説明

暖房装置及びそれを備えるトイレ装置

【課題】設置作業の簡素化が図れるとともに、短時間での昇温が可能な暖房装置およびそれを備えるトイレ装置を提供する。
【解決手段】本発明の暖房装置は、座部を加熱する加熱手段と、使用者の存在を検知する使用者検出手段と、前記使用者検出手段が検知した使用者の存在情報を、他の暖房装置に送信する送信手段と、他の暖房装置から送信されてきた存在情報を受信する受信手段と、前記受信手段が受信した存在情報を参照して、前記加熱手段を動作する動作条件を設定し、前記動作条件に従って前記加熱手段の動作を制御する制御手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、暖房機能を有する暖房装置及びそれを備えるトイレ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トイレ用の便座装置は、多機能化が進み、例えば、用便後の局部洗浄機能や、洗浄水を適温に加熱・保温する機能、内蔵したヒータによって便座を暖房する機能等、様々な機能を備えた製品が提供されている。
【0003】
このような多機能を有する便座装置は、多機能を有するために一台辺りの消費電力が大きくなる傾向にある。デパートやオフィスビルなどにおいて、複数台設置して使用する場合は、設置した複数の便座装置の総消費電力量がオフィスビルの屋内配電線の供給電力量を大幅に越える場合も想定される。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1に記載のように、同環境に設置された他の便座装置の負荷状態を把握した上で便座装置の負荷を制御する負荷制御装置が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−175355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の負荷制御装置は、便座装置に対して個別に一体的に取り付けられるものであって他の便座装置の台数を認識して負荷制御を行う構成であるため、例えば、オフィスビルの所定のフロアのトイレ室に追加的に新規の便座装置を設置する場合には、再度、そのトイレ室に設置されている全ての便座装置に対してそれぞれ初期設定(例えば、他の便座装置の台数設定)を行う必要があり、設置作業にかかる時間が長くなり、設置コストが増大してしまう。
【0006】
また、便座装置は、市場の要請にこたえて多機能化が進んでいる一方で、省エネルギー化の要請もある。便座装置は、使用されていない時間帯も長く存在することを考慮すると、常に暖房機能を動作させて、便座を所定の温度まで昇温させ保温しておくことは非効率的であり、この点については省エネルギー化を図る余地がある。
【0007】
そこで、暖房機能については、使用者が便座装置の周辺に進入してきたことを検知してから使用者が便座に着座するまでの所定時間内に、便座を所定温度まで昇温させる手法が考えられる。この手法を採用する場合、短時間で便座を昇温させるために瞬間的に大きい電力が必要となる。
【0008】
しかし、上述の負荷制御装置は、予め同時に制御可能な便座装置の台数を設定する際、複数の便座装置の同時動作を許容するために一台辺りの最大消費電力を抑えて設定する必要が生じる。このような条件で設定された最大消費電力では、短時間で便座を昇温させるためには十分ではなく、使用者が便座に着座するまでに、便座を目標の温度まで昇温させることが困難である。
【0009】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、設置作業の簡素化が図れ、さらに、複数台数使用する場合であっても同時通電による電力過剰を回避するとともに、短時間での昇温が可能な暖房装置およびこれを便座に備えたトイレ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の暖房装置は、座部を加熱する加熱手段と、使用者の存在を検知する使用者検出手段と、前記使用者検出手段が検知した使用者の存在情報を、他の暖房装置に送信する送信手段と、他の暖房装置から送信されてきた存在情報を受信する受信手段と、前記受信手段が受信した存在情報を参照して、前記加熱手段を動作する動作条件を設定し、前記動作条件に従って前記加熱手段の動作を制御する制御手段と、を備える。
【0011】
この構成により、他の暖房装置から送信されてくる使用者の存在情報によって自動的に加熱手段の動作条件が設定されるので、複数台設置して使用されている場合において、限られた供給電力量でも電力過剰による不具合を発生することなく瞬時に昇温駆動させて使用に際して十分な暖房機能を提供することができる。また、追加的に新規の暖房装置を設置する場合であっても、新規に設置する暖房装置に対して予め他の暖房装置の台数等の情報を初期設定として入力する必要がなく、また既に設置されている暖房装置も、新規に設置された暖房装置に対応させるための再度の設定等、屋内電力供給の変更等の作業やコストが不要で、設置が簡易に行える。
【0012】
また、本発明の暖房装置は、前記制御手段が、前記受信手段が前記存在情報を受信した場合、前記加熱手段の動作条件として待機時間を設定し、前記待機時間が経過したとき、前記加熱手段を駆動するものとしても良い。
【0013】
この構成により、トイレ室で複数台設置して使用されている場合であっても、特定の暖房装置が使用されているときは、他の暖房装置は待機すなわち加熱手段が駆動しない状態なので、前述の特定の暖房装置に対して、他の暖房装置の設置台数に関係なく電力を集中させることができ、短時間での昇温が可能となる。また、複数台数使用する場合であっても同時通電による電力過剰を回避することができる。そして、高速昇温する暖房装置であり、着座面の温度が着座可能になるまで待機する時間は、わずかであるので使用時に支障が少ない。
【0014】
また、本発明の暖房装置は、前記待機時間は、前記加熱手段が、使用者が座部に着座する際に着座可能を報知する温度まで前記座部を昇温させるのに必要な時間としても良い。
【0015】
この構成により、使用者が便座装置の周辺に進入してきたことを検知してから使用者が便座に着座するまでの所定時間内に便座を目標の温度まで昇温させることができる。従って、便座装置が使用されていないときは、便座加熱手段の動作をOFFにするか低消費状態にすることができるので、使用されていないときの無駄な消費電力を低減することができる。
【0016】
また、前記加熱手段の駆動電力は、供給される最大電力量の50〜95%の電力量を使用して昇温駆動することを特徴としたものとしてもよい。
【0017】
この構成では、複数台数設置された場合でも他の暖房装置の駆動が待機状態となっているため、使用者の存在情報を検知し他の装置へ送信したタイミングが早い装置が、昇温駆動時に供給電力を優先的に独占して使用できる。例えば通常屋内配線による最大電力供給量が2.0kWの条件の場所で、複数台数の暖房装置が設置されても、最大供給電力の50〜95%程度の電力量に当たる1.0〜1.9kW能力で加熱手段を駆動させ、十分に昇温速度を早くして暖房できる。このとき、優先的に電力を使用するので、供給電力のうちの半分以上を昇温に使用しても、他の装置の駆動に不具合がない。そして必要時のみ暖房し、不必要時の使用電力を控えることができるので省エネとなる。
【0018】
また、本発明のトイレ装置は、便座に上述の暖房装置のいずれかを備えるものである。
【0019】
この構成により、複数台数の暖房装置の設置作業、増設作業の簡素化が図れ、さらに、複数台数設置し、便座の使用が重なった場合でも同時通電による電力過剰を回避するとともに、短時間で十分に暖房機能させるように昇温駆動することが可能な暖房装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、設置作業の簡素化が図れ、さらに、複数台数使用する場合であっても同時通電による電力過剰を回避するとともに、暖房の必要な場所に、短時間で使用可能な暖房温度へ昇温することが可能な暖房装置およびこれを備えたトイレ装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態1の便座装置100およびそれを備えるトイレ装置1000を示す外観斜視図である。図2は、便座装置100の概略構成図である。図1に示すように、トイレ装置1000は、便座装置100と便器700とを備えるものであり、例えば、オフィスビルのトイレットルームに設けられた複数ある個室に一台ずつ設置されるものである。
【0023】
トイレ装置1000は、便器700上に便座装置100が装着されて構成されるものである。便座装置100は、暖房装置の便座座面を加熱する加熱手段を便座部400に内蔵するものであり、蓋部500と、本体部200とを有し、これらとそれぞれ別体に設けた遠隔操作装置300と、入室検知センサ600とにより構成される。
【0024】
遠隔操作装置300は、使用者が便座装置100の機能を使用する際に用いる複数のスイッチが設けられており、例えば、便座部400上に着座する使用者が操作可能な場所に取り付けられる。もちろん、便座装置の機種によっては遠隔操作装置300が便座装置本体100と別に設けられる場合もある。また、本体部200には、便座部400と蓋部500とが開閉自在に取り付けられる。
【0025】
入室検知センサ600は、トイレ装置1000が設置された個室内に使用者が侵入してきたことを検知するためのセンサであり、便座装置100と別体に設けられ、例えばトイレットルームの個室の入り口付近に取り付けられる。入室検知センサ600は、例えば反射型の赤外線センサを用いる。この場合、入室検知センサ600は、使用者がドアを開けて入室したときに使用者から放出される赤外線を検出することで、トイレットルームの個室内に使用者が入室してきたことを検知し、本体部200に設けた制御部210にその旨を伝える信号を送信する。このように入室検知センサが装置本体と別体であれば、暖房装置の設置環境に合わせて配設場所を任意に設定可能なので、より早く正確に入室した人を検知できる。もちろん、装置本体部に設けてもよく、検知エリアを着座部でなく、便座装置本体近傍まで広げた範囲にすることで、入室した人を検知できる。
【0026】
本体部200は、図2に示すように、制御部210と、送信手段220aおよび受信手段220bを有する無線通信部220と、ヒータ駆動部230と、座面温度を測定する温度測定部240とを含む構成である。
【0027】
制御部210は、例えばマイクロコンピュータからなり、種々の情報を記憶する記憶部を有する構成である。制御部210は、機能の一つとして、他の便座装置から送信されてきた入室検知を知らせる信号又は便座装置100(本体)の入室検知センサ600から受信した信号を受信して入室検知情報を取得し、その入室検知情報に基づき他の便座装置との関係を考慮して、ヒータ駆動部230を動作して便座暖房を実行するものである。また、無線通信部220は、入室検知センサ600が使用者の入室を検知すると、入室検知センサから送信された情報に基づいて、他の便座装置に対して使用者の存在情報を知らせる信号を送信手段220aより送信し、また他の暖房装置から発信された使用者存在情報を受信手段220bにより受信する処理も行う。
【0028】
そのため、制御部210は、無線送信部220からの信号を受けてヒータ駆動部230の動作を制御するための通電率切替回路や、タイマ機能を有する計時部211、他の便座装置との関係で動作の優先順位を管理するための優先カウンタ212と待機カウンタ213を有する構成である。
【0029】
計時部211は、ヒータ駆動部230の動作を許可する待機時間をカウントするものであり、例えば、6秒(タイマ値)をカウントするものとする。ここで、待機時間として6秒を例示したのは、図3に示す調査結果を参照したのである。この調査は、所定人数の使用者についてトイレットルームを使用させ、各使用者の入室から着座するまでの入室着座時間を測定し、入室着座時間ごとの累積百分率を算出することにより実施したものである。
【0030】
図3は、入室から着座までの時間の調査結果を示す図である。図3において、横軸は入室着座時間を示し、縦軸は使用者の累積百分率を示す。図3に示すように、本調査によれば、使用者の多く(9割以上の使用者)は、トイレットルームに入室した後、約6秒間経過してから便座部400に着座することが明らかとなった。従って、上述のように、計時部211は、例えば、6秒をカウントするものとして設定されている。
【0031】
優先カウンタ212は、便座装置100(本体)に使用者の入室検知があった場合に、他の便座装置との間での通電待ち順位を認識するためのものである。制御部210は、優先カウンタ212が「0」になったとき、ヒータ駆動部230を動作する。待機カウンタ213は、制御部210が他の便座装置から入室検知信号を受信したときに加算されるものである。優先カウンタ212、待機カウンタ213及び計時部211は、制御部210が他の便座装置との関係でヒータ動作の優先順位を管理するためのものであり、詳細な動作は後述する。
【0032】
無線通信部220は、アンテナを用いて他の便座装置との間で双方向に無線通信するものである。例えば、他の便座装置が送信されてきた入室検知有りの旨を知らせる信号を受信し、また、便座装置100側で入室検知有りの旨を知らせる信号を、他の便座装置に送信する。
なお、無線通信部220の用いる信号は、赤外線を用いて他の便座装置との間で送受信を行うようにしてもよい。例えばトイレ装置が複数設置されている状況では、個室間では壁があるが、天井近くの部分は開放になっている場合が多い。このため、天井、側面等へも含めた複数方向に向けての信号送信がされる構成とすれば、隣接する複数の個室へ設置された暖房装置への送受信が可能である。アンテナまたは赤外線送受信部は便座装置本体内に設けられており、送受信の効率を考慮して、便座装置本体の上面もしくは袖部と称される側部に設ける。清掃性の点から便座装置本体内部に設置するのが望ましい。
【0033】
ヒータ駆動部230は、制御部210の指令を受け、ランプヒータや線状ヒータ等の発熱素子を駆動するものである。温度測定部240は、サーミスタ411等を用いて座面の温度を測定するものである。
【0034】
なお、ヒータ駆動部230により昇温させる便座部の目標温度は、約29℃、望ましくは27℃以上で設定するのが好ましい。これは、使用者が着座の際に「不快」と感じるか否かの限界温度であるからである。これは、図4に示す調査結果に基づいている。図4において、縦軸は使用者の官能評価結果を示し、横軸は便座部400の温度を示す。
【0035】
図4に示すように、使用者は、便座部400の温度が27℃以下である場合に「やや不快」を感じ、29℃以上の場合は概ね「不快感」を感じなかった。この29℃を冷感限界温度とする。
【0036】
この調査結果を踏まえると、ヒータ駆動部230は、使用者が入室してから着座するまでの時間と想定される約6秒間で、便座部400を約29℃まで昇温するのに必要な電力を発熱素子に供給する構成とすることが好ましい。
【0037】
また、ヒータ駆動部230は、温度測定部240から計測される現在の便座部の温度を参照して、約29℃まで6秒間で昇温させるのに必要な電力を算出して、その電力により駆動するものとしても良い。もしくは、予め、前述の算出内容を対応表として用意して記憶部に記憶しておき、温度測定部240が計測した現在の便座部の温度を基に、対応表を参照して、ヒータ駆動部230の電力量を決定する構成としても良い。
【0038】
ヒータ駆動部230は、サーミスタ411で測定した着座部温度に基づいて、着座部温度が冷感限界温度以上になるよう昇温させると同時に、便座装置の本体または遠隔操作装置に設けた表示部に、冷感限界温度までの昇温動作中はLEDなどの点滅、また昇温したところで着座可能であることを報知するように、LED点灯などのように、使用者に便座の暖房状態を制御部の通電状態と連動させて表示する。この表示は点滅、点灯の表示に限らず、色調を変えたり、音声等での報知を行ってもよい。
【0039】
また、本実施の形態では「着座可能」を報知する温度を「冷感限界温度」としたが、通常便座保温温度として設定される便座暖房温度は、低温で34度、標準で36度、高温で38度などを選択できるようになっているので、これらの温度と比較して約5度から15度前後低くてもよいことになる。着座可能を報知するタイミングは、加熱手段の昇温能力、また設置状況による待機時間の設定を考慮して、着座部温度が設定保温暖房温度よりも低い温度で報知してもかまわない。便座の熱容量等を踏まえて1〜10度毎秒程度の昇温能力が十分にある加熱手段を備えて、待機時間内で昇温させ、その後は昇温駆動を停止する。着座可能を報知したときに便座着座部が保温設定温度より低い温度でも、冷感限界温度以上になれば「着座可能」を報知することで、より早く便座を支障なく使用できるものとなる。加熱手段の昇温駆動はサーミスタ411でフィードバック制御してもよいし、冷感限界温度以上または着座可能報知温度以上になるように加熱手段の昇音駆動時間を予め定めて制御してもよい。
【0040】
また、本実施の形態では加熱手段の最大電力供給終了のタイミングと合わせて行っているが、冷感限界温度以上になれば、それよりも前に着座可能の報知を行えばよい。
【0041】
冷感限界温度帯域に昇温させた後、または着座可能を報知した後は、待機時間内であれば着座部が保温設定温度となるまで大電力で昇温駆動すればよい。待機時間を経過した後、使用者の着座時間が長ければ、便座保温温度として設定した温度まで着座部温度を緩やかに上昇させるか保持する。一度、人が着座してしまえば、人体からの熱の伝播もあり、加熱手段が使用する電力は非常に低電力量であるので、他の装置の駆動に支障をきたさない。また上昇速度は最初の昇温速度より緩やかであり、着座中であったとしても緩やかな昇温であれば快適に感じられる。
【0042】
また、便座部400は、ヒータ駆動部230により駆動する発熱手段であるランプヒータ480又は線状ヒータ483等の発熱素子を有する構成である。これら発熱素子は、1kWから1.9kW程度の電力容量のものを用いる。
【0043】
発熱素子としてランプヒータを用いる場合、加熱効率を向上させるため、例えば、図5に示すように、下部便座ケーシング420の形状に沿うように形成された輻射反射板430を、下部便座ケーシング420の上面側に取り付ける。輻射反射板430は、アルミニウムからなる板材の表面を鏡面仕上げすることにより作製するものを用いれば良い。
【0044】
さらに、輻射反射板430の上面に、ランプヒータ480を設ける。図5に示すランプヒータ480は、U字形に形成された後方ランプヒータ481および前方ランプヒータ482により構成されている。ランプヒータとしては、例えば、ガラス管、フィラメント、アルゴンガスおよびハロゲンガスからなるハロゲンヒータなどを用いれば良い。
【0045】
また、発熱素子として線状ヒータを用いる場合、加熱効率を向上させるため、図6(a)に示すように、線状ヒータ483を均等な間隔で上部便座ケーシング410の下面全体にわたって蛇行するように配置し、図6(b)に示すように、配置した線状ヒータ483を上部便座ケーシング410と略同じ形状を有する2枚のアルミニウム薄膜484a、484bで挟み込み、それらを高い耐熱性を有する接着材(高温接着剤)で貼り合わせ、下枠側には断熱材を埋め込む構成としても良い。
【0046】
線状ヒータであれば、便座の形状に合わせたヒータ部構成の成型がしやすく、他の椅子の着座部などへの適用する場合も成型容易であるメリットがある。
【0047】
また、便座自体は、高速に着座部温度を上昇させるために、加熱手段からの受熱効率をあげるため、金属を用いたり薄い樹脂を用いたりして、熱容量を小さくしてかつ人体の体重を支持するための補強構造を有するようにすればよい。
【0048】
図6(b)に示す線状ヒータ483は、芯線483a、発熱線483b、被膜チューブ483cを含む構成である。芯線483aに発熱線483bが巻回され、さらに、発熱線483bが巻回された芯線483bが、被膜チューブ483cにより被膜されている。被膜チューブ483cを構成する材料は、線状ヒータを大電力で急激に駆動する際に、発熱体483bから発生される熱の衝撃に十分に耐えることができる耐熱性を有するものを用いる。
【0049】
以上のように構成された便座装置100の瞬間暖房動作について、以下で説明する。
【0050】
(ヒータ通電処理)
まず、暖房動作の基本動作であるヒータ通電処理について説明する。図7は、ヒータ通電処理のフローチャートを示している。
【0051】
図7に示すように、まず、便座装置100の電源が投入されたとき、またはリセット処理がなされたとき、制御部210は、初期処理として、待機カウンタ213に「0」を書き込み、優先カウンタ212に最大値「FF」を書き込む(S100)。
【0052】
初期処理後、制御部210は、人体検知センサ600からの入室検知信号を待つ状態となる。制御部210は、入室検知信号が受信されない場合は(S101−No)、そのまま入室検知信号を待つ状態を継続する。一方、入室検知信号を受信した場合(S101−Yes)、制御部210は、入室検知信号を受信した旨を知らせる信号を、無線通信部220を介して、他の便座装置に一斉に送信する(S102)。
【0053】
その後、制御部210は、優先カウンタ212に、待機カウンタ213に書き込まれている値(待機カウンタ値)を書き込む(S103)。
【0054】
次に、制御部210は、優先カウンタ212に書き込まれている値(優先カウンタ値)が「0」か否かを判断する。優先カウンタ値が「0」でない場合(S104−No)は、後述する他の割り込み処理によって優先カウンタ値が「0」となるまでヒータ通電処理を待機する(S105)。
【0055】
優先カウンタ値が「0」の場合は、制御部210は、待機カウンタ213に書き込まれている待機カウンタ値に「+1」(「1」を加算)する(S106)。
【0056】
そして、制御部210は、ヒータ駆動部230により発熱素子を駆動して便座部400の加熱処理を開始する(S107)。このとき、例えば1200Wで発熱素子を駆動する。
【0057】
加熱処理を開始した後、制御部210は、優先カウンタ212に最大値「FF」を書き込み(S108)、再び、人体検知センサ600からの入室検知信号を待つ状態に戻る。
【0058】
(割り込み処理)
次に、上述のヒータ通電処理中に実行される割り込み処理について、図8を参照して説明する。図8は、割り込み処理のフローチャートを示している。
【0059】
上述のヒータ通電処理と並行して、制御部210は、他の便座装置から送信されてくる入室検知有りの旨を知らせる信号を受信する状態にあり、その信号を受信したか否かを監視している。
【0060】
制御部210は、他の便座装置から入室検知有りの旨を知らせる信号を受信しない場合は、そのまま、前記信号を受信する状態を継続する(S201―No)。
【0061】
制御部210は、他の便座装置から入室検知有りの旨を知らせる信号を受信した場合は、(S201―Yes)、待機カウンタ213に書き込まれている待機カウンタ値に「+1」(「1」を加算)する(S202)。
【0062】
そして、制御部210は、待機カウンタ213に書き込まれている待機カウンタ値が「1」であるか否かを判断する。待機カウンタ213に書き込まれている待機カウンタ値が「1」である場合(S203−Yes)、制御部210は計時部211に「6秒」を設定し、6秒のカウントを開始して(S204)、割り込み処理を終了する。待機カウンタ213に書き込まれている待機カウンタ値が「1」でない場合(S203−No)、すなわち待機カウンタ値が「2」や「3」等の場合は、計時部211を動作させず、そのまま割り込み処理を終了する。
【0063】
(割り込みタイマ処理)
次に、上述のヒータ通電処理中に実行される割り込みタイマ処理について、図9を参照して説明する。図9は、割り込みタイマ処理のフローチャートを示している。この処理は、前述の割り込み処理で、計時部211による6秒カウントが開始された場合に、実行される処理である。
【0064】
制御部210は、前述のヒータ通電処理や割り込み処理と並行して、計時部211による6秒カウントが終了したか否かを監視している。6秒のカウントが終了しない状況では、制御部210は、そのまま監視状態を継続する(S301−No)。
【0065】
6秒のカウントが終了した場合(S301−Yes)、制御部210は、待機カウンタ213に書き込まれている待機カウンタ値に対して「−1」(「1」減算)する。なお、待機カウンタ213に書き込まれている待機カウンタ値が最大値「FF」の場合は、減算処理は行わない。また、制御部210は、優先カウンタ212に書き込まれている優先カウンタ値に対しても「−1」(「1」減算)する(S302)。
【0066】
その後、制御部210は、待機カウンタ213に書き込まれている待機カウンタ値が「0」であるか否かを判断する。待機カウンタ値が「0」でない場合(S303−No)、制御部210は、計時部211に「6秒」を設定して6秒のカウントを開始する。また、待機カウンタ値が「0」である場合(S303−Yes)、制御部210は、計時部211を動作させず、そのまま処理を終了する。
【0067】
制御部210は、以上で説明したヒータ通電処理、割り込み処理および割り込みタイマ処理を並行に処理することで、他の便座装置との関係を参照して、ヒータ動作の優先順位を管理する。また、制御部210は、他の便座装置から送信されてきた入室検知を知らせる信号又は便座装置100(本体)の入室検知センサ600から受信した信号を受信して入室検知情報を取得し、その入室検知情報に基づき上記の優先順位を管理して、ヒータ駆動部230を動作して便座暖房を実行するものである。
【0068】
(動作例)
次に、本実施の形態1の便座装置100およびそれを備えるトイレ装置1000の動作例を説明する。以下の説明では、図10に示すように、4つの個室を有するトイレットルームの各個室に、便座装置100a〜100dが設置されているものとする。なお、便座装置100a〜100dは、上述の便座装置100と同様の機能を有するものである。
【0069】
図10に示すように、個室Aには便座装置100aを有するトイレ装置が設置されており、個室Bには、便座装置100bを有するトイレ装置が設置されており、個室Cには、便座装置100cを有するトイレ装置が設置されており、個室Dには、便座装置100dを有するトイレ装置が設置されている。便座装置100a〜100dは、初期状態であるとする。また、各個室A〜Dのドアと対向する位置には、それぞれ人体検知センサ600a〜600dが設置されている。
【0070】
以上の条件の下、使用者Aが個室Aに入室し、その後6秒以内に使用者Bが個室Bに入室し、続けて、使用者Cが個室Cに入室し、使用者Dが個室Dに入室した場合の、各便座装置100a〜100dの動作例について、図11を参照して説明する。
【0071】
図11は、ここで説明する動作例の各便座装置100a〜100dの優先カウンタ212a〜212dに書き込まれる優先カウンタ値の遷移と、待機カウンタ213a〜213dに書き込まれる待機カウンタ値の遷移と、計時部211a〜211dでカウントされるタイマ値の遷移とを、表にして示したものである。なお、図11に示す表では、便座装置100aを「A」と記載し、同様に、座装置100bを「B」と記載し、便座装置100cを「C」と記載し、座装置100dを「D」と記載している。
【0072】
図11に示すように、まず、T0の時点においては、優先カウンタ212a〜212dには、それぞれ最大値「FF」が書き込まれている。待機カウンタ213a〜213dには、それぞれ「0」が書き込まれている。計時部211a〜211dは、それぞれ「0秒」として設定されている。
【0073】
次に、T1の時点において、個室Aに使用者Aが入室すると、便座装置100aの制御部210aは、上述の「ヒータ通電処理」を開始する。制御部210aは、待機カウンタ213aの待機カウンタ値が「0」であるため、優先カウンタ212aに「0」を書き込み、ヒータ通電を開始し、待機カウンタ213aに「+1」する。一方で、便座装置100b〜100dは、便座装置100aから入室を検知した旨を伝える信号を受信しているので、制御部210b〜210dは、それぞれの待機カウンタ213b〜213dに対して「+1」する。
【0074】
次に、T2の時点(T1から2秒後の時点)において、個室Bに使用者Bが入室すると、便座装置100bの制御部210bは、待機カウンタ213bの待機カウンタ値が「1」であるため、優先カウンタ212bに「1」を書き込み、よってヒータ通電は開始されない。一方で、便座装置100a、100c、100dは、便座装置100bから入室を検知した旨を伝える信号を受信しているので、制御部210a、210c、210dは、それぞれの待機カウンタ213a、213c、213dに対して「+1」する。
【0075】
次に、T3の時点(T2から2秒後の時点)において、個室Cに使用者Cが入室すると、便座装置100cの制御部210cは、待機カウンタ213cの待機カウンタ値が「2」であるため、優先カウンタ212cに「2」を書き込み、よってヒータ通電は開始されない。一方で、便座装置100a、100b、100dは、便座装置100bから入室を検知した旨を伝える信号を受信しているので、制御部210a、210b、210dは、それぞれの待機カウンタ213a、213b、213dに対して「+1」する。
【0076】
次に、T4の時点(T3から1秒後の時点)において、個室Dに使用者Dが入室すると、便座装置100dの制御部210dは、待機カウンタ213dの待機カウンタ値が「3」であるため、優先カウンタ212dに「3」を書き込み、よってヒータ通電は開始されない。一方で、便座装置100a〜100cは、便座装置100dから入室を検知した旨を伝える信号を受信しているので、制御部210a〜210cは、それぞれの待機カウンタ213a〜213cに対して「+1」する。
【0077】
次に、T5の時点(T4から1秒後、すなわちT1から6秒後の時点)において、計時部211a〜211dでのカウントが終了する。そして、制御部210a〜210dは、それぞれの待機カウンタ213a〜213dと優先カウンタ212a〜212dに対して「−1」する。このとき、優先カウンタ212bだけが「0」となり、便座装置100bでは、ヒータ通電が開始される。便座装置100aでは、ヒータ処理が終了した後で、優先カウンタ212aに対して最大値「FF」が書き込まれる。
【0078】
次に、T6の時点(T2から6秒後の時点)において、計時部211a〜211dでのカウントが終了する。そして、制御部210a〜210dは、それぞれの待機カウンタ213a〜213dと優先カウンタ212a〜212dに対して「−1」する。このとき、優先カウンタ212cだけが「0」となり、便座装置100cでは、ヒータ通電が開始される。便座装置100bでは、ヒータ処理が終了した後で、優先カウンタ212bに対して最大値「FF」が書き込まれる。
【0079】
次に、T7の時点(T3から6秒後の時点)において、計時部211a〜211dでのカウントが終了する。そして、制御部210a〜210dは、それぞれの待機カウンタ213a〜213dと優先カウンタ212a〜212dに対して「−1」する。このとき、優先カウンタ212dだけが「0」となり、便座装置100dでは、ヒータ通電が開始される。便座装置100cでは、ヒータ処理が終了した後で、優先カウンタ212cに対して最大値「FF」が書き込まれる。
【0080】
次に、T8の時点(T4から6秒後の時点)において、計時部211a〜211dでのカウントが終了する。便座装置100dでは、ヒータ処理が終了した後で、優先カウンタ212dに対して最大値「FF」が書き込まれる。
【0081】
このようにして、各便座装置100a〜100dは、優先順位を把握してヒータ通電処理を実行する。他の便座装置がヒータ通電中は、自機におけるヒータ通電処理を待機し、他の便座装置のヒータ通電処理が終了次第、順次、ヒータ通電処理を開始する。
【0082】
このように構成された本実施の形態1の便座装置100によれば、上述の動作例のように、トイレ室で複数台設置して使用する場合であっても、特定の便座装置が使用されているときは、他の便座装置は待機状態すなわちヒータ駆動部230が駆動しないように制御されるので、同時通電による電力過剰を回避するとともに、前述の特定の便座装置に対して、他の便座装置の設置台数に関係なく一台の便座装置に電力を集中させることができ、短時間での昇温が可能となる。
【0083】
また、便座装置が使用されていないときは、ヒータ駆動部230の動作を停止しているので、無駄な消費電力を低減することができる。
【0084】
また、他の便座装置から送信されてくる使用者の存在情報(入室検知情報)によって自動的にヒータ駆動部230の動作条件が設定されるので、トイレ室で複数台設置して使用されている場合において、追加的に新規の便座装置を設置する場合であっても、新規に設置する便座装置に対して予め他の便座装置の台数等の情報を初期設定として入力する必要がなく、また既に設置されている便座装置も、新規に設置された便座装置に対応させるための再度の設定等は必要ない。従って、設置作業にかかる時間が短縮され、設置コストが低下する。
そして、以上のように構成された便座装置は人体検知して昇温駆動する際には、例えば1kW〜1.9kWという大電力で最大供給可能電力2.0kWとしたときの50〜95%の電力量を使用することになる。しかし、複数台数が同時に大電力通電されることがなく、個別の便座の昇温能力を最大限に発揮することができて、瞬間的に暖房してかつ電力的にも、実使用にも不具合が生じない。
【0085】
なお、本実施例では6秒を昇温するための時間として設定し、29度を6秒間で昇温させる構成としたが、加熱手段の能力が十分であれば、6秒より短い時間を待機時間として設定すればよい。着座可能温度まで昇温して報知し、そのあとの着座部温度の加熱制御についても、加熱手段の能力やサーミスタなどの温度検知の検知速度等を踏まえて制御すればよい。
【0086】
また、本実施例では、便座を暖房する暖房装置をトイレ装置に備えた構成を説明したが、座面を暖房する装置として、座面に加熱手段を有する構成、例えば電気マットのような暖房装置とすれば、椅子に設置する暖房装置として便座以外のものにも使用できる。
【0087】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の便座装置およびそれを備えるトイレ装置は、設置作業の簡素化が図れるとともに、短時間での昇温が可能な便座装置およびそれを備えるトイレ装置として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本実施の形態1の便座装置100およびそれを備えるトイレ装置1000を示す外観斜視図
【図2】便座装置100の概略構成図
【図3】入室から着座までの時間の調査結果を示す図
【図4】限界温度の官能評価結果を示す図
【図5】発熱素子としてランプヒータを用いる場合の便座部の概略構成図
【図6】発熱素子として線状ヒータを用いる場合の便座部の概略構成図
【図7】図2の制御部の動作を示すフローチャート
【図8】図2の制御部の動作を示すフローチャート
【図9】図2の制御部の動作を示すフローチャート
【図10】動作例の条件を説明するための図
【図11】動作時の各カウンタ値等の遷移の様子を説明するための表
【符号の説明】
【0090】
100 便座装置
200 本体部
210 制御部
211 計時部
212 優先カウンタ
213 待機カウンタ
220 無線通信部
220a 送信手段
220b 受信手段
230 ヒータ駆動部
240 温度測定部
300 遠隔操作装置
400 便座部
411 サーミスタ
480 ランプヒータ
483 線状ヒータ
500 蓋部
600 入室検知センサ
700 便器
1000 トイレ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
座部を加熱する加熱手段と、
使用者の存在を検知する使用者検出手段と、
前記使用者検出手段が検知した使用者の存在情報を、他の暖房装置に送信する送信手段と、
他の暖房装置から送信されてきた存在情報を受信する受信手段と、
前記受信手段が受信した存在情報を参照して、前記加熱手段を動作する動作条件を設定し、前記動作条件に従って前記加熱手段の動作を制御する制御手段と、
を備える暖房装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記受信手段が前記存在情報を受信した場合、前記加熱手段の動作条件として待機時間を設定し、前記待機時間が経過したとき、前記加熱手段を駆動する請求項1に記載の便座装置。
【請求項3】
前記待機時間は、前記加熱手段が、使用者に着座可能を報知する温度まで前記座部を昇温させるのに必要な時間である請求項2に記載の暖房装置。
【請求項4】
前記加熱手段は、供給される最大電力量の50〜95%の電力量で昇温駆動することを特徴とした請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の暖房装置。
【請求項5】
便座と、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の暖房装置を前記便座に備えるトイレ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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