説明

日本産アサリ検出用プライマーセット及びアサリの産地判別方法

【課題】 アサリの産地が日本産か否かを容易に判別することができるアサリの産地判別方法及びこれに用いられる日本産アサリ検出用プライマーセットを提供すること。
【解決手段】 日本産アサリ検出用プライマーセットは、配列番号1で示される塩基配列を有する第1プライマーと、配列番号2で示される塩基配列を有する第2プライマーとを具備する。このような構成のプライマーセットを用いてPCRを行うことにより、日本産アサリか否かを判別することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アサリの産地を判別するための日本産アサリ検出用プライマーセット及びアサリの産地判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、国民の食の安心・安全に対する意識の高まりから、改正JAS法による原材料並びに産地表示が義務付けられている。市場に流通しているアサリの半数以上は輸入品であるが、販売されているアサリの産地表示はそのほとんどが国内産地とされ、外国内産と表示されることは稀であるというのが現状である。
【0003】
このような現状に対し、産地表示の適正化を図るため、アサリの産地を的確に判別する必要がある。例えば、貝の産地判別法としては、貝の外観による判別や、貝のアミノ酸成分比率によって産地を判別する方法がある(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−49250号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、貝の外観による判別では熟練した技が必要であり、容易かつ確実に判別することは困難である。また、アミノ酸成分比率による産地判別方法では、判別に多くの時間と労力とを必要とする。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、アサリの産地が日本産か否かを容易に判別することができるアサリの産地判別方法及びこれに用いられる日本産アサリ検出用プライマーセットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の日本産アサリ検出用プライマーセットは、配列番号1で示される塩基配列を有する第1プライマーと、配列番号2で示される塩基配列を有する第2プライマーとを具備することを特徴とする。
【0007】
本発明のこのような構成のプライマーセットを用いてPCRを行うことにより、アサリが日本産アサリが否かを判別することができる。すなわち、このような構成のプライマーセットを用いたPCRでは、日本産アサリを試料としたPCR産物のみに増幅が確認されるため、増幅が確認できれば試料が日本産アサリであると判別でき、増幅が確認できなければ試料が日本産アサリでないことを判別することができる。
【0008】
本発明のアサリの産地判別方法は、上述に記載のプライマーセットとアサリから抽出したDNAを用いてPCRを行い、前記PCRで得られた産物を電気泳動することを特徴とする。
【0009】
本発明のこのような構成によれば、日本産アサリを試料としたPCR産物のみに増幅が確認されるため、増幅が確認できれば試料が日本産アサリであると判別でき、増幅が確認できなければ試料が日本産アサリでないことを判別することができる。
【0010】
本発明の他のアサリの産地判別方法は、上述に記載のプライマーセットとアサリから抽出したDNAを用いてリアルタイムPCRを行うことを特徴とする。
【0011】
本発明のこのような構成によれば、日本産アサリを試料としたリアルタイムPCR産物のみに増幅が確認されるため、増幅が確認できれば試料が日本産アサリであると判別でき、増幅が確認できなければ試料が日本産アサリでないことを判別することができる。また、リアルタイムPCRを用いることにより、安価でかつ迅速に判別を行うことができる。
【0012】
また、前記リアルタイムPCRにインターカレーター法を用いることを特徴とする。
【0013】
このようにインターカレーター法を用いることにより、迅速性のみならず、経済性にも優れた判別を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
【0015】
(プライマーセット)
【0016】
本実施形態における日本産アサリ検出用プライマーセットは、配列番号1に示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号2に示される塩基配列を有するプライマーとを具備する。
【0017】
プライマー設計においては、アサリミトコンドリアDNAの遺伝子配列から、日本産と中国産の判別を行うための標的として、配列番号3に示されるチトクロムcII(cytochrome c II)の遺伝子がコードされている領域を選んだ。
【0018】
配列番号1及び配列番号2からなるプライマーセットを用いてPCR(Polymerase Chain Reaction)又はリアルPCRを使用することにより、日本産アサリのみ配列番号4に示される塩基配列部分が増幅される。配列番号1及び配列番号2それぞれに示されるプライマーは、配列番号3に示されるチトクロムcII(cytochrome c II)遺伝子の配列を基に、その3´末端の一部を、日本産アサリに対し特異性を高めるために1塩基改変している。
【0019】
(PCRを用いたアサリの産地判別方法)
【0020】
試料として、2種類の産地が異なる中国産アサリと2種類の産地が異なる日本産アサリの計4種類のアサリを使用した。各アサリから貝柱(閉殻筋)を切除し、xx溶液中でこれを破砕し、QIAamp DNA Mini Kit(QIAGEN)により、添付プロトコルにしたがって各DNAを抽出し溶液とした。
【0021】
次に、滅菌蒸留水73.5μl、10xPCR buffer 10μl、dNTP 8μl、10μM プライマー(配列番号1に示すプライマーおよび配列番号2に示すプライマー) 各2μl、Ex Taqポリメラーゼ(タカラバイオ株式会社)0.5μlを混合した後、これを4本のチューブに分けた。次いで、10倍に希釈した上記 各DNA溶液をチューブに1μl加え、反応液(1反応あたり25μl)を調整した。
【0022】
調整した反応液を用いPCRによる増幅を行った。PCRには、Applied9700(アプライドバイオシステムズジャパン株式会社)を使用した。反応液の増幅は、94℃で3分間熱変性をさせた後、96℃で15秒間、55℃で30秒間、72℃で30秒間の条件で40サイクル行った。そして、得られたPCR産物を電気泳動することによって、増幅の確認をした。その結果、図1に示すように、日本産アサリのみ矢印で指す235bpの位置にバンドが認められた。尚、図1において、レーン1は100bpサイズマーカーであり、レーン2、3はそれぞれ産地の異なる中国産アサリ、レーン4、5はそれぞれ産地の異なる日本産アサリの検出結果である。
【0023】
以上のように、上述のプライマーセットを用いてPCRを行った後、電気泳動を行うことによって、その電気泳動パターンから、試料のアサリが日本産であるか否かを検出することができる。すなわち、産地が不明なアサリがある場合、試料のアサリから抽出したDNAが上述のプライマーセットを用いてPCRによって増幅されることが確認できるのであれば日本産と判別でき、増幅されることが確認できないのであれば日本産ではないと判別できる。
【0024】
また、試料の濃度や量によって増幅量が変化するが、反応条件として40サイクル以上行えば、確実に日本産アサリか否かが検出可能となる。
【0025】
(リアルタイムPCRを用いた産地判別方法)
【0026】
試料として、2種類の産地が異なる中国産アサリと10種類の産地が異なる日本産アサリの計12種類のアサリを使用した。各アサリから、貝柱(閉殻筋)を切除し、xx溶液中でこれを破砕し、QIAamp DNA Mini Kit(QIAGEN)により、添付プロトコルにしたがって各DNAを抽出し溶液とした。
【0027】
次に、滅菌蒸留水7.2μl、10xPCR buffer 10μl、SYBR Primer Ex Taq 10μl、10μMプライマー(配列番号1に示すプライマーおよび配列番号2に示すプライマー)各0.4μl、10倍に希釈した上記DNA溶液をチューブに2μl加え、反応液(1反応あたり20μl)を調整した。
【0028】
調整した反応液を用いリアルタイムPCRによる増幅を行った。リアルタイムPCRには、ST−300(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)を使用した。リアルタイムPCRではPCR産物を蛍光により検出する。本実施形態においては、蛍光検出方法としてインターカレーターを用い蛍光物質としては、SYBER Green Iを用いた。尚、ハイブリダイゼーションプローブを用いることも可能である。
【0029】
反応液の増幅は、95℃で30秒間の熱変性の後、96℃で5秒間、55℃で15秒間、72℃で15秒間の条件で行った。その結果、図2に示すように、30サイクル以上の反応条件で、日本産アサリのみ増幅が確認され、中国産アサリは増幅が確認されなかった。
【0030】
以上のように、上述のプライマーセットを用いてリアルタイムPCRを行うことによって、試料のアサリが日本産であるか否かを検出することができる。すなわち、産地が不明なアサリがある場合、試料のアサリから抽出したDNAが上述のプライマーセットを用いてリアルタイムPCRによって増幅されることが確認できるのであれば日本産と判別でき、増幅されることが確認できないのであれば日本産ではないと判別できる。
【0031】
また、試料の濃度や量によって増幅量は変化するが、少なくとも反応条件として30サイクル以上行えば、ほぼ確実に日本産アサリか否かが検出可能となる。
【0032】
このようにリアルタイムPCRを用いてもよく、PCRよりも安価で、迅速かつ高感度に日本産アサリか否かを判別することができる。
【0033】
また、PCR及びリアルタイムPCRを用いるアサリの産地判別において、1本のチューブに上述に記載したプライマーセットと増幅酵素が乾燥された状態で入ったものを検査キットとして使用することができる。PCR又はリアルタイムPCRを行う場合には、この検査キットに規定量の水と試料を混ぜ、これをPCR又はリアルタイムPCRにかければよい。このような検査キットにより、迅速かつ簡便にPCR操作を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】日本産及び中国産アサリを用いて得られたPCR産物の電気泳動パターンを示す図である。
【図2】日本産及び中国産アサリを用いて得られたリアルタイムPCRの検出結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で示される塩基配列を有する第1プライマーと、
配列番号2で示される塩基配列を有する第2プライマーと
を具備することを特徴とする日本産アサリ検出用プライマーセット。
【請求項2】
請求項1記載のプライマーセットとアサリから抽出したDNAを用いてPCRを行い、前記PCRで得られた産物を電気泳動することを特徴とするアサリの産地判別方法。
【請求項3】
請求項1記載のプライマーセットとアサリから抽出したDNAを用いてリアルタイムPCRを行うことを特徴とするアサリの産地判別方法。
【請求項4】
前記リアルタイムPCRにインターカレーター法を用いることを特徴とする請求項3記載のアサリの産地判別方法。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2008−212091(P2008−212091A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−56410(P2007−56410)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【出願人】(000223104)東和科学株式会社 (9)
【出願人】(507072276)独立行政法人 水産総合研究センター (1)
【Fターム(参考)】