説明

新規脂環式化合物、当該脂環式化合物の製造法、当該脂環式化合物を含む重合用組成物および当該重合用組成物を重合してなる重合体

【課題】電子材料や光学材料等の原料として用いた場合に良好な物性を呈する、新規な脂環式化合物等を提供する。
【解決手段】脂環式化合物(脂環イミドアクリレートという)は、分子中に重合性官能基((メタ)アクロイル基および、ノルボルネン骨格中のビニレン基)を有するので、単独で重合させ、若しくは他の重合性モノマーと共重合させることにより、油性ないし水性の重合体とすることができ、耐熱性、低吸水性、低透湿性、高い硬度、各種基材に対する密着性などに良好な物性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な脂環式化合物、当該脂環式化合物の製造法、当該脂環式化合物を含む重合用組成物および当該重合用組成物を重合してなる重合体、に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子材料、光学材料の分野では、各種性能を向上させるべく、種々の新規材料が検討されている。特に、脂環式化合物については、電子材料、光学材料等の分野で優れた特性が期待できるため、研究開発が活発に行われている。本願人も先に種々の新規脂環式化合物を提案している(例えば、特許文献1、2参照)が、さらなる高性能を付与しうる材料が求められている。
【0003】
ところで、イミド化合物は、その優れた耐電性、耐溶剤性等の物性のため、電子材料、光学材料等に広く使用されるようになってきている。
【0004】
【特許文献1】特許第3102282号公報
【特許文献2】特許第3304638号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、電子材料や光学材料等の原料として用いた場合に良好な物性を呈する、新規な脂環式化合物およびその製造方法を提供することを主たる課題とする。また、当該脂環式化合物を含む重合用組成物、および該重合用組成物を重合してなる重合体を提供することを更なる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、下記一般式(1)で示す脂環式化合物が新規であり、また当該脂環式化合物を原料とする重合組成物が硬化性に優れており、しかも該重合組成物から得られる重合体が耐熱性や、低吸水性、低透湿度、硬度、各種基材に対する密着性等の物性に優れることを見出した。すなわち本発明は、
【0007】
1.下記一般式(1):
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、Rは水素またはメチル基を、aは1〜6の整数を、bは0〜6の整数を表す。)で表される脂環式化合物;
【0010】
2.下記一般式(2−1):
【0011】
【化2】

【0012】
で表される脂環式ジカルボン酸または、下記一般式(2−2):
【0013】
【化3】

【0014】
で表される脂環式ジカルボン酸無水物に、一般式(3):HN−(CH−OH(式中、aは1〜6の整数を表す。)で表されるモノアミン化合物を反応させて、下記一般式(4):
【0015】
【化4】

【0016】
(式中、aは1〜6の整数を表す。)で表される脂環イミド化合物を製造し、これに、一般式(5):HOOC−(CH−C(R)=CH(式中、Rは水素またはメチル基、bは0〜6の整数を表す。)で表されるビニル化合物を反応させることを特徴とする、下記一般式(1):
【0017】
【化5】

【0018】
(式中、Rは水素またはメチル基を、aは1〜6の整数を、bは0〜6の整数を表す。)で表される脂環式化合物の製造方法;
【0019】
3.前記1.に記載の脂環式化合物または前記2.に記載の製造方法で得られる脂環式化合物を含む重合用組成物;
【0020】
4.前記3.に記載の重合用組成物を重合してなる重合体、に関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の脂環式化合物は、分子中にノルボルネン骨格とイミド基、重合性官能基((メタ)アクリロイル基および、該ノルボルネン骨格中のビニレン基)を有するため、従来の電子材料や光学材料に組み込んだ際に、新規な特性が期待される。
また、当該脂環式化合物を含む重合用組成物は、各種重合方法により容易かつ速やかに重合して、各種の重合体を与える。
また、当該重合体は、耐熱性、低吸水性、低透湿性、高い硬度、各種基材に対する密着性などの良好な物性を有するので、電子材料、光学材料として有用であると期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の脂環式化合物(以下、脂環イミドアクリレートという)は、下記一般式(1):
【0023】
【化6】

【0024】
(式中、Rは水素またはメチル基を、aは1〜6の整数を、bは0〜6の整数を表す。)で表される。
【0025】
本発明に係る脂環イミドアクリレートは、分子中に重合性官能基((メタ)アクリロイル基および、ノルボルネン骨格中のビニレン基)を有するので、単独で重合させ、若しくは他の重合性モノマーと共重合させることにより、各種の油性ないし水性の重合体とすることができる。
【0026】
当該脂環イミドアクリレートの製造方法は特に限定されないが、具体的には、例えば、下記一般式(2−1):
【0027】
【化7】

【0028】
で表される脂環式ジカルボン酸または、下記一般式(2−2):
【0029】
【化8】

【0030】
(以下、両者を脂環式ジカルボン酸(無水物)と総称する)で表される脂環式ジカルボン酸無水物に、一般式(3):HN−(CH−OH(式中、aは1〜6の整数を表す。)で表されるモノアミン化合物を反応させて、下記一般式(4):
【0031】
【化9】

【0032】
(式中aは1〜6の整数を表す。)
【0033】
で表される脂環イミド化合物を製造し、これに、一般式(5):HOOC−(CH−C(R)=CH(式中、Rは水素またはメチル基、bは0〜6の整数を表す。)で表されるビニル化合物を反応させることにより、得ることができる。
【0034】
前記脂環式ジカルボン酸(無水物)は、例えば、マレイン酸または無水マレイン酸をシクロペンタジエンにディールス・アルダー付加させる方法や、脂環式トランス−ジカルボン酸ジエステル(例えば、特開平9−20724号公報等参照)を加水分解する方法等により得ることができる。なお、脂環式ジカルボン酸無水物を用いると、後述するアミド化反応が容易に進行するため好ましい。該脂環式ジカルボン酸無水物は、例えば無水ハイミック酸として市販品を用いることもできる。
【0035】
また、前記モノアミン化合物としては、エタノールアミン、プロパノールアミン、ブタノールアミン等のモノアミノアルコール化合物が挙げられる。これらの中でも、入手容易で安価な点より、特にエタノールアミンが好ましい。
【0036】
前記一般式(2−2)で表される脂環式ジカルボン酸(無水物)に、前記一般式(3)で表されるモノアミン化合物を反応させる方法は特に限定されず、各種公知の方法を採用することができる。具体的には、例えば、前記脂環式ジカルボン酸(無水物)1モルと、前記モノアミン化合物0.5〜3モル程度を、通常はエタノール等の水と共沸する溶媒中で、10℃〜70℃程度において1〜5時間程度アミド化反応させた後、さらに80℃〜180℃程度の温度において3〜20時間程度、共沸脱水させてイミド化反応させる方法が挙げられる。
【0037】
なお、各反応の際には、各種公知の酸触媒または塩基性触媒を用いることができる。具体的には、例えば、アルキルスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸などの有機スルホン酸や、硫酸、亜リン酸などの無機酸、ピリジン、トリメチルアミン、トリエチルアミンなどの塩基性化合物等が挙げられ、これらは1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、該触媒の使用量は特に限定されないが、通常は、脂環式ジカルボン酸(無水物)に対し0.001〜1.0重量%程度である。
【0038】
また、イミド化反応の際には、各種公知の脱水剤(ジシクロヘキシルカルボジイミド、無水酢酸等)と塩基性化合物(ピリジン、トリエチルアミン、酢酸ナトリウム等)を組み合わせたものを用いる事により、50℃〜100℃程度の低温で反応を行う事が可能になる。なお、このものの使用量は特に限定されないが、通常は、脂環式ジカルボン酸(無水物)に対し0.001〜1.0重量%程度である。また、当該脱水剤1モルに対する当該塩基性化合物の量は、通常1〜5モル程度である。
【0039】
このようにして製造した脂環イミド化合物に、前記一般式(5)で表されるビニル化合物を反応させることにより、前記一般式(1)で表される脂環式イミドアクリレートが得られる。
【0040】
該ビニル化合物の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、3−ブテン酸、4−ペンテン酸、5−ヘキセン酸、6−ヘプテン酸等が挙げられる。
【0041】
当該反応は特に限定されず、各種公知のエステル化反応を利用することができる。具体的には、例えば、前記脂環イミド化合物1モルと、これに対し0.5〜20モル程度となる前記ビニル化合物とを、通常、20℃〜150℃程度において、2〜20時間程度反応させればよい。なお、当該反応は、水と共沸する溶媒(ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒が好ましい)の存在下、水を留去しながら行うのが好ましい。また、当該反応時には、各種公知のエステル化触媒(p−トルエンスルホン酸、硫酸等)を用いるのが好ましい。なお、該エステル化触媒の使用量は、前記脂環イミド化合物1モルに対し、通常、0.001〜0.1モル程度である。
【0042】
また、当該反応時には、各種の重合禁止措置(重合禁止剤、空気や酸素によるバブリング等)を採るのが好ましい。なお、該重合禁止剤としては、ヒドロキノン、メトキノン、フェノチアジン等が挙げられ、その使用量は、通常、前記ビニル化合物1モルに対して0.0001〜0.01モル程度である。
【0043】
こうして得られる前記一般式(1)で表される脂環式イミドアクリレートは通常、そのままでも高純度であるが、必要に応じて蒸留、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等の各種公知の方法で精製することにより、より高純度とすることができる。
【0044】
本発明に係る重合用組成物は、前記脂環式化合物を含むものであり、その他、該脂環式イミドアクリレート以外の他の重合性化合物や、各種の重合開始剤、および各種添加剤を含むことができる。なお、当該他の重合性化合物とは、具体的には、エチレン性不飽和基を1個有する化合物(以下、単官能モノマーという)や、エチレン性不飽和基を2個以上有する化合物(以下、多官能モノマーという)をいう。
【0045】
当該単官能モノマーとしては、例えば、アクリル酸アルキルエステル〔(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等〕、芳香族系モノマー〔スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、インデン、メチルインデン等〕、アニオン性ビニルモノマー類やその中和塩〔(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、ムコン酸、シトラコン酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等や、これらの中和塩〕、第三級アミノ基含有ビニルモノマー〔N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等〕、該第三級アミノ基含有ビニルモノマーを四級化剤(メチルクロライド、ベンジルクロライド、ジメチル硫酸、エピクロルヒドリン等)で四級化してなるカチオン性ビニルモノマー、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート〔2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシへキシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、およびトリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート等〕、酢酸ビニル、N−ビニルピロリドン等、フェノールのアルキレンオキシド付加物の(メタ)アクリレート、並びにそのハロゲン核置換体〔フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノールエチレンオキシド変成(メタ)アクリレートおよびフェノールプロピレンオキシド変成(メタ)アクリレート等〕、アルキルフェノールのアルキレンオキシド付加物の(メタ)アクリレート、並びにそのハロゲン核置換体〔ノニルフェノールエチレンオキシド変成(メタ)アクリレート、ノニルフェノールプロピレンオキシド変成(メタ)アクリレート及びパラクミルフェノールアルキレンオキシド変成(メタ)アクリレート等〕、フェニルフェノールのアルキレンオキシド変成(メタ)アクリレート及びそのハロゲン置換体等〕、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート及びそのハロゲン核置換体、フェニルフェノールグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物及びそのハロゲン核置換体、シクロヘキセンオキシドの(メタ)アクリル酸付加物等のエポキシモノ(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルカルビトール(メタ)アクリレート、イソボ←ルではない?ニル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルフォリン等が挙げられ、これらは1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
また、当該多官能モノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼン、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ビスフェノールAテトラエチレングリコールジアクリレート、ヘキサメチレングリコールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、N−ビニルピロリドン、(メタ)アクリルアミド、N−ビニルホルムアミド、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、ペンタエリスリトールトリまたはジ(メタ)アクリレート、およびトリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ポリエステルポリ(メタ)アクリレート、エポキシポリ(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリル系ポリマーのポリ(メタ)アクリレート、ウレタンポリ(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
なお、本発明に係る重合用組成物は、前記ウレタンポリ(メタ)アクリレートを含む場合には、得られる重合体の伸び率が高くなり、また、その柔軟性や強靭性、低吸水性、低透湿性等が優れたものになるため好ましい。ここに、該ウレタンポリ(メタ)アクリレートとは、ポリオールと有機ポリイソシアネートの反応物に、前記ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートを反応させてなる化合物をいう。
【0048】
該ポリオールとしては、低分子量ポリオール〔エチレングリコール、プロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等〕、ポリエーテルポリオール〔ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラエチレングリコールなどのポリアルキレングリコール、ポリエチレンポリプロポキシブッロクポリマージオールなどのブッロクまたはランダムポリマーのジオール等〕、ポリエステルポリオール〔該低分子量ポリオールおよび/または該ポリエーテルポリオールと、酸成分(アジピン酸、コハク酸、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸及びテレフタル酸等の二塩基酸又はその無水物等)とのエステル化反応物等〕が挙げられる。
【0049】
該有機ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、1,6−ヘキサンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、1,6−ヘキサンジイソシアネート3量体、水素化トリレンジイソシアネート、水素化4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素化キシイレンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート2量体、1,5−ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート相互付加物、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリメチロールプロパントリス(トリレンジイソシアネート)付加物及びイソホロンジイソシアネート等が挙げられる。
【0050】
本発明に係る重合用組成物中、前記脂環イミドアクリレートと前記他の重合性化合物との割合は特に制限されないが、通常は前者が10〜80重量%程度(好ましくは20〜60重量%)、後者が20〜90重量%(好ましくは40〜80重量%)程度である。当該数値範囲とすることで、重合用組成物の硬化性や、得られる重合体の耐熱性、低吸水性、低透湿性、硬度、柔軟性等や、各種基材に対する密着性が良好になる。
【0051】
前記重合開始剤としては、本発明に係る重合用組成物を熱重合させる場合には各種公知の熱重合開始剤が、また、光重合させる場合には各種公知の光ラジカル重合開始剤が用いられる。
【0052】
該熱重合開始剤としては、具体的には、例えば、有機過酸化物〔1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)2−メチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等〕、アゾ系化合物〔1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾジ−t−オクタンおよびアゾジ−t−ブタン等〕が挙げられ、これらは1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、前記有機過酸化物は、各種公知の還元剤と組み合わせることによりレドックス系開始剤としてもよい。該熱重合開始剤の使用量は、前記脂環イミドアクリレートと前記他の重合性化合物の合計重量に対して、通常0.01〜10重量%程度である。
【0053】
該光ラジカル重合開始剤としては、具体的には、例えば、ベンゾイン類〔ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、およびベンゾインイソプロピルエーテル等〕やそのアルキルエーテル〕、アセトフェノン類〔アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、1−ヒドロキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン及び2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン等〕アントラキノン類〔2−ターシャリ−ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノンおよび2−アミルアントラキノン等のアントラキノン〕、チオオキサントン類〔2,4−ジメチルチオオキサントン、2,4−ジエチルチオオキサントン、2−クロロチオオキサントン及び2,4−ジイソプロピルチオオキサントン等〕、ケタール類〔アセトフェノンジメチルケタール及びベンジルジメチルケタール等のケタール、ベンゾフェノン類、キサントン類等が挙げられ、これらは1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、当該光ラジカル重合開始剤は、安息香酸系、アミン系等の光重合開始促進剤と組み合わせて用いることもできる。本発明に係る重合用組成物中の、光ラジカル重合開始剤の含有量は、前記脂環イミドアクリレートと前記他の重合性化合物の合計重量に対して、通常、0.1〜10重量%程度である。
【0054】
なお、前記光ラジカル重合開始剤とともに、必要に応じて、紫外線吸収剤〔2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール及び2−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール等〕、光安定剤〔ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート及び2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンソエート等〕、酸化防止剤〔トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]及び1,6−ヘキサンジオール−ビス[3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル]プロピオネート等〕等を用いることができる。
【0055】
また、前記添加剤としては、無機充填剤〔シリカ粉末、アルミナ、ジルコン、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム等〕、染料や顔料等の着色剤〔フタロシアニン・ブルー、フタロシアニングリーン、アイオジン・グリーン、ジスアゾイエロー、クリスタルバイオレット、酸化チタン、カーボンブラック、ナフタレンブラック等〕、難燃剤〔三酸化アンチモン、リン酸エステル、赤リンおよびメラミン樹脂をはじめとする含窒素化合物等〕、消泡剤〔シリコーン系、フッ素系、高分子系等〕、密着性付与剤〔イミダゾール類、チアゾール類、トリアゾール類、シランカップリング剤等〕、応力緩和剤〔シリコーンオイル、シリコーンゴム粉末等〕、帯電防止剤、レベリング剤、粘度調節剤、紫外線遮断剤、処理剤、前記重合禁止剤等が挙げられ、これらは1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0056】
本発明において重合方法は特に制限されず、例えば、活性エネルギー線を照射する方法(光重合法)や、加熱したりする方法(熱重合法)が採用できる。なお、各重合反応は各種溶媒、例えば、アルコール系溶媒(メタノール、エタノール等)、芳香族系溶媒(ベンゼン、トルエン、キシレン等)、ケトン系溶媒(アセトン、メチルエチルケトン等)、エーテル系溶媒(THF等)の存在下または不存在下で行うことできる。
【0057】
また、活性エネルギー線としては、例えば、紫外線や電子線が挙げられる。紫外線の光源としては、例えば低圧水銀灯、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、無電極放電ランプおよびカーボンアークランプ等が挙げられる。また、電子線源としては、例えばコックロフトワルトシン型、バンデグラフ型または共振変圧器型の照射装置が挙げられる。
【実施例】
【0058】
以下に、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また、各化合物のスペクトル測定には、次の装置を使用した。
NMR:GEMINI−300(Varian社製)
IR:NEXUS670(サーモエレクトロン社製)
ガスクロマトグラフィー(GC):GC6890(アジレント社製)
【0059】
実施例1
冷却管、温度計、滴下ロート、窒素ガス導入口、攪拌機を備えた反応容器に無水ハイミック酸(商品名「HAC」,日立化成工業(株)製)82.1gを仕込み、系内を窒素置換した。次いで、反応容器を氷浴で冷却し、内温10℃以下で攪拌しつつエタノールアミン34.5gを含むエタノール溶液120gを滴下した。滴下終了後、氷浴を外して室温で反応を4時間行った。その後、還流温度(81℃)まで加熱し、水をエタノールで共沸除去しつつ4時間反応を行った(その際には、除去したエタノール水混合物と同容量のエタノールを系内に逐次補充した)。溶媒を減圧留去した後、エタノールとn−ヘキサンの混合溶媒を加えて再結晶を行い、得られた結晶を減圧乾燥し、脂環イミド化合物75.9gを得た。このものは純度97.9%であった(GC法による)。
【0060】
次いで、ディーンスターク分水器(ジムロート冷却管)、温度計、滴下ロート、空気バブリング用導入管、攪拌機を備えた反応容器に、前記脂環イミド化合物25.0g、ヒドロキノン0.41g、トルエン65.0gを仕込み、さらにp−トルエンスルホン酸0.61g、アクリル酸41.3gを添加し攪拌した。系内で空気をバブリングしながら、還流温度(106〜110℃)まで加熱昇温し、ディーンスターク分水器で水を系内から留去しながら反応を6時間行った。次いで、反応溶液を40℃以下まで冷却し、分液ロートを用いてイオン交換水、炭酸水素ナトリウム水溶液での洗浄を繰り返し、減圧濃縮でトルエンを留去し、脂環イミドアクリレートA(以下、化合物Aという)を得た。このものは純度96.2%であった(GC法による)。なお、当該化合物Aの各スペクトル測定値および構造は、以下のようになる。
【0061】
H−NMR(300MHz、溶媒CDCl3、δ(ppm)):5.86、6.41、6.10、4.19、3.68、3.39、3.28、1.55、1.74、6.08
13C−NMR(300MHz、溶媒CDCl3、δ(ppm)): 131.28、127.89、165.54、60.96、37.03、177.23、134.22
IR(neat):1635、1697、1723、1184
、1071cm-1
【0062】
【化11】

【0063】
比較例1
ディーンスターク分水器(ジムロート冷却管)、温度計、滴下ロート、窒素ガス導入口、攪拌機を備えた反応容器にテトラヒドロ無水フタル酸(商品名「リカシッドTH」、新日本理化(株)製)200.0g、脱水トルエンを185.0gを仕込み、系内を窒素置換した。次いで、反応容器を室温で攪拌しつつエタノールアミン80.3gを滴下した。滴下終了後、還流温度(110℃)まで加熱し、水をトルエンで共沸除去しつつ6時間反応を行うことにより、環イミド化合物を得た。このものは純度99.1%であった(GC法による)。
【0064】
次いで、上記の反応溶液を室温まで戻し、窒素ガス導入口を空気バブリング用導入管に変更し、メトキノン2.57g、p−トルエンスルホン酸15g、アクリル酸185.9gを添加し攪拌した。系内で空気をバブリングしながら、還流温度(106〜110℃)まで加熱昇温し、ディーンスターク分水器で水を系内から留去しながら反応を16時間行った。次いで、反応溶液を40℃以下まで冷却し、分液ロートを用いてイオン交換水、炭酸水素ナトリウム水溶液での洗浄を繰り返し、減圧濃縮でトルエンを留去し、脂環イミドアクリレートB(以下、化合物Bという)を得た。このものは純度93.1%であった(GC法による)。なお、当該化合物Bの各スペクトル測定値および構造は、以下のようになる。
【0065】
H−NMR(300MHz、溶媒CDCl3、δ(ppm)):5.87、6.37、6.06、4.26、3.79、3.10、2.56、2.20
IR(neat):1653、1703、1725、1182
、1401cm-1
【0066】
【化12】

【0067】
比較例2
ディーンスターク分水器(ジムロート冷却管)、温度計、滴下ロート、窒素ガス導入口、攪拌機を備えた反応容器に無水コハク酸(和光純薬製)150.0g、脱水トルエンを150.0g仕込み、系内を窒素置換した。次いで、反応容器を室温で攪拌しつつエタノールアミン89.7gを滴下した。滴下終了後、還流温度(110℃)まで加熱し、水をトルエンで共沸除去しつつ3時間反応を行い、イミド化合物を得た。このものは純度97.0%であった(GC法による)。
【0068】
次いで、上記の反応溶液を室温まで戻し、窒素ガス導入口を空気バブリング用導入管に変え、メトキノン3.0g、p−トルエンスルホン酸30.0g、アクリル酸378.0gを添加し攪拌した。次いで、系内を空気でバブリングしながら還流温度(106〜110℃)まで加熱昇温し、ディーンスターク分水器で水を系内から留去しながら反応を16時間行った。次いで、反応溶液を40℃以下まで冷却し、分液ロートを用いてイオン交換水、炭酸水素ナトリウム水溶液での洗浄を繰り返し、減圧濃縮でトルエンを留去し、イミドアクリレートC(以下、化合物Cという)を得た。このものは純度87.0%であった(GC法による)。なお、当該化合物Cの各スペクトル測定値および構造は、以下のようになる。
【0069】
H−NMR(300MHz、溶媒CDCl3、δ(ppm)):6.78、6.36、5.87、4.32、3.84、2.72
IR(neat):1700、1401、1184
、1112cm-1
【0070】
【化13】

【0071】
以下、比較用の化合物D〜Gを示す。
【0072】
化合物D(商品名「アロニックスM140」、東亞合成(株)製)
【0073】
【化14】

【0074】
化合物E(商品名「IBXA」、大阪有機化学工業(株)製)
【0075】
【化15】

【0076】
化合物F(商品名「FA-513A」、日立化成工業(株)製)
【0077】
【化16】

【0078】
化合物G(商品名「FA-512AS」、日立化成工業(株)製)
【0079】
【化17】

【0080】
実施例2
前記化合物A50部、トルエン50部、アゾビスイソブチロニトリルを0.9部(該Aに対して3mol%)を混合し、熱重合用組成物Aを調製した。次いでこれを、窒素雰囲気下、80℃、5時間の条件で重合させた。次いで、得られた重合物をトルエンで洗浄して未反応の化合物Aを除去し、その後減圧乾燥(1333Pa、80℃、5時間)させることによって、化合物A単独の重合体Aを得た。当該重合体Aは、下記耐熱性試験に供した。
なお、当該化合物Aは、分子中に重合性官能基を二つ有するので、重合中に架橋反応を生じると考えられる。
【0081】
比較例3
実施例2において、化合物Aに代えて前記化合物Bを用いた他は同様にして、熱重合用組成物Bを調製した。次いで、前記同様の工程により、化合物B単独の重合体Bを得た。当該重合体Bは、下記耐熱性試験に供した。
【0082】
比較例4〜7
実施例2において、化合物Aに代えて前記化合物C〜Fを用いた他は同様にして、熱重合用組成物Cを調製した。次いで、各熱重合用組成物を実施例2と同様の方法で重合させた。次いで、得られた各重合物を、ヘキサンを用いて再沈精製して未反応の化合物を除去し、更に減圧乾燥することによって(1333Pa、80℃、5時間)、重合体C〜Fを得た。当該重合体C〜Fは、下記耐熱性試験に供した。
【0083】
比較例8
実施例2において、化合物Aに代えて前記化合物Gを用いた他は同様にして、熱重合用組成物Gを調製した。次いで、これを実施例2と同様の方法で重合させて、重合体Gを得た。当該重合体Gは、下記耐熱性試験に供した。
【0084】
(耐熱性の評価)
前記重合体A〜Gについて、市販の示差熱・熱重量同時測定装置(TG−DTA、製品名「2000S システムWS002」、マック・サイエンス社製)を用いて、接線法により屈曲点を算出して熱分解開始温度とした。結果を表1に示す。
【0085】
重合体Aは、重合体B〜G(特に重合体BとG)に比べて耐熱性等に優れる。これは、化合物Aのノルボルネン骨格中のビニレン基が重合性に優れるため、重合体Aの架橋密度が高くなっているためではないかと考えられる。
【0086】
【表1】

【0087】
実施例3
前記化合物A80部、ウレタンアクリレート(商品名「アロニックスM−1600」、東亞合成(株)製)20部を60℃で混合し、更に1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(商品名「イルガキュア184」、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)3部を60℃で添加して混合することにより、光重合用組成物A’を得た。次いでこれを、ガラス板上に載置したPETフィルムに膜厚が200μmとなるように塗布した。次いで、当該PETフィルムをガラス板に載せたまま、HO2−L21型水銀ランプを設置した紫外線照射装置(製品名「UB022−5B」、アイグラフィックス株式会社製)に10回通過させて紫外線重合を行い、重合体(硬化被膜)A’を得た。
なお、紫外線照射装置は、ランプ高さが10cm、コンベアスピード10m/min、紫外線照射強度が130mJ/cmである。
【0088】
比較例9〜14
実施例3において、前記化合物Aの代わりに前記化合物B〜Gを用いた他は同様にして光重合用組成物B’〜G’を調製し、各組成物を前記同様の工程で紫外線重合させ、重合体(硬化被膜)B’〜G’を得た。
【0089】
(硬化性の評価)
前記紫外線重合において、PETフィルム上の硬化物表面の粘着性(タック)がなくなるまでのパス回数をタックフリータイムとして、光重合用組成物A’の硬化性を評価した。なお、タックは、硬化物表面を指でこすることにより判断した。また、光重合用組成物B’〜G’についても同様にして、硬化性を評価した。結果を表2に示す。
【0090】
(吸水性の評価)
重合体(硬化被膜)A’を有するPETフィルムを縦45mm×横6mmの短冊状に切り取り、PETフィルムから剥がした硬化被膜を試験片とした。この試験片を120℃で24時間乾燥してその重量(W)を測り、次いでこれを40℃の水浴に24時間浸した後に水分を十分ふき取ってその重量(W)を測り、その重量変化(W−W)/W×100を硬化被膜の吸水率(%)として評価した。また、前記重合体(硬化被膜)C’についても同様にして吸水率を評価した。結果を表2に示す。
【0091】
(透湿性の評価)
重合体(硬化被膜)A’について、JIS Z0208(透湿カップ法)に準じて被膜の透湿度を測定した。前記重合体(硬化被膜)C’、D’およびF’についても同様にして透湿度(HO g/m)を測定した。結果を表2に示す。
【0092】
【表2】

【0093】
実施例4、比較例15〜19
前記光重合用組成物A’の1gをメチルエチルケトンで希釈し、30重量%の溶液とした。次いで、バーコーターNo.12を用いて、当該溶液を膜厚が約30μmとなるようにPETフィルムに塗工し、80℃で1分間乾燥した後、前記同様の方法で紫外線重合させ、重合体(硬化被膜)A’’を作成した。次いで、該重合体A’’について、鉛筆硬度(JIS−K−5400)を評価した。また、前記光重合用組成物C’〜G’についても同様にして重合体C’’〜G’’を作成し、鉛筆硬度を評価した。結果を表3に示す。
【0094】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】

(式中、Rは水素またはメチル基を、aは1〜6の整数を、bは0〜6の整数を表す。)で表される脂環式化合物。
【請求項2】
下記一般式(2−1):
【化2】

で表される脂環式ジカルボン酸または、下記一般式(2−2):
【化3】

で表される脂環式ジカルボン酸無水物に、一般式(3):HN−(CH−OH(式中、aは1〜6の整数を表す。)で表されるモノアミン化合物を反応させて、下記一般式(4):
【化4】

(式中、aは1〜6の整数を表す。)で表される脂環イミド化合物を製造し、これに、一般式(5):HOOC−(CH−C(R)=CH(式中、Rは水素またはメチル基、bは0〜6の整数を表す。)で表されるビニル化合物を反応させることを特徴とする、下記一般式(1):
【化5】

(式中、Rは水素またはメチル基を、aは1〜6の整数を、bは0〜6の整数を表す。)で表される脂環式化合物の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の脂環式化合物または請求項2に記載の製造方法で得られる脂環式化合物を含む重合用組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の重合用組成物を重合してなる重合体。


【公開番号】特開2007−197719(P2007−197719A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−352457(P2006−352457)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】