説明

晶析方法、及び晶析装置

【課題】 本発明は、二次核発生を抑制し、少ない種晶で以て平均粒径の大きい結晶を析出させることができる晶析方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 種晶と化合物を含む溶液を晶析槽200に供給し、晶析槽200内に設けられた攪拌装置500によって該溶液を攪拌し、種晶の表面に化合物の結晶を析出させる晶析方法において、攪拌装置500として、偏平状の2つの攪拌パドルを有する攪拌手段と、回転駆動手段からの回転力を受けて2本の平行な回転出力軸を互いに反対方向へ回転させて攪拌手段側に伝達する回転力伝達手段とを備え、回転中の2本の回転出力軸の各角速度が補完的に変化する状態で2つの攪拌パドルに8の字形のパドル運動を行わせるリンク機構を構成した攪拌装置を用いる晶析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液中に溶解した化合物を結晶化して析出させる晶析方法及び晶析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化合物(結晶として取り出したい化合物)の溶解した溶液中に種晶を入れ、種晶に化合物を析出させて結晶を得る晶析が行われている。尚、晶析とは、主に液相より結晶を析出させ、液相から特定成分を分離または濃縮することを言う。
結晶の析出には、冷却晶析、蒸発晶析、反応晶析などの手法がある。工業的に結晶を得る装置として、晶析槽内にプロペラ型攪拌機を設けたDTB型晶析装置やDP型晶析装置が知られている(非特許文献1の508頁の図9.18や図9.19など)。
かかる晶析装置は、ドラフトチューブとプロペラ型攪拌機が晶析槽内に設けられ、プロペラ式攪拌機の駆動によって、ドラフトチューブで仕切られた空間に溶液を循環させ、晶析を行うものである。なお、該非特許文献1の晶析装置は、連続式蒸発晶析装置として記載されているが、回分式(バッチ式)の晶析装置に於いても、プロペラ式攪拌機によって槽内の溶液を循環させるものが公知である。
【0003】
しかしながら、上記従来の溶液循環型の晶析装置では、二次核発生(結晶が崩れて小さな結晶に細分化したり、崩れた種晶に化合物が結晶化して小さな結晶ができること)が生じる割合が高く、このため種晶比率を高くしなければならないという問題がある。尚、種晶比率は、種晶添加率ともいう。
また、平均粒径が比較的大きい結晶を得にくいという問題もある。
【0004】
【非特許文献1】化学工学便覧(改訂六版)の第508頁、平成11年2月25日発行、編者:社団法人化学工学会、発行所:丸善株式会社。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、二次核発生を抑制し、少ない種晶で以て平均粒径の大きい結晶を析出させることができる晶析方法及び晶析装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、種晶と化合物を含む溶液を晶析槽に供給し、晶析槽内に設けられた攪拌装置によって該溶液を攪拌し、種晶の表面に化合物の結晶を析出させる晶析方法において、攪拌装置として、偏平状の2つの攪拌パドルを有する攪拌手段と、回転駆動手段からの回転力を受けて2本の平行な回転出力軸を互いに反対方向へ回転させて攪拌手段側に伝達する回転力伝達手段とを備え、2つの攪拌パドルをそれぞれの厚さ方向へ貫通された各支持軸が互に直交する向きに配されるように互いに一体的に連結し、両回転出力軸の各出力端部にそれぞれ枢支連結された2つの揺動部材の各先端部に攪拌パドルの各支持軸をそれぞれ枢支連結して、両攪拌パドル、両揺動部材および両支持軸により、回転中の2本の回転出力軸の各角速度が補完的に変化する状態で2つの攪拌パドルに8の字形のパドル運動を行わせるリンク機構を構成した攪拌装置を用いる晶析方法を提供する。
【0007】
上記晶析方法は、8の字形のパドル運動を行う2つの攪拌パドルを有する攪拌装置を用いて溶液を流動させる。該攪拌装置は、晶析槽内の溶液の流れをゆっくりとした大きな渦流とすることができるため、結晶や種晶の崩壊を抑制でき、少ない種晶でも平均粒径の大きい結晶を得ることが可能となる。一般に、粒径や形状などが揃った種晶を準備するためには、コストがかかり、このため、多量の種晶を使用すると、製品コストが上がる。この点、本発明によれば、種晶が比較的少量で済むため、安価に所望の結晶を得ることができる。
【0008】
また、本発明は、種晶と化合物を含む溶液を入れる晶析槽と、晶析槽内に設けられ且つ晶析槽内の溶液を流動させる攪拌装置と、を有し、攪拌装置が、偏平状の2つの攪拌パドルを有する攪拌手段と、回転駆動手段からの回転力を受けて2本の平行な回転出力軸を互いに反対方向へ回転させて攪拌手段側に伝達する回転力伝達手段とを備え、2つの攪拌パドルをそれぞれの厚さ方向へ貫通された各支持軸が互に直交する向きに配されるように互いに一体的に連結し、両回転出力軸の各出力端部にそれぞれ枢支連結された2つの揺動部材の各先端部に攪拌パドルの各支持軸をそれぞれ枢支連結して、両攪拌パドル、両揺動部材および両支持軸により、回転中の2本の回転出力軸の各角速度が補完的に変化する状態で2つの攪拌パドルに8の字形のパドル運動を行わせるリンク機構を構成している晶析装置を提供する。
本発明の好ましい態様では、上記晶析槽内にドラフトチューブが設けられ、攪拌装置が、ドラフトチューブ内に配置されている上記晶析装置を提供する。
【0009】
上記晶析装置は、8の字形のパドル運動を行う2つの攪拌パドルを有する攪拌装置を有する。該攪拌装置は、晶析槽内の溶液をゆっくりとした大きな渦流とすることができるため、結晶や種晶の崩壊を抑制でき、少ない種晶でも平均粒径の大きい結晶を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る晶析方法及び晶析装置は、二次核発生を抑制でき、比較的少量の種晶で、平均粒径の大きい結晶を得ることができる。従って、粒径の大きい結晶を安価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について、図面を参照しつつ具体的に説明する。
図1は、晶析装置の概略図を示す。100は、晶析装置を示し、200は、晶析槽を示し、300は、ドラフトチューブを示し、500は、パドル式攪拌装置を示す。本発明の晶析装置100は、回分式或いは連続式の何れにも適用することができる。
晶析槽200は、種晶及び化合物(結晶化させる対象)の溶解した溶液が入れられる槽であり、例えば、胴部がほぼ円筒状の容体にて構成されている。
該晶析槽200には、冷却または加熱手段が具備されている。冷却または加熱手段は、特に限定されないが、例えば、晶析槽200の外面周囲に冷媒または熱媒体を循環させる熱交換器101などが晶析槽200に具備されている。
尚、成長させた結晶を含む溶液を取り出すため、排出路102が晶析槽100の底面部に設けられている。また、溶液を晶析槽200に入れるための導入路103や、種晶を入れるための導入路104が晶析槽200の上方に設けられている。
【0012】
ドラフトチューブ300は、略円筒状の部材からなり、晶析槽200の略中央部に取り付けられている。尚、晶析槽200の溶液は、該ドラフトチューブ300を液没させるまで入れられる。ドラフトチューブ300は、晶析槽200内の溶液を一方向に循環させる循環流を形成させる仕切壁として機能する。
ドラフトチューブ300は、容易に変形しない材質、例えば、金属、硬質プラスチックなどで形成されている。
【0013】
ドラフトチューブ300の直径D3は、晶析槽200の大きさに応じて適宜設定される。ドラフトチューブ300の直径D3は、晶析槽200の胴部の直径D2の0.5倍〜0.8倍程度が好ましく、更に、0.5倍〜0.55倍程度がより好ましい。ドラフトチューブ300の直径が余りに大きいと、ドラフトチューブ300の外面と晶析槽200の内面の間の間隔が狭くなって溶液の循環が悪く、一方、余りに小さいと、ドラフトチューブ300内の溶液の循環が悪くなるからである。
また、ドラフトチューブ300の高さ(上下長さ)も同様に晶析槽200の大きさ(液面高さ)に応じて適宜設定される。ドラフトチューブ300の高さH3は、晶析槽200に入れられる溶液の液面高さH2の0.3倍〜0.7倍程度が好ましく、更に、0.45倍〜0.6倍程度がより好ましい。晶析槽200内に於いて溶液を良好に循環させるためである。
上記ドラフトチューブ300の晶析槽200に対する固定位置としては、ドラフトチューブ300の下端から晶析槽200の底面までの高さh3が、上記液面高さH2の0.2倍〜0.4倍程度が好ましく、更に、0.3倍〜0.35倍程度がより好ましい。なぜなら、攪拌翼によって送出される水流が、ドラフトチューブ300の外面と晶析槽200の内面との間に於いて、好ましい上昇流として変換されるからである。
【0014】
ドラフトチューブ300内には、パドル式攪拌装置500が取り付けられている。
攪拌装置500は、図1の矢印に示すように、溶液がドラフトチューブ300の下方開口部から晶析槽200の底面部へと流れる下降循環流を作る。
該攪拌装置500の取り付け位置は、チューブ300の略上端から略下端の間であれば特に限定されないが、好ましくは、ドラフトチューブ300の上下方向中央部よりも下方側が好ましい。なぜなら、攪拌翼から送出される水が、ドラフトチューブ300に影響されることなく、強い水流とすることができるからである。
【0015】
本発明に用いられるパドル式攪拌装置500は、例えば、特開2005−324109号公報や特許第3370988号公報に記載の攪拌装置を用いることができる。
具体的には、該パドル式攪拌装置500は、図2〜図5に示すように、装置本体1と、攪拌手段2と、回転駆動装置3と、回転力伝達手段4とを備えている。
【0016】
装置本体1は、上部基体11と下部基体12とからなり、この装置本体1には、左右両端部にそれぞれ位置して、上部および下部軸受け13,14がそれぞれ固定されている。
左側の上部および下部軸受け13,14間には、第1の回転出力軸15が回転自在に支承され、また、右側の上部および下部軸受け13,14間には、第1の回転出力軸15に平行な第2の回転出力軸16が回転自在に支承されている。
また、装置本体1の後部には、略中央に位置して回転駆動装置としての1台のモータ3が配置されており、このモータ3の回転軸17aには、駆動源伝達軸18が連結されている。
【0017】
前記攪拌手段2は、第1の回転出力軸15の先端部(出力端部)に固定された第1の軸支部材21と、第2の回転出力軸16の先端部(出力端部)に固定された第2の軸支部材22と、第1の軸支部材21の先端部に軸体23を介して揺動可能に枢支された第1の揺動部材24と、第2の軸支部材22の先端部に軸体25を介して揺動可能に枢支された第2の揺動部材26と、両揺動部材24,26との間に跨がって設けられた攪拌体27とを備えている。
攪拌体27は、厚さ方向が互いに直交する方向に配設された2つの偏平状の攪拌パドル27A,27Bを有し、これら両攪拌パドル27A,27Bは、連結部27Cを介して一体化されている。勿論、両攪拌パドル27A,27Bを別体の連結部材で結合したものであってもよい。
【0018】
前記第1および第2の揺動部材24,26は、それぞれ先端側が二股状部に形成されている。第1の揺動部材24の二股部24a,24bには、第1の攪拌パドル27Aを、その厚さ方向へ貫通した第1の支持軸28が枢支・連結されている。また、第2の揺動部材26の二股部26a,26bには、第2の攪拌パドル27Bを、その厚さ方向へ貫通した第2の支持軸29が枢支・連結されている。この第1の支持軸28と第2の支持軸29は、互いに直交する向きに配されている。
【0019】
第1および第2の揺動部材24,26、第1および第2の支持軸28,29および前記パドル体27により、図5に示すように、90°ねじれた構造で、2つの攪拌パドル27A,27Bを8の字の軌跡に沿って運動させるリンク機構30が構成されている。リンク機構30は、回転中の2本の回転出力軸15,16の各角速度が補完的に変化する状態で2つの攪拌パドル27A,27Bに8の字形のパドル運動を行わせる。
第1および第2の回転出力軸15,16の各下端部には、それぞれ出力かさ歯車31,32が固定されている。
【0020】
前記回転力伝達部4は、左右一対の差動歯車出力軸41,42を有する差動歯車機構から構成されており、左側の差動歯車出力軸41の外端部には、前記第1の回転出力軸15側の従動かさ歯車31に噛合する原動かさ歯車43が固定される一方、右側の差動歯車出力軸42の外端部には、前記第2の回転出力軸16側の従動かさ歯車32に噛合する原動かさ歯車44が固定されている。
【0021】
前記差動歯車機構は、図4に示すように、前記駆動源伝達軸18に連結された減速小かさ歯車45と、この減速小かさ歯車45に噛合する減速大かさ歯車46と、この大かさ歯車46に一体連結された歯車ボックス47とを備えている。
減速大かさ歯車46は、軸受け48を介して前記左側の差動歯車出力軸41に回転自在に支持されており、また、前記歯車ボックス47は、軸受け49を介して前記右側の差動歯車出力軸42に回転自在に支持されている。
歯車ボックス47には、前記左側の差動歯車出力軸41の内端部に固定された左部かさ歯車50と、前記右側の差動歯車出力軸42の内端部に固定された右部かさ歯車51と、軸受け52を介して回転自在に支承された軸53に固定されて、前記左部および右部かさ歯車50,51にそれぞれ噛合する第1の仲立ち用差動かさ歯車54と、軸受け55を介して回転自在に支承された軸56に固定されて、前記左部および右部かさ歯車50,51にそれぞれ噛合する第2の仲立ち用差動かさ歯車57とを備えている。
【0022】
上記構成のパドル式攪拌装置500は、下記のように動作する。
モータ3の回転力は、駆動源伝達軸18を介して前記差動歯車機構4に伝達される。そして、差動歯車機構4における減速小かさ歯車45が図4矢印方向aに回転することにより、減速大かさ歯車46が歯車ボックス47と一体に矢印b方向へ回転する。この歯車ボックス47の回転により、第1および第2の仲立ち用差動かさ歯車54,57も一体に回転するので、これら第1および第2の仲立ち用差動かさ歯車54,57に噛合している左部および右部かさ歯車50,51及び左右の差動歯車出力軸41,42も一体に矢印b方向へ回転し、左右の原動かさ歯車43,44が回転する。
【0023】
左部原動かさ歯車43の回転により、従動かさ歯車31を介して左部の回転出力軸15が矢印c方向へ回転駆動される一方、右部原動かさ歯車44の回転により、従動かさ歯車32を介して右部の回転出力力軸16が前記回転出力軸15とは反対方向の矢印d方向へ回転駆動される。
【0024】
これら第1および第2の回転出力軸15,16の回転により、前記軸支部材21,22を介して前記リンク機構30に伝達されるので、前記2つの攪拌パドル27A,27Bは、8の字軌跡を描きながらパドル運動を行う。この8の字軌跡の運動の詳細については、特許第3370988号に開示されているので、その説明は省略する。
尚、かかるパドル式攪拌装置の具体例としては、野村マイクロ・サイエンス(株)製の「渦創流機 オクタジット」(商品名)などが挙げられる。
【0025】
次に、本発明の晶析方法について説明する。
析出対象の化合物が溶解された溶液を、晶析槽に入れ、ここに種晶を投入する。溶液は、化合物の飽和溶液(所定温度)を用いることが好ましい。好ましくは、この所定温度の飽和溶液を、加熱手段によって昇温させ、未溶解の化合物を完全に溶解させる。
次に、攪拌装置を作動させる。攪拌装置の作動により、溶液の流れは、ドラフトチューブの内側からドラフトチューブの下方開口部に流れ、晶析槽の底面部で外側に流れ、晶析槽の胴部とドラフトチューブの外側の間から上昇し、ドラフトチューブの上方開口部へ流れる循環流となる(図1に示す矢印)。上記パドル式攪拌装置によって形成される晶析槽内の溶液の流れは、ゆっくりとした大きな渦流となり、結晶や種晶の崩壊を抑制できる。
そして、溶液を晶析槽内で循環させつつ、冷却手段によって溶液を冷却することにより、過飽和となった化合物が種晶の表面に結晶化していく。
【0026】
パドル式攪拌装置の回転数は、溶液の量などに応じて適宜設定される。例えば、溶液の量が、100リットルの場合には、150〜200rpmが好ましく、また、溶液の量が、400リットルの場合には、70〜100rpmが好ましい。
【0027】
パドル式攪拌装置による攪拌時間は、溶液の量、対象となる化合物の種類、種晶の量などに応じて適宜設定される。冷却速度についても、対象となる化合物の溶解度曲線などに応じて適宜設定される。尚、例えば、化合物としてカリ明礬(KAl(SO・18HO)を析出させる場合には、3時間の間に50℃から20℃まで冷却することが例示される。
【0028】
種晶の比率は、特に限定されないが、一般的には、理想成長曲線を考慮して適宜設計される。
尚、理想成長曲線については、「最近の化学工学 晶析光学・晶析プロセスの進展」(2001年10月30日発行、編者:社団法人化学工学会関東支部、発行所:社団法人化学工学会)の第5頁〜第6頁に記載されている。
本発明では、種晶の比率を少なくしても、比較的大きな粒径の結晶を得ることができる。ここで、種晶比率は、種晶投入量[kg]/理想的晶析量[kg]で求められる。
本発明では、結晶の表面積が同じである場合、投入する種晶の量は、プロペラ式攪拌装置で晶析する方法の、1/4〜1/2倍でも、良好な結果を得ることができる。
尚、種晶の大きさ、形状は、特に限定されず、得ようとする結晶の大きさや形状に応じて適宜設定されるものである。
【実施例】
【0029】
以下、実施例及び比較例により、本発明を更に詳述する。但し、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
直径40cm×高さ65cmのステンレス製の有底円筒状のタンクと、直径25cm×高さ35cmのプラスチック製の円筒状のドラフトチューブと、2つの攪拌パドル(パドルの両端部の長さ13cm)が直交方向に配されたパドル式攪拌装置(野村マイクロ・サイエンス(株)製、商品名: オクタジット、型式:OT−10S型)とを準備した。図6(a)に示すように、このタンクA内にドラフトチューブBを、タンクAの胴部内面A1から7.5cm、タンクAの底面A2から20cmの間隔となるように、固定した。このドラフトチューブB内に攪拌装置Cを、そのパドルの下端C1がドラフトチューブBの下端B1から15cmの位置となるように、固定した。尚、パドル式攪拌装置Cは、上方から下方側へと溶液を流動させるように設置した。
このタンク内に、カリ明礬の35℃飽和溶液を80リットル入れると共に、カリ明礬の種晶(種晶の平均粒径:75μm。種晶比率:0.007)を入れ、このものを50℃まで昇温した後、パドル式攪拌装置を回転させながら(回転速度:180rpm)、3時間かけて20℃まで徐々に冷却することにより、晶析を行った。
【0031】
(実施例2)
平均粒径125μmの種晶を用い、種晶比率を0.024としたこと以外は、上記実施例1と同様にして、晶析を行った。
【0032】
(実施例3)
平均粒径150μmの種晶を用い、種晶比率を0.035としたこと以外は、上記実施例1と同様にして、晶析を行った。
【0033】
(比較例1−1)
直径40cm×高さ65cmの有底円筒状のタンクの胴部に、幅5cm×高さ40cmのバッフル板を周方向に4本等間隔で固定したタンクと、3枚のプロペラが1本の回転軸に同一方向に傾けた状態で固定された(プロペラの両端部の長さ20cm)プロペラ式攪拌装置(アズワン株式会社(ASONE)製、商品名:ポータブル攪拌機、型番:P82−V90S−11)とを準備した。図6(b)に示すように、このバッフル板Dの付いたタンクA内の中央部に、プロペラ式攪拌装置Cを、そのプロペラの下端C1がタンクAの底面A2から20cmの間隔となるように、固定した。尚、プロペラ式攪拌装置は、上方から下方側へと溶液を流動させるように設置した。
このタンク内に、カリ明礬の35℃飽和溶液を80リットル入れると共に、カリ明礬の種晶(種晶の平均粒径:75μm。種晶比率:0.007)を入れ、このものを50℃まで昇温した後、プロペラ式攪拌装置を回転させながら(回転速度:420rpm)、3時間かけて20℃まで徐々に冷却することにより、晶析を行った。
【0034】
(比較例1−2)
平均粒径125μmの種晶を用い、種晶比率を0.024としたこと以外は、上記比較例1−1と同様にして、晶析を行った。
【0035】
(比較例1−3)
平均粒径150μmの種晶を用い、種晶比率を0.035としたこと以外は、上記比較例1−1と同様にして、晶析を行った。
【0036】
(比較例2−1)
直径40cm×高さ65cmの有底円筒状のタンクと、直径25cm×高さ35cmの円筒状のドラフトチューブと、比較例1−1と同じプロペラ式攪拌装置とを準備した。図6(c)に示すように、このタンクA内にドラフトチューブBを、タンクAの胴部内面A1から7.5cm、タンクAの底面A2から20cmの間隔となるように、固定した。このドラフトチューブB内に攪拌装置Cを、そのプロペラの下端C1がドラフトチューブBの下端B1から20cmの位置となるように、固定した。尚、プロペラ式攪拌装置は、上方から下方側へと溶液を流動させるように設置した。
このタンク内に、カリ明礬の35℃飽和溶液を80リットル入れると共に、カリ明礬の種晶(種晶の平均粒径:75μm。種晶比率:0.007)を入れ、このものを50℃まで昇温した後、プロペラ式攪拌装置を回転させながら(回転速度:300rpm)、3時間かけて20℃まで徐々に冷却することにより、晶析を行った。
【0037】
(比較例2−2)
平均粒径125μmの種晶を用い、種晶比率を0.024としたこと以外は、上記比較例2−1と同様にして、晶析を行った。
【0038】
(比較例2−3)
平均粒径150μmの種晶を用い、種晶比率を0.035としたこと以外は、上記比較例2−1と同様にして、晶析を行った。
【0039】
<結果>
上記実施例及び比較例で得られた結晶の評価を図7に示す。図7において、縦軸は、理想成長比と得られた結晶の成長比を示し、横軸は、種晶比率を示す。
種晶の粒径が75μmで且つ種晶比率が0.007である実施例1と、これに対応する比較例1−1及び比較例2−1とを対比すると、実施例1の方が理想成長比に近く、良好な結晶が得られたことが確認された。
種晶の粒径が125μmで且つ種晶比率が0.024である実施例2と、これに対応する比較例1−2及び比較例2−2とを対比しても、同様であり、種晶の粒径が150μmで且つ種晶比率が0.035である実施例3と、これに対応する比較例1−3及び比較例2−3とを対比しても、同様に良好な結晶が得られたことが確認された。
【0040】
尚、理想成長比、得られた結晶の成長比及び種晶比率は、それぞれ下記式で求められる。
・理想成長比=Lsp/Ls
・結晶の成長比=Lwp/Ls
・種晶比率=Ws/Wth
ただし、「Lsp」は、理想的結晶粒径[m]を、「Ls」は、種晶平均粒径[m]を、「Lwp」は、得られた結晶の平均粒径[m]を、「Ws」は、種晶投入量[kg]を、「Wth」は、理想的晶析量[kg]を示す。
また、上記式は、下記式から導き出すことができる。
・Ls={Ws/(p×Kv×Ns)}1/3
・Lsp={(Ws+Wth)/(p×Kv×Ns)}1/3
・Lsp/Ls={(1+Cs)/Cs}1/3
・Wth=(カリ明礬の35℃の溶解度−同20℃の溶解度)×溶媒量[kg]
・Lwp={(Ws+Wp)/(p×Kv×Np)}1/3
ただし、「Ws」は、種晶投入量[kg]を、「Wth」は、理想的晶析量[kg]を、「p」は、結晶密度[kg/m]を、「kv」は、体積形状係数を、「Ns」は、結晶個数を、「Cs」は、種晶比率を、それぞれ示す。
【0041】
次に、図8は、実施例1、比較例1−1及び比較例2−1で得られた結晶の粒径分布を、図9は、実施例2、比較例1−2及び比較例2−2で得られた結晶の粒径分布を、図10は、実施例3、比較例1−3及び比較例2−3で得られた結晶の粒径分布を、示す。
各図に示す通り、実施例1〜3は、結晶粒径の大きな結晶が得られたことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】晶析装置の一実施形態を示す概略図。
【図2】パドル式攪拌装置を示す正面断面図。
【図3】同攪拌装置を示す右側面断面図。
【図4】回転伝達手段を示す断面図。
【図5】リンク機構を説明する参考図。
【図6】(a)は、実施例1〜3で用いた装置の概略図、(b)は、比較例1−1〜1−3で用いた装置の概略図、(c)は、比較例2−1〜2−3で用いた装置の概略図。
【図7】各実施例及び各比較例で得られた結晶の成長比を示すグラフ図。
【図8】実施例及び各比較例で得られた結晶の粒径分布を示すグラフ図。
【図9】同上のグラフ図。
【図10】同上のグラフ図。
【符号の説明】
【0043】
100…晶析装置、200…晶析槽、300…ドラフトチューブ、500…パドル式攪拌装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
種晶と化合物を含む溶液を晶析槽に供給し、晶析槽内に設けられた攪拌装置によって該溶液を攪拌し、種晶の表面に化合物の結晶を析出させる晶析方法において、
前記攪拌装置として、偏平状の2つの攪拌パドルを有する攪拌手段と、回転駆動手段からの回転力を受けて2本の平行な回転出力軸を互いに反対方向へ回転させて攪拌手段側に伝達する回転力伝達手段とを備え、2つの攪拌パドルをそれぞれの厚さ方向へ貫通された各支持軸が互に直交する向きに配されるように互いに一体的に連結し、両回転出力軸の各出力端部にそれぞれ枢支連結された2つの揺動部材の各先端部に攪拌パドルの各支持軸をそれぞれ枢支連結して、両攪拌パドル、両揺動部材および両支持軸により、2つの攪拌パドルに8の字形のパドル運動を行わせるリンク機構を構成した攪拌装置を用いることを特徴とする晶析方法。
【請求項2】
種晶と化合物を含む溶液を入れる晶析槽と、晶析槽内に設けられ且つ晶析槽内の溶液を流動させる攪拌装置と、を有し、
前記攪拌装置が、偏平状の2つの攪拌パドルを有する攪拌手段と、回転駆動手段からの回転力を受けて2本の平行な回転出力軸を互いに反対方向へ回転させて攪拌手段側に伝達する回転力伝達手段とを備え、2つの攪拌パドルをそれぞれの厚さ方向へ貫通された各支持軸が互に直交する向きに配されるように互いに一体的に連結し、両回転出力軸の各出力端部にそれぞれ枢支連結された2つの揺動部材の各先端部に攪拌パドルの各支持軸をそれぞれ枢支連結して、両攪拌パドル、両揺動部材および両支持軸により、2つの攪拌パドルに8の字形のパドル運動を行わせるリンク機構を構成していることを特徴とする晶析装置。
【請求項3】
晶析槽内にドラフトチューブが設けられ、前記攪拌装置が、ドラフトチューブ内に配置されている請求項2に記載の晶析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−313484(P2007−313484A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−148521(P2006−148521)
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【出願人】(000245531)野村マイクロ・サイエンス株式会社 (116)
【Fターム(参考)】