説明

曲面外壁およびその製造方法

【課題】高い生産性が得られ、耐久性に優れた、建築材料の外壁等に用いることができる曲面外壁およびその製造方法を提供する。
【解決手段】SiO―Al系無機質粉体(A)、アルカリ金属珪酸塩(B)及び水(C)を含む成形材料を押出成形し、曲面状に反応硬化させてなることを特徴とする曲面外壁、及びSiO―Al系無機質粉体(A)、アルカリ金属珪酸塩(B)及び水(C)を主成分として含有する成形材料から、混合・混練工程(i)、押出成形工程(ii)、養生工程(iii)及び乾燥工程(iv)を経て曲面外壁を製造する方法であって、養生工程(iii)では、押出成形後の成形材料を、長手方向に曲面の形状を持つトレーの上に支持させながら、反応硬化させることを特徴とする曲面外壁の製造方法などを提供した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲面外壁およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、アルカリ反応性の無機質粉体を使用した、建築材料の外壁等に用いることができる曲面外壁およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セメント系材料を成形後、硬化前に曲面状に変形させて、養生硬化することにより、曲面を有する製品を得る方法が提案され(例えば、特許文献1、2参照。)、セメント系材料の成形品を硬化前に湾曲させた後、硬化させ曲面の製品を得ることは公知である。
上記特許文献1では、石綿セメント成形物を上下1対の曲率を有するパレットではさみ、養生硬化させる曲面状瓦の製造方法が開示され、また、上記特許文献2では、セメントモルタルを押出成形した押出成形体を、変形可能な薄板上に移載し、薄板と共に曲面に変形後、養生硬化したセメント押出成形板について、開示されている。
【0003】
しかしながら、外壁としての利用は、提案されていない。これは、以下の理由により、生産性が悪いため、実用化されていないのが現状である。
すなわち、外壁に利用する場合、施工性、防水性、外観などの面から、500〜3000mm程度の大きさが求められ、また、外壁のR形状の部分の中心角が、直角となるものが必要となり、養生パレットが非常に大きいものになってしまう。また、セメント材料は、ハンドリングできるまで硬化させるには、自然養生では24時間以上、促進養生を行っても、最低6時間は必要であり、さらに、大面積が必要であって、高価な養生用曲面パレットを、非常に長い時間占有することとなる。さらに、セメント系材料は、塗装が必要とされるが、曲面外壁は立体形状であるため、塗装が煩雑であり、実際の生産では、手作業で塗装するか、ロボットを使った塗装を行う必要がある。
【特許文献1】特開昭56−73681号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特許第3458898号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、高い生産性が得られ、耐久性に優れた、建築材料の外壁等に用いることができる曲面外壁およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するために、鋭意研究を重ねた結果、SiO―Al系無機質粉体及びアルカリ金属珪酸塩を含む成形材料を押出し、押出された成形材料を、長手方向に曲面の形状を持つトレーの上で、反応硬化させたところ、硬化が早く自然養生で6時間、促進養生では0.5時間で硬化し、そのため、高価な養生パレットの占有時間が短く、高い生産性が得られ、しかも、耐久性に優れた曲面外壁が得られることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、完成するに至ったものである。
【0006】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、SiO―Al系無機質粉体(A)、アルカリ金属珪酸塩(B)及び水(C)を含む成形材料を押出成形し、曲面状に反応硬化させてなることを特徴とする曲面外壁が提供される。
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記成形材料の含有割合は、アルカリ金属珪酸塩(B)が全固形分の10〜30重量%であってかつSiO―Al系無機質粉体(A)の30〜100重量%であり、水(C)が全固形分の20〜40重量%であってかつアルカリ金属珪酸塩(B)の30〜60重量%であることを特徴とする曲面外壁が提供される。
さらに、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、前記成形材料には、さらに、SiO―Al系無機質粉体(A)100重量部に対して、5〜500重量部のタルク(D)、1〜20重量部の繊維(E)、又は50〜700重量部の無機質充填材(F)を配合することを特徴とする曲面外壁が提供される。
【0007】
一方、本発明の第4の発明によれば、SiO―Al系無機質粉体(A)、アルカリ金属珪酸塩(B)及び水(C)を主成分として含有する成形材料から、混合・混練工程(i)、押出成形工程(ii)、養生工程(iii)及び乾燥工程(iv)を経て曲面外壁を製造する方法であって、養生工程(iii)では、押出成形後の成形材料を、長手方向に曲面の形状を持つトレーの上に支持させながら、反応硬化させることを特徴とする曲面外壁の製造方法が提供される。
また、本発明の第5の発明によれば、第4の発明において、前記成形材料の含有割合は、アルカリ金属珪酸塩(B)が全固形分の10〜30重量%であってかつSiO―Al系無機質粉体(A)の30〜100重量%であり、水(C)が全固形分の20〜40重量%であってかつアルカリ金属珪酸塩(B)の30〜60重量%であることを特徴とする曲面外壁の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第6の発明によれば、第4又は5の発明において、前記成形材料には、さらに、SiO―Al系無機質粉体(A)100重量部に対して、5〜500重量部のタルク(D)、1〜20重量部の繊維(E)、又は50〜700重量部の無機質充填材(F)を配合することを特徴とする曲面外壁の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の曲面外壁は、第1の発明においては、SiO―Al系無機質粉体(A)とアルカリ金属珪酸塩(B)の材料系であるために、セメント系材料に比べて、高耐久性であり、さらに、セメント系押出外壁に比べ、成形に水溶性高分子を使わない又は少量で済むために、耐久性に優れる。さらに、塗装無しで使用可能となる。また、第2の発明においては、成形材料の各成分を特定の割合で配合させたので、生産性に優れ、かつ、耐久性に優れる。さらに、第3の発明においては、成形材料に、タルク(D)、繊維(E)又は無機質充填材(F)を含有させているので、押出成形性が向上するという効果、機械的強度が向上するという効果、又は曲面外壁の体積収縮の防止効果がある。
また、本発明の曲面外壁の製造方法によれば、第4の発明においては、SiO―Al系無機質粉体(A)、アルカリ金属珪酸塩(B)及び水(C)を主成分として含有する成形材料を押出成形後、養生工程の際に、長手方向に曲面の形状を持つトレーの上で、反応硬化させることを特徴としているので、高価な養生パレットの占有時間が短く、高い生産性を得ることができる。また、第5又は6の発明においては、成形材料の各成分を、特定の割合で配合させたので、或いは成形材料に、タルク(D)、繊維(E)又は無機質充填材(F)を含有させているので、成形性よく生産性に優れ、かつ、耐久性に優れた曲面外壁を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の曲面外壁およびその製造方法について、項目毎に、詳細に説明する。
本発明の曲面外壁は、SiO―Al系無機質粉体(A)、アルカリ金属珪酸塩(B)及び水(C)を含む成形材料を押出成形し、曲面状に反応硬化させてなることを特徴とし、また、本発明の曲面外壁の製造方法は、SiO―Al系無機質粉体(A)、アルカリ金属珪酸塩(B)及び水(C)を主成分として含有する成形材料から、混合・混練工程(i)、押出成形工程(ii)、養生工程(iii)及び乾燥工程(iv)を経て曲面外壁を製造する方法であって、養生工程(iii)では、押出成形後の成形材料を、長手方向に曲面の形状を持つトレーの上に支持させながら、反応硬化させることを特徴とするものである。
【0010】
1.SiO―Al系無機質粉体(A)
本発明に係る成形材料に含有される原料成分の一つとして、SiO―Al系無機質粉体(A)が用いられる。
SiO―Al系無機質粉体(A)としては、シリカ−アルミナ系の無機質粉体であれば、特に限定されないが、SiOを10〜90重量%の範囲で、Alを90〜10重量%の範囲で含有する平均粒径が20μmよりも小さい無機質粉体が好ましく、例えば、このSiO及びAl系無機質粉体としては、
(a)粒径が20μm以下の粉体80重量%以上を含有するフライアッシュ、
(b)400〜1000℃の範囲で焼成された粒径が20μm以下の粉体80重量%以上を含有するフライアッシュ、
(c)フライアッシュ又は粘土を溶融し、気体中で噴霧することによって得られた無機質粉体、
(d)粘土に0.1〜30kW・h/kg程度の機械的エネルギーを作用させることにより得られた無機質粉体、
(e)上記(d)の無機質粉体を、更に100〜750℃で加熱することにより得られた無機質粉体、及び
(f)メタカオリン、
よりなる群から選ばれる1種以上の無機質粉体が例示される。
【0011】
2.アルカリ金属珪酸塩(B)及び水(C)
本発明に係る成形材料に含有される原料成分の一つとして、アルカリ金属珪酸塩(B)が用いられる。
上記アルカリ金属珪酸塩(B)としては、一般式:MO・nSiO(ここでMは、Li、K、Naから選択される1種又は2種以上であり、nは正数を示す。)で表され、好ましいnの値は0.1〜8の範囲であり、更に好ましくは0.5〜3、特に好ましくは0.5〜2.5の範囲である。nの値が0.1より小さいと得られる曲面外壁の機械的強度が低く、一方、nが8を超えると、アルカリ金属珪酸塩の水溶液がゲル化を起こしやすく、粘度が急激に上昇するため、SiO―Al系無機質粉体(A)との混合が困難になる恐れがある。
【0012】
上記アルカリ金属珪酸塩(B)の成形材料ヘの添加においては、事前に、本発明において必須とされる水(C)に溶解された水溶液に調製してから添加されるのが好ましい。アルカリ金属珪酸塩(B)が水(C)に溶解すると、粘性が得られ、押出成形時の流動性を確保する。上記アルカリ金属珪酸塩の水溶液中での濃度は、特に限定されるものではないが、薄くなると無機質粉体(A)との反応性が低下し、一方、濃くなると固形分が生じやすくなるので、1重量%以上であることが必要であり、1〜70重量%の範囲が好ましく用いられる。
【0013】
また、上記アルカリ珪酸塩水溶液の調製において、アルカリ金属珪酸塩をそのまま水に溶解してもよいが、アルカリ金属水酸化物の水溶液に、珪砂、珪石粉等のSiO成分をnが所定値になるように溶解してもよい。
【0014】
前記成形材料の含有割合は、好ましくは、アルカリ金属珪酸塩(B)が全固形分の10〜30重量%かつSiO―Al系無機質粉体(A)の30〜100重量%、及び水(C)が全固形分の20〜40重量%かつアルカリ金属珪酸塩(B)の30〜60重量%である。
アルカリ金属珪酸塩(B)が全固形分の10〜30重量%の範囲とすることにより、アルカリ金属珪酸塩が水に溶解すると、粘性が得られ押出し成形時の流動性を確保する。全固形分の10重量%未満であると、良好な流動性が確保できなく、一方、30重量%を超えると、材料の粘着性が高くなり、良好な成形ができない。
また、アルカリ金属珪酸塩(B)がSiO―Al系無機質粉体(A)の30重量%未満であると、SiO―Al系無機質粉体(A)と十分な反応が起こらず、一方、100重量%を超えると、アルカリが過剰になり、耐久性に劣る。
【0015】
上記水(C)の添加量は、全固形分の20重量%未満であると、十分な流動性が確保できず、一方、全固形分の40重量%を超えると、成形後保形できない。また、アルカリ金属珪酸塩(B)の30重量%未満であると、水溶液の粘性が高く、流動性が悪く、一方、アルカリ金属珪酸塩(B)の60重量%を超えると、反応が十分に起こらず耐久性に劣る。
【0016】
3.成形材料のその他成分
本発明に係る成形材料は、上記のように、SiO―Al系無機質粉体(A)、アルカリ金属珪酸塩(B)及び水(C)を主成分とするものであるが、それらに加えて、さらに、タルク(D)を添加することが好ましい。タルク(D)は、滑材として混合物の流動性を向上させる性能を有する。このため、タルクを成形材料に混合することにより、押出成形性が向上する。
また、上記タルク(D)の平均粒子径は、1〜100μmが好ましい。平均粒子径が1μm未満であると、SiO―Al系無機質粉体(A)との粒径差がなくなり、滑材としての効果が小さくなり、一方、平均粒子径が100μmを超えると、粉体全体に占める表面積が小さくなるため、やはり滑材としての効果が小さくなる。
【0017】
上記タルク(D)の添加量は、SiO―Al系無機質粉体(A)100重量部に対して、5〜500重量部であり、好ましくは5〜300重量部であり、より好ましくは10〜200重量部である。タルクの添加量が5重量部未満では、押出成形性に効果を発揮しない。一方、500重量部を超えると、機械的強度が低下する。
【0018】
また、本発明に係る成形材料は、必要に応じて、繊維(E)や無機質充填材(F)を添加することができる。
繊維(E)の配合により、曲面外壁の機械的強度を向上させたり、クラックの発生防止を図ることができる。
このような繊維(E)としては、曲面外壁に付与したい性能に応じて、任意のものが使用でき、例えば、ビニロン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、アラミド、アクリル、レーヨン等の有機繊維や、カーボン、ガラス、チタン酸カリウム、アルミナ、鋼、スラグウール等の無機繊維などが使用できる。
【0019】
上記繊維の太さ(繊維径)は、細すぎると、混合時に再凝集し、交絡によりファイバーボールが形成されやすくなり、最終的に得られる曲面外壁の強度は、それ以上改善されず、太すぎるか又は短すぎると、引張強度向上等の補強効果が小さく、また、長すぎると、繊維の分散性及び配向性が低下する恐れがあるので、繊維径1〜500μm、繊維長1〜15mmが好ましい。
【0020】
上記繊維(E)の添加量は、好ましくは、SiO―Al系無機質粉体(A)100重量部に対して、繊維(E)1〜20重量部である。繊維の添加量が1重量部未満であると、繊維の補強効果が小さく、繊維を配向させても殆ど効果は変わらず、一方、20重量部を超えると、成形材料の流動性が悪くなるため、外観に劣る。
【0021】
また、上記無機質充填材(F)としては、特に限定されるものではなく、例えば、珪砂、珪石粉、結晶質アルミナ、フライアッシュ、アルミナ、マイカ、珪藻土、雲母、岩石粉末(シラス、抗火石等)、玄武岩、長石、珪灰石、粘土、ボーキサイト、セピオライト、繊維材料等、各種鉱物等を用いることができる。
これらの充填材は、曲面外壁の用途に応じて、適宜選択され、単独で、或いは混合して、使用することができる。
【0022】
上記無機質充填材(F)の添加量は、特に限定されるものではなく、SiO―Al系無機質粉体(A)100重量部に対して、50〜700重量部が好ましく、50〜500重量部がより好ましい。すなわち、無機質充填材の添加量が50重量部未満では、珪酸イオンの脱水縮重合反応による曲面外壁の体積収縮を十分防止できず、一方、添加量が700重量部を超えると、曲面外壁の機械的強度が低下するためである。
【0023】
本発明に係る成形材料には、更に、必要に応じて、材料の軽量化を目的として、有機質、無機質発泡体(G)を使用することができる。
上記有機質発泡体としては、例えば、塩化ビニル、フェノール、ユリア、スチレン、ウレタン、エチレン等の合成樹脂の粒状発泡体が挙げられる。また、無機質発泡体としては、ガラスバルーン、シラスバルーン、フライアッシュバルーン、シリカバルーン、パーライト、ヒル石、粒状発泡シリカ等が挙げられる。これらの有機質、無機質発泡体は、単独で使用しても、或いは混合して使用してもよい。
【0024】
上記の発泡体(G)の比重は、0.01〜1が好ましく、0.03〜0.7がより好ましい。比重が0.01未満であると、曲面外壁の機械的強度の低下を招く恐れがあり、一方、比重が1を超えると、軽量化の効果が得られない。
また、上記発泡体(G)の添加量は、SiO―Al系無機質粉体(A)100重量部に対して、10〜100重量部が好ましく、30〜80重量部がより好ましい。発泡体の添加量が10重量部未満では、軽量化の効果が得られず、一方、100重量部を超えると、機械的強度が低下する恐れがある。
【0025】
本発明に係る成形材料には、更に、必要に応じて、発泡剤(H)を添加してもよい。発泡剤(H)としては、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化カリウム、過ほう酸ナトリウム等の過酸化物や、Mg、Ca、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Ga、Sn、Si、フェロシリコン等の金属粉末が挙げられる。価格、安全性、入手の容易さ、混合のしやすさを考慮すると、これらの発泡剤の中で、Si粉末、フェロシリコン粉末、及びアルミニウム粉末が好ましい。
【0026】
上記発泡剤(H)の添加量は、SiO―Al系無機質粉体(A)100重量部に対して、0.15重量部以下の範囲で用いられ、目標とする無機発泡曲面外壁の密度(比重)によって決定される。配合量が0.15重量部を超える場合には、発泡ガスが過剰となり破泡し、吸水率が高くなり耐久性に問題を生じる。
【0027】
過酸化水素を発泡剤(H)として用いるときは、水溶液として用いるのが好ましい。発泡剤として使用できる過酸化水素水溶液の濃度は、0.5〜35重量%の範囲、好ましくは1〜25重量%の範囲、更に好ましくは5〜15重量%の範囲である。濃度が35重量%を超えると、発泡が早く進行されるため、安定に発泡できなくなり、場合によっては危険を伴う。一方、濃度が0.5重量%未満であると、過酸化水素量に対しての水の量が多くなりすぎて。粘度が低下し、発泡が安定しなくなる場合がある。
【0028】
金属粉末を発泡剤(H)として用いるときは、その平均粒径が1〜200μmの範囲にあることが好ましい。平均粒径が200μmを超えると、反応性が低下し、一方、1μmを下回ると分散性が低下するとともに、反応性が高くなり、発泡が速くなりすぎる恐れがある。
【0029】
4.曲面外壁の製造方法
本発明の曲面外壁の製造方法は、前述したように、SiO―Al系無機質粉体(A)、アルカリ金属珪酸塩(B)及び水(C)を主成分として含有する成形材料から、混合・混練工程(i)、押出成形工程(ii)、養生工程(iii)及び乾燥工程(iv)を経て曲面外壁を製造する方法であって、
養生工程(iii)では、押出成形後の成形材料を、長手方向に曲面の形状を持つトレーの上に支持させながら、反応硬化させることを特徴とするものである。
【0030】
先ず、本発明の曲面外壁の製造方法の概要を、図面を用いて、説明する。
図1は、本発明の曲面外壁の製造方法の一例を示す工程図である。図1において、以下の工程がある。
(i)混合・混練工程:本発明に係る成形材料の原材料成分を混合・混練する工程。
(ii)押出成形工程:(i)で得られた混合・混練物を押出成形する工程。
(iii)養生工程:(ii)で得られた成形体、すなわち、押出成形後の成形材料を、長手方向に曲面の形状を持つトレーの上に支持させながら、反応硬化させて、養生する工程。
(iv)乾燥工程:(iii)で得られた養生した曲面状の成形体を乾燥する工程。
【0031】
以下に、本発明の曲面外壁の製造方法を各工程に沿って詳細に説明する。
(1)混合・混練工程(i)
本発明に係る成形材料の原材料成分を混合・混練する工程である。
上記成形材料は、好ましくは、アルカリ金属珪酸塩(B)が全固形分の10〜30重量%かつSiO―Al系無機質粉体(A)の30〜100重量%、及び水(C)が全固形分の20〜40重量%かつアルカリ金属珪酸塩(B)の30〜60重量%である。
【0032】
上記混合・混練工程(i)では、成形材料として、それぞれ所定量のSiO―Al系無機質粉体(A)、アルカリ金属珪酸塩(B)、水(C)、に加えて、必要に応じて、さらに、タルク(D)、繊維(E)、無機質充填材(F)や発泡体(G)、或いは発泡剤(H)などを配合し、それらを混合・混練し、均一な混合物が得られる。
【0033】
上記の混合・混練方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の任意の混合機、混練機が使用できる。例えば、双腕ニーダー、加圧ニーダー、アイリッヒミキサー、スーパーミキサー、プラネタリーミキサー、バンバリーミキサー、コンティニュアスミキサー、あるいは連続混練機などを使用できる。
【0034】
(2)押出成形工程(ii)
上記の混合・混練工程(i)で得られた成形材料の混合・混練物を押出成形する工程である。
本発明において、使用される押出成形機は、特に限定されるものではなく、従来公知の任意のものが使用でき、通常、無機材料の成形に用いられる装置が使用できる。例えば、スクリュー式押出機、プランジャー式押出機、土練機などを使用できる。この成形の際に、混合時に巻き込んだ空気を抜き、得られた成形体を、高強度、低吸水性にするため、成形機の中で脱気する真空押出機、土練機と呼ばれる装置が好ましい。また、押出し方式としては、連続成形できるスクリュー式が好ましい。
さらに、得られた成形体は、常温で硬化させてもよいが、40〜200℃の温度で加熱硬化することもできる。
この押出成形工程(ii)により、得られた無機連続成形体などを、必要なサイズに切断して、例えば、押圧成形用金型に供給し、これを押圧成形することにより、所望の形状の成形体に賦形することも、できる。
【0035】
(3)養生工程(iii)
本発明において、養生工程(iii)は、上記押出成形工程(ii)で得られた成形体、すなわち、押出成形後の成形材料を、長手方向に曲面の形状を持つトレーの上に支持させながら、反応硬化させて、養生する工程である。
押出成形後、長手方向に曲面の形状を持つトレーの上に支持させながら、成形材料を反応硬化させる方法としては、曲面の径が大きく、外壁を、曲面を上に置いたときの高さが300mm以下であれば、剛性がある曲面のトレーを使用しても構わないが、それ以上の場合は、まず可撓性のある板、シートの上に成形材料を載せ、その板、シートごと成形材料を目的の形状に撓ませ、その形状を保つようにする。
【0036】
板、シートの材質としては、鋼板であればステンレス、樹脂鋼板などが好ましい。樹脂鋼板の樹脂としては、塩化ビニル、フッ素、ポリエステル、アクリル、ポリアミド、シリコーン等があげられるが、フッ素、シリコーン以外では、離型剤を塗布しないと、成形体が付着する可能性があるので、この2つが好ましい。
また、塗装、積層なしに金属板を使う場合は、成形体に移ってしまう錆の発生は、外観上好ましくないので、ステンレス等を用いることが好ましい。鋼板の厚さは、0.5mm〜3mmが好ましい。
樹脂板を用いる場合は、養生温度に耐える必要があるため、加熱する場合はポリプロピレン、フッ素樹脂などが好ましい。
【0037】
また、成形体をシートの上に引き取り、さらに、シートをトレーの上に載せることも可能で、この場合は、シートは腰のあるものが必要であり、PET樹脂が好ましい。また他の材質であれば、厚さ0.1mm以上であることが望ましい。
【0038】
また、成形材料を反応硬化させた後、さらに加熱、加湿するなど、従来公知の任意の方法で養生を行うことにより、機械的物性を向上することもできる。
養生方法は、特に限定されるものではなく、例えば、蒸気養生、湿熱養生、自然養生、オートクレーブ養生方法などが挙げられる。具体的な養生条件としては、例えば、温度60℃、相対湿度95%で6時間養生することなどが挙げられる。
【0039】
(4)乾燥工程(iv)
本発明において、乾燥工程(iv)は、上記養生工程(iii)で得られた養生した成形体を乾燥する工程である。
乾燥方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。例えば、熱風乾燥や自然乾燥などが挙げられる。
本発明の曲面外壁は、上記の各製造工程から得ることができる。
【実施例】
【0040】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0041】
実施例に用いた原材料は、以下のとおりであり、それぞれの所定量を使用した。
SiO―Al系粉体:エンゲルハード社製のメタカオリン「SATINTONE SP 33」(平均粒径3.33.3μm、比表面積13.9m/g)、100重量部。
タルク:日本タルク製の「MS」、平均粒度13μmのもの、50重量部。
微粉珪砂:住友セメント製のブレーン値5000cm/gのもの、50重量部。
ビニロン繊維:クラレ(株)製の「RM182」、長さ6mm、径14μmのもの、2重量部。
パルプ:三方商工製の「バージンパルプA」開繊品、5重量部。
アルカリ金属珪酸塩水溶液:アルカリ金属珪酸塩を所定量の水に添加して水溶液としたもので、KO:SiOがモル比で1:1.4であり、アルカリ金属珪酸塩の水溶液中での濃度が45重量%のもの、110重量部。
【0042】
[実施例1]
先ず、上記の成形材料の配合処方を、アイリッヒミキサーに供給し、5分間混合し、混合物を調製した。
次に、混合して得た混合物を、宮崎鉄工製の連続真空押出機「FM−100」を使用し、断面が幅450mm、厚さ12mmの成形体を押出成形した。この成形体を以下に示すような材質の上に引き取り、所定の形状になるように以下に示す方法でトレーの上で変形させ、その後60℃の雰囲気下で2時間養生し、硬化体を得た。
最後に、得られた硬化体を、50℃で5時間乾燥させて製品とした。
【0043】
図2に示すように、長さ3200mm、半径4625mmとなるように、幅500mmのステンレス板(SUS403、厚さ2mm)をフレームで固定し、表面の剛性をもたしたトレー上に押出機から押し出された材料を3000mmそのまま乗せた。この際、ステンレス板には、離型剤としてワイズファクトリー製ドノックス「C−11」を50g/m塗布した。硬化体は、円弧状で裏面の高低差が250mm、長さ3000mmのもので、トレーに沿った形状であることが確認できた。
また、得られた硬化体は、硬化反応を終了しており、容易にトレーから外すことが可能であった。
さらに、この硬化体の外観は、セメント系の材料の硬化体と異なり、白華の発生がなく、外壁として使用できる良好な外観であった。
【0044】
[実施例2]
以下に示す方法で実施した以外は、実施例1と全く同じ方法で、硬化体を得た。
【0045】
図3に示すように、厚さ1mm、長さ2000mm、幅500mmのステンレス(SUS403)板上に、長さ1800mmの成形体を引き取り、中央部がR500、中心角が90°の円弧となり、その両端が直線となるように、ステンレス板がセットできる様にした受け台にのせて、所定の養生を行った。
得られた硬化体は、中央部が円弧状で両端が住宅の角部に使用できる形状のものが得られた。
また、得られた硬化体は、硬化反応を終了しており、容易にトレーから外すことが可能であった。
さらに、この硬化体の外観は、セメント系の材料の硬化体と異なり、白華の発生がなく、外壁として使用できる良好な外観であった。
【0046】
[実施例3]
厚さ3mmのポリプロピレン板を使った以外は、実施例2と同じ方法で、曲面の成形体を製造した。実施例2とまったく同様のものが得られた。
【0047】
[実施例4]
以下に示す方法で実施した以外は、実施例1と全く同じ方法で、硬化体を得た。
【0048】
厚さ0.5mmのPETフィルム(テイジンデュポン製マイラー)をのせたトレー上に成形体を引き取り、長さ1000mmに切断後、中心部R50mm、中心角90°の図3と同様の形状の成形品を製造した。この成形品も、外壁の角部として使用するのに良好な形状を得た。
また、得られた成形品は、硬化反応を終了しており、容易にトレーから外すことが可能であった。
さらに、この成形品の外観は、セメント系の材料の硬化体と異なり、白華の発生がなく、外壁として使用できる良好な外観であった。
【0049】
[比較例1]
比較例1として、次に示す処方のセメント系材料の押出成形材料を使用し、実施例1と同条件で押出成形した。
普通ポルトランドセメント、100重量部。
タルク:日本タルク製の「MS」、平均粒度13μmのもの、50重量部。
微粉珪砂:住友セメント製のブレーン値5000cm/gのもの、50重量部。
ビニロン繊維:クラレ(株)製の「RM182」、長さ6mm、径14μmのもの、2重量部。
パルプ:三方商工製の「バージンパルプA」開繊品、5重量部。
メチルセルロース:信越化学製の「メトローズSH−15000」、1重量部。
水:45重量部。
【0050】
得られた成形体は、60℃で蒸気養生を行ったが、2時間では硬化に至らず、6時間後脱型可能となった。
しかしながら、脱型した硬化体は、表面に白華が発生し、外壁としての外観は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の曲面外壁は、セメント系材料に比べ、高耐久性を有し、また、成形性が良好であるために、外壁材などの建築材料等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の曲面外壁の製造方法の一例を表す工程図である。
【図2】押出成形後の成形材料を、長手方向に曲面の形状を持つトレーの上で、反応硬化させて、養生する工程の概要を説明した図である。(実施例1)
【図3】押出成形後の成形材料を、長手方向に曲面の形状を持つトレーの上で、反応硬化させて、養生する工程の概要を説明した図である。(実施例2)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO―Al系無機質粉体(A)、アルカリ金属珪酸塩(B)及び水(C)を含む成形材料を押出成形し、曲面状に反応硬化させてなることを特徴とする曲面外壁。
【請求項2】
前記成形材料の含有割合は、アルカリ金属珪酸塩(B)が全固形分の10〜30重量%であってかつSiO―Al系無機質粉体(A)の30〜100重量%であり、水(C)が全固形分の20〜40重量%であってかつアルカリ金属珪酸塩(B)の30〜60重量%であることを特徴とする請求項1に記載の曲面外壁。
【請求項3】
前記成形材料には、さらに、SiO―Al系無機質粉体(A)100重量部に対して、5〜500重量部のタルク(D)、1〜20重量部の繊維(E)、又は50〜700重量部の無機質充填材(F)を配合することを特徴とする請求項1又は2に記載の曲面外壁。
【請求項4】
SiO―Al系無機質粉体(A)、アルカリ金属珪酸塩(B)及び水(C)を主成分として含有する成形材料から、混合・混練工程(i)、押出成形工程(ii)、養生工程(iii)及び乾燥工程(iv)を経て曲面外壁を製造する方法であって、
養生工程(iii)では、押出成形後の成形材料を、長手方向に曲面の形状を持つトレーの上に支持させながら、反応硬化させることを特徴とする曲面外壁の製造方法。
【請求項5】
前記成形材料の含有割合は、アルカリ金属珪酸塩(B)が全固形分の10〜30重量%であってかつSiO―Al系無機質粉体(A)の30〜100重量%であり、水(C)が全固形分の20〜40重量%であってかつアルカリ金属珪酸塩(B)の30〜60重量%であることを特徴とする請求項4に記載の曲面外壁の製造方法。
【請求項6】
前記成形材料には、さらに、SiO―Al系無機質粉体(A)100重量部に対して、5〜500重量部のタルク(D)、1〜20重量部の繊維(E)、又は50〜700重量部の無機質充填材(F)を配合することを特徴とする請求項4又は5に記載の曲面外壁の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−290672(P2006−290672A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−113171(P2005−113171)
【出願日】平成17年4月11日(2005.4.11)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】