説明

新都市交通車両用空気入りラジアルタイヤ

【課題】タイヤ重量を低減でき、また、転がり抵抗を向上する上で有利な新都市交通車両用空気入りラジアルタイヤを提供すること。
【解決手段】新都市交通車両用空気入りラジアルタイヤ10は、カーカス層12と、ベルト層14とを含んで構成されている。ベルト層14は、3枚以上のベルトプライ16で構成されている。各ベルトプライ16は、ベルトコード1602とこのベルトコード1602を被覆するコード被覆ゴム1604とで構成されている。ベルトコード1602は、タイヤ赤道Cに対してほぼ0度の角度でスパイラル状に巻き回されている。ベルトコード1602は、弾性率10000MPa以上の高弾性有機繊維を重量分率で50%以上含んで構成された有機繊維からなり、ベルト層14で使用された高弾性有機繊維の量は、ベルト層14の50mm幅あたり75000texよりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新都市交通車両に用いられる空気入りラジアルタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大阪の「ニュートラム」や広島の「アストラム」、東京の「ゆりかもめ」などに新都市交通車両が採用されつつあり、このような車両に用いられる新都市交通車両用空気入りラジアルタイヤでは、高荷重、高速、高内圧での使用に耐えられるように構成されている。
この新都市交通車両は、ガイドレールに誘導されながら無人で進行することが可能となっている。
【0003】
新都市交通車両が、例えば、両側に設けられたガイドレールに誘導されながら無人で進行する場合、図2に示すように、車両の前後部に、走行ユニット100が配置される。
この走行ユニット100は、平行運動機構を構成するリンク機構102に案内輪104と空気入りラジアルタイヤ106を設けたものである。より詳細に説明すると、互いに対向する一方の1対の第1リンク102Aの両端にそれぞれ案内輪104を設け、互いに対向する他方の1対の第2リンク102Bの中間部に空気入りラジアルタイヤ106を支持させたものである。
そして、案内輪104がガイドレール108に接触した際に、リンク機構102を変形させることで空気入りラジアルタイヤ106を操舵し、車両を進行させるようにしている。
【0004】
このようにガイドレール108への案内輪104の接触により操舵される新都市交通車両用空気入りラジアルタイヤでは、タイヤのコーナーリングフォースが大きいと、ガイドレール108による操舵により車両が大きく向きを変え、車両が反対側のガイドレール108に接触し、それが繰り返されながら進行することで、コーナーリング時に車両に横揺れが発生することが知られており、コーナーリング時の車両の横揺れの発生を抑制する観点から、コーナーリングフォースが小さいことが好ましい。
そこで、ラジアルカーカス層のタイヤクラウン部の径方向外側のベルト層として、タイヤ赤道に対して金属コードがほぼ0度の角度でスパイラル状に巻き回されたベルト層を用い、ベルト層の幅方向の剛性を低くしたタイヤが提供されている(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−16511
【特許文献2】特許第2538858号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような従来の新都市交通車両用空気入りラジアルタイヤでは、タイヤ重量を低減する点で、また、転がり抵抗を向上する点において改善の余地があった。
本発明は前記事情に鑑み案出されたものであって、本発明の目的は、タイヤ重量を低減でき、また、転がり抵抗を向上する上で有利な新都市交通車両用空気入りラジアルタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため本発明は、カーカスコードがラジアル方向に配列されたカーカス層のタイヤクラウン部の径方向外側に設けられ、タイヤ赤道に対してほぼ0度の角度でスパイラル状に巻き回されたベルトコードとこのベルトコードを被覆するコード被覆ゴムとを含んで構成されたベルトプライからなるベルト層を備える新都市交通車両用空気入りラジアルタイヤであって、前記ベルトプライは3枚以上設けられ、前記ベルトコードは、弾性率10000MPa以上の高弾性有機繊維を重量分率で50%以上含む有機繊維で構成され、前記ベルト層の50mm幅に対して使用される前記高弾性有機繊維の量は75000texよりも大きいことを特徴とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、各ベルト層を構成するベルトコードがタイヤ赤道に対してほぼ0度の角度でスパイラル状に巻き回されているので、コーナーリングフォースの発生が抑制される。
また、新都市交通車両用空気入りラジアルタイヤでは、空気圧は、トラックやバスよりもさらに高い(1050KPa)ため座屈の発生はなく、また、整備された軌道上を走行するため、外傷に起因する水分の侵入もないことから、ベルトコードとして金属製コードに換えて、有機繊維コードの使用が可能となる。
ただし、たが効果を発揮させるため、ベルトプライを3枚以上とし、また、有機繊維コードとして、弾性率10000MPa以上の高弾性有機繊維を重量分率で50%以上含んで構成された有機繊維を用い、さらに、ベルト層において使用した全高弾性有機繊維量を50mmの幅あたり75000texよりも大きく設定する。
これによりたが効果を発揮しつつ、タイヤの重量の低減化が図れ、また、転がり抵抗を向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】タイヤのクラウン部の断面図である。
【図2】(A)、(B)は新都市交通車両の操舵系の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面にしたがって説明する。
新都市交通車両用空気入りラジアルタイヤ10は、カーカス層12と、ベルト層14とを含んで構成されている。
新都市交通車両用空気入りラジアルタイヤ10は、クラウン部10A以外は従来タイヤと同一であるので図示を省略している。
カーカス層12は、タイヤ赤道Cに対してほぼ90度の角度で配列されたカーカスコードと、このカーカスコードを被覆するコード被覆ゴムとで構成されたラジアルカーカスである。カーカス層12の両端は、サイドウォール部10Bからビード部に至り、ビード部においてビードコアに巻き返されて固定されている。
【0011】
ベルト層14は、カーカス層12のクラウン部10Aの径方向外側に設けられたベルトプライ16で構成されている。
ベルトプライ16は、ベルトコード1602とこのベルトコード1602を被覆するコード被覆ゴム1604とで構成されている。ベルトコード1602は、コーナーリングフォースの発生を抑制するため、タイヤ赤道Cに対してほぼ0度の角度でスパイラル状に巻き回されている。
ベルトプライ16は3枚以上設けられている。
ベルトコード1602は、弾性率10000MPa以上の高弾性有機繊維を重量分率で50%以上含んで構成された有機繊維からなり、ベルト層14で使用された全高弾性有機繊維の量は、ベルト層14の50mm幅あたり75000texよりも大きい。
ここで、ベルトプライ16を3枚以上としたのは、有機繊維を用いたベルト層14によりたが効果を発揮させるためである。
また、弾性率10000MPa以上の高弾性有機繊維を重量分率で50%以上含んで構成された有機繊維を用いるのは、有機繊維を用いたベルト層14によりたが効果を発揮させるためである。
また、ベルト層の50mm幅に対して使用される高弾性有機繊維の量を75000texよりも大きくしたのは、やはり有機繊維を用いたベルト層14によりたが効果を発揮させるためである。なお,ベルト層50mm幅あたりの高弾性有機繊維の量は,次式によって求められる。

THi = Σ(Ai×Ei)/10

THi: ベルト層の50mm幅に対して使用される高弾性有機繊維の量
(tex/50mm幅)
Ai : i層目のベルトコードを構成する高弾性有機繊維の総繊度(dtex/本)
Ei : i層目を構成する有機繊維コードのベルト巾方向50mmあたりの本数
(本/50mm幅)

これらによりたが効果を発揮しつつ、タイヤの重量の低減化を図り、また、転がり抵抗を向上することが可能となる。
【0012】
このような高弾性有機繊維として、従来公知の様々な有機繊維を使用可能であるが、芳香族ポリアミド(いわゆるアラミド)を用いると汎用性が高く,低コスト化の点で有利となる。
【0013】
また、タイヤ製造時に、ブラダーを用いて生タイヤを金型の内部で膨らませる際に、他のゴム部材に追従してベルトコード1602自体が伸びることが好ましい。すなわち、ベルトコード1602をバイアス積層させた通常のタイヤでは、生タイヤを膨らませる際に、ベルトコードの配列の傾きが変わるなどでベルト層が拡径されるが、本発明のように、タイヤ赤道Cに対してほぼ0度の角度でスパイラル状に巻き回されているものでは、傾きの変化がないため、ベルトコード1602自体が伸びた方が好ましい。ベルトコード1602が伸びないと、ブラダーで生タイヤを金型の内部で膨らませる際に、ベルトコード1602がカーカス層12側に食い込むことが考えられるためである。
そのため、ベルトコード1602を、高弾性有機繊維と、弾性率10000MPa未満の低弾性有機繊維とを撚り合わせて構成すると、ブラダーを用いて生タイヤを金型の内部で膨らませる際に、他のゴム部材に追従してベルトコード1602自体が伸びることができるようになり、好ましい。
【0014】
また、コード被覆ゴム1604中の全硫黄量は2phr以上3phr以下であるとともに、カーボン量は40phr以上55phr以下が好ましい。尚、phrとは、ゴム100質量部に対する配合剤の質量部を表し、以下ゴム100質量部に対する配合剤の質量部を、phrと記す。
コード被覆ゴム1604に含まれている硫黄は、加硫中に、コード被覆ゴム1604と高弾性有機繊維とを接着する役割を果たしている。また、硫黄は、加硫後に、コード被覆ゴム1604に弾性を発揮させる役割を果たしている。
通常の空気入りタイヤのコード被覆ゴム中の全硫黄量は6.5〜7phrであるのに対して、本発明では、2phr以上3phr以下とし、高弾性有機繊維とコード被覆ゴム1604との接着性を確保しつつ高弾性を発揮させないようにしている。すなわち、本発明では、ベルト層14自体は簡単に変形してもよく、ベルト層14にたが効果のみを発揮させ、コーナリングフォースが発生させないようにしている。尚、全硫黄量が2phrに満たないと高弾性有機繊維とゴムとの接着性が不十分となる。
また、コード被覆ゴム1604に含まれている硫黄とカーボンの量が多い場合、走行時の発熱が高く、また、硫黄の再架橋の影響でコード被覆ゴム1604が劣化し易い。
そこで、発熱抑制、劣化抑制の観点から、カーボン量を、硫黄量と共に下げたものである。通常の空気入りタイヤのコード被覆ゴム1604中のカーボンは60〜70phrであるのに対して、本発明では、40phr以上55phr以下としている。
したがって、ベルト層14は、コーナリングフォースの発生が抑制されており、たが効果のみを発揮し、コード被覆ゴム1604の発熱と劣化が共に抑制される。
【0015】
【表1】

【0016】
表1に示すように、従来例1、2、実施例1、2について、タイヤ重量を測定し、また、転がり抵抗を測定した。
タイヤ重量は、空気入りタイヤの重量を測定し、評価結果を従来例2を100とした指数で示し、数値が小さいほど軽量であることを示している。
転がり抵抗は、ドラム径1707mmのドラム試験機を用い、空気圧1050kPa、荷重44.13kN、速度80km/hの条件で空気入りタイヤの抵抗力を測定し、これを転がり抵抗とした。評価結果は、測定値の逆数を用い、従来例2のタイヤを100とする指数にて示した。この数値が大きいほど転がり抵抗が少ないことを意味する。
従来例1では、直径が0.20mmの3本のフィラメントを撚り合わせて構成したコアの周囲に、直径が0.20mmのワイヤを9本撚り合わせる層撚りでベルトコードを構成したもので、フィラメントとして波癖付けを行なったものを用いている。
従来例2では、直径が0.22mmの1本のフィラメントからなるコアの周囲に、直径が0.22mmのワイヤを6本撚り合わせてストランドを構成し、このストランドを3本複撚りしてベルトコードを構成したものでる。
実施例1では、1670dtexの芳香族ポリアミドヤーン(無撚りのフィラメント束)2本と1400dtexのナイロン66ヤーン1本をそれぞれ28回/10cm,Z方向に下撚りした後で,これら3本のヤーンを28回/10cm,S方向に上撚りし撚り合わせることでベルトコード1602を構成したものである。
実施例2では、3300dtexの芳香族ポリアミドヤーン(無撚りのフィラメント束)2本と1840dtexのナイロン66ヤーン1本をそれぞれ21回/10cm,Z方向に下撚りした後で,これら3本のヤーンを21回/10cm,S方向に上撚りし撚り合わせることでベルトコード1602を構成したものである。
なお、従来例1、2では、ベルト層14において使用した全ワイヤ量が互いに近づいた値になるように、ワイヤ断面積、エンド、層数を選定した。
また、実施例1では、ベルト層14において使用した全高弾性有機繊維量をベルト層14の50mmの幅あたり76000texとし、実施例2では、ベルト層14において使用した全高弾性有機繊維量をベルト層14の50mmの幅あたり90000texとした。
【0017】
従来例1と従来例2とを比較した場合、全ワイヤ量が少なくベルトプライの枚数が多い従来例1が従来例2に比べタイヤ重量を低減化でき、転がり抵抗を低減できることが明らかである。
従来例1と実施例1、実施例2とを比較した場合、有機繊維からなるベルト層14を用いた実施例1、実施例2は、ワイヤからなるベルト層を用いた従来例1に比べて、タイヤ重量と転がり抵抗の双方を低減できることが明らかである。
実施例1と実施例2とを比較した場合、全有機繊維量が大きい実施例2は、実施例1に比べて、タイヤ重量と転がり抵抗の双方を低減できることが明らかである。
【0018】
【表2】

【0019】
また、表2に示すように、従来例1、2、実施例1、2、3について、タイヤ重量を測定し、また、転がり抵抗を測定した。
なお、表2において、従来例1、2、実施例1、2については表1と同様であり、従来例1、2、実施例1、2では、コード被覆ゴム1604中のカーボン量を70phrとし、全硫黄量を6.0とした。
また、実施例3では、コード被覆ゴム1604中のカーボン量を55phrとし、全硫黄量を3.0とし、それ以外は実施例2と同一とした。
【0020】
表2から明らかなように、カーボン量および全硫黄量を実施例1、2よりも減らした実施例3は、実施例1、2に比べ、タイヤ重量と転がり抵抗の双方を低減できることが明らかである。
【符号の説明】
【0021】
10……新都市交通車両用空気入りラジアルタイヤ
12……カーカス層
14……ベルト層
16……ベルトプライ
1602……ベルトコード
1604……コード被覆ゴム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーカスコードがラジアル方向に配列されたカーカス層のタイヤクラウン部の径方向外側に設けられ、タイヤ赤道に対してほぼ0度の角度でスパイラル状に巻き回されたベルトコードとこのベルトコードを被覆するコード被覆ゴムとを含んで構成されたベルトプライからなるベルト層を備える新都市交通車両用空気入りラジアルタイヤであって、
前記ベルトプライは3枚以上設けられ、
前記ベルトコードは、弾性率10000MPa以上の高弾性有機繊維を重量分率で50%以上含む有機繊維で構成され、
前記ベルト層の50mm幅に対して使用される前記高弾性有機繊維の量は75000texよりも大きい、
ことを特徴とする都市交通車両用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項2】
前記高弾性有機繊維は、芳香族ポリアミドである、
ことを特徴とする請求項1記載の新都市交通車両用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項3】
前記ベルトコードを構成するフィラメントは、前記高弾性有機繊維と、弾性率10000MPa未満の低弾性有機繊維とを撚り合わせて構成されている、
ことを特徴とする請求項1または2記載の新都市交通車両用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項4】
前記コード被覆ゴム中の全硫黄量は2phr以上3phr以下であるとともに、カーボン量は40phr以上55phr以下である、
ことを特徴とする請求項1乃至3に何れか1項記載の新都市交通車両用空気入りラジアルタイヤ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−235832(P2011−235832A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110898(P2010−110898)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】