説明

昇温抑制材および舗装用ブロック

【課題】水の気化に依らなくても、持続して安定した昇温抑制効果を得ることができる昇温抑制材および舗装ブロックを提供することを目的とする。
【解決手段】ペーパースラッジ焼却灰を含有し、かつ、750〜1000℃で焼成してなる昇温抑制材であって、前記昇温抑制材の日射吸収率が53%以下であることを特徴とする昇温抑制材を提供する。また、前記昇温抑制材からなることを特徴とする舗装ブロックを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルプ製造工程または古紙再生工程等で発生するペーパースラッジの焼却灰(以下「ペーパースラッジ焼却灰」という。)を含有する昇温抑制材および舗装用ブロックに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、都市部において気温が異様に高くなるヒートアイランド現象が年々深刻化しつつある。かかる現象に対する解決手段の一つとして、水の気化によって冷却作用を発揮する保水材を含有した保水性ブロックが種々提案されている。そして、当該保水材の一つに、ペーパースラッジ焼却灰(製紙スラッジ焼却灰)が提案されている。例えば、特許文献1および特許文献2に開示されている保水材は、ペーパースラッジを焼却炉で850℃程度で焼却して得た灰を、更に焼却炉にて850〜900℃で20〜40分程度焼成してなる顆粒状の多孔質微粒子である(特許文献1の段落0014、特許文献2の段落0015)。また、特許文献3に開示されている保水材は、微細な空隙を多数有する構造のペーパースラッジ焼却灰である(特許文献3の段落0009)。これらの保水材の冷却作用は、いずれの場合も、ペーパースラッジ焼却灰中に多く存在する空隙に雨水等の水を一時貯留させ、この貯留水が経時的に蒸発してその水の気化熱により保水性ブロック周辺を冷却する点で共通する。
【0003】
しかし、水の気化を利用した前記の冷却方法は、貯留された水が気化して少なくなると冷却効果が低下または消失するという欠点があった。もっとも、短い間隔で降雨または散水がある場合には保水材は冷却作用を維持できるが、斯様な降雨の状況は常時期待することはできず、また、散水システムを併置する場合は散水装置の設置や運転等にコストがかかるという問題があった。
また、保水材中の空隙が大気中や降雨中の煤塵・粉塵等の微粒子によって閉塞した場合に、保水材の貯水量が減少して冷却効果が低下するという欠点があった。
【特許文献1】特開2007−145669号公報
【特許文献2】特開2007−332700号公報
【特許文献3】特開2008−75270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、水の気化に依らなくても、持続して安定した昇温抑制効果を得ることができる昇温抑制材および舗装用ブロックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく昇温抑制材を鋭意研究した結果、本発明を完成した。
即ち、本発明は、ペーパースラッジ焼却灰を含有し、かつ、750〜1000℃で焼成してなる昇温抑制材であって、当該昇温抑制材の日射吸収率が53%以下である昇温抑制材および舗装用ブロックを提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、水の気化に依らなくても、持続して安定した昇温抑制効果を得ることができる昇温抑制材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について説明する。
本発明は、前記した通りペーパースラッジ焼却灰を含有し、かつ、750〜1000℃で焼成してなる昇温抑制材であって、当該昇温抑制材の日射吸収率が53%以下である昇温抑制材および舗装用ブロックである。
【0008】
本発明で用いるペーパースラッジ焼却灰は、パルプ製造工程、古紙再生工程、抄紙工程等の製紙工程から流出した排水中の固形分を脱水後、減容を目的に流動床炉またはストーカ炉等の焼成炉により焼却して得られた灰である。ここで、ペーパースラッジ焼却灰中の鉄の含有量は、5質量%以下が好ましく3質量%以下がより好ましい。当該含有量が5質量%を超えると灰の着色が強くなる傾向にあり、昇温抑制材の日射吸収率を53%以下にする上で悪影響を及ぼす場合がある。
【0009】
また、本発明の昇温抑制材は焼成物であり、当該焼成温度は750〜1000℃が好ましく、900℃を超えて1000℃以下がより好ましい。当該焼成温度が750℃未満では焼成処理時間が長くなり、当該焼成温度が1000℃を超えると昇温抑制材の着色が強くなるほか、昇温抑制材が溶融して焼結し硬度が高くなり過ぎて粉砕が難しくなる場合がある。なお、本願でいう焼成温度とは、加熱して最高温度に達した後に焼成のために一定時間保持する当該最高温度をいう。また、焼成温度の保持時間は5〜30分が好ましい。
また、本発明の昇温抑制材は焼成前に板状、ブロック状または球状等の任意の形状に成形してから焼成することができる。当該成形方法としてプレス成形、押出成形またはパンペレタイザー(皿型整粒機)やドラム型整粒機による成形等を挙げることができる。
焼成装置としては、高温電気マッフル炉、ロータリーキルン、流動床、ローラーハウスキルン、連続式トンネル炉等が使用でき、昇温抑制材の形状に応じて適宜選択できるが、生産効率の観点からロータリーキルンが好ましい。
【0010】
また、本発明の昇温抑制材の組成は、ペーパースラッジ焼却灰単独のほか、ペーパースラッジ焼却灰に粘土、ゼオライト、バーミキュライト、パーライト、黄色白土、シャモット、セルベン、上水汚泥焼却灰またはスラグ等から選ばれる1種または2種以上を混合した混合物でもよく、混合物の場合にはペーパースラッジ焼却灰の含有率は30質量%以上が好ましい。ペーパースラッジ焼却灰の含有率が30質量%未満では昇温抑制効果が低い場合がある。
【0011】
本発明の昇温抑制材は、太陽光を反射することにより昇温を抑制する作用を有する。したがって、本発明の昇温抑制材の日射吸収率は53%以下であることが好ましく、45%以下がより好ましい。当該日射吸収率が53%を超えると、太陽光の反射による昇温抑制作用は低下する。
昇温抑制材の日射吸収率は、当該材の日射反射率をJIS R 3106(板ガラス類の透過率・反射率・放射率・日射熱取得率の試験方法)に準じて測定・算出した後、下式によって日射反射率から日射吸収率を算出する。
日射吸収率(%)=100−日射反射率(%)
昇温抑制材の日射吸収率は昇温抑制材の平面に光を当てて測定する。従って、昇温抑制材の形状が球状である場合は、昇温抑制材を切削または研削して平面を形成してから日射吸収率を求めることができる。
【0012】
本発明の昇温抑制材は、舗装用ブロックまたはその表層部として使用できるほかに、粉砕してモルタル・コンクリート用の骨材として使用することができる。
【実施例】
【0013】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
1.使用材料
(1)ペーパースラッジ焼却灰系ブロック
i)ペーパースラッジ焼却灰の化学成分(質量%)
SiO2 30、Al23 25、CaO 35、Fe23 4.8
ii)ブロックの配合(質量%)
ペーパースラッジ焼却灰 30、黄色白土 50、シャモット 9、セルベン 11
iii)ブロックの製造方法
前記の配合に従い混合した混合物を、内寸が縦100mm×横100mm×厚さ80mmの鋼製金型に入れ、アムスラー圧縮試験機を用いて1分当たり100kgf/cm2の速度で昇圧し、200kgf/cm2に到達した後そのままで1分間保持し、脱型して成形体を得た。次に、当該成形体を高温電気マッフル炉を用いて1分当たり30℃で昇温し、1000℃に到達した後そのままで15分間保持してペーパースラッジ焼却灰系ブロックを得た。
(2)スラグ系保水性ブロック
商品名:エコテリア・保水ペイバー(セキスイエクステリア社製)
(3)燐酸塩スラッジ系保水性ブロック
商品名:バルセラン(日本パーカライジング社製)
(4)コンクリート系保水性ブロック
商品名:オーシャンエコ・クール(太平洋プレコン社製)
【0014】
2.日射吸収率試験
(1)試験体の作成
前記の各ブロックを縦50mm×横50mm×厚さ10mmに切削して、日射反射率試験に供する試験体を作成した。
(2)試験方法
前記試験体を含水率が0%になるまで乾燥させた後、JIS R 3106(板ガラス類の透過率・反射率・放射率・日射熱取得率の試験方法)に準じて、それぞれの試験体の日射吸収率を求めた。その結果を表1に示す。
【0015】
【表1】

【0016】
4.昇温抑制試験
昇温抑制試験は、大きさが縦200mm×横100mm×厚さ50mmの各試験体を作成して、社団法人 インターロッキングブロック舗装技術協会が規定する「保水性舗装用コンクリートブロックの室内照射試験および凍結融解試験」の室内照射試験に準じて行った。
すなわち、試験体を20℃の静水中に24時間浸漬後取り出して水を切り、試験体の5面を断熱材で被覆して、室温20℃、相対湿度65%RHの室内において、試験体の残りの一面をビームランプで8時間照射した後4時間消灯した。この照射・消灯サイクルを合計28回繰り返した。
照射・消灯サイクルの1回目における照射開始直前から照射開始後4時間までの試験体の表面温度、および照射・消灯サイクルの25〜28回目における各サイクルでの照射終了直後の試験体の表面温度の平均値を表2に示した。なお、照射・消灯サイクルの25〜28回目の各サイクルにおいて試験体の重量の変化はなく、25〜28回目のサイクルにおいて各試験体から蒸発した水量は0であった。
【0017】
【表2】

【0018】
表2から分かるように、日射吸収率が53.0%の試験体(実施例1)は、日射吸収率が59.1%の試験体(比較例1)、同69.3%の試験体(比較例2)および同78.6%の試験体(比較例3)に比べ、照射時間1〜4時間のいずれの時間においても表面温度が格段に低いことから、実施例1は水の気化による昇温抑制作用のみならず、低い日射吸収率に起因した昇温抑制作用も併有している。
また、25〜28回目の各照射・消灯サイクルにおいて試験体の重量の変化はなく当該サイクルにおいて各試験体から蒸発した水量は0であったことから、当該サイクルにおける実施例1の昇温抑制効果は、水の気化ではなく光の反射(低日射吸収率)のみに基づいて発揮された効果である。従って、本願発明に係る昇温抑制材は、降雨や散水設備が無くても、持続して安定した昇温抑制効果を奏することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペーパースラッジ焼却灰を含有し、かつ、750〜1000℃で焼成してなる昇温抑制材であって、当該昇温抑制材の日射吸収率が53%以下であることを特徴とする昇温抑制材。
【請求項2】
前記昇温抑制材からなることを特徴とする舗装用ブロック。

【公開番号】特開2010−150114(P2010−150114A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333080(P2008−333080)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】