説明

有害物質含有水の浄化処理材とその製造方法

【課題】有害物質を取り込んだ浄化処理材の沈降性に優れ、短時間に浄化処理材が沈降して有害物質を除去することができる浄化処理材を提供する。
【解決手段】酸化マグネシウムの表面にハイドロタルサイトが形成されてなる浄化処理材であって、有害物質含有水に添加されて該ハイドロタルサイトに有害物質を取り込み、有害物質を取り込んだ状態で固液分離されることにより有害物質を系外に除去することを特徴とする有害物質含有水の浄化処理材とその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有害物質含有水の浄化処理材とその製造方法に関し、より詳しくは、フッ素、ホウ素、窒素化合物、リン、重金属類等の有害物質を含有する廃水などから、これらの有害物質を除去する浄化処理に用いる組成物であって、有害物質を取り込んだ浄化処理材の固液分離性が優れ、短時間に浄化処理材が沈降して有害物質を除去することができる浄化処理材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排水に含まれ有害物質を層状複水酸化物に取り込ませて除去する方法が従来から知られている。例えば、特開2003−285076号公報(特許文献1)には、フッ素を含む排水に2価金属イオンと3価金属イオンを添加して層状複水酸化物を生成させ、該層状複水酸化物の層間にフッ素を取り込ませる処理方法が記載されている。
【0003】
国際公開WO2005−087664号公報(特許文献2)には、アルミニウムイオンとマグネシウムイオンを含む酸性溶液とアルカリを含むアルカリ性溶液を混合し、酸性溶液とアルカリ性溶液の混合が完了した後、時間を置かずに直ちに水分を除去または中和することによって、一般式:Mg2+1-XAl3+X(OH)2(AN-)X/N・mH2O(AN-はアニオン)で表されるハイドロタルサイト様物質を形成し、該物質にフッ素などを取り込ませて固定する処理方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−285076号公報
【特許文献2】国際公開WO2005−087664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の上記処理方法は、ハイドロタルサイトなどの層状複水酸化物を生成させてフッ素を除去する方法であるが、生成した汚泥の沈降性に劣り、処理時間が長引く問題がある。また、特許文献1の処理方法は含フッ素乳化剤の回収を主眼にしており、重金属類の除去については不明である。また、特許文献2の処理方法では、ハイドロタルサイト様物質の結晶子サイズを20nm以下に制御することによって陰イオン交換能を高めているが、重金属イオンについてはクロムに対する吸着効果が示されているが、クロム以外の重金属類については不明である。
【0006】
本発明は、従来の上記処理方法において、生成した汚泥の沈降性が劣る問題を解決したものであり、フッ素に対する吸着効果および生成した汚泥の沈降性に優れた浄化処理材とその製造方法を提供する。また、ホウ素、窒素化合物、リン、重金属類の除去効果も優れており、好ましくは、フッ素、ホウ素、窒素化合物、リン、重金属類等の有害物質の除去効果に優れた浄化処理材とその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成からなる有害物質含有水の浄化処理材に関する。
〔1〕酸化マグネシウムの表面にハイドロタルサイトが形成されてなる浄化処理材であって、有害物質含有水に添加されて該ハイドロタルサイトに有害物質を取り込み、有害物質を取り込んだ状態で固液分離されることによって有害物質を系外に除去することを特徴とする有害物質含有水の浄化処理材。
〔2〕酸化マグネシウムと可溶性アルミニウム塩を、水溶液中で、アルカリ性下で反応させて酸化マグネシウムの表面にハイドロタルサイトを形成してなる上記[1]に記載する有害物質含有水の浄化処理材。
【0008】
本発明は、以下の構成からなる有害物質含有水の浄化処理材の製造方法に関する。
〔3〕ハイドロタルサイトの成分となる酸化マグネシウムと可溶性アルミニウム塩とを水に添加する工程、これをアルカリ性下で反応させて上記酸化マグネシウムの表面にハイドロタルサイトが形成された有害物質含有水の浄化処理材を生成させる反応工程、この浄化処理材を沈降させて固液分離することによって該処理材を回収する固液分離工程を有することを特徴とする有害物質含有水の浄化処理材の製造方法。
〔4〕上記[3]に記載する製造方法において、固液分離した処理材の一部または全部を反応工程に返送し、返送した処理材をハイドロタルサイトの形成に利用する有害物質含有水の浄化処理材の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の浄化処理材は、浄化処理後の処理材の沈降性に優れており、例えば、本発明の浄化処理材を用いて有害物質含有水を処理した後、静置したとき、30分後の安定容積が40%以下であり、短時間に沈降するので、短時間で固液分離することができ、かつ固液分離槽を小型化することができる。
【0010】
本発明の浄化処理材は、フッ素の除去効果に優れており、容易に排水中のフッ素濃度を排水基準〔フッ素8mg/L(海域以外の公共用水域)、フッ素15mg/L(海域)〕以下まで低減することができる。また、製造方法において、固液分離した処理材の一部または全部を反応工程に返送して製造した処理材は、フッ素の除去効果をさらに高めることができ、排水中のフッ素濃度を容易に環境基準(0.8mg/L以下)まで低減することができる。また、フッ素と同時にホウ素、窒素化合物、リン、重金属類等の有害物質を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1(A)】本発明の浄化処理材のSEM写真
【図1(B)】本発明の浄化処理材内部(図1(A)イ)の成分分析図
【図1(C)】本発明の浄化処理材表面付近(図1(a)ロ)の成分分析図
【図2】本発明の浄化処理材と従来の浄化材の製造方法について、沈降性を示す写真
【図3】本発明の浄化処理材の製造方法を示す工程図
【図4】本発明の浄化処理材について他の製造方法を示す工程図
【図5】本発明の浄化処理材を利用した処理方法の一例を示す工程図
【図6】浄化処理材のXRDチャート
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。
本発明の浄化処理材は、酸化マグネシウムの表面にハイドロタルサイトが形成されてなる浄化処理材であって、有害物質含有水に添加されて該ハイドロタルサイトに有害物質を取り込み、有害物質を取り込んだ状態で固液分離されることによって有害物質を系外に除去することを特徴とする有害物質含有水の浄化処理材である。
【0013】
本発明の浄化処理材が使用される有害物質含有水とは有害物質を含む水を広く意味し、自然発生的および人為的に生じた各種の廃水や排水等を含み、例えば、工場排水や下水、海水、河川水、湖沼や池の水、地表の溜り水、河川等の堰止域の水、地下の流水や溜り水、暗渠の水等であって有害物質を含有するもの、あるいは、有害物質によって汚染された土壌の浄化排水、海水や最終処分場からの浸出水などの塩類濃度の高い排水を逆浸透膜および電気透析などを利用して清澄水(淡水)と濃縮水に分離(脱塩処理)した後の濃縮水などである。
【0014】
処理対象の有害物質は、例えば、重金属類、フッ素、ホウ素、窒素、リンなどである。重金属類はカドミウム、鉛、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、セレン、六価クロム、ヒ素、マンガン、アンチモンなどである。本発明の浄化処理材によれば、有害物質含有水に含まれるこれらの有害物質の何れか1種または2種以上に対して優れた除去効果を有する。
【0015】
さらに有害物質には、ハロゲン化物イオン、各種のハロゲン酸(ハロゲン酸、過ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、次亜ハロゲン酸など)、ヘキサフルオロリン酸イオン(PF6-)、ホウフッ化物イオン(BF4-)、珪フッ化物イオン(SIF62-)、有機酸、浮遊物質(SS)および有機物などが含まれる。本発明の浄化処理材は廃水に含まれるこれらの有害物質の1種または2種以上に対して優れた除去効果を有する。
【0016】
本発明の浄化処理材は、酸化マグネシウムの表面にハイドロタルサイトが形成されたものである。この構造を図1(A)のSEM写真に示し、該浄化処理材の内部成分を図1(B)に示し、表面部分の成分を図1(C)に示す。浄化処理材内部(図1(A)イ)の成分は、図1(B)のように圧倒的にマグネシウム成分が多く酸化マグネシウムであることが分かる。一方、浄化処理材の表面付近(図1(A)ロ)の成分は、図1(C)のようにマグネシウムとアルミニウムのピークが検出され、ハイドロタルサイト〔一般式:Mg2+1-XAl3+X(OH)2(AN-)X/N・mH2O(AN-はアニオン)〕の成分であることが分かる。
【0017】
なお、酸化マグネシウムは製造工程中に水和して水酸化マグネシウムになることもあるため、酸化マグネシウムと水酸化マグネシウムの共存物質の表面にハイドロタルサイトを形成してもよい。
【0018】
ハイドロタルサイトは、層間に水分子を含む層状構造を有しており、電気的中性を保つために層間に陰イオンを取り込む性質があり、有害物質含有水に接触したときに、この水に含まれているフッ素、有機酸、あるいはオキシアニオン系のホウ素、窒素、リン、セレン、六価クロム、ヒ素、アンチモンなどの陰イオンの有害物質が層間に取り込まれる。
【0019】
さらに、ハイドロタルサイトを形成しているマグネシウムやアルミニウムの一部が陽イオンの重金属類と置換することによって、カドミウム、鉛、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、マンガンなどの有害重金属類が取り込まれる。また、浮遊物質(SS)はハイドロタルサイトを含む浄化処理材と凝集して取り込まれ、有機物はハイドロタルサイトを含む浄化処理材の表面に吸着して取り込まれる。従って、本発明の浄化処理材を廃水等に投入してこれらの有害物質を取り込ませ、生成した沈澱(汚泥)を固液分離することによって、これらの有害物質を効果的に除去することができる。
【0020】
〔使用方法〕
本発明の浄化処理材は有害物質含有水と接触することによって有害物質を除去する。その接触方法(使用方法)としては、連続式でも回分式でもよく、処理装置の形態としては攪拌槽を用いて廃水と槽内で浄化処理材を接触させる方法や、充填カラムに浄化処理材を充填して廃水と接触させる方法、流動床を用いて浄化処理材を流動せしめ廃水と接触させる方法等の一般的な方法が可能である。また、浄化処理材の使用形態は処理システムに応じて選択することができ、スラリー状や粉末状等で使用することができる。
【0021】
本発明の浄化処理材は、pH1〜13の酸性、中性、アルカリ性いずれの液性でも使用することができ、pH3〜11が好ましい。また、使用温度は制限されることはなく、常温でも使用することができる。
【0022】
処理後の浄化処理材は固液分離することにより回収する。本発明の浄化処理材は、酸化マグネシウムの表面にハイドロタルサイトが形成された構造を有しているので浄化処理後の処理材の沈降性が良く、短時間に容易に回収することができる。
【0023】
例えば、図2に示すように、本発明の浄化処理材を用いて有害物質含有水を処理した後、メスシリンダーに移して30分間静置すると、静置開始時のスラリーの容積は2300mL
であったものが、静置後の浄化処理材のスラリー容積は約550mLになり、安定容積が短時間に40%以下、好ましくは25%以下になる。ここで安定容積とは次式[1]によって算出される指標である。安定容積の小さい方が汚泥を短時間に固液分離することができることを示す。
(一定時間経過後の汚泥スラリー容積)/(初期の汚泥スラリー容積)×100…[1]
【0024】
本発明の浄化処理材を用いると、安定容積が小さく、汚泥を短時間に固液分離することができる。固液分離槽に導入する前に凝集剤を添加すれば、さらに短時間で固液分離することができる。凝集剤は無機凝集剤やアニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性の高分子凝集剤を用いることができる。
【0025】
なお、酸化マグネシウムに代えて可溶性のマグネシウム塩(塩化マグネシウム等)を用い、可溶性アルミニウム塩と共に水に添加し、さらに水酸化ナトリウムを添加してアルカリ性に調整する従来の製造方法によって生成した浄化処理材は、これを用いて有害物質含有水を処理した後、メスシリンダーに移して30分間静置すると、図2に示すように、静置開始時のスラリーの容積は2300mLであったものが、静置後の浄化処理材スラリーの容積は約2200mLであり、30分程度では殆ど沈降しない。
【0026】
回収した本発明の浄化処理材は繰返し使用することができる。有害物質の除去能力が低下してきたら、新しい浄化処理材と交換すればよい。また、使用済みの浄化処理材はセメント原料として再資源化することができる。
【0027】
〔製造方法〕
本発明の浄化処理材は、(イ)ハイドロタルサイトの成分となる酸化マグネシウムと可溶性アルミニウム塩とを水に添加する工程、(ロ)これをアルカリ性下で反応させて上記酸化マグネシウムの表面にハイドロタルサイトが形成された浄化処理材を生成させる反応工程、(ハ)生成した浄化処理材を沈降させ、固液分離して回収する固液分離工程によって製造することができる。以下、本発明の浄化処理材の製造方法を説明する。
【0028】
〔添加工程〕
ハイドロタルサイトの成分となる酸化マグネシウムと可溶性アルミニウム塩とを水に添加し、一部溶解した酸化マグネシウムと可溶性アルミニウム塩をアルカリ性下で反応させて酸化マグネシウムの表面にハイドロタルサイトを形成させる。
【0029】
酸化マグネシウムは大部分が未溶解部分として残るが、表面の一部が溶解してハイドロタルサイトの成分源になり、また溶解した酸化マグネシウムはアルカリ剤としての役割を果たす。
【0030】
酸化マグネシウムとしては、酸化マグネシウム単体のほかに、ドロマイト〔CaMg(CO3)2〕焼成物のように、成分の一部に酸化マグネシウムを含むもの、あるいはCaに限らず他の成分と共に酸化マグネシウムを含むものを用いることができる。
【0031】
可溶性アルミニウム塩としては、例えば、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム等を用いることができる。また、可溶性アルミニウム塩として、アルミニウムを高濃度に含有する廃液(貴金属触媒の回収廃液、金属アルミニウムを溶解した液など)を利用することができる。
【0032】
有害物質含有水に酸化マグネシウムと可溶性アルミニウム塩を添加する工程において、添加槽では水に可溶性アルミニウム塩と酸化マグネシウムを添加し、これを反応槽に導入しても良いし、添加槽において水に可溶性アルミニウム塩を添加して、これを反応槽に導入し、反応槽において酸化マグネシウムと必要に応じてpH調整剤を添加してもよい。また、水を反応槽に導入する管路中で水と可溶性アルミニウム塩を添加してもよい。
【0033】
〔反応工程〕
酸化マグネシウムと可溶性アルミニウム塩を水に添加し、これをアルカリ性下(pH7〜11が好ましい)で反応させると、酸化マグネシウムは溶け難いので大部分は未溶解部分として残るが、表面は部分的に溶解し、この溶出したマグネシウムがアルミニウムと反応して未溶解の酸化マグネシウム表面にハイドロタルサイト〔一般式:Mg2+1-XAl3+X(OH)2(AN-)X/N・mH2O(AN-はアニオン)〕が形成される。
【0034】
反応工程では必要に応じて、pH調整剤を添加することができる。pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム等のアルカリや硫酸、塩酸等の酸が挙げられる。これにより、pH7〜11に制御される。pHの調整は反応前でも、反応中でも、反応後でも構わないが、ハイドロタルサイトの形成を促進することから、反応中もしくは反応後の方が好ましい。
【0035】
〔固液分離工程〕
生成した浄化処理材を固液分離工程に導いて沈降させ、固液分離する。本発明の製造方法によって生成した浄化処理材は、未溶解の酸化マグネシウムの表面にハイドロタルサイトが形成された構造を有しているので沈降性が良い。
【0036】
回収された浄化処理材は必要に応じて脱水し、乾燥する。脱水乾燥処理には一般的に使用される脱水装置や乾燥装置を使用することができる。
【0037】
〔返送工程〕
上記製造方法において、好ましくは、固液分離した浄化処理材の一部または全部を反応工程に返送し、返送した浄化処理材をハイドロタルサイトの形成に利用するとよい。浄化処理材の一部または全部を反応工程に戻すことによって、ハイドロタルサイトの生成が促進し、フッ素、ホウ素、窒素化合物、リン、有害重金属類等の有害物質が浄化処理材に多く取り込まれるようになるので、これらの除去効果が向上する。
【0038】
なお、固液分離した汚泥について、重量や比重あるいは沈降速度の違いを利用して酸化マグネシウム量の多いものに濃縮した汚泥を反応工程に返送するとよい。例えば、酸化マグネシウム量の多い汚泥は他の汚泥よりも重いため速く沈降するので、沈降初期の汚泥を集めて酸化マグネシウム量の多い汚泥に濃縮することができる。反応工程に酸化マグネシウム量の多い汚泥を返送することによって、ハイドロタルサイトの生成を促進することができる。
【0039】
本発明の浄化処理材の製造システムを図3および図4に示す。
図示する製造装置には、水に薬剤を添加する添加槽10と、添加した薬剤を反応させて浄化処理材を生成させる反応槽30と、生成した浄化処理材を回収する固液分離槽40とが設けられており、これらの添加槽10と反応槽30と固液分離槽40とは管路50によって順に接続されている。固液分離槽40には分離した水と浄化処理材を排出する排出管路51、52がおのおの接続しており、浄化処理材の排出管路52には分離した浄化処理材の一部または全部を反応槽30に返送する返送管路53が接続している。図4に示す製造システムでは、返送管路53の途中に第二添加槽20が設けられている。製造した浄化処理材は排出管路52より回収し、必要に応じて脱水処理を実施する。
【0040】
添加槽10には水の供給管路60と可溶性アルミニウム塩の供給管路61が設けられている。なお、添加槽10を省略して管路60と管路61を直に接続し、管路内で可溶性アルミニウム塩を添加してもよい。図3の製造システムでは、反応槽30には酸化マグネシウムの供給管路62とpH調整剤の供給管路63が設けられている。また、図4の処理システムでは第二添加槽20に酸化マグネシウムの供給管路62が設けられている。
【0041】
添加槽10において、水にポリ塩化アルミニウム等の可溶性アルミニウム塩を添加し、これが反応槽30に導入される。さらに管路62を通じて酸化マグネシウムが添加される。さらに管路63を通じてPH調整剤が添加され、反応槽内がpH7〜11に制御される。この反応槽30は、開放系でも密閉系でもよいが、二酸化炭素の吸収によって有害物質の除去が阻害される可能性があるため、二酸化炭素を吸収し難い構造が好ましい。一般的には密閉系の反応槽が好ましい。
【0042】
反応槽30において、酸化マグネシウムの表面の一部が溶解してアルミニウムとアルカリ性下で反応し、酸化マグネシウムの表面にハイドロタルサイトが生成し、本発明の浄化処理材が形成される(図6(A)参照)。本発明の浄化処理材を有害物質含有水の処理に適用した時には、有害物質はこのハイドロタルサイトに取り込まれ、有害物質を取り込んだ浄化処理材を固液分離することによって、有害物質が系外に除去される。
【0043】
固液分離槽40において、浄化処理材を沈降させて固液分離する。なお、固液分離槽40に導入される前に凝集剤を添加してもよい。凝集剤は凝集剤供給管路と管路50とを接続して管路内で添加してもよいし、凝集剤添加槽を設け、その凝集剤添加槽に管路50を通じて浄化処理材を入れ、さらに凝集剤供給管路を通じて凝集剤を添加してもよい。また、固液分離された浄化処理材は管路53を通じて反応槽30に返送され、酸化マグネシウムと可溶性アルミニウム塩の反応によってハイドロタルサイトを浄化処理材の表面にさらに生成させることができる(図6(B)参照)。固液分離した浄化処理材を反応槽に返送することによって、ハイドロタルサイトの形成が促進される。その結果として、この浄化処理剤を有害物質含有水の処理に用いたときに、有害物質を多く取り込むことができるので、有害物質除去効果が向上する。
【0044】
上記製造装置は、例えば、車載可能にし、あるいは添加槽や反応槽および固液分離槽などのユニットに分離可能にした可搬型装置にすることができる。
【0045】
このようにして製造した浄化処理材を使用する時に、有害物質含有水(原水)に含まれる有害物質や妨害物質を予め低減する前処理を行ってもよいし、また、浄化処理後の処理水について後処理を行ってもよい。なお、妨害成分とはそれ自身は有害物質ではないが、本発明の浄化処理材の除去効果を妨害する物質である。
【0046】
本発明の浄化処理材を使用する処理工程の一例を図5に示す。図示する処理工程は前処理および後処理を含む例であり、原水は前処理の後に処理槽70に導かれ、該処理槽70には本発明の浄化処理材が加えられており、ここで有害物質が浄化処理材に取り込まれる。処理槽70から抜出されたスラリーは固液分離槽71に導入され、分離した処理水は後処理に導かれる。一方、固液分離槽71で沈澱した汚泥(使用済みの浄化処理材)は抜出されて必要に応じ再利用される。
【0047】
〔前処理〕
具体的には、例えば、原水に含まれている重金属類(カドミウム、鉛、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、マンガン、六価クロム、ヒ素など)の濃度が20mg/Lより高いと、重金属類を取り込んだハイドロタルサイトの構造が部分的に崩れ、重金属類などの有害物質の除去効果が不充分になることがある。そこで、前処理を行ってもよい。前処理の方法は限定されない。例えば、中和剤(NaOH、Ca(OH)2など)を加えて原水のpHを5〜10の範囲に調整し、重金属の水酸化物を生成させ、これを凝集沈澱処理し、原水の重金属濃度を10mg/L未満にしてもよいし、原水にアルミニウム塩や鉄塩を添加した後、中和剤(NaOH、Ca(OH)2など)を加えて原水のPHを5〜10の範囲に調整し、水酸化物沈殿を生成させ、その沈殿に共沈させて、これを固液分離して原水の重金属濃度を10mg/L未満にしてもよい。
【0048】
原水のリン酸イオンがリン濃度として50mg/Lより高いと、リン酸イオンが他の有害物質と競争してハイドロタルサイトに吸着され、他の有害物質の除去効果が低下することがある。そこで、前処理を行ってもよい。前処理の方法は限定されない。例えば、原水にカルシウム塩(Ca(OH)2など)を添加し、リン酸カルシウム塩を生成させて除去し、原水のリン酸イオンをリン濃度として5mg/L未満にするとよい。
【0049】
原水の硝酸イオンが窒素濃度として200mg/Lより高いと、硝酸イオンが他の有害物質と競争してハイドロタルサイトに吸着され、他の有害物質の除去効果が低下することがある。そこで、前処理を行ってもよい。前処理の方法は限定されない。例えば、生物処理(嫌気性脱窒法など)を行い、原水の硝酸イオンを窒素濃度として200mg/L未満にするとよい。
【0050】
また、原水のホウ酸イオンがホウ素濃度として100mg/Lより高いと、ホウ酸イオンが他の有害物質と競争してハイドロタルサイトに吸着され、他の有害物質の除去効果が低下することがある。そこで、前処理を行ってもよい。前処理の方法は限定されない。例えば、メチルグルカミン基を有するキレート樹脂に原水を通液してホウ酸イオンを吸着させ、原水のホウ酸イオンをホウ素濃度として100mg/L未満にするとよい。
【0051】
さらに、原水のフッ素濃度が50mg/Lより高いと、浄化処理材の必要量が増大するため、投入する浄化処理材量が多くなることがある。そこで、前処理を行ってもよい。前処理の方法は限定されない。例えば、カルシウム塩を添加して難溶性のフッ化カルシウムを生成させ、これを固液分離してフッ素濃度を50mg/L未満にするとよい。
【0052】
さらに、原水に含まれる浮遊物質(SS)の濃度が60mg/Lより高いと、浮遊物質を取り込んだハイドロタルサイトの構造が部分的に崩れ、有害物質の除去効果が不充分になることがある。そこで、前処理を行ってもよい。前処理の方法は限定されない。例えば、無機凝集剤や高分子凝集剤を添加して浮遊物質を沈澱分離し、原水の浮遊物質の濃度を20mg/L未満にするとよい。
【0053】
原水に含まれる有機物の濃度がCODとして200mg/Lより高いと、有機物を取り込んだハイドロタルサイトの構造が部分的に崩れ、有害物質の除去効果が不充分になることがある。そこで、前処理を行ってもよい。前処理の方法は限定されない。例えば、生物処理法(活性汚泥法など)や促進酸化法(紫外線酸化や光触媒など)によって原水の有機物濃度をCODとして80mg/L未満にするとよい。
【0054】
前処理工程において、原水に含まれる妨害成分を除去すれば処理効果をさらに高めることができる。妨害成分としては硫酸イオン、亜硫酸イオン、塩化物イオン、炭酸イオン、溶存シリカやケイ酸イオンなどである。
【0055】
例えば、原水に含まれる硫酸イオン濃度が1500mg/Lより高いと、硫酸イオンが有害物質と競争してハイドロタルサイトに吸着され、有害物質の除去効果が低下することがある。そこで、前処理を行ってもよい。前処理の方法は限定されない。例えば、原水にCa塩やBa塩を添加して難溶性の硫酸塩を生成させ、これを固液分離して硫酸イオン濃度を低下させる。Ca塩を用いる場合には硫酸イオンを1000mg/L未満に低減することができる。Ba塩を用いる場合には硫酸イオンを5mg/L未満に低減することができる。
【0056】
原水の亜硫酸イオン濃度が50mg/Lより高いと、亜硫酸イオンがアルミニウムイオンと反応するので、アルミニウム添加量が多く必要になることがある。また、亜硫酸イオンが有害物質イオンと競争してハイドロタルサイトに吸着され、有害物質の除去効果が低下することがある。そこで、前処理を行ってもよい。前処理の方法は限定されない。例えば、原水に過酸化水素などの酸化剤を添加して亜硫酸イオンを硫酸イオンに酸化し、原水の亜硫酸イオンを10mg/L未満にするとよい。
【0057】
原水の塩化物イオン濃度が2000mg/Lより高いと、塩化物イオンが有害物質と競争してハイドロタルサイトに吸着され、有害物質の除去効果が低下することがある。そこで、前処理を行ってもよい。前処理の方法は限定されない。例えば、電解分解によって塩素をガス化して除去し、あるいは逆浸透法や電気透析法など膜処理によって塩化物イオン濃度を1000mg/L未満にするとよい。
【0058】
原水の炭酸イオン濃度が500mg/Lより高いと、炭酸イオンが有害物質と競争してハイドロタルサイトに吸着され、有害物質の除去効果が低下することがある。そこで、前処理を行ってもよい。前処理の方法は限定されない。例えば、原水を曝気して炭酸イオンを気散させ、あるいはCa塩を添加して難溶性の炭酸塩を生成させ、これを固液分離して炭酸イオン濃度を50mg/L未満にするとよい。
【0059】
原水の溶存シリカやケイ酸イオンがSi濃度として20mg/Lより高いと、溶存シリカやケイ酸イオンを取り込んだハイドロタルサイトの構造が部分的に崩れ、有害物質の除去効果が不充分になることがある。そこで、前処理を行ってもよい。前処理の方法は限定されない。例えば、鉄塩やアルミニウム塩を添加し、さらに中和剤(NaOH、Ca(OH)2など)を加えて原水のpHを5〜10の範囲に調整し、水酸化物沈殿を生成させ、その沈殿に溶存シリカやケイ酸イオンを共沈させ、これを固液分離して原水の溶存シリカやケイ酸イオンをSi濃度として10mg/L未満にするとよい。
【0060】
〔後処理工程〕
固液分離工程で分離した液分(処理水)に、有機物や浮遊物質、窒素化合物が残留している場合や、あるいは処理水のpHが9以上の場合がある。そこで、処理水の後処理工程を設けてもよい。後処理の方法は限定されない。(図5参照)。
【0061】
処理水に含まれる有機物については、例えば、生物処理法(活性汚泥法など)や促進酸化法(紫外線酸化や光触媒など)によって、有機物をCOD濃度として80mg/L未満に低減するとよい。また、処理水に含まれる浮遊物質(SS)については、例えば、無機凝集剤や高分子凝集剤を添加して浮遊物質を沈澱分離し、浮遊物質の濃度を20mg/L未満にするとよい。さらに、処理水に含まれる窒素化合物については、例えば、生物処理(硝化脱窒素法など)を行い、窒素濃度として60mg/L未満に低減するとよい。
【0062】
処理水のpHが9以上になる場合があるので、pHが高い場合には処理水に硫酸や塩酸などを添加してpH6〜8になるように中和処理するとよい。
【実施例】
【0063】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。なお、フッ素濃度はイオン電極法にて測定した。ホウ素濃度、カドミウム濃度、鉛濃度、クロム(VI)濃度、およびヒ素濃度はICP発光分光分析法にて測定した。セレン濃度は水素化合物発生原子吸光法にて測定した。
【0064】
〔実施例1〕
図3に示す製造システムに従って以下のように浄化処理材を製造した。まず、水を添加槽10に導入し、ポリ塩化アルミニウムをアルミニウム濃度が水中で240mg/Lになるよう に添加した。これを反応槽30に導入した。その後、反応槽30で酸化マグネシウムを1g/Lとポリ塩化アルミニウムを添加した水とを混合し、20時間攪拌し、温度20℃下、反応させた。反応後、pH調整剤として水酸化ナトリウムを添加してpH8.5〜9.5に調整した後、さらに2時間攪拌した。生成した浄化処理材を固液分離槽40(シックナー)に導入して20時間静置して沈降させた。固液分離後、沈殿物を脱水、乾燥して浄化処理材を得た。この処理材を広角X線回折によって測定した結果を図6(A)に示した。図示するように、酸化マグネシウム表面にハイドロタルサイトが形成された本発明の浄化処理材であった。
【0065】
この浄化処理材を表1に示す有害物質濃度を含む模擬廃水に1%添加して、2時間攪拌後に固液分離し、液中の有害物質濃度を測定した。そのときの結果を表1に示す。表1に示すように、本発明の浄化処理剤によって処理水中のフッ素濃度を環境基準(0.8mg/L以下)まで処理することができた。さらに、他の有害物質の濃度も大幅に低減することができた。
【0066】
【表1】

【0067】
〔実施例2〕
図4に示す製造システムに従って以下のように浄化処理材を製造した。まず、水を添加槽10に導入し、ポリ塩化アルミニウムをアルミニウム濃度が水中で240mg/Lになるように添加した。これを反応槽30に導入した。一方、固液分離槽40で分離した浄化処理材の全量を第二添加槽20に返送し、ここで酸化マグネシウムを水1Lに対して1g/L添加した。この浄化処理材を反応槽30に戻し、ポリ塩化アルミニウムを添加した水と混合し、30分間攪拌し、温度20℃下、30分間反応させた。反応後、pH調整剤として水酸化ナトリウムを添加してpH8.5〜9.5に調整した後、生成した浄化処理材を固液分離槽40(シックナー)に導入して20時間静置して沈降させた。なお、固液分離槽40に導入する前にアニオン性高分子凝集剤2MG/Lを生成した浄化処理材スラリーに添加した。固液分離後、この分離した浄化処理材の全量を、上記のように、第二添加槽20に導入し、酸化マグネシウムを水1Lに対して1g/L添加して反応槽30に戻し、汚泥の生成を8回繰り返した。このとき、固液濃度120g/Lの浄化処理材スラリーを150mL得た。
【0068】
このスラリーの一部を乾燥させ、広角X線回折測定をした結果、図6(B)を得た。図示するように、酸化マグネシウム表面にハイドロタルサイトが形成された本発明の浄化処理材であった。このスラリー100mLをフッ素濃度20mg/Lの模擬廃水2Lに添加し、30分間攪拌した。その後、固液分離し、液中のフッ素濃度を測定した。その結果を表2に示す。表2に示すように、処理水中のフッ素濃度が環境基準(0.8mg/L以下)を大きく下回るまで低減することができた。
【0069】
【表2】

【0070】
〔実施例3〕
図3に示す製造システムに従って浄化処理材を以下のように製造した。まず、水を添加槽10に導入し、ポリ塩化アルミニウムをアルミニウム濃度が水中で240mg/Lになるように添加した。これを反応槽30に導入した。その後、反応槽30で酸化マグネシウム1g/Lとポリ塩化アルミニウムを添加した水とを混合し、PH調整剤として水酸化ナトリウムを添加してpH8.5〜9.5に調整した後、20時間攪拌し、温度20℃下、20時間反応させた。反応後、生成した浄化処理材を固液分離槽40(シックナー)に導入して、固液分離した。その後、脱水、乾燥をして浄化処理材を得た。
【0071】
この浄化処理材をフッ素濃度20mg/Lの模擬廃水に0.5%添加し、30分間攪拌した。その後、30分間静置して浄化処理材を沈降させた。処理結果を表3に示した。
【0072】
〔比較例1〕
図3に示す製造システムに従って浄化処理材を以下のように製造した。まず、水を添加槽10に導入し、ポリ塩化アルミニウムをアルミニウム濃度が水中で240mg/Lになるように添加した。これを反応槽30に導入した。その後、反応槽30で塩化マグネシウム2.4G/Lとポリ塩化アルミニウムを添加した水とを混合し、pH調整剤として水酸化ナトリ ウムを添加してpH8.5〜9.5に調整した後、20時間攪拌し、温度20℃下、20時間反応させた。反応後、生成した浄化処理材を固液分離槽40(シックナー)に導入して、固液分離した。その後、脱水、乾燥をして浄化処理材を得た。この浄化処理材をフッ素濃度20mg/Lの模擬廃水に0.5%添加し、30分間攪拌した。その後、30分間静置して浄化処理材を沈降させた。処理結果を表3に示した。
【0073】
処理結果に示すように、実施例3および比較例1の何れも処理水のフッ素濃度を海域以外の公共用水域の排水基準(8mg/L)以下まで低減することができるが、安定容積は比較例1の方が非常に大きく、分離性が悪い。一方、実施例3は安定容積が小さく、分離性が良好であり、短時間で固液分離することができる。
【0074】
【表3】

【符号の説明】
【0075】
10−添加槽、20−第二添加槽、30−反応槽、40−固液分離槽、50−管路、51、52−排出管路、53−返送管路、60、61、62、63−供給管路、70−処理槽、71−固液分離槽。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化マグネシウムの表面にハイドロタルサイトが形成されてなる浄化処理材であって、有害物質含有水に添加されて該ハイドロタルサイトに有害物質を取り込み、有害物質を取り込んだ状態で固液分離されることによって有害物質を系外に除去することを特徴とする有害物質含有水の浄化処理材。
【請求項2】
酸化マグネシウムと可溶性アルミニウム塩を、水溶液中で、アルカリ性下で反応させて酸化マグネシウムの表面にハイドロタルサイトを形成してなる請求項1に記載する有害物質含有水の浄化処理材。
【請求項3】
ハイドロタルサイトの成分となる酸化マグネシウムと可溶性アルミニウム塩とを水に添加する工程、これをアルカリ性下で反応させて上記酸化マグネシウムの表面にハイドロタルサイトが形成された有害物質含有水の浄化処理材を生成させる反応工程、この浄化処理材を沈降させて固液分離することによって該処理材を回収する固液分離工程を有することを特徴とする有害物質含有水の浄化処理材の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載する製造方法において、固液分離した処理材の一部または全部を反応工程に返送し、返送した処理材をハイドロタルサイトの形成に利用する有害物質含有水の浄化処理材の製造方法。

【図1(B)】
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【図1(C)】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1(A)】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−106227(P2012−106227A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188651(P2011−188651)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】