説明

有害化合物の無害化方法

【課題】
本発明は、ヒ素等を含む有害化合物を効率的に、無害化するのに有益な有害化合物の無害化方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明の有害化合物の無害化方法は、コバルト錯体の存在下、光照射及び/又は加熱により、ヒ素、アンチモン、セレンからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有する有害化合物を無害化することを特徴とする。本発明の有害化合物の無害化方法の好ましい態様において、前記ヒ素、アンチモン、又はセレンをアルキル化することにより無害化することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害化合物の無害化方法、特に光照射により有害化合物を無害化する有害化合物の無害化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒ素、アンチモン、セレン等の重金属は、半導体等の工業材料として広く用いられている物質であるが、生物に有毒な物質であることから、環境中に流出することにより生物に与えられる影響が懸念されている。
【0003】
従来、これらの重金属を除去する方法として、有毒な亜砒酸等の無機ヒ素を含む廃水にポリ塩化アルミニウム(PAC)等の凝集剤を添加し、該凝集剤と原水中の鉄分にヒ素を凝集、吸着し、沈殿させた後、濾過により除去する方法や、活性アルミナ、セリウム系吸着剤によりヒ素化合物等を吸着させる方法等が一般に知られている。
【0004】
一方、自然界において、海藻等の海洋生物では、無機ヒ素が蓄積され、該無機ヒ素の一部が生理反応により、ジメチル化ヒ素などの有機ヒ素化合物へ転換されることが明らかとなっている(非特許文献1:Kaise et al.、 1998、Organomet.Chem.、12 137-143)。そして、これらの有機ヒ素化合物は、一般に、哺乳動物に対して無機ヒ素よりも低い毒性を示すことが知られている。
【0005】
【非特許文献1】Kaise et al.、 1998、 Organomet. Chem.、 12 137-143
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、濾過、吸着等を利用した上述の重金属を除去する方法では、依然として有害なままである無機ヒ素等の有害化合物を含んだ汚泥、及び当該有害化合物が吸着されている吸着剤を、当該有害化合物が外部に漏れないようにコンクリート等で密封するなどした上で保管するか又は埋め立てる必要があり、保管場所、埋め立て地用の広いスペースを要することから、大量処理が困難であるという問題があった。
【0007】
また、魚貝類に含まれるヒ素は、無毒のアルセノベタインであることが国際的に認められており、本発明では、猛毒無機ヒ素を無毒のアルセノベタインに化学的に変換して、無毒化を達成することが可能である。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題点を解決すべく、ヒ素等を含む有害化合物を効率的に無害化するのに有益な有害化合物の無害化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明者らは、コバルト錯体を用いた化学反応によってヒ素等を含む有害化合物をメチル化、特に、ジメチル化、更に好ましくはトリメチル化することを試み、当該有害化合物のメチル化反応の最適な条件について鋭意検討した結果、本発明を見出すに至った。
【0010】
すなわち、本発明の有害化合物の無害化方法は、コバルト錯体の存在下、光照射及び/又は加熱により、ヒ素、アンチモン、セレンからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有する有害化合物を無害化することを特徴とする。
【0011】
本発明の有害化合物の無害化方法の好ましい態様において、前記ヒ素、アンチモン、又はセレンをアルキル化することにより無害化することを特徴とする。
【0012】
本発明の有害化合物の無害化方法の好ましい態様において、前記アルキル化反応を光照射及び/又は加熱条件下で行うことを特徴とする。
【0013】
本発明の有害化合物の無害化方法の好ましい態様において、さらに、ヒ素、アンチモン、セレンからなる群から選択される少なくとも1種の金属を還元する還元剤の存在下、無害化することを特徴とする。
【0014】
本発明の有害化合物の無害化方法の好ましい態様において、前記還元剤が、SH基を有する物質であることを特徴とする。
【0015】
本発明の有害化合物の無害化方法の好ましい態様において、SH基を有する物質が、グルタチオン、還元型グルタチオン(GSH)、システイン、S−アデノシルシステイン、スルフォラファン、ホモシステイン、チオグリコールからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
【0016】
本発明の有害化合物の無害化方法の好ましい態様において、前記コバルト錯体が、メチルコバラミン(メチル化ビタミンB12、正式名称:Coα−[α−5、6−ジメチルベンズ−1H−イミダゾール−1−イル−Coβ−メチルコバミド]、シアノコバラミンなどのビタミンB12、コバルト(II)アセチルアセトナート、コバルト(III)アセチルアセトナート、コバルトカルボニル(二コバルトオクタカルボニル)、コバルト(II)1、1、1、5、5、5-ヘキサフルオロアセチルアセトナート、コバルト(II)メゾ−テトラフェニルポルフィン、ヘキサフルオロりん酸ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)コバルト、N、N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミンコバルト(II)、ビス(2、2、6、6-テトラメチル-3、5-ヘプタンジオナト)コバルト(II)、(クロロフタロシアニナト)コバルト(II)、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)コバルト(I)、酢酸コバルト(II)のメチル錯体、安息香酸コバルト(II)、シアン化コバルト(II)、シクロヘキサン酪酸コバルト(II)、2-エチルヘキサン酸コバルト(II)、meso−テトラメトキシフェニルポルフィリンコバルト(II)、ナフテン酸コバルト、フタロシアニンコバルト(II)、メチルコバルト(III)プロトポルフィリンIX、ステアリン酸コバルト、スルファミン酸コバルト(II)、(1R、2R)-(-)-1、2-シクロヘキサンジアミノ-N、N’−ビス(3、5−ジ-t-ブチルサリチリデン)コバルト(II)、(1S、2S)-(+)-1、2-シクロヘキサンジアミノ-N、N’−ビス(3、5−ジ-t-ブチルサリチリデン)コバルト(II)、シクロペンタジエニルビス(トリフェニルホスフィン)コバルト(I)、シクロペンタジエニルコバルトジカルボニル、ジブロモビス(トリフェニルホスフィン)コバルト(II)、(テトラアミノクロロフタロシアニナト)コバルト(II)、(テトラ−t−ブチルフタロシアニナト)コバルト(II)から選ばれた少なくとも1種の化合物のメチル錯体、または、前記コバルト化合物とハロゲン化アルキル、特にハロゲン化メチルを共存させて形成するコバルト−メチル錯体、からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
【0017】
本発明の有害化合物の無害化方法の好ましい態様において、前記アルキル化が、メチル化であることを特徴とする。
【0018】
本発明の有害化合物の無害化方法の好ましい態様において、前記メチル化によって、有害化合物をジメチル化合物又はトリメチル化合物とすることを特徴とする。
【0019】
本発明の有害化合物の無害化方法の好ましい態様において、前記ジメチル化合物が、ジメチルアルソニルエタノール(DMAE)、ジメチルアルソニルアセテート(DMAA)、ジメチルアルシン酸、又はアルセノシュガーであることを特徴とする。
【0020】
本発明の有害化合物の無害化方法の好ましい態様において、前記トリメチル化合物が、アルセノコリン、アルセノベタイン、トリメチルアルセノシュガー又はトリメチルアルシンオキシドであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の有害化合物の無害化方法によれば、有害化合物を限りなく無害化することができるので、保管場所等の広いスペースを必要としないという有利な効果を奏する。また、本発明の方法によれば、生物体そのものを生きたままで利用するものではないので、不必要な副産物を発生させないという有利な効果を奏する。さらに、本発明によれば、簡便な操作で、有害な無機ヒ素などをより少なくすることができるという有利な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の有害化合物の無害化方法は、コバルト錯体を使用する。ここで、コバルト錯体としては特に限定されないが、コバルト−炭素結合を有する有機金属錯体などを挙げることができる。
【0023】
コバルト−炭素結合を有する有機金属錯体の例としては、以下を例示できる。すなわち、メチルコバラミン(あるいは、メチル化ビタミンB12、正式名称:Coα−[α−5、6−ジメチルベンズ−1H−イミダゾール−1−イル−Coβ−メチルコバミド]が好ましく用いられる。また、シアノコバラミンなどのビタミンB12、コバルト(II)アセチルアセトナート、コバルト(III)アセチルアセトナート、コバルトカルボニル(二コバルトオクタカルボニル)、コバルト(II)1、1、1、5、5、5-ヘキサフルオロアセチルアセトナート、コバルト(II)メゾ−テトラフェニルポルフィン、ヘキサフルオロりん酸ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)コバルト、N、N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミンコバルト(II)、ビス(2、2、6、6-テトラメチル-3、5-ヘプタンジオナト)コバルト(II)、(クロロフタロシアニナト)コバルト(II)、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)コバルト(I)、酢酸コバルト(II)のメチル錯体、安息香酸コバルト(II)、シアン化コバルト(II)、シクロヘキサン酪酸コバルト(II)、2-エチルヘキサン酸コバルト(II)、meso−テトラメトキシフェニルポルフィリンコバルト(II)、ナフテン酸コバルト、フタロシアニンコバルト(II)、メチルコバルト(III)プロトポルフィリンIX、ステアリン酸コバルト、スルファミン酸コバルト(II)、(1R、2R)-(-)-1、2-シクロヘキサンジアミノ-N、N’−ビス(3、5−ジ-t-ブチルサリチリデン)コバルト(II)、(1S、2S)-(+)-1、2-シクロヘキサンジアミノ-N、N’−ビス(3、5−ジ-t-ブチルサリチリデン)コバルト(II)、シクロペンタジエニルビス(トリフェニルホスフィン)コバルト(I)、シクロペンタジエニルコバルトジカルボニル、ジブロモビス(トリフェニルホスフィン)コバルト(II)、(テトラアミノクロロフタロシアニナト)コバルト(II)、(テトラ−t−ブチルフタロシアニナト)コバルト(II)から選ばれた少なくとも1種の化合物のメチル錯体、または、前記コバルト化合物とハロゲン化アルキル、特にハロゲン化メチルを共存させて形成するコバルト−メチル錯体を例示できる。有害な無機ヒ素などを含む有害化合物を比較的容易にアルキル化し、毒性の低い有機物にすることが可能であるという観点から、コバルト−炭素結合を有する有機金属錯体としては、メチルコバラミンが好ましい。
【0024】
コバルト錯体を使用したのは、コバルト錯体の使用により、ヒ素等へのメチル基転移反応を進行させることが可能だからである。ヒ素等へのメチル化が達成されると、有害な物質が、より無害な物質へと転換させることができる。水銀、鉛などの例のように、一般的には、メチル化されるとより毒性が高くなる事が知られているが、ヒ素等の場合、メチル化されることにより、毒性を大きく低減することが可能である。
【0025】
本発明においては、光照射及び/又は加熱により、メチル基転移反応を進行させることができる。詳細なメカニズムは不明であるが、コバルト錯体としてメチルコバラミンを使用した場合を例にとると、メチル化因子であるメチルコバラミンのCo−Me基のCo−C結合が光照射及び/又は加熱により開裂して、ヒ素等の原子に転位しやすくなるものと推定される。
【0026】
光照射の条件については、常法に従い特に限定されるものではない。メチル基転移を促進させるという観点から、光強度としては、0.1〜1000 mW/cm2、より好ましくは、1〜1000mW/cm2である。エネルギーとしては、1mJ〜100J、好ましくは、100mJ〜100Jである。照射する光の波長としては、紫外線、可視光線、近赤外線、赤外線、遠赤外線が用いられる。好ましくは、コバルト錯体による吸収帯の吸収極大波長(λmax)を中心として、λmax±500nm、より好ましくは、λmax±250nm、更に好ましくは、λmax±100nmの波長の光を照射することで、本発明のメチル化反応を効率よく進行させることができる。
【0027】
また、加熱条件についても特に限定されるものではないが、メチル基転移を促進させるという観点から、加熱温度は、20〜250℃、より好ましくは、50〜150℃である。
【0028】
ここで、本明細書において、「有害化合物」とは、環境中に流出し、生物に暴露された際に、何らかの悪影響を生物に与える恐れがある化合物を意味する。
【0029】
前記有害化合物のうちヒ素を含有する有害化合物としては、亜ヒ酸、五酸化ヒ素、三塩化ヒ素、五塩化ヒ素、硫化ヒ素化合物、シアノヒ素化合物、クロロヒ素化合物、及びその他のヒ素無機塩類等が挙げられる。これらのヒ素は、例えばLD50(mg/kg)(マウスにおける50%致死量)が20以下であり、一般に生物に対して有毒な値である。
【0030】
また、アンチモンを含有する有害化合物としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、三塩化アンチモン、五塩化アンチモン等が挙げられる。
【0031】
さらに、セレンを含有する有害化合物としては、二酸化セレン、三酸化セレン等が挙げられる。
【0032】
好ましい実施態様において、本発明の有害化合物の無害化方法は、さらに、ヒ素、アンチモン、セレンからなる群から選択される少なくとも1種の金属を還元する還元剤の存在下行うことができる。このような還元剤の存在により、アルキル化をさらに促進することができる。ヒ素のアルセノベタインへの変換においてヒ素を還元する能力やメチル基転移反応などが律速となっている可能性が考えられるが、還元剤を添加することによりアルセノベタインなどへの変換を促進できると考えられる。このような還元剤としては、例えば、SH基を有する物質を挙げることができ、具体的には、SH基を有する物質が、グルタチオン、還元型グルタチオン(GSH)、システイン、S−アデノシルシステイン、スルフォラファン、ホモシステイン、チオグリコールからなる群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。また、これらの任意の組み合わせを用いてもよい。例えば、グルタチン+ホモシステイン、グルタチオン+チオグリコールなどを挙げることができる。
【0033】
本発明の方法において、光照射及び/又は加熱による無害化反応を適当な緩衝液中で行うことができる。緩衝液は、通常、生体材料を単離、精製、保存等に用いられるものを使用することができ、特に限定されるものではなく、例えば、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、炭酸緩衝液、ホウ酸緩衝液などの緩衝液を例示することができる。また、前記緩衝液のpHとしては、より安全に無害化を達成できる点を考慮して、5〜10の範囲であることが好ましい。また、アルキル化用組成物のpHがさらに好ましくは9未満である。本発明のアルキル化用組成物は、さらに、Hを含有することができる。すなわち、酸化状態を高めることによって(三価→五価)、急性毒性を下げるために、過酸化水素を添加しても良い。
【0034】
本発明の無害化方法の好ましい実施態様において、50%細胞増殖阻害濃度(IC50)若しくはLD50が大きく、より無害化を達成できるという観点から、上記有害化合物に含まれる上記一種の元素の価数を高酸化数とすることにより前記有害化合物を無害化することが好ましい。具体的には、上述した本発明の方法において、アルキル化によって、上記一種の元素の価数を高酸化数とすることが可能である。なお、上記元素がヒ素又はアンチモンである場合、価数が3価のものを5価に、セレンの場合、価数が4価のものを6価にすることが好ましい。
【0035】
本発明において、上記有害化合物の無害化は、上記有害化合物をアルキル化することにより行うことが可能である。ここで、上記有害化合物中の上記一種の元素の少なくとも1つの結合手をアルキル化することにより無害化を達成することができる。ここで、上記一種の元素に付加するアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。無毒化をより効率的に達成するという観点から、アルキル基として、メチル基が好ましい。
【0036】
本発明の無害化方法においては、生体への安全性という観点から、上記アルキル化することにより無害化された化合物の50%致死量(LD50)(マウスの50%が死亡する薬物用量による経口毒性)が1000mg/kg以上であることが好ましく、5000mg/kg以上であることがより好ましい。
【0037】
また、本発明の無害化方法においては、生体への安全性という観点から、上記アルキル化又はアリール化することにより無害化された化合物の50%細胞増殖阻害濃度(IC50)が、1000μM以上であることが好ましく、3000μM以上であることがより好ましい。ここで、本明細書において、50%細胞増殖阻害濃度(IC50)とは、ある細胞をある物質と共に100ある細胞の増殖を50%阻止又は阻害するのに必要な物質の濃度を示す数値を意味する。IC50の数値が小さいほど細胞毒性が大きいことを示す。なお、IC50は、37℃、24時間の条件下で、プラスミドDNA損傷が示す細胞毒性について検討した結果から算出した。
【0038】
ここで、各ヒ素化合物のIC50を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1から、3価のヒ素を有するアルセノシュガーは、5価のヒ素を有するものモノメチル化ヒ素(MMA)及びジメチル化ヒ素(DMA)よりも細胞毒性が高いが、3価のヒ素を有するMMA、DMA及び亜ヒ酸より細胞毒性が低いことが分かる。一方で、3価のヒ素を有するMMA、DMAは、亜ヒ酸(3価及び5価)よりも細胞毒性が高いが、全体として、細胞毒性という観点から、5価のヒ素を有するヒ素化合物が3価のヒ素を有するヒ素化合物よりも生体への安全性が高いことが理解できる。
【0041】
また、各ヒ素化合物のLD50を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
また、本発明の無害化方法においては、生体への安全性という観点から、上記アルキル化することにより無害化された化合物の生物学的半減期が8時間以下であることが好ましい。本発明の無害化方法において、前記メチル化によって、有害化合物をジメチル化合物又はトリメチル化合物とすることが、より安全で毒性が低いという観点から好ましい。前記ジメチル化合物としては、ジメチルアルソニルエタノール(DMAE)、ジメチルアルソニルアセテート(DMAA)、ジメチルアルシン酸、又はアルセノシュガーを挙げることができる。また、トリメチル化合物としては、アルセノコリン、アルセノベタイン、トリメチルアルセノシュガー又はトリメチルアルシンオキシドを挙げることができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例を説明するが、下記の実施例は、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0045】
実施例1〜8
以下、本発明の実施例1〜8を説明する。
40mg(130μmol)のグルタチオン還元型(GSH)と10mg(7.4μmol)のメチルコバラミン(MC)を50μLの緩衝液(40mM Tris-HCl緩衝液、pH8)に加え、これに、三価の無機ヒ素である亜ヒ酸水溶液(原子吸光用標準液、100ppm)を2μL(亜ヒ酸として2.7nmol)加えた。反応溶液中の濃度は、グルタチオン還元型(GSH):2.6mmol/L、メチルコバラミン(MC):0.15mmol/L、3価の無機ヒ素:5nmol/Lである。反応試薬の調合条件を表3に示す。これを定温加熱器に入れ、所定の温度で所定時間反応させた。反応条件を表4に示す。反応終了後、反応溶液を10%過酸化水素水で処理し、超純水で500倍に希釈して、HPLC-ICP-MS法で定性定量分析を行った。5価の無機ヒ素、5価のモノメチルヒ素(MMA)、5価のジメチルヒ素(DMA)、5価のトリメチルヒ素(TMAO)テトラメチルヒ素(TeMA)の5種類の化学種別に分離し、標準品で検量線を作成し、定量した。反応後の相対濃度は、下記に定義した式に従って計算した。
【0046】
iAs(V)の相対濃度 =100%×〔iAs(V)/(iAs(V)+MMA+DMA+TMAO+TeMA)〕
MMAの相対濃度 =100%×〔MMA/(iAs(V)+MMA+DMA+TMAO+TeMA)〕
DMAの相対濃度 =100%×〔DMA/(iAs(V)+MMA+DMA+TMAO+TeMA)〕
TMAOの相対濃度=100%×〔TMAO/(iAs(V)+MMA+DMA+TMAO+TeMA)〕
TeMAの相対濃度 =100%×〔TeMA/(iAs(V)+MMA+DMA+TMAO+TeMA)〕
【0047】
また、ヒ素の転換率は、下式に従って計算した。
転換率=100%×(反応後のヒ素濃度/反応前のヒ素濃度)
=100%×〔(iAs(V)+MMA+DMA+TMAO+TeMA)/iAs(III)〕
【0048】
結果を表3に示す。表3は、反応試薬の添加条件を示す。
【表3】

【0049】
表4に反応条件を示す。
【表4】

【0050】
表5に反応生成物の相対比率と転換率を示す。
【表5】

【0051】
実施例1、参考例1、比較例1を比べることにより、還元剤不在下、加熱を行わない場合、光照射することにより、亜ヒ酸が、毒性の低いモノメチルヒ素(MMA)に変換されることが判明した。
【0052】
また、実施例2、実施例3、実施例4を、それぞれ、参考例2、参考例3、参考例4と比較することにより、還元剤不在下、光照射することにより、亜ヒ酸が、毒性の低いモノメチルヒ素(MMA)に変換されることが判明した。
【0053】
実施例5、実施例6、実施例7、実施例8を、それぞれ、参考例5、参考例6、参考例7、参考例8と比較することにより、還元剤存在下、光照射することにより、亜ヒ酸が、毒性の低いモノメチルヒ素(MMA)、ジメチルヒ素(DMA)、トリメチルヒ素(TMAO)に変換されるメチル化反応が促進されることが判明した。また、実施例5、実施例6、実施例7、実施例8を比較することにより、還元剤存在下、加熱処理条件下、光照射することにより、亜ヒ酸が、毒性の低いモノメチルヒ素(MMA)、ジメチルヒ素(DMA)、トリメチルヒ素(TMAO)に変換されるメチル化反応が促進されることが判明した。
【0054】
実施例9
さらに、光照射等の効果について調べた。表6は、iAs(III)を出発物質とした場合のメチル化反応に対する還元剤、光照射、温度の効果を示す。
【表6】

【0055】
表中、iAs(III):三酸化ヒ素、iAs(V):ヒ酸、MMA:モノメチルヒ素、DMA:ジメチルヒ素、TMAO:トリメチルヒ素、TeMA:テトラメチルヒ素、GSH:光照射、出発ヒ素化合物ヒ素濃度:2.7nmol、GSH(還元型グルタチオン):130μmol、メチルコバラミン: 7.4μmol、溶媒(トリス塩酸緩衝液、pH 8):50μL、光エネルギー:36J(5mW/cm2、2時間)をそれぞれ示す。また、転換率(%)=100(%)×反応後のヒ素濃度/反応前のヒ素濃度として算出された。
【0056】
実験番号4と実験番号2を比較することにより、還元剤GSHが存在しない場合でも、光照射により下式[化1]のメチル化反応が進行した。
【化1】

【0057】
実験番号3と実験番号1を比較することにより、還元剤GSHが存在する場合については、光照射により、下式[化2]のメチル化反応が著しく促進されたことが分かる。
【化2】

【0058】
実験番号9と実験番号15と実験番号19を比較することにより、80℃における光照射により、無毒のTMAOが90%以上得られ、光照射をしないで、より高温(100℃、120℃)の条件(実験番号15と実験番号19)と同程度の効果が得られることが明らかになった。
【0059】
実施例10
さらに、別の例について、光照射等の効果について調べた。表7は、iAs(V)を出発物質とした場合のメチル化反応に対する還元剤、光照射、温度の効果を示す。
【表7】

【0060】
表中、iAs(III):三酸化ヒ素、iAs(V):ヒ酸、MMA:モノメチルヒ素、DMA:ジメチルヒ素、TMAO:トリメチルヒ素、TeMA:テトラメチルヒ素、GSH:光照射、出発ヒ素化合物ヒ素濃度:2.7nmol、GSH(還元型グルタチオン):130μmol、メチルコバラミン: 7.4μmol、溶媒(トリス塩酸緩衝液、pH 8):50μL、光エネルギー:36J(5mW/cm2、2時間)をそれぞれ示す。また、転換率(%)=100(%)×反応後のヒ素濃度/反応前のヒ素濃度として算出した。
【0061】
実験番号23と実験番号21を比較することにより、還元剤GSHが存在する場合については、光照射により、下式[化3]のメチル化反応が著しく促進された。
【化3】

【0062】
実験番号29と実験番号35と実験番号39を比較することにより、80℃における光照射により、無毒のTMAOが90%以上得られ、光照射をしないで、より高温(100℃、120℃)の条件(実験番号35と実験番号39)と同程度の効果が得られることが明らかになった。
【0063】
実施例11
光照射及び温度等の効果についてさらに調べた。表8は、MMAを出発物質とした場合のメチル化反応に対する還元剤、光照射、温度の効果を示す。
【表8】

【0064】
表中、iAs(III):三酸化ヒ素、iAs(V):ヒ酸、MMA:モノメチルヒ素、DMA:ジメチルヒ素、TMAO:トリメチルヒ素、TeMA:テトラメチルヒ素、GSH:光照射、出発ヒ素化合物ヒ素濃度:2.7nmol、GSH(還元型グルタチオン):130μmol、メチルコバラミン: 7.4μmol、溶媒(トリス塩酸緩衝液、pH 8):50μL、光エネルギー:36J(5mW/cm2、2時間)をそれぞれ示す。また、転換率(%)=100(%)×反応後のヒ素濃度/反応前のヒ素濃度として算出した。
【0065】
実験番号43と実験番号41を比較することにより、還元剤GSHが存在する場合については、光照射により、下式[化4]のメチル化反応が著しく促進された。
【化4】

【0066】
実験番号49と実験番号55と実験番号59を比較することにより、80℃における光照射により、無毒のTMAOが80%以上得られ、光照射をしないで、より高温(100℃、120℃)の条件(実験番号55と実験番号59)と同程度の効果が得られることが明らかになった。
【0067】
実施例12
光照射及び温度等の効果についてさらに調べた。表9は、DMAを出発物質とした場合のメチル化反応に対する還元剤、光照射、温度の効果を示す。
【表9】

【0068】
表中、iAs(III):三酸化ヒ素、iAs(V):ヒ酸、MMA:モノメチルヒ素、DMA:ジメチルヒ素、TMAO:トリメチルヒ素、TeMA:テトラメチルヒ素、GSH:光照射、出発ヒ素化合物ヒ素濃度:2.7nmol、GSH(還元型グルタチオン):130μmol、メチルコバラミン: 7.4μmol、溶媒(トリス塩酸緩衝液、pH 8):50μL、光エネルギー:36J(5mW/cm2、2時間)をそれぞれ示す。また、転換率(%)=100(%)×反応後のヒ素濃度/反応前のヒ素濃度として算出した。
【0069】
実験番号63と実験番号61を比較することにより、還元剤GSHが存在する場合については、光照射により、下式[化5]のメチル化反応が著しく促進された。
【化5】

【0070】
実験番号65と実験番号67を比較することにより、50℃における光照射により、無毒のTMAOが90%以上得られた。
【0071】
実施例13
光照射及び加熱条件について調べた。表10は、TMAOを出発物質とした場合のメチル化反応に対する還元剤、光照射、温度の効果を示す。
【表10】

【0072】
表中、iAs(III):三酸化ヒ素、iAs(V):ヒ酸、MMA:モノメチルヒ素、DMA:ジメチルヒ素、TMAO:トリメチルヒ素、TeMA:テトラメチルヒ素、GSH:光照射、出発ヒ素化合物ヒ素濃度:2.7nmol、GSH(還元型グルタチオン):130μmol、メチルコバラミン: 7.4μmol、溶媒(トリス塩酸緩衝液、pH 8):50μL、光エネルギー:36J(5mW/cm2、2時間)をそれぞれ示す。また、転換率(%)=100(%)×反応後のヒ素濃度/反応前のヒ素濃度として算出した。
【0073】
無毒のTMAOを出発物質とした場合の、メチル化反応を参考例として表10に示す。実験番号82、84、86、88、90、92、94、96、98、100から明らかなように、本反応条件においては、無毒のTMAOは、光照射、熱により、iAs(III)、iAs(V)、MMA、DMAに分解されないで安定に存在することが明らかになった。
【0074】
産業上の利用可能性
ヒ素などの有害化合物は、本発明の方法によって、より無害な化合物に変換され、無害化合物は、極めて安定でかつ安全であるので、広く産業廃棄物の処理等の分野、汚泥、土壌の環境保護の分野において極めて有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト錯体の存在下、光照射及び/又は加熱により、ヒ素、アンチモン、セレンからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有する有害化合物を無害化することを特徴とする有害化合物の無害化方法。
【請求項2】
前記ヒ素、アンチモン、又はセレンをアルキル化することにより無害化する請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記アルキル化反応を光照射及び/又は加熱条件下で行う請求項1又は2項に記載の方法。
【請求項4】
さらに、ヒ素、アンチモン、セレンからなる群から選択される少なくとも1種の金属を還元する還元剤の存在下、無害化する請求項1〜3項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記還元剤が、SH基を有する物質である請求項4記載の方法。
【請求項6】
SH基を有する物質が、グルタチオン、還元型グルタチオン(GSH)、システイン、S−アデノシルシステイン、スルフォラファン、ホモシステイン、チオグリコールからなる群から選択される少なくとも1種である請求項5記載の組成物。
【請求項7】
前記コバルト錯体が、メチルコバラミン(メチル化ビタミンB12、正式名称:Coα−[α−5、6−ジメチルベンズ−1H−イミダゾール−1−イル−Coβ−メチルコバミド]、シアノコバラミンなどのビタミンB12、コバルト(II)アセチルアセトナート、コバルト(III)アセチルアセトナート、コバルトカルボニル(二コバルトオクタカルボニル)、コバルト(II)1、1、1、5、5、5-ヘキサフルオロアセチルアセトナート、コバルト(II)メゾ−テトラフェニルポルフィン、ヘキサフルオロりん酸ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)コバルト、N、N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミンコバルト(II)、ビス(2、2、6、6-テトラメチル-3、5-ヘプタンジオナト)コバルト(II)、(クロロフタロシアニナト)コバルト(II)、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)コバルト(I)、酢酸コバルト(II)のメチル錯体、安息香酸コバルト(II)、シアン化コバルト(II)、シクロヘキサン酪酸コバルト(II)、2-エチルヘキサン酸コバルト(II)、meso−テトラメトキシフェニルポルフィリンコバルト(II)、ナフテン酸コバルト、フタロシアニンコバルト(II)、メチルコバルト(III)プロトポルフィリンIX、ステアリン酸コバルト、スルファミン酸コバルト(II)、(1R、2R)-(-)-1、2-シクロヘキサンジアミノ-N、N’−ビス(3、5−ジ-t-ブチルサリチリデン)コバルト(II)、(1S、2S)-(+)-1、2-シクロヘキサンジアミノ-N、N’−ビス(3、5−ジ-t-ブチルサリチリデン)コバルト(II)、シクロペンタジエニルビス(トリフェニルホスフィン)コバルト(I)、シクロペンタジエニルコバルトジカルボニル、ジブロモビス(トリフェニルホスフィン)コバルト(II)、(テトラアミノクロロフタロシアニナト)コバルト(II)、(テトラ−t−ブチルフタロシアニナト)コバルト(II)から選ばれた少なくとも1種の化合物のメチル錯体、または、前記コバルト化合物とハロゲン化アルキル、特にハロゲン化メチルを共存させて形成するコバルト−メチル錯体、からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1〜6項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記アルキル化が、メチル化である請求項2〜7項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記メチル化によって、有害化合物をジメチル化合物又はトリメチル化合物とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記ジメチル化合物が、ジメチルアルソニルエタノール(DMAE)、ジメチルアルソニルアセテート(DMAA)、ジメチルアルシン酸、又はアルセノシュガーである請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記トリメチル化合物が、アルセノコリン、アルセノベタイン、トリメチルアルセノシュガー又はトリメチルアルシンオキシドである請求項9記載の方法。

【公開番号】特開2009−72507(P2009−72507A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−246470(P2007−246470)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】