説明

有害物分子の処理方法及びこの処理方法に用いられる薬剤

【課題】 高温にしなくてもダイオキシン類を分解することができると共に、ダイオキシン類及び重金属類の両方を処理することができる有害物分子の処理方法を提供する。
【解決手段】 粉体中の安定結合状態にある有害物分子に、その有害物分子の原子同士の化学結合を断ち切るに足るだけの電荷を持った希土類元素を含有する物質を近づけ、安定結合状態にある前記有害物分子から分解すべき目的原子を解離して、当該目的原子をイオン化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体中の有害物分子の処理方法に関し、特に固体微粒子状になったダイオキシン類の無害化、又は重金属類を含む粉体からの重金属類の不溶出化を目的とする有害物分子の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイオキシン類は、ポリ塩化ジベンゾ−パラ−ジオキシン(PCDD、2つのベンゼン環が2つの酸素原子で並列に結びつけられ、水素の一部が塩素に置換した塩素化合物)、ポリ塩化ジベンゾ−フラン(PCDF、2つのベンゼン環が1つの酸素原子で並列に結びつけられ、水素の一部が塩素に置換した塩素化物)、及びコプラノ−PCB(Co−PCB)等の有機塩素化合物の総称で、塩素の数によってさまざまな異性体がある。なかでも2・3・7・8―四塩化ダイオキシン(TCDD)は発がん性、催奇形性を有し、皮膚、内臓障害等をもたらす史上最強の毒性物質といわれる。日本では、焼却場からの灰やパルプ工場の漂白過程でダイオキシン類が検出されている。
【0003】
そして、固体微粒子状になったダイオキシン類の分解方法としては、特許文献1に記載されるように、ダイオキシン類を再加熱して熱分解する方法が採られている。また、ダイオキシン類が固体微粒子状になるのを防止する方法に、固体微粒子状になる前のダイオキシン類の生成・再合成過程において、過酸化水素水等の酸化剤を排ガス中に混入し、酸化分解する方法が採られている。
【0004】
一方、重金属類の土壌への溶出も問題になっている。環境庁告示第46号には、土壌の汚染に係る環境基準が記載されていて、クロム、水銀、カドミウム、鉛等の重金属に、砒素、セレン、ふっ素、ほう素等を含めた重金属類の土壌への溶出量が制限されている。さらに、環境省告示19号の測定方法による土壌汚染に係る対象物の含有量基準が土壌汚染対策法に規定されていて、酸性・アルカリ性液による溶出量を計測することによる含有量も制限されている。また、環境庁告示13号の検定方法による産業廃棄物に含まれる金属等の土壌への溶出量も制限されている。
【0005】
重金属類が土壌へ溶出するのを防止する不溶出化方法としては、特定の重金属に対して反応する重金属処理剤にて重金属原子との間で不溶化物質を生成する方法が利用されている。この他にも、キレート剤により重金属原子を選択捕集することも行なわれている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−102864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術のダイオキシン類の無害化方法には、高温での反応が必要であるという問題があった。例えば、焼却場からの灰等には、ダイオキシン類と重金属類の双方が混入することがあるが、従来の方法では、ダイオキシン類及び重金属類を個別に処理する必要があった。
【0008】
本発明はこれらの問題点を解決することを目的とし、従来の有害物分子の処理方法とはその原理が全く異なる新たな有害物分子の処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、粉体中の安定結合状態にある有害物分子に、その有害物分子の原子同士の化学結合を断ち切るに足るだけの電荷を持った希土類元素を含有する物質を近づけ、前記安定結合状態にある有害物分子から分解すべき目的原子を解離して、当該目的原子をイオン化することを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の有害物分子の処理方法において、イオン化した前記目的原子に、安定結合状態にあった前記有害物分子の残りの原子よりさらに結合力の強い原子を近づけ、この結合力の強い原子と前記目的原子とを化学結合させて、元の安定結合状態にあった前記有害物分子とは異なる化合物を生成させることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の有害物分子の処理方法において、前記有害物分子は、ダイオキシン類及び重金属類の少なくとも一方であることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の有害物分子の処理方法において、前記有害物分子が重金属類である場合、前記結合力の強い原子は、アルカリ土類金属原子であり、このアルカリ土類金属原子とイオン化した前記目的原子とを化学結合させて、沈降作用を有する不溶化化合物を生成させることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の有害物分子の処理方法において、前記不溶化化合物をさらに、ポゾラン反応、水和反応及び炭酸化反応により団粒・硬化することを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項3に記載の有害物分子の処理方法において、前記有害物分子がダイオキシン類である場合、前記結合力の強い原子は、金属原子であり、この金属原子と前記目的原子とを化学結合させることを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載の発明は、請求項1ないし6いずれかに記載の有害物分子の処理方法において、あらかじめ、ヘテロポリ酸塩類により粉体中に散在している有害物分子を吸着・濃縮させることを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載の発明は、請求項1ないし7いずれかに記載の有害物分子の処理方法において、炉又はボイラから排出される排ガス中に薬剤を吹き込むことによって、排ガス又は飛灰中に含まれる有害物分子を処理することを特徴とする。
【0017】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の有害物分子の処理方法において、前記薬剤を、200℃以下の排ガス中に、かつ、炉又はボイラの集塵装置よりも上流側の煙道中に吹き込むことを特徴とする。
【0018】
請求項10に記載の発明は、請求項1ないし7いずれかに記載の有害物分子の処理方法において、常温にて粉体と薬剤を混合することによって、粉体中に含まれる有害物分子を処理することを特徴とする。
【0019】
請求項11に記載の発明は、請求項5に記載の有害物分子の処理方法において、常温にて粉体と薬剤及び水を混合することによって、粉体中に含まれる有害物分子を処理すると共に、前記ポゾラン反応、水和反応及び炭酸化反応を進行させることを特徴とする。
【0020】
請求項12に記載の発明は、請求項1ないし7いずれかに記載の有害物分子の処理方法において、炉又はボイラの除塵設備にて捕集された灰に薬剤を混合することによって、灰に含まれる有害物分子を処理することを特徴とする。
【0021】
請求項13に記載の発明は、請求項5に記載の有害物分子の処理方法において、炉又はボイラの除塵設備にて捕集された灰に薬剤及び水を混合することによって、灰に含まれる有害物分子を処理すると共に、前記ポゾラン反応、水和反応及び炭酸化反応を進行させて、飛灰を硬化させることを特徴とする。
【0022】
請求項14に記載の発明は、請求項1ないし7いずれかに記載の有害物分子の処理方法において、有害物分子を含んだ汚染土壌、ヘドロ、又は下水汚泥に薬剤を混合することによって、汚染土壌中に含まれる有害物分子を処理することを特徴とする。
【0023】
請求項15に記載の発明は、請求項14に記載の有害物分子の処理方法において、前記汚染土壌、前記ヘドロ、又は前記下水汚泥に薬剤を混合することによって、ポゾラン反応、水和反応、及び炭酸化反応を進行させて、これらを硬化させ、第二種建設発生土以上の土壌を得ることを特徴とする。
【0024】
請求項16に記載の発明は、請求項1ないし7いずれかに記載の有害物分子の処理方法において、有害物分子を含むスラグに薬剤及び水を混合することによって、スラグ中に含まれる有害物分子を処理することを特徴とする。
【0025】
請求項17に記載の発明は、請求項13又は請求項16に記載の有害物分子の処理方法において、前記薬剤及び前記水を混合した灰、灰、スラグ等の粉体、又は無機質粉体を加圧・成型することにより、一軸強度50kg/cm以上の固化物を得ることを特徴とする。
【0026】
請求項18に記載の発明は、粉体中の有害物分子を処理するために粉体に混合される薬剤であって、有害物分子の原子同士の化学結合を断ち切るに足るだけの電荷を持った希土類元素を含有する物質を含むことを特徴とする薬剤である。
【0027】
請求項19に記載の発明は、粉体中の有害物分子を処理するために粉体に混合される薬剤であって、MgCl:20〜40質量%、希土類のアクチニウム系トリウムを化合させたハロゲン化物の化合物(FeCl:15〜20質量%、SiCl:5〜20質量%、CaCl:20〜40質量%)、NaOH・CaO:3〜5質量%からなる薬品を、酸素を遮断した雰囲気で粉砕した組成物Bを含むことを特徴とする薬剤である。
【0028】
請求項20に記載の発明は、請求項19に記載の薬剤において、吸着反応部として、ヘテロポリ酸塩類のモリブドリン酸アンモニウム:20〜40質量%、イオン交換反応部として、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等のセルロースに陰イオン交換基を導入したもの:10〜30質量%、チオ尿素:5〜20質量%、塩基性炭酸マグネシウム:20〜60質量%からなる組成物Aを含むことを特徴とする。
【0029】
請求項21に記載の発明は、請求項19又は20に記載の薬剤において、CaO:20〜50質量%、Al:30〜50質量%、SiO:10〜30質量%、MgO:10〜20質量%からなる薬品を加熱・溶融し、徐冷・粉砕した組成物:5〜15質量%、セメント系土壌硬化剤:60〜80質量%、活性炭:5〜10質量%、珪藻土:3〜10質量%、ステアリン酸亜鉛:2〜5質量%からなる組成物Cを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
請求項1に記載の発明によれば、あたかも強い磁石のような希土類元素を含有する物質が、安定結合状態にあるダイオキシン類の化学結合を断ち切り、塩素等の目的原子を解離するので、新たにエネルギを与えて高温にしなくてもダイオキシン類を無害化することができる。また、希土類元素を含有する特殊物質は、安定状態にある重金属類の化合物の化学結合を断ち切り、イオン化させるので、重金属類を水に溶け難い物質へと反応させ易くすることができる。このように、一剤の薬剤にてダイオキシン類の無害化及び重金属類の不溶出化を行うことができる。
【0031】
請求項2に記載の発明によれば、ダイオキシン類を無害化する場合、イオン化した目的原子に結合力の強い原子を化学反応させて新しい化合物を生成することで、元のダイオキシン類が再合成するのを防止できる。また、重金属類を不溶出化する場合、重金属がイオン化したままだと水に溶け易くなるが、例えば炭酸カルシウム等の結合力の強い原子と化学結合させることで、水に溶けないような化合物を生成することができる。
【0032】
本発明は、請求項3に記載の発明のように、ダイオキシン類や重金属類の処理に最適である。
【0033】
請求項4に記載の発明によれば、重金属類を水に溶け難い不溶化化合物にすることができる。
【0034】
請求項5に記載の発明によれば、一般的な土壌固化剤が有するポゾラン反応、水和反応及び炭酸化反応により、不溶化化合物を団粒・固化するので、不溶化化合物と水分子との接触機会をより少なくさせることができ、不溶出効果を増すことができる。
【0035】
請求項6に記載の発明によれば、ダイオキシン類を無害化することができる。
【0036】
請求項7に記載の発明によれば、粉体中に散在している有害物分子を吸着・濃縮することで、反応効率を向上させることができる。
【0037】
請求項8に記載の発明によれば、炉又はボイラから排出される排ガス中に薬剤を混合することによって、排ガス中に含まれる重金属類の溶出量低減及びダイオキシン類の分解を同時又は個別に実現できる。
【0038】
請求項9に記載の発明によれば、200℃以下の低温にてダイオキシン類を分解できる。
【0039】
請求項10に記載の発明によれば、常温にて粉体と薬剤を混合することによって、粉体中に含まれる重金属類の溶出量低減及びダイオキシン類の分解を同時又は個別に実現できる。
【0040】
請求項11に記載の発明によれば、空気中の水分以外に水を添加することで、ポゾラン反応、水和反応及び炭酸化反応を進行させることができ、より強度の高い固化物が得られる。
【0041】
請求項12に記載の発明によれば、炉又はボイラの排ガス処理設備としての除塵設備にて捕集された飛灰に薬剤を混合することによって、飛灰に含まれる重金属類の溶出量低減及びダイオキシン類の分解を同時又は個別に実現できる。
【0042】
請求項13に記載の発明によれば、空気中の水分以外に水を添加することで、ポゾラン反応、水和反応及び炭酸化反応を進行させることができ、より強度の高い飛灰の固化物が得られる。
【0043】
請求項14に記載の発明によれば、有害物分子を含んだ汚染土壌、ヘドロ、又は下水汚泥に薬剤を混合することによって、これらに含まれる重金属類の溶出量低減及びダイオキシン類の分解を同時又は個別に実現できる。
【0044】
請求項15に記載の発明によれば、汚染土壌、ヘドロまたは下水汚泥を再利用することができる。
【0045】
請求項16に記載の発明によれば、有害物分子を含むスラグに薬剤及び水を混合することによって、スラグ中に含まれる重金属類の溶出量低減及びダイオキシン類の分解を同時又は個別に実現できる。
【0046】
請求項17に記載の発明によれば、固めた飛灰を路盤材として使用することができる。
【0047】
請求項18又は19に記載の発明によれば、あたかも強い磁石のような希土類元素を含有する物質が、安定結合状態にあるダイオキシン類の化学結合を断ち切り、塩素等の目的原子を解離するので、高温で反応させなくてもダイオキシン類を無害化することができる。そして、希土類元素を含有する物質は、安定状態にある重金属類の化合物をイオン化させるので、重金属類を水に溶け難い物質へと反応させ易くする。このように、一剤の薬剤にてダイオキシン類の無害化及び重金属類の不溶出化を行うことができる。
【0048】
請求項20に記載の発明によれば、イオン化した目的原子に結合力の強い原子を化学反応させて、元の有害物分子と異なる新しい化合物を生成することができる。
【0049】
請求項21に記載の発明によれば、ポゾラン反応、水和反応及び炭酸化反応を進行させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下、本発明の一実施形態における有害物質の処理方法について説明する。まず、本発明の処理方法で使用される薬剤の構成について説明する。薬剤には以下に示される組成物A〜Cが配合される。
【0051】
組成物A:粉体中の有害物分子を吸着・濃縮するための吸着反応部と、有害物分子をイオン化させるイオン交換部とを有する。具体的には組成物Aは、吸着反応部として、ヘテロポリ酸塩類のモリブドリン酸アンモニウム:20〜40質量%、イオン交換反応部として、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等のセルロースに陰イオン交換基を導入したもの:10〜30質量%、チオ尿素:5〜20質量%、塩基性炭酸マグネシウム:20〜60質量%からなる。セルロース(のり)に陰イオン交換基(多種類)を導入したものに、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドがある。セルロースに陰イオン交換基を導入する過程で、種々の反応生成物質、僅かに形を変えた物質が存在する。
【0052】
組成物B:目的分子を不安定化させる不安定化部を有する。微量の希土類元素のアクチニウム系トリウムをハロゲン化物に化合させる。ハロゲン化物の化合物は、FeCl:15〜20質量%、SiCl:5〜20質量%、CaCl:20〜40質量%からなる。ハロゲン化物の化合物は、アクチニウム系トリウムの化合により、アクチニウム系トリウムの性質を示すようになっている。このような希土類の性質を示すハロゲン化物は、特殊希土類と呼ばれる。ハロゲン化物の化合物にさらに、MgCl:20〜40質量%、NaOH・CaO:3〜5質量%添加した薬品を、酸素を遮断した雰囲気で粉砕し、各薬品を同一粒径にする。希土類元素には、トリウムの他に、原子番号五七〜七一の元素群で例えば、Ce,Er,Gd等を用いてもよい。
【0053】
組成物C:ポゾラン反応、水和反応及び炭酸化反応により、不溶化化合物を団粒・硬化する役割を有する。具体的には、CaO:20〜50質量%、Al:30〜50質量%、SiO:10〜30質量%、MgO:10〜20質量%からなる組成物を約1000℃で90分間加熱溶融し、徐冷粉砕した組成物:5〜15質量%、セメント系土壌硬化剤:60〜80質量%、活性炭:5〜10質量%、珪藻土:3〜10質量%、ステアリン酸亜鉛:2〜5質量%からなる。ここで、水和反応とは、セメントの成分、特に石灰石から生成される(CaO・SiO等)と水が反応し、結晶水として水を取り込んで水和物(3CaO・SiO・nHO等)及び水酸化カルシウム(Ca(OH))を作る反応である。水和物は粒子相互を結び付け、流動性を徐々に低下させてゆく。水和物間の結合力は分子間引力や水素結合等で保持される。ポゾラン反応のポゾランとは、フライアッシュ、火山灰、玄武岩風化土等の可溶性シリカ(SiO)分を多く含んだ粉体の総称である。ポゾランは水和反応で生じた水酸化カルシウム(Ca(OH))と常温で徐々に反応し、不溶性のゲル、ゼリー状の化合物となる。これをポゾラン反応という。この反応は通常セメントでは7日目以降におこる。炭酸化反応とは、土中の炭酸や空気中の二酸化炭素と反応して硬化していく反応である。これらの水和反応、ポゾラン反応、炭酸化反応の反応原理は、セメントの硬化反応に類似している。
【0054】
重金属類の不溶出化を主目的にする場合には、例えば組成物Aを3〜20質量%、組成物Bを10〜30重量%、組成物Cを50〜80質量%配合して薬剤を得る。ダイオキシン類の無害化を主目的にする場合には、ダイオキシン類の量に合わせて、組成物Cの配合比率を減らし、組成物Aの配合比率を増やす。組成物A〜Cの配合比率の調整により、ダイオキシン類の無害化と重金属類の不溶出化の両方の目的を達成することができる。この他、粉体を礫や砂等の路盤材に再利用する場合には、組成物Cの配合比率を増やし、灰等の水分の少ない紛体を適度に加湿し、薬剤を混合する。
【0055】
次に、上記に記載の薬剤を使用した有害物分子の処理方法について説明する。本発明の有害物分子の処理方法では、粉体と薬剤を混合して、粉体中に含まれる有害物分子を処理する。以下では、有害物分子の処理方法を、ダイオキシン類を無害化する方法と、重金属類を不溶化する方法に分けて説明する。
【0056】
ダイオキシン類は、灰、土壌等の粉体、又はスラグ等の粉体の集合体中に含まれる。粉体に薬剤を混合すると、薬剤に含まれるヘテロポリ酸塩類が、粉体中に散在しているダイオキシン類を吸着・濃縮する。薬剤には、あたかも強い磁石のような希土類元素を含有する物質も含まれる。粉体に薬剤を混合すると、希土類元素を含有する物質が粉体中の安定結合状態にあるダイオキシン類の原子同士の化学結合を断ち切り、図1に示されるように、塩素等の目的原子1を解離する。塩素が解離すると、ダイオキシン類は毒性がなくなる。薬剤には、安定結合状態にあった前記有害物分子の残りの原子よりさらに結合力の強い原子、例えばカルシウム等が含まれるので、新しい化合物が生成されて、ダイオキシン類の再合成が防げる。以上により、ダイオキシン類の無害化が行なわれる。従来のダイオキシン類の無害化方法では、温度を上げてダイオキシン類を活性化させ、塩素を解離していた。これに対し、本実施形態では、希土類元素を含有する物質を用いて塩素を解離しているので、常温でも粉体に薬剤を混ぜればダイオキシン類を無害化することができる点に特徴がある。
【0057】
重金属類も灰、土壌等の粉体、又はスラグ等の粉体の集合体中に含まれる。粉体に薬剤を混合すると、薬剤に含まれるヘテロポリ酸塩類が、粉体中に散在している重金属類を吸着・濃縮する。薬剤には希土類元素を含有する物質も含まれており、粉体に薬剤を混合すると、希土類元素を含有する物質が粉体中の安定結合状態にある重金属類の酸化物の化学結合を断ち切り、イオン化させる。さらに薬剤には、金属イオンと反応して水に溶け難い化合物を生成させる炭酸カルシウム等が含まれるので、イオン交換反応によりイオン化した金属イオンは水に溶け難い化合物に変化する。そうすると、周辺に水がきても化合物が沈殿物のように溶け出さないようになるから、土中へ重金属が溶出するのを防止することができる。水に溶け難い化合物を生成させる原子には、アルカリ土類金属を好適に用いることができる。さらに薬剤には、多数の無機元素が添加されているので、広範な種類の金属イオンに対して結合吸着粒子を形成する効果が高められる。薬剤には、一般的な土壌固化剤のような成分も含まれるので、一般的な土壌固化剤が有するポゾラン反応、水和反応及び炭酸化反応が進行し、不溶化化合物を団粒・固化する。このため、不溶化化合物と水分子との接触機会をより少なくさせることができ、不溶出効果を増すことができる。これを詳述するに、薬剤に含まれる塩類がポゾラン反応を早め、かつ、反応を助長させる。ポゾラン反応で生じたゲル状物質がイオン交換反応で生成した水に溶け難い化合物を包み込み、造粒化することにより水分子との接触を阻害し、溶出を防ぐ。そして、薬剤に含まれるセメント成分による水和反応により自硬性が付加され、固形化が一層補強・増強される。すなわち、イオン交換反応で生成した水に溶け難い重金属化合物を、ポゾラン反応によるゲル状物質で包み込み、造粒化し、水分子との接触を阻害する。ここまでで第一段階の不溶化を実現し、第二段階として水和反応による自硬性で固形化し、安全性を高めている。
【0058】
なお、空気中に含まれる水分だけでも、ポゾラン反応、水和反応及び炭酸化反応が進行するが、粉体に薬剤と水を混合させると、一層これらの反応が進行し、より強度の高い固形物が得られる。水を加えた後に加圧・成型することで、例えば一軸強度50kg/cm以上の固化物を得ることができ、飛灰、スラグ等の粉体を路盤材として再利用することもできるし、含水率の高い汚染土壌、ヘドロ、又は下水汚泥に薬剤を混合することによって、第二種建設発生土以上の土壌を得ることもできる。
【0059】
次に、上記に記載の薬剤の使用方法について説明する。図2は、炉又はボイラから排出される排ガス中に薬剤を吹き込む例を示す。ボイラ又は炉2からは燃焼後の排ガスが排気される。排ガスは誘引送風機3によって煙道4内を流れ、除塵設備5を通過し、煙突6から排気される。そして、薬剤7を排ガス中に吹き込むと、排ガス中に含まれる飛灰中の重金属類と薬剤とが、若干の水分を含む排ガスの流れの中で、ガス流れ自身が持つ撹拌作用のもとで反応するととにより、重金属の不溶化物(水に溶けない物質)がつくられる。このため、人体にとって有害な飛灰からの重金属の溶出を低減できる。また同時に、廃ガス中の薬剤は排ガス中に含まれるダイオキシン類とガス流れの中で反応し、ベンゼン環と結合した塩素が他の物質に置換されてダイオキシン類が分解される。このため、ダイオキシン類を無害化することができる。これらの重金属の不溶化物及び無害化されたダイオキシン類は除塵設備5で捕集される。
【0060】
本実施形態により得られた灰は重金属溶出量及びダイオキシン類含有量においては、土壌相当以下となっており、集塵装置としての除塵設備5から排出される段階ですでに土壌相当の安全性を確保することが可能である。よって、排出後の薬剤処理又は分解に必要な設備が不要になり、灰の利材化に広く役立つ。また、薬剤吹き込み部以降の排ガスダクト、除塵設備5等の汚染防止も併せて実現する。
【0061】
ここで薬剤は、除塵設備5よりも上流側の煙道中に且つ200℃以下の排ガス中に吹き込まれる。200℃以下としたのは、ダイオキシン類が固相になると想定されるからである(本実施形態は固相のダイオキシン類を無害化するもの)。除塵設備5よりも上流側としたのは、排ガス中に含まれるのみならず、飛灰に付着するダイオキシン類も無害化させるためである。
【0062】
図3は、除塵設備5にて捕集された灰に薬剤を混合する例を示す。捕集された灰には、例えば1〜30質量%の薬剤7と水8が添加される。これらの水8、薬剤7を灰9へ添加した後、これらは撹拌される。除塵設備5から排出された重金属を含む灰9に薬剤7を混合・撹拌することにより反応させ、重金属の不溶化物をつくり、人体にとって有害な灰からの重金属の溶出を低減する。また同時に、薬剤7は捕集されたダイオキシン類を含む灰9と攪拌中に反応し、ベンゼン環と結合した塩素が他の物質に置換される。このためダイオキシン類が分解・無害化される。本実施形態により得られた無害化灰10は、重金属溶出量及びダイオキシン類含有量においては土壌相当以下となる。さらに薬剤7は灰硬化機能も併せ持ち、含水率及び加圧率を調節することにより、目的とする強度(例えば粉体のまま〜土壌レベル〜コンクリートレベル)まで無害化灰10を硬化することが可能になる。灰9に薬剤7と水8を混合するだけで造粒化可能であるので、最終処分場の埋立地での飛散防止のために又は灰の利材化のために、新たにセメントを混練する必要もない。
【0063】
図4は、汚染土壌、ヘドロ、又は下水汚泥に薬剤を混合する例を示す。重金属類を含む汚染土壌11に薬剤7を混合・撹拌することにより反応させ、重金属の不溶化物をつくり、人体に有害な汚染土壌からの重金属の溶出を低減する。また同時に、薬剤7はダイオキシン類を含む汚染土壌11と撹拌中に反応し、ベンゼン環と結合した塩素を他の物質に置換することにより、ダイオキシン類を分解し、無害化する。本実施形態により得られた無害化土壌12は、重金属溶出量及びダイオキシン類含有量においては土壌環境基準以下となる。さらに薬剤7は、土壌硬化剤としての機能も併せ持ち、含水率の高いヘドロ等を目的とする強度まで硬化する。例えば、下水、湖沼、港湾汚泥等は水を十分に含むので、薬剤を混合することで第二種建設発生土以上の土壌としてリサイクルすることが可能になる。汚染土壌11と薬剤7の混合物に必要に応じて加水することにより、さらに土壌を硬化することが可能になる。
【0064】
図5は、高炉、電炉等の溶融設備から発生するスラグ13に薬剤7及び水を混合する例を示す。重金属類を含むスラグ表面を水浴又は水噴霧8等にて湿らせ、これに薬剤7を混合・撹拌することにより反応させ、スラグ表面を薬剤7にてコーティングする。これによりスラグ13からの重金属類の溶出を低減する。同時に、コーティングした後のスラグ13と水との接触を遮断し、スラグ13が水分を吸収することによる膨張を防止する。本実施形態は一剤にてスラグ中の重金属類の溶出を低減し、スラグ13の膨張を防止するので、スラグ13がコンクリート骨材等、水分と接触する分野で使用される場合でも利用可能になる。
【実施例】
【0065】
<薬剤の実施例>
吸着反応部として、ヘテロポリ酸塩類のモリブドリン酸アンモニウム:27質量%、イオン交換反応部として、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等のセルロースに陰イオン交換基を導入したもの:22質量%、チオ尿素:7質量%、塩基性炭酸マグネシウム:44質量%からなる組成物を組成物Aとする。
【0066】
目的分子の不安定化部として、MgCl:36質量%、希土類元素のアクチニウム系トリウムを化合させたハロゲン化物の化合物(FeCl:18質量%、SiCl:16質量%、CaCl:27質量%)、NaOH・CaO:3質量%からなる薬品を、酸素を遮断した雰囲気で粉砕した組成物を組成物Bとする。ただし、NaOH・CaOはソーダ石灰である。
【0067】
CaO:32質量%、Al:41質量%、SiO:17質量%、MgO:10質量%からなる薬品を1000℃で90分間加熱・溶融し、徐冷・粉砕した組成物:10質量%、セメント系土壌硬化剤:76質量%、活性炭:5質量%、珪藻土:7質量%、ステアリン酸亜鉛:2質量%からなる組成物を組成物Cとする。
【0068】
これら、組成物A:17質量%、組成物B:25質量%、組成物C:58質量%を配合・混合し、処理済組成物(薬剤)を得る。
【0069】
<薬剤の使用例>
原灰及び薬剤を170℃の灯油燃焼排ガス中に吹き込み、バグフィルタにて回収した。灰は固化させていない。そして、原灰及び処理灰について環境庁告示第46号の溶出試験及び環境省告示19号の含有量試験を実施した。その結果を表1及び表2に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
原灰には、使用中の焼却炉から排出される灰を利用したので、もともと重金属類の値は大きくない。それでも、鉛、六価クロム、セレン、ふっ素、ほう素に低減効果が見られた。得られた処理灰は十分に告示46号及び19号に記載されている安全基準に入ることを確認した。また、ダイオキシン類については極めて低減できることがわかった。
【0073】
次に、原灰及び処理剤を常温にて混合した。灰は固化させていない。原灰及び処理灰について環境庁告示第46号の溶出試験を実施した。その結果を表3に示す。
【0074】
【表3】

【0075】
表1と同様に、鉛、六価クロム、セレン、ふっ素、ほう素に低減効果が見られた。また、ダイオキシン類については極めて低減できた。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】2−3−7−8TCDDを示す図。
【図2】炉又はボイラから排出される排ガス中に薬剤を吹き込む例を示す図。
【図3】除塵設備にて捕集された灰に薬剤を混合する例を示す図。
【図4】汚染土壌、ヘドロ、又は下水汚泥に薬剤を混合する例を示す図。
【図5】スラグに薬剤及び水を混合する例を示す図。
【符号の説明】
【0077】
1…塩素(目的原子)
2…ボイラ又は炉
4…煙道
5…除塵設備
7…薬剤
8…水
9…灰
11…汚染土壌
13…スラグ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体中の安定結合状態にある有害物分子に、その有害物分子の原子同士の化学結合を断ち切るに足るだけの電荷を持った希土類元素を含有する物質を近づけ、前記安定結合状態にある有害物分子から分解すべき目的原子を解離して、当該目的原子をイオン化することを特徴とする有害物分子の処理方法。
【請求項2】
イオン化した前記目的原子に、安定結合状態にあった前記有害物分子の残りの原子よりさらに結合力の強い原子を近づけ、この結合力の強い原子と前記目的原子とを化学結合させて、元の安定結合状態にあった前記有害物分子とは異なる化合物を生成させることを特徴とする請求項1に記載の有害物分子の処理方法。
【請求項3】
前記有害物分子は、ダイオキシン類及び重金属類の少なくとも一方であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有害物分子の処理方法。
【請求項4】
前記有害物分子が重金属類である場合、前記結合力の強い原子は、アルカリ土類金属原子であり、
このアルカリ土類金属原子とイオン化した前記目的原子とを化学結合させて、沈降作用を有する不溶化化合物を生成させることを特徴とする請求項3に記載の有害物分子の処理方法。
【請求項5】
前記不溶化化合物をさらに、ポゾラン反応、水和反応及び炭酸化反応により団粒・硬化することを特徴とする請求項4に記載の有害物分子の処理方法。
【請求項6】
前記有害物分子がダイオキシン類である場合、前記結合力の強い原子は、金属原子であり、
この金属原子と前記目的原子とを化学結合させることを特徴とする請求項3に記載の有害物分子の処理方法。
【請求項7】
あらかじめ、ヘテロポリ酸塩類により粉体中に散在している有害物分子を吸着・濃縮させることを特徴とする請求項1ないし6いずれかに記載の有害物分子の処理方法。
【請求項8】
炉又はボイラから排出される排ガス中に薬剤を吹き込むことによって、排ガス又は飛灰中に含まれる有害物分子を処理することを特徴とする請求項1ないし7いずれかに記載の有害物分子の処理方法。
【請求項9】
前記薬剤を、200℃以下の排ガス中に、かつ、炉又はボイラの集塵装置よりも上流側の煙道中に吹き込むことを特徴とする請求項8に記載の有害物分子の処理方法。
【請求項10】
常温にて粉体と薬剤を混合することによって、粉体中に含まれる有害物分子を処理することを特徴とする請求項1ないし7いずれかに記載の有害物分子の処理方法。
【請求項11】
常温にて粉体と薬剤及び水を混合することによって、粉体中に含まれる有害物分子を処理すると共に、前記ポゾラン反応、水和反応及び炭酸化反応を進行させることを特徴とする請求項5に記載の有害物分子の処理方法。
【請求項12】
炉又はボイラの除塵設備にて捕集された灰に薬剤を混合することによって、灰に含まれる有害物分子を処理することを特徴とする請求項1ないし7いずれかに記載の有害物分子の処理方法。
【請求項13】
炉又はボイラの除塵設備にて捕集された灰に薬剤及び水を混合することによって、灰に含まれる有害物分子を処理すると共に、前記ポゾラン反応、水和反応及び炭酸化反応を進行させて、飛灰を硬化させることを特徴とする請求項5に記載の有害物分子の処理方法。
【請求項14】
有害物分子を含んだ汚染土壌、ヘドロ、又は下水汚泥に薬剤を混合することによって、汚染土壌中に含まれる有害物分子を処理することを特徴とする請求項1ないし7いずれかに記載の有害物分子の処理方法。
【請求項15】
前記汚染土壌、前記ヘドロ、又は前記下水汚泥に薬剤を混合することによって、ポゾラン反応、水和反応、及び炭酸化反応を進行させて、これらを硬化させ、第二種建設発生土以上の土壌を得ることを特徴とする請求項14に記載の有害物分子の処理方法。
【請求項16】
有害物分子を含むスラグに薬剤及び水を混合することによって、スラグ中に含まれる有害物分子を処理することを特徴とする請求項1ないし7いずれかに記載の有害物分子の処理方法。
【請求項17】
前記薬剤及び前記水を混合した灰、スラグ等の粉体、又は無機質粉体を加圧・成型することにより、一軸強度50kg/cm以上の固化物を得ることを特徴とする請求項13又は請求項16に記載の有害物分子の処理方法。
【請求項18】
粉体中の有害物分子を処理するために粉体に混合される薬剤であって、
有害物分子の原子同士の化学結合を断ち切るに足るだけの電荷を持った希土類元素を含有する物質を含むことを特徴とする薬剤。
【請求項19】
粉体中の有害物分子を処理するために粉体に混合される薬剤であって、
MgCl:20〜40質量%、希土類のアクチニウム系トリウムを化合させたハロゲン化物の化合物(FeCl:15〜20質量%、SiCl:5〜20質量%、CaCl:20〜40質量%)、NaOH・CaO:3〜5質量%からなる薬品を、酸素を遮断した雰囲気で粉砕した組成物Bを含むことを特徴とする薬剤。
【請求項20】
前記薬剤はさらに、吸着反応部として、ヘテロポリ酸塩類のモリブドリン酸アンモニウム:20〜40質量%、イオン交換反応部として、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等のセルロースに陰イオン交換基を導入したもの:10〜30質量%、チオ尿素:5〜20質量%、塩基性炭酸マグネシウム:20〜60質量%からなる組成物Aを含むことを特徴とする請求項19に記載の薬剤。
【請求項21】
前記薬剤はさらに、CaO:20〜50質量%、Al:30〜50質量%、SiO:10〜30質量%、MgO:10〜20質量%からなる薬品を加熱・溶融し、徐冷・粉砕した組成物:5〜15質量%、セメント系土壌硬化剤:60〜80質量%、活性炭:5〜10質量%、珪藻土:3〜10質量%、ステアリン酸亜鉛:2〜5質量%からなる組成物Cを含むことを特徴とする請求項19又は20に記載の薬剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−340836(P2006−340836A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−168167(P2005−168167)
【出願日】平成17年6月8日(2005.6.8)
【出願人】(593141481)JFE環境ソリューションズ株式会社 (47)
【出願人】(505214489)株式会社 松村綜合科学研究所 (2)
【出願人】(503142913)有限会社エム・アイ・ダブル (1)
【Fターム(参考)】