説明

暖房便座

【課題】従来のヒーターの組立工程をなくし、さらに温度ムラが生じにくい暖房便座を提供する。
【解決手段】環状の便座本体2が、環状に連続した絶縁性樹脂よりなるスキン層4と、このスキン層4により被覆されると共に周方向に分断された導電性樹脂よりなるヒーター層5とで樹脂成形されている。スキン層4の一部に射出成形用のゲートを切除したゲート跡6aが残されている。ヒーター層5は前記ゲート跡6aと対向するウェルド部位7において分断されており、この分断された両先端部5a,5aを外部電源に接続される給電部8とした暖房便座1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、用便のために便座本体に着座したときに臀部を暖める暖房便座に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からこの種の暖房便座として、PTCヒータのような面状のヒータを便座内に埋設するか、或いは便座裏面に貼り付けたものが知られている。この面状のヒーターは、所定のパターンに印刷配線を形成し、表面に合成樹脂シートを貼着することにより構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−204447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記特許文献1に示される従来例にあっては、便座本体表面の樹脂若しくはアルミ製の表層の裏面側に面状ヒーターを貼り付ける作業が必要であった。このような面状ヒーターの貼り付けは手作業であるため作業にバラツキが生じやすく、便座表面に温度ムラが発生するなどの不具合があった。
【0005】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、従来のヒーターの組立工程をなくすことができ、しかも温度ムラが生じにくい暖房便座を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するために、本発明に係る暖房便座は、環状の便座本体が、環状に連続した絶縁性樹脂よりなるスキン層と、このスキン層により被覆されると共に周方向に分断された導電性樹脂よりなるヒーター層とで樹脂成形されており、前記スキン層の一部に射出成形用のゲートを切除したゲート跡が残されており、前記ヒーター層は前記ゲート跡と対向するウェルド部位において分断されており、この分断されたヒーター層の両先端部を外部電源に接続される給電部としたことを特徴としている。
【0007】
また前記ヒーター層の分断された両先端部が前記スキン層を貫通して外部に各々露出しており、これら各々露出した給電部に電極部材を接続するのが好ましい。
【0008】
また前記便座本体の下面が樹脂製のベース板に対して誘導加熱溶着されているのが好ましい。
【0009】
また前記スキン層の厚みを2mm以下の薄肉に形成するのが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、従来のヒーターの組立工程をなくすことができ、しかも温度ムラが生じにくい暖房便座を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の暖房便座の便座本体を構成するサンドイッチ成形品の平面図である。
【図2】(a)は図1のA−A線断面図、(b)は図1のB−B線断面図、(c)は(b)の誘導加熱溶着部の拡大図である。
【図3】(a)は成形後のスキン層とヒーター層とからなるサンドイッチ成形品の説明図であり、(b)はウェルド部位でヒーター層が繋がっていない状態を説明する拡大図である。
【図4】(a)は同上のスキン層を樹脂成形する過程の説明図であり、(b)は(a)のC−C線断面図である。
【図5】(a)は同上のヒーター層を樹脂成形する過程の説明図であり、(b)は(a)のD−D線断面図であり、(c)は(b)のウェルド部位でヒーター層の両先端部が分断された状態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1は本実施形態の暖房便座1の平面図であり、図2(a)は図1のA−A線断面図であり、図2(b)は図1のB−B線断面図であり、図2(c)は便座本体2とベース板3の溶着部の拡大図である。
【0014】
暖房便座1は、平面視で中央が開口した環状の便座本体2と、この便座本体2の下面に接合されるベース板3とを備えている。
【0015】
便座本体2の表面はスキン層4によって形成され、このスキン層4が着座面となる。スキン層4の内部には加熱用のヒーター層5が埋設されている。ヒーター層5はスキン層4によって被覆されている。ヒーター層5とスキン層4は射出成形により一体に樹脂成形されている。
【0016】
スキン層4の材料として、例えば、耐薬品性に強いPPやPMMAなどの絶縁性樹脂が適している。スキン層4の厚みは2mm以下の薄肉に形成するのが好ましい。
【0017】
ヒーター層5の材料として、例えば、プラスチック廃材などの再生材を金属性粉体物に均一に混ぜた導電性樹脂が適している。
【0018】
本例のスキン層4の断面形状は、図2(a)(b)に示すように、アーチ形状に形成されており、ヒーター層5の断面形状もスキン層4と同じ曲率の断面アーチ形状に形成されている。
【0019】
スキン層4は、図1に示すように、ゲート跡6aを起点にして左右に分岐し且つウェルド部位7で合体した環状に連続形成されている。ここで、ゲート跡6aとは、溶融樹脂の入口であるゲート6(図3(a))を成形後に切除した跡を指す。ウェルド部位7とは、ゲート6から注入された溶融樹脂が金型キャビティ10内で合体する部位を指す。図中のLはウェルドラインを示す。
【0020】
ヒーター層5は、図1に示すように、周方向に分断された形状、つまりゲート跡6aを起点に左右にそれぞれ分岐して且つウェルド部位7の手前で分断された略馬蹄形状を有している。この分断されたヒーター層5の両先端部5a,5aを外部電源に接続される給電部8とする。
【0021】
次に、便座本体2を構成するスキン層4とヒーター層5とからなるサンドイッチ成形品の製造方法を、図4、図5を参照して説明する。
【0022】
2基の射出装置(図示略)から2種の溶融樹脂を、順次、図4(a)に示すゲート6から固定型と可動型とにより構成される金型キャビティ10内に注入して同時成形する。
【0023】
先ず、一方の射出装置から溶融した絶縁性樹脂材料(以下、スキン材料11と称す)を金型キャビティ10内に射出すると、図4(a)の矢印で示すように、ゲート6を起点にして左右に分かれてウェルド部位7に向かって充填されていく。このスキン材料11の注入量は、金型キャビティ10の全容積よりも少なくなるように設定される。これにより、ウェルド部位7に到達する前でスキン材料11が途切れ、ウェルド部位7にはスキン材料11が充填されない所定容積の空間10aが残る。注入直後のスキン材料11は、金型面13に接触した部分のみが先ず冷却固化して所定厚みの固化皮膜11aが形成される。金型面13と接触しないスキン材料11は直ちに冷却されずに流動性のあるスキン材料流動層11cに保たれる。つまり、図4(b)に示すように、ゲート6からウェルド部位7の手前に至るまで連続して、一方の金型面13に接触するスキン材料11の固化皮膜11aと、他方の金型面13に接触する固化皮膜11aとが形成される。さらに両固化皮膜11a,11aの間には、流動性のあるスキン材料流動層11cが形成される。
【0024】
このスキン材料流動層11cが固まらないうちに、図5(a)に示すように、他方の射出装置からヒーター材料12を金型キャビティ10内に射出する。このヒーター樹脂材料12は、流動性のあるスキン材料流動層11cを矢印P方向に押しながら、ゲート6を起点に左右に分かれてウェルド部位7に向かって充填されていく(図5(b)の状態)。このヒーター材料12の注入量は、ウェルド部位7に存在している空間10a(図4(a))の容積と等しい量に設定される。これによりヒーター材料12の注入圧力によりスキン材料流動層11cがウェルド部位7の空間10a(図4(a))に押されて、図5(c)に示すように、ウェルドラインLで両側からスキン材料流動層11c同士が合体する。合体したスキン材料流動層11cはウェルド部位7の金型面に接触した部分が冷却固化して所定厚みの固化皮膜11bとなり、前記固化皮膜11aと連続して形成される。この連続した個固化皮膜11a,11bによりスキン層4が形作られる。
【0025】
一方、ヒーター材料12はスキン材料流動層11cを押しながら固化皮膜11a,11aの間に充填されていくが、ヒーター材料12の先端は図5(c)のようにウェルドラインLの手前で停止する。つまり、ウェルド部位7に存在するスキン材料流動層11cによって、ヒーター材料12はウェルド部位7において合体できなくなる。これにより、スキン層4の内側に沿って、ウェルド部位7のスキン材料固化層4a(図3)により分断された馬蹄形状のヒーター層5が形作られる。このヒーター層5の分断された両先端部5a,5aをそれぞれ給電部8とする。本例では成形時に給電部8の金型温度を部分的に高くして、給電部8をスキン層4の外部にコアアウトさせておく。
【0026】
その後、金型キャビティ10内で溶融樹脂が冷却固化してから型開きして、スキン層4とヒーター層5とからなるサンドイッチ成形品を取り出す(図3(a))。成形後には、スプルー、ランナー9、ゲート6はそれぞれ不要となり捨てられる。スキン層4の1箇所にゲート跡6aのみが残る。取り出されたサンドイッチ成形品は便座本体2として使用する。給電部8として使用するヒーター層5の両先端部5aは、図3(b)のようにウェルド部位7では繋がらないように成形されている。その後、便座本体2のスキン層4と樹脂製のベース板3とを誘導加熱溶着20(図2(c))により接合して、暖房便座1を組み立てる。
【0027】
しかして、上記構成によれば、導電性樹脂よりなるヒーター層5と絶縁性樹脂よりなるスキン層4とのサンドイッチ成形によって環状の便座本体2が形作られる。ヒーター層5とスキン層4との同時成形によって、従来のような面状のヒーターを貼り付ける組立工程をなくすことができる。そのうえ、ヒーター層5は給電部8側を除いて、スキン層4の内側全体に亘って連続形成されているので、便座本体2の温度ムラを生じにくくすることができ、使用者に快適感を与えることができる。
【0028】
またヒーター層5の材料として、表面材には使用できないプラスチック廃材の再生材を金属に混ぜた導電性樹脂混合物を用いることで、資源を有効利用できる。またヒーター層5を絶縁性樹脂のスキン層4で包み込むことにより、材料費の低減と環境対策を両立させながら成形品の強靭性を高めることができる。またスキン層4を透明若しくは水色などにコーティングすることで、外観品位を向上させることができる。
【0029】
また、ヒーター層5の各給電部8,8はウェルドラインLを隔てて分断されているので、各給電部8を一対の電極部材14,14(図2(b))を介して外部電源に接続する際に、一対の電極部材14,14間に短絡が生じないようにできる。また、成形時に給電部8の金型温度を部分的に高くして給電部8となるヒーター層5の両先端部5a,5aをそれぞれ外部にコアアウトさせている。これにより、給電部8と電極部材14との電気的接続が容易にできる。結果、成形後にスキン層4をくりぬいて給電部8と電極部材14とを接続するといった後加工の手間を省くことができる。
【0030】
また、便座本体2のスキン層4と樹脂製のベース板3とを誘導加熱溶着20により接合したので、非接触でエネルギー効率の高い溶着を短時間に行うことができると共に、溶着部を再加熱するだけで、便座本体2とベース板3とを分解できる利点がある。さらに、図2(a)(b)に示すように、便座本体2を断面アーチ形状に形成することで、環状の便座本体2の全長に亘って、便座本体2とベース板3の間が中空トンネル状となり、便座本体2を軽量化できると共に撓み可能にできる。そのうえ、便座本体2のスキン層4をウェルド部位7で合体させて環状に連続形成しているので、スキン層4の強度を十分に確保しながら、人体に対するソフト感、フィット感が向上する。
【0031】
なお、スキン層4の厚みは暖房便座1の機能として例えば、0.2mm〜10mm程度あれば十分であるが、本例では2mm以下程度に薄くしている。これにより、ヒーター層5に通電すると直ちにスキン層4の表面を適温で暖めることができ、ヒーター層5に常時通電させておく必要がなく、待機電力を減らすことができる。また人感スイッチ(図示略)と連動させることで、人がいる時だけ暖める瞬間暖房便座として使用可能となり、省エネ効果を十分に期待できる。
【0032】
前記実施形態では、溶融樹脂を1箇所のゲート6から金型キャビティ10内に注入する場合を説明したが、ゲート6の数は複数箇所であってもよい。
【0033】
便座本体2とベース板3とを誘導加熱溶着20により接合したが、これに限らず、接着、アウトサート成形、熱板溶着、振動溶着などであってもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 暖房便座
2 便座本体
3 ベース板
4 スキン層
5 ヒーター層
5a 先端部
6 ゲート
6a ゲート跡
7 ウェルド部位
8 給電部
9 ランナー
10 金型キャビティ
10a 空間
11 スキン材料
11b 固化皮膜
11a 固化皮膜
11c スキン材料流動層
12 ヒーター材料
13 金型面
14 電極部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の便座本体が、環状に連続した絶縁性樹脂よりなるスキン層と、このスキン層により被覆されると共に周方向に分断された導電性樹脂よりなるヒーター層とで樹脂成形されており、前記スキン層の一部に射出成形用のゲートを切除したゲート跡が残されており、前記ヒーター層は前記ゲート跡と対向するウェルド部位において分断されており、この分断されたヒーター層の両先端部を外部電源に接続される給電部としたことを特徴とする暖房便座。
【請求項2】
前記ヒーター層の分断された両先端部が前記スキン層を貫通して外部に各々露出しており、これら各々露出した給電部に電極部材を接続したことを特徴とする請求項1記載の暖房便座。
【請求項3】
前記便座本体の下面が樹脂製のベース板に対して誘導加熱溶着されていることを特徴とする請求項1又は2記載の暖房便座。
【請求項4】
前記スキン層の厚みを2mm以下の薄肉に形成したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の暖房便座。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−152299(P2012−152299A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12333(P2011−12333)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】