説明

方向性電磁鋼板の製造方法

【課題】特別な設備や工程を必要とすることなく、鉄損の改善を図ることができる方向性電磁鋼板の有利な製造方法を提案する。
【解決手段】C:0.01〜0.08mass%、Si:2.0〜8.0mass%およびMn:0.005〜1.0mass%を含有する鋼素材を用いる方向性電磁鋼板の製造方法において、最高到達温度1100℃以上で仕上焼鈍を施した後、均熱温度が950〜1200℃で均熱保持時間が3hr以上の追加焼鈍を施すことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄損特性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、トランスの鉄心材料として広く用いられている軟磁性材料であり、磁気特性に優れる、中でも、鉄損特性に優れる(鉄損が低い)ことが求められている。斯かる特性を満たすものとして、二次再結晶を起こさせて、鋼板板面上の圧延方向にゴス方位と呼ばれる{110}<001>方位を高度に集積させた方向性電磁鋼板が開発され、実用化されているのは周知のとおりである。
【0003】
鋼板板面上の圧延方向に{110}<001>方位を高度に集積させる方法としては、インヒビターと呼ばれる析出物を利用して二次再結晶を制御する方法が一般的である。しかし、析出物(インヒビター)が製品鋼板中に残留すると、磁気特性の劣化につながるため、仕上焼鈍で二次再結晶させた後、引き続き高温焼鈍して不純物を除去する、いわゆる純化焼鈍を施すことが行われている。この純化焼鈍は、例えば、鋼板中の窒素濃度を0.0020mass%以下に低減するためには、1100〜1250℃の温度で3hr以上の焼鈍が必要とされるように、高温かつ長時間の条件で行う必要がある。
【0004】
そこで、純化焼鈍における焼鈍温度を低温度化することが検討されている。例えば、特許文献1には、インヒビターとしてAl,Nを含有する冷延板を二次再結晶させた後、水素ガスを含有する雰囲気中の窒素分圧を0.10気圧以下として、1000〜1250℃の温度で純化焼鈍を行うことによって、鋼板中のインヒビターを除去する純化焼鈍方法が開示されている。また、特許文献2には、鋼素材のCを0.01重量%以下に低減し、二次再結晶が完了した仕上焼鈍の後半で、925℃超え1050℃以下の温度で、H雰囲気中で純化焼鈍を行うことで、脱炭焼鈍を必要とせずに、C+Nを0.0020重量%以下に低減する技術が開示されている。
【0005】
また、最近では、インヒビターを含まない素材を用いて二次再結晶を起こさせ、ゴス方位粒を発達させる、いわゆる、インヒビターレス技術が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。この技術は、インヒビターとなる成分を極力排除し、一次再結晶粒の結晶粒界が有する粒界エネルギーの粒界方位差角依存性を顕在化させることで、インヒビターを用いることなく二次再結晶させてゴス方位粒を成長させるものである。この方法は、二次再結晶後にインヒビターを除去する工程が不要であるため、純化焼鈍を行う必要がないこと、また、インヒビターを鋼中に微細分散させる必要がないため、高温スラブ加熱も必要ないことなどから、コスト面や設備メンテナンス面で有利な方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−158557号公報
【特許文献2】特開平05−009666号公報
【特許文献3】特開2000−129356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年、省エネルギーを目的として、さらなる低鉄損化が要請されている。そこで、上記不純物(インヒビター成分)を純化する技術や、インヒビターレス技術に加え、さらに鉄損を低減する技術として、鋼板とは熱膨張率の異なる被膜を高温で形成して鋼板に張力を付与したり、磁区細分化処理を施したりする技術が開発されている。これらの技術の適用により、方向性電磁鋼板の鉄損は、かなり低いレベルまで改善された。しかし、昨今、地球環境を保護する観点から、省エネルギーへの要求は強くなる一方であり、方向性電磁鋼板に対してもさらなる鉄損の低減が求められている。
【0008】
しかしながら、上記技術で、さらなる鉄損の低減を図るには製造上問題がある。例えば、鋼板に張力を付与する技術は、高い張力を付与できる被膜としてTiNコーティングなどが開発されているが、特別な処理設備が必要となり、実用的ではない。また、磁区細分化技術は、物理的な溝の形成や、レーザー、プラズマ炎、電子ビームといった熱歪みを利用したものなど多岐に渡る提案がなされているが、いずれも、通常の方向性電磁鋼板の製造とは異なる特別な処理設備や工程が必要なり、製造工程が煩雑化したり、製造コストの上昇を招いたりしている。
【0009】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、特別な設備や工程を必要とすることなく、鉄損の改善を効率的に図ることができる方向性電磁鋼板の有利な製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、上記課題の解決に向け、仕上焼鈍後の製造工程に着目し、鋭意検討を重ねた。その結果、従来の純化焼鈍技術もしくはインヒビターレス技術をさらに改善する、即ち、従来の仕上焼鈍を行った後、さらに適正な条件で追加焼鈍を施すことで、大きな鉄損低減を実現できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
上記知見に基づき開発した本発明は、C:0.01〜0.08mass%、Si:2.0〜8.0mass%およびMn:0.005〜1.0mass%を含有する鋼素材を用いる方向性電磁鋼板の製造方法において、最高到達温度1100℃以上で仕上焼鈍を施した後、均熱温度が950〜1200℃で均熱保持時間が3hr以上の追加焼鈍を施すことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法である。
【0012】
本発明の方向性電磁鋼板の製造方法における上記鋼素材は、上記成分組成に加えてさらに、AlN系インヒビター成分としてAl:0.01〜0.065mass%およびN:0.005〜0.012mass%、および/または、MnS・MnSe系インヒビター成分としてS:0.005〜0.03mass%およびSe:0.005〜0.03mass%を含有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の方向性電磁鋼板の製造方法における上記鋼素材は、上記成分組成に加えてさらに、Al,N,SおよびSeをAl:0.0100mass%以下、N:0.0050mass%以下、S:0.0050mass%以下およびSe:0.0050mass%以下を含有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の方向性電磁鋼板の製造方法における上記鋼素材は、上記成分組成に加えてさらに、Ni:0.03〜1.50mass%、Sn:0.01〜1.50mass%、Sb:0.005〜1.50mass%、Cu:0.03〜3.0mass%、P:0.03〜0.50mass%、Mo:0.005〜0.10mass%およびCr:0.03〜1.50mass%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、特別な処理設備や製造工程を必要とすることなく鉄損特性の改善を図ることができるので、鉄損特性に優れる方向性電磁鋼板を安価にかつ安定して提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】仕上焼鈍後の追加焼鈍温度と磁束密度Bとの関係を示すグラフである。
【図2】仕上焼鈍後の追加焼鈍温度と鉄損W17/50との関係を示すグラフである。
【図3】仕上焼鈍後の追加焼鈍時間と鉄損W17/50との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明者らは、仕上焼鈍後、さらに別の焼鈍を施すことで鉄損を低減できないかを検討するため、以下の実験を行なった。
<実験1>
二次再結晶させた後、1200℃で均熱する仕上焼鈍を施した板厚が0.27mmの方向性電磁鋼板コイルの、仕上焼鈍による歪の少ない長手方向中央部かつ幅方向中央部からエプスタイン試験片を10組切り出し、750℃×5hrの平坦化焼鈍を施した後、磁化力800A/mでの磁束密度(B)と、交流50Hz、1.7T励磁条件での鉄損(W17/50)を測定した。
その後、改めてH雰囲気中で、800〜1250℃で5hrの追加焼鈍を施した後、上記と同様の条件で磁気特性の測定を行なった。
【0018】
図1は、追加焼鈍温度が磁束密度Bに及ぼす影響を示したものである。この図から、磁束密度Bは、いずれの追加焼鈍温度でも0.002T以上改善されているが、特に、追加焼鈍温度が高温になるほど改善代が増加する傾向があることがわかる。
また、図2は、追加焼鈍温度が鉄損W17/50に及ぼす影響を示したものである。この図から、鉄損W17/50は、いずれの追加焼鈍温度でも改善されるが、950〜1200℃の温度範囲で追加焼鈍した場合には0.02W/kg以上の改善代が、さらに、1000〜1100℃の範囲では0.03W/kg以上の改善代が得られることがわかる。したがって、鉄損低減効果を得るためには、追加焼鈍温度は950〜1200℃の範囲で行う必要があり、好ましくは1000〜1100℃の範囲であることがわかる。
【0019】
上記のように、磁気特性、特に鉄損特性を改善する適正な追加焼鈍温度が存在する理由について、現時点では、まだ十分明確とはなっていないが、以下のように考えている。
図2では、すべての追加焼鈍温度で鉄損特性の改善が認められているが、このうちの900℃以下で認められる鉄損特性の改善は、追加焼鈍前に行われた750℃×5hrの平坦化焼鈍後に残された湾曲形状が、追加焼鈍により解消されたためと考えられる。
【0020】
また、大きく鉄損が改善された950〜1200℃の温度範囲は、さらに別の要因が働いていると考えられる。すなわち、追加焼鈍後の鋼板断面をEBSD(Electron Backscatter Diffraction)観察およびSEM観察した結果からは、結晶粒内でのGN転位の再配列や、鋼板とフォルステライト被膜の界面の平滑性の変化が起こっている可能性が示唆されている。前者の原因であれば、適当な転位の再配列(転位が一列に並ぶ:ポリゴン化)によって結晶粒が小さくなったような効果が、また、後者の原因であれば、磁壁移動のピンニングが起こりにくくなったような効果が関係しているものと考えられる。このような原因による鉄損改善効果は、950℃以上で得られる。しかし、焼鈍温度が高くなるとともに、被膜中から鋼中への不純物元素の拡散が進み、鉄損が劣化する逆の効果が起こるようになる。そのため、鉄損改善に最適な追加焼鈍温度範囲が存在したものと考えられる。
【0021】
<実験2>
二次再結晶焼鈍と1180℃での純化焼鈍からなる仕上焼鈍を施した、磁区細分化のための溝を有する板厚0.23mmの方向性電磁鋼板コイルからエプスタイン試験片を6組切り出し、そのうちの5組については、平坦化焼鈍を施すことなくコイル形状を保持したまま、1050℃の温度で、保持時間を1〜5hrの範囲で1hrずつ変化させる追加焼鈍を施し、残りの1組については、追加焼鈍を施さないで比較用とした。次いで、上記追加焼鈍後の試験片と比較用の試験片に、60mass%のコロイダルシリカとリン酸アルミニウムからなる絶縁コートを塗布し、平坦化焼鈍を兼ねて800℃で焼付けた後、交流50Hz、1.7Tの励磁条件で鉄損W17/50を測定した。
上記測定の結果を図3に示した。図3から、保持時間が2hr以下では、鉄損低減効果が得られないこと、したがって、追加焼鈍による鉄損改善効果を得るためには均熱保持時間を3hr以上確保することが必要であることがわかる。
本発明は、上記新規な知見に基づき開発したものである。
【0022】
次に、本発明の方向性電磁鋼板の製造方法について説明する。
本発明の方向性電磁鋼板の製造方法は、仕上焼鈍後の方向性電磁鋼板に対してさらに追加焼鈍を施すところに特徴があり、仕上焼鈍までの製造条件および追加焼鈍後の製造条件については特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。
【0023】
ただし、優れた磁気特性を有する方向性電磁鋼板を得るためには、基本成分としてC,SiおよびMnを下記の範囲で含有する鋼スラブを用いることが必要である。なお、鋼の溶製方法、鋼スラブの製造方法については、常法に従って行えばよく、特に問わない。
C:0.01〜0.08mass%
Cは、一次再結晶時の集合組織の改善のために必要な元素であり、その効果を得るためには0.01mass%以上含有させる必要がある。一方、C添加量が0.08mass%を超えると、脱炭焼鈍で、磁気時効の起こらない0.0050mass%以下に低減することが困難となる。よって、Cは0.01〜0.08mass%の範囲とする。
【0024】
Si:2.0〜8.0mass%
Siは、鋼の電気抵抗を高め、鉄損を改善するのに有効な元素であるが、含有量が2.0mass%未満では、十分な鉄損低減効果が得られない。一方、8.0mass%を超えると、加工性が著しく低下して圧延して製造することが難しくなり、また、磁束密度も低下する。よって、Siは2.0〜8.0mass%の範囲とする。
【0025】
Mn:0.005〜1.0mass%
Mnは、熱間加工性を改善するために必要な元素であるが、含有量が0.005mass%未満では、上記効果は得られず、一方、1.0mass%を超えると、磁束密度が低下するようになる。よって、Mnは0.005〜1.0mass%の範囲とする。
【0026】
また、本発明の方向性電磁鋼板は、二次再結晶を起こさせるためにインヒビターを用いる場合には、例えば、AlN系インヒビターを利用するときには、AlおよびNをそれぞれAl:0.01〜0.065mass%、N:0.005〜0.012mass%の範囲で含有させることが好ましく、また、MnS・MnSe系インヒビターを利用するときには、Seおよび/またはSを、それぞれS:0.005〜0.03mass%、Se:0.005〜0.03mass%の範囲で含有させることが好ましい。
【0027】
一方、二次再結晶を起こさせるためにインヒビターを用いない場合には、インヒビター成分であるAl,N,SおよびSeは、それぞれAl:0.0100mass%以下、N:0.0050mass%以下、S:0.0050mass%以下、Se:0.0050mass%以下に低減するのが好ましい。
【0028】
また、本発明の方向性電磁鋼板は、磁気特性の改善を目的として、上記成分組成に加えてさらに、Ni:0.03〜1.50mass%、Sn:0.01〜1.50mass%、Sb:0.005〜1.50mass%、Cu:0.03〜3.0mass%、P:0.03〜0.50mass%、Mo:0.005〜0.10mass%およびCr:0.03〜1.50mass%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有させてもよい。
Niは、熱延板組織を改善して磁気特性を向上させるのに有用な元素である。しかし、0.03mass%未満では上記効果が小さく、一方、1.50mass%を超えると二次再結晶が不安定となり磁気特性が劣化する。また、Sn,Sb,Cu,P,MoおよびCrは、磁気特性の向上に有用な元素であるが、いずれも上記下限値未満では磁気特性向上効果が小さく、一方、上記した各上限値を超えると、二次再結晶粒の発達が阻害されるようになるため、それぞれ上記範囲で含有させることが好ましい。
なお、上記成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
【0029】
成分組成を上記適正範囲に調整した鋼スラブは、その後、常法に従って、スラブ再加熱し、熱間圧延し、必要に応じて熱延板焼鈍した後、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延して最終板厚の冷延板とし、その後、上記冷延板に、脱炭を兼ねた一次再結晶焼鈍を施し、焼鈍分離剤を塗布した後、二次再結晶と純化のための仕上焼鈍を施して方向性電磁鋼板とする。なお、脱炭は、上記一次再結晶焼鈍を湿潤雰囲気とすることで行うことができるが、別途行ってもよい。
【0030】
上記仕上焼鈍における二次再結晶焼鈍後の純化焼鈍は、二次再結晶にインヒビターを利用している場合には、最高到達温度を1100℃以上とする必要があり、均熱時間は3hr以上とするのが好ましい。1100℃未満の温度では、析出物が分解して鋼板表面まで拡散することができないため、十分な純化が得られないからである。
一方、二次再結晶にインヒビターを用いない場合には、窒素などが十分に低減できていれば必ずしも純化焼鈍は必要ではないが、良好なフォルステライト被膜を形成させるためには、1100℃以上の高温焼鈍が必要である。
【0031】
本発明の方向性電磁鋼板の製造方法は、上記仕上焼鈍に引き続き、さらに、鉄損特性の改善を目的として、950〜1200℃の均熱温度で3hr以上保持する追加焼鈍を施すところに特徴がある。上記焼鈍温度が950℃未満あるいは1200℃を超えると、図2に示したように、鉄損改善効果が限定的なものに留まり、十分な効果が得られない。
また、均熱保持時間が3hr未満では、図3に示したように、やはり十分な鉄損低減効果が得られない。なお、均熱保持時間の上限については特に規定しないが、必要以上の長時間焼鈍は、熱エネルギーの無駄や焼鈍炉の損傷を招いたり、生産性を低下させて製造コストの上昇を招いたりするので、24hr以下とするのが好ましい。
【0032】
なお、この追加焼鈍は、仕上焼鈍したコイルをいったん800℃以下に冷却した後に行う必要がある。仕上焼鈍後、温度を十分に低下させずに、単に、仕上焼鈍の保持時間を延長するだけでは、同様の鉄損改善効果は認められない。これは、フォルステライト被膜が完全に形成され、冷却によって鋼板に張力がある程度付与された後、再度加熱下場合には、その張力が緩和するとともに、GN転位の再配列(ポリゴン化)が生じたり、フォルステライト被膜のアンカー形状の変化(平滑性向上)が生じたりして、特性改善の条件が満たされるためと考えられる。
【0033】
なお、本発明の追加焼鈍は、一旦、冷却することが可能であれば、仕上焼鈍に用いた炉をそのまま用いて行うことができる。また、追加焼鈍時の雰囲気ガスは、短時間でコイルを均一に昇温して生産性を高める観点から、熱伝達係数の高いガスを用いるのが望ましく、例えば、HガスあるいはH混合ガスを用いるのが好ましい。
【0034】
追加焼鈍したコイルは、その後、公知の方法で製品コイルとすればよく、例えば、コロイダルシリカと、リン酸マグネシウムやリン酸アルミニウム等のリン酸塩からなる張力絶縁コーティングを塗布・焼付して製品コイルとすることができ、あるいは、さらに平坦化焼鈍を行ってもよい。
【0035】
上記本発明によれば、仕上焼鈍に用いた炉を用いて追加焼鈍を行なうことができるので、新たな処理設備や製造工程を必要とすることなく、鉄損特性に優れた方向性電磁鋼板を安定してかつ安価に製造することが可能となる。
【実施例1】
【0036】
C:0.05mass%、Si:3.0mass%、Mn:0.02mass%、Al:0.02mass%、N:0.01mass%、S:0.005mass%およびSe:0.01mass%を含有する、インヒビター成分を含む鋼スラブを常法に従って熱間圧延し、冷間圧延して最終板厚が0.27mmの冷延板とした後、常法に従って脱炭を兼ねた一次再結晶焼鈍し、MgOを主成分とした焼鈍分離剤を塗布し、その後、二次再結晶焼鈍と、均熱温度1200℃で10hr均熱保持する純化焼鈍を含む仕上焼鈍を施した方向性電磁鋼板を7コイル準備した。これらのうち6コイルをコイル形状のまま、H:70vol%+N:30vol%の雰囲気下で、焼鈍温度を900℃、1050℃、1200℃および1250℃の4水準、均熱時間を1hrと5hrの2水準に変化させて追加焼鈍し、残りの1コイルについては、追加焼鈍せずに参考コイルとした。その後、上記の各コイルに、60mass%のコロイダルシリカとリン酸アルミニウムからなる絶縁コートを塗布し、800℃で焼き付けて製品コイルとした。
【0037】
斯くして得た各製品コイルの長手方向中央部かつ幅方向中央部からエプスタイン試験片を切り出し、鉄損W17/50を測定し、その結果を、焼鈍条件と併せて表1に示した。表1から、仕上焼鈍(純化焼鈍)後、本発明に適合する条件で追加焼鈍した製品コイルでは、鉄損W17/50が0.02W/kg以上改善されていることがわかる。
【0038】
【表1】

【実施例2】
【0039】
表2に示した成分組成を有する各種の鋼スラブを、常法に従って熱間圧延し、冷間圧延して最終板厚が0.30mmの冷延板とし、脱炭を兼ねた一次再結晶焼鈍し、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布した後、同じく表2に示した条件で二次再結晶焼鈍と純化焼鈍を含む仕上焼鈍を施して方向性電磁鋼板とした。なお、上記方向性電磁鋼板は、各条件で2コイルずつ製造した。次いで、上記2コイルのうちの1コイルには、コイル形状のまま、100vol%Hの雰囲気下で、表2に示した条件で追加焼鈍を施した後、また、残りの1コイルは追加焼鈍することなく、鋼板表面に60mass%のコロイダルシリカとリン酸アルミニウムからなる絶縁コートを塗布し、800℃で焼き付けて製品コイルとした。
【0040】
斯くして得た各製品コイルの長手方向中央部かつ幅方向中央部からエプスタイン試験片を切り出し、鉄損W17/50を測定し、その結果を、焼鈍条件と併せて表2に示した。
表2から、本発明に適合する成分組成の方向性電磁鋼板に、本発明に適合する条件で追加焼鈍した製品コイルでは、鉄損特性に優れた方向性電磁鋼板が得られていることがわかる。
【0041】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.01〜0.08mass%、Si:2.0〜8.0mass%およびMn:0.005〜1.0mass%を含有する鋼素材を用いる方向性電磁鋼板の製造方法において、
最高到達温度1100℃以上で仕上焼鈍を施した後、均熱温度が950〜1200℃で均熱保持時間が3hr以上の追加焼鈍を施すことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項2】
上記鋼素材は、上記成分組成に加えてさらに、AlN系インヒビター成分としてAl:0.01〜0.065mass%およびN:0.005〜0.012mass%、および/または、MnS・MnSe系インヒビター成分としてS:0.005〜0.03mass%およびSe:0.005〜0.03mass%を含有することを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項3】
上記鋼素材は、上記成分組成に加えてさらに、Al,N,SおよびSeをAl:0.0100mass%以下、N:0.0050mass%以下、S:0.0050mass%以下およびSe:0.0050mass%以下を含有することを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項4】
上記鋼素材は、上記成分組成に加えてさらに、Ni:0.03〜1.50mass%、Sn:0.01〜1.50mass%、Sb:0.005〜1.50mass%、Cu:0.03〜3.0mass%、P:0.03〜0.50mass%、Mo:0.005〜0.10mass%およびCr:0.03〜1.50mass%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−149292(P2012−149292A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7855(P2011−7855)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】