説明

暖房便座装置

【課題】使用者が便座の前に立った時点で便蓋がタイミングよく開くと共に、使用者が便座に着座する際には昇温が間に合うように構成された暖房便座装置を提供すること。
【解決手段】この暖房便座装置HSは、ドップラーセンサー部13が生成するドップラー信号の検出信号レベルが信号レベル閾値を上回ると加熱部12を駆動する一方で、ドップラーセンサー部13が生成するドップラー信号に基づいて、その検出信号レベルが信号レベル閾値を上回った時点から便蓋11を開放駆動する時点までの遅れ時間を決定し、この決定した遅れ時間に基づいて便蓋11を開放駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、暖房便座装置に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭用と公共用とを問わず、トイレ室には電波を送受信することで動作が制御されるトイレ装置が設置されている。そのようなトイレ装置の例は、温水洗浄便座や電動吐水の大便器や小便器や手洗器である。より具体的にトイレ装置の構成を説明すると、トイレを使用する際に用いられる機能を発揮するための動作(便器に対する洗浄水の吐出、使用者に対する洗浄水の吐出、使用者に対する温風の吹き出し、便座の昇温)を実行する機能部と、送信部が所定方向に送信波となるマイクロ波を送信し、送信波と反射波との差分周波数となるドップラー信号を生成するドップラーセンサー部と、ドップラー信号に基づいて対象物を検知する対象物検知部と、この対象物の検知に応じて、機能部に動作を実行させるための制御信号を機能部に出力する制御部と、を備えている。
【0003】
このようなトイレ装置の中で、便座を昇温することが可能な暖房便座装置では、トイレ室に入ってくる人を検知して便座を昇温するための加熱部を駆動しているものが提案されている(例えば、下記特許文献1参照)。下記特許文献1に記載の技術は、マイクロ波を用いたドップラーセンサーによって人を検知すると便座のヒーターを駆動し、人を検知しない場合はヒーターの駆動を停止して省電力と快適性の両立を図るものである。
【0004】
また、暖房便座装置には便蓋がついており、この便蓋の開閉を人体検知センサーの検知結果に基づいて行う技術が提案されている(例えば、下記特許文献2,3参照)。下記特許文献3に記載されている暖房便座装置は、ヒーターを有する便座と、この便座の便蓋と、便蓋を自動で開閉する便蓋開閉装置と、便座の温度を検知する温度検知センサーとを備えており、便座が所定温度になったことを温度検知センサーが検知し、便座開閉装置によって便蓋を開閉することで、便座の温度が所定温度になったときに快適な使用ができるものとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−230562号公報
【特許文献2】特開2001−190450号公報
【特許文献3】特開2004−321372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
確かに便座の温度上昇のみに着目すれば、上記特許文献3に記載の従来技術のように、所定温度まで上がったら便蓋を開けるようにすれば、便座の温度が下がらずに効率的であるといえる。しかしながら、実際に使用する場面を想定すると、便座の温度が上がるまで使用者は待っていなければならず、使い勝手が良いものとはいえない。使用者の観点に立てば、トイレ室に入って便器の前に立った時点で便蓋が開くと共に、便座の温度も座って冷たいと感じない程度に上がっていることが好ましいものである。
【0007】
そこで本発明ではこのような課題を解決するため、トイレ室内に設けられた大便器に取り付けられる暖房便座装置であって、使用者が便座の前に立った時点で便蓋がタイミングよく開くと共に、使用者が便座に着座する際には昇温が間に合うように構成された暖房便座装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明に係る暖房便座装置は、トイレ室内に設けられた大便器に取り付けられる暖房便座装置であって、大便器を使用する際に着座する便座と、前記便座を少なくとも所定の温度へ昇温させる加熱部と、前記便座を覆うと共に、一端側を中心として回動することで前記便座が使用可能なように開放する便蓋と、送信部が前記便座よりも前方に向けて送信波となるマイクロ波を送信し、トイレ室のドアや人に前記送信波が当たることで反射される反射波を受信部が受信し、前記送信波と前記反射波との差分周波数となるドップラー信号を生成するドップラーセンサー部と、前記ドップラー信号に基づいて前記加熱部及び前記便蓋を駆動する制御部と、を備える。前記制御部は、前記ドップラーセンサー部が生成するドップラー信号の検出信号レベルが信号レベル閾値を上回ると前記加熱部を駆動する一方で、前記ドップラーセンサー部が生成するドップラー信号に基づいて、その検出信号レベルが前記信号レベル閾値を上回った時点から前記便蓋を開放駆動する時点までの遅れ時間を決定し、この決定した遅れ時間に基づいて前記便蓋を開放駆動する。
【0009】
ドップラー信号は送信波と反射波との差分周波数であるから、その検出信号レベルの強弱によって対象物がどのような位置にいるかを推測することも可能であると共に、対象物の移動速度を把握することができる。そこで本発明に係る暖房便座装置では、ドップラー信号の検出信号レベルが信号レベル閾値を上回ると加熱部を駆動するので、人が使用者としてトイレ室の中に入り便器に近づくまでの時間を有効に使って便座を昇温することができる。
【0010】
一方で、ドップラー信号によって対象物たる人の移動速度が把握できることを利用し、ドップラー信号の検出信号レベルが信号レベル閾値を上回った時点から便蓋を開放駆動する時点までの遅れ時間を決定し、その決定した遅れ時間に基づいて便蓋を開放駆動している。換言すれば、ドップラー信号の検知信号レベルによって人の位置が特定しやすい任意の場所を基準位置として、ドップラー信号によって把握できる人の移動速度によってその基準位置から便器に到達できる時間を算出し、その検出信号レベルが信号レベル閾値を上回った時点から便蓋を開放駆動する時点までの遅れ時間を決定することで、便蓋を開放駆動する最適なタイミングを算出することができる。特に、トイレ室は狭い空間であるものの、使用者となる人の動く速度は、いわゆる健常者から運動機能に何らかの障害のある方々まで大きく異なるものであるから、便器から比較的離れた位置を基準として人の移動する速度を組み合わせて便蓋の開放駆動を行うタイミングを決定することは実用上極めて有用なものである。
【0011】
このようにドップラー信号の特性に着目して、位置の把握と速度の把握とを的確に組み合わせることで、使用者が便座の前に立った時点で便蓋がタイミングよく開くと共に、使用者が便座に着座する際には昇温が間に合うように構成することができる。
【0012】
また本発明に係る暖房便座装置では、前記制御部は、前記遅れ時間を決定する際のドップラー信号は、人がトイレ室に入ったと想定される時点で前記ドップラーセンサー部が生成するドップラー信号を用いることも好ましい。
【0013】
トイレ室は、概ねその大きさが定まっており、トイレ室の入り口から便座までの距離も略決まっている。そこで、この好ましい態様では、ドップラー信号の検知信号レベルによって人の位置が特定しやすい任意の場所を基準位置として、トイレ室の入り口付近を採用し、より精度を高めて使用者が便座の前に立った時点で便蓋がタイミングよく開くように構成している。
【0014】
また本発明に係る暖房便座装置では、前記送信波はトイレ室の外側にいる人やトイレ室の内側にいる人に当たることで反射され、その反射波を前記受信部が受信するものであって、前記信号レベル閾値は、トイレ室の外にいてトイレ室に入室する前の人を検知可能な数値であることも好ましい。
【0015】
この好ましい態様では、信号レベル閾値は、トイレ室の外にいてトイレ室に入室する前の人を検知可能な数値としているので、早めに便座を昇温させることができ、初期の便座の温度が低い場合であっても確実に所定の温度まで昇温させることができる。
【0016】
また本発明に係る暖房便座装置では、前記制御部は、人がトイレ室に入ったことを、前記ドップラー信号に基づいて判断することも好ましい。
【0017】
この好ましい態様では、人がトイレ室に入ったことを、ドップラー信号に基づいて判断しているので、別途入室用のセンサーを設ける必要がない。ドップラーセンサー部から出力されるドップラー信号によって、人の速度の把握とトイレ室への入室判断とを行うことができるので、制御部の構成を簡易なものとすることができる。
【0018】
また本発明に係る暖房便座装置では、前記送信波はトイレ室の外側にいる人やトイレ室の内側にいる人に当たることで反射され、その反射波を前記受信部が受信するものであって、前記信号レベル閾値は、トイレ室の外にいてトイレ室に入室する前の人を検知可能な数値であり、前記制御部は、前記遅れ時間を決定する際のドップラー信号は、トイレ室の外にいてトイレ室に入室する前の人を検知した時点で前記ドップラーセンサー部が生成するドップラー信号を用いることも好ましい。
【0019】
この好ましい態様では、信号レベル閾値は、トイレ室の外にいてトイレ室に入室する前の人を検知可能な数値としているので、早めに便座を昇温させることができ、初期の便座の温度が低い場合であっても確実に所定の温度まで昇温させることができる。更に、遅れ時間を早くから把握できるので、誤差があった場合の調整余地が広がり、遅れ時間の振れ幅も大きくすることができるので、使用者個々の状況に応じた便蓋の開放駆動が可能になる。
【0020】
また本発明に係る暖房便座装置では、前記制御部は、前記遅れ時間を決定する際のドップラー信号は、人がトイレ室のドアを開けた際に前記ドップラーセンサー部が生成するドップラー信号を用いることも好ましい。
【0021】
この好ましい態様では、人がトイレ室のドアを開けた際にドップラーセンサー部が生成するドップラー信号を用いているので、そのドップラー信号はより大きな対象物であるドアの速度を示すものと考えられる。一般的にドアの開閉速度とそのドアを開閉した人の速度は比例する傾向にあるので、より大きな対象物であるドアの速度を検知することで確実に速度を把握することができ、ドアを通り過ぎた後の人の速度を把握するよりも早期に速度を把握することができる。従って、遅れ時間を早くから把握できるので、誤差があった場合の調整余地が広がり、遅れ時間の振れ幅も大きくすることができるので、使用者個々の状況に応じた便蓋の開放駆動が可能になる。
【0022】
また本発明に係る暖房便座装置では、人が前記大便器に到達したことを検知する到達検知部と、前記検出信号レベルが前記信号レベル閾値を上回った時点から前記便蓋を開放駆動する時点までの遅れ時間について、前記便蓋を開放駆動する時点を前記大便器への到達が検知された時点とし、前記遅れ時間を補正する補正時間を算出して保持する補正部と、を備え、前記補正部は、前記補正時間を時系列に沿って継続的に算出して保持するものであり、その保持結果に基づいて、前記遅れ時間を補正することも好ましい。
【0023】
この好ましい態様では、補正部が、補正時間を時系列に沿って継続的に算出して保持し、その保持結果に基づいて、遅れ時間を補正するので、トイレ室の大きさが通常よりも広い身障者用のトイレであっても便蓋の開放駆動タイミングを適切なものとすることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、使用者が便座の前に立った時点で便蓋がタイミングよく開くと共に、使用者が便座に着座する際には昇温が間に合うように構成された暖房便座装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態である暖房便座装置を示す図である。
【図2】本発明の実施形態である暖房便座装置を示す図である。
【図3】本発明の実施形態である暖房便座装置の機能的な構成を示すブロック構成図である。
【図4】図3に示す周波数識別部の機能的な構成を示すブロック構成図である。
【図5】図3に示すドップラーセンサー部が出力するドップラー信号に所定の処理を施した後、周波数フィルターから出力される信号波形の一例を示す図である。
【図6】図3に示すドップラーセンサー部が出力するドップラー信号の周波数と、遅れ時間との関係を示す図である。
【図7】図1及び図3に示す暖房便座装置において、便座の昇温を開始するか否か及び便蓋を開けるか否かを判断するフローを示すフローチャートである。
【図8】図1及び図3に示す暖房便座装置において、遅れ時間を決定する処理を示すフローチャートである。
【図9】図1及び図3に示す暖房便座装置の動作を示すタイミングチャートである。
【図10】人の速度を検出するタイミングの別例を示す図である。
【図11】図10に対応する暖房便座装置の動作を示すタイミングチャートである。
【図12】図10に対応する暖房便座装置の動作を示すタイミングチャートである。
【図13】本発明の実施形態である暖房便座装置の機能的な構成の別例を示すブロック構成図である。
【図14】図13に示す暖房便座装置において、便座の昇温を開始するか否か及び便蓋を開けるか否かを判断するフローを示すフローチャートである。
【図15】図13に示す暖房便座装置において、遅れ時間を決定する処理を示すフローチャートである。
【図16】図13に示す暖房便座装置において、遅れ時間を学習する処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0027】
本発明の実施形態である暖房便座装置について、図1を参照しながら説明する。図1は、暖房便座装置HSを、トイレ室TRに設置された大便器SBに取り付けた状態を示す図である。図1に示されるように、暖房便座装置HSは、便座10と、便蓋11と、加熱部12と、ドップラーセンサー部13と、制御部15とを備えている。
【0028】
便座10は、大便器SBを使用する際に着座するための座であって、大便器SBの奥側を軸として回動可能なように取り付けられている。便蓋11は、便座10を覆うように取り付けられている蓋であって、大便器SBの奥側を軸として回動可能なように取り付けられている。
【0029】
加熱部12は、便座10を少なくとも所定の温度へ昇温させるヒーターからなる部分である。この所定の温度は使用者が便座10に着座した際に少なくとも冷たいとは感じない程度の温度であり、加熱部12が便座10を昇温していく際のそもそもの設定温度(定常状態となる温度)と同じ温度であっても、そもそもの設定温度からある程度低い温度であっても構わないものである。
【0030】
制御部15は、ドップラー信号の検出信号レベルが信号レベル閾値を上回ると加熱部12を駆動する部分である。
【0031】
ドップラーセンサー部13は、送信部(図1には明示しない)が送信波となるマイクロ波を送信し、トイレ室TRの外側にいる人やトイレ室TRの内側にいる人に送信波が当たることで反射される反射波を受信部(図1には明示しない)が受信し、送信波と反射波との差分周波数となるドップラー信号を生成する部分である。
【0032】
ドップラーセンサー部13からは、便座10よりも前方側に向けて送信波となるマイクロ波が送信されている。本実施形態の場合、大便器SB及び便座10は、トイレ室TRと通路CRとを隔てるドアDRに向けて設定されており、マイクロ波もドアDRに向けて送信されている。従って、ドップラーセンサー部13から送信される送信波によって形成される検知領域SAは、ドアDRを突き抜けて通路CRにまで至るように構成されている。図1に示す例の場合、通路CRにいる人Mが検出されている。
【0033】
図2に図1の平面図を示す。図2に示されるように、ドップラーセンサー部13の検知領域SAは、少なくともドアDRから人Mがトイレ室TR内に入った領域をカバーできるように設定されている。本実施形態では、トイレ室TRに入った時点の人Mの位置Maから、人Mが速度vで移動し、便器SB前の位置Mbに到達する時間を算出することで、便蓋11の開放タイミングを算出し駆動している。位置Maから位置Mbまでの距離aを速度vで移動した場合の遅れ時間tcを算出し、人Mがトイレ室TRに入った位置Maでの時刻t3に加えることで、位置Mbに至る時刻t4を算出している。
【0034】
続いて、図3を参照しながら、ドップラーセンサー部13及び制御部15の具体的な機能的構成について説明する。図3は、暖房便座装置HSの機能的な構成を示すブロック構成図である。
【0035】
図3に示されるように、ドップラーセンサー部13は、送信部131と、受信部132と、差分検出部133とを有している。送信部131は、便座10よりも前方に向けて電波を送信するために10.525GHzの電気信号である送信信号を生成する発振回路と、発振回路から出力される送信信号を10.525GHzのマイクロ波として送信するアンテナとを有している。
【0036】
受信部132は、送信部131から送信されたマイクロ波が検出対象物によって反射され、その反射波を受信して電気信号に変換した受信信号を出力する部分である。差分検出部133は、送信信号の周波数と受信信号の周波数との差分信号であるドップラー信号を出力する部分である。
【0037】
このドップラーセンサー部13は、ドップラー効果を利用して以下の式(1)に基づいて検出対象物の動きを検出するために用いられるものである。
基本式:ΔF=FS―Fb=2×FS×v/c (1)
ΔF:ドップラー周波数(ドップラー信号の周波数)
FS:送信周波数(送信信号の周波数)
Fb:反射周波数(受信信号の周波数)
v:検出対象物の移動速度
c:光速(300×106m/s)
【0038】
すなわち、送信部131から送信された周波数FSのマイクロ波は、速度vで移動している検出対象物(人MやドアDRなど)に反射する。この反射波は、相対運動によるドップラー周波数シフトを受けているためその周波数はFbとなり、受信部132によって受信される。そして、差分検出部133によって、送信波と反射波の周波数差ΔFであるドップラー信号が検出信号として取り出され、このドップラー信号に基づいて、人体検出(人体接近検出や人体離反検出)が行われる。
【0039】
ドップラーセンサー部13から出力されるドップラー信号は、制御部15に出力され、制御部15のA/D変換手段である受信出力部151によってデジタルドップラー信号へ変換される。その後、このデジタルドップラー信号は、デジタルフィルター回路である周波数フィルター152によって、人体検出に必要な帯域以外の周波数成分が除去され、昇温開始判定部153及び周波数識別部154に入力される。
【0040】
昇温開始判定部153は、入力されたデジタルドップラー信号に基づいて、人体検出を行う。昇温開始判定部153で人体検出されたとき、制御部15は所定の条件に従い加熱部12を制御して、便座10を昇温する。
【0041】
ここで、本実施形態においては、人体として検出するためのドップラー信号を50Hz以下としている。なお、50Hz以下のドップラー信号は、検出対象物の速度vが約0.7m/s以下の速度であるときにドップラーセンサー部13から出力される。
【0042】
ドップラーセンサー部13から50Hz以下の所定閾値以上のドップラー信号が所定期間連続して出力されると、昇温開始判定部153は人体接近検出を行う。このように人体接近検出が行われると制御部15は、加熱部12を制御して、便座10を昇温する。
【0043】
続いて、周波数識別部154について説明する。図4に周波数識別部154の機能的な構成を示す。図4に示されるように、周波数識別部154は、ローパスフィルター154aと、バンドパスフィルター154bと、ハイパスフィルター154cと、比較部154dとを有している。ローパスフィルター154aは、周波数fがf<f1を満たすドップラー信号を比較部154dに出力するものである。バンドパスフィルター154bは、周波数fがf1≦f<f2を満たすドップラー信号を比較部154dに出力するものである。ハイパスフィルター154cは、周波数fがf≧f2を満たすドップラー信号を比較部154dに出力するものである。比較部154dは、ドップラー信号とその測定周波数の情報とを遅れ時間決定部155に出力する。
【0044】
図3に戻り、遅れ時間決定部155は、比較部154dから出力されるドップラー信号の測定周波数から、対象物である人Mの速度vを算出する部分である。
一般に、対象物である人Mの速度vは、式(2)及びそれを変形した式(3)で求められる。
算出式:f=2×Fs×v/c (2)
算出式:v=f×c/(2×Fs) (3)
c:光速(300×106m/s)
Fs:送信周波数
f:測定周波数
遅れ時間決定部155は、算出した人Mの速度vに基づいて、遅れ時間tcを決定し、便蓋開閉制御部156に出力する。
【0045】
図5に、図3に示すドップラーセンサー部13が出力するドップラー信号に所定の処理を施した後、周波数フィルター152から出力される信号波形の一例を示す。図5に示されるように、人MがドアDRに近づいてくると、ドップラー信号の振幅は徐々に大きくなり、ドアの開閉で急激にドップラー信号の振幅が増大する。その後、人Mが大便器SBに近づくと更に振幅が増大し、着座時に最大の振幅となる。そこで本実施形態では、時刻t1を人Mが接近して検出を開始した時刻、時刻t2をドアDRを開けた時刻とし、時刻t4を着座前に大便器SBの前に到達した時刻としている。尚、時刻t4において、人Mが大便器SB前に到達したかどうかは、人Mの速度vが低下したことによって判断できるものである。
【0046】
遅れ時間tcは、時刻t2から時刻t3の間に出力されるドップラー信号から上述のように求めた人Mの速度vに基づいて算出している。ドップラー信号の周波数fと遅れ時間tcとの関係を図6に示す。図6に示されるように、周波数fと遅れ時間tcとは反比例の関係にある。
【0047】
図3に戻り、便蓋開閉制御部156は、遅れ時間決定部155から出力される遅れ時間tcに基づいて、t4=t3+tcを満たす時刻t4において便蓋11を開放駆動する。
【0048】
続いて、図7を参照しながら、便座10の昇温開始判定処理及び便蓋11の便蓋開閉制御のフローについて説明する。図7を参照しながらする説明では、図9に示すタイミングチャートも併せて適宜参照する。ステップS01では、昇温開始判定部153において人体検出がされたか判断する。具体的には、ドップラーセンサー部13から出力されるドップラー信号が、第一信号レベル閾値Th1を超えたか判断する。ドップラー信号が第一信号レベル閾値Th1を超えていなければ、ステップS01の処理に戻る。ドップラー信号が第一信号レベル閾値Th1を超えていれば、ステップS02の処理に進む。
【0049】
ステップS02では、使用者が近づいてきたことを判定し、制御部15が加熱部12を駆動する(図9における時刻t1)。ステップS02に続くステップS03では、ドアDRの開閉がなされたか判断する。具体的には、ドップラーセンサー部13から出力されるドップラー信号が、第一信号レベル閾値Th1より大きな第二信号レベル閾値Th2を超えたか判断する。ドップラー信号が第二信号レベル閾値Th2を超えていなければ、ステップS10の処理に進む。ドップラー信号が第二信号レベル閾値Th2を超えていれば、ステップS04の処理に進む(図9における時刻t2)。
【0050】
ステップS04では、周波数識別部154によるドップラー信号の周波数測定が実行される(図9における時刻t2´)。ステップS04に続くステップS05では、遅れ時間決定部155が、遅れ時間tcを算出する(図9における時刻t2´から時刻t3)。
【0051】
ステップS05に続くステップS06では、周波数測定が実行された経過時間(図9における時刻t2´から時刻t3)を考慮し、時刻t3を遅れ時間算出基準とするように、時刻t3において積算遅れ時間t=0と定義する。
【0052】
ステップS06に続くステップS07では、積算遅れ時間tにサンプリング周期sを加算して、積算遅れ時間t=t+sを算出する。ステップS07に続くステップS08では、積算遅れ時間tが遅れ時間tcとなったか判断する。積算遅れ時間tが遅れ時間tcとなればステップS09の処理に進み、積算遅れ時間tが遅れ時間tcとなっていなければステップS11の処理に進む。
【0053】
ステップS09では、便蓋開閉制御部156が便蓋11を開放駆動する。
【0054】
ステップS10では、ステップS01で開始された人体検出状態が継続しているか判断する。人体検出状態が継続していればステップS03の処理に戻り、人体検出状態が継続していなければステップS12の処理に進む。
【0055】
ステップS11では、ステップS01で開始された人体検出状態が継続しているか判断する。人体検出状態が継続していればステップS07の処理に戻り、人体検出状態が継続していなければステップS12の処理に進む。
【0056】
ステップS12では、加熱部12の駆動処理を停止し、ステップS01の処理に戻る。
【0057】
続いて、図8を参照しながら、図7のステップS05における遅れ時間tcの決定処理について説明する。ステップS21では、測定周波数fがf<f1を満たすか判断する。測定周波数fがf<f1を満たせばステップS22の処理に進み、測定周波数fがf<f1を満たさなければステップS23の処理に進む。
【0058】
ステップS22では、遅れ時間tcを遅れ時間tc1と定義する。遅れ時間tc1は、上述した式(2)(3)に基づいて算出された移動速度vを用いて算出されるものである。
【0059】
ステップS23では、測定周波数fがf1≦f<f2を満たすか判断する。測定周波数fがf1≦f<f2を満たせばステップS24の処理に進み、測定周波数fがf1≦f<f2を満たさなければステップS25の処理に進む。
【0060】
ステップS24では、遅れ時間tcを遅れ時間tc2と定義する。遅れ時間tc2は、上述した式(2)(3)に基づいて算出された移動速度vを用いて算出されるものである。ステップS25では、遅れ時間tcを遅れ時間tc3と定義する。遅れ時間tc3は、上した式(2)(3)に基づいて算出された移動速度vを用いて算出されるものである。
【0061】
上述した本実施形態では、図2に示されるように、人Mの速度vをトイレ室TRに入った時点で算出していたけれども、人Mがトイレ室TRに入る前に速度vを算出することも好ましい。この好ましい態様を図10に示し、それに対応するタイミングチャートを図11に示す。図10に示されるように、ドップラーセンサー部13の検知領域SAaは、確実にドアDRよりも外側の通路CRに至るように設定されている。この態様では、トイレ室TRに入る前の人Mの位置Mcから、人Mが速度vで移動し、便器SB前の位置Mbに到達する時間を算出することで、便蓋11の開放タイミングを算出し駆動している。位置Mcから位置Mbまでの距離a´を速度vで移動した場合の遅れ時間tc´を算出し、人Mが検知された時刻t1から周波数測定に要した時間を考慮した時刻t1´に加えることで、位置Mbに至る時刻t4を算出している(図11参照)。
【0062】
また、上述した本実施形態では、人Mの速度vを、人MがドアDRを開けてから、その人Mが反射する反射波に基づいて算出していたけれども、ドアDRの速度を人Mの速度vとみなして算出することも好ましい態様である。この態様のタイミングチャートを図12に示す。図12に示されるように、ドアDRの反射波に基づいて速度vを算出すれば、周波数測定分の遅れがなくなるので、より正確に遅れ時間tcを算出することができる。
【0063】
上述した本実施形態では、ドップラー信号が送信波と反射波との差分周波数であるから、その検出信号レベルの強弱によって対象物である人Mがどのような位置にいるかを推測することも可能であると共に、対象物である人Mの移動速度vを把握することができることを利用している。ドップラー信号の検出信号レベルが信号レベル閾値を上回ると加熱部12を駆動するので、人Mが使用者としてトイレ室TRの中に入り大便器SBに近づくまでの時間を有効に使って便座10を昇温している。
【0064】
一方で、ドップラー信号によって対象物たる人Mの移動速度vが把握できることを利用し、ドップラー信号の検出信号レベルが信号レベル閾値を上回った時点から便蓋11を開放駆動する時点までの遅れ時間tcを決定し、その決定した遅れ時間tcに基づいて便蓋11を開放駆動している。換言すれば、ドップラー信号の検知信号レベルによって人の位置が特定しやすい任意の場所(例えば、ドアDRを開けた位置)を基準位置として、ドップラー信号によって把握できる人の移動速度vによってその基準位置から大便器SBに到達できる時間を算出し、その検出信号レベルが信号レベル閾値を上回った時点から便蓋11を開放駆動する時点までの遅れ時間tcを決定することで、便蓋11を開放駆動する最適なタイミングを算出することができる。特に、トイレ室TRは狭い空間であるものの、使用者となる人Mの動く速度vは、いわゆる健常者から運動機能に何らかの障害のある方々まで大きく異なるものであるから、大便器SBから比較的離れた位置を基準として人の移動する速度vを組み合わせて便蓋11の開放駆動を行うタイミングを決定することは実用上極めて有用なものである。
【0065】
このようにドップラー信号の特性に着目して、位置の把握と速度の把握とを的確に組み合わせることで、使用者である人Mが便座10の前に立った時点で便蓋11がタイミングよく開くと共に、使用者が便座10に着座する際には昇温が間に合うように構成することができる。
【0066】
また図10に示したように、信号レベル閾値を、トイレ室TRの外にいてトイレ室TRに入室する前の人Mを検知可能な数値とすれば、早めに便座10を昇温させることができ、初期の便座10の温度が低い場合であっても確実に所定の温度まで昇温させることができる。更に、遅れ時間tcを早くから把握できるので、誤差があった場合の調整余地が広がり、遅れ時間tcの振れ幅も大きくすることができるので、使用者個々の状況に応じた便蓋11の開放駆動が可能になる。
【0067】
また図12に示したように、人Mがトイレ室TRのドアDRを開けた際にドップラーセンサー部13が生成するドップラー信号を用いれば、そのドップラー信号はより大きな対象物であるドアDRの速度を示すものと考えられる。一般的にドアDRの開閉速度とそのドアを開閉した人Mの速度vは比例する傾向にあるので、より大きな対象物であるドアDRの速度を検知することで確実に速度vを把握することができ、ドアDRを通り過ぎた後の人Mの速度を把握するよりも早期に速度vを把握することができる(図11と図12を比較参照)。従って、遅れ時間tcを早くから把握できるので、誤差があった場合の調整余地が広がり、遅れ時間の振れ幅も大きくすることができるので、使用者個々の状況に応じた便蓋の開放駆動が可能になる。
【0068】
更に本実施形態では、人Mがトイレ室TRに入ったことを、ドップラー信号に基づいて判断しているので、別途入室用のセンサーを設ける必要がない。ドップラーセンサー部13から出力されるドップラー信号によって、人の速度vの把握とトイレ室TRへの入室判断とを行うことができるので、制御部15の構成を簡易なものとすることができる。
【0069】
上述した遅れ時間tcは、トイレ室TRに入ってくる人Mの移動速度や体格によっても異なるものであり、実際にトイレ室TRに入ってくる人Mに対する反射波の状態によって学習させることも好ましいものである。そこで、変形例である制御部15aを備える暖房便座装置HSaについて、図13を参照しながら説明する。
【0070】
図13に示されるように、暖房便座装置HSaは、ドップラーセンサー部13及び制御部15aを備えている。ドップラーセンサー部13は、図3を参照しながら説明したものと同等であるのでその説明を省略する。
【0071】
ドップラーセンサー部13から出力されるドップラー信号は、制御部15に出力され、制御部15のA/D変換手段である受信出力部151によってデジタルドップラー信号へ変換される。その後、このデジタルドップラー信号は、デジタルフィルター回路である周波数フィルター152によって、人体検出に必要な帯域以外の周波数成分が除去され、昇温開始判定部153、周波数識別部154、及び便器前到達検出部158に入力される。
【0072】
昇温開始判定部153は、入力されたデジタルドップラー信号に基づいて、人体検出を行う。昇温開始判定部153で人体検出されたとき、制御部15は所定の条件に従い加熱部12を制御して、便座10を昇温する。
【0073】
ここで、本実施形態においては、人体として検出するためのドップラー信号を50Hz以下としている。なお、50Hz以下のドップラー信号は、検出対象物の速度vが約0.7m/s以下の速度であるときにドップラーセンサー部13から出力される。
【0074】
ドップラーセンサー部13から50Hz以下の所定閾値以上のドップラー信号が所定期間連続して出力されると、昇温開始判定部153は人体接近検出を行う。このように人体接近検出が行われると制御部15は、加熱部12を制御して、便座10を昇温する。
【0075】
図4に示されるように、周波数識別部154は、ローパスフィルター154aと、バンドパスフィルター154bと、ハイパスフィルター154cと、比較部154dとを有している。ローパスフィルター154aは、周波数fがf<f1を満たすドップラー信号を比較部154dに出力するものである。バンドパスフィルター154bは、周波数fがf1≦f<f2を満たすドップラー信号を比較部154dに出力するものである。ハイパスフィルター154cは、周波数fがf≧f2を満たすドップラー信号を比較部154dに出力するものである。比較部154dは、ドップラー信号とその測定周波数の情報とを遅れ時間決定部155に出力する。
【0076】
図11に戻り、遅れ時間決定部155は、比較部154dから出力されるドップラー信号の測定周波数から、対象物である人Mの速度vを算出する部分である。
一般に、対象物である人Mの速度vは、既に説明した式(2)及びそれを変形した式(3)で求められる。
算出式:f=2×Fs×v/c (2)
算出式:v=f×c/(2×Fs) (3)
c:光速(300×106m/s)
Fs:送信周波数
f:測定周波数
遅れ時間決定部155は、算出した人Mの速度vに基づいて、遅れ時間tcを決定し、便蓋開閉制御部156に出力する。
【0077】
便蓋開閉制御部156は、遅れ時間決定部155から出力される遅れ時間tcに基づいて、便蓋11を開放駆動する。
【0078】
更に本例では、補正部157及び便器前到達検出部158(到達検知部)を備えている。便器前到達検出部158は、人Mが便座10に到達したことを検知する部分である。人Mが便座10(大便器SB)前に到達したかどうかは、人Mの速度vが低下したことによって判断する。
【0079】
補正部157は、検出信号レベルが信号レベル閾値を上回った時点から便蓋11を開放駆動する時点までの遅れ時間tcについて、便蓋11を開放駆動する時点を大便器SBへの到達が検知された時点とし、遅れ時間tcを補正する補正時間thを算出して保持する部分である。補正部157は、補正時間thを時系列に沿って継続的に算出して保持するものであり、その保持結果に基づいて、遅れ時間tcを補正する。
【0080】
続いて、図14を参照しながら、便座10の昇温開始判定処理及び便蓋11の便蓋開閉制御(補正処理を含む)のフローについて説明する。ステップS31では、昇温開始判定部153において人体検出がされたか判断する。具体的には、ドップラーセンサー部13から出力されるドップラー信号が、第一信号レベル閾値Th1を超えたか判断する。ドップラー信号が第一信号レベル閾値Th1を超えていなければ、ステップS31の処理に戻る。ドップラー信号が第一信号レベル閾値Th1を超えていれば、ステップS32の処理に進む。
【0081】
ステップS32では、使用者が近づいてきたことを判定し、制御部15が加熱部12を駆動する。ステップS32に続くステップS33では、ドアDRの開閉がなされたか判断する。具体的には、ドップラーセンサー部13から出力されるドップラー信号が、第一信号レベル閾値Th1より大きな第二信号レベル閾値Th2を超えたか判断する。ドップラー信号が第二信号レベル閾値Th2を超えていなければ、ステップS41の処理に進む。ドップラー信号が第二信号レベル閾値Th2を超えていれば、ステップS34の処理に進む。
【0082】
ステップS34では、周波数識別部154によるドップラー信号の周波数測定が実行される。ステップS34に続くステップS35では、遅れ時間決定部155が、遅れ時間tcを算出する。
【0083】
ステップS35に続くステップS36では、周波数測定が実行された経過時間を考慮し、周波数測定が完了した時刻を遅れ時間算出基準とするように、その時刻において積算遅れ時間t=0と定義する。
【0084】
ステップS36に続くステップS37では、積算遅れ時間tにサンプリング周期sを加算して、積算遅れ時間t=t+sを算出する。ステップS37に続くステップS38では、人Mが大便器SB前に到達したか判断する。人Mが大便器SB前に到達したと判断すればステップS39の処理に進み、人Mが大便器SB前に到達したと判断しなければステップS42の処理に進む。ステップS39では、便蓋開閉制御部156が便蓋11を開放駆動する。ステップS39に続くステップS40では、遅れ時間tcの学習処理を実行する。
【0085】
ステップS41では、ステップS31で開始された人体検出状態が継続しているか判断する。人体検出状態が継続していればステップS33の処理に戻り、人体検出状態が継続していなければステップS46の処理に進む。
【0086】
ステップS42では、ステップS37で開始した積算遅れ時間tが遅れ時間tcとなったか判断する。積算遅れ時間tが遅れ時間tcとなればステップS43の処理に進み、積算遅れ時間tが遅れ時間tcとなっていなければステップS45の処理に進む。
【0087】
ステップS43では、便蓋開閉制御部156が便蓋11を開放駆動する。ステップS43に続くステップS44では、人Mが大便器SB前に到達したか判断する。人Mが大便器SB前に到達したと判断すればステップS40の処理に進み、人Mが大便器SB前に到達したと判断しなければステップS44の処理に戻る。
【0088】
ステップS45では、ステップS31で開始された人体検出状態が継続しているか判断する。人体検出状態が継続していればステップS37の処理に戻り、人体検出状態が継続していなければステップS46の処理に進む。
【0089】
ステップS46では、加熱部12の駆動処理を停止し、ステップS31の処理に戻る。
【0090】
続いて、図15を参照しながら、図14のステップS35における遅れ時間tcの決定処理について説明する。ステップS51では、測定周波数fがf<f1を満たすか判断する。測定周波数fがf<f1を満たせばステップS52の処理に進み、測定周波数fがf<f1を満たさなければステップS53の処理に進む。
【0091】
ステップS52では、遅れ時間tcを遅れ時間tc1に補正時間th1を加えたものと定義する。遅れ時間tc1は、上述した式(2)(3)に基づいて算出された移動速度vを用いて算出されるものである。
【0092】
ステップS53では、測定周波数fがf1≦f<f2を満たすか判断する。測定周波数fがf1≦f<f2を満たせばステップS54の処理に進み、測定周波数fがf1≦f<f2を満たさなければステップS55の処理に進む。
【0093】
ステップS54では、遅れ時間tcを遅れ時間tc2に補正時間th2を加えたものと定義する。遅れ時間tc2は、上述した式(2)(3)に基づいて算出された移動速度vを用いて算出されるものである。ステップS55では、遅れ時間tc3に補正時間th3を加えたものと定義する。遅れ時間tc3は、上した式(2)(3)に基づいて算出された移動速度vを用いて算出されるものである。
【0094】
続いて、図16を参照しながら、図14のステップS40における遅れ時間tcの学習処理について説明する。ステップS61では、図14のステップS35において算出された遅れ時間tcに基づく便蓋11の開放予定時刻よりも、一定時間以上早く人Mが大便器SB前に到達したか判断する。便蓋11の開放予定時刻よりも、一定時間以上早く人Mが大便器SB前に到達していればステップS62の処理に進み、便蓋11の開放予定時刻よりも、一定時間以上早く人Mが大便器SB前に到達していなければステップS63の処理に進む。
【0095】
ステップS62では、遅れ時間tc(tc1,tc2,tc3)に対応する補正時間(th1,th2,th3)を、一定量小さくするように補正する。
【0096】
ステップS63では、図14のステップS35において算出された遅れ時間tcに基づく便蓋11の開放予定時刻よりも、一定時間以上遅く人Mが大便器SB前に到達したか判断する。便蓋11の開放予定時刻よりも、一定時間以上遅く人Mが大便器SB前に到達していればステップS62の処理に進み、便蓋11の開放予定時刻よりも、一定時間以上遅く人Mが大便器SB前に到達していなければステップS63の処理に進む。
【0097】
ステップS64では、遅れ時間tc(tc1,tc2,tc3)に対応する補正時間(th1,th2,th3)を、一定量大きくするように補正する。ステップS65では、遅れ時間tc(tc1,tc2,tc3)に対応する補正時間(th1,th2,th3)を維持する。
【0098】
本例では、補正部157が、補正時間thを時系列に沿って継続的に算出して保持し、その保持結果に基づいて、遅れ時間tcを補正するので、トイレ室TRの大きさが通常よりも広い身障者用のトイレであっても便蓋11の開放駆動タイミングを適切なものとすることができる。
【0099】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、前述した各具体例が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0100】
10:便座
11:便蓋
12:加熱部
13:ドップラーセンサー部
15:制御部
131:送信部
132:受信部
133:差分検出部
151:受信出力部
152:周波数フィルター
153:昇温開始判定部
154:周波数識別部
154a:ローパスフィルター
154b:バンドパスフィルター
154c:ハイパスフィルター
154d:比較部
155:遅れ時間決定部
156:便蓋開閉制御部
157:補正部
158:便器前到達検出部
CR:通路
DR:ドア
HS:暖房便座装置
M:人
Ma:位置
Mb:位置
Mc:位置
SA:検知領域
SB:大便器
TR:トイレ室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トイレ室内に設けられた大便器に取り付けられる暖房便座装置であって、
大便器を使用する際に着座する便座と、
前記便座を少なくとも所定の温度へ昇温させる加熱部と、
前記便座を覆うと共に、一端側を中心として回動することで前記便座が使用可能なように開放する便蓋と、
送信部が前記便座よりも前方に向けて送信波となるマイクロ波を送信し、トイレ室のドアや人に前記送信波が当たることで反射される反射波を受信部が受信し、前記送信波と前記反射波との差分周波数となるドップラー信号を生成するドップラーセンサー部と、
前記ドップラー信号に基づいて前記加熱部及び前記便蓋を駆動する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記ドップラーセンサー部が生成するドップラー信号の検出信号レベルが信号レベル閾値を上回ると前記加熱部を駆動する一方で、前記ドップラーセンサー部が生成するドップラー信号に基づいて、その検出信号レベルが前記信号レベル閾値を上回った時点から前記便蓋を開放駆動する時点までの遅れ時間を決定し、この決定した遅れ時間に基づいて前記便蓋を開放駆動することを特徴とする暖房便座装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記遅れ時間を決定する際のドップラー信号は、人がトイレ室に入ったと想定される時点で前記ドップラーセンサー部が生成するドップラー信号を用いることを特徴とする請求項1に記載の暖房便座装置。
【請求項3】
前記送信波はトイレ室の外側にいる人やトイレ室の内側にいる人に当たることで反射され、その反射波を前記受信部が受信するものであって、
前記信号レベル閾値は、トイレ室の外にいてトイレ室に入室する前の人を検知可能な数値であることを特徴とする請求項2に記載の暖房便座装置。
【請求項4】
前記制御部は、人がトイレ室に入ったことを、前記ドップラー信号に基づいて判断することを特徴とする請求項2に記載の暖房便座装置。
【請求項5】
前記送信波はトイレ室の外側にいる人やトイレ室の内側にいる人に当たることで反射され、その反射波を前記受信部が受信するものであって、
前記信号レベル閾値は、トイレ室の外にいてトイレ室に入室する前の人を検知可能な数値であり、
前記制御部は、前記遅れ時間を決定する際のドップラー信号は、トイレ室の外にいてトイレ室に入室する前の人を検知した時点で前記ドップラーセンサー部が生成するドップラー信号を用いることを特徴とする請求項1に記載の暖房便座装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記遅れ時間を決定する際のドップラー信号は、人がトイレ室のドアを開けた際に前記ドップラーセンサー部が生成するドップラー信号を用いることを特徴とする請求項1に記載の暖房便座装置。
【請求項7】
人が前記大便器に到達したことを検知する到達検知部と、
前記検出信号レベルが前記信号レベル閾値を上回った時点から前記便蓋を開放駆動する時点までの遅れ時間について、前記便蓋を開放駆動する時点を前記大便器への到達が検知された時点とし、前記遅れ時間を補正する補正時間を算出して保持する補正部と、を備え、
前記補正部は、前記補正時間を時系列に沿って継続的に算出して保持するものであり、その保持結果に基づいて、前記遅れ時間を補正することを特徴とする請求項1に記載の暖房便座装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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