説明

有害物質溶出防止剤

【課題】セメント等の有害物質含有材に加えることによって、この有害物質含有材を固化させることにより、この固化物からの有害物質の環境基準値を超える溶出を防止でき、かつ比較的安価で現実的に使用できる有害物質溶出防止剤を提供する。
【解決手段】クロムなどの有害物質を含有するセメントや焼却灰等の有害物質含有材に、この有害物質含有材を塊状に固化させる固化剤とともに加えて、上記有害物質含有材を上記固化剤によって固化させることにより、この固化物からの上記有害物質の溶出を防止する、2価および/または3価の鉄塩を蛋白質加水分解物にキレート結合した有害物質溶出防止剤とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、クロムなどの有害物質を含有するセメントに加えて、セメントを塊状に固化させることにより、有害物質の溶出を防止できる有害物質溶出防止剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、セメント原料を焼成するプレヒータ又はセメントキルンに、無機性汚泥と、コンクリートガラ、ガラス、砂質の溶融スラグ、シルト質の石炭灰や陶器を粉砕した再生資源のうち少なくとも1種からなる廃棄物とを混合した燃焼燃料を投入することにより、セメント原料の焼成を促進させて、セメントを得るとともに、燃焼燃料の燃焼物をセメントの一部としている。
【0003】
このセメント原料を焼成させる際に、セメント原料に含まれるクロムが酸化して、六価クロムがセメントに含まれてしまうことから、例えば、このセメントを地盤改良に用いた場合に、雨水や河川水等が地下へ浸透していく過程において、この雨水等に条件によっては土壌環境基準を超える濃度の六価クロムが溶出する恐れがある。そして、そのまま六価クロムが溶出してしまった雨水等が地下水となり、この地下水が飲料水として人間に摂取される可能性がある。
【0004】
このため、平成12年3月24付の建設省技調発第48号建設大臣官房技術審議官通達における「セメントおよびセメント系固化剤の地盤改良への使用及び改良士の再利用に関する当面の処置について」によって、地盤改良工、舗装工、仮設工の際には、六価クロムの溶出試験を行うことが義務づけられている。この溶出試験は、「土壌中重金属等の溶出量分析方法:土壌環境基準、平成3年8月13日付け環境庁告示第46号に揚げる方法」に定められており、この溶出試験によって溶出した六価クロムをジフェニルカルバジド吸光光度法(JIS K0102の65.2.1)に基づいて定量した際の六価クロムの濃度は、土壌環境基準によって、0.05mg/L以下であることが要求されている。
【0005】
加えて、上述の燃焼燃料となる廃棄物中にも、六価クロムを含め、カドニウム、シアン、鉛、ヒ素、セレン、ホウ素、水銀、アルキル水銀やPCBなどの水質汚濁防止法等で規制される有害物質が存在しうることから、同様に、土壌環境基準を超える濃度の有害物質が溶出する恐れがある。それだけでなく、上記セメントには、固化させるためにセメント系固化剤を混合することがあるが、このセメント系固化剤にも六価クロムが含まれており、このセメント系固化剤に含まれている六価クロムの溶出の恐れもある。
【0006】
これに対して、例えば、有害物質を含まない廃棄物を選別して、セメントキルンに投入する等して、有害物質の溶出量の増大を抑えるセメント組成物が開発されて、販売されている。その他にも、特許文献1に示されているように、セメントにゼオライトを混合させる等して、六価クロムの溶出量を低減させたセメント組成物が提案されている。
しかしながら、この廃棄物の選別により有害物質の溶出量の増大を抑えたセメント組成物は、有害物質の溶出量を環境基準値以下にする溶出防止効果が望めないだけでなく、現在販売されているものの、廃棄物の選別コスト等によって高価になってしまっていることから、価格競争の激しい地盤改良やトンネルの裏込め等の工事現場において使用できないことが多い傾向がある。
【0007】
さらには、昨今、環境問題が世界的な重要課題となっている中において、セメントだけでなく、例えば、廃棄物を溶融炉において溶融処理した後に排出される焼却灰等にも、六価クロム等の有害物質が含有されていることから、これらの有害物質含有材からの有害物質の溶出を防止することも望まれている。
【0008】
【特許文献1】特開2007−176721
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、セメント等の有害物質含有材に加えることによって、この有害物質含有材を固化させることにより、この固化物からの有害物質の環境基準値を超える溶出を防止でき、かつ比較的安価で現実的に使用できる有害物質溶出防止剤を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、蛋白質加水分解物に鉄塩をキレート結合させた有害物質溶質防止剤を有害物質含有材に加えることによって、有害物質含有材が固化すると、この固化物からの有害物質の溶出量を著しく減少させることができることを見出し、以下の請求項1ないし請求項4に係る本発明を完成するに至ったものである。
【0011】
すなわち、請求項1に記載の発明は、クロムなどの有害物質を含有するセメントや焼却灰等の有害物質含有材に、この有害物質含有材を塊状に固化させる固化剤とともに加えて、上記有害物質含有材を上記固化剤によって固化させることにより、この固化物からの上記有害物質の溶出を防止する有害物質溶出防止剤であって、2価および/または3価の鉄塩が、蛋白質加水分解物にキレート結合されたものであることを特徴とするものである。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、クロムなどの有害物質を含有するセメントを塊状に固化させる際に、上記セメントに加えて、この固化物からの上記有害物質の溶出を防止する有害物質溶出防止剤であって、2価および/または3価の鉄塩が、蛋白質加水分解物にキレート結合されたものであることを特徴とするものである。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の有害物質防止剤において、上記蛋白質加水分解物は、蛋白質原料として動物の角又は蹄が用いられていることを特徴とするものである。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の有害物質溶出防止剤において、上記鉄塩は、鉄分濃度が0.2質量%以上であって、3.0質量%以下となるように上記蛋白質加水分解物にキレート結合されていることを特徴とするものである。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の有害物質溶出防止剤において、セメント原料を焼成するセメントキルンに、無機性汚泥と、コンクリートガラ、ガラス、砂質の溶融スラグ、シルト質の石炭灰および陶器を粉砕した再生資源のうち少なくとも1種からなる廃棄物とを燃焼燃料として供給することにより得られたセメントに加えられるものであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
上述の請求項1〜5に記載の発明によれば、蛋白質分解物に鉄塩をキレート結合させた有害物質溶出防止剤を、セメント等の有害物質含有材に加えて、この有害物質含有材が有害物質含有材そのものによって或いは必要に応じて添加される固化剤によって塊状に固化すると、有害物質溶出防止剤によって固化物の性質を変化させることなく、固化物からの環境基準による基準値を超える有害物質の溶出を防止できる。
【0017】
その際に、固化物中に六価クロム等の有害物質が存在すると、2価および/または3価の鉄塩が六価クロムを無毒の3価クロムに還元する等の還元剤として作用することにより、六価クロム等の有害物質を無毒化させるとともに、蛋白質加水分解物が有害物質を吸着することにより、上記有害物質の溶出が防止されるものと推測される。
【0018】
また、鉄塩がキレート結合されていない蛋白質加水分解物のみを固化剤とともに有害物質含有材に加えた場合には、比較的高価である蛋白質加水分解物の使用量が多くなってしまうことから、この蛋白質加水分解物に鉄塩をキレート結合させることにより嵩高にして、蛋白質加水分解物の使用量を減少させることにより、比較的安価な有害物質溶出防止剤の提供を可能にすることができるとともに、この有害物質溶出防止剤によって、効果的に有害物質の溶出を防止することができる。
【0019】
特に、蛋白質加水分解物には、請求項3に記載の発明のように、蛋白質原料として動物の角又は蹄を好適に用いることができる。
【0020】
また、請求項4に記載の発明によれば、有害物質溶出防止剤は、鉄分濃度が0.2質量%以上となるように鉄塩を蛋白質加水分解物にキレート結合させたため、確実に有害物質の溶出を防止することができるとともに、鉄塩濃度が3.0質量%以下となるように鉄塩を蛋白質加水分解物にキレート結合させたため、鉄塩によって蛋白質加水分解物が変性することによる有害物質の溶出防止効果の低下を阻止することができる。
【0021】
また、この有害物質溶出防止剤は、請求項5に記載の発明のように、無機性汚泥と廃棄物とを燃焼燃料としてセメント原料を焼成するセメントキルンに供給することにより得られたセメントに、加えることができる。このように、セメントに有害物質溶出防止剤を加えた場合には、このセメントを用いて地盤改良を行った場合や建築物を建設した場合にも、廃棄物やセメント原料などに含有されている有害物質が雨水等に溶出してしまうことを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に係る有害物質溶出防止剤について、説明する。
本実施形態の有害物質溶出防止剤は、セメントや焼却灰等の有害物質含有材に加えて、この有害物質含有材を必要に応じて加える固形剤又は有害物質含有材そのものによって塊状に固化させることにより、この固化物からの有害物質の溶出量を著しく減少させるものである。
【0023】
ここで、有害物質とは、カドニウム、シアン、鉛、六価クロム、ヒ素、セレン、ホウ素、水銀、アルキル水銀、PCBなどを含むものであって、水質汚濁防止法などで規制の対象となっている物質を意味するものである。
従って、有害物質含有材とは、これらの有害物質を含有するセメントや焼却灰を含むものであって、硬化樹脂やセメント系固化材等の固化剤又は有害物質含有材そのものによって塊状に固化するものを意味する。
【0024】
この固化剤としての硬化樹脂には、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂、ウレタン樹脂、アクリル系樹脂、熱可塑性樹脂エマルジョン、フェノール樹脂、天然ゴム、ゴムラテックス系、シリコーンゴムやフッ素ゴムなどの合成ゴム、および耐水処理したポリビニルアルコールなどの水不溶性高分子化合物のうちの1種または2種以上が用いられている。また、固形剤としては、これら硬化樹脂やセメント系固化材の他に、石灰系固化材や石膏がある。
なお、有害物質含有材そのものによって塊状に固化する有害物質含有材としては、普通ポルトランドセメントや高炉セメント等のセメントが挙げられるものであり、これらの普通ポルトランドセメントや高炉セメント等のセメントを固化させる際には、セメント系固化剤を添加する場合と、添加しない場合とがある。
【0025】
この有害物質含有材に加えられる本実施形態の有害物質溶出防止剤は、2価および/または3価の鉄塩が蛋白質加水分解物にキレート結合されている。
ここで、蛋白質には、大別して動物性蛋白質と植物性蛋白質とがあり、蛋白質加水分解物は、これら動物性蛋白質や植物性蛋白質に、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムやアンモニアなどのアルカリ剤、若しくは塩酸や酢酸などの酸性剤、又は酵素などを加えて、加水分解させたものである。
【0026】
この動物性蛋白質としては、角、蹄、ゼラチン、血液、毛、繭、卵白、魚粉、魚鱗や、乳汁などが挙げられ、好ましくは、動物の角や蹄が粉砕加工して用いられている。
また、植物性蛋白質としては、大豆や小豆などの豆類、小麦などがある。
【0027】
そして、これらの蛋白質加水分解物にキレート結合させる鉄塩としては、2価の鉄塩および3価の鉄塩のいずれか一方を用いても、両方を用いてもよいものである。また、2価の鉄塩としては、硫酸第一鉄や塩化第一鉄が使用可能であるとともに、3価の鉄塩としては、硫酸第二鉄、塩化第二鉄、酸化鉄や硝酸鉄が使用可能であり、より好ましくは鉄塩として、硫酸第一鉄および/または硫酸第二鉄が用いられる。
【0028】
この鉄塩は、鉄塩濃度が0.2質量%〜3.0質量%、より好ましくは0.4質量%〜1.0質量%となるように蛋白質加水分解物にキレート結合されている。
これは、鉄分濃度が0.2質量%未満では、固化物からの有害物質の溶出を防止する有害物質溶出防止剤としての作用効果が弱くなってしまうことが実験的に証明されているとともに、鉄分濃度が3.0質量%を超えると、鉄塩の影響で蛋白質加水分解物が変性してしまい有害物質溶出防止剤としての作用効果が弱くなってしまうためである。
【0029】
さらに、本実施形態の有害物質溶出防止剤には、必要に応じて、還元剤、酸化防止剤、水溶性無機金属塩、界面活性剤、水溶性有機溶剤、水溶性高分子、分散剤、防腐剤などが加えられる。中でも、還元剤は、六価クロム等の有害物質を無毒化することによって、酸化防止剤は、無毒化した有害物質の酸化による有毒化を防止することによって、これらの還元剤や酸化防止剤は、特に有害物質の溶出防止に寄与する。
【0030】
この還元剤としては、亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、二酸化硫黄や一酸化炭素などの低級酸化物または低級酸素酸の塩、硫化ナトリウムや硫化アンモニウムなどのイオウ化合物、蓚酸やギ酸、アルデシド類、糖類などの有機化合物、アルカリ金属、マグネシウム、塩化スズ、水素化合物のうちの1種又は2種以上を使用してもよい。
【0031】
酸化防止剤としては、エリソルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸、ピロ亜硫酸ナトリウム、二酸化硫黄、あるいはチャ抽出物やブルーベリー抽出物などの天然抽出物のうちの1種又は2種以上を使用してもよい。
【0032】
水溶性無機金属塩としては、例えば、硫酸ナトリウムや塩化ナトリウムなどのナトリウム塩、硫酸カリウムや塩化カリウムなどのカリウム塩、硫酸マグネシウムや塩化マグネシウムなどのマグネシウム塩、硫酸カルシウムや塩化カルシウムなどのカルシウム塩のうちの1種または2種以上を使用してもよい。
【0033】
界面活性剤としては、アルキルエーテル硫酸エステル塩やアルファオレフィンスルホン酸塩などのアニオン界面活性剤、モノアルキルアンモニウムクロライドやジアルキルアンモニウムクロライドなどのカチオン界面活性剤、アルキルエーテル型、アルキルフェノール型やアルキルエステル型などのノニオン系界面活性剤、あるいはアラニン型やイミダゾリニウムベタイン型などの両性界面活性剤のうちの1種または2種以上を使用してもよい。
【0034】
水溶性有機溶剤としては、例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブやイソブチルセロソルなどのセロソルブ系溶剤、エチルカルビトールやブチルカルビトールなどのカルビトール類、エチレングリコールやジエチレングリコールなどのジオール類、あるいはエチレンオキシドの付加モル数が3〜10のポリオキシエチレン低級アルキルエーテルのうちの1種を使用しても、または2種類以上を併用してもよいものである。また、水溶性有機溶剤としては、好ましくは、セロソルブ系溶剤およびジオール類が使用され、より好ましくは、ブチルセロソルブ、イソブチルセロソルブ、エチレングリコールやジエチレングリコールのうちの1種が使用され、または2種以上が併用される。
【0035】
水溶性高分子としては、天然のものと合成されたものとがあり、天然のものとしては、例えば、グアーガムやタラガムなどの種子を原料とする多糖類、アラビアガムやトラガントガムなどの樹脂および樹液を原料とする多糖類、アルギン酸やカラギナンなどの海藻を原料とする多糖類、キサンタンガムやカードランなどの発酵生産物多糖類、ペクチンなどの植物抽出物、あるいはキチンやキトサンなどの甲殻類抽出物がある。また、合成されたものとしては、メチルセルロースやヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース系誘導体、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルエーテルや、ポリアクリル酸ナトリウムなどがあり、水溶性高分子としては、これら天然のものや合成されたもののうちの1種が使用され、又は2種類以上が併用される。
【0036】
分散剤としては、例えば、ナフタレンスルホン酸系、アルキルナフタレンスルホン酸系、ポリカルボン酸系、ポリスチレンスルホン酸系、アルキルアミン型やアルキルフェノール型などのうちの1種が使用され、又は2種以上が併用される。
【0037】
そして、上述の有害物質溶質防止剤は、セメント等と混合して使用する場合には、あらかじめ水溶液の状態にして泡立てた後に、セメントと混合して使用してもよく、また、そのままセメントと混合しても、水で希釈してセメントと混合してもよい。
【0038】
以下に、上述の有害物質溶出防止剤をセメントに混合する場合の作用について、説明する。
【0039】
まず、セメント原料を焼成するセメントキルンに、無機性汚泥と、コンクリートガラ、ガラス、砂質の溶融スラグ、シルト質の石炭灰および陶器を粉砕した再生資源のうち少なくとも1種からなる廃棄物とを燃焼燃料として供給する。
【0040】
ここで、無機性汚泥とは、シール掘削機或いはボーリングマシン等によって排出された建設汚泥、河川あるいは池を浚渫した際に排出される浚渫汚泥や、砕石場において砕石を水洗した際に発生する土質分を含む砕石汚泥である。
【0041】
これにより、セメント原料をセメントキルンにて焼成してセメントを得るとともに、上述の無機性汚泥と廃棄物とを燃焼燃料として供給したため、これらの燃焼燃料がセメントの一部となる。
これによって、得られたセメントに、上述の有害物質溶出防止剤を加えるとともに、必要に応じて固化剤としてのセメント系固化材や石膏を加えて、地盤改良等に行うと、このセメント系固化材や石膏あるいはセメントそのものによってセメントが固化して、この固化したセメント(固化物)からの六価クロム等の有害物質の溶出が防止される。
【実施例】
【0042】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0043】
[実験例1]六価クロムの溶出量の定量
蹄角粉加水分解物(ケラチン蛋白質加水分解物:第一化成産業(株)製)と硫酸第一鉄・7水塩(宝光化研工業(株)製)とを表1に示す割合で混合することにより、蹄角粉加水分解物に硫酸第一鉄・7水塩をキレート結合させたNo.1〜6の有害物質溶出防止剤を得た。
【0044】
【表1】

【0045】
次いで、0.7kgのポルトランドセメント(太平洋セメント(株)製)に、4.65kgの砕石汚泥((有)三友製 含水比54%の脱水汚泥)と4.65kgの脱硫石膏((有)三友製)とともに70mLのNo.1の有害物質溶出防止剤を加えて、固化させたセメント固化物をNo.1固化物とした。
同様に、No.1の有害物質溶出防止剤に代えて、No.2〜6の有害物質溶出防止剤を加えて、それぞれ固化させたセメント固化物をNo.2〜6固化物とした。
さらに、0.7kgのポルトランドセメント(太平洋セメント(株)製)に、4.65kgの砕石汚泥((有)三友製 含水比54%の脱水汚泥)と4.65kgの脱硫石膏((有)三友製)のみを加えて固化させたセメント固化物をNo.7固化物とした。
【0046】
そして、これらのNo.1〜7固化物の六価クロムの溶出試験を、それぞれ「土壌中重金属等の溶出量分析方法:土壌環境基準、平成3年8月13日付け環境庁告示第46号に揚げる方法」に準じて下記のように行った後に、六価クロムの定量を後述するようにジフェニルカルバジド吸光光度法(JIS K0102の65.2.1)に基づいて行った。
【0047】
<溶出試験>
No.1〜7固化物を、それぞれ風乾させて、木片等を除いて粉砕した後、2mmの目を有する篩に掛けることにより粉末状にして、その後、この粉末を攪拌することによってNo.1〜7粉末を用意した。
次いで、これらのNo.1〜7粉末に、純水に塩酸を加えてpH=5.8〜6.3とした溶媒を、粉末1gに対して10mL加えて混合し、常温、常圧で振とう機(振とう回数毎分200回、振とう幅4〜5cm)で6時間連続振とう後、10〜30分静置して、毎分3000回転で20分間遠心分離を行った。これにより、上澄み液をメンブランフィルター(孔径0.45μm)でろ過したろ液を、No.1〜7の検液とした。
【0048】
<定量試験>:ジフェニルカルバジド吸光光度法
次いで、No.1〜7の検液を、それぞれ40mL分液ロートに採った後に、各分液ロートに、濃硫酸が同一質量の水で薄められた希釈濃度50%の硫酸を10mL加え、さらに過マンガン酸カリウム溶液を滴加して、わずかに分液ロート内の液体が着色した後に、各分液ロートにさらにクロペン(5質量%濃度)5mLとクロロホルム10mLとを加えた。次いで、各分液ロート内の液体を30秒間振り混ぜた後に、静置して2層に分離させて、それぞれ各液層を異なる2個のビーカーA、Bに採り分けて、各ビーカーA、B内の液体を水酸化ナトリウム(4質量%濃度)で中和した。
【0049】
次いで、上層の上澄み液を採ったビーカーA内の溶液を、それぞれメスフラスコAに移して、この溶液に希釈濃度10%の硫酸を加えた。
他方、下層の残留液を採ったビーカーBに、希釈濃度10%の硫酸を3mL加えるとともに、95質量%濃度のエタノールを少量加えた後に、ビーカーB内の溶液を煮沸することにより、六価クロムを三価クロムに還元し、放置冷却、この溶液をメスフラスコBに移した。
【0050】
次いで、各メスフラスコA及びBをそれぞれ約15℃に保った状態で、これらのメスフラスコA及びB内にジフェニルカルバジド溶液(1質量%濃度)1mLを加えて、振り混ぜた後に、50mL線まで水を加えて、5分間放置した。その後、No.1〜7の検液について、それぞれ各メスフラスコA内の検液40mLあたりの六価クロムを定量すべく、メスフラスコBの溶液を対照液として波長540nmの吸光度を測定し、検量線より濃度を測定した。そして、この濃度を、検液40mLを1Lあたりに換算して、その結果を表2に示した。
【0051】
【表2】

【0052】
表1および2から判るように、有害物質溶質防止剤を加えていないNo.7の固化物の検液は、0.7mg/Lの多量の六価クロムが含有されている。これに対して、有害物質溶出防止剤を加えたNo.1〜6の固化物の検液は、六価クロムの含有量が0.3mg/L以下であった。
【0053】
さらに、鉄分濃度が0質量%のNo.1の固化物の検液は、六価クロムの含有量が0.1mg/Lであるとともに、鉄分濃度が4.0質量%のNo.6の固化物の検液は、六価クロムの含有量が0.3mg/Lであり、No.1およびNo.6の検液は、いずれも土壌環境基準の0.05mg/Lを超えてしまっている。
【0054】
これに対して、鉄分濃度が0.2質量%〜3.0質量%となるように硫酸第一鉄・7水塩を蹄角粉加水分解物と混合したNo.2〜5の固化物の検液は、六価クロムの含有量が0.01mg/Lであり、No.2〜5の固化物は、著しく六価クロムの溶出を減少させることができた。
このことから、有害物質溶出防止剤の鉄分濃度が0.2質量%〜3.0質量%であることが好ましいことがわかった。
【0055】
[実験例2]六価クロムの溶出量の定量
焼却灰(第一化成産業(株)製(含水比85%))4.5kgに、六価クロム(六価クロム標準液:濃度1000mg/L:和光純薬工業(株)製)5gと固化剤としてのハイセルOH(ポリウレタン樹脂:東邦化学工業(株)製)のみを加えて、固化させた固化物をNo.8固化物とした。
【0056】
また、同様に、焼却灰(第一化成産業(株)製(含水比85%))4.5kgに、六価クロム(六価クロム標準液:濃度1000mg/L:和光純薬工業(株)製)5gと固化剤としてのハイセルOH(ポリウレタン樹脂:東邦化学工業(株)製)とともに、上記No.4の有害物質溶出防止剤を70mL加えて、固化させた固化物をNo.9固化物とした。
【0057】
次いで、実験例1と同様にして、六価クロム溶出試験後に、六価クロムの定量を行った。
その結果を表3に示す。
【0058】
【表3】

【0059】
上述の実験例2から判るように、セメント系固化剤以外の樹脂系の固化剤を用いて固化させた場合にも、有害物質溶出防止剤を加えることによって、固化物からの六価クロムの溶出量を著しく減少させることができる。
【0060】
[実験例3]溶出試験
沖縄県認定試験機関である「株式会社南西環境研究所」に依頼して、上記固化物4についての表4に示す各有害物質の溶出試験と、この溶出試験によって溶出した各有害物質の上記ジフェニルカルバジド吸光光度法による定量とを行った。その結果である検液1Lあたりの各有害物質の含有量を表4に示した。なお、表4には、この有害物質の含有量の右欄に、それぞれ各有害物質の溶出試験の方法と、各有害物質の基準値(平成3年8月環境庁告示第46号(最終改正:平成13年3月環境省告示第16号)による基準値)とを示している。
また、溶出試験の方法の欄に示した「環告第64号」とは、昭和49年9月環境庁告示第64号(最終改正:平成13年6月環境省告示第37号)を意味するものであって、環境大臣が定める排水基準に係る検査方法である。同様に、「環告第59号」とは、昭和46年12月環境庁告示第59号(最終改正:平成15年11月環境省告示第123号)を意味するものであって、環境大臣が定める水質汚濁に係る環境基準の検査方法であり、「総理府令第66号」とは、昭和47年10月総理府令第66号(最終改正:平成12年8月総理府令第94号)を意味するものであって、農用地土壌汚染対策地域の指定要件に係る銅の量の検定の方法を定める省令である。
【0061】
【表4】

【0062】
表4から判るように、コンクリート系物質から溶出されやすい有害物質に着目してみても、それぞれの含有量は、六価クロムが基準値0.05mg/L以下の0.01mg/L、カドミウムが基準値0.01mg/L以下の0.001mg/L、シアンが不検出、セレンが基準値0.01mg/L以下の0.001mg/L、ホウ素が基準値1mg/L以下の0.01mg/Lであった。その他の重金属などについても環境基準をクリアーしていることが確認でき、有害物質溶出防止剤によって、これらの有害物質の環境基準値を超える溶出が防止されていることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロムなどの有害物質を含有するセメントや焼却灰等の有害物質含有材に、この有害物質含有材を塊状に固化させる固化剤とともに加えて、上記有害物質含有材を上記固化剤によって固化させることにより、この固化物からの上記有害物質の溶出を防止する有害物質溶出防止剤であって、
2価および/または3価の鉄塩が、蛋白質加水分解物にキレート結合されたものであることを特徴とする有害物質溶出防止剤。
【請求項2】
クロムなどの有害物質を含有するセメントを塊状に固化させる際に、上記セメントに加えて、この固化物からの上記有害物質の溶出を防止する有害物質溶出防止剤であって、
2価および/または3価の鉄塩が、蛋白質加水分解物にキレート結合されたものであることを特徴とする有害物質溶出防止剤。
【請求項3】
上記蛋白質加水分解物は、蛋白質原料として動物の角又は蹄が用いられていることを特徴とする請求項1または2に記載の有害物質防止剤。
【請求項4】
上記鉄塩は、鉄分濃度が0.2質量%以上であって、3.0質量%以下となるように上記蛋白質加水分解物にキレート結合されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の有害物質溶出防止剤。
【請求項5】
セメント原料を焼成するセメントキルンに、無機性汚泥と、コンクリートガラ、ガラス、砂質の溶融スラグ、シルト質の石炭灰および陶器を粉砕した再生資源のうち少なくとも1種からなる廃棄物とを燃焼燃料として供給することにより得られたセメントに加えられるものであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の有害物質溶出防止剤。

【公開番号】特開2009−112974(P2009−112974A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−290511(P2007−290511)
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(506393972)有限会社三友 (2)
【出願人】(595024869)第一化成産業株式会社 (5)
【出願人】(507393975)
【Fターム(参考)】