暖房便座装置
【課題】誤検知を極力抑制して無駄な電力を使わないようにしつつ、使用者が便座に着座する際には昇温が間に合うように構成された暖房便座装置を提供すること。
【解決手段】この暖房便座装置HSは、制御部15が、便座温度検知部14が検知する便座10の温度が第一温度の場合には第一信号レベル閾値を用いて加熱部12を駆動し、便座温度検知部14が検知する便座10の温度が第一温度よりも高い第二温度の場合には第一信号レベル閾値よりも高い第二信号レベル閾値を用いて加熱部12を駆動する。
【解決手段】この暖房便座装置HSは、制御部15が、便座温度検知部14が検知する便座10の温度が第一温度の場合には第一信号レベル閾値を用いて加熱部12を駆動し、便座温度検知部14が検知する便座10の温度が第一温度よりも高い第二温度の場合には第一信号レベル閾値よりも高い第二信号レベル閾値を用いて加熱部12を駆動する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、暖房便座装置に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭用と公共用とを問わず、トイレ室には電波を送受信することで動作が制御されるトイレ装置が設置されている。そのようなトイレ装置の例は、温水洗浄便座や電動吐水の大便器や小便器や手洗器である。より具体的にトイレ装置の構成を説明すると、トイレを使用する際に用いられる機能を発揮するための動作(便器に対する洗浄水の吐出、使用者に対する洗浄水の吐出、使用者に対する温風の吹き出し、便座の昇温)を実行する機能部と、送信部が所定方向に送信波となるマイクロ波を送信し、送信波と反射波との差分周波数となるドップラー信号を生成するドップラーセンサー部と、ドップラー信号に基づいて対象物を検知する対象物検知部と、この対象物の検知に応じて、機能部に動作を実行させるための制御信号を機能部に出力する制御部と、を備えている。
【0003】
このようなトイレ装置の中で、便座を昇温することが可能な暖房便座装置では、トイレ室に入ってくる人を検知して便座を昇温するための加熱部を駆動しているものが提案されている(例えば、下記特許文献1参照)。下記特許文献1に記載の技術は、マイクロ波を用いたドップラーセンサーによって人を検知すると便座のヒーターを駆動し、人を検知しない場合はヒーターの駆動を停止して省電力と快適性の両立を図るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−230562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、家庭用であっても公共用であっても、大便器が設置されている個々のトイレ室は使用者一人が大便器を使用可能なスペースがあれば足りるので、その奥行は広くても数mのものである。また、トイレ空間は基本的に日当たりがあまりよくない、建物の隅に形成されることが多いので、特に冬場は建物の他の空間よりも寒くなりがちである。
【0006】
上記特許文献1に記載の技術は、人を検知しない場合はヒーターの駆動を停止して省電力と快適性の両立を図るものであって、基本的には優れた技術である。しかしながら、上述したトイレ空間の特性を考慮すれば、トイレ室に人が入ったことを検知して便座のヒーターに通電しても、使用者が座るまでに十分に昇温しないおそれがある。
【0007】
このような事態に対処するため、ヒーターの昇温性能を高めたり、便座を熱伝導性の高い金属等によって形成したりといった工夫をすることが提案されている。しかしながら、より高度の安全性及び信頼性を担保することを考慮すれば、ヒーターは通常の性能のままであり便座も通常の樹脂製とすることが好ましいものである。
【0008】
このようにヒーターは通常の性能のままであり便座も通常の樹脂製とすれば、トイレ室外にいる使用者を検知し、「入ってくるであろう」段階から便座の昇温を開始しつつ、実際には入ってこなかった場合に過大な無駄を発生させないものであることが求められる。
【0009】
しかしながら、トイレ室外にいる「人」を検知することはできても、その人が実際にトイレ室に入ってきて「使用者」となることを確実に検知するのは難しい。トイレ室の外側近傍を通った人であっても、そのまま通り過ぎてしまうか実際にトイレ室に入ってくるかは、単にドップラーセンサー部を設けるだけでは判別することができない。そのため、ドップラー信号の検出信号レベルを低く設定すれば、ドップラーセンサーによる検知範囲が広がり、頻繁にトイレ室に入らない人も検知してしまい、頻繁にヒーターを駆動することになって省電力への貢献が低下してしまう。一方で、ドップラー信号の検出信号レベルを高く設定すれば、そのような誤検知は減るものの、使用者はより便座に近づいてしまっていることが想定され、使用者が着座するまでに便座の昇温が間に合わない事態も想定される。
【0010】
そこで本発明ではこのような課題を解決するため、トイレ室内に設けられた大便器に取り付けられる暖房便座装置であって、誤検知を極力抑制して無駄な電力を使わないようにしつつ、使用者が便座に着座する際には昇温が間に合うように構成された暖房便座装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明に係る暖房便座装置は、トイレ室内に設けられた大便器に取り付けられる暖房便座装置であって、大便器を使用する際に着座する便座と、前記便座を少なくとも所定の温度へ昇温させる加熱部と、前記便座の温度を検知する便座温度検知部と、送信部が前記便座よりも前方に向けて送信波となるマイクロ波を送信し、トイレ室の外側にいる人やトイレ室の内側にいる人に前記送信波が当たることで反射される反射波を受信部が受信し、前記送信波と前記反射波との差分周波数となるドップラー信号を生成するドップラーセンサー部と、前記ドップラー信号の検出信号レベルが信号レベル閾値を上回ると前記加熱部を駆動する制御部と、を備えている。前記信号レベル閾値は少なくとも、第一信号レベル閾値と、この第一信号レベル閾値よりも高い値の第二信号レベル閾値とを含んでいる。前記制御部は、前記便座温度検知部が検知する前記便座の温度が第一温度の場合には前記第一信号レベル閾値を用いて前記加熱部を駆動し、前記便座温度検知部が検知する前記便座の温度が前記第一温度よりも高い第二温度の場合には前記第二信号レベル閾値を用いて前記加熱部を駆動することを特徴とする。
【0012】
本発明に係る暖房便座装置は、ヒーターといった加熱部によって便座を少なくとも所定の温度へ昇温させるものである。この所定の温度は使用者が便座に着座した際に少なくとも冷たいとは感じない程度の温度であり、加熱部が便座を昇温する際のそもそもの設定温度(便座を昇温して行った際に定常状態となる温度)と同じ温度であっても、そもそもの設定温度からある程度低い温度であっても構わないものである。この所定の温度まで便座を昇温するためには、昇温前の便座の温度との温度差を埋め合わせるだけの熱量を加える必要があるので、加熱部の能力を従来どおり一定のものとする前提であれば、昇温前の便座の温度によって所定の温度まで昇温するのに必要となる時間は変動する。より具体的には、昇温前の便座の温度が比較的高ければ、便座を所定の温度まで昇温するのに必要な時間は比較的少なくて済む一方で、昇温前の便座の温度が比較的低ければ、便座を所定の温度まで昇温するのに必要な時間は比較的多くなる。
【0013】
そこで本発明ではこの点に着目し、便座の温度が比較的低い第一温度の場合にはドップラー信号の検出信号レベルの閾値である第一信号レベル閾値を用い、便座の温度が比較的高い第二温度の場合にはドップラー信号レベルの閾値である第二信号レベル閾値を用いるものであって、第一信号レベル閾値よりも第二信号レベル閾値の方が高い値としている。このように構成することで、第一信号レベル閾値を用いる場合には、比較的遠くにいる人を検知して加熱部を駆動することができ、もしもその人が実際にトイレ室に入ってきて便座に着座する場合に、所定の温度まで昇温する時間を十分に確保することができる。一方、第二信号レベル閾値を用いる場合には、比較的近くにいる人を検知して加熱部を駆動することができ、より確実に便座に着座すると判断できるタイミングまで加熱部の駆動を遅らせることができるので、誤検知の可能性を確実に低減することができる。
【0014】
また本発明に係る暖房便座装置では、前記第一信号レベル閾値は、トイレ室の外にいてトイレ室に入室する前の人を検知可能な数値であり、前記第二信号レベル閾値は、トイレ室に人が入室することを検知可能な数値であることも好ましい。
【0015】
この好ましい態様では、第一信号レベル閾値を用いる場合には、トイレ室の外にいて入室前の人を検知して加熱部を駆動することができ、その人が実際にトイレ室に入ってきて使用者として便座に着座する場合に、所定の温度まで昇温する時間を十分に確保することができる。一方、第二信号レベル閾値を用いる場合には、トイレのドアを開けたことやトイレ室外からトイレ室内の領域に人が入ってきたといった、トイレ室に人が入室することを検知して加熱部を駆動することができ、より確実に便座に着座すると判断できるタイミングまで加熱部の駆動を遅らせることができるので、誤検知の可能性を確実に低減することができる。
【0016】
また本発明に係る暖房便座装置では、人が前記便座に着座したことを検知する着座検知部と、検出信号レベルと、この検出信号レベルが取得された信号取得時刻から着座が検知された着座検知時刻にかけての着座所要時間との関係を対にして記憶する記憶部と、を備え、前記制御部は、前記便座温度検知部が検知する前記便座の温度に基づいて、前記加熱部が前記便座を前記所定の温度まで上昇させるために必要な昇温時間を算出し、前記記憶部に記憶されている検出信号レベルと前記着座所要時間との関係に基づいて、前記昇温時間に対応する検出信号レベルを前記第二信号レベル閾値として定義し、この定義した第二信号レベル閾値を用いて前記加熱部を駆動することも好ましい。
【0017】
暖房便座装置が設置されるトイレ室は、その大きさや形状が様々であり、使用者が近づいてくる時間とそれに応じた検出信号レベルの変動は様々である。そこでこの好ましい態様では記憶部が、検出信号レベルとそれが取得された信号取得時刻から着座が検知された着座検知時刻にかけての着座所要時間との関係を対にして記憶するので、実際に暖房便座装置が設置された場所の状況を反映した情報を記憶することができる。更に、便座の現在の温度から所定の温度まで昇温するのに必要な時間と記憶部に記憶されている着座所要時間とに基づいて、便座を昇温させる時間が確保できるような検出信号レベルを第二信号レベル閾値とするので、実際に暖房便座装置が設置された場所の状況に応じて加熱部の駆動タイミングをより正確に設定することができ、誤検知の可能性をより確実に低減することができる。
【0018】
また本発明に係る暖房便座装置では、前記記憶部は、前記検出信号レベルと前記着座所要時間との関係を、前記着座所要時間がそれぞれ異なる時間となるように複数対記憶することが可能であり、前記制御部は、前記着座所要時間が前記昇温時間に最も近くなるように、前記記憶部に記憶されている検出信号レベルを前記第二信号レベル閾値として定義することも好ましい。
【0019】
この好ましい態様では、検出信号レベルと前記着座所要時間との関係を複数対記憶することが可能であり、着座所要時間が昇温時間に最も近くなるように、記憶部に記憶されている検出信号レベルを第二信号レベル閾値として定義するので、便座を昇温させるのに必要な時間により近接する着座所要時間を選択することができる。そしてその選択した着座所要時間に対応する検出信号レベルを第二信号レベル閾値とすることで、実際に暖房便座装置が設置された場所の状況に応じて加熱部の駆動タイミングをより正確に設定することができ、誤検知の可能性をより確実に低減することができる。
【0020】
また本発明に係る暖房便座装置では、前記記憶部は、前記検出信号レベルと前記着座所要時間との関係を、時系列に沿って継続的に取得するものであり、着座所要時間が同一の場合であって、後の時刻における検出信号レベルが前の時刻における検出信号レベルよりも低い値の場合に、その低い値の検出信号レベルのみを新たな第二信号レベル閾値として記憶することも好ましい。
【0021】
この好ましい態様では、同一の着座所要時間に対応する検出信号レベルをより低い値のものに更新することができるので、子供のような検出信号レベルの低い使用者であっても加熱部の駆動タイミングをより正確に設定することができ、誤検知の可能性をより確実に低減することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、誤検知を極力抑制して無駄な電力を使わないようにしつつ、使用者が便座に着座する際には昇温が間に合うように構成された暖房便座装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態である暖房便座装置を示す図である。
【図2】本発明の実施形態である暖房便座装置を示す図である。
【図3】本発明の実施形態である暖房便座装置の機能的な構成を示すブロック構成図である。
【図4】図1に示す暖房便座装置の便座温度と昇温時間との関係を示す図である。
【図5】図1に示す暖房便座装置において、便座の昇温を開始するか否かを判断するフローを示すフローチャートである。
【図6】図1に示す暖房便座装置において、信号レベル閾値を変更する処理を示すフローチャートである。
【図7】図3に示すドップラーセンサー部が出力するドップラー信号に所定の処理を施した後、周波数フィルターから出力される信号波形の一例を示す図である。
【図8】本発明の実施形態である暖房便座装置の機能的な構成の別例を示すブロック構成図である。
【図9】図8に示す暖房便座装置において、信号レベル閾値を変更する処理を説明するための図である。
【図10】図8に示す暖房便座装置において、信号レベル閾値を変更して保存する処理を説明するためのフローチャートである。
【図11】図8に示す暖房便座装置において、信号レベル閾値を変更する処理を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0025】
本発明の実施形態である暖房便座装置について、図1を参照しながら説明する。図1は、暖房便座装置HSを、トイレ室TRに設置された大便器SBに取り付けた状態を示す図である。図1に示されるように、暖房便座装置HSは、便座10と、便蓋11と、加熱部12と、ドップラーセンサー部13と、便座温度検知部14と、制御部15とを備えている。
【0026】
便座10は、大便器SBを使用する際に着座するための座であって、大便器SBの奥側を軸として回動可能なように取り付けられている。便蓋11は、便座10を覆うように取り付けられている蓋であって、大便器SBの奥側を軸として回動可能なように取り付けられている。
【0027】
加熱部12は、便座10を少なくとも所定の温度へ昇温させるヒーターからなる部分である。この所定の温度は使用者が便座10に着座した際に少なくとも冷たいとは感じない程度の温度であり、加熱部12が便座10を昇温していく際のそもそもの設定温度(定常状態となる温度)と同じ温度であっても、そもそもの設定温度からある程度低い温度であっても構わないものである。
【0028】
便座温度検知部14は、便座10の温度を検知するための温度センサーからなる部分である。便座温度検知部14は、便座10の温度を直接測定しても、室内温度から推測して便座10の温度を推定してもよいものである。
【0029】
制御部15は、ドップラー信号の検出信号レベルが信号レベル閾値を上回ると加熱部12を駆動する部分である。
【0030】
ドップラーセンサー部13は、送信部(図1には明示しない)が送信波となるマイクロ波を送信し、トイレ室TRの外側にいる人やトイレ室TRの内側にいる人に送信波が当たることで反射される反射波を受信部(図1には明示しない)が受信し、送信波と反射波との差分周波数となるドップラー信号を生成する部分である。
【0031】
ドップラーセンサー部13からは、便座10よりも前方側に向けて送信波となるマイクロ波が送信されている。本実施形態の場合、大便器SB及び便座10は、トイレ室TRと通路CRとを隔てるドアDRに向けて設定されており、マイクロ波もドアDRに向けて送信されている。従って、ドップラーセンサー部13から送信される送信波によって形成される検知領域SAは、ドアDRを突き抜けて通路CRにまで至るように構成されている。図1に示す例の場合、通路CRにいる人Mが検出されている。
【0032】
図2に図1の平面図を示す。図2に示されるように、ドップラーセンサー部13の検知領域SAは、ドアDRを突き抜けて通路CRにまで至っている。従って、通路CRを通る人Mは位置Maにいる場合にも検知領域SAに入っており、位置Maから位置Mbに移動して単にトイレ室TR前を通過してしまうのか、位置Maから位置Mcに移動しドアDRを開けてトイレ室TRに入って使用者となるのかは不明である。そこで、本実施形態では、便座10の温度によって、ドップラーセンサー部13から出力されるドップラー信号を検知するための信号レベル閾値を変動させることで、位置Maから位置Mcに移動しドアDRを開けてトイレ室TRに入って使用者となった場合には便座10の温度を確実に上げておくことができるものとしている。
【0033】
続いて、図3を参照しながら、ドップラーセンサー部13、便座温度検知部14、及び制御部15の具体的な機能的構成について説明する。図3は、暖房便座装置HSの機能的な構成を示すブロック構成図である。
【0034】
図3に示されるように、ドップラーセンサー部13は、送信部131と、受信部132と、差分検出部133とを有している。送信部131は、便座10よりも前方に向けて電波を送信するために10.525GHzの電気信号である送信信号を生成する発振回路と、発振回路から出力される送信信号を10.525GHzのマイクロ波として送信するアンテナとを有している。
【0035】
受信部132は、送信部131から送信されたマイクロ波が検出対象物によって反射され、その反射波を受信して電気信号に変換した受信信号を出力する部分である。差分検出部133は、送信信号の周波数と受信信号の周波数との差分信号であるドップラー信号を出力する部分である。
【0036】
このドップラーセンサー部13は、ドップラー効果を利用して以下の式(1)に基づいて検出対象物の動きを検出するために用いられるものである。
基本式:ΔF=FS―Fb=2×FS×ν/c (1)
ΔF:ドップラー周波数(ドップラー信号の周波数)
FS:送信周波数(送信信号の周波数)
Fb:反射周波数(受信信号の周波数)
ν:検出対象物の移動速度
c:光速(300×106m/s)
【0037】
すなわち、送信部131から送信された周波数FSのマイクロ波は、速度νで移動している検出対象物(人MやドアDRなど)に反射する。この反射波は、相対運動によるドップラー周波数シフトを受けているためその周波数はFbとなり、受信部132によって受信される。そして、差分検出部133によって、送信波と反射波の周波数差ΔFであるドップラー信号が検出信号として取り出され、このドップラー信号に基づいて、人体検出(人体接近検出や人体離反検出)が行われる。
【0038】
ドップラーセンサー部13から出力されるドップラー信号は、制御部15に出力され、制御部15のA/D変換手段である受信出力部151によってデジタルドップラー信号へ変換される。その後、このデジタルドップラー信号は、デジタルフィルター回路である周波数フィルター152によって、人体検出に必要な帯域以外の周波数成分が除去され、昇温開始判定部153に入力される。
【0039】
昇温開始判定部153は、入力されたデジタルドップラー信号に基づいて、人体検出を行う。昇温開始判定部153で人体検出されたとき、制御部15は所定の条件に従い加熱部12を制御して、便座10を昇温する。
【0040】
ここで、本実施形態においては、人体として検出するためのドップラー信号を50Hz以下としている。なお、50Hz以下のドップラー信号は、検出対象物の速度νが約0.7m/s以下の速度であるときにドップラーセンサー部13から出力される。
【0041】
ドップラーセンサー部13から50Hz以下の所定閾値以上のドップラー信号が所定期間連続して出力されると、昇温開始判定部153は人体接近検出を行う。このように人体接近検出が行われると制御部15は、加熱部12を制御して、便座10を昇温する。
【0042】
制御部15は、ドップラー信号の検出信号レベルが、信号レベル閾値を上回った場合、加熱部12を駆動する。信号レベル閾値は少なくとも、第一信号レベル閾値Th1と、この第一信号レベル閾値Th1よりも高い値の第二信号レベル閾値Th2とを含むものである。第一信号レベル閾値Th1及び第二信号レベル閾値Th2は、制御部15の閾値変更部154によって選択される。閾値変更部154は、便座10に設けられた便座温度検知部14から出力される便座10の温度を示す値に基づいて、第一信号レベル閾値Th1及び第二信号レベル閾値Th2のいずれかを選択して昇温開始判定部153に出力する。その結果、制御部15は、便座温度検知部14が検知する便座10の温度が第一温度T1の場合には第一信号レベル閾値Th1を用いて加熱部12を駆動し、便座温度検知部14が検知する便座10の温度が第一温度T1よりも高い第二温度T2の場合には第二信号レベル閾値Th2を用いて加熱部12を駆動する。
【0043】
続いて、図4を参照しながら、昇温開始判定部153の昇温開始判定処理のフローについて説明する。ステップS01では、閾値変更部154による信号レベル閾値を変更するサブルーチンが実行される(このサブルーチンについては後述する)。
【0044】
ステップS01に続くステップS02では、ドップラーセンサー部13から出力されるドップラー信号が、信号レベル閾値Sjを超えたか判断する。ドップラー信号が信号レベル閾値Sjを超えていなければ、ステップS01の処理に戻る。ドップラー信号が信号レベル閾値Sjを超えていれば、ステップS03の処理に進む。
【0045】
ステップS03では、使用者が近づいてきたことを判定する。ステップS04では、制御部15が加熱部12を駆動する。
【0046】
続いて、図5を参照しながら、図4のステップS01における、閾値変更部154による信号レベル閾値Sjを変更するサブルーチンについて説明する。ステップS11では、便座温度検知部14が検知する便座10の温度T0℃が、閾値温度Td℃よりも低いか判断する。便座10の温度T0℃が閾値温度Td℃よりも低ければ、ステップS12の処理に進み、便座10の温度T0℃が閾値温度Td℃以上であれば、ステップS13の処理に進む。
【0047】
ここで、図6を参照しながら閾値温度Td℃の設定根拠について説明する。図6は、便座10の温度変化を示した図である。本実施形態の便座10は、加熱部12を駆動すると昇温し、設定温度になると安定するように構成されている。便座10の温度は、この設定温度にすることが好ましいけれども、使用者が着座して冷たいと感じない程度の温度であってもやがて設定温度に近づくので、使用者が着座する際には設定温度よりも低い着座時最低温度Tm℃に達していれば許容されるものである。
【0048】
この着座時最低温度Tm℃を目標温度とした場合であっても、昇温前の便座10の温度によって、その着座時最低温度Tm℃まで昇温する時間は異なるものと考えられる。便座10の温度が比較的低い第一温度T1℃の場合には、着座時最低温度Tm℃まで昇温するには時間taが必要となる。一方、便座10の温度が比較的高い第二温度T2℃の場合には、着座時最低温度Tm℃まで昇温するには時間tb(ta>tb)が必要となる。一般に、便座10の温度T0℃を着座時最低温度Tm℃まで昇温するのに必要な時間tは、式(2)で求められる。
算出式:t=(Tm−T0)/ΔT (2)
Tm:着座時最低温度
T0:初期便座温度
ΔT:温度上昇率
【0049】
図6において、時刻t3で使用者が便座10に着座するものとすれば、便座10の温度が第二温度T2℃である場合は、便座10の温度が第一温度T1℃であるときに比較して、加熱部12の駆動を遅らせることができる。そこで本実施形態では、便座10の温度が第一温度T1℃であるときの加熱部12の駆動タイミングを時刻t1とし、便座10の温度が第二温度T2℃であるときの加熱部12の駆動タイミングを時刻t2としている。
【0050】
更に本実施形態では、時刻t2を、使用者がトイレ室TRに入る際のドアDRの開閉のタイミングとしている。従って、時刻t1においては、第一温度T1に対応する信号レベル閾値Sjとして第一信号レベル閾値Th1を用いることで、トイレ室TRの外にいてトイレ室TRに入室する前の人Hを検知可能なものとしている。一方、時刻t2においては、第二温度T2に対応する信号レベル閾値Sjとして第二信号レベル閾値Th2を用いることで、トイレ室TRに人が入室することを、ドアDRの開閉で検知可能なものとしている。
【0051】
第一信号レベル閾値Th1及び第二信号レベル閾値Th2の一例について、図7を参照しながら説明する。図7は、図3に示すドップラーセンサー部13が出力するドップラー信号に所定の処理を施した後、周波数フィルター152から出力される信号波形の一例を示す図である。
【0052】
図7に示されるように、人HがドアDRに近づいてくると、ドップラー信号の振幅は徐々に大きくなり、ドアの開閉で急激にドップラー信号の振幅が増大する。その後、人Hが大便器SBに近づくと更に振幅が増大し、着座時に最大の振幅となる。そこで本実施形態では、時刻t3を着座時に合わせ、ドアの開閉で急激に振幅が増大しているタイミングを時刻t2に合わせ、最初に振幅が有意に増大し始めているタイミングを時刻t1に合わせている。従って、人HがドアDRに接近したことを検知可能な信号レベルの値を第一信号レベル閾値Th1と、人HがドアDRを開閉したことを検知可能な信号レベルの値を第二信号レベル閾値Th2としている。
【0053】
図5に戻り、ステップS12では、信号レベル閾値Sjを第一信号レベル閾値Th1と定義している。ステップS13では、信号レベル閾値Sjを第二信号レベル閾値Th2と定義している。
【0054】
このように本実施形態では、ヒーターといった加熱部12によって便座10を少なくとも所定の温度(着座時最低温度Tm)へ昇温させるものである。この所定の温度である着座時最低温度Tmは使用者が便座に着座した際に少なくとも冷たいとは感じない程度の温度である。この着座時最低温度Tmまで便座10を昇温するためには、昇温前の便座10の温度との温度差を埋め合わせるだけの熱量を加える必要があるので、加熱部12の能力を従来どおり一定のものとする前提であれば、昇温前の便座10の温度によって着座時最低温度Tmまで昇温するのに必要となる時間は変動する(図6参照)。より具体的には、昇温前の便座10の温度が比較的高い第二温度T2の場合は、便座10を着座時最低温度Tmまで昇温するのに必要な時間tbは比較的少なくて済む一方で、昇温前の便座10の温度が比較的低い第一温度T1の場合は、便座10を着座時最低温度Tmまで昇温するのに必要な時間taは比較的多くなる。
【0055】
そこで本実施形態ではこの点に着目し、便座10の温度が比較的低い第一温度T1の場合にはドップラー信号の検出信号レベルの閾値である第一信号レベル閾値Th1を用い、便座の温度が比較的高い第二温度Th2の場合にはドップラー信号レベルの閾値である第二信号レベル閾値Th2を用いるものであって、第一信号レベル閾値Th1よりも第二信号レベル閾値Th2の方が高い値としている。このように構成することで、第一信号レベル閾値Th1を用いる場合には、比較的遠くにいる人を検知して加熱部12を駆動することができ、もしもその人が実際にトイレ室TRに入ってきて便座10に着座する場合に、着座時最低温度Tmまで昇温する時間を十分に確保することができる。一方、第二信号レベル閾値Th2を用いる場合には、比較的近くにいる人を検知して加熱部12を駆動することができ、より確実に便座10に着座すると判断できるタイミングまで加熱部12の駆動を遅らせることができるので、誤検知の可能性を確実に低減することができる。
【0056】
また本実施形態では、第一信号レベル閾値Th1は、トイレ室TRの外にいてトイレ室TRに入室する前の人を検知可能な数値であり、第二信号レベル閾値Th2は、トイレ室TRに人が入室することを検知可能な数値である。
【0057】
第一信号レベル閾値Th1を用いる場合には、トイレ室TRの外にいて入室前の人を検知して加熱部12を駆動することができ、その人が実際にトイレ室TRに入ってきて使用者として便座10に着座する場合に、着座時最低温度Tmまで昇温する時間を十分に確保することができる。図2に示した例では、人Mが、位置Maから位置Mbにいる場合に検知可能であり、位置Mbから実際にトイレ室TRに入った場合に対応可能なように設定している。人Mは、位置Maから位置Mbを経て、実際にはトイレ室TRに入らないことも想定されるが、その場合は、人Mがトイレ室TRに入らなかったことが判明した段階で(例えば、一定時間経過後、着座を検知できなかった場合)、加熱部12の駆動を停止する。一方、第二信号レベル閾値Th2を用いる場合には、トイレ室TRのドアDRを開けたこと、すなわちトイレ室TRに人Mが入室することを検知して加熱部12を駆動することができ、より確実に便座10に着座すると判断できるタイミングまで加熱部12の駆動を遅らせることができるので、誤検知の可能性を確実に低減することができる。
【0058】
信号レベル閾値を複数備え、それらから選択した信号レベル閾値を用いる態様は、上述したものに限られない。また、それら複数の信号レベル閾値は、トイレ室TRに入ってくる人Mの移動速度や体格によっても異なるものであり、実際にトイレ室TRに入ってくる人Mに対する反射波の状態によって学習させることも好ましいものである。そこで、変形例である制御部15aを備える暖房便座装置HSaについて、図8を参照しながら説明する。
【0059】
図8に示されるように、暖房便座装置HSaは、ドップラーセンサー部13、便座温度検知部14、及び制御部15aを備えている。ドップラーセンサー部13及び便座温度検知部14は、図3を参照しながら説明したものと同等であるのでその説明を省略する。
【0060】
ドップラーセンサー部13から出力されるドップラー信号は、制御部15aに出力され、制御部15aのA/D変換手段である受信出力部151によってデジタルドップラー信号へ変換される。その後、このデジタルドップラー信号は、デジタルフィルター回路である周波数フィルター152によって、人体検出に必要な帯域以外の周波数成分が除去され、昇温開始判定部153と着座検出部155と記憶部156とにそれぞれ入力される。
【0061】
昇温開始判定部153は、入力されたデジタルドップラー信号に基づいて、人体検出を行う。昇温開始判定部153で人体検出されたとき、制御部15aは所定の条件に従い加熱部12を制御して、便座10を昇温する。
【0062】
ここで、本実施形態においては、人体として検出するためのドップラー信号を50Hz以下としている。なお、50Hz以下のドップラー信号は、検出対象物の速度νが約0.7m/s以下の速度であるときにドップラーセンサー部13から出力される。
【0063】
ドップラーセンサー部13から50Hz以下の所定閾値以上のドップラー信号が所定期間連続して出力されると、昇温開始判定部153は人体接近検出を行う。このように人体接近検出が行われると制御部15aは、加熱部12を制御して、便座10を昇温する。
【0064】
制御部15aは、ドップラー信号の検出信号レベルが、信号レベル閾値を上回った場合、加熱部12を駆動する。本例の場合、信号レベル閾値は少なくとも、第一信号レベル閾値Thcと、この第一信号レベル閾値Thcよりも高い値の第二信号レベル閾値Thbと、この第二信号レベル閾値Thbよりも更に高い値の第三信号レベル閾値Thaを含むものである。
【0065】
第一信号レベル閾値Thc、第二信号レベル閾値Thb、及び第三信号レベル閾値Thaは、制御部15aの閾値変更部154aによって選択される。閾値変更部154aは、便座10に設けられた便座温度検知部14から出力される便座10の温度を示す値に基づいて、第一信号レベル閾値Thc、第二信号レベル閾値Thb、及び第三信号レベル閾値Thaのいずれかを選択して昇温開始判定部153に出力する。その結果、制御部15aは、便座温度検知部14が検知する便座10の温度が第一温度Tcの場合には第一信号レベル閾値Thcを用いて加熱部12を駆動し、便座温度検知部14が検知する便座10の温度が第一温度Tcよりも高い第二温度Tbの場合には第二信号レベル閾値Thbを用いて加熱部12を駆動し、便座温度検知部14が検知する便座10の温度が第二温度Tbよりも高い第三温度Taの場合には第三信号レベル閾値Thaを用いて加熱部12を駆動する。
【0066】
更に制御部15aは、着座検出部155と、記憶部156と、閾値変更部154aとを備えている。着座検知部155は、便座10に人Mが着座したことを検知する部分である。具体的には、着座検知部155は、周波数フィルター152から出力されるデジタルドップラー信号に基づいて、便座10に人Mが着座したことを検知し、その検知したこと及び時刻を記憶部156に出力する。
【0067】
記憶部156は、周波数フィルター152から出力される検出信号レベルと、この検出信号レベルが取得された信号取得時刻から着座が検知された着座検知時刻(着座検知部155から出力される)にかけての着座所要時間との関係を対にして記憶する部分である。本例の場合、検出信号レベルは、第一信号レベル閾値Thc、第二信号レベル閾値Thb、及び第三信号レベル閾値Thaを含んでおり、それぞれに対応する着座所要時間は、c、b、a(a<b<c)である(図9参照)。尚、図9に示す例では、第一信号レベル閾値Thcよりも低い値の第四信号レベル閾値Thdを設定している。
【0068】
閾値変更部154aは、便座温度検知部14から出力される便座10の温度に基づいて、着座時最低温度Tm(図6参照)まで昇温するのに必要な時間を算出し、その時間に応じて時間c、時間b、時間aの中から最適な時間を選択する。そして、第一信号レベル閾値Thc、第二信号レベル閾値Thb、及び第三信号レベル閾値Thaから対応する信号レベル閾値を選択して、昇温開始判定部153に出力する(詳細は後述する)。
【0069】
続いて、図10を参照しながら、第一信号レベル閾値Thc、第二信号レベル閾値Thb、及び第三信号レベル閾値Thaを更新する処理について説明する。ステップS21では、記憶部156が、周波数フィルター152から出力される検出信号レベルと、この検出信号レベルが取得された信号取得時刻とを記憶する。
【0070】
ステップS21に続くステップS22では、着座検出部155が人Mの便座10への着座を検知したか判断する。人Mの便座10への着座を検知しなければステップS21の処理に戻り、人Mの便座10への着座を検知すればステップS23の処理に進む。
【0071】
ステップS23では、記憶した検出信号レベルを、着座時刻からa秒前の検出信号レベルTha1、着座時刻からb秒前の検出信号レベルThb1、着座時刻からc秒前の検出信号レベルThc1を読み出す。
【0072】
ステップS23に続くステップS24では、既存の第一信号レベル閾値Thc、第二信号レベル閾値Thb、及び第三信号レベル閾値Thaと、検出信号レベルThc1,Thb1,Tha1とをそれぞれ比較し、より小さい方の値を、新たな第一信号レベル閾値Thc、第二信号レベル閾値Thb、及び第三信号レベル閾値Thaとして更新する。
【0073】
ステップS24に続くステップS25では、着座検出判定が継続しているか判断し、継続していればステップS25の処理をループし、継続していなければステップS21の処理に戻る。
【0074】
続いて、図11を参照しながら、昇温開始判定部153の昇温開始判定処理のフローについて説明する。ステップS31では、便座10を着座時最低温度Tmまで昇温するのに必要な時間tを算出する。
上述したように、便座10の温度T0を着座時最低温度Tmまで昇温するのに必要な時間tは、式(2)で求められる。
算出式:t=(Tm−T0)/ΔT (2)
Tm:着座時最低温度
T0:初期便座温度
ΔT:温度上昇率
【0075】
ステップS32では、t<aが成立するか判定する。t<aが成立すれば、ステップS33の処理に進み、t<aが成立しなければ、ステップS34の処理に進む。
【0076】
ステップS33では、信号レベル閾値Sjとして第三信号レベル閾値Thaを選択し、昇温開始判定部153に出力する。
【0077】
ステップS34では、a≦t<bが成立するか判定する。a≦t<bが成立すれば、ステップS35の処理に進み、a≦t<bが成立しなければ、ステップS36の処理に進む。
【0078】
ステップS35では、信号レベル閾値Sjとして第二信号レベル閾値Thbを選択し、昇温開始判定部153に出力する。
【0079】
ステップS36では、b≦t<cが成立するか判定する。b≦t<cが成立すれば、ステップS37の処理に進み、b≦t<cが成立しなければ、ステップS38の処理に進む。
【0080】
ステップS37では、信号レベル閾値Sjとして第一信号レベル閾値Thcを選択し、昇温開始判定部153に出力する。ステップS38では、信号レベル閾値Sjとして第四信号レベル閾値Thdを選択し、昇温開始判定部153に出力する。
【0081】
暖房便座装置HSaが設置されるトイレ室TRは、その大きさや形状が様々であり、使用者となる人Mが近づいてくる時間とそれに応じた検出信号レベルの変動は様々である。そこでこの変形例では記憶部156が、検出信号レベルと、それが取得された信号取得時刻から着座が検知された着座検知時刻にかけての着座所要時間との関係を対にして記憶するので、実際に暖房便座装置HSaが設置された場所の状況を反映した情報を記憶することができる。更に、便座10の現在の温度T0から着座時最低温度Tmまで昇温するのに必要な時間tと記憶部に記憶されている着座所要時間(a,b,c)とに基づいて、便座10を昇温させる時間tが確保できるような検出信号レベルを、第一信号レベル閾値Thc、第二信号レベル閾値Thb、第三信号レベル閾値Tha、第四信号レベル閾値Thdから選択された閾値に設定するので、実際に暖房便座装置HSaが設置された場所の状況に応じて加熱部12の駆動タイミングをより正確に設定することができ、誤検知の可能性をより確実に低減することができる。
【0082】
この変形例では、検出信号レベルと着座所要時間(a,b,c)との関係を複数対記憶することが可能であり、着座所要時間(a,b,c)が昇温時間tに最も近くなるように、記憶部156に記憶されている第一信号レベル閾値Thc、第二信号レベル閾値Thb、第三信号レベル閾値Tha、第四信号レベル閾値Thdを選択するので、便座10を昇温させるのに必要な時間tにより近接する着座所要時間(a,b,c)を選択することができる。
【0083】
この変形例では、同一の着座所要時間(a,b,c)に対応する検出信号レベルをより低い値のものに更新することができるので、子供のような検出信号レベルの低い使用者であっても加熱部の駆動タイミングをより正確に設定することができ、誤検知の可能性をより確実に低減することができる。
【0084】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、前述した各具体例が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0085】
10:便座
11:便蓋
12:加熱部
13:ドップラーセンサー部
14:便座温度検知部
15:制御部
131:送信部
132:受信部
133:差分検出部
151:受信出力部
152:周波数フィルター
153:昇温開始判定部
CR:通路
DR:ドア
HS:暖房便座装置
M:人
Ma:位置
Mb:位置
Mc:位置
SA:検知領域
SB:大便器
TR:トイレ室
【技術分野】
【0001】
本発明は、暖房便座装置に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭用と公共用とを問わず、トイレ室には電波を送受信することで動作が制御されるトイレ装置が設置されている。そのようなトイレ装置の例は、温水洗浄便座や電動吐水の大便器や小便器や手洗器である。より具体的にトイレ装置の構成を説明すると、トイレを使用する際に用いられる機能を発揮するための動作(便器に対する洗浄水の吐出、使用者に対する洗浄水の吐出、使用者に対する温風の吹き出し、便座の昇温)を実行する機能部と、送信部が所定方向に送信波となるマイクロ波を送信し、送信波と反射波との差分周波数となるドップラー信号を生成するドップラーセンサー部と、ドップラー信号に基づいて対象物を検知する対象物検知部と、この対象物の検知に応じて、機能部に動作を実行させるための制御信号を機能部に出力する制御部と、を備えている。
【0003】
このようなトイレ装置の中で、便座を昇温することが可能な暖房便座装置では、トイレ室に入ってくる人を検知して便座を昇温するための加熱部を駆動しているものが提案されている(例えば、下記特許文献1参照)。下記特許文献1に記載の技術は、マイクロ波を用いたドップラーセンサーによって人を検知すると便座のヒーターを駆動し、人を検知しない場合はヒーターの駆動を停止して省電力と快適性の両立を図るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−230562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、家庭用であっても公共用であっても、大便器が設置されている個々のトイレ室は使用者一人が大便器を使用可能なスペースがあれば足りるので、その奥行は広くても数mのものである。また、トイレ空間は基本的に日当たりがあまりよくない、建物の隅に形成されることが多いので、特に冬場は建物の他の空間よりも寒くなりがちである。
【0006】
上記特許文献1に記載の技術は、人を検知しない場合はヒーターの駆動を停止して省電力と快適性の両立を図るものであって、基本的には優れた技術である。しかしながら、上述したトイレ空間の特性を考慮すれば、トイレ室に人が入ったことを検知して便座のヒーターに通電しても、使用者が座るまでに十分に昇温しないおそれがある。
【0007】
このような事態に対処するため、ヒーターの昇温性能を高めたり、便座を熱伝導性の高い金属等によって形成したりといった工夫をすることが提案されている。しかしながら、より高度の安全性及び信頼性を担保することを考慮すれば、ヒーターは通常の性能のままであり便座も通常の樹脂製とすることが好ましいものである。
【0008】
このようにヒーターは通常の性能のままであり便座も通常の樹脂製とすれば、トイレ室外にいる使用者を検知し、「入ってくるであろう」段階から便座の昇温を開始しつつ、実際には入ってこなかった場合に過大な無駄を発生させないものであることが求められる。
【0009】
しかしながら、トイレ室外にいる「人」を検知することはできても、その人が実際にトイレ室に入ってきて「使用者」となることを確実に検知するのは難しい。トイレ室の外側近傍を通った人であっても、そのまま通り過ぎてしまうか実際にトイレ室に入ってくるかは、単にドップラーセンサー部を設けるだけでは判別することができない。そのため、ドップラー信号の検出信号レベルを低く設定すれば、ドップラーセンサーによる検知範囲が広がり、頻繁にトイレ室に入らない人も検知してしまい、頻繁にヒーターを駆動することになって省電力への貢献が低下してしまう。一方で、ドップラー信号の検出信号レベルを高く設定すれば、そのような誤検知は減るものの、使用者はより便座に近づいてしまっていることが想定され、使用者が着座するまでに便座の昇温が間に合わない事態も想定される。
【0010】
そこで本発明ではこのような課題を解決するため、トイレ室内に設けられた大便器に取り付けられる暖房便座装置であって、誤検知を極力抑制して無駄な電力を使わないようにしつつ、使用者が便座に着座する際には昇温が間に合うように構成された暖房便座装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明に係る暖房便座装置は、トイレ室内に設けられた大便器に取り付けられる暖房便座装置であって、大便器を使用する際に着座する便座と、前記便座を少なくとも所定の温度へ昇温させる加熱部と、前記便座の温度を検知する便座温度検知部と、送信部が前記便座よりも前方に向けて送信波となるマイクロ波を送信し、トイレ室の外側にいる人やトイレ室の内側にいる人に前記送信波が当たることで反射される反射波を受信部が受信し、前記送信波と前記反射波との差分周波数となるドップラー信号を生成するドップラーセンサー部と、前記ドップラー信号の検出信号レベルが信号レベル閾値を上回ると前記加熱部を駆動する制御部と、を備えている。前記信号レベル閾値は少なくとも、第一信号レベル閾値と、この第一信号レベル閾値よりも高い値の第二信号レベル閾値とを含んでいる。前記制御部は、前記便座温度検知部が検知する前記便座の温度が第一温度の場合には前記第一信号レベル閾値を用いて前記加熱部を駆動し、前記便座温度検知部が検知する前記便座の温度が前記第一温度よりも高い第二温度の場合には前記第二信号レベル閾値を用いて前記加熱部を駆動することを特徴とする。
【0012】
本発明に係る暖房便座装置は、ヒーターといった加熱部によって便座を少なくとも所定の温度へ昇温させるものである。この所定の温度は使用者が便座に着座した際に少なくとも冷たいとは感じない程度の温度であり、加熱部が便座を昇温する際のそもそもの設定温度(便座を昇温して行った際に定常状態となる温度)と同じ温度であっても、そもそもの設定温度からある程度低い温度であっても構わないものである。この所定の温度まで便座を昇温するためには、昇温前の便座の温度との温度差を埋め合わせるだけの熱量を加える必要があるので、加熱部の能力を従来どおり一定のものとする前提であれば、昇温前の便座の温度によって所定の温度まで昇温するのに必要となる時間は変動する。より具体的には、昇温前の便座の温度が比較的高ければ、便座を所定の温度まで昇温するのに必要な時間は比較的少なくて済む一方で、昇温前の便座の温度が比較的低ければ、便座を所定の温度まで昇温するのに必要な時間は比較的多くなる。
【0013】
そこで本発明ではこの点に着目し、便座の温度が比較的低い第一温度の場合にはドップラー信号の検出信号レベルの閾値である第一信号レベル閾値を用い、便座の温度が比較的高い第二温度の場合にはドップラー信号レベルの閾値である第二信号レベル閾値を用いるものであって、第一信号レベル閾値よりも第二信号レベル閾値の方が高い値としている。このように構成することで、第一信号レベル閾値を用いる場合には、比較的遠くにいる人を検知して加熱部を駆動することができ、もしもその人が実際にトイレ室に入ってきて便座に着座する場合に、所定の温度まで昇温する時間を十分に確保することができる。一方、第二信号レベル閾値を用いる場合には、比較的近くにいる人を検知して加熱部を駆動することができ、より確実に便座に着座すると判断できるタイミングまで加熱部の駆動を遅らせることができるので、誤検知の可能性を確実に低減することができる。
【0014】
また本発明に係る暖房便座装置では、前記第一信号レベル閾値は、トイレ室の外にいてトイレ室に入室する前の人を検知可能な数値であり、前記第二信号レベル閾値は、トイレ室に人が入室することを検知可能な数値であることも好ましい。
【0015】
この好ましい態様では、第一信号レベル閾値を用いる場合には、トイレ室の外にいて入室前の人を検知して加熱部を駆動することができ、その人が実際にトイレ室に入ってきて使用者として便座に着座する場合に、所定の温度まで昇温する時間を十分に確保することができる。一方、第二信号レベル閾値を用いる場合には、トイレのドアを開けたことやトイレ室外からトイレ室内の領域に人が入ってきたといった、トイレ室に人が入室することを検知して加熱部を駆動することができ、より確実に便座に着座すると判断できるタイミングまで加熱部の駆動を遅らせることができるので、誤検知の可能性を確実に低減することができる。
【0016】
また本発明に係る暖房便座装置では、人が前記便座に着座したことを検知する着座検知部と、検出信号レベルと、この検出信号レベルが取得された信号取得時刻から着座が検知された着座検知時刻にかけての着座所要時間との関係を対にして記憶する記憶部と、を備え、前記制御部は、前記便座温度検知部が検知する前記便座の温度に基づいて、前記加熱部が前記便座を前記所定の温度まで上昇させるために必要な昇温時間を算出し、前記記憶部に記憶されている検出信号レベルと前記着座所要時間との関係に基づいて、前記昇温時間に対応する検出信号レベルを前記第二信号レベル閾値として定義し、この定義した第二信号レベル閾値を用いて前記加熱部を駆動することも好ましい。
【0017】
暖房便座装置が設置されるトイレ室は、その大きさや形状が様々であり、使用者が近づいてくる時間とそれに応じた検出信号レベルの変動は様々である。そこでこの好ましい態様では記憶部が、検出信号レベルとそれが取得された信号取得時刻から着座が検知された着座検知時刻にかけての着座所要時間との関係を対にして記憶するので、実際に暖房便座装置が設置された場所の状況を反映した情報を記憶することができる。更に、便座の現在の温度から所定の温度まで昇温するのに必要な時間と記憶部に記憶されている着座所要時間とに基づいて、便座を昇温させる時間が確保できるような検出信号レベルを第二信号レベル閾値とするので、実際に暖房便座装置が設置された場所の状況に応じて加熱部の駆動タイミングをより正確に設定することができ、誤検知の可能性をより確実に低減することができる。
【0018】
また本発明に係る暖房便座装置では、前記記憶部は、前記検出信号レベルと前記着座所要時間との関係を、前記着座所要時間がそれぞれ異なる時間となるように複数対記憶することが可能であり、前記制御部は、前記着座所要時間が前記昇温時間に最も近くなるように、前記記憶部に記憶されている検出信号レベルを前記第二信号レベル閾値として定義することも好ましい。
【0019】
この好ましい態様では、検出信号レベルと前記着座所要時間との関係を複数対記憶することが可能であり、着座所要時間が昇温時間に最も近くなるように、記憶部に記憶されている検出信号レベルを第二信号レベル閾値として定義するので、便座を昇温させるのに必要な時間により近接する着座所要時間を選択することができる。そしてその選択した着座所要時間に対応する検出信号レベルを第二信号レベル閾値とすることで、実際に暖房便座装置が設置された場所の状況に応じて加熱部の駆動タイミングをより正確に設定することができ、誤検知の可能性をより確実に低減することができる。
【0020】
また本発明に係る暖房便座装置では、前記記憶部は、前記検出信号レベルと前記着座所要時間との関係を、時系列に沿って継続的に取得するものであり、着座所要時間が同一の場合であって、後の時刻における検出信号レベルが前の時刻における検出信号レベルよりも低い値の場合に、その低い値の検出信号レベルのみを新たな第二信号レベル閾値として記憶することも好ましい。
【0021】
この好ましい態様では、同一の着座所要時間に対応する検出信号レベルをより低い値のものに更新することができるので、子供のような検出信号レベルの低い使用者であっても加熱部の駆動タイミングをより正確に設定することができ、誤検知の可能性をより確実に低減することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、誤検知を極力抑制して無駄な電力を使わないようにしつつ、使用者が便座に着座する際には昇温が間に合うように構成された暖房便座装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態である暖房便座装置を示す図である。
【図2】本発明の実施形態である暖房便座装置を示す図である。
【図3】本発明の実施形態である暖房便座装置の機能的な構成を示すブロック構成図である。
【図4】図1に示す暖房便座装置の便座温度と昇温時間との関係を示す図である。
【図5】図1に示す暖房便座装置において、便座の昇温を開始するか否かを判断するフローを示すフローチャートである。
【図6】図1に示す暖房便座装置において、信号レベル閾値を変更する処理を示すフローチャートである。
【図7】図3に示すドップラーセンサー部が出力するドップラー信号に所定の処理を施した後、周波数フィルターから出力される信号波形の一例を示す図である。
【図8】本発明の実施形態である暖房便座装置の機能的な構成の別例を示すブロック構成図である。
【図9】図8に示す暖房便座装置において、信号レベル閾値を変更する処理を説明するための図である。
【図10】図8に示す暖房便座装置において、信号レベル閾値を変更して保存する処理を説明するためのフローチャートである。
【図11】図8に示す暖房便座装置において、信号レベル閾値を変更する処理を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0025】
本発明の実施形態である暖房便座装置について、図1を参照しながら説明する。図1は、暖房便座装置HSを、トイレ室TRに設置された大便器SBに取り付けた状態を示す図である。図1に示されるように、暖房便座装置HSは、便座10と、便蓋11と、加熱部12と、ドップラーセンサー部13と、便座温度検知部14と、制御部15とを備えている。
【0026】
便座10は、大便器SBを使用する際に着座するための座であって、大便器SBの奥側を軸として回動可能なように取り付けられている。便蓋11は、便座10を覆うように取り付けられている蓋であって、大便器SBの奥側を軸として回動可能なように取り付けられている。
【0027】
加熱部12は、便座10を少なくとも所定の温度へ昇温させるヒーターからなる部分である。この所定の温度は使用者が便座10に着座した際に少なくとも冷たいとは感じない程度の温度であり、加熱部12が便座10を昇温していく際のそもそもの設定温度(定常状態となる温度)と同じ温度であっても、そもそもの設定温度からある程度低い温度であっても構わないものである。
【0028】
便座温度検知部14は、便座10の温度を検知するための温度センサーからなる部分である。便座温度検知部14は、便座10の温度を直接測定しても、室内温度から推測して便座10の温度を推定してもよいものである。
【0029】
制御部15は、ドップラー信号の検出信号レベルが信号レベル閾値を上回ると加熱部12を駆動する部分である。
【0030】
ドップラーセンサー部13は、送信部(図1には明示しない)が送信波となるマイクロ波を送信し、トイレ室TRの外側にいる人やトイレ室TRの内側にいる人に送信波が当たることで反射される反射波を受信部(図1には明示しない)が受信し、送信波と反射波との差分周波数となるドップラー信号を生成する部分である。
【0031】
ドップラーセンサー部13からは、便座10よりも前方側に向けて送信波となるマイクロ波が送信されている。本実施形態の場合、大便器SB及び便座10は、トイレ室TRと通路CRとを隔てるドアDRに向けて設定されており、マイクロ波もドアDRに向けて送信されている。従って、ドップラーセンサー部13から送信される送信波によって形成される検知領域SAは、ドアDRを突き抜けて通路CRにまで至るように構成されている。図1に示す例の場合、通路CRにいる人Mが検出されている。
【0032】
図2に図1の平面図を示す。図2に示されるように、ドップラーセンサー部13の検知領域SAは、ドアDRを突き抜けて通路CRにまで至っている。従って、通路CRを通る人Mは位置Maにいる場合にも検知領域SAに入っており、位置Maから位置Mbに移動して単にトイレ室TR前を通過してしまうのか、位置Maから位置Mcに移動しドアDRを開けてトイレ室TRに入って使用者となるのかは不明である。そこで、本実施形態では、便座10の温度によって、ドップラーセンサー部13から出力されるドップラー信号を検知するための信号レベル閾値を変動させることで、位置Maから位置Mcに移動しドアDRを開けてトイレ室TRに入って使用者となった場合には便座10の温度を確実に上げておくことができるものとしている。
【0033】
続いて、図3を参照しながら、ドップラーセンサー部13、便座温度検知部14、及び制御部15の具体的な機能的構成について説明する。図3は、暖房便座装置HSの機能的な構成を示すブロック構成図である。
【0034】
図3に示されるように、ドップラーセンサー部13は、送信部131と、受信部132と、差分検出部133とを有している。送信部131は、便座10よりも前方に向けて電波を送信するために10.525GHzの電気信号である送信信号を生成する発振回路と、発振回路から出力される送信信号を10.525GHzのマイクロ波として送信するアンテナとを有している。
【0035】
受信部132は、送信部131から送信されたマイクロ波が検出対象物によって反射され、その反射波を受信して電気信号に変換した受信信号を出力する部分である。差分検出部133は、送信信号の周波数と受信信号の周波数との差分信号であるドップラー信号を出力する部分である。
【0036】
このドップラーセンサー部13は、ドップラー効果を利用して以下の式(1)に基づいて検出対象物の動きを検出するために用いられるものである。
基本式:ΔF=FS―Fb=2×FS×ν/c (1)
ΔF:ドップラー周波数(ドップラー信号の周波数)
FS:送信周波数(送信信号の周波数)
Fb:反射周波数(受信信号の周波数)
ν:検出対象物の移動速度
c:光速(300×106m/s)
【0037】
すなわち、送信部131から送信された周波数FSのマイクロ波は、速度νで移動している検出対象物(人MやドアDRなど)に反射する。この反射波は、相対運動によるドップラー周波数シフトを受けているためその周波数はFbとなり、受信部132によって受信される。そして、差分検出部133によって、送信波と反射波の周波数差ΔFであるドップラー信号が検出信号として取り出され、このドップラー信号に基づいて、人体検出(人体接近検出や人体離反検出)が行われる。
【0038】
ドップラーセンサー部13から出力されるドップラー信号は、制御部15に出力され、制御部15のA/D変換手段である受信出力部151によってデジタルドップラー信号へ変換される。その後、このデジタルドップラー信号は、デジタルフィルター回路である周波数フィルター152によって、人体検出に必要な帯域以外の周波数成分が除去され、昇温開始判定部153に入力される。
【0039】
昇温開始判定部153は、入力されたデジタルドップラー信号に基づいて、人体検出を行う。昇温開始判定部153で人体検出されたとき、制御部15は所定の条件に従い加熱部12を制御して、便座10を昇温する。
【0040】
ここで、本実施形態においては、人体として検出するためのドップラー信号を50Hz以下としている。なお、50Hz以下のドップラー信号は、検出対象物の速度νが約0.7m/s以下の速度であるときにドップラーセンサー部13から出力される。
【0041】
ドップラーセンサー部13から50Hz以下の所定閾値以上のドップラー信号が所定期間連続して出力されると、昇温開始判定部153は人体接近検出を行う。このように人体接近検出が行われると制御部15は、加熱部12を制御して、便座10を昇温する。
【0042】
制御部15は、ドップラー信号の検出信号レベルが、信号レベル閾値を上回った場合、加熱部12を駆動する。信号レベル閾値は少なくとも、第一信号レベル閾値Th1と、この第一信号レベル閾値Th1よりも高い値の第二信号レベル閾値Th2とを含むものである。第一信号レベル閾値Th1及び第二信号レベル閾値Th2は、制御部15の閾値変更部154によって選択される。閾値変更部154は、便座10に設けられた便座温度検知部14から出力される便座10の温度を示す値に基づいて、第一信号レベル閾値Th1及び第二信号レベル閾値Th2のいずれかを選択して昇温開始判定部153に出力する。その結果、制御部15は、便座温度検知部14が検知する便座10の温度が第一温度T1の場合には第一信号レベル閾値Th1を用いて加熱部12を駆動し、便座温度検知部14が検知する便座10の温度が第一温度T1よりも高い第二温度T2の場合には第二信号レベル閾値Th2を用いて加熱部12を駆動する。
【0043】
続いて、図4を参照しながら、昇温開始判定部153の昇温開始判定処理のフローについて説明する。ステップS01では、閾値変更部154による信号レベル閾値を変更するサブルーチンが実行される(このサブルーチンについては後述する)。
【0044】
ステップS01に続くステップS02では、ドップラーセンサー部13から出力されるドップラー信号が、信号レベル閾値Sjを超えたか判断する。ドップラー信号が信号レベル閾値Sjを超えていなければ、ステップS01の処理に戻る。ドップラー信号が信号レベル閾値Sjを超えていれば、ステップS03の処理に進む。
【0045】
ステップS03では、使用者が近づいてきたことを判定する。ステップS04では、制御部15が加熱部12を駆動する。
【0046】
続いて、図5を参照しながら、図4のステップS01における、閾値変更部154による信号レベル閾値Sjを変更するサブルーチンについて説明する。ステップS11では、便座温度検知部14が検知する便座10の温度T0℃が、閾値温度Td℃よりも低いか判断する。便座10の温度T0℃が閾値温度Td℃よりも低ければ、ステップS12の処理に進み、便座10の温度T0℃が閾値温度Td℃以上であれば、ステップS13の処理に進む。
【0047】
ここで、図6を参照しながら閾値温度Td℃の設定根拠について説明する。図6は、便座10の温度変化を示した図である。本実施形態の便座10は、加熱部12を駆動すると昇温し、設定温度になると安定するように構成されている。便座10の温度は、この設定温度にすることが好ましいけれども、使用者が着座して冷たいと感じない程度の温度であってもやがて設定温度に近づくので、使用者が着座する際には設定温度よりも低い着座時最低温度Tm℃に達していれば許容されるものである。
【0048】
この着座時最低温度Tm℃を目標温度とした場合であっても、昇温前の便座10の温度によって、その着座時最低温度Tm℃まで昇温する時間は異なるものと考えられる。便座10の温度が比較的低い第一温度T1℃の場合には、着座時最低温度Tm℃まで昇温するには時間taが必要となる。一方、便座10の温度が比較的高い第二温度T2℃の場合には、着座時最低温度Tm℃まで昇温するには時間tb(ta>tb)が必要となる。一般に、便座10の温度T0℃を着座時最低温度Tm℃まで昇温するのに必要な時間tは、式(2)で求められる。
算出式:t=(Tm−T0)/ΔT (2)
Tm:着座時最低温度
T0:初期便座温度
ΔT:温度上昇率
【0049】
図6において、時刻t3で使用者が便座10に着座するものとすれば、便座10の温度が第二温度T2℃である場合は、便座10の温度が第一温度T1℃であるときに比較して、加熱部12の駆動を遅らせることができる。そこで本実施形態では、便座10の温度が第一温度T1℃であるときの加熱部12の駆動タイミングを時刻t1とし、便座10の温度が第二温度T2℃であるときの加熱部12の駆動タイミングを時刻t2としている。
【0050】
更に本実施形態では、時刻t2を、使用者がトイレ室TRに入る際のドアDRの開閉のタイミングとしている。従って、時刻t1においては、第一温度T1に対応する信号レベル閾値Sjとして第一信号レベル閾値Th1を用いることで、トイレ室TRの外にいてトイレ室TRに入室する前の人Hを検知可能なものとしている。一方、時刻t2においては、第二温度T2に対応する信号レベル閾値Sjとして第二信号レベル閾値Th2を用いることで、トイレ室TRに人が入室することを、ドアDRの開閉で検知可能なものとしている。
【0051】
第一信号レベル閾値Th1及び第二信号レベル閾値Th2の一例について、図7を参照しながら説明する。図7は、図3に示すドップラーセンサー部13が出力するドップラー信号に所定の処理を施した後、周波数フィルター152から出力される信号波形の一例を示す図である。
【0052】
図7に示されるように、人HがドアDRに近づいてくると、ドップラー信号の振幅は徐々に大きくなり、ドアの開閉で急激にドップラー信号の振幅が増大する。その後、人Hが大便器SBに近づくと更に振幅が増大し、着座時に最大の振幅となる。そこで本実施形態では、時刻t3を着座時に合わせ、ドアの開閉で急激に振幅が増大しているタイミングを時刻t2に合わせ、最初に振幅が有意に増大し始めているタイミングを時刻t1に合わせている。従って、人HがドアDRに接近したことを検知可能な信号レベルの値を第一信号レベル閾値Th1と、人HがドアDRを開閉したことを検知可能な信号レベルの値を第二信号レベル閾値Th2としている。
【0053】
図5に戻り、ステップS12では、信号レベル閾値Sjを第一信号レベル閾値Th1と定義している。ステップS13では、信号レベル閾値Sjを第二信号レベル閾値Th2と定義している。
【0054】
このように本実施形態では、ヒーターといった加熱部12によって便座10を少なくとも所定の温度(着座時最低温度Tm)へ昇温させるものである。この所定の温度である着座時最低温度Tmは使用者が便座に着座した際に少なくとも冷たいとは感じない程度の温度である。この着座時最低温度Tmまで便座10を昇温するためには、昇温前の便座10の温度との温度差を埋め合わせるだけの熱量を加える必要があるので、加熱部12の能力を従来どおり一定のものとする前提であれば、昇温前の便座10の温度によって着座時最低温度Tmまで昇温するのに必要となる時間は変動する(図6参照)。より具体的には、昇温前の便座10の温度が比較的高い第二温度T2の場合は、便座10を着座時最低温度Tmまで昇温するのに必要な時間tbは比較的少なくて済む一方で、昇温前の便座10の温度が比較的低い第一温度T1の場合は、便座10を着座時最低温度Tmまで昇温するのに必要な時間taは比較的多くなる。
【0055】
そこで本実施形態ではこの点に着目し、便座10の温度が比較的低い第一温度T1の場合にはドップラー信号の検出信号レベルの閾値である第一信号レベル閾値Th1を用い、便座の温度が比較的高い第二温度Th2の場合にはドップラー信号レベルの閾値である第二信号レベル閾値Th2を用いるものであって、第一信号レベル閾値Th1よりも第二信号レベル閾値Th2の方が高い値としている。このように構成することで、第一信号レベル閾値Th1を用いる場合には、比較的遠くにいる人を検知して加熱部12を駆動することができ、もしもその人が実際にトイレ室TRに入ってきて便座10に着座する場合に、着座時最低温度Tmまで昇温する時間を十分に確保することができる。一方、第二信号レベル閾値Th2を用いる場合には、比較的近くにいる人を検知して加熱部12を駆動することができ、より確実に便座10に着座すると判断できるタイミングまで加熱部12の駆動を遅らせることができるので、誤検知の可能性を確実に低減することができる。
【0056】
また本実施形態では、第一信号レベル閾値Th1は、トイレ室TRの外にいてトイレ室TRに入室する前の人を検知可能な数値であり、第二信号レベル閾値Th2は、トイレ室TRに人が入室することを検知可能な数値である。
【0057】
第一信号レベル閾値Th1を用いる場合には、トイレ室TRの外にいて入室前の人を検知して加熱部12を駆動することができ、その人が実際にトイレ室TRに入ってきて使用者として便座10に着座する場合に、着座時最低温度Tmまで昇温する時間を十分に確保することができる。図2に示した例では、人Mが、位置Maから位置Mbにいる場合に検知可能であり、位置Mbから実際にトイレ室TRに入った場合に対応可能なように設定している。人Mは、位置Maから位置Mbを経て、実際にはトイレ室TRに入らないことも想定されるが、その場合は、人Mがトイレ室TRに入らなかったことが判明した段階で(例えば、一定時間経過後、着座を検知できなかった場合)、加熱部12の駆動を停止する。一方、第二信号レベル閾値Th2を用いる場合には、トイレ室TRのドアDRを開けたこと、すなわちトイレ室TRに人Mが入室することを検知して加熱部12を駆動することができ、より確実に便座10に着座すると判断できるタイミングまで加熱部12の駆動を遅らせることができるので、誤検知の可能性を確実に低減することができる。
【0058】
信号レベル閾値を複数備え、それらから選択した信号レベル閾値を用いる態様は、上述したものに限られない。また、それら複数の信号レベル閾値は、トイレ室TRに入ってくる人Mの移動速度や体格によっても異なるものであり、実際にトイレ室TRに入ってくる人Mに対する反射波の状態によって学習させることも好ましいものである。そこで、変形例である制御部15aを備える暖房便座装置HSaについて、図8を参照しながら説明する。
【0059】
図8に示されるように、暖房便座装置HSaは、ドップラーセンサー部13、便座温度検知部14、及び制御部15aを備えている。ドップラーセンサー部13及び便座温度検知部14は、図3を参照しながら説明したものと同等であるのでその説明を省略する。
【0060】
ドップラーセンサー部13から出力されるドップラー信号は、制御部15aに出力され、制御部15aのA/D変換手段である受信出力部151によってデジタルドップラー信号へ変換される。その後、このデジタルドップラー信号は、デジタルフィルター回路である周波数フィルター152によって、人体検出に必要な帯域以外の周波数成分が除去され、昇温開始判定部153と着座検出部155と記憶部156とにそれぞれ入力される。
【0061】
昇温開始判定部153は、入力されたデジタルドップラー信号に基づいて、人体検出を行う。昇温開始判定部153で人体検出されたとき、制御部15aは所定の条件に従い加熱部12を制御して、便座10を昇温する。
【0062】
ここで、本実施形態においては、人体として検出するためのドップラー信号を50Hz以下としている。なお、50Hz以下のドップラー信号は、検出対象物の速度νが約0.7m/s以下の速度であるときにドップラーセンサー部13から出力される。
【0063】
ドップラーセンサー部13から50Hz以下の所定閾値以上のドップラー信号が所定期間連続して出力されると、昇温開始判定部153は人体接近検出を行う。このように人体接近検出が行われると制御部15aは、加熱部12を制御して、便座10を昇温する。
【0064】
制御部15aは、ドップラー信号の検出信号レベルが、信号レベル閾値を上回った場合、加熱部12を駆動する。本例の場合、信号レベル閾値は少なくとも、第一信号レベル閾値Thcと、この第一信号レベル閾値Thcよりも高い値の第二信号レベル閾値Thbと、この第二信号レベル閾値Thbよりも更に高い値の第三信号レベル閾値Thaを含むものである。
【0065】
第一信号レベル閾値Thc、第二信号レベル閾値Thb、及び第三信号レベル閾値Thaは、制御部15aの閾値変更部154aによって選択される。閾値変更部154aは、便座10に設けられた便座温度検知部14から出力される便座10の温度を示す値に基づいて、第一信号レベル閾値Thc、第二信号レベル閾値Thb、及び第三信号レベル閾値Thaのいずれかを選択して昇温開始判定部153に出力する。その結果、制御部15aは、便座温度検知部14が検知する便座10の温度が第一温度Tcの場合には第一信号レベル閾値Thcを用いて加熱部12を駆動し、便座温度検知部14が検知する便座10の温度が第一温度Tcよりも高い第二温度Tbの場合には第二信号レベル閾値Thbを用いて加熱部12を駆動し、便座温度検知部14が検知する便座10の温度が第二温度Tbよりも高い第三温度Taの場合には第三信号レベル閾値Thaを用いて加熱部12を駆動する。
【0066】
更に制御部15aは、着座検出部155と、記憶部156と、閾値変更部154aとを備えている。着座検知部155は、便座10に人Mが着座したことを検知する部分である。具体的には、着座検知部155は、周波数フィルター152から出力されるデジタルドップラー信号に基づいて、便座10に人Mが着座したことを検知し、その検知したこと及び時刻を記憶部156に出力する。
【0067】
記憶部156は、周波数フィルター152から出力される検出信号レベルと、この検出信号レベルが取得された信号取得時刻から着座が検知された着座検知時刻(着座検知部155から出力される)にかけての着座所要時間との関係を対にして記憶する部分である。本例の場合、検出信号レベルは、第一信号レベル閾値Thc、第二信号レベル閾値Thb、及び第三信号レベル閾値Thaを含んでおり、それぞれに対応する着座所要時間は、c、b、a(a<b<c)である(図9参照)。尚、図9に示す例では、第一信号レベル閾値Thcよりも低い値の第四信号レベル閾値Thdを設定している。
【0068】
閾値変更部154aは、便座温度検知部14から出力される便座10の温度に基づいて、着座時最低温度Tm(図6参照)まで昇温するのに必要な時間を算出し、その時間に応じて時間c、時間b、時間aの中から最適な時間を選択する。そして、第一信号レベル閾値Thc、第二信号レベル閾値Thb、及び第三信号レベル閾値Thaから対応する信号レベル閾値を選択して、昇温開始判定部153に出力する(詳細は後述する)。
【0069】
続いて、図10を参照しながら、第一信号レベル閾値Thc、第二信号レベル閾値Thb、及び第三信号レベル閾値Thaを更新する処理について説明する。ステップS21では、記憶部156が、周波数フィルター152から出力される検出信号レベルと、この検出信号レベルが取得された信号取得時刻とを記憶する。
【0070】
ステップS21に続くステップS22では、着座検出部155が人Mの便座10への着座を検知したか判断する。人Mの便座10への着座を検知しなければステップS21の処理に戻り、人Mの便座10への着座を検知すればステップS23の処理に進む。
【0071】
ステップS23では、記憶した検出信号レベルを、着座時刻からa秒前の検出信号レベルTha1、着座時刻からb秒前の検出信号レベルThb1、着座時刻からc秒前の検出信号レベルThc1を読み出す。
【0072】
ステップS23に続くステップS24では、既存の第一信号レベル閾値Thc、第二信号レベル閾値Thb、及び第三信号レベル閾値Thaと、検出信号レベルThc1,Thb1,Tha1とをそれぞれ比較し、より小さい方の値を、新たな第一信号レベル閾値Thc、第二信号レベル閾値Thb、及び第三信号レベル閾値Thaとして更新する。
【0073】
ステップS24に続くステップS25では、着座検出判定が継続しているか判断し、継続していればステップS25の処理をループし、継続していなければステップS21の処理に戻る。
【0074】
続いて、図11を参照しながら、昇温開始判定部153の昇温開始判定処理のフローについて説明する。ステップS31では、便座10を着座時最低温度Tmまで昇温するのに必要な時間tを算出する。
上述したように、便座10の温度T0を着座時最低温度Tmまで昇温するのに必要な時間tは、式(2)で求められる。
算出式:t=(Tm−T0)/ΔT (2)
Tm:着座時最低温度
T0:初期便座温度
ΔT:温度上昇率
【0075】
ステップS32では、t<aが成立するか判定する。t<aが成立すれば、ステップS33の処理に進み、t<aが成立しなければ、ステップS34の処理に進む。
【0076】
ステップS33では、信号レベル閾値Sjとして第三信号レベル閾値Thaを選択し、昇温開始判定部153に出力する。
【0077】
ステップS34では、a≦t<bが成立するか判定する。a≦t<bが成立すれば、ステップS35の処理に進み、a≦t<bが成立しなければ、ステップS36の処理に進む。
【0078】
ステップS35では、信号レベル閾値Sjとして第二信号レベル閾値Thbを選択し、昇温開始判定部153に出力する。
【0079】
ステップS36では、b≦t<cが成立するか判定する。b≦t<cが成立すれば、ステップS37の処理に進み、b≦t<cが成立しなければ、ステップS38の処理に進む。
【0080】
ステップS37では、信号レベル閾値Sjとして第一信号レベル閾値Thcを選択し、昇温開始判定部153に出力する。ステップS38では、信号レベル閾値Sjとして第四信号レベル閾値Thdを選択し、昇温開始判定部153に出力する。
【0081】
暖房便座装置HSaが設置されるトイレ室TRは、その大きさや形状が様々であり、使用者となる人Mが近づいてくる時間とそれに応じた検出信号レベルの変動は様々である。そこでこの変形例では記憶部156が、検出信号レベルと、それが取得された信号取得時刻から着座が検知された着座検知時刻にかけての着座所要時間との関係を対にして記憶するので、実際に暖房便座装置HSaが設置された場所の状況を反映した情報を記憶することができる。更に、便座10の現在の温度T0から着座時最低温度Tmまで昇温するのに必要な時間tと記憶部に記憶されている着座所要時間(a,b,c)とに基づいて、便座10を昇温させる時間tが確保できるような検出信号レベルを、第一信号レベル閾値Thc、第二信号レベル閾値Thb、第三信号レベル閾値Tha、第四信号レベル閾値Thdから選択された閾値に設定するので、実際に暖房便座装置HSaが設置された場所の状況に応じて加熱部12の駆動タイミングをより正確に設定することができ、誤検知の可能性をより確実に低減することができる。
【0082】
この変形例では、検出信号レベルと着座所要時間(a,b,c)との関係を複数対記憶することが可能であり、着座所要時間(a,b,c)が昇温時間tに最も近くなるように、記憶部156に記憶されている第一信号レベル閾値Thc、第二信号レベル閾値Thb、第三信号レベル閾値Tha、第四信号レベル閾値Thdを選択するので、便座10を昇温させるのに必要な時間tにより近接する着座所要時間(a,b,c)を選択することができる。
【0083】
この変形例では、同一の着座所要時間(a,b,c)に対応する検出信号レベルをより低い値のものに更新することができるので、子供のような検出信号レベルの低い使用者であっても加熱部の駆動タイミングをより正確に設定することができ、誤検知の可能性をより確実に低減することができる。
【0084】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、前述した各具体例が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0085】
10:便座
11:便蓋
12:加熱部
13:ドップラーセンサー部
14:便座温度検知部
15:制御部
131:送信部
132:受信部
133:差分検出部
151:受信出力部
152:周波数フィルター
153:昇温開始判定部
CR:通路
DR:ドア
HS:暖房便座装置
M:人
Ma:位置
Mb:位置
Mc:位置
SA:検知領域
SB:大便器
TR:トイレ室
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トイレ室内に設けられた大便器に取り付けられる暖房便座装置であって、
大便器を使用する際に着座する便座と、
前記便座を少なくとも所定の温度へ昇温させる加熱部と、
前記便座の温度を検知する便座温度検知部と、
送信部が前記便座よりも前方に向けて送信波となるマイクロ波を送信し、トイレ室の外側にいる人やトイレ室の内側にいる人に前記送信波が当たることで反射される反射波を受信部が受信し、前記送信波と前記反射波との差分周波数となるドップラー信号を生成するドップラーセンサー部と、
前記ドップラー信号の検出信号レベルが信号レベル閾値を上回ると前記加熱部を駆動する制御部と、を備え、
前記信号レベル閾値は少なくとも、第一信号レベル閾値と、この第一信号レベル閾値よりも高い値の第二信号レベル閾値とを含んでおり、
前記制御部は、前記便座温度検知部が検知する前記便座の温度が第一温度の場合には前記第一信号レベル閾値を用いて前記加熱部を駆動し、前記便座温度検知部が検知する前記便座の温度が前記第一温度よりも高い第二温度の場合には前記第二信号レベル閾値を用いて前記加熱部を駆動することを特徴とする暖房便座装置。
【請求項2】
前記第一信号レベル閾値は、トイレ室の外にいてトイレ室に入室する前の人を検知可能な数値であり、前記第二信号レベル閾値は、トイレ室に人が入室することを検知可能な数値であることを特徴とする請求項1に記載の暖房便座装置。
【請求項3】
人が前記便座に着座したことを検知する着座検知部と、
検出信号レベルと、この検出信号レベルが取得された信号取得時刻から着座が検知された着座検知時刻にかけての着座所要時間との関係を対にして記憶する記憶部と、を備え、
前記制御部は、
前記便座温度検知部が検知する前記便座の温度に基づいて、前記加熱部が前記便座を前記所定の温度まで上昇させるために必要な昇温時間を算出し、
前記記憶部に記憶されている検出信号レベルと前記着座所要時間との関係に基づいて、前記昇温時間に対応する検出信号レベルを前記第二信号レベル閾値として定義し、この定義した第二信号レベル閾値を用いて前記加熱部を駆動することを特徴とする請求項1に記載の暖房便座装置。
【請求項4】
前記記憶部は、前記検出信号レベルと前記着座所要時間との関係を、前記着座所要時間がそれぞれ異なる時間となるように複数対記憶することが可能であり、
前記制御部は、前記着座所要時間が前記昇温時間に最も近くなるように、前記記憶部に記憶されている検出信号レベルを前記第二信号レベル閾値として定義することを特徴とする請求項3に記載の暖房便座装置。
【請求項5】
前記記憶部は、前記検出信号レベルと前記着座所要時間との関係を、時系列に沿って継続的に取得するものであり、着座所要時間が同一の場合であって、後の時刻における検出信号レベルが前の時刻における検出信号レベルよりも低い値の場合に、その低い値の検出信号レベルのみを新たな第二信号レベル閾値として記憶することを特徴とする請求項4に記載の暖房便座装置。
【請求項1】
トイレ室内に設けられた大便器に取り付けられる暖房便座装置であって、
大便器を使用する際に着座する便座と、
前記便座を少なくとも所定の温度へ昇温させる加熱部と、
前記便座の温度を検知する便座温度検知部と、
送信部が前記便座よりも前方に向けて送信波となるマイクロ波を送信し、トイレ室の外側にいる人やトイレ室の内側にいる人に前記送信波が当たることで反射される反射波を受信部が受信し、前記送信波と前記反射波との差分周波数となるドップラー信号を生成するドップラーセンサー部と、
前記ドップラー信号の検出信号レベルが信号レベル閾値を上回ると前記加熱部を駆動する制御部と、を備え、
前記信号レベル閾値は少なくとも、第一信号レベル閾値と、この第一信号レベル閾値よりも高い値の第二信号レベル閾値とを含んでおり、
前記制御部は、前記便座温度検知部が検知する前記便座の温度が第一温度の場合には前記第一信号レベル閾値を用いて前記加熱部を駆動し、前記便座温度検知部が検知する前記便座の温度が前記第一温度よりも高い第二温度の場合には前記第二信号レベル閾値を用いて前記加熱部を駆動することを特徴とする暖房便座装置。
【請求項2】
前記第一信号レベル閾値は、トイレ室の外にいてトイレ室に入室する前の人を検知可能な数値であり、前記第二信号レベル閾値は、トイレ室に人が入室することを検知可能な数値であることを特徴とする請求項1に記載の暖房便座装置。
【請求項3】
人が前記便座に着座したことを検知する着座検知部と、
検出信号レベルと、この検出信号レベルが取得された信号取得時刻から着座が検知された着座検知時刻にかけての着座所要時間との関係を対にして記憶する記憶部と、を備え、
前記制御部は、
前記便座温度検知部が検知する前記便座の温度に基づいて、前記加熱部が前記便座を前記所定の温度まで上昇させるために必要な昇温時間を算出し、
前記記憶部に記憶されている検出信号レベルと前記着座所要時間との関係に基づいて、前記昇温時間に対応する検出信号レベルを前記第二信号レベル閾値として定義し、この定義した第二信号レベル閾値を用いて前記加熱部を駆動することを特徴とする請求項1に記載の暖房便座装置。
【請求項4】
前記記憶部は、前記検出信号レベルと前記着座所要時間との関係を、前記着座所要時間がそれぞれ異なる時間となるように複数対記憶することが可能であり、
前記制御部は、前記着座所要時間が前記昇温時間に最も近くなるように、前記記憶部に記憶されている検出信号レベルを前記第二信号レベル閾値として定義することを特徴とする請求項3に記載の暖房便座装置。
【請求項5】
前記記憶部は、前記検出信号レベルと前記着座所要時間との関係を、時系列に沿って継続的に取得するものであり、着座所要時間が同一の場合であって、後の時刻における検出信号レベルが前の時刻における検出信号レベルよりも低い値の場合に、その低い値の検出信号レベルのみを新たな第二信号レベル閾値として記憶することを特徴とする請求項4に記載の暖房便座装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−212175(P2011−212175A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82496(P2010−82496)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】
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