説明

方法

本発明は、計画された炎症トリガーの後の患者において認知機能低下を予防又は低減するための方法、使用及び剤を提供する。そのような計画された炎症トリガーは、外科的処置又は化学療法であり得る。本発明はさらに、炎症トリガーに曝露された、認知障害を有する患者において、認知機能低下を低減するための方法、使用及び剤を提供する。医薬組成物及びキットも提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手術又は他の炎症トリガーの後の患者において認知機能低下を予防又は低減するための方法、使用及び剤に関する。
【背景技術】
【0002】
記憶、注意力及び知覚に関与する精神活動である認知は、しばしば疾病の結果として低下し得る(Fortonら、2001年; Hopkinsら、2005年; Helfinら、2005年)。認知機能の障害は、主要な感染症(Capuronら, 1999);総称して疾病行動として知られている嗜眠から引きこもりにわたる一連の症状、及び記憶障害を生み出す脳へのシグナルである、末梢におけるサイトカインの上昇(Dantzer, 2004)と関連する、感染に対する炎症反応において顕著に目立っている。疾病行動の機能は、疾病及び傷害からの回復を促進することである(Bolles及びFanselow, 1980)。
【0003】
認知の障害は手術の結果として生じるということも示されている(Mollerら, 1998)。術後認知機能障害(POCD)と呼ばれるが、これは、記憶、注意力、意識、情報処理及び睡眠・覚醒サイクルの撹乱を特徴とし、術後罹患率及び死亡率につながる(Bohnenら, 1994; Monkら, 2008)。POCDは高齢患者において最も発生率が高いが(Mollerら, 1998)、他の年齢の集団でも発生する(Johnsonら, 2002)。
【0004】
POCDの正確な病因は知られておらず、患者に関連する因子と同様に周術期の因子が関与している可能性がある(Newmanら, 2007);動物実験により、麻酔により誘導される脳内の変化は麻酔薬の体外への排出よりも長く続き(Futtererら, 2004)、ある状況下では持続性の認知機能障害を生成できる(Culleyら, 2003)、ということが示唆されている通り、全身麻酔薬が関係している。しかしながら、部分麻酔後のPOCDの発生率は全く低下しないようであり(Campbellら, 1993; Williams-Russoら, 1995)、従って全身麻酔薬が原因として働いている可能性は低いようである。
【0005】
Wanら (2007) Anaesthesiology 106: 436-43は、成熟ラットにおける脾臓摘出後の認知機能低下が、炎症性サイトカイン依存のグリア細胞活性化に起因しているであろう海馬の炎症反応に関係している、ということを示唆している。
【0006】
Rosczykら (2008) Exp. Gerontology 43: 840-46は、高齢のマウスでは(若いマウスと比較して)小手術によって神経系の炎症反応が悪化するが、このことは記憶テストの成績の有意な低下をもたらさないということを見出した。
【発明の概要】
【0007】
本願発明者らは、認知機能の生体モデルを使用し、驚くべきことに、生体内でのインターロイキン1(IL-1)のシグナリング及び/又は腫瘍壊死因子α(TNFα)のシグナリングの切断(ablation)により、手術で誘導される認知機能低下が防止されることを見出した。
【0008】
第1の局面では、本発明は、治療に有効な量の腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)アンタゴニストを患者に投与することを含む、該患者における計画された炎症トリガーの後の認知機能低下を予防又は低減する方法を提供する。
【0009】
第2の局面では、本発明は、患者における計画された炎症トリガーの後の認知機能低下を該患者において予防又は低減するための医薬を製造するための、治療に有効な量の腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)アンタゴニストの使用を提供する。
【0010】
第3の局面では、本発明は、患者における計画された炎症トリガーの後の認知機能低下を該患者において予防又は低減するための剤であって、治療に有効な量の腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)アンタゴニストを含有する剤を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】手術で誘導される全身性炎症は、海馬のIL-1βの発現増大と関連し、ミノサイクリンによってブロックされる。IL-1β及びIL-6の血漿中レベルは、介入処置後2, 6, 24又は72時間にELISAで測定した。同一の麻酔薬を手術なしで投与されたマウス(麻酔)又は無処置動物と比較したところ、手術によりIL-1β (A) 及びIL-6 (B) の血漿レベルが増大した。抗炎症作用を有する抗生物質であるミノサイクリンの投与 (40 mg/kg, i.p.)は、手術で誘導された血漿中IL-1β及びIL-6の上昇を低減した。ミノサイクリンと類似する抗菌剤であるが抗炎症作用を欠くエンロフロキサシンは、生理食塩水を注射した手術処置同腹仔(手術)と比較したところ、IL-1βの血漿レベルを低減できなかった(n=6)。手術6時間後、海馬におけるIL-1βの発現は、無処置群及び麻酔群と比較して増加した(C)。ミノサイクリンの投与により、手術で誘導されたIL-1β媒介性の海馬の炎症が軽減されたが(n=7)、エンロフロキサシン投与では軽減されなかった。データは平均値±SEMであり、手術群又はエンロフロキサシン群に対する無処置群、麻酔薬群及びミノサイクリン群の間の比較で***はp<0.001; *はp<0.05。
【図2】手術は海馬におけるIL-1βとIL-6の転写を誘導する。手術の4, 6又は24時間後に抽出した海馬サンプルにおいて、IL-1β (A) 及びIL-6 (B) のmRNAを定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)により測定した。無処置動物をコントロールとして用いた。手術の結果、無処置群と比較して、手術6時間後に海馬におけるIL-1β及びIL-6双方の転写が増大し、手術後24時間までに正常値まで戻った(n=6)。データは倍率変化(fold change)の平均値±SEMであり、***は手術群対無処置群の間の比較でp<0.001。
【図3】抗CD11bによる小膠細胞の免疫組織化学的検査 (A, B, C, D)。処置の1, 3又は7日後に海馬を採取し(写真は1日後に採取した組織である)、アビジン−ビオチン法により染色した。無処置群(A)、麻酔薬単独群(B)、手術群(C)、及びミノサイクリン処置した手術群(D)からの代表的な顕微鏡写真である。手術後に見られる細胞体のアメーバ様肥大、及び突起の凝集は、ミノサイクリン投与によって防止された。スケールバーは30μm。小膠細胞の免疫組織化学的等級付け(0-3)に関して、25〜75(箱)及び10〜90(髭)パーセンタイルと共に中央値(水平方向のバー)を示す(E, F, G)。手術1日後のマウスは、無処置、麻酔薬単独、又はミノサイクリン処置した手術マウスと比較して有意に高いレベルの反応性小膠細胞症を示した(E)。手術3日後、無処置動物と比較して、マウスは反応性小膠細胞の増加を示し続けていた(F)。7日目までには小膠細胞の活性化は正常まで戻った(G)。群間の有意差については、**及び*は無処置動物との比較でそれぞれp<0.01及びp<0.05; #は麻酔群との比較でp<0.05; †はミノサイクリン群との比較でp<0.05; (n=7)。
【図4】海馬依存性の恐怖記憶の想起は手術後に障害される。齧歯動物に恐怖条件付けを施し、30分後にグループ分けして麻酔薬投与(麻酔)、又は麻酔下での脛骨手術(手術)、又は同様の手術処置と共にミノサイクリン投与(ミノサイクリン)若しくはエンロフロキサシン投与(エンロフロキサシン)をそれぞれ行なった。無処置群には何らの処置も施さなかった。3日後に文脈記憶及び聴覚手掛かり記憶を検査した。A. すくみ行動によって測定した文脈的遅延型恐怖条件付け記憶の想起は、無処置群及び麻酔群と比較して手術群で障害されていた。ミノサイクリンの投与により、手術で誘導されるすくみの減少が緩和されたが、エンロフロキサシン投与では緩和されなかった。*は無処置群、麻酔群及びミノサイクリン群との比較でp<0.05 (n=34)。B. 遅延型恐怖条件付け後の聴覚手掛かりテストにおけるすくみ行動。ベースラインについても聴覚手掛かりに関連するすくみ行動についても、群間で差異は認められなかった。このことは、扁桃体依存の記憶機能が手術後も無損であることを示唆している(n=34)。C. 追跡型恐怖条件付け後の文脈に対するすくみ行動。手術に付されたマウスは、無処置動物と比較して文脈に対するすくみが減少していた。このことは、手術によって誘導された炎症が追跡型条件付け後に海馬で形成された恐怖文脈記憶の想起を乱すということを示している。*p<0.05; (n=28)。D. 追跡型恐怖条件付けで訓練されたマウスにおける聴覚手掛かりテストで、海馬依存の手術誘導性記憶障害が示される。聴覚手掛かりに関連するすくみ行動には群間で有意差があり、このことは、手術後は聴覚が手掛かりとなる海馬依存の記憶の想起が乱されていることを示唆している。すくみ行動のベースラインには差異がなかった。*p<0.05; (n=28)。
【図5】IL-1シグナリングが不能又は低下しているマウスでは手術で誘導される炎症が緩和される。IL1R-/-マウスにおける、抗CD11bを用いた海馬小膠細胞の免疫組織化学的検査 (A-B)。無処置 (A) 及び術後24時間の手術処置IL-1R-/-マウス由来の代表的な小膠細胞。スケールバーは30μm。IL1R-/-マウスにおける小膠細胞症の箱髭図 (C)。小膠細胞症の等級付けは、IL1R-/-マウスでは無処置の同腹仔との比較で処置1日後の時点で手術により小膠細胞が活性化しなかったことを示している。IL1R-/-マウス及び手術前にIL-1Rアンタゴニストで前処置したWTにおける血中IL-1β(D)。IL1R-/-マウスと、手術前にIL-1Raで処置したWT動物とのいずれにおいても、24時間の時点で、手術はIL-1βの有意な増加を誘導しなかった。データは平均値±SEMを表す。***は他のいずれかの群との比較でp<0.001; n=6。N WT=無処置の野生型; S WT=手術処置した野生型; S WT RA=手術前にIL-1Raで前処置した野生型; S IL1R-/-=手術処置したIL-1R欠損マウス; N IL1R-/-= 無処置のIL-1R欠損マウス。
【図6】IL-1受容体アンタゴニスト (IL-1Ra) は手術後の海馬の神経系炎症を防止する。IL-1Raで前処置したWTマウスにおける、抗CD11bを用いた海馬小膠細胞の免疫組織化学的検査(A-B)。IL-1Raで前処置した、無処置 (A) 及び手術処置マウス (B) 由来の代表的な顕微鏡写真。スケールバーは30μm。IL-1Ra投与手術処置マウスにおける小膠細胞症の等級付けについての箱髭図(C)。小膠細胞症の等級付けは、IL-1Raが術前に投与された場合には手術によって小膠細胞が活性化されなかったことを示している。IL1Raを前投与した手術処置マウスにおける海馬のIL-1β発現(D)。IL-1Ra処置され手術されたマウスでは、海馬IL-1βは無処置マウスと比較して有意に増大しなかった。全ての評価は手術の24時間後に実施された。データは平均値±SEMを表す; n=6。
【図7】手術により誘導される文脈的恐怖記憶の障害はIL-1受容体アンタゴニスト(IL-1Ra)の先制投与により防止される。A. 手術前に注入されたIL-1Raにより、手術で誘導されるすくみ行動の減少が有意に低下した。*p<0.05; (n=30)。B. 遅延型恐怖条件付け後の聴覚手掛かりテストにおけるすくみ行動。ベースライン及び聴覚手掛かりに関連するすくみ行動のいずれにも、群間で差異がなかった。このことは、手術もIL-1Raも扁桃体依存の記憶機能には影響を及ぼさないことを示唆している(n=30)。データはすくみ反応の百分率の平均値±SEMを表す。
【図8】手術が条件付けの3日後に遅れて実施された場合には、文脈記憶及び聴覚手掛かり記憶の想起は影響を受けない。A. 遅延型恐怖条件付けの3日後に手術を受けたマウスにおける、文脈に対するすくみ。処置の3日後に実施された手術は、無処置動物と比較したところ文脈に対するすくみに影響を及ぼさなかった。(n=28)。B. 遅延型恐怖条件付けによる訓練後の聴覚手掛かりテストにおけるすくみ。ベースラインにも聴覚手掛かりに関連するすくみ行動にも、群間で差異がなかった。(n=28)。
【図9】LPS曝露後の炎症反応。時間0においてマウスにLPSを注射し、TNFα, IL-1β, IL-6及びHMGB-1の血漿レベルをELISAにより測定した。TNFαは、30分後に増加し、2時間でピークに達した後、ベースラインに戻った (A; 無処置に対して*はp < 0.01; ***はp < 0.001)。IL-1βは、LPS投与から2時間後に検出され、24時間まで徐々に増加し続けた(B; ***は無処置に対してp < 0.001)。IL-6の発現は2時間で大幅に上昇し、6時間で減少したが、24時間の時点で依然として無処置動物と比較して有意に検出可能であった(C; 無処置に対してそれぞれ***はp < 0.0001; **はp < 0.001)。HMGB1レベルは1日目から増加し始め3日目まで増加していた(D; 無処置に対して**はp < 0.001; ***はp < 0.0001)。qPCRの結果、末梢LPS注射の6時間後にマウス海馬内でIL-1β(E)及びIL-6(F)のmRNA発現増大が認められた(無処置に対してp < 0.001); mRNA発現は1日目までに正常に戻った。データは平均値±SEMを表し(n = 6)、1元配置分散分析及びStudent-Newman-Keuls法により比較を行なった。
【図10】IL-1の遮断により全身性サイトカイン放出が低下する。動物はLPS投与か(LPS)、又はLPS曝露の直前にIL-1Ra処置を受けた(RA)。2, 6, 及び24時間の時点で、IL-1β及びIL-6の血漿レベルをELISAにより測定した。IL-1Raの先制投与により、6時間(A; *はLPSに対しp < 0.01)及び24時間(***はLPSに対しp <0.001)の時点での血漿中IL-1β量が有意に減少した。IL-6は同様の傾向を示し、6時間(B; ***はLPSに対しp < 0.001)及び24時間(**はLPSに対しp < 0.001)の時点で血漿中濃度が強く低下した。これらの結果の裏付けを取るため、IL-1R-/- (-/-)においてIL-1βとIL-6のレベルを測定した(A-B, LPSに対してそれぞれ***はp < 0.0001、**はp < 0.001)。IL-1Ra又はIL-1R-/-は血漿中へのHMGB-1の放出に何ら影響しなかった(C)。データは平均値±SEMを表し、(n = 6) 1元配置及び2元配置(IL1R-/-)分散分析並びにStudent-Newman-Keuls法により比較を行なった。
【図11】IL-1の遮断により小膠細胞活性化が低下する。LPS投与後1, 3, 7日目に海馬を採取し、抗CD11bで染色した。写真はCA1を表し (スケールバー50μm, 20X)、顕微鏡写真は盲検的にスコア化し、小膠細胞の活性化はスケール0(最低)〜3(最高)で等級付けした。パネル1: LPS。無処置(A)と比較して、LPS注射後1日目及び3日目で反応性小膠細胞が確認された(B-C)。休止していた小膠細胞(ボックスA, 40X)は「反応性状態」にシフトした(ボックスB, 40X)。パネル2: IL-1Ra。1日目と3日目の両時点で、IL-1Ra投与後に反応性小膠細胞数の減少が観察され(E-F)、コントロール(D)からの変化はなかった。パネル3: IL-1R-/-。IL-1R-/-へのLPS投与は、評価したいずれの時点においても小膠細胞活性化を誘導しなかった(G-H-I)。免疫組織化学的等級付け(0-3)に関する中央値(水平バー)並びに25〜75パーセンタイル (箱) 及び10〜90パーセンタイル(髭) をパネル1, 2, 及び3に示す。LPS投与の1日後に明瞭な小膠細胞症が発見され、これはIL-1Ra処置により減弱された (1日目の**は無処置に対しp < 0.001、3日目の*は無処置に対しp < 0.05)。IL-1 Ra投与後とIL-1R-/-の両者において、小膠細胞症の有意な減少が認められた(n = 4)。ノンパラメトリックなデータは、Kruskal-Wallis及びこれに続くDunnの検定で表されている。
【図12】先制的なIL-1 Raにより文脈恐怖反応が改善される。訓練後30分以内にマウスにLPSを注射した。3日後、恐怖条件付けを先に実施した同一の文脈にげっ歯類を曝した。文脈恐怖反応は、明確な海馬依存の記憶障害を明らかにしている(A, **は無処置に対しp < 0.005)。IL-1Raでの前処置により、3日目の時点で疾病行動の主症状が消失し、記憶保持が有意に改善された (A, *はLPSに対しp < 0.05)。聴覚手掛かりテストは、群間又はベースラインのすくみにいかなる差異も示さなかった(B)。データは平均値±SEMを表し (急性行動についてはn = 9)、1元配置分散分析及びStudent-Newman-Keuls法により比較を行なった。
【図13】手術後の全身性TNFα。成熟マウスに全身麻酔下で脛骨の手術を行なった(Sx)。介入処置の30分後、1, 2, 6及び24時間後に血漿サンプルを採取し、ELISAで測定した。術後1時間の時間枠内で正の傾向が観察された。データは平均値±SEMを表しn=6、1元配置分散分析及びStudent-Newman-Keuls法により比較を行なった。S=手術
【図14】抗TNFα予防法の効果。成熟マウスに全身麻酔下で脛骨の手術を行なうか(Sx)、又は、手術の18時間前に抗TNFα予防法を行なうと共に同様の外科的処置を行なった(Ab)。コントロール群は無処置動物で構成された。抗TNFαの先制投与により、介入処置後6時間及び24時間の両時点において、ELISAで測定したところの全身性IL-1βの量が低下した(A, sxとの比較でそれぞれ**はp<0.01, ***はp<0.001)。抗TNFα予防法はまた、手術後6時間及び24時間の両時点におけるIL-6の全身レベルも低下させた(B, sxとの比較でそれぞれ**はp<0.01, *はp<0.05)。抗TNFαの投与が遅れると(凡例D)、IL-1β及びIL-6の両者の評価には手術から何らの変化も生じなかった。脛骨手術により海馬のIL-1βレベルが増大し、この増大は処置後に低減させることができた(C, **はsxに対してp<0.01)。手術1日後における海馬内小膠細胞の抗CD11bによる免疫組織化学的検査。写真はCA1であり (スケールバー50μm, 20X)、顕微鏡写真は盲検的にスコア化し、小膠細胞の活性化はスケール0(最低)〜3(最高)で等級付けした。無処置(D)及び抗TNFα処置マウス (F)のいずれも、反応性の小膠細胞症の証拠を示さなかった。反応性小膠細胞は手術を受けた動物において認められた(E)。免疫組織化学的等級付け(0-3)に関する中央値(水平バー)並びに25〜75パーセンタイル(箱)及び10〜90パーセンタイル(髭)をデータの説明のために示す(G)。手術1日後では、治療後に小膠細胞症が明らかに低下している(**はsxに対しp<0.01)。文脈恐怖反応は、明確な海馬依存の記憶障害を明らかにしている (H, *は無処置に対しp<0.05)。抗TNFαでの前処置により、記憶保持が改善された (*はsxに対しp<0.05)。データは平均値±SEMを表しn = 6 (急性行動についてはn = 10)、1元配置分散分析及びStudent-Newman-Keuls法により比較を行なった。ノンパラメトリックなデータは、Kruskal-Wallis及びこれに続くDunnの検定で表されている。Sx=手術、Ab=抗体、D=抗体の遅れた投与
【図15】IL-1β及びTNFαの役割。成熟MyD88-/-マウスに全身麻酔下で脛骨の手術を行なった(Sx)。コントロール群はMyD88-/-無処置動物で構成された。IL-1β(A, 手術処置WTに対しそれぞれ++はp<0.001, +はp<0.01)及びIL-6(B, 手術処置WTに対しそれぞれ+++はp<0.001, ++はp<0.001)の全身レベルは、6時間及び24時間の両時点で、MyD88-/-において手術後に有意に低下した。IL-1βの海馬内レベルには変化が認められなかった(C)。無処置(D)及び手術処置MyD88-/-(E)のいずれも、反応性の小膠細胞症の証拠を示さなかった。免疫組織化学的等級付け(0-3)に関する中央値(水平バー)並びに25〜75パーセンタイル(箱)及び10〜90パーセンタイル(髭)をデータの説明のために示す(F)。文脈恐怖反応は、MyD88-/-において手術後の海馬依存性記憶障害がないことを明らかにした(G)。成熟MyD88-/-マウスに、手術の18時間前に抗TNFα予防法を施した上で、全身麻酔下で脛骨の手術を行なった(Ab)。抗TNFαの先制投与により、介入処置後6時間及び24時間の両時点において、ELISAで測定したところの全身性IL-1β量がベースラインまで低下した(H, sxとの比較でそれぞれ***はp<0.001, *はp<0.01)。IL-6レベルも測定したところ同様の低下が認められ、両時点において値がベースラインまで戻っていた(H, sxとの比較でそれぞれ***はp<0.001, **はp<0.01)。データは平均値±SEMを表しn = 6 (急性行動についてはn = 10)、1元配置分散分析及びStudent-Newman-Keuls法により比較を行なった。ノンパラメトリックなデータは、Kruskal-Wallis及びこれに続くDunnの検定で表されている。Sx=手術, Ab=抗体, D=抗体の遅れた投与
【図16】TLR4-/-における抗TNFα予防法。成熟TLR4-/-マウスに全身麻酔下で脛骨の手術を行なうか(Sx)、又は、手術18時間前に抗TNFα予防処置を行なうと共に同様の外科的処置を行なった(Ab)。コントロール群はTLR4-/-無処置動物で構成された。抗TNFαの先制投与により、介入処置後6時間及び24時間の両時点において、ELISAで測定したところの全身性IL-1β量がベースラインまで低下した(A, sxとの比較でそれぞれ**はp<0.01, ***はp<0.001)。IL-6レベルにも同様の低下が認められ、両時点において値がベースラインまで戻っていた(B, sxとの比較でそれぞれ***はp<0.001, **はp<0.01)。TLR4-/-は神経系の炎症の兆候を示したが、海馬のIL-1βレベルは抗TNFα予防法により低下した(C, sxに対し*はp<0.01)。手術1日後における海馬内小膠細胞の抗CD11bによる免疫組織化学的検査。写真はCA1であり(スケールバー50μm, 20X)、顕微鏡写真は盲検的にスコア化し、小膠細胞の活性化はスケール0(最低)〜3(最高)で等級付けした。無処置(D)及び抗TNFα処置マウス(F)のいずれも、反応性の小膠細胞症の証拠を示さなかった。反応性小膠細胞は手術を受けたTLR4-/-において認められた(E, **は無処置群及びab群に対してp<0.01)。免疫組織化学的等級付け(0-3)に関する中央値(水平バー)並びに25〜75パーセンタイル(箱)及び10〜90パーセンタイル(髭)をデータの説明のために示す(G)。文脈恐怖反応は、WTと同様の明確な海馬依存性記憶障害を明らかにしている(H, *は無処置に対しp<0.05)。データは平均値±SEMを表しn = 6 (急性行動についてはn = 10)、1元配置分散分析及びStudent-Newman-Keuls法により比較を行なった。ノンパラメトリックなデータは、Kruskal-Wallis及びこれに続くDunnの検定で表されている。Sx=手術, Ab=抗体
【図17】術後LPSが神経系炎症と行動に及ぼす効果。手術後3日目及び7日目に海馬を採取し、抗CD11bで染色した。写真はCA1であり(スケールバー50μm, 20X)、顕微鏡写真は盲検的にスコア化し、小膠細胞の活性化はスケール0(最低)〜3(最高)で等級付けした。パネル1: 手術。無処置(A)と比較すると、術後3日目(postoperative day; POD)に反応性小膠細胞が認められ、7日目までに正常に戻った(B-C)。パネル2: 手術+LPS。コントロール(D)と比較すると、中等度及び軽度の小膠細胞症が3日目及び7日目にそれぞれ観察された(E-F)。パネル3: LPS。処置なしの動物(G)と比較すると、LPS注射後3日目に反応性小膠細胞が認められたが(H)、7日目では有意な変化がなかった(I)。免疫組織化学的等級付け(0-3)はパネル1及び2を説明したものである。POD3では、手術群と手術+LPS群との間で有意差があった(p<0.05)。POD7では、軽度の小膠細胞症がLPS投与後に認められた(*はコントロールに対しp<0.05) (n = 4)。ノンパラメトリックなデータは、Kruskal-Wallis及びこれに続くDunnの検定で表されている。すくみ行動で測定されたところの文脈恐怖反応もまた、無処置群及び手術群(G)と比較して、手術後にLPSに暴露された動物において障害されている(**は手術に対しp<0.05)。データは平均値±SEMを表し(n = 10)、1元配置分散分析及びStudent-Newman-Keuls法により、手術と手術及びLPSとの間の比較についてはstudentのt検定により比較を行なった。マウスには手術の24時間後にLPS (1mg/kg) を注射した。血漿IL-1βレベルはELISAで測定した。手術後72時間において、LPS処置動物ではIL-1βの上昇が持続していた(H; **はコントロールに対しp<0.01)。手術後又はLPS単独では、72時間においてIL-1βが検出されなかった。データは平均値±SEMを表し(n = 4)、1元配置分散分析及びBonferroni補正を伴うStudent-Newman-Keuls法により比較を行なった。
【発明を実施するための形態】
【0012】
「計画された炎症トリガー」との語には、患者に炎症反応を生じさせると期待され得る計画された医療処置の意味が包含され、そこでは計画された炎症トリガーが患者における認知機能低下に関係している。従って、これは、例えば下記に定義される通り、せん妄、認知症、錯乱等の処置後の認知の障害に関係するいかなる処置であってもよい。
【0013】
上記した局面の具体的態様では、計画された炎症トリガーは手術であり、従って方法、使用又は剤は、当該患者において術後認知機能障害(POCD)を予防又は低減するためのものである。
【0014】
上記した局面の別の具体的態様では、計画された炎症トリガーは化学療法である。せん妄及びその他の認知障害の症状は、がん患者の化学療法処置に関連がある。従って、本発明は、後述する通り、予防的に又は治療として化学療法処置された後のがん患者において認知機能低下を予防又は低減するために用いられ得るということが想定される。
【0015】
「認知機能低下」なる語には、以下に定義される通り認知障害及び/又は炎症トリガーによって引き起こされる認知機能のいかなる悪化の意味も包含される。
【0016】
「術後認知機能障害」なる語には、患者が外科的処置を受けた後に患者において現れる記憶及び集中力障害として反映される知的機能の悪化が包含される。そのような知的機能の悪化は多くの形態をとり得て、それ自体として、この定義には、術後に現れる認知機能低下のいかなる形態も包含される。本発明は、手術の前、手術中、又は手術直後に投与される場合にとりわけ有用であると考えられる。一般に、手術後の認知機能障害は、回復の直後によく起こり現実的である。古典的なPOCDは、より明白だが長続きしない「せん妄」と並列した、認知領域におけるより長引く潜行性の機能障害(いずれも上記したPOCDの定義に包含される)を特徴づける。認知機能障害間の弁別は、特に認知障害の長さに従って行なわれる;せん妄はそれ自体通常2〜3日後に消散するが、一方でPOCDは数か月間(>3)持続し、永久的な機能障害になり得る。従って、上記定義の範囲に包含されるそのような認知機能低下は一時的であり得、ゆえに外科的処置の完了後数時間ないし数日で取り除かれる;あるいは、認知機能低下は数か月間若しくは数年間にわたって持続し得るし、又は認知機能低下は永久的ですらあり得る。せん妄は手術後に一般的に見られ、通常手術後間もなく(数時間ないし数日)見られて、時間とともに変動する。機能障害は短時間続くが、せん妄は増加した死亡率(Elyら. 2004)、より重度の介護依存状態、コスト(Milbrandtら. 2004)及び長引く入院(Elyら. 2001)に関連している。本発明の使用はこうした知的機能の悪化の低減又は予防を助け、患者及びその介護人らの生活の質を向上させるものと考えられる。
【0017】
POCDの診断は神経心理学的検査によって援助され得る。一般に、記憶喪失が普通の状況下で予想されるよりも重度である場合には、POCDの存在が疑われる。現在のところ、POCDをうまく診断するための特異的な認識セットは存在しない;一般には、診断に達する前に多角的な認知神経科学的評価が行なわれる(Newman Sら, Anesthesiology 2007, 106(3): 572-90)。
【0018】
POCDの症状には、記憶喪失、記憶障害、集中力障害、せん妄、認知症、及び/又は疾病行動が包含され得るということが想定される。
【0019】
「せん妄」には、改変された形態の半意識を生み出す、注意力、焦点、知覚及び認知の急性かつ消耗性の衰弱が包含される。せん妄は、脳の正常な機能の妨害によって引き起こされる症候群ないしは一群の症状である。せん妄状態の患者は環境に対する認識及び応答性が低下しており、この認識及び応答性の低下は見当識障害、思考散乱及び記憶障害として顕在化し得る。せん妄は10人の入院患者のうちの少なくとも1人を冒し、高齢の入院患者では2人に1人を冒す。それ自体は特異的疾患ではないが、せん妄を有する患者は通常、せん妄を有しない同一疾患の患者よりも状態が悪い。それが炎症トリガーによって引き起こされ得ることを示した実施例に記載のマウスモデルが証明するように、それは術後合併症として起こる。このことはまた、入院患者において例えば脳卒中(CVA)、心臓発作(MI)、尿路感染(UTI)、気道感染(RTI)、中毒、アルコール若しくはその他の薬物からの離脱、低酸素、及び頭部損傷のような他の炎症トリガーの結果としてせん妄が見られるのはなぜなのかを説明するだろう。
【0020】
「認知症」なる語は、重篤な認知障害を意味し、これは、独特の全脳損傷の結果起こる進行しないものか、又は、身体におけるダメージ又は疾患に起因する、通常の加齢から予測され得る程度を超えた認知機能の長期的減退をもたらす進行性のものであり得る。
【0021】
「疾病行動」には、嗜眠、発熱、食欲減退、傾眠、痛覚過敏、全身疲労から引きこもり及び記憶障害にわたる症状が包含される (Dantzer R: Cytokine-induced sickness behaviour: a neuroimmune response to activation of innate immunity. Eur J Pharmacol 2004, 500(1-3):399-411)。
【0022】
本願発明者らは、小膠細胞活性化及び関連炎症がPOCDの発症に関連していることを証明した。さらに、使用されたインビボモデルにおいて、ミノサイクリンによる小膠細胞活性化の除去が術後記憶喪失を予防することを見出した。従って、POCDの発生又は治療の進行を評価する方法は、患者の脳内の小膠細胞活性化の解析であり得る。そのような活性化は、患者の脳のポジトロン断層撮影(PET)走査等の技術を用いて測定され得る。そのようなPET走査は、例えば、末梢型ベンゾジアゼピン受容体のリガンドである11C-PK11195を用いて実施することができる。小膠細胞活性化の上昇はPOCDの指標であり得る(逆も同様)。POCDを評価するさらなる方法には、FEPPA又は11C-PK11195を用いた磁気共鳴画像法(MRI)又はPETが包含され得る。拡散テンソル画像を用いたMRI及びMRスペクトロスコピー等のその他のイメージング技術もまた、非侵襲的にPOCDを評価するのに用いることができる。
【0023】
POCD発症のリスクファクターには、患者の高齢、患者の教育水準及び「知的経験の蓄積(cognitive reserve)」、潜在的な遺伝的多型(例えばAPOe4)並びに基礎神経疾患等の共存症が包含される。
【0024】
「POCDの予防」なる語には、本発明の方法、使用又は剤が、外科的処置を受けた患者においてPOCDが発生する可能性を低減すると考えられるという意味が包含される。従って、本発明は、患者にPOCD発症の兆候が見られる前に予防的に使用されるか、又は使用するためのものであり得る。患者におけるPOCDの発症を予防することが好ましいが、POCDは依然としてかなり発生していると理解され、しかしながら本発明の使用によりPOCDの症状が低減され及び/又はPOCDの持続が低減されるであろうことが想定される。従って、「POCDの低減」なる語には、POCDの発生が完全には防止されないかもしれないものの、POCDの発生が低下するか又は遅延し、及び症状が減少して患者の認知が改善されるという意味が包含される。このことは、一連の神経心理学的検査によって確立され得る。本発明は、患者においてPOCDの提示の後にPOCDの治療として用いることもできる。
【0025】
本発明のさらなる局面は、認知障害を有する患者において認知機能低下を低減する方法であって、該患者は炎症トリガーに曝露された患者であり、治療に有効な量の腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)アンタゴニストを炎症トリガー曝露後に上記患者に投与することを含む、方法を提供する。
【0026】
従って、本発明のさらなる局面は、認知障害を有する患者において認知機能低下を低減するための医薬を製造するための、治療に有効な量の腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)アンタゴニストの使用であって、上記患者は炎症トリガーに曝露された患者である、使用を提供する。
【0027】
本発明のさらに他の局面は、治療に有効な量の腫瘍壊死因子アルファ (TNFα) アンタゴニストを含む、認知障害を有する患者において認知機能低下を低減するための剤であって、上記患者は炎症トリガーに曝露された患者である、剤を提供する。
【0028】
「認知障害」との語には、患者において障害された認知機能に表れるいかなる神経学的な疾患、状態又は不調の意味も包含される。そのような障害はいかなる年齢の患者においても生じ得る。そのような障害の症状には、嗜眠状態、疲労、集中力障害、めまい、錯乱、記憶障害、記憶喪失、せん妄、運動ニューロン制御の喪失及び当業者がそのような症状と理解するであろうその他の症状が包含される。上述した通り、せん妄は、正常な脳機能の妨害によって引き起こされる症状又は一群の症状、あるいは症候群である。従って、せん妄は、他の不調がそこに存在する認知障害の1症状であり得る一方で、患者に存在する唯一の認知障害でもあり得ること、従って本発明は、他の認知障害がまだ特徴づけられていないがせん妄の兆候が患者に表れている場合に有益であり得ることが想定される。本明細書において包含される認知障害の他の例としては、アルツハイマー病、多発性硬化症、脳卒中、パーキンソン病、ハンチントン病、認知症、前頭側頭型認知症、血管性認知症、HIV認知症、外傷後ストレス障害、及び関節リウマチ等の慢性炎症状態が挙げられる。関連の深い状態のさらなる具体例は当業者に公知であろう。
【0029】
「認知機能低下の低減」なる語には、本発明の使用によって、認知障害の症状の経時的な進行が遅くなる、及びそれらの症状が減少するないしは逆転する可能性があるという意味が包含される。本発明は、認知機能低下の発生を低減することによって認知機能を改善するために用いられ得る。そのような改善は患者に対しより高い自立とよりよい生活の質を提供し得ると期待される。
【0030】
「炎症トリガー」なる語には、炎症反応を生じさせる身体へのいかなる侵襲の意味もが包含される。そのような炎症反応は、検査されないままでいると、過剰な神経系炎症反応をもたらし、患者の認知状態を引き起こすか又は(認知障害が既に存在する場合には)悪化させ得る。そのような炎症トリガーの非網羅的な例としては、感染、外傷(落下による骨折など)、手術、ワクチン接種、関節炎、肥満、糖尿病、脳卒中(CVA)、心停止(心臓発作; 心筋梗塞(MI))、やけど、化学療法、爆風損傷、尿路感染(UTI)、気道感染(RTI)、ヒト免疫不全ウイルス感染(HIV)、中毒、アルコール若しくはその他の薬物からの離脱、低酸素、及び頭部損傷が挙げられる。
【0031】
患者は、まだ認知障害と診断されていないかもしれない一方で認知障害を発症するリスクがあり得ると想定される。従って、本発明は、認知障害を発症するリスクのある患者に対しても有益であり得る。そのような患者には、高齢者又はそのような障害の家族歴がある個人が包含され得る。
【0032】
本発明の方法の一態様では、該方法は、治療に有効な量のインターロイキン1 (IL-1) アンタゴニストを患者に投与することをさらに含み得る。
【0033】
従って、本発明の使用及び剤の一態様では、医薬又は剤は、治療に有効な量のインターロイキン1 (IL-1) アンタゴニストと組み合わせて投与するためのものであり得る。
【0034】
先に述べた本発明の態様において、IL-1アンタゴニストは、TNFαアンタゴニストの前、後、若しくはこれと同時に投与され得るか、又はそのように投与するためのものであり得る、ということが想定される。従って、本発明の効能は、IL-1アンタゴニスト及びTNFαアンタゴニストを各々の効能が最大になり得る時点で投与することによって向上され得る。従って、IL-1アンタゴニスト及びTNFαアンタゴニストは別個に製剤化され得ることが想定される。
【0035】
別の態様では、IL-1アンタゴニストはTNFαアンタゴニストと一緒に製剤化され得る。従って、この態様では、IL-1アンタゴニスト及びTNFαアンタゴニストの投与は同時に行なわれるだろう。
【0036】
さらに別の態様では、IL-1アンタゴニスト及びTNFαアンタゴニストは、例えば融合タンパク質のようなキメラ分子等の単一分子の中に含まれ得る。従って、本発明の方法及び使用においては、IL-1アンタゴニスト活性及びTNFαアンタゴニスト活性の両者を有する化合物が用いられ得る。そのような化合物は、例えば、IL-1アンタゴニスト活性及びTNFαアンタゴニスト活性を有する複数抗体の抗原結合領域の融合体を含み得る。
【0037】
本発明のいずれかの局面の一態様では、アンタゴニスト(IL-1アンタゴニスト、TNFαアンタゴニスト、又はその両者のいずれか)は、全身投与され得る(方法の発明の場合)か、又は全身投与用であり得る(使用及び剤の発明の場合)。そのような全身投与は、例えば、適当な剤形での静脈内(i.v.)投与によるものであり得る。i.v.投与は迅速でより有効な効果をもたらすだろうことが想定される。全身投与が適当であり得る態様の一例としては、複数の外科的処置を受けた患者への投与か、又は外科的処置によって身体に大きな外傷が生じた場合が挙げられる。
【0038】
本発明のアンタゴニストは末梢部で作用するであろうが、場合によっては、該剤は血液脳関門を通過して脳及び中枢神経系に直接作用し得ると考えられる。
【0039】
アンタゴニストは外科的処置又は問題とされる認知障害のタイプに応じて適当に製剤化され得ることが想定される。適当な剤形は当業者には明らかであり、注射用その他の液剤、注入液、クリーム、ロゼンジ、ゲル、ローション又はペーストを含む群が包含され得るが、これらに限定されない。本発明のアンタゴニストはまた、特に限定されないが、コラーゲン又はフィブロネクチンマトリクス等の生体適合性の有機又は無機マトリクスに含ませて投与するためのものでもあり得る。そのようなマトリクスは、適当な剤形においてアンタゴニストの担体として働き得るか、又はアンタゴニストの効果を増強することにより炎症の低減を促進し得るということが想定される。
【0040】
製剤は、便の良い単位用量形態で存在してよく、薬学分野で周知の方法により調製することができる。そのような方法には、活性成分(本発明のアンタゴニスト)を、1以上の付属の成分を構成する担体と結びつける工程が含まれる。一般に、製剤は、活性成分を液体担体若しくは微粉化した固体担体又は両者と均一かつ密接に結びつけ、次いで必要に応じ産物を成形することにより調製される。
【0041】
ヒト又は動物の治療において、本発明のアンタゴニストは、単独で投与することができるが、一般的には、意図される投与経路及び標準的な薬務を考慮して選択された適当な医薬賦形剤、希釈剤又は担体との混合物として投与されるだろう。
【0042】
本発明のアンタゴニストは、非経口的に、例えば静脈内、動脈内、腹腔内、髄腔内、脳室内、胸骨内、頭蓋内、筋肉内又は皮下投与によって投与することができ、あるいは注入法により投与され得る。アンタゴニストは、例えば、溶液を血液と等張にするのに十分なだけの塩類又はグルコースといった他の物質を含有し得る滅菌した水溶液の形態で最も良好に使用され得る。該水溶液は、必要な場合には適切に(好ましくはpH3〜9に)緩衝されるべきである。滅菌条件下での適当な非経口製剤の調製は、当業者に周知の標準的な製薬技術によって容易に達成される。
【0043】
非経口投与に適した製剤としては、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤、及び製剤を意図されたレシピエントの血液と等張にする溶質を含有し得る水性及び非水性の滅菌注射溶液;並びに懸濁剤及び増粘剤を含有し得る水性及び非水性の滅菌懸濁液が挙げられる。該製剤は、単位用量又は複数用量の容器にて、例えば封止アンプル及びバイアルにて提供されてよく、また、使用直前に注射用の水等の滅菌液体担体を追加することのみが必要となる、凍結乾燥状態で保存することができる。即時調合の注射溶液及び懸濁液は、上記した種類の滅菌粉末、顆粒及び錠剤から調製され得る。
【0044】
好ましい単位用量製剤は、活性成分の一日量若しくは一日単位、一日のサブ用量(sub-dose)又はその適当な一部分を含有する製剤である。本発明のアンタゴニストの局所投与のための用量は、mg/kg患者体重の分割用量又は複数用量であり得る。例えば、該用量は、0.01〜500 mg/kg体重; 1〜400 mg/kg体重; 2〜200 mg/kg体重; 3〜100 mg/kg体重又は4〜50 mg/kg (又は、当業者であれば理解するだろうこれらの上限値及び下限値のいずれかの組み合わせ)であり得る。実際に用いられる用量は、化合物の溶解性によって制限され得る。可能な用量の例を挙げると、kg体重当たり0.01、0.05、0.075、0.1、0.2、0.5、0.7、1、2、5、10、12、15、20、25、30、35、40、45、50若しくは100 mg、最大で例えば500 mg/kg体重であるか、又はこれらの間のいずれかの数値である。アンタゴニストの好ましい用量は相対効力に応じて調整されるであろうことが想定される。医師又は獣医師は、本明細書に記載された教示及び実施例に基づき、任意の状況において必要とされる用量を決定できるだろう。
【0045】
あるいは、本発明のアンタゴニストは、ローション、溶液、クリーム、軟膏又は散布粉剤の形態で局所適用され得る。本発明のアンタゴニストはまた、例えば皮膚用パッチを用いて経皮投与され得る。
【0046】
皮膚への局所適用のため、本発明のアンタゴニストは、例えばミネラルオイル、流動ワセリン、白色ワセリン、プロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン化合物、乳化ろう及び水のうちの1以上との混合物中に懸濁ないし溶解された活性成分を含有する適当な軟膏として製剤化することができる。あるいは、アンタゴニストは、例えばミネラルオイル、モノステアリン酸ソルビタン、ポリエチレングリコール、流動パラフィン、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、セテアリルアルコール、2-オクチルドデカノール、ベンジルアルコール、水及びジメチルスルホキシド(DMSO)のうちの1以上の混合物中に懸濁ないし溶解させた、適当なローション又はクリームとして製剤化することができる。
【0047】
口中への局所投与に適した製剤(例えば本発明の歯科分野での実施態様)には、通常スクロース及びアカシア又はトラガカントであるフレーバー基剤中に活性成分を含むロゼンジ; ゼラチン及びグリセリン、又はスクロース及びアカシア等の不活性な基剤中に活性成分を含むトローチ; 並びに適当な液体担体中に活性成分を含む口腔洗浄剤が包含される。
【0048】
具体的に上記した成分に加えて、本発明の製剤は、問題とする製剤のタイプを考慮した上でこの分野で従来用いられているその他の薬剤を含んでいてよく、例えば経口投与に適した製剤は香味剤を含んでいてよいということが理解されるべきである。
【0049】
獣医用途のため、本発明の化合物は通常の獣医学診療に従い適切に許容される製剤として投与され、獣医師は特定の動物にとって最も好適な投与レジメン及び投与経路を決定するだろう。
【0050】
計画された炎症トリガーの後の認知機能低下の予防又は低減に関係する本発明の態様では、TNFαアンタゴニストは、計画された炎症トリガーの前、その最中若しくはその後に投与されるか、又はそのように投与するためのものであり得る。例えば、TNFαアンタゴニストは、患者への外科的処置の開始前に投与されるか、又はそのように投与するためのものであり得る。そのような投与は、手術の直前、又は手術の数秒、数分若しくは数時間前であってよい。あるいは、TNFαアンタゴニストは、患者への外科的処置中に投与されるか、又はそのように投与するためのものであり得る。
【0051】
さらに別の態様では、TNFαアンタゴニストは、患者への外科的処置の完了後に投与されるか、又はそのように投与するためのものであり得る。この実施態様では、TNFαアンタゴニストは、外科的処置の完了後1時間までに投与されるか、又はそのように投与するためのものであり得る、ということが想定される。あるいは、TNFαアンタゴニストは、外科的処置の完了後0秒(すなわち、外科的処置の完了直後)から完了後1日までの間に投与されるか、又はそのように投与するためのものであり得る。従って、これは、外科的処置の完了後5秒から10時間の間であってよい。好ましくは、外科的処置の完了後30秒から1時間の間、例えば完了の30分後であり得る。そのような投与(又は本発明のその他の局面における投与)は、単一用量の単回投与を含んでいてよく、又は必要に応じ、同一用量の複数回投与、若しくは用量を増加若しくは減少させながらの複数回投与を含んでいてよい。従って、投与は、医師が処方した通りに時間をかけて行なわれ得る。
【0052】
従って、計画された炎症トリガーが化学療法である場合、TNFαアンタゴニストは、患者への化学療法の開始前; 化学療法中; 若しくは化学療法の1ラウンドの処置が完了した後に、該患者に対して投与するか、又はそのように投与されるものであり得る。手術との関連で本明細書に記載した投与レジメンは、化学療法等のその他の計画された炎症トリガーにも同様に当てはまる。
【0053】
POCDに関係する本発明の局面から利益を受け得る患者は、せん妄、アルツハイマー病、多発性硬化症、脳卒中、パーキンソン病、ハンチントン病、認知症、前頭側頭型認知症、血管性認知症、HIV認知症、外傷後ストレス障害又は関節リウマチ等の慢性炎症状態を有するか、又は発症するリスクのある患者であり得る、ということが想定される。
【0054】
本発明のいずれの局面においても、患者は哺乳動物であり得る。そのような哺乳動物は、家庭内のペット(イヌ又はネコ等)、家畜(ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ又はスイギュウ等)、競技動物(ウマ等)又は実験動物(マウス、ラット、ウサギ、モルモット、スナネズミ、ハムスター、サル又は類人猿)であり得る。患者はヒトであることが好ましい。
【0055】
患者がヒトである場合、患者らはしばしば50歳を超える年齢であり得ることが想定される。高齢は認知機能低下及びPOCDのリスクファクターであり、従って、若年者よりも年配の患者の方が本発明からより多くの利益を受け得るということが想定される。しかしながら、さらなる局面では、患者は20歳未満であり得る。遺伝的異常若しくは先天性症状を持って生まれた子供や、何らかの理由により人生の初期に外科治療が必要となった子供は、POCD及びその他の認知症状を発症するリスクを有し得る。従って、本発明は若齢の患者に有益であり得るということも想定される。それでもなお、本発明は、いかなる年齢の患者であっても、何らかの理由により外科的処置を受けなければならない患者及び/又は認知障害を発症するリスクを有し得る患者に対して有用であろう。
【0056】
「TNFαアンタゴニスト」なる語には、該アンタゴニストがTNFαの効果を中和し従って該効果を低下又は除去するいずれかの化合物であるという意味が含まれる。従って、該アンタゴニストは、TNFαそれ自体を標的とする化合物、TNFαの上流のいずれかのエフェクターを標的とする化合物、又はTNFαの下流のいずれかのエフェクターを標的とする化合物であり得る。「TNFαそれ自体を標的とする」とは、当業者であれば理解する通り、TNFα前駆体の転写、翻訳、翻訳後修飾、又はTNFαが合成される細胞からのTNFαの放出を遮断し又は低下させることを意味する。「TNFαの上流のいずれかのエフェクターを標的とする」とは、TNFαの合成及び/又は放出を誘発するいずれかのシグナル又は分子を意味する。「TNFαの下流のいずれかのエフェクターを標的とする」とは、TNFαと相互作用して生体内でその効果を生じさせるいずれかの受容体又はその他の化合物を意味する。
【0057】
従って、本発明のいかなる局面においても、TNFαアンタゴニストはTNFα受容体アンタゴニストであってよい。
【0058】
TNFαアンタゴニストは、抗体、抗体断片又はその融合体であり得る。従って、TNFαアンタゴニストは、抗TNFα抗体又はその断片若しくは融合体であり得る。そのような抗体は、ポリクローナルでもモノクローナルでもよい。非ヒト抗体は、ヒト患者に用いるためにヒト化され得る。あるいはまた、抗体は、当業者であれば理解する通り、キメラ抗体であってよい。抗体断片は、当業者であれば理解する通り、Fab、Fv、ScFv又はdAbであり得る。「ScFv分子」とは、抗体のVH及びVLパートナー領域が可動性のオリゴペプチドを介して連結されている分子を意味する。
【0059】
全抗体よりもむしろ抗体断片を用いることの利点は数倍ある。断片がより小さいサイズであることは、固形組織への良好な浸透などの、向上した薬理学的特性をもたらし得る。補体結合などの全抗体のエフェクター機能は取り除かれる。Fab, Fv, ScFv及びdAb抗体断片はいずれも大腸菌内で発現させてこれから分泌させることができ、従って当該断片の大量合成は容易に行うことができる。全抗体及びF(ab')2断片は「二価」である。「二価」とは、当該抗体及びF(ab')2断片が2つの抗原結合部位を有することを意味する。対照的に、Fab, Fv, ScFv及びdAb断片は一価であり、抗原結合部位を1つだけ持つ。
【0060】
多くの入手可能なTNFαアンタゴニストが本発明との関連において有用であり得る。TNFαに結合してその作用を遮断する薬剤としては抗ヒトTNFαモノクローナル抗体が挙げられ、市販品の例としてはインフリキシマブ(登録商標レミケード)、アダリムマブ(登録商標ヒュミラ)、エタネルセプト(登録商標エンブレル)等のヒトTNF-R融合タンパク質、又はTNFに結合する抗体に類似したその他の薬剤が挙げられる。
【0061】
TNF受容体の阻害剤としては、TNF受容体に結合する抗体又は抗体様分子(断片、鎖、dAbなど)が挙げられ、現在多くのものが市販されている。
【0062】
TNFシグナリング及びシグナル経路の阻害剤としては、NFκBの阻害剤が挙げられる。MAPキナーゼ等も使用可能であろう。
【0063】
あるいは、TNFαアンタゴニストは低分子化学物質であり得る。そのような化学物質は、化合物ライブラリーのハイスループットスクリーニングを経て同定することができ、あるいは、TNFαの受容体など目的とするターゲットと相互作用するようにインシリコで設計することもできる。
【0064】
別の態様では、TNFαアンタゴニストはsiRNA分子、アンチセンスオリゴヌクレオチド又はリボザイムであり得る。従って、そのようなアンタゴニストは、それぞれに見合うように、TNFαの転写及び/又は翻訳を阻害し得る。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、相補的な核酸配列と特異的に結合できる一本鎖の核酸である。適切な標的配列と結合することにより、RNA-RNA、DNA-DNA、又はRNA-DNA二本鎖が形成される。これらの核酸は、遺伝子のセンス鎖又はコード鎖に相補的であることから、しばしば「アンチセンス」と呼ばれる。近年では、オリゴヌクレオチドがDNA二本鎖に結合した三重らせん体の形成が可能であることが証明されている。オリゴヌクレオチドはDNA二重らせん体の主溝において配列を認識できるということが発見された。それにより三重らせん体が形成された。このことは、主溝水素結合部位の認識を経て二本鎖DNAに特異的に結合する配列特異的分子を合成できるということを示唆している。
【0065】
上記したオリゴヌクレオチドは標的核酸への結合によって該標的核酸の機能を阻害することができる。これはおそらく、例えば転写、プロセシング、ポリ(A)付加、複製、翻訳の阻害の結果、又はRNA分解促進などの細胞の阻害機能の促進の結果である。
【0066】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、実験室内で調製され、次いで、例えばマイクロインジェクション若しくは細胞培養培地からの細胞内への取り込みによって細胞内に導入されるか、又は、アンチセンス遺伝子を担持するプラスミド若しくはレトロウイルス若しくはその他のベクターでのトランスフェクション後に細胞内で発現される。
【0067】
典型的には、アンチセンスオリゴヌクレオチドは鎖長15〜35塩基である。例えば、20-merのオリゴヌクレオチドが上皮増殖因子受容体mRNAの発現を阻害することが証明されており(Wittersら, Breast Cancer Res Treat 53:41-50 (1999))、また25-merのオリゴヌクレオチドが副腎皮質刺激ホルモンの発現を90%以上低下させることが証明されている(Frankelら, J Neurosurg 91:261-7 (1999))。しかしながら、この範囲外の鎖長のオリゴヌクレオチド、例えば10、11、12、13、若しくは14塩基、又は36、37、38、39若しくは40塩基のものを用いることが望ましくあり得るということが理解される。
【0068】
同様に、(TNFαアンタゴニストを参照のこと)「IL-1アンタゴニスト」には、該アンタゴニストがIL-1の効果を中和し従って該効果を低下又は除去するいずれかの化合物であるという意味が含まれる。従って、該アンタゴニストは、IL-1それ自体を標的とする化合物、IL-1の上流のいずれかのエフェクターを標的とする化合物、又はIL-1の下流のいずれかのエフェクターを標的とする化合物であり得る。
【0069】
従って、本発明のいかなる局面においても、IL-1アンタゴニストはIL-1受容体アンタゴニスト、IL-1αアンタゴニスト、IL-1βアンタゴニスト又はトール様受容体(TLR)アンタゴニストであってよい。IL-1アンタゴニストは抗体、抗体断片又はその融合体であり得る。従って、例えば、IL-1アンタゴニストは抗IL-1β抗体であり得る。あるいは、IL-1アンタゴニストは低分子化学物質であり得る。さらにはまた、IL-1アンタゴニストはsiRNA分子、アンチセンスオリゴヌクレオチド又はリボザイムであり得る。ある態様では、IL-1受容体アンタゴニストはアナキンラ(登録商標キネレット)である。
【0070】
計画された炎症トリガーの後の認知機能低下の予防又は低減に関係する本発明の実施態様では、IL-1アンタゴニストは、該計画された炎症トリガーの前、その最中若しくはその後に投与されるか、又はそのように投与するためのものであり得る。例えば、IL-1アンタゴニストは、患者に対する外科的処置の開始前に投与されるか、又はそのように投与するためのものであり得る。そのような投与は、手術の直前、又は手術の数秒、数分若しくは数時間前であり得る。あるいは、IL-1アンタゴニストは、患者への外科的処置中に投与されるか、又はそのように投与するためのものであり得る。
【0071】
さらに他の態様では、IL-1アンタゴニストは、患者に対する外科的処置の完了後に該患者に投与されるか、又はそのように投与するためのものであり得る。この態様においては、IL-1アンタゴニストは、外科的処置の完了後1時間までに投与されるか、又はそのように投与するためのものであり得る、ということが想定される。あるいは、IL-1アンタゴニストは、外科的処置の完了後0秒(すなわち外科的処置の完了直後)から完了後2日までの間に投与されるか、又はそのように投与するためのものであり得る。従って、これは、外科的処置の完了後5秒から1日の間であってよい。好ましくは、外科的処置の完了後30秒から10時間の間、例えば完了の2時間後であり得る。そのような投与(又は本発明のその他の局面における投与)は、単一用量の単回投与を含んでいてよく、又は必要に応じ、同一用量の複数回投与、若しくは用量を増加若しくは減少させながらの複数回投与を含んでいてよい。従って、投与は、医師が処方した通りに時間をかけて行なわれ得る。
【0072】
従って、計画された炎症トリガーが化学療法である場合、IL-1アンタゴニストは、患者に対する化学療法の開始前;化学療法中;若しくは化学療法の1ラウンドの処置が完了した後に、該患者に対して投与するか、又はそのように投与されるものであり得る。手術との関連で本明細書に記載した投与レジメンは、化学療法等のその他の計画された炎症トリガーにも同様に当てはまる。
【0073】
本発明のいかなる局面においても、外科的処置は、心臓胸郭部手術、整形外科手術、神経手術、血管手術、形成外科手術、婦人科手術、産科手術、泌尿器科手術、一般外科手術、頭頚部手術、耳鼻咽喉(ENT)手術、小児科手術、歯科手術、顎顔面手術、眼科手術、疼痛管理手術、外傷手術、又は小手術であり得る、ということが想定される。そのような一般外科手術の例は、直腸結腸手術、肝胆道手術、又は上部消化管手術である。そのような小手術の例は、カテーテル処置、皮膚小手術、整形小手術、神経ブロック、内視鏡検査、経食道心エコー検査又はその他の軽い処置である。
【0074】
外科的処置は、全身麻酔下、部分麻酔下、局所麻酔下、鎮静下又はこれらの組み合わせの下で行なわれ得るということが想定される。「全身麻酔」とは、外科的処置中に患者が「眠っている」、すなわち意識がない麻酔を意味する。全身麻酔には3つの相がある:導入(眠りに入る); 維持(外科的処置を受けている間に眠り続ける); 及び覚醒(手術後に目覚める)。これらの各段階で異なる薬剤が使用される。本発明は、3つの相全ての過程において適用するのに好適であり得るということが想定される。本発明のアンタゴニストは、医師が指示するように、適切な場合には、麻酔の異なる相の過程で投与を簡略化するため麻酔薬等の他の薬剤と組み合わせることができるということが想定される。
【0075】
部分麻酔(regional anaesthesia)には、術野から離れた部位において時により添加剤(オピオイド、クロニジン等)と共に局所麻酔薬を注入又は単回注射することが関与する。例えば、脊椎(くも膜下)麻酔(帝王切開、前立腺手術、膝の手術)、硬膜外麻酔、仙骨麻酔、局所神経ブロック(腕へのBierブロック)がある。本発明は、部分麻酔下で行なわれる外科的処置において適用するのにも有用であり得る。本発明のアンタゴニストは、適切な場合には投与を簡略化するために麻酔製剤と組み合わせてもよい。
【0076】
局所麻酔(local anaesthesia)には、処置が行なわれるべき領域の近くに局所麻酔薬を注射することが関与する。
【0077】
本発明のある局面は、IL-1アンタゴニスト及びTNFαアンタゴニストを含む、計画された炎症トリガー後の患者において認知機能低下を予防又は低減するためのパーツのキットを提供する。そのような計画された炎症トリガーは外科的処置であってよく、従って該キットは患者において術後認知機能障害(POCD)を予防又は低減するためのものであり得る。あるいは、計画された炎症トリガーは化学療法であってよい。IL-1アンタゴニストがIL-1受容体アンタゴニストであり、TNFαアンタゴニストが抗TNFα抗体であることが好ましい。
【0078】
本発明のさらなる局面は、IL-1アンタゴニスト及びTNFαアンタゴニストを含む、認知障害を有する患者において認知機能低下を低減するためのパーツのキットであって、上記患者は炎症トリガーに曝露された患者である、キットを提供する。IL-1アンタゴニストがIL-1受容体アンタゴニストであり、TNFαアンタゴニストが抗TNFα抗体であることが好ましい。認知障害は上記定義の通りであってよい。
【0079】
本発明はさらに、IL-1アンタゴニストと;TNFαアンタゴニストと;上記IL-1アンタゴニスト及びTNFαアンタゴニストを計画された炎症トリガーの前、その最中、又はその後に患者に投与することに関する指示書とを含む、パーツのキットを提供する。そのような計画された炎症トリガーは、例えば外科的処置又は化学療法であり得る。
【0080】
本発明のさらなる局面は、患者における計画された炎症トリガーの後に該患者において認知機能低下を予防又は低減する方法であって、治療に有効な量のインターロイキン1 (IL-1) アンタゴニストを上記患者に投与することを含む、方法を提供する。計画された炎症トリガーは手術であってよく、従って該方法は術後認知機能障害(POCD)を予防又は低減するためのものであり得る。あるいは、計画された炎症トリガーは化学療法であってよい。
【0081】
IL-1アンタゴニストは、患者に対する外科的処置の開始前に該患者に投与され得る。あるいは、IL-1アンタゴニストは、患者に対する外科的処置中に該患者に投与され得る。さらにはまた、IL-1アンタゴニストは、患者に対する外科的処置の完了後に該患者に投与され得る。そのような治療レジメンは、計画された炎症トリガーが手術以外である場合、例えば化学療法である場合にもしかるべく当てはまる。
【0082】
さらなる局面は、認知障害を有する患者において認知機能低下を低減する方法であって、該患者は炎症トリガーに曝露された患者であり、該方法は治療に有効な量のインターロイキン1 (IL-1) アンタゴニストを上記患者が炎症トリガーに曝露された後に該患者に投与することを含む、方法を提供する。認知障害は、特に限定されないが、せん妄、アルツハイマー病、多発性硬化症、脳卒中、パーキンソン病、ハンチントン病、認知症、前頭側頭型認知症、血管性認知症、HIV認知症、外傷後ストレス障害、又は関節リウマチ等の慢性炎症性疾患を含む群から選択され得るということが想定される。
【0083】
本発明はさらに、薬剤的に許容される担体と組み合わせた本発明のアンタゴニストを提供する。
【0084】
本明細書において引用される全ての文献は、引用によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0085】
本明細書における先に公開された文献のリスト又はディスカッションは、その文献が技術水準の一部であるないしは技術常識であるという自認を必ずしも表すものではない。
【実施例】
【0086】
以下、本発明を非限定的な図面及び実施例に基づきより具体的に説明する。
【0087】
実施例1: 全身性の及び海馬のIL-1β媒介性炎症が手術後の認知機能障害の根底にある。
術後認知機能障害(POCD)がしばしば大手術からの回復を複雑にする一方、その発症機序は未だ不明である。我々は、マウス整形外科手術モデルにおいて、外科手術による外傷に反応して生じた全身性の炎症が海馬の炎症及びその後の記憶障害を誘発するかどうかを調べた。野生型及びKOマウス(IL-1β受容体を欠損、IL-1R-/-)に全身麻酔下で脛骨の手術を施した。分離した動物のコホートは、恐怖条件付けテストにより記憶機能を検査するか、又は異なる時点で安楽死させて全身及び海馬のサイトカインレベル並びに小膠細胞活性化レベルを評価した;炎症を(特異的に又は非特異的に)妨げるようにデザインされた介入処置の効果も評価した。手術によって、血漿サイトカインの上昇並びに海馬における反応性の小膠細胞症及びIL-1βの転写・発現を伴う海馬依存性の記憶障害が生じた。ミノサイクリンによる先天免疫の非特異的減弱によって、手術で誘導される変化が防止された。IL-1R-/-マウスと、IL-1受容体アンタゴニスト(IL-1Ra)で前処置された野生型マウスとのいずれにおいても、IL-1βの機能的阻害によって手術の神経系炎症作用及び記憶機能障害が緩和された。
【0088】
我々の結果は、末梢の手術誘導性先天免疫応答が、記憶障害の根底にある海馬におけるIL-1β媒介性の炎症プロセスを誘発することを示唆している。これは、術後認知機能障害の発病を妨害するための実現可能な標的を表しているであろう。
【0089】
略語
CNS=中枢神経系; CS=条件刺激; ELISA=酵素結合免疫吸着測定法; IFN=インターフェロン; IL=インターロイキン; IL-1R-/-=IL-1受容体非発現; IL-1Ra=インターロイキン-1受容体アンタゴニスト; ir=免疫反応性の; i.p.=腹腔内の; i.v.=静脈内の; KO=ノックアウト;LPS=リポ多糖; MAC=最小肺胞内濃度; MAPK=マイトジェン活性化プロテインキナーゼ; MHC=主要組織適合遺伝子複合体; PKC=プロテインキナーゼC; POCD=術後認知機能障害; qRT-PCR=定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応; s.c.=皮下の; TNF=腫瘍壊死因子
【0090】
材料及び方法
全ての実験は内務省の認可の下で行なわれ、12-14週齢のC57-BL6系雄性マウス(Harlan社, 英国Oxon)を用いて実施された。ナンシー・ロスウェル教授より提供を受けたIL-1R-/-マウス17は、C57BL/6をバックグラウンドとして実験室内で育種され、野生型の対応個体と年齢を合わせた。(詳細は方法補足を参照のこと)
【0091】
手術及び薬物処置
既報18の通り、マウスをイソフルランでの全身麻酔及びブプレノルフィンでの鎮痛下、無菌状態で左後足を脛骨開放骨折させた。他の動物群には介入処置を一切施さないか(無処置)、麻酔/鎮痛処置のみを与えるか、又は、手術処置を行なうと同時にミノサイクリン、エンロフロキサシン、若しくはIL-1受容体アンタゴニスト(IL-1Ra)を投与した。(詳細は方法補足を参照のこと)
【0092】
リアルタイムPCR(qRT-PCR)
RNeasyキット(キアゲン)を用いて全RNAを抽出し、定量した。Assay-On-Demand premixed Taqman probe master mixes(アプライドバイオシステムズ)を用いて、Rotor-Gene 6000 (コーベットライフサイエンス)にてワンステップqRT-PCRを行なった。結果は倍率変化(fold-change)で表した。(詳細は方法補足を参照のこと)
【0093】
サイトカインの測定
IL-6, TNF-α及びIL-1βはELISAにより測定した19 (それぞれ、バイオソース、カリフォルニア州;ベンダーメドシステム、カリフォルニア州)。海馬のIL-1βは、既報20の通りELISAにより測定した (ベンダーメドシステム、カリフォルニア州)。希釈の直線性と棘波の回復の確認のため、腹腔内LPS(0111:B4, インビボジェン, カリフォルニア州)にて炎症を誘導させたマウスにおいてサイトカインの測定も行なった。(詳細は方法補足を参照のこと)
【0094】
免疫組織化学的検査 CD11bの免疫組織化学的DAB染色のために固定した脳を採取し、既報21の通りにスコア化した。(詳細は方法補足を参照のこと)
【0095】
恐怖条件付けテスト 音とフットショックの組み合わせを2サイクル訓練させる介入処置に先立ち、マウスを30分間又は3日間馴化させた。遅延型恐怖条件付けでは、20秒間継続する音の最後の2秒間にフットショックを与えた。追跡型恐怖条件付けでは、先の規範の通り2秒間継続するフットショックを与え、次いで、音の終了後に20秒間の間隙を与えた。条件付けの3日後、音もショックも存在しない当初の条件付けチャンバーにマウスを270秒間戻し、文脈的恐怖記憶の想起を評価した。3時間後、マウスを新しい環境(訓練とは異なる文脈)に置き、聴覚手掛かり記憶についてテストした。ノイズ無しですくみをスコア化する初めの135秒間のベースライン時間の後、聴覚的手がかりをテスト後半の135秒間与え、すくみを再度記録した。(詳細は方法補足を参照のこと)
【0096】
データ解析
データは平均値±SEMで表す。数値データについては、分散分析及びその後にStudent-Newman-Keulsの検定を行なうことにより統計解析を実施した。Studentのt検定は2群間の比較のみに使用した。カテゴリカルデータについては、Kruskal-Wallisのノンパラメトリック検定及びこれに続けたDunnの検定を用いた。p値< 0.05を統計学的に有意とした。
【0097】
結果
手術により炎症性サイトカインIL-1β及びIL-6の血漿中濃度が上昇する
2時間の時点では血漿IL-1β及びIL-6は変化しなかった;これらは6時間でピークとなり(図1, A-B)、ベースラインレベルよりそれぞれ7倍(IL-1β: 42.63 pg/ml, SEM ±9.60, n=6, p<0.001) 及び20倍 (IL-6: 128.50 pg/ml, SEM ±19.64, n=6, p<0.001) 増加した。手術後24時間では、IL-1β及びIL-6は、無処置動物(IL-1β: 6.09 pg/ml, SEM ±1.31, n=6; IL-6: 5.89 pg/ml, SEM ±2.10, n=6)と比較してそれぞれ6倍 (IL-1β: 36.90 pg/ml, SEM ±6.54, n=6, p<0.001) 及び5倍 (IL-6: 31.74 pg/ml, SEM ±5.28, n=6, p<0.05) 増加した(図1, A-B)。TNF-αは、全ての条件下でいずれの時点でも検出不能のままであった(データ示さず)。麻酔薬投与単独では、サイトカインは無処置マウスで観察されるベースラインレベルから変化がなかった(図1, A-B)。抗炎症作用を有する抗菌剤である22ミノサイクリンを手術前に投与すると、サイトカインの血漿中濃度は低下して手術前のレベルまで戻った (図1, A-B)。これとは逆に、ミノサイクリンと同様に広いスペクトルを有するが抗炎症活性を有していない抗菌剤であるエンロフロキサシンは、手術を受けたマウスにおけるIL-1βの血漿中濃度に対し何の効果も示さなかった(図1, A)。
【0098】
手術により海馬のサイトカインが増加する
海馬のIL-1β及びIL-6の転写は手術後6時間でそれぞれ2倍及び4倍に増加した (図2, A-B)。これと一貫して、手術6時間後に海馬のIL-1βの発現を調べると、無処置の対応個体(2.73 pg/100μg of proteins, SEM ±0.39, n=7)と比較してIL-1βレベルは2倍に増加していた(5.53 pg/100μg of proteins, SEM ±0.89, n=7, p<0.05)(図1, C)。麻酔処置のみの動物では、海馬におけるIL-1βの発現はベースラインから変化しなかった。ミノサイクリンは、手術処置された動物におけるIL-1βの発現を無処置のレベルにまで低下させたが、エンロフロキサシンは低下させなかった。
【0099】
手術により小膠細胞が活性化する
LPSを注入したマウス(陽性炎症コントロール)は、細胞体の肥大、突起の退縮、明らかなアメーバ様形態、及び免疫反応性レベルの上昇によって特徴づけられる活性化型の形態的表現型にあるCD11b免疫反応性 (ir) 小膠細胞を現した。手術により、24時間の時点で同様の小膠細胞反応性の形態学的変化が誘導され(図3)、これは無処置(n=7, p<0.01)及び麻酔単独処置の動物(n=7, p<0.05)のそれと有意差があった。手術で誘導された反応性の小膠細胞症は、3日目で減少し (図3, F) 、7日目でベースラインまで戻った (図3, G)。手術処置されたマウスにミノサイクリンを投与すると、反応性の小膠細胞症は防止された (図3, E-F)。
【0100】
手術は遅延型条件付け後の文脈的恐怖を障害する
予想通り、訓練中は群間ですくみの時間に差異がなかった(データ示さず)。訓練の30分後に行なわれた手術により、文脈に対するすくみは有意に減少し、この減少はミノサイクリンによって軽減されたがエンロフロキサシンによっては軽減されなかった(図4, A);麻酔単独では何の変化も生じなかった。全ての動物が、音に曝された時に同様のすくみ行動を呈した(図4, B)。
【0101】
手術は追跡型恐怖条件付けにおいて音の記憶を障害する
遅延型恐怖条件付けとは対照的に、追跡型恐怖条件付けでは、音の終了とショックの開始との間に短時間の間隙を設ける。追跡型恐怖条件付けと遅延型恐怖条件付けは、追跡型においては音と文脈の双方への恐怖反応が海馬の完全性に高度に依存している23という点で相違している。文脈に曝された時、手術を受けたマウスでは、無処置の同腹仔と比較して有意にすくみ行動が減少していたが(n=28, p<0.05)、これは遅延パラダイムからの結果と一致している(図4, C)。さらに、聴覚手掛かりテストを行なったところ、手術を受けた被検個体と無処置の被検個体との間で聴覚手掛かりに依存したすくみに有意差があり(n=28, p<0.05)、手術処置動物において減少していた(図4, D)。
【0102】
手術はIL-1R-/-マウス又はIL-1Ra処置マウスにおいて炎症を誘導しない
IL-1受容体欠損マウス(図5, A-B-C-D)又はIL-1Raで前処置したマウスでは、手術は血中IL-1β又は海馬の小膠細胞症を増大させなかった。同様に、IL-1Ra処置した手術処置マウスにおいて、手術は海馬の小膠細胞症 (図6, A-B-C) 又はIL-1βの発現(図6, D)を増大させなかった。遅延型恐怖条件付けパラダイムでは、IL-1Raでの前処置により、術後すくみ行動の減少が防止された (図7, A)。これらの群に対する聴覚手掛かりテストの結果では差異がなく、これにより、手術又はIL-1Ra投与によって扁桃体が機能的に障害されるわけではないという、本研究で先に得られた証拠が確認された (図7, B)。
【0103】
遅延型条件付けの3日後に手術を受けた手術処置動物では、文脈的恐怖記憶は障害されない
これまでのデータは、訓練の30分後に手術が行なわれた場合に海馬依存の逆向性健忘が生じるということを示している。より永続的な海馬機能の喪失ではなく中断された記憶固定によって記憶障害が生じたのかどうかを決定するため、遅延型恐怖条件付けの72時間後にマウスに手術を行なった。該動物は、先のテストと同様の手術から文脈への時間の遅延に続き、3日後に音及び文脈記憶の双方についてテストした。文脈及び聴覚手掛かり記憶についてのテストでは、手術処置動物と無処置動物との間で統計学的差異がなかった (n=28) (図8, A-B)。
【0104】
考察
これらの実験から得たデータは、非特異的な炎症阻害剤であるミノサイクリンにより防御が与えられた手術処置動物によって証明された通り、POCDの発病において炎症が中枢的な役割を担っていることを示唆している。また、我々は、末梢の手術部位から脳への炎症シグナルの伝達にIL-1βがおそらく原因的役割をもつということを証明した。IL-1βの転写及び発現並びに反応性小膠細胞症の局所的増大によって証明された通り、末梢部の手術の後に海馬の炎症が生じる。我々は、手術に対するIL-1β応答の減弱が術後記憶機能障害を予防することを示す。追跡型条件付けでは文脈的恐怖記憶及び聴覚手掛かり記憶に手術後障害があったが、遅延型条件付けでは聴覚手掛かり記憶に手術後障害がなく、このことはまた、術後記憶機能障害が、聴覚視床、扁桃体又は中脳水道周囲灰白領域などの恐怖回路の他の構成要素よりもむしろ海馬に由来しているということを示唆している。
【0105】
無菌手術後の障害された海馬依存の文脈的恐怖記憶は、感染によって生じる末梢性炎症のモデルにおいて腹腔内LPS投与後に生じる文脈的恐怖条件付けにおける障害24と類似している。また、LPS24も手術も、遅延型の聴覚手掛かり記憶を混乱させない。海馬が手術後認知機能障害にとって重要であるということが、文脈及び音の両者に対してすくみ反応の障害が観察された追跡型条件付け手法によって確認されている。
【0106】
手術誘導性の末梢及び海馬サイトカイン発現、反応性小膠細胞症並びに行動障害の減少におけるミノサイクリン投与の効果により、手術、炎症及び記憶障害の間に因果関係が存在し得るということが示唆された;ミノサイクリンはまた、マウスLPS誘導性炎症モデルにおいても行動障害を修復した25。ミノサイクリンは、インターフェロン(IFN)γ誘導性のPKCα/βIIリン酸化の阻害並びにPKCα/βII及びIRF-1の両者の核移行の阻害を介して小膠細胞活性化を低下させ、最終的にMHC IIタンパク質の部分的なダウンレギュレーションに収束する26。重要なことに、ミノサイクリンは、IL-1β及びIL-6等のサイトカイン並びに他の前炎症性メディエーターの生合成につながるカスケードで中心的役割を果たす転写因子p38-MAPK27を阻害する。その上、機能レベルでは、ミノサイクリンはマウス空間学習及び記憶モデルにおいて小膠細胞活性化の低下を介して行動成績を改善するようである28
【0107】
無菌操作が実施されたにもかかわらず、術後の海馬炎症及び認知機能障害の出現と抗菌剤(ミノサイクリン)によるその減弱を外科的介入後の感染プロセスの結果とみなすことが可能である。しかしながら、本研究では、過去の研究18において示されたように、いずれの動物においても感染の臨床的証拠は見られなかった。重要なことに、われわれの研究では、げっ歯類においてしばしば使用されるスペクトルの広い抗生物質であるが抗炎症作用を持たないエンロフロキサシンの投与は、手術で誘導される効果のいずれをも改善しなかった。
【0108】
疼痛は不動を生じそれゆえに行動テストで「すくみ」の程度に影響を及ぼす交絡因子であり得ると論じることができるかもしれない。しかしながら、我々の手術モデルはルーチンな臨床的セッティングを再現することを目標としており、従って、我々の実験における鎮痛薬オピエート (ブプレノルフィン) の投与は術後疼痛を緩和した可能性がある。もし、侵害受容が動物に対し、文脈又は聴覚手掛かり記憶の想起の間に自身の害された肢の動きを制限させたのであれば、我々はより多くの、少なくないすくみを観察することを期待したであろう。後足へのホルマリン皮下注射によって生じさせた疼痛ですら、文脈的恐怖条件付けと共に見られるすくみを混乱させない29ということにはいくらか留意する重要性がある。その上、手術を条件付けの後3日だけ遅延させたセッティングにおいて記憶障害についてテストすることにより、消滅試験における疼痛に由来する可能性のある干渉が検討された。この実験における手術と想起テストとの間の遅れは他の実行された恐怖条件付け実験におけるのと同じであったため、手術処置動物と無処置動物との間で記憶の想起に差異がなかったことを示す結果に基づいて、本研究で実施された全ての恐怖条件付け想起テストにおける術後疼痛からは何の干渉もなかったと結論付けることが妥当である。
【0109】
活性化段階では、小膠細胞は、マクロファージ型の先天性免疫を開始させる能力を有し、炎症性サイトカイン、活性酸素種、興奮毒(グルタメート等)、及びβ-アミロイド前駆体タンパク質等の神経毒を分泌する30。小膠細胞の活性化は、疾病行動において見られ、高齢における長期増強の障害に原因として関係している認知機能障害に連結している31。従って、増大した小膠細胞の反応性、及び関連する炎症プロセスは、記憶形成に関与するシグナル経路を減弱する分子変化を生みだすことができる32
【0110】
我々は、IL-1βが手術で誘導される認知機能障害に極めて重要な役割を果たすことを証明した24,33。末梢サイトカインは血液及び神経経由で脳にシグナルを伝達でき、それによってグリア細胞34,35,36、とりわけ海馬内のグリア細胞37,20によるサイトカイン産生を刺激する。増大した海馬内IL-1β転写の証拠は、我々のマウスモデルでサイトカイン新規産生に小膠細胞が役割を担っている可能性を示唆している。IL-1β関与の特異性は、海馬内での小膠細胞活性化がもはや手術後には誘発されないIL-1R-/-マウス及びIL-1Ra処置された野生型マウスを用いた実験によって強調される。IL-1βは、記憶の本質的な電気生理学的相関とみなされている39海馬長期増強を妨げる19,38。IL-1βは、タンパク質合成などの記憶に必要な長期可塑性を安定化する細胞内ニューロン機構に直接的、又は小膠細胞活性化を介して間接的に働く。IL-1βにより誘導される記憶の喪失は、永久的な損傷、想起の不全又はすくみ反応の実行不能によって生じるのではなさそうである。なぜならば、そのような欠陥は手術が訓練の3日後に行なわれた場合も出現したであろうからである。
【0111】
我々は、上昇した全身性及び脳組織サイトカイン並びに海馬小膠細胞活性化が全て、末梢に注入したミノサイクリン又はIL-1Raでの処置によって減少することを示した。これらのデータは神経因子よりもむしろ又はそれに加えて液性因子が関与していることを示唆する一方42、さらなる研究が必要とされる。ミノサイクリン処置又はIL-1βシグナリングの妨害による神経系の炎症プロセスの減弱は、手術後の認知機能障害を防止する。この神経系炎症プロセス及びその開始は、老齢化する手術人口にとっての主要な潜在的利益を伴う治療的介入のための現実的な標的を表している。麻酔剤によって又は選択的な抗炎症ストラテジーによって神経系炎症反応を調節できるかどうかを解明する今後の研究が、術後認知機能低下の有害な結果を改善するのに役立つであろう。
【0112】
材料補足
動物及び手術の方法
全ての実験は内務省の認可の下で行なわれ、最大4匹/ケージの群で14:10時間の明暗サイクル、定温で湿度調節した環境下、自由に飲食できる条件にて飼育された12-14週齢の雄性C57-BL6マウス (Harlan, 英国Oxon) を用いて実施された。いかなる介入処置又は評価も、明/暗サイクルに最低7日間馴化させてから行なった。全ての動物を感染の兆候について毎日チェックした。毛づくろいの低下、群居、立毛、体重減少、創傷離開、筋痙攣、反り返り及び異常活動を記録した。
【0113】
マンチェスター大学のナンシー・ロスウェル教授より提供を受けたIL-1R-/-は、既報1の通りに作製されたものであり、実験室内でC57BL/6をバックグラウンドに育種され、野生型の対応個体と年齢を合わせた。
【0114】
マウスは以下の群にランダムに割り当てた: 全身麻酔下で手術(S), 全身麻酔下で手術+ミノサイクリン(M), 全身麻酔下で手術+エンロフロキサシン(E), 全身麻酔下で手術+インターロイキン-1受容体アンタゴニスト (IL-1Ra) (I), IL1R-/-マウスを全身麻酔下で手術(K), 手術なしで全身麻酔(A), 及び介入処置なし(無処置野生型、又は無処置IL1R-/-)。既報2の通り、マウス群を無菌条件下、骨髄内固定で左後足脛骨開放骨折に付した。簡潔には、イソフルラン (アボットラボラトリーズ社、英国ケント州Queensborough) 気中濃度2.1% (1.5 MAC)3 及びブプレノルフィン (Reckitt Benckiser Healthcare Ltd, 英国Hull) 0.1mg/kg皮下(sc)を与えて外科麻酔並びに外科的介入及び手術後回復のための延長させた術後鎮痛とした。覆っている皮膚の剃毛とグルコン酸クロルヘキシジン0.5%及びイソプロピルアルコール70% (PDI, 米国ニューヨーク州Orangeburg)を用いた消毒の後、直視下で脛骨軸の骨折を創出した。脛骨側方の皮膚と帯膜を縦切開して骨を露出させた。脛骨の近位側3分の1上部に0.5mmの穴を開け、0.38mm径のステンレス鋼の髄内固定ワイヤーを挿入した。次いで、脛骨周囲の腓骨及び筋肉を分離し、骨膜を10mmだけ周囲に剥離して、脛骨の中部及び遠位3分の1の接合部をハサミで骨切断した。皮膚を8/0 Proleneで縫合し、手術中の体液喪失を0.5 mlの生理食塩水皮下注射で置換した。M群, E群及びI群のマウスはさらにそれぞれ、手術2時間前にミノサイクリン (Sigma, Poole, UK) 40 mg/kgの腹腔内注射及び成績評価まで1日1回の投与を受けるか、又は手術2時間前にエンロフロキサシン10 mg/kg及びその後成績評価まで1日2回の投与を受けるか、又は手術前にIL-1Ra 100mg/kgの投与を受けた。A群のマウスは、外科的介入又はその他の処置なしで麻酔 (イソフルラン 1.5 MAC、20分間) 及び鎮痛処置 (ブプレノルフィン 0.1 mg/kg) を受けた。全ての動物に対し、試験薬又は等量(0.1 ml)の生理食塩水を1日2回注射した。処置からの回復後、マウスには自由に無制限で餌と水を摂取させた。各処置群のマウスは、恐怖条件付けテストが炎症マーカーに及ぼす交絡効果の可能性4を排除する目的で、血液及び組織サンプルの採取のため又は認知行動のための2つの異なる評価群にランダムに割り当てた。
【0115】
条件付けチャンバー及び恐怖条件付け
恐怖条件付けを用いてげっ歯類の学習及び記憶を評価した。げっ歯類は、音等の条件刺激(CS)をフットショック等の嫌悪的な無条件刺激(US)と関連付けるように訓練される5。すくみ行動は、被検個体がCSに再度曝露された時に測定される、嫌悪記憶の指標である。動物が訓練を受ける環境ないしは文脈は、より複雑化されたCSの例である。遅延型恐怖条件付けでは、音とショックが時間的に連続しており、扁桃体の病変が聴覚手掛かり及び文脈の両者に対する恐怖反応の想起を混乱させるが、その一方、海馬の病変は、文脈に関係するが聴覚手掛かりには関係しない記憶を混乱させる5,6
【0116】
行動実験は条件付けチャンバー(Med. Associates社, 米国バーモント州St. Albans)を用いて実施した。チャンバーの背壁と側壁はアルミニウム製であり、前扉及び天井は透明なプレキシグラス製であった。チャンバーの床は、0.5 cmの間隔(中心間)をおいて配置された36本のステンレス鋼ロッド(1 mm径)から成っていた。ロッドはショック発生装置及びフットショック伝達用のスクランブラーに配線された。テストの前に、チャンバーを5%水酸化ナトリウム溶液で清掃した。側壁の1つに配置したファンによりバックグラウンドノイズ(60dB, A特性)を与えた。チャンバーの前面に置いた赤外線ビデオカメラが行動をとらえた (Video Freeze, Med. Associates社, 米国バーモント州St. Albans)。聴覚手掛かりの行動評価のための異なる環境(文脈)を作るため、チャンバーの形状を矩形から三角形に変更し、天井の色を白に替えて黒とし、床のロッドは滑らかな表面で被覆し、バックグラウンドノイズを除去した。新たな文脈における音とショックの組み合わせの聴覚手掛かり行動の評価は、海馬機能よりもむしろ扁桃体機能を検査する7。ビデオデータは、チャンバーの前面に置かれた赤外線カメラによって収集され、コンピューターに適合したフォーマットで保存された(Video Freeze, Med. Associates社, 米国バーモント州St. Albans)。テスト各日に、マウスを行動室に運び、条件付けチャンバー内に移す前に少なくとも20分間静かに放置した。すくみは、ソフトウェアによって、呼吸を除いた被毛、感覚毛及び骨格の動きを含む動作の完全な欠如として認識された。テストを遂行するためにチャンバー内にいた合計時間に対するすくんでいた時間のパーセンテージを用いて記憶及び学習の能力をスコア化した。すくんでいた時間のパーセンテージの減少は、これらの能力の障害を示すものであった。
【0117】
遅延型恐怖条件付けでは、訓練は、マウスを条件付けチャンバーに置き、当該文脈を100秒間探索させることから成っていた。次いで、条件刺激(CS)である聴覚的手がかり(75-80 dB, 5 kHz)を20秒間与えた。無条件刺激(US)である2秒間のフットショック(0.75 mAmp)は、CSの最後の2秒間に実施した。各試行の間に100秒間の間隔をおいてこの処置を繰り返し、30秒後にマウスをチャンバーから移動させた。追跡型恐怖条件付けは、2秒間のフットショックが音の終了の20秒後に実施される点で遅延型と相違していた。合計で270秒かかる試行の終了をもって、各マウスはそれぞれ30分以内に手術室に運ばれた。全ての動物は、特異的な介入処置とは無関係に、無処置動物を含め同一の扱いを受けた。テスト後、動物は飼育ケージに戻した。条件付けの3日後、マウスを再度行動室に運び、15分間静かに放置した。音もフットショックも与えずに行なう270秒間の文脈テストのため、訓練を行なったのと同一のチャンバーにマウスを戻した。文脈への反応として生じたすくみ行動をソフトウェアによって記録した。テスト終了時、マウスをそれぞれホームケージに戻した。約3時間後、新たな環境にて、聴覚的手がかりに対するすくみを記録した。新たな環境は、不透明なプレキシグラスの三角形;プレキシグラスの床;照明増量;ファンからのバックグラウンドノイズなし;及び異なる匂いとなるように基本のチャンバーを改変して作出した。この新たな環境にマウスを置き、すくみが135秒間スコアされた時間サンプリングをベースラインとして用いた。次いで聴覚的手がかりを135秒間与え、すくみを再度記録した。
【0118】
定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)によるIL-1β転写物の定量
解剖顕微鏡下で海馬を迅速に摘出し、RNA-later solution (Applied Biosystems, Ambion) 中に入れ、4℃で保存した。RNeasy Kit (Qiagen)を用いて全RNAを抽出し、定量した。Assay-On-Demand premixed Taqman probe master mixes (Applied Biosystems)を用いて、Rotor-Gene 6000 (Corbett Life Science)にてワンステップqRT-PCRを行なった。各RNAサンプルは3回反復して実行し、比較閾値サイクル(comparative threshold cycle)ΔΔCtを用いて相対的遺伝子発現量を算出し、ベータアクチン(ACTB)に対して標準化した。結果は倍率変化(fold-change)で表す。
【0119】
サイトカイン測定
動物をペントバルビタールにて終末麻酔下、心穿刺によりヘパリンコートシリンジ内に血液を採取した。サンプルを3500 rpmで10分間4℃にて遠心し、血漿を回収してアッセイまで-80℃で凍結保存した。市販のELISAキット(Biosource社, カリフォルニア州)を用いて血漿中IL-6及びTNF-αを測定した。IL-1β測定には異なる製造者のELISAキット(Bender Medsystem, カリフォルニア州)を用いた。アッセイの感度は、IL-1βについては1.2 pg/ml、TNF-αについては3 pg/ml、IL-6については3 pg/mlであった。ポジティブコントロールは、i.p. LPS処置した動物から成っていた (0111:B4, Invivogen社, カリフォルニア州) (データ示さず)。
【0120】
ペントバルビタールで終末麻酔下、各マウスを安楽死させ、断頭後迅速に脳を取り除いた。顕微鏡下、クラッシュアイスの頂上に置いたすりガラス上で海馬を切開し、次いで急速凍結させて処理まで-80℃で保存した。各海馬を5%ウシ胎児血清(FCS)及び酵素阻害剤カクテル(単位mM: 100 アミノ-n-カプロン酸, 10 EDTA, 5 ベンズアミジン-HCl, 及び0.2 フッ化フェニルメチルスルホニル)を含むIscove培地に添加した。氷中に刺した容器内で超音波処理することにより、組織からタンパク質を機械的に分離した。これは3サイクル、各回3秒の細胞破砕から成っていた。超音波破砕したサンプルを10000 rpmで10分間4℃にて遠心した。上清を回収し、ELISAの実施まで-80℃にて保存した。IL-1βは、市販のELISAキット(Bender Medsystem社, カリフォルニア州)を用いて、測定前にシグモイド曲線の直線領域に落ち込むように適宜希釈した海馬抽出物の上清にて測定した。アッセイの感度は1.2 pg/mlであった。ELISAキットは脳組織への使用が確証されていた。希釈の直線性の信頼度及び棘波回復の確認には、LPS(0111:B4, Invivogen社, カリフォルニア州)3mg/kg i.p.で処置されたマウスから採取したサンプルを用いた(データ示さず)。
【0121】
免疫組織化学的検査
ペントバルビタールで終末麻酔下、マウスを安楽死させ、氷冷したヘパリン化0.1M リン酸緩衝液(PBS)、次いで0.1M PBS中4%パラホルムアルデヒド溶液pH7.4(VWR International社, 英国レスターLutterworth)を経心的に灌流させた。脳を採取し、0.1M PBS中4%パラホルムアルデヒド溶液中で4℃にて後固定し、0.1M PBSの15%スクロース含有溶液中で24時間(VWR International社, 英国レスターLutterworth)、次いで30%スクロース含有溶液中でさらに48時間、凍結保護した。脳組織をOCT包埋培地(VWR International社, 英国レスターLutterworth)中に凍結マウントした。海馬の30μm厚冠状切片を6つの群に順次切り出し、Superfrost(登録商標)plusスライド(Menzel-Glaser社, 独国Braunschweig)上にマウントした。
【0122】
ラット抗マウスモノクローナル抗体である抗CD11b(低エンドトキシン、クローンM1/70.15)を1:200の濃度(Serotec社, 英国Oxford)で用いて小膠細胞を標識した。アビジン−ビオチン法(Vector Labs社, 英国Cambridge)及び1:200濃度のヤギ抗ラット2次抗体(Chemicon International社, 米国カリフォルニア州)を用いてCD11bについての免疫反応性の可視化を行なった。1次抗体を省略したネガティブコントロールを全ての実験において実施した。ポジティブコントロール群は、LPS 3mg/kgをi.p.注射した動物で構成した8。免疫組織化学的顕微鏡写真は、オリンパスBX-60顕微鏡を用いて取得し、ツァイスKS-300カラー3CCDカメラを用いてとらえた。介入処置群に対してブラインドにした観察者による染色の評価は、Colburnらのスケールを改変した4点分類スケール9に基づいた。該スケールは、細胞形態及び免疫反応性の両者からの小膠細胞活性化レベルの複合評価を用いる。
【0123】
参考文献
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【0124】
方法補足の参考文献
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【0125】
実施例2: サイトカインは敗血症により誘導される認知機能障害を伝える
リポ多糖(LPS)接種後の神経系炎症及び認知機能に与える炎症性サイトカインの影響はまだわかっていない。ここで、我々は、高移動度グループボックス1 (HMGB-1)、小膠細胞活性化及び認知機能障害の間の時間的相関関係にも関わらず、インターロイキン(IL)-1経路のターゲティングが炎症低下と能力障害の改善に十分であるという証拠を提供する。
【0126】
大腸菌LPS (1 mg/kg)の腹腔内注射により、野生型マウス及びIL-1R-/-マウスに内毒血症を誘導した。炎症のマーカーは、末梢及び中枢の両者で評価し、追跡型恐怖条件付けを用いて行動成績と相関させた。
【0127】
腫瘍壊死因子α(TNFα)の血漿内増加はLPS接種後30分でピークに達した。IL-1β, IL-6及びHMGB-1のアップレギュレーションはより長く続き、最長3日目まで検出可能なレベルであった。介入処置後6時間の時点で、海馬内において、IL-6は15倍、IL-1βは6.5倍の増加(それぞれp<0.001)が認められた。反応性の小膠細胞症が1日目及び3日目の両者で観察され、HMGB-1上昇及び記憶保持障害と関連していた (p<0.005)。IL-1受容体アンタゴニスト (IL-1Ra) の先制投与は、HMGB-1レベルには影響することなく、有意に血漿サイトカイン及び海馬の小膠細胞症を低下させ、認知機能障害を改善した。IL-1Ra処置した野生型マウスと同様の結果がLPS接種したIL-1受容体欠損マウスにおいて観察された。
【0128】
これらのデータは、IL-1シグナリングの遮断によってLPSに対する炎症カスケードが減弱し、これにより小膠細胞活性化が低減して行動異常が防止されることを示唆している。この減弱は、HMGB-1のアップレギュレーションとは独立しているようである。
【0129】
材料及び方法
動物。 全ての実験は英国内務省の認可の下で行なわれた。野生型のC57BL/6雄性マウス、12-14週齢、体重25-30 gを使用し、該マウスは5群に分け、12時間-12時間の明暗サイクルにて、温度及び湿度制御下、自由飲食条件で飼育した。IL-1R-/- (マンチェスター大学のナンシー・ロスウェルより分譲[13]) は、C57BL/6をバックグラウンドとして実験室内で育種され、野生型対応個体と年齢を合わせた。実験開始前には7日間の馴化を行なった。全ての動物を毎日チェックし、毛づくろいの低下、群居、立毛、体重減少、反り返り及び異常活動の兆候は実験から除外した。
【0130】
処置。 大腸菌エンドトキシン由来のLPS (0111:B4, InvivoGen社, 米国, 1 mg/kg) を生理食塩水に溶解し、腹腔内注射した。IL-1Ra (Amgen社, アナキンラ 100 mg/kg, Nederlands) は、LPS投与の直前に皮下投与した。LPS又はIL-1Raの用量反応曲線はそれぞれ、中等度の小膠細胞活性化を誘発又は抑制する我々の予備実験から得た。コントロールの動物には等量(0.1 ml)の生理食塩水を注射した。炎症マーカーに及ぼす行動テストの交絡効果の可能性[14]を除去するため、各処置群のマウスはサイトカイン応答か認知行動かのいずれかの評価にランダムに割り当てた。
【0131】
血漿サイトカイン測定。 血液は、異なるコホートにおいて、実験の30分, 2, 6, 12時間及び1, 3, 7日後に終末麻酔下で開胸して経心的にサンプリングし、3,600 rpmで7分間、4℃にて遠心分離した。介入処置なしの動物から採取した血液サンプルをコントロールとした。血漿サンプルはさらなる分析のため-20℃で保存した。血漿サイトカイン及びHMGB-1はそれぞれカリフォルニア州Biosource社及び日本国シノテスト社から市販のELISAキットを用いて測定した。アッセイの感度は、TNFαについては<3 pg/ml、IL-1βについては<7 pg/ml、IL-6については<3 pg/ml、HMGB-1については1 ng/mlであった。
【0132】
定量的リアルタイムPCR(qPCR)。 解剖顕微鏡下で海馬を迅速に摘出し、RNAlater solution (Applied Biosystems, Ambion)中に入れ、4℃で保存した。RNeasy Kit (Qiagen)を用いて全RNAを抽出し、定量した。Assay-On-Demand premixed Taqmanprobe master mixes (Applied Biosystems)を用いて、Rotor-Gene 6000(Corbett Life Science)にてワンステップqPCRを行なった。各RNAサンプルは3回反復して実行し、比較閾値サイクル(comparative threshold cycle)ΔΔCtを用いて相対的遺伝子発現量を算出し、ベータアクチン(ACTB)に対して標準化した。結果はコントロールとの比較での倍率増加(fold-increases)で表す。
【0133】
免疫組織化学的検査(IHC)。 マウスを安楽死させ、氷冷したヘパリン化0.1Mリン酸緩衝液(PBS)を、次いで0.1M PBS中4%パラホルムアルデヒド溶液pH 7.4 (VWR International社, 英国)を経心的に灌流させた。脳を採取し、0.1M PBS中4%パラホルムアルデヒド溶液中で4℃にて後固定し、0.1M PBSの15%スクロース含有溶液中で24時間(VWR International社, 英国)、次いで30%スクロース含有溶液中でさらに48時間、凍結保護した。脳組織はOCT包埋培地 (VWR International社, 英国)中で凍結マウントした。海馬の25μm厚冠状切片を6つの群に順次切り出し、Superfrost(登録商標)plusスライド(Menzel-Glaser社, 独国)上にマウントした。ラット抗マウスモノクローナル抗体である抗CD11b (低エンドトキシン, クローンM1/70.15) を濃度1:200 (Serotec社, 英国Oxford) で用いて小膠細胞を標識した。アビジン−ビオチン法 (Vector Labs社, 英国Cambridge) 及び1:200濃度のヤギ抗ラット2次抗体(Chemicon International社, 米国カリフォルニア州) を用いてCD11bについての免疫反応性の可視化を行なった。1次抗体を省略したネガティブコントロールを全ての実験において実施した。免疫組織化学的顕微鏡写真は、オリンパスBX-60顕微鏡を用いて取得し、ツァイスKS-300カラー3CCDカメラを用いてとらえた。介入処置群に対してブラインドにした観察者による染色の評価は、4点分類スケールに基づいた[15]。
【0134】
行動の測定(条件付け)。 行動実験は、専用の条件付けチャンバー(Med Associates Inc., 米国)を用いて実施した。マウスは異なる日に訓練及びテストされた。LPSは訓練後30分以内に注射した。恐怖条件付けパラダイムは既報[16]の通りに用いた。訓練の3日後、訓練を行なったのと同一のチャンバー(文脈)にマウスを戻し、すくみ行動を記録した。呼吸に必要な動きを除いた動作の欠如としてすくみを定義した。およそ3時間後、新たな環境において、手がかり(音)に対するすくみを記録した。次いで、聴覚的手がかりを3分間与え、すくみを再度スコア化した。各被検個体についてのすくみスコアは、テストの各部分に対するパーセンテージとして表した。各被検個体の文脈についての記憶(文脈的記憶)は、新たな環境におけるすくみのパーセントを文脈内におけるすくみのパーセントから減算して得た。
【0135】
データ解析。 統計解析は、GraphPadPrism version 5.0a (GraphPad Software社, カリフォルニア州San Diego)を用いて行なった。結果は平均値±SEMで表す。データは分散分析及び、適切な場合には引き続いてのNewman-Keulsポストホック検定により解析した。カテゴリカルデータについては、ノンパラメトリックKruskal-Wallis及び引き続いてのDunn検定を用いた。p < 0.05を統計学的に有意とした。
【0136】
結果
エンドトキシンで誘導されるサイトカイン産生はIL-1Ra処置により及びIL-1R-/-において改変される。
炎症が認知機能に及ぼす効果を検討するため、我々はLPS投与後の全身及び中枢のサイトカインを測定した。TNFαの放出は非常に迅速に且つ一過的に生じた; 30分後には有意に増加し(104.18±7.36 pg/ml)、注射後2時間でピークに達した後、6時間で正常に戻った (図9A; コントロールに対しp<0.01, p<0.001)。LPSは、さらなるサイトカインの放出を誘導する強い全身性反応を惹起した。IL-1β及びIL-6はいずれも2時間から有意にアップレギュレートされた。IL-1βは4倍増加し、血漿レベルは24時間まで徐々に増加し続けた(図9B; 73.49±5.42 pg/ml, コントロールに対しp<0.001)。IL-6の発現は2時間で大幅に上昇し、6時間で減少したが、無処置動物と比べて24時間の時点で依然として有意に検出可能であった (図9C; 134.37±8.43 pg/ml, それぞれコントロールに対しp<0.01)。この間、動物は疾病行動の古典的症状(運動性低下、毛づくろいの減少、群居、立毛、反り返り)を呈した。LPS後2、6、及び12時間でのHMGB-1レベルにはベースラインレベルとの相違がなかった; LPSの24時間後から1.5倍の増加が観察され、3日目まで上昇したままであった (図9D; 25.77±4.2 pg/ml, コントロールに対しp<0.01, p<0.001)。全身性炎症反応は3日目後は消散し、全てのサイトカインレベルが7日目までにベースラインに戻った。
【0137】
LPSに対する中枢性炎症反応を評価するため、海馬におけるL-1β及びIL-6のmRNA発現レベルを測定した。LPS注射後6時間の時点で、IL-1βのmRNA発現は6.5倍に、IL-6は15倍に増加した (図9E,F; それぞれコントロールに対しp<0.001)。いずれの場合も、増加した転写は24時間までに正常値に戻った。血漿中及び海馬中のIL-1βが増加したことから、我々は、IL-1受容体の遮断によってLPS関連の認知機能障害の兆候を改善できるかどうかを調べた。先制的なIL-1 Ra単一用量は、6時間及び24時間でのIL-1βの血漿レベルを有意に低下させることができた(図10A, 32.7±5.45 pg/ml, 6.2±1.03 pg/ml, それぞれLPSに対しp<0.01及びp<0.001)。同様に、IL-6レベルも同じ時点で低下した(図10B; 91.02±15.17 pg/ml, 14.05±2.34 pg/ml, それぞれLPSに対しp<0.001, p<0.001)。興味深いことに、IL-1Ra処置はHMGB-1レベルに対しては何の効果もなく、該レベルはIL-1Raの非存在下でLPS注入後に見られたのと同様のパターンを維持していた (図10C)。
【0138】
これらのデータは、IL-1R-/-動物に同一用量のLPSを注射して血漿中のサイトカイン発現を測定することにより確証された。サイトカイン増大及び明確な疾病行動によって特徴づけられる時間である24時間の時点において、IL-1β及びIL-6のレベルはIL-1Ra処置を受けた野生型マウスに類似していた(図10A,B; それぞれLPSに対しp<0.0001, p<0.001)。しかしながら、IL-1R-/-でHMGB-1を測定すると、WT及びIL-1Ra処置動物のいずれと比較しても相違が認められなかった(図10C)。
【0139】
LPS誘導性の小膠細胞活性化はIL-1Raによって改変され、IL-1R-/-においては認められない。
海馬のトランスクリプトーム所見は、神経系炎症のその他の可能なマーカーについての関心を促した。CNSの常在性の免疫担当細胞である小膠細胞は、LPS注射後に有意にアップレギュレートされた。無処置動物では極小の免疫反応性が認められ、該動物では細胞が薄く長く分岐した仮足を有する小型の細胞体を維持していた (図11A)。休止小膠細胞はLPS曝露後に「反応性のプロファイル」にシフトし、細胞体の肥大及び仮足の退縮と共にアメーバ様形態を獲得した。反応性小膠細胞は、無処置動物と比較して、細胞体容積の増大、より高いレベルのCD11b免疫反応性と共に短縮化した塊状の突起を包含する形態変化を示した。小膠細胞活性化は曝露後1日目及び3日目において認められ(図11B,C; コントロールに対しp<0.01, p<0.05)、7日目までにベースラインの休止状態に戻った。IL-1Raでの前処置は、1日目及び3日目における反応性小膠細胞数を効果的に減少させ(図11E,F), 7日目においては何の変化もなかった。これらの所見を確証するため、IL-1R-/-動物を使用し、該動物をLPSに曝露して実験を繰り返した。LPS処置したIL-1R-/-マウスでは、小膠細胞活性化が認められなかった (図11G,H,I)。
【0140】
LPS後の海馬依存の認知機能障害はIL-1の遮断によって改善される。
炎症反応を記憶機能に関連付けるため、音を侵害刺激(フットショック)に関連付けるようにマウスを訓練する追跡型恐怖条件付けを用いた。音の終了とショックの発生との間にある短時間の間隙は、海馬の完全性の評価を可能にする[16]。無処置動物で見られる高レベルのすくみは良好な学習及び記憶保持を示すものである。文脈的恐怖反応は3日目において行動性低下(すくみ)を示し、このことは海馬依存性の記憶障害を明らかにしている (図12; 訓練された無処置に対しp<0.005)。IL-1Raでの前処置は、この認知機能障害を有意に改善した (図12; LPSに対しp<0.05)。
【0141】
考察
これらのデータは、持続した炎症の誘発が神経系炎症、小膠細胞活性化及び海馬媒介性の認知機能障害をもたらすことを示している。IL-1受容体を遮断することにより、炎症カスケードを増幅するフィードフォワードプロセスが減弱され、それによって、小膠細胞活性化が減少し、内毒血症後の行動異常が逆転する。
【0142】
末梢及び中枢のサイトカインは疾病行動における炎症環境に寄与する。 サイトカインは感染後又は無菌的な外傷の後の炎症反応の調節に重要な役割を果たしている。LPS後には、主としてトール様受容体4すなわちTLR-4の活性化を介して[17]先天性免疫が迅速に誘発される。TLR-4の活性化は、転写因子NFκBの活性化を介して多数の炎症性サイトカインを誘導する[18]。この迅速な応答は、共に炎症誘発の永続化に寄与するIL-1β及びIL-6の両者の合成及びアップレギュレーションに好適な環境を提供する。LPS後のTNF-αの迅速な増加もまた、これは30分後には既に存在するものと報告されているが、他のサイトカインの合成と急性期の反応の開始を促進する。IL-1βを含む全身性のサイトカインは、受容体に結合し、無損の血液脳関門(BBB)を通って移行することができる[19]。神経求心路は免疫−脳シグナリングにおける迅速で信頼性のある経路として知られている。迷走神経が媒介するシグナリングは脳サイトカインを迅速に誘導することができ、神経系炎症を含む急性期反応の古典的症状を顕在化させることができる[20]。海馬内でIL-1β及びIL-6の両者のmRNA転写が6時間の時点で有意に増大することを我々が報告したことから、ニューロン経路はおそらく、これらの遺伝子の早期活性化とCNSにおける初期の変化を誘発する反応経路であろう。迷走神経の切断がLPS投与後及びIL-1β投与後の双方で疾病行動を部分的に減弱することが以前に示されたが[21]、これは海馬依存の認知機能障害の文脈においてではない。
【0143】
海馬内の反応性小膠細胞は記憶処理を妨害する。
脳内では、サイトカインが小膠細胞と相互作用する。炎症性サイトカインは、これらの細胞の表面上で発現するパターン認識受容体(PRR)の多くと直接相互作用することができる[22]。活性化すると、小膠細胞は、識別可能な形態的変化を呈し、サイトカイン、活性酸素種(ROS)、興奮毒(カルシウム及びグルタメート等)、及びアミロイド-β等の神経毒を分泌する[23]。活性化した小膠細胞はまた、内毒血症後の海馬における神経発生を阻害し、それにより記憶処理への傷害の程度を悪化させる[24]。記憶保持を評価するため、我々は、フットショックを任意の環境又は音に関連付けるようにマウスを訓練する追跡型恐怖条件付け[25]を用いた。動物が文脈に対してすくむ程度は、海馬に大きく依存する[26]。海馬依存の記憶障害はLPSの3日後に明白であった。主として反応性小膠細胞を介する残留する炎症は、おそらくこの第2相の行動異常と関連している。これらの時点では、HMGB-1レベルも上昇しており、認知機能障害の発症におけるこれらの因子の役割をさらに検討するように我々を促した。
【0144】
IL-1のターゲティングは、小膠細胞を減少させることにより認知異常を改善するが、HMGB1には影響しない。
IL-1βは、神経系炎症反応の維持に極めて重要な役割を持ち、記憶処理及び長期増強と密接に相互作用する[27, 28]。IL-1βの自己制御と阻害は通常、受容体への結合について直接競合する内生のIL-1Raの働きの中和とともに達成される[29, 30]。内生IL-1Raの転写は通常、IL-1の合成よりも時間的に遅れて生じ、それ故に、我々が受容体を遮断することを目的とした、経験的に結合を妨害しエフェクター分子によって媒介されるダメージを制限する薬理学的介入の後に生じるだろう。薬理学的に遮断されるか(IL-1Ra)又は遺伝的介入によって(IL-1R-/-)IL-1受容体が無力化されると、我々がここで報告する通り、サイトカイン放出及び小膠細胞活性化が低下し従って認知機能障害が改善されるということにより反映されるように、炎症反応は持続しない。IL-1Raでの処置は認知機能障害の有意な改善を提供するが、このことは、記憶処理及び行動におけるIL-1βの重要な役割を確証している。小膠細胞活性化とHMGB-1の遅れた放出との間には時間的な相関関係があったが、IL-1RaもIL-1R-/-もいずれもこのサイトカインにおいてそのレベルを変化させなかった。この証拠は、IL-1の遮断が小膠細胞活性化を低下させ記憶異常を改善するのに十分であるという見解を支持している。この炎症誘発の持続には他の受容体も関与しているかもしれない; 例えば、HMGB-1は、TLR及び終末糖化産物受容体(RAGE)を活性化することが示されており、敗血症におけるかなりの病理学的ポテンシャルを有する重要な後期炎症メディエーターとして報告されている [11, 31]。
【0145】
われわれの研究にはいくつかの限界があるということが指摘されなければならない。IL-1Raは脳内に直接移行できることから[32]、我々は末梢サイトカイン及び/又はCNSにおける新規産生がこの認知機能障害の原因となっているかどうかを判別することができない。また、近年、末梢血単球が脳に入って疾病行動を生じ得るということが示されている。このプロセスは、特に小膠細胞を活性化する時及び活性化単球をCNSに補充する時に、TNF-αシグナリングに強く依存する[33]。本研究では我々は、小膠細胞の性質を、BBBを通過した浸潤マクロファージなのかあるいは実際の小膠細胞であるのか、決定することができない。
【0146】
結論
本研究においてIL-1を先制的にターゲティングすることにより報告された認知への有益な効果は有望である。しかしながら、多臓器不全を伴う重篤な敗血症を併発する認知機能障害の舞台背景にこれらの利益を当てはめて推定することはできない。その臨床的シナリオには、逆転困難な複雑な炎症反応が存在する[34]。IL-1を標的とした臨床試験は、特に敗血症において、死亡率を改善することにつき説得力がない[35]。この状態の複雑さを解きほぐそうとするこの試みでは、抗IL-1治療は関連する認知機能障害を他の機構とは別個に改善できるようである。炎症は明らかに、LPS曝露後の生理的変化及び行動変化の媒介において中心的な役割を果たしている。他のサイトカイン受容体の選択的ターゲティングによって認知機能低下の程度と長さの双方を効果的に予防又は改善できるかどうかを確認するためにはさらなる研究が必要である。
【0147】
【表1】

【0148】
略語
高移動度グループボックス1 (HMGB-1), インターロイキン (IL), リポ多糖 (LPS), トール様受容体(TLR), 腫瘍壊死因子-α (TNFα)
【0149】
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【0150】
実施例3: 術後認知機能障害のための抗サイトカイン療法
緒言
術後認知機能障害(POCD)は、主として高齢者が発症する、様々な外科的介入の後に生じる十分に記述された合併症である(1)。この現象の根底にある原因とメカニズムは未だとらえどころがなく、十分に理解されていない。外科手術が世界中で既に2億3000万例を超え、高齢者人口に対する外科的投影法が増大しており、POCDは患者と健康管理に著しい負担をかける重要な合併症となるだろう(2-4)。
【0151】
POCDは、永続的な認知症及びさらなる神経変性のおそれを含む、死亡及び併存症のリスク増大などの短期及び長期転帰の不良と関連している(5, 6)。多因子(患者に関連する周術期ケア及び手術)がPOCD発症リスクを改変すると考えられている;今日までに臨床研究は認知障害のメカニズムを解明していない(7)。臨床的知見を動物モデルに当てはめた推定は、この状態におけるリスクファクター及びメカニズムに関する新規な洞察を提供している(8, 9)。我々は、腫瘍壊死因子-α(TNFα)をターゲティングすることで炎症誘発の永続化を阻止し認知機能障害を改善できると仮定した。
【0152】
方法
動物: 全ての実験は英国内務省の認可の下で行なわれた。野生型C57BL/6雄性マウス (Harlan社、英国)、12-14週齢を用いた。MyD88-/-(10)及びTLR4-/-は、C57BL/6をバックグランドとして実験室内で育種され、野生型の対応個体と年齢を合わせた。全ての動物は毎日チェックされ、毛づくろいの低下、群居、立毛、体重減少、反り返り及び異常行動を表明した場合にはそれらの個体はさらなる検討から除外した。
【0153】
手術: マウスは既報(11)の通り、イソフルラン吸入投与(MAC 1.5)による全身麻酔及びブプレノルフィンによる鎮痛をした上で、無菌条件下、骨膜を剥ぎ髄内固定で脛骨を開放骨折させた。処置しない動物を無処置コントロールとした。TNF中和抗体(クローンTN3, Sigma社, 英国, 100 μg in 0.1 ml/volume) は、生理食塩水に溶解し、手術の18時間前に注射した。大腸菌エンドトキシン由来のLPS (0111:B4, InvivoGen社, 米国, 1 mg/kg) は、生理食塩水に溶解して腹腔内に注射し、これをポジティブコントロールとした(データ示さず)。
【0154】
サイトカイン分析: 全身性及び海馬内IL-1βは既報(12)の通りELISA (Bender Medsystem社, カリフォルニア州; 感度1.2 pg/ml)により測定した。
【0155】
免疫組織化学的検査: 固定した脳を採取し、CD11bを用いて小膠細胞活性化について免疫組織化学的DAB染色を行ない、既報(13)の通りにスコア化した。
【0156】
行動測定 (条件付け)。 行動実験は、専用の条件付けチャンバー(Med Associates社, 米国)を用いて行なった。マウスは別々の日に訓練とテストを受けた。恐怖条件付けパラダイムは既報(14)の通りに用いた。訓練の3日後、訓練を行なったのと同一のチャンバー(文脈)にマウスを戻し、すくみ行動を記録した。呼吸に必要な動きを除いた動作の欠如としてすくみを定義した。各被検個体についてのすくみスコアは、テストの各部分に対するパーセンテージとして表した。各被検個体の文脈についての記憶(文脈的記憶)は、新たな環境におけるすくみのパーセントを文脈におけるすくみのパーセントから減算して得た。
【0157】
データ解析。 統計解析は、GraphPadPrism (GraphPad Software社, カリフォルニア州San Diego)を用いて行なった。結果は平均値±SEMで表す。データは分散分析及び、適切な場合には引き続いてのNewman-Keulsポストホック検定により解析した。カテゴリカルデータについては、ノンパラメトリックKruskal-Wallis及び引き続いてのDunn検定を用いた。p < 0.05を統計学的に有意とした。
【0158】
結果
手術で誘導された認知異常に及ぼす炎症の効果を検討するため、我々はこのプロセスの推定イニシエーターとしてTNFαを標的とした。全身性TNFαにおける回復の傾向が脛骨手術後30分から60分で観察された(図13参照)。
【0159】
抗TNFαの先制投与は、脛骨手術後6時間及び24時間の両時点で全身性IL-1βの量を効果的に減少させた(手術単独に対してそれぞれp<0.01及びp<0.001)。該所見を確証しTNFの特異性を確認するため、抗体の注射を遅らせたところ、IL-1βレベルは影響されないままであった(図14A参照)。TNFα遮断が他のサイトカインに及ぼす効果をよりよく理解するため、IL-1受容体からの下流の産物としてIL-6レベルも測定した。抗TNFαを用いた予防法により、6時間及び24時間の両時点でIL-6の全身レベルが低下した (手術単独に対してそれぞれp<0.01及びp<0.05)。TNFα遮断が遅れた場合には、IL-1と同様に、IL-6への効果は観察されなかった(図14B参照)。全身性の変化を炎症の中心的マーカーと相関させるため、海馬におけるIL-1βレベルの測定及び小膠細胞活性化の評価を行なった。抗TNFを用いた予防法により、海馬のIL-1βレベルは処置なしの動物と比較して有意に低下した(図14C参照, p<0.01)。CNSの常在免疫担当細胞である小膠細胞は、手術後にその状態を「活性プロファイル」にシフトさせ、細胞体の肥大及び仮足の退縮と共にアメーバ様形態を獲得した(図14E参照)。無処置動物においては極小の免疫反応性が認められ、該動物では細胞が薄く長く分岐した仮足を有する小型の細胞体を維持していた (図14E参照)。抗TNFでの処置により、手術後に見られる小膠細胞症の量が減少した (図14F, G参照; 手術に対しp<0.01)。炎症反応を記憶機能と関連付けるため、我々は音を侵害刺激と関連させるようにマウスを訓練する追跡型恐怖条件付け(TFC)を用いた。音の終了とショックの開始との間の短い間隙は、海馬の完全性の評価を可能にする(15)。無処置動物において見られる高レベルのすくみは、良好な学習及び記憶保持を暗示している。訓練中はすくみの時間に群間で差異がなかった(データ示さず)。しかしながら文脈恐怖反応は術後3日目で不動状態(すくみ)の低下を示しており、海馬依存の記憶障害を明らかにしている (図14H参照; 訓練を受けた無処置に対しp<0.05)。抗TNFでの前処置により、この認知機能障害が有意に改善した (図14H参照; 手術に対しp<0.05)。まだ全身麻酔の影響下である手術直後に抗TNFを投与しても、同様の改善が得られた(データ示さず)。
【0160】
抗TNFα予防法の特にIL-1βに対する効果は、POCDに関連する行動においてIL-1及び非TNFαシグナリングが担う可能性のある役割についてのさらなる洞察を提供する。MyD88-/-では6時間及び24時間の両時点において全身性炎症の低下が観察され(図15A, B参照)、WT動物における予防法後の値と類似した値に達した。全身性の変化を神経系炎症及び最終的な行動異常に相関させるため、我々は海馬のIL-1β及び小膠細胞活性化を評価した。手術後のMyD88-/-では神経系炎症の兆候は認められなかった(図15C, F参照)。POCDに関連する行動におけるMyD88-/-の役割を理解するため、TFCを用いて手術後の記憶保持を評価した。文脈的想起タスクは、無処置のMyD88-/-を脛骨手術された動物と比較してすくみ行動に有意な変化がないことを明らかにした(図15G参照)。抗TNFα予防法の後にもMyD88-/-を用いた場合にも全身性IL-1βが有意に低下したが、それにもかかわらず、IL-1反応は抹消されなかった。このことから、我々は、TNFαとIL-1βとの間の想定される相乗的相互作用が該反応の維持を説明することができるかどうかをさらに検討した。MyD88-/-を先制的に抗TNFαで処置すると、IL-1β及びIL-6への反応は完全に除去された(図15H, I参照; 手術に対しそれぞれp<0.001, p<0.01)。
【0161】
POCDにおけるMyD88依存のシグナリングの関与をさらに理解するため、TLR4-/-における炎症反応を検討した。手術後6時間ではIL-1β及びIL-6の血漿レベルのかすかな低下のみが観察されたが、24時間までに炎症性サイトカインはWTから変化しなかった。全身性反応は、MyD88-/-において治療後に観察されたのと同様に、抗TNFα処置後に完全に抑制された (図16A, B参照)。さらに、抗TNFα投与は、海馬のIL-1β(図16C参照, abに対しp<0.01)及び小膠細胞活性化(図16G参照, 無処置及びabに対しp<0.01)を含め、手術後のTLR4-/-に存在する神経系炎症の兆候を消散させた。POCDに関連する行動を伴うこの炎症誘発の重要性を確証するため、TFCは、WTと同様にTLR4における手術後の明確な海馬機能障害を明らかにした(図16H参照, 無処置に対しp<0.05)。
【0162】
考察
これらのデータは、抗TNFαモノクローナル抗体がIL-1βの生成を介して手術後の炎症の負担を低減させることを証明している。POCDにおけるIL-1βの重要性は、上記実施例1からも理解することができる。ここでは我々は、手術後炎症過程の早期マーカーとしてのTNFαの先制的ターゲティングがIL-1の生成を抑制することを証明し、POCDの病因におけるサイトカインの役割を強固にする。IL-1反応の起源を定義するため、我々はMyD88-及びTL4-依存のシグナリングも調査した。
【0163】
脳への抗体の制限された浸透を前提とすれば、我々のデータは神経系炎症及びPOCDに関連する行動変化の発達において初期末梢反応が果たす中心的役割を示唆している。TNFαを介したIL-1βの低下は行動成績を向上させるが、このことは、行動異常の発達における炎症の重要な役割を示唆しており、さらに、記憶処理におけるIL-1の決定的役割を提供している(16, 17)。
【0164】
IL-1シグナリングにおける独立したMyD88経路が近年発見されたことから(18)、我々はこの鍵となるアダプター分子の発現を欠失した動物において手術後反応を検討した。MyD88-/-は、不完全ではあるが、IL-1βの低下を示した。炎症誘発の鈍化は、MyD88において手術後のPOCD関連行動に利益を与えるのに十分であるようである。このことは、記憶機能に影響を及ぼして行動変化をもたらすのに十分なだけの神経系炎症を誘発するためには一定レベルのIL-1が必要とされるという閾値効果を示唆している。MyD88-/-に対する抗TNFα予防法の組み合わせは、IL-1βへの反応を完全に抑止することができた。TFCから得られた結果もまた、いずれかのサイトカインの除去により外科的外傷後の認知機能障害が減弱されるであろうこと(すなわち閾値効果)を示唆している。
【0165】
POCDにおけるMyD88シグナリングの重要性の実証は、特異的受容体のターゲティングがPOCD症状を改善できるかどうかをさらに検討することを促した。無菌性炎症及び外傷(骨折)の過程におけるTLR4の関与に関する知見(19)から、我々はTLR4-/-における炎症反応を調べることを試みた。外科的刺激後のIL-1β反応及び認知機能障害の両者は除去されなかった。しかしながら、抗TNFα予防法は、TLR4-/-における炎症誘発を低下させることができた。このことはさらに、手術後のMyD88非依存の経路を介したIL-1β生成におけるTNFαの重要な役割を提供している。
【0166】
ここで我々は、IL-1βはMyD88機構を介して働くが、TNFαのターゲティングはIL-1βを低下させることによって手術後の認知機能障害を有意に改善するということについての証拠を提供する。TNF阻害剤による治療は既に、関節リウマチ等の他の環境において有益な効果を与えている(20)。本研究において我々は単回の先制投与の後に感染又は疾病行動の証拠を認めず、従って術後合併症、とりわけ感染の促進におけるこれらの薬剤の限界の一部を克服した。
【0167】
参照文献
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4. Gao L, Taha R, Gauvin D, Othmen LB, Wang Y, Blaise G. Postoperative cognitive dysfunction after cardiac surgery. Chest. 2005 Nov;128(5):3664-70.
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【0168】
実施例4: 術後感染症、手術、及び術後認知機能障害における炎症の間の相互作用
背景: 手術からの回復は、術後認知機能障害(POCD)によって、とりわけ高リスク患者において複雑化し得る[1]。POCDの発症において相互作用を支配するメカニズムは知られていないが、例えば感染症などの術後合併症はPOCDの高い発生率と関連がある[2]。近年では、神経系炎症は認知機能低下と相関がある[3,4]。本研究では、我々は、手術後のリポ多糖(LPS)が整形外科手術後の炎症及びPOCD関連行動に及ぼす効果を理解しようと試みた。
【0169】
方法: 成熟C56BL/6J雄性マウスを無作為に次の群に割り当てた: 1) 処置なし(無処置) 動物; 2) GA及び鎮痛下で脛骨骨折; 3) 脛骨骨折の24時間後にLPSをi.p.注射(1 mg/kg) 4) LPS注射のみ。各群当たりのマウスの分離コホートを炎症マーカー(血漿サイトカイン及び小膠細胞活性化)について評価するか、又は海馬依存の記憶について追跡型恐怖条件付け(TFC)を用いて評価した。
【0170】
結果: 手術及びLPSの3日後におけるTFC評価により、無処置同腹仔及び手術処置のみの動物の両者と比較して、合併症無しですくみが有意に減少することが明らかとなった(手術に対しp<0.05)。全身性サイトカインのアップレギュレーションは通常はじめの24時間に自己限定的である;しかしながら、LPSの手術後投与により、介入処置後72時間IL-1βの血漿レベルがアップレギュレートされた(コントロールに対しp<0.001)。海馬では、LPS処置された動物における反応性小膠細胞症 (CD11b) の程度が手術又は無処置と比較してより高かった; 手術後LPS群では術後7日目まで小膠細胞症が認められた(p<0.05)。
【0171】
結論: サイトカインは、脛骨骨折に続く無菌性炎症後の認知機能障害の誘起と維持における中心的メディエーターである。無菌性外傷後の感染の続発は炎症を悪化させ、それによりPOCDを増悪する。炎症反応経路への個々の寄与及びそれらの収束は介入処置に対する可能な標的を定義するのを助けるだろう。
【0172】
References: 1. Moller J.T. et al, Lancet 1998;351:857-61; 2. Gao L. et al, Chest 2005; 128:3664-70; 3. Wan Y. et al, Anesthesiology 2007;106:436-43; 4. Rosczyk H.A. et al, Exp Gerontol 2008;43:840-46
【0173】
TNFアルファアンタゴニストに関する参照文献

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Moreland, L.W., Baumgartner, S.W., Schiff, M.H., Tindall, E.A., Fleischmann, R.M., Weaver, A.L., Ettlinger, R.E., Cohen, S., Koopman, W.J., Mohler, K., Widmer, M.B., Blosch, C.M. (1997) Treatment of rheumatoid arthritis with a recombinant human tumor necrosis factor receptor (p75)-Fc fusion protein. N. Engl. J. Med. 337(3): 141-7.

Knight, D.M., Trinh, H., Le, J., Siegel, S., Shealy, D., McDonough, M., Scallon, B., Moore, M.A., Vilcek, J., Daddona, P. and Ghrayeb, J. (1993) Construction and initial characterization of a mouse-human chimeric anti-TNF antibody. Mol. Immunol. 30(16): 1443-53.

Tanaka, S., Nagashima, T., Hori, T. (1998) In vitro inhibition of binding of tumor necrosis factor (TNF)-alpha by monoclonal antibody to TNF receptor on glioma cell and monocyte. Neurologia Medico-Chirurgica 38(12): 812-8.

Moosmyayer, D., Dubel, S., Brocks, B., Watzka, H., Hampp, C., Scheurich, P., Little, M.,m Pfizenmaier, K. (1995) A single-chain TNF receptor antagonist is an effective inhibitor of TNF mediated cytotoxicity. Theraepeutic Immunology 2(1): 31-40.

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【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療に有効な量の腫瘍壊死因子アルファ (TNFα) アンタゴニストを患者に投与することを含む、該患者における計画された炎症トリガーの後の認知機能低下を該患者において予防又は低減する方法。
【請求項2】
患者における計画された炎症トリガーの後の認知機能低下を該患者において予防又は低減するための医薬を製造するための、治療に有効な量の腫瘍壊死因子アルファ (TNFα) アンタゴニストの使用。
【請求項3】
治療に有効な量の腫瘍壊死因子アルファ (TNFα) アンタゴニストを含む、患者における計画された炎症トリガーの後の認知機能低下を該患者において予防又は低減するための剤。
【請求項4】
計画された炎症トリガーが手術であり、かつ、前記患者において術後認知機能障害 (POCD) を予防又は低減するためのものである、請求項1、2又は3記載の方法、使用又は剤。
【請求項5】
計画された炎症トリガーが化学療法である、請求項1、2又は3記載の方法、使用又は剤。
【請求項6】
認知障害を有する患者において認知機能低下を低減させる方法であって、前記患者は炎症トリガーに曝露された患者であり、治療に有効な量の腫瘍壊死因子アルファ (TNFα) アンタゴニストを炎症トリガー曝露後に前記患者に投与することを含む、方法。
【請求項7】
認知障害を有する患者において認知機能低下を低減するための医薬を製造するための、治療に有効な量の腫瘍壊死因子アルファ (TNFα) アンタゴニストの使用であって、前記患者は炎症トリガーに曝露された患者である、使用。
【請求項8】
治療に有効な量の腫瘍壊死因子アルファ (TNFα) アンタゴニストを含む、認知障害を有する患者において認知機能低下を低減するための剤であって、前記患者は炎症トリガーに曝露された患者である、剤。
【請求項9】
認知障害が、せん妄、アルツハイマー病、多発性硬化症、脳卒中、パーキンソン病、ハンチントン病、認知症、前頭側頭型認知症、血管性認知症、HIV認知症、外傷後ストレス障害及び/又は関節リウマチである、請求項6, 7又は8記載の方法、使用又は剤。
【請求項10】
炎症トリガーが、感染、外傷、手術、ワクチン接種、関節炎、肥満、糖尿病、脳卒中、心停止、やけど、化学療法、爆風損傷、尿路感染(UTI)、気道感染(RTI)、HIV、中毒、アルコール若しくはその他の薬物からの離脱、低酸素、及び/又は頭部損傷である、請求項6〜9のいずれか1項に記載の方法、使用又は剤。
【請求項11】
POCDが、記憶喪失、記憶障害、集中力障害、せん妄、認知症及び疾病行動のうちの1以上として顕在化する、請求項4記載の方法、使用又は剤。
【請求項12】
治療に有効な量のインターロイキン1 (IL-1) アンタゴニストを前記患者に投与することをさらに含む、請求項1, 4, 5又は6記載の方法。
【請求項13】
前記医薬又は剤が、治療に有効な量のインターロイキン1 (IL-1) アンタゴニストと組み合わせて投与するためのものである、請求項2, 3, 4, 5, 7又は8記載の使用又は剤。
【請求項14】
IL-1アンタゴニストが、TNFαアンタゴニストの前、後、若しくはこれと同時に投与されるか、又はそのように投与するためのものである、請求項12又は13記載の方法、使用又は剤。
【請求項15】
IL-1アンタゴニストがTNFαアンタゴニストと一緒に製剤化されている、請求項12又は13記載の方法、使用又は剤。
【請求項16】
TNFαアンタゴニストが、前記患者への外科的処置の開始前、外科的処置中、若しくは外科的処置の完了後に該患者に投与されるか、又はそのように投与するためのものである、請求項4又は11記載の方法、使用又は剤。
【請求項17】
TNFαアンタゴニストが、外科的処置の完了の直前若しくは完了後1時間までに投与されるか、又はそのように投与するためのものである、請求項16記載の方法、使用又は剤。
【請求項18】
TNFαアンタゴニストが、前記患者への化学療法の開始前、化学療法中、若しくは化学療法の1ラウンドの処置が完了した後に該患者に投与されるか、又はそのように投与するためのものである、請求項5記載の記載の方法、使用又は剤。
【請求項19】
前記患者は、せん妄、アルツハイマー病、多発性硬化症、脳卒中、パーキンソン病、ハンチントン病、認知症、前頭側頭型認知症、血管性認知症、HIV認知症、外傷後ストレス障害若しくは関節リウマチを有するか、又は発症するリスクのある患者である、請求項1〜5に記載の方法、使用又は剤。
【請求項20】
前記患者がヒトである、請求項1〜8記載の方法、使用又は剤。
【請求項21】
前記患者が20歳未満であるか又は50歳を超える年齢である、請求項20記載の方法、使用又は剤。
【請求項22】
TNFαアンタゴニストがTNFα受容体アンタゴニストである、請求項1〜21記載の方法、使用又は剤。
【請求項23】
TNFαアンタゴニストが抗体、抗体断片又はその融合体である、請求項1〜22記載の方法、使用又は剤。
【請求項24】
TNFαアンタゴニストが抗TNFα抗体である請求項23記載の方法、使用又は剤。
【請求項25】
TNFαアンタゴニストが低分子化学物質である請求項1〜22記載の方法、使用又は剤。
【請求項26】
TNFαアンタゴニストがsiRNA分子、アンチセンスオリゴヌクレオチド又はリボザイムである請求項1〜22記載の方法、使用又は剤。
【請求項27】
IL-1アンタゴニストがIL-1受容体アンタゴニスト、IL-1αアンタゴニスト、IL-1βアンタゴニスト又はトール様受容体(TLR)アンタゴニストである、請求項12〜15記載の方法、使用又は剤。
【請求項28】
IL-1アンタゴニストが抗体、抗体断片又はその融合体である請求項27記載の方法、使用又は剤。
【請求項29】
IL-1アンタゴニストが低分子化学物質である請求項27記載の方法、使用又は剤。
【請求項30】
IL-1アンタゴニストがsiRNA分子、アンチセンスオリゴヌクレオチド又はリボザイムである請求項27記載の方法、使用又は剤。
【請求項31】
IL-1受容体アンタゴニストがアナキンラである請求項27記載の方法、使用又は剤。
【請求項32】
請求項4に従属する場合においては、IL-1アンタゴニストが、前記患者への外科的処置の開始前、外科的処置中、若しくは外科的処置の完了後に該患者に投与されるか、又はそのように投与するためのものである、請求項12又は13記載の方法、使用又は剤。
【請求項33】
請求項5に従属する場合においては、IL-1アンタゴニストが、前記患者への化学療法の開始前、化学療法中、若しくは化学療法の1ラウンドの処置が完了した後に該患者に投与されるか、又はそのように投与するためのものである、請求項12又は13記載の方法、使用又は剤。
【請求項34】
外科的処置が、心臓胸郭部手術、整形外科手術、神経手術、血管手術、形成外科手術、婦人科手術、産科手術、泌尿器科手術、一般外科手術、頭頚部手術、耳鼻咽喉(ENT)手術、小児科手術、歯科手術、顎顔面手術、眼科手術、疼痛管理手術、外傷手術、又は小手術である、請求項4, 10, 11, 16, 17, 32又は33記載の方法、使用又は剤。
【請求項35】
一般外科手術が、直腸結腸手術、肝胆道手術、又は上部消化管手術である請求項34記載の方法、使用又は剤。
【請求項36】
小手術が、カテーテル処置、皮膚小手術、整形小手術、神経ブロック、内視鏡検査、経食道心エコー検査又はその他の軽い処置である請求項34記載の方法、使用又は剤。
【請求項37】
外科的処置が全身麻酔下、部分麻酔下、局所麻酔下、鎮静下又はこれらの組み合わせの下で行なわれる、請求項34記載の方法、使用又は剤。
【請求項38】
IL-1アンタゴニストとTNFαアンタゴニストとを含む、計画された炎症トリガーの後の患者において認知機能低下を予防又は低減するために用いられるパーツのキット。
【請求項39】
IL-1アンタゴニストとTNFαアンタゴニストとを含む、認知障害を有する患者において認知機能低下を低減するためのパーツのキットであって、該患者は炎症トリガーに曝露された患者である、キット。
【請求項40】
IL-1アンタゴニストと、
TNFαアンタゴニストと、
前記IL-1アンタゴニスト及びTNFαアンタゴニストを計画された炎症トリガーの前、その最中、又はその後に患者に投与することに関する指示書と
を含む、パーツのキット。
【請求項41】
計画された炎症トリガーが外科的処置又は化学療法である請求項38又は40記載のキット。
【請求項42】
患者における計画された炎症トリガーの後に該患者において認知機能低下を予防又は低減する方法であって、治療に有効な量のインターロイキン1 (IL-1) アンタゴニストを前記患者に投与することを含む、方法。
【請求項43】
計画された炎症トリガーが手術であり、かつ、術後認知機能障害(POCD)を予防又は低減する方法である、請求項42記載の方法。
【請求項44】
計画された炎症トリガーが化学療法である請求項42記載の方法。
【請求項45】
認知障害を有する患者において認知機能低下を低減する方法であって、該患者は炎症トリガーに曝露された患者であり、該方法は治療に有効な量のインターロイキン1 (IL-1) アンタゴニストを前記患者が炎症トリガーに曝露された後に該患者に投与することを含む、方法。
【請求項46】
認知障害が、せん妄、アルツハイマー病、多発性硬化症、脳卒中、パーキンソン病、ハンチントン病、認知症、前頭側頭型認知症、血管性認知症、HIV認知症、外傷後ストレス障害及び/又は関節リウマチである、請求項45記載の方法。
【請求項47】
炎症トリガーが、感染、外傷、手術、ワクチン接種、関節炎、肥満、糖尿病、脳卒中、心停止、やけど、化学療法、爆風損傷、尿路感染(UTI)、気道感染(RTI)、HIV、中毒、アルコール若しくはその他の薬物からの離脱、低酸素、及び/又は頭部損傷である、請求項45記載の方法。
【請求項48】
POCDが、記憶喪失、記憶障害、集中力障害、せん妄、認知症及び疾病行動のうちの1以上として顕在化する、請求項43記載の方法。
【請求項49】
前記患者は、せん妄、アルツハイマー病、多発性硬化症、脳卒中、パーキンソン病、ハンチントン病、認知症、前頭側頭型認知症、血管性認知症、HIV認知症、外傷後ストレス障害及び/若しくは関節リウマチを有するか、又は発症するリスクのある患者である、請求項43記載の方法。
【請求項50】
前記患者がヒトである請求項42記載の方法。
【請求項51】
前記患者が20歳未満であるか又は50歳を超える年齢である、請求項50記載の方法。
【請求項52】
IL-1アンタゴニストが、IL-1受容体アンタゴニスト、IL-1αアンタゴニスト、IL-1βアンタゴニスト又はトール様受容体(TLR)アンタゴニストである、請求項42〜45記載の方法。
【請求項53】
IL-1アンタゴニストが抗体、抗体断片又はその融合体である、請求項52記載の方法。
【請求項54】
IL-1アンタゴニストが低分子化学物質である請求項52記載の方法。
【請求項55】
IL-1アンタゴニストがsiRNA分子、アンチセンスオリゴヌクレオチド又はリボザイムである請求項52記載の方法。
【請求項56】
IL-1受容体アンタゴニストがアナキンラである請求項52記載の方法。
【請求項57】
IL-1アンタゴニストが、前記患者への外科的処置の開始前、外科的処置中、又は外科的処置の完了後に該患者に投与される、請求項43記載の方法。
【請求項58】
外科的処置が、心臓胸郭部手術、整形外科手術、神経手術、血管手術、形成外科手術、婦人科手術、産科手術、泌尿器科手術、一般外科手術、頭頚部手術、耳鼻咽喉(ENT)手術、小児科手術、歯科手術、顎顔面手術、眼科手術、疼痛管理手術、外傷手術、又は小手術である、請求項57記載の方法。
【請求項59】
一般外科手術が、直腸結腸手術、肝胆道手術、又は上部消化管手術である請求項58記載の方法。
【請求項60】
小手術が、カテーテル処置、皮膚小手術、整形小手術、神経ブロック、内視鏡検査、経食道心エコー検査又はその他の軽い処置である請求項58記載の方法。
【請求項61】
外科的処置が全身麻酔下、部分麻酔下、局所麻酔下、鎮静下又はこれらの組み合わせの下で行なわれる、請求項58記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2013−519718(P2013−519718A)
【公表日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−553396(P2012−553396)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際出願番号】PCT/GB2011/000220
【国際公開番号】WO2011/101634
【国際公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(505167543)インペリアル・イノベ−ションズ・リミテッド (23)
【Fターム(参考)】