説明

時系列微弱信号の検出が可能な時系列変換パルス分光計測装置及びその方法

【課題】 励起レーザーのパルス間隔に影響を受けずにSN比が高く高精度の測定ができる時系列変換パルス分光計測装置及び分光法を提供することを目的とする。
【解決手段】 試料からの反射又は透過電磁波の電場強度に対応して前記電極膜間に流れて前記検出用光伝導素子から送出された電流信号を電荷として順次蓄積し、その蓄積電荷量を検出する電荷蓄積検出手段と、前記検出用光伝導素子から送出された前記電流信号を前記電荷検出手段へ通過させる測光時間区分信号を生成する測光時間区分信号生成手段と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時系列微弱信号の検出が可能な時系列変換パルス分光計測装置及びその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、極短幅パルスレーザー技術の実用化により、遠赤外領域(特に、テラヘルツ帯域)のコヒーレントなパルス状の電磁波の放射技術及び検出技術が飛躍的に進歩した。それによって、この遠赤外領域のパルス状の電磁波を用いた時系列変換パルス分光が可能となり、日本においても時系列変換パルス分光計測装置の実用化装置の開発が先駆的に進められた。
【0003】
時系列変換パルス分光とは、パルス状の電磁波の時間に依存した電場強度を測定し、その時間に依存したデータ(時系列データ)をフーリエ変換することにより、そのパルスを形成する各周波数成分の電場強度と位相とを得る分光法である。この分光法の特徴の一つに、測定波長領域が従来計測が困難であった光と電波の境界領域であることが挙げられる。このため、この分光法により新規材料の性質や新しい現象の解明が期待されている。また、従来の分光法では電磁波の電場強度しか得られなかったが、この時系列変換パルス分光計測法では、電磁波の電場強度の時間変化を直接測定することから、電磁波の電場強度(振幅)だけでなく、その位相をも得ることができるというユニークな特徴を持っている。従って、試料がない場合と比較することによって、位相シフトスペクトルを得ることができる。位相シフトは波数ベクトルに比例することから、この分光法を用いて試料中の分散関係を決定することができ、この分散関係から誘電体材料の誘電率を知得することも可能となる(特開2002−277394号公報参照)。
【0004】
図1に、時系列変換パルス分光計測装置の概略構成図を示す。また、図2に図1の分光計測装置においてパルス電磁波の放射用及び検出用に用いられる光伝導素子の概略構成図を示す。図3は、図2の破線AA’に沿った断面図である。
【0005】
この時系列変換パルス分光計測装置は、所定の時間幅のパルスレーザー光を所定の周波数で発生する光源1と、パルスレーザー光をポンプパルス光とサンプリングパルス光とに分波するビームスプリッタ2と、ポンプパルス光の照射によりパルス光を放射する放射用光伝導素子5と、放射用光伝導素子5から放射されたパルス電磁波を試料8へ導く光学要素6,7と、サンプリングパルス光を前記ポンプパルス光に対して遅延させる光学遅延部13と、それぞれアンテナ部23a,24aを有しかつ互いのアンテナ部23a,24aが微小間隙をあけて離隔しダイポールアンテナを成すように配置された一対の電極膜23,24を備えた光伝導膜22を具備する検出用光伝導素子12であって、ポンプパルス光に対して遅延したサンプリングパルス光が光伝導膜21に照射されるとアンテナ部間Dに光キャリアが生成され、その光キャリアのうち電極へ移動したものを測定することによって、試料から反射又は透過してきたパルス電磁波を検出する検出用光伝導素子12と、を備えている。
【0006】
光源1は例えば、中心波長800nm、パルス幅80fs、繰り返し周波数80MHzのチタンサファイアパルスレーザーである。光源1から放射されたフェムト秒パルスレーザー光は、ビームスプリッタ2によってポンプパルス光(パルス励起光)L1とサンプリングパルス光L4とに分波される。ポンプパルス光L1は、光学チョッパ3により例えば、周波数2kHzで変調して送られ、対物レンズ4で集束されて放射用光伝導素子5に照射される。この放射用光伝導素子5はポンプパルス光L1が照射されたときにだけキャリアが生成されて瞬間的に電流が流れ、パルス電磁波L2を放射する。このパルス電磁波L2は、放物面鏡(光学要素)6、7によりコリメートされ測定試料8に照射される。その試料8の透過ないし反射パルス電磁波(ここでは透過パルス電磁波)L3は、放物面鏡10、11により集光され、検出用光伝導素子12に導光される。
【0007】
他方、サンプリングパルス光L4が検出用光伝導素子12に導光・照射されると、光伝導素子12は放射用素子の場合と同様にその瞬間だけ光キャリアが生成され、それらの光キャリアが試料8からの透過パルス電磁波L3の電場によって電極へ移動して電流として検出される。サンプリングパルス光L4がビームスプリッタ2から検出用光伝導素子12に到達するまでの時間を光学遅延部13、14により遅延させて透過パルス電磁波L3の電場強度の時間波形の各部分を順次測定することにより、試料を透過してきた透過パルス電磁波L3の時間波形全体を得ることができる。
【0008】
詳述すると、検出用光伝導素子12はサンプリングパルス光L4を照射している間の試料8からの透過パルス電磁波L3の電場強度に対応する電流を検出するが、これは、検出される透過パルス電磁波の電場強度が光キャリアに対して検出用光伝導素子12の電極23、24の微小アンテナ23a,24a間のバイアス電圧として働くことによって光キャリアが移動し、その電場強度に比例する電流が流れ、この電流の大きさと符号とを検出する。サンプリングパルス光L4の時間幅は透過パルス電磁波L3の時間幅よりも数十分の一程度とかなり短い。すなわち、透過パルス電磁波L3の電場強度の時間波形全体(最初の部分から最後の部分まで)が到達する時間に比較してサンプリングパルス光L4の照射時間は短い。そのため、サンプリングパルス光L4が照射している間に検出用光伝導素子12に流れる電流は透過パルス電磁波L3の電場のごく短い照射時間のものであり、透過パルス電磁波L3の電場のうち光学遅延部13による時間遅延によって決められた照射時間部分のみが電流として測定され、さらに時間遅延をずらしていくことにより透過パルス電磁波L3の電場の他の部分も測定し、透過パルス電磁波L3の電場の時間波形全体を得ることになる。
【0009】
ここで、光伝導素子12で検出される検出信号(電流)は微弱なため、電流増幅器15で電流を電圧に変換する。また、励起光にはチョッパコントローラ18で制御される光学チョッパー3により変調がかけられ、ロックインアンプ16でその変調周波数に同期した電圧のみを周波数フィルターで拾い上げ、背景ノイズの影響を小さくして信号を検出している。
【0010】
試料8の透過パルス電磁波L3の電場強度の各時間分解データは、信号処理手段によって処理される。すなわち、ロックインアンプ16を介してコンピュータ17に伝送された後、順次、時系列データとして記憶され、一連の時系列データを、該コンピュータ17でフーリエ変換処理して振動数(周波数)空間に変換することにより、試料8の透過パルス電磁波L3の振幅及び位相の分光スペクトルが得られる。すなわち、試料からの透過パルス電磁波の電場振幅及び振幅を、光伝導素子の微小アンテナ間の電流の大きさと向きとして時系列で記録し、それをフーリエ変換することにより、透過パルス電磁波L3の振幅及び位相スペクトルを得る。
【0011】
図2及び図3で示した光伝導素子は、図のように半導体基板21、例えば、ガリウム砒素(GaAs)基板上に光伝導膜22を形成し、その上に、それぞれ中央部に微小なアンテナ部23a、24aを有する一対の電極膜23、24を蒸着することによって作製される。電極膜のアンテナ部は互いに微小間隙で離隔してダイポールアンテナを成すように配置され、各アンテナ部は一対の電極膜に直流のバイアス電圧が印加されたときにアンテナ部間(微小間隙部)Dに均一な電界を形成できるような形状に形成される。光伝導膜は、1ps以下のキャリア寿命、高いキャリア移動度、高い耐電圧を有することが必要であり、現在は低温成長させたガリウム砒素(LT-GaAs)膜が使用される場合が多い。
【0012】
光伝導素子では、100fs程度のレーザーパルス光が光伝導膜の微小アンテナ部の間隙近傍の領域に照射され、光キャリア(電子と正孔)が生成される。この光キャリアは電極間に印加されたバイアス電圧により電極に移動することによって電流が流れる。光伝導素子は通常、光伝導素子の基板側に配置された高抵抗シリコンの超半球(もしくは半球)レンズと共に用いられ、例えば、放射用として用いる場合、微小ダイポールアンテナから放射されたパルス電磁波は通常、超半球レンズ18により光の拡がりを抑えつつ放物面鏡へ送られる。パルス電磁波は放物面鏡でコリメートされた後、対物レンズで絞って試料に照射される。
【0013】
光伝導素子を検出素子として用いる場合、電極の微小アンテナ間を流れる検出電流が微弱なため、通常、低雑音電流アンプと共に使用される。すなわち、光伝導膜のうち、微小アンテナ部の微小間隙近傍の領域がサンプリングパルス光によって励起されると光キャリアが生成され、この光キャリアは試料から反射又は透過してきたパルス電磁波の電場強度をバイアス電圧として電極まで移動し、こうして流れた微弱な電流が低雑音電流アンプにより10倍程度増幅されて検出される。こうして、パルス電磁波の符号を含めた電場強度が微小アンテナ間を流れる電流として検出される。
【特許文献1】特開2003−131137号公報
【特許文献2】特開2003−121355号公報
【特許文献3】特開2003−83888号公報
【特許文献4】特開2003−75251号公報
【特許文献5】特開2003−14620号公報
【特許文献6】特開2002−277393号公報
【特許文献7】特開2002−277394号公報
【特許文献8】特開2002−257629号公報
【特許文献9】特開2002−243416号公報
【特許文献10】特開2002−98634号公報
【特許文献11】特開2001−141567号公報
【特許文献12】特開2001−66375号公報
【特許文献13】特開2001−21503号公報
【特許文献14】特開2001−275103号公報
【非特許文献1】Q. Wu and X.-C.Zhang, Appl. Phys. Lett. 67 (1995) 3523)
【非特許文献2】M. Tani, S. Matsuura, K. Sakai, and S. Nakashima, Appl. Opt. 36 (1997) 7853
【非特許文献3】阪井清美:分光研究、50 (2001) 261
【非特許文献4】小島誠治、西澤誠治、武田三男:分光研究、52 (2003) 69
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来の検出用光伝導素子におけるこの電流の検出では、パルスレーザー光のパルス間隔は十分に短く連続光であるとみなして測定していることになる。このとき、チタンサファイアパルスレーザーでは、パルス間隔は10ns程度であり、また、各パルスの時間幅は100fs程度であるため、100fs程度しか存在しない信号を10nsに渡って存在する信号として測定することになり、信号強度としては1/100000倍に減少してしまうことになるという問題がある。
【0015】
従来の光伝導素子を備えた時系列変換パルス分光計測装置のように、光伝導素子の電極間に流れた微弱電流を増幅して検出する方式の場合は、背景ノイズもそのまま増幅してしまうのでSN比が悪くなってしまうという問題がある。
【0016】
また、一定時間に積算測定することを考えた場合、パルスレーザー光の繰り返しに対して、正確な時間を得るためには、レーザー光パルスの繰り返しに同期した信号を得る必要になるが、レーザー光のパルス幅は100fsと非常に短いため、検出することができないという問題がある。
【0017】
更に、検出される信号強度はパルスレーザー光の強度に依存するため、パルスレーザー光の強度が変化した場合にも信号強度が変化したものとして測定されてしまうという問題がある。
【0018】
従って、本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、励起レーザーのパルス間隔に影響を受けずに正確でかつSN比が高い測定ができる時系列変換パルス分光計測装置を提供することを目的とする。
【0019】
また、本発明は、パルスレーザー光の繰り返しに対して、正確な時間を得るために必要となるレーザー光パルスの繰り返しに同期した信号をレーザー自体が出力しない場合にも検出することができる時系列変換パルス分光計測装置を提供することを目的とする。
【0020】
さらにまた、本発明は、検出される信号強度におけるパルスレーザー光の強度変化の影響が小さい時系列変換パルス分光計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するための本発明は、以下の構成を採用した。
請求項1に記載の時系列変換パルス分光計測装置は、一対の電極膜と、サンプリングパルス光を受けると光キャリアが生成される光伝導膜とを備えた検出用光伝導素子を具備し、レーザー光源から発生したパルスレーザー光を複数のパルスレーザー光に分波し、そのうちの一を放射用光伝導素子を照射するポンプパルス光として用い、他の一を検出用光伝導素子を照射するサンプリングパルス光として用いる時系列変換パルス分光計測装置において、試料からの反射又は透過電磁波の電場強度に対応して、前記電極膜間に流れて前記検出用光伝導素子から送出された電流信号を電荷として順次蓄積し、その蓄積電荷量を検出する電荷蓄積検出手段と、前記検出用光伝導素子から送出された電流信号を前記電荷蓄積検出手段へ通過させる測光時間区分信号を生成する測光時間区分信号生成手段と、を備えたことを特徴とする。
【0022】
請求項1に記載の「電荷蓄積検出手段」は、検出用光伝導素子から送出された電荷を順次蓄積してその蓄積電荷量を検出し、その検出後に蓄積電荷を放電するというサイクル(以下、「検出サイクル」という)を行うことができ、さらにこのサイクルを繰り返すことができる。
各測光時間区分における電荷の蓄積は、前の測光時間区分の検出サイクルにおける放電後であれば何時始める構成でも構わない。
蓄積電荷量の検出は、測光時間区分信号をオフにした後に行う構成でも、オフにしないで行う構成でもよい。また、蓄積電荷量の検出は、各検出サイクル中に、一度だけ行う構成でも、連続的に又は間欠的に行う構成でもよい。
電荷蓄積検出手段は、蓄積電荷量の値を記憶するメモリを備えてもよい。
【0023】
請求項1に記載の「測光時間区分信号生成手段」が生成する測光時間区分信号は、検出用光伝導素子から電荷蓄積検出手段への電流信号に対してゲート作用を施すものである。また、測光時間区分とは、試料から反射又は透過された電磁波信号の「積算時間」に相当するものである。電磁波信号の「積算時間」は信号の増幅率に対応するものなので、請求項1に記載の時系列変換パルス分光計測装置は、測光時間区分によって試料から反射又は透過された電磁波信号の増幅率を決める構成であるといえる。測光時間区分信号の発生は間欠的に行うことができ、その発生間隔は、一定であってもなくても構わない。
【0024】
請求項1に記載の「測光時間区分信号」の生成については、従来の種々のゲート信号を生成する構成を採用することができる。
【0025】
請求項2に記載の時系列変換パルス分光計測装置は、請求項1に記載の時系列変換パルス分光計測装置において、前記レーザー光源から発生したパルスレーザー光の周期に同期したクロック信号を生成するクロック信号生成手段を備え、前記測光時間区分信号が前記クロック信号のパルス数に基づいて生成されることを特徴とする。
【0026】
請求項2に記載の「レーザー光源から発生したパルスレーザー光の周期に同期したクロック信号を生成するクロック信号生成手段」の構成は、従来の種々のクロック信号を生成する構成を採用することができる。
【0027】
請求項2に記載の「前記測光時間区分信号が前記クロック信号のパルス数を用いて生成される」とは、測光時間区分の長短がクロック信号のパルス数によって設定されることであり、パルス数を大きく設定すれば測光時間区分が長くなり、小さく設定すれば短くなることを意味する。従って、この構成によれば、測光時間区分に対応するクロック信号のパルス数の設定を変更することによって試料からの電磁波信号の積算時間の変更を可能となる。
例えば、レーザーの干渉信号を用いて光学的遅延手段の位置を定める構成において連続スキャンで測定を行う場合、光学的遅延手段の所定位置を越えたときのクロック信号パルスの最初のパルスの立上り時に測光時間区分信号をアクティブにし、そのパルスから設定数番目のパルスの立下がり時にインアクティブとなるように測光時間区分信号を発生させる構成等によって、測光時間区分をクロック信号のパルス数を用いて生成することができる。
【0028】
請求項2に記載の「レーザー光源から発生したパルスレーザー光の周期に同期したクロック信号」は、レーザー源からレーザーパルス光のパルス信号が出力されている場合はそれを利用する構成でもよいし、パルス信号の出力がない場合はレーザー光のパルス信号を一旦検出してから生成する構成でもよい。
【0029】
請求項3に記載の時系列変換パルス分光計測装置は、請求項1又は2のいずれかに記載の時系列変換パルス分光計測装置において、前記測光時間区分信号生成手段は各測光時間区分ごとに測光時間区分の長さを設定することができ、かつ、前記電荷蓄積検出手段は検出された蓄積電荷量を当該長さで規格化することができることを特徴とする。
【0030】
各測光時間区分の長さの設定は、自動で行うものでも手動で行うものでもよく、ソフト及び/又はハードを用いて設定することができる。各測光時間区分の長さの設定を予めプログラムすることができる構成であってもよい。ここで、測光時間区分の長さは、例えば、測光時間区分を決めるクロック信号のパルス数を大きくすることによって容易に変更することができる。
【0031】
「測光時間区分の長さ」は電荷の蓄積時間又は信号の積算時間に対応するものであり、電荷の蓄積時間又は信号の積算時間は信号の増幅率に対応するものなので、請求項3に記載の発明は、測光時間区分ごとに独立に増幅率を変えることができる構成である。例えば、測光時間区分をクロック信号のパルス数N個分、2N個分、3N個分、…のように設定して信号を取得した場合、2N個分、3N個分の信号は信号処理の段階でN個分の場合の1/2、1/3とすることによって規格化される。
【0032】
「前記電荷蓄積検出手段は検出された蓄積電荷量を当該長さで規格化することができる」構成には、電荷蓄積検出手段で検出後にコンピュータで規格化する構成を含む。
【0033】
請求項4に記載の時系列変換パルス分光計測装置は、請求項3に記載の時系列変換パルス分光計測装置において、前記の各測光時間区分の長さの設定を、当該測光時間区分において前記検出用光伝導素子から送出される前記電流信号の強度に応じて行うことができることを特徴とする。
【0034】
「電流信号の強度に応じて」とは、例えば、電流信号の強度が弱いことが既知である場合に各測光時間区分を予め長めに設定しておく構成や、測定中に検出された電流信号の強度が弱い場合に自動で測光時間区分を長めに設定することができる構成も含まれる。すなわち、測定前に設定する場合も測定中に設定若しくは変更する場合も含まれる。測光時間区分の長さの設定は手動でも自動でも構わない。
また、信号強度が微弱(実質的に0)で長時間蓄積しても蓄積電荷量が一定値に達しない場合も考えられる。例えば、このような場合において、信号強度が微弱な部分は時間で測光時間区分を決定し、そうでない部分は強度で測光時間区分を決定すること、すなわち、時間(例えば、パルス数)による各測光時間区分の設定と強度による各測光時間区分の設定とを組み合わせて使用することも「電流信号の強度に応じて」に含まれる。
【0035】
請求項4に記載の発明は、測光時間区分において前記検出用光伝導素子から送出される前記電流信号の強度に応じて測光時間区分ごとに増幅率を変えることができる構成である。
【0036】
請求項5に記載の時系列変換パルス分光計測装置は、請求項3に記載の時系列変換パルス分光計測装置において、前記の各測光時間区分の長さの設定が、各測光時間区分における測定において前記蓄積電荷量が所定値を越えるまで前記電流信号を前記電荷蓄積検出手段へ通過させるように行われることを特徴とする。
【0037】
「蓄積電荷量が所定値を越えるまで電荷の蓄積を可能とするように」とは、各測光時間区分における測定において、蓄積電荷量の値が所定値を越えるまでは測光時間区分信号をオフにせず(ゲートを閉じず、アクティブのまま)、電荷の蓄積が継続されるとの意である。従って、各測光時間区分の長さの設定を自動で行うものである。
【0038】
請求項5に記載の発明は、各測光時間区分における増幅率が検出用光伝導素子から送出される電流信号の強度によって測定中に決まる構成といえる。
また、信号強度が微弱(実質的に0)で長時間蓄積しても蓄積電荷量が一定値に達しない場合も考えられる。例えば、このような場合において、信号強度が微弱な部分は時間で測光時間区分を決定し、そうでない部分は強度で測光時間区分を決定すること、すなわち、時間(例えば、パルス数)による各測光時間区分の設定と強度による各測光時間区分の設定とを組み合わせて使用することも可能である。
【0039】
請求項6に記載の時系列変換パルス分光計測装置は、請求項1から5のいずれか一項に記載の時系列変換パルス分光計測装置において、前記サンプリングパルス光のパルス幅を広げるパルス幅拡張手段を備えたことを特徴とする。
【0040】
請求項7に記載の時系列変換パルス分光計測装置は、請求項1から6のいずれか一項に記載の時系列変換パルス分光計測装置において、前記レーザー光源から発生したパルスレーザー光が分波された複数のパルスレーザー光のうちのさらに他の一を、検出された試料からの反射又は透過パルス電磁波の信号強度を補正するために用いることを特徴とする。
補正の方法としては、反射又は透過パルス電磁波の信号強度から差分したり、信号強度を割ることにより規格化したり、分波されたパルスレーザー光の一から推測される信号を差分したりすることが考えられる。
【0041】
請求項8に記載の時系列変換パルス分光法は、レーザー光源から発生したパルスレーザー光を複数のパルスレーザー光に分波し、そのうちの一を放射用光伝導素子を照射するポンプパルス光として用い、他の一を、一対の電極膜とサンプリングパルス光を受けると光キャリアが生成される光伝導膜とを備えた検出用光伝導素子を照射するサンプリングパルス光として用いる時系列変換パルス分光法において、試料からの反射又は透過電磁波の電場強度に対応して前記電極膜間に流れて検出用光伝導素子から送出された電流信号を電荷として順次蓄積し、その蓄積電荷量を検出するものであって、この際、前記レーザー光源から発生したパルスレーザー光の周期に同期したクロック信号のパルス数を用いて生成された測光時間区分信号をゲートとして測光時間区分毎に検出することを特徴とする。
【0042】
請求項9に記載の時系列変換パルス分光法は、レーザー光源から発生したパルスレーザー光を複数のパルスレーザー光に分波し、そのうちの一を放射用光伝導素子を照射するポンプパルス光として用い、他の一を、一対の電極膜とサンプリングパルス光を受けると光キャリアが生成される光伝導膜とを備えた検出用光伝導素子を照射するサンプリングパルス光として用いると共に、光学的遅延手段を連続的に走査しながら前記サンプリングパルス光に前記ポンプパルス光に対する遅延時間差を付与して試料からの反射又は透過電磁波の電場強度を測定する時系列変換パルス分光法において、試料からの反射又は透過電磁波の電場強度に対応して前記電極膜間に流れて検出用光伝導素子から送出された電流信号を電荷として順次蓄積し、その蓄積電荷量を検出するものであって、この際、前記レーザー光源から発生したパルスレーザー光の周期に同期したクロック信号のパルス数を用いて生成された測光時間区分信号をゲートとして測光時間区分毎に検出するものであり、前記測光時間区分の開始及び終了がクロック信号を用いて行われることを特徴とする。
【0043】
ここで、請求項9における「測光時間区分の開始及び終了がクロック信号を用いて行われる」とは、例えば、クロック信号の立ち上がり時に測光時間区分信号をアクティブにし、そのクロック信号から所定パルス数後のクロック信号の立ち上がり時にインアクティブにすること等を意味する。クロック信号の立ち下がり時にインアクティブにすること等も含まれることは言うまでもない。
また、「測光時間区分の開始」が「クロック信号を用いて行われる」とは例えば、レーザーの干渉信号を用いて光学的遅延手段の位置を定める場合、光学的遅延手段の所定位置を越えたときのクロック信号パルスの最初のパルスの立上り時に測光時間区分の開始する場合等が該当する。
【発明の効果】
【0044】
請求項1に記載のパルス分光計測装置によれば、以下のような作用効果を得る。
光伝導素子による検出を電流ではなく、電荷で検出するために、検出する信号の強度がレーザーパルス光のパルス間隔に影響されないでより正確な測定が可能となる。
試料から反射又は透過してきた被測定パルス光の光伝導素子による検出を光伝導素子の電極間に流れた微弱電流を増幅して検出する構成ではなく、電荷で検出する構成なので、背景ノイズを増幅することがなく、SN比が格段に向上する。
電荷の蓄積を行う測定時間区分の設定を適切にすることにより、より正確な測定が可能となる。例えば、ステップスキャン方式による測定、すなわち、光学的遅延手段を所定位置に移動した後に光学的遅延手段を停止して測定を行い、その後次の所定位置に移動して測定を行うことを繰り返す場合、測定時間区分を長く設定することにより、光伝導素子からの信号の検出、すなわち、試料からの反射又は透過電磁波の電場強度の測定が容易になるだけでなく、その精度が向上する。また、各パルス毎のバラツキを平滑することになるのでより正確な測定が可能となる。
レーザーパルス光を変調させる光学チョッパー、検出された微弱電流を検出するためのロックインアンプおよび電流増幅器を用いる必要がない。
【0045】
請求項2に記載の時系列変換パルス分光計測装置によれば、以下のような作用効果を得る。
クロック信号の設定パルス数を変更することにより、電荷の積算時間を容易に変更することができる。例えば、試料から反射又は透過してきた電磁波の強度が微弱である場合には、設定パルス数を大きくすることにより、検出する蓄積電荷量を大きくして検出を容易にすることができる。
クロック信号がパルスレーザー光の周期に同期しているので、パルスレーザー光のカウント数を誤るという誤動作が防止され、パルスレーザー光を正確にカウントすることができる。
【0046】
請求項3に記載の時系列変換パルス分光計測装置によれば、以下のような作用効果を得る。 各測光時間区分ごとに独立に測光時間区分の長さを設定できるので、各測光時間区分に適した増幅率で信号を増幅することができる。
電流信号の強度が弱い測光時間区分では強い測光時間区分に比べて、測光時間区分を長く設定することができる。これによって、弱いときの検出精度が向上すると共に、電流信号の強弱に依存しない測定が可能となる。
試料の状態や種類等によっては試料からの反射又は又は透過電磁波信号の強度が弱い場合もあるが、このような場合には、各測光時間区分を長めに設定することにより、高精度の測定が可能となる。
測光時間区分の長さを短く設定した高速測定モード、長く設定した精密測定モード等の所望の測定精度の測定モードを容易に設定することができる。
試料からの反射又は又は透過電磁波信号の強度の経時変化に応じて適切な測光時間区分の長さに設定することができる。
【0047】
請求項4に記載の時系列変換パルス分光計測装置によれば、以下のような作用効果を得る。
実際の測定段階において測定された、試料からの反射又は又は透過電磁波信号の強度若しくは検出用光伝導素子から送出される電流信号の強度に基づいて、最適な増幅率で信号を増幅することができる。例えば、電流信号の強度が弱い場合に、測定中にリアルタイムで自動で、測光時間区分ごとにを長めに設定したり若しくは長めに変更することができる。
【0048】
請求項5に記載の時系列変換パルス分光計測装置によれば、以下のような作用効果を得る。
従来の装置においては、これから検出する信号の強度は測定前にはわからないので、実際の測定における最適な増幅率を設定することができなかったが、本発明では、蓄積電荷量がある一定レベルの値に達したら積算を止めるものなので、実際の測定中にリアルタイムで自動で最適な増幅を測ることができる。これによって、効率的に増幅して、精度良く検出することが可能となる。
【0049】
請求項6に記載の時系列変換パルス分光計測装置によれば、レーザー光源からレーザーパルス光のパルス信号の出力がない場合にも、パルスレーザー光の繰り返しに対して、正確な時間を得るために要するレーザー光パルスの繰り返しに同期した信号を容易に検出することができる。
【0050】
請求項7に記載の時系列変換パルス分光計測装置によれば、検出される試料からの反射又は透過パルス電磁波の信号強度は、励起パルスレーザー光を差分することにより補正することができるので、励起パルスレーザー光の強度の変化の影響が小さい。
【0051】
請求項8に記載の時系列変換パルス分光法によれば、以下のような作用効果を得る。
光伝導素子による検出を電流ではなく、電荷で検出するために、検出する信号の強度がレーザーパルス光のパルス間隔に影響されないでより正確な測定が可能となる。
試料から反射又は透過してきた被測定パルス光の光伝導素子による検出を光伝導素子の電極間に流れた微弱電流を増幅して検出する構成ではなく、電荷で検出する構成なので、背景ノイズを増幅することがなく、SN比が格段に向上する。
電荷の蓄積を行う測定時間区分の設定を適切にすることにより、より正確な測定が可能となる。例えば、ステップスキャン方式による測定、すなわち、光学的遅延手段を所定位置に移動した後に光学的遅延手段を停止して測定を行い、その後次の所定位置に移動して測定を行うことを繰り返す場合、測定時間区分を長く設定することにより、光伝導素子からの信号の検出、すなわち、試料からの反射又は透過電磁波の電場強度の測定が容易になるだけでなく、その精度が向上する。また、各パルス毎のバラツキを平滑することになるのでより正確な測定が可能となる。
レーザーパルス光を変調させる光学チョッパー、検出された微弱電流を検出するためのロックインアンプおよび電流増幅器を用いる必要がない。
クロック信号の設定パルス数を変更することにより、電荷の積算時間を容易に変更することができる。例えば、試料から反射又は透過してきた電磁波の強度が微弱である場合には、設定パルス数を大きくすることにより、検出する蓄積電荷量を大きくして検出を容易にすることができる。
クロック信号がパルスレーザー光の周期に同期しているので、パルスレーザー光のカウント数を誤るという誤動作が防止され、パルスレーザー光を正確にカウントすることができる。
【0052】
請求項9に記載の時系列変換パルス分光法によれば、以下のような作用効果を得る。
従来問題となっていた光学的遅延手段の移動速度の誤差による測定精度の低下を防止することができる。
例えば、光学式遅延手段(例えば、可動ミラー)を連続的に移動しながら測定する連続スキャン方式において、レーザー光源からのパルスレーザー光の繰り返し周波数100MHzであり、He-Neレーザーの632.8nm波長の干渉信号を用いて光学的遅延手段の位置を定める構成において、光学的遅延手段の移動速度1mm/secで±1%の誤差がある場合には、1波長の干渉信号に相当する時間の間に、±300個程度のパルスレーザー光程度の誤差が生ずることとなる。この光学的遅延手段の移動速度の誤差に基づく測定誤差を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
図4に、本発明に係る時系列変換パルス分光計測装置のうち特徴部の一実施形態のブロック図を示す。尚、図1と同等な構成要素については同じ符号で示す。
【0054】
この時系列変換パルス分光計測装置は、試料8からの反射又は透過電磁波L3の電場強度に対応して電極膜23,24の間に流れて検出用光伝導素子12から送出された電流信号を電荷として順次蓄積する電荷蓄積手段54と、その蓄積電荷量を検出する電荷検出手段51と、レーザー光源1から発生したパルスレーザー光の周期に同期したクロック信号を生成するクロック信号生成手段52と、検出用光伝導素子12から送出された電流信号を蓄積する測光時間区分信号を生成する測光時間区分信号生成手段53と、を備えている。尚、本実施形態においては、電荷蓄積手段54と電荷検出手段51とを組み合わせたものが特許請求の範囲に記載の「電荷蓄積検出手段」に相当する。
【0055】
ここで、クロック信号生成手段52においてレーザー光源1から発生したパルスレーザー光の周期に同期したクロック信号を生成するにあたって、レーザー光源本体から信号出力がある場合はその出力信号を用いることができる。信号出力がない場合は、パルスレーザー光を検出し、クロック信号を生成する。このとき、検出器の応答速度はパルスレーザー光のパルス幅に比べ非常に小さいため、そのままでは検出することが困難である。そこで、例えば、図5で示したような回折格子対を利用したパルス幅拡張手段41を設けることによって検出を容易にする構成とすることができる。パルス幅拡張手段41で拡張されたパルスは例えば、光検出器42で検出してパルスカウンターでカウントする。なお、このようなパルス幅拡張手段41は、従来のパルス分光計測装置に備えることもできることはいうまでもない。
【0056】
図6に、本発明に係る時系列変換パルス分光計測装置における動作に関するタイミングチャートを示す。図6(a)〜図6(e)はそれぞれ、サンプリングパルス光、光伝導素子における電極間瞬間電流、レーザー光源から発生したパルスレーザー光の周期に同期したクロック信号、測光時間区分信号、電荷蓄積検出手段に蓄積された信号出力を示す。
【0057】
このタイミングチャートを用いて、試料から透過又は反射してきた電磁波の電場強度(に対応する光伝導素子の電極間電流)が電荷蓄積検出手段で蓄積電荷量として検出されるプロセスについて説明する。
【0058】
図6(a)で示したような周期でサンプリングパルス光が光伝導素子に照射されるとその瞬間だけ素子の光伝導膜に光キャリアが生成する。このサンプリングパルス光の周波数は例えば、80MHz程度であり、この場合、約10ns毎に光伝導膜に光キャリアが生成される。生成された光キャリアは試料からの透過又は反射電磁波のその瞬間の電場によって、素子電極間を移動する。図6(b)はこの電極間の光キャリアの移動(素子電極間の瞬間電流)のタイミングを示したものである。この瞬間電流は、図6(d)で示したような測光時間区分信号生成手段53で生成された測光時間区分信号をゲート信号としてこの信号がアクティブなときにだけ、サンプリングパルス照射毎に図6(e)で示したように電荷蓄積手段54に蓄積されていく。そして、測光時間区分信号がインアクティブになるが、そのときの蓄積電荷量がインアクティブになる前又は後に検出され、その後放電される。これが検出の一サイクルであり、ステップスキャン方式又は連続スキャン方式でこのサイクルが繰り返されて、試料からの透過又は反射電磁波の電場強度の時間波形全体が再現される。
【0059】
ここで、測光時間区分は図6(c)で示したようなレーザー光源から発生したパルスレーザー光の周期に同期したクロック信号のパルス数を用いて設定されるのが好ましい。例えば、測光時間区分をパルス数N個分、2N個分、3N個分、…と設定することができる。検出された信号(蓄積電荷量)はパルス数で割ることによって規格化することができる。また、測光時間区分の開始や終了は例えば、クロック信号の立ち上がりや立ち下がりのタイミングで行うことができる。
【0060】
図6の態様では、図6(d)に示した測光時間区分AからC…の長さは、同数のパルス数に対応する等時間幅の場合であるが、他の態様として、図7の態様のように、これら測光時間区分AからC…を独立に異なる測光時間区分の長さ(例えば、異なるパルス数)に設定することができる。試料から透過又は反射してきた電磁波の電場が小さく、それに対応して光伝導素子の電極間を流れる瞬間電流が小さい測光時間区分において、その測光時間区分を長く設定することによってその測光時間区分では他の区分より高い増幅率で測定する態様である。
【0061】
図7では、図7(b)で示した測光時間区分A〜Cはそれぞれ、図7(a)で示したクロック信号のパルス数10個分、20個分、40個分に相当する時間幅を有する。この場合、測光時間区分B及びCはそれぞれ、測光時間区分Aと比較して2倍、3倍の増幅率で測定することになる。この場合、図7(d)に示したように、試料からの透過又は反射電磁波の電場に対応して、測光時間区分Bにおけるサンプリングパルス光の一回の照射あたりの光キャリアの移動(瞬間電流)は測光時間区分Aにおける光キャリアの移動よりも小さく(従って、一回の照射あたりに電荷蓄積手段に蓄積される電荷量が小さく)、測光時間区分Cでは測光時間区分Bよりもさらに小さいことから、それに対応して測光時間区分を長く設定したものである。これによって、電荷蓄積手段における検出時の電荷量の大きさを測定に適した大きさまで増幅することができ、測定が容易になる。但し、ステップスキャン方式による測定の場合は、測光時間区分を長く設定するほど測定精度は高くなるが、連続スキャン方式による測定の場合は、測光時間区分を長く設定するほど、透過又は反射電磁波の電場強度の時間波形全体のうちの一測光時間区分で測定する部分が広くなり、瞬間の電場強度からの誤差が大きくなるのでその点には留意しなければならない。
【0062】
図7(b)で示したような測光時間区分信号がアクティブな間に、図7(c)で示したようなサンプリングパルス光の照射によって生じた光キャリアが試料から透過又は反射してきた電磁波の電場によって、光伝導素子の電極間を移動する。このキャリアは、図7(d)で示したように電荷蓄積手段に蓄積され、その蓄積電荷量が測光時間区分信号がインアクティブになる前又は後に測定され、放電される。この場合、測光時間区分A〜Cのそれぞれで検出された蓄積電荷量は、それぞれのパルス数10個、20個、40個によって規格化することによって試料からの透過又は反射電磁波の時間波形全体を再現することができる。
【0063】
各測光時間区分の大きさは測定前に予め定めておくものでもよく、また、測定中に例えば蓄積電荷量が所定の値を越えるまで測光時間区分信号をアクティブにするように構成することもできる。後者の場合は、各測光時間区分に対応するパルス数を検出して規格化する構成を備える。
【0064】
図8は、連続スキャン測定における測光時間区分信号の生成の一態様を説明するための図である。
【0065】
図8(a)のx軸は光学的遅延手段の位置を示し、x、x及びx3は測定を開始する位置を示す。この位置は例えば、He-Neレーザーの632.8nm波長の干渉信号を用いて定めることができる。測光時間区分信号Aの場合、光学的遅延手段が所定の移動速度で連続的に移動し、xに達し、それを越えて最初のクロック信号のパルスP(図8(b))の立ち上がりのタイミングで、測光時間区分信号がアクティブとなる(図8(c))。この例では、測光時間区分はクロック信号のパルス数が10個分に設定されており、10個目のパルスP10の立ち下がりのタイミングで測光時間区分信号がインアクティブとなる(図8(c))。
【0066】
測光時間区分信号Bの場合も同様に、光学的遅延手段が所定の移動速度で連続的に移動してxに達し、それを越えて最初のクロック信号のパルスQ(図8(b))の立ち上がりのタイミングで、測光時間区分信号がアクティブとなる(図8(c))。この場合も測光時間区分信号Aと同様にクロック信号のパルス数10個分に設定されているが、11個目のパルスQ11の立ち上がりのタイミングで測光時間区分信号がインアクティブとなる点が異なっている(図8(c))。
【0067】
連続スキャンでレーザーの干渉信号を用いて光学的遅延手段の位置を定める構成においては、光学的遅延手段の位置について等間隔で測定開始した場合(x−x=x3−x)でも、光学的遅延手段の移動速度の誤差のためにその等間隔を移動する時間は等しくはないため(t−t≠t3−t)、同じ1波長(又は、その整数倍)の干渉信号に相当する距離でもその移動の間に含まれるサンプリングパルス光のパルス数が異なることになるが、本発明に係る時系列変換パルス分光計測装置によれば、この光学的遅延手段の移動速度の誤差による測定精度の低下を抑制できる。
【0068】
図9に、本発明に係る時系列変換パルス分光計測法の一態様を説明するためのフローチャートを示す。
【0069】
この態様では、まず、測光時間区分の長さを設定する。電荷蓄積手段を初期化して、電荷の蓄積を開始する。測光時間区分を越えるまで電荷の蓄積を続け、測光時間区分を越えたら、電荷の蓄積を止め、電荷検出手段によって蓄積電荷量を例えば、出力電圧として読み込む。読み込んだ蓄積電荷量を測光時間区分の長さで規格化する。次の測定点(測光時間区分)に移動(例えば、光学的遅延手段を移動)して、次の測定を開始する。全測定点の測定が終了したら、計測を終了する。尚、連続スキャンによる計測の場合には、光学的遅延手段を移動しながら、このフローを行うことになる。
【0070】
図10に、本発明に係る時系列変換パルス分光計測法の他の態様を説明するためのフローチャートを示す。
【0071】
この態様は、時間による各測光時間区分の設定と強度による各測光時間区分の設定とを組み合わせたものである。
この態様では、電荷蓄積手段を初期化して電荷の蓄積を始め、所定の測光時間区分が終了する前に蓄積電荷量が所定値(基準値)を越えたら電荷の蓄積を止め、そのときの蓄積電荷量をそれまでの蓄積時間(例えば、クロック信号のパルス数)で規格化する。すなわち、この蓄積時間が実際の測光時間区分となる。他方、所定の測光時間区分を過ぎても蓄積電荷量が所定値(基準値)を越えなかった場合には、その時点でその測定点(測光時間区分)での電荷の蓄積を止める。この場合はこの測定点での蓄積電荷量はゼロとされる。次の測定点(測光時間区分)に移動(例えば、光学的遅延手段を移動)して、次の測定を開始する。全測定点の測定が終了したら、計測を終了する。尚、連続スキャンによる計測の場合には、光学的遅延手段を移動しながら、このフローを行うことになる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】従来の時系列変換パルス分光計測装置の概略構成図である。
【図2】図1の時系列変換パルス分光計測装置においてパルス電磁波の放射用及び検出用に用いられる光伝導素子の概略構成図である。
【図3】図2の破線AA’に沿った断面図である。
【図4】本発明に係る時系列変換パルス分光計測装置のうち特徴部分の一実施形態を示すブロック図である。
【図5】本発明に係る回折格子対を利用したパルス幅拡張手段を含む時系列変換パルス分光計測装置の概略構成図である。
【図6】本発明に係る時系列変換パルス分光計測装置における測定のタイミングチャート図である。
【図7】本発明に係る時系列変換パルス分光計測装置における測定の他の態様でのタイミングチャート図である。
【図8】本発明に係る時系列変換パルス分光計測装置を用いて連続スキャン方式で測定する場合に、測光時間区分信号の生成の一態様を説明するためのタイミングチャート図である。
【図9】本発明に係る時系列変換パルス分光計測法の一態様を説明するためのフローチャートである。
【図10】本発明に係る時系列変換パルス分光計測法の他の態様を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0073】
1 レーザー光源
8 試料
12 検出用光伝導素子
13 光学遅延手段
21 光伝導膜
23,24 電極膜
41 パルス幅拡張手段
51 電荷検出手段
52 クロック信号生成手段
53 測光時間区分信号生成手段
54 電荷蓄積手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極膜とサンプリングパルス光を受けると光キャリアが生成される光伝導膜とを備えた検出用光伝導素子を具備し、レーザー光源から発生したパルスレーザー光を複数のパルスレーザー光に分波し、そのうちの一を放射用光伝導素子を照射するポンプパルス光として用い、他の一を検出用光伝導素子を照射するサンプリングパルス光として用いる時系列変換パルス分光計測装置において、
試料からの反射又は透過電磁波の電場強度に対応して前記電極膜間に流れて前記検出用光伝導素子から送出された電流信号を電荷として順次蓄積し、その蓄積電荷量を検出する電荷蓄積検出手段と、
前記検出用光伝導素子から送出された前記電流信号を前記電荷蓄積検出手段へ通過させる測光時間区分信号を生成する測光時間区分信号生成手段と、
を備えたことを特徴とする時系列変換パルス分光計測装置。
【請求項2】
前記レーザー光源から発生したパルスレーザー光の周期に同期したクロック信号を生成するクロック信号生成手段を備え、
前記測光時間区分信号が前記クロック信号のパルス数を用いて生成されることを特徴とする請求項1に記載の時系列変換パルス分光計測装置。
【請求項3】
前記測光時間区分信号生成手段は各測光時間区分ごとに測光時間区分の長さを設定することができ、かつ、前記電荷蓄積検出手段は検出された蓄積電荷量を当該長さで規格化することができることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の時系列変換パルス分光計測装置。
【請求項4】
前記の各測光時間区分の長さの設定を、当該測光時間区分において前記検出用光伝導素子から送出される前記電流信号の強度に応じて行うことができることを特徴とする請求項3に記載の時系列変換パルス分光計測装置。
【請求項5】
前記の各測光時間区分の長さの設定が、各測光時間区分における測定において前記蓄積電荷量が所定値を越えるまで前記電流信号を前記電荷蓄積検出手段へ通過させるように行われることを特徴とする請求項3に記載の時系列変換パルス分光計測装置。
【請求項6】
前記サンプリングパルス光のパルス幅を広げるパルス幅拡張手段を備えたことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の時系列変換パルス分光計測装置。
【請求項7】
前記レーザー光源から発生したパルスレーザー光が分波された複数のパルスレーザー光のうちのさらに他の一を、検出された試料からの反射又は透過パルス電磁波の信号強度を補正するために用いることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の時系列変換パルス分光計測装置。
【請求項8】
レーザー光源から発生したパルスレーザー光を複数のパルスレーザー光に分波し、そのうちの一を放射用光伝導素子を照射するポンプパルス光として用い、他の一を、一対の電極膜とサンプリングパルス光を受けると光キャリアが生成される光伝導膜とを備えた検出用光伝導素子を照射するサンプリングパルス光として用いる時系列変換パルス分光法において、
試料からの反射又は透過電磁波の電場強度に対応して前記電極膜間に流れて検出用光伝導素子から送出された電流信号を電荷として順次蓄積し、その蓄積電荷量を検出するものであって、この際、前記レーザー光源から発生したパルスレーザー光の周期に同期したクロック信号のパルス数を用いて生成された測光時間区分信号をゲートとして測光時間区分毎に検出することを特徴とする時系列変換パルス分光法。
【請求項9】
レーザー光源から発生したパルスレーザー光を複数のパルスレーザー光に分波し、そのうちの一を放射用光伝導素子を照射するポンプパルス光として用い、他の一を、一対の電極膜とサンプリングパルス光を受けると光キャリアが生成される光伝導膜とを備えた検出用光伝導素子を照射するサンプリングパルス光として用いると共に、光学的遅延手段を連続的に走査しながら前記サンプリングパルス光に前記ポンプパルス光に対する遅延時間差を付与して試料からの反射又は透過電磁波の電場強度を測定する時系列変換パルス分光法において、
試料からの反射又は透過電磁波の電場強度に対応して前記電極膜間に流れて検出用光伝導素子から送出された電流信号を電荷として順次蓄積し、その蓄積電荷量を検出するものであって、この際、前記レーザー光源から発生したパルスレーザー光の周期に同期したクロック信号のパルス数を用いて生成された測光時間区分信号をゲートとして測光時間区分毎に検出するものであり、前記測光時間区分の開始及び終了がクロック信号を用いて行われることを特徴とする時系列変換パルス分光法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−98216(P2006−98216A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−284739(P2004−284739)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(503236717)
【Fターム(参考)】