説明

新規統合失調症治療用医薬組成物

本発明は、BEC1カリウムチャネル阻害剤又はその製薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、優れた統合失調症予防用及び/又は治療用医薬組成物を提供するものとして有用であり、統合失調症における陽性症状、陰性症状、認知障害等の予防用及び/又は治療用医薬組成物を提供するものとして特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,BEC1カリウムチャネル阻害剤の統合失調症治療剤としての新規な医薬用途に関する。
【背景技術】
【0002】
統合失調症とは、主要な精神疾患のひとつであり、生涯罹患率が0.7〜2.0%と比較的高率な、予後の悪い疾患である(PLoS Med. 2: 413-433, 2005)。統合失調症の症状は、陽性症状、陰性症状、認知障害および気分障害等に分類される。統合失調症の治療には、精神療法、作業療法及び薬物療法が用いられる。この中で、薬物療法は重要な役割を果たしている。しかしながら、統合失調症患者は、いまだ再発、慢性化、難治化、あるいは遅発性ジスキネジアや抗精神病薬の錐体外路性副作用といった問題に苦しんでいる。
【0003】
統合失調症の薬物療法には抗精神病薬が主に使用される。抗精神病薬は、第一世代、第二世代抗精神病薬に分類されることがある。第一世代抗精神病薬は、脳内ドパミン神経の遮断薬、とくにドパミンD2受容体遮断薬である。具体的には、クロルプロマジン、ハロペリドール、ブロムペリドール、ペルフェナジンなどがある。一方、第二世代抗精神病薬としては、ドパミンD2受容体に加えてセロトニン受容体の遮断作用を付加したもの(リスペリドン、ぺロスピロン、ジプラシドンなど)や、その他多くの受容体に対する遮断作用を付加したもの(クロザピン、オランザピンなど)、ドパミンD2受容体に対して部分作動薬として作用するもの(アリピプラゾールなど)などがある。いずれの抗精神病薬についても、いまだ改善作用は十分ではないと考えられており、また、ドパミン受容体遮断作用に基づく副作用の出現が問題とされている(臨床精神薬理, 11: 1089-1011, 2008)。
【0004】
カリウムチャネルは、細胞の形質膜に存在しカリウムイオンを選択的に通す蛋白質で、細胞の膜電位制御に重要な役割を担っていると考えられている。特に、神経・筋細胞においては活動電位の頻度や持続性などを調節することにより、中枢・末梢神経の伝達機構、心臓のペースメーキング、筋肉の収縮などに寄与している。
【0005】
チャネルの開閉機構から分類すると、現在までに電位依存性カリウムチャネル、内向き整流性カリウムチャネル、カルシウム依存性カリウムチャネル、受容体共役型カリウムチャネルなどが同定されている。このうち、電位依存性カリウムチャネルは、膜電位が脱分極した際に開口する特性を有している。通常、カリウムイオンは細胞外が約5 mM、細胞内が約150 mMと非平衡状態で存在する。このため、脱分極により電位依存性カリウムチャネルが開口すると、細胞内から細胞外へとカリウムイオンが流出し、結果として膜電位の回復(再分極)を引き起こす。そのため、電位依存性チャネルの開口に伴って、神経・筋細胞の興奮性の低下が誘導されることになる(Ionic Channels of Excited Membranes, Sinauer Associates, Sunderland, 1992)。
【0006】
電位依存性チャネルの開口を修飾する化合物は、神経・筋細胞などの興奮性を調整することにより、さまざまな生理現象を調整し、ひいては種々の疾患の治療薬となる可能性を有している。例えば、神経細胞に認められるA型電位依存性カリウムチャネルの阻害剤である4-アミノピリジンは、神経の興奮性を高めることによりてんかんを引き起こすことが知られている(Epilepsy Res. 11: 9-16, 2002)。また、電位依存性カリウムチャネルのうち心臓に発現するHERGカリウムチャネルの阻害剤であるdofetilideは、心筋細胞の興奮性を制御することに基づいた不整脈治療薬として利用されている(J. Pharmacol. Exp. Ther. 256: 318-324, 1991)。
【0007】
米国特許第6326168号の実施例1中配列番号2に記載されているカリウムチャネル(以下BEC1又はBEC1カリウムチャネルと表記する)は、脳に限局した発現分布を示す電位依存性カリウムチャネルである(米国特許第6326168号)。その発現は、特に、海馬や大脳皮質において顕著である。海馬や大脳皮質は、記憶・学習との関連性が強く示唆されている領域である(The Neuron: Cell and Molecular Biology, Oxford University Press, New York, NY, 1991)。
このことから、BEC1カリウムチャネルは記憶・学習に関与している可能性が考えられる。実際に、米国特許第7375222号に記載されるBEC1チャネルが海馬、大脳皮質において高発現するトランスジェニック・マウスにおいて、当該マウスは、モリス型水迷路学習試験、及び受動的回避学習試験において、学習能力が低下していることが明らかとなった(米国特許第7375222号)。このことから、BEC1カリウムチャネルの阻害剤は記憶・学習を増強することが考えられ、認知症の治療薬としてきわめて有望であると考えられる。
【0008】
現在までに、多くのカリウムチャネル阻害剤が報告されているが、BEC1カリウムチャネルを阻害することが報告されている化合物は、米国特許第7375222号に記載される1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン誘導体のみである。また、WO2002/050066には、ある種の1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン誘導体がプロテインキナーゼ阻害活性を有し、アルツハイマー病やパーキンソン病の治療剤として有用であることが知られている。しかしながら、当該BEC1チャネル阻害剤が認知症以外の疾患、例えば統合失調症に対して有用性を示すことを示唆する知見は、現在までに報告されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、従来の抗精神病薬とは異なる新規な作用機序を有する統合失調症治療剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記の課題を達成すべく独自の発想に基づき研究を行ったところ、BEC1カリウムチャネル阻害剤が顕著な統合失調症治療効果を示すことを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明の目的は、BEC1カリウムチャネル阻害剤又はその製薬学的に許容できる塩の有効量及び製薬学的に許容できる担体を含有する統合失調症予防用及び/又は治療用の医薬組成物を提供することである。
本発明の他の目的は、BEC1カリウムチャネル阻害剤又はその製薬学的に許容できる塩を有効成分として含有する統合失調症予防剤及び/又は治療剤を提供することである。
本発明の他の目的は、統合失調症予防及び/又は治療のためのBEC1カリウムチャネル阻害剤又はその製薬学的に許容できる塩を提供することである。
本発明のさらなる目的は、統合失調症を治療するための医薬を製造するためのBEC1カリウムチャネル阻害剤又はその製薬学的に許容できる塩の使用を提供することである。
本発明のさらなる目的は、BEC1カリウムチャネル阻害剤又はその製薬学的に許容できる塩の有効量をそのような疾患の必要な患者に投与することからなる統合失調症を予防及び/又は治療する方法を提供することである。
本発明のさらなる目的は、BEC1カリウムチャネル阻害剤又はその製薬学的に許容できる塩、及び、製薬学的に許容される賦形剤を混合することからなる統合失調症を治療するための医薬用組成物の製造方法を提供することである。
本発明のさらなる目的は、BEC1カリウムチャネル阻害剤又はその製薬学的に許容できる塩を有効成分として含有する医薬組成物及びBEC1カリウムチャネル阻害剤又はその製薬学的に許容できる塩が統合失調症を治療するために使用され得るまたは使用されるべき旨の記載を含むコマーシャルパッケージを提供することである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の好ましい態様を以下に示す。
(1)式(I)
【化1】

(式中の記号は次の通りである。
R1及びR2:同一又は異なって、H、OH、低級アルキル-O-、アリール-CO-、 NH2、 OHで置換されていてもよい低級アルキル-NH、 (低級アルキル)2N、置換されていてもよい低級アルキル基、又は、置換されていてもよいヘテロ環基。
R3, R4, R5及びR6:同一又は異なって, (i)H、 (ii)CN、 (iii)NO2、 (iv)ハロゲン、 (v)(1) CN、 (2) ハロゲン若しくは(3)OHで置換されていてもよい低級アルキル, (vi)シクロアルキル、(vii)低級アルキルで置換されていてもよいアリール、(viii) 低級アルキルで置換されていてもよいヘテロ環基, (ix)R7R8N-(ここで、R7及びR8:同一又は異なって、 (1)H, (2)アリール若しくは(3) R9-O-CO-で置換されていてもよい低級アルキル(ここでR9:(1)H、 若しくは(2)アリールで置換されていてもよい低級アルキル))、 (x)R10-T1-(ここでR10:(1)H、 (2)アリール、HO-C1-10アルキレン-O-若しくはOHで置換されていてもよい低級アルキル、若しくは、(3)アリール,; ここで、T1:O若しくはS), 又は(xi)R11-T2-(ここで、R11:(1)OH、(2)R7R8N-、(3)低級アルキル-O-、(4)低級アルキル、(5)アリール、若しくは(6)ヘテロ環基;ここで、T2:CO若しくはSO2)。)
の化合物又はその製薬学的に許容できる塩の有効量及び製薬学的に許容できる担体を含有する統合失調症予防用及び/又は治療用の医薬組成物。
(2)R1及びR2:同一又は異なって、H又は置換されていてもよいヘテロ環基により置換されていてもよい低級アルキル、R3, R4, R5及びR6:同一又は異なって, (i)H、 (ii)ハロゲン、 又は、(iii)R10-T1-(ここでR10:低級アルキル、T1:O)。)である(1)に記載の医薬組成物。
【0013】
(3)R1及びR2:同一又は異なって、H又はハロゲン、低級アルキル及び低級アルキル−O−からなる群から選択される1の置換基によって置換されていてもよい、ピリミジン及びピリジンから選択される1のヘテロ環基、により置換されていてもよい低級アルキルである(1)又は(2)に記載の医薬組成物。
【0014】
(4)R1: H、R2: ハロゲン、低級アルキル及び低級アルキル−O−からなる群から選択される1の置換基によって置換されていてもよい、ピリミジン及びピリジンから選択される1のヘテロ環基、により置換された低級アルキル、R3及びR6:H、 R4及びR5:同一又は異なって, (i)H、 (ii)ハロゲン、 又は、(iii)R10-T1-(ここでR10:低級アルキル、T1:O)である(1)乃至(3)に記載の医薬組成物。
(5)R1: H、R2: ハロゲン、低級アルキル及び低級アルキル−O−からなる群から選択される1の置換基によって置換されていてもよいピリミジンにより置換された低級アルキル、R3及びR6:H、 R4及びR5:同一又は異なって, (i)H、 (ii)ハロゲン、 又は、(iii)R10-T1-(ここでR10:低級アルキル、T1:O)である(1)乃至(4)に記載の医薬組成物。
(6)R1: H、R2: ハロゲン、低級アルキル及び低級アルキル−O−からなる群から選択される1の置換基によって置換されていてもよいピリジンにより置換された低級アルキル、R3及びR6:H、 R4及びR5:同一又は異なって, (i)H、 (ii)ハロゲン、 又は、(iii)R10-T1-(ここでR10:低級アルキル、T1:O)である(1)乃至(4)に記載の医薬組成物。
(7)統合失調症が統合失調症における陽性症状(幻覚、妄想、作為体験、解体した会話、ひどく解体した又は緊張性の行動など)、統合失調症における陰性症状(感情の平板化、思考の貧困、意欲の欠如、自閉、快感消失など)、統合失調症における認知障害、又は、統合失調症における気分障害(抑うつ、不安など)である(1)乃至(6)に記載の医薬組成物。
【0015】
本発明に含まれる、式(I)の具体的な化合物としては、下記の化合物が挙げられる。
N-(4-フルオロフェニル)- N'-フェニル-N''- (ピリミジン-2-イルメチル)- 1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン、N,N'-ビス(4-フルオロフェニル)-N"-(ピリミジン-2-イルメチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン 、N-(4-フルオロフェニル)-N'-(4-メトキシフェニル)-N''- (ピリミジン-2-イルメチル)- 1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン、N, N'-ビス(4-フルオロフェニル)-N''- (ピリミジン-4-イルメチル)- 1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン、又は、N-(4-フルオロフェニル)- N'-[(2-フルオロ-4-ピリジル)メチル] -N''-フェニル- 1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン。
【0016】
本明細書の上記または下記記載において、本発明範囲に含まれる様々な定義の好適例を、下記で詳細に説明する。
【0017】
「低級アルキル」とは、直鎖又は分枝状の炭素数が1から6(以後、C1-6と略す)のアルキル、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル基等である。別の態様としては、C1-4アルキルであり、さらに別の態様としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピルブチル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル又はヘキシルである。
【0018】
「ハロゲン」は、F、Cl、Br、Iを意味する。
【0019】
「C1-10アルキレン」とは、直鎖又は分枝状のC1-10のアルキレン、例えばメチレン、エチレン、トリメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、ヘプタメチレン、オクタメチレン、ノナメチレン、デカメチレン、プロピレン、メチルメチレン、エチルエチレン、1,2-ジメチルエチレン、1,1,2,2-テトラメチルエチレン基等である。
【0020】
「シクロアルキル」とは、C3-10の飽和炭化水素環基であり、架橋を有していてもよい。例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、アダマンチル基等である。別の態様としては、C3-8シクロアルキルであり、さらに別の態様としては、C3-6シクロアルキルである。
【0021】
「アリール」とは、C6-14の単環乃至三環式芳香族炭化水素環基であり、例えばフェニル、ナフチルであり、別の態様としてはフェニルである。
【0022】
「ヘテロ環」基とは、酸素、硫黄及び窒素から選択されるヘテロ原子を1〜4個含有する3〜15員の、別の態様としては5〜10員の単環乃至三環式ヘテロ環基であり、飽和環、芳香環、及びその部分的に水素化された環基を包含する。環原子である硫黄又は窒素が酸化されオキシドやジオキシドを形成してもよい。具体的には、ピリジル、ピロリル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、イミダゾリル、トリアゾリル、トリアジニル、テトラゾリル、チアゾリル、ピラゾリル、イソチアゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアジアゾリル、オキサジアゾリル、チエニル、フリル等の単環式ヘテロアリール、インドリル、イソインドリル、ベンゾイミダゾリル、インダゾリル、キノリル、イソキノリル、キナゾリニル、キノキサリニル、フタラジニル、ベンゾチアゾリル、ベンゾイソチアゾリル、ベンゾチアジアゾリル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾイソオキサゾリル、ベンゾフラニル、ベンゾチエニル等の二環式ヘテロアリール、カルバゾリル、ジベンゾ[b,d]フラニル、ジベンゾ[b,d]チエニル等の三環式ヘテロアリール、アゼチジニル、ピロリジニル、ピペリジル、ピペラジニル、アゼパニル、ジアゼパニル、モルホリニル、チオモルホリニル、テトラヒドロピリジニル、オキセタニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、ジオキソラニル、ジオキサニル、テトラヒドロチオピラニル等の非芳香族単環式ヘテロ環、インドリニル、テトラヒドロキノリル、テトラヒドロイソキノリル、ジヒドロベンゾイミダゾリル、テトラヒドロベンゾイミダゾリル、テトラヒドロキノキサリニル、ジヒドロキノキサリニル、ジヒドロベンゾキサゾリル、ジヒドロベンゾオキサジニル、ジヒドロベンゾフリル、クロマニル、クロメニル、メチレンジオキシフェニル、エチレンジオキシフェニル等の非芳香族二環式ヘテロ環、キヌクリジニル等の架橋ヘテロ環等である。別の態様としては、5〜10員の単環乃至二環式へテロ環基であり、さらに別の態様としては、5〜6員の単環式へテロ環基であり、またさらに別の態様としては、5〜6員の単環式へテロアリールである。
【0023】
「置換されていてもよい低級アルキル」及び、「置換されていてもよいヘテロ環基」とは、各々の「低級アルキル」及び「ヘテロ環基」が、下記の1又は2以上の基からなる置換基によって置換されていてもよいことを意味する。
-OH、-NH2, -NH(低級アルキル)、-N(低級アルキル)2、-CN、-COOH、NO2、低級アルキル、-O-低級アルキル、ハロゲン、シクロアルキル、アリール、及び、ヘテロ環基(ここで、上記のシクロアルキル、アリール、及び、ヘテロ環基は、下記の基からなる1又は2以上の置換基によって置換されていてもよい。
-OH、-NH2 、-NH(低級アルキル)、-N(低級アルキル)2、-CN、-COOH、NO2、低級アルキル、-O-低級アルキル、ハロゲン、シクロアルキル、アリール、及び、ヘテロ環基)。
【0024】
「BEC1又はBEC1カリウムチャネル」とは、米国特許第6326168号又は米国特許第7375222号において知られる配列番号2に示された蛋白質を意味する。
【0025】
「BEC1カリウムチャネル阻害剤」とは、BEC1カリウムチャネルを阻害する物質を意味し、例えば、実施例1に記載の評価方法において、IC50値が10μM以下、別の態様としては1μM以下、更に別の態様としては、0.5μM以下である物質を意味する。BEC1カリウムチャネル阻害剤は、被験化合物を代表的なスクリーニング法、例えば米国特許第6,326,168号や米国特許第7375222号に記載の方法に供することにより得られる。
【0026】
式(I)の化合物には、置換基の種類によって、互変異性体や幾何異性体が存在しうる。本明細書中、式(I)の化合物が異性体の一形態のみで記載されることがあるが、本発明は、それ以外の異性体も包含し、異性体の分離されたもの、あるいはそれらの混合物も包含する。
また、式(I)の化合物には、不斉炭素原子や軸不斉を有する場合があり、これに基づく光学異性体が存在しうる。本発明は、式(I)の化合物の光学異性体の分離されたもの、あるいはそれらの混合物も包含する。
【0027】
さらに、本発明は、式(I)で示される化合物の製薬学的に許容されるプロドラッグも包含する。製薬学的に許容されるプロドラッグとは、加溶媒分解により又は生理学的条件下で、(本発明の)アミノ基、水酸基、カルボキシル基等に変換されうる基を有する化合物である。プロドラッグを形成する基としては、例えば、Prog. Med., 5, 2157-2161(1985)や、「医薬品の開発」(廣川書店、1990年)第7巻 分子設計163-198に記載の基が挙げられる。
【0028】
また、式(I)の化合物は、置換基の種類によって、酸付加塩との塩を形成する場合があり、かかる塩が製薬学的に許容される塩である限りにおいて本発明に包含される。具体的には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、マンデル酸、酒石酸、ジベンゾイル酒石酸、ジトルオイル酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等の有機酸との酸付加塩等が挙げられる。
【0029】
式(I)の化合物及び/又はその製薬学的に許容できる塩は米国特許第7375222号に記載された製法により、あるいはそれらに準じた製法により入手可能である。
【0030】
式(I)の化合物又はその製薬学的に許容される1種又は2種以上の塩を有効成分として含有する医薬組成物は、当分野において通常用いられている薬剤用賦形剤、薬剤溶担体等を用いて、通常使用されている方法によって調製することができる。
投与は錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤等による経口投与、又は、関節内、静脈内、筋肉内等の注射剤、坐剤、点眼剤、眼軟膏、経皮用液剤、軟膏剤、経皮用貼付剤、経粘膜液剤、経粘膜貼付剤、吸入剤等による非経口投与のいずれの形態であってもよい。
【0031】
経口投与のための固体組成物としては、錠剤、散剤、顆粒剤等が用いられる。このような固体組成物においては、1種又は2種以上の有効成分を、少なくとも1種の不活性な賦形剤、例えば乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ヒドロキシプロピルセルロース、微結晶セルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、及び/又はメタケイ酸アルミン酸マグネシウム等と混合される。組成物は、常法に従って、不活性な添加剤、例えばステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤やカルボキシメチルスターチナトリウム等のような崩壊剤、安定化剤、溶解補助剤を含有していてもよい。錠剤又は丸剤は必要により糖衣又は胃溶性若しくは腸溶性物質のフィルムで被膜してもよい。
経口投与のための液体組成物は、薬剤的に許容される乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤又はエリキシル剤等を含み、一般的に用いられる不活性な希釈剤、例えば精製水又はエタノールを含む。当該液体組成物は不活性な希釈剤以外に可溶化剤、湿潤剤、懸濁剤のような補助剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、防腐剤を含有していてもよい。
【0032】
非経口投与のための注射剤は、無菌の水性又は非水性の溶液剤、懸濁剤又は乳濁剤を含有する。水性の溶剤としては、例えば注射用蒸留水又は生理食塩液が含まれる。非水性の溶剤としては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール又はオリーブ油のような植物油、エタノールのようなアルコール類、又はポリソルベート80(局方名)等がある。このような組成物は、さらに等張化剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、又は溶解補助剤を含んでもよい。これらは例えばバクテリア保留フィルターを通す濾過、殺菌剤の配合又は照射によって無菌化される。また、これらは無菌の固体組成物を製造し、使用前に無菌水又は無菌の注射用溶媒に溶解又は懸濁して使用することもできる。
【0033】
外用剤としては、軟膏剤、硬膏剤、クリーム剤、ゼリー剤、パップ剤、噴霧剤、ローション剤、点眼剤、眼軟膏等を包含する。一般に用いられる軟膏基剤、ローション基剤、水性又は非水性の液剤、懸濁剤、乳剤等を含有する。例えば、軟膏又はローション基剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、白色ワセリン、サラシミツロウ、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノステアリン酸グリセリン、ステアリルアルコール、セチルアルコール、ラウロマクロゴール、セスキオレイン酸ソルビタン等が挙げられる。
【0034】
吸入剤や経鼻剤等の経粘膜剤は固体、液体又は半固体状のものが用いられ、従来公知の方法に従って製造することができる。例えば公知の賦形剤や、更に、pH調整剤、防腐剤、界面活性剤、滑沢剤、安定剤や増粘剤等が適宜添加されていてもよい。投与は、適当な吸入又は吹送のためのデバイスを使用することができる。例えば、計量投与吸入デバイス等の公知のデバイスや噴霧器を使用して、化合物を単独で又は処方された混合物の粉末として、もしくは医薬的に許容し得る担体と組み合わせて溶液又は懸濁液として投与することができる。乾燥粉末吸入器等は、単回又は多数回の投与用のものであってもよく、乾燥粉末又は粉末含有カプセルを利用することができる。あるいは、適当な駆出剤、例えば、クロロフルオロアルカン、ヒドロフルオロアルカン又は二酸化炭素等の好適な気体を使用した加圧エアゾールスプレー等の形態であってもよい。
【0035】
通常経口投与の場合、1日の投与量は、体重当たり約0.001〜100 mg/kg、好ましくは0.1〜30 mg/kg、更に好ましくは0.1〜10 mg/kgが適当であり、これを1回であるいは2乃至4回に分けて投与する。静脈内投与される場合は、1日の投与量は、体重当たり約0.0001〜10 mg/kgが適当で、1日1回乃至複数回に分けて投与する。また、経粘膜剤としては、体重当たり約0.001〜100 mg/kgを1日1回乃至複数回に分けて投与する。投与量は症状、年令、性別等を考慮して個々の場合に応じて適宜決定される。
【0036】
式(I)の化合物は、統合失調症の治療剤又は予防剤と併用することができる。当該併用は、同時投与、或いは別個に連続して、若しくは所望の時間間隔をおいて投与してもよい。同時投与製剤は、配合剤であっても別個に製剤化されていてもよい。
【実施例】
【0037】
以下の参考例及び実施例は、本発明をより詳細に説明することを目的とし、本発明が下記実施例に限定されるものではない。本発明は参考例及び実施例により十分に説明されているが、当業者にとり種々の変更や修飾が当然であろうことは理解される。従って、その様な変更や修飾が本発明の範囲を逸脱するものでない限り、それらは本発明に含まれるものである。
【0038】
また、参考例、実施例、及び後記表中以下の略号を用いる。
Ex:実施例番号、REx:参考例番号、No:化合物番号、mp:融点、Data:物理化学的データ(FAB+:FAB-MS(M+H)+、EI:EI-MS(M)+、NMR-DMSOd6:DMSO-d6中の1H NMRにおけるピークのδ(ppm))、DMF:N,N-ジメチルホルムアミド、DMSO:ジメチルスルホキシド、THF:テトラヒドロフラン、4M 塩化水素/ジオキサン溶液:4mol / l 塩化水素ジオキサン溶液、MeCN:アセトニトリル、MeOH:メタノール、EtOH:エタノール。
【0039】
参考例1−1
2Lフラスコにシアヌル酸クロリド75.0g、THF680mLを加え、攪拌しながら-19℃にて炭酸カリウム51.10gを加えた。-12.4℃以下にてTHF75mLで希釈したp-フルオロアニリン41.08g、THF75mLを加えた。-12.8〜-14.4℃にて1時間反応を行い、水450mLを加えた。室温にて分液を行い、水層を分離後に水300mLを加え再度分液を行い水層を分離した。有機層に、1)THF600mL、及び、2)炭酸カリウム1.1gを水308mLに加えて調製した水溶液、を加えた後に分液を行い、水層を分離した。有機層に水150mLを加えて分液を行い、水層を分離し、有機層を溶液残量280mLになるまで減圧にて濃縮した。濃縮液にMeCN750mLを加えて減圧にて溶液残量280mLになるまで濃縮する操作を3回行った。続いてMeCN600mLを加えて冷却後、アニリン34.43g、MeCN75mLを-5.9℃以下で加え、N,N-ジイソプロピルエチルアミン47.79g、MeCN38mLを-9.2℃にて加えた。その後室温まで昇温し,12時間攪拌後に2-アミノメチルピリミジン48.42g、MeCN75mLを室温にて加えた後、N,N-ジイソプロピルエチルアミン57.35g、MeCN38mLを室温にて加えた。内温82.4℃に昇温し4.5時間撹拌後、内温70℃以上で水560mLを加えた後冷却した。内温65.8℃にて結晶析出を確認後、室温にて終夜放置し濾過を行った。得られた結晶をMeCN:水=2:1の混合溶液にて洗浄し、続いて水300mLで洗浄した。得られた結晶を50℃にて1日減圧乾燥を行い、108.54gのN-(4-フルオロフェニル)- N'-フェニル-N''- (ピリミジン-2-イルメチル)- 1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミンを得た。
【0040】
参考例1−2
メチルエチルケトン414L、N-(4-フルオロフェニル)- N'-フェニル-N''- (ピリミジン-2-イルメチル)- 1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン 23.00kgを反応容器1へ加え、内温65.0℃にて溶解させた。濾過を行い、反応容器2へ移送後、再度加熱した。別に、反応容器1にフマル酸6.90kg、EtOH 115Lを加え内温58.3℃にて溶解させ、反応容器2へと移送した。冷却後、内温54.2℃にて結晶析出を確認後、0℃にて終夜放置した。濾過を行った後、EtOH 46Lにて結晶を洗浄後、得られた「N-(4-フルオロフェニル)- N'-フェニル-N''- (ピリミジン-2-イルメチル)- 1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミンとフマル酸の比が1:1の塩の結晶」 (III型結晶:wet)30.34kgとEtOH 460Lを反応容器2に加えた。内温52.4〜69.2℃にて懸濁状態で42時間攪拌し、冷却し室温にて終夜放置した。濾過を行いEtOH 46Lで結晶を洗浄後、60℃にて4日間減圧乾燥を行い「N-(4-フルオロフェニル)- N'-フェニル-N''- (ピリミジン-2-イルメチル)- 1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミンとフマル酸の比が2:1の塩の無水物の結晶」(I型)20.97kgを得た。
【0041】
参考例2−1
2-ピリミジンカルボニトリル 25g の酢酸 100mL 及び酢酸エチル 100mL の混合溶液に、10% パラジウム/炭素 1g を加えて常圧の水素雰囲気下、室温で14時間攪拌した。反応混合物からパラジウム/炭素をセライト濾過により除去し、溶媒を留去して得られた残渣にトルエンを加えて濃縮する操作を4回行った。得られた残渣にMeCNを加えて固体化させて、固体を濾取して1-ピリミジン-2-イルメチルアミン酢酸塩 15.7g を無色固体として得た。

1-ピリミジン-2-イルメチルアミン酢酸塩
NMR-DMSOd6
1.88 (3H, s), 3.91 (2H, brs), 4.1-5.3 (3H, m), 7.38 (1H, t, J=4.9Hz), 8.78 (2H, d, J=4.9Hz)
EI: 109
【0042】
参考例2−2
6-クロロ-N,N'-ビス(4-フルオロフェニル)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアミン 4.71g のMeCN 50mL 溶液に、1-ピリミジン-2-イルメチルアミン酢酸塩 2.507g 及び N,N-ジイソプロピルエチルアミン 5.2mL を加えて、75℃で17時間攪拌した。反応液を室温まで冷却した後、溶媒を留去して得られた残渣に酢酸エチルを加えて、有機層を5%クエン酸水溶液及び飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:MeOH=100:0〜95:5)で精製して 6.0g の微黄色アモルファスを得た。このものをEtOH 180mL に溶解し、活性炭2gを加えて1時間攪拌した。活性炭をセライト濾過により除去し、溶媒を留去して得られた残渣を含水EtOH (EtOH 80%) 150mL から固体化させ、N,N'-ビス(4-フルオロフェニル)-N"-(ピリミジン-2-イルメチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン 4.84g を無色固体として得た。
得られたN,N'-ビス(4-フルオロフェニル)-N"-(ピリミジン-2-イルメチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン 1.5g をMeOH 300mL に溶解し、4M 塩化水素/ジオキサン溶液 2mL を加えた後、溶媒を留去して、得られた残渣をエタノールから結晶化させて「N,N'-ビス(4-フルオロフェニル)-N"-(ピリミジン-2-イルメチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミンと塩酸の比が1:2の塩」 1.66g を無色結晶として得た。
【0043】
参考例2−3
N,N'-ビス(4-フルオロフェニル)-N"-(ピリミジン-2-イルメチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン 1.0g のエタノール50mL溶液に、フマル酸 285.6mgのエタノール5mL 溶液を加えた。直ぐに固体の析出が始まった。この反応液を加熱還流して固体を完全に溶解させた後、放冷しながら攪拌した。内温が60℃まで下がったところで、N,N'-ビス(4-フルオロフェニル)-N"-(ピリミジン-2-イルメチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミンとフマル酸の比が1:1の塩の結晶を極少量添加し、室温まで放冷しながら12時間攪拌した。析出している結晶を濾取し、エタノールで洗浄した後、60℃で2日間減圧乾燥を行なって、「N,N'-ビス(4-フルオロフェニル)-N"-(ピリミジン-2-イルメチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミンとフマル酸の比が1:1の塩」970mg を無色結晶として得た。
【0044】
参考例2−1、2−2及び2−3と同様にして,下表2に示す参考例3(「N-(4-フルオロフェニル)-N'-(4-メトキシフェニル)-N''- (ピリミジン-2-イルメチル)- 1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミンと塩酸の比が1:2の塩」)、参考例4(「N, N'-ビス(4-フルオロフェニル)-N''- (ピリミジン-4-イルメチル)- 1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン・1.7塩酸・0.2ジエチルエーテル・1.8H2Oの組成物」)の化合物を合成した。
【0045】
以下の表1及び2に、参考例化合物の構造及び物性値を示す。
【表1】

【表2】

【0046】
実施例1
(試験法)
86Rbイオン放出量を指標とした化合物のBEC1阻害活性測定法
BEC1のチャネル活性は、米国特許第6,326,168号又は米国特許第7375222号に記載の方法に従い、BEC1発現細胞からの放射性同位元素86Rbイオンの放出を指標として測定した。具体的には、86Rbイオンを取り込ませたBEC1発現細胞を100 mM KClで刺激した際に同細胞から放出される放射活性をBEC1のチャネル活性とした。86Rbイオンは、BEC1安定発現細胞を86RbCl(0.5μCi/ml)存在下で培養(3時間,37℃)することにより細胞に取り込ませ、HEPES緩衝生理食塩水(pH 7.4,2.5 mM KCl)で3回洗浄することにより取り込まれなかった86Rbイオンを取り除いた。同細胞は、被検化合物を含むDMSO溶液とHEPES緩衝生理食塩水を加えて15分間室温下でインキュベートし、その後同化合物を含む100 mM KCl含有HEPES緩衝液(pH 7.4)でさらに5分間室温下でインキュベートした。細胞外液を回収した後、残った細胞を0.1 N NaOHで溶解し回収した。
細胞外液と細胞溶解液のチェレンコフ放射活性をそれぞれ測定し、その合計を総放射活性とした。86Rbイオン放出量は、総放射活性に対する細胞外液放射活性の百分率で表した。化合物存在下で得られた値を検査値、化合物非存在下で得られた値をコントロール値、100 mM KClで刺激しなかった際に得られた値をブランク値とした。化合物(塩を含まない乖離型として)の阻害作用は、阻害%(すなわち、(コントロール値-検査値)×100/(コントロール値-ブランク値))から求めたIC50値で表した。なお、BEC1発現細胞は、チャイニーズ・ハムスター卵巣細胞のジヒドロ葉酸レダクターゼ(dhfr)欠損株を用いて米国特許第6,326,168号又は米国特許第7375222号に記載の方法に従って作成したBEC1安定発現細胞を用いた。
(結果)
代表的な化合物の試験結果を表3に示す。当該化合物はBEC1カリウムチャネル阻害作用を有することが確認された。
【0047】
実施例2
(試験法)
統合失調症に対する治療効果の検証は、メタンフェタミン誘発運動亢進モデルを用いて行った。メタンフェタミンは覚せい剤であり、ドパミン神経系の伝達を亢進することで、統合失調症に類似した症状を引き起こすことが知られており、メタンフェタミンを動物に投与した際に生じる異常行動は、統合失調症治療薬のスクリーニング方法として汎用されている(Oka et al., 1993, J. Pharmacol. Exp. Ther., 264:158-165)。すなわち、雄性ddyマウスを運動量測定装置に入れ、30分後にメタンフェタミンを投与した。メタンフェタミン投与後直ちに測定装置に戻し、直後から1時間の運動量を測定した。運動量の測定には、室町機械株式会社のスーパーメックスセンサーを使用した。溶媒(Vehicle)又は、参考例1−2(試験化合物(1))、2−2(試験化合物(2a))、3(試験化合物(3))、4(試験化合物(4))に記載の化合物、及び、N-(4-フルオロフェニル)- N'-[(2-フルオロ-4-ピリジル)メチル] -N''-フェニル- 1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン・塩酸塩(試験化合物(5))を溶媒で複数の濃度(塩を含まない乖離型として)に希釈した希釈液を、各群のマウスに経口投与した。溶媒は、0.5%メチルセルロース水溶液を用いた。有意差検定は、Dunnett検定を用い、溶媒投与群と薬物投与群との間で行った。
【0048】
(結果)
メタンフェタミン誘発運動亢進抑制作用の結果を表3に示す。表中の数値は,各化合物投与群の最小有効用量(溶媒投与群の運動量に対して、運動量が有意に少なかった最も小さい用量)を表す。試験化合物(1)乃至(5)はいずれもメタンフェタミン誘発運動亢進を抑制した。すなわち、これら5化合物は統合失調症の症状、特に統合失調症の陽性症状を改善する作用があることが示された。
【0049】
実施例3
(試験法)
統合失調症に対する治療効果の検証は、フェンシクリジン誘発長期immmobilityモデルを用いて行った。フェンシクリジンは、N -メチル- D -アスパラギン酸受容体、グルタミン酸受容体のタイプの非競合的拮抗薬であり、この薬剤の乱用は、統合失調症のものと区別がつかない精神病症状の発現を引き起こす。フェンシクリジンの慢性的処置は、強制水泳試験で不動性を高めることが示唆された(野田ら、2000、Neuropsychopharmacol、23:375-87)。このテストでの不動性は、モチベーションの低下などのうつ病のいくつかの側面を反映すると考えられているので、強制水泳試験は、抗うつ薬のスクリーニングアッセイとして使用される。統合失調症の陰性症状にも同様の側面を含むので、我々はこのテストを使用して、無関心などの陰性症状に対して薬物の有効性を評価することができる。つまり、雄のddyマウスを静かに円筒形のプールに配置し、活動をSCANET(MV20 - LAN、MELQUEST)で3分間測定した。その後、不動時間をSCANETのファイルの統合ソフトウェアを使用して算出した。二日後、マウスをペントバルビタールナトリウムで麻酔した。浸透ミニポンプ(Alzetモデル1002、DURECTコーポレーション)をマウスに皮下移植した。ポンプにより、生理食塩水またはフェンシクリジンの1.2 mg /日/マウスを、0.25μL/時間の速度で注入した。移植後14日間、試験化合物をマウスに投与し、投与後の1時間で、各マウスを静かに円筒形のプールに配置し、活動を3分間測定した。その後、不動時間を算出した。溶媒、又は複数の濃度(塩を含まない乖離型として)で溶媒で試験化合物(1)と(2b)を希釈して作成した希釈液を、各群のマウスに経口投与した。溶媒は、0.5%メチルセルロース水溶液を用いた。有意差検定は、Dunnett検定を用い、溶媒投与群と薬物投与群との間で行った。
【0050】
(結果)フェンシクリジン誘発長期臥床の改善作用の結果を表3に示す。表中の数値は、化合物投与群のそれぞれの最小有効用量(溶媒投与群の不動時間を基準にして、大幅に短い不動時間を誘導する最小の投与量)を表す。試験化合物(1)と(2b)は、フェンシクリジン誘発の不動時間の延長を抑制した。言い換えれば、これら二つの化合物は、統合失調症の症状、特に統合失調症の陰性症状を改善する効果を有することが示された。
【0051】
実施例4
(試験法)
統合失調症に対する治療効果の検証は、フェンシクリジンによる新生マウスの処置後、water finding task試験を用いて行った。新生児の段階でのフェンシクリジンの処置は、統合失調症の認知障害を起こすことが示唆された(Depoortereら、2005、Neuropsychopharmacology、30:1963-85)。さらに、water finding task試験において、PCPの慢性的な処置が、潜時を延長させることが報告されている(毛利ら、2007、Mol.Pharmacol.,180:152-60)。water finding task試験での潜時は、動物での潜在学習の尺度を提供し、注意力を反映すると考えられている。注意力は、統合失調症における認知障害の最も重要な領域の一つであり、我々はこの試験を使用して、統合失調症における認知障害に関する薬の有効性を評価することができた。つまり、雄性のDDYマウスの生後7、9、及び11日目に、15 mg/kgの投与量のPCP又は生理食塩水を皮下投与した。7週令の時に、試験化合物は経口的に動物に投与され、60分後、動物は、オープンフィールドの一角に置かれ、自由に3分間トレーニング装置を探索させた。トレーニングの試行後直ちに、動物は自分のホームケージに戻され、テストの試行翌日になるまで水を奪われた。テストトライアルでは、マウスは再び試験装置に個別に置かれた。小部屋に入る時と水を飲む時の間の時間を測定した。溶媒、又は複数の濃度(塩を含まない乖離型として)で溶媒で試験化合物(1)と(2b)を希釈して作成した希釈液を、各群のマウスに経口投与した。溶媒は、0.5%メチルセルロース水溶液を用いた。有意差検定は、Dunnett検定を用い、溶媒投与群と薬物投与群との間で行った。
【0052】
(結果)
フェンシクリジン誘発潜時延長の改善作用の結果を、表3に示した。表中の数値は、化合物投与群のそれぞれの最小有効用量(溶媒投与群の潜時を基準にして大幅に短い潜時を誘導する最小の投与量)を表す。試験化合物(1)と(2b)はフェンシクリジン誘発潜時延長を抑制した。言い換えれば、これら二つの化合物は、統合失調症の症状、特に統合失調症の認知障害を改善する効果を有することが示された。
【0053】
試験化合物
化合物(1)は(REx 1-2)の化合物を、化合物(2a)は(REx 2-2)の化合物を、化合物(2b)は(REx 2-3)の化合物を、化合物(3)は(REx 3)の化合物を、化合物(4)は(REx 4)の化合物を、化合物(5)は(N-(4-フルオロフェニル)- N'-[(2-フルオロ-4-ピリジル)メチル] -N''-フェニル- 1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン・塩酸塩)を、化合物(6)は(N, N'-ビス(4-フルオロフェニル)-N''- [(2-フルオロ-4-ピリジル)メチル]- 1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン・2塩酸塩)を、化合物(7)は(N-(4-フルオロフェニル)- N'-[(2-フルオロ-4-ピリジル)メチル] -N''-(4-メチルフェニル)- 1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン・塩酸塩)を、化合物(8)は(N-(4-フルオロフェニル)- N'-[(2-フルオロ-4-ピリジル)メチル] -N''-(4-メトキシフェニル)- 1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン・塩酸塩)を、化合物(9)は(N-(4-クロロフェニル)- N'-[(2-フルオロ-4-ピリジル)メチル] -N''-(4-フルオロフェニル)- 1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン・塩酸塩)を、化合物(10)は(N-(4-フルオロフェニル)- N'-[(2-フルオロ-4-ピリジル)メチル] -N''-(3-メトキシフェニル)- 1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン・塩酸塩)を、それぞれ意味する。
化合物(5)−(10)は、米国特許第7375222号に記載されている。
【表3】

【0054】
このデータは、BEC1カリウムチャネル阻害剤が、統合失調症の予防および/または治療に有用であることを示している。本発明の医薬組成物は、優れた統合失調症予防剤および/または治療剤の治療薬を提供するものとして有用であり、特に統合失調症の陽性症状、陰性症状や認知障害の予防剤および/または治療剤を提供するものとして有用である。
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明してきたが、当業者にとってその発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更および修正を行うことができることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は,優れた統合失調症予防剤及び/又は治療剤を提供するものとして有用である。また、本発明は、統合失調症における陽性症状(幻覚、妄想、作為体験、解体した会話、ひどく解体した又は緊張性の行動など)、陰性症状(感情の平板化、思考の貧困、意欲の欠如、自閉、快感消失など)、認知障害、気分障害(抑うつ、不安など)などの予防剤及び/又は治療剤を提供するものとして特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BEC1カリウムチャネル阻害剤又はその製薬学的に許容できる塩の有効量及び製薬学的に許容できる担体を含有する統合失調症予防用及び/又は治療用医薬組成物。
【請求項2】
BEC1カリウムチャネル阻害剤が、以下の式(I)の化合物又はその製薬学的に許容される塩である、請求項1に記載の医薬組成物。
【化2】

(式中の記号は次の通りである。
R1及びR2:同一又は異なって、H、OH、低級アルキル-O-、アリール-CO-、 NH2、 OHで置換されていてもよい低級アルキル-NH、 (低級アルキル)2N、置換されていてもよい低級アルキル基、又は、置換されていてもよいヘテロ環基。
R3, R4, R5及びR6:同一又は異なって, (i)H、 (ii)CN、 (iii)NO2、 (iv)ハロゲン、 (v)(1) CN、 (2) ハロゲン若しくは(3)OHで置換されていてもよい低級アルキル, (vi)シクロアルキル、(vii)低級アルキルで置換されていてもよいアリール、(viii) 低級アルキルで置換されていてもよいヘテロ環基, (ix)R7R8N-(ここで、R7及びR8:同一又は異なって、 (1)H, (2)アリールで置換されていてもよい低級アルキル若しくは(3) R9-O-CO-で置換されていてもよい低級アルキル(ここでR9:(1)H、 若しくは(2)アリールで置換されていてもよい低級アルキル))、 (x)R10-T1-(ここでR10:(1)H、 (2)アリール、HO-C1-10アルキレン-O-若しくはOHで置換されていてもよい低級アルキル、若しくは、(3)アリール,; ここで、T1:O若しくはS), 又は(xi)R11-T2-(ここで、R11:(1)OH、(2)R7R8N-、(3)低級アルキル-O-、(4)低級アルキル、(5)アリール、若しくは(6)ヘテロ環基;ここで、T2:CO若しくはSO2)。)。
【請求項3】
式(I)の化合物が、
R1及びR2:同一又は異なって、H又は置換されていてもよい低級アルキル。
R3, R4, R5及びR6:同一又は異なって, (i)H、 (ii)ハロゲン、 又は、(iii)R10-T1-(ここでR10:低級アルキル、T1:O)。)である化合物又はその製薬学的に許容される塩である、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
統合失調症予防及び/又は治療のためのBEC1カリウムチャネル阻害剤又はその製薬学的に許容できる塩。
【請求項5】
BEC1カリウムチャネル阻害剤が、以下の式(I)の化合物又はその製薬学的に許容される塩である、請求項4に記載のBEC1カリウムチャネル阻害剤。
【化3】

(式中の記号は次の通りである。
R1及びR2:同一又は異なって、H、OH、低級アルキル-O-、アリール-CO-、 NH2、 OHで置換されていてもよい低級アルキル-NH、 (低級アルキル)2N、置換されていてもよい低級アルキル基、又は、置換されていてもよいヘテロ環基。
R3, R4, R5及びR6:同一又は異なって, (i)H、 (ii)CN、 (iii)NO2、 (iv)ハロゲン、 (v)(1) CN、 (2) ハロゲン若しくは(3)OHで置換されていてもよい低級アルキル, (vi)シクロアルキル、(vii)低級アルキルで置換されていてもよいアリール、(viii) 低級アルキルで置換されていてもよいヘテロ環基, (ix)R7R8N-(ここで、R7及びR8:同一又は異なって、 (1)H, (2)アリールで置換されていてもよい低級アルキル若しくは(3) R9-O-CO-で置換されていてもよい低級アルキル(ここでR9:(1)H、 若しくは(2)アリールで置換されていてもよい低級アルキル))、 (x)R10-T1-(ここでR10:(1)H、 (2)アリール、HO-C1-10アルキレン-O-若しくはOHで置換されていてもよい低級アルキル、若しくは、(3)アリール,; ここで、T1:O若しくはS), 又は(xi)R11-T2-(ここで、R11:(1)OH、(2)R7R8N-、(3)低級アルキル-O-、(4)低級アルキル、(5)アリール、若しくは(6)ヘテロ環基;ここで、T2:CO若しくはSO2)。)。
【請求項6】
式(I)の化合物が、
R1及びR2:同一又は異なって、H又は置換されていてもよい低級アルキル。
R3, R4, R5及びR6:同一又は異なって, (i)H、 (ii)ハロゲン、 又は、(iii)R10-T1-(ここでR10:低級アルキル、T1:O)。)である化合物又はその製薬学的に許容される塩である、請求項5に記載のBEC1カリウムチャネル阻害剤。
【請求項7】
BEC1カリウムチャネル阻害剤又はその製薬学的に許容できる塩の有効量をそのような疾患の必要な患者に投与することからなる統合失調症を予防及び/又は治療する方法。
【請求項8】
BEC1カリウムチャネル阻害剤が、以下の式(I)の化合物又はその製薬学的に許容される塩である、請求項7に記載の方法。
【化4】

(式中の記号は次の通りである。
R1及びR2:同一又は異なって、H、OH、低級アルキル-O-、アリール-CO-、 NH2、 OHで置換されていてもよい低級アルキル-NH、 (低級アルキル)2N、置換されていてもよい低級アルキル基、又は、置換されていてもよいヘテロ環基。
R3, R4, R5及びR6:同一又は異なって, (i)H、 (ii)CN、 (iii)NO2、 (iv)ハロゲン、 (v)(1) CN、 (2) ハロゲン若しくは(3)OHで置換されていてもよい低級アルキル, (vi)シクロアルキル、(vii)低級アルキルで置換されていてもよいアリール、(viii) 低級アルキルで置換されていてもよいヘテロ環基, (ix)R7R8N-(ここで、R7及びR8:同一又は異なって、 (1)H, (2)アリールで置換されていてもよい低級アルキル若しくは(3) R9-O-CO-で置換されていてもよい低級アルキル(ここでR9:(1)H、 若しくは(2)アリールで置換されていてもよい低級アルキル))、 (x)R10-T1-(ここでR10:(1)H、 (2)アリール、HO-C1-10アルキレン-O-若しくはOHで置換されていてもよい低級アルキル、若しくは、(3)アリール,; ここで、T1:O若しくはS), 又は(xi)R11-T2-(ここで、R11:(1)OH、(2)R7R8N-、(3)低級アルキル-O-、(4)低級アルキル、(5)アリール、若しくは(6)ヘテロ環基;ここで、T2:CO若しくはSO2)。)。
【請求項9】
式(I)の化合物が、
R1及びR2:同一又は異なって、H又は置換されていてもよい低級アルキル。
R3, R4, R5及びR6:同一又は異なって, (i)H、 (ii)ハロゲン、 又は、(iii)R10-T1-(ここでR10:低級アルキル、T1:O)。)である化合物又はその製薬学的に許容される塩である、請求項8に記載の方法。

【公表番号】特表2012−521963(P2012−521963A)
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−541012(P2011−541012)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【国際出願番号】PCT/JP2010/056144
【国際公開番号】WO2010/114163
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】