説明

新規核酸移入系

本発明は、スクワレン構造またはそれと同様な構造を有する、少なくとも1つのC18炭化水素化合物である少なくとも1つの炭化水素化合物に共有結合している、10から40の間のヌクレオチドを含む核酸の少なくとも1分子によって形成される複合体に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子生物学の分野に関し、特に、核酸ベクトル化のための、遺伝子療法に有用である新型のビヒクルを提示することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
遺伝子療法は、治療を目的とした核酸の使用に主に基づいており、それゆえ「薬物DNA」の取得に寄与する。当初は、遺伝性の遺伝子疾患(hereditary genetic diseases)に関するもの、すなわち、遺伝性の欠損によって罹患している体細胞に原因遺伝子の機能性コピーが移入される場合に限定されていたが、遺伝子移入は、例えば、癌などの後天的疾患の治療にまで拡大されている。
【0003】
さらに最近では、遺伝子療法は、遺伝的組換えによる、遺伝子の発現の改変(例えば、エキソンスキッピング)または原因となっている遺伝的異常の修復(例えば、短い配列のDNA、DNA/RNAキメラ)のいずれか、さもなければ遺伝子の発現の抑制(例えば、siRNAすなわち「低分子干渉RNA」、アンチセンスオリゴヌクレオチド)を目的とした、短い核酸配列の移入まで拡大されている。
【0004】
本発明の発明者らは、とりわけ、後者のタイプに治療戦略の焦点を合わせた。
【0005】
RNA干渉は、進化の過程で高度に保存されている現象である。RNA干渉は、ひとたび細胞内にトランスフェクトされたならばmRNA(メッセンジャーRNA)の翻訳を、前記mRNAと相補的な配列によって遮断する、通常21から25ヌクレオチドを含む、siRNAと呼ばれる小分子の、通常2本鎖のRNAを用いた機序に基づいている。
【0006】
これらのsiRNAは、それ自体を細胞内にトランスフェクトすることも、より大きなRNA分子の分解から生じさせることもできる。
【0007】
後者の場合、細胞内に存在する2本鎖RNAが、まず第一に、ダイサーと呼ばれるIII型リボヌクレアーゼによってプロセシングされる。ダイサーが2本鎖RNAを21〜25塩基対毎に切断し、それによってsiRNAを生成する。ダイサーは、その後、siRNAを多タンパク質複合体であるRISC複合体(RNA誘導型サイレンシング複合体)に移す。「パッセンジャー」と呼ばれる、siRNAの鎖の一方が除去され、「ガイド」と呼ばれるもう一方が、このガイド鎖に相補的な配列を有するmRNAへとRISC複合体を導く。siRNAと標的mRNAとの間の相補性が完全である場合、RISC複合体は標的mRNAを切断する、その後、標的mRNAは分解され、それゆえ、もはやタンパク質に翻訳されない。
【0008】
したがって、そのままトランスフェクトされた、またはより長いRNAの切断から生じたsiRNAは、標的遺伝子発現のサイレンシングを結果としてもたらす。非相補的な塩基が数塩基あれば、この切断を阻止するのに十分である。それゆえ、この機序は、siRNA配列およびその標的であるmRNAに極めて特異的である。
【0009】
しかし、多くの遺伝子が、多くの病的状態において、過剰発現されるか、または誤った場所もしくは誤った時に発現される。これらの病的な発現を阻害できることの可能性は、これらの多くの疾患の治療に向けた大きな希望である。それらの疾患のうち最も重要なものは癌であり、また、ウイルスもしくは自己免疫起源の疾患である。
【0010】
siRNAの使用は、特定の遺伝子の機能を研究するのに有利なツールとなっている。これは、標的遺伝子の発現を遮断することによって、欠如によって、その機能を決定することが可能であるからである。
【0011】
しかし、in vivoにおけるこの治療戦略の使用は、特に実施に関して、さらに多くの困難を引き起こす。これは、遺伝子療法に関する場合、主に核酸トランスフェクトが3つの障害に直面するからである。
【0012】
まず第一に、有効であるためには、核酸は必ず、特異的にターゲッティングされた標的細胞に到達し、かつ細胞膜を横断しなければならず、同時に、生物によって分解されないでいなければならない。次に、核酸トランスフェクションは、毒性に関しても許容できるものでなければならない。最後に、核酸分子は、in vivoにおける安定性が乏しい。
【0013】
これらの困難を克服するため、細胞内への核酸分子の移入用に、いくつかのベクトル化技法が既に提唱されている。
【0014】
第1の技法は、組換え体ウイルスである、アデノウイルス(またはAAV(アデノ随伴ウイルスを表す))を用いる。トランスフェクションの別の様式であるエレクトロトランスファーは、考慮している細胞に、前記細胞内に核酸分子を注入した後に電場をアプライするものである。詳細には、これらの最初の2通りの方法は、満足できる遺伝子移入レベルを得ることを可能にするが、その一方でそれらは毒性に関して欠点を有する。
【0015】
事実上この欠点の排除を可能にする別の技法は、合成ベクターを利用する。例えば、核酸トランスフェクションに通常用いられる合成ベクターの例は、リポプレックスである。リポプレックスは、場合により中性脂質と組み合わせた、核酸と陽イオン性脂質との複合体である。陽電荷であるこれらのベクターは、本質的に、非特異的な静電的相互作用によって細胞内に内在化される。例として、非アセチル化β-D-グルコサミン残基を含有する陽電荷多糖であるキトサンが、核酸送達系におけるその使用について、広く研究されている。例として、siRNAが「コア/クラウン」ナノ粒子の表面に吸着されており、コアがポリ(イソブチルシアノアクリレート)を含み、クラウンがキトサンを含むsiRNA送達系が、H. de Martimpreyら、Nucleic Acids Res.、2008; 36(1)において知られている。
【0016】
しかし、脂質陽イオンを用いる送達系の実施は、最適なトランスフェクション効率を期待するために、in vivoにおける使用の前に多大な完成化を通常必要とする。
【0017】
さらに、核酸/合成ベクター複合体の形成は、常に即時に起こるわけではなく、合成に関して限定的でありうる。加えて、ウイルスベクターと比較して、合成ベクターは、静脈内注射後における組織へのターゲッティングについてのin vivo効率が低いままである。最後に、これらのすべての系は、それらの陽イオン性の性質により、陰電荷の血漿タンパク質と強く相互作用する天然の傾向を有し、これにより、凝集現象および毒性反応が導かれる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】国際公開第2006/090029号
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】H. de Martimpreyら、Nucleic Acids Res.、2008; 36(1)
【非特許文献2】Kretschmer-Kazemi Far, R.ら、Nucl. Acids Res.、2003 31:4417〜4424頁
【非特許文献3】Pilleら(2005)、「Anti-RhoA and anti-RhoC siRNAs inhibit the proliferation and invasiveness of MDA-MB-231 breast cancer cells in vitro and in vivo.」、Mol Ther 11, 267〜574頁
【非特許文献4】Martin SEら、「Multiplexing siRNAs to compress RNAi-based screen size in human cells.」、Nucleic Acids Res. 2007; 35(8)
【非特許文献5】Filleurら、Cancer Res.、2003
【非特許文献6】H. de Martimpreyら、2007
【非特許文献7】Gnaccariniら、J. Am. Chem. Soc.、2006、128、8063〜8067頁
【非特許文献8】Elbrightら、Biochemistry、1992、31、10664〜10670頁
【非特許文献9】Sengleら、Biorg. & Med. Chem.、2000、8、1317〜1329頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、上記の欠点に応答することを可能にする、非陽イオン性の性質である核酸トランスフェクション用の合成ベクトル化の新規な様式を実際に提唱することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
特に、本発明は、スクワレノイル基型またはその類似型の少なくともC18炭化水素ベースの化合物への、10から40ヌクレオチドを含む核酸の分子の結合の結果、ベクトル化およびトランスフェクションに関して効率的であり、かつ加えて、毒性に関して許容できる送達系を構成するナノ粒子の形成がもたらされるという、本発明者らによる予想外な観察の結果である。
【0022】
国際公開第2006/090029号は、親水性の極性分子であるゲムシタビンに共有結合によってスクワレンが結合された際に、水溶媒中で自発的に約100ナノメータのナノ粒子を形成するスクワレンの能力について既に記載している。その中で、この能力は、特に、そのように合成された誘導体の両親媒性、すなわち疎水性部分に相当するスクワレン部分および親水性部分に相当するゲムシタビン部分の挙動によって説明されている。
【0023】
あらゆる予期に反して、本発明者らは、スクワレンおよびその類似体がナノ粒子を形成するこの能力が、小分子ではあるが、分子量が国際公開第2006/090029号で考慮されているヌクレオシド類似体の分子量よりはるかに大きい核酸分子(例えば、siRNAまたはアンチセンスオリゴヌクレオチド)と前記スクワレンが共有結合によって結合している場合に現れうることに気づいた。予想外に、このように形成されたナノ粒子は、全身性経路を介した遺伝子療法での適用に適合するのに十分に小さなサイズ(数十ナノメータから数百ナノメータ)のものでもあることが見出された。
【0024】
したがって、第1の実施態様によれば、本発明は、スクワレン構造またはその類似体の、少なくとも1つのC18炭化水素ベースの化合物である少なくとも1つの炭化水素ベースの化合物に共有結合している、10から40ヌクレオチドを含む核酸の少なくとも1分子によって形成される複合体に関する。
【0025】
本発明の好ましい一実施形態によれば、10から40ヌクレオチドを含む核酸の分子は、アンチセンスオリゴヌクレオチド、または最も特に好ましくはRNA分子、特にsiRNA分子である。
【0026】
したがって、本発明の主題は、本発明による複合体を対象とし、この複合体内の核酸分子は、RNA分子、特にsiRNA分子である。
【0027】
アプタマーなどの他の核酸分子も、本発明によるベクトル化系によってビヒクル化できる。
【0028】
この点で、RET/PTC1 siRNAおよびRET/PTC3 siRNA(乳頭状甲状腺癌)、EWS-fli1 siRNA(ユーイング肉腫)、抗ICAMアンチセンスオリゴヌクレオチドおよび抗ICAM siRNA(Kretschmer-Kazemi Far, R.ら、Nucl. Acids Res.、2003 31:4417〜4424頁)、抗RhoAおよび抗RhoC siRNA (Pilleら(2005)、「Anti-RhoA and anti-RhoC siRNAs inhibit the proliferation and invasiveness of MDA-MB-231 breast cancer cells in vitro and in vivo.」、Mol Ther 11, 267〜574頁)、抗K-ras siRNA(Martin SEら、「Multiplexing siRNAs to compress RNAi-based screen size in human cells.」、Nucleic Acids Res. 2007; 35(8))、VEGF-AおよびVEGF-C(血管内皮増殖因子A型またはB型を表す)などの増殖因子の発現を阻害するsiRNA(Filleurら、Cancer Res.、2003)など、癌の治療に有用な配列を用いることが最も特に可能性が高い。
【0029】
特に、RET/PTC1 siRNAは、RET/PTC1(乳頭状甲状腺癌を表す)キメラ発癌遺伝子に相補的な配列を有するsiRNAである。このキメラ発癌遺伝子は、染色体組換え、特にRETプロトオンコジーン(チロシンキナーゼ活性を有する膜受容体)のチロシンキナーゼドメインと、別の遺伝子、典型的にはH4の5’末端との融合から生じる。このキメラ発癌遺伝子は、乳頭状甲状腺癌を患う個体で特に検出される。
【0030】
いくつかのRET/PTC1 siRNAが、スクリーニング、選択、およびクローニングされた(H. de Martimpreyら、2007、下記参照)。
【0031】
RET/PTC1 siRNA配列は、本発明によって、さらに特に企図されている。
【0032】
したがって、本発明の主題は、核酸分子が以下の配列、すなわち5’-CGUUACCAUCGAGGAUCCAdAdA-3’(配列番号1)を有するRET/PTC1 siRNAである、本発明による複合体を対象とする。
【0033】
本発明の別の主題によれば、本発明による複合体を形成する2つの部分は、エステル、エーテル、チオエーテル、ジスルフィド、ホスフェートまたはアミド型、好ましくはジスルフィド型の共有結合によって結合している。
【0034】
特定の一実施形態によれば、スクワレン構造またはその類似体の、少なくともC18炭化水素ベースの化合物である少なくとも2つの炭化水素ベースの化合物に共有結合している、10から40ヌクレオチドを含む核酸の少なくとも1分子によって複合体が形成される。
【0035】
本発明の別の主題は、上述の通りの本発明による複合体のナノ粒子を対象とする。
【0036】
別の主題によれば、本発明は、本発明によるナノ粒子を調製する方法であって、前記ナノ粒子が、少なくとも
- 少なくとも1種の有機溶媒中での、例えば、エタノールなどのアルコール中での、本発明による複合体の分散であって、結果として生じた混合物を、撹拌しながら、かつ通常は滴状で水相に添加した際に、前記水相中に懸濁された前記複合体のナノ粒子の即時的形成を得るのに十分である濃度での、分散、および
- 適切な場合、前記ナノ粒子の単離
を含むことを特徴とする方法を対象とする。
【0037】
特に好ましくは、本発明による複合体内、およびこの複合体から形成されたナノ粒子内で用いられるsiRNAがRET/PTC1 siRNA(配列番号1)である。
【0038】
その主題の別のものによると、本発明は、癌、特に内分泌癌、さらに特には乳頭状甲状腺癌の治療および/または予防、さもなければウイルス性の病理学的状態の治療および/または予防で使用するための、本発明による複合体および/または対応するナノ粒子を対象とする。
【0039】
本発明は、少なくとも1つの許容できる薬学的ビヒクルと組み合わせた、本発明による少なくとも1つの複合体および/またはナノ粒子を含む医薬組成物も対象とする。
【0040】
(スクワレン構造の炭化水素ベースの化合物)
本発明の目的では、「スクワレン構造の化合物」は、特に以下に定義される、少なくとも1つのスクワレノイル基を含む化合物である。
【0041】
本発明の目的では、「スクワレノイル基」は、水性媒体と接触下におかれた際に、スクワレンおよび/またはその誘導体が示す自己組織化特性を再現できる。
【0042】
特に、本発明による「スクワレノイル基」は、以下の式(I)によって表されうるイソプレン単位によって形成された直鎖炭化水素ベースの構造によって模式的に表すことができる。
【0043】
【化1】

【0044】
[式中、
- m=1、2、3、4または5、
- n=0、1、2、3、4または5、かつ
- 以下の基は、前記核酸との複合体の残部との結合を表す]。
【0045】
【化2】

【0046】
本発明の好ましい一実施形態によれば、n=0である前の式(I)の基に相当する以下の式(I’)のスクワレノイル基が使用される。
【0047】
【化3】

【0048】
さらに特には、m=1かつn=3である、本発明による式(I)のスクワレノイル基は、以下の式を有するスクワレンまたはその誘導体の構造を有しうる。
【0049】
【化4】

【0050】
本発明の好ましい一実施形態によれば、m=1かつn=2である式(I)の基が使用される。
【0051】
したがって、本発明の主題は、スクワレン構造またはその類似体の、少なくともC18炭化水素ベースの化合物である、炭化水素ベースの化合物が、上記に定義された式(I)の基によって表される、本発明による複合体に関する。
【0052】
これらの炭化水素ベースの化合物の例として、スクワレン酸、および1,1’,2-トリスノルスクワレン酸(trisnorsqualenic acid)などのその誘導体を、さらに特に挙げることができる。例として、スクワレン(スピラセン(spiracene)またはシルプレン(sirprene)とも呼ばれる)、30の炭素原子および50の水素原子を含有するイソプレノイド(化学名: (E)-2,6,10,15,19,23-ヘキサメチル-2,6,10,14,18,22-テトラコサヘキサエン)も挙げることができる。スクワレンは、コレステロール生合成の必須中間体である。
【0053】
本発明の主題は、上述の特定の炭化水素ベースの化合物のうち少なくとも1つを含有する本発明による複合体も対象とする。
【0054】
特に、本発明の主題は、スクワレン構造の、少なくともC18炭化水素ベースの化合物である、炭化水素ベースの化合物が1,1’,2-トリスノルスクワレン酸である、本発明による複合体を対象とする。
【0055】
本発明者らが気づいたように、このスクワレノイル基は、極性媒体、さらに特には水との接触下にそれがおかれた際に、それが自発的に密集したコンフォメーションを示すので、本発明に関する場合、特に重要である。
【0056】
予想外に、本発明者らは、そのような基が10から40ヌクレオチドを含む核酸の分子と組み合わされた場合、特に共有結合によって結合した場合に、この能力が残っていることに気づいた。これは、2つの核酸/スクワレン構造の化合物の部分が相互に密接に絡み合っている、ナノ粒子の形態にある密集構造の生成をもたらす。
【0057】
本発明の目的では、「類似体」という用語は、一方で、それが極性媒体との接触下におかれた際にスクワレン構造の化合物の挙動を再現でき、かつもう一方で、本発明による核酸分子にそれが結合された際に、それがこの能力を再現できる炭化水素ベースの化合物を指す。スクワレン誘導体の置換形態、特にスクワレン酸およびその誘導体、とりわけ置換は、この定義によってとりわけに包含されている。スクワレン酸誘導体の例として、1,1’,2-トリスノルスクワレン酸を挙げることができる。
【0058】
一般に、スクワレン構造の少なくとも1つの炭化水素ベースの化合物が、共有結合によって核酸分子に結合される。当然ながら、核酸分子と相互作用できる、炭化水素ベースの誘導体の分子の数は、1を超えうる。
【0059】
(核酸/スクワレン構造複合体の化合物)
核酸/スクワレン構造の化合物の複合体の形成は、上述の通り、複合体の2つの部分が共有結合またはリンカーアームを形成できる機能を有することを必要とする。
【0060】
スクワレン構造の炭化水素ベースの化合物は通常、2つの部分間の共有結合、例えば、エステル、エーテル、チオエーテル、ジスルフィド、ホスフェートまたはアミド型の結合を確立して、それによって共有結合の複合体を形成するように、考慮されている核酸分子上に存在する官能基と反応できる官能基を有する。それはチオール官能基であると有利である。この場合、スクワレン構造の炭化水素ベースの化合物は、1,1’,2-トリスノルスクワレン酸またはその誘導体、特にそのアミドもしくはエステルである。
【0061】
一変形実施形態によれば、2つのタイプの分子間に存在する共有結合は、スペーサーか、代わりにリンカーアームによって表されうる。そのようなアームは、核酸/スクワレノイル基相互作用の力を増強するのに有用であると特に判明する可能性がある。
【0062】
そのようなアームは、実際、そのバックボーンの2つ末端のそれぞれを介した、適切な官能基、すなわち、1つはスクワレン構造の誘導体上に存在する官能基用、もう1つは考慮されている核酸分子上に存在する官能基用に、それぞれ予測された反応親和性を有する官能基の導入を可能にする。
【0063】
このリンカーアームがそのバックボーンに、物理変化を起こしやすい官能基を有することも想定できる。これは、後で、考慮されている核酸分子からスクワレン構造の化合物を分離するのに適している。それは例えば、酵素が認識できるペプチド単位でありうる。
【0064】
リンカーアームの単位のタイプは、当業者によく知られており、それらの使用は、明らかに当業者の能力の範囲内にある。
【0065】
本発明によって想定されうるリンカーアームの代表として、低分子量の(ポリ) アミノ酸単位、ポリオール単位、糖単位およびポリエチレングリコール(ポリエーテルオキシド)単位を特に挙げることができる。
【0066】
したがって、本発明の目的では、「共有結合」は、好ましくは共有結合、特に上記に特定したものを表すが、上記に定義したリンカーアームによって表される共有結合も包含する。
【0067】
したがって、本発明による共有結合の複合体は、以下に示す式(II)の化合物によって表すことができる。
【0068】
【化5】

【0069】
- ANは、10から40ヌクレオチドを含む核酸の分子を表し、上記分子の3’末端は上記複合体の残部に連結しており、
- Xは、2つの部分の間の共有結合、さらに特にはエステル、エーテル、チオエーテル、ジスルフィド、ホスフェートまたはアミド型の結合を表し、
-Lは、リンカーアームを表し、好ましくは、低分子量すなわち40から500ダルトンの範囲の分子量の飽和アルキル鎖単位、さもなくば、(ポリ)アミノ酸単位、ポリオール単位、糖単位およびポリエチレングリコール(ポリエーテルオキシド)単位から選択され、
- Yは、共有結合、特に、エステル、アミド、チオエーテルまたはホスフェート型の結合を表し、
- pは、0、1、2、3または4を表し、
- Zは、上記式(I)または(I’)のスクワレノイル基またはその誘導体を表す。
【0070】
本発明の目的では、
- 「飽和アルキル鎖」という用語は、水素原子への2本の結合がこの分子の残部への2本の共有結合で置換されている、1から8つの炭素原子を含有しうる、直鎖または分岐の、飽和アルキル基を意味するものとする。
- 「糖単位」という用語はトリオース(グリセルアルデヒド、ジヒドロキシアセトン)、テトロース(エリトロース、トレオース、エリトルロース)、ペントース(アラビノース、リキソース、リボース、デオキシリボース、キシローズ、リブロース、キシルロース)、ヘキソース(アロース、アルトロース、ガラクトース、グルコース、グロース、イドース、マンノース、タロース、フルクトース、プシコース、ソルボース、タガトース)、ヘプトース(マンノヘプツロース、セドヘプツロース)、オクトース(オクトロース、2-ケト-3-デオキシマンノオクトン酸)、イソノース(isonoses)(シアロース)から選択される少なくとも1つの基を含む基を意味するものとする。
- 「(ポリ)アミノ酸単位」という用語は、少なくとも1つの単位
【0071】
【化6】

【0072】
[式中、nは1以上である]
を有する単位を意味するものとする。
【0073】
本発明は、さらに特に、以下の式(IIA)の化合物によって表される複合体に関する。
【0074】
【化7】

【0075】
[式中、
- AN、X、L、Zおよびpは、式(II)の化合物についてのものと同一の定義を有する。]
【0076】
式(II)および(IIA)の例では、Lは、上記に定義される飽和アルキル鎖を表すことが好ましい。
【0077】
式(II)および(IIA)の複合体では、ANは好ましくはリボ核酸の分子であり、好ましくは19から25ヌクレオチドを含む。
【0078】
リボ核酸はsiRNA、特に配列番号1に相当する配列のRET/PTC1 siRNAであることが特に好ましい。
【0079】
特に、本発明の主題は、式(II)の複合体であって、Xはジスルフィド共有結合であり、Zは、mが1を表し、nが2を表す式(I)の基を表す複合体を対象とする。
【0080】
考慮されている核酸の少なくとも1つの分子とスクワレン構造またはその類似体の少なくとも1つの化合物との間の少なくとも1つの共有結合の確立に必要な反応は、標準的な条件に従って行うことができ、それゆえ、その実行は、明らかに当業者の知識に含まれる。
【0081】
この反応は通常、2つの部分のそれぞれが有する2つの特定の官能基間の相互作用に必要な標準的条件に従って、考慮されている核酸分子と比較して過剰量、例えば、2等量の割合の、スクワレン構造の少なくとも1つの化合物の存在下において溶液中で行われる。
【0082】
この反応の前に、2つの部分のそれぞれ、すなわち、一方は核酸分子およびもう一方は炭化水素ベースの化合物は、それらの間の共有結合を確定できる官能基を有するために修飾される。2つ分子のそれぞれは、それらの間のジスルフィド架橋を確立するために、チオール官能基を有することが好ましい。
【0083】
RNA分子の官能化は、従来技術に広く報告されている。例えば、それは、Gnaccariniら、J. Am. Chem. Soc.、2006、128、8063〜8067頁に記載の方法の類似法によって、すなわち、適切なホスホラミダイトによってチオール官能基で官能化することができる。この場合は、このタイプの官能化は、siRNA分子の3’末端に接ぎ木される。
【0084】
部分的に、スクワレン構造の化合物は、特にチオール官能基で、Elbrightら、Biochemistry、1992、31、10664〜10670頁に記載の方法の類似法によって、すなわちピリジルジスルフィド誘導体を用いて官能化される。
【0085】
そのように官能化された2つのパートナーの結合は、「GMPSカップリング方法(GMPS-coupling method)」としても知られている、Sengleら、Biorg. & Med. Chem.、2000、8、1317〜1329頁に記載のカップリング方法の類似法によって行われる。
【0086】
したがって、本発明の主題は、上に定義した式(II)または(IIA)によって表される、本発明による複合体も対象とする。
【0087】
(本発明によるナノ粒子)
上記に明記された通り、本発明による、考慮されている少なくとも1つの核酸分子と、スクワレン構造の炭化水素ベースの化合物の少なくとも1つの分子との共有結合は、このように複合体形成された核酸に、極性溶媒媒体中で密集形態に組織化される能力を与え、それによってナノ粒子の形成へと導く性質のものである。
【0088】
通常、このように得られるナノ粒子は、Coulter Electronics, Hialeah, USA製のCoulter(登録商標)N4MDナノサイザー(nanosizer)を用いた光散乱による測定で、平均サイズが30から500nmである、特に50から250nmである、または100から400nmでさえある。
【0089】
本発明の主題は、平均サイズが30から500nmである、特に50から250nmである、または100から400nmでさえある本発明によるナノ粒子を対象とする。
【0090】
したがって、本発明による、考慮されている極めて水溶性の核酸分子の、スクワレノイル誘導体またはその類似体、例えば、1,1’,2-トリスノルスクワレン酸との相互作用は、前記核酸分子に、非経口投与、特に静脈内投与に適合すると判明しているサイズの粒子を形成する能力をそれに与えるのに十分な物理化学的特性を与える。
【0091】
上述の通り、本発明によるナノ粒子は、結果として生じた混合物を、撹拌しながら、かつ通常は滴状で水相に添加した際に、前記水相中に懸濁された前記誘導体のナノ粒子の即時的形成を得るのに十分である濃度における、少なくとも1種の有機溶媒、例えば、エタノールなどのアルコール中への、本発明による複合体の分散のステップと、それに続く、適切な場合、前記ナノ粒子の隔離によって得ること、すなわち、本発明による少なくとも1つの核酸分子への、スクワレン構造またはその類似体の少なくとも1つの化合物のカップリングによって予備的に形成することができる。
【0092】
反応は、通常、常温で実行できる。その値にかかわらず、反応温度は、考慮されている核酸分子の活性に影響を与えないべきである。発明による、ナノ粒子を調製する方法は、界面活性剤の義務的な存在を必要としないので、特に有利である。
【0093】
特定の一実施形態によれば、ナノ粒子は、水性懸濁液の形態で得られる。
【0094】
多数の界面活性剤がin vivo適用に適合するとは判明していないので、この特性は特に有利である。
【0095】
しかし、本発明に関する場合、界面活性剤は、通常はいかなる毒性もないことが有利であり、それらの使用が想定されていると理解される。このタイプの界面活性剤は、さらに、ナノ粒子の形成中にさらに小さいサイズのものさえ得ることを可能にしうる。本発明で使用できるこのタイプの界面活性剤の非限定的な例として、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマー、ポリエチレングリコールのホスホリピド誘導体および親油性誘導体を特に挙げることができる。
【0096】
ポリエチレングリコールの親油性誘導体として、例えば、ポリエチレングリコールコレステロールを挙げることができる。ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマーの例として、特に、poloxamers(登録商標)、pluronics(登録商標)またはsynperonicsとしても知られている、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレントリブロックコポリマー、および特にBASF社によって販売されているものを挙げることができる。
【0097】
ポロキサミンを用いることもできる。ポロキサミンは、これらのファミリーのコポリマーと関連しており、疎水性セグメント(ポリオキシプロピレンをベースとする)、親水性セグメント(ポリオキシエチレンをベースとする)およびエチレンジアミン単位に由来する中心部からなる。
【0098】
本発明によるナノ粒子は、当然ながら、例えば、ヒドロキシルまたはアミン官能基など、多くの反応性官能基を表面に有することができる。したがって、それは、特に共有結合を介した、これらの官能基へのあらゆる種類の分子の結合を想定することが可能である。
【0099】
ナノ粒子と組み合わせることができるこのタイプの分子の非限定的な例として、ラベル型の分子、ターゲティング機能を行うことのできる化合物、および特定の薬物動態学的な特徴をそれに与えることのできる任意の化合物も特に挙げることができる。この最後の態様に関して、したがって、これらのナノ粒子の表面にポリエチレングリコールの親油性誘導体、例えば、ポリエチレングリコール/コレステロール結合体、ポリエチレングリコールホスファチジルエタノールアミンまたはさらに好適にはポリエチレングリコール/スクワレンを結合させることが想定できる。具体的には、スクワレン残基は相互への天然の親和性を有するので、ポリエチレングリコール/スクワレン結合体は、例として、本発明によるナノ粒子と結合し、それゆえ、ポリエチレングリコールで表面コーティングされたナノ粒子の形成を結果としてもたらす。さらに、上述の通り、ポリエチレングリコール/スクワレン結合体は、その両親媒性の挙動のため、本発明によるナノ粒子の形成過程中に、界面活性剤として有利に作用し、それゆえコロイド溶液を安定させ、したがって、形成されるナノ粒子のサイズを低減させる。そのような化合物をベースとした表面コーティング、特に、ポリエチレングリコールまたはポリエチレングリコール/コレステロール結合体もしくはポリエチレングリコール/スクワレン結合体は、肝臓マクロファージによるナノ粒子の取込みの有意な低減によって、増大した血管内残留を与えるのに実際に有利である。
【0100】
有利な一実施形態によれば、本発明によるナノ粒子は、一般的にそれらを全身投与する目的で、水性分散体の形態で調製される。
【0101】
別の有利な実施形態によれば、この水性分散体は、含有する界面活性剤または同様のもの、例えば、ポリエチレングリコール、ポリグリセリン、および例えばエーテルなどのそれらの誘導体が5重量%未満である、または2重量%未満でさえあり、さらに特にはそれらを含有しない。
【0102】
別の有利な実施形態によれば、この水性分散体は、含有するC2〜C4アルコール、例えば、エタノールが5重量%未満、または2重量%未満でさえある。
【0103】
別の有利な実施形態によれば、この水性分散体は、静脈内投与に適合する粘性を本来的に有する。
【0104】
したがって、考慮されている核酸の水性媒体中の製剤は、水分散性ナノ粒子の形態にあるスクワレン酸によって、注射用等張懸濁液を作製するのに必要な5%ブドウ糖以外にはいかなる添加物もなしに、ナノ粒子の懸濁液を得ることを有利に可能にする。
【0105】
上述の通り、本発明は、医薬組成物における、本発明による少なくとも1つのナノ粒子の使用も対象とする。
【0106】
それゆえ、本発明の別の態様は、活性物質として、特にナノ粒子の形態で、本発明による少なくとも1つの複合体を含む医薬組成物に関する。本発明による複合体は、その中で、少なくとも1つの薬学的に許容できるビヒクルと組み合わせることができる。
【0107】
本発明による組成物に適合する医薬製剤の例として、
- 静脈内注射または注入、
- 食塩水または精製水の溶液、
- 吸入用の組成物、
- カプセル、糖衣錠、カシェ剤およびシロップ、特に、ビヒクルとして、水、リン酸カルシウム、糖、例えば、ラクトース、ブドウ糖またはマンニトールなど、タルク、ステアリン酸、デンプン、重炭酸ナトリウムおよび/またはゼラチンを組み入れたもの
を特に挙げることができる。
【0108】
複合体および/またはナノ粒子を水溶液中の分散体として用いる場合、それらは、隔離剤もしくはキレート剤、抗酸化剤、pH調節剤および/または緩衝剤などの賦形剤と組み合わせることができる。
【0109】
上述の化合物に加えて、本発明による医薬組成物は、防腐剤、湿潤剤、溶解剤および着色剤などの薬剤を含有しうる。
【0110】
本発明によるそのような組成物は、本発明によるナノ粒子の形態にある、考慮されている核酸の性質に鑑みて、哺乳動物の癌の治療および/または予防で特に有用であると判明されうる。例えば、癌腫、肉腫、造血器癌、乳癌、大腸癌、直腸癌、膵癌、精巣癌、子宮癌、胃腸管の癌、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、口腔癌、脳癌、頭部癌、頸部癌、喉頭癌、腎癌、骨癌、肝癌、脾臓癌、膀胱癌、皮膚癌、喉頭癌、鼻腔癌、AIDS関連の癌、内分泌癌、多発性骨髄腫(または骨髄癌)、白血病、カポシ肉腫およびホジキン病または非ホジキンズリンパ腫などのリンパ腫を挙げることができるが、それらに限定されない。
【0111】
本発明の目的では、「治療」という用語は、部分寛解または完全寛解を可能にする、癌細胞の増殖の程度の抑制または低減を意味するものとする。
【0112】
したがって、核酸がRET/PTC1 siRNA(配列番号1)である場合、そのような組成物は、甲状腺癌、さらに特には乳頭状甲状腺癌などの内分泌癌の治療および/または予防に有用である。
【0113】
したがって、本発明による複合体および/またはナノ粒子は、癌腫、肉腫、造血器癌、乳癌、大腸癌、直腸癌、膵癌、精巣癌、子宮癌、胃腸管の癌、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、口腔癌、脳癌、頭部癌、頸部癌、喉頭癌、腎癌、骨癌、肝癌、脾臓癌、膀胱癌、皮膚癌、喉頭癌、鼻腔癌、AIDS関連の癌、内分泌癌、多発性骨髄腫(または骨髄癌)、白血病、カポシ肉腫、またはホジキン病もしくは非ホジキンリンパ腫などのリンパ腫など、癌の治療および/または予防を目的とする医薬組成物の調製に有用である。
【0114】
特に、本発明による複合体および/またはナノ粒子は、内分泌癌、さらに特には乳頭状甲状腺癌など、癌の治療および/または予防を目的とする医薬組成物の調製に有用である。
【0115】
本発明による複合体またはナノ粒子は、従来の経路のいずれによっても投与できる。しかし、上記に明記した通り、それらの粒子はサイズが小さいので、それらは、水性懸濁液の形態で静脈内投与でき、それゆえ、血管微小循環に適合する。
【0116】
自明な理由から、使用できる本発明による誘導体の量は、使用される方法および選択されるそれらの投与経路に応じて大きく変化しうる。
【0117】
他方では、局所投与用、最も特には黒色腫の治療用には、考慮されている医薬製剤の全重量に対して1重量%から20重量%またはそれより多くの比率で、本発明による少なくとも1つの複合体および/またはナノ粒子を処方することが想定できる。
【0118】
本発明による少なくとも1つの複合体および/またはナノ粒子を、考慮されている病的状態に関して、それも有益でありうる少なくとも1つの他の活性物質と共に同時投与することも可能である。
【0119】
本発明による複合体および/またはナノ粒子と組み合わせることができるこれらの活性物質の代表として、他の抗癌性または細胞増殖抑制性の分子または巨大分子(例えば、プラチナ塩、アンスラサイクリン、紡錘体毒、トポイソメラーゼ阻害剤、キナーゼ阻害剤、またはメタロプロテアーゼ阻害剤)、コルチコステロイド型(例えば、デキサメサゾン)または非コルチコステロイド型の抗炎症性剤、さもなければ免疫増強剤活性を有する分子(例えば、抗癌活性を有する抗体)を特に挙げることができる。特に、好ましい組合せとして、シスプラチン、カルボプラチン、タモキシフェン、エピルビシン、ロイプロリド、ビカルタミド、ゴセレリン注入、イリノテカン、ゲムシタビンおよびサルグラモスチムまたは薬学的に許容できるそれらの塩から選択される少なくとも1つの化合物との、本発明による少なくとも1つの複合体および/または少なくとも1つのナノ粒子の組合せを挙げることができる。これらの塩は、薬学的に許容できる酸、すなわち、特に毒性に関して適合する、薬学的使用のための酸で調製することができる。
【0120】
特定の化学療法で用いられる温熱療法との組合せが想定できる。
【0121】
本発明による複合体および/またはナノ粒子は、癌を治療するための外科的療法および/または放射線照射と組み合わせることもできる。
【0122】
以下の実施例は本発明を例示するが、本発明はそれらに限定されない。
【実施例】
【0123】
赤外線スペクトルは、フーリエ分光計(Bruker Vector(登録商標)22フーリエ変換分光計)を用いて、純粋な固体または液体の測定から得られる。有意な吸光のみが記載される。
【0124】
旋光は、Perkin-Elmer(登録商標)241旋光計を用いて、波長589nmで測定した。
【0125】
1Hおよび13C NMRスペクトルは、Bruker AC(登録商標)200P分光計(1Hおよび13Cについて、それぞれ200MHzおよび50MHzにて)またはBruker Avance(登録商標)300分光計(1Hおよび13Cについて、それぞれ300MHzおよび75MHzにて)を用いて記録した。
【0126】
質量スペクトルは、Bruker Esquire-LC(登録商標)機器を用いて記録した。
【0127】
薄層クロマトグラフィー分析は、シリカ60F254ゲル(0.25mmの層)でプレコーティングされたプレート上で行った。
【0128】
カラムクロマトグラフィーは、シリカ60ゲル(Merck、230-400メッシュASTM)で行った。
【0129】
空気または水に感受性の化合物を用いるすべての反応は、フードの下で行った。
【実施例1】
【0130】
a) スクワレンの官能化(N-[2-(ピリジン-2-イルジチオ)エチル]-1,1’,2-トリスノルスクワレンアミドの取得)
スクワレンの官能化は、以下のスキーム1によって模式的に表すことができる。
【0131】
【化8】

【0132】
上記スキーム1に示す通り、スクワレンの官能化を行うために、当業者によく知られている方法に従って、特に、Elbrightら、Biochemistry、1992、31、10664〜10670頁に記載のプロトコールの類似のものによって、チオエタノールアミン2を2,2’-ジチオビスピリジン3で活性化して、2-(ピリジン-2-イルジチオ)エタンアミン塩酸塩4を得る。
【0133】
その後、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCl)を反応させることによって、誘導体4を1,1’,2-トリスノルスクワレン酸5と縮合させて、N-[2-(ピリジン-2-イルジチオ)エチル]-1,1’,2-トリスノルスクワレンアミド6を得る。
【0134】
詳細には、226mg(1mmol)の2-(ピリジン-2-イルジチオ)エタンアミン4、200mgのトリエチルアミン(2mmol)、および286mgのEDCl(1.5mmol)を、不活性雰囲気下における1,1’,2-トリスノルスクワレン酸5(400mg、1mmol)の無水ジクロロメタン溶液(5ml)に加える。混合物を周囲温度で48時間撹拌し、その後、10mlの水中に取り込み、ジクロロメタン(3×20ml)で抽出する。有機相を併せ、NaClの飽和水溶液で洗浄し、MgSO4で乾燥させ、減圧下で濃縮する。残留物をシリカゲルクロマトグラフィーによって精製する。溶出は、3:1のシクロヘキサン/酢酸エチル混合物で行う。
【0135】
490mgのアミド6を無色油の形態で回収する:
IR (film) ν = 3288, 2912, 2851, 1648 (CONH), 1637 (C=C, weak), 1575, 1543, 1446 cm-1;
1H NMR (CDCl3, 300MHz) δ=8.49 (d, J=4.8Hz, 1H)、7.62 (td, J=7.6, 1.8Hz, 1H)、7.52 (dd, J=8.1, 0.9Hz, 1H)、7.13 (ddd, J=5.0, 6.0, 0.9Hz, 1H)、7.03 (m, 1H, NHCO)、5.18〜5.09 (m, 5H)、3.53 (q, J=5.6Hz, 2H, CH2NCO)、2.90 (t, J=5.6Hz, 2H, CH2SS)、2.15〜1.95 (m, 20H)、1.67 (s, 3H)、1.63 (s, 3H)、1.59 (s, 12H);
13C NMR (50MHz, CDCl3) δ=172.8 (CO)、159.2 (N=C-S)、149.2 (N=CH)、136.9 (CH)、135.0 (C)、134.8 (2 C)、133.5 (C)、131.2 (C)、125.2 (CH)、124.3 (2 CH)、124.2 (2 CH)、1212 (CH)、120.9 (CH)、39.7 (CH2)、39.6 (2 CH2)、38.8 (CH2)、37.1 (CH2)、35.4 (CH2)、35.3 (CH2)、28.2 (2 CH2)、26.7 (CH2)、26.6 (CH2)、25.6 (CH3)、17.6 (CH3)、16.0 (2 CH3)、15.8 (2 CH3);
MS (+ESI, MeOH): m/z (%): 569 (69) [M+H]+、591 (100) [M+Na]+
【0136】
b) RET/PTC1 siRNA(配列番号1)の官能化
RET/PTC1 siRNA(配列番号1)は、EUROGENTEC社(Seraing、Belgium)に注文して、オリゴヌクレオチド配列の合成によって入手する。
【0137】
そのような合成は、当業者によく知られている従来の方法に従って行われる。
【0138】
RET/PTC1 siRNAは、上述の通り、当業者によく知られている方法に従って、特に3-メルカプトプロピル基によって代表されるチオール官能基で官能化される。
【実施例2】
【0139】
N-[2-(ピリジン-2-イルジチオ)エチル]-1,1’,2-トリスノルスクワレンアミドとのRET/PTC1 siRNA(配列番号1)の結合
N-[2-(ピリジン-2-イルジチオ)エチル]-1,1’,2-トリスノルスクワレンアミドとのRET/PTC1 siRNAの結合は、以下に示すスキーム2によって例示できる。
【0140】
【化9】

【0141】
上記のスキーム2に示す通り、N-[2-(ピリジン-2-イルジチオ)エチル]-1,1’,2-トリスノルスクワレンアミド6とのRET/PTC1 siRNA(配列番号1)1の結合は、緩衝化された媒体中における水性ジメチルホルムアミド(DMF)中にて、周囲温度でインキュベートすることによって行う。その後、過剰な化合物6を除去し、得られる残留物を有機溶媒で洗浄し、その後HPLCによって精製する。
【0142】
詳細には、633μlの100mM酢酸アンモニウム緩衝液と、新たに蒸留されたDMF中に、実施例1aで調製されたピリジルジスルフィド誘導体6(2.8mg、5μM)を含む33μlの150mM溶液とを、逐次に0.15mMのsiRNA 1のMilliQ水溶液に加える(333μl、0.34mg、0.050μM)。混合物を20℃で10分間インキュベートし、その後、減圧(0.5トル、20℃)下で濃縮する。RET/PTC1 siRNA/アミド1,1’,2-トリスノルスクワレンの粗精製複合体に相当する残留物7をエチルエーテル(3×2ml)で洗浄し、真空下で濃縮する。
【0143】
残留物7を水中に取り込み、凍結乾燥させて、340μgの白色固体を得る。
MS (-ESI, CH3CN, Et3N) : m/z (%) : 7254 (55) [M - H]-
【実施例3】
【0144】
ナノ粒子の調製(実施例2によって得られた複合体の水中精製)
凍結乾燥したスクワレン結合siRNA(siRNA -SQ)に500μlのmilliQ(登録商標)水を加え、その後、混合物を12000 rpm(4℃、10分)で遠心分離する。
【0145】
その後、遠心分離ペレットを500μlのエタノール中に溶解させる。その後、このエタノール溶液を、磁気撹拌した、5%ブドウ糖を含有するMilliQ(登録商標)水に滴下し、これを5分間維持する。その後、このように生成されるナノ粒子懸濁液を、Rotavapor内でエタノールを蒸発させるために丸底フラスコ中に移す。その後、水で容積を1mlに調整する(秤上で)。
【0146】
ナノ粒子のサイズはナノサイザーを使用して光散乱によって測定し、355nmに等しいことが見出される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクワレン構造またはその類似体を有する、少なくともC18炭化水素ベースの化合物である少なくとも1つの炭化水素ベースの化合物に共有結合している、10から40ヌクレオチドを含む核酸の少なくとも1分子によって形成される複合体。
【請求項2】
スクワレン構造またはその類似体の、少なくともC18炭化水素ベースの化合物である炭化水素ベースの化合物が、以下の式(I):
【化1】

[式中、
- m=1、2、3、4または5、
- n=0、1、2、3、4または5、かつ
- 以下の基は、前記核酸との複合体の残部との結合を表す]
【化2】

の基によって表される、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
スクワレン構造の、少なくともC18炭化水素ベースの化合物である炭化水素ベースの化合物が1,1’,2-トリスノルスクワレン酸である、請求項1または2に記載の複合体。
【請求項4】
10から40ヌクレオチドを含む核酸の分子がRNA分子である、請求項1から3のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項5】
RNA分子がsiRNA分子である、請求項1から4のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項6】
siRNAがRET/PTC1 siRNAである、請求項5に記載の複合体。
【請求項7】
RET/PTC1 siRNAが以下のヌクレオチド配列:5’-CGUUACCAUCGAGGAUCCAdAdA-3’(配列番号1)を有することを特徴とする、請求項6に記載の複合体。
【請求項8】
前記共有結合が、エステル、エーテル、チオエーテル、ジスルフィド、ホスフェートまたはアミド型、好ましくはジスルフィド型の共有結合である、請求項1から7のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項9】
以下の一般式(II):
【化3】

[式中、
- ANは、10から40ヌクレオチドを含む核酸の分子を表し、その3’末端は複合体の残部に連結しており、
- Xは、2つの部分の間の共有結合、特にエステル、エーテル、チオエーテル、ジスルフィド、ホスフェートまたはアミド型の結合を表し、
- Lは、リンカーアームを表し、好ましくは、低分子量の飽和アルキル鎖単位、(ポリ)アミノ酸単位、ポリオール単位、糖単位およびポリエチレングリコール(ポリエーテルオキシド)単位から選択され、
- Yは、共有結合、さらに特には、エステル、アミド、チオエーテルまたはホスフェート型の結合を表し、
- pは、0、1、2、3または4を表し、
- Zは、請求項2に定義の式(I)のスクワレノイル基またはその誘導体を表す]
によって表される、請求項1から8のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項10】
Xはジスルフィド共有結合であり、Zは、mが1を表し、nが2を表す式(I)の基を表す、請求項9に記載の複合体。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の複合体のナノ粒子。
【請求項12】
平均サイズが30から500nmである、特に50から250nmである、または100から400nmでさえある、請求項11に記載のナノ粒子。
【請求項13】
請求項11または12に記載のナノ粒子を調製する方法であって、少なくとも、
- 少なくとも1種の有機溶媒中での、請求項1から10のいずれか一項に記載の複合体の分散であって、結果として生じた混合物を、撹拌しながら、水相に添加した際に、前記水相中に懸濁された前記複合体のナノ粒子の即時的形成を得るのに十分である濃度での、分散、および
- 適切な場合、前記ナノ粒子の単離
を含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
癌、特に内分泌癌、さらに特には乳頭状甲状腺癌の治療および/または予防で使用するための、請求項11または12に記載のナノ粒子。
【請求項15】
請求項1から10のいずれか一項に記載の少なくとも1つの複合体ならびに/または請求項11または12に記載のナノ粒子を、少なくとも1つの許容できる薬学的ビヒクルと併せて含む医薬組成物。

【公表番号】特表2011−522523(P2011−522523A)
【公表日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−508984(P2011−508984)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際出願番号】PCT/FR2009/050887
【国際公開番号】WO2009/150344
【国際公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(598118019)セントレ・ナショナル・デ・ラ・レシェルシェ・サイエンティフィーク (15)
【出願人】(510302412)ユニヴェルシテ・パリ・シュド (3)
【Fターム(参考)】