施工材料、施工材料の製造方法、施工方法、鉄道の道床バラスト、鉄道の道床バラストの施工方法、省力化軌道用土路盤、省力化軌道用土路盤の施工方法、構造物の地盤および構造物の地盤の施工方法
【課題】 鉄道の道床バラストや各種の構造物の地盤の凍上の発生を有効に防止することができ、しかも産業廃棄物の有効利用を図ることができ、施工費用が安価に済む鉄道の道床バラストおよび構造物の地盤ならびにそれらの施工方法を提供する。
【解決手段】 クリンカアッシュと凍上性材料とを、クリンカアッシュと凍上性材料との総重量に対するクリンカアッシュの重量の比が50%以上100%未満になるように混合した施工材料を鉄道の道床バラストや各種の構造物の地盤に用いて施工を行う。好ましくはクリンカアッシュを70%以上95%以下の比になるように混合する。凍上性材料は細粒分を含む礫・砂、粒度調整砕石等である。
【解決手段】 クリンカアッシュと凍上性材料とを、クリンカアッシュと凍上性材料との総重量に対するクリンカアッシュの重量の比が50%以上100%未満になるように混合した施工材料を鉄道の道床バラストや各種の構造物の地盤に用いて施工を行う。好ましくはクリンカアッシュを70%以上95%以下の比になるように混合する。凍上性材料は細粒分を含む礫・砂、粒度調整砕石等である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、施工材料、施工材料の製造方法、施工方法、鉄道の道床バラスト、鉄道の道床バラストの施工方法、省力化軌道用土路盤、省力化軌道用土路盤の施工方法、構造物の地盤および構造物の地盤の施工方法に関し、特に、凍上が起こる地域における各種の施工に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道線路の凍上現象は、路盤が凍結し路盤表面が隆起することにより、レール、マクラギおよび道床バラストで構成されたバラスト軌道を持ち上げることと考えられている。凍上による被害は、ほとんどが北海道で発生し、本州ではまれに青森県、岩手県、長野県等で認められている。対策としては、レールとマクラギとの間にはさみ木と呼ばれる薄い木板を挿入することで軌道面を整正し、列車走行の安全性を確保している(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、これは暫定的な対策に過ぎず、日々の軌道状態の変化を把握し対応する必要があるため、冬期間の線路の保守管理に多大な労力と時間とを費やしている。
【0003】
【非特許文献1】土質工学会編:土の凍結−その理論と実際−、pp.4−11、203 −216 、1994
【0004】
このため、従来より凍上防止のための恒久的な対策がとられており(例えば、非特許文献2参照)、主な対策工法として路盤置換工法、断熱工法および排水工法がある。路盤置換工法は、路盤内の凍上性を持つ路盤材料を非凍上性の材料で置き換える工法である(例えば、非特許文献3参照)。断熱工法は、路盤内に断熱材を埋設し、外気が路盤内に侵入することを防ぎ、保温する工法である。排水工法は、路盤内の水を排水し、凍上を助長する水分を除く工法である。北海道内の線路には既にこれらの対策が路盤部へ実施されている。
【0005】
【非特許文献2】北海道保線史編集委員会:北海道保線のあゆみ、pp.362−375 、1972
【0006】
【非特許文献3】旭川鉄道管理局:鉄道の研究の結果得られた事項、業務資料(凍上)、pp.3−21、452 −478 、1951
【0007】
なお、特許文献1には、地盤または路床上に、複数の合成樹脂発泡体を水硬化性結合剤で固めて一体とした断熱性粒状体を敷いてから、その上方に鉄道の道床バラストや道路の舗装等の構造物を敷設する構造物の凍上防止工法が開示されている。また、特許文献2には、高含水比ならびに低含水比の凍上性地盤土に一次添加物として生石灰を混合して、地盤土の含水比ならびに塑性指数を低下させ、砂質土のような性質を持つ土質に改良することにより、さらに高強度とするために2次添加物を混合するための素地をつくった後、2次添加物として、水硬化性物質および/または生石灰と反応硬化する物質とを混合し十分な締固めと養生とを行い、高強度で一種の硬化体のような性質を持つ非凍上性の土質に改良する地盤凍上軟弱化防止工法が開示されている。また、特許文献3には、炉内脱硫方式の流動床石炭ボイラー灰100重量部と水20〜50重量部を造粒機内で混合後、自然養生して、平均粒子径9.5mm以下の造粒物硬化体を製造する土木材料の製造方法が開示されている。さらに、非特許文献4には、道路の凍上抑制層へのクリンカアッシュの適用について報告されているが、クリンカアッシュと凍上性材料とを混合することについては何ら報告されていない。
【0008】
【特許文献1】特開平10−121403号公報
【0009】
【特許文献2】特許第2784242号明細書
【0010】
【特許文献3】特開2002−273394号公報
【0011】
【非特許文献4】土木学会第55回年次学術講演会(平成12年9月)V-57
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記の凍上対策工法が実施されているにもかかわらず、いまだに毎年、凍上害が発生しているのが現状であり、道床バラスト部で凍上が発生している可能性が危惧される。
そこで、この発明が解決しようとする課題は、鉄道の道床バラストの凍上の発生を有効に防止することができ、しかも産業廃棄物の有効利用を図ることができ、施工費用が安価に済む鉄道の道床バラストおよびその施工方法ならびにそれらに用いて好適な施工材料、その製造方法およびこの施工材料を用いた施工方法を提供することである。
この発明が解決しようとする他の課題は、省力化軌道用土路盤の凍上の発生を有効に防止することができ、しかも産業廃棄物の有効利用を図ることができ、施工費用が安価に済む省力化軌道用土路盤およびその施工方法ならびにそれらに用いて好適な施工材料を提供することである。
この発明が解決しようとするさらに他の課題は、各種の構造物の地盤の凍上や凍着の発生を有効に防止することができ、しかも産業廃棄物の有効利用を図ることができ、施工費用が安価に済む構造物の地盤およびその施工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った。その概要について説明すると以下のとおりである。
凍上の3要素として、水分・寒さ・土質(細粒分)が挙げられる。このうち土質については、一般に「粒径が0.1mm以上の砂では凍上は起こらず、0.05〜0.1mmの粒を含む土から凍上が起こり始め、以下粒径が小さくなるにつれ凍上性が高くなる(非特許文献1参照)」と言われている。つまり、礫・砂単独では凍上性はないものの、細粒分(細粒土)を含むと凍上する恐れがあると考えられている。
本発明者らは、以下に説明するように、細粒分を含む礫・砂を対象としたいくつかの事象について実験的に確認している。
【0014】
(1)在来線バラスト軌道
北海道内線区の多くは、路盤部における凍上対策が実施されていると考えられるが、未だに毎年凍上害が発生している区間が存在する。このため、細粒分を含むバラストの凍上性について検討した結果、以下のことを確認した(相原宏任・網嶋和彦・原口征人・赤川敏:道床バラスト部の凍上に影響を及ぼす細粒分含有量、土木学会北海道支部論文報告集、第59号、pp.532-533、2003.1)。
(i)細粒分を含む道床バラスト内(特に路盤部と道床部の境界付近)においても凍上 は発生する(図1参照)。
(ii)バラスト内細粒分混合割合を5%以下にすることで列車走行に影響を及ぼす凍上害を抑制できる。
【0015】
(2)省力化軌道
北海道新幹線計画ルートにおける最大凍結深さを算出したところ138.8cmとなり、RC路盤下の土路盤中まで凍結すると推定された。このことより、設計標準(鉄道総合技術研究所:鉄道構造物等設計標準・同解説 省力化軌道用土構造物、1999参照)による省力化軌道用土路盤に用いられる材料の凍上性について検討した結果、以下のことが確認された(網嶋和彦・瀧口孝司・相原宏任・原口征人・赤川敏:寒冷地における省力化軌道用土路盤の凍上特性、土木学会北海道支部論文報告集、第59号、pp.534-537、2003.1、図2参照)。
(iii)省力化軌道用土路盤に用いる粒度調整砕石(M−25,細粒分2〜10%)は、飽和状態になると最大1.5cm(路盤厚15cm×凍上率9.88%)ほど凍上する可能性がある。
(iv)切取・素地・低盛土の路床で凍上対策に用いられる粒度調整砕石(粒径0.075mm以下が9.75%以下)は、飽和状態になると最大4.6cm(必要置換深さ69.8cm×凍上率6.55%)ほど凍上する可能性がある。
(v)切取・素地・低盛土の路床で凍上対策に用いられる砂(粒径0.075mm以下が6%以下)は、飽和状態になると最大1.9cm(必要置換深さ69.8cm×凍上率2.71%)ほど凍上する可能性がある。
【0016】
(i)においては、列車通過時の振動等によるバラストの経年劣化等により細粒分混入率が増加する恐れがあるため、バラスト内での凍上の発生する可能性も高くなると考えられる。このことは、道床交換を行うことで対処可能であるが、高価でかつ大規模工事となるため、安価でかつ夏期の一般作業にて施工できる凍上対策が求められている。
(iii)〜(v)においては、建設後の省力化軌道用土路盤に凍上が発生すると、軌道保守作業は困難である。建設前に(iii)〜(v)について考慮し、施工時に凍上対策を施しておく必要がある。
【0017】
以上のことを踏まえ、本発明者らは、細粒分を含む礫・砂、特に道床バラストあるいは省力化軌道用土路盤、さらには各種の構造物の地盤内に非凍上性材料を混合することで凍上抑制を行うことを考え、また、細粒分混合割合を変化させることで凍上抑制に有効な混合割合の検討を行った。非凍上性材料として、本発明者らは、産業廃棄物である石炭灰に着目した。
すなわち、石炭火力発電所では、微粉砕した石炭をボイラーで燃焼させて発電しているため、石炭灰が発生する。1991年には「再生資源の利用の促進に関する法律」(リサイクル法)が制定され、石炭灰は指定副産物に定められたことから、その有効利用法の開発が一層求められている。北海道内においては、苫東厚真、奈井江、砂川の3石炭火力発電所にて約66万t/年の石炭灰が発生し(2003年度)、うち9割は有効利用されているが、残りの1割は産業廃棄物として処理されている。石炭灰の有効利用促進のため、電機集塵機で集められた細かな球状の灰を「フライアッシュ」、ボイラー底部に落下した塊状の灰を粉砕したものを「クリンカアッシュ」(以下CAと言うこともある)と分類し製品化されている。図3にフライアッシュの走査型電子顕微鏡写真(1500倍)、図4にクリンカアッシュの走査型電子顕微鏡写真(300倍)を示す(http://www.japan-flyash.com/japan-flyash/toku.html、http://www.tohatu.co.jp/html/work spf3.html 、http://www.chuden.co.jp/torikumi/karyoku/sekkai/sekkai.html 、http://www.nihonkaikenko.co.jp/newtec.htm )。クリンカアッシュは、粒径が砂状、粒子が孔隙構造であり、排水性に優れている。クリンカアッシュの凍上性については、「道路土工−排水工指針」に基づく室内凍上試験結果によると、凍上率0.2〜8.9%であり、同指針における「凍上を起こしにくい材料」の凍上率推奨限界値20%を十分に満たしている(環境技術協会・日本フライアッシュ協会:石炭灰ハンドブック、2000)。クリンカアッシュは、石炭の産出国や発電所のボイラーの規模、燃焼温度が異なっていても、性状が比較的安定している点や、上記の凍上性に関する点より、特に好ましいものである。
【0018】
2003年11月、地盤工学会基準の室内凍上試験法(地盤工学会:新規制定地盤工学会基準・同解説VII (2003年度版)「凍上性判定のための土の凍上試験方法(JGS0172-2003)」、2003)が制定されたため、この基準に準じたクリンカアッシュの室内凍上試験を実施し、凍上性について確認した。
この室内凍上試験で用いたクリンカアッシュの粒度内訳を表1に示す。
【0019】
【表1】
【0020】
クリンカアッシュは、土質材料の工学的分類では「細粒分混じり礫質砂(SG−F)」に分類される。原粒度のクリンカアッシュと、ふるい分けにより抽出した粒径0.075mm以下のクリンカアッシュとを用い、両者の凍上試験を実施した。試験は、両端面温度降下速度一定方式(ランプサム式)を用い、試料内温度勾配0.5℃/cm、凍結面進行速度0.1cm/hで行った。図5および図6に示すように、いずれも凍上率は0%に近い数値であった。つまり、クリンカアッシュが細粒化されても、凍上性は変わらないことを確認した。
【0021】
次に、BET法によりクリンカアッシュの比表面積の測定を行った結果について説明する。ここで、比表面積とは、単位重量に含まれる全粒子の表面積の総和である。また、BET法とは、異なる分圧の窒素ガスを、試料を含む容器に注入し、その分圧の低下量より試料に吸着した窒素ガス分子の数を計測するものである。窒素ガス分子断面積は既知であるので、窒素ガス分子吸着数と窒素ガス分子断面積より、全試料の表面積が求まる。これを試料重量で除すことにより試料の比表面積を求めることができる(鞠谷佳郎・武井健太郎・原口征人・赤川敏:土の鉱物組成と比表面積および不凍水分量の関係、地盤工学会北海道支部技術報告会、第43号、p.201 、2003)。一般に比表面積が大きいと凍上性が高くなり、比表面積が小さいと凍上性は低い。測定結果を表2に示す。
【0022】
【表2】
【0023】
実験装置の関係上、粒径0.075〜2mmと0.075mm以下のクリンカアッシュを用いた。凍上性のある粘性土の比表面積は一般に約20m2 /g以上であるが、クリンカアッシュの比表面積はこれを下回っていた。
以上の室内凍上試験および比表面積測定により、クリンカアッシュは「非凍上性材料」であることが確認できた。
さらに、このクリンカアッシュを細粒分を含む礫・砂に混合させた場合の凍上抑制効果を、室内実験、非公開の現地予備実験において検証した結果、後に詳述するように、木節粘土と同量以上のクリンカアッシュを混ぜると凍上抑制効果が顕著に現れ、9倍以上混ぜるとほとんど凍上しないことを見出した。
【0024】
この発明は、以上の検討の結果案出されたものである。
すなわち、上記課題を解決するために、第1の発明は、
クリンカアッシュと凍上性材料とを含む施工材料であって、
上記クリンカアッシュと上記凍上性材料との総重量に対する上記クリンカアッシュの重量の比が50%以上100%未満であることを特徴とするものである。
第2の発明は、
クリンカアッシュと凍上性材料とを、上記クリンカアッシュと上記凍上性材料との総重量に対する上記クリンカアッシュの重量の比が50%以上100%未満になるように混合することを特徴とする施工材料の製造方法である。
第3の発明は、
クリンカアッシュと凍上性材料とを、上記クリンカアッシュと上記凍上性材料との総重量に対する上記クリンカアッシュの重量の比が50%以上100%未満になるように混合して施工を行うことを特徴とする施工方法である。
第1〜第3の発明において、施工材料は、クリンカアッシュと凍上性材料との総重量に対するクリンカアッシュの重量の比が50%以上100%未満である限り、クリンカアッシュおよび凍上性材料以外のものを含んでもよいし、含まなくてもよい。凍上をより有効に抑制する観点より、好適には、クリンカアッシュを70%以上混合し、一方、クリンカアッシュを混合する手間を減らす観点より、好適には、95%以下、より好適には90%以下混合する。凍上性材料は基本的にはどのようなものであってもよいが、例えば、細粒分を含む礫・砂、粒度調整砕石等である。施工を行う際には、例えば、凍上性材料を含む施工部の表面にクリンカアッシュを散布後、タイタンパーにて施工部に所定の混合割合で混入させたり、施工部の土を掘って取り除き、あらかじめ調製されたこの施工材料で埋め戻す等の種々の方法を用いることができる。
【0025】
第4の発明は、
クリンカアッシュと凍上性材料とを含む施工材料を用いたことを特徴とする鉄道の道床バラストである。
第5の発明は、
クリンカアッシュと凍上性材料とを含む施工材料を用いて施工を行うことを特徴とする鉄道の道床バラストの施工方法である。
第6の発明は、
クリンカアッシュと凍上性材料とを含む施工材料を用いたことを特徴とする省力化軌道用土路盤である。
第7の発明は、
クリンカアッシュと凍上性材料とを含む施工材料を用いて施工を行うことを特徴とする省力化軌道用土路盤の施工方法である。
第8の発明は、
クリンカアッシュと凍上性材料とを含む施工材料を用いたことを特徴とする構造物の地盤である。
第9の発明は、
クリンカアッシュと凍上性材料とを含む施工材料を用いて施工を行うことを特徴とする構造物の地盤の施工方法である。
第4〜第9の発明においては、典型的には、施工材料は、クリンカアッシュを、このクリンカアッシュと凍上性材料との総重量に対するクリンカアッシュの重量の比が50%以上100%未満になるように含む。
第8および第9の発明において、構造物には各種のものが含まれ、例えば、ビル、マンション、戸建て住宅等の各種建築物のほか、電柱や鉄道のホーム等も含まれ、これらの構造物の裏込め材料(例えば、ホーム盛土材)にクリンカアッシュを混合する。
第4〜第9の発明においては、上記以外のことについては、その性質に反しない限り、第1〜第3の発明に関連して説明したことが成立する。
【発明の効果】
【0026】
この発明によれば、非凍上性材料であるクリンカアッシュと凍上性材料とを混合し、例えばこのクリンカアッシュと凍上性材料との総重量に対するクリンカアッシュの重量の比が50%以上100%未満になるように混合して施工材料としているので、これを鉄道の道床バラストや省力化軌道用土路盤や各種の構造物の地盤に用いることにより、それらの凍上や凍着の発生を有効に防止することができ、しかも産業廃棄物であるクリンカアッシュの有効利用を図ることができ、施工費用が安価に済む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、この発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
まず、細粒分を含む礫・砂にクリンカアッシュを混合させた場合の凍上抑制効果を、室内実験において検証した結果について詳細に説明する。
礫・砂は非凍上性材料であることから、細粒分のみに着目し、室内実験を実施した。
実験方法は以下の通りである。
(1)供試体作成
細粒分として、凍上性が高い木節粘土を用いた。クリンカアッシュと木節粘土とを共に絶乾状態において、表3に示す割合(重量比)でよく混ぜ合わせ、「砂の最大密度試験(JIS A 1224)」に準じ、供試体の締まり具合が最も密な状態を再現した。また、細粒分がクリンカアッシュから分離することが懸念されたため、供試体下部よりゆっくりとした速度(1mm/hを目標)で吸水させ、飽和状態とした。
【0028】
【表3】
【0029】
(2)実験条件
温度条件は既に述べた凍上試験と同様とした。また、上載圧については、軌道材料の死荷重を考慮し、12.5kPaとした。
実験結果を図7に示す。同図より、クリンカアッシュを混ぜることにより凍上率は減少していくことがわかる。特に木節粘土と同量以上(50%以上)のクリンカアッシュを混ぜると凍上抑制効果は顕著に現れ、約2.3倍以上(70%以上)混ぜるとより顕著に凍上抑制効果が現れ、9倍以上(90%以上)混ぜるとほとんど凍上しなかった。
比較のために、図7においては、単粒度の砂と細粒分とを用いて同様な実験を行った結果も併せて示している。単粒度の砂も非凍上性であるが、細粒分との混合割合を同じにした場合、クリンカアッシュの方がより凍上抑制効果があることがわかる。
【0030】
次に、この発明の第1の実施形態について説明する。この第1の実施形態は、この発明をバラスト軌道の道床バラスト部に適用したものである。
図8に示すように、路盤1上に道床バラスト2が設置され、道床バラスト2にマクラギ3が埋設され、その上にレール4が敷設されている。この場合、道床バラスト2は、例えばその表面にクリンカアッシュを散布してその中に混入させることでバラスト内細粒分にクリンカアッシュを50%以上100%未満含ませている。
例えば、クリンカアッシュを細粒分の約2.3倍(クリンカアッシュ:細粒分=70:30)混合させると、言い換えると、クリンカアッシュが70%含まれる場合、図7より凍上率は3.5%となる。道床厚200mmの軌道構造の場合、推定凍上量は7mmとなり、軌道整備規程の整備目標値(高低、静的)9mmを下回ることとなる。
【0031】
次に、非公開の現地予備実験を行った結果について説明する。
本凍上対策がバラスト軌道へ適用可能か検証するために、JR室蘭本線鷲別駅付近旧上り線において、実際にバラスト内にクリンカアッシュを混入させ、凍上抑制効果を検証した。
実験方法は次のとおりである。バラスト表面1m2 に、クリンカアッシュをそれぞれ10kg、20kg、30kg、40kg散布後、タイタンパーにてバラスト内に混入させた。当該箇所のバラスト内細粒分とクリンカアッシュとの混合割合(重量比)は、表3と同様に算出すると表4に示すとおりと考えられる。また、クリンカアッシュを散布せず、タイタンパーにてバラスト内部を攪拌した箇所を設けた。
【0032】
【表4】
【0033】
各測点のレベル測量にて凍上量を計測し、同時に土中温度計測を実施し、凍結深さを算出した。
施工性については、バラスト内にクリンカアッシュを混入させることは容易であった。図9にクリンカアッシュ混入後の道床表面の写真を示す。
以上の現地予備実験の結果、表4に示す混合割合でクリンカアッシュをバラスト内細粒分に混合することで、凍上を抑制することができることがわかった。
【0034】
以上のように、この第1の実施形態によれば、道床バラスト2の細粒分にクリンカアッシュを50%以上100%未満含ませることにより、道床バラスト2の凍上を低コストで抑制することができる。この手法では、夏期の一般作業に1工程加えることで凍上対策となるため、冬期のはさみ木作業の軽減につながる。
【0035】
次に、この発明の第2の実施形態について説明する。この第2の実施形態は、この発明をバラスト軌道の道床バラスト下の路盤の施工に適用したものである。
すなわち、この第2の実施形態においては、図8に示す路盤1の細粒分にクリンカアッシュを50%以上100%未満含ませている。
この第2の実施形態によれば、路盤1の凍上を低コストで抑制することができる。
【0036】
次に、この発明の第3の実施形態について説明する。この第3の実施形態は、この発明を省力化軌道用土路盤の施工に適用したものである。
図10は標準的な省力化軌道を示す斜視図、図11はこの省力化軌道の断面図(両図とも鉄道総合技術研究所:鉄道構造物等設計標準・同解説 省力化軌道用土構造物、1999のp.23の図を利用)である。
図10および図11に示すように、この第3の実施形態においては、土路盤11上にコンクリート路盤12が設置され、その上にてん充層13、軌道スラブ14、絶縁板15およびタイプレート16が設置されている。そして、タイプレート16上にレール調整パッキン17および鋼板付き軌道パッド18を介してレール19が敷設されている。レール19はレール締結装置20により軌道スラブ14に締結されている。符号21は例えばバラストを示す。また、符号22は、コンクリート路盤12上に軌道スラブ14を位置決めするための突起を示す。この突起22は、軌道スラブ14に設けられた穴14aに嵌まっている。
この場合、図11に示す土路盤11内の細粒分にクリンカアッシュを50%以上100%未満含ませている。
この第3の実施形態によれば、省力化軌道において、土路盤11の凍上を低コストで抑制することができる。
【0037】
次に、この発明の第4の実施形態について説明する。この第4の実施形態は、この発明を鉄道の電化柱の埋設に適用したものである。
図12に示すように、この第4の実施形態においては、線路の路盤31の端の部分に所定の断面形状の穴32を凍結深さ(凍結深度)以上の深さまで堀り、その底部を施工材料33で埋め戻すとともに、この穴32の側部を例えば一点鎖線で示す高さまで、所定の断面形状になるように同じく施工材料33で埋め戻す。ここで、この施工材料33は、クリンカアッシュと細粒分等の凍上性材料とを、クリンカアッシュが50%以上100%未満含まれるように混合したものであり、あらかじめ調製されたものである。穴32の底部の施工材料33の上および穴32の側部の施工材料33の上に切込み砂利34を敷く。そして、穴32の中に電化柱35を入れ、切込み砂利34の上に鉛直に立てた状態でこの電化柱35と穴32の側部の施工材料33との間にコンクリート36を流し込み、T字型の断面形状とする。コンクリート36の硬化後、その上の空間を施工材料33で埋め戻す。
この第4の実施形態によれば、電化柱35を埋設する穴32の底部および側面を施工材料33で埋め戻していることにより、電化柱35の凍上および凍着を低コストで抑制することができる。
【0038】
次に、この発明の第5の実施形態について説明する。この第5の実施形態は、この発明をU字溝の埋設に適用したものである。
図13に示すように、この第5の実施形態においては、地盤41に所定の断面形状の穴42を凍結深さ以上の深さまで堀り、その底部を施工材料43で埋め戻すとともに、この穴42の側部を同じく施工材料43で埋め戻す。ここで、この施工材料43は、クリンカアッシュと細粒分等の凍上性材料とを、クリンカアッシュが50%以上100%未満含まれるように混合したものであり、あらかじめ調製されたものである。穴42の底部の施工材料43の上に切込み砂利44を敷く。そして、穴42の中にU字溝45を設置する。
この第5の実施形態によれば、U字溝45を埋設する穴42の底部および側面を施工材料43で埋め戻していることにより、U字溝45の凍上および凍着を低コストで抑制することができる。
【0039】
次に、この発明の第6の実施形態について説明する。この第6の実施形態は、この発明をヒューム管の埋設に適用したものである。
図14に示すように、この第6の実施形態においては、地盤51に所定の断面形状の穴52を凍結深さ以上の深さまで堀り、その底部を施工材料53で埋め戻し、その上に切込み砂利54を敷く。そして、この切込み砂利54の上にヒューム管55を設置し、このヒューム管55が埋設されるように穴52を施工材料53で完全に埋め戻す。ここで、この施工材料53は、クリンカアッシュと細粒分等の凍上性材料とを、クリンカアッシュが50%以上100%未満含まれるように混合したものであり、あらかじめ調製されたものである。
この第6の実施形態によれば、ヒューム管55を埋設する穴52の底部およびヒューム管55の周囲を施工材料53で埋め戻していることにより、ヒューム管55の凍上および凍着を低コストで抑制することができる。
【0040】
次に、この発明の第7の実施形態について説明する。この第7の実施形態は、この発明を車庫や物置等の土間への壁の設置に適用したものである。
図15に示すように、この第7の実施形態においては、地盤61に所定の断面形状の穴62を凍結深さ以上の深さまで堀り、その底部を施工材料63で埋め戻し、その上に切込み砂利64を敷く。そして、この切込み砂利64の上に壁65を鉛直に立て、穴62を施工材料63で完全に埋め戻す。ここで、この施工材料63は、クリンカアッシュと細粒分等の凍上性材料とを、クリンカアッシュが50%以上100%未満含まれるように混合したものであり、あらかじめ調製されたものである。
この第7の実施形態によれば、壁65を埋設する穴62の底部および側面を施工材料63で埋め戻していることにより、壁65の凍上および凍着を低コストで抑制することができる。
【0041】
次に、この発明の第8の実施形態について説明する。この第8の実施形態は、この発明を地下室の設置に適用したものである。
図16に示すように、この第8の実施形態においては、地盤71に所定の断面形状の穴72を凍結深さ以上の深さまで堀り、その底部を施工材料73で埋め戻し、その上に切込み砂利74を敷く。そして、この切込み砂利74の上に地下室構造体75を設置し、この地下室構造体75と穴72の側部との間の空間を施工材料73で完全に埋め戻す。ここで、この施工材料73は、クリンカアッシュと細粒分等の凍上性材料とを、クリンカアッシュが50%以上100%未満含まれるように混合したものであり、あらかじめ調製されたものである。
この第8の実施形態によれば、地下室構造体75を設置する穴72の底部および側面を施工材料73で埋め戻していることにより、地下室構造体75の凍上および凍着を低コストで抑制することができる。
【0042】
次に、この発明の第9の実施形態について説明する。この第9の実施形態は、この発明を戸建て住宅の玄関ポーチ部の施工に適用したものである。
図17に示すように、この第9の実施形態においては、地盤81に所定の断面形状の穴82を凍結深さ以上の深さまで堀り、その底部を施工材料83で埋め戻し、その上に切込み砂利84を敷く。そして、この切込み砂利84の上に玄関/ポーチ構造体85を設置し、この玄関/ポーチ構造体85と穴82の側部との間の空間を施工材料83で完全に埋め戻す。ここで、この施工材料83は、クリンカアッシュと細粒分等の凍上性材料とを、クリンカアッシュが50%以上100%未満含まれるように混合したものであり、あらかじめ調製されたものである。符号86はドア、87はステップを示す。
この第9の実施形態によれば、玄関/ポーチ構造体85を埋設する穴82の底部および側面を施工材料83で埋め戻していることにより、玄関/ポーチ構造体85の凍上および凍着を低コストで抑制することができる。
【0043】
次に、この発明の第10の実施形態について説明する。この第10の実施形態は、この発明を鉄道のホームの施工に適用したものである。
図18に示すように、この第10の実施形態においては、地盤91上のホーム盛土92のうちの線路側の部分を逆台形状の断面形状に、かつ凍結深さ以上の深さまで除去し、この除去部を施工材料93で埋め戻す。ここで、この施工材料93は、クリンカアッシュと細粒分等の凍上性材料とを、クリンカアッシュが50%以上100%未満含まれるように混合したものであり、あらかじめ調製されたものである。この施工材料93の上に下地層94を介してアスファルト層95が敷かれている。また、この施工材料93の線路側の側面には土留用PC版96〜98が設けられている。施工材料93との間にこの土留用PC版96〜98を挟むように、H型鋼99〜103等で組まれた支持構造体104が設置されている。この支持構造体104の下部は地盤91に埋め込まれている。この支持構造体104上にホーム床版105がアスファルト層95と同じ高さに敷かれている。符号106は例えば道床バラスト、107はレールを示す。
この第10の実施形態によれば、ホーム盛土92のうちの線路側の部分を施工材料93で埋め戻していることにより、線路側の部分のホーム盛土の凍上および凍着を低コストで抑制することができ、このためホーム上面が盛り上がったり、ホーム盛土が線路側に迫り出して建築限界の支障が生じたり土留用PC版96〜98を破損したりするのを防止することができる。
【0044】
以上、この発明の実施形態について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
例えば、上述の実施形態において挙げた数値、構造、材料、施工方法、施工対象等はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構造、材料、施工方法、施工対象等を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】層別変位計による変位量の推移をJR宗谷本線で測定した結果を示す略線図である。
【図2】省力化軌道用土路盤における最大凍上量の推定値を示す略線図である。
【図3】フライアッシュの走査型電子顕微鏡像を示す図面代用写真である。
【図4】クリンカアッシュの走査型電子顕微鏡像を示す図面代用写真である。
【図5】クリンカアッシュ(原粒度)の室内凍上試験の結果を示す略線図である。
【図6】クリンカアッシュ(粒径0.075mm以下)の室内凍上試験の結果を示す略線図である。
【図7】細粒分へのクリンカアッシュの混合割合と凍上率との関係を示す略線図であ
【図8】この発明の第1の実施形態を説明するための断面図である。
【図9】クリンカアッシュ混入後の道床表面を示す図面代用写真である。
【図10】この発明の第3の実施形態を説明するための斜視図である。
【図11】この発明の第3の実施形態を説明するための断面図である。
【図12】この発明の第4の実施形態を説明するための断面図である。
【図13】この発明の第5の実施形態を説明するための断面図である。
【図14】この発明の第6の実施形態を説明するための断面図である。
【図15】この発明の第7の実施形態を説明するための断面図である。
【図16】この発明の第8の実施形態を説明するための断面図である。
【図17】この発明の第9の実施形態を説明するための断面図である。
【図18】この発明の第10の実施形態を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1、31…路盤、2、106…道床バラスト、3…マクラギ、4、19、107…レール、11…土路盤、12…コンクリート路盤、14…軌道スラブ、32、42、52、62、72、82…穴、33、43、53、63、73、83、93…施工材料、34、44、54、64、74、84…切込み砂利
【技術分野】
【0001】
この発明は、施工材料、施工材料の製造方法、施工方法、鉄道の道床バラスト、鉄道の道床バラストの施工方法、省力化軌道用土路盤、省力化軌道用土路盤の施工方法、構造物の地盤および構造物の地盤の施工方法に関し、特に、凍上が起こる地域における各種の施工に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道線路の凍上現象は、路盤が凍結し路盤表面が隆起することにより、レール、マクラギおよび道床バラストで構成されたバラスト軌道を持ち上げることと考えられている。凍上による被害は、ほとんどが北海道で発生し、本州ではまれに青森県、岩手県、長野県等で認められている。対策としては、レールとマクラギとの間にはさみ木と呼ばれる薄い木板を挿入することで軌道面を整正し、列車走行の安全性を確保している(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、これは暫定的な対策に過ぎず、日々の軌道状態の変化を把握し対応する必要があるため、冬期間の線路の保守管理に多大な労力と時間とを費やしている。
【0003】
【非特許文献1】土質工学会編:土の凍結−その理論と実際−、pp.4−11、203 −216 、1994
【0004】
このため、従来より凍上防止のための恒久的な対策がとられており(例えば、非特許文献2参照)、主な対策工法として路盤置換工法、断熱工法および排水工法がある。路盤置換工法は、路盤内の凍上性を持つ路盤材料を非凍上性の材料で置き換える工法である(例えば、非特許文献3参照)。断熱工法は、路盤内に断熱材を埋設し、外気が路盤内に侵入することを防ぎ、保温する工法である。排水工法は、路盤内の水を排水し、凍上を助長する水分を除く工法である。北海道内の線路には既にこれらの対策が路盤部へ実施されている。
【0005】
【非特許文献2】北海道保線史編集委員会:北海道保線のあゆみ、pp.362−375 、1972
【0006】
【非特許文献3】旭川鉄道管理局:鉄道の研究の結果得られた事項、業務資料(凍上)、pp.3−21、452 −478 、1951
【0007】
なお、特許文献1には、地盤または路床上に、複数の合成樹脂発泡体を水硬化性結合剤で固めて一体とした断熱性粒状体を敷いてから、その上方に鉄道の道床バラストや道路の舗装等の構造物を敷設する構造物の凍上防止工法が開示されている。また、特許文献2には、高含水比ならびに低含水比の凍上性地盤土に一次添加物として生石灰を混合して、地盤土の含水比ならびに塑性指数を低下させ、砂質土のような性質を持つ土質に改良することにより、さらに高強度とするために2次添加物を混合するための素地をつくった後、2次添加物として、水硬化性物質および/または生石灰と反応硬化する物質とを混合し十分な締固めと養生とを行い、高強度で一種の硬化体のような性質を持つ非凍上性の土質に改良する地盤凍上軟弱化防止工法が開示されている。また、特許文献3には、炉内脱硫方式の流動床石炭ボイラー灰100重量部と水20〜50重量部を造粒機内で混合後、自然養生して、平均粒子径9.5mm以下の造粒物硬化体を製造する土木材料の製造方法が開示されている。さらに、非特許文献4には、道路の凍上抑制層へのクリンカアッシュの適用について報告されているが、クリンカアッシュと凍上性材料とを混合することについては何ら報告されていない。
【0008】
【特許文献1】特開平10−121403号公報
【0009】
【特許文献2】特許第2784242号明細書
【0010】
【特許文献3】特開2002−273394号公報
【0011】
【非特許文献4】土木学会第55回年次学術講演会(平成12年9月)V-57
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記の凍上対策工法が実施されているにもかかわらず、いまだに毎年、凍上害が発生しているのが現状であり、道床バラスト部で凍上が発生している可能性が危惧される。
そこで、この発明が解決しようとする課題は、鉄道の道床バラストの凍上の発生を有効に防止することができ、しかも産業廃棄物の有効利用を図ることができ、施工費用が安価に済む鉄道の道床バラストおよびその施工方法ならびにそれらに用いて好適な施工材料、その製造方法およびこの施工材料を用いた施工方法を提供することである。
この発明が解決しようとする他の課題は、省力化軌道用土路盤の凍上の発生を有効に防止することができ、しかも産業廃棄物の有効利用を図ることができ、施工費用が安価に済む省力化軌道用土路盤およびその施工方法ならびにそれらに用いて好適な施工材料を提供することである。
この発明が解決しようとするさらに他の課題は、各種の構造物の地盤の凍上や凍着の発生を有効に防止することができ、しかも産業廃棄物の有効利用を図ることができ、施工費用が安価に済む構造物の地盤およびその施工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った。その概要について説明すると以下のとおりである。
凍上の3要素として、水分・寒さ・土質(細粒分)が挙げられる。このうち土質については、一般に「粒径が0.1mm以上の砂では凍上は起こらず、0.05〜0.1mmの粒を含む土から凍上が起こり始め、以下粒径が小さくなるにつれ凍上性が高くなる(非特許文献1参照)」と言われている。つまり、礫・砂単独では凍上性はないものの、細粒分(細粒土)を含むと凍上する恐れがあると考えられている。
本発明者らは、以下に説明するように、細粒分を含む礫・砂を対象としたいくつかの事象について実験的に確認している。
【0014】
(1)在来線バラスト軌道
北海道内線区の多くは、路盤部における凍上対策が実施されていると考えられるが、未だに毎年凍上害が発生している区間が存在する。このため、細粒分を含むバラストの凍上性について検討した結果、以下のことを確認した(相原宏任・網嶋和彦・原口征人・赤川敏:道床バラスト部の凍上に影響を及ぼす細粒分含有量、土木学会北海道支部論文報告集、第59号、pp.532-533、2003.1)。
(i)細粒分を含む道床バラスト内(特に路盤部と道床部の境界付近)においても凍上 は発生する(図1参照)。
(ii)バラスト内細粒分混合割合を5%以下にすることで列車走行に影響を及ぼす凍上害を抑制できる。
【0015】
(2)省力化軌道
北海道新幹線計画ルートにおける最大凍結深さを算出したところ138.8cmとなり、RC路盤下の土路盤中まで凍結すると推定された。このことより、設計標準(鉄道総合技術研究所:鉄道構造物等設計標準・同解説 省力化軌道用土構造物、1999参照)による省力化軌道用土路盤に用いられる材料の凍上性について検討した結果、以下のことが確認された(網嶋和彦・瀧口孝司・相原宏任・原口征人・赤川敏:寒冷地における省力化軌道用土路盤の凍上特性、土木学会北海道支部論文報告集、第59号、pp.534-537、2003.1、図2参照)。
(iii)省力化軌道用土路盤に用いる粒度調整砕石(M−25,細粒分2〜10%)は、飽和状態になると最大1.5cm(路盤厚15cm×凍上率9.88%)ほど凍上する可能性がある。
(iv)切取・素地・低盛土の路床で凍上対策に用いられる粒度調整砕石(粒径0.075mm以下が9.75%以下)は、飽和状態になると最大4.6cm(必要置換深さ69.8cm×凍上率6.55%)ほど凍上する可能性がある。
(v)切取・素地・低盛土の路床で凍上対策に用いられる砂(粒径0.075mm以下が6%以下)は、飽和状態になると最大1.9cm(必要置換深さ69.8cm×凍上率2.71%)ほど凍上する可能性がある。
【0016】
(i)においては、列車通過時の振動等によるバラストの経年劣化等により細粒分混入率が増加する恐れがあるため、バラスト内での凍上の発生する可能性も高くなると考えられる。このことは、道床交換を行うことで対処可能であるが、高価でかつ大規模工事となるため、安価でかつ夏期の一般作業にて施工できる凍上対策が求められている。
(iii)〜(v)においては、建設後の省力化軌道用土路盤に凍上が発生すると、軌道保守作業は困難である。建設前に(iii)〜(v)について考慮し、施工時に凍上対策を施しておく必要がある。
【0017】
以上のことを踏まえ、本発明者らは、細粒分を含む礫・砂、特に道床バラストあるいは省力化軌道用土路盤、さらには各種の構造物の地盤内に非凍上性材料を混合することで凍上抑制を行うことを考え、また、細粒分混合割合を変化させることで凍上抑制に有効な混合割合の検討を行った。非凍上性材料として、本発明者らは、産業廃棄物である石炭灰に着目した。
すなわち、石炭火力発電所では、微粉砕した石炭をボイラーで燃焼させて発電しているため、石炭灰が発生する。1991年には「再生資源の利用の促進に関する法律」(リサイクル法)が制定され、石炭灰は指定副産物に定められたことから、その有効利用法の開発が一層求められている。北海道内においては、苫東厚真、奈井江、砂川の3石炭火力発電所にて約66万t/年の石炭灰が発生し(2003年度)、うち9割は有効利用されているが、残りの1割は産業廃棄物として処理されている。石炭灰の有効利用促進のため、電機集塵機で集められた細かな球状の灰を「フライアッシュ」、ボイラー底部に落下した塊状の灰を粉砕したものを「クリンカアッシュ」(以下CAと言うこともある)と分類し製品化されている。図3にフライアッシュの走査型電子顕微鏡写真(1500倍)、図4にクリンカアッシュの走査型電子顕微鏡写真(300倍)を示す(http://www.japan-flyash.com/japan-flyash/toku.html、http://www.tohatu.co.jp/html/work spf3.html 、http://www.chuden.co.jp/torikumi/karyoku/sekkai/sekkai.html 、http://www.nihonkaikenko.co.jp/newtec.htm )。クリンカアッシュは、粒径が砂状、粒子が孔隙構造であり、排水性に優れている。クリンカアッシュの凍上性については、「道路土工−排水工指針」に基づく室内凍上試験結果によると、凍上率0.2〜8.9%であり、同指針における「凍上を起こしにくい材料」の凍上率推奨限界値20%を十分に満たしている(環境技術協会・日本フライアッシュ協会:石炭灰ハンドブック、2000)。クリンカアッシュは、石炭の産出国や発電所のボイラーの規模、燃焼温度が異なっていても、性状が比較的安定している点や、上記の凍上性に関する点より、特に好ましいものである。
【0018】
2003年11月、地盤工学会基準の室内凍上試験法(地盤工学会:新規制定地盤工学会基準・同解説VII (2003年度版)「凍上性判定のための土の凍上試験方法(JGS0172-2003)」、2003)が制定されたため、この基準に準じたクリンカアッシュの室内凍上試験を実施し、凍上性について確認した。
この室内凍上試験で用いたクリンカアッシュの粒度内訳を表1に示す。
【0019】
【表1】
【0020】
クリンカアッシュは、土質材料の工学的分類では「細粒分混じり礫質砂(SG−F)」に分類される。原粒度のクリンカアッシュと、ふるい分けにより抽出した粒径0.075mm以下のクリンカアッシュとを用い、両者の凍上試験を実施した。試験は、両端面温度降下速度一定方式(ランプサム式)を用い、試料内温度勾配0.5℃/cm、凍結面進行速度0.1cm/hで行った。図5および図6に示すように、いずれも凍上率は0%に近い数値であった。つまり、クリンカアッシュが細粒化されても、凍上性は変わらないことを確認した。
【0021】
次に、BET法によりクリンカアッシュの比表面積の測定を行った結果について説明する。ここで、比表面積とは、単位重量に含まれる全粒子の表面積の総和である。また、BET法とは、異なる分圧の窒素ガスを、試料を含む容器に注入し、その分圧の低下量より試料に吸着した窒素ガス分子の数を計測するものである。窒素ガス分子断面積は既知であるので、窒素ガス分子吸着数と窒素ガス分子断面積より、全試料の表面積が求まる。これを試料重量で除すことにより試料の比表面積を求めることができる(鞠谷佳郎・武井健太郎・原口征人・赤川敏:土の鉱物組成と比表面積および不凍水分量の関係、地盤工学会北海道支部技術報告会、第43号、p.201 、2003)。一般に比表面積が大きいと凍上性が高くなり、比表面積が小さいと凍上性は低い。測定結果を表2に示す。
【0022】
【表2】
【0023】
実験装置の関係上、粒径0.075〜2mmと0.075mm以下のクリンカアッシュを用いた。凍上性のある粘性土の比表面積は一般に約20m2 /g以上であるが、クリンカアッシュの比表面積はこれを下回っていた。
以上の室内凍上試験および比表面積測定により、クリンカアッシュは「非凍上性材料」であることが確認できた。
さらに、このクリンカアッシュを細粒分を含む礫・砂に混合させた場合の凍上抑制効果を、室内実験、非公開の現地予備実験において検証した結果、後に詳述するように、木節粘土と同量以上のクリンカアッシュを混ぜると凍上抑制効果が顕著に現れ、9倍以上混ぜるとほとんど凍上しないことを見出した。
【0024】
この発明は、以上の検討の結果案出されたものである。
すなわち、上記課題を解決するために、第1の発明は、
クリンカアッシュと凍上性材料とを含む施工材料であって、
上記クリンカアッシュと上記凍上性材料との総重量に対する上記クリンカアッシュの重量の比が50%以上100%未満であることを特徴とするものである。
第2の発明は、
クリンカアッシュと凍上性材料とを、上記クリンカアッシュと上記凍上性材料との総重量に対する上記クリンカアッシュの重量の比が50%以上100%未満になるように混合することを特徴とする施工材料の製造方法である。
第3の発明は、
クリンカアッシュと凍上性材料とを、上記クリンカアッシュと上記凍上性材料との総重量に対する上記クリンカアッシュの重量の比が50%以上100%未満になるように混合して施工を行うことを特徴とする施工方法である。
第1〜第3の発明において、施工材料は、クリンカアッシュと凍上性材料との総重量に対するクリンカアッシュの重量の比が50%以上100%未満である限り、クリンカアッシュおよび凍上性材料以外のものを含んでもよいし、含まなくてもよい。凍上をより有効に抑制する観点より、好適には、クリンカアッシュを70%以上混合し、一方、クリンカアッシュを混合する手間を減らす観点より、好適には、95%以下、より好適には90%以下混合する。凍上性材料は基本的にはどのようなものであってもよいが、例えば、細粒分を含む礫・砂、粒度調整砕石等である。施工を行う際には、例えば、凍上性材料を含む施工部の表面にクリンカアッシュを散布後、タイタンパーにて施工部に所定の混合割合で混入させたり、施工部の土を掘って取り除き、あらかじめ調製されたこの施工材料で埋め戻す等の種々の方法を用いることができる。
【0025】
第4の発明は、
クリンカアッシュと凍上性材料とを含む施工材料を用いたことを特徴とする鉄道の道床バラストである。
第5の発明は、
クリンカアッシュと凍上性材料とを含む施工材料を用いて施工を行うことを特徴とする鉄道の道床バラストの施工方法である。
第6の発明は、
クリンカアッシュと凍上性材料とを含む施工材料を用いたことを特徴とする省力化軌道用土路盤である。
第7の発明は、
クリンカアッシュと凍上性材料とを含む施工材料を用いて施工を行うことを特徴とする省力化軌道用土路盤の施工方法である。
第8の発明は、
クリンカアッシュと凍上性材料とを含む施工材料を用いたことを特徴とする構造物の地盤である。
第9の発明は、
クリンカアッシュと凍上性材料とを含む施工材料を用いて施工を行うことを特徴とする構造物の地盤の施工方法である。
第4〜第9の発明においては、典型的には、施工材料は、クリンカアッシュを、このクリンカアッシュと凍上性材料との総重量に対するクリンカアッシュの重量の比が50%以上100%未満になるように含む。
第8および第9の発明において、構造物には各種のものが含まれ、例えば、ビル、マンション、戸建て住宅等の各種建築物のほか、電柱や鉄道のホーム等も含まれ、これらの構造物の裏込め材料(例えば、ホーム盛土材)にクリンカアッシュを混合する。
第4〜第9の発明においては、上記以外のことについては、その性質に反しない限り、第1〜第3の発明に関連して説明したことが成立する。
【発明の効果】
【0026】
この発明によれば、非凍上性材料であるクリンカアッシュと凍上性材料とを混合し、例えばこのクリンカアッシュと凍上性材料との総重量に対するクリンカアッシュの重量の比が50%以上100%未満になるように混合して施工材料としているので、これを鉄道の道床バラストや省力化軌道用土路盤や各種の構造物の地盤に用いることにより、それらの凍上や凍着の発生を有効に防止することができ、しかも産業廃棄物であるクリンカアッシュの有効利用を図ることができ、施工費用が安価に済む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、この発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
まず、細粒分を含む礫・砂にクリンカアッシュを混合させた場合の凍上抑制効果を、室内実験において検証した結果について詳細に説明する。
礫・砂は非凍上性材料であることから、細粒分のみに着目し、室内実験を実施した。
実験方法は以下の通りである。
(1)供試体作成
細粒分として、凍上性が高い木節粘土を用いた。クリンカアッシュと木節粘土とを共に絶乾状態において、表3に示す割合(重量比)でよく混ぜ合わせ、「砂の最大密度試験(JIS A 1224)」に準じ、供試体の締まり具合が最も密な状態を再現した。また、細粒分がクリンカアッシュから分離することが懸念されたため、供試体下部よりゆっくりとした速度(1mm/hを目標)で吸水させ、飽和状態とした。
【0028】
【表3】
【0029】
(2)実験条件
温度条件は既に述べた凍上試験と同様とした。また、上載圧については、軌道材料の死荷重を考慮し、12.5kPaとした。
実験結果を図7に示す。同図より、クリンカアッシュを混ぜることにより凍上率は減少していくことがわかる。特に木節粘土と同量以上(50%以上)のクリンカアッシュを混ぜると凍上抑制効果は顕著に現れ、約2.3倍以上(70%以上)混ぜるとより顕著に凍上抑制効果が現れ、9倍以上(90%以上)混ぜるとほとんど凍上しなかった。
比較のために、図7においては、単粒度の砂と細粒分とを用いて同様な実験を行った結果も併せて示している。単粒度の砂も非凍上性であるが、細粒分との混合割合を同じにした場合、クリンカアッシュの方がより凍上抑制効果があることがわかる。
【0030】
次に、この発明の第1の実施形態について説明する。この第1の実施形態は、この発明をバラスト軌道の道床バラスト部に適用したものである。
図8に示すように、路盤1上に道床バラスト2が設置され、道床バラスト2にマクラギ3が埋設され、その上にレール4が敷設されている。この場合、道床バラスト2は、例えばその表面にクリンカアッシュを散布してその中に混入させることでバラスト内細粒分にクリンカアッシュを50%以上100%未満含ませている。
例えば、クリンカアッシュを細粒分の約2.3倍(クリンカアッシュ:細粒分=70:30)混合させると、言い換えると、クリンカアッシュが70%含まれる場合、図7より凍上率は3.5%となる。道床厚200mmの軌道構造の場合、推定凍上量は7mmとなり、軌道整備規程の整備目標値(高低、静的)9mmを下回ることとなる。
【0031】
次に、非公開の現地予備実験を行った結果について説明する。
本凍上対策がバラスト軌道へ適用可能か検証するために、JR室蘭本線鷲別駅付近旧上り線において、実際にバラスト内にクリンカアッシュを混入させ、凍上抑制効果を検証した。
実験方法は次のとおりである。バラスト表面1m2 に、クリンカアッシュをそれぞれ10kg、20kg、30kg、40kg散布後、タイタンパーにてバラスト内に混入させた。当該箇所のバラスト内細粒分とクリンカアッシュとの混合割合(重量比)は、表3と同様に算出すると表4に示すとおりと考えられる。また、クリンカアッシュを散布せず、タイタンパーにてバラスト内部を攪拌した箇所を設けた。
【0032】
【表4】
【0033】
各測点のレベル測量にて凍上量を計測し、同時に土中温度計測を実施し、凍結深さを算出した。
施工性については、バラスト内にクリンカアッシュを混入させることは容易であった。図9にクリンカアッシュ混入後の道床表面の写真を示す。
以上の現地予備実験の結果、表4に示す混合割合でクリンカアッシュをバラスト内細粒分に混合することで、凍上を抑制することができることがわかった。
【0034】
以上のように、この第1の実施形態によれば、道床バラスト2の細粒分にクリンカアッシュを50%以上100%未満含ませることにより、道床バラスト2の凍上を低コストで抑制することができる。この手法では、夏期の一般作業に1工程加えることで凍上対策となるため、冬期のはさみ木作業の軽減につながる。
【0035】
次に、この発明の第2の実施形態について説明する。この第2の実施形態は、この発明をバラスト軌道の道床バラスト下の路盤の施工に適用したものである。
すなわち、この第2の実施形態においては、図8に示す路盤1の細粒分にクリンカアッシュを50%以上100%未満含ませている。
この第2の実施形態によれば、路盤1の凍上を低コストで抑制することができる。
【0036】
次に、この発明の第3の実施形態について説明する。この第3の実施形態は、この発明を省力化軌道用土路盤の施工に適用したものである。
図10は標準的な省力化軌道を示す斜視図、図11はこの省力化軌道の断面図(両図とも鉄道総合技術研究所:鉄道構造物等設計標準・同解説 省力化軌道用土構造物、1999のp.23の図を利用)である。
図10および図11に示すように、この第3の実施形態においては、土路盤11上にコンクリート路盤12が設置され、その上にてん充層13、軌道スラブ14、絶縁板15およびタイプレート16が設置されている。そして、タイプレート16上にレール調整パッキン17および鋼板付き軌道パッド18を介してレール19が敷設されている。レール19はレール締結装置20により軌道スラブ14に締結されている。符号21は例えばバラストを示す。また、符号22は、コンクリート路盤12上に軌道スラブ14を位置決めするための突起を示す。この突起22は、軌道スラブ14に設けられた穴14aに嵌まっている。
この場合、図11に示す土路盤11内の細粒分にクリンカアッシュを50%以上100%未満含ませている。
この第3の実施形態によれば、省力化軌道において、土路盤11の凍上を低コストで抑制することができる。
【0037】
次に、この発明の第4の実施形態について説明する。この第4の実施形態は、この発明を鉄道の電化柱の埋設に適用したものである。
図12に示すように、この第4の実施形態においては、線路の路盤31の端の部分に所定の断面形状の穴32を凍結深さ(凍結深度)以上の深さまで堀り、その底部を施工材料33で埋め戻すとともに、この穴32の側部を例えば一点鎖線で示す高さまで、所定の断面形状になるように同じく施工材料33で埋め戻す。ここで、この施工材料33は、クリンカアッシュと細粒分等の凍上性材料とを、クリンカアッシュが50%以上100%未満含まれるように混合したものであり、あらかじめ調製されたものである。穴32の底部の施工材料33の上および穴32の側部の施工材料33の上に切込み砂利34を敷く。そして、穴32の中に電化柱35を入れ、切込み砂利34の上に鉛直に立てた状態でこの電化柱35と穴32の側部の施工材料33との間にコンクリート36を流し込み、T字型の断面形状とする。コンクリート36の硬化後、その上の空間を施工材料33で埋め戻す。
この第4の実施形態によれば、電化柱35を埋設する穴32の底部および側面を施工材料33で埋め戻していることにより、電化柱35の凍上および凍着を低コストで抑制することができる。
【0038】
次に、この発明の第5の実施形態について説明する。この第5の実施形態は、この発明をU字溝の埋設に適用したものである。
図13に示すように、この第5の実施形態においては、地盤41に所定の断面形状の穴42を凍結深さ以上の深さまで堀り、その底部を施工材料43で埋め戻すとともに、この穴42の側部を同じく施工材料43で埋め戻す。ここで、この施工材料43は、クリンカアッシュと細粒分等の凍上性材料とを、クリンカアッシュが50%以上100%未満含まれるように混合したものであり、あらかじめ調製されたものである。穴42の底部の施工材料43の上に切込み砂利44を敷く。そして、穴42の中にU字溝45を設置する。
この第5の実施形態によれば、U字溝45を埋設する穴42の底部および側面を施工材料43で埋め戻していることにより、U字溝45の凍上および凍着を低コストで抑制することができる。
【0039】
次に、この発明の第6の実施形態について説明する。この第6の実施形態は、この発明をヒューム管の埋設に適用したものである。
図14に示すように、この第6の実施形態においては、地盤51に所定の断面形状の穴52を凍結深さ以上の深さまで堀り、その底部を施工材料53で埋め戻し、その上に切込み砂利54を敷く。そして、この切込み砂利54の上にヒューム管55を設置し、このヒューム管55が埋設されるように穴52を施工材料53で完全に埋め戻す。ここで、この施工材料53は、クリンカアッシュと細粒分等の凍上性材料とを、クリンカアッシュが50%以上100%未満含まれるように混合したものであり、あらかじめ調製されたものである。
この第6の実施形態によれば、ヒューム管55を埋設する穴52の底部およびヒューム管55の周囲を施工材料53で埋め戻していることにより、ヒューム管55の凍上および凍着を低コストで抑制することができる。
【0040】
次に、この発明の第7の実施形態について説明する。この第7の実施形態は、この発明を車庫や物置等の土間への壁の設置に適用したものである。
図15に示すように、この第7の実施形態においては、地盤61に所定の断面形状の穴62を凍結深さ以上の深さまで堀り、その底部を施工材料63で埋め戻し、その上に切込み砂利64を敷く。そして、この切込み砂利64の上に壁65を鉛直に立て、穴62を施工材料63で完全に埋め戻す。ここで、この施工材料63は、クリンカアッシュと細粒分等の凍上性材料とを、クリンカアッシュが50%以上100%未満含まれるように混合したものであり、あらかじめ調製されたものである。
この第7の実施形態によれば、壁65を埋設する穴62の底部および側面を施工材料63で埋め戻していることにより、壁65の凍上および凍着を低コストで抑制することができる。
【0041】
次に、この発明の第8の実施形態について説明する。この第8の実施形態は、この発明を地下室の設置に適用したものである。
図16に示すように、この第8の実施形態においては、地盤71に所定の断面形状の穴72を凍結深さ以上の深さまで堀り、その底部を施工材料73で埋め戻し、その上に切込み砂利74を敷く。そして、この切込み砂利74の上に地下室構造体75を設置し、この地下室構造体75と穴72の側部との間の空間を施工材料73で完全に埋め戻す。ここで、この施工材料73は、クリンカアッシュと細粒分等の凍上性材料とを、クリンカアッシュが50%以上100%未満含まれるように混合したものであり、あらかじめ調製されたものである。
この第8の実施形態によれば、地下室構造体75を設置する穴72の底部および側面を施工材料73で埋め戻していることにより、地下室構造体75の凍上および凍着を低コストで抑制することができる。
【0042】
次に、この発明の第9の実施形態について説明する。この第9の実施形態は、この発明を戸建て住宅の玄関ポーチ部の施工に適用したものである。
図17に示すように、この第9の実施形態においては、地盤81に所定の断面形状の穴82を凍結深さ以上の深さまで堀り、その底部を施工材料83で埋め戻し、その上に切込み砂利84を敷く。そして、この切込み砂利84の上に玄関/ポーチ構造体85を設置し、この玄関/ポーチ構造体85と穴82の側部との間の空間を施工材料83で完全に埋め戻す。ここで、この施工材料83は、クリンカアッシュと細粒分等の凍上性材料とを、クリンカアッシュが50%以上100%未満含まれるように混合したものであり、あらかじめ調製されたものである。符号86はドア、87はステップを示す。
この第9の実施形態によれば、玄関/ポーチ構造体85を埋設する穴82の底部および側面を施工材料83で埋め戻していることにより、玄関/ポーチ構造体85の凍上および凍着を低コストで抑制することができる。
【0043】
次に、この発明の第10の実施形態について説明する。この第10の実施形態は、この発明を鉄道のホームの施工に適用したものである。
図18に示すように、この第10の実施形態においては、地盤91上のホーム盛土92のうちの線路側の部分を逆台形状の断面形状に、かつ凍結深さ以上の深さまで除去し、この除去部を施工材料93で埋め戻す。ここで、この施工材料93は、クリンカアッシュと細粒分等の凍上性材料とを、クリンカアッシュが50%以上100%未満含まれるように混合したものであり、あらかじめ調製されたものである。この施工材料93の上に下地層94を介してアスファルト層95が敷かれている。また、この施工材料93の線路側の側面には土留用PC版96〜98が設けられている。施工材料93との間にこの土留用PC版96〜98を挟むように、H型鋼99〜103等で組まれた支持構造体104が設置されている。この支持構造体104の下部は地盤91に埋め込まれている。この支持構造体104上にホーム床版105がアスファルト層95と同じ高さに敷かれている。符号106は例えば道床バラスト、107はレールを示す。
この第10の実施形態によれば、ホーム盛土92のうちの線路側の部分を施工材料93で埋め戻していることにより、線路側の部分のホーム盛土の凍上および凍着を低コストで抑制することができ、このためホーム上面が盛り上がったり、ホーム盛土が線路側に迫り出して建築限界の支障が生じたり土留用PC版96〜98を破損したりするのを防止することができる。
【0044】
以上、この発明の実施形態について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
例えば、上述の実施形態において挙げた数値、構造、材料、施工方法、施工対象等はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構造、材料、施工方法、施工対象等を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】層別変位計による変位量の推移をJR宗谷本線で測定した結果を示す略線図である。
【図2】省力化軌道用土路盤における最大凍上量の推定値を示す略線図である。
【図3】フライアッシュの走査型電子顕微鏡像を示す図面代用写真である。
【図4】クリンカアッシュの走査型電子顕微鏡像を示す図面代用写真である。
【図5】クリンカアッシュ(原粒度)の室内凍上試験の結果を示す略線図である。
【図6】クリンカアッシュ(粒径0.075mm以下)の室内凍上試験の結果を示す略線図である。
【図7】細粒分へのクリンカアッシュの混合割合と凍上率との関係を示す略線図であ
【図8】この発明の第1の実施形態を説明するための断面図である。
【図9】クリンカアッシュ混入後の道床表面を示す図面代用写真である。
【図10】この発明の第3の実施形態を説明するための斜視図である。
【図11】この発明の第3の実施形態を説明するための断面図である。
【図12】この発明の第4の実施形態を説明するための断面図である。
【図13】この発明の第5の実施形態を説明するための断面図である。
【図14】この発明の第6の実施形態を説明するための断面図である。
【図15】この発明の第7の実施形態を説明するための断面図である。
【図16】この発明の第8の実施形態を説明するための断面図である。
【図17】この発明の第9の実施形態を説明するための断面図である。
【図18】この発明の第10の実施形態を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1、31…路盤、2、106…道床バラスト、3…マクラギ、4、19、107…レール、11…土路盤、12…コンクリート路盤、14…軌道スラブ、32、42、52、62、72、82…穴、33、43、53、63、73、83、93…施工材料、34、44、54、64、74、84…切込み砂利
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリンカアッシュと凍上性材料とを含む施工材料であって、
上記クリンカアッシュと上記凍上性材料との総重量に対する上記クリンカアッシュの重量の比が50%以上100%未満であることを特徴とする施工材料。
【請求項2】
上記比が70%以上100%未満であることを特徴とする請求項1記載の施工材料。
【請求項3】
上記比が50%以上95%以下であることを特徴とする請求項1記載の施工材料。
【請求項4】
上記比が70%以上95%以下であることを特徴とする請求項1記載の施工材料。
【請求項5】
上記比が70%以上90%以下であることを特徴とする請求項1記載の施工材料。
【請求項6】
クリンカアッシュと凍上性材料とを、上記クリンカアッシュと上記凍上性材料との総重量に対する上記クリンカアッシュの重量の比が50%以上100%未満になるように混合することを特徴とする施工材料の製造方法。
【請求項7】
クリンカアッシュと凍上性材料とを、上記クリンカアッシュと上記凍上性材料との総重量に対する上記クリンカアッシュの重量の比が50%以上100%未満になるように混合して施工を行うことを特徴とする施工方法。
【請求項8】
クリンカアッシュと凍上性材料とを含む施工材料を用いたことを特徴とする鉄道の道床バラスト。
【請求項9】
上記施工材料は上記クリンカアッシュを、上記クリンカアッシュと上記凍上性材料との総重量に対する上記クリンカアッシュの重量の比が50%以上100%未満になるように含むことを特徴とする請求項8記載の鉄道の道床バラスト。
【請求項10】
クリンカアッシュと凍上性材料とを含む施工材料を用いて施工を行うことを特徴とする鉄道の道床バラストの施工方法。
【請求項11】
クリンカアッシュと凍上性材料とを含む施工材料を用いたことを特徴とする省力化軌道用土路盤。
【請求項12】
クリンカアッシュと凍上性材料とを含む施工材料を用いて施工を行うことを特徴とする省力化軌道用土路盤の施工方法。
【請求項13】
クリンカアッシュと凍上性材料とを含む施工材料を用いたことを特徴とする構造物の地盤。
【請求項14】
クリンカアッシュと凍上性材料とを含む施工材料を用いて施工を行うことを特徴とする構造物の地盤の施工方法。
【請求項1】
クリンカアッシュと凍上性材料とを含む施工材料であって、
上記クリンカアッシュと上記凍上性材料との総重量に対する上記クリンカアッシュの重量の比が50%以上100%未満であることを特徴とする施工材料。
【請求項2】
上記比が70%以上100%未満であることを特徴とする請求項1記載の施工材料。
【請求項3】
上記比が50%以上95%以下であることを特徴とする請求項1記載の施工材料。
【請求項4】
上記比が70%以上95%以下であることを特徴とする請求項1記載の施工材料。
【請求項5】
上記比が70%以上90%以下であることを特徴とする請求項1記載の施工材料。
【請求項6】
クリンカアッシュと凍上性材料とを、上記クリンカアッシュと上記凍上性材料との総重量に対する上記クリンカアッシュの重量の比が50%以上100%未満になるように混合することを特徴とする施工材料の製造方法。
【請求項7】
クリンカアッシュと凍上性材料とを、上記クリンカアッシュと上記凍上性材料との総重量に対する上記クリンカアッシュの重量の比が50%以上100%未満になるように混合して施工を行うことを特徴とする施工方法。
【請求項8】
クリンカアッシュと凍上性材料とを含む施工材料を用いたことを特徴とする鉄道の道床バラスト。
【請求項9】
上記施工材料は上記クリンカアッシュを、上記クリンカアッシュと上記凍上性材料との総重量に対する上記クリンカアッシュの重量の比が50%以上100%未満になるように含むことを特徴とする請求項8記載の鉄道の道床バラスト。
【請求項10】
クリンカアッシュと凍上性材料とを含む施工材料を用いて施工を行うことを特徴とする鉄道の道床バラストの施工方法。
【請求項11】
クリンカアッシュと凍上性材料とを含む施工材料を用いたことを特徴とする省力化軌道用土路盤。
【請求項12】
クリンカアッシュと凍上性材料とを含む施工材料を用いて施工を行うことを特徴とする省力化軌道用土路盤の施工方法。
【請求項13】
クリンカアッシュと凍上性材料とを含む施工材料を用いたことを特徴とする構造物の地盤。
【請求項14】
クリンカアッシュと凍上性材料とを含む施工材料を用いて施工を行うことを特徴とする構造物の地盤の施工方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2006−188905(P2006−188905A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−2327(P2005−2327)
【出願日】平成17年1月7日(2005.1.7)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(590003825)北海道旅客鉄道株式会社 (94)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年1月7日(2005.1.7)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(590003825)北海道旅客鉄道株式会社 (94)
【Fターム(参考)】
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