説明

既設屋根の改修方法および改修構造

【課題】既設屋根に突起物が存在する場合であっても穿孔作業等が不要であり、かつ短時間で既設屋根の強度を向上させることが可能な既設屋根の改修方法および改修構造の提供。
【解決手段】スレート屋根Sの上に突起物が存在してもその上から繊維片20a、樹脂20b、硬化剤20cからなる繊維片混合樹脂を吹き付けることによりスレート屋根S上に繊維片混合樹脂を付着させ、この付着した繊維片混合樹脂をスレート屋根S上に押さえ付けることによって、繊維片混合樹脂の吹き付け時に混入した空気を抜き出し、繊維片混合樹脂をスレート屋根S上に密着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設屋根の改修方法および改修構造に関し、より詳しくは経年により劣化した屋根を改修する方法および構造に関する。
【背景技術】
【0002】
戦後、日本に輸入されたアスベストのうち、吹き付けに使用されたものはわずか約3%であり、ほとんどのものが建材に使用され、そのうち約60%強が石綿スレートの材料として使用されてきた。石綿スレートは、主に建物の屋根および外壁に使用され、経年と共に紫外線や酸性雨により表面が劣化してセメント成分が流れ出し、手で触っただけでアスベストが飛散するようになる。
【0003】
従来、このような劣化した石綿スレートを改修する技術として、例えば特許文献1には、既設の石綿スレート屋根の上に薄い繊維製の布を敷き、この敷かれた布の上に、当該布に含浸可能な防水性で液体の上層樹脂をさらに塗布するとともに、この布に当該上層樹脂を当該布の下面の上記屋根の表面に達するまで含浸させ、この上層樹脂を乾燥させて、上記布を硬化させて強度を向上させる既設屋根の改修方法が記載されている。なお、屋根には石綿スレートを固定するためのボルトなどの突起物があるので、上記布には所定間隔ごとに穴を形成して、この穴に上記屋根の突起物を挿通させるようにしている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−251102号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、屋根には石綿スレートを固定するためのボルトなどの突起物があるので、上記従来の改修方法では布に突起物を挿通させる穴を形成する必要があるが、ボルトの位置は規格化されたものではないため、この穿孔作業はボルト1本ずつに対して現場で行う必要がある。そのため、作業に時間が掛かってしまうという問題がある。
【0006】
そこで、本発明においては、既設屋根に突起物が存在する場合であっても穿孔作業等が不要であり、かつ短時間で既設屋根の強度を向上させることが可能な既設屋根の改修方法および改修構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の既設屋根の改修方法は、既設屋根の上に繊維片が混合された樹脂(以下、「繊維片混合樹脂」と称す。)を吹き付ける吹き付け工程と、繊維片混合樹脂を既設屋根上に押さえ付ける押さえ付け工程とを含む。
【0008】
本発明の既設屋根の改修方法によれば、既設屋根の上に突起物が存在してもその上から繊維片混合樹脂を吹き付けることにより既設屋根上に繊維片混合樹脂を付着させ、この付着した繊維片混合樹脂を既設屋根上に押さえ付けることによって、繊維片混合樹脂の吹き付け時に混入した空気を抜き出し、繊維片混合樹脂を既設屋根上に密着させることができる。そして、この繊維片混合樹脂が硬化することで、既設屋根上に、繊維片が混合された樹脂が積層された本発明の既設屋根の改修構造が形成される。
【0009】
ここで、吹き付け工程は、連続的に供給される繊維を所定長さに切断して繊維片としながら吐出するとともに、この吐出される繊維片に向かって樹脂および触媒をそれぞれ噴出するスプレー装置により行うことが望ましい。このようなスプレー装置によれば、吹き付け作業前に予め繊維片混合樹脂を準備する必要がなく、吹き付けに必要な分だけ繊維が切断されて樹脂および触媒とともに空中で混合されて既設屋根上に吹き付けられる。
【0010】
また、繊維片の長さは、1cm(約1/2インチ)〜5(約2インチ)cmであることが望ましい。1〜5cmの繊維片であれば、既設屋根上に吹き付けられた際に繊維片の向きが不規則となり、互いに絡み合った状態となるので、樹脂硬化後の強度が極めて高いものとなる。なお、1cm未満の場合には、繊維片の絡み合いが少なすぎ、樹脂硬化後の強度が不足する可能性がある。また、5cm超の場合には、既設屋根上に吹き付けられた際に繊維片が長すぎて、平面的に付着しにくくなる。
【0011】
また、繊維片と樹脂との混合重量比は、1:5〜1:2であることが望ましい。繊維片と樹脂との混合重量比が1:5〜1:2であれば、繊維片と樹脂とが上手く混ざり合って硬化後の強度が最も高くなる。なお、繊維片が1:5より少ない場合、繊維片による強化作用があまり得られない。一方、繊維片が1:2より多い場合、樹脂に対して繊維片が多すぎて樹脂と繊維片が馴染みにくくなっていくので、硬化後の強度が弱くなる。
【発明の効果】
【0012】
(1)既設屋根の上に繊維片混合樹脂を吹き付ける工程と、この吹き付けられた繊維片混合樹脂を既設屋根上に押さえ付ける工程により、既設屋根上に突起物が存在する場合であっても、繊維片混合樹脂を既設屋根上に密着させて硬化させることができ、既設屋根上に繊維片混合樹脂が積層された既設屋根の改修構造が得られる。これにより、既設屋根に突起物が存在する場合であっても穿孔作業等は不要であり、かつ短時間で既設屋根の強度を向上させることができる。
【0013】
(2)吹き付け工程を、連続的に供給される繊維を所定長さに切断して繊維片としながら吐出するとともに、この吐出される繊維片に向かって樹脂および触媒をそれぞれ噴出するスプレー装置により行うことで、吹き付け作業前に予め樹脂片混合繊維を準備する必要がなく、吹き付けに必要な分だけ繊維片混合樹脂が供給されるので、材料の無駄な消費を防止することができる。また、空中で樹脂および触媒が混合されることにより、既設屋根上に吐出した分だけが触媒の作用により早く硬化するので、スプレー装置の手入れが容易となる。
【0014】
(3)繊維片の長さが1〜5cmであることによって、既設屋根上に吹き付けられた際に繊維片の向きが不規則となり、互いに絡み合った状態となるので、樹脂硬化後の強度が極めて高い既設屋根の改修構造が得られる。
【0015】
(4)繊維片と樹脂との混合重量比が1:5〜1:2であることによって、繊維片と樹脂とが上手く混ざり合って硬化後の強度が最も高い既設屋根の改修構造が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は本発明の実施の形態における既設屋根の改修工法のフロー図、図2は既設屋根上に形成された改修構造の断面図である。なお、以下の説明においては、改修する既設屋根として石綿を含むスレート屋根を例とするが、この工法は石綿を含まないスレート、繊維強化セメント板、金属、プラスチック、瓦や木等の屋根に適用することも可能である。
【0017】
図1に示すように、本発明の実施の形態における既設屋根の改修工法は、まず、ステップS100において、スレート屋根Sの水漏れ箇所を改修し、大きな塵や苔等を真空掃除機で取り除く。真空掃除機で取り除くのは、アスベスト飛散防止のためである。次に、ステップS101において、スレート屋根S上にプライマー(下塗)1(図2参照。)を施す。ここで、プライマー1の塗布量は、0.15〜0.5kg/m2とする。プライマー1は、老朽化したスレート屋根Sに浸透し、表面のカビや埃を一緒に固め、石綿スレート表面の接着力を新品同様に再生する。
【0018】
次に、ステップS102において、繊維片混合樹脂2を吹き付ける。図3は繊維片混合樹脂2の吹き付けの概要図である。図3に示すように、繊維片混合樹脂2の吹き付けに使用するスプレー装置10は、ロール(図示せず。)によって連続的に供給されるガラス繊維20をカッター部11により所定長さに切断して約2.54cm(1インチ)の繊維片20aとしながら吐出するとともに、この吐出される繊維片20aに向かって樹脂20bおよび触媒としての硬化剤20cをそれぞれ噴出するものである。
【0019】
このとき、樹脂20bおよび硬化剤20cはそれぞれホース30,40により供給される。本実施形態においては、繊維片20aと樹脂20bとの混合重量比は、1:3に設定している。また、このスプレー装置10にはコンプレッサ(図示せず。)に接続されたホース50により圧縮空気が供給されており、繊維片20a、樹脂20bおよび硬化剤20cは、この圧縮空気により吐出または噴出される。繊維片20aの塗布量は0.25〜0.54kg/m2、樹脂20bの塗布量は、0.63〜1.638kg/m2としている。
【0020】
そして、ステップS103において、繊維片混合樹脂2をスレート屋根S上にローラ60(図4参照。)によって押さえ付け、繊維片混合樹脂2の吹き付け時に混入した空気を抜き出し(脱泡)、繊維片混合樹脂2をスレート屋根S上に密着させる。繊維片混合樹脂2の硬化後、ステップS104において、トップコート3でコーティングし、繊維片混合樹脂2を保護する。なお、トップコート3の塗布量は、0.405kg/cm2〜0.81kg/cm2としている。
【0021】
以上のように、本実施形態における既設屋根の改修工法では、繊維片混合樹脂2を吹き付けることによりスレート屋根S上に繊維片混合樹脂2を付着させ、この付着した繊維片混合樹脂2をスレート屋根S上に押さえ付けることによって、繊維片混合樹脂2の吹き付け時に混入した空気を抜き出し、繊維片混合樹脂2をスレート屋根S上に密着させる。この繊維片混合樹脂2が硬化することで、スレート屋根S上に、繊維片混合樹脂2による強化層が積層された図2の改修構造が形成される。
【0022】
このように、本実施形態における既設屋根の改修工法では、繊維片混合樹脂2の吹き付けによって繊維片混合樹脂強化層が形成されるので、既設屋根の上にボルト等の突起物が存在する場合であっても穿孔作業等の現場加工を行うことなく容易に短時間で施工することができる。また、既設屋根の形状も波形スレート、折板や瓦などの様々な形状に適用することが可能である。また、スレート屋根Sの高圧洗浄や穿孔作業等が不要であるため、アスベスト粉塵の飛散もない。
【0023】
また、この既設屋根の改修工法では、吹き付け工程を、連続的に供給される繊維を所定長さに切断して繊維片20aとしながら吐出するとともに、この吐出される繊維片20aに向かって樹脂20bおよび硬化剤20cをそれぞれ噴出するスプレー装置10により行う。そのため、吹き付け作業前に予め樹脂片混合繊維2を準備する必要がなく、スプレー装置10からは吹き付けに必要な分だけ繊維片混合樹脂2が供給されるので、材料の無駄な消費を防止することができる。また、このスプレー装置10では、空中で樹脂20bおよび硬化剤20cが混合されることにより、スレート屋根S上に吐出した分だけが硬化剤20cの作用により早く硬化するので、スプレー装置10の手入れは容易である。
【0024】
また、本実施形態における既設屋根の改修工法では、繊維片20aの長さが約2.54cmであるため、スレート屋根S上に吹き付けられた際に繊維片20aの向きが不規則となり、互いに絡み合った状態となるので、繊維片混合樹脂2硬化後の強度が極めて高くなる。この繊維片20aの長さは、1cm(約1/2インチ)〜3cm(約2インチ)の範囲で選択することが可能であるが、さらに要求される強度によってはこの範囲を超えて設定することも可能である。
【0025】
また、本実施形態における既設屋根の改修工法では、繊維片20aと樹脂20bとの混合重量比が1:3であるため、繊維片20aと樹脂20bとが上手く混ざり合って硬化後の強度が最も高いものとなる。なお、この繊維片20aと樹脂20bとの混合重量比は、1:5〜1:2の範囲に設定することが可能である。
【実施例】
【0026】
上記実施形態における既設屋根の改修工法の施工前後での強度試験を行った。試材として、繊維強化セメント波板を使用し、日本工業規格(JIS)A1408(建築用ボード類の曲げ及び衝撃試験方法)により曲げ試験および衝撃試験を行った。試材寸法は、500mm×400mm(3号)である。
【0027】
耐衝撃性試験の結果、未施工のものが3枚中2枚にひび割れ破損が発生したのに対し、施工後のものでは3枚全てに破損は認められなかった。また、曲げ強度試験の結果、未施工のものが452.0kgであったのに対し、施工後のものでは687.0kgであった。図5は未施工のものについての曲げ強度試験結果を、図6は施工後のものについての曲げ強度試験結果をそれぞれ示している。
【0028】
これらの試験の結果、上記実施形態における既設屋根の改修工法が非常に優れた補強効果を奏することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の既設屋根の改修方法および改修構造は、経年により劣化した屋根を改修する方法および構造として有用である。特に、アスベストが使用された石綿スレートを改修する方法および構造として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態における既設屋根の改修工法のフロー図である。
【図2】既設屋根上に形成された改修構造の断面図である。
【図3】繊維片混合樹脂の吹き付けの概要図である。
【図4】ローラによる繊維片混合樹脂の押さえ付けの概要図である。
【図5】本発明の実施の形態における既設屋根の改修工法の未施工のものについての曲げ強度試験結果を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態における既設屋根の改修工法の施工後のものについての曲げ強度試験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
S スレート屋根
1 プライマー
2 繊維片混合樹脂
3 トップコート
10 スプレー装置
11 カッター部
20 ガラス繊維
20a 繊維片
20b 樹脂
20c 硬化剤
30,40,50 ホース
60 ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設屋根の上に繊維片が混合された樹脂(以下、「繊維片混合樹脂」と称す。)を吹き付ける吹き付け工程と、
前記繊維片混合樹脂を前記既設屋根上に押さえ付ける押さえ付け工程と
を含む既設屋根の改修方法。
【請求項2】
前記吹き付け工程は、連続的に供給される繊維を所定長さに切断して前記繊維片としながら吐出するとともに、この吐出される繊維片に向かって樹脂および触媒をそれぞれ噴出するスプレー装置により行うことを特徴とする請求項1記載の既設屋根の改修方法。
【請求項3】
前記繊維片の長さは、1〜5cmである請求項1または2に記載の既設屋根の改修方法。
【請求項4】
前記繊維片と樹脂との混合重量比は、1:5〜1:2である請求項1から3のいずれかに記載の既設屋根の改修方法。
【請求項5】
既設屋根上に、繊維片が混合された樹脂が積層された既設屋根の改修構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−108600(P2009−108600A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−281997(P2007−281997)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(507359605)株式会社エースクリーン (1)
【出願人】(507358701)株式会社宝建築設計工房 (1)
【Fターム(参考)】