説明

映像表示システム、映像供給装置、並びに表示装置

【課題】映像信号インターフェースで接続された映像供給装置と表示装置からなり、リニア信号処理を行なった映像信号を表示出力するシステムを提供する。
【解決手段】デガンマー処理と一部のリニア信号処理をフロント・エンド・ボックス40内で行なう。信号処理の最終段の簡易ガンマー回路は、13ビットのリニアRGB信号を10ビットの簡易ガンマーRGB信号にエンコードし、また、ヘッド・マウント・ディスプレイ10の入力段に簡易デガンマー回路を追加する。これにより、フロント・エンド・ボックス40とヘッド・マウント・ディスプレイ10の間は10ビットの映像信号インターフェースで接続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示する技術は、映像信号に対して輝度調整や色温度調整、原色点変換などのリニア信号処理を行なってから表示出力する映像表示システム、映像供給装置、並びに表示装置に係り、特に、リニア信号処理した映像信号をユーザーの頭部に装着したヘッド・マウント・ディスプレイに表示出力する映像表示システム、映像供給装置、並びに表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
頭部に装着して映像を視聴する表示装置、すなわちヘッド・マウント・ディスプレイ(HMD)が広く知られている。ヘッド・マウント・ディスプレイは、左右の眼毎に光学ユニットを持ち、また、ヘッドフォンと併用し、視覚及び聴覚を制御できるように構成されている。頭部に装着した際に外界を完全に遮るように構成すれば、視聴時の仮想現実感が増す。また、ヘッド・マウント・ディスプレイは、左右の眼に違う映像を映し出すことも可能であり、左右の眼に視差のある画像を表示すれば3D画像を提示することができる。
【0003】
ヘッド・マウント・ディスプレイの左右の眼の表示部には、例えば液晶や有機EL(Electro− Luminescence)素子などからなる高解像度の表示パネルを用いることができる。また、光学系で適当な画角を設定するとともに、ヘッドフォンで多チャンネルを再現すれば、映画館で視聴するような臨場感を再現することができる。ヘッド・マウント・ディスプレイは、DVDプレイヤーやブルーレイ・ディスク(BD)プレイヤーなどのAV再生機に接続して、映画などのコンテンツを鑑賞するのに利用される(例えば、特許文献1を参照のこと)。
【0004】
ところで、映像信号は一般に、ガンマー特性を有する8ビットのディジタル信号で記録されている。図8には、ガンマー処理された8ビットのディジタル映像信号と輝度との関係を例示している。TVやモニターなどの映像表示装置においても、その大半の処理はガンマー処理がかかったまま行なわれている。しかしながら、輝度調整や色温度調整、原色点変換などの一部の信号処理は、リニア信号にした方が回路構成を簡略化できる。このため、ガンマー処理された映像信号を一度デコード、すなわちデガンマー処理により映像信号のガンマー曲線をリニアなRGB信号(データ値と画素の輝度との関係が比例関係になる信号)に変換してから演算する必要がある。
【0005】
図9には、デガンマー処理してからリニア信号処理する回路構成を模式的に示している。デガンマー回路901は、8ビットの映像信号を入力すると、デガンマー処理してリニアRGB信号に変換する。そして、原色点変換部902、輝度調整部903、色温度調整部904はそれぞれ、リニアRGB信号に対して、原色点変換、輝度調整、色温度調整などのリニア信号処理を行なう。
【0006】
デガンマー処理は、非線形演算であり負荷が重いため、専用のデガンマー回路を必要とする。また、リニアRGB信号で暗い映像信号を正しく表現するには、例えば映像信号に13ビットなどビット拡張を行なう必要がある。したがって、理想的な映像表示システムは、記録媒体などから再生された8ビットの映像信号をデガンマー処理して13ビットのリニアRGB信号に変換した後、さらに輝度調整や色温度調整、原色点変換などのリニア信号処理を行なってから表示出力するという構成となる。
【0007】
図10には、デガンマー処理によりビット拡張したリニアRGB信号にリニア信号処理を行なってから表示出力する映像表示システム1000の構成例を模式的に示している。デガンマー回路1001は、8ビットの映像信号を入力すると、デガンマー処理してリニアRGB信号に変換し、さらに13ビットにビット拡張する。そして、原色点変換部1002、輝度調整部1003、色温度調整部1004はそれぞれ、13ビットのリニアRGB信号に対して、原色点変換、輝度調整、色温度調整などのリニア信号処理を行なう。このようにリニア信号処理された映像信号は、表示パネル1005で表示出力される。
【0008】
以上を踏まえ、ヘッド・マウント・ディスプレイなどを表示装置に持つ、理想的な映像表示システムの構成方法について考察してみる。この種の映像表示システムは、表示部と表示部を駆動する表示駆動部からなる表示装置と、BDプレイヤーなどで再生された映像信号を表示装置に供給する映像供給装置で構成され、映像供給装置と表示装置間は映像信号インターフェースで接続されている。リニア信号処理を行なう前には映像信号にデガンマー処理を行なう必要があるが、デガンマー処理は負荷が重たいこと、デガンマー処理した後は映像信号がビット拡張されることから、システム内のどこでデガンマー処理並びにリニア信号処理を行なうべきかを十分検討すべきである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−86328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本明細書で開示する技術の目的は、表示装置と、映像信号を表示装置に供給する映像供給装置で構成され、映像供給装置と表示装置間は映像信号インターフェースで接続され、輝度調整や色温度調整、原色点変換などのリニア信号処理を行なった映像信号を表示装置で好適に表示出力することができる、優れた映像表示システム、映像供給装置、並びに表示装置を提供することにある。
【0011】
本明細書で開示する技術のさらなる目的は、デガンマー処理は負荷が重たいこと、デガンマー処理した後は映像信号がビット拡張されることを考慮して、元の映像信号をデガンマー処理したリニアRGB信号に対してリニア信号処理を好適に行なうことができる、優れた映像表示システム、映像供給装置、並びに表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願は、上記課題を参酌してなされたものであり、請求項1に記載の技術は、
映像信号をデガンマー処理してリニアRGB信号を得るデガンマー回路と、リニアRGB信号に対して第1のリニア信号処理を行なう第1のリニア信号処理部と、前記第1のリニア信号処理した後のリニアRGB信号をエンコードしてビット縮退する簡易ガンマー回路を有する映像供給装置と、
前記映像供給装置とは前記の縮退したビット長の映像信号インターフェースで接続され、ビット縮退したリニアRGB信号を元のビット長にデコードする簡易デガンマー回路と、前記デコードした後のリニアRGB信号に対して第2のリニア信号処理を行なう第2のリニア信号処理部と、前記第2のリニア信号処理した後のリニアRGB信号を表示出力する表示部を有する表示装置と、
を具備する映像表示システムである。
【0013】
但し、ここで言う「システム」とは、複数の装置(又は特定の機能を実現する機能モジュール)が論理的に集合した物のことを言い、各装置や機能モジュールが単一の筐体内にあるか否かは特に問わない。
【0014】
本願の請求項2に記載の技術によれば、請求項1に記載の映像表示システムにおいて、前記映像供給装置側の簡易ガンマー回路は、線形演算によりリニアRGB信号をガンマー処理し、一方、前記表示装置側の簡易デガンマー回路は、ガンマー処理されたリニアRGB信号を線形演算によりデガンマー処理するように構成されている。
【0015】
本願の請求項3に記載の技術によれば、請求項1に記載の映像表示システムにおいて、前記映像供給装置側の簡易ガンマー回路は、入力領域を複数に分割し、分割した入力領域毎にガンマー曲線を近似した線分からなる近似ガンマー曲線を用いてリニアRGB信号をエンコードし、一方、前記表示装置側の簡易デガンマー回路は、前記近似ガンマー曲線とは逆特性となる近似デガンマー曲線を用いて、エンコードされたリニアRGB信号をデコードするように構成されている。
【0016】
本願の請求項4に記載の技術によれば、請求項3に記載の映像表示システムは、前記簡易ガンマー回路と前記簡易デガンマー回路を組み合わせた入出力特性は、信号レベルが小さい領域において入出力が一致するように構成されている。
【0017】
また、本願の請求項5に記載の技術は、
映像信号をデガンマー処理してリニアRGB信号を得るデガンマー回路と、
リニアRGB信号に対して第1のリニア信号処理を行なうリニア信号処理部と、
前記リニア信号処理した後のリニアRGB信号をエンコードしてビット縮退する簡易ガンマー回路と、
を具備する映像供給装置である。
【0018】
本願の請求項6に記載の技術によれば、請求項5に記載の映像供給装置は、前記簡易ガンマー回路が線形演算によりリニアRGB信号をガンマー処理するように構成されている。
【0019】
本願の請求項7に記載の技術によれば、請求項5に記載の映像供給装置は、前記簡易ガンマー回路が、入力領域を複数に分割し、分割した入力領域毎にガンマー曲線を近似した線分からなる近似ガンマー曲線を用いてリニアRGB信号をエンコードするように構成されている。
【0020】
また、本願の請求項8に記載の技術は、
映像供給装置と接続する映像信号インターフェースと、
前記映像供給装置でビット縮退したリニアRGB信号を前記映像信号インターフェース経由で入力して、元のビット長にデコードする簡易デガンマー回路と、
前記デコードした後のリニアRGB信号に対して第2のリニア信号処理を行なうリニア信号処理部と、
前記リニア信号処理した後のリニアRGB信号を表示出力する表示部と、
を具備する表示装置である。
【0021】
本願の請求項9に記載の技術によれば、請求項8に記載の表示装置は、前記簡易デガンマー回路がガンマー処理されたリニアRGB信号を線形演算によりデガンマー処理するように構成されている。
【0022】
本願の請求項10に記載の技術によれば、前記映像供給装置では、入力領域を複数に分割し、分割した入力領域毎にガンマー曲線を近似した線分からなる近似ガンマー曲線を用いてリニアRGB信号をエンコードしている。そして、請求項8に記載の表示装置は、前記簡易デガンマー回路が前記近似ガンマー曲線とは逆特性となる近似デガンマー曲線を用いてリニアRGB信号をデコードするように構成されている。
【0023】
本願の請求項11に記載の技術によれば、請求項8に記載の表示装置は、ヘッド・マウント・ディスプレイなど、ユーザーの頭部に直接装着して用いられるように構成されている。
【発明の効果】
【0024】
本明細書で開示する技術によれば、所定の映像信号インターフェースで接続された映像供給装置と表示装置で構成され、ヘッド・マウント・ディスプレイなどの表示装置側の信号処理負荷を低減しつつ、輝度調整や色温度調整、原色点変換などのリニア信号処理を行なった映像信号を表示装置で好適に表示出力することができる、優れた映像表示システム、映像供給装置、並びに表示装置を提供することができる。
【0025】
本明細書で開示する技術のさらに他の目的、特徴や利点は、後述する実施形態や添付する図面に基づくより詳細な説明によって明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、ヘッド・マウント・ディスプレイを含む画像表示システムの構成を模式的に示した図である。
【図2】図2は、本明細書で開示する技術の一実施形態に係る映像表示システムの構成例を示した図である。
【図3】図3は、簡易ガンマー回路の入出力特性例を示した図である。
【図4】図4は、簡易ガンマー回路の構成例を示した図である。
【図5】図5は、簡易デガンマー回路の入出力特性例を示した図である。
【図6】図6は、簡易デガンマー回路の構成例を示した図である。
【図7】図7は、図4に示した簡易ガンマー回路と図6に示した簡易デガンマー回路を組み合わせた入出力特性を示した図である。
【図8】図8は、ガンマー処理された8ビットのディジタル映像信号と輝度との関係を例示した図である。
【図9】図9は、デガンマー処理してからリニア信号処理する回路構成を模式的に示した図である。
【図10】図10は、リニア信号処理した映像信号を表示出力する映像表示システム1000の構成例を模式的に示した図である。
【図11】図11は、デガンマー以降の処理をすべてヘッド・マウント・ディスプレイ10内で行なう映像表示システム1100の構成例を模式的に示した図である。
【図12】図12は、デガンマー処理と一部のリニア信号処理をフロント・エンド・ボックス40内で行なう映像表示システムの構成例を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しながら本明細書で開示する技術の実施形態について詳細に説明する。
【0028】
図1には、ヘッド・マウント・ディスプレイを含む画像表示システムの構成を模式的に示している。図示のシステムは、ヘッド・マウント・ディスプレイ10本体と、視聴コンテンツのソースとなるブルーレイ・ディスク再生装置20と、ブルーレイ・ディスク再生装置20の再生コンテンツの他の出力先となるハイビジョン・ディスプレイ(例えば、HDMI(High−Definition Mutlimedia Interface)対応テレビ)30と、ブルーレイ・ディスク再生装置20から出力されるAV信号の処理を行なうフロント・エンド・ボックス40で構成される。
【0029】
フロント・エンド・ボックス40は、ブルーレイ・ディスク再生装置20から出力されるAV信号をHDMI入力すると、例えば信号処理して、HDMI出力するHDMIリピーターに相当する。また、フロント・エンド・ボックス40は、ブルーレイ・ディスク再生装置20の出力先をヘッド・マウント・ディスプレイ10又はハイビジョン・ディスプレイ30のいずれかに切り替える2出力スイッチャーでもある。図示の例では、フロント・エンド・ボックス40は2出力であるが、3以上の出力を有していてもよい。但し、フロント・エンド・ボックス40は、AV信号の出力先を排他的とし、且つ、ヘッド・マウント・ディスプレイ10への出力を最優先とする。
【0030】
ブルーレイ・ディスク再生装置20とフロント・エンド・ボックス40間、並びに、フロント・エンド・ボックス40とハイビジョン・ディスプレイ30間は、それぞれHDMIケーブルで接続されている。フロント・エンド・ボックス40とヘッド・マウント・ディスプレイ10間も、HDMIケーブルで接続するように構成することも可能であるが、その他の仕様のケーブルを用いてAV信号をシリアル転送するようにしてもよい。但し、フロント・エンド・ボックス40とヘッド・マウント・ディスプレイ10間を接続するケーブル1本で、AV信号と電力を供給するものとし、ヘッド・マウント・ディスプレイ10はこのケーブルを介して駆動電力も得ることができる。
【0031】
ヘッド・マウント・ディスプレイ10は、左眼用及び右眼用の独立した表示部を備えている。各表示部は、例えば有機EL素子を用いている。また、左右の各表示部は、低歪みで且つ高解像度の広視野角光学系からなるレンズ・ブロックを装備している。
【0032】
図1に示した映像表示システムにおいて、ヘッド・マウント・ディスプレイ10は、表示部と表示部を駆動する表示駆動部からなる表示装置に相当し、フロント・エンド・ボックス40は、ブルーレイ・ディスク再生装置20で再生された映像信号を表示装置に供給する映像供給装置に相当し、映像供給装置と表示装置間は所定の映像信号インターフェースで接続されている、ということができる。
【0033】
通常、ブルーレイ・ディスク再生装置20から映像表示システムに入力される再生信号は、例えば8ビットのガンマー処理がかかったままの映像信号である。理想的な映像表示システムでは、図10に示したように、8ビットの映像信号をデガンマー処理して13ビットのリニアRGB信号に変換した後、さらに輝度調整や色温度調整、原色点変換などのリニア信号処理を行なってから表示出力することになる。
【0034】
以上を踏まえ、図1に示した映像表示システムの理想的な構成方法について、改めて考察してみる。リニア信号処理を行なう前には映像信号にデガンマー処理を行なう必要があるが、デガンマー処理は負荷が重たいこと、デガンマー処理した後は映像信号がビット拡張されることから、システム内のどこでデガンマー処理並びにリニア信号処理を行なうべきかを十分検討すべきである。
【0035】
図11には、デガンマー以降の処理をすべてヘッド・マウント・ディスプレイ10内で行なう映像表示システム1100の構成例を模式的に示している。映像供給装置としてのフロント・エンド・ボックス40は、入力した映像データをデコーダー1101でデコードして8ビットの映像信号を得ると、前処理部1102でスケーリング、ノイズリダクションなどの前処理を施した後、8ビットの映像信号のままヘッド・マウント・ディスプレイ10に転送する。表示装置すなわちヘッド・マウント・ディスプレイ10側では、入力した8ビットの映像信号をデガンマー回路1103でデガンマー処理し、さらにビット拡張して13ビットのリニアRGB信号を得る。その後、13ビットのリニアRGB信号に対し、原色点変換部1104、輝度調整部1105、色温度調整部1106でそれぞれ原色点変換、輝度調整、色温度調整などのリニア信号処理を施した後、表示パネル1107で表示出力される。
【0036】
図11に示すようにデガンマー以降の処理をヘッド・マウント・ディスプレイ10内で行なう場合、信号処理量が多くなるため、消費電力と発熱量の増大を招来し、以下のような問題を引き起こす。
【0037】
(1)熱によって表示部の劣化が促進される。特に有機EL素子を用いる場合、劣化は顕著となる。
(2)ヘッド・マウント・ディスプレイ10のようにユーザーが直接装着する装置の場合、温度の上昇は、ユーザーの安全性や装着の快適性という点でも問題である。
【0038】
これに対し、ヘッド・マウント・ディスプレイ10内で行なう信号処理量を抑えるために、処理の重いデガンマー処理と上記のリニア信号処理の少なくとも一部をフロント・エンド・ボックス40側で行なうという解決方法もある。
【0039】
図12には、デガンマー処理と一部のリニア信号処理をフロント・エンド・ボックス40内で行なう映像表示システム1200の構成例を模式的に示している。フロント・エンド・ボックス40は、入力した映像データをデコーダー1201でデコードして8ビットの映像信号を得ると、前処理部1202でスケーリング、ノイズリダクションなどの前処理を施した後、デガンマー回路1203でデガンマー処理して、ビット拡張して13ビットのリニアRGB信号を得ると、さらに原色点変換部1204で、原色点変換処理を行なう。そして、原色点変換後の13ビットのリニアRGB信号をフロント・エンド・ボックス40からヘッド・マウント・ディスプレイ10に転送する。ヘッド・マウント・ディスプレイ10側では、13ビットのリニアRGB信号に対し、輝度調整部1205及び色温度調整部1206で輝度調整、色温度調整などの残りのリニア信号処理を施した後、表示パネル1207で表示出力される。
【0040】
図12に示したシステム構成例では、ヘッド・マウント・ディスプレイ10内で行なう信号処理量が低減されるが、フロント・エンド・ボックス40とヘッド・マウント・ディスプレイ10間をビット拡張した13ビットの信号インターフェースで接続する必要がある。ところが、DVI(Digital Video Interactive)やDisplayPortといった一般的な映像信号インターフェースでは、10ビット程度のビット長に制限される。このようにビット長が不足すると、階調表現が劣化するという画質的な問題が発生してしまう。
【0041】
これに対し、図2には、デガンマー処理と一部のリニア信号処理をフロント・エンド・ボックス40内で行なうとともに、10ビット程度のビット長に制限される映像信号インターフェースでフロント・エンド・ボックス40とヘッド・マウント・ディスプレイ10間が接続される映像表示システム200の構成例を示している。
【0042】
フロント・エンド・ボックス40は、入力した映像データをデコーダー201でデコードして8ビットの映像信号を得ると、前処理部202でスケーリング、ノイズリダクションなどの前処理を施した後、デガンマー回路203でデガンマー処理して、ビット拡張して13ビットのリニアRGB信号を得ると、さらに原色点変換部204で原色点変換処理を行なう。デガンマー処理と一部のリニア信号処理をフロント・エンド・ボックス40内で行なう点では、図12に示したシステム構成と同様である。但し、フロント・エンド・ボックス40における信号処理の最終段に、簡易ガンマー回路205を追加する点で相違する。この簡易ガンマー回路205は、13ビットのリニアRGB信号を簡易ガンマーRGB信号にエンコードして10ビット長に縮退する。
【0043】
また、ヘッド・マウント・ディスプレイ10の入力段に、簡易デガンマー回路206を追加する。この簡易デガンマー回路206は、入力された10ビットの簡易ガンマーRGB信号をリニアRGB信号にデコードして、元の13ビットに復元する。これにより、映像表示システムは、フロント・エンド・ボックス40とヘッド・マウント・ディスプレイ10の間を、10ビットの映像信号インターフェースで接続することができる。その後、ヘッド・マウント・ディスプレイ10内では、13ビット長にデコードした後のリニアRGB信号に対し、輝度調整部207及び色温度調整部208で輝度調整、色温度調整などの残りのリニア信号処理を施した後、表示パネル209で表示出力される。
【0044】
本来のデガンマー処理は非線形演算であり負荷が重い。このため、13ビットのリニアRGB信号を10ビットのRGB信号にエンコードし、さらに10ビットのリニアRGB信号にデコードする際に、通常のガンマー処理及びデガンマー処理を行なうと、ヘッド・マウント・ディスプレイ10内での信号処理量が多くなり、消費電力と発熱量の増大を招来する。
【0045】
そこで、本実施形態では、線形演算で済む簡易ガンマー処理及び簡易デガンマー処理を導入することにより、フロント・エンド・ボックス40とヘッド・マウント・ディスプレイ10間を10ビットの映像信号インターフェースで接続することを可能にするとともに、ヘッド・マウント・ディスプレイ10での信号処理量を抑え、消費電力と発熱量の増大を防ぐようにしている。
【0046】
なお、図2に示した構成例では、リニアRGB信号に対するリニア信号処理のうち、フロント・エンド・ボックス40側では原色点変換部を行ない、ヘッド・マウント・ディスプレイ10側では輝度調整並びに色温度調整を行なうが、フロント・エンド・ボックス40及びヘッド・マウント・ディスプレイ10の各々で行なうリニア信号処理を入れ替えたり、各リニア信号処理を実行する順序を入れ替えたりすることは可能である。
【0047】
以下では、簡易ガンマー回路205で行なう簡易ガンマー処理、並びに、簡易デガンマー回路206で行なう簡易デガンマー処理の詳細について説明する。
【0048】
通常のガンマー処理では、べき乗ガンマーからなるガンマー曲線を用いて、ガンマー入力をガンマー出力に変換して、映像信号のビット長を削減することができる。また、デガンマー処理では、ガンマー処理とは逆の操作、すなわち、元のガンマー曲線とは逆関数となる曲線を用いて、映像信号のビット長を元に戻す。
【0049】
ガンマー処理及びデガンマー処理は非線形演算であり、負荷が重い。そこで、本実施形態では、ガンマー曲線を複数本の線分で近似した近似ガンマー曲線を用いて簡易ガンマー処理及び簡易デガンマー処理を行なうことにした。このような簡易ガンマー処理及び簡易デガンマー処理は、線形演算であり負荷が軽い。したがって、ヘッド・マウント・ディスプレイ10の入力段に簡易デガンマー回路を配置しても、消費電力や発熱量の増大を招来することはない。
【0050】
図3には、簡易ガンマー回路205の入出力特性例を示している。図示の例では、入力領域は、0〜511、512〜1023、1024〜2047、2048〜4095、4096〜8192の5つの領域に分け、各々の領域において順に傾き20、2-1、2-3、2-5、2-6の直線でそれぞれガンマー曲線を近似する。したがって、近似ガンマー曲線は、下式(1)に示すよう5本の線分で表わされる。
【0051】
【数1】

【0052】
図4には、上記の近似ガンマー曲線に従った簡易ガンマー処理を実現する簡易ガンマー回路205の構成例を示している。図示の簡易ガンマー回路では、まず判定部401が、13ビットの入力信号IRGBを閾値と比較して、0〜511、512〜1023、1024〜2047、2048〜4095、4096〜8192のいずれの領域内であるかに応じて、m=0〜4の5通りの場合分けを行ない、各変数i[m]、o[m]、a[m]を決定する。そして、減算部402で、入力信号IRGBからi[m]を引いた後、ビットシフト部403でa[m]だけ下位にビットシフトする。さらに、加算部404でo[m]を加えて出力する。
【0053】
簡易ガンマー回路205で行なう上記の処理は、要するに下式(2)に従って、入力信号xを簡易ガンマー処理して出力yを得ることである。その入出力特性は、図3に示した通りである。
【0054】
【数2】

【0055】
また、図5には、簡易デガンマー回路206の入出力特性例を示している。図示の例では、入力領域は、0〜511、512〜767、768〜959、960〜1024の5つの領域に分け、各々の領域において順に傾き2-6、2-5、2-3、2-1、20の直線でそれぞれデガンマー曲線を近似する。したがって、近似デガンマー曲線は、下式(3)に示すよう5本の線分で表わされる。これはちょうど図3とは逆特性となっている。
【0056】
【数3】

【0057】
図6には、上記の近似デガンマー曲線に従った簡易デガンマー処理を実現する簡易デガンマー回路206の構成例を示している。図示の簡易デガンマー回路では、まず判定部601が、13ビットの入力信号IRGBを閾値と比較して、0〜511、512〜767、768〜895、896〜959、959〜1024のいずれの領域内であるかに応じて、m=0〜4の5通りの場合分けを行ない、各変数i[m]、o[m]、a[m]を決定する。そして、減算部602で、入力信号IRGBからi[m]を引いた後、ビットシフト部603でa[m]だけ上位にビットシフトする。さらに、加算部604でo[m]を加えて出力する。
【0058】
簡易デガンマー回路206で行なう上記の処理は、要するに下式(4)に従って、入力信号xを簡易デガンマー処理して出力yを得ることである。その入出力特性は、図5に示した通りである。
【0059】
【数4】

【0060】
図7には、図4に示した簡易ガンマー回路205と図6に示した簡易デガンマー回路206を組み合わせた入出力特性を示している。同図から、信号レベルが小さい領域では入出力が一致し、信号レベルが大きい領域になるほど一致しなくなっているのが分かる。これは、簡易ガンマー回路で信号レベルが大きいほど、近似ガンマー曲線の傾きを決定する成分a[m]が大きくなってビットシフトが起こり、階調表現が劣化するためである。しかし、人間の目は信号レベルが小さい領域では感度が高いが、信号レベルが大きい領域では低いので、ほぼ劣化がないように知覚させることができる。
【0061】
図4に示した簡易ガンマー回路と図6に示した簡易デガンマー回路はいずれも、乗算器などの複雑な処理は必要とせず、基本的に、加算器とビットシフトだけで構成される。したがって、通常のデガンマー回路などと比べると、はるかに小規模な回路で実現することが可能である。
【0062】
なお、本明細書の開示の技術は、以下のような構成をとることも可能である。
(1)映像信号をデガンマー処理してリニアRGB信号を得るデガンマー回路と、リニアRGB信号に対して第1のリニア信号処理を行なう第1のリニア信号処理部と、前記第1のリニア信号処理した後のリニアRGB信号をエンコードしてビット縮退する簡易ガンマー回路を有する映像供給装置と、前記映像供給装置とは前記の縮退したビット長の映像信号インターフェースで接続され、ビット縮退したリニアRGB信号を元のビット長にデコードする簡易デガンマー回路と、前記デコードした後のリニアRGB信号に対して第2のリニア信号処理を行なう第2のリニア信号処理部と、前記第2のリニア信号処理した後のリニアRGB信号を表示出力する表示部を有する表示装置を具備する映像表示システム。
(2)前記簡易ガンマー回路は、線形演算によりリニアRGB信号をガンマー処理し、前記簡易デガンマー回路は、ガンマー処理されたリニアRGB信号を線形演算によりデガンマー処理する、上記(1)に記載の映像表示システム。
(3)前記簡易ガンマー回路は、入力領域を複数に分割し、分割した入力領域毎にガンマー曲線を近似した線分からなる近似ガンマー曲線を用いてリニアRGB信号をエンコードし、前記簡易デガンマー回路は、前記近似ガンマー曲線とは逆特性となる近似デガンマー曲線を用いて、エンコードされたリニアRGB信号をデコードする、上記(1)に記載の映像表示システム。
(4)前記簡易ガンマー回路と前記簡易デガンマー回路を組み合わせた入出力特性は、信号レベルが小さい領域において入出力が一致する、上記(3)に記載の映像表示システム。
(5)映像信号をデガンマー処理してリニアRGB信号を得るデガンマー回路と、リニアRGB信号に対して第1のリニア信号処理を行なうリニア信号処理部と、前記リニア信号処理した後のリニアRGB信号をエンコードしてビット縮退する簡易ガンマー回路を具備する映像供給装置。
(6)前記簡易ガンマー回路は、線形演算によりリニアRGB信号をガンマー処理する、上記(5)に記載の映像供給装置。
(7)前記簡易ガンマー回路は、入力領域を複数に分割し、分割した入力領域毎にガンマー曲線を近似した線分からなる近似ガンマー曲線を用いてリニアRGB信号をエンコードする、上記(5)に記載の映像供給装置。
(8)映像供給装置と接続する映像信号インターフェースと、前記映像供給装置でビット縮退したリニアRGB信号を前記映像信号インターフェース経由で入力して、元のビット長にデコードする簡易デガンマー回路と、前記デコードした後のリニアRGB信号に対して第2のリニア信号処理を行なうリニア信号処理部と、前記リニア信号処理した後のリニアRGB信号を表示出力する表示部を具備する表示装置。
(9)前記簡易デガンマー回路は、ガンマー処理されたリニアRGB信号を線形演算によりデガンマー処理する、上記(8)に記載の表示装置。
(10)前記映像供給装置では、入力領域を複数に分割し、分割した入力領域毎にガンマー曲線を近似した線分からなる近似ガンマー曲線を用いてリニアRGB信号をエンコードしており、前記簡易デガンマー回路は、前記近似ガンマー曲線とは逆特性となる近似デガンマー曲線を用いて、エンコードされたリニアRGB信号をデコードする、上記(8)に記載の表示装置。
(11)ユーザーの頭部に直接装着して用いられる、上記(8)に記載の表示装置。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上、特定の実施形態を参照しながら、本明細書で開示する技術について詳細に説明してきた。しかしながら、本明細書で開示する技術の要旨を逸脱しない範囲で当業者が該実施形態の修正や代用を成し得ることは自明である。
【0064】
本明細書では、本明細書で開示する技術をヘッド・マウント・ディスプレイに適用した実施形態を中心に説明してきたが、本明細書で開示する技術の要旨は特定の映像表示システムの構成に限定されるものではない。所定の映像信号インターフェースで接続された映像供給装置と表示装置で構成され、映像信号に対してリニア信号処理を行なうさまざまなタイプの映像表示システムに対して、同様に本明細書で開示する技術を適用することができる。
【0065】
要するに、例示という形態で本明細書で開示する技術について説明してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本明細書で開示する技術の要旨を判断するためには、特許請求の範囲を参酌すべきである。
【符号の説明】
【0066】
10…ヘッド・マウント・ディスプレイ
20…ブルーレイ・ディスク再生装置
30…ハイビジョン・ディスプレイ
40…フロント・エンド・ボックス
200…映像表示システム
201…デコーダー
202…前処理部
203…デガンマー回路
204…原色点変換部
205…簡易ガンマー回路
206…簡易デガンマー回路
207…輝度調整部
208…色温度調整部
209…表示パネル
401…判定部
402…減算部
403…ビットシフト部
404…加算部
601…判定部
602…減算部
603…ビットシフト部
604…加算部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
映像信号をデガンマー処理してリニアRGB信号を得るデガンマー回路と、リニアRGB信号に対して第1のリニア信号処理を行なう第1のリニア信号処理部と、前記第1のリニア信号処理した後のリニアRGB信号をエンコードしてビット縮退する簡易ガンマー回路を有する映像供給装置と、
前記映像供給装置とは前記の縮退したビット長の映像信号インターフェースで接続され、ビット縮退したリニアRGB信号を元のビット長にデコードする簡易デガンマー回路と、前記デコードした後のリニアRGB信号に対して第2のリニア信号処理を行なう第2のリニア信号処理部と、前記第2のリニア信号処理した後のリニアRGB信号を表示出力する表示部を有する表示装置と、
を具備する映像表示システム。
【請求項2】
前記簡易ガンマー回路は、線形演算によりリニアRGB信号をガンマー処理し、
前記簡易デガンマー回路は、ガンマー処理されたリニアRGB信号を線形演算によりデガンマー処理する、
請求項1に記載の映像表示システム。
【請求項3】
前記簡易ガンマー回路は、入力領域を複数に分割し、分割した入力領域毎にガンマー曲線を近似した線分からなる近似ガンマー曲線を用いてリニアRGB信号をエンコードし、
前記簡易デガンマー回路は、前記近似ガンマー曲線とは逆特性となる近似デガンマー曲線を用いて、エンコードされたリニアRGB信号をデコードする、
請求項1に記載の映像表示システム。
【請求項4】
前記簡易ガンマー回路と前記簡易デガンマー回路を組み合わせた入出力特性は、信号レベルが小さい領域において入出力が一致する、
請求項3に記載の映像表示システム。
【請求項5】
映像信号をデガンマー処理してリニアRGB信号を得るデガンマー回路と、
リニアRGB信号に対して第1のリニア信号処理を行なうリニア信号処理部と、
前記リニア信号処理した後のリニアRGB信号をエンコードしてビット縮退する簡易ガンマー回路と、
を具備する映像供給装置。
【請求項6】
前記簡易ガンマー回路は、線形演算によりリニアRGB信号をガンマー処理する、
請求項5に記載の映像供給装置。
【請求項7】
前記簡易ガンマー回路は、入力領域を複数に分割し、分割した入力領域毎にガンマー曲線を近似した線分からなる近似ガンマー曲線を用いてリニアRGB信号をエンコードする、
請求項5に記載の映像供給装置。
【請求項8】
映像供給装置と接続する映像信号インターフェースと、
前記映像供給装置でビット縮退したリニアRGB信号を前記映像信号インターフェース経由で入力して、元のビット長にデコードする簡易デガンマー回路と、
前記デコードした後のリニアRGB信号に対して第2のリニア信号処理を行なうリニア信号処理部と、
前記リニア信号処理した後のリニアRGB信号を表示出力する表示部と、
を具備する表示装置。
【請求項9】
前記簡易デガンマー回路は、ガンマー処理されたリニアRGB信号を線形演算によりデガンマー処理する、
請求項8に記載の表示装置。
【請求項10】
前記映像供給装置では、入力領域を複数に分割し、分割した入力領域毎にガンマー曲線を近似した線分からなる近似ガンマー曲線を用いてリニアRGB信号をエンコードしており、
前記簡易デガンマー回路は、前記近似ガンマー曲線とは逆特性となる近似デガンマー曲線を用いて、エンコードされたリニアRGB信号をデコードする、
請求項8に記載の表示装置。
【請求項11】
ユーザーの頭部に直接装着して用いられる、
請求項8に記載の表示装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−85045(P2013−85045A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222368(P2011−222368)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】