説明

曲げ加工装置及び曲げ加工方法

【課題】長尺体の自重による撓みや曲がりを抑制できるとともに、曲げ加工の自由度が高く、かつ設備コストを低減できる曲げ加工装置を提供する。
【解決手段】パイプベンダ(曲げ加工装置)1は、保持部10と、回転板21と、曲げ部40と、駆動部31と、を備える。保持部10は、パイプ8に対して着脱可能に構成される。回転板21には、保持部10を取り付けることができる。曲げ部40は、回転板21の一側に配置される。駆動部31は、パイプ8を曲げ部40に対して移動させることができる。曲げ部40は、回転板21に保持部10を介して取り付けられた状態のパイプ8を曲げることができる。パイプベンダ1は、回転板21に保持部10が取り付けられる向きを変更することにより、パイプ8の長手方向一側の部分を曲げ部40で曲げることができる第1状態と、長手方向他側の部分を曲げ部40で曲げることができる第2状態と、に切り替えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主要には、パイプ等の長尺体に曲げ加工を行うための曲げ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、パイプ等に対して曲げ加工を行う曲げ加工装置として、例えば特許文献1に示すようなパイプベンダが知られている。以下、この種のパイプベンダについて、図11及び図12を参照して説明する。図11は、従来のパイプベンダの構成を示す概略正面図である。図12は、従来のパイプベンダの構成を示す概略平面図である。
【0003】
図11及び図12に示すパイプベンダ90は、保持部91と、回転支持部92と、移動部93と、曲げ部94と、を備えている。保持部91は、加工対象のパイプ8をクランプして保持することができる。回転支持部92は保持部91を支持するように構成されるとともに、当該保持部91と一体的に回転できるように構成されている。これにより、パイプ8を保持部91で保持した状態で、当該パイプ8の軸線を回転軸として回転させることができる。回転支持部92は移動部93に取り付けられており、当該移動部93は、曲げ部94に近づく向き及び離れる向きに移動可能に構成される。また、曲げ部94は、前記保持部91に保持された状態のパイプ8に対して曲げ加工を行うことができる。
【0004】
この構成のパイプベンダ90を用いてパイプ8の複数箇所に曲げを形成する加工作業は、以下のようにして行われる。即ち、初めに、移動部93が曲げ部94から十分に離れている状態で、パイプ8の一端部を当該移動部93上の保持部91に保持させる。その後、パイプ8の曲げ形成予定位置が曲げ部40に到達するまで、移動部93を、曲げ部94に近づくように移動させる。続いて、曲げ部40によってパイプ8の曲げ形成予定位置に曲げを形成する。
【0005】
上記の移動部93の移動及び曲げ部40による曲げは、全ての曲げ形成予定位置に曲げが形成されるまで繰り返される。そして、パイプ8に全ての曲げが形成されると、パイプ8を保持部91から取り外す。
【0006】
なお、それぞれの曲げ形成予定位置において曲げ部94によって曲げを形成する際に、回転支持部92とともに保持部91を回転させてパイプ8の角度を適宜変更することにより、平面的な曲げ加工のみならず、3次元的な曲げ加工をパイプ8に施すこともできるようになっている。
【0007】
また、特許文献2の曲げ加工機においては、ワーク(パイプ)の中央近傍を固定するワーク固定機構が配置され、このワーク固定機構を挟むようにして、ワークを支持するワーク支持機構が両側にそれぞれ配置されている。そして、ワークを曲げる曲げ部は、ワーク支持機構の更に外側に設置されている。即ち、曲げ部はワークの両端側に対で配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−289974号公報
【特許文献2】特開2009−6355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記で示した従来のパイプベンダ90においては、パイプ8の両端部近傍に曲げをそれぞれ形成する必要がある場合、そのうち一端側の曲げ加工を行う際には、図11で示すように、パイプ8の端部付近に位置する保持部91及び曲げ部94で当該パイプ8を支持しなければならない。この結果、パイプ8の重量の大部分が片持ち支持される形になるので、自由端側に作用する自重により、当該パイプ8が曲げ部94の部分から下方へ撓んだり曲がったりするおそれがある。また、曲げ部94で実際にパイプ8を曲げる際に、その自由端が描く軌跡が大きくなってしまうことから(図12の例を参照)、パイプベンダ1の周囲に大きな作業スペースを確保する必要がある。
【0010】
更に、パイプベンダ90はパイプ8の一端部を保持する構成のため、例えばパイプ8の両端部それぞれにおいて端面近傍に曲げを形成しなければならない場合、以下の課題が生じる。即ち、パイプ8の一側の端部を保持部91で保持した場合、その保持された端部の部分には、曲げ部94によって曲げを形成できない。従って、この場合は、完成時のパイプの寸法よりも少し長いパイプを用意し、当該パイプの余長部分を保持部91で保持しつつ曲げ部94で曲げ加工を行ってから、その余長部分を切断する必要がある。従って、パイプの材料コスト、加工コスト及び作業工数が増加してしまう。
【0011】
なお、特許文献2のようにパイプの中央近傍を保持する構成では、パイプの自由端の部分が短くなるため、自重によってパイプに生じる意図しない撓みや曲がりを抑制できるとともに、装置の周囲の作業スペースを小さくすることができる。また、パイプの両端部に曲げを形成したい場合においても、上記のように余長部分だけ長い寸法のパイプを用意する必要がない。
【0012】
しかし、特許文献2の構成は曲げ部が2つ必要となってしまうため、曲げ加工装置自体が高コストになってしまう。また、特許文献2の曲げ加工機は、ワーク固定機構及びワーク支持機構よりもワークの端部側に曲げ部を備える構成であるため、ワークの長手方向中央における相当の長さの部分について曲げ加工が不可能になってしまう。
【0013】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、長尺体の自重による撓みや曲がりを抑制できるとともに、加工の自由度が高く、かつ設備コストを低減できる曲げ加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0014】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0015】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成の曲げ加工装置が提供される。即ち、この曲げ加工装置は、保持部と、取付部と、曲げ部と、駆動部と、を備える。前記保持部は、長尺体に対して着脱可能に構成される。前記取付部には、前記保持部を取り付けることができる。前記曲げ部は、前記取付部の一側に配置される。前記駆動部は、前記曲げ部及び前記長尺体のうち少なくとも一方を他方に対して移動させることができる。前記曲げ部は、前記取付部に前記保持部を介して取り付けられた状態の前記長尺体を曲げることができる。曲げ加工装置は、前記取付部に前記保持部が取り付けられる向きを変更することにより、前記長尺体が前記保持部で保持される位置である保持位置よりも長手方向一側の部分を前記曲げ部で曲げることができる第1状態と、前記保持位置よりも長手方向他側の部分を前記曲げ部で曲げることができる第2状態と、の間で切替可能に構成される。
【0016】
これにより、長尺体の長手方向中央部分近傍を保持部で保持しつつ、取付部に対する保持部の取付け向きを変更しながら曲げ部による曲げを行うことで、長尺体において保持位置を挟んだ長手方向両側部分への曲げ加工を容易に行うことができる。従って、長尺体の保持位置から端部までの長さを短くできるので、長尺体の自重による撓みや曲がりを抑制することができるとともに、曲げ加工のための作業スペースを小さくすることができる。また、一側に配置されている曲げ部で長尺体の長手方向両側の加工を行う構成であるため、設備のコンパクト化及び設備コストの低減を実現できる。
【0017】
前記の曲げ加工装置においては、前記取付部に取り付けられた状態の前記保持部を、当該保持部に装着される前記長尺体の軸線を中心として回転させることが可能な回転駆動部を備えることが好ましい。
【0018】
これにより、保持部とともに長尺体を回転させ、所定の回転位相とした状態で、曲げ部による曲げ加工を行うことができる。この結果、長尺体を様々な角度で曲げることができるので、例えば3次元的な複雑な曲げ加工も容易に行うことができる。
【0019】
前記の曲げ加工装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記取付部には位置決め部が備えられている。前記位置決め部は、前記第1状態及び前記第2状態の両方において、前記取付部に対する前記保持部の位置決めを行う。
【0020】
これにより、取付部に保持部が取り付けられる向きの如何にかかわらず、取付部と保持部(ひいては、保持部に装着されている長尺体)との間で位置決めが適切に行われる。従って、長尺体において保持位置を挟んだ長手方向両側部分に対し、精度の高い曲げ加工を行うことができる。また、長尺体の取付時に生じ得るズレ量を検出するセンサを備えたり、ズレを矯正する作業を行わせたりする場合と比較して、低コスト化を実現することができる。
【0021】
前記の曲げ加工装置においては、前記長尺体がアルミニウムで構成されることが好ましい。
【0022】
即ち、アルミニウム製の長尺体は一般的に撓みや曲がりが生じ易いため、長尺体の自重による撓みや曲がりを抑制可能な本発明の曲げ加工装置を用いて加工することが特に好適である。
【0023】
前記の曲げ加工装置においては、前記長尺体は筒状の部材で構成されるとともに、その内部に第2長尺体が挿入されたものであることが好ましい。
【0024】
即ち、内部に別の物(第2長尺体)が挿入されている筒状の長尺体を保持しながら曲げ加工を行う場合、当該長尺体には、筒状体の自重のみならず、内部の第2長尺体の自重も作用するので、撓みや曲がりが生じ易い。従って、長尺体の自重による撓みや曲がりを抑制可能な本発明の曲げ加工装置を用いて加工することが特に好適である。
【0025】
本発明の第2の観点によれば、以下の曲げ加工方法が提供される。即ち、この曲げ加工方法は、装着工程と、一側曲げ工程と、反転工程と、他側曲げ工程と、を含む。前記装着工程では、長尺体の長手方向端部以外の部位を保持部に装着させる。前記一側曲げ工程では、前記保持部を曲げ加工装置の取付部に取り付けた状態で、前記長尺体のうち、前記保持部で保持される位置としての保持位置よりも長手方向一側の部分に曲げ加工を行う。前記反転工程では、前記取付部に前記保持部が取り付けられる向きを変更することにより、前記一側曲げ工程において曲げが形成された長手方向一側の部分と、曲げが未だ形成されていない長手方向他側の部分と、が入れ替わるように、前記長尺体の向きを反転させる。前記他側曲げ工程では、前記長尺体のうち前記保持位置よりも長手方向他側の部分に曲げ加工を行う。
【0026】
これにより、長尺体の長手方向中央部分近傍を保持部で保持しつつ、取付部に対する保持部の取付け向きを変更しながら曲げ部による曲げを行うことで、長尺体において保持位置を挟んだ長手方向両側部分への曲げ加工を容易に行うことができる。従って、長尺体の保持位置から端部までの長さを短くできるので、長尺体の自重による撓みや曲がりを抑制することができるとともに、曲げ加工のための作業スペースを小さくすることができる。また、一側に設置された曲げ部で長尺体の長手方向両側の加工を行うことができるため、設備のコンパクト化及び設備コストの低減を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係るパイプベンダの全体的な構成を示す正面図。
【図2】パイプベンダの平面図。
【図3】パイプベンダが備える支持板及び回転板周辺の構成を示す左側面図。
【図4】保持部を回転板に固定する構成を示す拡大正面図。
【図5】保持部の構成を示す左側面図。
【図6】曲げ部及びその周辺の構成を示す左側面図。
【図7】パイプの複数箇所に曲げ加工を行う工程を説明する平面図。
【図8】パイプの複数箇所に曲げ加工を行う工程を説明する平面図。
【図9】パイプの複数箇所に曲げ加工を行う工程を説明する平面図。
【図10】パイプの複数箇所に曲げ加工を行う工程を説明する平面図。
【図11】従来のパイプベンダの構成を示す概略正面図。
【図12】従来のパイプベンダの構成を示す概略平面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るパイプベンダ1の全体的な構成を示す正面図である。図2は、パイプベンダ1の平面図である。図3は、パイプベンダ1が備える支持板23及び回転板21の周辺の構成を示す左側面図である。図4は、保持部10を回転板21に固定する構成を示す拡大正面図である。図5は、保持部10の構成を示す左側面図である。図6は、曲げ部40及びその周辺の構成を示す左側面図である。
【0029】
本実施形態のパイプベンダ(曲げ加工装置)1は、パイプ(長尺体、ワーク)8に曲げ加工を行って所定の形状に成形するための装置である。このパイプベンダ1は、保持部10と、支持板23と、回転板(取付部)21と、移動板30と、曲げ部40と、を主要な構成として備えている。また、パイプベンダ1における加工対象であるパイプ8は、アルミニウムを素材とする円筒状の細長い部材であり、その内部には図略の電線(第2長尺体)が挿入されている。
【0030】
以下、パイプベンダ1の詳細な構成について、図1から図6までを参照して説明する。本実施形態のパイプベンダ1は、水平な支持台50を備えている。支持台50の上面には、2本の細長いガイドレール35が平行に配置されている。このガイドレール35の上部には、水平に向けられた移動板30がリニアガイド36を介して設置されている。これにより、移動板30はガイドレール35の長手方向に沿って往復移動することができる。
【0031】
図1及び図2に示すように、2本のガイドレール35の間には、例えばステッピングモータからなる駆動部31が配置されている。また、ガイドレール35の間の位置において、ボールネジ32が当該ガイドレール35と平行に配置されている。このボールネジ32は回転可能に支持されており、また、その一端が駆動部31の出力軸に連結されている。更に、前記移動板30の下面にはブロック状の延出部材34が設けられており、この延出部材34には、前記ボールネジ32に噛み合うボールナット33が固定されている。この構成で、前記駆動部31を駆動してボールネジ32を回転させることにより、移動板30をガイドレール35に沿ってネジ移動させることができる。
【0032】
移動板30の上面には、矩形状に形成された支持板23が上方に突出するように固定されている。この支持板23の上部には、図3に示すように、円形の回転板21が取り付けられている。この回転板21は、その厚み方向がガイドレール35と平行となるように向けられ、支持板23に対して回転可能に支持されている。
【0033】
以下、回転板21の具体的な支持構造を説明する。図3に示すように、支持板23の上部において複数の転動体25が円弧に沿って並べて配置されており、それぞれの転動体25は回転可能に支持されている。そして、この転動体25が、円状に形成された回転板21の外縁部に接触可能に構成されている。従って、回転板21は、周囲の転動体25を回転させながら、当該回転板21の中心を回転軸として自由に回転することができる。
【0034】
また、それぞれの転動体25には円形の鍔部が2つ形成されており(図1等を参照)、2つの鍔部の間に回転板21の縁部を挟み込むようになっている。これにより、回転板21の軸方向への移動を規制することができる。
【0035】
図1及び図3に示すように、前記支持板23には、例えばステッピングモータ等の電動モータからなる回転駆動部26が取り付けられている。この回転駆動部26が備える出力軸27には、図3に示すように駆動スプロケット28が固定される一方、前記回転板21には従動スプロケット22が固定具24を介して固定される。そして、駆動スプロケット28と従動スプロケット22の間には、無端状のチェーン29が巻き掛けられる。この構成で、回転駆動部26を駆動することで回転板21を回転させ、その回転位相を任意に変更することができる。
【0036】
図3に示すように、回転板21には、その回転中心を中心とする略半円形状の差込孔21aが貫通状に形成されている。また、従動スプロケット22はリング状に形成されており、その中心部には円形孔22aが貫通状に形成されている。従って、回転板21及び従動スプロケット22の内部に、パイプベンダ1の加工対象であるパイプ8を差し込むことができる。
【0037】
図4に示すように、回転板21の厚み方向一側の面(曲げ部40と反対側を向く面)には、平坦な基準面210が形成されている。この基準面210は、回転板21に形成された前記差込孔21aの近傍に配置されている。また、回転板21には、2本の取付ピン212,213が突出するように固定されている。そして、パイプ8を着脱可能に保持する保持部10が、取付ボルト211と、前記取付ピン212,213と、を介して回転板21に取り付けられている。
【0038】
以下、保持部10について詳細に説明する。この保持部10は上下に分割された直方体状に構成されており、図5に示すように、上側保持部11と下側保持部12とを備えている。上側保持部11と下側保持部12とは蝶番14を介して連結されており、これにより保持部10を開閉することができる。
【0039】
上側保持部11の下面には半円状の断面を有する細長い第1凹部が形成されるとともに、下側保持部12の上面にも、半円状の断面を有する細長い第2凹部が形成されている。この構成で、上側保持部11を下側保持部12に対して閉じることで2つの凹部が合わせられ、これにより、パイプ8を水平な向きで保持するための細長いパイプ保持孔13が形成される。第1凹部及び第2凹部の内壁面には接触部材16が固定されている。この構成で、上側保持部11と下側保持部12との間にパイプ8を保持したときに当該接触部材16がパイプ8の外周面に接触し、パイプ8が滑らないように保持することができる。
【0040】
また、保持部10は、当該保持部10を閉じた状態でロックするためのロック部15を備えている。このロック部15は公知のロック機構を有しており、保持部10が強い力でパイプ8をクランプした状態を維持することができる。なお、以下の説明において、パイプ8のうち、保持部10によって保持されている部分の位置を「保持位置」と称することがある。
【0041】
図4及び図5に示すように、下側保持部12においてパイプ保持孔13の長手方向一端側に位置する端面(第1当て面110)には、ネジ孔111と、取付孔112,113と、が形成されている。また、下側保持部12においてパイプ保持孔13の長手方向他端側に位置する端面(第2当て面120)には、図4に示すように、ネジ孔121と、取付孔122,123と、が形成されている。
【0042】
保持部10の一側に位置するネジ孔111及び取付孔112,113と、他側に位置するネジ孔121及び取付孔122,123と、は、互いに対応する位置に配置されるとともに、同一形状となるように構成されている。従って、回転板21のボルト孔21bに挿入される前記取付ボルト211は、ネジ孔111にネジ止めすることができ、また、反対側のネジ孔121にネジ止めすることもできる。また、回転板21に取り付けられる取付ピン212,213は、取付孔112,113に差し込むことができ、また、反対側の取付孔122,123に差し込むこともできるようになっている。
【0043】
保持部10は以上のように構成されているので、パイプ保持孔13の長手方向一端側を回転板21に向けた状態で保持部10を回転板21に取り付けることも、パイプ保持孔13の長手方向他端側を回転板21に向けた状態で保持部10を回転板21に取り付けることもできるようになっている。
【0044】
次に、パイプ8を曲げ加工するための曲げ部40について説明する。曲げ部40は、図6等に示すように、曲げ駆動部41と、曲げ金型43と、押付け金型44と、を主要な構成として備えている。
【0045】
図2に示すように、曲げ金型43には、細長い円弧状のガイド溝部43aが形成されている。このガイド溝部43aは略半円状の断面を有しており(図6を参照)、その内壁面にパイプ8を接触させることで、曲げられるパイプ8の内周側の形状を規制することができる。この円弧状のガイド溝部43aが有する曲率は、パイプ8に形成すべき曲げの曲率に応じて定められている。
【0046】
押付け金型44には、曲げ金型43と同様に、略半円状の断面を有する溝部44aが形成されている(図6を参照)。この溝部44aは、曲げ金型43が有するガイド溝部43aと互いに対面するように配置される。押付け金型44は、例えば電動モータからなる曲げ駆動部41に連結されており、この曲げ駆動部41を駆動することで、押付け金型44を、曲げ金型43のガイド溝部43aに沿う円弧状の軌跡を描いて移動させることができる。
【0047】
この構成で、パイプ8を曲げ金型43と押付け金型44の間に挿入した状態で曲げ駆動部41を駆動することにより、パイプ8を、曲げ金型43のガイド溝部43aが有する円弧に沿って曲げることができる。
【0048】
次に、パイプベンダ1を用いてパイプ8に対して曲げ加工を実際に行う作業について、図7から図10までを参照して説明する。図7から図10には、パイプ8の曲げ加工工程が順を追って示されている。
【0049】
なお、以下の説明では、パイプ8に第1曲げ、第2曲げ、及び第3曲げの3つの曲げを形成する例について説明する。また、上記の3つの曲げのうち2つの曲げ(第1曲げ及び第2曲げ)は、パイプ8の長手方向中央よりも一端側に形成するものとし、残りの曲げ(第3曲げ)は、長手方向中央よりも他端側に形成するものとする。また、3つの曲げは、それぞれ他の曲げとは曲げ方向が異なっているものとする。
【0050】
初めに、作業者は、曲げ加工を行う対象である直線状のパイプ8を用意する。次に、作業者は、当該パイプ8の長手方向中央近傍の所定位置に、回転板21から取り外された状態の保持部10を正確に取り付ける(装着工程)。この装着工程は以下の手順で行われる。即ち、初めに上側保持部11と下側保持部12とが離れるように保持部10を開放させる。そして、パイプ保持孔13の部分にパイプ8を位置させた後に保持部10を閉じて、更にロック部15でロックすることで、保持部10にパイプ8をクランプさせる。
【0051】
その後、作業者は、パイプ8において第1曲げ及び第2曲げを形成すべき部分を、回転板21及び従動スプロケット22の内部に差し込むとともに、当該パイプ8を保持している保持部10を回転板21に固定する。具体的には、保持部10が有する取付孔112,113(図4を参照)に、回転板21の取付ピン212,213を差し込むようにして、保持部10を回転板21に装着する。その後、回転板21のボルト孔21bに取付ボルト211を差し込んだ上で保持部10のネジ孔111に挿入し、締め付けることで、基準面210と第1当て面110とを確実に接触させるとともに、保持部10が回転板21から外れないように固定する。
【0052】
図7(a)には、上記のようにしてパイプ8がパイプベンダ1にセットされた様子(第1状態)が示されている。この状態で、直線状のパイプ8は、ガイドレール35に対して平行に向けられた状態で、その軸線が回転板21の中心と一致するようにセットされる。なお、保持部10が回転板21に取り付けられる際に、当該保持部10の前記第1当て面110(図4)が回転板21の基準面210に接触することで、パイプ8が長手方向で位置決めされる。また、取付ピン212,213が取付孔112,113に差し込まれることで、回転板21の回転方向におけるパイプ8の位置決め(位相決め)が行われる。
【0053】
なお、パイプ8を保持部10でクランプした後に保持部10を回転板21に取り付けることに代えて、保持部10を回転板21に取り付けた状態でパイプ8を保持部10にクランプさせることもできる。
【0054】
その後、駆動部31を駆動することで移動板30をガイドレール35に沿って移動させ、これにより、パイプ8を軸方向に平行移動させる。そして、パイプ8に形成すべき第1曲げの予定位置が曲げ部40に達した時点で移動板30を停止させる。このとき、パイプ8の先端は、押付け金型44よりも保持部10から遠い側に位置している。この状態で、曲げ駆動部41を駆動して押付け金型44を曲げ金型43に沿って回転させることにより、パイプ8に第1曲げを形成することができる(図7(b))。次に、曲げ駆動部41を逆方向に駆動して、押付け金型44を元の位置に戻す。
【0055】
その後、移動板30をガイドレール35に沿って移動させ、パイプ8に形成すべき第2曲げの予定位置が曲げ部40に達した時点で移動板30を停止させる。この状態が図8(a)に示されている。次に、第2曲げが第1曲げと曲げ方向が異なっていることに対応して、回転駆動部26を駆動し、回転板21及び保持部10(即ち、パイプ8)を所定角度だけ回転させる(図8(b))。そして、先ほどと同様に曲げ駆動部41を駆動して押付け金型44を曲げ金型43に沿って回転させることにより、パイプ8に第2曲げを形成することができる(図9(a))。以上により、パイプ8における前記保持位置よりも長手方向一側の部分において、2箇所の曲げ(第1曲げ及び第2曲げ)が形成される(一側曲げ工程)。
【0056】
次に、パイプ8に第3曲げを形成するが、当該第3曲げを形成すべき箇所は、第1曲げ及び第2曲げとは保持位置を挟んで反対側に位置している。このため、作業者は、パイプベンダ1から保持部10とともにパイプ8を取り外し、その向きを変更した上で再び取り付ける(反転工程)。
【0057】
この反転工程は以下の手順で行われる。即ち、取付ボルト211を緩めて保持部10及び回転板21から取り外すとともに、回転板21の取付ピン212,213を、保持部10の取付孔112,113から引き抜く。その後、保持部10でパイプ8が保持されている状態を保ちながら、当該パイプ8(第1曲げ及び第2曲げが形成された部分)を、回転板21及び従動スプロケット22の内部から引き抜く。
【0058】
次に、保持部10でクランプされている状態のパイプ8を当該保持部10とともに平面視で180度回転させることで、パイプ8及び保持部10の向きを反転させる。そして、パイプ8において第3曲げを形成すべき部分を、回転板21及び従動スプロケット22の内部に差し込む。
【0059】
続いて、作業者は、当該パイプ8を保持している保持部10の取付孔122,123に、回転板21の取付ピン212,213を差し込むようにして、保持部10を回転板21に装着する。その後、回転板21のボルト孔21bに取付ボルト211を差し込んだ上で保持部10のネジ孔121に挿入し、締め付けることで、基準面210と第2当て面120とを確実に接触させるとともに、保持部10が回転板21から外れないように固定する。
【0060】
以上で反転工程が完了し、保持部10及びパイプ8の向きが反転された様子(第2状態)が図9(b)に示されている。この向きの反転により、上記の一側曲げ工程で形成された第1曲げ及び第2曲げが形成された長手方向一側の部分と、曲げが未だ形成されていない長手方向他側の部分と、が入れ替わることになる。
【0061】
なお、保持部10が回転板21に取り付けられる際に、当該保持部10の前記第2当て面120が回転板21の基準面210に接触することで、パイプ8が長手方向で位置決めされる。また、取付ピン212,213が取付孔112,113に差し込まれることで、回転板21の回転方向におけるパイプ8の位置決め(位相決め)が行われる。
【0062】
ここで、上記の反転工程は、パイプ8から保持部10を取り外したり、保持部10による保持位置を移動させたりすることなく行われる。また、反転工程の前及び後において、パイプ8の長手方向及び回転方向の位置決めが、基準面210及び取付ピン212,213を介して行われる。従って、パイプ8において保持位置を挟んだ長手方向両側の部分に対して、曲げ加工を正確な位置及び角度で行うことができる。
【0063】
反転工程が完了した後は、駆動部31を駆動することにより移動板30をガイドレール35に沿って移動させ、パイプ8に形成すべき第3曲げの予定位置が曲げ部40に達した時点で移動板30を停止させる。そして、第3曲げが第2曲げと曲げ方向が異なっていることに対応して、回転駆動部26を駆動し、回転板21及び保持部10(即ち、パイプ8)を所定角度だけ回転させる(図10(a))。その後、曲げ駆動部41を駆動して押付け金型44を曲げ金型43に沿って回転させることにより、パイプ8に第3曲げを形成することができる(図10(b))。以上により、パイプ8における前記保持位置よりも他側の部分において、第3曲げがパイプ8に形成される(他側曲げ工程)。
【0064】
以上に示したように、本実施形態のパイプベンダ1は、保持部10と、回転板21と、曲げ部40と、駆動部31と、を備える。保持部10は、パイプ8に対して着脱可能に構成される。回転板21には、保持部10を取り付けることができる。曲げ部40は、回転板21の一側に配置される。駆動部31は、パイプ8を曲げ部40に対して移動させることができる。曲げ部40は、回転板21に保持部10を介して取り付けられた状態のパイプ8を曲げることができる。パイプベンダ1は、回転板21に保持部10が取り付けられる向きを変更することにより、パイプ8が保持部10で保持される位置である保持位置よりも長手方向一側の部分を曲げ部40で曲げることができる第1状態(図7(a))と、前記保持位置よりも長手方向他側の部分を前記曲げ部で曲げることができる第2状態(図9(b))と、の間で切替可能に構成される。
【0065】
これにより、パイプ8の長手方向中央部分近傍を保持部10で保持しつつ、回転板21に対する保持部10の取付け向きを変更しながら曲げ部40による曲げを行うことで、パイプ8において保持位置を挟んだ長手方向両側部分への曲げ加工を容易に行うことができる。従って、パイプ8の保持位置から端部までの長さを短くできるので、パイプ8の自重による撓みや曲がりを抑制することができるとともに、曲げ加工のための作業スペースを小さくすることができる。また、一側の曲げ部40でパイプ8の長手方向両側の加工を行う構成であるため、設備のコンパクト化及び設備コストの低減を実現できる。
【0066】
また、本実施形態のパイプベンダ1は、回転板21に取り付けられた状態の保持部10を、当該保持部10に装着されるパイプ8の軸線を中心として回転板21とともに回転させることが可能な回転駆動部26を備える。
【0067】
これにより、保持部10とともにパイプ8を回転させ、所定の回転位相とした状態で、曲げ部40による曲げ加工を行うことができる。この結果、パイプ8を様々な角度で曲げることができるので、例えば3次元的な複雑な曲げ加工も容易に行うことができる。
【0068】
また、本実施形態のパイプベンダ1において、回転板21には、基準面210及び取付ピン212,213からなる位置決め部が備えられている(図4)。この位置決め部は、図7(a)の第1状態、及び反転工程後である図9(b)の第2状態の両方において、回転板21に対する保持部10の位置決めを行う。
【0069】
これにより、回転板21に保持部10が取り付けられる向きの如何にかかわらず、回転板21と保持部10(ひいては、保持部10に装着されているパイプ8)との間で位置決めが適切に行われる。従って、パイプ8において保持位置を挟んだ長手方向両側部分に対し、精度の高い曲げ加工を行うことができる。また、機械的な位置決め機構によってパイプ8を良好に位置決めできるので、パイプ8の取付時に生じ得るズレ量を検出するセンサを備えたり、ズレを矯正する作業を行わせたりする場合と比較して、低コスト化を実現することができる。
【0070】
また、本実施形態において、パイプベンダ1の加工対象であるパイプ8はアルミニウムで構成される。
【0071】
即ち、アルミニウム製のパイプ8は一般的に撓みや曲がりが生じ易いため、長尺状のワークの自重による撓みや曲がりを抑制可能な本実施形態のパイプベンダ1を用いて加工することが特に好適である。
【0072】
また、本実施形態において、パイプベンダ1の加工対象であるパイプ8は筒状の部材であり、その内部に電線が挿入されている。
【0073】
即ち、内部に電線が挿入されている筒状のパイプ8を保持しながら曲げ加工を行う場合、当該パイプ8には、パイプ8自体の自重のみならず内部の電線の自重も作用するので、撓みや曲がりが生じ易い。従って、長尺状のワークの自重による撓みや曲がりを抑制可能な本発明のパイプベンダ1を用いて加工することが特に好適である。
【0074】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0075】
保持部10、回転板21、移動板30、及び曲げ部40等について上記で示した構成は例示であり、構成の一部又は全部を適宜変更することができる。
【0076】
上記実施形態では、パイプ8を曲げ部40に対して近づけたり離したりする構成であるが、この構成に代えて、曲げ部40をパイプ8に対して近づけたり離したりする構成にしても良い。
【0077】
パイプ8に対して3次元的な曲げ加工を行わない場合は、パイプ8を回転させる構成(回転駆動部26等)を省略することができる。
【0078】
パイプ8が保持部10によって保持される位置は、当該パイプ8の長手方向中央近傍に限定されない。即ち、保持部10による保持位置は、端部以外の箇所であって、曲げの形成予定位置と重ならなければ、パイプ8上のどのような位置に設定されても良い。これにより、自由度の高い曲げ加工が実現されている。ただし、パイプ8の自重による撓みや曲がりを抑制する観点からは、パイプ8の長さを2等分する箇所の近傍を保持部10で保持することが好ましい。
【0079】
上記実施形態では、回転板21の取付ピンを保持部10の取付孔に挿入して取付けを行う構成であるが、保持部10の取付ピンを回転板21の取付孔に挿入して取付けを行う構成にしても良い。
【0080】
長尺体としては、筒状に構成されるパイプ8以外にも、断面が円形状の部材(中実の丸棒状部材)や、断面が長方形の角棒状部材を用いることができる。
【符号の説明】
【0081】
1 パイプベンダ(曲げ加工装置)
8 パイプ(長尺体)
10 保持部
21 回転板(取付部)
26 回転駆動部
30 移動板
31 駆動部
40 曲げ部
210 基準面(位置決め部)
212,213 取付ピン(位置決め部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺体に対して着脱可能に構成された保持部と、
前記保持部を取り付けることが可能な取付部と、
前記取付部の一側に配置された曲げ部と、
前記曲げ部及び前記長尺体のうち少なくとも一方を他方に対して移動させることが可能な駆動部と、
を備え、
前記曲げ部は、前記取付部に前記保持部を介して取り付けられた状態の前記長尺体を曲げることが可能であり、
前記取付部に前記保持部が取り付けられる向きを変更することにより、前記長尺体が前記保持部で保持される位置である保持位置よりも長手方向一側の部分を前記曲げ部で曲げることができる第1状態と、前記保持位置よりも長手方向他側の部分を前記曲げ部で曲げることができる第2状態と、の間で切替可能に構成されることを特徴とする曲げ加工装置。
【請求項2】
請求項1に記載の曲げ加工装置であって、
前記取付部に取り付けられた状態の前記保持部を、当該保持部に装着される前記長尺体の軸線を中心として回転させることが可能な回転駆動部を備えることを特徴とする曲げ加工装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の曲げ加工装置であって、
前記取付部には位置決め部が備えられており、
前記位置決め部は、前記第1状態及び前記第2状態の両方において、前記取付部に対する前記保持部の位置決めを行うことを特徴とする曲げ加工装置。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の曲げ加工装置であって、
前記長尺体はアルミニウムで構成されていることを特徴とする曲げ加工装置。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載の曲げ加工装置であって、
前記長尺体は筒状の部材で構成されるとともに、その内部に第2長尺体が挿入されていることを特徴とする曲げ加工装置。
【請求項6】
長尺体の長手方向端部以外の部位を保持部に装着させる装着工程と、
前記保持部を曲げ加工装置の取付部に取り付けた状態で、前記長尺体のうち、前記保持部で保持される位置としての保持位置よりも長手方向一側の部分に曲げ加工を行う一側曲げ工程と、
前記取付部に前記保持部が取り付けられる向きを変更することにより、前記一側曲げ工程において曲げが形成された長手方向一側の部分と、曲げが未だ形成されていない長手方向他側の部分と、が入れ替わるように、前記長尺体の向きを反転させる反転工程と、
前記長尺体のうち前記保持位置よりも長手方向他側の部分に曲げ加工を行う他側曲げ工程と、
を含むことを特徴とする曲げ加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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