説明

時計輪列、および時計

【課題】軸部および軸受部において、摺動時の抵抗を効果的に低減可能な時計輪列、および時計を提供する。
【解決手段】時計は、軸部17を有する各番車と、各番車の軸部17を回転可能に保持する軸受部16とを備えた時計輪列を備える。そして、これらの番車の軸部17には、DLC膜が形成され、軸部17および軸受部16の間には、DLC微粉を拡散された潤滑油がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計の指針を駆動させる時計輪列、およびこの時計輪列を備えた時計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、時計の指針を駆動する時計輪列では、各歯車の軸部に大きな側圧がかかるため、軸部および軸受部の間で磨耗が生じ、これらの磨耗により生じる磨耗粉や潤滑油の劣化による駆動抵抗の増大、時計寿命の低下、時計の運針精度の悪化などの問題が生じていた。これに対して、摺接部における磨耗を低下させる構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載のアナログ時計では、ローターの金属製の回転軸を回転軸支持部材で支持する構成において、回転軸支持部材にカーボン硬質膜(DLC膜:Diamond Like Carbon膜)が形成され、無給油で、回転軸および回転軸支持部材の間の磨耗と低減させる構成が採られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11―133162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1では、潤滑油がなく、DLC膜のみにより低抵抗で摺動する構成を挙げているが、機械式時計の時計輪列では、大きな側圧がかかるため、抵抗を効率よく下げることができず、軸部材の磨耗粉により、抵抗が増大する問題がある。
【0006】
本願発明は、上記のような問題に鑑みて、軸部および軸受部において、摺動時の抵抗を効果的に低減可能な時計輪列、および時計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の時計輪列は、軸部を有する回転体と、前記回転体の前記軸部を回転可能に保持する軸受部とを備えた時計輪列であって、前記軸部および前記軸受部の間に、硬質炭素膜の微粉が拡散した潤滑油があることを特徴とする。
【0008】
この発明では、時計輪列は、例えば歯車などの回転体の軸部と、軸部を回転可能の支持する軸受部とを備えており、これらの軸部および軸受部の間に、硬質炭素膜(DLC膜:Diamond Like Carbon膜)の微粉が拡散した潤滑油がある。この微粉は、DLC膜が成膜された軸部が回転磨耗することで発生するものか、あるいは予め潤滑油に拡散されているものである。
これらのDLC膜の微粉は、摩擦係数が小さく潤滑剤として作用する。また、DLC膜の微粉は、潤滑油中に拡散されているため、軸部および軸受部の摺接範囲の摺動摩擦抵抗を一様に低減させることが可能となる。また、潤滑油があることにより、発生した摩耗粉が一部に蓄積されることがなく、摺動抵抗の低減効果を持続させることができる。
【0009】
本発明の時計輪列では、前記軸部および前記軸受部の少なくともいずれか一方に、硬質炭素膜が形成され、前記潤滑油中に拡散した硬質炭素膜の微粉は、前記軸部および前記軸受部の少なくともいずれか一方に形成された前記硬質炭素膜が、前記軸部の回転時に摩耗した際に発生した硬質炭素膜の磨耗粉であることが好ましい。
【0010】
この発明では、軸部が回転されてDLC膜が摺接により磨耗することで、これらのDLC膜の微粉が潤滑油中に拡散して潤滑剤として作用し、軸部および軸受部の摩擦抵抗を低減させることができる。この場合、初期状態として、潤滑油中にDLC磨耗粉が拡散されていなくてもよい。このような場合であっても、この初期状態では、潤滑油とDLC膜とにより摺動摩擦抵抗を低減し、経過時間に伴って、軸部の回転によりDLC膜が摩耗した場合に、DLC膜の磨耗粉が潤滑油中に分散されることで潤滑剤として作用する。
【0011】
本発明の時計輪列では、前記軸部および前記軸受部の少なくともいずれか一方に、硬質炭素膜が形成されることが好ましい。
【0012】
この発明では、軸部および軸受部のうち少なくともいずれか一方にDLC膜が形成され、これらの軸部および軸受部の間に、潤滑油あるいはDLC膜の微粉を拡散させた前記潤滑油がある。
ここで、DLC膜自体は初期的には低摩擦・耐摩耗の効果により軸部および軸受部の摺接範囲の摺動摩擦抵抗を一様に低減させることが可能であり、さらに軸部が回転されてDLC膜が摺接により磨耗した場合でも、これらのDLC膜の微粉は、上述のように、摩擦係数が小さく潤滑剤として作用する。この時、軸部および軸受部との間に潤滑油があるため、DLC膜の微粉は、この潤滑油中に拡散されるため、軸部および軸受部の摺接範囲の摺動摩擦抵抗を一様に低減させることが可能となる。
【0013】
本発明の時計輪列では、前記硬質炭素膜は、物理蒸着法により形成されることが好ましい。
【0014】
この発明では、DLC膜は、物理蒸着法(PVD法:Physical Vapor Deposition)により形成される。ここで、軸部または軸受部の表面で化学反応により膜を堆積させる、いわゆるCVD法(Chemical Vapor Deposition法)では、成膜されたDLC膜は、時計部品のような微細形状における軸部などでは、硬度が20GPa以下で十分な硬度を持たせることができず、軸部や軸受部に対する密着性も不十分となる。一方、イオン化されたDLC膜分子を軸部や軸受部に加速衝突させるイオンプレーティング法などのPVD法では、時計部品のような微細形状における軸部や軸受部に対しても密着性が良好で、かつ硬度を20GPa〜40GPaとなる高硬度のDLC膜を安定して成形することが可能となる。このように、軸部および軸受部のいずれか一方に、高強度で密着性が良好なDLC膜を形成することで、軸部の回転時のDLC膜の剥離を防止でき、磨耗により生じる磨耗粉の粒径が小さくなり、良質な潤滑剤として機能させることができる。したがって、強い側圧を受ける時計輪列における軸部および軸受部の摺動摩擦をより低減させることができる。
【0015】
本発明の時計輪列では、前記硬質炭素膜は、水素を含有しない雰囲気化で前記物理蒸着法により形成されることが好ましい。
この発明では、水素を含有しない雰囲気下でのPVD法、すなわち水素フリーPVD法により水素フリーDLC膜を形成する。PVD法によりDLC膜を成膜する際に、水素が混入すると、DLC膜の結晶構造において、ダイヤモンド構造であるsp3結合に加えて、グラファイト構造であるsp2構造の割合が増加し、高密着性および高硬度を両立するDLC膜が十分に形成されない。一方、本発明では、水素フリーPVD法により、水素フリーDLC膜を形成することで、DLC膜の結晶構造において、sp3結合の割合が増大し、より硬度が高い、高密着性のDLC膜を形成することが可能となる。
【0016】
本発明の時計輪列では、前記軸部および前記軸受部のうちいずれか一方に前記硬質炭素膜が形成され、前記軸部および前記軸受部のうち、前記硬質炭素膜が形成されていない他方は、前記硬質炭素膜よりも硬度が低い硬質素材により形成されることが好ましい。
【0017】
この発明では、DLC膜が形成されない他方側は、DLC膜と同等の硬度以下に形成されている。例えば、軸部にDLC膜(硬度20GPa)を形成した場合、軸受部を例えばルビー(硬度15GPa)など、DLC膜と同等以下の硬度を有する硬質素材で形成する。このような硬質素材を用いることで、DLC膜と摺接した場合でも、十分な高硬度を有し、かつDLC膜の摺動摩擦抵抗が小さいため、硬質素材の磨耗を抑えることができ、低摩擦効果を持続させることができる。また、DLC膜よりも硬度が小さいため、硬質素材により過度にDLC膜が磨耗することがなく、DLC膜による低摩擦効果と、潤滑油中のDLC膜の微粉による低摩擦効果とによりバランスよく摺動摩擦抵抗を低減させることができる。
【0018】
この時、本発明の時計輪列では、前記軸部および前記軸受部のうち前記硬質炭素膜が形成される一方の表面には、金属中間層が形成され、前記硬質炭素膜は、この金属中間層上に形成されることが好ましい。
軸部または軸受部の母材に金属中間層が形成され、この金属中間層を介して硬質炭素膜が形成されることで、金属中間層が母材と硬質炭素膜との応力差を吸収し、DLC膜の密着力を増大させることができる。このように、密着力が高いDLC膜を形成し、かつDLC膜よりも硬度が低い相手部材(軸部または軸受部のうちDLC膜が設けられていない部材)との間で摺接することで、摩擦により発生するDLC膜の磨耗粉の粒径が100μm以下となる。このような100μm以下のDLC膜の磨耗粉は、一部にDLC膜の磨耗粉が固まることがなく、潤滑油中に良好に分散され、軸部および軸受部に対して、一様に摩擦抵抗を低下させることができる。
【0019】
本発明の時計輪列では、前記軸部および前記軸受部の少なくともいずれか一方に、前記潤滑油の拡散を抑え、前記硬質炭素膜の微粉を保持する、油・硬質炭素膜微粉保持層が形成されることが好ましい。
この発明では、軸部および軸受部に油・硬質炭素膜微粉保持層が形成されているため、潤滑油が軸部および軸受部から離散することがなく、長時間、良好に軸部および軸受部間に長期間保持される。したがって、軸部および軸受部の間に介在するDLC膜の微粉も、軸部および軸受部の間に保持される潤滑油に拡散され、微粉が他の部材に飛散したり、一部に固まったりするなどの不都合も回避でき、かつ潤滑油に長期保持されることで軸部および軸受部の摩擦抵抗をより低減させることができる。
【0020】
本発明の時計輪列では、前記油・硬質炭素膜微粉保持層は、フッ素系樹脂をコーティングすることで形成されることが好ましい。
【0021】
この発明によれば、上記油・硬質炭素膜微粉保持層は、フッ素系樹脂コーティングにより形成される。
このようなフッ素系樹脂のコーティングでは、塗布などにより容易に油・硬質炭素膜微粉保持層を形成することができ、軸部回転中での油・硬質炭素膜微粉保持効果を良好に継続させることができる。また、DLC膜が剥離した場合でも、油・硬質炭素膜微粉保持層のフッ素系樹脂が剥離面に更新されるため、油・硬質炭素膜微粉保持効果を長期持続させることができる。
また、このフッ素系樹脂コーティングは、フッ素の低摩擦効果により、固体潤滑剤として軸部の摩擦抵抗をより低減させる効果も期待できる。
【0022】
本発明の時計輪列では、前記硬質炭素膜の微粉の粒径は、100nm以下であることが好ましい。
ここで、硬質炭素膜の微粉とは、軸部と軸受部との摩擦により発生し、潤滑油中に分散される硬質炭素膜の微粉、および潤滑油内に予め分散されている硬質炭素膜の微粉の双方を含む。
この発明では、硬質炭素膜の微粉の粒径が100nm以下となり、十分に小さいサイズとなる。このため、これらの硬質炭素膜の微粉を潤滑油中に良好に分散させることができ、例えば硬質炭素膜の微粉が1箇所に固まるなどの不都合を回避することができる。また、このような粒径が小さい硬質炭素膜の微粉が潤滑油中に分散されることで、軸部および軸受部に対して、一様に摩擦抵抗を低下させることができ、より良好な潤滑効果を得ることができる。
【0023】
本発明の時計は軸部を有する回転体と、前記回転体の前記軸部を回転可能に保持する軸受部と、を備えた時計輪列により指針が駆動される時計であって、前記軸部および前記軸受部の間に、硬質炭素膜の微粉が拡散した潤滑油があることを特徴とする。
【0024】
この発明では、上記のように軸部および軸受部の摺動摩擦抵抗を長期に亘って低減させることができるため、時計寿命を長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施形態に係る時計輪列を備えた電子制御式機械時計(時計)の要部を示す平面図である。
【図2】前記実施形態の電子制御式機械時計の要部を示す断面図である。
【図3】前記実施形態の電子制御式機械時計の要部を示す他の断面図である。
【図4】前記実施形態の電子制御式機械時計の構成を示すブロック図である。
【図5】前記実施形態の時計輪列を構成する各番車に係る側圧を示す図である。
【図6】二番車、三番車、および四番車の要部を示す断面図である。
【図7】図6において、三番車近傍を拡大した拡大図である。
【図8】DLC膜を形成した時計に時計耐久試験を行った際、TEMにより観察されたDLC膜近傍の潤滑油を示す写真である。
【図9】潤滑油中に含まれるDLC膜の微粉の含有量とトルク上昇量との関係を示す図である。
【図10】(A)は、耐久試験度の潤滑油のFTIR(Fourier Transform Infrared Spectroscopy:フーリエ変換赤外分光法)による分析結果を示す図であり、(B)は、DLC膜を形成した場合の試験終了後の潤滑油に対してFTIRにより得られる吸光度から、DLC膜が形成されていない場合の試験終了後の潤滑油に対してFTIRにより得られる吸光度を差し引いた値を示す図である。
【図11】DLC膜が形成されず、DLC微粉が含有される潤滑油がある軸受構造、DLC膜が形成され、かつDLC微粉が含有される潤滑油がある軸受構造、およびDLC膜が形成されず、潤滑油中にもDLC微粉が含有されない軸受構造のそれぞれにおける時計耐久試験の結果を示す図である。
【図12】DLC膜の膜厚が0.35μmに形成された三番車、およびDLC膜の膜厚が0.8μmに形成された三番車の耐久試験経過後の観察写真である。
【図13】膜厚が1μmのDLC膜を形成し、粗大パーティクルが多数発生した場合の三番車の時計耐久試験の結果を示す図である。
【図14】水素フリーPVD法により形成されるDLC膜と、プラズマCVD法により形成されるDLC膜とにおける、押し込み試験の結果を示す図である。
【図15】水素フリーPVD法により形成されるDLC膜と、プラズマCVD法により形成されるDLC膜との硬度を比較する図である。
【図16】水素フリーPVD法により形成されるDLC膜と、プラズマCVD法により形成されるDLC膜との密着力を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態に係る時計輪列を備えた電子制御式機械時計(時計)の要部を示す平面図であり、図2および図3は、その断面図である。
【0027】
電子制御式機械時計100(以降、時計100と称す)は、機械エネルギー源であるゼンマイ1a、香箱歯車1b、香箱真1c及び香箱蓋1dからなる香箱車1を備えている。ゼンマイ1aは、外端が香箱歯車1b、内端が香箱真1cに固定されている。香箱真1cは、地板10と輪列受11に支持され、角穴車12と一体で回転するように角穴ネジ13により固定されている。
角穴車12は、時計方向には回転するが反時計方向には回転しないように、こはぜ14(図1参照)と噛み合っている。なお、角穴車12を時計方向に回転しゼンマイ1aを巻く方法は、機械式腕時計の自動巻または手巻機構と同様であるため、説明を省略する。
なお、本実施形態において、機械エネルギー源として、ゼンマイ1aを用いる構成としたが、これに限定されず、例えば電池から供給される電力により駆動されるステッピングモーターなどを機械エネルギー源としてもよく、その他の機械エネルギー源を用いる構成としてもよい。
【0028】
本実施形態では、香箱歯車1bの回転は、本発明に係る回転体である二番車2、三番車3、四番車4、五番車5および六番車6からなる時計輪列100Aを介して増速されてローター7に伝達される。具体的には、香箱歯車1bの回転は、7倍に増速され二番車2に伝達され、二番車2から三番車3へは6.4倍増速され、三番車3から四番車4へは9.375倍増速され、四番車4から五番車5へは3倍増速され、五番車5から六番車6へは10倍増速され、六番車6から発電機を構成するローター7へは10倍増速され、合計126,000倍に増速されてローター7へ伝達されている。
【0029】
また、時計輪列100Aの二番車2には筒かな2cが、筒かな2cには分針200が、筒かな2cから日の裏車20を介して回転される筒車21には時針210が、四番車4には秒針400が、それぞれ固定されている。従って、二番車2を1rphで、四番車4を1rpmで回転させるためには、ローターを8rpsで回転するように制御すればよい。この時、香箱車は1/7rphで回転する。
【0030】
時計100の発電機8は、調速機を兼ね、ローター7、ステーター81、およびコイルブロック82を備えている。
ローター7は、ローター磁石70、ローターかな7a、ローター慣性円板71から構成されている。ローター慣性円板71は、香箱車1からの駆動トルク変動に対しローター7の回転速度変動を少なくするためのものである。
【0031】
ステーター81は、ステーター体81aに例えば4万ターンのステーターコイル81bを巻線したものである。コイルブロック82は、磁心82aに11万ターンのコイル82bを巻線したものである。コイル82bは、出力電圧の変動を検出することでローター7の回転を検出するように構成されている。また、このコイル82bとステーターコイル81bとは、各々の発電電圧を加えた出力電圧が出るように直列に接続されている。ステーター体81aと磁心82aとはPCパーマロイ等で構成されている。
【0032】
図4は、本実施形態の時計100の構成を示すブロック図である。
時計100は、前述のようにゼンマイ1aと、ゼンマイ1aの回転を増速して発電機8に伝達する時計輪列100Aと、時計輪列100Aに結合されて時刻表示を行う指針200,210,400とを備えている。
【0033】
発電機8は、時計輪列100Aを介してゼンマイ1aによって駆動され、誘起電力を発生して電気エネルギーを供給する。この発電機8からの交流出力は、整流回路83を通して昇圧、整流され、コンデンサー84に充電供給される。
【0034】
このコンデンサー84から供給される電力によってワンチップICで構成された回転制御装置85が駆動される。この回転制御装置85は、発振回路86、ローター7の回転検出回路87およびブレーキの制御回路88を備えて構成されている。
【0035】
発振回路86は、時間標準源である水晶振動子89を用いて発振信号(32768Hz)を出力し、この発振信号を所定の分周回路で分周し、基準信号fsとして制御回路88に出力している。
【0036】
回転検出回路87は、発電機8から出力される発電波形からローター7の回転速度を検出し、その回転検出信号FGを制御回路88へ出力する。
制御回路88は、基準信号fsに対する回転検出信号FGの位相差等に基づいて発電機8(調速機)にブレーキ信号を入力し、調速している。ここで、回転制御装置85、発電機8、および時計輪列100Aからゼンマイ1aを内蔵した香箱車1の回転が制御されてゼンマイ1aに蓄えられた機械エネルギーが開放されており、本実施形態では、調速機構は、回転制御装置85、発電機8、時計輪列100A、および香箱車1から構成されている。
【0037】
ここで、本実施形態では、図3に示されるように、地板10、輪列受11、および二番受15には、ルビーから構成され装飾を兼ねている軸受部16が圧入されており、各番車2〜6のほぞ173A,173B、およびローター7のほぞ173A,173Bは、この軸受部16に支持されている。すなわち、各番車2〜6およびローター7は、軸部17と軸受部16とを有する滑り軸受け装置160により支持されている。この軸受部16は、硬度が10GPa〜30GPaである高硬質素材により形成される部材であり、本実施形態では、例えば硬度20GPaのDLC膜に対して、硬度10GPaであるルビーが用いられる。なお、軸受部16は、ルビーに限らず、上記硬度の範囲で、かつ耐磨耗性を有するものなら、他の貴石を使用してもよい。また、五番車5、六番車6、およびローター7の滑り軸受け装置160には耐震構造が適用されているが、その構成は公知の構成であるので、説明は省略する。
【0038】
以上のような時計100では、前述したように、三番車3の下ほぞ173Bには他の番車2〜6のほぞ173A,173Bにかかる面圧と比べて極めて高い側圧がかかることが分かっている。図5は、各番車2〜6に係る側圧を示す図である。図5に示すように、特に、三番車3の下ほぞ173Bは、他の番車2,4〜6のほぞ173A,173Bに比べて、大きな側圧を受けている。このため、この三番車3は、非常に磨耗しやすく、摩耗が進展した場合は運針の精度を低下させてしまったりするおそれがあり、定期的なオーバーホールが必要であった。また、かなにも、二番車2の歯車と噛み合ってトルクが伝達されるために大きな力がかかっており、長期間の使用により、運針の精度を低下させてしまうおそれがあった。
【0039】
図6は、二番車2、三番車3、および四番車4の要部を示す断面図である。図7は、図6において、三番車3近傍を拡大した拡大図である。
ここで、本実施形態では、最も側圧が大きくなる三番車3の下ほぞ173Bに、硬質炭素膜(DLC膜:Diamond Like Carbon)を形成し、耐磨耗性を向上するとともに、摩擦の発生の低減を図っている。
【0040】
三番車3の軸部17には、上端側(図6,7中上側)から上ほぞ173A、上側のあがき決め部172、歯車170、かな171、下側のあがき決め部172、および下ほぞ173Bが設けられている。あがき決め部172と軸受部16との間には隙間(あがき)が設けられており、三番車3は、軸方向に衝撃を受けた際に、この隙間分軸方向に動くことで衝撃を吸収できるようになっている。
ここで、三番車3は、微細形状に形成されるものであり、その具体的な寸法例では、図7に示すように、上ほぞ173Aの径寸法(直径)が0.14(mm)、上側あがき決め部172の径寸法が0.28(mm)、軸中央部の径寸法が0.65(mm)、かな171の径寸法が0.74(mm)、下側あがき決め部172の径寸法が0.30(mm)、下ほぞ173Bの径寸法が0.18(mm)に形成され、三番車3の軸部17の軸方向に対して、全長が3.10(mm)、軸中央部およびかな171の合計寸法が2.07(mm)、かな171の寸法が0.42(mm)、下側あがき決め部の寸法が0.12(mm)、下ほぞ173Bの寸法0.20(mm)に形成される。そして、DLC膜は、下ほぞ173B(直径0.18mm、長さ0.20mm)の部分に形成されている。
なお、DLC膜が形成される範囲として、本実施形態では、三番車3の下ほぞ173Bを例示するがこれに限定されず、例えば、軸受部16と摺接する上ほぞ173AにもDLC膜が形成されているものであってもよく、歯車などの他部品との摺接部分のみであってもよい。
【0041】
また、本実施形態における、番車5〜6の構成は三番車3と略同様であり、説明を省略する。
四番車4の軸部17の下端側(図6中下側)には、そろばん玉174が設けられ、下端には秒針400が取り付けられている。そろばん玉174は、二番車2の筒状の本体22の内周面に接触する軸受け部位であり、指針200,400などの重みによって二番車2および四番車4が偏心回転してしまうことを防止している。なお、軸部17の上端部には、三番車3と同様な構成のあがき決め部172が設けられている。
二番車2は、歯車170およびかな171を備えて四番車4の軸部17が挿入された筒状の本体22に、分針200を備えた筒かな2cが取り付けられて構成されている。本体の上端側(図6中上側)は、細く形成されて軸受部16に挿入された上ほぞ173Aとなっている。この上ほぞ173Aの上端は、四番車4と接触する摺動部23となっている。
【0042】
〔三番車の軸受構造〕
次に、上記のような三番車3の軸受構成について説明する。三番車3に形成されるDLC膜は、硬度が20GPa〜40GPaに形成され、軸受部16を形成する高硬質素材であるルビー(例えば、本実施形態では硬度15GPa)と同等以上の硬度を有している。したがって、軸受部16との摺接によるDLC膜の磨耗は発生するが、例えば軸受部16の硬度以下の硬質膜を用いる場合に比べて十分に磨耗を抑えることができ、長期間の間、軸部17にDLC膜が保持されることとなる。さらに、DLC膜は、摩擦抵抗が小さく、相手(軸受部16)に対する攻撃性が低いため、軸受部16のDLC膜との摺接による磨耗も抑えられる。したがって、軸部17および軸受部16の摺接による双方の磨耗を抑えることができ、長期間時計100の運針精度を高精度に持続させることが可能となる。
より具体的には、三番車3の軸部17は、母材として、例えば炭素鋼(硬度:3〜8GPa)などが用いられ、この炭素鋼の表面処理として例えばNiメッキが施される。そして、このNiメッキ表面にDLC膜の下地としてTi層がスパッタリングにより形成される。DLC膜は、このTi層上に形成されている。このように、Ti層を下地としてDLC膜を形成することで、炭素鋼とDLC膜との応力差を吸収することができ、DLC膜の密着力を確保することができる。なお、本実施形態では、本発明の金属中間層としてTi層を形成する例を示すが、金属中間層として、例えばCr層などの他の金属層が形成される構成としてもよい。
【0043】
そして、本実施形態では、軸部17および軸受部16の間に、DLC膜の微粉(以降、DLC微粉と称す)が拡散された潤滑油がある。
ここで、本発明では、潤滑油中にDLC微粉を拡散させることで、軸部17および軸受部16の摺動摩擦抵抗を低下させるが、本実施形態の時計100では、潤滑油中へのDLC微粉の拡散として、時計100の長時間使用を想定した時計耐久試験により、潤滑油中にDLC膜の磨耗粉が微粉として拡散する例について、以下説明する。この時計耐久試験では、時計輪列を通常より早い速度で駆動させる加速耐久試験であり、軸部17に形成されるDLC膜が磨耗することでDLC膜の磨耗粉が発生し、このDLC膜の磨耗粉がDLC微粉として潤滑油中に拡散する。本実施形態の時計100では、炭素鋼にNiメッキを施した下ほぞ173B(軸部17)の母材上に下地であるTi層を形成し、このTi層上にDLC膜を形成している。このような構成では、DLC膜の硬度が、軸受部16よりも硬度が大きい場合では、軸部17のDLC膜と軸受部16との摺接により発生するDLC膜の磨耗粉は、その粒径が最大でも100nm以下となる。
なお、潤滑油中へのDLC微粉の拡散方法として、これに限られず、例えばDLC微粉を予め生成して潤滑油に拡散させ、この潤滑油を軸部17および軸受部16の間に注ぐなどしてもよい。
【0044】
図8は、三番車3の下ほぞ173Bに膜厚が1.5μmであるDLC膜を形成した時計に対し、時計耐久試験を行った際のTEM(Transmission Electron Microscope)により観察されたDLC膜近傍の潤滑油を示す写真である。
図8に示すように、本実施形態の時計100では、潤滑油中に、最大で100nm以下のDLC微粉しか観察されなかった。時計耐久試験において、DLC膜と軸受部16との磨耗により磨耗粉が発生して潤滑油中に拡散されることが確認できるが、その磨耗粉の粒径は、観察不可能な程度の微小サイズから、最大でも100nm程度までの微粉となる。このように、DLC微粉が十分微小であり、潤滑油中に拡散して存在している場合、当該磨耗粉は、DLCの有する低摩擦性により良質な潤滑剤として作用する。このため、ほぞ173A,173Bに形成されるDLC膜、潤滑油、およびDLC微粉による相乗効果により、軸部17および軸受部16間の摺動摩擦抵抗がより低下される。
【0045】
ここで、DLC微粉が拡散された潤滑油を用いた三番車のトルクと、DLC微粉が拡散されていない潤滑油を用いた三番車のトルクとを比較した図を図9に示す。この図9は、DLC微粉の含有量が0.8mass%の潤滑油がある三番車、DLC微粉の含有量が4.0mass%の潤滑油がある三番車、DLC微粉の含有量が7.0mass%の潤滑油がある三番車、DLC磨耗粉を含有しない潤滑油がある三番車のそれぞれの時計耐久試験時のトルクの変化状態を示す図である。
【0046】
この図9において、軸部17に0.1μmのDLC膜を形成し、このDLC膜を規定量の潤滑油中で摩滅することで、DLC微粉の含有量が0.8mass%である潤滑油を得ることができる。また、軸部17に0.5μmのDLC膜を形成して、このDLC膜を摩滅することで、DLC微粉の含有量が4.0mass%である潤滑油を得ることができ、軸部17に0.8μmのDLC膜を形成して、このDLC膜を摩滅することで、DLC微粉の含有量が7.0mass%である潤滑油を得ることができる。
【0047】
そして、図9に示すように、潤滑油中のDLC微粉の含有量が増大した場合でも、トルク上昇は見られず、いずれもDLC微粉が含有されないサンプルに比べて、半分以下のトルク上昇量となることが確認できる。本実施形態のDLC膜の最適膜厚は、1μmであり(詳細は後述する)、このようなDLC膜が形成される軸部17と軸受部16との間に潤滑油を注ぎ、1年経過〜10年経過相当の時計耐久試験(加速耐久試験)を実施した場合、潤滑油中のDLC微粉の含有量は、ほぼ0.8〜7.0mass%の範囲内となる。
この図9から、軸部17および軸受部16の間の潤滑油に、DLC微粉が拡散されている場合と、DLC微粉が含まれていない場合とを比較すると、潤滑油中にDLC微粉が拡散している場合では、DLC微粉が含まれていない場合に比べて、軸部17の回転時のトルクが低減されていることが確認できる。
【0048】
一方、図示は省略するが、潤滑油中の磨耗粉の含有量が0.8mass%以下となる場合であっても、DLC微粉による潤滑効果は確認できる。しかし、この場合、潤滑油やDLC膜の摩耗進展状態によっては、必要箇所にDLC磨耗粉が分散しない可能性があり、潤滑油と、潤滑油中に分散されるDLC膜とによる摩擦抵抗低減の相乗効果を効果的に得ることができない場合もある。
以上より、潤滑油に含有されるDLC微粉の量は、0.8mass%〜7.0mass%であることが好ましい。
【0049】
次に、潤滑油の劣化状態について説明する。
図10(A)は、耐久試験度の潤滑油のFTIR(Fourier Transform Infrared Spectroscopy:フーリエ変換赤外分光法)による分析結果を示す図であり、(B)は、DLC膜を形成した場合の試験終了後の潤滑油に対してFTIRにより得られる吸光度から、DLC膜が形成されていない場合の試験終了後の潤滑油に対してFTIRにより得られる吸光度を差し引いた値を示す図である。
【0050】
図10に示すように、DLC膜が形成されていない場合の時計耐久試験後の潤滑油の劣化状態、DLC膜が形成されている場合の時計耐久試験後の潤滑油の劣化状態、および時計耐久試験前の潤滑油の劣化状態を比べると、以下の点が分かる。すなわち、図10(B)に示すように、DLC膜が形成されていない場合の潤滑油では、DLC膜が形成されている場合の潤滑油に比べて、特に、2924(cm−1)や2854(cm−1)、1850(cm−1)から1550(cm−1)の領域において、吸光度に大きな違いが見られる。
ここで、1850(cm−1)から1550(cm−1)の領域における差は、DLC膜が形成されていない場合において、カルボン酸塩や縮合環を主構造とする構造が発生するためである。また、DLC膜を形成しない場合の潤滑油では、潤滑油中に含有される芳香環および芳香環を含む成分の分解が多く生じ、DLC膜が形成された場合の潤滑油と、DLC膜が形成されていない場合の潤滑油において、C−H結合が存在する割合に差が生じる。このため、2924(cm−1)や2853(cm−1)においても、吸光度に大きな差が生じている。上記のように、DLC膜が形成されていない場合では、潤滑油に分散される下ほぞ173Bや軸受部16の磨耗粉により潤滑油が劣化してしまい、潤滑性能が低下し、潤滑油の寿命も短くなる。
【0051】
したがって、潤滑油を長期間劣化させずに、安定した潤滑性能を得るためには、軸部17および軸受部16の母材の摩耗を抑えることが重要となる。本実施形態では、軸部17(下ほぞ173B)にDLC膜を形成することで、軸部17の母材の摩耗が防止される。
ここで、図11に、DLC膜が形成されず、DLC微粉が含有される潤滑油がある軸受構造、DLC膜が形成され、かつDLC微粉が含有される潤滑油がある軸受構造、DLC膜が形成されず、潤滑油中にもDLC微粉が含有されない軸受構造のそれぞれにおける時計耐久試験の結果を示す。なお、図11に示す試験耐久試験では、横軸に示す経過時間として、図9の試験耐久試験の経過時間よりも長い期間を試験対象としている。
【0052】
この図11において、軸部17にDLC膜が形成されず、潤滑油にDLC微粉が含有されている試料A,B,Cでは、軸部17の母材(炭素鋼、Niメッキ)が0.5μm摩耗していることが確認された。潤滑油にDLC微粉が含有されている場合では、図9を用いて説明したように、潤滑油中のDLC微粉により、トルクの上昇を抑えることができるが、軸部17の母材(炭素鋼、Niメッキ)が摩耗すると、その磨耗粉が潤滑油中に拡散され、図10に示すように、潤滑油が劣化してしまう。
これに対して、軸部17にDLC膜が形成される試料D,Eでは、0.2μmのDLC膜の摩耗が確認され、軸部17の母材の摩耗は確認されなかった。このような試料D,Eでは、軸部17の母材の磨耗粉が潤滑油中に拡散しないため、図10に示すように、潤滑油の劣化が抑制される。また、潤滑油中にDLC微粉が微粉として拡散するため、トルク上昇も効果的に抑えられる。なお、軸部17のDLC膜が摩耗した後における、潤滑油のDLC微粉含有量は、8.22mass%であったが、これによるトルク上昇は見られず、潤滑油中に拡散されたDLC微粉が潤滑剤として作用していることが分かる。
以上より、軸部17に形成されるDLC膜と、DLC微粉が拡散された潤滑油とにより、効果的な潤滑効果が得られることが確認できるとともに、DLC膜により、母材の摩耗を防止して潤滑油の劣化を防止することができ、軸受構造の長寿命化、長期間に亘ってトルク低減効果を得ることができる。
また、上記のように、軸部17および軸受部16の間に潤滑油があることで、軸部17および軸受部16の摩擦により発生するDLC微粉が飛散しないというメリットもある。つまり、潤滑油がない場合、DLC微粉は、時計輪列100Aの他部や、電子回路部などに飛散するおそれがあり、時計100の動作に影響を与えたり、一部に堆積するなどの要因で、輪列の運動の抵抗となり時計運針精度を悪化させたりする不都合がある。これに対して、本実施形態のように、軸部17および軸受部16の間に潤滑油があることで、DLC微粉が飛散せず、時計100内の他の歯車の駆動や回路に悪影響を及ぼすことがない。
【0053】
上述のようなDLC膜は、三番車3の表面上に0.8μm〜2.0μm程度の膜厚で形成され、より好ましくは、1μm程度の膜厚で形成される。
上記のようなDLC膜の成膜では、イオンプレーティング法が用いられる。イオンプレーティング法による成膜では、成膜時間が長時間になるにしたがって、成膜過程において粗大パーティクルなどの粒径の大きい付着物の量が増大する。従って、DLC膜の膜厚が2.0μm以上である場合、DLC膜の成膜時間も長くなるため、粗大パーティクルなどの発生量が増大するおそれがある。このような粗大パーティクルが多数部品表面に付着した場合では、軸部の回転による付着物の脱離が発生し、潤滑油中にこれらの付着物が分散し、摺動摩擦抵抗を効果的に低下させることが困難となる。
ここで、図12に、DLC膜の膜厚が0.35μmに形成された三番車3、およびDLC膜の膜厚が0.8μmに形成された三番車3の耐久試験経過後の観察写真を示す。また、図13に膜厚が1μmのDLC膜を形成し、粗大パーティクルが多数発生した場合の三番車3の時計耐久試験の結果を示す図を示す。この図13は、DLC膜の成膜時間としては、通常DLC膜を1μmに形成する場合に比べて十分長く設定し、DLC膜の剥離が発生しやすくしたサンプルに対する試験結果を示す図である。
図13に示すように、DLC膜の成膜時間が長くなると、仮にその膜厚が1μm程度であっても、粗大パーティクルの発生が起こりやすくなる。このようなパーティクルが発生すると、図13に示すように、三番車3を回転させるためのトルクが一時的に上昇してしまう。DLC膜の膜厚が2μm以上となる場合、DLC膜の成膜時間も膜厚に応じて長くなるため、上記のような付着物が発生する確立もより高くなる。このため、本発明では、DLC膜の膜厚としては、成膜時間が長時間とならず、付着物の発生確率を低減できる2.0μm未満にすることが好ましい。
なお、上記のような付着物が発生した場合であっても、図13に示すように、時間経過とともに、トルクの低減が確認され、その後、成膜時間が短く、剥離が起こりにくいDLC膜とほぼ同等のトルク変化状態となることが確認できる。これは、上述のような付着物が発生した場合であっても、時間経過に伴い、これらの付着物が摩耗などにより細分化され、100nm以下のサイズとなり、これらの付着物はDLC膜と同質物質であるので、上記のように細分化されることで潤滑剤として作用するためである。
【0054】
一方、膜厚が0.5μm以下である場合は、軸受部16との摺接によるDLC膜の剥離が頻繁に起こる場合がある。このようなDLC膜の剥離では、DLC微粉よりも大きい塊として潤滑油中に拡散されるため、摺動摩擦抵抗の増大を招くおそれがある。また、DLC膜の剥離が発生しなかった場合であっても、図12に示すように、DLC膜が磨滅し、下ほぞ173Bの下地が露出する場合がある。この場合でも、DLC微粉が潤滑油中に分散されるため、DLC膜が形成されていない場合に比べて潤滑効果はあるが、下ほぞ173Bが露出される状態となる。この場合、下ほぞ173Bが摩耗すると、その摩耗粉により潤滑油を劣化させる可能性がある。
上記のような理由により、DLC膜の膜厚としては、0.8μm〜2.0μm程度に形成されることが好ましい。このように、DLC膜の膜厚を0・8μm〜2.0μm程度に形成することで、DLC膜の磨滅を防止でき、かつ剥離片の発生をも防止できるため、良好に潤滑効果を持続させることができる。また、軸受部16との摺接により磨耗粉が発生した際のDLC磨耗粉の粒径が100nm以下となって、良好な潤滑剤として潤滑油中に拡散されることとなる。この場合、磨耗粉が剥離片とならないため、軸部17および軸受部16の摺動摩擦抵抗を効果的に低下させることが可能となる。
【0055】
ここで、上述のようなDLC膜の成膜方法をより詳細に説明する。DLC膜の成膜では、例えばグラファイトなどの水素フリーの原料を用い、水素含有しない雰囲気化(水素フリー雰囲気化)で、イオンプレーティング法などの水素フリーPVD(Physical Vapor Deposition)法により形成される。このような水素フリーPVD法では、本実施形態の時計輪列100Aにおける各軸部17のような微細部品に対して、密着性が高く、かつ高硬度なDLC膜を形成することができ、軸部17および軸受部16が摺接した際のDLC膜の剥離や、DLC膜の過度の磨耗を防止することができる。通常、時計部品のような微細部品のさらに微小な軸部などにおいては、同条件ではテストピース上と軸部の膜質が異なり、本来の硬度や密着力を確保することができない。すなわち、このような水素フリーPVD法により形成されるDLC膜では、軸部17の表面が露出するような剥離や磨耗が防止され、軸部17が露出しない程度の適量のDLC微粉を発生させることが可能となる。また、上述したように、このように発生したDLC微粉は、潤滑油中に拡散されることで、軸部17および軸受部16の摺動摩擦抵抗がより低減され、DLC膜の剥離や磨耗がさらに抑えられることとなる。
【0056】
また、三番車3には全体にフッ素系樹脂によるコーティング処理が施され、DLC膜上に油・硬質炭素膜微粉保持層が形成される。ここで、三番車3のほぞ173A,173Bと、軸受部16との間には、潤滑油が注入されるが、上記油・硬質炭素膜微粉保持層は、この潤滑油の拡散を防止してほぞ173A,173Bおよび軸受部16間に保持させる機能を有する。また、下ほぞ173B上では、フッ素系樹脂により形成される油・硬質炭素膜微粉保持層は、軸部17および軸受部16の摺接によりDLC膜は剥離した場合でも、その剥離面上にフッ素系樹脂が更新される。したがって、DLC膜の剥離に伴う潤滑油の飛散がなく、長時間潤滑油を保持することが可能となる。このような油・硬質炭素膜微粉保持層は、完全フッ素化された不活性液体中で合成した高機能フッ素系ホモポリマーの処理原液と、フッ素系不活性液体で適度な溶解性を有し、かつ水分を溶解しない希釈液と、を混合した混合液に、三番車3を浸漬し、乾燥させることで、形成される。
【0057】
次に、上述したような時計輪列100Aの三番車3の下ほぞ173Bに形成されるDLC膜の製法による特性の差、特に、密着性、硬度について図面に基づいて説明する。すなわち、本実施形態では、上述したように、DLC膜は、水素フリーPVD法により形成されるが、このような水素フリーPVD法により形成されるDLC膜と、プラズマCVD法により形成されるDLC膜との特性について説明する。
【0058】
図14は、本実施形態の時計部品の軸上における水素フリーPVD法により形成されるDLC膜と、プラズマCVD法により形成されるDLC膜とにおける、押し込み深さに対して必要な圧力を示す図である。図15は、本実施形態の水素フリーPVD法により形成されるDLC膜と、プラズマCVD法により形成されるDLC膜との硬度を比較する図である。図16は、本実施形態の水素フリーPVD法により形成されるDLC膜と、プラズマCVD法により形成されるDLC膜との密着力を示す図である。
【0059】
図14に示すように、押し込みテストの結果、プラズマCVD法がテストピースと比較して低い硬度を示すのに比べて、水素フリーPVD法により形成されるDLC膜は、全押し込み深さに対してテストピースと同等の高い硬度を示すことが確認された。
また、図15に示すように、単位面積当たりの硬度において、水素フリーPVD法により形成されるDLC膜は20GPaと高い硬度を有することが実験により確認でき、時計部品の軸上においてプラズマCVD法により形成されるDLC膜と比べてより高硬度を実現できることが分かる。
また、図16に示すように、プラズマCVD法により形成されるDLC膜では、10mNのスクラッチテストにおける垂直加重が加えられると磨耗が始まり、81mNの垂直加重が加えられることで、剥離が始まる。これに対し、水素フリーPVD法により形成されるDLC膜は、磨耗が開始される垂直加重が54mNであり、剥離が生じる垂直加重が103mNとなる。すなわち、水素フリーPVD法により形成されるDLC膜は、軸部17に対して良好な密着性を有することが確認できる。また、DLC膜の膜厚を0.3μmにした場合では、膜厚が1.0μmの場合に比べて、剥離が発生する垂直加重が小さくなることも確認でき、小さい摩擦力で磨滅や剥離が発生してしまうことが分かる。ここで、上述したように、DLC膜の膜厚が0.5μm以下に形成した場合でも、下ほぞ173Bおよび軸受部16の摺動摩擦抵抗を低減させて、経過年数に伴うトルク上昇を防止する効果を奏するが、潤滑油の劣化を防止するためには、下ほぞ173Bを露出させることは好ましくない。したがって、DLC膜の磨滅や剥離により下ほぞ173Bの露出を防止するためには、DLC膜の膜厚を0.8μm以上に形成することが好ましい。
【0060】
〔本実施形態の作用効果〕
上述したように、本実施形態の時計100では、時計輪列100Aを構成する三番車3の下ほぞ173Bにおいて、軸部17及び軸受部16の間にDLC微粉が拡散した潤滑油がある。ここで、DLCは抵抗値が小さく、微粒子として潤滑油中に拡散して存在している場合、これらの磨耗粉が潤滑剤として作用するため、軸部17および軸受部16の摺動摩擦抵抗をさらに低減されることができる。したがって、軸部17および軸受部16の摺動範囲において、これらのDLC微粉が一様に分布することとなり、摺動摩擦抵抗を低減させることができる。これにより、時計輪列100Aは、長期に亘って、精度よく駆動力を指針に伝達させることが可能となり、時計100における運針精度を長期に亘って高精度に維持でき、時計寿命を長くすることができる。また、側圧が最も大きくなる三番車3を回転させるためのトルクも低く抑えることができるため、エネルギー発生減であるモーターに係る負荷も小さくでき、省エネルギー化を促進できる。
【0061】
また、三番車3の下ほぞ173Bには、DLC膜が形成されている。
このため、このDLC膜により軸部17および軸受部16の摺接抵抗をより低減させることができる。また、軸部17の回転により、DLC微粉が発生した場合でも、この磨耗粉が潤滑油中に拡散され、上記したように、磨耗粉が潤滑剤として作用させることができる。したがって、時計使用開始時には、DLC膜および潤滑油の相乗効果により摺動摩擦抵抗を低減でき、また、所定年数経過後では、DLC膜、潤滑油、および潤滑油中に拡散されるDLC微粉の相乗効果により、摺動摩擦抵抗を低減させることができる。よって、長期に亘って軸部17をDLC膜により保護することができ、摺動摩擦を低く維持することができる。これにより、時計輪列100Aは、長期に亘って、精度よく駆動力を指針に伝達させることが可能となり、時計100における運針精度を長期に亘って高精度に維持でき、時計寿命を長くすることができる。
さらに、軸部17にDLC膜が成膜されているので、軸部17が回転駆動した際に、軸部17の母材の摩耗を防止できる。したがって、潤滑油に軸部17の母材の磨耗粉が拡散されず、潤滑油の劣化を防止することができる。これにより、潤滑油の潤滑効率の低下を防止でき、潤滑油の長寿命化を図ることができる。
【0062】
また、三番車3に形成されるDLC膜は、水素フリーPVD法により成膜されている。
このため、腕時計の歯車のような、直径が0.18mm程度の微小部分である下ほぞ173Bに対しても、高密着性、かつ高硬度なDLC膜を0.8μm〜2.0μm程度の膜厚で安定して成膜させることができる。
また、水素フリーPVD法により水素フリーDLC膜を形成することで、DLC膜の結晶構造において、sp2結合よりsp3結合の割合を増大させることができ、より硬度が高いDLC膜を形成することが可能となる。また、水素フリーDLC膜では、摺動摩擦抵抗をより低減させることが可能となり、潤滑油とのなじみが良好となり、DLC微粉が発生した場合でも、効率よく潤滑油中に拡散させることができる。
【0063】
また、膜厚が0.8μmから2.0μm程度となるようにDLC膜を成膜している。この場合、DLC膜の磨滅や剥離による下ほぞ173Bの露出を防止することができ、潤滑油の劣化を防止することができる。また、水素フリーPVD法により容易にDLC膜を、膜厚が一様になるように成膜することができ、DLC膜の膜厚精度が良好となる。
すなわち、DLC膜の膜厚が0.5μm以下である場合であっても、摺動摩擦抵抗の低減効果、トルク低減効果を奏する。しかしながら、上記のように、DLC膜の磨滅や剥離により、下ほぞ173Bが露出してしまう場合があり、この場合、摩耗により潤滑油がダメージを受ける場合がある。また、DLCの膜厚が2.0μm以上である場合でも、DLC膜の硬度や密着力を適切に保つことで、下ほぞ173Bおよび軸受部16の摺動摩擦抵抗の低減や、トルク低減の効果を奏する。しかしながら、水素フリーPVD法による成膜では、粗大パーティクルなどの表面付着物の発生リスクが増大し、また成膜にかかる工程や成膜時間も長くなり、膜厚を一様にするための精度(膜厚精度)も悪化するという問題もある。
これに対して、上記のように、DLC膜の膜厚を0.8μmから2.0μm程度とする場合、水素フリーPVD法により、粗大パーティクルなどの表面付着物の発生リスクを最小限にし、膜厚が一様で、適度な硬度や密着率を有するDLC膜を容易に形成することができる。また、図12に示すように、DLC膜の磨滅を防止することができ、下ほぞ173Bが露出しないため、下ほぞ173Bの摩耗による潤滑油の劣化をも防止できる。
また、この時、DLC微粉の粒径は、100nm以下となる。このため、DLC微粉が回転時の抵抗とならず、潤滑剤として作用させることができ、DLC膜、潤滑油、およびDLC微粉の相乗効果により、より効果的に摺動摩擦抵抗を低減させることが可能となる。
【0064】
そして、DLC膜が形成される軸部17に対して、軸受部16は、DLC膜と同等以下の硬度を有する高硬質部材であるルビーにより形成される。例えば本実施形態では、DLC膜は20GPa以上であり、軸受部16は、硬度15GPaの高硬度素材であるルビーにより形成されている。
このため、ルビーにより形成される軸部17による、DLC膜の損傷を抑えることができ、DLC膜の過度の磨耗を防止することができる。また、DLC膜は、低抵抗性であるため、DLC膜が軸受部16より高硬度であった場合でも、軸受部16への攻撃性が小さく、軸受部16の損傷も抑えることができる。以上のように、軸部17および軸受部16の双方の摺動摩擦による損傷を推せることができ、時計100の運針精度を良好に維持でき、時計寿命を延ばすことができる。
また、Niメッキが施された炭素鋼を母材とした下ほぞ173B(軸部17)上に、Ti層を形成し、このTi層上にDLC膜が形成されている。このように、Ti層を介してDLC膜を形成することで、Ti層によりDLC膜と母材との応力差を吸収させることができ、DLC膜の密着力を高めることができる。したがって、DLC膜を軸受部16との間に摩擦が発生した場合でも、DLC磨耗粉の粒径を100μm以下にすることができる。したがって、DLC膜と軸受部16との摩擦によりDLC磨耗粉が発生した場合に、その磨耗粉を潤滑油中に拡散させることができ、良好な潤滑効果を得ることができる。
【0065】
さらに、軸部17および軸受部16には、油・硬質炭素膜微粉保持層であるフッ素コーティングが施されている。
このため、フッ素コーティングにより、潤滑油が軸部17および軸受部16間に保持されている。すなわち、油・硬質炭素膜微粉保持層により潤滑油が他に飛散するなどの問題がなく、長期に亘って、軸部17および軸受部16の間に保持させることができ、軸部17及び軸受部16間の摺動摩擦抵抗を効果的に低減させることができる。これにより、長期に亘る時計100の運針精度の維持、時計100の長寿命化を図ることができる。
また、油・硬質炭素膜微粉保持層がフッ素系樹脂コーティングであるため、摺接により軸部17のDLC膜が剥離した場合であっても、その剥離面の上面にフッ素系樹脂が伸び、剥離面上にフッ素系樹脂を更新して形成させることが可能となる。
【0066】
〔実施形態の変形〕
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
【0067】
例えば、上述したように、DLC膜が形成される部分として、最も大きい側圧が作用する三番車3の下ほぞ173Bとしたが、これに限らず、少なくとも各番車2〜6の全体、あるい各番車2〜6のほぞ173A,173Bのみに形成する構成としてもよい。このような構成とした場合、ほぞ173A,173Bと軸受部16との間だけでなく、かな171や歯車170で生じる摩擦抵抗をも低減できるので、運針させるのに必要な最低のトルクの低下、時計100の運針精度の向上、時計寿命の延長を図ることができる。
【0068】
さらに、軸部17にDLC膜を形成したが、軸受部16にDLC膜を形成する構成としてもよい。さらには、軸受部16および軸部17の双方にDLC膜を形成してもよい。
【0069】
本発明の時計100として、ゼンマイを自動巻する発電機能付き時計を例示したがこれに限らず、他の機械時計に適用されてもよい。詳述すると、機械エネルギー源であるゼンマイと、ゼンマイを内蔵した香箱車と噛み合う二番車等から構成された輪列と、ガンギ車、アンクル、およびテンプ等から構成されてゼンマイに蓄えられた機械エネルギー源を定期的に開放する調速機構と、輪列に結合された指針とを備える機械時計において、輪列を構成する番車のうち、少なくとも分針が取り付けられる二番車、二番車からの回転が伝達される三番車、および二番車の軸上に配置されて三番車からの回転が伝達されるとともに秒針が取り付けられる四番車により本発明の時計輪列が構成される時計であってもよい。また、ゼンマイにより運針を実施する時計に限らず、ステッピングモーターなどの他の駆動力により駆動する時計などを対象としてもよい。これらの場合でも、各番車のほぞにDLC膜を形成することで、時計の長寿命化、時計の運針精度の向上を図ることができる。
【0070】
その他、本発明の実施の際の具体的な構造および手順は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造などに適宜変更できる。
【符号の説明】
【0071】
2,3,4,5,6…回転体としての番車、16…軸受部、17…軸部、100…時計、100A…時計輪列。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部を有する回転体と、前記回転体の前記軸部を回転可能に保持する軸受部とを備えた時計輪列であって、
前記軸部および前記軸受部の間に、硬質炭素膜の微粉が拡散した潤滑油がある
ことを特徴とする時計輪列。
【請求項2】
請求項1に記載の時計輪列において、
前記軸部および前記軸受部の少なくともいずれか一方に、硬質炭素膜が形成され、
前記潤滑油中に拡散した硬質炭素膜の微粉は、前記軸部および前記軸受部の少なくともいずれか一方に形成された前記硬質炭素膜が、前記軸部の回転時に摩耗した際に発生した硬質炭素膜の磨耗粉である
ことを特徴とする時計輪列。
【請求項3】
請求項1に記載の時計輪列において、
前記軸部および前記軸受部の少なくともいずれか一方に、硬質炭素膜が形成される
ことを特徴とする時計輪列。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の時計輪列において、
前記硬質炭素膜は、物理蒸着法により形成される
ことを特徴とする時計輪列。
【請求項5】
請求項4に記載の時計輪列において、
前記硬質炭素膜は、水素を含有しない雰囲気化で前記物理蒸着法により形成される
ことを特徴とする時計輪列。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の時計輪列において、
前記軸部および前記軸受部のうちいずれか一方に前記硬質炭素膜が形成され、
前記軸部および前記軸受部のうち、前記硬質炭素膜が形成されていない他方は、前記硬質炭素膜よりも硬度が低い硬質素材により形成される
ことを特徴とする時計輪列。
【請求項7】
請求項6に記載の時計輪列において、
前記軸部および前記軸受部のうち前記硬質炭素膜が形成される一方の表面には、金属中間層が形成され、
前記硬質炭素膜は、この金属中間層上に形成される
ことを特徴とする時計輪列。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の時計輪列において、
前記軸部および前記軸受部の少なくともいずれか一方に、前記潤滑油の拡散を抑え、前記硬質炭素膜の微粉を保持する、油・硬質炭素膜微粉保持層が形成される
ことを特徴とする時計輪列。
【請求項9】
請求項8に記載の時計輪列において、
前記油・硬質炭素膜微粉保持層は、フッ素系樹脂をコーティングすることで形成される
ことを特徴とする時計輪列。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれかに記載の時計輪列において、
前記硬質炭素膜の微粉の粒径は、100nm以下である
ことを特徴とする時計輪列。
【請求項11】
軸部を有する回転体と、前記回転体の前記軸部を回転可能に保持する軸受部と、を備えた時計輪列により指針が駆動される時計であって、
前記軸部および前記軸受部の間に、硬質炭素膜の微粉が拡散した潤滑油がある
ことを特徴とする時計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図8】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−174905(P2011−174905A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46440(P2010−46440)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】