説明

既設鋼鉄道橋とコンクリート床版との合成構造化に用いるボルト式ずれ止め工法

【課題】 既設の鋼橋の強度を弱めることなく、堅牢な床版の接合部を行うことができる既設鋼鉄道橋とコンクリート床版との合成構造化に用いるボルト式ずれ止め工法を提供する。
【解決手段】 既設鋼鉄道橋とコンクリート床版との合成構造化に用いるボルト式ずれ止め工法において、既設のまくらぎを取り外し、鋼桁1の上面に新まくらぎ3を所定間隔で配置し、前記新まくらぎ3上にレール6を敷設し、それらの新まくらぎ3の間に所定間隔でボルト群2を植設し、前記新まくらぎ3を貫通する軸方向鉄棒4とそれに溶接される軸方向鉄筋5を配置し、前記新まくらぎ3間に床版用コンクリートを打設し、コンクリート床版8を構築する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設鋼鉄道橋とコンクリート床版との合成構造化に用いるボルト式ずれ止め工法に係り、特に、既設鋼鉄道橋の補強に関するものである。
【背景技術】
【0002】
既設の鋼鉄道橋は供用年数60年を経過した橋梁が半数以上を占めており、既存の鋼鉄道橋をいかに管理していくかが問われている(下記非特許文献1参照)。
【0003】
従来、鋼桁とコンクリート床版を組み合わせた「合成桁(または合成構造)」という技術はあるが、この技術は新設の構造物を対象としており、既設の鋼鉄道橋を補強する目的で合成構造化する試みはこれまでなされていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】斉藤 雅充,杉本 一朗,小林 裕介,市川 篤司,「既設鋼鉄道橋の合成構造化によるリニューアル工法の提案」,RTRI REPORT Vol.22,No.10,Oct,2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
既設の鋼鉄道橋の合成構造化を行おうとする場合、既設のまくらぎ(木まくらぎや合成まくらぎ)を撤去し、そこに新たなコンクリート床版を設置しなければならない。しかしながら、この方法では、コンクリ−ト床版の設置に時間がかかるため、その路線の列車の運行を著しく阻害する。
【0006】
また、既設の鋼鉄道橋の耐力を合成構造化によって向上させようとする場合、鋼桁と床版の接合部がずれに対して十分な抵抗力を有しなければならない。新設の合成桁であれば鋼桁の上面に「ずれ止め」が設置されており、これが接合部のずれに対する抵抗力を生み出す。しかしながら、既設の鋼鉄道橋の上面にはこのような「ずれ止め」がないために鋼桁と床版がうまく一体化されず、十分な耐力向上効果を得ることができないという問題がある。
【0007】
一方、鋼桁の上面にずれ止めを溶接で取り付ける方法もあるが、既設の鋼橋には年代の古い鋼材が用いられているものが多く、溶接することによって材質がもろくなって割れが発生したり、疲労強度が低下したりするなどの理由により、溶接によるずれ止めの設置ができないのが実状である。
【0008】
本発明は、上記状況に鑑みて、既設の鋼橋の強度を弱めることなく、堅牢な床版の接合を行うことができる既設鋼鉄道橋とコンクリート床版との合成構造化に用いるボルト式ずれ止め工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕既設鋼鉄道橋とコンクリート床版との合成構造化に用いるボルト式ずれ止め工法において、既設のまくらぎを取り外し、鋼桁の上面に新まくらぎを所定間隔で配置し、前記新まくらぎ上にレールを敷設し、それらの新まくらぎの間に所定間隔でボルト群を植設し、前記新まくらぎを貫通する軸方向鉄筋を配置し、前記新まくらぎ間に床版用コンクリートを打設し、コンクリート床版を構築することを特徴とする。
【0010】
〔2〕上記〔1〕記載の既設鋼鉄道橋とコンクリート床版との合成構造化に用いるボルト式ずれ止め工法において、前記新まくらぎに予め軸方向鉄筋棒を前記新まくらぎから突出するように固定しておき、前記新まくらぎ間に軸方向鉄筋を配置し、前記突出した軸方向鉄筋棒と前記軸方向鉄筋とを溶接することを特徴とする。
【0011】
〔3〕上記〔1〕記載の既設鋼鉄道橋とコンクリート床版との合成構造化に用いるボルト式ずれ止め工法において、前記新まくらぎに予め軸方向鉄筋挿入用孔を形成しておき、前記軸方向鉄筋挿入用孔に軸方向鉄筋を貫通して軸方向鉄筋を配置することを特徴とする。
【0012】
〔4〕上記〔1〕記載の既設鋼鉄道橋とコンクリート床版との合成構造化に用いるボルト式ずれ止め工法において、前記軸方向鉄筋を前記ボルト群に編み付けるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、既設の鋼橋の強度を弱めることなく、堅牢な床版の接合を行うことができる既設鋼鉄道橋とコンクリート床版との合成構造化を施工することができる。
【0014】
また、本発明では、まず、既設のまくらぎを特殊なコンクリートまくらぎと取替え、コンクリートまくらぎの周囲にコンクリートを打設して一体化する工法を用いることによって、各作業を複数の単時間作業に分割することができ、列車の運行を阻害することなく、夜間作業などの短時間作業のみによってコンクリート床版の設置を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の既設鋼鉄道橋とコンクリート床版との合成構造化の概念を示す模式図である。
【図2】本発明の第1実施例を示す既設鋼鉄道橋とコンクリート床版との合成構造化に用いるボルト式ずれ止め工法の工程図である。
【図3】本発明の第2実施例を示す既設鋼鉄道橋とコンクリート床版との合成構造化に用いるボルト式ずれ止め工法の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の既設鋼鉄道橋とコンクリート床版との合成構造化に用いるボルト式ずれ止め工法は、既設のまくらぎを取り外し、鋼桁の上面に新まくらぎを所定間隔で配置し、前記新まくらぎ上にレールを敷設し、それらの新まくらぎの間に所定間隔でボルト群を植設し、前記新まくらぎを貫通する軸方向鉄筋を配置し、前記新まくらぎ間にコンクリートを打設し、コンクリート床版を構築する。
【実施例】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0018】
図1は本発明の既設鋼鉄道橋とコンクリート床版との合成構造化の概念を示す模式図である。
【0019】
図1(a)は既設の橋まくら木式の橋梁であり、これを、図1(b)に示すようにまくら木に替えてコンクリート床版を用いた合成構造化を図り、既設鋼鉄道橋のリニューアル化を図るようにするものである。
【0020】
図2は本発明の第1実施例を示す既設鋼鉄道橋とコンクリート床版との合成構造化に用いるボルト式ずれ止め工法の工程図である。
【0021】
この図において、1は鋼桁、2は鋼桁1の上面に配置されるボルト群、3は新まくらぎ(コンクリートまくらぎ)、4は新まくらぎ3から突出するように固定される軸方向鉄筋棒、5は軸方向鉄筋、6は新まくらぎ3上に配置されるレールである。
【0022】
まず、図2(a)に示すように、鋼桁1の上面にボルト群2を植設し、所定間隔で軸方向鉄筋棒4付きの新まくらぎ(コンクリートまくらぎ)3を配置する。ここで、レール6は施工の最後に敷設しなおすのではなく、施工の最初に、旧まくらぎ間に新まくらぎ3を設置したときに、レール6も新まくらぎ3に取り付ける(旧まくらぎからは取り外す)。この方法を用いれば、コンクリートの打設などに時間がかかっても、新まくらぎが既にレールを支えているので、列車を通すことも可能である。
【0023】
次いで、図2(b)に示すように、軸方向鉄筋棒4の間に軸方向鉄筋5を配置して、新まくらぎ3から突出した軸方向鉄筋棒4と軸方向鉄筋5を溶接する。その際に下方の軸方向鉄筋5はボルト群2に編み付けるようにする。よって、ボルト群2は軸方向鉄筋5に堅牢に固定される。
【0024】
次に、図2(c)および(d)に示すように、型枠7を配置し、新まくらぎ3間に床版用コンクリートを打設して、新まくらぎ3と一体化させる。
【0025】
次に、図2(e)に示すように、型枠7を外して脱形して、図2(f)に示すように、既設鋼鉄道橋とコンクリート床版8との合成構造化が完成する。
【0026】
図3は本発明の第2実施例を示す既設鋼鉄道橋とコンクリート床版との合成構造化に用いるボルト式ずれ止め工法の工程図である。
【0027】
この図において、11は鋼桁、12は鋼桁11の上面に配置されるボルト群、13は新まくらぎ(コンクリートまくらぎ)、14は新まくらぎ13に形成される軸方向鉄筋の挿通孔、15は軸方向鉄筋、16は新まくらぎ13上に配置されるレールである。
【0028】
まず、図3(a)に示すように、鋼桁11の上面にボルト群12を植設し、所定間隔で軸方向鉄筋の挿通孔14付き新まくらぎ13を配置する。なお、レール16の敷設は、第1実施例と同様に行う。
【0029】
次いで、図3(b)に示すように、軸方向鉄筋15を新まくらぎ13を貫通して配置する。その際に下方の軸方向鉄筋15はボルト群12に編み付けるようにする。よって、ボルト群12と軸方向鉄筋15に堅牢に固定される。
【0030】
次いで、図3(c)および(d)に示すように、型枠17を配置し、新まくらぎ13間に床版用コンクリートを打設して、新まくらぎ13と一体化させる。
【0031】
次に、図3(e)に示すように、型枠17を外して脱形して、図3(f)に示すように、既設鋼鉄道橋とコンクリート床版18との合成構造化が完成する。
【0032】
このように、既設のまくらぎを撤去し、新まくらぎとしてのコンクリートまくらぎの隙間にずれ止めボルトや軸方向鉄筋や型枠を設置する。
【0033】
コンクリートまくらぎの隙間の型枠内に床版用のコンクリートを流し込み、コンクリートまくらぎと一体化させ、コンクリート床版を完成させる。
【0034】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の既設鋼鉄道橋とコンクリート床版との合成構造化に用いるボルト式ずれ止め工法は、既設鋼鉄道橋の補強に利用することができる。
【符号の説明】
【0036】
1,11 鋼桁
2,12 ボルト群
3,13 新まくらぎ(コンクリートまくらぎ)
4 軸方向鉄筋棒
5,15 軸方向鉄筋
6,16 レール
7,17 型枠
8,18 コンクリート床版
14 軸方向鉄筋の挿通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設のまくらぎを取り外し、鋼桁の上面に新まくらぎを所定間隔で配置し、前記新まくらぎ上にレールを敷設し、それらの新まくらぎの間に所定間隔でボルト群を植設し、前記新まくらぎを貫通する軸方向鉄筋を配置し、前記新まくらぎ間に床版用コンクリートを打設し、コンクリート床版を構築することを特徴とする既設鋼鉄道橋とコンクリート床版との合成構造化に用いるボルト式ずれ止め工法。
【請求項2】
請求項1記載の既設鋼鉄道橋とコンクリート床版との合成構造化に用いるボルト式ずれ止め工法において、前記新まくらぎに予め軸方向鉄筋棒を前記新まくらぎから突出するように固定しておき、前記新まくらぎ間に軸方向鉄筋を配置し、前記突出した軸方向鉄筋棒と前記軸方向鉄筋とを溶接することを特徴とする既設鋼鉄道橋とコンクリート床版との合成構造化に用いるボルト式ずれ止め工法。
【請求項3】
請求項1記載の既設鋼鉄道橋とコンクリート床版との合成構造化に用いるボルト式ずれ止め工法において、前記新まくらぎに予め軸方向鉄筋挿入用孔を形成しておき、前記軸方向鉄筋挿入用孔に軸方向鉄筋を貫通して軸方向鉄筋を配置することを特徴とする既設鋼鉄道橋とコンクリート床版との合成構造化に用いるボルト式ずれ止め工法。
【請求項4】
請求項1記載の既設鋼鉄道橋とコンクリート床版との合成構造化に用いるボルト式ずれ止め工法において、前記軸方向鉄筋を前記ボルト群に編み付けるようにしたことを特徴とする既設鋼鉄道橋とコンクリート床版との合成構造化に用いるボルト式ずれ止め工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−222800(P2010−222800A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69267(P2009−69267)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(592173124)株式会社東京鐵骨橋梁 (11)
【Fターム(参考)】