を提供するにあたり、重要であるからである。
【0006】
有機発光素子において、発光層の有機化合物の量子収率が高いことが発光効率に大きく貢献することが知られている。
【0007】
特許文献1にはフルオランテン誘導体を用いた有機発光素子として青色の発光を得ることが記載されている。
【0008】
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−189248号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Organic Electronics9(2008)522−532
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1にはフルオランテン誘導体を用いた青色発光素子が記載されている。しかし、フルオランテンは量子収率が0.35と低いため、それを用いた有機発光素子の発光効率が低いという課題がある。
そこで、本発明は基本骨格中に回転する結合を有さないため量子収率が高い新規有機化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
よって本発明は
下記一般式[1]に示されることを特徴とする有機化合物を提供する。
【0013】
【化2】

【0014】
一般式[1]中、R乃至Rはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基から選ばれる。
前記アルキル基はメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基のいずれかである。
前記アリール基はフェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フェナンスレニル基、アントラセニル基、フルオランテニル基、ベンゾフルオランテニル基、フルオレニル基のいずれかである。
前記アルキル基および前記アリール基は置換基を有してよく、前記置換基は、アルキル基、アラルキル基、アリール基、複素環基、アミノ基、アルコキシル基、シアノ基、ハロゲン原子のいずれかである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、基本骨格中に回転する結合を有さないため量子収率が高い新規有機化合物を提供できる。さらに、それを有する高発光効率かつ高耐久性の有機発光素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】有機発光素子と有機発光素子と接続するスイッチング素子とを示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、下記一般式[1]に示されることを特徴とする有機化合物である。
【0018】
【化3】

【0019】
一般式[1]中、R乃至Rはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基から選ばれる。
【0020】
前記アルキル基はメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基のいずれかである。これらアルキル基は立体障害基として働くので分子会合を抑制する。中でもtert−ブチル基は効果が高いので好ましい。
【0021】
前記アリール基はフェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フェナンスレニル基、アントラセニル基、フルオランテニル基、ベンゾフルオランテニル基、フルオレニル基のいずれかである。これらアリール基は立体障害基として働き分子会合を抑制する。その効果はアルキル基よりも高い。さらに、共役長を伸ばすので発光波長を長くする効果がある。中でもフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、ベンゾフルオランテニル基が好ましい。というのも共役を伸ばして発光波長を変え、化合物の量子収率を向上させることができるからである。
【0022】
アルキル基およびアリール基はさらに置換基を有してよい。その置換基とは例えばメチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基、ベンジル基、フェネチル基などのアラルキル基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、フェナンスレニル基、フルオレニル基、ピレニル基、フルオランテニル基などのアリール基、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基などの複素環基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ジアニソリルアミノ基などのアミノ基、メトキシル基、エトキシル基、プロポキシル基、フェノキシル基などのアルコキシル基、シアノ基、ニトロ基、フッ素、塩素などのハロゲン原子である。これらのうちアリール基が有する置換基として好ましいのはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基である。中でもメチル基、tert−ブチル基が特に好ましい。
【0023】
本発明に係る有機化合物は、基本骨格に縮合五員環構造とスピロ構造との両方を有する新規有機化合物である。なお、基本骨格とは縮環のみで形成された骨格のことである。つまり、本発明における基本骨格とは一般式[1]からRを除く環で表現される部分のことである。
【0024】
本発明に係る有機化合物は以下の特徴を有する。
【0025】
本発明に係る有機化合物はスピロ構造を有する。これは一般式[1]における平面aと平面bとが交差、具体的には直交する構造である。また、回転する結合を有さない構造である。
【0026】
分子軌道計算によって算出した平面aと平面bとの二面角は89.9度であった。つまり、二つの平面は直交することが確認された。この二面角をとる構造が分子の最安定化状態である。
【0027】
分子軌道計算は以下の手法を用いた。本実施形態における分子軌道計算はすべて同じ手法を用いた。
【0028】
分子軌道計算は、現在広く用いられているGaussian03(Gaussian 03, Revision D.01,M. J. Frisch, G. W. Trucks, H. B. Schlegel, G. E. Scuseria,M. A. Robb, J. R. Cheeseman, J. A. Montgomery, Jr., T. Vreven,K. N. Kudin, J. C. Burant, J. M. Millam, S. S. Iyengar, J. Tomasi,V. Barone, B. Mennucci, M. Cossi, G. Scalmani, N. Rega,G. A. Petersson, H. Nakatsuji, M. Hada, M. Ehara, K. Toyota,R. Fukuda, J. Hasegawa, M. Ishida, T. Nakajima, Y. Honda, O. Kitao,H. Nakai, M. Klene, X. Li, J. E. Knox, H. P. Hratchian, J. B. Cross,V. Bakken, C. Adamo, J. Jaramillo, R. Gomperts, R. E. Stratmann,O. Yazyev, A. J. Austin, R. Cammi, C. Pomelli, J. W. Ochterski,P. Y. Ayala, K. Morokuma, G. A. Voth, P. Salvador, J. J. Dannenberg,V. G. Zakrzewski, S. Dapprich, A. D. Daniels, M. C. Strain,O. Farkas, D. K. Malick, A. D. Rabuck, K. Raghavachari,J. B. Foresman, J. V. Ortiz, Q. Cui, A. G. Baboul, S. Clifford,J. Cioslowski, B. B. Stefanov, G. Liu, A. Liashenko, P. Piskorz,I. Komaromi, R. L. Martin, D. J. Fox, T. Keith, M. A. Al-Laham,C. Y. Peng, A. Nanayakkara, M. Challacombe, P. M. W. Gill,B. Johnson, W. Chen, M. W. Wong, C. Gonzalez, and J. A. Pople,Gaussian, Inc., Wallingford CT, 2004).を用いて、DFT基底関数6−31+G(d)の計算手法を使った。この計算手法は誤差を含むことが知られているが、分子設計を行う上で有用な指針を与えるものである。
【0029】
本発明に係る有機化合物は一般式[1]に示す平面aを有する。この平面aはフルオランテンよりも共役が長い、そのため振動子強度が高く、量子収率が高い。振動子強度が高いことは量子収率が高いことに繋がることが知られている。
【0030】
本発明に係る有機化合物は基本骨格中に回転する結合を有さないため熱振動によるエネルギーの消費をしない。このことも量子収率が高いことに寄与していると考えられる。
【0031】
以上の理由から、本発明に係る有機化合物は有機発光素子の発光材料として好ましく用いることができる。というのも発光材料の量子収率が高く、分子会合を抑制することで濃度消光を抑制するからである。
【0032】
本発明に係る有機化合物は有機発光素子の発光材料の中でも特にホスト材料とゲスト材料とを有する発光層のゲスト材料として用いられることが好ましい。
【0033】
ここで、ホスト材料とは発光層の中で重量比が最も大きい材料であり、ゲスト材料とは発光層の中で重量比がホスト材料よりも小さいものであり、主たる発光をするものである。
【0034】
本発明に係る有機化合物は青色発光素子のゲスト材料として好ましく用いることができる。ゲスト材料の発光波長の調整によって緑色および赤色発光素子にも適用できる。
【0035】
本発明に係る有機化合物は有機発光素子の発光層だけでなくいずれの層に用いられてもよい。具体的にはホール注入層、ホール輸送層、電子輸送層、電子注入層、ホール・エキシトンブロッキング層等である。
【0036】
以下に本発明に係る有機化合物の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
【化4】

【0038】
【化5】

【0039】
【化6】

【0040】
【化7】

【0041】
【化8】

【0042】
これら例示化合物は基本骨格にアリール基が置換した場合のものである。不図示ではあるが基本骨格にアルキル基を必要なら設けてもよい。
【0043】
一般式[1]におけるR1の位置に置換基を有する化合物、即ちB群は分子会合をさらに抑制することができる。
【0044】
下記一般式[2]で示される有機化合物が例示化合物の中でも好ましい。
【0045】
【化9】

【0046】
一般式[2]中、Rは水素原子、アルキル基、アリール基のいずれかを表す。
【0047】
アルキル基はメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基のいずれかである。これらアルキル基は立体障害基として働くので分子会合を抑制する。中でもtert−ブチル基は効果が高いので好ましい。
【0048】
アリール基はフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、フェナンスレニル基、フルオレニル基、ベンゾフルオランテニル基のいずれかである。これらアリール基は発光波長を変化させることができ、量子収率を向上させることができる。
【0049】
特に、一般式[2]で示されるRの位置にアリール基を導入することが好ましい。なぜならば、この置換位置にアリール基を有するものは振動子強度が高く量子収率が高いためである。例示化合物の中ではA群が該当する。
【0050】
このことについて分子軌道計算を行った結果、Rの位置に置換基を導入したものが、他の置換位置と比較して振動子強度が高くなるという結果を得た。振動子強度の向上は、量子収率が向上することに繋がる。
【0051】
求められたいくつかの例示化合物の振動子強度を以下の表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
上記表1より、フルオランテンに対して本発明の化合物は高い振動子強度を有することがわかる。
【0054】
また、例示化合物A2、A6、A14の様に、特にRの位置にアリール基を導入することでさらに振動子強度を高くすることができる。
【0055】
また、より好ましくは、一般式[1]で示されるR乃至Rの位置のアリール基として量子収率の高い置換基(フルオレニル基、ベンゾフルオランテニル基など)を用いた場合、化合物の量子収率がより高くなる。
【0056】
[合成方法]
本発明に係る有機化合物は、以下の合成例のように合成することができるが、もちろんこれに限定されるものではない。
【0057】
この中で原料となるF1の合成は、非特許文献1を参考にして合成することができる。
【0058】
中間体F2の合成は、例えばトルエン溶媒中、トリエチルアミンおよび触媒としてNi(dppp)Cl存在下、ハロゲン体と4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボランを反応させることにより合成することができる。
【0059】
中間体F3の合成は、例えばトルエンと蒸留水の混合溶媒中、炭酸ナトリウムおよび触媒としてPd(PPh存在下、対応するハロゲン体とF2を反応させることにより行うことができる。
【0060】
中間体F4の合成は、例えば、DMF溶媒中、DBU、LiClおよび触媒としてPd(PPhCl存在下で反応させることにより行うことができる。
【0061】
ハロゲン体F4とアリールボロン酸又はアリールピナコールボラン体をクロスカップリングすることにより、一般式[2]で示されるR2の位置に置換あるいは無置換のアリール基が置換したF5を合成することができる。
【0062】
その合成例を表2に示している。
【0063】
また、F3の合成において、対応するベンゼンのハロゲン置換体を他のものに変えて反応させることで、異なる位置に置換したハロゲン置換体を合成することができ、その後のクロスカップリング反応で、一般式[1]で示されるR1、R3およびR4の位置に種々のアリール基が置換した有機化合物を合成することができる。即ち対応するベンゼンのハロゲン置換体を用いることで例示化合物の全てを合成することができる。
【0064】
[合成例]
【0065】
【化10】

【0066】
【表2】

【0067】
(有機発光素子の説明)
次に本実施形態に係る有機発光素子を説明する。
【0068】
本実施形態に係る有機発光素子は一対の電極である陽極と陰極とそれらの間に配置される有機化合物層とを有し、この有機化合物層が一般式[1]で示される有機化合物を有する素子である。
【0069】
本実施形態に係る有機発光素子は、有機化合物層が複数層で構成されてもよい。この複数層としてはホール注入層、ホール輸送層、発光層、ホールブロッキング層、エキシトンブロッキング層、電子輸送層、電子注入層等が挙げられる。これらの層を適宜組み合わせて用いることができる。
【0070】
なお、本実施形態に係る有機化合物をゲスト材料として用いる場合、ホスト材料に対するゲスト材料の濃度は0.1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、0.5wt%以上10wt%以下であることがより好ましい。
【0071】
本発明者らは種々の検討を行い、本発明に係る有機化合物を発光層のホスト材料またはゲスト材料、特にゲスト材料として用いた素子が高効率で高輝度な光出力を有し、耐久性が高いことを見出した。
【0072】
本実施形態に係る有機発光素子は本発明に係る有機化合物以外にも、必要に応じて従来公知の低分子系及び高分子系のホール注入性材料あるいは輸送性材料あるいはホスト材料あるいはゲスト材料あるいは電子注入性材料あるいは電子輸送性材料等を一緒に使用することができる。
【0073】
以下にこれらの化合物例を挙げる。
【0074】
ホール注入性材料あるいはホール輸送性材料としては、ホール移動度が高い材料であることが好ましい。正孔注入性能あるいは正孔輸送性能を有する低分子及び高分子系材料としては、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0075】
ホスト材料としては、具体的な構造式を表3に示す。ホスト材料は表3に示す構造式で示される化合物の誘導体であってもよい。またそれ以外に、縮環化合物(例えばフルオレン誘導体、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、ピレン誘導体、カルバゾール誘導体、キノキサリン誘導体、キノリン誘導体等)、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム等の有機アルミニウム錯体、有機亜鉛錯体、及びトリフェニルアミン誘導体、ポリ(フルオレン)誘導体、ポリ(フェニレン)誘導体等の高分子誘導体が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0076】
【表3】

【0077】
電子注入性材料あるいは電子輸送性材料としては、ホール注入性材料あるいはホール輸送性材料のホール移動度とのバランス等を考慮し選択される。電子注入性能あるいは電子輸送性能を有する材料としては、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機アルミニウム錯体等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0078】
陽極材料としては、仕事関数がなるべく大きなものがよい。例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、タングステン等の金属単体あるいはこれらの合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物である。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性ポリマーでもよい。これらの電極物質は単独で使用してもよいし複数併用して使用してもよい。また、陽極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0079】
一方、陰極材料としては、仕事関数の小さなものがよい。例えば、リチウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム、チタニウム、マンガン、銀、鉛、クロム等の金属単体が挙げられる。あるいはこれら金属単体を組み合わせた合金も使用することができる。例えば、マグネシウム−銀、アルミニウム−リチウム、アルミニウム−マグネシウム等が使用できる。酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は単独で使用してもよいし、複数併用して使用してもよい。また、陰極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0080】
本実施形態に係る有機発光素子において、本発明に係る有機化合物を含有する層及びその他の有機化合物からなる層は、以下に示す方法により形成される。一般には真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング法、プラズマあるいは、適当な溶媒に溶解させて公知の塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)により層を形成する。ここで真空蒸着法や溶液塗布法等によって層を形成すると、結晶化等が起こりにくく経時安定性に優れる。また塗布法で形成する場合は、適当なバインダー樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
【0081】
上記バインダー樹脂としては、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらバインダー樹脂は、ホモポリマー又は共重合体として1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。さらに必要に応じて、公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を併用してもよい。
【0082】
(有機発光素子の用途)
本実施形態に係る有機発光素子は、表示装置や照明装置に用いることができる。他にも電子写真方式の画像形成装置の露光光源や液晶表示装置のバックライトなどがある。
【0083】
表示装置は本実施形態に係る有機発光素子を表示部に有する。この表示部は複数の画素を有する。この画素は本実施形態に係る有機発光素子と発光輝度を制御するためのスイッチング素子の一例としてTFT素子とを有し、この有機発光素子の陽極または陰極とTFT素子のドレイン電極またはソース電極とが接続されている。表示装置はPC等の画像表示装置として用いることができる。
【0084】
表示装置は、エリアCCD、リニアCCD、メモリーカード等からの情報を入力する画像入力部を有し、入力された画像を表示部に出力する画像出力装置でもよい。また、撮像装置やインクジェットプリンタが有する表示部として、外部から入力された画像情報に基づいて画像を表示する画像出力機能と操作パネルとして画像への加工情報を入力する入力機能との両方を有していてもよい。また表示装置はマルチファンクションプリンタの表示部に用いられてもよい。
【0085】
次に、本実施形態に係る有機発光素子を使用した表示装置について図1を用いて説明する。
【0086】
図1は、本実施形態に係る有機発光素子と、有機発光素子に接続するスイッチング素子の一例であるTFT素子とを示した断面模式図である。本図では有機発光素子とTFT素子との組が2組図示されている。構造の詳細を以下に説明する。
【0087】
図1の表示装置は、ガラス等の基板1とその上部にTFT素子又は有機化合物層を保護するための防湿膜2が設けられている。また符号3は金属のゲート電極3である。符号4はゲート絶縁膜4であり、5は半導体層である。
【0088】
TFT素子8は半導体層5とドレイン電極6とソース電極7とを有している。TFT素子8の上部には絶縁膜9が設けられている。コンタクトホール10を介して有機発光素子の陽極11とソース電極7とが接続されている。表示装置はこの構成に限られず、陽極または陰極のうちいずれか一方とTFT素子ソース電極またはドレイン電極のいずれか一方とが接続されていればよい。
【0089】
有機化合物層12は本図では多層の有機化合物層を1つの層の如く図示をしている。陰極13の上には有機発光素子の劣化を抑制するための第一の保護層14や第二の保護層15が設けられている。
【0090】
本実施形態に係る表示装置においてスイッチング素子に特に制限はなく、単結晶シリコン基板やMIM素子、a−Si型の素子等を用いてもよい。
【実施例】
【0091】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明していくが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0092】
(実施例1)
[例示化合物A1の製造]
以下実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。
【0093】
本発明に係る有機化合物の例示化合物A1の製造方法を以下に説明する。
【0094】
<中間体F7の製造>
【0095】
【化11】

【0096】
窒素雰囲気下で、下記3つの化合物をトルエン(12ml)に溶解させ、炭酸ナトリウム0.85g(8.07mmol)を蒸留水4mlに溶解させた水溶液を加え、80℃に加熱したシリコーンオイルバス上で24時間加熱攪拌した。
(トルエン中に溶解させた3つの化合物)
1−ブロモ−2−ヨードベンゼン 0.948g(3.36mmol)
F6 1.00g(3.05mmol)
テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム 0.212g(0.183mmol)
室温まで冷却後、水、トルエンを加え、有機層を分離し、水層をさらにトルエンで抽出(2回)し、はじめに分離した有機層溶液に加えた。有機層を飽和食塩水で洗浄後、硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相;クロロホルム:ヘプタン=1:10)で精製し、F7を0.179g(収率16%)得た。
【0097】
<A1の合成>
【0098】
【化12】

【0099】
窒素雰囲気下、F7{0.179g(0.501mmol)}をテトラヒドロフラン(2ml)に溶解させ、−78℃まで冷却し、ノルマル−ブチルリチウム0.376ml(0.601mmol)をゆっくり滴下して1時間攪拌した。そこに、1.5mlのテトラヒドロフランに溶解させた9−フルオレノン0.081g(0.451mmol)を−78℃でゆっくり滴下し、徐々に室温に戻しながら4時間攪拌した。
【0100】
水を加え、クロロホルム抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を留去後、残渣に酢酸2.5mlと希塩酸0.2mlを加え、6時間加熱還流した。炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、クロロホルムで抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相;クロロホルム:ヘプタン=1:5)で精製し、例示化合物A1を0.035g(収率16%)得た。
【0101】
MALDI−TOF MSによりこの化合物のM+である440.0を確認した。
さらに、H−NMR測定によりこの化合物の構造を確認した。
H−NMR(CDCl,600MHz) δ(ppm):8.66(1H,d,J=8.40Hz),8.40(1H,d,J=7.80Hz),7.97(1H,d,J=6.60Hz),7.92(2H,d,J=7.80Hz),7.84(1H,d,J=7.20Hz),7.80(1H,t,J=7.20,7.80Hz),7.57(1H,d,J=7.20Hz),7.46(1H,t,J=7.20,7.80Hz),7.41(2H,t,J=7.20,7.80Hz),7.29−7.21(2H,m),7.19(1H,s),7.14(1H,t,J=7.20,7.80Hz),7.11(2H,t,J=7.20,7.80Hz),6.81(1H,d,J=7.20Hz),6.77(2H,d,J=7.20Hz)
例示化合物A1を含むトルエン希薄溶液のPLスペクトルを、日立製F−4500を用いて励起波長350nmで測定したところ、479nmに最大強度を有する青緑色発光スペクトルを観測した。次に、当該希薄溶液について、絶対量子収率測定装置(C9920−02、浜松ホトニクス(株)社製)を用いて、発光量子収率を測定したところ発光量子収率は0.66であった。
【0102】
[例示化合物A1を有する有機発光素子について]
例示化合物A1は有機発光素子に用いることができると考えられる。具体的には順次陽極/正孔輸送層/発光層/ホール・エキシトンブロッキング層/電子輸送層/陰極の構成の有機発光素子を想定する。
【0103】
各層の化合物は以下のものを用いることができると考える。
正孔輸送層(30nm) G1
発光層(30nm) ホスト:G2 ゲスト:例示化合物A1
電子輸送層(30nm) G3
金属電極層1(1nm)LiF
金属電極層2(100nm)Al
【0104】
【化14】

【0105】
このような構成の有機発光素子は発光すると考える。
【符号の説明】
【0106】
8 TFT素子
11 陽極
12 有機化合物層
13 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[1]示されることを特徴とする有機化合物。
【化1】


一般式[1]中、R乃至Rはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基から選ばれる。
前記アルキル基はメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基のいずれかである。
前記アリール基はフェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フェナンスレニル基、アントラセニル基、フルオランテニル基、ベンゾフルオランテニル基、フルオレニル基のいずれかである。
前記アルキル基および前記アリール基は置換基を有してよく、前記置換基は、アルキル基、アラルキル基、アリール基、複素環基、アミノ基、アルコキシル基、シアノ基、ハロゲン原子のいずれかである。
【請求項2】
一対の電極と前記一対の電極の間に配置される有機化合物層とを有し、前記有機化合物層は請求項1に記載の有機化合物を有することを特徴とする有機発光素子。
【請求項3】
前記有機化合物層は発光層であることを特徴とする請求項2に記載の有機発光素子。
【請求項4】
複数の画素を有し、前記画素は請求項2乃至3のいずれか一項に記載の有機発光素子と前記有機発光素子に接続するスイッチング素子とを有することを特徴とする表示装置。
【請求項5】
画像を入力するための画像入力部と画像を出力するための表示部とを有し、前記表示部は複数の画素を有し、前記画素は請求項2乃至3のいずれか一項に記載の有機発光素子と前記有機発光素子に接続するスイッチング素子とを有することを特徴とする画像出力装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−162525(P2011−162525A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30453(P2010−30453)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】