説明

方位測定装置

【課題】比較的低精度(低価格)のジャイロを用いて実用的なストラップダウン方式の方位測定装置を実現する。
【解決手段】ストラップダウン方式の方位測定装置であって、一定間隔を隔てて配置された2つに受信アンテナを備え、各受信アンテナで受信した測位用電波に基づいて各受信アンテナの位置を演算し、当該各受信アンテナの位置に基づいて移動体の基準方位角を測定する基準方位角測定手段をさらに備え、演算装置は、該基準方位角測定手段から得られる基準方位角を用いて座標変換行列の初期値を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストラップダウン型の方位測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にジャイロコンパスと言われる方位測定装置には、ジンバル機構を用いることにより慣性センサを移動体に対して可動自在に設置するタイプと、ジンバル機構を用いることなく慣性センサを移動体に固定設置するタイプとがある。前者は、例えばジンバル式プラットフォーム型と言われ、後者はストラップダウン方式と言われている。後者のストラップダウン方式の方位測定装置では、慣性センサが移動体に固定設置されている、つまり慣性センサの検出量は、移動体固有の直交座標系(移動体固有直交座標系)に関するものであり、移動体の位置(局地)を緯度、経度及び高度で示す航行座標系(局地水平座標系)に関するものではないので、両座標系間での座標変換が必要であり、よって高性能な演算装置を必要とする。
【0003】
このようなストラップダウン方式の方位測定装置では、例えば下記特許文献1に記載されているように、自らの測定速度や測定位置等の測定データと、移動体に別途設けられた電磁ログやGPS受信機等の観測機器で観測された基準速度や基準位置等の観測データとをカルマンフィルタで演算処理することにより誤差量を推定し、この誤差量に基づいて測定データの演算過程で誤差補正を行うことにより精度補償を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−270176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ストラップダウン方式の方位測定装置に利用される慣性センサは、ジャイロと加速度センサであり、方位測定装置の測定精度を支配する部品である。また、ストラップダウン方式の方位測定装置に利用されるジャイロは、移動体に固定設置する関係で、主に光学式ジャイロが使用される。しかしながら、高精度の光学式ジャイロは価格が数百万円と比較的高価なので、現状ではストラップダウン方式の方位測定装置を比較的低価格な民間船舶用の方位測定装置として実現することは極めて困難である。また、種々のジャイロコンパスは、一般的に移動体が高緯度に行く程、方位角の検出誤差が大きくなるという欠点がある。
【0006】
本発明は、比較的低精度(低価格)のジャイロを用いて実用的なストラップダウン方式の方位測定装置を実現することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明では、第1の解決手段として、移動体に固定設置され、移動体直交座標系の各座標軸周りの角速度及び各座標軸方向の加速度を検出する慣性センサと、移動体の移動体直交座標系における速度を基準速度として測定する速度計と、移動体の航行座標系における位置を基準位置として測定する測位装置と、各座標軸周りの角速度に基づいて移動体直交座標系と航行座標系とに関する座標変換行列を時系列的に順次演算し、該座標変換行列を用いて各座標軸周りの角速度から航行座標系における移動体の姿勢及び方位角を時系列的に順次演算すると共に各座標軸方向の加速度から航行座標系における移動体の速度及び位置を測定速度及び測定位置として時系列的に順次演算し、かつ、基準速度と測定速度との差分速度及び基準位置と測定位置との差分位置に基づいて少なくとも移動体の姿勢及び方位角の修正量を推定して移動体の姿勢及び方位角の演算に反映させる演算装置とを備えるストラップダウン方式の方位測定装置であって、一定間隔を隔てて配置された2つに受信アンテナを備え、各受信アンテナで受信した測位用電波に基づいて各受信アンテナの位置を演算し、当該各受信アンテナの位置に基づいて移動体の基準方位角を測定する基準方位角測定手段をさらに備え、演算装置は、該基準方位角測定手段から得られる基準方位角を用いて座標変換行列の初期値を決定する、という手段を採用する。
【0008】
第2の解決手段として、上記第1の手段において、演算装置は、クオータニオンを用いることにより座標変換行列の初期値を求める、という手段を採用する。
【0009】
第3の解決手段として、上記第1または第2の手段において、基準方位角測定手段は、位置が既知の基準局が発信する電波を利用することによりGPS(Grobal Positioning System)に基づいて測定した各受信アンテナの位置を補正し、当該補正位置に基づいて基準方位角を算出するGPS(Grobal Positioning System)受信機である、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、一定間隔を隔てて配置された2つに受信アンテナで受信した測位用電波に基づいて各受信アンテナの位置を演算し、当該各受信アンテナの位置に基づいて移動体の基準方位角を測定する基準方位角測定手段を備え、該基準方位角測定手段から得られる基準方位角を用いて座標変換行列の初期値を決定するので、比較的低精度(低価格)のジャイロを用いて実用的なストラップダウン方式の方位測定装置を実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る方位測定装置の機能構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る方位測定装置の要部構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態に係る方位測定装置は、図1に示すように、ジャイロ1、加速度センサ2、電磁ログ3、第1GPS受信機4、第2GPS受信機5及び演算装置6から構成されている。また演算装置6は、基準方位角演算部6a、ハイブリッド演算部6b、座標変換部6c、純慣性航法演算部6d及びジャイロ出力部6eから構成されている。なお、第1GPS受信機4、第2GPS受信機5及び基準方位角演算部6aは、基準方位角測定手段を構成する。
【0013】
このような方位測定装置は、移動体の一種である船舶、例えば艦艇程に高精度な測定精度が要求されない民間船舶に搭載されて姿勢、方位角、速度及び位置を測定するものである。また、この方位測定装置は、ジャイロ1及び加速度センサ2、つまり船舶に作用する慣性力を検出する慣性センサが船舶(移動体)の任意位置(動揺中心近傍が好ましい。)に固定設置されたストラップダウン方式の方位測定装置である。
【0014】
なお、図1では、本発明の本質に直接関係しないので省略しているが、ジャイロ1、加速度センサ2、電磁ログ3、第1GPS受信機4及び第2GPS受信機5は、例えばRS-422等の汎用通信規格に準拠したインタフェース回路によって演算装置6と相互接続されている。
【0015】
ジャイロ1は、船舶の任意位置(動揺中心近傍が好ましい。)に設けられており、船舶の運動に伴う直交座標軸(X軸、Y軸、Z軸)回りの角速度を検出して座標変換部6cに出力する。これらX軸、Y軸、Z軸からなる直交座標系は、船舶に固有に設定された船体固有座標系であり、例えばX軸及は船体のロール軸(船首尾方向)、Y軸は船体のピッチ軸(船幅方向)、Z軸はヨー軸(船体上下方向)である。すなわち、ジャイロ1は、上記X軸、Y軸、Z軸にそれぞれ対応する3つのジャイロ(X軸ジャイロ、Y軸ジャイロ、Z軸ジャイロ)から構成されており、X軸(ロール軸)、Y軸(ピッチ軸)、Z軸(ヨー軸)周りの各加速度つまりロール軸角速度、ピッチ軸角速度及びヨー軸角速度を検出する。
【0016】
加速度センサ2は、船舶の任意位置(動揺中心近傍が好ましい。)に設けられており、船舶の運動に伴う直交座標軸(X軸、Y軸、Z軸)方向の加速度を検出して座標変換部6cに出力する。すなわち、この加速度センサ2は、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向の加速度をそれぞれ検出する3つの加速度センサ(X軸加速度センサ、Y軸加速度センサ、Z軸加速度センサ)から構成されている。
【0017】
電磁ログ3は、船舶の船底部に水中に露出する状態で設けられており、水に対する船舶の速度(対水速度)を検出し、当該対水速度を基準速度としてハイブリッド演算部6bに出力する。すなわち、この基準速度は、船舶固有の直交座標系、つまり船首尾方向をロール軸とし、当該ロール軸に直交する水平方向をピッチ軸とし、またロール軸に直交する鉛直方向をヨー軸とする船体直交座標系(移動体直交座標系)における速度である。
【0018】
第1GPS受信機4は、GPS(Grobal Positioning System)に準拠した測位装置であり、図2に示すように、船舶の船尾中央に第1受信アンテナ4aが設置されている。この第1GPS受信機4は、第1受信アンテナ4aが受信した測位用電波に基づいて、航行座標系(局地水平座標系)における第1受信アンテナ4aの位置(緯度及び経度)を第1位置P1として測定して基準方位角演算部6aに出力する。
【0019】
第2GPS受信機5は、上記第1GPS受信機4と同様にGPSに準拠した測位装置であり、図2に示すように、船舶の船首中央に第2受信アンテナ5aが設置されている。この第2GPS受信機5は、第2受信アンテナ5aが受信した測位用電波に基づいて、航行座標系における第2受信アンテナ5aの位置(緯度及び経度)を第2位置P2として測定して基準方位角演算部6aに出力する。
【0020】
ここで、GPSは、位置(緯度及び経度)が既知の基準局が発信する電波(FM波)を測位用電波の1つとし、また複数のGPS衛星が発信するGPS波を他の測位用電波として移動体の位置(緯度及び経度)を測定する測位システムとして広く知られている。すなわち、GPSは、複数のGPS波から得られた移動体の位置(緯度及び経度)を基準局の位置に基づいて補正することにより高精度化する測位システムである。また、上記航行座標系は、周知のように地球固有の座標系であり、緯度、経度及び高度によって地球に対する移動体の位置を示すものである。
【0021】
演算装置6は、所定の演算プログラムに基づいて動作するコンピュータであり、上記角速度、加速度、基準速度、第1位置及び第2位置に上記演算プログラムに基づく演算処理(測位処理)を施すことにより船舶の姿勢、方位角、速度及び位置を演算し、これら姿勢、方位角、速度及び位置をジャイロ出力として外部に出力する。
【0022】
基準方位角演算部6aは、第1位置P1及び第の位置P2に基づいて基準方位角Ψを求め、この基準方位角Ψを座標変換部6cに出力する。すなわち、図2に示すように、第1位置P1と第2位置P2とを結ぶ方向(ロール軸方向)は、船舶の進行方向つまり方位角を示すものである。基準方位角演算部6aは、このような第1位置P1と第2位置P2とに基づいて第2受信アンテナ5aから第1受信アンテナ4aを臨む方向、つまり航行座標系における船舶の進行方向を基準方位角Ψとして求める。
【0023】
このような基準方位角Ψは、以下に説明するように、船舶の緯度による誤差を含まない高精度な方位角である。すなわち、図2に示すように、航行座標系における第1位置P1の座標を(x1,y1)とし、同じく第2位置P2の座標を(x2,y2)とすると、基準方位角Ψは緯度LATを変数として含む式(1)によって表わされる。また、各軸方向の距離Lx,Lyは式(2)、(3)によって表わされる。
【0024】
【数1】

【0025】
【数2】

【0026】
【数3】

【0027】
そして、これら式(2)、(3)を式(1)に代入すると、基準方位角Ψは、式(4)のように表わされる。この式(4)は、緯度LATを変数として含むものではなく、各軸方向の距離Lx,Lyのみを変数とする形態の式なので、よって基準方位角Ψは船舶の緯度LATによる誤差を含まない高精度な方位角である。
【0028】
【数4】

【0029】
また、基準方位角演算部6aは、第1の位置及び第2の位置に基づいて船舶の位置(緯度及び経度)を基準位置として求め、この基準位置をハイブリッド演算部6bに出力する。この基準位置は、例えば船舶の重心位置を示すものである。
【0030】
ハイブリッド演算部6bは、純慣性航法演算部6dから入力される船舶の速度及び位置、基準方位角演算部6aから入力される基準位置及び電磁ログ3から入力される基準速度とに基づいて、慣性センサであるジャイロ1及び加速度センサ2の検出誤差並びに方位誤差、姿勢誤差、速度誤差及び位置誤差を推定するカルマンフィルタである。
【0031】
すなわち、ハイブリッド演算部6bは、純慣性航法演算部6dから入力される船舶の速度と電磁ログ3から入力される基準速度との差分(速度誤差)及び純慣性航法演算部6dから入力される船舶の位置と基準方位角演算部6aから入力される基準位置との差分(位置誤差)とを観測データとし、ジャイロ1及び加速度センサ2の検出誤差並びに方位誤差、姿勢誤差、速度誤差及び位置誤差の推定値を演算し、この推定値を座標変換部6c及び純慣性航法演算部6dに誤差推定値として出力する。なお、ハイブリッド演算部6bにおける誤差推定値の演算アルゴリズムについては、例えば特開平6-265367号公報、特開平7-270176号公報、また特開平8-21740号公報等に詳細が記載されているので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0032】
座標変換部6cは、上述したX軸(ロール軸:船首尾方向)、Y軸(ピッチ軸:船幅方向)、Z軸(ヨー軸:船体上下方向)からなる船体固有座標系と緯度、N軸(南北方向)、E軸(東西方向)及びZ軸(上下方向)からなる地球固有の航行座標系との座標変換行列を一定の時間インターバルで演算する。詳細については後述するが、座標変換部6cは、ジャイロ1から入力されるロール軸角速度、ピッチ軸角速度及びヨー軸角速度に基づいて座標変換行列を求めるが、この際にハイブリッド演算部6bから入力される誤差推定値(ジャイロ1の検出誤差に関する誤差推定値)に基づいてジャイロ1の検出値を補正する。
【0033】
また、座標変換部6cは、上記座標変換行列を用いることにより加速度センサ2から入力されたX軸、Y軸及びZ軸方向の加速度を航行座標系に座標変換した加速度(変換加速度)を純慣性航法演算部6dに順次出力する一方、上記座標変換行列及びジャイロ1から入力されたX軸、Y軸及びZ軸回りの角速度に基づいて航行座標系における船舶の姿勢(ロール角φ及びピッチ角θ)及び方位角ψを演算してジャイロ出力部6eに順次出力する。
【0034】
また、この座標変換部6cは、初期アライメント演算をも行うものである。すなわち、座標変換部6cは、一定の時間インターバル毎に上記座標変換行列の演算処理を船舶の航行時における通常処理として演算する一方、本方位測定装置の起動時(つまり通常は船舶の出航前(ただし航行中でも可能))における起動処理として上記座標変換行列の初期値を初期アライメント演算によって求める。この初期アライメント演算は、本方位測定装置の最も特徴的な処理であり、その詳細については後述するが、基準方位角演算部6aから入力される基準方位角Ψを用いることにより、ジャイロ及び加速度センサのみによるものよりも高精度である。
【0035】
純慣性航法演算部6dは、このような座標変換部6cから入力される変換加速度及びハイブリッド演算部6bから入力される誤差推定値に基づいて、航行座標系における船舶の速度及び位置を演算してハイブリッド演算部6bに及びジャイロ出力部6eに出力する。すなわち、この純慣性航法演算部6dは、変換加速度に含まれる誤差を誤差推定値で補正し、これによって得られた補正加速度を順次積分することによって船舶の速度v,v,vを求め、また当該速度v,v,vを順次積分することによって船舶の位置(緯度LAT,経度LON)を求める。
【0036】
ジャイロ出力部6eは、座標変換部6cから入力される船舶の姿勢(ロール角φ,ピッチ角θ)及び方位角ψ(ヨー角)並びに純慣性航法演算部6dから入力される船舶の速度v,v,v及び位置(緯度LAT,経度LON)をジャイロ出力として外部に出力する。すなわち、このジャイロ出力部6eは、船舶の姿勢(ロール角φ,ピッチ角θ)及び方位角ψ(ヨー角)並びに船舶の速度v,v,v及び位置(緯度LAT,経度LON)に関する信号を外部器機との通信規格(例えばRS-422等の汎用通信規格)に準じた信号形式に変換して外部に出力する一種の信号変換装置である。
【0037】
続いて、このように構成された方位測定装置の時系列的な動作について詳しく説明する。
【0038】
本方位測定装置が起動すると、本方位測定装置は起動処理を最初に実行する。すなわち、座標変換部6cは、ジャイロ1から入力されるロール軸角速度、ピッチ軸角速度及びヨー軸角速度並びに上記基準方位角Ψを用いることにより、以下のように座標変換行列の初期値を演算する。
【0039】
周知のように、ある任意の三次元座標系bから他の三次元座標系nへの座標変換行列Cは、三行三列の行列として表される。いま、三次元座標系bをX軸(ロール軸)、Y軸(ピッチ軸)及びZ軸(ヨー軸)からなる船体固有座標系、三次元座標系nを航行座標系とすると、座標変換行列Cは、下式(5)のように表される。また、航行座標系(三次元座標系n)における船舶のロール角φ、ピッチ角θ及び方位角ψ(ヨー角)は、この式(5)から式(6)のように表される。なお、上述した座標変換行列を示す記号「C」は、下付き添え字「b」及び上付き添え字「n」が横方向において位置がずれているが、以下の数式では下付き添え字「b」及び上付き添え字「n」を横方向の同一位置に表記している。
【0040】
【数5】

【0041】
【数6】

【0042】
ここで、q1,q2,q3,q4は、クオータニオンqの各要素である。このクオータニオンqは、「ハミルトンの四元数」として一般に知られるものであり、コンピュータを用いた座標変換処理(数値計算)に広く利用されている数学的概念である。このようなクオータニオンqは、航行座標系(局地水平座標系)に対する船体固有座標系の相対回転角速度ベクトルの各要素P,Q,Rからなる対称行列Ψを媒介として時間変化率との間に下式(7)の関係がある。
【0043】
【数7】

【0044】
ここで、本方位測定装置の起動時つまり船舶が停泊している状態では、航行座標系におけるロール角φ及びピッチ角θは「0(ゼロ)」を初期値とすることができ、また航行座標系における方位角ψ(ヨー角)については、基準方位角演算部6aが第1位置P1及び第の位置P2に基づいて演算する基準方位角Ψを初期値とすることができる。すなわち、ロール角φ、ピッチ角θ及び方位角ψ(ヨー角)の各初期値をφ,θ,ψとすると、座標変換行列Cbnにおける各要素の初期値は式(8)のように表される。なお、船舶が航行中に本方位測定装置を起動した時点であっても、船舶の揺動に起因する誤差分は徐々に補正されるので、上述した初期値を用いて初期アライメント処理を行うことができる。
【0045】
【数8】

【0046】
そして、クオータニオンqの各要素q1,q2,q3,q4の初期値、つまり時刻t=0における各要素q1,q2,q3,q4の値は、上記座標変換行列Cにおける各要素の初期値及び式(5)から式(9)のように表される。この式(9)において、式(8)に基づいて初期値q4(0)を最初に求めることによって、残りの初期値q1(0),q2(0),q3(0)を求めることができる。すなわち、このようにしてクオータニオンqの各要素q1,q2,q3,q4の初期値q1(0),q2(0),q3(0),q4(0)が演算されることにより、座標変換行列Cの初期値が特定される。
【0047】
【数9】

【0048】
座標変換部6cは、このようにして座標変換行列Cの初期値を特定すると、当該初期値並びにロール角φ、ピッチ角θ及び方位角ψ(ヨー角)を用いることにより、航行座標系における船舶の姿勢(ロール角φ及びピッチ角θ)及び方位角ψを演算してジャイロ出力部6eに出力する。また、座標変換部6cは、上記座標変換行列Cの初期値を用いて加速度センサ2から入力されたX軸方向、Y軸方向、Z軸方向の加速度を航行座標系における加速度(変換加速度)に座標変換して純慣性航法演算部6dに出力する。
【0049】
そして、純慣性航法演算部6dは、このような変換加速度に基づいて航行座標系における船舶の速度v,v,v及び位置(緯度LAT,経度LON)を求めてジャイロ出力部6eに出力する。本方位測定装置の起動時には、船舶が停止中あるいは航行中に拘らずハイブリッド演算部6bから座標変換部6c及び純慣性航法演算部6dに出力される誤差推定値は誤差の大きいものであるが、上記初期値を用いて初期アライメント処理を複数回繰り返すことにより、上記誤差推定値に含まれる誤差は徐々に小さくなり、この結果、ロール角φ、ピッチ角θ、方位角ψ(ヨー角)、速度v,v,v及び位置(緯度LAT,経度LON)も誤差の小さなものとなる。
【0050】
このような起動処理が終了すると、座標変換部6cは、50Hzあるいは100Hzの周期で座標変換行列Cを更新する。そして、この更新後の座標変換行列Cを用いて上述したと同様に船舶の姿勢(ロール角φ及びピッチ角θ)及び方位角ψを演算してジャイロ出力部6eに出力すると共に、更新後の座標変換行列Cを用いて演算した変換加速度を純慣性航法演算部6dに出力する。そして、純慣性航法演算部6dは、このような変換加速度に基づいて航行座標系における船舶の速度v,v,v及び位置(緯度LAT,経度LON)を演算してジャイロ出力部6eに出力する。
【0051】
上記座標変換部6cは、上記対称行列Ψの各要素P,Q,Rを下式(10)によって求める。また、この式(10)の第2式における右辺第2項は、座標変換行列Cを用いて下式(11)のように表わされる。
【0052】
【数10】

【0053】
【数11】

【0054】
なお、この式(11)において、角速度Ωは約15.0410687°/hrとして与えられるものであり、またLは緯度、l(Lの小文字)は経度、hは高度、さらにRは地球の緯度方向における曲率半径、Rは地球の経度方向における曲率半径である。上記緯度Lの変化率及び経度lの変化率は下式(12)によって与えられる。なお、この式(12)において、h(i)=0、またR,R=「iの取り得る範囲(1〜4)の中の一定値」と近似することができる。
【0055】
【数12】

【0056】
このようにして対称行列Ψの各要素P,Q,Rは、i毎に一定のタイムインターバルで更新される値として求められる。また、上記座標変換部6cは、クオータニオンqの時間変化率ベクトルの各要素を下式(13)によって求め、このクオータニオンqの時間変化率ベクトルを上式(7)に代入することにより、一定タイムインターバル後のクオータニオンqを求める。そして、上記座標変換部6cは、この一定タイムインターバル後のクオータニオンqと式(5)とに基づいて更新後の座標変換行列Cを求める。
【0057】
【数13】

【0058】
ここで、一定タイムインターバル後のクオータニオンqを求めるに際して、座標変換部6cは、下式(14)に基づいて直交補正された要素q10,q20,q30,q40を要素q1,q2,q3,q4として用いることにより、より正確な更新後の座標変換行列Cを求める。
【0059】
【数14】

【0060】
このような直交補正によって得られた要素q1,q2,q3,q4からなる更新クオータニオンqを用いることにより座標変換行列Cの各要素は下式(15)のように表される。そして、上記座標変換部6cは、この下式(15)と上式(6)とによって更新後の座標変換行列Cを用いた新たな船舶の姿勢(ロール角φ及びピッチ角θ)及び方位角ψを求める。
【0061】
【数15】

【0062】
このような本方位測定装置によれば、ロール角φ及びピッチ角θの初期値を「0(ゼロ)」とし、また方位角ψ(ヨー角)の初期値を基準方位角Ψとすることにより、座標変換行列Cにおける各要素の初期値を高精度に特定することができる。また、本方位測定装置によれば、方位角中の初期値を基準方位角Ψによって一定周期(例えば1秒周期)にリセットする(置き換える)ので、高精度の方位角等を継続的に出力することが可能である。
【0063】
すなわち、従来の方位測定装置では基準方位角Ψを求める手段を備えていなかったので、座標変換行列Cの初期値の精度が低かったが、本方位測定装置では、第1GPS受信機4、第2GPS受信機5及び基準方位角演算部6aからなる基準方位角測定手段を備えており、起動時及びその後の一定周期毎に方位角中の初期値を基準方位角測定手段から得られる基準方位角Ψに置き換えるので、座標変換行列Cに関する初期値を高精度に特定することが可能であり、よって実航行時の方位誤差を低減することが可能である。
【0064】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記実施形態では、クオータニオンqを用いて座標変換行列Cを求めたが、本発明はこれに限定されない。例えば、上述した特開平6-265367号公報、特開平7-270176号公報、また特開平8-21740号公報等では、座標変換行列Cとその時間変化率を示す行列とを航行座標系に対する船体固有座標系の相対回転角速度ベクトルの歪対称行列によって関係付ける計算方法を採用しており、このような計算方法を本発明に適用することも可能である。
【0065】
(2)上記実施形態では、第1位置が示す第1受信アンテナ4aの位置と第2位置が示す第2受信アンテナ5aの位置とを結ぶ直線が船舶の基準方位角となるように、第1受信アンテナ4aを船舶の船首中央に、かつ、第2受信アンテナ5aを船舶の船尾中央に設けたが、本発明はこれに限定されない。例えば、船舶の形状と第1受信アンテナ4aの位置及び第2受信アンテナ5aの位置との関係を示すアンテナ配置データを基準方位角演算部6aに記憶させ、このアンテナ配置データ、第1受信アンテナ4aの位置及び第2受信アンテナ5aの位置から基準方位角Ψを求めるようにしてもよい。
【0066】
(3)上記実施形態では、基準方位角測定手段を第1GPS受信機4及び第2GPS受信機5を用いて構成したが、本発明はこれに限定されない。すなわち、基準方位角測定手段は、GPSに基づく測位システムに限定されず、GRONASS(Global Navigation Satellite System)あるいはGalileo(Galileo Positioning System)等、他の測位システムであってもよい。
【符号の説明】
【0067】
1…ジャイロ、2…加速度センサ、3…電磁ログ、4…第1GPS受信機、5…第2GPS受信機、6…演算装置、6a…基準方位角演算部、6b…ハイブリッド演算部、6c…座標変換部、6d…純慣性航法演算部、6e…ジャイロ出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に固定設置され、移動体直交座標系の各座標軸周りの角速度及び各座標軸方向の加速度を検出する慣性センサと、
移動体の移動体直交座標系における速度を基準速度として測定する速度計と、
移動体の航行座標系における位置を基準位置として測定する測位装置と、
各座標軸周りの角速度に基づいて移動体直交座標系と航行座標系とに関する座標変換行列を時系列的に順次演算し、該座標変換行列を用いて各座標軸周りの角速度から航行座標系における移動体の姿勢及び方位角を時系列的に順次演算すると共に各座標軸方向の加速度から航行座標系における移動体の速度及び位置を測定速度及び測定位置として時系列的に順次演算し、かつ、基準速度と測定速度との差分速度及び基準位置と測定位置との差分位置に基づいて少なくとも移動体の姿勢及び方位角の修正量を推定して移動体の姿勢及び方位角の演算に反映させる演算装置とを備えるストラップダウン方式の方位測定装置であって、
一定間隔を隔てて配置された2つに受信アンテナを備え、各受信アンテナで受信した測位用電波に基づいて各受信アンテナの位置を演算し、当該各受信アンテナの位置に基づいて移動体の基準方位角を測定する基準方位角測定手段をさらに備え、
演算装置は、該基準方位角測定手段から得られる基準方位角を用いて座標変換行列の初期値を決定することを特徴とする方位測定装置。
【請求項2】
演算装置は、クオータニオンを用いることにより座標変換行列の初期値を求めることを特徴とする請求項1記載の方位測定装置。
【請求項3】
基準方位角測定手段は、位置が既知の基準局が発信する電波を利用することによりGPS(Grobal Positioning System)に基づいて測定した各受信アンテナの位置を補正し、当該補正位置に基づいて基準方位角を算出するDGPS(Differential Grobal Positioning System)受信機であることを特徴とする請求項1または2記載の方位測定装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−202749(P2012−202749A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65863(P2011−65863)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000232357)横河電子機器株式会社 (109)
【Fターム(参考)】