説明

暖房便座装置

【課題】便座に着座したときに感じる冷感を低減することができる、あるいは便座に着座した後にヒータの熱を着座面へより早く伝達することができる暖房便座装置を提供することを目的とする。
【解決手段】便座を加熱可能な暖房便座装置であって、前記便座の基材と、前記便座を加熱するヒータと、前記基材の表面に接着される接着樹脂層と、表面樹脂層と、前記接着樹脂層と前記表面樹脂層との間に設けられた支持体により断熱空間が形成された断熱層と、を有し、前記基材の表面に一体的に設けられた積層体と、を備え、使用者が前記便座に着座すると、前記支持体が変化して前記接着樹脂層と前記表面樹脂層との間の距離が小さくなることを特徴とする暖房便座装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の態様は、一般的に、暖房便座装置に関し、具体的には便器に設けられる便座を暖めることができる暖房便座装置に関する。
【背景技術】
【0002】
使用者が大便器を使用する際に着座する便座としては、加工が容易なことなどから、PP(ポリプロピレン)やABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)などの樹脂材料で形成されたものが数多く普及している。これら樹脂材料で形成された便座は、特に冬場などの気温が低いときに、着座した際に使用者に冷感を与えることがある。これに対して、待機時(便座の不使用時)であっても、ヒータにより着座面を加熱して適温に保温し、使用に備える便座が知られている。便座の加熱には、待機時においても使用時と同程度の電力を消費する場合が多い。このため、省エネルギーの観点から、便座の加熱に要する電力の削減が社会的に求められている。
【0003】
待機時の使用電力を削減するためには、使用者が便座に着座したときに感じる冷感を低減することが有効である。そこで、着座したときの冷感を低減するために、ポリオレフィン系の熱可塑性エラストマーからなり内部に微細気泡を均一に分散させた座面部材を、頂面に設けたものが知られている(特許文献1)。また、着座したときの温感効果を発揮するために、便座本体の表面に凹凸を設け、さらに表面に断熱用塗料(ガラスバルーン等の気泡が混入)を塗布した便座が知られている(特許文献2)。
【0004】
しかしながら、特許文献1および2に記載された便座は、着座したときの冷感を低減することはできるが、一方で、使用者は、便座に着座した後でもヒータの熱を感じにくいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平7−14997号公報
【特許文献2】特開2006−102285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる課題の認識に基づいてなされたものであり、便座に着座したときに感じる冷感を低減することができる、あるいは便座に着座した後にヒータの熱を着座面へより早く伝達することができる暖房便座装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、便座を加熱可能な暖房便座装置であって、前記便座の基材と、前記便座を加熱するヒータと、前記基材の表面に接着される接着樹脂層と、表面樹脂層と、前記接着樹脂層と前記表面樹脂層との間に設けられた支持体により断熱空間が形成された断熱層と、を有し、前記基材の表面に一体的に設けられた積層体と、を備え、使用者が前記便座に着座すると、前記支持体が変化して前記接着樹脂層と前記表面樹脂層との間の距離が小さくなることを特徴とする暖房便座装置である。
【0008】
この衛生洗浄装置によれば、便座の基材の表面には積層体が一体的に設けられ、その積層体は、使用者が着座する面(着座面)の下方に断熱層を有する。断熱層は、便座に着座した使用者からの熱移動を抑制することができる。これにより、便座の待機温度が比較的低い温度に設定された場合でも、使用者が便座に着座したときに感じる冷感を低減することができる。また、使用者が便座に着座すると、支持体が変形することにより、接着樹脂層と表面樹脂層との間の距離が小さくなる。これによれば、使用者が便座に着座すると、ヒータの熱は着座面へ伝わりやすくなるため、着座面の加熱は促進される。すなわち、使用者が便座に着座した後に、ヒータの熱を着座面へより早く伝達することができる。
【0009】
また、第2の発明は、第1の発明において、前記積層体は、前記接着樹脂層と前記表面樹脂層との間の距離が小さくなる部分の前記断熱空間内の気体を他の部分へ逃がすことができる連通部を有し、使用者が前記便座に着座すると、前記着座した領域にかかる断熱空間の気体は、前記連通部を介して前記着座した領域にかからない断熱空間へ逃げることを特徴とする暖房便座装置である。
【0010】
この衛生洗浄装置によれば、着座した領域にかかる断熱空間の気体は、連通部を介して着座した領域にかからない他の断熱空間へ逃げることができる。そのため、着座した領域にかかる支持体は潰れるまで変形し、その領域にかかる接着樹脂層と表面樹脂層とは互いに接触することができる。そのため、ヒータの熱は着座面へより伝わりやすくなるため、着座面の加熱はより促進される。すなわち、使用者が便座に着座した後に、ヒータの熱を着座面へより早く伝達することができる。
【0011】
また、第3の発明は、第2の発明において、前記支持体は、前記接着樹脂層および前記表面樹脂層の少なくともいずれか一方に対して予め傾斜して設けられたことを特徴とする暖房便座装置である。
【0012】
この暖房便座装置によれば、支持体は、接着樹脂層および表面樹脂層の少なくともいずれか一方からみたときに予め傾斜しているため、使用者が便座に着座すると、支持体は、予め傾斜した方向へスムーズに倒れるように変形する。そのため、使用者が便座に着座したときに違和感を感ずるおそれは少ない。つまり、便座への座り心地が損なわれることを防止することができる。また、着座した領域にかかる接着樹脂層と表面樹脂層とは互いに接触することができるため、ヒータの熱は着座面へより伝わりやすくなる。そのため、着座面の加熱はより促進される。すなわち、使用者が便座に着座した後に、ヒータの熱を着座面へより早く伝達することができる。
【0013】
また、第4の発明は、第3の発明において、前記支持体は、前記便座の外周側へ向かって傾斜し、使用者が前記便座に着座すると、前記着座した領域にかかる断熱空間の気体は、前記便座の外周側にかかる断熱空間へ逃げることを特徴とする暖房便座装置である。
【0014】
この暖房便座装置によれば、支持体は便座の外周側へ向かって傾斜しているため、着座した領域にかかる断熱空間のほとんどの気体は、連通部を介して便座の外周側へ逃げる。そうすると、便座の外周側に設けられた支持体は、接着樹脂層および表面樹脂層からみたときに略垂直となるように倒立する。その結果、便座の外周側の断熱空間は膨らむ。使用者の臀部が便座の外周側の着座面に触れることは稀であるため、便座の外周側の断熱空間が膨らむことによりその部分の熱伝達性が低下しても、便座への座り心地が損なわれるおそれは少ない。
【0015】
また、着座した領域にかかる接着樹脂層と表面樹脂層とは互いに接触することができるため、ヒータの熱は着座面へより伝わりやすくなる。そのため、着座面の加熱はより促進される。すなわち、使用者が便座に着座した後に、ヒータの熱を着座面へより早く伝達することができる。
【0016】
また、第5の発明は、第2〜第4のいずれか1つの発明において、前記便座の外周側における前記支持体は、前記着座した領域にかかる前記支持体よりも高い延伸性を有することを特徴とする暖房便座装置である。
【0017】
この暖房便座装置によれば、便座の外周側における断熱空間の支持体は、着座した領域にかかる断熱空間の支持体よりも高い延伸性を有するため、接着樹脂層および表面樹脂層からみたときに略垂直となるように倒立しつつ、便座の外周側へ向かって延伸する。その結果、便座の外周側の断熱空間は、支持体が延伸性を有しない場合よりも大きく膨らむ。
【0018】
つまり、便座の外周側における断熱空間の支持体は延伸性を有するため、使用者が便座に着座すると、着座した領域にかかる断熱空間内の空気は、支持体が延伸性を有しない場合よりも連通部を介して便座の外周側へ逃げやすい。そのため、使用者が便座に着座すると、支持体は、予め傾斜した方向へよりスムーズに倒れるように変形する。したがって、使用者が便座に着座したときに違和感を感ずることをより防止することができる。つまり、便座への座り心地が損なわれることをより防止することができる。また、使用者の臀部が便座の外周側の着座面に触れることは稀であるため、便座の外周側の断熱空間は膨らむことによりその部分の熱伝達性が低下しても、便座への座り心地が損なわれるおそれは少ない。
【0019】
また、着座した領域にかかる接着樹脂層と表面樹脂層とは互いに接触することができるため、ヒータの熱は着座面へより伝わりやすくなる。そのため、着座面の加熱はより促進される。すなわち、使用者が便座に着座した後に、ヒータの熱を着座面へより早く伝達することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の態様によれば、便座に着座したときに感じる冷感を低減することができる、あるいは便座に着座した後にヒータの熱を着座面へより早く伝達することができる暖房便座装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態に係る暖房便座装置が設けられたトイレ装置を表す斜視模式図である。
【図2】本実施形態の便座の内部を表す断面模式図、および便座の着座面を拡大して表した断面模式図である。
【図3】便座の着座面を拡大して表した断面模式図である。
【図4】本実施形態の積層体を例示する斜視模式図である。
【図5】本実施形態の他の積層体を例示する斜視模式図である。
【図6】本実施形態の変形例にかかる便座の内部を表す断面模式図、および便座の着座面を拡大して表した断面模式図である。
【図7】本変形例にかかる便座を表す断面模式図である。
【図8】他の変形例にかかる便座を表す断面模式図である。
【図9】本実施形態のさらに他の変形例にかかる便座の内部を表す断面模式図、および便座の着座面を拡大して表した断面模式図である。
【図10】本実施形態のさらに他の変形例にかかる便座の内部を表す断面模式図、および便座の着座面を拡大して表した断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
図1は、本実施形態に係る暖房便座装置が設けられたトイレ装置を表す斜視模式図である。
【0023】
本実施形態にかかる暖房便座装置100は、図1に表したように、腰掛便器200の後部に載置された本体部110を有する。本実施形態のトイレ装置10は「水道直圧式」であり、腰掛便器200に流す水を制御するためのバルブ機構が本体部110内に収納されている。ただし、本発明は「水道直圧式」には限定されず、いわゆる「ロータンク式」のトイレ装置にも同様に適用できる。
【0024】
本体部110の左右側方には、便蓋120及び便座130がそれぞれ回動自在に軸支されている。便蓋120は本体部110の相対的に後方に設けられた駆動軸により軸支され、一方、便座130は本体部110の相対的に前方に設けられた駆動軸により軸支されている。便座130は、後に詳述するように、ヒータを内蔵する。ヒータは、通電されて発熱することにより、便座130の着座面を暖めることができる。
【0025】
なお、本体部110は、衛生洗浄装置としての機能部を併設してもよい。すなわち、本体部110は、便座130に座った使用者の「おしり」などに向けて水を噴出する図示しない吐水ノズルを有する衛生洗浄機能部などを適宜備えてもよい。なお、本願明細書において「水」という場合には、冷水のみならず、加熱されたお湯も含むものとする。
【0026】
またさらに、本体部110には、便座130に座った使用者の「おしり」などに向けて温風を吹き付けて乾燥させる「温風乾燥機能」や「脱臭ユニット」や「室内暖房ユニット」などの各種の機構が適宜設けられていてもよい。ただし、本発明においては、衛生洗浄機能部やその他の付加機能部は必ずしも設けなくてもよい。
【0027】
図2は、本実施形態の便座の内部を表す断面模式図、および便座の着座面を拡大して表した断面模式図である。
なお、図2は、図1に表したA−A切断面における断面模式図である。
【0028】
便座130は、図2に表したように、例えばPP(ポリプロピレン)により形成された底板131と上板(基材)132とを溶着することにより組み立てられている。なお、上板(基材)132は、PPなどの比較的硬い材料ではなく、圧縮変形性あるいは弾力性(クッション性)を有する材料により形成されていてもよい。底板131は、表面が平坦に近い形状を有し、一方、上板132は、上方に向けて凸となる湾曲形状を有する。この底板131と上板132とが、それぞれの両端で溶着されて一体とされることで、便座130の内部は中空となっている。そして、上板132の上面のうちで、使用者が着座する部分すなわち使用者の臀部及び大腿部が接触する部分は、便座130の着座面130aとなる。
【0029】
上板132の内側には、加熱源であるヒータ140が設けられている。ヒータ140は、通電により発熱して便座130の着座面130aを加熱することが可能であり、着座面130aの温度を使用者が設定する所望の値まで上昇させることができる。
【0030】
上板(基材)132の表面には積層体150が一体的に設けられ、その積層体150は、例えばPPにより形成された上板132の上に複数の層を有する。すなわち、積層体150は、上板132の表面に接着される接着樹脂層151と、表面樹脂層153と、接着樹脂層151と表面樹脂層153との間に設けられ断熱空間が形成された断熱層152と、を有する。
【0031】
なお、表面樹脂層153の上には、着座面130aとしての図示しない表皮層が積層されてもよい。すなわち、表面樹脂層153の上に図示しない表皮層が積層された場合には、その図示しない表皮層が着座面130aを形成する。
【0032】
接着樹脂層151は数十μm程度の厚みH1を有し、断熱層152を上板132の表面に接着する機能を有する。接着樹脂層151は、例えば、上板132よりも融点が5℃以上低い低融点PPフィルムにより形成されている。
【0033】
断熱層152は、接着樹脂層151と表面樹脂層153との間に設けられた支持体152a、すなわち接着樹脂層151の上方に設けられた支持体152aにより確保された断熱空間152bを有する。この断熱層152の厚みH2は、数百μm程度に設定される。
【0034】
表面樹脂層153は、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムや、塩化ビニルフィルムなどにより形成される。表面樹脂層153は、断熱層152の上方を閉塞し、断熱層152の内部に空気を封入する。表面樹脂層153の厚みH3は、数十μm程度と、非常に薄く設定されている。なお、使用者が便座130に着座したときに感じる冷感を低減することを考慮すると、表面樹脂層153の厚みH3は、大きくとも100μm未満であることが好ましい。
【0035】
以上のように構成される積層体150を、フィルムインサート成形などの方法によって便座130の上板132に一体化させることで、表面が多層構造となる本実施形態のような便座130であっても、高い量産性を得ることができる。すなわち、上板132の上面に対して、接着樹脂層151、断熱層152、表面樹脂層153の各層を工程別に積層していく必要が無く、別に用意された積層体150とのフィルムインサート成形により、一度で便座130の着座面130aを多層構造とすることができる。積層体150は、便座130の表面全体に設ける必要は無く、少なくとも使用者が着座する着座面130aに対応する範囲に亘って断熱空間152bが並設されるよう、範囲は適宜選択すればよい。
【0036】
ここで、使用者が着座面130aに着座すると、使用者の臀部から便座130の表面樹脂層153へ熱が伝達され、さらに表面樹脂層153内で熱伝導が生じる。このときの熱の移動が急速なものであると、使用者は強い冷感を感じてしまうこととなる。これに対して、本実施形態にかかる暖房便座装置100では、表面樹脂層153は、その厚みH3が数十μm程度と、非常に薄く形成されている。したがって、表面樹脂層153の熱容量は比較的小さく、表面樹脂層153の温度は、当接する使用者の臀部から伝達される熱によって比較的速やかに上昇する。そのため、その後の熱の移動はしだいに緩やかなものとなり、使用者が便座130に着座したときに感じる冷感を低減することができる。
【0037】
また、表面樹脂層153の下方には、断熱空間152bを有する断熱層152が設けられている。したがって、使用者の臀部から熱を伝達されて温度が上昇した表面樹脂層153から、断熱空間152b内の空気へと熱が伝達され、その空気を媒体として熱伝導が生じる。また、これとともに、輻射による熱の伝達が生ずる。
【0038】
空気の熱伝導率は、表面樹脂層153を形成するPETや、塩化ビニルなどや、上板132の基材となるPPなどの材料に比べて極端に低い。したがって、断熱層152を表面樹脂層153の下方に設けることによって、表面樹脂層153から下方への熱移動が抑制され、接着樹脂層151内の熱伝導も抑制される。これにより、結果的に使用者の臀部からの熱移動が抑制され、使用者が便座130に着座したときに感じる冷感を低減することができる。
【0039】
さらに、表面樹脂層153は、断熱層152の上方を閉塞し、断熱層152の内部に空気を封入している。そのため、空気が断熱層152の内部から外部に漏出することはない。より具体的には、断熱空間152b内の空気は、隣接する断熱空間152bへ移動することはできるが、接着樹脂層151と表面樹脂層153との間、すなわち断熱層152の内部から外部に漏出することはできない。
【0040】
したがって、伝達された熱によって各断熱空間152b内の空気は効率良く温度上昇し、空気内の熱伝導がさらに鈍化する。そして、このようにして各断熱空間152bの中で加熱された空気は、逃げることなく断熱層152の中に滞留するので、熱の拡散も抑制される。したがって、待機時(便座の不使用時)に保たれる便座の目標温度を下げ、便座130の加熱及び保温のためにヒータ140が消費する電力も削減することができる。
【0041】
なお、本実施形態では断熱層152に空気を封入しているが、封入される気体は空気に限られない。例えば、空気より熱伝導率が低いアルゴンなどの気体を用いることにより、熱の移動をさらに抑制し、断熱層152による断熱効果をさらに向上させることもできる。
【0042】
以上説明したように、本実施形態にかかる暖房便座装置100の便座130は、使用者が便座130に着座したときに感じる冷感を低減することができる。しかしながら、積層体150における熱移動が抑制されるため、このままでは、使用者は、便座130に着座した後でもヒータ140の熱を感じにくい場合がある。また、使用者が温度不足を感じて便座130の設定温度を昇温させても、積層体150は高い断熱性を有するため、着座面130aの温度応答性は低い。そのため、着座面130aが昇温するまでに時間がかかる場合がある。また、積層体150は、高い断熱性を有する一方で低い比熱を有するため、使用者が着座した領域は、使用者の体温に近い温度となり、一方で、使用者が着座していない領域は、比較的早く室温に近づいてしまう。そのため、使用者は、座り直した際に冷感を感ずる場合がある。
【0043】
これに対して、本実施形態にかかる暖房便座装置100では、使用者が便座130に着座すると、支持体152aが変化することにより、接着樹脂層151と表面樹脂層153との間の距離が小さくなる。ここで、支持体152aが変化するとは、支持体152aにおいて座屈や傾倒などの変形及び変位の少なくともいずれかが生ずることをいう。これによれば、使用者が便座130に着座すると、ヒータ140の熱は着座面130aへ伝わりやすくなるため、着座面130aの加熱は促進される。すなわち、本実施形態にかかる暖房便座装置100の便座130は、使用者が便座130に着座した後に、ヒータ140の熱を着座面130aへより早く伝達することができる。これにより、便座130に着座した使用者は、ヒータ140の熱をより早く感じることができる。以下、積層体150の構造および作用効果などについて、図面を参照しつつさらに詳細に説明する。
【0044】
図3は、便座の着座面を拡大して表した断面模式図である。
また、図4は、本実施形態の積層体を例示する斜視模式図である。
また、図5は、本実施形態の他の積層体を例示する斜視模式図である。
なお、図3は、図1に表したA−A切断面における断面模式図である。また、図3(a)は、使用者が便座に着座する前の状態を表す断面模式図であり、図3(b)は、使用者が便座に着座した後の状態を表す断面模式図である。
【0045】
図2に関して前述したように、断熱層152は、接着樹脂層151と表面樹脂層153との間に設けられた支持体152aにより確保された断熱空間152bを有する。そして、使用者が便座130に着座すると、支持体152aは、図3(b)に表したように変化する。より具体的には、支持体152aは、使用者の臀部300の重みにより押し倒される。
【0046】
ここで、断熱層152の支持体152aは、図4に表したように、壁面ではなく支柱のような形状を有する。そのため、断熱空間152bは、密閉された空間として形成されているわけではなく、断熱空間152b内の空気を他の断熱空間152bへ逃がすことができる。つまり、積層体150の断熱層152は、断熱空間152b内の空気を他の断熱空間152bへ逃がすことができる連通部152cを有する。
【0047】
あるいは、断熱層152の支持体152aは、図5に表したように、隣接する支柱を連結し互いに交差する構造、いわゆる「筋交い構造」を少なくとも一部に有していてもよい。この場合でも、積層体150の断熱層152は、断熱空間152b内の空気を他の断熱空間152bへ逃がすことができる連通部152cを有する。
【0048】
なお、図4および図5に例示した積層体150の連通部152cは、支持体152aが変化しなくとも開口しており、断熱空間152b内の空気を他の断熱空間152bへ逃がすことができるが、これだけに限定されるわけではない。例えば、連通部152cは、支持体152aが変化する前には閉口しており、支持体152aが変化することにより開口し、断熱空間152b内の空気を他の断熱空間152bへ逃がすことができる構造を有していてもよい。
【0049】
このように、使用者が便座130に着座すると、支持体152aは変化し、使用者が着座した領域の断熱空間152b内の空気は、連通部152cを介して他の断熱空間152bへ逃げる。その結果、接着樹脂層151と表面樹脂層153との間の距離は、図3(b)に表したように小さくなる。より具体的には、使用者が着座した領域における接着樹脂層151と表面樹脂層153とは、互いに接触する。
【0050】
そのため、使用者が着座した領域のヒータ140の熱は、着座面130aへ伝わりやすくなる。したがって、使用者が着座した領域では、ヒータ140の熱はより効率よく着座面130aへ伝達され、着座面130aの加熱は促進される。すなわち、本実施形態にかかる暖房便座装置100の便座130は、使用者が便座130に着座した後に、ヒータ140の熱を着座面130aへより早く伝達することができる。これにより、便座130に着座した使用者は、ヒータ140の熱をより早く感じることができる。さらに、使用者が便座130に着座したときに感じる冷感を低減することができる。
【0051】
また、使用者が座り直した場合でも、座り直した後に着座した領域において、接着樹脂層151と表面樹脂層153との間の距離は小さくなり、接着樹脂層151と表面樹脂層153とは互いに接触する。そのため、使用者が座り直した場合でも、同様の効果が得られる。つまり、本実施形態にかかる暖房便座装置100の便座130は、使用者が座り直した後に、ヒータ140の熱を着座面130aへより早く伝達することができ、また、使用者が便座130に座り直したときに感じる冷感を低減することができる。
【0052】
図6は、本実施形態の変形例にかかる便座の内部を表す断面模式図、および便座の着座面を拡大して表した断面模式図である。
なお、図6は、図1に表したA−A切断面における断面模式図である。
【0053】
本変形例にかかる便座130では、接着樹脂層151と表面樹脂層153との間に設けられた支持体152aは、接着樹脂層151および表面樹脂層153の少なくともいずれか一方に対して予め傾斜している。つまり、図2に表した便座130では、支持体152aは、接着樹脂層151および表面樹脂層153からみたときに略垂直となるように設けられている。これに対して、本変形例にかかる便座130では、支持体152aは、接着樹脂層151および表面樹脂層153の少なくともいずれか一方からみたときに傾斜するように設けられている。その他の構造については、図2〜図5に関して前述した便座130の構造と同様である。
【0054】
図7は、本変形例にかかる便座を表す断面模式図である。
なお、図7は、図1に表したA−A切断面における断面模式図である。また、図7(a)は、使用者が便座に着座する前の状態を表す断面模式図であり、図7(b)は、使用者が便座に着座した後の状態を表す断面模式図である。
【0055】
本変形例にかかる便座130では、図6に関して前述したように、接着樹脂層151と表面樹脂層153との間に設けられた支持体152aは、接着樹脂層151および表面樹脂層153の少なくともいずれか一方に対して予め傾斜している。そのため、使用者が便座130に着座すると、使用者が着座した領域の支持体152aは、図7(b)に表したように、予め傾斜した方向へスムーズに倒れるように変化する。つまり、使用者が着座した領域の断熱空間152b内の空気は、断熱層152の内部から外部に漏出することはなく、連通部152cを介して便座130の外周側へ逃げて集まる。
【0056】
このとき、本変形例にかかる便座130のように、支持体152aが接着樹脂層151からみたときに便座130の外周側へ傾斜して設けられている場合には、使用者が着座した領域の断熱空間152b内のほとんどの空気は、連通部152cを介して便座130の外周側へ逃げる。そして、使用者が着座した領域の断熱空間152b内のほとんどの空気が連通部152cを介して便座130の外周側へ逃げると、便座130の外周側に設けられた支持体152aは、接着樹脂層151および表面樹脂層153からみたときに略垂直となるように倒立する。その結果、便座130の外周側の断熱空間152bは膨らむ。
【0057】
本変形例によれば、使用者が便座130に着座すると、使用者が着座した領域の支持体152aは、予め傾斜した方向へスムーズに倒れるように変化するため、使用者が便座130に着座したときに違和感を感ずるおそれは少ない。つまり、便座130への座り心地が損なわれることを防止することができる。また、使用者の臀部300が便座130の外周側の着座面130aに触れることは稀であるため、便座130の外周側の断熱空間152bが膨らむことによりその部分の熱伝達性が低下しても、便座130への座り心地が損なわれるおそれは少ない。
【0058】
また、支持体152aが予め傾斜した方向へスムーズに倒れるように変化することにより、使用者が着座した領域の接着樹脂層151と表面樹脂層153との間の距離は小さくなり、接着樹脂層151と表面樹脂層153とは互いに接触する。そのため、図3〜図5に関して前述した効果と同様の効果が得られる。
【0059】
図8は、他の変形例にかかる便座を表す断面模式図である。
なお、図8は、図1に表したA−A切断面における断面模式図である。また、図8(a)は、使用者が便座に着座する前の状態を表す断面模式図であり、図8(b)は、使用者が便座に着座した後の状態を表す断面模式図である。
【0060】
本変形例にかかる便座130では、図6に関して前述したように、接着樹脂層151と表面樹脂層153との間に設けられた支持体152aは、接着樹脂層151および表面樹脂層153の少なくともいずれか一方に対して予め傾斜している。また、本変形例の支持体152aは、延伸性を有する。このとき、全ての支持体152aが延伸性を有していてもよいし、便座130の外周側に設けられた支持体152aが、使用者が着座する領域に設けられた支持体152aよりも高い延伸性を有していてもよい。すなわち、本変形例にかかる便座130では、便座130の少なくとも外周側に設けられた支持体152aは、他の領域に設けられた支持体152aと同等以上の延伸性を有する。その他の構造については、図6および図7に関して前述した便座130の構造と同様である。
【0061】
本変形例では、使用者が便座130に着座すると、便座130の外周側に設けられた支持体152aは、図8(b)に表したように、接着樹脂層151および表面樹脂層153からみたときに略垂直となるように倒立しつつ、便座130の外周側へ向かって延伸する。その結果、便座130の外周側の断熱空間152bは、支持体152aが延伸性を有しない場合よりも大きく膨らむ。
【0062】
なお、本願明細書において、「支持体152aが延伸性を有する場合」とは、支持体152aの材料が延伸性を有する場合だけではなく、支持体152aの形状あるいは構造が延伸性を有する場合を含むものとする。より具体的には、支持体152aが、例えばゴムなどの延伸性を有する材料により形成されている場合は、「支持体152aの材料が延伸性を有する場合」に含まれる。一方で、支持体152aが、例えば「編み物」や「ばね」などのように材料自体が延伸するわけではないが、支持体152aが有する形状や構造により支持体152aが全体として延伸性を有する場合は、「支持体152aの形状あるいは構造が延伸性を有する場合」に含まれる。
【0063】
本変形例によれば、支持体152aは延伸性を有するため、使用者が便座130に着座すると、使用者が着座した領域の断熱空間152b内の空気は、支持体152aが延伸性を有しない場合よりも連通部152cを介して便座130の外周側へ逃げやすい。そのため、使用者が便座130に着座すると、使用者が着座した領域の支持体152aは、予め傾斜した方向へよりスムーズに倒れるように変化する。したがって、使用者が便座130に着座したときに違和感を感ずることをより防止することができる。つまり、便座130への座り心地が損なわれることをより防止することができる。また、使用者の臀部300が便座130の外周側の着座面130aに触れることは稀であるため、便座130の外周側の断熱空間152bは膨らむことによりその部分の熱伝達性が低下しても、便座130への座り心地が損なわれるおそれは少ない。
【0064】
また、図7に表した変形例と同様に、使用者が着座した領域の支持体152aが予め傾斜した方向へスムーズに倒れるように変化することにより、使用者が着座した領域の接着樹脂層151と表面樹脂層153との間の距離は小さくなり、接着樹脂層151と表面樹脂層153とは互いに接触する。そのため、図3〜図5に関して前述した効果と同様の効果が得られる。
【0065】
図9は、本実施形態のさらに他の変形例にかかる便座の内部を表す断面模式図、および便座の着座面を拡大して表した断面模式図である。
なお、図9は、図1に表したA−A切断面における断面模式図である。
【0066】
本変形例では、断熱層152の断熱空間152b内の底面(接着樹脂層151の上面)に、加飾層154が設けられている。加飾層154は例えば塗料により形成され、その厚みH4は数μm程度である。加飾層154は、便座130表面の装飾のために設けられたものである。加飾層154に使用される塗料としては、光沢感を出すためにラメを入れたものなど、種々のものが挙げられる。
【0067】
加飾層154の上方は表面樹脂層153’で覆われるが、表面樹脂層153’は、その厚みH5が数十μm程度と薄く光透過性を有する。このため、加飾層154による装飾は、表面樹脂層153’を通して便座130の表面に表れ、装飾性を発揮させることができる。さらに、加飾層154は表面樹脂層153’で覆われることで保護されるため、物理的あるいは化学的な劣化が抑制され、装飾が長期間保持される。
【0068】
本変形例によれば、便座130の装飾性を発揮しつつ、使用者が便座130に着座したときに感じる冷感を低減することができる。また、便座130の装飾性を発揮しつつ、使用者が便座130に着座した後に、ヒータ140の熱を着座面130aへより早く伝達することができる。
【0069】
図10は、本実施形態のさらに他の変形例にかかる便座の内部を表す断面模式図、および便座の着座面を拡大して表した断面模式図である。
なお、図10は、図1に表したA−A切断面における断面模式図である。
【0070】
本変形例では、断熱層152の断熱空間152bの底面に、熱反射層155が設けられている。熱反射層155は接着樹脂層151上に蒸着された金属箔により形成され、その厚みH6は例えば数μm程度である。
【0071】
本変形例においても、図2に関して前述したように、断熱空間152b内の空気内で熱伝導が生じるとともに、図10に表した矢印R1のように輻射が生ずる。熱反射層155が設けられることにより、この赤外線R1は、図10に表した矢印R2のように反射され、表面樹脂層153に戻るため、使用者の着座後も便座130が冷えることなく、快適に使用することができる。
【0072】
本変形例によれば、使用者が便座130に着座したときに感じる冷感をさらに低減することができる。また、使用者が便座130に着座した後に、ヒータ140の熱を着座面130aへより早く伝達することができる。
【0073】
以上説明したように、本実施形態によれば、上板(基材)132の表面には積層体150が一体的に設けられ、その積層体150は、着座面130aの下方に断熱層152を有する。断熱層152は、便座130に着座した使用者からの熱移動を抑制することができる。これにより、便座130の待機温度が比較的低い温度に設定された場合でも、本実施形態にかかる暖房便座装置100は、使用者が便座130に着座したときに感じる冷感を低減することができる。また、使用者が便座130に着座すると、使用者が着座した領域の支持体152aが変化することにより、接着樹脂層151と表面樹脂層153との間の距離が小さくなる。これによれば、使用者が便座130に着座すると、ヒータ140の熱は着座面130aへ伝わりやすくなるため、着座面130aの加熱は促進される。すなわち、本実施形態にかかる暖房便座装置100は、使用者が便座130に着座した後に、ヒータ140の熱を着座面130aへより早く伝達することができる。
【0074】
以上、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、積層体150などが備える各要素の形状、寸法、材質、配置などや支持体152aの設置形態などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0075】
10 トイレ装置、 100 暖房便座装置、 110 本体部、 120 便蓋、 130 便座、 130a 着座面、 131 底板、 132 上板、 140 ヒータ、 150 積層体、 151 接着樹脂層、 152 断熱層、 152a 支持体、 152b 断熱空間、 152c 連通部、 153、153’ 表面樹脂層、 154 加飾層、 155 熱反射層、 200 腰掛便器、 300 臀部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便座を加熱可能な暖房便座装置であって、
前記便座の基材と、
前記便座を加熱するヒータと、
前記基材の表面に接着される接着樹脂層と、表面樹脂層と、前記接着樹脂層と前記表面樹脂層との間に設けられた支持体により断熱空間が形成された断熱層と、を有し、前記基材の表面に一体的に設けられた積層体と、
を備え、
使用者が前記便座に着座すると、前記支持体が変化して前記接着樹脂層と前記表面樹脂層との間の距離が小さくなることを特徴とする暖房便座装置。
【請求項2】
前記積層体は、前記接着樹脂層と前記表面樹脂層との間の距離が小さくなる部分の前記断熱空間内の気体を他の部分へ逃がすことができる連通部を有し、
使用者が前記便座に着座すると、前記着座した領域にかかる断熱空間の気体は、前記連通部を介して前記着座した領域にかからない断熱空間へ逃げることを特徴とする請求項1記載の暖房便座装置。
【請求項3】
前記支持体は、前記接着樹脂層および前記表面樹脂層の少なくともいずれか一方に対して予め傾斜して設けられたことを特徴とする請求項2記載の暖房便座装置。
【請求項4】
前記支持体は、前記便座の外周側へ向かって傾斜し、
使用者が前記便座に着座すると、前記着座した領域にかかる断熱空間の気体は、前記便座の外周側にかかる断熱空間へ逃げることを特徴とする請求項3記載の暖房便座装置。
【請求項5】
前記便座の外周側における前記支持体は、前記着座した領域にかかる前記支持体よりも高い延伸性を有することを特徴とする請求項2〜4のいずれか1つに記載の暖房便座装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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