説明

昇圧装置

【課題】低電圧系の電圧や高電圧系の電圧をより適正に補正する。
【解決手段】起動後初めて指令電圧VH*が設定電圧V(i)に一致したときに電圧VL,VHからゼロ点調整値VL0,VH0とバッテリ電圧Vb,設定電圧V(i)とをそれぞれ減じた検出差ΔVL,ΔVHをオフセット値VLof(i),VHof(i)として設定し(S140)、それ以降に指令電圧VH*が設定電圧V(i)に一致したときに、検出差ΔVL,ΔVHの絶対値からオフセット値VLof(i),VHof(i)の絶対値を減じたものが値0以上のときに補正値VLaj(i),VHaj(i)を設定し(S170,S200)、それが値0未満のときに検出差ΔVL,ΔVHを新たなオフセット値VLof(i),VHof(i)として再設定する(S180,S210)。そして、オフセット値,補正値を用いて電圧VL,VHを補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇圧装置に関し、詳しくは、指令電圧を受けて低電圧系の電力を昇圧して高電圧系の電圧が前記指令電圧となるよう電力変換する昇圧回路を備える昇圧装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の装置としては、電池からの直流電力を交流電力に変換してモータに供給する電力調整回路内の電池側から入力電圧を検出する入力電圧センサの測定値から電池に取り付けられた電池電圧センサからの測定値を減じてオフセット補正値として記憶し、モータの駆動制御や電池の充放電制御の際には入力電圧センサからの測定値からオフセット補正値を減算して得られる電圧を用いて行なうものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−246357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の装置では、駆動制御や電池の充放電制御を行なっていると電圧センサの熱的特性によりオフセット値が変化し、適正に電圧を得ることができない場合が生じる。昇圧回路を備える場合、昇圧前の低電圧系の電圧や昇圧後の高電圧系の電圧を検出する電圧センサの熱的特性によりオフセット値が変化すると、適正な昇圧を行なうことができず、場合によっては高電圧系の電圧が過電圧となる場合が生じる。
【0005】
本発明の昇圧装置は、低電圧系の電圧や高電圧系の電圧をより適正に補正することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の昇圧装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の昇圧装置は、
指令電圧を受けて低電圧系の電力を昇圧して高電圧系の電圧が前記指令電圧となるよう電力変換する昇圧回路を備える昇圧装置であって、
前記高電圧系の電圧である高電圧系電圧を検出する高電圧系電圧検出手段と、
前記低電圧系の電圧である低電圧系電圧を検出する低電圧系電圧検出手段と、
前記指令電圧が起動から最初に予め定めた所定電圧になったときに、前記高電圧系電圧検出手段により検出された高電圧系電圧と予め定められた第1の比較電圧との差を高電圧系オフセット値として設定すると共に前記低電圧系電圧検出手段により検出された低電圧系電圧と予め定められた第2の比較電圧との差を低電圧系オフセット値として設定し、前記指令電圧が起動から2回目以降に前記所定電圧になったときに、前記高電圧系電圧検出手段により検出された高電圧系電圧と前記第1の比較電圧との差である高電圧系検出差が前記高電圧系オフセット値より小さいときには前記高電圧系検出差を前記高電圧系オフセット値として再設定すると共に前記低電圧系電圧検出手段により検出された低電圧系電圧と前記第2の比較電圧との差である低電圧系検出差が前記低電圧系オフセット値より小さいときには前記低電圧系検出差を前記低電圧系オフセット値として再設定するオフセット値設定手段と、
前記高電圧系検出差が前記高電圧系オフセット値以上のときに、前記高電圧系検出差と前記高電圧系オフセット値との差を高電圧系補正値として設定すると共に前記低電圧系検出差が前記低電圧系オフセット値以上のときには前記低電圧系検出差と前記低電圧系オフセット値との差を低電圧系補正値として設定する補正値設定手段と、
前記高電圧系オフセット値と前記高電圧系補正値とを用いて前記高電圧系電圧検出手段により検出された高電圧系電圧を補正すると共に前記低電圧系オフセット値と前記低電圧系補正値とを用いて前記低電圧系電圧検出手段により検出された低電圧系電圧を補正する補正手段と、
を備えることを要旨とする。
【0008】
この本発明の昇圧装置では、指令電圧が起動から最初に予め定めた所定電圧になったときに、高電圧系電圧検出手段により検出された高電圧系電圧と予め定められた第1の比較電圧との差を高電圧系オフセット値として設定すると共に低電圧系電圧検出手段により検出された低電圧系電圧と予め定められた第2の比較電圧との差を低電圧系オフセット値として設定する。また、指令電圧が起動から2回目以降に所定電圧になったときに、高電圧系電圧検出手段により検出された高電圧系電圧と第1の比較電圧との差である高電圧系検出差が高電圧系オフセット値より小さいときには高電圧系検出差を高電圧系オフセット値として再設定すると共に低電圧系電圧検出手段により検出された低電圧系電圧と第2の比較電圧との差である低電圧系検出差が低電圧系オフセット値より小さいときには低電圧系検出差を低電圧系オフセット値として再設定する。これにより、高電圧系電圧検出手段や低電圧系電圧検出手段の熱的特性により高電圧系オフセット値や低電圧系オフセット値が小さくなっても、これに対処することができる。一方、指令電圧が起動から2回目以降に所定電圧になったときに高電圧系電圧検出手段により検出された高電圧系電圧と第1の比較電圧との差である高電圧系検出差が高電圧系オフセット値以上のときに高電圧系検出差と前記高電圧系オフセット値との差を高電圧系補正値として設定すると共に指令電圧が起動から2回目以降に所定電圧になったときに低電圧系電圧検出手段により検出された低電圧系電圧と第2の比較電圧との差である低電圧系検出差が低電圧系オフセット値以上のときには低電圧系検出差と低電圧系オフセット値との差を低電圧系補正値として設定する。そして、高電圧系オフセット値と高電圧系補正値とを用いて高電圧系電圧検出手段により検出された高電圧系電圧を補正すると共に低電圧系オフセット値と低電圧系補正値とを用いて低電圧系電圧検出手段により検出された低電圧系電圧を補正する。これにより、高電圧系電圧検出手段により検出された高電圧系電圧や低電圧系電圧検出手段により検出された低電圧系電圧をより適正に補正することができる。ここで、「指令電圧が起動から2回目以降に所定電圧になったとき」には、指令電圧が所定電圧になる毎であってもよいし、指令電圧が3回に1回の割合で所定電圧になる毎であってもよいし、指令電圧が前回の所定電圧になってから所定時間経過した後に所定電圧になったときであってもよい。「第1の比較電圧」としては指令電圧を用いることができる。「第2の比較電圧」としては、低電圧系の電圧として予め定められた電圧を用いることができる。
【0009】
この本発明の昇圧装置において、前記所定電圧は異なる複数の電圧であり、前記オフセット値設定手段は前記所定電圧としての複数の電圧毎に高電圧系オフセット値および低電圧系オフセット値を設定する手段であり、前記補正値設定手段は前記所定電圧としての複数の電圧毎に高電圧系補正値および低電圧系補正値を設定する手段であり、前記補正手段は前記所定電圧としての複数の電圧のうち前記指令電圧に最も近い電圧に対応する高電圧系オフセット値と高電圧系補正値とを用いて前記高電圧系電圧検出手段により検出された高電圧系電圧を補正すると共に前記所定電圧としての複数の電圧のうち前記指令電圧に最も近い電圧に対応する低電圧系オフセット値と低電圧系補正値とを用いて前記低電圧系電圧検出手段により検出された低電圧系電圧を補正する手段である、ものとすることもできる。こうすれば、高電圧系電圧検出手段により検出された高電圧系電圧や低電圧系電圧検出手段により検出された低電圧系電圧をより適正に補正することができる。
【0010】
また、本発明の昇圧装置において、起動時に前記高電圧系電圧検出手段および前記低電圧系電圧検出手段のゼロ点調整を行なうゼロ点調整手段を備えるものとすることもできる。こうすれば、より適正に高電圧系オフセット値や低電圧系オフセット値を設定することができ、高電圧系電圧検出手段により検出された高電圧系電圧や低電圧系電圧検出手段により検出された低電圧系電圧をより適正に補正することができる。
【0011】
上述した本発明の昇圧装置では、高電圧系電圧検出手段と低電圧系電圧検出手段とを備え、高電圧系電圧検出手段により検出された高電圧系電圧に対して高電圧系オフセット値と高電圧系補正値とを設定して高電圧系電圧を補正すると共に低電圧系電圧検出手段により検出された低電圧系電圧に対して低電圧系オフセット値と低電圧系補正値とを設定して低電圧系電圧を補正するものとしたが、高電圧系電圧検出手段により検出された高電圧系電圧に対してのみ高電圧系オフセット値と高電圧系補正値とを設定して高電圧系電圧を補正するものとしたり、低電圧系電圧検出手段により検出された低電圧系電圧に対してのみ低電圧系オフセット値と低電圧系補正値とを設定して低電圧系電圧を補正するものとしたりしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施例としての昇圧装置40を備える駆動装置20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】電子制御ユニット50により実行される電圧調整値設定ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図3】電子制御ユニット50により実行される電圧調整ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0014】
図1は、本発明の一実施例としての昇圧装置40を備える駆動装置20の構成の概略を示す構成図である。実施例の駆動装置20は、例えばリチウムイオン二次電池として構成された定格出力電圧が200Vのバッテリ30と、リレー31を介してバッテリ30が接続された低電圧系電力ライン42の電力を昇圧して高電圧系電力ライン44に供給する昇圧コンバータ41と、駆動用のモータ32と、高電圧系電力ライン44に接続されてモータ32を駆動する駆動回路として構成されたインバータ34と、昇圧コンバータ41の昇圧を制御する電子制御ユニット50と、リレー31のオンオフ制御やモータ32の駆動制御のためにインバータ34のスイッチング素子を制御する図示しないモータ用の電子制御ユニットと、を備える。
【0015】
昇圧コンバータ41は、2つのトランジスタT1,T2とトランジスタT1,T2に逆方向に並列接続された2つのダイオードD1,D2とリアクトルLとからなる昇圧コンバータとして構成されている。2つのトランジスタT1,T2は、それぞれ高電圧系電力ライン44の正極母線と高電圧系電力ライン44および低電圧系電力ライン42の負極母線とに接続されており、その接続点にリアクトルLが接続されている。また、リアクトルLと高電圧系電力ライン44および低電圧系電力ライン42の負極母線とにはそれぞれバッテリ30の正極端子と負極端子とが接続されている。したがって、トランジスタT1,T2をオンオフ制御することにより、低電圧系電力ライン42の電力を昇圧して高電圧系電力ライン44に供給したり、高電圧系電力ライン44の電力を降圧して低電圧系電力ライン42に供給したりすることができる。なお、高電圧系電力ライン44および低電圧系電力ライン42には平滑用のコンデンサ46,48が接続されている。
【0016】
電子制御ユニット50は、CPU52を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU52の他に処理プログラムを記憶するROM54と、データを一時的に記憶するRAM56と、図示しない入出力ポートと、を備える。電子制御ユニット50には、コンデンサ46の端子間に取り付けられた電圧センサ46aからの低電圧系電圧VLやコンデンサ48の端子間に取り付けられた電圧センサ48aからの高電圧系電圧VH,起動信号や高電圧系電力ライン44の指令電圧VH*などの制御信号が入力ポートを介して入力されており、電子制御ユニット50からは昇圧コンバータ41のトランジスタT1,T2へのスイッチング制御信号が出力されている。
【0017】
なお、実施例の昇圧装置40としては、昇圧コンバータ41,電圧センサ46a,電圧センサ48a,電子制御ユニット50が該当する。
【0018】
次に、こうして構成された実施例の昇圧装置40の動作について説明する。実施例の昇圧装置40では、電子制御ユニット50に起動信号が入力されたときに、まず、リレー31が接続される前に電圧センサ46a,48aのゼロ点調整を行ない、リレー31が接続された以降は、高電圧系電力ライン44の電圧が指令電圧VH*となるよう昇圧コンバータ41のトランジスタT1,T2をスイッチング制御する。ここで、ゼロ点調整は、電圧センサ46a,48aからの電圧VL,VHを読み込み、その値をゼロ点調整値VL0,VH0としてRAM56の所定領域に記憶することにより行なわれる。また、指令電圧VH*は、実施例では、モータ32のトルク指令やモータ32の回転数に基づいてモータ用の電子制御ユニットにより高電圧系電力ライン44に必要な電圧として設定され、電子制御ユニット50に入力されるものとした。また、指令電圧VH*は、実施例では、バッテリ30の定格出力電圧である200Vから600Vまでの範囲内で設定するものとした。
【0019】
また、実施例の昇圧装置40は、昇圧コンバータ41のトランジスタT1,T2をスイッチング制御するだけでなく、電圧センサ46a,48aにより検出される低電圧系電圧VLや高電圧系電圧VHに対して電圧センサ46a,48aの検出誤差を調整するための調整値を設定したり、設定した調整値を用いて低電圧系電圧VLや高電圧系電圧VHを調整したりしている。この調整値の設定は、図2に示す電圧調整値設定ルーチンにより実行され、低電圧系電圧VLや高電圧系電圧VHの調整は、図3に示す電圧調整ルーチンにより調整される。なお、電圧調整値設定ルーチンと電圧調整ルーチンは所定時間毎(例えば、数msec毎)に繰り返し実行する。以下、電圧調整値の設定と電圧調整について順に説明する。
【0020】
図2に示す電圧調整値設定ルーチンが実行されると、電子制御ユニット50のCPU52は、まず、指令電圧VH*が予め定めた調整値設定電圧V(i)のいずれかに一致しているか否かを判定する(ステップS100)。ここで、調整値設定電圧V(i)は、高電圧系の許容最大電圧が600Vの場合には、バッテリ30の定格出力電圧(200V)から高電圧系の許容最大電圧までの適当な電圧、例えば100V刻みの300V,400V,500Vの3つとしたり50V刻みの250V〜550Vの7つとしたり予め設定することができる。指令電圧VH*が調整値設定電圧V(i)のいずれでもないときには、調整値の設定を行なうことなく本ルーチンを終了する。
【0021】
指令電圧VH*が調整値設定電圧V(i)のいずれかに一致しているときには、電圧センサ46a,48aからの電圧VL,VHを入力すると共に(ステップS110)、入力した低電圧系電圧VLに対しては低電圧系電圧VLからゼロ点調整値VL0とバッテリ電圧Vb(200V)とを減じて低電圧系検出差ΔVLを計算し、入力した高電圧系電圧VHに対しては高電圧系電圧VHからゼロ点調整値VH0と指令電圧VH*に一致する調整値設定電圧V(i)とを減じて高電圧系検出差ΔVHを計算し(ステップS120)、指令電圧VH*に対応する初回フラグF(i)を調べる(ステップS130)。この初回フラグF(i)は、調整値設定電圧V(i)に対応するように調整値設定電圧V(i)と同数用意されており、起動時に図示しない初期化ルーチンにより値0に設定され、このルーチンで最初にオフセット値VLof(i),VHof(i)が設定されたときに値1が設定されるものである。調整値設定電圧V(i)に対応する初回フラグF(i)が値0のときには、オフセット値VLof(i),VHof(i)が設定されていないと判断し、計算した低電圧系検出差ΔVLと高電圧系検出差ΔVHとを低電圧系オフセット値VLof(i)と高電圧系オフセット値VHof(i)としてそれぞれ設定してRAM56の所定領域に格納し(ステップS140)、調整設定電圧V(i)に対応する初回フラグF(i)に値1を設定して(ステップS150)、本ルーチンを終了する。いま、調整値設定電圧V(i)が300V,400V,500Vの3つの場合(i=3の場合)を考えると、起動してから初めて指令電圧VH*が300Vの調整値設定電圧V(1)に一致したときに、300Vの調整値設定電圧V(1)に対応するオフセット値VLof(1),VHof(1)が設定され、起動してから初めて指令電圧VH*が400Vの調整値設定電圧V(2)に一致したときに、400Vの調整値設定電圧V(2)に対応するオフセット値VLof(2),VHof(2)が設定され、起動してから初めて指令電圧VH*が500Vの調整値設定電圧V(3)に一致したときに、500Vの調整値設定電圧V(3)に対応するオフセット値VLof(3),VHof(3)が設定されることになる。即ち、オフセット値VLof(i),VHof(i)は、3つの調整値設定電圧V(1)〜V(3)に対応して3つのオフセット値VLof(1)〜VLof(3),VHof(1)〜VHof(3)が設定されることになる。
【0022】
一方、ステップS130で指令電圧VH*に対応する初回フラグF(i)が値1であると判定されると、起動してから指令電圧VH*が調整値設定電圧V(i)に一致するのは2回目以降であると判断し、低電圧系検出差ΔVLの絶対値から指令電圧VH*に対応する低電圧系オフセット値VLof(i)の絶対値を減じたものが値0以上であるか否かを判定し(ステップS160)、低電圧系検出差ΔVLの絶対値から低電圧系オフセット値VLof(i)の絶対値を減じたものが値0以上のときには、低電圧系オフセット値VLof(i)から低電圧系検出差ΔVLを減じたものを指令電圧VH*に対応する低電圧系補正値VLaj(i)として設定してRAM56の所定領域に記憶し(ステップS170)、低電圧系検出差ΔVLの絶対値から低電圧系オフセット値VLof(i)の絶対値を減じたものが値0未満のときには、低電圧系検出差ΔVLを指令電圧VH*に対応する新たな低電圧系オフセット値VLof(i)として低電圧系オフセット値VLof(i)を再設定してRAM56の所定領域に記憶する(ステップS180)。ここで、低電圧系検出差ΔVLの絶対値から低電圧系オフセット値VLof(i)の絶対値を減じたものが値0未満のときに低電圧系オフセット値VLof(i)を再設定するのは、オフセットが小さくなったことから、オフセットを更新するためであり、低電圧系検出差ΔVLの絶対値から低電圧系オフセット値VLof(i)の絶対値を減じたものが値0以上のときにその差分を低電圧系補正値VLaj(i)として設定するのは、オフセットを大きく更新するより、電圧センサ46aの熱的特性によりズレが大きくなっていることを明確にするためである。なお、調整値設定電圧V(i)が300V,400V,500Vの3つの場合(i=3の場合)を考えると、低電圧系補正値VLaj(i)も3つの調整値設定電圧V(1)〜V(3)に対応して3つの低電圧系補正値VLaj(1)〜VLaj(3)が設定されることになる。
【0023】
次に、高電圧系検出差ΔVHの絶対値から指令電圧VH*に対応する高電圧系オフセット値VHof(i)の絶対値を減じたものが値0以上であるか否かを判定し(ステップS190)、高電圧系検出差ΔVHの絶対値から高電圧系オフセット値VHof(i)の絶対値を減じたものが値0以上のときには、高電圧系オフセット値VHof(i)から高電圧系検出差ΔVHを減じたものを指令電圧VH*に対応する高電圧系補正値VHaj(i)として設定してRAM56の所定領域に記憶し(ステップS200)、高電圧系検出差ΔVHの絶対値から高電圧系オフセット値VHof(i)の絶対値を減じたものが値0未満の場合には、高電圧系検出差ΔVHを指令電圧VH*に対応する新たな高電圧系オフセット値VHof(i)として高電圧系オフセット値VHof(i)を再設定してRAM56の所定領域に記憶して(ステップS210)、本ルーチンを終了する。高電圧系検出差ΔVHの絶対値から高電圧系オフセット値VHof(i)の絶対値を減じたものが値0未満のときに高電圧系オフセット値VHof(i)を再設定するのは、低電圧系の場合と同様に、オフセットが小さくなったことから、オフセットを更新するためであり、高電圧系検出差ΔVHの絶対値から高電圧系オフセット値VHof(i)の絶対値を減じたものが値0以上のときにその差分を高電圧系補正値VHaj(i)として設定するのは、低電圧系の場合と同様に、オフセットを大きく更新するより、電圧センサ48aの熱的特性によりズレが大きくなっていることを明確にするためである。調整値設定電圧V(i)が300V,400V,500Vの3つの場合(i=3の場合)を考えると、高電圧系補正値VHaj(i)も3つの調整値設定電圧V(1)〜V(3)に対応して3つの高電圧系補正値VHaj(1)〜VHaj(3)が設定されることになる。
【0024】
こうして設定されたオフセット値VLof(i),VHof(i)と補正値VLaj(i),VHaj(i)は図3に示す電圧調整ルーチンで用いられる。電圧調整ルーチンが実行されると、電子制御ユニット50のCPU52は、電圧センサ46a,48aからの電圧VL,VHを入力し(ステップS300)、そのときの指令電圧VH*から最も近い対応する調整値設定電圧V(i)によりiを選択し(ステップS310)、入力した電圧VL,VHからゼロ点調整値VL0,VH0と選択したiに対応するオフセット値VLof(i),VHof(i)および補正値VLaj(i),VHaj(i)とを減じて次式(1),(2)に示すように調整電圧VLc,VHcを設定して(ステップS320)、本ルーチンを終了する。このように調整した調整電圧VLc,VHcは、制御において低電圧系の電圧,高電圧系の電圧として用いられる。
【0025】
VLc=VL−VL0−VLof(i)−VLaj(i) (1)
VHc=VH−VH0−VHof(i)−VHaj(i) (2)
【0026】
以上説明した実施例の昇圧装置40によれば、起動してから初めて指令電圧VH*が調整値設定電圧V(i)に一致したときに低電圧系電圧VLからゼロ点調整値VL0とバッテリ電圧Vb(200V)とを減じて得られる低電圧系検出差ΔVLを低電圧系オフセット値VLof(i)として設定すると共に高電圧系電圧VHからゼロ点調整値VH0と指令電圧VH*に一致する調整値設定電圧V(i)とを減じて得られる高電圧系検出差ΔVHを高電圧系オフセット値VHof(i)として設定し、起動してから2回目以降に指令電圧VH*が調整値設定電圧V(i)に一致したときに、検出差ΔVL,ΔVHの絶対値からオフセット値VLof(i),VHof(i)の絶対値を減じたものが値0以上のときには補正値VLaj(i),VHaj(i)を設定し、検出差ΔVL,ΔVHの絶対値からオフセット値VLof(i),VHof(i)の絶対値を減じたものが値0未満のときには検出差ΔVL,ΔVHを新たなオフセット値VLof(i),VHof(i)として再設定することにより、電圧センサ46a,48aの熱的特性により検出される電圧VL,VHが真値からズレるものとなっても設定したオフセット値VLof(i),VHof(i)と補正値VLaj(i),VHaj(i)とを用いて調整することにより、低電圧系の電圧,高電圧系の電圧としてより適正な調整電圧VLc,VHcを得ることができる。即ち、低電圧系の電圧や高電圧系の電圧をより適正に補正することができる。この結果、高電圧系の電圧が過電圧となることをより適正に抑制することができる。また、昇圧コンバータ41のトランジスタT1,T2のオンオフ時のサージ設計に余裕を持つことができ、トランジスタT1,T2のオン時の立ち上がりの傾きを過度に寝かせる必要がなく、エネルギ効率を向上させることができる。
【0027】
実施例の昇圧装置40では、電圧センサ46a,48aからの電圧VL,VHの双方に対してオフセット値VLof(i),VHof(i)と補正値VLaj(i),VHaj(i)とを用いて調整するものとしたが、電圧センサ46aからの低電圧系電圧VLに対してだけにオフセット値VLof(i)と補正値VLaj(i)とを設定して調整するものとしたり、電圧センサ48aからの高電圧系電圧VHに対してだけにオフセット値VHof(i)と補正値VHaj(i)とを設定して調整するものとしたりしてもよい。
【0028】
実施例の昇圧装置40では、起動時に電圧センサ46a,48aのゼロ点調整を行なうものとしたが、ゼロ点調整を行なわないものとしても構わない。
【0029】
実施例の昇圧装置40では、複数の調整値設定電圧V(i)を用いて複数のオフセット値VLof(i),VHof(i)と複数の補正値VLaj(i),VHaj(i)を設定するものとしたが、単一の調整値設定電圧Vを用いて単一のオフセット値VLof,VHofと複数の補正値VLaj,VHajを設定するものとしてもよい。
【0030】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、昇圧コンバータ41が「昇圧回路」に相当し、電圧センサ48aが「高電圧系電圧検出手段」に相当し、電圧センサ46aが「低電圧系電圧検出手段」に相当し、図2の電圧調整値設定ルーチンのステップS130〜S150のオフセット値VLof(i),VHof(i)を設定する処理およびS160,S180,S190,S210のオフセット値VLof(i),VHof(i)を再設定する処理を実行する電子制御ユニット50が「オフセット値設定手段」に相当し、図2の電圧調整値設定ルーチンのステップS160,S170,S190,S200の補正値VLaj(i),VHaj(i)を設定する処理を実行する電子制御ユニット50が「補正値設定手段」に相当し、図3の電圧調整ルーチンを実行する電子制御ユニット50が「補正手段」に相当する。
【0031】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0032】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、昇圧装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0034】
20 駆動装置、30 バッテリ、31 リレー、32 モータ、34 インバータ、40 昇圧装置、41 昇圧コンバータ、42 低電圧系電力ライン、44 高電圧系電力ライン、46,48 コンデンサ、46a,48a 電圧センサ、50 電子制御ユニット、52 CPU、54 ROM、56 RAM、T1,T2 トランジスタ、D1,D2 ダイオード、L リアクトル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
指令電圧を受けて低電圧系の電力を昇圧して高電圧系の電圧が前記指令電圧となるよう電力変換する昇圧回路を備える昇圧装置であって、
前記高電圧系の電圧である高電圧系電圧を検出する高電圧系電圧検出手段と、
前記低電圧系の電圧である低電圧系電圧を検出する低電圧系電圧検出手段と、
前記指令電圧が起動から最初に予め定めた所定電圧となったときに、前記高電圧系電圧検出手段により検出された高電圧系電圧と予め定められた第1の比較電圧との差を高電圧系オフセット値として設定すると共に前記低電圧系電圧検出手段により検出された低電圧系電圧と予め定められた第2の比較電圧との差を低電圧系オフセット値として設定し、前記指令電圧が起動から2回目以降に前記所定電圧となったときに、前記高電圧系電圧検出手段により検出された高電圧系電圧と前記第1の比較電圧との差である高電圧系検出差が前記高電圧系オフセット値より小さいときには前記高電圧系検出差を前記高電圧系オフセット値として再設定すると共に前記低電圧系電圧検出手段により検出された低電圧系電圧と前記第2の比較電圧との差である低電圧系検出差が前記低電圧系オフセット値より小さいときには前記低電圧系検出差を前記低電圧系オフセット値として再設定するオフセット値設定手段と、
前記高電圧系検出差が前記高電圧系オフセット値以上のときに、前記高電圧系検出差と前記高電圧系オフセット値との差を高電圧系補正値として設定すると共に前記低電圧系検出差が前記低電圧系オフセット値以上のときには前記低電圧系検出差と前記低電圧系オフセット値との差を低電圧系補正値として設定する補正値設定手段と、
前記高電圧系オフセット値と前記高電圧系補正値とを用いて前記高電圧系電圧検出手段により検出された高電圧系電圧を補正すると共に前記低電圧系オフセット値と前記低電圧系補正値とを用いて前記低電圧系電圧検出手段により検出された低電圧系電圧を補正する補正手段と、
を備える昇圧装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−196085(P2012−196085A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59462(P2011−59462)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】