曝気槽の監視方法
【課題】曝気槽の流下方向に沿って、複数箇所の汚泥と排水の混合液の酸素消費速度を測定し、酸素消費速度の分布から曝気槽の状態を判断する曝気槽の監視方法において、標準に設定した分布との比較を用いるため季節変動による温度変化や流入負荷の性状により微生物の活性状態が変化したとき、曝気槽の状態を正しく判断できないという課題があった。
【解決手段】複数の酸素消費速度が一致した状態を無負荷と判断し、その無負荷状態と判断した酸素消費速度の値を内生呼吸の酸素消費速度として記憶し、この記憶した内生呼吸の酸素消費速度と複数箇所で測定した酸素消費速度を比較し、曝気槽の状態を判断する。
【解決手段】複数の酸素消費速度が一致した状態を無負荷と判断し、その無負荷状態と判断した酸素消費速度の値を内生呼吸の酸素消費速度として記憶し、この記憶した内生呼吸の酸素消費速度と複数箇所で測定した酸素消費速度を比較し、曝気槽の状態を判断する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理施設において、下水道や工場などから排出される有機物を含んだ被処理水である排水を微生物によって酸化分解処理する主要処理工程である曝気槽の監視方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下水処理場や事業所等の排水処理施設での有機性排水処理は、活性汚泥法を用いた微生物の酸化分解処理によりなされている。
【0003】
この処理において、汚泥中の微生物(細菌、原生動物など)は排水中の有機物を生物活動に必要なエネルギー源として体内に取り込んで浄化し、酸素を消費しながら取り込んだ有機物を二酸化炭素と水に分解する。
【0004】
微生物は様々な要因により有機物の分解特性が変化するため、連続かつ安定に処理を行うには適正な曝気槽の運転管理を行う必要がある。
【0005】
排水処理における管理対象の項目としては、溶存酸素濃度(DO)、pH、酸化還元電位、汚泥濃度(MLSS)が代表的であり、これら以外に、水温、流入水量、汚泥沈降率なども測定さる。管理者はこれらの変化を監視しながら適正値になるよう曝気風量や汚泥濃度、流入負荷量、薬剤注入量などを調整し曝気槽を運転管理している。
【0006】
ところで、近年の社会的背景により、排水処理分野において環境負荷低減・コスト低減の両立のさらなる追及が求められており、公共下水処理分野では複数の管理項目を同時に測定して最適な運転条件をモデル計算し、曝気槽を自動管理する高度な計測制御技術や、情報インフラによって遠隔地の処理場を一箇所で集中管理する遠方監視技術の導入が進みつつある。
【0007】
しかし、このような計測制御技術は食品工場などの事業系排水処理分野に適用されている例は少ない。その理由として、事業系排水処理施設ではこのような高度な技術を導入する為のコストが捻出できない為と、公共下水処理に比べ操業状況により流入負荷量の変動差が大きく、上記の計測制御技術をもってしても適用が困難なことである。
【0008】
さらに、事業系の排水処理施設の管理者は長年培ってきたノウハウがあり、過去に開発された計測制御技術が不完全であった経験により、排水処理の自動化に対して抵抗があり、導入が進まない遠因ともなっている。
【0009】
よって、事業系の排水処理施設ではほとんどの処理場において管理者を常時配置して手動により管理しており、常時配置できない場合は安全をみて曝気風量を多めに設定するか、流入負荷を低めに設定して運転効率が低い状況となっている。
【0010】
このような状況に対して、排水処理の完全自動化を行うのではなく、計測と制御を切り離し、まず、管理者が計測したデータを解析して曝気槽内の状態を判断しやすいように視覚化して表示する方法や、さらに曝気槽の状態の判断まで行って管理に不慣れな管理者を支援できる方法など曝気槽の監視技術の高度化が求められている。
【0011】
最も基本的な曝気槽の監視技術は曝気槽の溶存酸素濃度を連続計測して曝気槽の状態を表示する方法である。曝気槽の溶存酸素濃度は、曝気槽への酸素供給速度と曝気槽内の汚泥の酸素消費速度の比を表しており、酸素供給速度が一定であれば、汚泥の酸素消費速度により増減する。
【0012】
また、酸素消費速度は負荷の有無大小により変化し、溶存酸素濃度もこれに合わせて変化するので、連続的に溶存酸素濃度の時間変化を計測することにより曝気槽の負荷状態を視覚的に把握することができる。
【0013】
しかし、このような最も基本的な溶存酸素濃度による曝気槽の監視技術は、曝気槽への酸素供給速度が常に一定であるという仮定に基づいており、この仮定が成り立たないと正しく曝気槽の状態を把握できない。曝気槽の酸素供給能力は総括酸素移動容量係数(KLa)で表されるが、この値は汚泥の濃度や散気管の目詰まり等の影響により変化し一定ではない。また、測定もかなりの手間と労力を要するため、曝気槽が稼動中に総括酸素移動容量係数を計測して補正することは困難である。
【0014】
そこで、溶存酸素濃度を用いた曝気槽の監視方法に対し、汚泥の酸素消費速度(Rr)を直接測定する方法が提案されている。この方法は、汚泥の酸素消費速度と負荷量に相関があることを利用しており、酸素消費速度の計測値から負荷量を推定して表示するものである。この方法によれば総括酸素移動容量係数の変動の影響を除外して、曝気槽に流入する負荷の変化を得ることができる。
【0015】
しかし、この方法では酸素消費速度の良否を判断する基準が明確でない為、相対的な負荷の大小を知るに留まり、曝気槽の状態を判断することまではできない。そこで、酸素消費速度から曝気槽の状態を判断する方法として、流下方向に沿って複数箇所の酸素消費速度から曝気槽の処理状態を判断して表示する曝気槽の監視方法が提案されている(例えば特許文献1、2参照)。
【0016】
この方法では、負荷が連続的に流入、流出する押し出し流れ型の活性汚泥法において、酸素消費速度は上流から下流にかけて減少していく分布を示すことを利用し、曝気槽における流下方向の酸素消費速度の分布を測定し、予め設定した標準の酸素消費速度の分布と計測した酸素消費速度の分布を表示して比較することにより曝気槽の状態の良否を判断するものである。
【特許文献1】特開昭61−8662号公報
【特許文献2】特開昭63−156596号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、上記従来の特許文献1及び2に記載の方法は、あらかじめ設定した標準の酸素消費速度の分布との比較という方法で曝気槽の状態を表示し、かつ判断するものであるが、汚泥の酸素消費速度は負荷以外にも季節変動による温度変化や流入負荷の性状により活性状態が変化するため標準の酸素消費速度の分布自体も変動して一義的に定義できるものではないため、判断の基準が信頼できず曝気槽の状態を正しく表示かつ判断できないという課題があった。
【0018】
そこで本発明は、判断の基準となる内生呼吸の酸素消費速度を、汚泥の活性状態の変化を反映した無負荷状態の酸素消費速度として表示することにより、排水処理施設の管理者が曝気槽の処理状態、負荷状態、及び汚泥の活性状態の変化等を視覚的に把握できる曝気槽の監視方法を実現することを目的とする。
【0019】
さらに、曝気槽の状態を判断して表示することにより、不慣れな管理者でも曝気槽の状態を適切に把握することができる曝気槽の監視方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は上記目的を達成するため、曝気槽の流下方向に沿って、複数箇所の汚泥と排水の混合液の酸素消費速度を測定し、測定した複数の酸素消費速度が一致した場合を無負荷状態と判断し、その無負荷状態と判断した酸素消費速度の値を内生呼吸の酸素消費速度として記憶し、この記憶した内生呼吸の酸素消費速度と、前記測定した複数箇所の酸素消費速度を外部に表示するものである。
【0021】
また、曝気槽の流下方向に沿って、複数箇所の汚泥と排水の混合液の酸素消費速度を測定し、測定した複数の酸素消費速度が一致した場合を無負荷状態と判断し、その無負荷状態と判断した酸素消費速度の値を内生呼吸の酸素消費速度として記憶し、この記憶した内生呼吸の酸素消費速度と複数箇所で測定した酸素消費速度から曝気槽の状態を判断して外部に表示するものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、判断の基準となる内生呼吸の酸素消費速度を、汚泥の活性状態の変化を反映した無負荷状態の酸素消費速度として表示することにより、排水処理施設の管理者が曝気槽の処理状態、負荷状態、及び汚泥の活性状態の変化等を視覚的に把握できる曝気槽の監視方法が得られる。
【0023】
さらに、汚泥の活性状態の変化を反映した基準により曝気槽の状態を判断して表示でき、不慣れな管理者でも曝気槽の状態を適切に把握することができる曝気槽の監視方法が得られる。
【0024】
このように、本発明の曝気槽の監視方法により排水処理施設の環境負荷低減・コスト低減の両立を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の第1の実施の形態による曝気槽の監視方法は、曝気槽の流下方向に沿って、複数箇所の汚泥と排水の混合液の酸素消費速度を測定し、測定した複数の酸素消費速度が一致した場合を無負荷状態と判断し、その無負荷状態と判断した酸素消費速度の値を内生呼吸の酸素消費速度として記憶し、この記憶した内生呼吸の酸素消費速度と、前記測定した複数箇所の酸素消費速度を外部に表示するものである。
【0026】
本実施の形態によれば、判断の基準を汚泥の活性状態の変化を反映した無負荷状態での酸素消費速度とすることにより、曝気槽の状態を適切に表示することができる。
【0027】
本発明の第2の実施の形態は、曝気槽の流下方向に沿って、複数箇所の汚泥と排水の混合液の酸素消費速度を測定し、測定した複数の酸素消費速度が一致した場合を無負荷状態と判断し、その無負荷状態と判断した酸素消費速度の値を内生呼吸の酸素消費速度として記憶し、この記憶した内生呼吸の酸素消費速度と複数箇所で測定した酸素消費速度から曝気槽の状態を判断して外部に表示するものである。
【0028】
本実施の形態によれば、曝気槽の状態の判断結果が表示されるため、見ただけで曝気槽の状態を適切に把握することができる。
【0029】
本発明の第3の実施の形態は、測定した酸素消費速度の値が記憶している内生呼吸の酸素消費速度の値より低いとき、測定した酸素消費速度の値を内生呼吸の酸素消費速度として更新するものである。
【0030】
本実施の形態によれば、無負荷状態にもかかわらず汚泥の内部に負荷が残存している場合であっても内生呼吸の酸素消費速度を正しく得るができる。
【0031】
本発明の第4の実施の形態は、内生呼吸の酸素消費速度は、無負荷状態と判断した場合の複数箇所の酸素消費速度のうち曝気槽の流下方向に沿って最下流部の酸素消費速度とするものである。
【0032】
本実施の形態によれば、複数箇所の内生呼吸の酸素消費速度の一致を判断する場合において、許容誤差を設定しても内生呼吸の酸素消費速度を正しく選択することができる。
【0033】
本発明の第5の実施の形態は、曝気槽の状態は、記憶している内生呼吸の酸素消費速度と複数箇所の酸素消費速度を比較して内生呼吸への遷移の位置を特定し、この位置により曝気槽の処理状態を判断して表示するものである。
【0034】
本実施の形態によれば、曝気槽の処理状態が適正か、過剰か、不足なのか判断することができる。
【0035】
本発明の第6の実施の形態は、内生呼吸への遷移の位置は、内生呼吸の酸素消費速度と酸素消費速度の値が一致する最上流部の位置とするものである。
【0036】
本実施の形態によれば、内生呼吸への遷移の位置を特定することができる。
【0037】
本発明の第7実施の形態は、曝気槽の状態は、最上流部の酸素消費速度と記憶している内生呼吸の酸素消費速度の差分により曝気槽に流入している負荷状態を判断して表示するものである。
【0038】
本実施の形態によれば、曝気槽の負荷の有無大小を視覚的に判断することができる。
【0039】
本発明の第8の実施の形態は、曝気槽の状態は、内生呼吸の酸素消費速度の記憶時に温度を測定し、予め測定した温度と内生呼吸の酸素消費速度の関係から汚泥の活性状態を判断して表示するものである。
【0040】
本実施の形態によれば、温度変化の影響を除外して汚泥の活性状態を判断することができる。
【0041】
本発明の第9の実施の形態は、曝気槽の状態を文字で表示するものである。
【0042】
本実施の形態によれば、施設の管理者が曝気槽の状態が適正かどうか容易に確認することができる。
【0043】
本発明の第10の実施の形態は、曝気槽の状態を図で表示するものである。
【0044】
本実施の形態によれば、施設の管理者が曝気槽の状態が適正かどうか容易に確認することができる。
【0045】
本発明の第11の実施の形態は、酸素消費速度と同時に温度を測定し、予め測定した温度と酸素消費速度の関係式から内生呼吸の酸素消費速度を補正するものである。
【0046】
本実施の形態によれば、酸素消費速度の温度変化による影響を除外して、より正確に内生呼吸の酸素消費速度を得ることができる。
【0047】
本発明の第12の実施の形態は、酸素消費速度と同時にMLSSを測定して酸素利用速度係数を算出し、酸素利用速度係数を酸素消費速度の代わりに用いて行うものである。
【0048】
本実施の形態によれば、汚泥の濃度変化による酸素消費速度の影響を除去でき、より正確に曝気槽の内生呼吸への遷移の位置を特定することができる。
【0049】
以下、本発明による曝気槽の監視方法について、図面を参照して説明する。
【0050】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態における曝気槽の監視方法の一例を示すシステム図で、監視対象となる排水処理系1と監視装置2を示している。
【0051】
排水処理系1は排水を貯留する調整槽3と、有機物を汚泥と混合した混合液を曝気することにより微生物によって酸化・分解する曝気槽4と、曝気槽4で処理された混合液を重力によって汚泥と処理水とに分離する沈殿槽5で構成されている。
【0052】
ここで、矢印の方向は排水の流れを表している。
【0053】
処理対象の排水が流入する調整槽3は押し出し流れ型の曝気槽4に接続されている。
【0054】
曝気槽4の底部には有酸素気泡が発生する散気管6が流下方向に沿って複数配置されており、各散気管6は曝気槽4の外部に接続された曝気ブロア7と空気配管によって接続されている。
【0055】
また、曝気槽4の最下流部は沈殿槽5と接続されている。
【0056】
沈殿槽5は処理系外へと接続されると共に、沈殿槽5の下部は曝気槽4の上流部に汚泥返送配管(図示せず)で接続されている。
【0057】
次に監視装置2について説明する。監視装置2は曝気槽4に近接して設置されており、内部に計測槽8と制御部9を有している。
【0058】
計測槽8内には溶存酸素濃度計10、温度センサ11が配置されており、それぞれの測定信号線(図中、破線)が制御部9に接続されている。
【0059】
計測槽8の底部には計測槽散気管12が配置されており、計測槽散気管12は計測槽8の外部に設置された計測槽曝気ブロア13と空気配管によって接続されている。
【0060】
また、計測槽8には混合液を攪拌する攪拌機14が配置されている。また、計測槽曝気ブロア13は制御部9と電気的に接続されている。また、表示部15が制御部9と電気的に接続されている。
【0061】
また、曝気槽4には混合液採取ポンプ16が流下方向に沿って最上流部と最下流部を含む複数箇所(ここでは3箇所)に配置されおり、各混合液採取ポンプ16は混合液採取弁17を介して計測槽8の流入口18と接続されている。
【0062】
また、計測槽8の底部には流出口19があり、流出口19は液体配管によって曝気槽4の最上流部と接続されている。
【0063】
制御部9は計測槽曝気ブロア13、混合液採取ポンプ16、混合液採取弁17および攪拌機14と電気的に接続されており、制御部9から各機器を動作できるようになっている。
【0064】
また、特に図示していないが流出口19の下方には排出用の弁があり制御部9から開閉できるようになっている。
【0065】
尚、図1において、説明上混合液採取ポンプ16、混合液採取弁17の信号線は1本で表示してあるが、全て制御部9から各機器を個別に動作できるようになっている。
【0066】
次に、本実施の形態の処理動作について説明する。
【0067】
被処理対象の有機物を含んだ排水は調整槽3に流入して一旦貯留され、ここである程度の負荷の変動は平均化されほぼ一定の流量となって曝気槽4へと送られる。
【0068】
曝気槽4では排水と汚泥が混合され混合液となると共に曝気ブロア7から空気が散気管6を介して送り込まれ、散気管6から発生した有酸素気泡は曝気槽4の内部の混合液中を浮力により上昇しながら酸素を混合液中に供給すると共に混合液を攪拌する。
【0069】
曝気槽4の内部では、汚泥を構成している微生物が酸素を消費しながら有機物を体内に取り込み、続いて有機物を酸化分解して二酸化炭素と水に分解する。
【0070】
曝気槽4は流入位置から流出位置までの距離がある押し出し流れ型であり、微生物による有機物の酸化分解は曝気槽4の最上流部から最下流部に流れるに従い進行し、最下流部から流出した混合液は沈殿槽5へと送り込まれる。
【0071】
沈殿槽5に送り込まれた混合液は静置され、重力により下層の汚泥と上層の上澄み液に分離され、上澄み液は浄化された処理水として系外へ放流される。
【0072】
下層の汚泥の一部は返送汚泥として曝気槽4の最上流部へ戻され生物処理に再利用される。
【0073】
尚、特に図示していないが、残りの汚泥は余剰汚泥として処理系外へと排出されて別途処理される。
【0074】
以上が排水処理の基本的な流れである。次に、計測槽8において酸素消費速度(Rr)を測定する動作について説明する。まず、混合液採取ポンプ16のうち任意の一つを動作させ、そのポンプに対応した混合液採取弁17を開いて、その近傍の混合液を流入口18から計測槽8へ流入させる。
【0075】
混合液は計測槽8に一定量貯留され、次いで計測槽曝気ブロア13を作動させ計測槽散気管12より有酸素気泡が計測槽8内に送り込まれると同時に攪拌機14を作動させ、計測槽8内の混合液を攪拌し、溶存酸素濃度計10、温度センサ11による測定を開始する。
【0076】
この時、制御部9には溶存酸素濃度計10、温度センサ11の測定値が一定時間ごとに逐次記憶され、計測槽8内の混合液の溶存酸素濃度が曝気により上昇し安定したところで、攪拌を続けたまま計測槽曝気ブロア13の運転を停止する。ここで、計測槽8内の混合液では汚泥の内部に存在する微生物が酸素を消費するため溶存酸素濃度は一定の勾配で減少し、この勾配を酸素消費速度として算出する。
【0077】
次に、酸素消費速度及び温度の計測を停止し、計測槽8内の混合液を流出口19より曝気槽4に排出する。ここで、曝気槽4に測定後の混合液を排出する位置は処理水への影響を考慮し曝気槽4の最上流部であることが望ましい。
【0078】
上記のようにして酸素消費速度を測定するが、この一連の測定動作を曝気槽4の最上流部から最下流部まで順次に測定していくことにより、曝気槽4内の酸素消費速度の分布が得られる。
【0079】
次に、曝気槽4内の処理状態と酸素消費速度の関係についてさらに詳しく説明する。図2は15℃、25℃、35℃におけるBOD−MLSS負荷と酸素消費速度の関係を示している。図2にあるように、酸素消費速度は負荷の増加に比例して上昇する。また、酸素消費速度は温度にも依存し、図2のように同一の負荷であっても温度により増減する。よって、酸素消費速度から曝気槽4の処理状態を判断するためには、曝気槽4の処理状態と酸素消費速度の関係を明らかにするとともに、温度変化による影響を除外しなければならない。
【0080】
図3は曝気槽4における流下方向の位置と酸素消費速度の関係を示す模式図である。押し出し流れ型の曝気槽4に流入した有機物を含んだ排水は曝気槽4の最上流部で汚泥と混合されるが、ここで、汚泥を構成する微生物は、まず負荷である有機物を急速に体内に取り込む。と同時に、微生物は易分解性の有機物を優先的に分解して多量に酸素を消費するため酸素消費速度は最上流部で最も高い値を示す(図中のA部)。
【0081】
押し出し流れのため混合液は曝気槽4を下流に向かって進みつつ微生物は体内に残存した難分解性の有機物を少しずつ酸素を消費しながら酸化分解していき、酸素消費速度は下流に行くに従い徐々に低下していく。
【0082】
微生物が体内に取り込んだ有機物が全て分解されたとき、微生物は有機物の消費を伴わない生命活動を維持できる最低限度の呼吸、いわゆる内生呼吸状態となり、内生呼吸の酸素消費速度となって安定する。
【0083】
すなわち内生呼吸への遷移が生物処理の完了であり、図3の実線aにあるように内生呼吸への遷移の位置が曝気槽4の最下流部と一致する場合が最も効率が良い処理といえる。
【0084】
もし、図3の点線bのように内生呼吸への遷移の位置が曝気槽4の最下流部より前にあった場合は、内生呼吸への遷移の位置より後ろの位置の汚泥は酸化分解の処理をしていないことになり、この部分の処理は無駄となり、これは負荷に対して曝気槽4の処理が過剰であることを意味している。
【0085】
一方、図3の点線cのように内生呼吸への遷移の位置が曝気槽4の最下流部より後ろ、すなわち曝気槽4内で内生呼吸への遷移の位置に到達しない場合、最下流部でも微生物の体内に有機物が残存している事になり、生物処理が不足していることを示している。
【0086】
もし、処理過剰が進行すると菌体外物質の生産不足による汚泥の沈降性の悪化などが生じる恐れがあり、逆に処理不足が進行しても、菌体内に有機物が残存して蓄積し、微生物の有機物の吸収能力が低下し、いずれにせよ処理水の性状が悪化する。
【0087】
つまり、内生呼吸の酸素消費速度への遷移の位置を特定することにより、曝気槽4の処理状態を判断することができる。
【0088】
ところで、内生呼吸への遷移の位置を特定するには基準となる内生呼吸の酸素消費速度を定義しなければならない。ここで、図3のBで示すように、曝気槽4に流入する負荷が無いとき、すなわち無負荷状態の時は酸素消費速度の分布は水平になる。すなわちこの状態が微生物にとっての内生呼吸の状態である。つまり、測定した複数の酸素消費速度の値を比較して一致する場合は曝気槽4が無負荷状態と判断できる。この無負荷状態のときの一致した酸素消費速度を内生呼吸の酸素消費速度として制御部9に記憶する。そして、この値を基準として用いることにより内生呼吸への遷移の位置を特定することができる。
【0089】
ここで、内生呼吸の酸素消費速度は温度によって変化するため、固定した値を基準として定義した場合、酸素消費速度の分布を測定したときの温度と、基準となる内生呼吸の酸素消費速度を更新したときの温度が異なる場合、正しく内生呼吸の遷移の位置を特定することができない。しかし、無負荷状態となったときの酸素消費速度の値を内生呼吸の酸素消費速度として記憶し、これを基準とすることにより、曝気槽4が無負荷状態となる毎に内生呼吸の酸素消費速度がその時の温度の影響を反映しているため、季節変動などによる温度変化による影響を除外して内生呼吸への遷移の位置を正しく特定することができる。また、酸素消費速度は温度以外にも有害物質の混入や流入負荷の性状など汚泥の活性状態によっても変化するが、上記のように、活性状態の変化を反映した内生呼吸の酸素消費速度を基準とすることにより内生呼吸への遷移の位置を正しく特定することができる。
【0090】
尚、内生呼吸状態とは厳密には微生物が有機物を取り込んだ後、10〜20日以上経過して有機物を完全に消費し、さらに長時間かけて窒素成分等をも完全に消費した状態とされているが、ここでいう内生呼吸とは厳密な意味での内生呼吸状態ではなく、曝気槽が無負荷状態となって大部分の有機物が消費され、酸素消費速度の低下が極めて遅くなり、短期的には一定と判断できる状態として用いている。
【0091】
次に、以上で説明した曝気槽4の状態を判断する方法について具体的に説明する。
【0092】
図4は負荷の有無を判断して内生呼吸の酸素消費速度を記憶するフローチャートである。図4においてR1からR3は計測槽8で測定された曝気槽4における酸素消費速度の測定値を表し、R1が最上流部を、R3が最下流部を表す。Nは現在の内生呼吸の酸素消費速度を表す。Tは酸素消費速度の一致を判断するための許容誤差である。
【0093】
まず、R1、R2およびR3を順次測定する。次にR1とR3の値を比較し、R1−R3≦Tであれば、曝気槽4に流入する負荷が無いと判断する。逆にR1−R3>Tであれば流入する負荷が有る状態と判断できる。ここで、許容誤差Tを設定するのは、実際の測定において測定上の誤差やバラツキより完全に数値が一致して0になることは稀であり、許容誤差を設定することにより、負荷の有無の判断を適切に行うためである。
【0094】
次に負荷が無いと判断された場合は、内生呼吸の酸素消費速度NをR3の値に更新する。無負荷の場合はR1からR3のうち、どの値を採用してもよいことになるが、許容誤差を設定した場合においては、より内生呼吸に近い最下流部のR3を採用することにより適切に内生呼吸の酸素消費速度を選択できる。
【0095】
また、通常の測定においては、無負荷状態になり酸素消費速度が一致した後、無負荷状態が続くとさらに残存した負荷が消費され、R1からR3は一致したまま若干低下して安定する。内生呼吸の酸素消費速度Nは無負荷状態を検知する毎に更新されるので、この若干の低下にも追随して更新され、より正しい内生呼吸の酸素消費速度を決定することができる。
【0096】
また、押し出し流れ型の曝気槽4は前段から後段へと処理が進むのに時間的な遅れがある。例えば、無負荷状態の曝気槽4に負荷が流入したとき、後段にその影響が出るのは数時間遅れる。すなわち、休日などで一度無負荷状態となり稼働日に再び負荷が流入するような場合、最上流部の酸素消費速度が上昇しても、最下流部は逆に減少している場合などが発生することがある。このような場合は、負荷の有無に関係なく最も低い値を内生呼吸の酸素消費速度とすべきであり、本実施の形態では図4にあるように、負荷が有る場合でもR3<Nであれば内生呼吸の酸素消費速度NをR3の値に更新する。
【0097】
ここで、流下方向における3箇所の酸素消費速度及び内生呼吸の酸素消費速度が得られたので、表示部15にこの結果を表示する。表示方法の一例として、図5の(a)ように横軸に経過日時、縦軸に各酸素消費速度の測定値および内生呼吸の酸素消費速度を表示すれば、管理者は内生呼吸の酸素消費速度という基準を目安に、曝気槽4の負荷の有無や内生呼吸の酸素消費速度の変化を視覚的に捉えることができる。また、別の表示方法として、図5(b)のように横軸に曝気槽4の位置をとり、現在の内生呼吸の酸素消費速度と測定時間毎の酸素消費速度の分布を表示することにより、曝気槽4の処理状態をより詳細に把握することもできる。
【0098】
このように、判断の基準を汚泥の活性状態の変化を反映した無負荷状態での酸素消費速度とすることにより、曝気槽の状態を適切に表示することができる。
【0099】
次に、内生呼吸へ遷移する位置を特定することにより曝気槽4の処理状態を判断する方法について具体的に説明する。
【0100】
ここで、図6は曝気槽4の処理状態を判断するためのフローチャートである。図6においてR1からR3は計測槽8で測定された曝気槽4における各酸素消費速度を表し、Nは現在の内生呼吸の酸素消費速度を表す。
【0101】
まず、現在の内生呼吸の酸素消費速度Nと最下流部の酸素消費速度R3を比較して、R3>Nの場合は最下流部の酸素消費速度が内生呼吸の酸素消費速度より大きいことになり、処理が不足していると判断する。
【0102】
R3=Nの場合は、さらにその一つ上流のR2の値とNを比較し、R2=Nの場合は内生呼吸への遷移の位置がR3の位置より前にあることを意味し、処理が過剰と判断する。
【0103】
R2>Nの場合は、内生呼吸への遷移の位置がR3の位置であると判断でき、処理が適正であると判断する。
【0104】
ここでR3<Nより小さいというケースも考えられる。これは汚泥の活性状態が低下したことによる影響と判断でき、R3の値を強制的に内生呼吸の酸素消費速度としてNを更新し、更新したNとR3、R2と比較して内生呼吸への遷移の位置を特定する。
【0105】
次に、判断結果を管理者が曝気槽4の状態を把握できるように表示部15に表示する。処理状態の判断結果の表示方法としては図5で示した酸素消費速度の経時変化を示すグラフや横軸に曝気槽4の位置を示すグラフを表示し、同時に、現在の処理状況を“処理は適正です”、“処理が過剰です”のように文字で表示するとわかりやすい。また、図7に示すように、曝気槽4の絵を表示し、例えば(a)のように処理適正の時は曝気槽4の中の汚泥の色が標準的な汚泥の色を示す黄土色を、処理不足のときは(b)のように黒色に近い色にするなど、その状況によって色や絵を変化させるようにすれば、管理者が曝気槽4の状態をより理解しやすい。
【0106】
このように、曝気槽4の状態をグラフにより視覚的に表示するだけでなく、処理状態の判断まで行って結果を表示することにより、熟練した管理者の判断を支援するだけでなく不慣れな管理者でも曝気槽4の状態を適切に把握することができる。
【0107】
尚、本実施の形態では酸素消費速度を測定して内生呼吸への遷移の位置を特定する方法で説明したが、通常、曝気槽4は汚泥濃度を一定に保つように運転されているのでこの方法で問題は無い。しかし、より正確な検知を行うには計測槽8に汚泥濃度計を設置し、酸素消費速度と同時に汚泥濃度を測定して酸素消費速度を汚泥濃度で除した単位汚泥重量あたりの酸素消費速度、いわゆる酸素利用速度係数(Kr)を用いる方がより正確に内生呼吸への遷移の位置を特定できる。
【0108】
図8は本実施の形態を某食品工場の排水処理施設に適用した時の酸素利用速度係数及び内生呼吸の酸素利用速度係数のおよび曝気槽の水温の経時変化の表示例を示している。このように、排水処理施設の稼動状況に合わせ、酸素利用速度係数が増減していることが視覚的に確認できる。また、この排水処理施設では週に2回非稼働日があり無負荷状態となる。図8のように無負荷状態となる毎に内生呼吸の酸素利用速度係数が更新されており、温度による活性状態の変化を反映していることが確認できる。
【0109】
ところで、酸素消費速度は負荷以外に温度にも依存するため、頻繁に無負荷状態を検知して内生呼吸の酸素消費速度を更新しても、日中の温度変化など酸素消費速度の分布の測定時と内生呼吸の酸素の消費速度を記憶した時点での温度に差異があればその影響をうける。よって、より正確に内生呼吸の酸素消費速度を得るためには記憶されている内生呼吸の酸素消費速度を酸素消費速度の分布を測定した時点の温度で補正する。図9は内生呼吸の酸素消費速度と温度の関係を示している。このように温度と内生呼吸の酸素消費速度は指数関数で近似できる。指数関数を式(1)で表すとする。
【0110】
Rr=Ceat・・・(1)
ここで、Rrは酸素消費速度、tは温度、C,aは係数である。図9に式(1)を適用するとC=0.23、a=0.13となる。係数aは負荷に依存するが、内生呼吸であり同一の排水処理施設の混合液であれば変化しないとすることができる。また、係数Cは活性状態によって変化する。すなわち、あらかじめ対象とする排水処理施設の混合液を採取して温度と酸素消費速度の関係をプロットして係数aを求めておき、無負荷状態を判断して内生呼吸の酸素消費速度を記憶した時の値とその時の温度を(1)式を変形した式(2)に代入し係数Cを算出すれば、式(1)より内生呼吸の酸素消費速度を温度補正することができる。
【0111】
C=lnRr/at・・・(2)
このようにすれば、酸素消費速度の温度による影響を完全に除外することができる。
【0112】
尚、本実施の形態では酸素消費速度の測定位置を最上流部と最下流部を含む3箇所で説明したが、測定箇所数は処理場の設置状況や処理の要求精度、コスト等により決定すればよく、設置箇所が多い方が緻密な制御が行える。
【0113】
以上のように、本実施の形態によれば、判断の基準となる内生呼吸の酸素消費速度が汚泥の活性状態の変化を反映して表示でき、排水処理施設の管理者が曝気槽の処理状態、負荷状態、及び汚泥の活性状態を視覚的に把握できる曝気槽の監視方法が得られる。
【0114】
さらに、曝気槽の状態を判断して結果を表示することにより、不慣れな管理者でも曝気槽の状態を適切に把握することができる曝気槽の監視方法が得られる。
【0115】
このように、本発明の曝気槽の監視方法により排水処理の環境負荷低減・コスト低減の両立を図ることができる。
【0116】
(実施の形態2)
本実施の形態は、実施の形態1と同様の構成で、最上流部の酸素消費速度と記憶している内生呼吸の酸素消費速度の差分から曝気槽4の負荷状態を判断し、その結果を表示するとしたものである。なお、実施の形態1と同様の構成や作用を有するものについては同一符号を付し、その説明を省略する。
【0117】
実施の形態1で説明したように、曝気槽4に流入した有機物は最上流部で微生物の体内に取り込まれると同時に易分解性の有機物が分解され、酸素消費速度は高い値を示す。つまり、曝気槽4の最上流部の酸素消費速度は曝気槽4に流入する負荷の大小を表す指標として用いることができる。ここで、内生呼吸の酸素消費速度は温度や活性状態で変化する為、最上流部の酸素消費速度と内生呼吸の酸素消費速度の差分が、最も適切に曝気槽4の負荷状態を表している。
【0118】
図10は負荷状態を判断するためのフローチャートである。図10においてR1は計測槽8で測定された曝気槽4における最上流部の酸素消費速度を表し、Nは記憶されている現在の内生呼吸の酸素消費速度を表す。Tは実施の形態1で説明した無負荷状態を判断するための許容誤差である。L1〜L3は、あらかじめ処理対象の排水処理施設の汚泥を用い、処理対象の排水を負荷として酸素消費速度を測定して定めた値であり、負荷状態を、無負荷、低負荷、中負荷、高負荷、過負荷の5段階に分類するための閾値である。閾値は任意に決めることができるが、例えば設計時の負荷を中負荷とし、設計値の半分を低負荷、1.2倍の負荷を高負荷、1.5倍を超える場合を過負荷とするように設定する。
【0119】
次に、曝気槽4の負荷状態を判断する具体的方法について説明する。まず図10にあるように、R1−Nを計算し、この結果が各閾値のうちどの範囲に入るか調べていく。すなわち、R1−NがTより小さければ無負荷、TからL1であれば低負荷、というようにR1−Nの値から曝気槽4の負荷状態を判断することができる。次に、判断結果を管理者が曝気槽4の負荷状態を把握しやすいように表示部15に表示する。負荷状態の表示方法としては実施の形態1で示した酸素消費速度の経時変化を示すグラフと同様、図11のようにR1−Nの値を縦軸に示す方法がある。このように、縦軸に各負荷状態の閾値の範囲を表示しておけば、現在の負荷の有無大小や過去の負荷状態が変動した様子をグラフから容易に把握することができる。また、負荷状態に合わせ、例えば無負荷の水色から過負荷の赤色まで段階的に色別に閾値の範囲を表示するようにしておけば、より視覚的に曝気槽4の負荷状態を把握しやすい。
【0120】
以上のように、本実施の形態によれば、温度変化など活性状態の変化の影響を除外して曝気槽の負荷状態を表示できる曝気槽の監視方法を提供することができる。
【0121】
(実施の形態3)
本実施の形態は、実施の形態1と同様の構成で、内生呼吸の酸素消費速度の記憶時の温度を用い、予め測定した温度と内生呼吸の酸素消費速度の関係から曝気槽4の活性状態を判断して結果を表示するとしたものである。なお、実施の形態1と同様の構成や作用を有するものについては同一符号を付し、その説明を省略する。
【0122】
実施の形態1において図9に示したように、混合液の酸素消費速度は温度に依存して変化する。つまり、内生呼吸の酸素消費速度の記憶値のみをプロットすれば温度変化による曝気槽4の活性状態の変化を知ることができる。図12は実施の形態1で説明した実際の排水処理施設での酸素消費速度の測定値のデータから内生呼吸の酸素利用速度係数の時間変化だけを取り出し、プロットしたものである。このように内生呼吸の酸素消費速度を経時的にプロットすることにより管理者は曝気槽4の活性状態の変化について視覚的に把握することができる。
【0123】
ところで、汚泥の活性状態は温度以外に、有害物質の混入や摂取した有機物の性状等によっても変化する。よって、曝気槽4の状態をより適切に管理するうえでは、温度変化による影響を除外した活性状態を判断することが求められる。そこで、本実施の形態では内生呼吸の酸素消費速度と温度の関係を用いて活性状態から温度の影響を除外して判断できるようにする。
【0124】
図13は図9と同様の、内生呼吸状態における温度と酸素消費速度の関係を表すグラフであり、図13の破線が基準となる温度と酸素消費速度の関係である。
【0125】
まず、予め内生呼吸の酸素消費速度と温度の関係を調べ、表示部15に図13のように基準として表示しておくと同時に、これより上側の領域を高活性、下側の領域を低活性と表示しておく。ここで、無負荷状態を判断し、内生呼吸の酸素消費速度と温度を記憶したとき、図13のグラフに測定点をプロットして表示する。ここで、図13aのように基準となる破線上にプロットされた場合は、汚泥の活性状態は基準とした時点から変化していないと判断できる。また、図13のbように破線より上にプロットされる場合は基準時より活性状態が高いと判断できる。逆に、図13のcのように破線より下側にプロットされる場合は基準時より活性が低下していることが判断できる。このようにすれば、管理者は、温度による影響を除外して汚泥の活性状態を容易に判断することができ、活性が高い場合はさらに負荷を増大させることができ、活性が低下している場合は曝気量を増やす、負荷を減らす、活性を向上させる薬剤を注入するなど適切な対応を行うことができる。
【0126】
以上のように、本実施の形態によれば、内生呼吸の酸素消費速度から温度による影響を除外して汚泥の活性状態を判断することができる曝気槽の監視方法を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明による曝気槽の監視方法は、下水処理場、事業所等における有機性排水の処理施設における曝気槽の監視に対して適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】本発明の実施の形態1の曝気槽の監視システムを示すブロック図
【図2】各温度における酸素消費速度と負荷の関係を示すグラフ
【図3】曝気槽内における酸素消費速度の分布を示す模式図
【図4】本発明の実施の形態1の内生呼吸の酸素消費速度を得る方法を示すフローチャート
【図5】本発明の実施の形態1の曝気槽の状態を示すグラフ((a)曝気槽の状態を経過日時と酸素消費速度の関係で示したグラフ、(b)曝気槽の状態を酸素消費速度の分布で示したグラフ)
【図6】本発明の実施の形態1の曝気槽の処理状態を判断する方法を示すフローチャート
【図7】本発明の実施の形態1の曝気槽の処理状態を示したグラフ((a)曝気槽の処理状態が適正な場合を示したグラフ、(b)曝気槽の処理が不足の場合を示したグラフ)
【図8】本発明の実施の形態1を実際の排水処理施設に適用したときの表示の一例を示すグラフ
【図9】内生呼吸の酸素消費速度と温度の関係を示すグラフ
【図10】本発明の実施の形態2の処理を示すフローチャート
【図11】本発明の実施の形態2の曝気槽の負荷状態の表示方法を示すグラフ
【図12】実際の排水処理施設での内生呼吸の酸素利用速度係数の時間変化を示すグラフ
【図13】本発明の実施の形態3の汚泥の活性状態の表示方法を示すグラフ
【符号の説明】
【0129】
2 監視装置
4 曝気槽
8 計測槽
9 制御部
10 溶存酸素濃度計
11 温度センサ
15 表示部
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理施設において、下水道や工場などから排出される有機物を含んだ被処理水である排水を微生物によって酸化分解処理する主要処理工程である曝気槽の監視方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下水処理場や事業所等の排水処理施設での有機性排水処理は、活性汚泥法を用いた微生物の酸化分解処理によりなされている。
【0003】
この処理において、汚泥中の微生物(細菌、原生動物など)は排水中の有機物を生物活動に必要なエネルギー源として体内に取り込んで浄化し、酸素を消費しながら取り込んだ有機物を二酸化炭素と水に分解する。
【0004】
微生物は様々な要因により有機物の分解特性が変化するため、連続かつ安定に処理を行うには適正な曝気槽の運転管理を行う必要がある。
【0005】
排水処理における管理対象の項目としては、溶存酸素濃度(DO)、pH、酸化還元電位、汚泥濃度(MLSS)が代表的であり、これら以外に、水温、流入水量、汚泥沈降率なども測定さる。管理者はこれらの変化を監視しながら適正値になるよう曝気風量や汚泥濃度、流入負荷量、薬剤注入量などを調整し曝気槽を運転管理している。
【0006】
ところで、近年の社会的背景により、排水処理分野において環境負荷低減・コスト低減の両立のさらなる追及が求められており、公共下水処理分野では複数の管理項目を同時に測定して最適な運転条件をモデル計算し、曝気槽を自動管理する高度な計測制御技術や、情報インフラによって遠隔地の処理場を一箇所で集中管理する遠方監視技術の導入が進みつつある。
【0007】
しかし、このような計測制御技術は食品工場などの事業系排水処理分野に適用されている例は少ない。その理由として、事業系排水処理施設ではこのような高度な技術を導入する為のコストが捻出できない為と、公共下水処理に比べ操業状況により流入負荷量の変動差が大きく、上記の計測制御技術をもってしても適用が困難なことである。
【0008】
さらに、事業系の排水処理施設の管理者は長年培ってきたノウハウがあり、過去に開発された計測制御技術が不完全であった経験により、排水処理の自動化に対して抵抗があり、導入が進まない遠因ともなっている。
【0009】
よって、事業系の排水処理施設ではほとんどの処理場において管理者を常時配置して手動により管理しており、常時配置できない場合は安全をみて曝気風量を多めに設定するか、流入負荷を低めに設定して運転効率が低い状況となっている。
【0010】
このような状況に対して、排水処理の完全自動化を行うのではなく、計測と制御を切り離し、まず、管理者が計測したデータを解析して曝気槽内の状態を判断しやすいように視覚化して表示する方法や、さらに曝気槽の状態の判断まで行って管理に不慣れな管理者を支援できる方法など曝気槽の監視技術の高度化が求められている。
【0011】
最も基本的な曝気槽の監視技術は曝気槽の溶存酸素濃度を連続計測して曝気槽の状態を表示する方法である。曝気槽の溶存酸素濃度は、曝気槽への酸素供給速度と曝気槽内の汚泥の酸素消費速度の比を表しており、酸素供給速度が一定であれば、汚泥の酸素消費速度により増減する。
【0012】
また、酸素消費速度は負荷の有無大小により変化し、溶存酸素濃度もこれに合わせて変化するので、連続的に溶存酸素濃度の時間変化を計測することにより曝気槽の負荷状態を視覚的に把握することができる。
【0013】
しかし、このような最も基本的な溶存酸素濃度による曝気槽の監視技術は、曝気槽への酸素供給速度が常に一定であるという仮定に基づいており、この仮定が成り立たないと正しく曝気槽の状態を把握できない。曝気槽の酸素供給能力は総括酸素移動容量係数(KLa)で表されるが、この値は汚泥の濃度や散気管の目詰まり等の影響により変化し一定ではない。また、測定もかなりの手間と労力を要するため、曝気槽が稼動中に総括酸素移動容量係数を計測して補正することは困難である。
【0014】
そこで、溶存酸素濃度を用いた曝気槽の監視方法に対し、汚泥の酸素消費速度(Rr)を直接測定する方法が提案されている。この方法は、汚泥の酸素消費速度と負荷量に相関があることを利用しており、酸素消費速度の計測値から負荷量を推定して表示するものである。この方法によれば総括酸素移動容量係数の変動の影響を除外して、曝気槽に流入する負荷の変化を得ることができる。
【0015】
しかし、この方法では酸素消費速度の良否を判断する基準が明確でない為、相対的な負荷の大小を知るに留まり、曝気槽の状態を判断することまではできない。そこで、酸素消費速度から曝気槽の状態を判断する方法として、流下方向に沿って複数箇所の酸素消費速度から曝気槽の処理状態を判断して表示する曝気槽の監視方法が提案されている(例えば特許文献1、2参照)。
【0016】
この方法では、負荷が連続的に流入、流出する押し出し流れ型の活性汚泥法において、酸素消費速度は上流から下流にかけて減少していく分布を示すことを利用し、曝気槽における流下方向の酸素消費速度の分布を測定し、予め設定した標準の酸素消費速度の分布と計測した酸素消費速度の分布を表示して比較することにより曝気槽の状態の良否を判断するものである。
【特許文献1】特開昭61−8662号公報
【特許文献2】特開昭63−156596号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、上記従来の特許文献1及び2に記載の方法は、あらかじめ設定した標準の酸素消費速度の分布との比較という方法で曝気槽の状態を表示し、かつ判断するものであるが、汚泥の酸素消費速度は負荷以外にも季節変動による温度変化や流入負荷の性状により活性状態が変化するため標準の酸素消費速度の分布自体も変動して一義的に定義できるものではないため、判断の基準が信頼できず曝気槽の状態を正しく表示かつ判断できないという課題があった。
【0018】
そこで本発明は、判断の基準となる内生呼吸の酸素消費速度を、汚泥の活性状態の変化を反映した無負荷状態の酸素消費速度として表示することにより、排水処理施設の管理者が曝気槽の処理状態、負荷状態、及び汚泥の活性状態の変化等を視覚的に把握できる曝気槽の監視方法を実現することを目的とする。
【0019】
さらに、曝気槽の状態を判断して表示することにより、不慣れな管理者でも曝気槽の状態を適切に把握することができる曝気槽の監視方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は上記目的を達成するため、曝気槽の流下方向に沿って、複数箇所の汚泥と排水の混合液の酸素消費速度を測定し、測定した複数の酸素消費速度が一致した場合を無負荷状態と判断し、その無負荷状態と判断した酸素消費速度の値を内生呼吸の酸素消費速度として記憶し、この記憶した内生呼吸の酸素消費速度と、前記測定した複数箇所の酸素消費速度を外部に表示するものである。
【0021】
また、曝気槽の流下方向に沿って、複数箇所の汚泥と排水の混合液の酸素消費速度を測定し、測定した複数の酸素消費速度が一致した場合を無負荷状態と判断し、その無負荷状態と判断した酸素消費速度の値を内生呼吸の酸素消費速度として記憶し、この記憶した内生呼吸の酸素消費速度と複数箇所で測定した酸素消費速度から曝気槽の状態を判断して外部に表示するものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、判断の基準となる内生呼吸の酸素消費速度を、汚泥の活性状態の変化を反映した無負荷状態の酸素消費速度として表示することにより、排水処理施設の管理者が曝気槽の処理状態、負荷状態、及び汚泥の活性状態の変化等を視覚的に把握できる曝気槽の監視方法が得られる。
【0023】
さらに、汚泥の活性状態の変化を反映した基準により曝気槽の状態を判断して表示でき、不慣れな管理者でも曝気槽の状態を適切に把握することができる曝気槽の監視方法が得られる。
【0024】
このように、本発明の曝気槽の監視方法により排水処理施設の環境負荷低減・コスト低減の両立を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の第1の実施の形態による曝気槽の監視方法は、曝気槽の流下方向に沿って、複数箇所の汚泥と排水の混合液の酸素消費速度を測定し、測定した複数の酸素消費速度が一致した場合を無負荷状態と判断し、その無負荷状態と判断した酸素消費速度の値を内生呼吸の酸素消費速度として記憶し、この記憶した内生呼吸の酸素消費速度と、前記測定した複数箇所の酸素消費速度を外部に表示するものである。
【0026】
本実施の形態によれば、判断の基準を汚泥の活性状態の変化を反映した無負荷状態での酸素消費速度とすることにより、曝気槽の状態を適切に表示することができる。
【0027】
本発明の第2の実施の形態は、曝気槽の流下方向に沿って、複数箇所の汚泥と排水の混合液の酸素消費速度を測定し、測定した複数の酸素消費速度が一致した場合を無負荷状態と判断し、その無負荷状態と判断した酸素消費速度の値を内生呼吸の酸素消費速度として記憶し、この記憶した内生呼吸の酸素消費速度と複数箇所で測定した酸素消費速度から曝気槽の状態を判断して外部に表示するものである。
【0028】
本実施の形態によれば、曝気槽の状態の判断結果が表示されるため、見ただけで曝気槽の状態を適切に把握することができる。
【0029】
本発明の第3の実施の形態は、測定した酸素消費速度の値が記憶している内生呼吸の酸素消費速度の値より低いとき、測定した酸素消費速度の値を内生呼吸の酸素消費速度として更新するものである。
【0030】
本実施の形態によれば、無負荷状態にもかかわらず汚泥の内部に負荷が残存している場合であっても内生呼吸の酸素消費速度を正しく得るができる。
【0031】
本発明の第4の実施の形態は、内生呼吸の酸素消費速度は、無負荷状態と判断した場合の複数箇所の酸素消費速度のうち曝気槽の流下方向に沿って最下流部の酸素消費速度とするものである。
【0032】
本実施の形態によれば、複数箇所の内生呼吸の酸素消費速度の一致を判断する場合において、許容誤差を設定しても内生呼吸の酸素消費速度を正しく選択することができる。
【0033】
本発明の第5の実施の形態は、曝気槽の状態は、記憶している内生呼吸の酸素消費速度と複数箇所の酸素消費速度を比較して内生呼吸への遷移の位置を特定し、この位置により曝気槽の処理状態を判断して表示するものである。
【0034】
本実施の形態によれば、曝気槽の処理状態が適正か、過剰か、不足なのか判断することができる。
【0035】
本発明の第6の実施の形態は、内生呼吸への遷移の位置は、内生呼吸の酸素消費速度と酸素消費速度の値が一致する最上流部の位置とするものである。
【0036】
本実施の形態によれば、内生呼吸への遷移の位置を特定することができる。
【0037】
本発明の第7実施の形態は、曝気槽の状態は、最上流部の酸素消費速度と記憶している内生呼吸の酸素消費速度の差分により曝気槽に流入している負荷状態を判断して表示するものである。
【0038】
本実施の形態によれば、曝気槽の負荷の有無大小を視覚的に判断することができる。
【0039】
本発明の第8の実施の形態は、曝気槽の状態は、内生呼吸の酸素消費速度の記憶時に温度を測定し、予め測定した温度と内生呼吸の酸素消費速度の関係から汚泥の活性状態を判断して表示するものである。
【0040】
本実施の形態によれば、温度変化の影響を除外して汚泥の活性状態を判断することができる。
【0041】
本発明の第9の実施の形態は、曝気槽の状態を文字で表示するものである。
【0042】
本実施の形態によれば、施設の管理者が曝気槽の状態が適正かどうか容易に確認することができる。
【0043】
本発明の第10の実施の形態は、曝気槽の状態を図で表示するものである。
【0044】
本実施の形態によれば、施設の管理者が曝気槽の状態が適正かどうか容易に確認することができる。
【0045】
本発明の第11の実施の形態は、酸素消費速度と同時に温度を測定し、予め測定した温度と酸素消費速度の関係式から内生呼吸の酸素消費速度を補正するものである。
【0046】
本実施の形態によれば、酸素消費速度の温度変化による影響を除外して、より正確に内生呼吸の酸素消費速度を得ることができる。
【0047】
本発明の第12の実施の形態は、酸素消費速度と同時にMLSSを測定して酸素利用速度係数を算出し、酸素利用速度係数を酸素消費速度の代わりに用いて行うものである。
【0048】
本実施の形態によれば、汚泥の濃度変化による酸素消費速度の影響を除去でき、より正確に曝気槽の内生呼吸への遷移の位置を特定することができる。
【0049】
以下、本発明による曝気槽の監視方法について、図面を参照して説明する。
【0050】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態における曝気槽の監視方法の一例を示すシステム図で、監視対象となる排水処理系1と監視装置2を示している。
【0051】
排水処理系1は排水を貯留する調整槽3と、有機物を汚泥と混合した混合液を曝気することにより微生物によって酸化・分解する曝気槽4と、曝気槽4で処理された混合液を重力によって汚泥と処理水とに分離する沈殿槽5で構成されている。
【0052】
ここで、矢印の方向は排水の流れを表している。
【0053】
処理対象の排水が流入する調整槽3は押し出し流れ型の曝気槽4に接続されている。
【0054】
曝気槽4の底部には有酸素気泡が発生する散気管6が流下方向に沿って複数配置されており、各散気管6は曝気槽4の外部に接続された曝気ブロア7と空気配管によって接続されている。
【0055】
また、曝気槽4の最下流部は沈殿槽5と接続されている。
【0056】
沈殿槽5は処理系外へと接続されると共に、沈殿槽5の下部は曝気槽4の上流部に汚泥返送配管(図示せず)で接続されている。
【0057】
次に監視装置2について説明する。監視装置2は曝気槽4に近接して設置されており、内部に計測槽8と制御部9を有している。
【0058】
計測槽8内には溶存酸素濃度計10、温度センサ11が配置されており、それぞれの測定信号線(図中、破線)が制御部9に接続されている。
【0059】
計測槽8の底部には計測槽散気管12が配置されており、計測槽散気管12は計測槽8の外部に設置された計測槽曝気ブロア13と空気配管によって接続されている。
【0060】
また、計測槽8には混合液を攪拌する攪拌機14が配置されている。また、計測槽曝気ブロア13は制御部9と電気的に接続されている。また、表示部15が制御部9と電気的に接続されている。
【0061】
また、曝気槽4には混合液採取ポンプ16が流下方向に沿って最上流部と最下流部を含む複数箇所(ここでは3箇所)に配置されおり、各混合液採取ポンプ16は混合液採取弁17を介して計測槽8の流入口18と接続されている。
【0062】
また、計測槽8の底部には流出口19があり、流出口19は液体配管によって曝気槽4の最上流部と接続されている。
【0063】
制御部9は計測槽曝気ブロア13、混合液採取ポンプ16、混合液採取弁17および攪拌機14と電気的に接続されており、制御部9から各機器を動作できるようになっている。
【0064】
また、特に図示していないが流出口19の下方には排出用の弁があり制御部9から開閉できるようになっている。
【0065】
尚、図1において、説明上混合液採取ポンプ16、混合液採取弁17の信号線は1本で表示してあるが、全て制御部9から各機器を個別に動作できるようになっている。
【0066】
次に、本実施の形態の処理動作について説明する。
【0067】
被処理対象の有機物を含んだ排水は調整槽3に流入して一旦貯留され、ここである程度の負荷の変動は平均化されほぼ一定の流量となって曝気槽4へと送られる。
【0068】
曝気槽4では排水と汚泥が混合され混合液となると共に曝気ブロア7から空気が散気管6を介して送り込まれ、散気管6から発生した有酸素気泡は曝気槽4の内部の混合液中を浮力により上昇しながら酸素を混合液中に供給すると共に混合液を攪拌する。
【0069】
曝気槽4の内部では、汚泥を構成している微生物が酸素を消費しながら有機物を体内に取り込み、続いて有機物を酸化分解して二酸化炭素と水に分解する。
【0070】
曝気槽4は流入位置から流出位置までの距離がある押し出し流れ型であり、微生物による有機物の酸化分解は曝気槽4の最上流部から最下流部に流れるに従い進行し、最下流部から流出した混合液は沈殿槽5へと送り込まれる。
【0071】
沈殿槽5に送り込まれた混合液は静置され、重力により下層の汚泥と上層の上澄み液に分離され、上澄み液は浄化された処理水として系外へ放流される。
【0072】
下層の汚泥の一部は返送汚泥として曝気槽4の最上流部へ戻され生物処理に再利用される。
【0073】
尚、特に図示していないが、残りの汚泥は余剰汚泥として処理系外へと排出されて別途処理される。
【0074】
以上が排水処理の基本的な流れである。次に、計測槽8において酸素消費速度(Rr)を測定する動作について説明する。まず、混合液採取ポンプ16のうち任意の一つを動作させ、そのポンプに対応した混合液採取弁17を開いて、その近傍の混合液を流入口18から計測槽8へ流入させる。
【0075】
混合液は計測槽8に一定量貯留され、次いで計測槽曝気ブロア13を作動させ計測槽散気管12より有酸素気泡が計測槽8内に送り込まれると同時に攪拌機14を作動させ、計測槽8内の混合液を攪拌し、溶存酸素濃度計10、温度センサ11による測定を開始する。
【0076】
この時、制御部9には溶存酸素濃度計10、温度センサ11の測定値が一定時間ごとに逐次記憶され、計測槽8内の混合液の溶存酸素濃度が曝気により上昇し安定したところで、攪拌を続けたまま計測槽曝気ブロア13の運転を停止する。ここで、計測槽8内の混合液では汚泥の内部に存在する微生物が酸素を消費するため溶存酸素濃度は一定の勾配で減少し、この勾配を酸素消費速度として算出する。
【0077】
次に、酸素消費速度及び温度の計測を停止し、計測槽8内の混合液を流出口19より曝気槽4に排出する。ここで、曝気槽4に測定後の混合液を排出する位置は処理水への影響を考慮し曝気槽4の最上流部であることが望ましい。
【0078】
上記のようにして酸素消費速度を測定するが、この一連の測定動作を曝気槽4の最上流部から最下流部まで順次に測定していくことにより、曝気槽4内の酸素消費速度の分布が得られる。
【0079】
次に、曝気槽4内の処理状態と酸素消費速度の関係についてさらに詳しく説明する。図2は15℃、25℃、35℃におけるBOD−MLSS負荷と酸素消費速度の関係を示している。図2にあるように、酸素消費速度は負荷の増加に比例して上昇する。また、酸素消費速度は温度にも依存し、図2のように同一の負荷であっても温度により増減する。よって、酸素消費速度から曝気槽4の処理状態を判断するためには、曝気槽4の処理状態と酸素消費速度の関係を明らかにするとともに、温度変化による影響を除外しなければならない。
【0080】
図3は曝気槽4における流下方向の位置と酸素消費速度の関係を示す模式図である。押し出し流れ型の曝気槽4に流入した有機物を含んだ排水は曝気槽4の最上流部で汚泥と混合されるが、ここで、汚泥を構成する微生物は、まず負荷である有機物を急速に体内に取り込む。と同時に、微生物は易分解性の有機物を優先的に分解して多量に酸素を消費するため酸素消費速度は最上流部で最も高い値を示す(図中のA部)。
【0081】
押し出し流れのため混合液は曝気槽4を下流に向かって進みつつ微生物は体内に残存した難分解性の有機物を少しずつ酸素を消費しながら酸化分解していき、酸素消費速度は下流に行くに従い徐々に低下していく。
【0082】
微生物が体内に取り込んだ有機物が全て分解されたとき、微生物は有機物の消費を伴わない生命活動を維持できる最低限度の呼吸、いわゆる内生呼吸状態となり、内生呼吸の酸素消費速度となって安定する。
【0083】
すなわち内生呼吸への遷移が生物処理の完了であり、図3の実線aにあるように内生呼吸への遷移の位置が曝気槽4の最下流部と一致する場合が最も効率が良い処理といえる。
【0084】
もし、図3の点線bのように内生呼吸への遷移の位置が曝気槽4の最下流部より前にあった場合は、内生呼吸への遷移の位置より後ろの位置の汚泥は酸化分解の処理をしていないことになり、この部分の処理は無駄となり、これは負荷に対して曝気槽4の処理が過剰であることを意味している。
【0085】
一方、図3の点線cのように内生呼吸への遷移の位置が曝気槽4の最下流部より後ろ、すなわち曝気槽4内で内生呼吸への遷移の位置に到達しない場合、最下流部でも微生物の体内に有機物が残存している事になり、生物処理が不足していることを示している。
【0086】
もし、処理過剰が進行すると菌体外物質の生産不足による汚泥の沈降性の悪化などが生じる恐れがあり、逆に処理不足が進行しても、菌体内に有機物が残存して蓄積し、微生物の有機物の吸収能力が低下し、いずれにせよ処理水の性状が悪化する。
【0087】
つまり、内生呼吸の酸素消費速度への遷移の位置を特定することにより、曝気槽4の処理状態を判断することができる。
【0088】
ところで、内生呼吸への遷移の位置を特定するには基準となる内生呼吸の酸素消費速度を定義しなければならない。ここで、図3のBで示すように、曝気槽4に流入する負荷が無いとき、すなわち無負荷状態の時は酸素消費速度の分布は水平になる。すなわちこの状態が微生物にとっての内生呼吸の状態である。つまり、測定した複数の酸素消費速度の値を比較して一致する場合は曝気槽4が無負荷状態と判断できる。この無負荷状態のときの一致した酸素消費速度を内生呼吸の酸素消費速度として制御部9に記憶する。そして、この値を基準として用いることにより内生呼吸への遷移の位置を特定することができる。
【0089】
ここで、内生呼吸の酸素消費速度は温度によって変化するため、固定した値を基準として定義した場合、酸素消費速度の分布を測定したときの温度と、基準となる内生呼吸の酸素消費速度を更新したときの温度が異なる場合、正しく内生呼吸の遷移の位置を特定することができない。しかし、無負荷状態となったときの酸素消費速度の値を内生呼吸の酸素消費速度として記憶し、これを基準とすることにより、曝気槽4が無負荷状態となる毎に内生呼吸の酸素消費速度がその時の温度の影響を反映しているため、季節変動などによる温度変化による影響を除外して内生呼吸への遷移の位置を正しく特定することができる。また、酸素消費速度は温度以外にも有害物質の混入や流入負荷の性状など汚泥の活性状態によっても変化するが、上記のように、活性状態の変化を反映した内生呼吸の酸素消費速度を基準とすることにより内生呼吸への遷移の位置を正しく特定することができる。
【0090】
尚、内生呼吸状態とは厳密には微生物が有機物を取り込んだ後、10〜20日以上経過して有機物を完全に消費し、さらに長時間かけて窒素成分等をも完全に消費した状態とされているが、ここでいう内生呼吸とは厳密な意味での内生呼吸状態ではなく、曝気槽が無負荷状態となって大部分の有機物が消費され、酸素消費速度の低下が極めて遅くなり、短期的には一定と判断できる状態として用いている。
【0091】
次に、以上で説明した曝気槽4の状態を判断する方法について具体的に説明する。
【0092】
図4は負荷の有無を判断して内生呼吸の酸素消費速度を記憶するフローチャートである。図4においてR1からR3は計測槽8で測定された曝気槽4における酸素消費速度の測定値を表し、R1が最上流部を、R3が最下流部を表す。Nは現在の内生呼吸の酸素消費速度を表す。Tは酸素消費速度の一致を判断するための許容誤差である。
【0093】
まず、R1、R2およびR3を順次測定する。次にR1とR3の値を比較し、R1−R3≦Tであれば、曝気槽4に流入する負荷が無いと判断する。逆にR1−R3>Tであれば流入する負荷が有る状態と判断できる。ここで、許容誤差Tを設定するのは、実際の測定において測定上の誤差やバラツキより完全に数値が一致して0になることは稀であり、許容誤差を設定することにより、負荷の有無の判断を適切に行うためである。
【0094】
次に負荷が無いと判断された場合は、内生呼吸の酸素消費速度NをR3の値に更新する。無負荷の場合はR1からR3のうち、どの値を採用してもよいことになるが、許容誤差を設定した場合においては、より内生呼吸に近い最下流部のR3を採用することにより適切に内生呼吸の酸素消費速度を選択できる。
【0095】
また、通常の測定においては、無負荷状態になり酸素消費速度が一致した後、無負荷状態が続くとさらに残存した負荷が消費され、R1からR3は一致したまま若干低下して安定する。内生呼吸の酸素消費速度Nは無負荷状態を検知する毎に更新されるので、この若干の低下にも追随して更新され、より正しい内生呼吸の酸素消費速度を決定することができる。
【0096】
また、押し出し流れ型の曝気槽4は前段から後段へと処理が進むのに時間的な遅れがある。例えば、無負荷状態の曝気槽4に負荷が流入したとき、後段にその影響が出るのは数時間遅れる。すなわち、休日などで一度無負荷状態となり稼働日に再び負荷が流入するような場合、最上流部の酸素消費速度が上昇しても、最下流部は逆に減少している場合などが発生することがある。このような場合は、負荷の有無に関係なく最も低い値を内生呼吸の酸素消費速度とすべきであり、本実施の形態では図4にあるように、負荷が有る場合でもR3<Nであれば内生呼吸の酸素消費速度NをR3の値に更新する。
【0097】
ここで、流下方向における3箇所の酸素消費速度及び内生呼吸の酸素消費速度が得られたので、表示部15にこの結果を表示する。表示方法の一例として、図5の(a)ように横軸に経過日時、縦軸に各酸素消費速度の測定値および内生呼吸の酸素消費速度を表示すれば、管理者は内生呼吸の酸素消費速度という基準を目安に、曝気槽4の負荷の有無や内生呼吸の酸素消費速度の変化を視覚的に捉えることができる。また、別の表示方法として、図5(b)のように横軸に曝気槽4の位置をとり、現在の内生呼吸の酸素消費速度と測定時間毎の酸素消費速度の分布を表示することにより、曝気槽4の処理状態をより詳細に把握することもできる。
【0098】
このように、判断の基準を汚泥の活性状態の変化を反映した無負荷状態での酸素消費速度とすることにより、曝気槽の状態を適切に表示することができる。
【0099】
次に、内生呼吸へ遷移する位置を特定することにより曝気槽4の処理状態を判断する方法について具体的に説明する。
【0100】
ここで、図6は曝気槽4の処理状態を判断するためのフローチャートである。図6においてR1からR3は計測槽8で測定された曝気槽4における各酸素消費速度を表し、Nは現在の内生呼吸の酸素消費速度を表す。
【0101】
まず、現在の内生呼吸の酸素消費速度Nと最下流部の酸素消費速度R3を比較して、R3>Nの場合は最下流部の酸素消費速度が内生呼吸の酸素消費速度より大きいことになり、処理が不足していると判断する。
【0102】
R3=Nの場合は、さらにその一つ上流のR2の値とNを比較し、R2=Nの場合は内生呼吸への遷移の位置がR3の位置より前にあることを意味し、処理が過剰と判断する。
【0103】
R2>Nの場合は、内生呼吸への遷移の位置がR3の位置であると判断でき、処理が適正であると判断する。
【0104】
ここでR3<Nより小さいというケースも考えられる。これは汚泥の活性状態が低下したことによる影響と判断でき、R3の値を強制的に内生呼吸の酸素消費速度としてNを更新し、更新したNとR3、R2と比較して内生呼吸への遷移の位置を特定する。
【0105】
次に、判断結果を管理者が曝気槽4の状態を把握できるように表示部15に表示する。処理状態の判断結果の表示方法としては図5で示した酸素消費速度の経時変化を示すグラフや横軸に曝気槽4の位置を示すグラフを表示し、同時に、現在の処理状況を“処理は適正です”、“処理が過剰です”のように文字で表示するとわかりやすい。また、図7に示すように、曝気槽4の絵を表示し、例えば(a)のように処理適正の時は曝気槽4の中の汚泥の色が標準的な汚泥の色を示す黄土色を、処理不足のときは(b)のように黒色に近い色にするなど、その状況によって色や絵を変化させるようにすれば、管理者が曝気槽4の状態をより理解しやすい。
【0106】
このように、曝気槽4の状態をグラフにより視覚的に表示するだけでなく、処理状態の判断まで行って結果を表示することにより、熟練した管理者の判断を支援するだけでなく不慣れな管理者でも曝気槽4の状態を適切に把握することができる。
【0107】
尚、本実施の形態では酸素消費速度を測定して内生呼吸への遷移の位置を特定する方法で説明したが、通常、曝気槽4は汚泥濃度を一定に保つように運転されているのでこの方法で問題は無い。しかし、より正確な検知を行うには計測槽8に汚泥濃度計を設置し、酸素消費速度と同時に汚泥濃度を測定して酸素消費速度を汚泥濃度で除した単位汚泥重量あたりの酸素消費速度、いわゆる酸素利用速度係数(Kr)を用いる方がより正確に内生呼吸への遷移の位置を特定できる。
【0108】
図8は本実施の形態を某食品工場の排水処理施設に適用した時の酸素利用速度係数及び内生呼吸の酸素利用速度係数のおよび曝気槽の水温の経時変化の表示例を示している。このように、排水処理施設の稼動状況に合わせ、酸素利用速度係数が増減していることが視覚的に確認できる。また、この排水処理施設では週に2回非稼働日があり無負荷状態となる。図8のように無負荷状態となる毎に内生呼吸の酸素利用速度係数が更新されており、温度による活性状態の変化を反映していることが確認できる。
【0109】
ところで、酸素消費速度は負荷以外に温度にも依存するため、頻繁に無負荷状態を検知して内生呼吸の酸素消費速度を更新しても、日中の温度変化など酸素消費速度の分布の測定時と内生呼吸の酸素の消費速度を記憶した時点での温度に差異があればその影響をうける。よって、より正確に内生呼吸の酸素消費速度を得るためには記憶されている内生呼吸の酸素消費速度を酸素消費速度の分布を測定した時点の温度で補正する。図9は内生呼吸の酸素消費速度と温度の関係を示している。このように温度と内生呼吸の酸素消費速度は指数関数で近似できる。指数関数を式(1)で表すとする。
【0110】
Rr=Ceat・・・(1)
ここで、Rrは酸素消費速度、tは温度、C,aは係数である。図9に式(1)を適用するとC=0.23、a=0.13となる。係数aは負荷に依存するが、内生呼吸であり同一の排水処理施設の混合液であれば変化しないとすることができる。また、係数Cは活性状態によって変化する。すなわち、あらかじめ対象とする排水処理施設の混合液を採取して温度と酸素消費速度の関係をプロットして係数aを求めておき、無負荷状態を判断して内生呼吸の酸素消費速度を記憶した時の値とその時の温度を(1)式を変形した式(2)に代入し係数Cを算出すれば、式(1)より内生呼吸の酸素消費速度を温度補正することができる。
【0111】
C=lnRr/at・・・(2)
このようにすれば、酸素消費速度の温度による影響を完全に除外することができる。
【0112】
尚、本実施の形態では酸素消費速度の測定位置を最上流部と最下流部を含む3箇所で説明したが、測定箇所数は処理場の設置状況や処理の要求精度、コスト等により決定すればよく、設置箇所が多い方が緻密な制御が行える。
【0113】
以上のように、本実施の形態によれば、判断の基準となる内生呼吸の酸素消費速度が汚泥の活性状態の変化を反映して表示でき、排水処理施設の管理者が曝気槽の処理状態、負荷状態、及び汚泥の活性状態を視覚的に把握できる曝気槽の監視方法が得られる。
【0114】
さらに、曝気槽の状態を判断して結果を表示することにより、不慣れな管理者でも曝気槽の状態を適切に把握することができる曝気槽の監視方法が得られる。
【0115】
このように、本発明の曝気槽の監視方法により排水処理の環境負荷低減・コスト低減の両立を図ることができる。
【0116】
(実施の形態2)
本実施の形態は、実施の形態1と同様の構成で、最上流部の酸素消費速度と記憶している内生呼吸の酸素消費速度の差分から曝気槽4の負荷状態を判断し、その結果を表示するとしたものである。なお、実施の形態1と同様の構成や作用を有するものについては同一符号を付し、その説明を省略する。
【0117】
実施の形態1で説明したように、曝気槽4に流入した有機物は最上流部で微生物の体内に取り込まれると同時に易分解性の有機物が分解され、酸素消費速度は高い値を示す。つまり、曝気槽4の最上流部の酸素消費速度は曝気槽4に流入する負荷の大小を表す指標として用いることができる。ここで、内生呼吸の酸素消費速度は温度や活性状態で変化する為、最上流部の酸素消費速度と内生呼吸の酸素消費速度の差分が、最も適切に曝気槽4の負荷状態を表している。
【0118】
図10は負荷状態を判断するためのフローチャートである。図10においてR1は計測槽8で測定された曝気槽4における最上流部の酸素消費速度を表し、Nは記憶されている現在の内生呼吸の酸素消費速度を表す。Tは実施の形態1で説明した無負荷状態を判断するための許容誤差である。L1〜L3は、あらかじめ処理対象の排水処理施設の汚泥を用い、処理対象の排水を負荷として酸素消費速度を測定して定めた値であり、負荷状態を、無負荷、低負荷、中負荷、高負荷、過負荷の5段階に分類するための閾値である。閾値は任意に決めることができるが、例えば設計時の負荷を中負荷とし、設計値の半分を低負荷、1.2倍の負荷を高負荷、1.5倍を超える場合を過負荷とするように設定する。
【0119】
次に、曝気槽4の負荷状態を判断する具体的方法について説明する。まず図10にあるように、R1−Nを計算し、この結果が各閾値のうちどの範囲に入るか調べていく。すなわち、R1−NがTより小さければ無負荷、TからL1であれば低負荷、というようにR1−Nの値から曝気槽4の負荷状態を判断することができる。次に、判断結果を管理者が曝気槽4の負荷状態を把握しやすいように表示部15に表示する。負荷状態の表示方法としては実施の形態1で示した酸素消費速度の経時変化を示すグラフと同様、図11のようにR1−Nの値を縦軸に示す方法がある。このように、縦軸に各負荷状態の閾値の範囲を表示しておけば、現在の負荷の有無大小や過去の負荷状態が変動した様子をグラフから容易に把握することができる。また、負荷状態に合わせ、例えば無負荷の水色から過負荷の赤色まで段階的に色別に閾値の範囲を表示するようにしておけば、より視覚的に曝気槽4の負荷状態を把握しやすい。
【0120】
以上のように、本実施の形態によれば、温度変化など活性状態の変化の影響を除外して曝気槽の負荷状態を表示できる曝気槽の監視方法を提供することができる。
【0121】
(実施の形態3)
本実施の形態は、実施の形態1と同様の構成で、内生呼吸の酸素消費速度の記憶時の温度を用い、予め測定した温度と内生呼吸の酸素消費速度の関係から曝気槽4の活性状態を判断して結果を表示するとしたものである。なお、実施の形態1と同様の構成や作用を有するものについては同一符号を付し、その説明を省略する。
【0122】
実施の形態1において図9に示したように、混合液の酸素消費速度は温度に依存して変化する。つまり、内生呼吸の酸素消費速度の記憶値のみをプロットすれば温度変化による曝気槽4の活性状態の変化を知ることができる。図12は実施の形態1で説明した実際の排水処理施設での酸素消費速度の測定値のデータから内生呼吸の酸素利用速度係数の時間変化だけを取り出し、プロットしたものである。このように内生呼吸の酸素消費速度を経時的にプロットすることにより管理者は曝気槽4の活性状態の変化について視覚的に把握することができる。
【0123】
ところで、汚泥の活性状態は温度以外に、有害物質の混入や摂取した有機物の性状等によっても変化する。よって、曝気槽4の状態をより適切に管理するうえでは、温度変化による影響を除外した活性状態を判断することが求められる。そこで、本実施の形態では内生呼吸の酸素消費速度と温度の関係を用いて活性状態から温度の影響を除外して判断できるようにする。
【0124】
図13は図9と同様の、内生呼吸状態における温度と酸素消費速度の関係を表すグラフであり、図13の破線が基準となる温度と酸素消費速度の関係である。
【0125】
まず、予め内生呼吸の酸素消費速度と温度の関係を調べ、表示部15に図13のように基準として表示しておくと同時に、これより上側の領域を高活性、下側の領域を低活性と表示しておく。ここで、無負荷状態を判断し、内生呼吸の酸素消費速度と温度を記憶したとき、図13のグラフに測定点をプロットして表示する。ここで、図13aのように基準となる破線上にプロットされた場合は、汚泥の活性状態は基準とした時点から変化していないと判断できる。また、図13のbように破線より上にプロットされる場合は基準時より活性状態が高いと判断できる。逆に、図13のcのように破線より下側にプロットされる場合は基準時より活性が低下していることが判断できる。このようにすれば、管理者は、温度による影響を除外して汚泥の活性状態を容易に判断することができ、活性が高い場合はさらに負荷を増大させることができ、活性が低下している場合は曝気量を増やす、負荷を減らす、活性を向上させる薬剤を注入するなど適切な対応を行うことができる。
【0126】
以上のように、本実施の形態によれば、内生呼吸の酸素消費速度から温度による影響を除外して汚泥の活性状態を判断することができる曝気槽の監視方法を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明による曝気槽の監視方法は、下水処理場、事業所等における有機性排水の処理施設における曝気槽の監視に対して適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】本発明の実施の形態1の曝気槽の監視システムを示すブロック図
【図2】各温度における酸素消費速度と負荷の関係を示すグラフ
【図3】曝気槽内における酸素消費速度の分布を示す模式図
【図4】本発明の実施の形態1の内生呼吸の酸素消費速度を得る方法を示すフローチャート
【図5】本発明の実施の形態1の曝気槽の状態を示すグラフ((a)曝気槽の状態を経過日時と酸素消費速度の関係で示したグラフ、(b)曝気槽の状態を酸素消費速度の分布で示したグラフ)
【図6】本発明の実施の形態1の曝気槽の処理状態を判断する方法を示すフローチャート
【図7】本発明の実施の形態1の曝気槽の処理状態を示したグラフ((a)曝気槽の処理状態が適正な場合を示したグラフ、(b)曝気槽の処理が不足の場合を示したグラフ)
【図8】本発明の実施の形態1を実際の排水処理施設に適用したときの表示の一例を示すグラフ
【図9】内生呼吸の酸素消費速度と温度の関係を示すグラフ
【図10】本発明の実施の形態2の処理を示すフローチャート
【図11】本発明の実施の形態2の曝気槽の負荷状態の表示方法を示すグラフ
【図12】実際の排水処理施設での内生呼吸の酸素利用速度係数の時間変化を示すグラフ
【図13】本発明の実施の形態3の汚泥の活性状態の表示方法を示すグラフ
【符号の説明】
【0129】
2 監視装置
4 曝気槽
8 計測槽
9 制御部
10 溶存酸素濃度計
11 温度センサ
15 表示部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
曝気槽の流下方向に沿って、複数箇所の汚泥酸素消費速度を測定し、測定した複数の酸素消費速度が一致した場合を無負荷状態と判断し、その無負荷状態と判断した酸素消費速度の値を内生呼吸の酸素消費速度として記憶し、この記憶した内生呼吸の酸素消費速度と、前記測定した複数箇所の酸素消費速度を外部に表示する曝気槽の監視方法。
【請求項2】
曝気槽の流下方向に沿って、複数箇所の汚泥の酸素消費速度を測定し、測定した複数の酸素消費速度が一致した場合を無負荷状態と判断し、その無負荷状態と判断した酸素消費速度の値を内生呼吸の酸素消費速度として記憶し、この記憶した内生呼吸の酸素消費速度と複数箇所で測定した酸素消費速度から曝気槽の状態を判断して外部に表示する曝気槽の監視方法。
【請求項3】
測定した酸素消費速度の値が記憶している内生呼吸の酸素消費速度の値より低いとき、測定した酸素消費速度の値を内生呼吸の酸素消費速度として更新することを特徴とする請求項1又は2記載の曝気槽の監視方法。
【請求項4】
内生呼吸の酸素消費速度は、無負荷状態と判断した場合の複数箇所の酸素消費速度のうち曝気槽の流下方向に沿って最下流部の酸素消費速度とすることを特徴とする請求項1又は2記載の曝気槽の監視方法。
【請求項5】
曝気槽の状態は、記憶している内生呼吸の酸素消費速度と複数箇所の酸素消費速度を比較して内生呼吸内生呼吸への遷移の位置を特定し、この位置により曝気槽の処理状態を判断して表示することを特徴とする請求項2記載の曝気槽の監視方法。
【請求項6】
内生呼吸への遷移の位置は、内生呼吸の酸素消費速度と酸素消費速度の値が一致する最上流部の位置とする請求項5記載の曝気槽の監視方法。
【請求項7】
曝気槽の状態は、最上流部の酸素消費速度と記憶している内生呼吸の酸素消費速度の差分により曝気槽に流入している負荷状態を判断して表示することを特徴とする請求項2記載の曝気槽の監視方法。
【請求項8】
曝気槽の状態は、内生呼吸の酸素消費速度の記憶時に温度を測定し、予め測定した温度と内生呼吸の酸素消費速度の関係から汚泥の活性状態を判断して表示することを特徴とする請求項2記載の曝気槽の監視方法。
【請求項9】
曝気槽の状態を文字で表示することを特徴とする請求項2記載の曝気槽の監視方法。
【請求項10】
曝気槽の状態を図で表示することを特徴とする請求項2記載の曝気槽の監視方法。
【請求項11】
酸素消費速度と同時に温度を測定し、予め測定した温度と酸素消費速度の関係式から内生呼吸の酸素消費速度を補正することを特徴とする請求項1又は2記載の曝気槽の監視方法。
【請求項12】
酸素消費速度と同時にMLSSを測定して酸素利用速度係数を算出し、酸素利用速度係数を酸素消費速度の代わりに用いて行う請求項1又は2記載の曝気槽の監視方法。
【請求項1】
曝気槽の流下方向に沿って、複数箇所の汚泥酸素消費速度を測定し、測定した複数の酸素消費速度が一致した場合を無負荷状態と判断し、その無負荷状態と判断した酸素消費速度の値を内生呼吸の酸素消費速度として記憶し、この記憶した内生呼吸の酸素消費速度と、前記測定した複数箇所の酸素消費速度を外部に表示する曝気槽の監視方法。
【請求項2】
曝気槽の流下方向に沿って、複数箇所の汚泥の酸素消費速度を測定し、測定した複数の酸素消費速度が一致した場合を無負荷状態と判断し、その無負荷状態と判断した酸素消費速度の値を内生呼吸の酸素消費速度として記憶し、この記憶した内生呼吸の酸素消費速度と複数箇所で測定した酸素消費速度から曝気槽の状態を判断して外部に表示する曝気槽の監視方法。
【請求項3】
測定した酸素消費速度の値が記憶している内生呼吸の酸素消費速度の値より低いとき、測定した酸素消費速度の値を内生呼吸の酸素消費速度として更新することを特徴とする請求項1又は2記載の曝気槽の監視方法。
【請求項4】
内生呼吸の酸素消費速度は、無負荷状態と判断した場合の複数箇所の酸素消費速度のうち曝気槽の流下方向に沿って最下流部の酸素消費速度とすることを特徴とする請求項1又は2記載の曝気槽の監視方法。
【請求項5】
曝気槽の状態は、記憶している内生呼吸の酸素消費速度と複数箇所の酸素消費速度を比較して内生呼吸内生呼吸への遷移の位置を特定し、この位置により曝気槽の処理状態を判断して表示することを特徴とする請求項2記載の曝気槽の監視方法。
【請求項6】
内生呼吸への遷移の位置は、内生呼吸の酸素消費速度と酸素消費速度の値が一致する最上流部の位置とする請求項5記載の曝気槽の監視方法。
【請求項7】
曝気槽の状態は、最上流部の酸素消費速度と記憶している内生呼吸の酸素消費速度の差分により曝気槽に流入している負荷状態を判断して表示することを特徴とする請求項2記載の曝気槽の監視方法。
【請求項8】
曝気槽の状態は、内生呼吸の酸素消費速度の記憶時に温度を測定し、予め測定した温度と内生呼吸の酸素消費速度の関係から汚泥の活性状態を判断して表示することを特徴とする請求項2記載の曝気槽の監視方法。
【請求項9】
曝気槽の状態を文字で表示することを特徴とする請求項2記載の曝気槽の監視方法。
【請求項10】
曝気槽の状態を図で表示することを特徴とする請求項2記載の曝気槽の監視方法。
【請求項11】
酸素消費速度と同時に温度を測定し、予め測定した温度と酸素消費速度の関係式から内生呼吸の酸素消費速度を補正することを特徴とする請求項1又は2記載の曝気槽の監視方法。
【請求項12】
酸素消費速度と同時にMLSSを測定して酸素利用速度係数を算出し、酸素利用速度係数を酸素消費速度の代わりに用いて行う請求項1又は2記載の曝気槽の監視方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−39640(P2009−39640A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−206578(P2007−206578)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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