説明

新規有機化合物およびそれを有する有機発光素子

【課題】 有機発光素子の低電圧化並びに高効率化を達成するため、新規な有機化合物を提供する。
【解決手段】 請求項1に記載の一般式(1)で示されることを特徴とする有機化合物を提供する。
一般式(1)において、R乃至Rは、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、置換あるいは無置換のフェニル基、の中からそれぞれ独立に選ばれる。
前記フェニル基は炭素数1以上4以下のアルキル基を有してよい。
Arは、ビフェニル、置換基を有してよいフルオレン、ジベンゾチオフェンのいずれかである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規有機化合物およびそれを有する有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は、一対の電極とこれら一対の電極の間に配置された有機化合物層とを有する素子である。該電極に電圧を印加すると、電極から供給された正孔と電子が有機化合物層内の発光層で再結合して励起子を生じ、該励起子が基底状態に戻る際に発光が得られる。
【0003】
有機発光素子は高速応答性、高い発光効率、フレキシブル性を有する次世代のフルカラーディスプレイ技術の一つとして注目されており、材料技術開発および素子技術開発が精力的に行われている。
【0004】
例えば、特許文献1ではジベンゾチオフェン化合物を電子輸送層に用いた素子が開示されている。電子輸送層に用いる化合物として電子輸送化合物2が開示されている。
【0005】
特許文献2ではポリピリジル置換2−シアノジベンゾチオフェン化合物を用いた素子が開示されている。
【0006】
正孔ブロッキング層に用いる化合物として化合物37が開示されている。
【0007】
【化1】


電子輸送化合物2
【0008】
【化2】


化合物37
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−135467号公報
【特許文献2】WO2009/069442 パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
駆動電圧が低くかつ発光効率が高い有機発光素子に用いる化合物には、高い電子注入性および高い電子輸送性が求められる。このためには、有機化合物の電子親和力が大きいことが好ましい。
【0011】
また、有機発光素子の有機化合物層には正孔、電子、励起子などの高エネルギー化学種が高密度で存在する。このため、有機発光素子に用いられる有機化合物には、化学的な安定性が高いことが求められる。
【0012】
特許文献1乃至2に記載された化合物は、電子輸送性は高いが電子注入性が十分でないため、有機発光素子の駆動電圧を低減することができない。また、酸化に対しての安定性も十分ではない。
【0013】
そこで本発明は、有機発光素子の駆動電圧を低減するために、電子注入性の高くかつ酸化に対して安定な有機化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
よって本発明は、下記一般式(1)で示されることを特徴とする有機化合物を提供する。
【0015】
【化3】

【0016】
一般式(1)において、R乃至Rは、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、置換あるいは無置換のフェニル基、の中からそれぞれ独立に選ばれる。
前記フェニル基は炭素数1以上4以下のアルキル基を有してよい。
Arは、下記構造式で示されるいずれかである。
【0017】
【化4】

【0018】
乃至Rは、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基からそれぞれ独立に選ばれる。*は、前記一般式(1)中の2つのジベンゾチオフェンと結合する位置を示す。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、電子注入性が高くかつ酸化に対して安定な有機化合物を提供できる。そしてそれを有する低電圧駆動、且つ発光効率が高い有機発光素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】有機発光素子とこれに接続されたTFT素子とを示す断面構造の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、下記一般式(1)で示されることを特徴とする有機化合物である。
【0022】
【化5】

【0023】
一般式(1)において、R乃至Rは、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、置換あるいは無置換のフェニル基、の中からそれぞれ独立に選ばれる。
前記フェニル基は炭素数1以上4以下のアルキル基を有してよい。
Arは、下記構造式で示されるいずれかである。
【0024】
【化6】

【0025】
乃至Rは、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基からそれぞれ独立に選ばれる。*は、前記一般式(1)中の2つのジベンゾチオフェンと結合する位置を示す。
【0026】
本発明に係る有機化合物は、一般式(1)で示される。
【0027】
一般式(1)において、R1乃至R4は水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、置換あるいは無置換のフェニル基からそれぞれ独立に選ばれる。R1乃至R4に設けられる置換基としてフェニル基以外のアリール基を置換した場合、化合物全体の分子量が大きいため、フェニル基が好ましい。
【0028】
また、R乃至Rは、Arと同様、化学的に活性の高い反応点を持たないものが好ましい。
【0029】
従って、R乃至Rとしては、水素原子、アルキル基、無置換のフェニル基、アルキル基で置換されたフェニル基が好ましい。R乃至Rは、同一でも良く、各々が異なっていても良い。
【0030】
アルキル基としては、炭素数1乃至4のアルキル基が好ましい。
【0031】
合成上容易に利用できるR乃至Rの特に好ましい例としては、水素原子、ターシャリブチル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、ターシャリブチルフェニル基、3,5−ジ(ターシャリブチル)フェニル基が挙げられる。
【0032】
一般式(1)におけるArで示される置換あるいは無置換のアリール基としては、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、アントリル基、ピレニル基、トリフェニレニル基、インデニル基、フルオレニル基、フルオランテニル基が挙げられる。
【0033】
一般式(1)において、Arとして表される置換あるいは無置換の複素環基としては、例えば、ピリジル基、ピリミジル基、ピラジル基、1,3,5−トリアジル基、キノリル基、イソキノリル基、1,10−フェナンスロリル基、ピロリル基、フラニル基、チオフェニル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、オキサジアゾリル基、チアジアゾリル基、インドリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチオフェニル基、ベンズイミダゾリル基、ベンズオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、ベンズオキサジアゾリル基、ベンゾチアジアゾリル基、カルバゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチオフェニル基が挙げられる。
【0034】
置換あるいは無置換のアリール基並びに置換あるいは無置換の複素環基の中でも特に化学的安定性に優れるものは、化学的に活性の高い反応点を持たないものである。化学的に活性の高い反応点があると、有機発光素子中に存在する、正孔、電子、励起子などの高エネルギー化学種と望ましくない反応を起こす可能性が高くなる。
【0035】
一般式(1)で示されたAr置換あるいは無置換のアリール基並びに置換あるいは無置換の複素環基の中で、化学的安定性に特に優れるものは、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、アントリル基、ピレニル基、トリフェニレニル基、フルオレニル基、フルオランテニル基、ジベンゾチオフェニル基である。
【0036】
ここで、Arにフェニル基を単独で用いる場合、化合物の分子量が小さくなる傾向にあるため、昇華精製の容易性や蒸着時の安定性を考慮すると不利となる。
【0037】
本発明に係る有機化合物はジベンゾチオフェンを有している。このジベンゾチオフェンの4位または6位にシアノ基が設けられている。このジベンゾチオフェンはシアノ基を設けることで大きな電子親和力を有するので、電子注入性が高い化合物である。
【0038】
また、本発明に係る有機化合物は、大きなイオン化ポテンシャルを有する化合物なので酸化に対して安定な化合物である。
【0039】
本発明に係る有機化合物の電子親和力および酸化に対しての安定性を示すために、ジベンゾチオフェン部分の評価を行う。
【0040】
有機化合物の電子注入性および酸化に対しての安定性は、有機化合物のLUMOおよびHOMOを測定することで評価できる。ここで、LUMOとは最低空軌道(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)であり、HOMOとは最高被占軌道(Highest Occupied Molecular Orbital)である。
【0041】
ジベンゾチオフェンに容易に置換基を設けることが可能な位置は、2位、4位、6位、8位が挙げられる。分子の対称性から2位および4位の検討行えばすべての置換位置について検討することになる。
【0042】
本実施形態では、分子軌道計算によってLUMOおよびHOMOの分子軌道エネルギーを計算した。
【0043】
上記に示した分子軌道計算は、現在広く用いられているGaussian 03(Gaussian 03,Revision E.01,M.J.Frisch,G.W.Trucks,H.B.Schlegel,G.E.Scuseria,M.A.Robb,J.R.Cheeseman,J.A.Montgomery,Jr.,T.Vreven,K.N.Kudin,J.C.Burant,J.M.Millam,S.S.Iyengar,J.Tomasi,V.Barone,B.Mennucci,M.Cossi,G.Scalmani,N.Rega,G.A.Petersson,H.Nakatsuji,M.Hada,M.Ehara,K.Toyota,R.Fukuda,J.Hasegawa,M.Ishida,T.Nakajima,Y.Honda,O.Kitao,H.Nakai,M.Klene,X.Li,J.E.Knox,H.P.Hratchian,J.B.Cross,V.Bakken,C.Adamo,J.Jaramillo,R.Gomperts,R.E.Stratmann,O.Yazyev,A.J.Austin,R.Cammi,C.Pomelli,J.W.Ochterski,P.Y.Ayala,K.Morokuma,G.A.Voth,P.Salvador,J.J.Dannenberg,V.G.Zakrzewski,S.Dapprich,A.D.Daniels,M.C.Strain,O.Farkas,D.K.Malick,A.D.Rabuck,K.Raghavachari,J.B.Foresman,J.V.Ortiz,Q.Cui,A.G.Baboul,S.Clifford,J.Cioslowski,B.B.Stefanov,G.Liu,A.Liashenko,P.Piskorz,I.Komaromi,R.L.Martin,D.J.Fox,T.Keith,M.A.Al−Laham,C.Y.Peng,A.Nanayakkara,M.Challacombe,P.M.W.Gill,B.Johnson,W.Chen,M.W.Wong,C.Gonzalez,and J.A.Pople,Gaussian,Inc.,Wallingford CT,2004.)により実施した。計算手法としては、B3LYP/6−31G*を用いた。この計算手法は誤差を含むことが知られているが、分子設計を行う上で有用な指針を与えるものである。
【0044】
分子軌道計算により得られたHOMOおよびLUMOの分子軌道エネルギーを表1に示す。なお、HOMOの絶対値が大きいほど酸化に対しての安定性が高く、LUMOの絶対値が大きいほど電子親和力が大きく、電子注入性が高い。
【0045】
【表1】

【0046】
この結果から、4位にシアノ基を設けた化合物が、電子注入性と酸化に対しての安定性を両立することがわかる。従って、4位にシアノ基を有するジベンゾチオフェンで構成された本発明に係る有機化合物は電子注入性および酸化に対しての安定性が高い。
【0047】
シアノ基の置換位置が2位の化合物は酸化に対しての安定性は十分だが、電子親和力が不十分である。
【0048】
本発明に係る有機化合物は、高い電子注入性および酸化に対しての高い安定性を有するため、有機発光素子の有機化合物層に好ましく用いることができる。
【0049】
有機化合物層の中でも特に電子輸送層または電子注入層に用いられることが好ましい。
【0050】
本発明に係る有機化合物は、1つの分子内に4位または6位をシアノ基で置換したジベンゾチオフェンを複数有する化合物である。
【0051】
ジベンゾチオフェンへの4位または6位へのシアノ基置換では、電子親和力が大きくなる。
【0052】
このため、単一分子内に4位または6位をシアノ基で置換したジベンゾチオフェンが1つしかない化合物の場合、この分子全体のLUMOは4位または6位をシアノ基で置換したジベンゾチオフェンに局在化する傾向が高い。LUMOが狭い領域に局在化すると化合物の電子移動度が遅くなる傾向にあり、有機発光素子の高電圧化の原因となり得る。
【0053】
単一分子内に4位または6位をシアノ基で置換したジベンゾチオフェンを2つ設けた場合、LUMOが広がる。LUMOが広がると化合物の電子移動度が速くなる傾向にある。
【0054】
このため、4位または6位をシアノ基で置換したジベンゾチオフェンを2つ設けられた化合物は、電子移動度が高い。
【0055】
4位または6位にシアノ基を有するジベンゾチオフェンを2つ有する化合物は、電子移動度、電子親和力、イオン化ポテンシャルがそれぞれ高いので、好ましい。
【0056】
しかし、2つのジベンゾチオフェンを単結合で直接結合する場合、有機発光素子に用いる化合物としては分子量が小さい。分子量が小さい場合、昇華精製の容易性及び蒸着時の安定性に対して不利となる。そこで、4位または6位をシアノ基で置換したジベンゾチオフェン2つを、単結合ではなく、連結基を用いて連結することが好ましい。
【0057】
本発明に係る有機化合物が有する連結基には、様々な分子構造があり得る。
【0058】
ここで、有機発光素子の材料として必要な化学的安定性を得るためには、連結基が置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基であることが好ましい。
【0059】
連結基としては、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基以外の連結基、例えば、アルキル基、アラルキル基、アルコキシ基、アミノ基等も可能である。
【0060】
しかし、これらの基は、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基と比較して、連結基とジベンゾチオフェンとの結合エネルギーが低く、化学的安定性に劣る。
【0061】
4−シアノジベンゾチオフェンには、置換可能な個所が3か所ある。即ち、2位、6位、8位である。ここで、各々の位置にフェニル基が連結した分子構造を前述の量子化学計算を用いて計算すると、6位では、4−シアノジベンゾチオフェンとこのフェニル基との間の二面角が51°となる。
【0062】
一方で、2位および8位では、該二面角は39°となる。二面角が小さくなると、分子全体の平面性が高い。
【0063】
即ち、4−シアノジベンゾチオフェンの2位および8位の位置に置換基がある場合は、6位と比較して、化合物全体の分子構造がより平面的になる。
【0064】
分子構造が平面的になると分子間スタッキング等の相互作用が大きくなるので、有機発光素子の電子輸送層として用いた場合、有機発光素子の発光スペクトルの長波化、励起子消光やエキサイマー形成等による発光効率の低下の原因となる。
【0065】
従って、一般式(1)で示すように、ジベンゾチオフェンの4位または6位の一方にシアノ基を置換し、他方には連結基Arで置換する構造が好ましい。
【0066】
本発明に係る有機化合物が有する連結基Arは、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基であることが好ましい。
【0067】
Arで示される部位をアリール基、複素環基である場合は、バンドギャップが広くかつT1エネルギー準位が高くなるからである。
【0068】
バンドギャップを広くするには、Arに6員環同士の縮環がないことが好ましい。
【0069】
また、フェニル基のユニットが多くなるとバンドギャップが狭くなる傾向にあるため、Arに使用するフェニル基のユニットは2又は3であることが好ましい。
【0070】
従って、Arとして好ましいものは、ビフェニル基、ターフェニル基、フルオレニル基、ジベンゾチオフェニル基である。
【0071】
ここで、Arにフルオレニル基を用いる場合、フルオレニル基の2位および7位への置換はバンドギャップが狭くなる。また、フルオレニル基の1位および8位への置換は、バンドギャップは広くなるが、R乃至Rとの立体障害が大きく、合成上置換基を導入することが困難となる。
【0072】
また、ターフェニル基には、結合方法の違いにより、オルトターフェニル基、メタターフェニル基、パラターフェニル基の3種類がある。このうち、パラターフェニル基は、それ自身の最低三重項励起エネルギーが低い。
【0073】
このため、Arにパラターフェニル基を用いた場合、特に最低三重項励起状態からの発光を用いる、燐光発光を用いた有機発光素子で発光効率低下の原因となり得る。
【0074】
また、3つのフェニル基のユニット同士がオルト位で結合した化合物は、光化学的に不安定であり、化学的安定性に対して不利である。さらに最低三重項励起エネルギーも低くなるため、特に燐光発光を用いた有機発光素子では発光効率の低下の原因となり得る。
【0075】
従って、Arについては、3つのフェニル基のユニット同士がメタ置換乃至パラ置換のみで構成されることが、化合物の光化学的安定性および高い最低三重項励起エネルギーが得られるため、好ましい。
【0076】
従って、Arは、ビフェニル基、フルオレニル基、ターフェニル基、ジベンゾチオフェニル基、すなわち下記一般式(2)で示される構造のいずれかであることが好ましい。さらに好ましくは、ビフェニル基、ジベンゾチオフェニル基のいずれかである。
【0077】
【化7】

【0078】
*は、前記一般式(1)中の2つのジベンゾチオフェンと結合する位置を示す。
【0079】
乃至Rは、アルキル基であることが好ましい。R乃至Rは炭素数1乃至4のアルキル基であることが好ましく、メチル基であることがさらに好ましい。
【0080】
(本発明に係る有機化合物の例示)
本発明に係る有機化合物の具体例を以下に示す。本発明は以下の化合物に限定されるものではない。
【0081】
【化8】

【0082】
【化9】

【0083】
(合成ルートの説明)
本発明に係る有機化合物は、例えば、以下のような合成経路で合成できる。
【0084】
【化10】

【0085】
出発物質のジベンゾチオフェン、あるいは中間体のピナコールボラン体を変更することで、前記E−1乃至E−20に示すような本発明に係る有機化合物をそれぞれ合成できる。
【0086】
(有機発光素子の説明)
次に本実施形態に係る有機発光素子を説明する。
【0087】
本実施形態に係る有機発光素子は、陽極および陰極を一例とする一対の電極とこれら一対の電極の間に配置された有機化合物層とを有する有機発光素子であって、前記有機化合物層が本発明に係る有機化合物を有する。
【0088】
本実施形態に係る有機発光素子が有する有機化合物層は、単層であっても複数層であっても構わない。複数層とは、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、ホールブロック層、電子輸送層、電子注入層、励起子拡散阻止層等から適宜選択される層である。もちろん、上記群の中から複数を選択し、かつそれらを組み合わせて用いることができる。
【0089】
電子輸送層とは、発光層に接し、発光層に陰極から供給された電子を注入する役割をもつ有機化合物層である。
【0090】
本実施形態に係る有機発光素子の構成はこれらに限定されるものではない。例えば、電極と有機化合物層界面に絶縁性層を設ける、接着層あるいは干渉層を設ける、電子輸送層もしくはホール輸送層がイオン化ポテンシャルの異なる二層から構成されるなど多様な層構成をとることができる。
【0091】
その場合の素子形態は、基板とは逆側の電極から光を取り出すいわゆるトップエミッション方式でも、基板側から光を取り出すいわゆるボトムエミッション方式でも良く、両面取り出しの構成でも使用することができる。
【0092】
本実施形態に係る有機発光素子は一般式(1)で示される有機化合物を発光層、正孔ブロッキング層、励起子拡散阻止層、電子輸送層、あるいは電子注入層に有することが好ましく、正孔ブロッキング層、励起子拡散阻止層、電子輸送層、あるいは電子注入層に有することが特に好ましい。
【0093】
本発明に係る有機化合物は、電子親和力が高いため、電子注入性と電子輸送性が高い。
【0094】
このため、電子輸送層あるいは電子注入層として用いることにより、低電圧で且つ発光効率が高い有機発光素子が得られる。
【0095】
本発明に係る有機化合物は、イオン化ポテンシャルが高いため、正孔ブロッキング層として用いることにより、正孔を効果的に発光層内に閉じ込めることができ、発光効率が高い有機発光素子が得られる。
【0096】
本発明に係る有機化合物は、励起子に対して強く、且つバンドギャップが広いため、励起子拡散阻止層として用いることにより、励起子を効果的に発光層内に閉じ込めることができ、発光効率が高い有機発光素子が得られる。
【0097】
また、本発明に係る有機化合物に、電子輸送層、電子注入層、正孔ブロッキング層、励起子拡散阻止層の、いずれか2つ以上の機能を兼ねさせることも可能である。以下で、例えば、正孔ブロッキング・励起子拡散阻止層と書いた場合は、該層が一層のみで正孔ブロッキング層並びに励起子拡散阻止層の2つの機能を同時に備えていることを意味する。
【0098】
さらに、本発明に係る有機化合物を、発光層、正孔ブロッキング層、励起子拡散阻止層、電子輸送層、電子注入層以外の有機発光素子を構成する有機層、例えば、電子ブロッキング層や、中間層等に用いても良い。
【0099】
本発明に係る有機化合物により、低電圧駆動、且つ高発光効率を実現する有機発光素子を提供できる。
【0100】
本実施形態に係る有機発光素子は、必要に応じて従来公知の正孔注入性化合物並びに正孔輸送性化合物、発光層を形成するホスト化合物並びに発光性化合物、電子注入性化合物並びに電子輸送性化合物等を一緒に使用することができる。これらの公知化合物は低分子系であっても良いし、高分子系であっても良い。
【0101】
以下にこれらの化合物例を挙げる。
【0102】
正孔輸送層に用いる正孔注入性材料あるいは正孔輸送性材料は、正孔移動度が高いことが好ましい。正孔注入性能あるいは正孔輸送性能を有する低分子及び高分子系材料としては、例えば、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0103】
発光層は、単一の材料から構成されていても良いし、二種類以上成分、すなわち主成分と副成分から構成されていても良い。ここで主成分と副成分とは、発光層を構成する化合物の中で重量比が最も大きいものを主成分と呼び、主成分よりも重量比が小さいものを副成分と呼ぶ。
【0104】
主成分である材料は、ホスト材料と呼ぶこともできる。
【0105】
副成分である材料は、ドーパント(ゲスト)材料である。他にも発光アシスト材料、電荷注入材料を副成分として挙げることができる。
【0106】
なお、ホスト材料に対するゲスト材料の濃度は0.01wt%以上20wt%以下であることが好ましく、0.2wt%以上5wt%以下であることがより好ましい。
【0107】
単一の発光材料としては、例えば、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム等の有機アルミニウム錯体、有機亜鉛錯体、有機希土類錯体、スチリルアミン誘導体、ポリパラフェニレンビニレン等の高分子化合物が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0108】
ホスト材料としては、例えば、フルオレン誘導体、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、ピレン誘導体、カルバゾール誘導体、キノキサリン誘導体、キノリン誘導体、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム等の有機アルミニウム錯体、有機亜鉛錯体、及びトリフェニルアミン誘導体、ポリ(フルオレン)誘導体、ポリ(フェニレン)誘導体等の高分子誘導体が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0109】
ゲスト材料としては、蛍光発光材料または燐光発光材料のどちらでも用いることができる。例えば、フルオレン誘導体、フルオランテン誘導体、クリセン誘導体、アントラセン誘導体、ペリレン誘導体、テトラセン誘導体、クマリン誘導体、キナクリドン誘導体の他、(2−カルボキシピリジル)ビス(3,5−ジフルオロ−2−(2−ピリジル)フェニル)イリジウム(FIrpic)、fac−トリス(2−(2−ピリジニル)フェニル)イリジウム(Ir(ppy))、fac−トリス(1−フェニルイソキノリン)イリジウム(Ir(piq))等のイリジウム錯体、白金錯体、銅錯体、アルミニウム錯体、ランタノイド錯体等の有機金属錯体が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0110】
電子注入性化合物あるいは電子輸送性化合物は、正孔注入性化合物あるいは正孔輸送性化合物の正孔移動度とのバランス等を考慮し選択される。電子輸送層に使用する電子輸送性材料としては、例えば、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、ペリレン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フルオレノン誘導体、アントロン誘導体、フェナントロリン誘導体、キノリノールアルミニウム錯体等の有機金属錯体等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0111】
また、電子注入層に使用する電子注入性材料としては、例えば、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機アルミニウム錯体等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0112】
陽極材料としては、仕事関数がなるべく大きなものがよい。例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、タングステン等の金属単体あるいはこれらの合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物である。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性ポリマーでもよい。これらの電極物質は単独で使用してもよいし複数併用して使用してもよい。また、陽極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0113】
一方、陰極材料としては、仕事関数の小さなものがよい。例えば、リチウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム、チタン、マンガン、銀、鉛、クロム等の金属単体が挙げられる。あるいはこれら金属単体を組み合わせた合金も使用することができる。例えば、マグネシウム−銀、アルミニウム−リチウム、アルミニウム−マグネシウム等が使用できる。酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は単独で使用してもよいし、複数併用して使用してもよい。また、陰極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0114】
本実施形態に係る有機発光素子において、本実施形態に係る有機化合物を含有する層及びその他の有機化合物からなる層は、様々な既知の方法により形成できる。一般には真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング法、プラズマ、あるいは適当な溶媒に溶解させて公知の塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)により層を形成できる。
【0115】
ここで真空蒸着法や溶液塗布法等によって層を形成すると、結晶化等が起こりにくく経時安定性に優れる。また塗布法で形成する場合は、適当なバインダー樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
【0116】
上記バインダー樹脂としては、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらバインダー樹脂は、ホモポリマー又は共重合体として1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。さらに必要に応じて、公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を併用してもよい。
【0117】
(有機発光素子の用途)
本発明に係る有機発光素子は、表示装置や照明装置に用いることができる。他にも電子写真方式の画像形成装置の露光光源や液晶表示装置のバックライトなどに用いることができる。
【0118】
表示装置は本実施形態に係る有機発光素子を表示部に有する。この表示部は複数の画素を有する。この画素は本実施形態に係る有機発光素子と発光輝度を制御するためのスイッチング素子の一例としてTFT素子を有し、この有機発光素子の陽極または陰極と薄膜トランジスタのドレイン電極またはソース電極とが接続されている。表示装置はPC等の画像表示装置として用いることができる。
【0119】
表示装置は、エリアCCD、リニアCCD、メモリーカード等からの情報を入力する画像入力部を有し、入力された画像を表示部に出力する画像出力装置でもよい。また、撮像装置やインクジェットプリンタが有する表示部として、外部から入力された画像情報に基づいて画像を表示する画像出力機能と操作パネルとして画像への加工情報を入力する入力機能との両方を有していてもよい。また表示装置はマルチファンクションプリンタの表示部に用いられてもよい。
【0120】
次に、本実施形態に係る有機発光素子を使用した表示装置について図1を用いて説明する。
【0121】
図1は、本実施形態に係る有機発光素子と、有機発光素子に接続するスイッチング素子の一例であるTFT素子とを示した断面模式図である。本図では有機発光素子とTFT素子との組が2組図示されている。構造の詳細を以下に説明する。
【0122】
図1の表示装置は、ガラス等の基板1とその上部にTFT素子又は有機化合物層を保護するための防湿膜2が設けられている。また符号3は金属のゲート電極である。符号4はゲート絶縁膜であり、符号5は半導体層である。
【0123】
薄膜トランジスタ8は、半導体層5とドレイン電極6とソース電極7とを有している。薄膜トランジスタ8の上部には絶縁膜9が設けられ、コンタクトホール10を介して有機発光素子の陽極11とソース電極7とが接続されている。表示装置はこの構成に限られず、陽極または陰極のうちいずれか一方と薄膜トランジスタソース電極またはドレイン電極のいずれか一方とが接続されていればよい。
【0124】
有機化合物層12は本図では簡略化して1つの層として図示しているが、実際には多層の有機化合物層からなる。陰極13の上には有機発光素子の劣化を抑制するための第一の保護層14や第二の保護層15が設けられている。
【0125】
本実施形態に係る表示装置においてスイッチング素子に特に制限はなく、トランジスタやMIM素子を用いてよい。トランジスタは単結晶シリコンを用いた薄膜トランジスタ、アモルファスシリコン型の薄膜トランジスタ素子等を用いてもよい。薄膜トランジスタはTFT素子とも呼ばれる。
【0126】
有機発光素子はスイッチング素子により発光輝度が制御される。有機発光素子を複数面内に設けることでそれぞれの発光輝度により画像を表示することができる。
【0127】
また、Si基板上にアクティブマトリクスドライバーを作製し、その上に有機発光素子を設けて制御することも可能である。
【0128】
これは精細度によって選択され、たとえば1インチでQVGA程度の精細度の場合はSi基板上に有機発光素子を設ける方が好ましい。
【0129】
本発明の有機発光素子を用いた表示装置を駆動することにより、良好な画質で、安定な長時間表示が可能になる。
【実施例】
【0130】
以下、本発明について実施例を用いて詳細に説明する。なお本発明はこれらに限定されるものではない。
【0131】
(実施例1)[例示化合物E−1の合成]
【0132】
【化11】

【0133】
1000ml三ツ口フラスコに、ジベンゾチオフェン[DBT]20g(109mmol)、テトラ−N−メチルエチレンジアミン[TMEDA]36ml(240mmol)およびn−ヘプタン200mlを入れ、窒素雰囲気中、0℃で撹拌下、n−BuLi(15%ヘキサン溶液)155ml(240mmol)を滴下した後、70℃で30分間撹拌した。
【0134】
この反応液を、ヨウ素66g(262mmol)およびジエチルエーテル200mlを入れた1000ml三ツ口フラスコに、窒素雰囲気中、0℃で撹拌下、滴下した後、室温で3時間撹拌した。反応後、有機層をクロロホルムで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、シリカゲルカラム(ヘプタン+トルエン混合展開溶媒)で精製し、4,5−di I−DBT(白色結晶)29g(収率60%)を得た。
【0135】
300ml三ツ口フラスコに、4,5−di I−DBT20g(45.9mmol)、およびN−メチルピロリドン120mlを入れ、窒素雰囲気中、室温で撹拌下、フェロシアン化カリウム3水和物(K4Fe(CN)6・3H2O)5.8g(13.8mmol)を入れた。次いで、炭酸ナトリウム1.5g(13.8mmol)、次いで触媒として酢酸パラディウム(4mol%)およびトリシクロヘキシルホスフィン(1mol%)を入れ、窒素雰囲気中、140℃で4時間撹拌した。反応後、有機層をクロロホルムで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、シリカゲルカラム(ヘプタン+トルエン混合展開溶媒)で精製し、4−CN,5−I−DBT(白色結晶)3.4g(収率22%)を得た。
【0136】
200ml三ツ口フラスコに、ビスピナコール体[1]0.83g(2.0mmol)、4−CN,5−I−DBT1.5g(4.4mmol)およびトルエン80mlエタノール30mlを入れた。窒素雰囲気中、室温で撹拌下、炭酸ナトリウム1.1g(10mmol)水溶液5ml、次いで触媒としてテトラキストリフェニルホスフィンパラデイウム(5mol%)を入れ、80℃で4時間撹拌した。反応後、有機層をクロロホルムで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、シリカゲルカラム(ヘプタン+クロロホルム混合展開溶媒)で精製し、E−1(白色結晶)0.75g(収率65%)を得た。
【0137】
(実施例2)[例示化合物E−8の合成]
【0138】
【化12】

【0139】
300ml三ツ口フラスコに、4,5−di I−DBT10g(23mmol)およびトルエン150mlを入れ、窒素雰囲気中、室温で撹拌下、トリエチルアミン8ml(58mmol)を入れ、次いでピナコールボラン7.5ml(51mmol)、次いで触媒としてジフェニルホスフィノジクロロプロパンニッケル(10mol%)を入れた後、100℃で6時間撹拌した。反応後、有機層を酢酸エチルで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、シリカゲルカラム(トルエン展開溶媒)で精製し、4,5−di PB−DBT(白色結晶)7.5g(収率75%)を得た。
【0140】
200ml三ツ口フラスコに、4,5−di PB−DBT1g(2.3mmol)、4−CN,5−I−DBT1.7g(5.1mmol)およびトルエン80mlエタノール30mlを入れた。窒素雰囲気中、室温で撹拌下、炭酸ナトリウム2.1g(20mmol)水溶液10ml、次いで触媒としてテトラキストリフェニルホスフィンパラディウム(5mol%)を入れ、80℃で4時間撹拌した。反応後、有機層をクロロホルムで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、シリカゲルカラム(ヘプタン+クロロホルム混合展開溶媒)で精製し、E−8(白色結晶)0.96g(収率70%)を得た。
【0141】
(実施例3)[比較化合物R−1の合成]
【0142】
【化13】

【0143】
200ml三ツ口フラスコに、ジブロモ体[2]1g(2.5mmol)、ジベンゾチオフェン−4−ボロン酸(和光ケミカル製)1.3g(5.5mmol)およびトルエン80mlエタノール30mlを入れた。窒素雰囲気中、室温で撹拌下、炭酸ナトリウム2.1g(20mmol)水溶液10ml、次いで触媒としてテトラキストリフェニルホスフィンパラディウム(5mol%)を入れ、80℃で4時間撹拌した。反応後、有機層をクロロホルムで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、シリカゲルカラム(ヘプタン+クロロホルム混合展開溶媒)で精製し、R−1(白色結晶)1.1g(収率83%)を得た。
【0144】
(実施例4)[比較化合物R−2の合成]
【0145】
【化14】

【0146】
200ml三ツ口フラスコに、4,5−di I−DBT1g(2.3mmol)、ジベンゾチオフェン−4−ボロン酸(和光ケミカル製)1.2g(5.1mmol)およびトルエン80mlエタノール30mlを入れた。窒素雰囲気中、室温で撹拌下、炭酸ナトリウム2.1g(20mmol)水溶液10ml、次いで触媒としてテトラキストリフェニルホスフィンパラディウム(5mol%)を入れ、80℃で4時間撹拌した。反応後、有機層をクロロホルムで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、シリカゲルカラム(ヘプタン+クロロホルム混合展開溶媒)で精製し、R−2(白色結晶)0.89g(収率71%)を得た。
【0147】
(実施例5)[化合物HT−1の合成例]
【0148】
【化15】

【0149】
100mlナスフラスコにN,N’−ジフェニルベンジジン4.88g(14.5mmol)、2−ヨード−9,9−ジメチルフルオレン6.40g(20mmol)、炭酸カリウム4.00g、銅粉3.0g、オルトジクロロベンゼン30mlを仕込み、冷却管をつけて、20時間還流撹拌を続けた。反応液を冷却後、濾過し、減圧化でオルトジクロロベンゼンを濃縮除去した後、メタノールを加えて粗製結晶を析出させて濾取した。
得られた粗製結晶を、シリカゲルカラムを用いてトルエン/ヘキサン混合溶液で精製することにより、化合物HT−1の白色結晶7.32g(収率70%)が得られた。
【0150】
(実施例6)[実施化合物と比較化合物のエネルギー準位測定]
本発明の例示化合物E−1およびE−8、比較化合物R−1およびR−2について、イオン化ポテンシャルと電子親和力を測定した。
【0151】
有機化合物のイオン化ポテンシャル測定には種々の方法があるが、光電子分光法による測定が最も簡便であり、広く用いられている。
【0152】
有機化合物の電子親和力は、前記測定法によるイオン化ポテンシャルの測定値から、分光光度計による吸収スペクトルの吸収端のエネルギー測定値を引いた差分値により、間接的に見積もる方法が広く用いられている。該差分値が大きいほど、電子親和力が大きい。
【0153】
本発明の例示化合物E−1およびE−8、比較化合物R−1、およびR−2の薄膜について、大気中光電子分光装置AC−3(理研計器)によりイオン化ポテンシャルを、F−4500形分光蛍光光度計(日立)により吸収スペクトルを測定した。
【0154】
表1に示す通り、本発明の例示化合物E−1およびE−8は、シアノ基のない比較化合物R−1およびR−2と比較して、電子親和力が大きくなった。従って、本発明の化合物は、比較化合物よりも電子注入性および電子輸送性が大きい。
【0155】
また、本発明の例示化合物E−1およびE−8は、シアノ基のない比較化合物R−1およびR−2と比較して、イオン化ポテンシャルが大きくなった。従って、本発明の化合物は、比較化合物よりも酸化に対して強く、化学的な安定性が高い。
【0156】
【表2】

【0157】
(実施例7)[比較化合物R−2の素子評価]
本実施例では、有機発光素子の素子構成を順次陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極とした。ガラス基板上に100nmのITOをパターニングし、陽極を形成した。そのITO基板上に、以下の有機層と電極層を10−5Paの真空チャンバー内で抵抗加熱により真空蒸着して連続製膜し、対向する電極面積が3mmになるようにした。
正孔輸送層(40nm) HT−1
発光層(30nm) ホスト:CBP(重量比 90%) ゲスト:Ir(ppy)(重量比 10%)
電子輸送層(30nm) 比較化合物R−2
金属電極層1(0.5nm) LiF
金属電極層2(100nm) Al
ホストは、CBP(Aldrich製)を使用した。
【0158】
【化16】

【0159】
ゲストは、Ir(ppy) (新日鐵化学製 Lumi Ace)を使用した。
【0160】
【化17】

【0161】
このようにして作成した有機発光素子の、電流電圧特性・発光輝度・発光スペクトル測定を行った。アドバンテスト社製R6144電圧/電流発生器にて電圧を印加した。電流電圧特性は、ケースリー社製2000 MULTIMETERで測定した。発光輝度は、トプコン社製BM7で測定した。発光スペクトルは、トプコン社製分光放射計SR−3で測定した。
測定の結果、10mA/cmの電流密度における電圧は12.5Vであり、発光の電流効率は21cd/Aであった。
【0162】
(実施例8)[例示化合物E−8の素子評価]
実施例7において、電子輸送層を本発明の例示化合物E−8とした他は、実施例7と同様に素子を作成し、測定を行った。
測定の結果、10mA/cmの電流密度における電圧は5.3Vとなり、比較化合物R−2と比べて低電圧化した。また、発光の電流効率は53cd/Aとなり、比較化合物R−2と比べて高効率化した。
【0163】
(実施例9)[例示化合物E−1の素子評価]
以下の層構成を持つ素子を作成し、評価した。作成及び評価方法については、実施例7と同様の方法で行った。
金属電極層1(100nm) Ag
透明電極層(10nm) ITO
正孔輸送層(180nm) HT−1
発光層(20nm) ホスト:CBP(重量比 90%) ゲスト:Ir(ppy)(重量比 10%)
電子輸送層(30nm) 例示化合物E−1
金属電極層2(12nm) Ag:Mg電極
測定の結果、10mA/cmの電流密度における電圧は3.8Vであり、発光の電流効率は55cd/Aであった。実施例8の例示化合物E−8を用いた素子と同様に、低電圧で且つ高効率の素子が得られた。
【0164】
(結果と考察)
本発明に係る有機化合物は、ジベンゾチオフェンの4位または6位にシアノ基が導入されていることで、シアノ基のない比較化合物と比べ、大きな電子親和力を有すことが示された。
【0165】
本発明に係る有機化合物は、大きな電子親和力のため、高い電子注入性と電子輸送性を示す。本発明に係る有機化合物を、有機発光素子に用いることにより、低電圧で且つ高効率の有機発光素子が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0166】
本発明の技術は、フルカラーディスプレイ等の表示装置だけでなく、照明機器、光電変換素子を使用した機器または電子写真機器等にも応用できる。
【符号の説明】
【0167】
8 TFT素子
11 陽極
12 有機化合物層
13 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されることを特徴とする有機化合物。
【化1】


一般式(1)において、R乃至Rは、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、置換あるいは無置換のフェニル基、の中からそれぞれ独立に選ばれる。
前記フェニル基は炭素数1以上4以下のアルキル基を有してよい。
Arは、下記構造式で示されるいずれかである。
【化2】


乃至Rは、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基からそれぞれ独立に選ばれる。*は、前記一般式(1)中の2つのジベンゾチオフェンと結合する位置を示す。
【請求項2】
一対の電極と前記一対の電極の間に配置された有機化合物層とを有する有機発光素子であって、
前記有機化合物層は請求項1に記載の有機化合物を有することを特徴とする有機発光素子。
【請求項3】
前記有機化合物層は、発光層と前記発光層に接する電子輸送層とを有し、
前記電子輸送層は前記有機化合物を有することを特徴とする請求項2に記載の有機発光素子。
【請求項4】
前記発光層は燐光発光材料を有することを特徴とする請求項3に記載の有機発光素子。
【請求項5】
複数の画素を有し、前記複数の画素は請求項2乃至4に記載の有機発光素子と前記有機発光素子に接続されたTFT素子とをそれぞれ有することを特徴とする表示装置。
【請求項6】
画像を表示するための表示部と画像情報を入力するための画像入力部とを有し、前記表示部は複数の画素を有し、前記複数の画素は請求項2乃至4に記載の有機発光素子と前記有機発光素子に接続されたTFT素子とをそれぞれ有することを特徴とする画像入力装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−206970(P2012−206970A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72856(P2011−72856)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】