説明

昇華精製装置

【課題】不純物の混入を可及的に防止でき、高純度の精製物を筒状体を切断する必要なく容易に且つコスト安に収率良く得ることが可能な極めて実用性に秀れた昇華精製装置の提供。
【解決手段】加熱部1が周囲に配設された外筒体2内に加熱気化せしめた有機材料を流通させることで所望の化合物を精製する昇華精製装置であって、前記外筒体2内に複数の内筒体3を軸方向に連設状態に設けて、この内筒体3内を前記有機材料が流通する材料流通部4に設定し、この材料流通部4に、この材料流通部4を開口部6を残して閉塞することで前記有機材料の流通を調整する整流板5を前記軸方向に複数設けて、前記内筒体3と前記整流板5とで前記有機材料の流通路を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇華精製装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
常温で固体状態の材料を加熱気化せしめて予め所定の昇華温度に設定した材料回収部にて昇華精製することにより高純度の精製物を得る昇華精製装置としては、例えば特許文献1に開示されるものがある。
【0003】
この特許文献1に開示される昇華精製装置は、気化した材料が流通する筒状体の内部に多段昇華プレートを設けたもので、この多段昇華プレートにより材料が昇華を繰り返すことで、高純度の精製物が得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−73580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示される昇華精製装置は、筒状体と多段昇華プレートとの間に間隙があり、この間隙は上下(筒状体の長手方向)に一直線に繋がっているため、不純物が上下に自由に移動でき、従って、この不純物により精製物が汚染されるおそれがある。
【0006】
また、精製した材料は筒状体の内周面と各プレートに付着するため、収率を上げるためには精製物を回収する際、プレートを取り出すだけでなく、筒状体の内周面からも回収する必要があるが、この場合、筒状体を切断する必要があり、筒状体を切断する際に筒状体の一部が精製物に混入するおそれがある。また、一回の精製作業毎に新たな筒状体に交換する必要がありコスト高となる。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決したものであり、不純物の混入を可及的に防止でき、高純度の精製物を筒状体を切断する必要なく容易に且つコスト安に収率良く得ることが可能な極めて実用性に秀れた昇華精製装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0009】
加熱部1が周囲に配設された外筒体2内に加熱気化せしめた有機材料を流通させることで所望の化合物を精製する昇華精製装置であって、前記外筒体2内に複数の内筒体3を軸方向に連設状態に設けて、この内筒体3内を前記有機材料が流通する材料流通部4に設定し、この材料流通部4に、この材料流通部4を開口部6を残して閉塞することで前記有機材料の流通を調整する整流板5を前記軸方向に複数設けて、前記内筒体3と前記整流板5とで前記有機材料の流通路を形成したことを特徴とする昇華精製装置に係るものである。
【0010】
また、加熱部1が周囲に配設された外筒体2内に加熱気化せしめた有機材料を流通させることで所望の化合物を精製する昇華精製装置であって、前記外筒体2内に複数の内筒体3を軸方向に連設状態に設けて、この内筒体3内を前記有機材料が流通する材料流通部4に設定し、この材料流通部4に、この材料流通部4を開口部6を残して閉塞することで前記有機材料の流通を調整する整流板5を前記軸方向に複数設け、この各整流板5の前記開口部6は、一直線に連通せずに前記材料流通部4の一端開口側から他端開口側が見通せない形状及び配置で夫々設けて、前記内筒体3と前記整流板5とで前記有機材料の流通路を蛇行形成したことを特徴とする昇華精製装置に係るものである。
【0011】
また、加熱部1が周囲に配設された外筒体2内に加熱気化せしめた有機材料を流通させることで所望の化合物を精製する昇華精製装置であって、前記外筒体2内に複数の内筒体3を軸方向に連設状態に設けて、この内筒体3内を前記有機材料が流通する材料流通部4に設定し、この材料流通部4に、この材料流通部4を開口部6を残して閉塞することで前記有機材料の流通を調整する整流板5を前記軸方向に複数設け、隣り合う前記整流板5の前記開口部6同士が互いに前記軸方向で重ならないようにその形状及び配置を設定して、前記内筒体3と前記整流板5とで前記有機材料の流通路を蛇行形成したことを特徴とする昇華精製装置に係るものである。
【0012】
また、前記材料流通部4にのみ前記有機材料が流通するように構成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の昇華精製装置に係るものである。
【0013】
また、前記内筒体3を前記整流板5を挟んで連設したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の昇華精製装置に係るものである。
【0014】
また、前記内筒体3に前記整流板5を一体に設けたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の昇華精製装置に係るものである。
【0015】
また、前記整流板5は、前記有機材料の流通上流側ほど密に配置し、流通下流側ほど疎に配置したことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の昇華精製装置に係るものである。
【0016】
また、前記整流板5は、耐熱性ガラス、耐熱性金属、セラミックス若しくはフッ素樹脂の少なくともいずれか1種を含むものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の昇華精製装置に係るものである。
【0017】
また、前記整流板5にして前記有機材料が接触する面が、耐熱性ガラス、耐熱性金属、セラミックス若しくはフッ素樹脂の少なくともいずれか1種を含む材料で形成されていることを特徴とする請求項8記載の昇華精製装置に係るものである。
【0018】
また、前記内筒体3は、耐熱性ガラス、耐熱性金属、セラミックス若しくはフッ素樹脂の少なくともいずれか1種を含むものであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の昇華精製装置に係るものである。
【0019】
また、前記内筒体3にして前記有機材料が接触する面が、耐熱性ガラス、耐熱性金属、セラミックス若しくはフッ素樹脂の少なくともいずれか1種を含む材料で形成されていることを特徴とする請求項10記載の昇華精製装置に係るものである。
【0020】
また、前記加熱部1は、抵抗加熱装置、ランプヒーター若しくは誘導加熱装置の少なくともいずれか1種を含んで成ることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の昇華精製装置に係るものである。
【0021】
また、前記外筒体2内に一端側から他端側に向かって温度勾配を形成するように前記加熱部1を構成したことを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の昇華精製装置に係るものである。
【0022】
また、前記外筒体2内に設けられる前記有機材料の容器8に、この有機材料を加熱気化せしめる加熱機構を設けたことを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の昇華精製装置に係るものである。
【0023】
また、前記外筒体2と前記加熱部1との間に熱伝導性の外套管9を設けたことを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の昇華精製装置に係るものである。
【0024】
また、前記外筒体2は外気を侵入させない真空容器であり、一端側に不活性ガスを導入する不活性ガス導入口を設け、他端側に不活性ガスを排出する不活性ガス排出口を設けたものであることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の昇華精製装置に係るものである。
【0025】
また、前記外筒体2に、この外筒体2内を中真空状態若しくは高真空状態とする真空排気機構を設けたことを特徴とする請求項16記載の昇華精製装置に係るものである。
【0026】
また、前記外筒体2の設置角度を任意に可変できるように構成したことを特徴とする請求項1〜17のいずれか1項に記載の昇華精製装置に係るものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明は上述のように構成したから、不純物の混入を可及的に防止でき、高純度の精製物を筒状体を切断する必要なく容易に且つコスト安に収率良く得ることが可能な極めて実用性に秀れた昇華精製装置となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本実施例の構成概略説明図である。
【図2】本実施例の構成概略説明図である。
【図3】内筒体と整流板との連設構造の一例を示す概略説明図である。
【図4】内筒体と整流板との連設構造の一例を示す概略説明図である。
【図5】内筒体と整流板との連設構造の一例を示す概略説明図である。
【図6】内筒体と整流板とのずれ幅抑制構造の一例を示す概略説明図である。
【図7】内筒体と整流板とのずれ幅抑制構造の一例を示す概略説明図である。
【図8】内筒体内に整流板を配設する構成の一例を示す概略説明図である。
【図9】内筒体内に整流板を配設する構成の一例を示す概略説明図である。
【図10】整流板の開口部の構成の一例を示す概略説明図である。
【図11】整流板の開口部の構成の一例を示す概略説明図である。
【図12】整流板の開口部の構成の一例を示す概略説明図である。
【図13】本実施例の内筒体及び整流板の構成概略説明図である。
【図14】本実施例の内筒体及び整流板の分解説明斜視図である。
【図15】外筒体及び内筒体の一設置例を示す構成概略説明図である。
【図16】外筒体及び内筒体の一設置例を示す構成概略説明図である。
【図17】容器の一例を示す構成概略説明斜視図である。
【図18】押付機構の一例を示す構成概略説明図である。
【図19】押付機構の一例を示す構成概略説明図である。
【図20】押付機構の一例を示す構成概略説明図である。
【図21】押付機構の一例を示す構成概略説明図である。
【図22】実験装置を説明する説明図である。
【図23】比較結果を説明するグラフ及び表である。
【図24】比較結果を説明するグラフ及び表である。
【図25】比較結果を説明するグラフ及び表である。
【図26】比較結果を説明するグラフ及び表である。
【図27】比較結果を説明するグラフ及び表である。
【図28】比較結果を説明するグラフ及び表である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
好適と考える本発明の実施形態(発明をどのように実施するか)を、本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0030】
外筒体2内を加熱部1により加熱し、材料流通部4の一部を目的の化合物を得るための所定の捕集温度に設定して材料回収部とし、他の部位を不純物が捕集される温度に設定した状態で、材料流通部4に加熱気化した有機材料を流通させることで、材料回収部において目的の化合物を昇華精製する。
【0031】
即ち、例えば加熱部1により外筒体2に流通上流側を高温とする温度勾配を形成し、材料回収部の流通上流側に高温昇華点不純物捕集部を、流通下流側に低温昇華点不純物捕集部を夫々設け、昇華温度が異なる物質(有機化合物)を各部で昇華精製する。
【0032】
この際、材料流通部4に設けた複数の整流板5により、有機材料は材料流通部4を真っ直ぐに通過せず曲がりながら流通するため、流通経路が延伸される。従って、有機材料が流通路を形成する各部材の壁面(内筒体3の内周面及び整流板5の表裏面)に衝突し易くなり、それだけ昇華を起こし易い構造となり理論段数が増加し、各部で確実に目的の化合物及び不純物が夫々昇華精製せしめられ、よって、目的の化合物及び不純物が明確に分離した状態で精製されることになり、不純物の昇華温度が目的の化合物の昇華温度と近接しているような有機材料からも高純度の精製物を得ることが可能となる。
【0033】
特に、例えば、各整流板5の開口部6を、一直線に連通せずに材料流通部4の一端開口側から他端開口側が見通せない形状及び配置で夫々設けたり、隣り合う整流板5の開口部6同士が互いに軸方向で重ならないようにその形状及び配置を設定したりした場合には、有機材料の流通路を蛇行形成でき、確実に有機材料が曲がりながら流通し一層昇華を起こし易い構造を実現できる。
【0034】
更に、精製物は流通路を形成する内筒体3の内周面及び整流板5の表裏面に付着し、外筒体2には殆ど付着しないため、精製物の回収は、外筒体2内から内筒体3及び整流板5を取り出して回収すれば良く、収率は極めて高くなる。また、従来のように筒状体(外筒体2)を切断する必要がないため、それだけ精製作業が簡易となりコストを抑えることができ、また、切断時の不純物の混入も防止できることになる。
【0035】
また、整流板5は例えば流通下流側の低温昇華点不純物が逆流することを防ぐ仕切りにもなるため、それだけ不純物が混入し難く高純度の精製物を得ることが可能となる。
【0036】
従って、本発明は、不純物の混入を可及的に防止でき、高純度の精製物を筒状体を切断する必要なく容易に且つコスト安に収率良く得ることが可能なものとなる。
【実施例】
【0037】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0038】
本実施例は、加熱部1が周囲に配設された外筒体2内に加熱気化せしめた有機材料を流通させることで所望の化合物を精製する昇華精製装置であって、前記外筒体2内に複数の内筒体3を軸方向に連設状態に設けて、この内筒体3内を前記有機材料が流通する材料流通部4に設定し、この材料流通部4に、この材料流通部4を開口部6を残して閉塞することで前記有機材料の流通を調整する整流板5を前記軸方向に複数設けて、前記内筒体3と前記整流板5とで前記有機材料の流通路を形成したものである。
【0039】
具体的には、外筒体2は、外気を侵入させない一端部及び他端部が閉塞された筒状の真空容器であり、一端側に気化した有機材料を搬送するアルゴン、ヘリウム若しくは窒素等の不活性ガスを導入する不活性ガス導入口を設け、他端側に不活性ガスを排出する不活性ガス排出口を設けたものである。尚、外筒体2は石英ガラス製である。
【0040】
本実施例においては、図1中の外筒体2の下端部側から内筒体3内(材料流通部4)を流通するように不活性ガスを所定の流量で導入し(矢印A)、上端部側から排出する(矢印B)ように構成している。
【0041】
この外筒体2には、真空排気機構が設けられ、外筒体2内(及び内筒体3内)を中真空状態、好ましくは高真空状態とすることができるように構成している。
【0042】
外筒体2の周囲には、外筒体2の外周面を囲繞するように環状の加熱部1を複数設けている。この加熱部1は、抵抗加熱装置、ランプヒーター若しくは誘導加熱装置の少なくともいずれか1種を含んで成るもので、本実施例においては抵抗加熱装置が採用されており、外筒体2内に一端側から他端側に向かって温度勾配を形成するように構成している。尚、加熱部1としては少なくとも室温から950℃程度まで加熱できるものを用いる。
【0043】
本実施例においては、流通上流側となる図1中下端側を高温とする温度勾配を形成するように各抵抗加熱装置を制御する。具体的には、外筒体2の軸方向に沿って複数の環状の抵抗加熱装置を配設し、各抵抗加熱装置を流通上流側ほど高温で、流通下流側ほど低温で外筒体2(材料流通部4)を加熱するように構成している。
【0044】
尚、例えば図2に図示したように、外筒体2と加熱部1との間に熱伝導性の外套管9を設けても良い。この場合、材料流通部4の温度勾配をより滑らかにすることができ、昇華温度が近接する化合物を夫々明確に分離した形で精製できることになる。
【0045】
外筒体2内には、材料流通部4を形成する複数の内筒体3を軸方向に連設状態に設けている。また、最下端に位置する内筒体3内(外筒体2の下端面上)には、有機半導体材料としてのトリス−(8−ヒドロキシノリナト)アルミニウム(Alq)やバソキュプロイン(BCP)などの有機材料が充填される容器8(坩堝状の有機材料蒸発源)を設けている。即ち、容器8を内筒体3内に設け、この容器8からの有機材料が外筒体2の内周面と内筒体3の外周面との間の空間部に流出せず、材料流通部4にのみ流通するように構成している。また、容器8には、有機材料を加熱気化せしめる加熱機構を設けている。
【0046】
尚、材料流通部4の途中部において殆どの材料は昇華せしめられ最下流部(上端部)からは流出しないため、この材料流通部4の最下流部から外筒体2の内周面と内筒体3の外周面との間の空間部に有機材料が侵入することはほとんどない。
【0047】
内筒体3は、図1に図示したように、整流板5を挟んで連設している。即ち、本実施例においては、内筒体3と整流板5とを交互に連設して材料流通部4を構成している。
【0048】
この内筒体3と整流板5との連設部分の構造としては、可及的に内筒体3内から有機材料が外部に漏出し難い構造を採用するのが望ましい。例えば内筒体3の端部開口部と係合する係合部を設けて互いにずれにくい構成(ずれ幅を抑える構成)とすると良い。即ち、図3〜5に図示したように、整流板5の表裏面の外周部に夫々前記係合部としての、段部10を設けたり(図3)、外側に下り傾斜するテーパー部11を設けたり(図4)、内側に下り傾斜するテーパー部12を設ける(図5)と良い。本実施例においては、各整流板5に前記段部10を設けて有機材料の漏出を防止している。
【0049】
また、図3〜5の例に限らず、例えば図6に図示したように、内筒体3と整流板5との連設部に略隙間なく被嵌される環状のずれ防止体25を用いて互いにずれない構成としても良い。図中符号26は、ずれ防止体25を支持する支持部である。
【0050】
また、図7に図示したように、外筒体2の内周面と内筒体3の外周面との間の空間部7(外筒体2の内径と内筒体3の外径のクリアランス)を狭くすることで、具体的には、内筒体3の肉厚の1/2未満とすることで、ずれ幅を抑制して有機材料が外部に漏出しない構成としても良い。
【0051】
尚、整流板5を内筒体3により挟む構成でなく、整流板5を内筒体3内に一体に設ける構成としても良い。具体的には、図8,9に図示したように、内筒体3の内周面に整流板5を載置可能な載置段部13(図8)若しくは段部の内側をテーパー状とした載置テーパー段部14(図9)を周設し、この載置段部13若しくは載置テーパー段部14に整流板5を着脱自在に載置固定しても良い。また、この載置段部13若しくは載置テーパー段部14を内筒体3内に複数設けて内筒体3に複数の整流板5を設けられるようにすると内筒体3の本数を抑えることができる。
【0052】
各整流板5の開口部6は、一直線に連通せずに材料流通部4の一端開口側から他端開口側が見通せない形状及び配置で夫々設けている。言い換えると、隣り合う整流板5の開口部6同士が互いに軸方向で重ならないようにその形状及び配置を設定している。従って、内筒体3と整流板5とで形成される有機材料の流通路は蛇行状態となる。
【0053】
具体的には、図10(a)に図示したように半月状の開口部6を整流板5の左右端部に交互に設けたり、更に特に高温部において流通経路を延伸するために図11(a)に図示したように板体15を整流板5に複数突設したり、図12に図示したように整流板5の外周寄り位置に等間隔で4つ設けた円状の開口部6を各整流板5で交互に90度ずつ位相をずらして設けることで流通路を蛇行形成する。尚、図10(b)及び図11(b)は、図10(a)及び図11(a)の概略断面図である。本実施例においては図12に図示したように円状の開口部6を各整流板5で交互に90度ずつ位相をずらして設けることで流通路を蛇行形成している。
【0054】
また、整流板5は、有機材料の高温側である流通上流側ほど密に配置し、低温側である流通下流側ほど疎に配置している。具体的には、図13に図示したように、材料流通部4の上流側を高温昇華点不純物を捕集する高温昇華点不純物捕集部16に設定し、下流側を低温昇華点不純物を捕集する低温昇華点不純物捕集部17に設定し、その間を目的物たる精製物を捕集する材料回収部18に設定しており、この高温昇華点不純物捕集部16において、整流板5を低温昇華点不純物捕集部17における配置間隔より狭い配置間隔で配置し、この高温昇華点不純物捕集部16における昇華の機会を可及的に多くして材料回収部18において高温昇華点不純物が昇華することを可及的に防止している。
【0055】
整流板5の配置間隔は、内筒体3の内径などにもよるが、30〜50mm程度とするのが好ましい。更に高温昇華点不純物捕集部16では10〜20mm程度の間隔で密に配置すると特に好ましい。
【0056】
また、整流板5で仕切られて上記各部が形成されるように加熱部1による加熱温度を制御すると共に整流板5の配置間隔及び内筒体3の長さを設定している。よって、各部が整流板5によって仕切られてそれだけ精製物への不純物の混入を防止できることになる。また、図14に図示したように内筒体3と整流板5とを分解して精製物を回収する作業も容易となる。
【0057】
内筒体3及び整流板5としては、パイレックス(登録商標)や石英ガラスのような耐熱性ガラス、ステンレス、タンタル、タングステン、モリブデン、チタンなどの耐熱性金属、アルミナ、ジルコニア、窒化ボロン、窒化ケイ素などのセラミックス若しくはフッ素樹脂のいずれか1種を含むものが採用される。本実施例においてはいずれも石英ガラス製のものが採用されている。
【0058】
尚、全体を石英ガラス製とせずに、少なくとも有機材料が接触する面が上記材料で形成されるように(覆われるように)しても良い。
【0059】
また、本実施例においては、図1に図示したように外筒体2及び内筒体3(材料流通部4)を、水平面に対して垂直縦置状態で設けて、下端側から上端側に有機材料を流通させる構成としているが、これらを垂直縦置状態に限らず傾斜状態に設けても良い。また、所定の傾斜状態で固定する構成としても良いし、任意に傾斜角度を可変できる構成としても良い。
【0060】
例えば、図15に図示したように傾斜させた場合も、図1と同様に内筒体3同士は重力により密着するため有機材料の漏出は抑制される。
【0061】
また、例えば低温昇華点不純物が材料回収部に落下する問題が生じる場合には、図16に図示したように図1と上下を反転した構成とし、上端側から下端側へと有機材料を流通させることで落下の問題を防ぐことが可能となる。尚、この場合、容器8は、図17に図示したように底面に突設した挿通管19から気化した有機材料が下方側へと移動するように構成し、最上端の内筒体3内に固定する。また、容器8を図17のような構成とせずに、連設される複数の内筒体3と平行に通常の坩堝状の容器8を内装した筒状体を設け、この筒状体の上部と内筒体3の側周面とを連通せしめて気化した有機材料が材料流通部4に導入されるように構成しても良い。
【0062】
また、内筒体3と整流板5の表面粗さを粗くすることでも不純物の落下を防ぐことができるが、JIS B−0601;2001における算術平均粗さRaが1.6μm以上であることが好ましい。
【0063】
また、外筒体2及び内筒体3(材料流通部4)を、水平面に対して平行横置状態で設けた場合には、内筒体3と整流板5との間に隙間ができ、材料の漏出が起こる可能性があるため、複数の内筒体3(及び内筒体3に挟まれる整流板5)を外筒体2の一端面(流通上流側端面)に押し付ける押付機構を設けると良い。具体的には、例えば、図18〜図21に図示したように、スプリング20の付勢力を利用したり(図18)、重り21の倒れ力を利用したり(図19)、テーパー面24上の重り22の落ち込み力を利用したり(図20)、マグネット23の反発力を利用した(図21)押付機構を設けると良い。
【0064】
尚、上記任意に傾斜角度を可変できる構成とした場合には、外筒体2の長手方向端部にして管軸と直交する軸を中心に回転させて遠心力により隙間を無くしたりする構成としても良い。また、静電気を利用して隙間を無くす構成としても良い。
【0065】
上述のように構成した本実施例に係る昇華精製装置を用いての昇華精製について説明する。昇華精製を行う際には、有機材料を加熱気化する前に、外筒体2内(内筒体3内を含む)を真空ベーキングし、その後、外筒体2内を大気に置換することなく有機材料を加熱気化せしめるのが好ましい。
【0066】
具体的には、加熱部1により外筒体2(材料流通部4)に流通上流側を高温とする温度勾配を形成し、材料流通部4の流通上流側から順に、高温昇華点不純物捕集部16、材料回収部18、低温昇華点不純物捕集部17を形成し、昇華温度が異なる物質(有機化合物)を各部で昇華精製する。
【0067】
この際、材料流通部4に設けた複数の整流板5により流通路が蛇行形成され、有機材料は材料流通部4を真っ直ぐに通過せず曲がりながら流通するため、流通経路が延伸される。従って、有機材料が流通路を形成する各部材の壁面(内筒体3の内周面及び整流板5の表裏面)に衝突し易くなり、それだけ昇華を起こし易い構造となり理論段数が増加し、各部で確実に目的の化合物及び不純物が夫々昇華精製せしめられ、よって、目的の化合物及び不純物が明確に分離した状態で精製されることになり、不純物の昇華温度が目的の化合物の昇華温度と近接しているような有機材料からも高純度の精製物を得ることが可能となる。
【0068】
更に、精製物は流通路を形成する内筒体3の内周面及び整流板5の表裏面に付着し、外筒体2には殆ど付着しないため、精製物の回収は、外筒体2内から内筒体3及び整流板5を取り出して分離させて回収すれば良く、収率は極めて高くなる。また、従来のように筒状体(外筒体2)を切断する必要がないため、それだけ精製作業が簡易となりコストを抑えることができ、また、切断時の不純物の混入も防止できることになる。
【0069】
また、整流板5は例えば流通下流側の低温昇華点不純物が逆流することを防ぐ仕切りにもなるため、それだけ不純物が混入し難く高純度の精製物を得ることが可能となる。
【0070】
また、整流板5の間隔を適宜設定し、石英製の内筒体3及び整流板5を用いることで、一層良好な精製物を得ることが可能となる。
【0071】
従って、本実施例は、不純物の混入を可及的に防止でき、高純度の精製物を筒状体を切断する必要なく容易に且つコスト安に収率良く得ることが可能なものとなる。
【0072】
本実施例の効果を裏付ける実験例について説明する。
【0073】
図22の上側の写真は実際の実験装置(外筒体内に内筒体及び整流板を設けたもの)であり、下側のグラフはこの実験装置を用いてAlq及びBCPを昇華精製する際の加熱温度の詳細を示すものである。
【0074】
図23は、整流板(バッフル)の配置間隔を(各整流板間は等間隔で)種々変えて得られた精製物の品質の比較結果を示すものである。低電圧であるほど高品質の精製物が得られたことを示す。尚、精製前とは精製前のAlqであり、バッフル無とは整流板無しで精製したものであり、市販精製品とは、市販されている精製品のAlq(純度>99.9%、EL用)である。これより、整流板の間隔は30〜40mmに設定するのが好ましいことが確認できた。
【0075】
図24(材料はAlq),25(材料はBCP)は、前記精製前と、前記バッフル無と、整流板を40mmで等間隔に配置した装置を用いて精製したバッフル有と、整流板の間隔を40mmで等間隔に配置し更に高温昇華点不純物捕集部に相当する部分(図22の写真のfと材料との間)に整流板を2枚追加した装置を用いて精製した高温バッフル有と、前記市販精製品(図24のみ)とで品質を比較した比較結果を示すものである。これより、高温昇華点不純物捕集部に密に整流板を配置することで、品質が向上することが確認できた。
【0076】
図26(材料はAlq),27(材料はBCP)は、SUS製の整流板を40mmで等間隔に配置し更に高温昇華点不純物捕集部に相当する部分にSUS製の整流板を2枚追加した装置を用いて精製した高温バッフル有(SUS製)と、石英(ガラス)製の整流板を40mmで等間隔に配置し更に高温昇華点不純物捕集部に相当する部分に石英(ガラス)製の整流板を、材料がAlq3の場合は3枚、BCPの場合は2枚追加した装置を用いて精製した高温バッフル有(石英製)とで品質を比較した比較結果を示すものである。これより、石英(ガラス)製の整流板を用いることで、品質が向上することが確認できた。
【0077】
図28は、整流板のない従来法で精製したもの(バッフル無)の品質及び収率と、図25の高温バッフル有の品質及び収率とを比較した比較結果を示すものである。従来法においては、複数回精製することで品質を向上させる(素子性能を向上させる)必要があり、それだけ収率が低下するが、本実施例に係る高温バッフル有では少ない精製回数で高品質のものが得られ、それだけ収率が良くなることが確認できた。
【0078】
以上から、本実施例に係る昇華精製装置によれば高品質の精製物を収率良く得ることが可能となることが確認できた。
【符号の説明】
【0079】
1 加熱部
2 外筒体
3 内筒体
4 材料流通部
5 整流板
6 開口部
8 容器
9 外套管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱部が周囲に配設された外筒体内に加熱気化せしめた有機材料を流通させることで所望の化合物を精製する昇華精製装置であって、前記外筒体内に複数の内筒体を軸方向に連設状態に設けて、この内筒体内を前記有機材料が流通する材料流通部に設定し、この材料流通部に、この材料流通部を開口部を残して閉塞することで前記有機材料の流通を調整する整流板を前記軸方向に複数設けて、前記内筒体と前記整流板とで前記有機材料の流通路を形成したことを特徴とする昇華精製装置。
【請求項2】
加熱部が周囲に配設された外筒体内に加熱気化せしめた有機材料を流通させることで所望の化合物を精製する昇華精製装置であって、前記外筒体内に複数の内筒体を軸方向に連設状態に設けて、この内筒体内を前記有機材料が流通する材料流通部に設定し、この材料流通部に、この材料流通部を開口部を残して閉塞することで前記有機材料の流通を調整する整流板を前記軸方向に複数設け、この各整流板の前記開口部は、一直線に連通せずに前記材料流通部の一端開口側から他端開口側が見通せない形状及び配置で夫々設けて、前記内筒体と前記整流板とで前記有機材料の流通路を蛇行形成したことを特徴とする昇華精製装置。
【請求項3】
加熱部が周囲に配設された外筒体内に加熱気化せしめた有機材料を流通させることで所望の化合物を精製する昇華精製装置であって、前記外筒体内に複数の内筒体を軸方向に連設状態に設けて、この内筒体内を前記有機材料が流通する材料流通部に設定し、この材料流通部に、この材料流通部を開口部を残して閉塞することで前記有機材料の流通を調整する整流板を前記軸方向に複数設け、隣り合う前記整流板の前記開口部同士が互いに前記軸方向で重ならないようにその形状及び配置を設定して、前記内筒体と前記整流板とで前記有機材料の流通路を蛇行形成したことを特徴とする昇華精製装置。
【請求項4】
前記材料流通部にのみ前記有機材料が流通するように構成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の昇華精製装置。
【請求項5】
前記内筒体を前記整流板を挟んで連設したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の昇華精製装置。
【請求項6】
前記内筒体に前記整流板を一体に設けたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の昇華精製装置。
【請求項7】
前記整流板は、前記有機材料の流通上流側ほど密に配置し、流通下流側ほど疎に配置したことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の昇華精製装置。
【請求項8】
前記整流板は、耐熱性ガラス、耐熱性金属、セラミックス若しくはフッ素樹脂の少なくともいずれか1種を含むものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の昇華精製装置。
【請求項9】
前記整流板にして前記有機材料が接触する面が、耐熱性ガラス、耐熱性金属、セラミックス若しくはフッ素樹脂の少なくともいずれか1種を含む材料で形成されていることを特徴とする請求項8記載の昇華精製装置。
【請求項10】
前記内筒体は、耐熱性ガラス、耐熱性金属、セラミックス若しくはフッ素樹脂の少なくともいずれか1種を含むものであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の昇華精製装置。
【請求項11】
前記内筒体にして前記有機材料が接触する面が、耐熱性ガラス、耐熱性金属、セラミックス若しくはフッ素樹脂の少なくともいずれか1種を含む材料で形成されていることを特徴とする請求項10記載の昇華精製装置。
【請求項12】
前記加熱部は、抵抗加熱装置、ランプヒーター若しくは誘導加熱装置の少なくともいずれか1種を含んで成ることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の昇華精製装置。
【請求項13】
前記外筒体内に一端側から他端側に向かって温度勾配を形成するように前記加熱部を構成したことを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の昇華精製装置。
【請求項14】
前記外筒体内に設けられる前記有機材料の容器に、この有機材料を加熱気化せしめる加熱機構を設けたことを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の昇華精製装置。
【請求項15】
前記外筒体と前記加熱部との間に熱伝導性の外套管を設けたことを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の昇華精製装置。
【請求項16】
前記外筒体は外気を侵入させない真空容器であり、一端側に不活性ガスを導入する不活性ガス導入口を設け、他端側に不活性ガスを排出する不活性ガス排出口を設けたものであることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の昇華精製装置。
【請求項17】
前記外筒体に、この外筒体内を中真空状態若しくは高真空状態とする真空排気機構を設けたことを特徴とする請求項16記載の昇華精製装置。
【請求項18】
前記外筒体の設置角度を任意に可変できるように構成したことを特徴とする請求項1〜17のいずれか1項に記載の昇華精製装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2011−50853(P2011−50853A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201958(P2009−201958)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591065413)トッキ株式会社 (57)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】