説明

時系列信号測定装置および時系列信号測定方法

【課題】1台のフェムト秒レーザを用いた場合であっても、高精度に時系列信号を得ることができる時系列信号測定装置を提供する。
【解決手段】繰り返し周波数を変化させてパルスレーザ光を出射するフェムト秒レーザと、パルスレーザ光を測定用パルスレーザ光と検出用パルスレーザ光とに分割するビームスプリッタと、測定用パルスレーザ光によって励起されたテラヘルツ光とされた入射光が入射されるとともに、検出用パルスレーザ光が入射されている時間内で入射光による信号を出力する検出器とを備え、検出手段からの各時刻における出力信号を時間分解信号として得ることによって入射光の時系列信号を測定する時系列信号測定装置であって、検出用パルスレーザ光が導光される検出側光路の光路長は、検出用パルスレーザ光が出射された時刻とは異なる時刻で出射された入射光を得るように設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時系列信号測定装置および時系列信号測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のフェムト秒レーザ技術の実用化により、時系列信号は、光制御による高分解測定が可能になってきた。
その一般的な方法として、パルスレーザ光をビームスプリッタにより測定用パルスレーザ光および検出用パルスレーザ光の2つに分割し、測定用パルスレーザ光を繰返し現象の発生に使用し、検出用パルスレーザ光の光路長を動的に制御して検出器の作動に使用することにより、光路長に依存した時間分解で現象を測定するものが知られている(特許文献1参照)。
さらに最近では、レーザの制御技術が発達し、パルスレーザ光の繰返し周波数を高精度に制御できるようになってきた。このようなレーザを2台使用し、一方を繰り返し現象の発生に、他方を検出器の作動に使用し、その繰返し周波数の違いにより、相対的なタイミングを特許文献1のような動的な光路長制御の場合と同様に制御することができる手法が提案された(特許文献2参照)。この方法では、従来のような光路長を動的に制御するための遅延光学系が不要であるため、高速でタイミングを変化させることができるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2005/019809号パンフレット
【特許文献2】特許第3688841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、2台のフェムト秒レーザを高精度で制御することはできても、フェムト秒レーザは高価なものであるため、実際の装置に2台のフェムト秒レーザを導入することはコスト的に困難である。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、1台のレーザ光源(例えばフェムト秒レーザ)を用いた場合であっても、高分解能とされた時系列信号を高精度に得ることができる時系列信号測定装置および時系列信号測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明の時系列信号測定装置は、繰り返し周波数を変化させてパルスレーザ光を出射するパルスレーザ光源と、該パルスレーザ光源からのパルスレーザ光を測定用パルスレーザ光と検出用パルスレーザ光とに分割するビームスプリッタと、前記測定用パルスレーザ光によって励起された光または該測定用パルスレーザ光とされた入射光が入射されるとともに、前記検出用パルスレーザ光が入射されている時間内で前記入射光による信号を出力する検出手段と、前記ビームスプリッタと前記検出手段との間に設けられ、前記検出用パルスレーザ光が導光される検出側光路とを備え、前記検出手段からの各時刻における出力信号を時間分解信号として得ることによって前記入射光の時系列信号を測定する時系列信号測定装置であって、前記検出側光路の光路長は、前記検出用パルスレーザ光が出射された時刻とは異なる時刻で出射された入射光を得るように設定されていることを特徴とする。
【0007】
パルスレーザ光源によって繰り返し周波数が変化させられてパルスレーザ光が出射される。なお、パルスレーザ光源としては、好ましくは、フェムト秒レーザが用いられる。
パルスレーザ光源から出射されたパルスレーザ光は、ビームスプリッタによって測定用パルスレーザ光と検出用パルスレーザ光に分割される。
測定用パルスレーザ光からの光は、測定対象物である試料を透過または反射した後に、入射光として検出手段へと入射する。なお、試料に照射する光は、測定用パルスレーザ光によって励起された励起光(例えばテラヘルツ光)や、測定用パルスレーザ光そのものが用いられる。
検出手段には、検出用パルスレーザ光が入射されるようになっている。検出手段は、検出用パルスレーザ光が入射されている時間内で、入射光による信号を時間分解信号として出力する。
検出用パルスレーザ光は、ビームスプリッタから検出側光路を通って検出手段へと導かれる。この検出側光路の光路長は、検出用パルスレーザ光が出射された時刻とは異なる時刻で出射された入射光を得るように設定されている。上述のように、パルスレーザ光源から出射されるパルスレーザ光は、繰り返し周波数が変化させられていることから、入射光の繰り返し周波数とは異なる繰り返し周波数で出射された検出用パルスレーザ光を用いて入射光を得ることになる。このように、入射光と検出用パルスレーザ光との間で繰り返し周波数が異なるので、各時刻における入射光の時間分解信号の検出タイミング(位相)が順次ずれることになり、結果として入射光の時系列信号を得ることができる。
なお、検出用パルスレーザ光が出射された時刻とは異なる時刻の入射光としては、検出用パルスレーザ光の出射時刻の次時刻の入射光が好ましい。ただし、次時刻以降の入射光を用いても良い。
【0008】
さらに、本発明の時系列信号測定装置では、前記パルスレーザ光源は、所定周期にて繰り返し周波数を変化させることを特徴とする。
【0009】
所定周期にて繰り返し周波数を変化させることにより、同一繰り返し周波数のパルスレーザ光を周期毎に出射させることができる。これにより、同一条件の入射光および検出用パルスレーザ光の組合せを周期毎に作り出すことができるので、入射光の同一位相の検出信号を周期毎に複数回得ることができる。この同一位相の検出信号を重畳させることにより、計測精度を向上させることができる。
【0010】
さらに、本発明の時系列信号測定装置では、前記検出側光路には、光路長を設定するための光ファイバが設けられていることを特徴とする。
【0011】
光ファイバの長さを調節することによって検出用パルスレーザ光の光路長を所望長に設定することができる。光ファイバの長さの調節は極めて簡便にできるので、装置の製作が容易となる。また、長い光路長が必要な場合であっても、光ファイバであれば巻回して束ねた状態で設置することができるので、場所をとらずに済むという利点がある。
光ファイバの長さとしては、例えば、パルスレーザの繰り返し周波数が50MHz程度の場合には、9m程度となる。
なお、光ファイバを用いない場合には、例えば、ミラーを用いた光学系を構成し、光路長を適宜設定することとしても良い。
【0012】
さらに、本発明の時系列信号測定装置では、前記パルスレーザ光源は、一の時刻におけるパルスレーザ光の繰り返し周波数から得られる繰り返し周期と、次時刻におけるパルスレーザ光の繰り返し周波数から得られる繰り返し周期との差分が、各時刻間において一定となるように、パルスレーザ光の繰り返し周波数を変化させることを特徴とする。
【0013】
隣り合う一の時刻と次時刻とのパルスレーザ光の繰り返し周期の差分を一定とすることにより、入射光に対する検出用パルスレーザ光のずれ時間が一定となり、検出手段によって得られる時系列信号の時間間隔(位相)が一定となるので、精度の良い計測が可能となる。なお、パルスレーザ光の繰り返し周期は、繰り返し周波数の逆数となる。
【0014】
また、本発明の時系列信号測定方法は、繰り返し周波数を変化させてパルスレーザ光を出射するパルスレーザ光源と、該パルスレーザ光源からのパルスレーザ光を測定用パルスレーザ光と検出用パルスレーザ光とに分割するビームスプリッタと、前記測定用パルスレーザ光によって励起された光または該測定用パルスレーザ光とされた入射光が入射されるとともに、前記検出用パルスレーザ光が入射されたタイミングで前記入射光による信号を出力する検出手段と、前記ビームスプリッタと前記検出手段との間に設けられ、前記検出用パルスレーザ光が導光される検出側光路とを備え、前記検出手段からの各時刻における出力信号を時間分解信号として得ることによって前記入射光の時系列信号を測定する時系列信号測定方法であって、前記検出側光路の光路長は、前記検出用パルスレーザ光が出射された時刻とは異なる時刻で出射された入射光を得るように設定されていることを特徴とする。
【0015】
パルスレーザ光源によって繰り返し周波数が変化させられてパルスレーザ光が出射される。なお、パルスレーザ光源としては、好ましくは、フェムト秒レーザが用いられる。
パルスレーザ光源から出射されたパルスレーザ光は、ビームスプリッタによって測定用パルスレーザ光と検出用パルスレーザ光に分割される。
測定用パルスレーザ光からの光は、測定対象物である試料を透過または反射した後に、入射光として検出手段へと入射する。なお、試料に照射する光は、測定用パルスレーザ光によって励起された励起光(例えばテラヘルツ光)や、測定用パルスレーザ光そのものが用いられる。
検出手段には、検出用パルスレーザ光が入射されるようになっている。検出手段は、検出用パルスレーザ光が入射されている時間内で、入射光による信号を時間分解信号として出力する。
検出用パルスレーザ光は、ビームスプリッタから検出側光路を通って検出手段へと導かれる。この検出側光路の光路長は、検出用パルスレーザ光が出射された時刻とは異なる時刻で出射された入射光を得るように設定されている。上述のように、パルスレーザ光源から出射されるパルスレーザ光は、繰り返し周波数が変化させられていることから、入射光の繰り返し周波数とは異なる繰り返し周波数で出射された検出用パルスレーザ光を用いて入射光を得ることになる。このように、入射光と検出用パルスレーザ光との間で繰り返し周波数が異なるので、各時刻における入射光の時間分解信号の検出タイミング(位相)が順次ずれることになり、結果として入射光の時系列信号を得ることができる。
なお、検出用パルスレーザ光が出射された時刻とは異なる時刻の入射光としては、検出用パルスレーザ光の出射時刻の次時刻の入射光が好ましい。ただし、次時刻以降の入射光を用いても良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、パルスレーザ光の繰り返し周波数を変化させた上で、検出側光路の光路長を適宜設定し、検出用パルスレーザ光が出射された時刻とは異なる時刻で出射された入射光を得るようにしたので、1台のパルスレーザ光源であっても、特許文献1のような光路長を動的に制御するための遅延光学系を用いずに、高分解とされた入射光の時系列信号を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の時系列信号測定装置の一実施形態を示した概略図である。
【図2】フェムト秒レーザから出射されるパルスレーザ光の繰り返し周波数を示したグラフである。
【図3】時間分割された時系列信号の取得方法について説明した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明にかかる時系列信号測定装置および時系列信号測定方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1には、本実施形態にかかる時系列信号測定装置が示されている。レーザ光源として、1台のフェムト秒レーザ1が用いられる。フェムト秒レーザ1は、出射するパルスレーザ光の繰り返し周波数を変化させることができるようになっている。
フェムト秒レーザ1の出射側には、ビームスプリッタ3が設けられている。ビームスプリッタ3により、測定用パルスレーザ光L1と、検出用パルスレーザ光L2とに分割される。
【0019】
測定用パルスレーザ光L1は、レンズ5を透過した後、パルス光放射手段7へと導かれる。パルス光放射手段7は、半球よりも全球に近い(即ち半球よりも球形部が延長された)形状とされた超半球の光学部材となっている。この超半球とされたパルス光放射手段7の平面部上に光伝導素子が設けられている。光伝導素子に測定用パルスレーザ光L1が照射されたときに瞬間的に電流が流れ、遠赤外電磁波パルス光であるテラヘルツ光P1を放射する。
【0020】
パルス光放射手段7から放射されたテラヘルツ光P1は、計測対象物となる図示しない試料を透過または反射した後に、入射光P2として検出器9へと入射する。検出器9は、パルス光放射手段7と同様に、超半球とされた光学部材の平面部上に光伝導素子が設けられた構造となっている。検出器9の光電動素子に検出用パルスレーザ光L2が照射されたときに瞬間的に導電性となり、この時間内に光伝導素子へと入射した入射光P2の電場強度を電流として出力することができる。
【0021】
検出用パルスレーザ光L2は、レンズ11を透過した後、光路長設定手段となる光ファイバ13へと導かれる。光ファイバ13の長さは、後述するように、所望の長さに設定されている。光ファイバ13は、図示されているように、巻回した状態(場合によってはさらに束ねた状態)で設置されている。光ファイバ13から出射された検出用パルスレーザ光L2は、レンズ15を透過した後、検出器9へと入射する。
【0022】
ビームスプリッタ3(位置A)からパルス光放射手段7(位置B)を経て検出器9の光伝導素子(位置C)までの経路が、測定側光路とされる。一方、ビームスプリッタ3(位置A)から光ファイバ13を経由して検出器9の光伝導素子(位置C)までの経路が、検出側光路とされる。測定側光路の光路長と、検出側光路の光路長との光路差を光ファイバ13によって適切に設定することにより、本発明による測定が実現される。
【0023】
図2には、フェムト秒レーザ1から出射されるパルスレーザ光の繰り返し周波数が示されている。同図において、横軸は時間t、縦軸はパルスレーザ光の繰り返し周波数fである。同図に示されているように、時刻t0にて繰り返し周波数f1とされたパルスレーザ光が出射され、次に時刻t1にて繰り返し周波数f2とされたパルスレーザ光が出射される。繰り返し周波数fは、時刻t2,t3,・・・と時刻が経過するにつれて単調増加する(f3,f4,・・・)ようになっており、一周期T分だけ経過した後に、再び最小の繰り返し周波数f1に戻り、再度単調増加するようになっている。このように、三角波形状の波形となるように周期Tにて繰り返し周波数fを変化させている。
【0024】
同図に示すように、時刻t0と時刻t1との時間差は1/f1となり、時刻t1と時刻t2との時間差は1/f2となる。このように、出射時刻が隣り合うパルスレーザ光の間隔(繰り返し周期)を順次変化させることができるので(例えば、1/f1>1/f2>1/f3)、各時刻における入射光の検出タイミング(位相)が順次ずれることになり、入射光P2の時系列信号を得ることができる。すなわち、この時間差を適宜設定することにより、入射波P2の時間分解能を制御することができる。
【0025】
次に、図3を用いて、入射光P2の時系列信号を得る方法について説明する。
同図は、横軸が時間tとなっており、各グラフにおいて共通となっている。
最上段のグラフは、縦軸がフェムト秒レーザ1の繰り返し周波数となっており、図2を拡大表示したものとなっている。
上から二段目のグラフは、ビームスプリッタ3にてパルスレーザ光が分割される位置A(図1参照)におけるタイミングが示されている。ビームスプリッタ3は、フェムト秒レーザ1の近傍に設置されているので、パルスレーザ光の出射タイミングとほぼ同時刻となっている。
上から三段目のグラフは、測定用パルスレーザ光L1がパルス光放射手段7の光伝導素子に入射する位置B(図1参照)におけるタイミングが示されている。位置A及び位置Bの各パルスを結ぶ破線によって、位置Aから位置Bまでの光路長による時間遅れが示されている。
上から四段目のグラフは、入射光P2が検出器9の光伝導素子に入射する位置Cにおけるタイミングを示している。位置B及び位置C(入射光)の各パルスを結ぶ破線によって、位置Bから位置Cまでの光路長による時間遅れが示されている。なお、入射光P2は、パルス光放射手段7によってテラヘルツ光(THz光)に変換された波形となっている。
上から五段目(最下段)のグラフは、検出用パルスレーザ光L2が検出器9の光伝導素子に入射する位置Cにおけるタイミングを示している。位置Aのタイミングと位置C(検出光)のパルスとを結ぶ破線によって、位置Aから光ファイバ13を経て検出器9の光伝導素子に到達する光路長(検出側光路長)による時間遅れが示されている。
【0026】
位置C(入射光)におけるグラフと位置C(検出光)におけるグラフを比較すると分かるように、位置C(検出光)のタイミングは、光路長を調整する光ファイバ13によって、異なる時刻にて出射された入射光を検出するように設定されている。より詳細に説明すると、検出用パルスレーザ光L2が出射された時刻、即ちフェムト秒レーザ1にてパルスレーザ光が出射された時刻(位置Aにおける時刻とほぼ同等)とは異なる時刻で出射された入射光P2を得るように設定されている。例えば、時刻t0で出射された検出用パルスレーザ光L2は、時刻t1を少し過ぎた時刻t0’で検出器9の光伝導素子に到達する。この時刻t0’では、検出用パルスレーザ光L2が出射された時刻t0の次の時刻t1にて出射された測定用パルスレーザ光L1によって形成された入射光P2が検出器9の光伝導素子に到達している。このようにして、時刻t0にて出射された検出用パルスレーザ光L2によって次時刻である時刻t1にて出射された入射光P2の時間分解信号を検出することができるようになっている。以降の時刻についても同様に、時刻t1,t2,・・・に出射された検出用パルスレーザ光L2によって次時刻である時刻t2,t3,・・・に出射された入射光P2の時間分解信号を検出するようになっている。
【0027】
位置C(検出光)のグラフの下方には、入射光P2が示されており、同一形状の入射光P2に対する各時刻における計測値を総合することにより、一つの入射光P2に対して複数の時間分解信号が得られることが示されている。そして、図2に示したように、周期Tにて繰り返し周波数を変化させることにより、各時刻における時間分解信号を重畳することによって、計測精度を上げることができる。
【0028】
光ファイバ13の長さは、本実施形態では、次時刻の入射光P2を得ることができるように、測定側光路(位置A→位置B→位置C)と検出側光路(位置A→光ファイバ13→位置C)との光路差を設定する。具体的には、パルスレーザ光の繰り返し周波数をfからfまで変化させる場合には、1/fに相当する光路長差を形成するように光ファイバ13の長さを設定する。例えば、fを50MHzとした場合には、光ファイバ13の屈折率を1.5とすると、下式のとおり9m程度となる。
3×10×1.5/(50×10)=9(m)
ただし、所定の誤差を許容するために、1/f+α(ここで、αは5ps程度)に相当する光路長とすることが好ましい。
なお、繰り返し周波数fに対応した光ファイバ13の長さに変えて、fからfn−1までの周波数から任意に選定した周波数に対応した光ファイバ13の長さを用いても良い。どの繰り返し周波数を選定するかは、計測する入射光P2のどの位相を中心として測定すべきかを考慮して決定すると良い。
【0029】
このように、本実施形態によれば、フェムト秒レーザ1から出射されるパルスレーザ光の繰り返し周波数が変化させられていることから、入射光P2の繰り返し周波数とは異なる繰り返し周波数で出射された検出用パルスレーザ光L2を用いて入射光P2の時間分解信号を得ることができる。このように、入射光P2と検出用パルス光L2との間で繰り返し周波数が各検出時刻で異なるので、各検出時刻における入射光P2の時間分解信号の位相が順次ずれることになり、入射光P2の時系列信号を得ることができる。
すなわち、繰り返し周波数を変化させることによって、1台のフェムト秒レーザ1を用いるだけで、高分解能とされた時系列信号を得ることができる。
【0030】
また、所定周期Tにて繰り返し周波数を変化させ、入射光P2の同一位相の時間分解信号を周期毎に複数回得ることができることとしたので。この同一位相の検出信号を重畳させることにより、計測精度を向上させることができる。
【0031】
また、検出用パルスレーザ光L2の光路長の設定を、光ファイバ13を用いて行うこととしたので、極めて簡便に光路長の設定を行うことができ、装置の製作が容易となる。長い光路長が必要な場合であっても、光ファイバ13であれば巻回して束ねた状態で設置することができるので、場所をとらずに済むという利点がある。
【0032】
なお、本実施形態では、次時刻の入射光P2を測定するように光ファイバ13の長さを設定することとしたが、本発明は、次時刻の入射光P2に限定されるものでない。例えば2つ以上離れた入射光P2を測定することによっても本実施形態と同様に高分解能とされた時系列信号を測定できるので、この様な場合には、2つ以上離れた入射光P2を測定するように光ファイバ13の長さを設定する。ただし、より隣接した時刻の入射光を得るようにした方が、光ファイバの長さを短くできる。
【0033】
また、本実施形態では、光ファイバ13を用いて光路差を調整することとしたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、ミラーを用いた光学系を構成し、光路長を適宜設定することとしても良い。
【0034】
また、本実施形態では、図2に示したように、パルスレーザ光の繰り返し周波数を直線的に単調増加させることとしたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、得られる時間分解信号の時間間隔(位相差)を一定となるように調整した繰り返し周波数を変化させてもよい。
具体的には、下式に示すように繰り返し周波数を変化させれば良い。
+1=1(1/f−Δt)
ここで、Δtは、隣り合う時間分解信号間の時間差であり、一定値となる。
このように、隣り合う一の時刻と次時刻とのパルスレーザ光の繰り返し周期の差分Δtを一定とすることにより、入射光に対する検出用パルスレーザ光のずれ時間が一定となり、検出器9によって得られる時間分解信号の時間間隔Δtが一定となるので、精度の良い計測が可能となる。
【0035】
また、本実施形態では、パルスレーザ光の繰り返し周波数が増加するように変化させることとしたが、本発明はこれに限定されず、繰り返し周波数が減少するように変化させても良い。
【0036】
また、本実施形態では、パルス光放射手段7から放射されたテラヘルツ光P1を、試料を測定する光として用いたが、本発明はこれに限定されない。例えば、パルス光放射手段によって変換された他の波長の光を入射光として用いても良いし、パルス光放射手段7を用いずに測定用パルスレーザ光をそのまま用いても良い。
【符号の説明】
【0037】
1 フェムト秒レーザ(レーザ光源)
3 ビームスプリッタ
7 パルス光放射手段
9 検出器(検出手段)
13 光ファイバ
L1 測定用パルスレーザ光
L2 検出用パルスレーザ光
P1 テラヘルツ光
P2 入射光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰り返し周波数を変化させてパルスレーザ光を出射するパルスレーザ光源と、
該パルスレーザ光源からのパルスレーザ光を測定用パルスレーザ光と検出用パルスレーザ光とに分割するビームスプリッタと、
前記測定用パルスレーザ光によって励起された光または該測定用パルスレーザ光とされた入射光が入射されるとともに、前記検出用パルスレーザ光が入射されている時間内で前記入射光による信号を出力する検出手段と、
前記ビームスプリッタと前記検出手段との間に設けられ、前記検出用パルスレーザ光が導光される検出側光路と、
を備え、
前記検出手段からの各時刻における出力信号を時間分解信号として得ることによって前記入射光の時系列信号を測定する時系列信号測定装置であって、
前記検出側光路の光路長は、前記検出用パルスレーザ光が出射された時刻とは異なる時刻で出射された入射光を得るように設定されていることを特徴とする時系列信号測定装置。
【請求項2】
前記パルスレーザ光源は、所定周期にて繰り返し周波数を変化させることを特徴とする請求項1に記載の時系列信号測定装置。
【請求項3】
前記検出側光路には、光路長を設定するための光ファイバが設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の時系列信号測定装置。
【請求項4】
前記パルスレーザ光源は、一の時刻におけるパルスレーザ光の繰り返し周波数から得られる繰り返し周期と、次時刻におけるパルスレーザ光の繰り返し周波数から得られる繰り返し周期との差分が、各時刻間において一定となるように、パルスレーザ光の繰り返し周波数を変化させることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の時系列信号測定装置。
【請求項5】
繰り返し周波数を変化させてパルスレーザ光を出射するパルスレーザ光源と、
該パルスレーザ光源からのパルスレーザ光を測定用パルスレーザ光と検出用パルスレーザ光とに分割するビームスプリッタと、
前記測定用パルスレーザ光によって励起された光または該測定用パルスレーザ光とされた入射光が入射されるとともに、前記検出用パルスレーザ光が入射されたタイミングで前記入射光による信号を出力する検出手段と、
前記ビームスプリッタと前記検出手段との間に設けられ、前記検出用パルスレーザ光が導光される検出側光路と、
を備え、
前記検出手段からの各時刻における出力信号を時間分解信号として得ることによって前記入射光の時系列信号を測定する時系列信号測定方法であって、
前記検出側光路の光路長は、前記検出用パルスレーザ光が出射された時刻とは異なる時刻で出射された入射光を得るように設定されていることを特徴とする時系列信号測定方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−286443(P2010−286443A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−142214(P2009−142214)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)文部科学省、平成21年度 地域科学技術振興事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504299106)株式会社先端赤外 (3)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【Fターム(参考)】