説明

新規高分子電解質、電解質膜およびその用途

【課題】 安価で耐久性があり、かつ高いプロトン伝導性を保持したままアルコール透過性を抑制したスルホン化ポリエーテルスルホン系固体高分子型燃料電池用高分子電解質膜を提供することを目的とする。
【解決手段】 スルホン酸基を含有する親水性セグメントとスルホン酸基を含有しない疎水性セグメントからなり、親水性セグメントが、特定の構造単位に置換基としてスルホン酸基が導入された構造を有する芳香族ポリエーテルスルホンブロック共重合体からなることを特徴とする固体高分子型燃料電池用高分子電解質膜、並びに、高分子電解質膜を隔膜としたとき、親水性セグメントのみのイオン交換容量IECaが3.6mmol/g以上であり、かつブロック共重合体のイオン交換容量IECが0.5mmol/gから3.0mmol/gの範囲にある芳香族ブロック共重合体であることを特徴とする上記の固体高分子型燃料電池用高分子電解質膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトン伝導性の向上した芳香族ブロック共重合体からなる高分子電解質、その電解質膜およびそれらを用いた燃料電池に関する。
【0002】
本発明の高分子電解質およびその電解質膜は、優れたプロトン伝導性を有することから、燃料電池に好適に使用される。
【背景技術】
【0003】
近年、環境問題への対応として、燃料電池への期待が大きく高まり、特にプロトン伝導性の高分子電解質膜を用いた高分子型燃料電池は、低温で作動することが可能であり、また、小型軽量化の可能性があることから期待されている。高分子型燃料電池用の高分子電解質としては、例えばナフィオン(Nafion、デュポン社の登録商標。以下同様)に代表される超強酸基含有フッ素系高分子が知られている。しかし、超強酸基含有フッ素系高分子はフッ素系のポリマーであるため非常に高価であり、また、耐熱性が比較的低く、かつ、アルコールの透過性が大きい、合成時および廃棄時に環境への配慮が必要となる欠点を有している。
【0004】
超強酸基含有フッ素系高分子が高価であり、耐熱性が比較的低く、また、アルコールの透過性が大きい問題に対し、より安価な非フッ素系高分子をベースとした高分子電解質膜について、既に多くの提案がなされている。特に、高分子電解質膜の耐久性、耐熱性、コストの点から、炭化水素系の芳香族高分子電解質が好ましい。このような高分子電解質膜としては、例えば、特表平11−502249号公報(特許文献1)や特表2002−524631号公報(特許文献2)などにはスルホン化ポリエーテルケトン系が、特表2000−510511号公報(特許文献3)、特開2003−64181号公報(特許文献4)、特開2003−68326号公報(特許文献5)などにはスルホン化ポリイミド系が、米国特許第5403675号(特許文献6)などにはポリアリーレン系が、特開平10−21943号公報(特許文献7)、特開平10−45913号公報(特許文献8)、特開平11−116679号公報(特許文献9)などにはスルホン化ポリエーテルスルホン系の高分子電解質膜が開示されている。さらに、特開平11−67224号公報(特許文献10)などには、スルホン化ポリエーテルスルホン系高分子電解質膜を用いた膜/電極接合体が開示されている。
しかし、吸水時の物性の向上が求められており、その解決手法としてブロック共重合体が提案されており、例えば、特開2002−60687号公報(特許文献11)、特開2004−190002号公報(特許文献12)、特開2004−190003号公報(特許文献13)、特開2004−346305号公報(特許文献14)などではポリエーテル系が、特開2002−358978号公報(特許文献15)、特開2003−234014号公報(特許文献16)、特表2003−511510号公報(特許文献17)などではポリイミド系が開示されている。また、特開2003−31232号公報(特許文献18)では、プロトン伝導性の湿度依存性を改良したポリエーテルスルホンブロック共重合体が開示されている。しかし、これらには、ブロック共重合体の親水性セグメントのイオン交換容量とプロトン伝導性の関係についてはなんら記載されていない。また、特開2005−126684号公報(特許文献19)や特開2005−139432号公報(特許文献20)にもスルホン化ポリエーテルブロック共重合体が開示されているが、低湿度時のプロトン伝導性については記載されておらず、また、吸水時の膜物性に関しても具体的な記載はされていない。
【0005】
自動車など移動体に燃料電池を用いるためには、重量、容量を少なくする必要があり、大きな加湿装置を付属することができない。このために、低湿度条件下で高いプロトン伝導性を有することが求められている。プロトン伝導性の向上のためには、イオン交換容量を増加させることが有効であるが、一方で、吸水時の膜物性が低下する問題があった。したがって、同じイオン交換容量でも、さらにプロトン伝導性の高いものが求められていた。

【特許文献1】特表平11−502249号公報
【特許文献2】特表2002−524631号公報
【特許文献3】特表2000−510511号公報
【特許文献4】特開2003−64181号公報
【特許文献5】特開2003−68326号公報
【特許文献6】米国特許第5403675号
【特許文献7】特開平10−21943号公報
【特許文献8】特開平10−45913号公報
【特許文献9】特開平11−116679号公報
【特許文献10】特開平11−67224号公報
【特許文献11】特開2002−60687号公報
【特許文献12】特開2004−190002号公報
【特許文献13】特開2004−190003号公報
【特許文献14】特開2004−346305号公報
【特許文献15】特開2002−358978号公報
【特許文献16】特開2003−234014号公報
【特許文献17】特表2003−511510号公報
【特許文献18】特開2003−31232号公報
【特許文献19】特開2005−126684号公報
【特許文献20】特開2005−139432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、安価で耐久性があり、かつ高いプロトン伝導性を保持したスルホン化芳香族高分子電解質、電解質膜およびその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、それぞれ主鎖に芳香環を有した、スルホン酸基を含有する親水性セグメントとスルホン酸基を含有しない疎水性セグメントからなり、次式により求められる親水性セグメントのみのイオン交換容量IECaが、

[式中、IECはブロック共重合体のイオン交換容量を、Wはブロック共重合体の重量を、Waはブロック共重合体中の親水性セグメントの重量を示す。]
が3.6mmol/g以上であり、かつブロック共重合体のイオン交換容量IECが0.5mmol/gから3.0mmol/gの範囲にある芳香族ブロック共重合体であることを特徴とする高分子電解質に関する。
【0008】
また、本発明は、上記の芳香族ブロック共重合体が芳香族ポリエーテル系ブロック共重合体であり、その疎水性セグメントが化学式(1)、


[ここで、DはSO2またはCOを示し、Y1はOまたはSを示し、mは3から1500の整数を示す。]
の構造を含有することを特徴とする高分子電解質に関する。
【0009】
また、本発明は、上記の芳香族ポリエーテル系ブロック共重合体の親水性セグメントが化学式(2)

[ここで、DはSO2またはCOを示し、Y2はOまたはSを示し、Ar1は二価の芳香族残基を示す。]
で表される構造にスルホン酸基が導入された構造単位を含有していることを特徴とする高分子電解質に関する。
【0010】
また、本発明は、上記の芳香族ポリエーテル系ブロック共重合体の親水性セグメントが、化学式(3)

[ここで、DはSO2またはCOを示し、bは0または1の整数を示し、少なくともどちらかは1である。また、Zは水素原子またはアルカリ金属を示し、Y3はOまたはSを、Ar2はスルホン酸基を有する二価の芳香族残基を示す。]
で表される構造単位[A]と化学式(4)


[ここで、DはSO2またはCOを示し、Y4はOまたはSを、Ar3はスルホン酸基を有する二価の芳香族残基を示す。]
で表される構造単位[B]からなり、その重量比[A]/[B]が、10/0から1/9の範囲であることを特徴とする高分子電解質に関する。
【0011】
また、本発明は、上記の化学式(1)から(4)のD、D、DおよびDがSO2であり、Y、Y、YおよびYがOである芳香族ポリエーテルスルホン系ブロック共重合体であることを特徴とする高分子電解質に関する。
【0012】
また、本発明は、上記の芳香族ブロック共重合体からなり、その厚みが5μmから200μmであることを特徴とする高分子電解質膜に関する。
【0013】
また、本発明は、電子顕微鏡を用いて9万倍で断面観察したとき、ドメイン間距離の平均値あるいはラメラ間距離の平均値が5nmから900nmの相分離構造を有することを特徴とする高分子電解質膜に関する。
【0014】
また、本発明は、50℃、相対湿度40%でのイオン伝導度が、2×10-3S/cm以上であることを特徴とする高分子電解質および高分子電解質膜に関する。
【0015】
また、本発明は、70℃、相対湿度30%でのイオン伝導度が、2×10-3S/cm以上であることを特徴とする高分子電解質および高分子電解質膜に関する。
【0016】
また、本発明は、上記の芳香族ブロック共重合体あるいはその膜を用いた、膜/電極接合体に関する。
【0017】
また、本発明は、上述の芳香族ブロック共重合体あるいはその膜、膜/電極接合体を用いることを特徴とする固体高分子形燃料電池に関する。
【0018】
また、本発明は、上記の芳香族ブロック共重合体あるいはその膜、膜/電極接合体を用いた、アルコール、あるいはエーテルを燃料とすることを特徴とする直接液体燃料形燃料電池に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本研究者らは前述の問題について鋭意検討を重ねた結果、スルホン酸基を含有する親水性セグメントが特定のイオン交換容量以上である芳香族ブロック共重合体からなる電解質、電解質膜はプロトン伝導性が著しく向上することを見出し、本発明に到達した。
【0020】
すなわち本発明は、スルホン酸基を含有する親水性セグメントとスルホン酸基を含有しない疎水性セグメントからなり、次式により求められる親水性セグメントのみのイオン交換容量IECaが、

[式中、IECはブロック共重合体のイオン交換容量を、Wはブロック共重合体の重量を、Waはブロック共重合体中の親水性セグメントの重量を示す。]
が3.6mmol/g以上であり、かつブロック共重合体のイオン交換容量が0.5mmol/gから3.0mmol/gの範囲にある芳香族ブロック共重合体であることを特徴とする高分子電解質、高分子電解質膜、それらを用いた膜/電極接合体および燃料電池に関する。
【0021】
本発明のスルホン化芳香族ブロック共重合体の親水性セグメントは、次式により求められる親水性セグメントのみのイオン交換容量IECaが、

[式中、IECはブロック共重合体のイオン交換容量を、Wはブロック共重合体の重量を、Waはブロック共重合体中の親水性セグメントの重量を示す。]
3.6mmol/g以上、好ましくは3.7mmol/g以上、さらに好ましくは3.8mmol/g以上である。親水性セグメントのイオン交換容量が3.6mmol/gより低いと、プロトン伝導性が低下することから好ましくない。また、ブロック共重合体のイオン交換容量は0.5mmol/gから3.0mmol/gの範囲であり、好ましくは0.6mmol/gから2.9mmol/gの範囲、さらに好ましくは、0.7mmol/gから2.8mmol/gの範囲である。ブロック共重合体のイオン交換容量が0.5mmol/gより小さいとプロトン伝導性が悪くなることから好ましくなく、一方、3.0mmol/gより高いとブロック共重合体が水溶性になったり、吸水時の膜強度が大きく低下することから好ましくない。
【0022】

本発明において疎水性セグメントは、耐熱性から主鎖に芳香環を有する重合体からなるセグメントであり、ポリイミド、ポリフェニレン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルホキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトンなどのセグメントを挙げることができる。これらのうち、ブロック共重合体の合成の容易さから化学式(5)


[ここで、D5は、COまたはSO2を、Y5はOまたはSを、Ar4は二価の芳香族残基を示す。]
で示されるポリエーテルスルホンおよび/またはポリエーテルケトンからなるセグメントが好ましく、特に、化学式(1)、

[ここで、DはSO2またはCOを示し、Y1はOまたはSを示し、mは3から1500の整数を示す。]
の構造を含有するものが好ましく、コストの点から、化学式(1)のDがSO2であるポリエーテルスルホンからなるセグメントがさらに好ましい。
【0023】
本発明において、親水性セグメントは、耐熱性からスルホン酸基が導入され、かつ、主鎖に芳香環を有するものであり、具体的には、スルホン酸基が導入されたポリイミド、ポリフェニレン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルホキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトンなどのセグメントを挙げることができ、スルホン酸基は、主鎖の芳香環に直接導入されていても良く、炭素数1から12のアルキル基、フッ化アルキル基、炭素数6から24の芳香族残基、また、炭素数1から12のアルコキシ基などを介して主鎖に結合されていても良い。ブロック共重合体の合成の容易さから、化学式(2)

[ここで、DはSO2またはCOを示し、Y2はOまたはSを示し、Ar1は二価の芳香族残基を示す。]
で表される構造にスルホン酸基が導入された構造単位を含有しているポリエーテルスルホンおよび/またはポリエーテルケトンのセグメントが好ましく、さらに、化学式(3)

[ここで、DはSO2またはCOを示し、bは0または1の整数を示し、少なくともどちらかは1である。また、Zは水素原子またはアルカリ金属を示し、Y3はOまたはSを、Ar2はスルホン酸基を有する二価の芳香族残基を示す。]
で表される構造単位[A]と化学式(4)


[ここで、DはSO2またはCOを示し、Y4はOまたはSを、Ar3はスルホン酸基を有する二価の芳香族残基を示す。]
で表される構造単位[B]からなり、その重量比[A]/[B]が、10/0から1/9の範囲である芳香族ポリエーテルスルホンおよび/またはポリエーテルケトンのセグメントが好ましい。特に、コストの点から、化学式(3)および化学式(4)のD、DがSO2であり、Y、YがOであるスルホン化ポリエーテルスルホンセグメントが好ましい。
【0024】
本発明に用いられるスルホン化芳香族ブロック共重合体の合成方法に特に制限は無く、例えば、
(1) 疎水性セグメントプレポリマーと未スルホン化または一部スルホン化された親水性セグメントプレポリマーを、おのおの予め合成し、未スルホン化ブロック共重合体あるいは一部スルホン化ブロック共重合体を得たのち、さらに親水性セグメントのみを追加してスルホン化する方法。
(2) 疎水性セグメントプレポリマーとスルホン化された親水性セグメントプレポリマーを、おのおの予め合成し、両者を反応させブロック共重合体とする方法。
などにより合成することができる。
【0025】
本発明において芳香族ブロック共重合体の合成に用いられる疎水性セグメントプレポリマー、およびスルホン化された親水性セグメントあるいは親水性セグメントの未スルホン化物や一部スルホン化物のプレポリマー(以下、これらを親水性セグメントプレポリマーと記す。)は、例えば、高分子学会、「新高分子実験学3 高分子の合成・反応(2) 縮合系高分子の合成」、共立出版、東京、1996年に記載されているような公知の方法で合成することが可能である。
【0026】
本発明において好ましい芳香族ポリエーテルブロック共重合体の合成に用いられる疎水性セグメントプレポリマーおよび親水性セグメントプレポリマーであるポリエーテルスルホンおよび/またはポリエーテルケトンは、例えば、高分子学会、「新高分子実験学3 高分子の合成・反応(2) 縮合系高分子の合成」、共立出版、東京、1996年やR.N.Johnson 他,J.Polym.Sci.,A−1,Vol.5,2375(1967)や特公昭46−21458号公報に開示されているように、二価フェノール化合物のジアルカリ金属塩と芳香族ジハライド化合物との反応によって合成することが可能である。
【0027】
本発明で好ましいポリエーテル系ブロック共重合体の合成に用いられる芳香族ジハライド化合物としては、例えば、ビス(4−クロロフェニル)スルホン、ビス(4−フルオロフェニル)スルホン、ビス(4−ブロモフェニル)スルホン、ビス(4−ヨードフェニル)スルホン、ビス(2−クロロフェニル)スルホン、ビス(2−フルオロフェニル)スルホン、ビス(2−メチル−4−クロロフェニル)スルホン、ビス(4−クロロフェニル)ケトン、ビス(4−フルオロフェニル)ケトン、ビス(4−ブロモフェニル)ケトン、ビス(4−ヨードフェニル)ケトン、ビス(2−クロロフェニル)ケトン、ビス(2−フルオロフェニル)ケトン、ビス(2−メチル−4−クロロフェニル)ケトン、などを挙げることができ、単独あるいは2種以上を組み合わせて用いても良い。これらのなかで、好ましくは、ビス(4−クロロフェニル)スルホン、ビス(4−フルオロフェニル)スルホン、ビス(4−クロロフェニル)ケトン、ビス(4−フルオロフェニル)ケトンを挙げることができ、特に好ましくは、ビス(4−クロロフェニル)スルホン、ビス(4−フルオロフェニル)スルホンを挙げることができる。また、必要ならば、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリルを用いても良い。
【0028】
また、前述の芳香族ジハライド化合物以外に親水性セグメントを形成する原料として用いられるスルホン化芳香族ジハライド化合物として、上記の芳香族ジハライド化合物に、スルホン酸基および/またはそのアルカリ金属塩が1または2個導入されたものを用いることができ、例えば、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3−スルホ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3−スルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルケトン、3−スルホ−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3−スルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルケトンなど、および/またはこれらのリチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩を挙げることができ、単独あるいは2種以上を組み合わせて用いても良い。これらのなかで、好ましくは、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3−スルホ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3−スルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホンなど、および/またはこれらのリチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩を挙げることができる。
【0029】
本発明において好ましいポリエーテル系ブロック共重合体の合成に用いられる二価フェノールとしては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ビフェノール、2,2’−ビフェノール、2,4’−ビフェノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(2−ヒドロキシフェニル)エーテル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、などを挙げることができ、単独あるいは2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0030】
本発明において、ブロック共重合体を合成後、更にスルホン化反応を行う場合、選択的にスルホン化を行わせるために疎水性セグメントプレポリマーの合成に用いられる二価フェノールの各芳香環にはケトンやスルホンなどの電子吸引基が結合されてスルホン化され難い構造であることが好ましい。このような二価フェノールとして、上記の二価フェノールの中でビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトンが好ましい。
【0031】
一方、ブロック共重合体を合成後、更にスルホン化反応を行う場合、選択的にスルホン化を行わせるために親水性セグメントプレポリマーの合成に用いられる二価フェノールの各芳香環にはケトンやスルホンなどの電子吸引基が結合されておらず、スルホン化され易い構造であることが好ましい。このような二価フェノールとして、上記の二価フェノールの中で、例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ビフェノール、2,2’−ビフェノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(2−ヒドロキシフェニル)エーテル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどを挙げることができ、反応性の点から、ハイドロキノン、レゾルシノール、1,5−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ビフェノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンを好ましく挙げることができる。
【0032】
各セグメントのプレポリマーの合成時、前述の二価フェノールまたは芳香族ジハライド化合物のどちらか一方を過剰に用いることにより、分子量の調整および/またはブロック共重合体の合成に利用される末端基の形成が行われても良い。あるいは、二価フェノールまたは芳香族ジハライドを等モル用いる場合は、分子量の調整およびブロック共重合体の合成に必要な末端基の形成のために、フェノール、クレゾール、4−フェニルフェノール、3−フェニルフェノールなどの一価フェノールあるいは、4−クロロフェニルフェニルスルホン、1−クロロ−4−ニトロベンゼン、1−クロロ−2−ニトロベンゼン、1−クロロ−3−ニトロベンゼン、4−フルオロベンゾフェノン、1−フルオロ−4−ニトロベンゼン、1−フルオロ−2−ニトロベンゼン、1−フルオロ−3−ニトロベンゼンなどの芳香族ハライドのどちらか一方を添加しても良い。
【0033】
各セグメントのプレポリマーの重合度は、3〜1500の範囲であり、より好ましくは、5〜1000の範囲である。重合度が3より小さいとプレポリマーを用いて合成されるブロック共重合体の特性が発現し難くなり、一方、1500を超えると後のブロック共重合体の合成が困難となる。
【0034】
本発明において、ブロック共重合体を合成後、さらにスルホン化を行う場合、親水性セグメントのみを選択的にスルホン化するために、疎水性セグメントを構成する芳香環は電子吸引性基と結合していることが望まれる。この場合、もっとも好ましい疎水性セグメントのプレポリマーは、化学式(6)


(ここで、mは3〜1500の整数を示す.)
の構造を有するものである。
【0035】
疎水性セグメントプレポリマーおよび未スルホン化親水性セグメントプレポリマーは、該当する構造を有する市販ポリマーを用いても良く、また、市販ポリマーを前述の二価フェノールアルキル金属塩や後述する一価フェノールと、R.N.Johnson 他,J.Polym.Sci.,A−1,Vol.5,2375(1967)や特公昭46−21458号公報に記載のポリエーテルスルホン合成と同じ条件でエーテル交換反応させることにより分子量および末端基調節したものを用いても良い。
【0036】
本発明に用いられるスルホン化芳香族ポリエーテルブロック共重合体を、未スルホン化ブロック共重合体または一部スルホン化ブロック共重合体を合成後、さらにスルホン化することによって合成する場合、未スルホン化あるいは一部スルホン化ブロック共重合体は、Z.Wu他,Angew.Makromol.Chem.,Vol.173,163(1989)、Z.Wu他,Polym.Int.,vol.50,249(2001)などに記載されている方法で、ハロゲン末端基またはフェノールアルキル金属塩末端基を有する前述の疎水性セグメントプレポリマーと、疎水性セグメントプレポリマーの末端基に対応する末端基を有する前述の親水性セグメントプレポリマーを反応させることにより合成することができる。また、両方ともフェノールアルカリ金属塩末端基のセグメントプレポリマーを連結剤を用いて、同様な方法で反応しても合成することができる。このような連結剤としては、たとえば、前述の芳香族ジハライドを挙げることができ、好ましくは、反応性の高いハロゲンがフッ素の芳香族ジハライドである。さらに、ポリエーテルスルホン/ポリチオエーテルスルホンブロック共重合体の場合は、特開昭61−168629号公報に開示されている方法で合成することもできる。さらに、上記化学式(2)で示される疎水性セグメントプレポリマーを用いる場合は、特開2003−206354号公報に開示されているように、フェノールアルカリ金属塩末端を有する親水性セグメントプレポリマーと市販の疎水性セグメントプレポリマーとを、溶液中120℃から200℃の範囲で反応させても合成することができる。
【0037】
未スルホン化または一部スルホン化ブロック共重合体をさらにスルホン化する方法は公知であり、得られた未スルホン化あるいは一部スルホン化ブロック共重合体を、例えば、特開昭61−36781号公報、特公平1−54323号公報、特公平2−17571号公報などに記載されているように、95重量%−98重量%の濃硫酸中で、0.2時間〜96時間、10℃〜80℃で反応させることにより、親水性セグメントのみをスルホン化することができ、本発明におけるスルホン化芳香族ブロック共重合体を得ることができる。
【0038】
本発明に用いられるスルホン化芳香族エーテル系ブロック共重合体をスルホン化親水性セグメントプレポリマーと疎水性セグメントプレポリマーとから合成する場合、前述の未スルホン化親水性セグメントプレポリマーを、スルホン化したものを用いて、前述の未スルホン化ブロック共重合体の合成と同様な方法で疎水性セグメントと反応させることによりスルホン化芳香族ポリエーテル系ブロック共重合体を合成しても良い。
【0039】
本発明におけるスルホン化芳香族ブロック共重合体は、次式、
【0040】
【数1】

[ここで、Faは、親水性セグメントの重量分率、Waは、親水性セグメントの重量、Wbは、疎水性セグメントの重量を表す。]
で求められる親水性セグメントの重量分率Faが、0.1〜0.8の範囲であることが好ましく、0.2〜0.7の範囲であることがより好ましい。この範囲が0.1より小さいとプロトン伝導度が低くなり、一方、0.8より大きくなるとブロック共重合体が水溶性となり好ましくない。
【0041】
本発明において、芳香族ブロック共重合体あるいは芳香族ブロック共重合体から得られる膜は、50℃、相対湿度90%でのプロトン伝導度が、1×10‐2 S/cm以上であることが好ましく、1.5×10‐2 S/cm以上であることが、特に好ましい。プロトン伝導度が、1×10‐2 S/cmより低いと、発電特性が低下することから好ましくない。また、本発明においては、50℃、相対湿度40%でのプロトン伝導度が、4×10−3S/cm以上であることが好ましく、5×10−3S/cm以上であることがさらに好ましく、特に、6×10−3S/cm以上であることが好ましい。さらには、70℃、相対湿度30%でのプロトン伝導度が、2×10−3S/cm以上であることが好ましく、さらには2.5×10−3S/cm以上であることが好ましく、特に3×10−3S/cm以上であることが好ましい。
【0042】
前述のようにして得られたスルホン化芳香族ブロック共重合体を、本発明の高分子電解質膜として製膜する方法に特に制限はなく、例えば、スルホン化芳香族ブロック共重合体を溶媒に溶解後、支持体上に流延し、加熱することにより、溶媒を蒸発除去することによって製膜することができる。このとき、支持体上で完全に溶媒を除去する必要はなく、膜が自己支持性を有した段階で支持体から剥離し、さらに加熱することにより溶媒を除去しても良い。
【0043】
本発明で好ましいスルホン化芳香族ポリエーテル系ブロック共重合体では、例えば、ジメチルスルホキシド、スルホラン、N−メチル−2−ピロリドン、1、3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジフェニルスルホンなどの極性溶媒に溶解し、支持体上に流延後、80℃から250℃で、0.5分から48時間乾燥し、極性溶媒を蒸発除去することによって製膜することができる。また、自己支持性を有した段階で剥離し、さらに80℃から250℃で、0.5分から48時間乾燥し、極性溶媒を蒸発除去しても良い。温度が、80℃より低いと乾燥が十分行われないことから好ましくなく、また、250℃より高いと分解する可能性があることから好ましくない。
【0044】
本発明の高分子電解質膜の厚みは、5〜200μmであり、好ましくは10〜150μmである。5μmより薄いと膜の取扱いが難しく、また、200μmより厚いと燃料電池にしたときの発電効率が低下するため好ましく無い。
【0045】
本発明の高分子電解質膜は、その断面を9万倍の透過型電子顕微鏡で観察したとき、ドメイン間距離の平均値あるいはラメラ間距離の平均値が5nmから900nmの相分離構造を有するものであり、好ましくは、10nm〜800nmの相分離構造を有するものである。本発明の高分子電解質が、優れた低湿度時のプロトン伝導性を示すのは、親水性セグメントからなるプロトン伝導経路が相分離構造により形成されているとともに、その親水性セグメントが形成する領域に高密度でスルホン酸基が存在する効果であると推察される。
【0046】
本発明の高分子電解質膜は、必要ならば、本発明の特性を損なわない限り、スルホン酸基の一部が金属塩となっていても良い。また、繊維、多孔膜などで補強することができる。さらに、必要ならば、リン酸、次亜リン酸、硫酸などの無機酸あるいはそれらの塩、炭素数1〜14のパーフルオロアルキルスルホン酸あるいはそれらの塩、炭素数1〜14のパーフルオロアルキルカルボン酸あるいはそれらの塩、白金、シリカゲル、シリカ、ゼオライトなどの無機物、他の高分子をブレンドすることもできる。
【0047】
本発明の高分子電解質膜を用いた燃料電池の製造方法は、特に制限は無く、公知の方法を用いて製造することができ、芳香族ブロック共重合体からなる高分子電解質膜の両面に、触媒および集電体としての導電性物質を接合することにより製造することができる。また、本発明の芳香族ブロック共重合体を触媒層のイオン伝導成分として使用することも可能である。即ち、本発明の芳香族ブロック共重合体は、燃料電池に用いられる高分子電解質膜/電極接合体の電解質膜としても、触媒層のイオン伝導成分としても使用できる。両方に用いて膜/電極接合体を得ることもできる。
【0048】
該触媒としては、水素または酸素との酸化還元反応を活性化できるものであれば特に制限はなく、公知のものを用いることができ、例えば、白金または白金合金の微粒子を用いることができる。白金の微粒子はしばしば活性炭や黒鉛などの粒子状または繊維状のカーボンに担持されて用いられる。
【0049】
集電体としての導電性物質に関しても公知の材料を用いることができ、例えば、多孔質性のカーボン織布、カーボン不織布またはカーボンペーパーが、原料ガスを触媒へ効率的に輸送するために好ましい。
【0050】
多孔質性のカーボン不織布またはカーボンペーパーに白金微粒子または白金微粒子を担持したカーボンを接合させる方法、およびそれを高分子電解質フィルムと接合させる方法については、例えば、J. Electrochem. Soc.: Electrochemical Science and Technology, 1988, 13 105(9), 2209 に記載されている方法等の公知の方法を用いることができる。
このようにして製造された本発明の燃料電池は、燃料として水素ガス、改質水素ガス、アルコール、エーテルなどを用いる各種の形式で使用可能である。
【0051】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明する。尚、実施例および比較例中に示した測定値は以下の方法で測定した。
【0052】
1)溶液粘度ηsp/c(還元粘度)の測定
N−メチル−2−ピロリドン(LiCl 50mmol/l添加)に、0.5g/dlの濃度で溶解し、ウベローデ粘度計を用いて、25℃の温度で測定し、次式(1)を用いて計算した。
【0053】
【数2】


(ここで、tは溶液の測定時間、tは溶媒の測定時間、cは溶液濃度を示す。)
【0054】
2)プロトン伝導度の測定
恒温恒湿機中で、幅1.9mm、長さ10mmのスリットを有し、スリットを挟んで白金線を装着した(間隔:2mm)テフロン(登録商標)板とテフロン(登録商標)平板の間に、膜(幅5mm×長さ20mm)を、長手方向が白金線と90度の方向で挟み、50℃または70℃で相対湿度を変えて、日置電機(株)製3532 LCRハイテスタを用いて、複素インピーダンス測定によりプロトン伝導度を求めた。
【0055】
3)イオン交換容量の測定
試料を含有量の明確な水酸化ナトリウム水溶液中で16時間、室温で撹拌後、ろ別した。ろ液を、0.01Nの塩酸水溶液で滴定することによって、消費された水酸化ナトリウム量を求め、イオン交換容量を算出した。
【0056】
4)透過型電子顕微鏡観察
膜を厚み方向に切った薄片を作成し、日本電子(株)JEM−200CXを用いて、9万倍で観察を行った。
【0057】
5)H-NMR測定
日本電子AL-300およびEX-400WBを用いて、d−DMSOを溶媒として測定した。
【実施例】
【0058】
(合成例1)
3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホンのナトリウム塩の合成
ビス(4−フルオロフェニル)スルホン120gと30%発煙硫酸250gとをフラスコに仕込み、撹拌しながら110℃で6時間加熱した。得られた溶液を、氷水に徐々に投入し、食塩を加えて固形分を析出させた。得られた固形分を再度水に溶解し、NaOHで中和後、食塩を加えて固形分を析出させた。2-プロパノール/水(7/3)から2度再結晶し、乾燥して白色固体を得た。得られた白色個体は、H-NMRで7.4〜7.5ppm、7.9〜8.0ppm、8.1〜8.2ppmに、積分強度が1:1:1のシグナルが観察され、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホンのナトリウム塩であることを確認した。

(実施例1)
【0059】
ポリエーテルスルホンブロック共重合体PB1の重合
撹拌機、水分定量器、温度計、窒素導入管の付いた4つ口フラスコ中に、ビス(4−フルオロフェニル)スルホン10.17g、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホンのナトリウム塩27.5g、4,4’−ビフェノール18.9gおよび炭酸カリウム17.5gを仕込み、ジメチルスルホキシド210mlとトルエン50mlを添加して窒素気流下、加熱、撹拌した。発生した水をトルエンと共に除去しながら175℃まで昇温し、その温度で16時間撹拌して親水性プレポリマーHP1溶液を調製した。別に、ビス(4−フルオロフェニル)スルホン81.47g、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン78.99g、炭酸カリウム52gを仕込み、ジメチルスルホキシド600mlとトルエン50mlを添加して窒素気流下、加熱、撹拌した。発生した水をトルエンと共に除去しながら175℃まで昇温し、その温度で16時間撹拌して疎水性プレポリマーSP1溶液を調製した。このSP1溶液をHP1溶液に添加し、170℃で、1.5時間撹拌した。溶液を多量の水に投入し、白色固体を析出させ、ろ別した。得られた固体を熱水中で2回、メタノール中で1回洗浄しブロック共重合体を得た(PB1)。得られたポリマーの溶液粘度ηsp/cは、0.61dl/gであった。また、イオン交換容量は、0.59mmol/gであった。
【0060】
ブロック共重合体PB1のスルホン化(SPB1の合成)
ブロック共重合体PB1を98%硫酸180gに20g溶解し、室温で24時間撹拌した。溶液を多量の水に投入し、白色固体を析出させ、ろ別した。得られた固体を水中で5回洗浄し、ポリマーSPB1を得た。得られたポリマーのイオン交換容量は、1.46mmol/gであった。親水性セグメントは、単独ならば水溶性であることから、参考例2に示すように、ブレンド物ならばスルホン化後水洗すると除去され、イオン交換容量が大きく低下するが、SPB1のイオン交換容量は、スルホン化前のPB1のビフェノール残基の各芳香環に1個づつスルホン酸基が導入したとして計算されるイオン交換容量1.49mmol/gと、ほぼ一致している。このことは、親水性セグメントと疎水性セグメントが結合していることを示す。また、後述の方法で得られた膜のTEM観察で、平均ドメイン間距離が60nmの相分離構造が見られたことから、SBP1は、ブロック共重合体であることを確認した。疎水性セグメントは、このスルホン化条件ではスルホン化されない。したがって、親水性セグメントのみがスルホン酸基を有すると考えられる。H-NMRから求められたSPB1の組成から、スルホン酸基をSO3H化した後の親水性セグメントの重量分率は、0.31であった。また、SBP1の親水性セグメントのイオン交換容量は、4.73mmol/gとなった。
【0061】
SPB1を20重量%となるようにN,N−ジメチルアセトアミドに溶解し、ガラス板上に流延し、130℃で1時間乾燥後、得られた自己支持性膜をガラス板から剥離し、金属枠に固定して、さらに200℃で0.5時間熱風乾燥することにより、膜厚50μmの膜を得た。1N水酸化ナトリウム水溶液に室温で2時間浸漬後、水洗し、1N硫酸水溶液に4時間浸漬した。水洗を3回行い、洗浄水が中性であることを確認後、50℃および70℃で相対湿度を変化させてプロトン伝導度を測定した。得られた結果を、表1および図1に示す。後述する比較例1と比べて、同程度のイオン交換容量でも顕著にプロトン伝導性が向上していた。

(実施例2)
【0062】
ポリエーテルスルホンブロック共重合体PB2の重合
撹拌機、水分定量器、温度計、窒素導入管の付いた4つ口フラスコ中に、ビス(4−フルオロフェニル)スルホン12.71g、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホンのナトリウム塩22.91g、4,4’−ビフェノール18.9gおよび炭酸カリウム17gを仕込み、ジメチルスルホキシド200mLとトルエン50mLを添加して窒素気流下、加熱、撹拌した。発生した水をトルエンと共に除去しながら175℃まで昇温し、その温度で16時間撹拌して親水性プレポリマーHP2溶液を調製した。別に、



の繰返し単位からなるスミカエクセル7600P(住友化学)100gをジメチルスルホキシド310mLに溶解し、トルエン50mLを添加して共沸により脱水した疎水性プレポリマーSP2溶液を調製した。このSP2溶液をHP2溶液に添加し、170℃で、1.5時間撹拌した。溶液を多量の水に投入し、白色固体を析出させ、ろ別した。得られた固体を熱水中で2回、メタノール中で1回洗浄しブロック共重合体PB2を得た。得られたポリマーの溶液粘度ηsp/cは、0.65であった。また、イオン交換容量は、0.79mmol/gであった。
【0063】
ブロック共重合体PB2のスルホン化
ブロック共重合体PB2を98%硫酸180gに20g溶解し、室温で24時間撹拌した。溶液を多量の水に投入し、白色固体を析出させ、ろ別した。得られた固体を水中で5回洗浄し、ポリマーSPB2を得た。得られたポリマーのイオン交換容量は、1.80mmol/gであった。親水性セグメントは、単独ならば水溶性であることから、水洗すると除去され、イオン交換容量が大きく低下するが、SPB2のイオン交換容量は、スルホン化前のPB2のビフェノール残基の各芳香環に1個づつスルホン酸基が導入したとして計算されるイオン交換容量1.84mmol/gと一致している。このことは、親水性セグメントと疎水性セグメントが結合していることを示す。また、後述の方法で得られた膜のTEM観察で、平均ドメイン間距離が31nmの相分離構造が見られたことから、SBP2は、ブロック共重合体であることを確認した。参考例1に示すように、疎水性セグメントは、このスルホン化条件ではスルホン化されない。したがって、親水性セグメントのみがスルホン酸基を有すると考えられる。H-NMRから求められたSPB2の組成から、スルホン酸基をSO3H化した後の親水性セグメントの重量分率は、0.39であった。また、SBP2の親水性セグメントのイオン交換容量は、4.60mmol/gとなった。
SPB2を、実施例1と同様に製膜し48μmの膜を得、その膜のプロトン伝導度の測定を行った。得られた結果を、表1および図1に示す。後述する比較例2と比べて、同程度のイオン交換容量でも顕著にプロトン伝導性が向上していた。

(比較例1)
【0064】
撹拌機、水分定量器、温度計、窒素導入管の付いた4つ口フラスコ中に、ビス(4−クロロフェニル)スルホン42.7g、4,4’−ビフェノール28.2gおよび炭酸カリウム27.2gを仕込み、ジメチルスルホキシド240mlとトルエン30mlを添加して窒素気流下、加熱、撹拌した。発生した水をトルエンと共に除去しながら180℃まで昇温し、その温度で4時間撹拌して親水性セグメントプレポリマーHP1’溶液を調製した。 別に、スミカエクセル7600P 115gを、ジメチルスルホキシド345mlに溶解した溶液を調製し、この溶液をHP3溶液に添加し、170℃で、1.5時間撹拌した。溶液を多量の水に投入し、白色固体を析出させ、ろ別した。得られた固体を熱水中で2回、メタノール中で1回洗浄しブロック共重合体PB1’を得た。得られたポリマーの溶液粘度ηsp/cは、0.71であった。
【0065】
PB1’10gを98%硫酸90gに溶解し、室温で24時間撹拌した。溶液を多量の水に投入し、白色固体を析出させ、ろ別した。得られた固体を熱水中で2回、メタノール中で1回洗浄し、スルホン化ブロック共重合体SPB1’を得た。得られたポリマーのイオン交換容量は、1.44mmol/gであった。このことは、親水性セグメントが、熱水洗浄時に溶解、除去されなかったことを示し、親水性セグメントと疎水性セグメントとが結合していることを示す。また、実施例1と同様に製膜した膜のTEM観察で、相分離構造が見られた。このことは、得られたポリマーSPB1’がブロック共重合体であることを示す。H-NMRから求められたSPB1’の組成から、スルホン酸基をSO3H化した後の親水性セグメントの重量分率は、0.41であった。また、SPB1’の親水性セグメントのイオン交換容量は、3.51mmol/gとなった。
SPB1’を、実施例1と同様に製膜および膜のプロトン伝導度の測定を行った。得られた結果を、表1および図1に示す。

(比較例2)
【0066】
スミカエクセル7600Pを67gとその溶液を調製するためのジメチルスルホキシドを200ml用いてブロック共重合体を合成した以外は、比較例1と同様にして、スルホン化ブロック共重合体SPB2’を合成した。得られたSPB2’のイオン交換容量は、1.77mmol/gであった。H-NMRから求められたSPB2’の組成から、スルホン酸基をSO3H化した後の親水性セグメントの重量分率は、0.5であった。また、SPB2’の親水性セグメントのイオン交換容量は、3.54mmol/gとなった。
実施例1と同様に製膜し、プロトン伝導度の測定を行った。得られた結果を、表1および図1に示す。

(参考例1)
【0067】
スミカエクセル7600Pを98%硫酸180gに20g溶解し、室温で24時間撹拌した。溶液を多量の水に投入し、白色固体を析出させ、ろ別した。得られた固体を水中で5回洗浄した。得られたポリマーのイオン交換容量は測定できず、スルホン酸基の導入は認められなかった。

(参考例2)
【0068】
実施例1と同様にして、親水性プレポリマーを合成し、水に投入して固体を得た。得られたポリマーの溶液粘度は、0.35であった。得られたポリマー52gを実施例1と同様にして合成して得られた疎水性プレポリマー溶液に、室温で混合、溶解したのち、水に投入して固体を得ることにより、親水性プレポリマーと疎水性プレポリマーとのブレンド物を調製した。得られたブレンド物20gを98%硫酸180gに溶解し、室温で24時間撹拌した。溶液を多量の水に投入し、白色固体を析出させ、ろ別した。得られた固体を水中で5回洗浄した。得られたポリマーのイオン交換容量は測定できなかった。また、H-NMR測定で、疎水性プレポリマーに基づくシグナルしか観察されなかった。これらは、スルホン化後、親水性プレポリマーが水溶性となり、水洗工程で除去されたことを示す。

(実施例3)
【0069】
ポリエーテルスルホンブロック共重合体PB3の合成
撹拌機、水分定量器、温度計、窒素導入管の付いた4つ口セパラブルフラスコ中に、ビス(4−クロロフェニル)スルホン3.35g(0.012モル)、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホンのカリウム塩18.34g(0.035モル)、4,4’−ビフェノール8.79g(0.047モル)および炭酸カリウム8.22gを仕込み、ジメチルスルホキシド80gとトルエン35gを添加して窒素気流下、加熱、撹拌した。発生した水をトルエンと共に除去しながら160℃まで昇温し、その温度で8時間撹拌して親水性セグメントのプレポリマーHP3溶液を調製した。このとき、二価フェノールである4,4’−ビフェノールと、芳香族ジクロリドとの比は、1.01:1であり、また、HP3溶液中の生成プレポリマーとジメチルスルホキシドに対するプレポリマーの濃度は、25.2重量%である。別に、スミカエクセル7600P(住友化学)40.38gを、ジメチルスルホキシド160gとトルエン80gに溶解して窒素気流下、加熱、撹拌した。流出した水をトルエンと共に除去しながら185℃まで昇温し、その温度で8時間撹拌して疎水性セグメントのプレポリマーSP3溶液を調製した。SP3溶液中のプレポリマーSP3とジメチルスルホキシドに対するプレポリマーSP3の濃度は、20.2重量%である。このSP3溶液をHP3溶液に添加し、160℃で、2時間撹拌した。溶液を多量の水に投入し、白色固体を析出させ、ろ別した。得られた固体を熱水中で2回、メタノール中で1回洗浄し、ブロック共重合体PB3を得た。得られたポリマーの溶液粘度ηsp/cは、1.05dl/gであった。また、イオン交換容量は、0.92mmol/gであった。
【0070】
ブロック共重合体PB3のスルホン化(SPB3の合成)
ブロック共重合体PB3を98%硫酸332gに25g溶解し、40℃で48時間撹拌した。溶液を多量の水に投入し、白色固体を析出させ、ろ別した。得られた固体を水中で5回洗浄し、ポリマーSPB3を得た。得られたポリマーのイオン交換容量は、2.00mmol/gであった。ブレンド体ならばスルホン化後水洗すると、水溶性の親水性ポリマーが除去されイオン交換容量が大きく低下する。しかし、SPB3のイオン交換容量は、スルホン化前のPB3のビフェノール残基の各芳香環に1個づつスルホン酸基が導入したとして計算されるイオン交換容量2.08mmol/gとほぼ一致している。このことは、SPB3がブレンド体ではなく、親水性セグメントと疎水性セグメントが結合していることを示している。また、後述の方法で得られた膜のTEM観察で、平均ドメイン間距離が51nmの相分離構造が見られたことから、SPB3は、ブロック共重合体であることを確認した。疎水性セグメントは、このスルホン化条件ではスルホン化されない。したがって、親水性セグメントのみがスルホン酸基を有すると考えられる。H-NMRから求められたSPB3の組成から、スルホン酸基をSO3H化した後の親水性セグメントの重量分率は、0.41であった。また、SPB3の親水性セグメントのイオン交換容量は、4.88mmol/gとなった。
SPB3を20重量%となるようにN,N−ジメチルアセトアミドに溶解し、ガラス板上に流延し、120℃で1時間乾燥後、得られた自己支持性膜をガラス板から剥離し、金属枠に固定して、さらに200℃で0.5時間熱風乾燥した。0.5N水酸化ナトリウム水溶液に室温で2時間浸漬後、水洗し、1N硫酸水溶液に4時間浸漬した。水洗を3回行い、洗浄水が中性であることを確認後、金属枠に固定して、40℃で乾燥して、厚み32μmの膜を得た。50℃および70℃で相対湿度を変化させてプロトン伝導度を測定した。得られた結果を、表1に示す。
【0071】
(実施例4)
プレポリマーHP4の合成
撹拌機、水分定量器、温度計、窒素導入管の付いた4つ口フラスコ中に、4,4’−ビフェノール8.41g(0.045モル)、N,N−ジメチルアセトアミド50gを仕込み、窒素バブリングしながら60℃で撹拌、溶解した。これに、炭酸カリウム7.87g、トルエン15gを加え、窒素気流下、160℃で加熱、撹拌して、発生した水をトルエンと共に除去した。ビス(4−クロロフェニル)スルホン6.38g(0.022モル)、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホンのカリウム塩11.64g(0.022モル)をN,N−ジメチルアセトアミド60gと共に添加して、窒素気流下、160℃で16時間撹拌して、親水性セグメントのプレポリマーHP4溶液を調製した。このとき、二価フェノールである4,4’−ビフェノールと、芳香族ジクロリドとの比は、1.016:1であり、また、HP2溶液中の生成プレポリマーとN,N−ジメチルアセトアミドに対するプレポリマーの濃度は、18重量%である。不溶分をろ過し、ろ液を多量の2−プロパノールに投入し、白色固体を析出させ、100℃で真空乾燥した後、N,N−ジメチルアセトアミドに再溶解し、ろ過および2-プロパノールによる析出、乾燥を繰り返して、スルホン酸基がカリウム塩型のプレポリマーHP4を得た。HP4のηsp/cは、0.89dl/gであった。また、イオン交換容量は、1.91mmol/gであった。
【0072】
ブロック共重合体PB4の合成
撹拌機、水分定量器、温度計、窒素導入管の付いた4つ口フラスコ中に、HP4を6.05g、N,N−ジメチルアセトアミド55gを仕込み、窒素気流下、80℃で一晩撹拌して、HP4を溶解した。これに、炭酸カリウム0.029g、トルエン10gを加え、窒素気流下、160℃で加熱、撹拌して、発生した水をトルエンと共に除去した。別に、スミカエクセル7600P(住友化学)7.36gをN,N−ジメチルアセトアミド36gに、窒素気流下、80℃で一晩撹拌して溶解し、これにトルエン10gを加えて同様に脱水し、疎水性セグメントのプレポリマーSP4溶液を調製した。このSP4溶液をHP4溶液に添加し、160℃で2時間撹拌した。ろ過して不溶分を除去した後、ろ液を多量の水に投入し、白色固体を析出させ、ろ別した。得られた固体を熱水中で2回、メタノール中で1回洗浄し、ブロック共重合体PB4を得た。得られたポリマーの溶液粘度ηsp/cは、1.09dl/gであった。また、イオン交換容量は、0.643mmol/gであった。
【0073】
ブロック共重合体PB4のスルホン化(SPB4の合成)
ブロック共重合体PB4を95%硫酸63.6gに7.07g溶解し、室温で48時間撹拌した。溶液を多量の水に投入し、白色固体を析出させ、ろ別した。得られた固体を水中で5回洗浄し、ポリマーSPB4を得た。ブレンド体ならばスルホン化後水洗すると、水溶性の親水性ポリマーが除去され、収率が大きく低下する。しかし、SPB4の収率は、スルホン化前のPB4のビフェノール残基の各芳香環に1個づつスルホン酸基が導入したとして計算される収量の94%であった。このことは、SPB4はブレンド体ではなく、親水性セグメントと疎水性セグメントが結合していることを示している。イオン交換容量は、1.72mmol/gであった。また、後述の方法で得られた膜のTEM観察で、平均ドメイン間距離が58nmの相分離構造が見られたことから、SPB4はブロック共重合体であることを確認した。疎水性セグメントは、このスルホン化条件ではスルホン化されない。したがって、親水性セグメントのみがスルホン酸基を有すると考えられる。H-NMRから求められたSPB4の組成から、スルホン酸基をSO3H化した後の親水性セグメントの重量分率は、0.46であった。また、SPB4の親水性セグメントのイオン交換容量は、4.20mmol/gとなった。
【0074】
SPB4を20重量%となるようにN,N−ジメチルアセトアミドに溶解し、ガラス板上に流延し、120℃で1時間乾燥後、得られた自己支持性膜をガラス板から剥離し、金属枠に固定して、さらに200℃で0.5時間熱風乾燥した。0.5N水酸化ナトリウム水溶液に室温で2時間浸漬後、水洗し、1N硫酸水溶液に4時間浸漬した。水洗を3回行い、洗浄水が中性であることを確認後、金属枠に固定して、40℃で乾燥して、厚み21μmの膜を得た。50℃および70℃で相対湿度を変化させてプロトン伝導度を測定した。得られた結果を、表1に示す。
【0075】
(実施例5)
ポリエーテルスルホンブロック共重合体PB5の合成
撹拌機、水分定量器、温度計、窒素導入管の付いた4つ口セパラブルフラスコ中に、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホンのカリウム塩25.33g(0.0484モル)、4,4’−ビフェノール9.10g(0.0489モル)および炭酸カリウム8.51gを仕込み、ジメチルスルホキシド122gとトルエン45gを添加して窒素気流下、加熱、撹拌した。発生した水をトルエンと共に除去しながら160℃まで昇温し、その温度で8時間撹拌して親水性セグメントのプレポリマーHP5溶液を調製した。このとき、二価フェノールである4,4’−ビフェノールと、芳香族ジクロリドとの比は、1.01:1であり、また、HP5溶液中の生成プレポリマーとジメチルスルホキシドに対するプレポリマーの濃度は、20.2重量%である。別に、スミカエクセル7600P(住友化学)42.2gを、ジメチルスルホキシド211gとトルエン28gに溶解して窒素気流下、加熱、撹拌した。流出した水をトルエンと共に除去しながら185℃まで昇温し、その温度で8時間撹拌して疎水性セグメントのプレポリマーSP5溶液を調製した。SP5溶液中のプレポリマーSP5とジメチルスルホキシドに対するプレポリマーSP5の濃度は、20.0重量%である。このSP5溶液をHP5溶液に添加し、160℃で、2時間撹拌した。溶液を多量の水に投入し、白色固体を析出させ、ろ別した。得られた固体を熱水中で2回、メタノール中で1回洗浄し、ブロック共重合体PB5を得た。得られたポリマーの溶液粘度ηsp/cは、0.84dl/gであった。また、イオン交換容量は、0.931mmol/gであった。
【0076】
ブロック共重合体PB5のスルホン化(SPB5の合成)
ブロック共重合体PB5を98%硫酸351gに39g溶解し、室温で72時間撹拌した。溶液を多量の水に投入し、白色固体を析出させ、ろ別した。得られた固体を水中で5回洗浄し、ポリマーSPB5を得た。得られたポリマーのイオン交換容量は、1.69mmol/gであった。ブレンド体ならばスルホン化後水洗すると、水溶性の親水性ポリマーが除去されイオン交換容量が大きく低下する。しかし、SPB5のイオン交換容量は、スルホン化前のPB5のH-NMRから求めた組成比を利用してビフェノール残基の各芳香環に1個づつスルホン酸基が導入したとして計算されるイオン交換容量1.69mmol/gと一致している。このことは、SPB5がブレンド体ではなく、親水性セグメントと疎水性セグメントが結合していることを示している。また、後述の方法で得られた膜のTEM観察で相分離構造が見られたことから、SPB5は、ブロック共重合体であることを確認した。疎水性セグメントは、このスルホン化条件ではスルホン化されない。したがって、親水性セグメントのみがスルホン酸基を有すると考えられる。H-NMRから求められたSPB5の組成から、スルホン酸基をSO3H化した後の親水性セグメントの重量分率は、0.30であった。また、SPB5の親水性セグメントのイオン交換容量は、5.63mmol/gとなった。
【0077】
SPB5を20重量%となるようにN,N−ジメチルアセトアミドに溶解し、ガラス板上に流延し、120℃で1時間乾燥後、得られた自己支持性膜をガラス板から剥離し、金属枠に固定して、さらに200℃で0.5時間熱風乾燥した。0.5N水酸化ナトリウム水溶液に室温で2時間浸漬後、水洗し、1N硫酸水溶液に4時間浸漬した。水洗を3回行い、洗浄水が中性であることを確認後、金属枠に固定して、40℃で乾燥して、厚み38μmの膜を得た。70℃で相対湿度を変化させてプロトン伝導度を測定した。得られた結果を、表1に示す。

表1 芳香族ブロック共重合体の特性

1:相対湿度
【0078】
(実施例6)
実施例2で得られた膜の両側に、エレクトロケム社製、ガス拡散電極EC20-10-10(Pt1.0mg/cm2)を、130℃、5分間プレス圧着し、膜/電極接合体(以下、MEAと表記する)を作成した。得られたMEAを、エレトロケム社製燃料電池セルFC25-02SPにセットして、セル温度:70℃、水素利用率:50%、酸素利用率:25%、水素加湿温度:70℃、酸素加湿温度:30℃で発電試験を行った。得られた発電曲線を図2に示す。また、ガス拡散電極として、Pt20重量%、Ru10重量%担持のエレクトロケム社電極セル温度を用いて、室温で、水素の代わりに10重量%のメタノール水溶液を用いた発電試験を、酸素利用率:25%、酸素加湿なしの条件で行った結果、0.1A/cm2の電流密度で、0.25Vの電圧が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】は測定温度50℃におけるプロトン伝導度の相対湿度依存性である。
【図2】は温度70℃における発電試験結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ主鎖に芳香環を有した、スルホン酸基を含有する親水性セグメントとスルホン酸基を含有しない疎水性セグメントからなり、次式により求められる親水性セグメントのみのイオン交換容量IECaが、
【数1】

[式中、IECはブロック共重合体のイオン交換容量を、Wはブロック共重合体の重量を、Waはブロック共重合体中の親水性セグメントの重量を示す。]
が3.6mmol/g以上であり、かつブロック共重合体のイオン交換容量IECが0.5mmol/gから3.0mmol/gの範囲にある芳香族ブロック共重合体であることを特徴とする高分子電解質。
【請求項2】
請求項1において、芳香族ブロック共重合体が芳香族ポリエーテル系ブロック共重合体であり、その疎水性セグメントが化学式(1)

[ここで、DはSO2またはCOを示し、Y1はOまたはSを示し、mは3から1500の整数を示す。]
の構造を含有することを特徴とする高分子電解質。
【請求項3】
請求項1および2において、芳香族ポリエーテル系ブロック共重合体の親水性セグメントが化学式(2)

[ここで、DはSO2またはCOを示し、Y2はOまたはSを示し、Ar1は二価の芳香族残基を示す。]
で表される構造にスルホン酸基が導入された構造単位を含有していることを特徴とする高分子電解質。
【請求項4】
請求項1〜3において、芳香族ポリエーテル系ブロック共重合体の親水性セグメントが、化学式(3)

[ここで、DはSO2またはCOを示し、bは0または1の整数を示し、少なくともどちらかは1である。また、Zは水素原子またはアルカリ金属を示し、Y3はOまたはSを、Ar2はスルホン酸基を有する二価の芳香族残基を示す。]
で表される構造単位[A]と化学式(4)

[ここで、DはSO2またはCOを示し、Y4はOまたはSを、Ar3はスルホン酸基を有する二価の芳香族残基を示す。]
で表される構造単位[B]からなり、その重量比[A]/[B]が、10/0から1/9の範囲であることを特徴とする高分子電解質。
【請求項5】
請求項2から4において、化学式(1)から(4)のD、D、DおよびDがSO2であり、Y、Y、YおよびYがOである芳香族ポリエーテルスルホン系ブロック共重合体であることを特徴とする高分子電解質。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の芳香族ブロック共重合体からなり、その厚みが5μmから200μmであることを特徴とする高分子電解質膜。
【請求項7】
電子顕微鏡を用いて9万倍で断面観察したとき、ドメイン間距離の平均値あるいはラメラ間距離の平均値が5nmから900nmの相分離構造を有することを特徴とする請求項6に記載の高分子電解質膜。
【請求項8】
50℃、相対湿度40%でのイオン伝導度が、4×10-3S/cm以上であることを特徴とする請求項1〜7に記載の高分子電解質および高分子電解質膜。
【請求項9】
70℃、相対湿度30%でのイオン伝導度が、2×10-3S/cm以上であることを特徴とする請求項1〜8に記載の高分子電解質および高分子電解質膜。
【請求項10】
請求項1〜9に記載の芳香族ブロック共重合体あるいはその膜を用いた、膜/電極接合体。
【請求項11】
請求項1〜10に記載の芳香族ブロック共重合体あるいはその膜、膜/電極接合体を用いることを特徴とする固体高分子形燃料電池。
【請求項12】
請求項1〜10に記載の芳香族ブロック共重合体あるいはその膜、膜/電極接合体を用いた、アルコール、あるいはエーテルを燃料とすることを特徴とする直接液体燃料形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−278321(P2006−278321A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−51530(P2006−51530)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】