説明

最低限必須な結合決定基を用いた抗体特異性の移入

本発明は、参照抗体の結合特異性を有する抗体を作製する方法を提供する。本発明の方法により生成した抗体は、参照抗体からの重鎖または軽鎖CDR3からの少なくとも一つの最低限必須な結合特異性決定基を有する。本方法は、例えばヒト化手順に使用されうる。本発明は、本方法により作製されたライブラリーおよび抗体も提供する。


【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に組み入れられるそれぞれの出願、2004年1月20日出願の米国特許仮出願第60/537,364号および2004年2月23日出願の米国特許仮出願第60/545,216号の恩典を主張する。
【0002】
発明の背景
抗体介在性疾患の治療に適した多数の分子標的が、非ヒト抗体試薬を用いて立証されており、この過程は、将来ヒトゲノムから出現すると期待される新しい治療標的の多くに関して継続するであろう。標的が治療のために妥当であることが確認されるようになるにつれ、その標的の妥当性の確認に使用される抗体、概してマウス抗体は、生物学的薬物の開発の先導となる。しかし、治療適用の多くに関しては、患者における免疫原性が原因で、非ヒト抗体の有効性および安全性は損なわれている。よって、そのような抗体が治療応用に承認されうる前に、それらの抗体を同等の生体活性を有するヒトでの等価物に置換しなければならないか、またはヒトでの免疫原性を除去もしくは最小化するある方法でそれらの抗体を「ヒト化」しなければならない。
【0003】
抗原特異的ヒト抗体を単離するための確立された方法には、ヒト免疫グロブリン遺伝子座を遺伝子導入されているマウスからのハイブリドーマのスクリーニング(例えばJakobavits, 1998, Adv Drug Deliv Rev. 31:33-42)、ならびに繊維状バクテリオファージ(例えばMcCafferty et al., 1990, Nature 348:552-554)、酵母細胞(例えばBoder and Wittrup, 1997, Nat Biotechnol 15:553-557)、およびリボソーム(例えば Hanes and Pluckthun, 1997, Proc Natl Acad Sci USA 94:4937-4942)上に表出され、それらにコードされているヒト抗体フラグメントの組換えライブラリーについて、固定化抗原に対してパンニングを行うインビトロ法がある。これらの方法は、多くの有用なヒト抗体をもたらした。しかし、望ましい治療性質を有する多くの非ヒト抗体に関して、同等の生体活性を有するヒト抗体がこれらの方法を使用して単離されたことはない。
【0004】
ヒト免疫グロブリン遺伝子座を遺伝子導入されたマウスは、ヒトの多様性を完全に相補するものを一般に発現せず、親和性成熟はあまり効率的でない。このように、所望の親和性および特異性に関する成功率は、通常のマウスの場合よりも低い傾向にある。ディスプレイ技術の主な限界は、抗体レパートリーの偏った発現ならびにナイーブレパートリーの特異性および親和性の限界から生じる。ナイーブライブラリーからの抗原結合抗体は概して追加の親和性成熟を必要とするが、親和性成熟は現在のインビトロ法では困難な不確実な過程であり、さらに抗体に免疫原性エピトープを導入する場合がある。
【0005】
非ヒト抗体の免疫原性を最小化する一方で、本来の特異性および親和性を可能な限り大きく保持するための最も広く使用されている方法は、非ヒトフレームワーク領域に対する構造相同性に関して概して選択されたヒトフレームワーク領域に、非ヒト抗体のCDRを接合することを伴う(Jones et al., 1986, Nature 321:522-5; US Patent 5,225,539)。当初は、これらの方法は親和性の劇的な喪失をもたらした。しかしそれから、非ヒトCDR1およびCDR2のカノニカル構造を維持するために必要なフレームワーク領域中の主要な位置に非ヒト残基を復帰させることにより、親和性を幾分回復できることが示された(Bajorath et al., 1995, J Biol Chem 270:22081-4; Martin et al., 1991, Methods Enzymol. 203:121-53; Al-Lazikani, 1997,J Mol Biol 273:927-48)。CDR3の構造の方が多様であることから、CDR3の天然コンホメーションの回復の方がずっと不確定な仕事である。よって、CDR3の機能的コンホメーションを回復するために、どの非ヒト残基を復帰させるべきかを決定することは、可能であれば試行錯誤と相まった、大部分はモデリングの問題である。結果として、多くの場合で本来の非ヒト抗体の完全な親和性は回復されない。CDR接合による抗体のヒト化のための例示的な方法は、例えば米国特許第6,180,370号に開示されている。
【0006】
従来のCDR接合の取り組みの欠点を緩和するために、様々なハイブリッド選択の取り組みが試行されてきた。その取り組みでは、抗原の結合について連続ラウンドで選択を行う際に、非ヒト抗体の部分が相補性ヒト抗体配列のライブラリーと組み合わされたが、その過程で大部分の非ヒト配列はヒト配列に徐々に置き換わる。しかし、これらの取り組みは、CDR接合法(CDR-grafting)よりも一般にうまくいかなかった。例えば、鎖シャフリング法(chain-shuffling technique)(Marks, et al., 1992, Biotechnology 10:779-83)では、非ヒト抗体の一本の鎖をもう一方の鎖のナイーブヒトレパートリーと組み合わせる。これは、非ヒト鎖の親和性が抗原上の同じエピトープに対するヒトパートナーの選択を強いるに足るであろうという理由付けからである。次に、選択されたヒトパートナーは、残りの非ヒト鎖に対するヒト等価物の選択をガイドするために使用される。
【0007】
他の方法には、非ヒトCDR3が保持され、フレームワーク、CDR1およびCDR2を含めたV領域の残りだけが、連続的に実施される段階で個別に置換された鎖置換法がある(例えば米国特許出願第20030166871号; Rader, et al., Proc Natl Acad Sci USA 95:8910-15,1998 ; Steinberger, et al., J. Biol. Chem. 275:36073-36078, 2000; Rader, et al., J. Biol. Chem. 275:13668-13676, 2000)。しかし、この戦略は選択可能なヒトV領域が非ヒトCDR3とだけではなく、もう一方の非ヒトV領域とも同様に適合性でなければならないという欠点を依然として有する。この種間適合性は、選択されたヒトV領域での構造相同性に関して高い要求を課すため、非ヒトV領域と最も相同であるヒトV領域が一般に選択される。この点では、選択されたV領域でのCDR1およびCDR2が最初はヒト由来であることを除き、結果はCDR接合法の結果と極めて類似している。
【0008】
よって、治療応用のために必要な生体活性を有するヒト抗体の単離のための、または治療応用のための非ヒト抗体を「ヒト化する」ための現存する方法は、上記のように多くの限界を有する。そもそも、これらの限界は結合親和性を維持するために非ヒト配列を保持または含むことに関係する。このように、非ヒト配列を最小化することによって免疫原性エピトープの導入を最小にする効率的なヒト化法の必要性が存在する。本発明はこの必要性に取り組むものである。
【発明の開示】
【0009】
発明の簡潔な概要
本発明は、参照抗体から最低限必須な結合特異性決定基を移入することにより、標的抗原に関して参照抗体の結合特異性を有する抗体を作出する方法を提供する。これは、最低限必須な結合特異性決定基を含むDセグメントまたはCDR3またはCDR3-FR4または他の任意のCDR3-FR4フラグメントを移入する状況において、最低限必須な結合特異性を移入することによって実現されうる。これらの方法を使用して作出された抗体は、参照抗体の結合特異性と、しばしば親和性とを保持し、生殖細胞系配列からの最低限の分岐を有する。したがって、そのような抗体、例えばヒト化抗体は、従来技術の技法から得られた抗体よりも低免疫原性のはずである。
【0010】
一局面では、本発明は、以下を含む、参照抗体の結合特異性を有する抗体を作製する方法を提供する:
a)参照抗体からの重鎖CDR3の結合特異性決定基(BSD)をヒトVHセグメントの多様な集団と接続し、それによって参照抗体の重鎖CDR3 BSDを有するヒトVH領域のライブラリーを作出する段階;
b)参照抗体からの軽鎖CDR3 BSDをヒトVLセグメントの多様な集団と接続し、それによって参照抗体の軽鎖CDR3 BSDを有するヒトVL領域のライブラリーを作出する段階;
c)段階aのライブラリーと段階bのライブラリーとを組み合わせて、構成員が参照抗体重鎖CDR3 BSDを含む一つのVHおよび参照抗体軽鎖CDR3 BSDを含む一つのVLとを有する構成員を含む抗体ライブラリーを作出する段階;および
d)参照抗体と同じ抗原と結合する、段階cのライブラリーの構成員を単離する段階。一態様では、ヒトVHセグメントの多様な集団は、ヒト生殖細胞系である。ヒトVLセグメントの多様な集団は、ヒト生殖細胞系またはヒト生殖細胞系近縁でもありうる。このように、VHセグメントの多様な集団とVLセグメントの多様な集団との両方が、ヒト生殖細胞系でありうる。いくつかの態様、例えば選択された抗体が生殖細胞系VHおよび/またはVLセグメントを有する態様では、方法は、段階(d)で選択された抗体からCDR3の一方または両方に突然変異を誘発する段階、および段階(d)で選択された抗体よりも標的抗原に対して高い親和性を有する抗体を選択する段階をさらに含む。
【0011】
ヒトVHセグメントの多様な集団および/またはヒトVLセグメントの多様な集団は、一つのVセグメントサブクラス由来でもありうる。
【0012】
いくつかの態様では、参照抗体からのCDR3 BSDの少なくとも一つは、参照抗体からのCDR3-FR4セグメントである。
【0013】
FR4は、ヒト生殖細胞系FR4でありうる。いくつかの態様では、ヒトFR4は、多様なヒトFR4配列のライブラリーである。
【0014】
本発明のいくつかの態様では、Jセグメントは、ヒト抗体Jセグメントである。
【0015】
参照抗体からのBSDは、参照抗体からの重鎖または軽鎖CDR3でありうる。いくつかの態様では、重鎖と軽鎖との両方に関するBSDは、参照抗体からのCDR3である。
【0016】
重鎖BSDは、参照抗体からのDセグメントでもありうる。他の態様では、重鎖および/または軽鎖BSDは、参照抗体からの最低限必須な結合特異性決定基でありうる。
【0017】
いくつかの態様では、段階(c)のライブラリーの構成員を単離する段階は、参照抗体と同じか、またはそれよりも高い親和性で抗原に結合するライブラリーの構成員を同定するスクリーニング段階を含む。
【0018】
本発明の方法のために、参照抗体は任意の抗体でありうるが、概して非ヒト抗体である。
【0019】
ライブラリーを組み合わせる段階は、VHおよびVL領域の発現を推進するために別々のプロモーターを使用して、または単一のプロモーターを使用して、ヒトVH領域のライブラリーおよびヒトVL領域のライブラリーを単一の発現ベクター上で発現させる段階を含みうる。または、ライブラリーを組み合わせる段階は、一つの発現ベクターが一方のライブラリーを発現する二つの発現ベクターを使用して、ヒトVH領域のライブラリーおよびヒトVL領域のライブラリーを発現させる段階を含みうる。
【0020】
本発明の方法では、段階c)の抗体ライブラリーは抗体を含むことができ、ここで、抗体は、IgG、Fv、Fab、Fab'、F(ab')2、一本鎖Fv、または一つもしくは複数のドメインの欠失を有するIgGである。
【0021】
ライブラリーの構成員を単離する段階は、コロニーリフト結合アッセイを使用したスクリーニング、またはバクテリオファージディスプレイ、酵母細胞ディスプレイ、細菌細胞ディスプレイ、リボソームディスプレイ、および哺乳動物細胞ディスプレイのようなディスプレイ技術を使用したスクリーニングを含めた様々なスクリーニング方法を含みうる。一実施形態では、スクリーニングは、ライブラリーの構成員のプールをスクリーニングすることによって実施される。
【0022】
いくつかの態様では、方法は、以下をさらに含む:
e)(d)により選択された複数の構成員からの重鎖V領域を、参照抗体の軽鎖CDR3 BSDを有するヒトVL領域のライブラリーと組み合わせる段階;および
f)参照抗体と同じ抗原に結合する構成員を選択する段階。
【0023】
他の態様では、方法は、以下をさらに含む:
e)(d)により選択された複数の構成員からの軽鎖V領域を、参照抗体の重鎖CDR3 BSDを有するヒトVH領域のライブラリーと組み合わせる段階;および
f)参照抗体と同じ抗原に結合する構成員を選択する段階。
【0024】
方法は、以下も含みうる:
e)(d)により選択された複数の構成員からの重鎖V領域を、(d)により選択された複数の構成員からの軽鎖V領域と組み合わせる段階;および
f)参照抗体と同じ抗原に結合する構成員を選択する段階。
【0025】
本発明は、以下を含む、参照抗体の結合特異性を有する抗体を作製する方法を追加的に提供する:
a)参照抗体の重鎖からのCDR3 BSDをヒトVHセグメントの多様な集団と接続し、それによって参照抗体の重鎖CDR3からのBSDを有する多様なVH領域を含む集団を作出する段階;
b)段階aの集団を、参照抗体からの軽鎖CDR3 BSDと接続したヒト生殖細胞系サブクラスVセグメントを含むVLと組み合わせて、抗体ライブラリーを作出する段階;および
c)参照抗体と同じ抗原と結合する段階cのライブラリーの構成員を単離する段階。
参照抗体からのCDR3 BSDの少なくとも一つは、最低限必須な結合特異性決定基または参照抗体からのDセグメント(重鎖に関する)、またはCDR3でありうる。いくつかの態様では、ヒトVH領域の多様な集団は生殖細胞系VHセグメントを含む。他の態様では、段階(b)のVLのJセグメント領域もヒト生殖細胞系配列でありうる。
【0026】
本発明は、以下を含む、参照抗体の結合特異性を有する抗体を作製する方法も提供する:
a)参照抗体の軽鎖からのCDR3 BSDをヒトVLセグメントの多様な集団と接続し、それによって参照抗体の軽鎖CDR3からのBSDを有する多様なVL領域を含む集団を作出する段階;
b)段階aの集団を、参照抗体からのCDR3 BSDと接続したヒト生殖細胞系サブクラスVセグメントを含むVHと組み合わせて抗体ライブラリーを作出する段階;および
c)参照抗体と同じ抗原と結合する段階cのライブラリーの構成員を単離する段階。参照抗体からのBSDは、最低限必須な結合特異性決定基、またはDセグメント(BSDが重鎖由来の場合)またはCDR3でありうる。いくつかの態様では、ヒトVL領域の多様な集団は、生殖細胞系VLセグメントを含みうる。追加の態様では、CDR3 BSDと接続したヒトサブクラスVセグメントを含むVHのJセグメント領域は、ヒト生殖細胞系配列である。
【0027】
本発明は、以下を含む、参照抗体の結合特異性を有する抗体を作製する方法も提供する:
a)参照抗体の軽鎖CDR3からの最低限必須な結合特異性決定基を、ヒトVLセグメントの多様な集団と接続し、それによって参照抗体の軽鎖CDR3 BSDを有する多様なVL領域を含む集団を作出する段階;
b)段階(a)の集団を参照抗体からのVH領域と組み合わせて抗体ライブラリーを作出する段階;および
c)参照抗体と同じ抗原と結合する、段階cのライブラリーの構成員を単離する段階。いくつかの実施形態では、(a)におけるヒトVLセグメントの多様な集団は生殖細胞系である。
【0028】
本方法は、以下をさらに含みうる:
d)参照抗体からの重鎖CDR3からのBSDをヒトVHセグメントの多様な集団と接続し、それによって参照抗体の重鎖CDR3 BSDを有する多様なVH領域を含む集団を作出する段階;
e)(c)で単離された抗体からのVL領域の集団を提供する段階;
f)段階(d)の集団と段階(e)の集団とを組み合わせて抗体ライブラリーを作出する段階;および
g)参照抗体と同じ抗原と結合する段階(f)ライブラリーの構成員を単離する段階。
【0029】
本発明は、以下を含む、参照抗体の結合特異性を有する抗体を作製する方法をさらに提供する:
a)参照抗体の重鎖CDR3からのBSDを、ヒトVHセグメントの多様な集団と接続し、それによって参照抗体の重鎖CDR3 BSDを有する多様なVH領域を含む集団を作出する段階であって、ここで、BSDが最低限必須な結合特異性決定基、Dセグメント、およびDセグメント-FR4からなる群より選択される段階;
b)段階aの集団を、参照抗体からのVL領域と組み合わせて抗体ライブラリーを産生する段階;および
c)参照抗体と同じ抗原と結合する(b)のライブラリーの構成員を単離する段階。(a)のヒトVHセグメントの多様な集団は、例えば生殖細胞系でありうる。
【0030】
いくつかの態様では、方法は、以下をさらに含む:
d)参照抗体の軽鎖からのCDR3からのBSDをヒトVLセグメントの多様な集団と接続し、それによって参照抗体の軽鎖CDR3 BSDを有する多様なVL領域を含む集団を作出する段階;
e)(d)で単離された抗体からのVH領域の集団を提供する段階;
f)段階(d)の集団と段階(e)の集団とを組み合わせて抗体ライブラリーを作出する段階;および
g)参照抗体と同じ抗原と結合する(f)のライブラリーの構成員を単離する段階。
【0031】
別の局面では、本発明はライブラリーを提供する。例えば、そのようなライブラリーは、重鎖Vセグメントの多様な集団をコードする複数の核酸を含む場合があり、ここで、VセグメントはCDR3と連結していない。本発明は、軽鎖Vセグメントの多様な集団をコードする核酸を含むライブラリーも提供し、ここで、VセグメントはCDR3と連結していない。一方または両方のライブラリーのVセグメントは、例えばヒト生殖細胞系でありうる。
【0032】
別の態様では、本発明は複数のヒト抗体V領域ペアを含むライブラリーを提供し、V領域ペアは、以下を含む:i)ヒトVセグメントおよび参照抗体からの重鎖CDR3とを含む未選択の重鎖V領域、ならびに ii)ヒトVセグメントおよび参照抗体からの軽鎖CDR3とを含む未選択の軽鎖V領域。
【0033】
他の態様では、ライブラリーは、ヒト抗体V領域ペアをコードする核酸を含むライブラリーであって、ここで、VHおよびVLのVセグメントは、それぞれ関心対象の参照抗体からのMEBSDと連結している。
【0034】
本発明のライブラリーは、複数のVHまたはVL領域をコードする核酸も含む場合があり、ここで、VHまたはVL領域は、一つのVHまたはVLサブクラスからのVセグメントを含み、ここでV領域はDおよび/またはJセグメントを欠如する。一態様では、VH領域のVセグメントは生殖細胞系であり、および/またはVL領域のVセグメントは生殖細胞系である。
【0035】
本発明は、複数の抗体V領域ペアを含むライブラリーも提供し、ここで、ペアは、以下を含み:i)参照抗体からの重鎖CDR3からの結合特異性決定基BSDを含む重鎖V領域が、多様なVセグメントと接続したもの、および ii)参照抗体からの軽鎖CDR3からのBSDを含む軽鎖V領域が多様なVセグメントと接続したものであり、ここで、BSDの少なくとも一つは参照抗体のCDR3よりも小さいものを含む。
【0036】
別の態様では、本発明のライブラリーは、参照抗体の重鎖CDR3からのBSDがVHセグメントの多様な集団と接続したものを含む複数のVH領域を含むライブラリーであり、但し、BSDは参照抗体重鎖CDR3よりも小さい。
【0037】
他の態様では、本発明のライブラリーは、参照抗体の軽鎖CDR3からのBSDがVLセグメントの多様な集団と接続したものを含む複数のVL領域を含み、但し、BSDは参照抗体軽鎖CDR3よりも小さい。
【0038】
別の局面では、本発明は抗体を提供する。いくつかの態様では、そのような抗体は、ヒトVセグメント、非ヒト参照抗体からのDセグメントおよびヒトJセグメント、例えば生殖細胞系Jセグメントを含むVH領域を含む。ヒトVセグメントは生殖細胞系Vセグメントでもありうる。
【0039】
別の態様では、本発明は、ヒト生殖細胞系Vセグメントおよび参照抗体からの重鎖CDR3からのBSDとを有するVH領域を含む抗体を提供する。BSDは、例えば参照抗体からのCDR3-FR4、参照抗体からのCDR3もしくは参照抗体からのDセグメント、またはMEBSDでありうる。
【0040】
本発明は、ヒト生殖細胞系Vセグメントおよび参照抗体からの軽鎖CDR3からのBSDとを有するVL領域を含む抗体も提供する。BSDは、例えば参照抗体からのCDR3-FR4、MEBSDまたは参照抗体からのCDR3でありうる。
【0041】
本発明の任意の方法、ライブラリーまたは抗体において、抗体は、IgG、Fv、Fab、Fab'、F(ab')2、一本鎖Fv、または一つもしくは複数のドメインの欠失を有するIgGでありうる。
【0042】
発明の詳細な説明
定義
本明細書に使用する「抗体」は、機能的には結合タンパク質として定義され、構造的には動物が産生する抗体の免疫グロブリンコード遺伝子のフレームワーク領域から得られるものとして当業者に認められているアミノ酸配列を含むと定義されるタンパク質を指す。抗体は、免疫グロブリン遺伝子または免疫グロブリン遺伝子のフラグメントによって実質的にコードされる一つまたは複数のポリペプチドからなりうる。存在を認められた免疫グロブリン遺伝子には、κ、λ、α、γ、δ、εおよびμ定常領域遺伝子、ならびに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子がある。軽鎖は、κまたはλのいずれかとして分類されている。重鎖は、γ、μ、α、δ、またはεとして分類されており、これらは順にそれぞれ免疫グロブリンのクラスである、IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEを規定する。
【0043】
免疫グロブリン(抗体)の典型的な構造単位は、四量体を含むことが公知である。各四量体は、二つの等しいペアのポリペプチド鎖から構成され、各ペアは一本の「軽」鎖(約25kD)および一本の「重」鎖(約50kD〜70kD)とを有する。各鎖のN末端は、抗原認識を主に担う、約100個〜110個以上のアミノ酸の可変領域(V)を規定する。可変領域軽鎖(VL)および可変領域重鎖(VH)という用語は、それぞれこれらの軽鎖および重鎖を指す。
【0044】
抗体は、無傷の免疫グロブリンとして、または様々なペプチダーゼを用いた消化により産生した十分に特徴付けられた多数のフラグメントとして存在する。このように、例えばヒンジ上へのパパイン消化はFabを産生する。ペプシンはヒンジ領域でのジスルフィド連結の後ろで抗体を消化して、Fab'の二量体であるF(ab)'2を産生し、それ自体は一つまたは複数のジスルフィド結合によって軽鎖にVH-CH1-ヒンジが接続したものである。F(ab)'2を温和な条件で還元して、ヒンジ領域でジスルフィド結合を切断することによって、(Fab')2二量体をFab'単量体に変換することができる。Fab'単量体は、本質的にヒンジ領域の一部を有するFabである(他の抗体フラグメントのさらに詳細な説明についてはFundamental Immunology, W.E. Paul, ed., Raven Press, N. Y. (1993) 参照)。様々な抗体フラグメントが、無傷抗体の消化によって規定されているが、当業者はそのようなFabまたはFab'フラグメントを化学的にまたは組換えDNA法を利用することによるいずれかでデノボ合成できることを認識しているであろう。このように、本明細書において使用するような用語、抗体は、抗体全体の修飾によって産生するか、または組換えDNA法を使用してデノボ合成されるかのいずれかである、抗体フラグメントも含む。本発明の抗体には、一本鎖抗体(ポリペプチド一本鎖として存在する抗体)があり、一本鎖抗体は、可変領域重鎖と可変領域軽鎖とが(直接またはペプチドリンカーを介して)共に連結して連続したポリペプチドを形成している一本鎖Fv抗体(sFvまたはscFv)であることが多い。一本鎖Fv抗体は、直接接続しているか、またはペプチドをコードするリンカーによって接続しているかのいずれかである、VHコード配列およびVLコード配列とを含む核酸から発現されうる、共有連結したVH-HLヘテロ二量体である。Huston, et al. (1988) Proc. Nat.Acad. Sci. USA, 85: 5879-5883。VHおよびVLは、ポリペプチド一本鎖として相互に結びついているが、VHおよびVLドメインは非共有結合的に会合する。繊維状ファージの表面に発現された最初の機能的抗体分子は、一本鎖Fv(scFv)であったが、代替の発現戦略も成功した。例えば一方の鎖(重鎖または軽鎖)をg3キャプシドタンパク質と融合させ、相補性鎖が可溶性分子としてペリプラスムに搬出されるならば、Fab分子をファージ上に表出させることができる。二つの鎖は同一または異なるレプリコンにコードされうるが、各Fab分子中の二本の抗体鎖は翻訳後に組み立てられ、二量体はg3pに一方の鎖が連結することによってファージ粒子に組み込まれる(例えば米国特許第5,733,743号参照)。抗体V領域から得た自然に凝集するが化学的に分離された軽鎖および重鎖ポリペプチド鎖を、抗原結合部位の構造に実質的に類似した三次元構造に折り畳まる分子に変換しているscFv抗体および多数の他の構造は、当業者に公知である(例えば米国特許第5,091,513号、第5,132,405号および第4,956,778号参照)。本発明の抗体には、ファージ上に表出された全ての抗体が含まれる(例えばscFv, Fv, Fabおよびジスルフィド連結Fv(Reiter et al. (1995) Protein Eng. 8: 1323-1331)。抗体には二重特異性抗体およびミニMabも含まれうる。
【0045】
本明細書において使用する「V領域」は、フレームワーク1(FR1)、CDR1、フレームワーク2(FR2)、CDR2、フレームワーク3(FR3)、CDR3およびフレームワーク4(FR4)のセグメントを含む抗体可変領域を指す。
【0046】
本明細書において使用する用語「Vセグメント」は、セグメントFR1、CDR1、FR2、CDR2およびFR3を含むが、CDR3およびフレームワーク4(FR4)を含まない、可変領域の部分である。
【0047】
「Dセグメント」は、D遺伝子セグメントによってコードされる重鎖可変領域の領域(この場合、V領域のCDR3)を指す。同様に「Jセグメント」は、J遺伝子セグメントによってコードされる領域を指す。これらの用語は、親和性の成熟の際に起こりうるか、または移入されうる様々な修飾、付加、欠失、および体細胞突然変異を含む。
【0048】
「結合」は、相互に対する分子の、例えば基質に対する酵素、抗原に対する抗体、相補性鎖に対するDNA鎖の密着を指す。結合は、分子表面の部分の形状および化学的性質が相補性であることから起こる。共通のたとえは、酵素がどのように基質周辺で適合するかを説明するために使用される「鍵と鍵穴」である。
【0049】
抗体の「結合特異性」は、抗体が他の抗原ではなく、ある抗原を認識する能力を指し、非特異的なバックグラウンド結合に対して一般に測定される。典型的には、抗体がバックグラウンド結合よりも少なくとも10倍高く標的抗原に結合する場合に、その抗体は特異的とみなされる。
【0050】
本発明に関連して使用される「結合特異性決定基」(BSD)は、CDR3-FR4領域または結合特異性を仲介するこの領域の部分を指す。BSDは重鎖と軽鎖とのペアとして機能し、すなわちBSDは参照抗体の相補性鎖上の同族パートナーと共に機能する。したがって、結合特異性決定基は、CDR3-FR4、CDR3、CDR3の最低限必須な結合特異性決定基、Dセグメント(重鎖領域に関する)、または参照抗体の結合特異性を付与するCDR3-FR4の他の領域でありうる。
【0051】
本明細書において使用する「最低限必須な結合特異性決定基」(MEBSD)は、抗体のV領域に存在する場合に結合特異性を付与する、CDR3よりも小さい任意の領域を指す。MEBSDは参照抗体の相補性鎖上の同族パートナーと共にペアになって機能する。
【0052】
「相補性決定領域」または「CDR」は、KabatおよびChothiaによって例示されるような当技術分野で認められた用語を指す。CDRは、超可変領域または超可変ループとしても一般に公知である(Chothia and Lesk (1987) J. Mol. Biol. 196: 901; Chothia et al. (1989) Nature 342: 877; Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest (National Institutes of Health, Bethesda, Md.) (1987); および Tramontano et al. (1990) J. Mol. Biol. 215: 175)。「フレームワーク領域」または「FR」は、CDRに隣接するVドメインの領域を指す。CDRおよびフレームワーク領域の位置は、当技術分野で周知の様々な定義、例えばKabat, Chothia, international ImMunoGeneTics database (IMGT)およびAbM(例えばJohnson et al., 前記参照; Chothia & Lesk,1987, J. Mol. Biol. 196,901-917; Chothia, et al., 1989, Nature 342, 877-883; Chothia, et al., 1992, J. Mol. Biol. 227, 799-817; Al-Lazikani et al., J.Mol.Biol 1997, 273 (4)参照)を使用して決定できる。抗原組み合わせ部位の定義も以下に記載されている:Ruiz et al., IMGT, the international ImMunoGeneTics database. Nucleic Acids Res., 28, 219-221 (2000); およびLefranc, M.-P. IMGT, the international ImMunoGeneTics database. Nucleic Acids Res. Jan 1;29(1):207-9 (2001); MacCallum et al, J. Mol. Biol., 262 (5), 732-745 (1996); Martin et al, Proc. Natl Acad. Sci. USA,86,9268-9272 (1989); Martin, et al, Methods Enzymol., 203, 121-153, (1991); Pedersen et al, Immunomethods, 1,126, (1992); および Rees et al, In Sternberg M.J.E. (ed.), Protein Structure Prediction. Oxford University Press, Oxford, 141-172 1996)。
【0053】
「抗原」は、適当な条件下で特異的免疫応答を誘導可能な物質、およびその応答の産物、すなわち特異的抗体もしくは特異的に感作したTリンパ球、またはその両方と反応可能な物質を指す。抗原は、毒素および外来タンパク質のような可溶性物質、または細菌および組織細胞のような微粒子でありうるが、しかし、抗原決定基(エピトープ)として公知であるタンパク質または多糖分子の部分だけが、抗体またはリンパ球上の特異的受容体と組み合わさる。より広範には、用語「抗原」は、本明細書において任意の物質を指すために使用され、その物質が免疫原性であるかどうかにかかわらず、その物質に対して抗体が結合するか、またはその物質に対する抗体が所望される。そのような抗原に関して、抗体は任意の免疫応答とは無関係に組換え法によって同定されうる。
【0054】
「エピトープ」は、抗体の可変領域結合ポケットと相互作用する結合相互作用を形成可能な抗原または他の高分子の部分を指す。概して、そのような結合相互作用は、CDRの一つまたは複数のアミノ酸残基との分子内接触として出現する。
【0055】
「標的」は、参照抗体が結合する分子を指すために本明細書において使用される。よって、「標的」は、本明細書において「抗原」と同義で使用されることが多い。
【0056】
本明細書において使用する「参照抗体」は、抗体を指し、当業者はその抗体に関して「改善した」特性、例えば低減した免疫原性、増加した親和性などを有する変異体を得ることを望んでいる。参照抗体は可変領域BSDのペアの供給源である。
【0057】
「ライブラリー」は、ヌクレオチド配列、例えばクローン内の抗体をコードするDNAの収集物、または抗体ポリペプチドの遺伝的に多様な収集物を意味する。
【0058】
「レパートリーライブラリー」は、抗体、またはFab、scFv、Fd、LC、VHもしくはVLのような抗体フラグメントをコードする遺伝子のライブラリーを指し、そのライブラリーは、ヒトドナーに存在する抗体の天然集合または「レパートリー」から獲得され、末梢血および脾臓の細胞から主に獲得される。しばしば、ヒトドナーは「非免疫性」、すなわち感染の症状を示していない。
【0059】
「発現ベクター」は、宿主細胞での特定の核酸の転写を可能にする一連の指定の核酸エレメントを用いて、組換え的または合成的に生成された核酸構築体である。発現ベクターは、プラスミド、ウイルスまたは核酸フラグメントの一部でありうる。概して、発現ベクターには、プロモーターに作動可能に連結して転写される核酸がある。
【0060】
「連結」または「接続」または「融合」は、コード配列の組換え融合を非限定的に含めた、機能的にポリペプチドを結びつけることを指す。
【0061】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は、本明細書において相互交換可能に使用され、アミノ酸残基のポリマーを指す。用語は、一つまたは複数のアミノ酸残基が対応する天然アミノ酸の人工化学模倣体であるアミノ酸ポリマーならびに天然アミノ酸ポリマーおよび非天然アミノ酸ポリマーにあてはまる。本明細書において使用する本用語は、全長タンパク質(すなわち抗原)を含めた任意の長さのアミノ酸鎖を包含し、ここで、そのアミノ酸残基は共有ペプチド結合によって連結している。
【0062】
「核酸」は、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドおよび一本鎖または二本鎖形態のいずれかのそのポリマーとを指す。本用語は、公知のヌクレオチドアナログまたは修飾された主鎖残基もしくは連結を含有する核酸を包含し、それらの核酸は、合成、天然、および非天然であり、参照核酸と類似した結合性質を有し、参照ヌクレオチドと類似した方法で代謝される。そのようなアナログの例には、ホスホロチオエート、ホスホルアミデート、メチルホスホネート、キラルメチルホスホネート、2-O-メチルリボヌクレオチドおよびペプチド核酸(PNA)があるが、それに限定されるわけではない。
【0063】
特に記載のない限り、特定の核酸配列は保守的に修飾された変異体(例えば縮重コドンの置換)、相補性配列、ならびに明示的に表示された配列も暗黙に包含する。具体的には、縮重コドンの置換は一つもしくは複数の選択された(または全ての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基のような残基に置換されている配列を発生させることによって実現されうる。用語、核酸は、遺伝子、cDNA、mRNA、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドを指す。
【0064】
「組換え核酸」は、自然界で通常みられない形態の核酸を指す。すなわち、組換え核酸は、自然にはその核酸に隣接しないヌクレオチド配列が隣接するか、または自然界で通常みられない配列を有する。組換え核酸は、制限エンドヌクレアーゼによる核酸の操作により、または、その代わりにポリメラーゼ連鎖反応のような技法を使用してインビトロで本来形成されうる。いったん組換え核酸が作製されて、宿主細胞または生物に再導入されると、その核酸は非組換え的に、すなわちインビトロ操作よりもむしろ宿主細胞のインビボ細胞機構を使用して複製するであろうが、しかし、そのような核酸がいったん組換え的に産生したならば、その後非組換え的に複製されても、本発明の目的のために依然として組換えとみなされることは言うまでもない。
【0065】
「組換えポリペプチド」は、組換え核酸から発現されるポリペプチド、またはインビトロで化学合成されるポリペプチドを指す。
【0066】
「精製された」または「単離された」は、表示された核酸またはポリペプチドが他の生物学的高分子、例えばポリヌクレオチド、タンパク質などの実質的な不在下で存在することを意味する。一つの態様では、表示された存在する生物学的高分子の少なくとも95重量%、さらに好ましくは少なくとも99.8重量%を構成するようにポリヌクレオチドまたはポリペプチドは精製される(しかし、水、緩衝剤および他の低分子、特に1000ダルトン未満の分子量を有する分子は存在しうる)。
【0067】
導入
現在の抗体ヒト化戦略は、ヒト配列の選択過程で実質的な量の非ヒト配列を保持する(例えば6個のCDR全てまたはV領域全体の少なくとも一つのいずれかが、初回の選択の際に保持される)。よって、結合特異性および親和性の保持は、選択されたヒト配列が本来の非ヒト配列と高度に相同であることに余儀なく依存する。しかし同時に、非ヒトタンパク質を十分にヒトタンパク質にして、ヒトでの免疫原性を最小にするために、かなりの配列の分岐が必要である。その結果は、結合特異性および親和性の保持と、非ヒトタンパク質配列からヒト配列への置換との間の妥協であり、その結果「ヒト化」抗体は、完全にはヒト抗体ではなく、出発抗体に比べて概して親和性を喪失している。
【0068】
本発明は、たとえ圧倒的多数のヒトV領域がCDR32の抗原結合コンホメーションを支持せず、他のCDRによる抗原との結合も提供しないであろうとも、BSDペアの最適な抗原結合コンホメーションも、他のCDRによる抗原との結合のどちらも、問題となる非ヒトV領域に対するヒトV領域の平均相同性よりも有意に大きな相同性を必要としないという発見に基づく。このように、本発明は参照抗体からヒトVセグメントにBSDペアを移入することによって、最小の潜在的な免疫原性配列を有するヒト化抗体を作出する方法を提供する。
【0069】
本発明は、ヒト化している非ヒト参照抗体にその方法を適用することによって大部分は説明されるが、その方法は、参照抗体から非参照抗体のVセグメントにBSDを移入することが理想的である任意の状況で採用されうることは言うまでもない。例えばある適用、例として獣医学への適用では、参照抗体のBSDをほかの種由来のVセグメントに移入することが理想的でありうる。その参照抗体は、マウス、ラット、もしくはウサギ、ならびにヒツジ、ウマ、ウシ、ヤギ、ラクダ科の動物(camellid)、もしくは霊長類、または抗体を産生する他の任意の脊椎動物を含めた任意の種からのものでありうる。
【0070】
本発明は、結果として生じる抗体が結合特異性および親和性を保持するが、一方で同時に大部分の非ヒト配列がヒト配列に置換されている、抗体をヒト化する方法を提供する。これは、参照抗体からBSDペア、例えばCDR3ペア(CDR32)を移入することによって実現される。親和性成熟した抗体、例えば参照抗体において、重鎖および軽鎖BSDは相互に密接に接触しており、合同した抗原結合コンホメーションを相互に安定化するために最適化されており、よって、それらは一単位、すなわちBSDペアを形成している。その抗原結合コンホメーションは、もちろんV領域の基礎となるフレームワークの支持に依存する。親和性成熟したBSD、例えば参照抗体のBSDを、重鎖または軽鎖Vセグメントペアの完全なヒトレパートリーの構造の多様性および安定性と組み合わせる場合、BSDの最適な抗原結合コンホメーションを完全に支持する足場は、ファージディスプレイ、細胞生存率、コロニーリフト結合アッセイ(CLBA)、または多様なイムノアッセイ、例えばELISAアッセイを含めるがそれに限定されるわけではない、選択系の助けを借りて容易に同定される。
【0071】
さらに、多様な生殖細胞系VセグメントへのBSDペアの移入は、50nMを超える親和性を有するV領域の選択をもたらすことが多い。これらの選択されたV領域は、任意の抗体の親和性成熟過程にも組み込まれうる。Vセグメントライブラリーは、CDR3レパートリーを除くと比較的小さく、よって、多くの通常の選択系用の検索可能なサイズのライブラリーで、ヒトV領域の選択を一方または両方のBSDの限定的突然変異誘発性多様化と組み合わせることもできる。
【0072】
本発明は抗体のヒト化に及ぼす相同性の束縛を最小化するが、相同性にいかなる選択圧も必ずしも課していないことを強調すべきである。このように、例えば非ヒト親セグメントに高い相同性を有するヒトVセグメントがその抗原に対して等しいかまたはより高い親和性を保持するならば、そのセグメントを本発明により依然として選択できる。
【0073】
以下の項に、V領域レパートリーのクローニング、BSDの移入、ライブラリーの発生およびスクリーニング法を追加的に説明する。
【0074】
Vセグメントレパートリーのクローニング
参照抗体の重鎖および/または軽鎖Vセグメントを置換するためのライブラリーを発生させる際に使用されるVセグメントレパートリーは、任意の入手源でありうる。例えば末梢血または脾臓から得たcDNA由来の所望のセグメントに適したプライマーを使用するポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による増幅によって、ヒトレパートリーを発生させることができ、この場合、そのレパートリーは体細胞突然変異を有するクローンを含むと期待される。または、生殖細胞系にコードされる配列を得るために、非免疫系細胞からのゲノムDNAの増幅によってレパートリーを得ることができる。
【0075】
ヒト生殖細胞系Vセグメントのレパートリーは、51個の重鎖V領域、40個のκ軽鎖Vセグメントおよび31個のλ軽鎖Vセグメントからなり、合計3,621個の生殖細胞系V領域ペアを作り上げている。さらに、これらのVセグメントの大部分に関して安定な対立遺伝子変異体が存在するが、生殖細胞系レパートリーの構造多様性に及ぼすこれらの変異体の寄与は限定的である。全てのヒト生殖細胞系Vセグメント遺伝子の配列は公知であり、MRC Centre for Protein Engineering, Cambridge, United Kingdomによって提供されるV塩基データベースからアクセスすることができる(Chothia et al., 1992, J Mol Biol 227:776-798; Tomlinson et al., 1995, EMBO J 14:4628-4638; and Williams et al., 1996, J Mol Biol 264:220-232も参照)。親和性成熟過程の際に体細胞過剰突然変異誘発により発生するVセグメント変異体も、Vセグメントレパートリーに重要な貢献をなしうる。それは、これらの突然変異がランダムでないと思われ、高親和性の抗原特異性を容易にするような構造の調整を付与しうるからである。ナイーブ抗体は最大の結合多様性をもつために広い特異性および低親和性に関して最適化されている一方で、親和性成熟した抗体は、さらに厳密なCDRに好都合な構造の適合を含む場合があり、そのCDRは高親和性の抗原特異性結合に必要である(例えばDiaz and Klinman, 2000, Immunol Res. 21:89-102)。
【0076】
生殖細胞系ヒトV領域レパートリーおよび親和性成熟したヒトV領域レパートリーの両方を、例えばしばしば多数の(例えば少なくとも10人の)健康個体からプールされた末梢血リンパ球(PBL)から、通常のcDNAクローニング法を使用して回収できる(Sambrook and Russell, eds, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd Ed, vols. 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001)。発現された配列において生殖細胞系の頻度分布が均一でない場合は、三つのV領域アイソタイプ(VH、Vκ、およびVλ)のそれぞれについて少なくとも103個の個別のクローンを捕捉してレパートリーの最適な多様性を確実にすることが賢明である。PCRを使用して、クローニング過程の際にV領域配列を増幅させることができる。しかし、指数的な増幅メカニズムは、ランダムに偏る傾向があり、これが多様なプライミング効率を有する縮重プライマーの使用により度合いを増して、多様性の喪失を招くおそれがある。このように、増幅が望まれる場合、可能であればインビトロ転写のようなプライマー非依存性線形増幅法を使用することが望ましい場合がある。(Sambrook and Russell, eds, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd Ed, vols. 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001)。
【0077】
一つの態様では、標準法を使用して、mRNAをヒトPBLまたは他の富リンパ球組織から単離する(例えばCurrent Protocols in Molecular Biology, Ausubel, ed. John Wiley & Sons, Inc. New York, 1997)。例えば実施例に記載されるような標準的なPCRプロトコルを使用して、またはインビトロ転写に基づくプロトコルを使用して、ヒトV領域配列をコピーしてクローニングする。例えば、インビトロ転写プロトコルでは、免疫グロブリンをコードする第一鎖cDNAを、逆転写酵素(RT)、かつヒト重鎖および軽鎖定常領域遺伝子である、Cμ1またはCγ1、CκおよびCλに相補性であるプライマーとを使用して、mRNAテンプレートからコピーする。Cμ1プライマーは、ナイーブ生殖細胞系VH配列の捕捉に必要であるが、一方で、Cγ1プライマーは親和性成熟したVHドメインの捕捉を可能にする。第二鎖cDNAの合成のために、第二鎖プライマーは、バクテリオファージT7のプロモーターのようなプロモーター配列も含有する場合があり、そのプロモーターは相補性鎖に組み込まれると、T7 DNA依存性RNAポリメラーゼを使用したインビトロでのV領域配列の連続線形増幅を可能にする(Sambrook and Russell, eds, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd Ed, vols. 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001)。所望により、相補性プライマーを使用してRNAを二本鎖cDNAにコピーしてから、インビトロ転写段階を繰り返すことによってその増幅過程を繰り返すことができる。そのインビトロ転写手順は、V領域ライブラリーをプラスミドベクターにクローニングするために十分な量の核酸を提供するために必要であり、そのベクターは、pBR322誘導体の一つのような標準的な発現ベクターでなければならない。大腸菌(E. coli)細胞への形質転換の後に、独立したクローン中のV領域ライブラリーのサイズを決定でき、十分な数のクローン(例えば各アイソタイプの少なくとも30個)を配列決定してオープンリーディングフレームの比率および生殖細胞系の多様性の比例表示とを決定することによって、ライブラリーの質を評価できる。各アイソタイプの少なくとも104個の独立したクローンを収集することは比較的容易であり、このことは全ての生殖細胞系遺伝子がオープンリーディングフレームを用いて詳細に表示されることを確実にするはずである。
【0078】
BSDにガイドされるVセグメントの選択に関して、ヒトCDR3はV領域レパートリーから除去される。これは、全ての生殖細胞系V領域遺伝子にあるフレームワーク3のカルボキシ末端配列にまとめて相補性である縮重プライマーを使用することによって、クローニング前に、例えば最終のcDNA合成段階の間に容易になされる。フレームワーク3のC末端配列は、高度に保存されているため、制限エンドヌクレアーゼ部位をプライマーに含め、いかなるフレームワーク3配列を改変することなく、任意のガイドCDR3-FR4にフレーム内で連結するための万能「粘着性末端」を作出できる。
【0079】
他の態様では、適切なPCRプライマー、例えば実施例の項で記載されるプライマーを使用することにより、Vセグメントを増幅できる。Vセグメントのレパートリーをクローニングするために、Vセグメントの5'および3'領域に対してオリゴヌクレオチドプライマーのセットを設計する。適切なプライマー配列は公知である(例えばWelschof et al., J. Immunological Methods 179:203-214,1995 and Little et al., J. Immunological Methods, 231:3-9, 1991])か、または設計されうる。オリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドのセットを使用して、CDR3-FR4領域を構築し、導入された制限酵素認識部位を介する、または重複伸長PCRによるか、またはプライマー伸長によるかのいずれかで、Vセグメント配列に連結する。例えば、Vhに関してアミノ酸86〜89(Kabatの番号付け方式による)、Vκに関してアミノ酸81〜86およびVλに対して81〜85をコードする配列に対して、Vセグメントの3'での増幅プライマーを設計でき、それらのプライマーは5'末端近くに非テンプレート性の制限酵素認識部位を含む。CDR3-FR4をコードするオリゴヌクレオチドは、重鎖上のVYYCAR(Kabatアミノ酸89〜94)または軽鎖上のVYYC(Kabat残基85〜88)をコードする領域に伸長する場合があり、Vセグメントレパートリーの3'末端での制限酵素認識部位と適合性である制限酵素認識部位を含む。このように、完全なV領域のライブラリーをCDR3-FR4オリゴヌクレオチドとVセグメントレパートリーとの連結反応により発生させることができる。CDR3-FR4配列を、Vセグメントレパートリーから合成されたcRNAの重複伸長PCRまたはプライマー伸長のような、当業者に公知である他の方法によりVセグメントに接続することもできる。完全なV領域をコードする配列を、適切な発現ベクターにクローニングして、Fab、Fab'もしくは他の抗体フラグメント、IgG全体、または細胞もしくはウイルス上に表出させるために使用される融合タンパク質として発現させるために、この段階で定常領域配列と融合できる。
【0080】
ガイドされたV領域レパートリーまたはV領域にガイドされたBSDレパートリーのためのライブラリーを、バクテリオファージ、酵母、細菌、哺乳動物細胞などを含めた任意の種類の細胞に発現させることができる。多数のアッセイのうち任意のもの、例えばELISAに基づくハイスループットアッセイにより抗原結合活性に関してそのライブラリーをスクリーニングできる。バクテリオファージ、細菌細胞、酵母細胞、哺乳動物細胞またはリボソームを用いたようなディスプレイ形式でそのようなライブラリーを発現させて、当技術分野で記載されたような結合剤に関してスクリーニングすることもできる。
【0081】
重鎖または軽鎖Vセグメントライブラリーは、Vセグメントのわずか一つのサブクラスまたはアイソタイプに対しうる。そのような態様では、例えば参照抗体のVセグメントアイソタイプと最も密接に一致するヒトVセグメントアイソタイプを選択することが望まれる場合には、適切なプライマーを使用して所望のアイソタイプに対応する配列のみを増幅することができる。
【0082】
いくつかの態様では、Vセグメントは生殖細胞系である。上述のとおり、ヒトには51個の生殖細胞系VH遺伝子が存在し、これらのそれぞれを組み替えることができる。40個のVκ遺伝子および31個のVλ遺伝子が存在する。VH生殖細胞系遺伝子は、7個のサブクラス(VH1〜VH7)にさらに分割され、生殖細胞系軽鎖は16個のサブクラス(Vκ1〜Vκ6およびVλ1〜Vλ10)にさらに分割される。生殖細胞系ヒトV遺伝子配列を、再配列して体細胞突然変異したV遺伝子配列をcDNAからクローニングするのと同じ方法で、PCRまたは線形増幅法によりヒトゲノムDNAからクローニングすることができる。例えば、CDR3の連結のために全ての生殖細胞系フレームワーク1のアミノ末端配列(シグナルペプチドリーダーを含まない)および全てのフレームワーク3のカルボキシル末端配列をコードする縮重プライマーを使用することができる。クローニング、無傷のリーディングフレームの選択、配列の検証、およびアーカイブ作成の後に、そのレパートリーを、BSDペアに関するコンビナトリアルヒトV領域ライブラリーの組み立てのために使用できる。
【0083】
参照抗体のBSDの移入
参照抗体からのBSDを、上記のように発生したVセグメント配列のライブラリーに移入する。BSDを、Vセグメントの集団が発現ベクターにクローニングされる前または後に発現ベクターに組み込むことができる。移入されたBSDは、CDR3-FR4、CDR3、Dセグメント(BSDが重鎖由来の場合)、MEBSD、またはCDR3-FR4の他の任意のフラグメントでありうるが、そのBSDは、参照抗体のもう一方の鎖からの相補性BSDと組み合わせて結合特異性を有する。参照抗体から種々のV領域にBSDを移入する場合、重鎖または軽鎖V領域の構造は結果として生じるV領域に維持されることは言うまでもない。このように、参照抗体からのBSDがCDR3-FR4のサブ領域であるならば、完全なCDR3-FR4構造の長さは維持され、すなわち参照抗体由来ではないCDR3-FR4残基の残りは他の残基、概してヒト生殖細胞系残基から構成される。
【0084】
すでに述べたように、BSDは例えば参照抗体からのフレームワーク4領域を含む場合があり、フレームワーク4領域はJセグメントの部分であるが、哺乳動物の間で高度に保存されており、CDR3の構造に重要である。これらの配列を、例えばフレームワーク3とのフレーム内連結反応のための制限酵素認識部位と、フレームワーク4のカルボキシル末端から下流の、例えばC領域との連結反応のための独特な制限酵素認識部位とを含むプライマーを用いたPCRで増幅できる。各CDR3-FR4を、次にV領域ライブラリー構築体の適切な部位に移入する。または、CDR3-FR4領域のための所望の配列または配列の混合を、一つの連続オリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドの混合として合成することができ、第一鎖cDNA合成のためのテンプレートとしてレパートリーから合成されインビトロ転写されたcRNAを使用したプライマー伸長によってVセグメントレパートリーに接続できる。多様性を一領域、例えばCDR3および/またはFR4に導入できる。
【0085】
他の態様では、FR4領域はヒトFR4、例えば生殖細胞系FR4でありうる。いくつかの態様では、ライブラリーはFR4配列の多様性を含みうる。ヒトFR4配列は、ライブラリー発現ベクターに組み込まれるFR4配列を増幅させるための適切なプライマーを使用したPCRにより概して導入される。FR4配列を、CDR3またはMEBSDがすでに移入されたライブラリーに移入できるし、または、CDR3もしくはMEBSDと同時に移入できる。混合したオリゴヌクレオチドまたはCDR3に多様性を移入するために記載されたような突然変異誘発プロトコルを使用して、FR4に多様性を導入できる。例えばヒトレパートリーからのJセグメントのようなライブラリーからFR4をクローニングできる。
【0086】
移入されたBSDは、参照抗体のCDR3でもありうる。この場合も、その移入は増幅法によって実施され、その増幅法は、公知の方法を用いて発現ベクターの適切な部位への組み込み用のCDR3を含有する所望の配列を増幅する。
【0087】
最低限必須な結合特異性決定基の明確化
BSDは完全なCDR3よりも小さい配列、例えば重鎖CDR3のDセグメントまたはMEBSDでもありうる。当業者に認識されているように、参照抗体BSDが完全なCDR3よりも小さい場合、完全なCDR3は抗体発現ライブラリーを依然としてもたらす。それは、残りのCDR3残基がその構築体に組み込まれるからである。例えば、ヒト配列、例えば生殖細胞系Jセグメントに組み込むために適切なオリゴヌクレオチドを設計して、MEBSDの部分ではないCDR3残基を置換することができる。
【0088】
MEBSDは、CDR3の残りおよびV領域の残余を再構成するヒト配列と組み合わせた場合に、参照抗体の結合特異性を保持するために必要である、CDR3配列またはCDR3ペア内の領域である。MEBSDを、経験的に明確化できるし、または構造の考察から予測できる。
【0089】
経験的な決定のために、抗原に対する結合に役割を果たす残基を同定するために、アラニンスキャニング突然変異誘発のような方法を、参照抗体のCDR3領域に実施することができる(Wells, Proc. Natl Acad. Sci. USA 93:1-6, 1996)。追加の分析は、CDR3の各残基が一度に、アラニンに単に置換されるよりもむしろ19個の代替アミノ酸のそれぞれに置換される総合スキャニング突然変異誘発(Comprehensive Scanning Mutagenesis)を含みうる。結合アッセイ、例えばコロニーリフト結合アッセイを使用して、そのような突然変異体のライブラリーをスクリーニングして、結合特異性を保持する突然変異体を決定することができる。参照抗体に対して少なくとも10分の1に減少したアッセイシグナルを有する抗体フラグメントを分泌するコロニーを配列決定でき、DNA配列を使用して、結合の保持に重要であるCDR3中のアミノ酸位置のデータベースを発生させることができる。次に、単一部位の置換を許容しないか、または保存的アミノ酸置換のみを許容する残基のセットとしてMEBSDを明確化できる。
【0090】
MEBSDは、参照抗体CDR3の漸進的に短くなる配列を、結合特異性および親和性を付与する能力に関して評価する欠失分析によっても決定されうる。これは、CDR3の残基を、例えばヒト生殖細胞系Jセグメントからの漸進的に長くなるヒト配列に置換することによって実現される。
【0091】
MEBSDを、構造の考察からも推定できる。例えばX線結晶構造が公知であれば、または抗体と抗原との相互作用のモデルが利用可能であれば、エピトープと適切な接触を形成するため、および抗原結合表面の構造を保持するために必要であるアミノ酸からMEBSDを明確化できる。
【0092】
または、CDR3の一次構造からMEBSDを予測できる。例としてVHドメインでは、MEBSDはいくつかの抗体では、Dセグメントに対応しうる(参照抗体の再配列および成熟に起因する任意の欠失または同定可能なN付加を含む)。この場合、JセグメントはクローニングされたヒトJセグメントまたはJセグメントのレパートリーに置換されうる。置換されたJセグメントを有する修飾された参照VHドメインの結合特異性を、適切な相補性軽鎖と組み合わせて決定できる。この相補性鎖は、参照抗体の軽鎖でありえ、または参照抗体の軽鎖のCDR3を含むヒト軽鎖でありうる。コロニーリフト結合アッセイにより、または別の公知のアッセイ法により、結合特異性を決定できる。もし抗原結合抗体を分泌しているコロニーがこの方法により同定されないならば、参照抗体のCDR3からの追加の配列を、Jセグメントにある対応する配列の代わりにすることができ、MEBSDが同定されるまでこれらの追加の突然変異体を相補性軽鎖を用いてスクリーニングできる。
【0093】
MEBSDは、軽鎖のCDR3から同様に同定でき、この場合、スクリーニングアッセイに使用される相補性鎖はVHドメインを含む。この場合、VHドメインは参照抗体から得られうるし、または、参照抗体からのCDR3を有するヒトVHドメインでありうる。軽鎖にDセグメントが存在しないことから、スキャニング突然変異誘発によって、またはCDR3の配列の検査を行って、V遺伝子セグメントにコードされるCDR3にある配列もしくはJセグメントにコードされる配列を置き換えることによって、MEBSDを推定できる。例えばコロニーリフト結合アッセイによる抗原結合に関するスクリーニングを使用して、CDR3のどのセグメントがMEBSDを構成するかを明確化できる。
【0094】
さらに、JOINSOLVER(商標)(Souto-Carneiro, et al., J Immunol. 172: 6790-6802, 2004)のようなソフトウェアプログラムを使用して、D生殖細胞系配列を検索するために免疫グロブリン遺伝子のCDR3を分析できる。JOINSOLVER(登録商標)の戦略は、VHおよびJH生殖細胞系遺伝子に隣接するD生殖細胞系配列を検索することである。追加的に、それはVHDおよびDJH連結部でのP型およびN型付加を検索する。採用されたヒトD生殖細胞系遺伝子データベースは、IMGTデータバンクならびに逆遺伝子およびDIR生殖細胞系遺伝子からの全てのDセグメントを含む。
【0095】
抗体の発現
分泌された抗体または抗体フラグメントのライブラリーを原核生物もしくは真核生物微生物系に、または哺乳動物細胞のような高等真核生物の細胞に発現させることができる。その抗体ライブラリーは、抗体が、IgG、Fv、Fab、Fab'、F(ab')2、一本鎖Fv、もう一つのドメインの欠失を有するIgG、またはV領域を含む他の任意の抗体フラグメントであるライブラリーでありうる。
【0096】
抗体は、ウイルス、細胞、胞子、もしくはウイルス様粒子の表面に、またはリボソーム上に表出されうる。この目的のために、抗体フラグメントの一方または両方の鎖は、融合タンパク質、例えば繊維状ファージ表面に表出するためのファージのコートタンパク質との融合体として概して発現される。または、抗体ライブラリーの抗体は宿主細胞から分泌されうる。
【0097】
以下に、FabまたはFab'フラグメントとしてそれらの抗体を発現するための分泌系を使用した例示的な説明を提供する。しかし、発現系を任意のライブラリー形式に適用できることは、当業者に容易に明らかである。この一般例について、完全なV領域のライブラリーを、上記のようにCDR3-FR4セグメントをコードするオリゴヌクレオチドとVセグメントレパートリーとの連結反応によって構築する。完全なV領域をコードする増幅された配列を、適切な発現ベクターにクローニングし、FabまたはFab'分子の発現のためにこの段階で定常領域配列に融合できる。抗体フラグメントは、細菌、酵母、植物細胞および哺乳動物細胞を含めた原核細胞または真核細胞から分泌されうる。
【0098】
好ましい一方法では、V領域ライブラリーは、微生物宿主細胞から組み立てられた機能的FabまたはFab'フラグメントとして発現および分泌される。次に、抗原の結合に関して、例えば下にさらに記載するようなフィルタースクリーニングアッセイまたはELISAにより、分泌されたフラグメントをスクリーニングする。酵母から抗体フラグメントを分泌させるための適切な発現ベクターの例は、pESC(Stratageneから入手)であり、そのベクターはその抗体フラグメントの重鎖および軽鎖を発現させるための二つの別々のプロモーターを含む。大腸菌からの分泌用ベクターは、図1に示すプラスミドKB1082に例示されるように重鎖および軽鎖の協調した発現のためにジシストロニックメッセージを利用しうるし、または、図3に示すKB1150に例示されるように二つの抗体鎖に対して二つの別々の転写ユニットを使用しうる。宿主細胞からの分泌を容易にするために、シグナルペプチドを成熟重鎖および軽鎖コード配列のN末端に好都合に融合する。発現プラスミドの部分としてコードされるシグナルペプチドの配列を、宿主細胞に適した天然分泌シグナルによって提供できる。例えば、酵母細胞からの分泌のために酵母インベルターゼシグナルペプチドを選択できる。大腸菌に関して、PelBまたはOmpAシグナル配列を含めた多数の適切な原核生物シグナルペプチドが、当技術分野で公知である。または、非天然合成シグナルペプチドを選択できる。大腸菌に発現された抗体ライブラリーに適する合成シグナルペプチドの例は、アミノ酸配列:

のSP2と称される非天然シグナル配列である。
【0099】
ライブラリーのスクリーニング
説明したように、本発明は抗体構築体が微生物細胞に発現される技法に限定されない。他のスクリーニング法も採用できる。以下は、微生物発現系を使用してライブラリーをスクリーニングする例を提供する。
【0100】
フィルタースクリーニング法は、特定の抗原に特異的な分泌抗体を検出するために記載されている。一形式では、分泌された抗体フラグメントを膜にトラップし、その膜を可溶性抗原で探索する(Skerra et al (1991) Anal Biochem. 196:151-5)。この場合、細菌ペリプラスムへのFabフラグメントの分泌を指令するプラスミドベクターを収容する細菌を膜またはフィルター上で成長させる。抗体フラグメントを結合できる抗体(例えば抗免疫グロブリン抗血清)を被覆した第二「捕捉」膜まで、分泌されたフラグメントを拡散させて、捕捉フィルターを特異的抗原で探索する。抗体-酵素複合体を使用して、着色したスポットとして捕捉膜上の抗原結合性抗体フラグメントを検出できる。コロニーを第一膜上でもう一度成長させ、所望の抗体フラグメントを発現しているクローンを回収する。
【0101】
抗原を被覆した膜上で抗体を直接拡散させるコロニーリフト結合アッセイも記載されている。Giovannoniらは、一本鎖抗体ライブラリーのスクリーニングのためにそのようなプロトコルを記載した(Giovannoni et al., Nucleic Acids Research 2001, Vol. 29, No. 5 e27)。
【0102】
分泌抗体フラグメントのライブラリーを、多数のクローンのプールを使用するか、または独特な抗体配列をそれぞれ分泌している個別のクローンをスクリーニングするかのいずれかで、ELISAによってもスクリーニングできる。個別のクローンをスクリーニングするためのそのような一方法は、Watkinsら (1997) Anal. Biochem. 253: 37-45に記載されている。この場合、マイクロタイターウェルに抗Fab抗体が被覆され、ウェルに直接分泌されたFabフラグメントが捕捉された。次に、可溶性ビオチン化抗原でFab試料が探索され、その後ストレプトアビジン-アルカリホスファターゼ複合体で検出された。
【0103】
本発明のいくつかの態様では、比較的低レベルの発現を招くスクリーニング系を使用する。例えば、コロニーリフト結合アッセイ(CLBA, Govannoni et al., 2001, Nucleic Acids Research 29(5):e27)を免疫化学発光標識系と組み合わせると、マイクロモル濃度より下のKd親和性として考えても、その系の感度は大部分のFabの凝集閾値を下回る発現レベルを可能にする。
【0104】
CLBAに関する例示的なプロトコルを実施例の項に提供する。CLBAに関する条件を経験的に最適化できる。例えば、ユニバーサル抗体フラグメントバインダー、例えば抗ヒトIg抗体をフィルター上で抗原として使用する場合、例えばライブラリーの化学発光によるバックグラウンドの10倍の検出の100%に必要な量を実験的に決定することによって、転写誘導因子を最適化して過剰発現または過少発現を避けることができる。選択のストリンジェンシーもフィルター上の抗原濃度を調整することによって操作できる。例えば、ヒト化される抗体フラグメントが最小のシグナル、例えばバックグラウンドの10倍を超えないシグナルを産生する抗原濃度を決定して選択に使用でき、その結果、より高い親和性および/またはより高い発現レベルを有する抗体を、それらのシグナルの強度によって容易に同定できる。繰り返しのコロニーリフトを行って、抗ヒトIg抗体のようなユニバーサル抗体バインダーを被覆したフィルター上でそれらのコロニーをインキュベートすることによって、発現レベルを平行して決定できる。次に、各コロニーに関する相対親和性を、抗体バインダーフィルターからのシグナルに対する抗原フィルターからの化学発光シグナルの比として決定し、その比を、相互に、および親の非ヒト抗体に関する同比と比較して、親和性に従って選択された抗体を順位づけることができる。次に、いくつかの方法のうち任意のもの、例えば表面プラズモン共鳴法により絶対親和性を決定できる(SPA, Fagerstam et al., 1992, J Chromatog 597:397-410)。一般に親和性の喪失なしに完全長Igとして発現および産生させるために、選択されたFabにヒトFcドメインを追加できる。
【0105】
いくつかの場合では、親和性が最高の抗体の選択されたヒトV領域は、治療または診断のような意図された適用のための費用効率の高い生産を行うためのFabまたは他のIg誘導体の十分に頑健な発現を支持できないおそれがある。そのような場合には、CLBAでの繰り返しのフィルターによって提供される発現データを使用して、所望の発現レベルを有する親和性が最高のFabを同定できる。選択に実際に使用されるよりも高いレベルで発現した場合、親抗体に限定的なフィルター上での抗原密度を使用することによって、アッセイの発現ストリンジェンシーを増加させることもできる。選択された、さらに高レベル発現するFabを、BSDペアの突然変異誘発と、上記および下記のようなCLBAによる選択とにより、所望であれば親和性成熟できる。
【0106】
ガイド選択(guided selection)も使用して一度に一つのBSDを置換できる。本来の重鎖CDR3 BSDが保持されているならば、ガイド親和性はヒト軽鎖CDR3 BSDのガイド選択に十分なほど高いであろうが、本来の軽鎖CDR3 BSDがヒト重鎖CDR3 BSDのガイド選択のために保持されているならば、同じことはあまりあてはまりそうではない。V領域ガイド選択に使用されるCDR3 BSDレパートリーを、全ての生殖細胞系フレームワーク3およびフレームワーク4配列に相補的な縮重プライマーを使用してPBLまたは他の免疫組織からのmRNAから捕捉できる。または、生殖細胞系DセグメントおよびJセグメントのレパートリーについての配列(Tomlinson et al., 1995, EMBO J 14:4628-4638)を、Dセグメント連結部で少数のランダムな残基で組換えて、N付加を刺激することによって、そのレパートリーを合成的に構築できる。
【0107】
ヒト生殖細胞系V領域を有する抗体
選択された抗体は、抗体の結合活性に大きくは寄与しない多数の位置でヒト生殖細胞系V領域配列から逸脱しうる。これらの改変の多くが少なくとも一部のヒトに免疫応答を誘導する可能性もあり、よって、その免疫応答は抗体の有効性を損ないうる。ヒト生殖細胞系V領域配列が最も免疫原性が低いはずであることから、そのような選択された抗体のV領域配列をヒト生殖細胞系配列に変換して親和性の保持について検査することができる。
【0108】
いくつかの態様では、本発明により作製された抗体は、ヒト生殖細胞系配列と90%を超えて同一であり、しばしば95%を超えて同一であり、好ましくは同一であるVセグメントとFR4とを有する。VセグメントおよびFR4配列を公知のヒト生殖細胞系配列と比較することにより、そのような抗体を同定できる。
【0109】
親和性のいくらかの喪失が生殖細胞系配列への変換に際して実際に起こるならば、親和性をCDR3配列の親和性成熟によって回復できる。
【0110】
親和性成熟
BSDによるV領域のガイド選択は、親和性が参照抗体と等しいか、または高くさえある抗体を産生することが多い。しかし、選択手順の前または後のいずれかで親和性成熟法を採用することも理想的でありうる。抗体に関連して「親和性成熟した」は、参照抗体から得られ、参照抗体と同じエピトープに結合し、抗原に対して参照抗体よりも高い親和性を有する抗体を指す。例えば、本発明により選択された、重鎖および/または軽鎖Vセグメントが生殖細胞系である抗体で、親和性成熟を実施できる。
【0111】
免疫原性を避けるために、BSDペアに焦点を当てて親和性成熟を一般的に実施する。BSDの効率的な親和性成熟は、例えば節減突然変異誘発(parsimonious mutagenesis)の方法(PM, Balint and Larrick, 1993 Gene 137: 109-118)を使用して実現し、BSDペアを多様化してから、例えばCLBAまたは他の方法を使用してより高い親和性のバインダーについてスクリーニングできる。
【0112】
他の態様では、例えば米国特許出願第09/526,106号および第09/999,413号記載のフラグメント相補系;米国特許出願第10/076,845号記載の競合活性化系(CompAct);および米国特許出願第10/208,730号および第10/677,131号記載の自己阻害性β-ラクタマーゼ再活性化系(ReActまたはRAIR)を使用して、親和性成熟法を実施できる。
【0113】
親和性の決定
標的抗原に対する定量的親和性を決定するために、分泌抗体の一次スクリーニングから単離された抗体またはディスプレイ技術から選択された抗体をさらなる分析に供する。概して、これらの抗体はこの目的のために可溶形態で発現されるため、それらの抗体が表面ディスプレイ技術から融合タンパク質としてもともと単離されたのならば、それらの抗体は可溶性フラグメントとして、またはIgG全体として再フォーマットすることが必要となりうる。
【0114】
溶解した抗体と、溶解しているか、それとも全細胞上のいずれかである天然抗原との相互作用を必要とする多様な競合結合研究およびスキャッチャードプロットからの親和性の解析によって、親和性を決定できる。または、単離された抗原で、例えば酵素結合免疫測定法(ELISA)で、またはプラズモン共鳴分析もしくは当技術分野で公知である無数の他のイムノアッセイにより、親和性を決定できる(例えばHarlow & Lane, Using Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1999参照)。Harlow & Laneおよび類似した手順のマニュアルは、エピトープをマッピングする技法、または抗体がドナー抗体と同じエピトープに結合するかどうかを決定する競合実験も開示している。機能的な、例えば細胞に基づくアッセイも使用して、参照抗体の特異性および活性が保持されていることを実証できる。
【0115】
最初のスクリーニング段階、例えば一つの交換カセットの置換を分析し、抗体配列の残りが参照抗体であるスクリーニングでは、抗体について実証可能な親和性を有する抗体が選択される。親和性は、参照抗体よりも低い可能性がある。
【0116】
本発明の抗体は、概して高親和性抗体であり、50nMから1pMの範囲の解離定数を有しうる。好ましくは、その抗体は10nM未満の、最も好ましくは1nM未満の親和性を有する。抗体が一つまたは複数の生殖細胞系Vセグメントを有する場合、親和性は好ましくは50nM未満、しばしば20nM未満、最も好ましくは1nM未満である。同様に、参照抗体の重鎖由来Dセグメントが移入されたか、または参照抗体のCDR3由来の一つまたは複数のMEBSDが移入されたか、または参照抗体からの一方または両方のCDR3が移入された、本発明の方法を使用して選択された抗体は、50nM未満、しばしば20nM未満、好ましくは1nM未満である親和性を好ましくは有する。
【0117】
抗体は、概して参照抗体の5分の1を下回らない、しばしば2分の1を下回らない親和性を有し、最も好ましくは参照抗体の例えば2倍、5倍、またはそれを上回る親和性を有する。
【0118】
一般法
核酸とポリペプチド
発現法は当業者に周知である。当技術分野で公知の方法により、適正なリーディングフレームへの、所望のアミノ酸配列をコードする適切な核酸配列の連結反応を行い、産物を当技術分野で公知の方法により発現させることにより、組換えポリペプチドを作製できる(例えばScopes, Protein Purification: Principles and Practice, Springer-Verlag, New York 1994; Sambrook and Russell, eds, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd Ed, vols. 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001; and Current Protocols in Molecular Biology, Ausubel, ed. John Wiley & Sons, Inc. New York, 1997参照)。
【0119】
組換え遺伝学の分野で日常的な技法を使用して、本発明のポリペプチドをコードする核酸を獲得することができる(例えばSambrook and Russell, eds, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd Ed, vols. 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001; and Current Protocols in Molecular Biology, Ausubel, ed. John Wiley & Sons, Inc. New York, 1997参照)。
【0120】
しばしば、オリゴヌクレオチドプライマーを使用してcDNAまたはゲノムDNAライブラリーから、発現されるべきポリペプチドをコードする核酸配列を増幅する。増幅法を使用して、DNAまたはRNAから配列を増幅および単離できる(例えばDieffenbach & Dveksler, PCR Primers: A Laboratory Manual (1995) 参照)。または、重複するオリゴヌクレオチドを合成的に産生して、接続して一つまたは複数のドメインを産生することができる。
【0121】
インビトロ増幅法を通して当業者に指令するに足る技法の例は、Berger, Sambrook, and Ausubel, ならびにMullis et al., (1987) 米国特許第4,683,202号; PCR Protocols A Guide to Methods and Applications (Innis et al., eds) Academic Press Inc. San Diego, CA (1990) (Innis); Arnheim & Levinson (October 1, 1990) C&EN 36-47; The Journal Of NIH Research (1991) 3: 81-94; (Kwoh et al. (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86: 1173; Guatelli et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87, 1874; Lomell et al. (1989) J. Clin. Chem., 35:1826; Landegren et al., (1988) Science 241: 1077-1080; Van Brunt (1990) Biotechnology 8: 291-294; Wu and Wallace (1989) Gene 4: 560; および Barringer et al. (1990) Gene 89: 117に見られる。
【0122】
いくつかの態様では、本発明の抗体配列を修飾することが理想的でありうる。当業者は、所与の核酸構築体に改変を生成させる多くの方法を認識しているであろう。そのような周知の方法には、部位特異的突然変異誘発、縮重オリゴヌクレオチドを使用したPCR増幅、核酸を含有する細胞の突然変異誘発剤または放射線への曝露、所望のオリゴヌクレオチドの化学合成(例えば、大きな核酸を発生させるための連結およびクローニングと併用した)および他の周知の技法がある。例えばGiliman and Smith (1979) Gene 8:81-97, Roberts et al. (1987) Nature 328: 731-734参照。
【0123】
いくつかの態様では、発現されるポリペプチドをコードする組換え核酸を修飾して、選択された生物での核酸の翻訳を増強する好ましいコドンを提供する(例えば、酵母に発現させるために、酵母に好ましいコドンに置き換えてコード核酸とする)。
【0124】
発現カセットおよび宿主細胞
当業者に周知であるポリペプチドを産生するための多数の発現系が存在する。(例えばGene Expression Systems, Fernandes and Hoeffler, Eds. Academic Press, 1999参照)。極めて多様なプロモーターが入手可能であり、それらのプロモーターを特定の適用に応じて本発明の発現ベクターに使用できる。通常、選択されたプロモーターは、その中でそのプロモーターが活性であることができる細胞に依存する。リボソーム結合部位、転写終結部位、エンハンサー、オペレーターなどのような他の発現制御配列も場合によっては含まれる。これらの制御配列の一つまたは複数を含む構築体は、「発現カセット」と名付けられる。よって、所望の宿主細胞での所望の発現レベルのために、接続したポリペプチドをコードする核酸を組み込む。
【0125】
発現ベクターに特定の宿主細胞での使用に適した発現制御配列を採用する。転写開始のためのプロモーターを含み、場合によってはリボソーム結合部位配列と一緒にオペレーターを有する通常使用される原核生物制御配列には、β-ラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)およびラクトース(lac)プロモーター系(Change et al., Nature (1977) 198: 1056)、トリプトファン(trp)プロモーター系(Goeddel et al., Nucleic Acids Res. (1980) 8: 4057)、tacプロモーター(DeBoer, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1983) 80:21-25)、ならびにλ由来PLプロモーターおよびN遺伝子リボソーム結合部位(Shimatake et al., Nature (1981) 292: 128)のような通常使用されているプロモーターがある。特定のプロモーター系は、本発明に決定的ではなく、原核生物において機能する任意の入手可能なプロモーターを使用できる。標準的な細菌発現ベクターには、pBR322系プラスミドのようなプラスミド、例えばpBLUESCRIPT(商標)、pSKF、pET23D、λファージ由来ベクター、p15A系ベクター(Rose, Nucleic Acids Res. (1988) 16:355 and 356)、ならびにGSTおよびLacZのような融合発現系がある。組換えタンパク質にエピトープタグ、例えばc-myc、HA-タグ、6-Hisタグ、マルトース結合タンパク質、VSV-Gタグ、抗DYKDDDDKタグ、または任意のそのようなタグを付加して単離の便利な方法を提供することもでき、それらのタグの大多数は当業者に周知である。
【0126】
大腸菌以外の原核細胞に融合ポリペプチドを発現させるために、特定の原核生物種において機能する転写および翻訳のための調節配列が必要である。そのようなプロモーターを、それらの種からクローニングされた遺伝子から獲得でき、また、異種プロモーターを使用できる。例えば、ハイブリッドtrp-lacプロモーターは大腸菌以外にバチルス(Bacillus)でも機能する。これらのプロモーターおよび他の適切な細菌プロモーターは、当技術分野で周知であり、例えばSambrookらおよびAusubelらに記載されている。本発明のタンパク質を発現させるための細菌発現系は、例えば大腸菌、バチルス種およびサルモネラ菌(Palva et al., Gene 22: 229-235 (1983); Mosbach et al., Nature 302: 543-545 (1983)から入手可能である。そのような発現系のためのキットは市販されている。
【0127】
同様に、真核細胞における本発明のポリペプチドの発現のためには、特定の真核生物種で機能する転写および翻訳配列が必要である。例えば、哺乳動物細胞、酵母および昆虫細胞のための真核生物発現系は、当技術分野で周知であり、市販されている。酵母では、ベクターにはpEFC、酵母インテグレート型プラスミド(Yeast Integrating plasmid)(例えばYIp5)および酵母複製プラスミド(Yeast Replicating plasmid)(YRp系列のプラスミド)およびpGPD-2が含まれる。真核生物ウイルス由来の調節エレメントを含む発現ベクターは、概して真核生物発現ベクター、例えばSV40ベクター、パピローマウイルスベクター、およびエプスタインバーウイルス由来ベクターで使用される。他の例示的な真核生物ベクターにはpMSG、pAV009/A+、pMTO10/A+、pMAMneo-5、baculovirus pDSVEおよびCMVプロモーター、SV40初期プロモーター、SV40後期プロモーター、メタロチオネインプロモーター、マウス乳癌ウイルスプロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、ポリヘドリンプロモーター、または真核細胞での発現に有効であることが示された他のプロモーターの指令下でタンパク質の発現を可能にする他の任意のベクターがある。
【0128】
構成性プロモーターまたは調節プロモーターのいずれかを本発明に使用できる。宿主細胞での異種タンパク質の濃度を制御できることから、調節プロモーターが有利でありうる。誘導性プロモーターは、ある遺伝子の発現を指令するプロモーターであり、ここで発現レベルは、例えば温度、pH、嫌気条件または好気条件、光、転写因子および化学物質のような環境因子または発生因子により改変可能である。
【0129】
大腸菌および他の細菌宿主細胞に関して、誘導性プロモーターは当業者に公知である。これらには、例えばlacプロモーター、バクテリオファージラムダPLプロモーター、ハイブリッドtrp-lacプロモーター(Amann et al. (1983) Gene 25: 167; de Boer et al. (1983) Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA 80: 21)、およびバクテリオファージT7プロモーター(Studier et al. (1986) J. Mol. Biol.; Tabor et al. (1985) Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA 82: 1074-8)がある。これらのプロモーターおよびそれらの使用は、Sambrookら、前記に論じられている。
【0130】
他の生物のための誘導性プロモーターも、当業者に周知である。これらには、例えばメタロチオネインプロモーター、熱ショックプロモーター、およびその他多数がある。
【0131】
発現を増強するために翻訳カップリングも使用できる。その戦略は、翻訳系にもともと存在する高度に発現された遺伝子に由来する短い上流のオープンリーディングフレームおよびリボソーム結合部位とを使用し、そのオープンリーディングフレームはプロモーターの下流に置かれ、リボソーム結合部位には少数アミノ酸コドンの次に終止コドンが続く。終止コドンの直前は第二リボソーム結合部位であり、終止コドンの後は、翻訳の開始のための開始コドンである。この系は、RNAにおける二次構造を解除し、翻訳の効率的な開始を可能にする。Squires, et. al. (1988), J, Biol. Chem. 263: 16297-16302を参照。
【0132】
ポリヌクレオチド構築体の構築は、一般に宿主細菌細胞で複製可能であるか、または宿主細菌細胞のゲノムにインテグレート可能であるベクターの使用を必要とする。そのようなベクターは、当技術分野で通常使用される。細菌からプラスミドを精製するための多量のキットが市販されている(例えば、EasyPrepJ, FlexiPrepJ, Pharmacia Biotech製; StrataCleanJ, Stratagene製; および QIAexpress Expression System, Qiagen)。単離および精製されたプラスミドを、次にさらに操作して他のプラスミドを産生して、細胞の形質転換に使用できる。
【0133】
本発明のポリペプチドを細胞もしくはファージの表面に発現および表出させることができ、または、細胞から分泌させることができる。大腸菌、上述の他の細菌宿主、酵母細胞、昆虫細胞、真菌細胞、ならびにCOS、CHOおよびHeLa細胞系と骨髄腫細胞系のような様々な哺乳動物細胞を含めた様々な宿主細胞を使用できる。
【0134】
いったん発現したならば、その組換えポリペプチドを当技術分野の標準的な手順、例えばアフィニティカラム、カラムクロマトグラフィー、ゲル電気泳動などにより精製できる(一般に、R. Scopes, Protein Purification, Springer-Verlag, N.Y. (1982), Deutscher, Methods in Enzymology Vol. 182: Guide to Protein Purification., Academic Press, Inc. N.Y. (1990)を参照)。少なくとも約90%から95%の均一性を有する実質的に純粋な組成物が好ましく、98%から99%、またはそれを上回る均一性が最も好ましい。
【0135】
本発明のポリペプチドの精製を容易にするために、ポリペプチドをコードする核酸は、エピトープまたは「タグ」に関するコード配列を含むことができ、それに対する親和性結合試薬が入手可能である。適切なエピトープの例には、mycおよびV-5応答因子遺伝子があり、これらのエピトープを有する融合ポリペプチドの組換え産生に有用な発現ベクターは市販されている(例えばInvitrogen(Carlsbad, CA)のベクターpcDNA3.l/Myc-HisおよびpcDNA3.1/V5-Hisは哺乳動物細胞での発現に適する)。本発明の融合タンパク質にタグを付着させるのに適した追加の発現ベクターおよび対応する検出系は、当業者に公知であり、数個が市販されている(例えばFLAG"(Kodak, Rochester NY)。適切なタグの別の例は、ポリヒスチジン配列であり、それは、金属キレート親和性リガンドに結合可能である。ポリヒスチジンタグに関する結合部分として働く適切な金属キレート親和性リガンドには、ニトリロ三酢酸(NTA)がある(Hochuli, E. (1990) "Purification of recombinant proteins with metal chelating adsorbents" In Genetic Engineering: Principles and Methods, J.K. Setlow, Ed., Plenum Press, NY; Qiagenより市販 (Santa Clarita, CA))。
【0136】
当業者は、タンパク質の生物学的活性を減らすことなくそのタンパク質のドメインに修飾を加えられることを認識しているであろう。クローニング、発現、またはポリペプチドへのドメインの組み込みを容易にするために、いくつかの修飾を加えることができる。そのような修飾は当業者に周知であり、例えば結合ドメインをコードするポリヌクレオチドのどちらかの末端にコドンを付加して、例えばアミノ末端に付加されたメチオニンをもたらして、開始部位を提供すること、またはどちらかの末端に配置した追加のアミノ酸(例えばポリHis)をもたらして好都合に局在した制限酵素認識部位もしくは終止コドンもしくは精製配列を作出することを含む。
【0137】
ディスプレイ技術も、完全にヒトもしくは他の動物、キメラ、合成、および/または半合成であるモノクローナル抗体の選択も可能にした。そのようなディスプレイ技術の例は、ファージディスプレイ(例えば米国特許第5,821,047号、第5,922,545号、第5,403,484号、第5,885,793号および第6,291,650号に開示)または酵母ディスプレイ(例えば米国特許第6,300,065号に開示)である。
【0138】
抗体ライブラリー
ナイーブライブラリーと免疫感作ライブラリー。ナイーブライブラリーは、いかなる免疫原にも攻撃されておらず、また感染の症状も炎症の症状も示していない適切な宿主のBリンパ球から作製される。免疫感作ライブラリーは、適切に「免疫感作された」宿主、すなわち免疫原で攻撃された宿主から獲得されたB細胞および形質細胞の混合から作製される。一つの態様では、これらの細胞からのmRNAは、当技術分野で周知である方法(例えばオリゴdTプライマーおよび逆転写酵素)を使用してcDNAに翻訳される。その代わりの態様では、宿主細胞からの抗体をコードする核酸(mRNAまたはゲノムDNA)は、適切なプライマーを用いたPCRにより増幅される。そのような抗体遺伝子の増幅のためのプライマーは、当技術分野で周知である(例えば米国特許第6,096,551号および PCT特許出願WO第00/70023A1号にそのようなプライマーが開示)。混成した態様では、宿主細胞からのmRNAはcDNAに合成されて、これらのcDNAは次に抗体特異的プライマーを用いたPCR反応で増幅される(例えば米国特許第6,319,690号にハイブリッド法として開示)。または、PCRを使用せずに、通常のcDNAクローニング法によりそれらのレパートリーをクローニングできる(Sambrook and Russell, eds, Molecular Cloning: A Laboatory Manual, 3rd Ed, vols. 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001)。
【0139】
本発明は、以下の非限定的な実施例によりさらに理解されるであろう。
【0140】
実施例
実施例1.インビトロ転写による抗体フラグメントのエピトープ集束ライブラリーの構築
抗体レパートリーをコードするメッセンジャーRNAを、ヒト免疫系のIg産生細胞から単離する。全血1単位をヒトドナーから採取し、標準的な手順を使用してバフィーコート調製物を作製する。末梢血単核球細胞(PBMC)をFicoll-Hypaque密度遠心分離で精製してIg産生性Bリンパ球を濃縮する。製造業者の仕様書に従って使用した市販されているRNA精製キット(Qiagen RNeasy)を用いて総RNAをPBMCから精製する。製造業者の仕様書に従って使用した市販されているRNA精製キット(Qiagen Oligotex mRNAキット)を用いて総RNAからmRNAを濃縮する。種々の人種背景のドナー数人からのmRNAをプールして、最終的なVセグメントのレパートリーの多様性を大きくする。ヒトドナーまたは商業的な供給源のいずれかから獲得したヒト脾臓mRNAから追加的な多様性を獲得することができる。
【0141】
V領域レパートリーをクローニングするために、オリゴヌクレオチドプライマーのセットをV領域の5'および3'領域に対して設計した。免疫グロブリン可変領域が他の全ての発現したmRNAからのみ増幅したことを確実にするために三つのプライマーセットを使用する。免疫グロブリン遺伝子に存在する配列多様性を捕捉するために、各セットにおけるいくつかのプライマーは、一つまたは複数の位置で縮重している。本明細書に記載したプライマー配列の大部分は、以前に公表されており(Welschof et al., J. Immunological Methods, 179: 203-214 [1995]およびLittle et al., J. Immunological Methods, 231: 3-9[1999])、いくつかは本発明に使用するために修飾されている。
第一プライマーセット:

第二プライマーセット:




第三プライマーセット:

【0142】
Vh、VκまたはVλに関してプールするために、および個別の反応に使用するために、これらプライマーセットを設計する。第一プライマー(VκまたはVλに関する)またはプライマーセット(Vh IgMおよびVh IgGに関する)を、免疫グロブリンをコードするmRNAの「定常」領域とアニーリングする。λエキソヌクレアーゼで後で消化するために、第一プライマーセットの各プライマーの5'末端でリン酸化する。標準的な手順を用いて、逆転写酵素により第一鎖cDNAを合成する。RNアーゼHおよびRNアーゼAのカクテルを用いて第一鎖cDNAからmRNAを消化する。第二プライマーセットを第一鎖cDNAのV領域のN末端とアニーリングする。第二セットの各プライマーは、T7 RNAポリメラーゼプロモーター、cDNAレパートリーに存在しない(または、まれにしか存在しない)制限酵素認識部位およびcDNAに相補的な領域を含む(Kabatの番号付けスキームによるVh、VκおよびVλに関する位置1〜8)。第二鎖cDNAを標準的な手順により合成する。λエキソヌクレアーゼを使用して、第一鎖cDNAを分解する。第三プライマーセットを、第二鎖cDNAのV領域のC末端と(同方向であるが第一プライマーセットと入れ子になった上流に)アニーリングする。第三セットの各プライマーは、cDNAレパートリーに存在しない(または、まれにしか存在しない)制限酵素認識部位と、cDNAに相補性の領域(Kabatの番号付けスキームによるVhに関する位置107〜114、Vκに関する位置101〜108およびVλに関する位置101〜108)とを含む。アニーリング済みの第三セットのプライマーをDNAポリメラーゼによって伸長させ、アンチセンス鎖cDNAを合成する。
【0143】
NTPおよびT7 RNAポリメラーゼを含むインビトロ転写反応液に二本鎖cDNAを添加する。第二プライマーセットに追加したT7プロモーターはセンス鎖cRNAの合成を推進する。増幅倍率は>500と推定される。その後のクローニングに十分なcDNAを獲得するために、周知の合成手順を使用して、第一および第二鎖cDNAの合成をそれぞれプライマーセット3および2でプライミングすることにより、cRNAを二本鎖cDNAに変換する。追加のcRNAを合成するために、結果として生じた二本鎖cDNAをIVT反応液に添加する。追加の増幅段階を必要な限り何回も繰り返して、クローニングに十分な量のcRNA、通常約500ngから1μgを発生させることができる。
【0144】
十分量のcRNAが合成されると、cRNAを通常の手順により二本鎖cDNAに変換して、制限酵素で切断する。その制限酵素に関する認識部位は、プライマー配列に含めることにより予め追加してある。Vhに関する制限酵素認識部位は、Sfi IまたはNco IおよびBsp EIであり、Vkに関してはBss HIIおよびSpe Iであり、ならびにVlに関してはBss HIIおよびAvr IIである。適切なクローニングベクターへの、制限酵素処理したcDNAレパートリーの連結反応を行い、形質転換により大腸菌に移入する。我々は、VHに関して≧107個の形質転換体およびVLに関して≧106個の形質転換体が、一個体での可変領域多様性を表すのに十分であると推定している。 概して、数人の個体からの免疫グロブリンレパートリーを組み合わせて単一のライブラリーにする。
【0145】
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)PcrVタンパク質上のエピトープに対するマウスMab 166(米国特許第6,827,935号)の特異性を有するヒト抗体を、以下のように発生させた。VセグメントはFR1からFR3の領域(Kabatの番号付けスキームを使用したVhに関する位置1〜94、Vκに関する位置1〜88およびV1に関する位置1〜88)からなり、CDR3およびFR4を欠如している。VhおよびVκ鎖両方に関するM166参照抗体のCDR3-FR4領域を下記のようにVセグメントライブラリーに追加する。
【0146】
Vセグメントのライブラリー(BA19)をV領域cRNAから得た。Vhに関してKabatの位置86から89、Vκに関してKabatの位置80から84およびVλに関してKabatの位置81から85に対してアンチセンスプライマーを設計した。それらのプライマーの配列を下記に示す。可能な限り多くの遺伝子変異体を捕捉するために、生殖細胞系レパートリーによって様々であるプライマー位置に縮重を加える。

【0147】
後でVセグメントレパートリーをクローニングするために、テンプレートなしのBst1107 I(VhおよびVκに関して)またはEco RV(Vλに関して)制限部位をプライマーの5'末端に追加する。プライマーをcRNA集団とハイブリダイズさせ、第一鎖cDNAを合成する間に伸長させる。標準的なプロトコルを使用して第二鎖cDNAを合成する。
【0148】
VhセグメントcDNAをSfi IおよびBst1107 Iで制限酵素処理し、M166参照Vh鎖のCDR3-FR4領域の上流にクローニングして、Vセグメントレパートリーが単一のCDR3-FR4領域に付着している組換えVh領域を作出する。5'末端にBst1107 I制限酵素認識部位と3'末端にBspE I部位とを含むように修飾されたM166 Vh鎖のCDR3-FR4領域の配列を下に示す。
M166 Vh CDR3-FR4:

【0149】
VκセグメントのcDNAをBss HIIおよびBst1107 Iで制限酵素処理して、M166参照Vκ鎖のCDR3-FR4領域上流にクローニングして、Vセグメントレパートリーが単一のCDR3-FR4領域に付着している組換えVκ領域を作出する。5'末端にBst1107 I制限酵素認識部位と3'末端にSpe I部位とを含むように修飾されたM166のVκ鎖のCDR3-FR4領域の配列を下に示す。
M166 Vκ CDR3-FR4:

【0150】
ライブラリーBA46を構築するために、プライマー伸長によりVセグメントライブラリーにCDR3-FR4領域を追加した。M166参照抗体Vh鎖のCDR3-FR4領域の配列を含むアンチセンスオリゴヌクレオチドを、標準的な手順により合成した。CDR3-FR4領域に加えて、ヒトFR3の高度に保存されたYYCAR配列をコードするヌクレオチド(Kabatの位置90〜94)を、オリゴヌクレオチドの3'末端に含めて、5'末端にクローニング用の制限酵素認識部位BspE Iを付加した。そのオリゴヌクレオチドの配列を下に示す。
M166 Vh CDR3-FR4:

【0151】
そのオリゴヌクレオチドを以前に記載したVh領域ライブラリーcRNAにハイブリダイズさせた。第一鎖の合成を、標準的な手順を使用した逆転写酵素で実現した。RNアーゼHおよびRNアーゼAのカクテルでテンプレートcRNAを除去した。第二鎖cDNAを標準的な手順を使用して合成した。
【0152】
Vκセグメントライブラリーを、同様にしてM166のCDR3-FR4領域に追加した。M166参照抗体Vκ鎖のCDR3-FR4領域の配列を含有するアンチセンスオリゴヌクレオチドを標準的な手順により合成した。CDR3-FR4領域に加えて、ヒトFR3の高度に保存されたYYC配列(Kabatの位置86〜88)をコードするヌクレオチドを、オリゴヌクレオチドの3'末端に含めて、5'末端にクローニング用の制限酵素認識部位Spe Iを付加した。オリゴヌクレオチドの配列を下に示す。生殖細胞系免疫グロブリンmRNAに存在する配列多様性を捕捉するために、オリゴヌクレオチドは三つの位置で縮重している。
M166 VκCDR3-FR4:

【0153】
オリゴヌクレオチドを、以前に記載したVκ領域ライブラリーcRNAにハイブリダイズさせた。標準的な手順を使用して逆転写酵素を用いて第一鎖の合成を達成した。テンプレートcRNAをRNアーゼHおよびRNアーゼAのカクテルを用いて除去した。第二鎖cDNAを標準的な手順を使用して合成した。
【0154】
上記方法のいずれかにより作出したV領域ライブラリーを、抗原の結合に関してスクリーニングするための分泌されて組み立てられたFabフラグメントを生成させるためのFab発現ベクターにクローニングする。全フレーム内Vh領域ライブラリーをSfi IおよびBsp EIで制限酵素処理して、図1に示すKB1082のようなFab発現ベクターに挿入する。完全なヌクレオチド配列を図2に示す。全Vκ領域をBssH IIおよびSpe Iで制限酵素処理して、Vh領域ライブラリーを含む同ベクターに挿入する。または、Cκ定常領域の代わりにCλを含む類似したベクターを構築することができ、それをVλ V領域の発現のために使用できる。Fab発現ベクターは、大腸菌を用いて選択するための抗生物質耐性遺伝子、誘導性プロモーター(pBADのような)によって推進されるジストロニック発現カセット、VHおよびVL定常領域ならびにVH領域およびVL領域レパートリーに関するクローニング部位を含む。
【0155】
プラスミドKB1082から発現したFabを、実施例5および6に記載されたようなコロニーリフト結合アッセイ(CLBA)によりスクリーニングするか、またはコロニーのプールをスクリーニングしてから実施例6に記載するような抗原結合ELISAを使用してデコンボリューションした。
【0156】
実施例2.PCRによる抗体フラグメントのエピトープに焦点を当てたライブラリー(epitope-focused library)の構築
抗体レパートリーのPCR介在性増幅およびクローニングのために、二つのプライマーセットを使用する。センスプライマーセットは、VセグメントのN末端領域(Kabatの番号付けスキームによるVh、VκおよびVλに関する位置1〜8)とアニーリングし、プラスミドベクターへのクローニングに使用するのに適した、5'末端に追加した制限酵素認識部位(この場合Sfi IおよびNco I)を含む。アンチセンスプライマーセットは、フレームワーク3のC末端とアニーリングする(FR3; Kabatの番号付けスキームによるVhに関する位置86〜90、Vκに関する位置80〜86およびVλに関する位置81〜86)。すべてのアンチセンスプライマーには、YYCペプチドに関するインバリアントヌクレオチド配列を含む(Vhに関するKabatの位置90〜92、VκおよびVλに関するKabatの位置86〜88)。各アンチセンスプライマーは、プラスミドベクターへのクローニングに使用するのに適した、5'末端に追加した制限酵素認識部位(この場合Sal I)を含む。各セットのプライマーの一部は、生殖細胞系免疫グロブリンmRNAに存在する配列多様性を捕捉するために一つまたは複数の位置で縮重している。
【0157】
センスプライマーセット:


【0158】
アンチセンスプライマーセット:

【0159】
確立された手順により、ポリdTプライマーおよび逆転写酵素を用いて末梢血リンパ球または脾臓のmRNAから第一鎖cDNAを調製する。RNアーゼHおよびRNアーゼAのカクテルを使用して、第一鎖cDNAからmRNAを除去する。精製してプライマーおよびdNTPを除去した後で、第一鎖cDNAをPCR用のテンプレートとして使用する。
【0160】
特定のVセグメントサブクラス(例えばVh1、Vh3、Vh4、Vh5、Vh6およびVh7を除くVh2)の構成員が独占的に増幅されるであろうように、上流および下流のプライマーを用いてPCR反応を組み立てる。50nMセンスプライマー、50nMアンチセンスプライマー、第一鎖cDNA約50ng、100uMの各dNTP、緩衝液およびTaqポリメラーゼを含有する反応液50ulを組み立てる。その反応液を以下のパラメータでサイクルする:95℃5分間-[94℃10秒間;55℃1分間;72℃30秒間]25〜35-72℃5分間。製造業者の仕様書に従って使用したDNA精製カラム(Qiagen Qiaquick)を通過させることによって、PCR産物からプライマーおよびヌクレオチドを除いて精製する。
【0161】
VHまたはVLサブクラスの全てを含む全VHまたはVLレパートリーを、所望の比のサブクラス特異的PCR産物を混合することにより再構成できる。所望の比の各サブクラスは、生殖細胞系での各サブクラスの出現率を反映することができ、インビボでのサブクラス利用を再現することができ(例えばSheets et al. Proc. Natl. Acad. Sci. 95: 6157-6162 [1998]参照)、または、任意の比でありうる。そのPCR産物をNcoIおよびSalIで制限酵素処理して、プラスミドベクターにクローニングする。好ましい態様では、そのプラスミドベクターは、Vセグメントレパートリーを表す一本鎖cRNAの合成を推進するために、Vセグメント挿入部のすぐ上流にT7 RNAポリメラーゼプロモーターを有する。
【0162】
制限酵素処理されたDNAの連結反応、オーバーラップ伸長PCRまたはプライマー特異的cDNA合成を含めた多数のスキームの一つにより、VセグメントレパートリーをCDR3-FR4領域に付着できる。
【0163】
好ましい態様では、参照抗体のCDR3-FR4に対応するオリゴヌクレオチドを標準的な手順により合成して、Vセグメントライブラリーに追加する。M166 VhのCDR3-FR4配列を含むアンチセンスオリゴヌクレオチドを合成した。その配列を下に示す。ヒト生殖細胞系JH6セグメントにコードされるFR4配列と同一にするようにFR4に単一アミノ酸変化を加えた。VセグメントライブラリーのYYCAR領域に相補性の配列(Kabatの位置90〜94)をオリゴヌクレオチドの3'末端に含める。追加的に、クローニングに有用なBsp EI制限酵素認識部位をオリゴヌクレオチドの5'末端に追加する。
M166 Vh CDR3-ヒトFR4オリゴヌクレオチド:

【0164】
そのオリゴヌクレオチドを、YYCARペプチドをコードするヌクレオチド配列を介してVhセグメントcRNAレパートリーの3'末端とアニーリングし、標準的なプロトコルを使用して逆転写酵素により伸長させる。RNアーゼAおよびRNアーゼHのカクテルを使用してテンプレートcRNAを分解し、確立された手順により第二鎖cDNAを合成する。
【0165】
M166 VκのCDR3-FR4配列を含有するアンチセンスオリゴヌクレオチドを合成した。そのオリゴヌクレオチドを下に示す。FR4に単一アミノ酸変化を加え、それをヒト生殖細胞系Jκ2にコードされるFR4配列と同一にする。VセグメントライブラリーのYYC領域(Kabatの位置86〜88)と相補性の配列を、オリゴヌクレオチドの3'末端に含める。追加的に、クローニングに有用なSpe I制限酵素認識部位をそのオリゴヌクレオチドの5'末端に追加する。
M166 Vκ CDR3-ヒトFR4オリゴヌクレオチド:

【0166】
YYCペプチドをコードするヌクレオチド配列を介してオリゴヌクレオチドをVκセグメントcRNAレパートリーの3'末端にアニーリングして、標準的なプロトコルを使用して逆転写酵素により伸長する。RNアーゼAおよびRNアーゼHのカクテルを使用し、テンプレートcRNAを分解して、確立した手順により第二鎖cDNAを合成する。
【0167】
結果として生じたVhおよびVk領域cDNAを酵素で制限酵素処理する。その酵素に関する部位は各プライマーまたはプライマーセットに予め追加してあった。下記(図3および図4)のKB1150のような、大腸菌でのFab'フラグメントの発現に適したベクターにVhおよびVκ領域をクローニングする。KB1150に構築したFab'ライブラリーをBA110と称した。
【0168】
KB1150ベクターは以下のエレメントから構成される。1.大腸菌で選択するためのクロラムフェニコール耐性遺伝子。2.培地にポリペプチド鎖を分泌させるための合成ペプチドリーダー配列を含む、pTacプロモーターによって推進されるVH-CHに関するモノシストロニックカセット。3.培地にポリペプチド鎖を分泌させるための合成ペプチドリーダー配列を含む、pTacプロモーターによって推進されるVL-CLに関するモノシストロニックカセット。ベクターKB1150はCκ定常領域を含むが、VλのV領域の発現のためにCλ定常領域を有するベクターを構築できる。4.大腸菌でのFab'の産生を推進するためのIgG1ヒンジ領域。5.検出および精製用のMycペプチドタグ。6.VHおよびVL領域を挿入するために適した制限酵素認識部位。7.誘導因子IPTGの不在下でpTacプロモーターを抑制するように作用するlac Iq遺伝子。
【0169】
抗体Fab発現ベクターKB1150をpGEX-4T-1(Amersham Biosciences)から得た。そのベクターでは、アンピシリン耐性遺伝子はクロラムフェニコール耐性遺伝子に置換されている。ベクターは、T7ターミネーターにより分離された二つの別々のpTac発現カセットを含む。上流のpTacプロモーターを使用して軽鎖を発現させ、下流のpTacプロモーターを使用して重鎖を発現させる。VL-CLカセットに、新規な分泌シグナルペプチドSP2:MGKKQLVVFALLLAFLSPAMAが先行する。VH-CHカセットにも分泌シグナルペプチドSP2が先行する。VH-CHは、IgG 1のヒンジ領域(THTCPPCPA)と、重鎖C領域の末端にMycタグペプチド(GAAEQKLISEEDLN)とを含む。lac Iq遺伝子は、誘導因子IPTGの不在下でpTacプロモーターを抑制する。
【0170】
プラスミドKB1150から分泌された抗体フラグメントを、実施例5および6に記載するようにCLBAまたはELISAによってスクリーニングする。
【0171】
実施例3.マウス抗体CDRH3領域由来MEBSDを含むヒト抗PcrV抗体の同定
HCDR3は、D領域、J領域およびN付加(インビボ組換えの際に付加したヌクレオチドによりコードされるアミノ酸)からのアミノ酸より概してなる。LCDR3は、V領域、J領域およびN付加からのアミノ酸よりなる。最低限必須な結合特異性決定基(MEBSD)は、CDR3の全てまたは一部でありうる。抗体のライブラリーを、HCDR3またはLCDR3から得たMEBSDにVセグメントライブラリーを付着させることによって構築できる。
【0172】
N付加を伴うDセグメントがMEBSDを規定できるかどうかを決定するために、マウス抗体M166のCDRH3領域を分析して、Dセグメントおよび任意の付随するN付加を同定した(図5参照)。M166のHCDR3を全ての同定されたマウス生殖細胞系Dセグメントと比較した。D領域に関して最も近い配列類似性は、マウスDセグメントD-SP2.2に対するものである。N付加は、D領域からアミノ酸2個上流およびアミノ酸2個下流に代表される。M166 J領域は、ヒトJH6およびJH3変異体に最も類似している。
【0173】
推定上のM166 MEBSDとヒトJH6またはJH3配列とを組み合わせるV領域レパートリーを、Fab'発現ベクターに構築し、Fab'をコロニーリフト結合アッセイでPcrVとの結合について検査した。生殖細胞系JH6またはJH3領域をコードするアンチセンスプライマーを合成した。それらのプライマーを下に示す。ヒトJH6の最初の4個のチロシン(Y)は、M166 CDRH3領域のこれらの位置にアミノ酸が存在しないことから、アンチセンスプライマーJH6に含めなかった。M166 CDR3の長さを保つために、アンチセンスプライマーJH3のヒトJH3にチロシン1個を付加した。Vh3サブクラスファミリーに関するセンスプライマーも調製した。
アンチセンスプライマーJH6:

アンチセンスプライマーJH3:

センスプライマーVh3b:

【0174】
M166 CDR3-FR4領域を含むVh領域ライブラリーを、Vh3ファミリーに関してN末端センスプライマーと、アンチセンスプライマーJH6またはアンチセンスプライマーJH3のいずれかとを用いてPCR増幅した。増幅後に、各ライブラリーの中の大部分のFab'分子は、それらのアンチセンスプライマーにコードされるFR4アミノ酸配列を含んでいた。Vh3の5'プライマーがVh1セグメント末端に交差ハイブリダイズしたことが原因で、Vh領域の一部はVh3の代わりにVh1であった。
【0175】
Vh領域レパートリーをNco IおよびBsp EIで制限酵素処理して、Fab'発現ベクターKB1150にクローニングした。VLレパートリーは、適合性Vh領域とペアになった場合にELISAアッセイでPcrVに結合することが公知であった、予備選択されたヒトVk鎖(M166のCDR3-FR4領域に追加)を含んでいた。結果として生じたFab'ライブラリーの約3500個の構成員をCLBAアッセイで検査した。そのアッセイでは、20uM IPTGを使用してFab'の発現を誘導した(実施例6に記載の通り)。
【0176】
BSDおよびFR4含有ヒトJH6配列を含む約3500個のクローニングされたFab'のうち、34個がCLBAアッセイで陽性であった。これは、これらのFab'クローンがPcrV抗原と結合できたことを示している。個別のクローンを単離して、成長培地から可溶性Fab'を濃縮した。精製したFab'のそれぞれは、PcrV抗原に特異的なELISAで陽性であった。陽性クローンの二つからのVhおよびVk領域のアミノ酸配列を図6に示す。N付加を有するM166 Vh D領域を含むMEBSD配列に印を付ける。
【0177】
顕著には、抗体BA130-5-E10およびBA130-1-1Dの両方が、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3にわたる全領域でヒト生殖細胞系配列と同一であるVHセグメントを有する。抗体BA130-1-1Dでは生殖細胞系遺伝子Vh1-69が使用され、BA130-5-E10では生殖細胞系Vh1-02が使用される。両抗体では、Jセグメント由来配列もヒト生殖細胞系JH6である。PcrV抗原に対する結合特異性に必要なMEBSDは、マウスM166抗体由来DセグメントおよびN付加から構成されるCDRH3内の短い配列により提供される。各場合での重鎖は、M166からのCDRL3配列を含むヒト軽鎖とペアを形成している。
【0178】
ヒトJH3配列を含むVhライブラリーを調製し、同様にスクリーニングした。Vh MEBSDおよびヒトJH3配列を含むFR4とを含有するクローニングされたFab'約1500個のうち、45個がCLBAアッセイでPcrVの結合に関して陽性であった。個別のクローンを単離して、可溶性Fab'を成長培地から濃縮した。精製したFab'のそれぞれは抗原PcrVを用いたELISAアッセイで陽性であった。陽性クローンのうち二つのVhおよびVk領域のアミノ酸配列を図7に示す。M166 Vh MEBSD領域に印を付ける。
【0179】
実施例4.焦点を当てたVhおよびVκライブラリー
CDR3-FR4を追加する前に、VセグメントレパートリーをVHまたはVLの一サブクラスに限定できる。サブクラス特異的なプライマーセットを、免疫グロブリンレパートリーからの第一鎖cDNAを用いたPCR反応に使用する。PCR産物を適切な酵素で制限酵素処理して、Fab'発現ベクターKB1150にクローニングする。
【0180】
マウスM166 VH参照鎖を全てのヒト生殖細胞系VHセグメントと比較した。その参照鎖は、ヒトVH3サブクラスと高度の類似性を有する。M166 VL領域は、VκIヒトサブクラスの構成員と最も類似している。
【0181】
M166 HCDR3-FR4をプライマー伸長によりVH3サブクラスセグメントのcRNAライブラリーに追加した。全VH領域をFab'発現ベクターにクローニングした。M166 LCDR3-FR4をプライマー伸長によりVκIサブクラスセグメントのcRNAライブラリーに追加した。全VL領域をVH3領域ライブラリーを含むFab'発現ベクターにクローニングした。Fab'発現クローン8000個を、Fab'の発現を誘導する10μM IPTGを使用して標的抗原としてPcrVを用いたCLBAにより(実施例6に記載するように)アッセイした。Fab'クローン24個が陽性であり、これは、これらのクローンがPcrV抗原と特異的に結合できることを示した。クローンを単離して可溶性Fab'を成長培地から精製した。標的抗原としてPcrVを用いたELISAで個別のFab'を検査した。選択したFab'の全てがPcrVと結合した。
【0182】
それぞれの場合、選択されたFabのVh鎖がVh3サブクラス由来であり、Vκ鎖がVκIサブクラス由来であることを確認した。CLBAアッセイで検出したFabの頻度は、ヒトVhおよびVλサブクラスの完全な表現を含むライブラリーでみられた0.1%の頻度に比べて、Vh3およびVκIに限定したライブラリーでは0.3%であった。これは、さらなる分析のために抗原特異的抗体の同定頻度を増大させるために、焦点を当てたライブラリーを効果的に使用できることを示す。
【0183】
実施例5.コロニーリフト結合アッセイ(CLBA)(一般法)
一本鎖抗体ライブラリーをスクリーニングするためのコロニーリフト結合アッセイが記載されている(Giovannoni et al.,Nucleic Acds Research 2001, Vol.29, No.5 e27)。大腸菌から分泌され、培地に放出されたヒト抗体FabまたはFab'フラグメントのライブラリーを同様にスクリーニングできる。
【0184】
細菌に発現させた抗体フラグメントライブラリーの平板培養
大腸菌TOP10株のような適切な細菌宿主に抗体ライブラリーを形質転換により移入する。形質転換体の培養物を、適切な抗生物質(34μg/mlクロラムフェニコール)を含有する2YT寒天培地で平板培養する(Becton, Dickinson Difco(商標) 2xYT yeast extract tryptone medium)。結果として生じる細菌コロニーが控えめであるが、プレートの面積を最大限に生かすに足るほど密であるようにコロニー形成率を調整する。スクリーニングするクローンのコロニー数に応じて、様々な大きさのプレートを使用する。このように、最適の密度では、直径10cmのプレートはコロニー4,000個を、直径15cmのプレートはコロニー10,000個を、1辺25cmの角形プレートはコロニー50,000個を含む。
【0185】
抗原による捕捉フィルターの被覆
直径8.2cm、13.2cmまたは1辺20cmのニトロセルロースフィルター(Schleicher & Schuell BA85)に、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶かした経験的に決定した濃度(通常は0.5ug/mlから20ug/mlの間)の抗原を予備被覆する。被覆溶液の容量はフィルターの大きさに依存する。上に挙げた様々なフィルターサイズに、4ml、8mlまたは20mlを使用できる。フィルターを表面を下にして抗原のプールに置き、毛細管現象により抗原は均一に分布する。そのフィルターを時々撹拌しながら33℃で2時間〜3時間被覆する。次に、そのフィルターを過剰のPBSで1回すすぎ、PBSに溶かした脱脂粉乳の5%溶液で撹拌しながら25℃でさらに2時間ブロッキングする。次に、フィルターの水気を切り、0.1%Tween20を補充したPBS(PBST)で1回、選択用抗生物質および転写誘導因子(例えばクロラムフェニコールおよびIPTG)を補充した過剰の2YT液体培地で2回すすぐ。フィルターの水気を切らせ、フィルターを同濃度の抗生物質および誘導因子を補充した2YT寒天プレート(発現用プレート)に置く。
【0186】
捕捉用フィルターへのコロニーリフト
未被覆の乾燥したニトロセルロース膜を抗体フラグメントライブラリーを含有するコロニーのあるプレートに表面を下向きにして置く。いったんフィルターが肉眼で見て湿ったなら(約20秒)、1回でフィルターを持ち上げ、すでに発現プレートにおいてある被覆したフィルターの上にコロニー側が上となるように置く。滅菌した針を使用して、整合が可能になるパターンでフィルターに穴を開ける。
【0187】
抗体フラグメントの発現
ニトロセルロースフィルターのサンドイッチを有する発現用プレートを33℃で12時間〜16時間放置する。この間に、抗体フラグメントが分泌され、第一ニトロセルロース膜から第二の抗原を被覆した膜に拡散する。所与の細菌コロニーからの抗体フラグメントが抗原結合潜在能力を有するならば、そのフラグメントは抗原フィルターに保持され、その後検出される。
【0188】
抗体フラグメントの検出
12時間〜16時間の発現期の後で、発現用プレートからコロニーのフィルターを取り除き、選択用抗生物質を有するが転写誘導因子を有さない2YT寒天プレート上で4℃で保存する。
【0189】
抗原を被覆したフィルターを取り出し、過剰のPBST中で3回洗浄し(5分間の洗浄)、その後25℃で1.5時間PBST中の脱脂粉乳の5%溶液でブロッキングする。次に、抗原フィルター上に維持された抗体フラグメントを、以下の代替一次抗体の一つと共に最初にインキュベートすることにより検出する:ヤギ抗ヒトκ-HRP複合体 (US Biological); 9E10モノクローナルSC-40抗体 (Santa Cruz Biotech); またはペンタHisモノクローナル抗体(Qiagen Inc.)。9E10およびペンタHis抗体に関して、適切な二次的なペルオキシダーゼ複合二次抗体を使用して結合を明らかにする。10分間の洗浄を4回行った後で、ペルオキシダーゼ基質溶液(ECL plus、Amersham Biosciences)中でフィルターをインキュベートして、感光写真フィルムの露光に使用する。または、蛍光標識と複合した抗体を使用できる。この場合、Typhoon(Amersham Biosciences)またはFX-Pro(Biorad)のようなフラットベッド励起スキャナーを使用して陽性スポットを可視化できる。
【0190】
陽性コロニーのピッキング
背面照明用のライトボックスを使用して、写真フィルム上のスポットのパターンをコロニーのフィルターと整合させる(このフィルターを2YT寒天プレートから取り出してこの手順のために透明プラスチックに置くことができる)。陽性シグナルを与えるコロニーを選び出し、2YT液体ミニ培養液に植菌するために使用する。一次スクリーニングからの細菌を、次に低密度でもう一度平板培養し、以後の分析のために選び出し、クローン集団が増大していることを確実にする。
【0191】
実施例6.CLBAを使用した抗PcrV抗体のスクリーニング
アミノ末端のグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)精製タグと同フレーム内で融合タンパク質としてクローニングした組換えPcrVは、以前に記載されている(Frank et al (2002) J. Infectious Diseases 186: 64-73)。PcrVコード配列を発現ベクターpGEX 2TK(Amersham)にクローニングしてGST-PcrV融合タンパク質を発生させる。
【0192】
GST-PcrV融合タンパク質をpGEX 2TK-PcrVを用いて形質転換した大腸菌(BL21)から発現させて、以下のように精製した。GST-PcrVを発現している大腸菌の4リットル液体回分培養物を2YT培地で成長させて、600nmでの吸光度が0.6になってから、0.5mM IPTGでタンパク質の発現を誘導して、さらに3時間成長させた。遠心分離により細菌細胞をペレットにして、1U/ml rLysozyme(Novagen)および製造業者の使用説明書通りに希釈したプロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma-Aldrich)を補充したBug Buster(Novagen)溶液中で溶解させた。遠心分離および濾過により溶解液を清浄にした後で、その液をグルタチオンセファロースカラム(GSTrap FF、Amersham biosciences)に通過させ、洗浄し、純粋なGST-PcrVを10mMグルタチオンで溶出させた。その抗原を脱塩してもう一度PBS溶液とし、濃度2μg/ml〜20μg/mlでCLBA用にニトロセルロースフィルターを被覆するために使用した。CLBAを実施例5の通り実施した。
【0193】
KB1082に発現させたライブラリーに関しては、クロラムフェニコール[34μg/ml]およびアラビノース[0.002%]を含有する2YT発現用プレート上でライブラリーを平板培養した。細胞を16時間誘導して、抗原を被覆したフィルター上でGST-PcrVに結合する抗体フラグメントを、PBSTで5000倍に希釈したヤギ抗ヒトκ抗体-西洋ワサビペルオキシダーゼ複合体(US Biological)を使用して検出した。15分間の洗浄4回およびECL Plus(Amersham biosciences)の適用を行った後で、フィルターを使用してオートラジオグラフィー用フィルム(Amersham biosciences製Hyperfilm)を露光させた。
【0194】
ニトロセルロースフィルターに最初20μg/mlの濃度でGST-PcrVを被覆した。2回の独立したライブラリーのスクリーニングを完了した。ライブラリーBA19に関して15,000個のコロニーを平板培養およびスクリーニングして、12個のコロニーがPcrV結合潜在能を有するFabの存在を示す陽性シグナルを与えた。ライブラリーBA46に関して、>50,000個のコロニーをスクリーニングした結果、>200個の陽性シグナルがもたらされた。両ライブラリーからの陽性コロニーを選び出し、低密度で平板培養した。個別のコロニーを液体培養で成長させ、成長培地へのFabの発現を誘導した。GST-PcrVの結合に関してその後のELISAアッセイで強いシグナルを与えたクローンを、実施例7および8に記載するように希釈ELISAおよびBiacore分析でさらに分析した。
【0195】
低抗原密度(被覆濃度2μg/ml)でのその後のスクリーニングは、より少ない陽性クローンを与えたが、より高いストリンジェンシーのスクリーニングを示したELISAおよびBiacore分析は、より高親和性のFabフラグメントをもたらした。このように、スクリーニングのストリンジェンシーを調整して、マウス親抗体と等しいかそれよりも高い親和性を有する抗体フラグメントを選択することができる。
【0196】
KB1150で発現されたライブラリーに関して、クロラムフェニコール[34μg/ml]を有し、かつ誘導因子を有さないか10μM〜20μM IPTGを含有するかのいずれかである発現用プレートを調製した。リフトフィルター上のコロニーを発現用プレートで16時間培養し、上記のようにGST-PcrVに結合する抗体をヤギ抗κ-HRP複合体(US Biological)を使用して検出した。
【0197】
KB1082に発現させたライブラリーからの陽性クローンの場合と同様に、KB1150でのスクリーニングの結果として生じたクローンを選び出し、低密度で平板培養した。
【0198】
実施例7.ELISAによるヒト抗PcrV抗体の検出
CLBA由来陽性コロニーを、関連抗生物質を含有するが転写誘導を有さない2YT寒天プレート上で画線した。各画線からのコロニー6個〜8個を2枚1組の深型96ウェルタイタープレートに入れた2YT液体培地に個別に植菌した。一方のレプリカプレートを、16時間成長させ、グリセロールを15%になるまで補充してグリセロール保存物として-80℃で保存した。もう一方のレプリカプレートを、600nmでの吸光度0.5〜0.8になるまで振盪培養装置で33℃にて成長させ、それが実現した時点で、KB1082に発現したFabに関しては0.01%アラビノースを、またはKB1150に関しては0.5M IPTGを使用して抗体フラグメントの発現を誘導した。さらなる16時間の成長は、成長培地での抗体フラグメントの蓄積をもたらした。
【0199】
ELISAプレート(Costar EIA/RIA)に、PBSに溶かした100ng/ウェルのGST-PcrVを4℃で16時間インキュベートすることにより被覆し、PBS 0.1% Tween 20(PBST)に溶かした脱脂粉乳の5%溶液で1時間ブロッキングした。遠心分離により培地の試料から細胞デブリを除き、ELISAプレートに33℃で1時間適用した。PBSTで洗浄後に、抗原に結合する抗体フラグメントを、PBSTで1,000倍に希釈した抗ペプチドタグ(9E10、Santa Cruz biotech)の後で、PBSTで1,000倍に希釈したヤギ抗マウスポリクローナル-HRP複合体(Dakocytomation)、またはPBSTで1,000倍に希釈したヤギ抗ヒトκ-HRP複合体(US Biological)のいずれかで検出した。ペルオキシダーゼ基質であるテトラメチルベンジジン(TMB)(100μl/ウェル)を使用して、抗体の結合を明らかにして、その反応を2N H2SO4、100ulを添加して停止させ、標準的なプレートリーダーで読み出した。
【0200】
陽性ELISAシグナルを、反復したグリセロール保存液と整合させることで、本来のCLBAクローンそれぞれについて6個〜8個の培養物の一つを選び出すことが可能になった。表面プラズモン共鳴法により抗体結合親和性を決定するために、選択された抗原結合クローンを精製した(実施例8)。
【0201】
いくつかの実験では、抗体ライブラリーから獲得した20個までの細菌クローンのプールの一次スクリーニングにELISAを使用した。
【0202】
ライブラリーBA19からの、推定13個の細菌コロニー/ウェルをそれぞれ含む380個のプールを、誘導条件下(0.02%アラビノース)で96ウェルマイクロタイタープレートで一晩培養した。GST-PcrVに結合する抗体フラグメントについて培養上清をELISAでスクリーニングした。PBSTで100倍希釈したマウス抗ペンタHis(Qiagen)を使用して、抗原結合性抗体フラグメントを検出し、PBSTおよびTMB基質で500倍希釈したHRP複合ヤギ抗マウス抗体(Dakocytomation)を使用して明らかにした。抗原に対して強い結合を示した単一の陽性ウェルを同定した。このプールからの細胞を、複製グリセロールプレートから獲得して、2YT寒天上で低密度で成長させた。24個のサブクローンを、抗原結合性ELISAでスクリーニングし、PcrV抗原に対して高親和性を有する2個のクローンを同定した。その両方が同一の配列の抗体フラグメントを発現していた。
【0203】
細菌から発現した精製抗体フラグメントの相対結合親和性を決定するためにELISAアッセイも使用した。Hisタグ付き抗体フラグメントを次のようにNi-セファロースを使用して精製した。抗体フラグメントを発現している大腸菌の液体培養物1リットルを、600nmでの吸光度が0.6になるまで成長させてから、終濃度0.01%となるようにアラビノースを添加して誘導した。培養物を33℃でさらに3時間成長させて、その後遠心分離により細胞を採取した。細胞を分画してペリプラスム画分を以下のように確保した。培養物1リットルからの細菌細胞ペレットをTES緩衝液10ml(0.2M Tris pH8.0、17.12%スクロースおよび0.5mM EDTA)に再懸濁して、4℃で15分間インキュベートした。TES/H2O 12.5mlを1/4の比で添加後に、細胞混合物をさらに15分間4℃でインキュベートした。7000rcfで15分間遠心分離することにより細胞をペレットにして、上清を保存した。次に、15mM Mg2SO4を補充したTES 10mlにペレットを再懸濁し、4℃で10分間インキュベートしてから、再びペレットにした。上清をプールし、PBSで透析して、製造業者の使用説明書の通り抗体フラグメントをNi-NTA(Invitrogen)で精製した。C末端にタグを有さないFab'フラグメントを、HiTrapプロテインG HPカラム(Amersham Biosciences)を使用したプロテインGアフィニティ精製により精製した。SDS-PAGEおよびクマシーブルーを用いた染色により純度に関して抗体フラグメントをチェックした。ChemiDoc XRS(Bio-Rad Laboratories, Inc.)を使用して、ウシ血清アルブミン(BSA)標準と比較したクマシー染色ゲルのデンシトメトリーにより抗体フラグメント濃度を決定した。マウスMab166の可変領域(VHおよびVL)をクローニングして、このようにして大腸菌に発現させ、大腸菌から精製した。次に、以下のELISAおよびBiacoreアッセイにこのマウスFabを標準として使用した。細菌培地試料をスクリーニングするために、精製した抗体フラグメント試料に関する希釈ELISAを上記と同じ基礎的手順で実施した。FabをPBS100μlに同じ出発濃度となるように希釈した。各Fabに関して2回の繰り返しで96ウェルマイクロタイタープレートでの2倍希釈系列を組み立てた。次にこの系列を、予備被覆済みおよびブロッキング済みのELISAプレートに適用した。PBSTで洗浄後に、結合したFabを上記のように検出した。このアッセイは、Biacore分析前のFabの親和性順序の決定を可能にした。このアッセイにより発生したデータの例を図8に示す。
【0204】
実施例8.表面プラズモン共鳴法による抗PcrV抗体の親和性の解析
Biacore 3000分析装置(Pharmacia)を使用した表面プラズモン共鳴法により結合動態を解析した。三つの異なる密度(20RU〜300RU)でGST-PcrV抗原をセンサーチップ上に被覆した。標準的なアミンカップリング化学反応を使用してCM4センサーチップへの固定化を行った。運転用緩衝液は10mM HEPES、150mM NaCl、0.005% P20、3mM EDTAおよび0.2mg/ml BSA(pH7.4)であった。Fab試料を3個までの異なるGST-PcrV密度チップに2回の繰り返しで適用した。結合した複合体を、200倍に希釈したリン酸の12秒のパルスで再生した。異なる密度表面からの平均結合応答データは、下の表に示した結合定数の決定に全体的に適合していた。Mab166からの可変領域(VHおよびVL)もクローニングして、キメラFabフラグメントとして大腸菌から発現させた。このように、選択したヒトFabフラグメントを、結合動態に関して出発のマウスFab(マウスFab M166)と比較できた。
【0205】
(表1)表面プラズモン共鳴分析により決定した組換えPcrV抗原に対するFabフラグメントの結合動態。データは3回の決定の平均を表す。

【0206】
異なる結合動態を有するヒトFabをCLBAおよびELISAスクリーニングにより単離した。数個のFabは、マウス参照Fabの親和性に匹敵する親和性を有した。Fab1A8は、Mab166のFabよりも有意に高い親和性および有意に低い解離速度を有した(表1)。
【0207】
BA89およびBA90は、CDRH3およびCDRL3での単一アミノ酸突然変異を発生させるための、以前に記載された方法(Balint and Larrick Gene 137:109-18, 1993)による節減突然変異誘発を使用して発生したFab-1A8の誘導体である。突然変異誘導体を、高ストリンジェンシーでCLBAによりスクリーニングした。これらの二つの抗体の親和性は1A8よりも高く、解離速度は低い(表1)。
【0208】
(表2)V領域配列と、最も近いヒト生殖細胞系配列との比較。各抗体のV領域のアミノ酸配列をヒト生殖細胞系配列のデータベースと比較し、CDR3配列を除く各V領域について最も近いヒト生殖細胞系との同一率を示す。

【0209】
この分析は、CLBAを使用して高親和性抗PcrV抗体を単離できることを実証している。抗PcrV抗体のそれぞれの配列をヒト生殖細胞系配列のデータベースと比較し、最も近いヒト生殖細胞系配列とのアミノ酸同一率を表2に示す。それぞれの抗体は、VHとVL領域との両方でM166マウス参照抗体よりも、ヒト生殖細胞系配列と有意に高い相同性を示す。実際に、各抗体に関する完全なV領域は、ヒト生殖細胞系鎖と高度の配列同一性を示す(CDR3の配列はこれらの抗体に関する結合特異性決定基を含むため、この解析から除外した)。抗体のうち二つ、すなわちF6および1F1のV領域の配列を図9に示す。F6はヒト生殖細胞系Vセグメント(VH3〜33)と完全に同一なVHセグメントを有する。1F1は、生殖細胞系VκIII L6と同一なVLセグメントを有する。このように、本明細書に記載した方法は、ヒト生殖細胞系抗体配列と高度の相同性を有する、PcrVに対する高親和性抗体の同定に成功した。いくつかの場合では、少なくとも一つのV領域は、生殖細胞系配列と完全に同一であるVセグメントを有する。
【0210】
実施例9.PcrVに対するヒトFabによるIII型分泌系の拮抗
シュードモナス(Pseudomonas)III型分泌系(TTSS)は、細菌から細菌が接触する宿主細胞へのシュードモナス外毒素の直接の移行を仲介する。よって、外毒素を発現しているシュードモナス株は、全ての種類の哺乳動物細胞に強力な細胞傷害活性を示す。
【0211】
外毒素依存性細胞傷害性アッセイは、標的としてマウス骨髄腫細胞系P3-X63-Ag8を使用して確立された。2×105個の細胞に緑膿菌PA103株をMOI 10で感染させた。3時間後に、細胞をプロピジウムヨウ化物で染色し、透過性となった細胞の比率をフローサイトメトリーで定量した。この時点で細胞の約50%をプロピジウムヨウ化物で染色した。Mab166は、TTSSが介在する外毒素の分泌を遮断してシュードモナスPA103株による細胞死滅を阻止することが示された(Frank et al 2002. J. Infect. Disease 186:64)。抗体阻害実験のために、ヒトFabフラグメントまたはMab166の全IgGを、上記のようにX63細胞およびシュードモナスPA103と共にインキュベートした。このアッセイでは、Fab-1A8およびマウスMab166 IgGの両方がシュードモナス介在性細胞傷害の効果的な阻害を示した。Mab166に関して93nM±1.1nMのIC50であるのに比較して、Fab1A8に関するIC50は68nM±1.1nMと決定された(データは、3回の独立したアッセイから決定された平均値±平均値の標準誤差を抗体結合部位の濃度として表現したものを表す)。
【0212】
これは、Fab1A8がMab166参照抗体の生物学的活性を保持していることを示し、TTSS介在性細胞傷害作用に対する強力なアンタゴニスト活性を実証している。細胞に基づくアッセイでFab 1A8の方がMab166に比べて効力が高いことは、表面プラズモン共鳴分析により決定された組換えPcrV抗原に対してFab1A8の方が高い親和性であることと一致する。
【0213】
実施例10.酵母でのヒトFabフラグメントの発現および分泌
S.セレビジエ(S. cerevisiae)からのFabフラグメントの発現および分泌のために、重鎖および軽鎖両方に関する成熟タンパク質配列のN末端との融合のために、酵母インベルターゼ(SUC2)シグナルペプチドが選択された。次に、酵母発現ベクターpESC-Trp(Stratagene)にコード配列を導入し、それはtrp選択マーカーと、ガラクトース調節性プロモーターの制御下での二つのコード配列に関する挿入部位とを有する。
【0214】
ヒト抗PcrV抗体1A8のFdフラグメントを、重複PCRプライマーpr37/pr32およびpr33/pr34を使用して1A8プラスミドDNAから二段階ネストPCR反応により増幅させた。これらのプライマーは、重鎖コード配列上流に酵母インベルターゼ分泌シグナルをコードする配列を導入するようにも働く。Fd配列をpr32およびpr37で15サイクル増幅させた。次に、PCRフラグメントをゲル精製し、pr33およびpr34で15サイクル増幅させて再精製した。PCRフラグメントをBgl IIおよびSac IIで消化して、Gal1プロモーター下流の多数のクローニング部位でBamH IおよびSac IIで切断したpESC-Trpとの連結反応を行い、pSC0021-3を作製した。
プライマー32:

プライマー37:

プライマー33:

プライマー34:

【0215】
プライマー(pr66/pr67およびpr68/pr67)を使用してネストPCR反応によりFab-1A8の軽鎖を増幅させた。プライマーは軽鎖上流の酵母インベルターゼ分泌シグナルも提供する。その軽鎖をpr66およびpr67で15サイクル増幅させた。次に、そのPCRフラグメントをゲル精製し、pr68およびpr67で15サイクル増幅させて再精製した。PCRフラグメントをEcoRIおよびBamH Iで消化して、Gal10プロモーター下流のマルチプルクローニングサイトでEcoRIおよびBgl IIで切断したpESC-Trpとの連結反応を行い、pSC0017-2を作製した。
プライマー66:

プライマー67:

プライマー68:

【0216】
重鎖および軽鎖の両方の発現のための二重遺伝子ベクターを構築するために、Fdコード配列を含む、pSC0021-3由来の1.5kbのEcoRI-NheIフラグメントを、同酵素で消化した軽鎖発現ベクターpSC0017-2にサブクローニングしてpSC0019-1を作製した。このベクターでは、軽鎖の発現は、GAL10プロモーターから指令され、Fd鎖はGAL1プロモーターから発現される。ガラクトースを欠如している培地で両鎖の発現を誘導する。
【0217】
培地に分泌されたFab-1A8の検出
酵母株YPH499をStratageneから入手し、成長および形質転換を製造業者の使用説明書の通り実施した(pESC酵母エピトープタグベクター:使用説明書マニュアル改訂番号104002d;Stratagene)。簡潔には、グリセロール保存株からYPADプレートにYPH499細胞を画線培養し、コロニーが出現するまで30℃で2日間インキュベートした。新鮮なコンピテント細胞をYPH499コロニーから調製して、pSC0019-1 DNAの1μgを用いた形質転換に使用した。形質転換反応物をSDドロップアウトプレート上で平板培養して、30℃で3日間インキュベートして形質転換体を選択した。
【0218】
抗体フラグメントの発現のために、各形質転換操作からの6個のコロニーを、SDドロップアウト培地(2%グルコースを含む)5mlに接種し、振盪(350rpm)しながら一晩インキュベートした。OD600nmを翌日決定して、十分な細胞を遠心分離してSGドロップアウト培地(2%ガラクトースを含有)に再懸濁して、OD 0.25を有する培養物を発生させた。Fabフラグメントの発現を、SGドロップアウト培地中で30℃で16時間振盪培養(350rpm)することにより誘導した。誘導後に、2回遠心分離することにより細胞を培地から除き、ELISAおよびウエスタンブロット分析により、分泌されたFabフラグメントを検出するために上清を採集した。
【0219】
組み立てられたFabの発現を、HRP複合抗ヒトκ抗体(US Biological)を用いた検出を使用したウエスタンブロット法により確認した。抗原結合性ELISAを、誘導済みの培養物から得た上清に関して実施し、GST-PcrV抗原に対する結合をHRP複合抗ヒトκ抗体を用いて検出し、よって培地への活性Fabの分泌を確認した。
【0220】
ヒトFabのライブラリーをスクリーニングするために、標準的な組換えDNA技法を使用してpSC0019-1中のV領域配列を、VHおよびVL配列のライブラリーに置換する。酵母形質転換体から分泌されたFabフラグメントを、上記のように抗原結合ELISAにより、またはコロニーリフト結合アッセイにより検出する。
【0221】
実施例11.酵母でのコロニーリフト結合アッセイ(CLBA)
酵母での抗体分泌および検出のためのCLBA法は、実施例5の細菌コロニーに関して記載されたものと本質的に同じである。PcrV結合Fabまたは陰性コントロールFabのいずれかを有するベクターpSC0019-1のDNAを含む酵母培養物を、SDドロップアウト最少培地で30℃で16時間成長させた。600nmでの培養物の吸光度を測定し、各培養物の細胞1000個を別々のSDドロップアウト寒天プレート(成長用プレート)上で平板培養した。小さな別個のコロニーが30℃で16時間成長後に見られた。ニトロセルロースフィルターに20μg/ml GST-PcrVを被覆し、実施例5に記載したように5%乳溶液でブロッキングした。抗原を被覆したフィルターをSGドロップアウト培地中ですすいでから、SGドロップアウト寒天プレート(発現用プレート)上に置いた。成長用プレート上のコロニーをニトロセルロースフィルター上にリフトし、そのフィルターを次に、発現用プレート上の抗原被覆フィルターの上に置いた。次に、発現用プレートを30℃でさらに16時間インキュベートした。実施例5および6に記載したように抗体Fabフラグメントの検出のためにHRP複合抗ヒトκ抗体(US Biological)を使用した。
【0222】
ラジオグラフィー用フィルムの露出に際して、Fab-1A8コロニーのプレートからの抗原フィルターは、抗PcrV Fabを分泌しているコロニーに対応する陽性シグナルを示したが、陰性コントロールは無シグナルであった。これは、CLBAが酵母から発現され分泌された抗体フラグメントのライブラリーをスクリーニングするために使用できることを示している。
【0223】
本明細書に引用した全ての刊行物、アクセッション番号、および特許出願は、それぞれ個別の刊行物または特許出願が参照として組み込まれていると具体的かつ個別に表示されるかの如く、参照として本明細書に組み込まれている。
【0224】
理解を明瞭にするための例証および例として、前述の発明を少し詳しく説明したが、本発明の教示に照らして、添付の特許請求の範囲の精神または範囲から逸脱することなくある変化および変更を本発明に加えうることは当業者に容易に明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0225】
【図1】大腸菌からFabフラグメントを発現させるためのベクターのプラスミドマップを示す。プラスミドKB1082は、κ軽鎖および重鎖Fdフラグメントに関するコード配列を含むジシストロニックメッセージの発現を指令するためのアラビノース誘導性プロモーターを含む。
【図2】KB1082の完全ヌクレオチド配列を示す。
【図3】大腸菌でのFab'フラグメントの発現のためのベクターを示す。プラスミドKB5000は、ヒトκ鎖およびヒト重鎖Fd'フラグメントの発現のための二つのIPTG誘導性tacプロモーターを有する。
【図4】KB5000の完全配列を示す。
【図5】DおよびJセグメントを示すM166 CDRH3領域の配列を示す。
【図6】マウス抗PcrV抗体M166由来重鎖のCDR3中の最低限必須な結合特異性ドメイン(MEBSD)および完全なヒトJ領域(JH6)を含む、ヒト抗体の可変領域の配列を示す。MEBSDを太字で下線を付して示す。
【図7】マウス抗PcrV抗体M166由来重鎖のCDR3中のMEBSDおよび完全なヒトJ領域(JH3)を含む、ヒト抗体の可変領域の配列を示す。MEBSDを太字で下線を付して示す。
【図8】PcrV抗原との結合を検出するための例示的なELISA分析の結果を示す。
【図9】ヒト生殖細胞系に近い配列を有する、抗PcrV抗体のV領域の配列を示す。VセグメントまたはFR4における最も近いヒト生殖細胞系配列と異なるアミノ酸残基に下線を付し、CDR3配列を太字で示す。抗体F6のVHセグメントは、第一アミノ酸を除き、ヒト生殖細胞系配列VH3-33と同一である。抗体1F1のVLセグメントはヒト生殖細胞系VκIII L6と同一である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、参照抗体の結合特異性を有する抗体を作製する方法:
a)該参照抗体からの重鎖CDR3結合特異性決定基(BSD)をヒトVHセグメントの多様な集団と接続し、それによって該参照抗体の重鎖CDR3 BSDを有するヒトVH領域のライブラリーを作出する段階;
b)該参照抗体からの軽鎖CDR3 BSDをヒトVLセグメントの多様な集団と接続し、それによって該参照抗体の軽鎖CDR3 BSDを有するヒトVL領域のライブラリーを作出する段階;
c)段階aのライブラリーと段階bのライブラリーとを組み合わせて、構成員を含む抗体ライブラリーを作出する段階であって、構成員が該参照抗体の重鎖CDR3 BSDを含む一つのVHおよび該参照抗体の軽鎖CDR3 BSDを含む一つのVLを有する段階;および
d)該参照抗体と同じ抗原と結合する段階cのライブラリーの構成員を単離する段階。
【請求項2】
ヒトVHセグメントの多様な集団またはヒトVLセグメントの多様な集団が、ヒト生殖細胞系である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
(d)で選択された抗体のCDR3の少なくとも一つに突然変異を誘発する段階;および(d)で選択された該抗体よりも抗原に対して高い親和性を有する抗体を選択する段階をさらに含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
VHセグメントの多様な集団およびVLセグメントの多様な集団の両方がヒト生殖細胞系である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
(d)で選択された抗体のCDR3の少なくとも一つに突然変異を誘発する段階;および(d)で選択された該抗体よりも抗原に対して高い親和性を有する抗体を選択する段階をさらに含む、請求項4記載の方法。
【請求項6】
ヒトVHセグメントの多様な集団が一つのVセグメントサブクラスからのものである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
ヒトVLセグメントの多様な集団が一つのV領域サブクラスからのものである、請求項1記載の方法。
【請求項8】
参照抗体からのCDR3 BSDの少なくとも一つが、該参照抗体からのCDR3-FR4セグメントである、請求項1記載の方法。
【請求項9】
FR4がヒト生殖細胞系FR4である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
ヒトFR4が多様なヒトFR4配列のライブラリーである、請求項1記載の方法。
【請求項11】
Jセグメントがヒト抗体Jセグメントである、請求項1記載の方法。
【請求項12】
参照抗体からのCDR3 BSDの少なくとも一つが該参照抗体のCDR3である、請求項1記載の方法。
【請求項13】
重鎖CDR3 BSDが参照抗体の重鎖CDR3であり、かつ軽鎖CDR3 BSDが該参照抗体の軽鎖CDR3である、請求項1記載の方法。
【請求項14】
参照抗体からの重鎖CDR3 BSDがDセグメントである、請求項1記載の方法。
【請求項15】
参照抗体からのCDR3 BSDの少なくとも一つが最低限必須な結合特異性決定基である、請求項1記載の方法。
【請求項16】
段階cのライブラリーの構成員を単離する段階が、参照抗体と同じかまたはそれよりも高い親和性で抗原と結合するライブラリーの構成員を同定するスクリーニング段階を含む、請求項1記載の方法。
【請求項17】
参照抗体が非ヒト抗体である、請求項1記載の方法。
【請求項18】
ライブラリーを組み合わせる段階が、ヒトVH領域のライブラリーおよびヒトVL領域のライブラリーを単一の発現ベクター上で発現させる段階を含む、請求項1記載の方法。
【請求項19】
VHライブラリーおよびVLライブラリーが別々のプロモーターを使用して発現される、請求項18記載の方法。
【請求項20】
ライブラリーを組み合わせる段階が、ヒトVH領域のライブラリーおよびヒトVL領域のライブラリーを二つの発現ベクター上で発現させる段階を含む、請求項1記載の方法。
【請求項21】
段階c)のヒト抗体ライブラリーが抗体を含み、該抗体が、IgG、Fv、Fab、Fab'、F(ab')2、一本鎖Fv、または一つもしくは複数のドメインの欠失を有するIgGである、請求項1記載の方法。
【請求項22】
ライブラリーの構成員を単離する段階が、コロニーリフト結合アッセイを使用してスクリーニングする段階を含む、請求項1記載の方法。
【請求項23】
ライブラリーの構成員を単離する段階が、バクテリオファージディスプレイ、酵母細胞ディスプレイ、細菌細胞ディスプレイ、リボソームディスプレイおよび哺乳動物細胞ディスプレイからなる群より選択されるディスプレイ技術を使用してスクリーニングする段階を含む、請求項1記載の方法。
【請求項24】
ライブラリーの構成員を単離する段階が、ライブラリーの構成員のプールをスクリーニングする段階を含む、請求項1記載の方法。
【請求項25】
以下をさらに含む、請求項1記載の方法:
e)(d)により選択された複数の構成員からの重鎖V領域を、参照抗体の軽鎖CDR3 BSDを有するヒトVL領域のライブラリーと組み合わせる段階;および
f)該参照抗体と同じ抗原に結合する構成員を選択する段階。
【請求項26】
以下をさらに含む、請求項1記載の方法:
e)(d)により選択された複数の構成員からの軽鎖V領域を、参照抗体の重鎖CDR3 BSDを有するヒトVH領域のライブラリーと組み合わせる段階;および
f)該参照抗体と同じ抗原に結合する構成員を選択する段階。
【請求項27】
以下をさらに含む、請求項1記載の方法:
e)(d)により選択された複数の構成員からの重鎖V領域を、(d)により選択された複数の構成員からの軽鎖V領域と組み合わせる段階;および
f)該参照抗体と同じ抗原に結合する構成員を選択する段階。
【請求項28】
以下を含む、参照抗体の結合特異性を有する抗体を作製する方法:
a)該参照抗体の重鎖からのCDR3 BSDをヒトVHセグメントの多様な集団と接続し、それによって該参照抗体の重鎖CDR3からのBSDを有する多様なVH領域を含む集団を作出する段階;
b)段階aの集団を、該参照抗体からの軽鎖CDR3 BSDと接続したヒト生殖細胞系サブクラスVセグメントを含むVLと組み合わせて抗体ライブラリーを作出する段階;および
c)該参照抗体と同じ抗原と結合する段階cのライブラリーの構成員を単離する段階。
【請求項29】
参照抗体からのCDR3 BSDの少なくとも一つが最低限必須な結合特異性決定基である、請求項28記載の方法。
【請求項30】
参照抗体の重鎖からのCDR3 BSDがDセグメントである、請求項28記載の方法。
【請求項31】
参照抗体からのCDR3 BSDの少なくとも一つがCDR3である、請求項28記載の方法。
【請求項32】
ヒトVH領域の多様な集団が生殖細胞系VHセグメントを含む、請求項28記載の方法。
【請求項33】
VLのJセグメント領域がヒト生殖細胞系配列である、請求項28記載の方法。
【請求項34】
以下を含む、参照抗体の結合特異性を有する抗体を作製する方法:
a)該参照抗体の軽鎖からのCDR3 BSDをヒトVLセグメントの多様な集団と接続し、それによって該参照抗体の軽鎖CDR3からのBSDを有する多様なVL領域を含む集団を作出する段階;
b)段階aの集団を、該参照抗体からのCDR3 BSDと接続したヒト生殖細胞系サブクラスVセグメントを含むVHと組み合わせて抗体ライブラリーを作出する段階;および
c)該参照抗体と同じ抗原と結合する段階cのライブラリーの構成員を単離する段階。
【請求項35】
参照抗体からのCDR3 BSDの少なくとも一つが最低限必須な結合特異性決定基である、請求項34記載の方法。
【請求項36】
参照抗体の重鎖からのCDR3 BSDがDセグメントである、請求項34記載の方法。
【請求項37】
参照抗体からのCDR3 BSDの少なくとも一つがCDR3である、請求項34記載の方法。
【請求項38】
ヒトVL領域の多様な集団が生殖細胞系VLセグメントを含む、請求項34記載の方法。
【請求項39】
CDR3 BSDと接続したヒトサブクラスVセグメントを含むVHのJセグメント領域がヒト生殖細胞系配列である、請求項34記載の方法。
【請求項40】
以下を含む、参照抗体の結合特異性を有する抗体を作製する方法:
a)該参照抗体の軽鎖CDR3からの最低限必須な結合特異性決定基を、ヒトVLセグメントの多様な集団と接続し、それによって該参照抗体の軽鎖CDR3 BSDを有する多様なVL領域を含む集団を作出する段階;
b)段階aの集団を該参照抗体からのVH領域と組み合わせて抗体ライブラリーを作出する段階;および
c)該参照抗体と同じ抗原と結合する、段階cのライブラリーの構成員を単離する段階。
【請求項41】
以下をさらに含む、請求項40記載の方法:
d)参照抗体からの重鎖CDR3からのBSDをヒトVHセグメントの多様な集団と接続し、それによって該参照抗体の重鎖CDR3 BSDを有する多様なVH領域を含む集団を作出する段階;
e)(c)で単離された抗体からのVL領域の集団を提供する段階;
f)段階(d)の集団および段階(e)の集団を組み合わせて抗体ライブラリーを作出する段階;および
g)該参照抗体と同じ抗原と結合する段階(f)のライブラリーの構成員を単離する段階。
【請求項42】
(a)のヒトVLセグメントの多様な集団が生殖細胞系である、請求項40記載の方法。
【請求項43】
以下をさらに含む、請求項42記載の方法:
(g)で選択された抗体のCDR3の少なくとも一つに突然変異を誘発する段階;および(g)で選択された該抗体よりも抗原に対して高い親和性を有する抗体を選択する段階。
【請求項44】
以下を含む、参照抗体の結合特異性を有する抗体を作製する方法:
a)該参照抗体の重鎖CDR3からのBSDを、ヒトVHセグメントの多様な集団と接続し、それによって該参照抗体の重鎖CDR3 BSDを有する多様なVH領域を含む集団を作出する段階であって、ここで、該BSDが最低限必須な結合特異性決定基、Dセグメント、およびDセグメント-FR4からなる群より選択される段階;
b)段階aの集団を、該参照抗体からのVL領域と組み合わせて抗体ライブラリーを産生する段階;および
c)該参照抗体と同じ抗原と結合する(b)のライブラリーの構成員を単離する段階。
【請求項45】
以下をさらに含む、請求項44記載の方法:
d)参照抗体の軽鎖からのCDR3からのBSDをヒトVLセグメントの多様な集団と接続し、それによって該参照抗体の軽鎖CDR3 BSDを有する多様なVL領域を含む集団を作出する段階;
e)(d)で単離された抗体からのVH領域の集団を提供する段階;
f)段階(d)の集団と段階(e)の集団とを組み合わせて抗体ライブラリーを作出する段階;および
g)該参照抗体と同じ抗原と結合する(f)のライブラリーの構成員を単離する段階。
【請求項46】
(a)のヒトVHセグメントの多様な集団が生殖細胞系である、請求項44記載の方法。
【請求項47】
以下をさらに含む、請求項46記載の方法:
(g)で選択された抗体のCDR3の少なくとも一つに突然変異を誘発する段階;および(g)で選択された該抗体よりも抗原に対して高い親和性を有する抗体を選択する段階。
【請求項48】
重鎖Vセグメントの多様な集団をコードする複数の核酸を含むライブラリーであって、該VセグメントがCDR3と連結していないライブラリー。
【請求項49】
Vセグメントがヒト生殖細胞系である、請求項48記載のライブラリー。
【請求項50】
軽鎖Vセグメントの多様な集団をコードする核酸を含むライブラリーであって、該VセグメントがCDR3と連結していないライブラリー。
【請求項51】
Vセグメントがヒト生殖細胞系である、請求項50記載のライブラリー。
【請求項52】
複数のヒト抗体V領域ペアを含むライブラリーであって、該V領域ペアが以下を含むライブラリー:i)ヒトVセグメントおよび参照抗体からの重鎖CDR3とを含む未選択の重鎖V領域、ならびにii)ヒトVセグメントおよび該参照抗体からの軽鎖CDR3とを含む未選択の軽鎖V領域。
【請求項53】
ヒト抗体V領域ペアをコードする核酸を含むライブラリーであって、ここで、VHおよびVLのVセグメントがそれぞれ参照抗体からのMEBSDと連結しているライブラリー。
【請求項54】
複数のVHまたはVL領域をコードする核酸を含むライブラリーであって、該VHまたはVL領域が一つのVHまたはVLサブクラスからのVセグメントを含み、かつV領域がDおよび/またはJセグメントを欠如するライブラリー。
【請求項55】
VH領域のVセグメントが生殖細胞系であり、および/またはVL領域のVセグメントが生殖細胞系である、請求項54記載のライブラリー。
【請求項56】
複数の抗体V領域ペアを含むライブラリーであって、該ペアが、以下を含み:i)参照抗体からの重鎖CDR3からの結合特異性決定基BSDを含む重鎖V領域が多様なVセグメントと接続したもの、およびii)該参照抗体からの軽鎖CDR3からのBSDを含む軽鎖V領域が多様なVセグメントと接続したものであり、ここで、該BSDの少なくとも一つが該参照抗体のCDR3よりも小さいものを含むライブラリー。
【請求項57】
参照抗体の重鎖CDR3からのBSDがVHセグメントの多様な集団と接続したものを含む複数のVH領域を含むが、但し、該BSDが該参照抗体の重鎖CDR3よりも小さいライブラリー。
【請求項58】
参照抗体の軽鎖CDR3からのBSDがVLセグメントの多様な集団と接続したものを含む複数のVL領域を含むが、但し、該BSDが該参照抗体の軽鎖CDR3よりも小さいライブラリー。
【請求項59】
ヒトVセグメント、非ヒト参照抗体からのDセグメントおよびヒトJセグメントとを含むVH領域を含む抗体。
【請求項60】
ヒトVセグメントが生殖細胞系Vセグメントである、請求項59記載の抗体。
【請求項61】
ヒト生殖細胞系Vセグメントを有するVH領域および参照抗体からの重鎖CDR3からのMEBSDとを含む抗体。
【請求項62】
BSDが参照抗体からのCDR3-FR4である、請求項61記載の抗体。
【請求項63】
BSDが参照抗体からのCDR3である、請求項61記載の抗体。
【請求項64】
BSDが参照抗体からのDセグメントである、請求項61記載の抗体。
【請求項65】
ヒト生殖細胞系Vセグメントおよび参照細胞からの軽鎖CDR3からのBSDとを有するVL領域を含む抗体。
【請求項66】
BSDが参照抗体からのCDR3-FR4である、請求項65記載の抗体。
【請求項67】
BSDが参照抗体からのCDR3である、請求項65記載の抗体。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−533304(P2007−533304A)
【公表日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−551336(P2006−551336)
【出願日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【国際出願番号】PCT/US2005/002072
【国際公開番号】WO2005/069970
【国際公開日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(506249211)カロバイオズ インコーポレーティッド (12)
【Fターム(参考)】