説明

昆虫による刺傷、または有毒草もしくは有毒植物との皮膚接触により生じた知覚過敏症、知覚障害、疼痛、および掻痒を処置する方法

昆虫または節足動物による刺傷もしくは咬傷、または有毒草もしくは有毒植物との皮膚接触によって生じた知覚過敏症、知覚障害、疼痛、および掻痒を処置する方法を開示する。この方法は、刺傷もしくは咬傷、または皮膚接触が生じた直後に、アベルメクチン化合物を含有する皮膚用組成物を患部に局所塗布する工程を含む。この方法は、皮膚用組成物を塗布する前に、まず患部を湿らせる工程をさらに含む。このアベルメクチン化合物は、アベルメクチン、アベルメクチン誘導体、イベルメクチン、およびイベルメクチン誘導体を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、昆虫または節足動物による刺傷もしくは咬傷、または有毒草もしくは有毒植物との皮膚接触により生じた知覚過敏症、知覚障害、疼痛、および掻痒を処置するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
昆虫または節足動物による刺傷もしくは咬傷は、特に、農村部における人の生活において一般に発生する出来事である。刺傷または咬傷は、通常、小昆虫、サシバエ、ミツバチ、大型のハチ(例えば、黄蜂およびスズメバチ)、ヒアリ、クモ等により生じる。この刺傷または咬傷は、激しい刺痛、灼熱感、疼痛、痒み、およびうずきを引き起こす。臨床的には、これらの症状は、知覚過敏症、知覚障害、疼痛、および掻痒と呼ばれる。典型的には、刺された後、皮膚が赤く腫れて、みみず腫れまたは膿疱ができる。膿疱は、皮膚(表皮)の最上層内またはその下にあたる真皮内の小さな膿の蓄積部分である。膿は、炎症細胞と液体の混合物である。
【0003】
現在、刺傷により生じた激しい刺痛、灼熱感、痛み、痒み、およびうずきを処置するための効果的な薬剤は存在しない。典型的には、刺された部位を速やかに石鹸および水で洗浄し、布または薄いタオルに包んだ角氷または氷嚢で皮膚を冷やし、患部を安静にし、可能であれば、患部を持ち上げて過剰に腫れないようにすることが推奨される。また、鎮痛クリームもしくはジェル、または抗ヒスタミン剤を用いて痒みを緩和することも推奨される。しかしながら、痛みおよび灼熱感が非常に激しくなる場合もあり、現在では、効果的に痛みを止める局所用薬剤は存在しない。これら薬剤は患部を一時的に麻痺させるだけなので、可能なレベルで痛みを低減できるのは一定期間でしかなく、上記のような症状の原因に対して作用することはない。
【0004】
一方で、火跡地雑草、イラクサ、ウルシ、または他の有毒草もしくは有毒植物との皮膚接触でも激しい刺痛、灼熱感、痛み、および痒みを生じることがあり、みみず腫れまたは膿疱ができることが多い。現在の処置としては、典型的には、症状を和らげる抗ヒスタミン剤、またはコルチゾンクリームの局所塗布が挙げられる。これらは有毒草または有毒植物により生じた症状の緩和に有効でない場合が多い。患者は、このような場合には、その後何日間か強い不快感に悩まされることがある。
【0005】
刺傷が重度であるか、または有毒草もしくは植物との皮膚接触が広範囲に渡る場合、患者は処置のために救急処置室に行かざるをえなくなることが多い。
【0006】
アベルメクチンファミリーの化合物は、哺乳動物の多様な内部寄生虫および外部寄生虫に有用であるとともに、農業において農作物の内部および外部ならびに土壌中に見られる各種の線虫および昆虫寄生生物に対して利用されることが知られる一連の非常に強力な抗寄生虫薬である。イベルメクチンはアベルメクチンファミリーのメンバーであり、1980年代半ばより各種の動物寄生生物の処理および寄生虫性疾患の処置のための抗寄生虫薬として用いられている。これは、MERIAL Limited(Duluth,Georgia)からCardomec(ネコ用)、Zimecterin(ウマ用)、およびIvomec(ウシ用)として動物用に市販されている。この薬は、イヌ糸状虫の予防に関しては錠剤、ペースト、もしくは咀嚼錠として、ミミダニ処置に関しては局所用溶液として、または他の寄生虫による問題に関しては経口もしくは注射液剤として入手可能である。
【0007】
イベルメクチンはまた、Merck&Co.,lncから線虫Strongyloides stercoralisの除去およびOnchocerca volvulusの除去のためのStromectol(登録商標)として、ヒト用に市販されている。この薬は錠剤として入手可能であり、患者が経口投与するものである。
【0008】
Magdaらの非特許文献1には、イベルメクチンを局所塗布してアタマジラミを処置する方法が記載されている。イベルメクチンは、1回の局所塗布で処置効果をもたらすことが分かっている。(McDanielの)特許文献1は、イベルメクチンを経口投与または局所塗布して罹患皮膚の毛嚢に塗りこみ、ダニDemodex Follicuorumを取り除くことにより外部寄生虫Demodexに関連する酒さの一種を処置する方法を開示している。
【0009】
(Parksの)特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、および特許文献6は、アベルメクチン化合物、特に、イベルメクチンを患部に局所塗布することにより酒さ性ざ瘡、脂漏性皮膚炎、尋常性ざ瘡、一過性棘細胞離開性皮膚病、粟粒性壊死性ざ瘡(acne miliaris necrotica)、痘瘡状ざ瘡、口囲皮膚炎、およびざ瘡状発疹を処置する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,952,372号明細書
【特許文献2】米国特許第6,133,310号明細書
【特許文献3】米国特許第6,433,006号明細書
【特許文献4】米国特許第6,399,652号明細書
【特許文献5】米国特許第6,399,651号明細書
【特許文献6】米国特許第6,319,945号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Amer.J.Trop.Med.Hyg.53(6)1995、652〜653ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述した寄生虫性疾患および皮膚疾患はいずれも、昆虫または節足動物による刺傷もしくは咬傷、または有毒草もしくは有毒植物との皮膚接触によって生じた知覚過敏症、知覚障害、疼痛、および掻痒とは関連がない。昆虫または節足動物による刺傷、または有毒草もしくは有毒植物との皮膚接触は、一般的な公共問題である。それゆえ、これらの症状に対する新規かつ効果的な局所処置、特に、そのような事例の直後に適用して患者の苦痛を軽減し、さらなる問題を予防することが可能な処置に対する要望が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(発明の要旨)
1つの実施形態では、本発明は、昆虫または節足動物による刺傷もしくは咬傷、または有毒草もしくは植物との皮膚接触によって生じた知覚過敏症、知覚障害、疼痛、および掻痒を処置する方法であって、刺傷もしくは咬傷、または有毒草および植物との皮膚接触が生じた直後に治療有効量のアベルメクチン化合物を哺乳動物の患部に局所塗布する工程を含む、方法に関する。アベルメクチン化合物を塗布する前に、まず患部を濡らすことが好ましい。
【0014】
上記アベルメクチン化合物は、有効量のアベルメクチン化合物および薬学上許容可能な担体または媒体(ローション、クリーム、ジェル、エマルジョン、およびスプレー等)を含む皮膚用組成物または薬剤中に含まれる。アベルメクチン化合物はまた、テープ剤、局所用包帯剤、または皮膚パッチに組み込むこともできる。アベルメクチン化合物は、アベルメクチン、アベルメクチン誘導体、イベルメクチン、およびイベルメクチン誘導体を含む。皮膚用組成物中のアベルメクチン化合物濃度は、約0.05%〜約3%(w/w)である。好適な実施形態では、イベルメクチンが用いられる。
【0015】
他の実施形態では、本発明は、さらに、昆虫または節足動物による刺傷もしくは咬傷、または有毒草もしくは植物との皮膚接触によって生じた知覚過敏症、知覚障害、疼痛、および掻痒を処置するための皮膚用キットに関する。このキットは、容器に入れたアベルメクチン化合物および薬学上許容可能な担体を含む皮膚用組成物、および、必要に応じて、密封したパッケージに入れた湿ガーゼ(moistened gauges)を含む。このキットは、昆虫または節足動物による刺傷もしくは咬傷、または有毒草もしくは植物との皮膚接触によって生じた知覚過敏症、知覚障害、疼痛、および掻痒を処置するための皮膚用組成物の使用法に関する説明を記載した挿入物をさらに含む。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(発明の詳細な説明)
本発明は、昆虫または節足動物による刺傷もしくは咬傷、または有毒草もしくは植物との皮膚接触によって生じた知覚過敏症、知覚障害、疼痛、および掻痒を処置する方法に関する。この方法は、刺傷もしくは咬傷、または有毒草および植物との皮膚接触が生じた直後に治療有効量のアベルメクチン化合物を哺乳動物の患部に局所塗布することを含む。
【0017】
本明細書で言及する昆虫または節足動物は、ミツバチ、大型のハチ(黄蜂およびスズメバチ)、ヒアリ、小虫、サシバエ、クモ等を含むがこれらに限定されない有害な昆虫または節足動物を含む。有毒草または有毒植物は、火跡地雑草、イラクサ、ウルシ、その他を含むがこれらに限定されない。
【0018】
本明細書で用いる「知覚過敏症、知覚障害、疼痛、および掻痒」という用語は、昆虫または節足動物による刺傷もしくは咬傷、または有毒草もしくは植物との皮膚接触によって生じた刺痛、灼熱感、痛み、痒み、およびうずきを指すため、これらは相互互換的に用いられる。「直後」という語句は、上記のような出来事の発生後できるだけ速やかに(好ましくは、約2〜約15分、より好ましくは、約2〜約5分)アベルメクチン化合物を患部に局所塗布することを意味する。
【0019】
本発明の目的のためのアベルメクチン化合物は、アベルメクチン、アベルメクチン誘導体、イベルメクチン、およびイベルメクチン誘導体を含む。アベルメクチン化合物は、好ましくは皮膚組織への局所塗布に適した薬学上許容可能な担体または媒体と混合され、皮膚用組成物を形成する。
【0020】
好ましくは、イベルメクチンを皮膚用組成物内に含めて用いる。イベルメクチンはアベルメクチンの準合成誘導体であり、一般に、少なくとも80%の22,23−ジヒドロアベルメクチンB1aと20%未満の22,23−ジヒドロアベルメクチンB1bの混合物として生成される。下記の分子構造は、後述するように、有用な誘導体に化学変換可能な一連のアベルメクチン化合物を表す。
【0021】
【化1】

ここで、Rは下記構造
【0022】
【化2】

の4’−(α−L−オレアンドロシル)−α−L−オレアンドロース基であり、
破線は一重または二重結合を示し、Rはヒドロキシであり、上記破線が二重結合を示す場合のみ存在し、Rはイソプロピルまたはsec−ブチルであり、Rはメトキシまたはヒドロキシである。
【0023】
イベルメクチン(化学的に生成された類似体)をメンバーとするアベルメクチンは、Streptomyces avermitillisのC−076産生菌の発酵ブロスから単離された一連の化合物、およびそれらの化学的に生成された誘導体である。S.avermitillisは、A1a、A1b、A2a、A2b、B1a、B1b、B2a、およびB2bで示される8つの異なる近縁化合物を産生する。これらの化合物の産生は米国特許第4,310,519号に記載されている。イベルメクチンの調製は米国特許第4,199,569号に開示されている。上記の各特許の開示内容は全て本明細書において参照により援用する。
【0024】
アベルメクチンには22,23−二重結合を含有するものもある。これを選択的に還元してイベルメクチン化合物を調製してもよい。さらに、アベルメクチンは、α−L−オレアンドロシル−α−L−オレアンドロシル基からなる二糖部分を13位に有する。これらの糖基の一方または両方を米国特許第4,206,205号に記載されるように除去し、生成されるアグリコン誘導体が13位にヒドロキシ基を有するようにしてもよい。米国特許第4,171,314号および同第4,173,571号に記載されるように、この基を除去して13−デオキシ化合物を形成してもよい(後者の特許には13−ハロ誘導体も記載されている)。アベルメクチン化合物および誘導体は、米国特許第4,201,861号に記載されるようにアシル化可能なヒドロキシ基をいくつか有する。米国特許第5,055,454号には、アベルメクチンの13位が通常のα立体配置からエピマー13−β立体配置に反転されることが記載されている。米国特許第5,077,308号には、13位にケタールを組み込んだアベルメクチンアグリコン誘導体が記載されている。米国特許第5,162,363号には、23位環炭素原子が硫黄原子で置換されたアベルメクチン誘導体が記載されている。米国特許第5,229,416号には、13位および23位に2つのフッ素原子を組み込んだアベルメクチンアグリコン誘導体が記載されている。米国特許第5,262,400号には、アルキル、アルコキシアルキル、またはポリアルコキシアルキル基を含む各種の置換基を4a位に有するアベルメクチン化合物が記載されている。アベルメクチンおよびイベルメクチンの他の誘導体は、米国特許第4,333,925号、同第4,963,667号、同第5,114,930号、同第5,350,742号、および同第5,830,875号に開示されている。上記特許の全てを本明細書において参照により援用する。
【0025】
上記で言及したアベルメクチン化合物の全ては、イベルメクチンの抗寄生虫生物活性スペクトルを共有しており、その度合いのみが異なる。本発明の目的での使用に適合するために必要とされるイベルメクチンの活性スペクトルを共有することも期待される。
【0026】
薬学上許容可能な担体または媒体の適切な例としては、ヒトの皮膚に対する局所塗布に適したローション、クリーム、ジェル、エマルジョン、およびスプレーが挙げられるがこれらに限定されない。これらの媒体は当業者には周知である。好ましくは、上記皮膚用組成物は1つ以上の保湿剤を含む。本明細書で用いる「保湿剤」は、皮膚から水分がなくなることを抑制または防止することにより皮膚の水分補給を容易にし、大気中から水分を吸収し、皮膚に潤いを与える薬剤、もしくは皮膚自体の大気中から直接水分を吸収する能力を高める薬剤、またはそれらの組み合わせを含むものとして用いられる。理論に束縛されるわけではないが、保湿剤はアベルメクチン化合物を吸収する皮膚の能力も改善すると考えられている。適切な保湿剤は、疎水性薬剤および親水性薬剤、またはそれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない。保湿剤を使用する場合、典型的には、上記組成物の約0.01〜20重量%、好ましくは、約0.05〜10重量%の量で存在する。各種の保湿剤が公知であり、フェイシャル、ボディ、およびハンドクリームまたはローションに商業的に用いられている。
【0027】
好ましくは、上記担体または媒体は、香料、鉱油、およびワセリンを含まないが、これは、鉱油およびワセリンは毛穴を詰まらせる傾向があり、香料は皮膚炎を引き起こす傾向があるためである。これらの物質を実質的に含まない皮膚用組成物を用いることにより、媒体によって引き起こされ得る二次的な皮膚病を回避できる。
【0028】
実施例1〜2は、昆虫または節足動物による刺傷もしくは咬傷、または有毒草もしくは有毒植物との皮膚接触によって生じた知覚過敏症、知覚障害、疼痛、および掻痒を処置するためのアベルメクチン化合物を含有する例示的な局所用皮膚用組成物を提供する。実施例2では、Galderma Laboratories,Inc.によりCetaphil(登録商標)という商標名で製造されている市販の保湿ローションをイベルメクチンの担体として用いる。Cetaphil(登録商標)は、精製水、グリセリン、水素化ポリイソブテン、セテアリルアルコールおよびセテアレス−20、マカダミアナッツオイル、ジメチコーン、酢酸トコフェリル、ステアロキシトリメチルシランおよびステアリルアルコール、パンテノール、ファルネソール、ベンジルアルコール、フェノキシエタノール、アクリレート/C10−30アクリル酸アルキルクロスポリマー、水酸化ナトリウム、およびクエン酸を含有する。Cetaphil(登録商標)は、香料、鉱油、およびワセリンを含まない。
【0029】
さらに、上記アベルメクチン化合物、またはアベルメクチン化合物を含有する上記皮膚用組成物は、局所用包帯、テープ剤、または皮膚パッチに組み込むことができる。随意に、異なる形態の局所療法の組み合わせを用いることもできる。例えば、テープ剤または局所用包帯は長時間(例えば、一晩)用いることができ、クリームまたはローションは日中に用いることができる。
【0030】
好適な実施形態では、購入が容易であるためイベルメクチンを用いる。本発明の目的のための皮膚用組成物中のイベルメクチン濃度は、約0.05重量%〜3重量%(w/w)の広い範囲とすることができる。イベルメクチンを0.07%程度の低い濃度で含有するローションまたはクリームは、下記の実施例で例証するように、昆虫または節足動物による刺傷もしくは咬傷、または有毒草もしくは植物との皮膚接触によって生じた知覚過敏症、知覚障害、疼痛、および掻痒の処置において臨床的に有効であることが分かっている。
【0031】
イベルメクチンは、1980年代後半よりOnchocerca volvulusによって生じたヒトの河川盲目症を処置するための経口薬剤として用いられている。この薬物は、適度のイベルメクチン濃度での経口投薬では、重篤な副作用を引き起こすことがなく、ヒトの体内において安全である。それゆえ、イベルメクチン皮膚用組成物を用いる本発明の局所療法はヒト患者にとって安全であり、このことは、後述する臨床例でも実証されている。さらに、先に述べたように、0.07%程度の低いイベルメクチン濃度を有する皮膚用組成物は、昆虫または節足動物による刺傷もしくは咬傷、または有毒草もしくは植物との皮膚接触によって生じた知覚過敏症、知覚障害、疼痛、および掻痒の処置において臨床的に有効である。このような低濃度は、副作用のリスクを低減し、体の自己免疫応答を誘発する可能性を低減するため有利である。
【0032】
好ましくは、本発明の処置法は、本発明の皮膚用組成物を局所塗布する前に刺傷または患部を湿らせる工程を含む。湿った皮膚に対する皮膚用組成物の局所塗布は、乾燥した皮膚に対する塗布よりも有効であることが分かっている。皮膚を湿らせた後直ぐに、皮膚用組成物を塗布することができる。
【0033】
実施例3〜7では、昆虫または節足動物による刺傷もしくは咬傷、または有毒草もしくは植物との皮膚接触によって生じた知覚過敏症、知覚障害、疼痛、および掻痒を処置する本発明の方法の有効性を例証する。従来これらの症状の処置に用いられてきた公知の方法または薬剤のいずれとも完全に異なり、驚いたことに、上記のような出来事の直後(典型的には、2〜5分以内)にイベルメクチンローションを刺傷または患部に塗布すると、刺痛、灼熱感、痛み、およびうずきがわずか数分(典型的には、5〜20分)で和らぐことが分かっている。典型的には、痒みまたは掻痒が治まるにはそれよりも長い時間がかかる。実施例に記載する事例の大半では、当該皮膚用組成物を1回塗布するだけで症状が完全に解消された。ツタウルシとの皮膚接触により生じたウルシ皮膚炎の場合、処置に対する患者の反応が遅く、皮膚用組成物を数回塗布したが、症状は処置によって確実に解消されることが分かった。
【0034】
さらに、実施例3で例証するように、本発明の処置はネコにも有効である。よって、当該方法は、ヒトに伴われ同様の曝露を受ける傾向にあるイヌおよびウマにも有効であることが予測される。
【0035】
本発明者は、本発明の組成物および方法が昆虫または節足動物による刺傷もしくは咬傷、または有毒草もしくは植物との皮膚接触によって生じた知覚過敏症、知覚障害、疼痛、および掻痒の処置に有効である理由に関するいずれの理論的説明によっても束縛されることはないが、一定の理論的解釈を提示することは有効であると言える。臨床的観察に基づいて、本発明の組成物および方法が有効である1つの理由は、部分的には、イベルメクチンの抗炎症作用によるものであると考えられる。イベルメクチンは、特定の炎症伝達物質を阻害するため、炎症により生じた各種の症状を緩和する抗炎症薬であると考えられる。さらに、神経系に対するイベルメクチンの効果を考慮すると、皮膚中の神経受容体になんらかの直接的作用を及ぼすこともあり得る。
【0036】
イベルメクチンを含有する上記皮膚用組成物は、組成物を容器内に包装したキットとして販売することができる。随意に、このキットには、患部を湿らせるための湿ガーゼを密封したパッケージに入れて含めることができる。本発明に係る皮膚用組成物の使用説明を容器上に記載するか、または容器に付随させることにより、昆虫または節足動物による刺傷もしくは咬傷、または有毒草もしくは植物との皮膚接触によって生じた知覚過敏症、知覚障害、疼痛、および掻痒の処置するための詳細な指示が与えられる。
【0037】
昆虫または節足動物に刺されたか、または有毒草もしくは植物と皮膚接触した人の同意を得た上で、それらの人を本発明のイベルメクチン皮膚用組成物および方法を用いて処置した。実施例3〜7では、本発明の方法の臨床的有効性を例証する。
【実施例】
【0038】
(実施例1)
アベルメクチン化合物を含有する局所用皮膚ローションを下記のようにして得る。
【0039】
0.10gのイベルメクチン(Merck&Co.,Inc.製)と2mlのプロピレングリコールを混合してイベルメクチンを溶解する。次いで、この溶液を100mgのDove sensitive Skin facial lotion(Englewood Cliffs(New Jersey)製)と十分に混合し、イベルメクチン濃度が0.10%(w/w)のイベルメクチンローションを作製する。
【0040】
実施例1に従って、以下の濃度のイベルメクチンを含む他の適切な組成物を作製することができる:0.05%、0.075%、0.2%、0.5%、1%、および3%(w/w)。
【0041】
(実施例2)
アベルメクチン化合物を含有する局所用皮膚用組成物を下記のようにして得る。
【0042】
1.87%のイベルメクチンを含有する0.0374gのZimecterin(MERIAL Limited(Duluth,Georgia)製)を100mgのCetaphil(登録商標)保湿ローション(Galderma Laboratories,Inc.製)と十分に混合してイベルメクチンローションを作る。作ったローション中のイベルメクチン濃度は0.07%(w/w)である。
【0043】
実施例2に従って、Cetaphil(登録商標)保湿ローションを媒体とした以下の濃度のイベルメクチンを含む他の適切な組成物を作製することができる:0.05%、0.1%、0.2%、0.5%、1%、および3%(w/w)。他の適合性を有する市販のローションまたはクリームも媒体または担体として用いることができる。
【0044】
(実施例3)
いくつかの個別の事例において、別々の人がスズメバチまたは大型のハチに手、指、顔、または腕を刺された。刺されてから2〜5分以内に、まず、皮膚の刺された部位を水で濡らし、その後、実施例2のイベルメクチンローションを湿らせた部位に局所塗布した。約10〜15分で、刺痛、灼熱感、痛み、およびうずきの全てが和らいだ。みみず腫れまたは膿疱は形成されなかった。イベルメクチンローションを1回塗布した後はさらに処置を行うことはなかった。
【0045】
他の個別の事例では、ネコがスズメバチに足を刺された。刺されてから2〜5分以内に、まず、ネコの足を水で濡らし、その後、実施例2のイベルメクチンローションを湿らせた部位に局所塗布した。みみず腫れまたは膿疱は形成されず、数分で、ネコは刺傷による痛みから落ち着いた。
【0046】
(実施例4)
1人の男性がヒアリに足、足首、および手を刺された。刺されてから2〜5分以内に、まず、皮膚の刺された部位を水で濡らし、その後、実施例2のイベルメクチンローションを湿らせた部位に局所塗布した。10分未満で、刺痛、灼熱感、痛み、およびうずきの全てが和らいだ。みみず腫れまたは膿疱は患部に形成されなかった。イベルメクチンローションを1回塗布した後はさらに処置を行うことはなかった。
【0047】
(実施例5)
1人の男性がクモに腕を咬まれた。咬まれてから2〜5分以内に、まず、皮膚の咬まれた部位を水で濡らし、その後、実施例2のイベルメクチンローションを湿らせた部位に局所塗布した。15分未満で、刺痛、灼熱感、痛み、およびうずきが和らいだ。みみず腫れまたは膿疱は患部に形成されなかった。イベルメクチンローションを1回塗布した後はさらに処置を行うことはなかった。
【0048】
(実施例6)
2つの個別の事例において、2人の人が火跡地雑草またはイラクサと脚、足、または手を皮膚接触し、すぐに患部に痛みおよび灼熱感を感じた。皮膚接触してから5分以内に、まず、皮膚の患部を水で濡らし、その後、実施例2のイベルメクチンローションを湿らせた部位に局所塗布した。15分未満で、痛みおよび灼熱感の全てが和らいだ。イベルメクチンローションを1回塗布した後はさらなる処置を行うことはなかった。
【0049】
(実施例7)
1人の男性がツタウルシと顔および手を皮膚接触し、ウルシ皮膚病を発症した。皮膚接触の直後、まず、皮膚の患部を水で濡らし、その後、実施例2のイベルメクチンローションを湿らせた部位に局所塗布した。数分して、痛みおよび灼熱感が低減した。その後、翌日から2日間で、イベルメクチンローションを数回塗布し、ウルシ皮膚病を解消した。
【0050】
上述の日常的な試みでは、患者に副作用または禁忌は見られなかった。患者は処置が原因となる皮膚炎を訴えることはなかった。皮膚が過敏になったという報告はなかった。
【0051】
本発明の好適な実施形態を示し説明したが、本発明は、本明細書で具体的に示し説明した以外の方法で実施可能であり、添付の請求の範囲に記載する本発明の根本的な思想および原理を逸脱することなく、そのような実施形態の各部の形式および構成上の変更が可能であることは言うまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昆虫または節足動物による刺傷もしくは咬傷、または有毒草もしくは有毒植物との皮膚接触によって生じた知覚過敏症、知覚障害、疼痛、および掻痒を処置する方法であって、該刺傷もしくは咬傷、または該皮膚接触が生じた直後に、治療有効量のアベルメクチン化合物を哺乳動物の患部に局所塗布する工程を包含する、方法。
【請求項2】
前記アベルメクチン化合物は、前記刺傷もしくは咬傷、または前記皮膚接触が生じてから2〜15分以内に局所塗布される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
知覚過敏症、知覚障害、疼痛、および掻痒を解消するために、必要に応じて、引き続き、前記アベルメクチン化合物を前記哺乳動物の前記患部に局所塗布する工程をさらに包含する、請求項1または2の一方に記載の方法。
【請求項4】
前記アベルメクチン化合物の局所塗布の前に前記哺乳動物の前記患部を湿らせる工程をさらに包含する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記アベルメクチン化合物は、アベルメクチン、アベルメクチン誘導体、イベルメクチン、またはイベルメクチン誘導体を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記アベルメクチン化合物は、約0.05%(w/w)より高い濃度のイベルメクチンである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
昆虫または節足動物による刺傷もしくは咬傷、または有毒草もしくは有毒植物との皮膚接触により生じた知覚過敏症、知覚障害、疼痛、および掻痒の処置のために局所塗布する薬剤を製造するためのアベルメクチン化合物の使用。
【請求項8】
前記アベルメクチン化合物は、アベルメクチン、アベルメクチン誘導体、イベルメクチン、またはイベルメクチン誘導体を含む、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記アベルメクチン化合物はイベルメクチンである、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記アベルメクチン化合物は、約0.05%(w/w)よりも高い濃度で存在する、請求項7〜9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
前記アベルメクチン化合物は、約0.05%〜約3.0%(w/w)の範囲の濃度で存在する、請求項7〜10のいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
前記アベルメクチン化合物は薬学上許容可能な担体中に含まれる、請求項7〜11のいずれか1項に記載の使用。
【請求項13】
前記薬学上許容可能な担体は、ローション、クリーム、ジェル、エマルジョン、またはスプレーを含む、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記アベルメクチン化合物は、テープ剤、局所用包帯、または皮膚パッチに組み込まれる、請求項7〜13のいずれか1項に記載の使用。

【公表番号】特表2010−514840(P2010−514840A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−544911(P2009−544911)
【出願日】平成20年1月2日(2008.1.2)
【国際出願番号】PCT/US2008/000007
【国際公開番号】WO2008/085808
【国際公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(509187657)
【出願人】(509187255)
【Fターム(参考)】