説明

既設谷及び沢埋め盛土の補強方法

【課題】 既設の宅地や道路等に使用されている谷及び沢埋め盛土部に悪影響を与えること無く、しかも比較的低コストで補強する方法を提供する。
【解決手段】 既設谷及び沢埋め盛土の補強方法は、砂質土で埋め立てられた既設谷及び沢埋め盛土において、排水管を所定間隔で盛土部に設け、起振機を盛土の地表面に配置し、砂質土に実質的に密度変化が生じない程度の小さな振動、例えば、地盤の歪みレベルでほぼ5×10-4〜2×10-3の振動を、起振機でほぼ10000回以上繰返し盛土に与えることにより、地盤剛性及び地盤強度を高めるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震時に地滑り等の災害が生じる虞の高い既設の谷及び沢埋め盛土を補強する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
宅地を造成する場合には、切土と盛土を組み合わせる工法が一般的であり、谷や沢等の低地は盛土で埋めて造成している。このような谷及び沢埋め盛土造成地については、急傾斜地とは異なり、平坦又は緩傾斜な土地であることが多いため、危険な宅地、すなわち、地震時に地盤災害が発生する可能性が高い宅地であると認識することは困難である。しかしながら、1995年の阪神淡路大震災や2004年の新潟県中越地震などの大地震発生時には、谷及び沢埋め盛土造成地の多くで滑動崩壊が発生している。これは、盛土全体又は大部分が、盛土底面部を滑り面にして、切盛境界や地山との境界面に沿って流動、変動又は崩壊する現象である。
【0003】
このような既存の谷及び沢埋め盛土造成地を補強することは、これまで、ほとんどなされていなかったが、既存の地盤を補強する従来工法としては、次の二つの工法を挙げることができる。
(1)振動締固め工法
この工法は、砂質土の改良、補強工法として多くの実績を有するものであるが、かなり大きな振動を与えるものであるため、既存の谷及び沢埋め盛土造成地で用いると、盛土内に液状化を生じさせ、盛土が滑動崩壊したり、液状化が生じないまでも大きな沈下を伴う地盤変状を発生させ、住宅、道路又は鉄道などの既存構造物に悪影響を与えてしまう。
なお、特許文献1には、大容量の起振機を用いて振動締固めを行う工法が記載されており、起振力が数十トン〜百数十トン、加速が数G〜10G、振動数が数百Hz、仮想振幅が10mm〜20mm程度の起振機が例示されている。
(2)薬液注入工法
この工法は地盤を強化することが可能であり、施工機械も小型で谷及び沢埋め盛土の地表面からでも施工可能であるが、施工コストが非常に高いという欠点がある。
【特許文献1】特開昭62−268415号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、既設の宅地や道路等に使用されている谷及び沢埋め盛土部に悪影響を与えること無く、しかも比較的低コストで補強する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、砂質土で埋め立てられた既設谷及び沢埋め盛土において、排水管を所定間隔で盛土部に設け、起振機を盛土の地表面に配置し、前記砂質土に実質的に密度変化が生じない程度の小さな振動を前記起振機で繰返し盛土に与えることにより、既設谷及び沢埋め盛土の地盤剛性及び地盤強度を高めることを特徴とする既設谷及び沢埋め盛土の補強方法を提供する。
【0006】
本発明の既設谷及び沢埋め盛土の補強方法において、前記繰返し振動は、地盤の歪みレベルでほぼ5×10-4〜2×10-3の振動をほぼ10000回以上繰り返したものとすることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、盛土をほとんど密実化させず(締固めず)、強度や剛性を高めるものであり、盛土に沈下を伴う地盤変状や、液状化及び滑動崩壊といった悪影響を与えること無く、比較的低コストで補強することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0009】
図1(a)(b)は既設の谷及び沢埋め盛土造成地10を補強施工する様子を平面図及び断面図で示したものである。盛土造成地10は、点線で示したような地山ライン11を有する谷又は沢に擁壁12が構築され、砂質土からなる盛土13で埋められたものであり、盛土13内には排水管14が設けられている。このような既設の盛土造成地10では、一般的に道路15や住宅16が構築されているが、これらは、図1(b)のみに図示し、図1(a)では省略した。
【0010】
本発明の補強方法では、既設の排水管14に加えて、新たに所定本数の排水管17を盛土造成地10に所定間隔で埋設する。これら排水管14,17は、間隙水や地下水を擁壁外側に排出するためのものである。そして、必要に応じて、盛土造成地10の所定箇所の盛土を削り取り、起振機18を設置するための機器設置面19を形成しても良い。盛土造成地10には、機器設置面19を含む複数箇所に起振機18を設置し、この起振機18により、砂質土に実質的に密度変化が生じない程度の小さな振動、すなわち、地盤の歪みレベルでほぼ5×10-4〜2×10-3の振動をほぼ10000回以上繰り返し加える。
このように小さな歪みの繰返し履歴を与えることにより、盛土をほとんど密実化させず、すなわち、盛土に沈下を伴う地盤変状や、液状化及び滑動崩壊といった悪影響を与えること無く、比較的低コストで強度や剛性を高めることが可能になる。
【0011】
なお、盛土造成地に関するものではないが、砂に関して実施した室内実験から、小さな歪みの繰返し履歴を与えることにより、砂の液状化抵抗が上昇することが、山崎勉(本出願の発明者)、時松幸次、吉見吉昭による昭和60年6月、第20回土質工学研究発表会発表講演集、第605頁及び第606頁「砂の液状化抵抗と初期せん断剛性の関係・その2」に示されている。
この文献では、地盤からサンプリングした砂を気乾させ、空中落下法により試験容器に詰め、バック・プレッシャーを与えて飽和させ、現地盤で受けていたと考えられる鉛直有効上載圧で等方圧密した試料PAを作成している。また試料PAに対して、排水条件で軸ひずみ両振幅2×10-3の繰返しせん断を4000〜10万回繰り返し加え、試料PAとは異なる構造を持つと考えられる試料PAshも作成している。
そして、試料PA、試料PAshの初期せん断剛性を測定した後に、非排水繰返しせん断試験を行った結果、試料PAshは、試料PAに比べて、初期せん断剛性が大きく、液状化抵抗も上昇することが判った。つまり、砂のサンプリング試料に対し、排水条件で小さな歪みの繰返し履歴を与えれば、せん断剛性や液状化抵抗を高め得ることが判った。
【0012】
したがって、本発明では、このような砂の性状に関する研究結果を、上述したような条件により既設の谷及び沢埋め盛土造成地に適用し、既存盛土造成地のせん断剛性や液状化抵抗を高めることにより、液状化及び滑動崩壊といった悪影響を与えること無く、既設の谷及び沢埋め盛土の補強を図るものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は既設の谷及び沢埋め盛土造成地を補強施工する様子を示す平面図であり、(b)は(a)におけるA−A線に沿った断面図である。
【符号の説明】
【0014】
10 盛土造成地
13 盛土
14 排水管
17 排水管
18 起振機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
砂質土で埋め立てられた既設谷及び沢埋め盛土において、排水管を所定間隔で盛土部に設け、起振機を盛土の地表面に配置し、前記砂質土に実質的に密度変化が生じない程度の小さな振動を前記起振機で繰返し盛土に与えることにより、既設谷及び沢埋め盛土の地盤剛性及び地盤強度を高めることを特徴とする既設谷及び沢埋め盛土の補強方法。
【請求項2】
前記繰返し振動は、地盤の歪みレベルでほぼ5×10-4〜2×10-3の振動をほぼ10000回以上繰り返したものである請求項1に記載の既設谷及び沢埋め盛土の補強方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−239276(P2007−239276A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−61975(P2006−61975)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(303057365)株式会社間組 (138)
【Fターム(参考)】