説明

有害物質除去材の製造方法

【課題】抗体を担持した繊維を含む有害物質除去材の製造方法であって、該繊維に抗体を効率的に担持させるための有害物質除去材の製造方法の提供。
【解決手段】溶性高分子及び抗体を含む水溶液を用いて電界紡糸法により繊維を作製することを含む、有害物質除去材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害物質除去材の製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、抗体を担持した繊維を含む有害物質除去材の製造方法であって、担持された抗体に効率よく有害物質を除去させることができる製造方法、及び該製造方法により得られる有害物質除去材に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体担持フィルターは、液相や気相中のウイルスや雑菌の除去を行う材料として有用である。担体として繊維を用いた抗体担持フィルターにおいて面積辺りの有害物質除去率を上げるためには、繊維径が1μm以下程度のナノファイバーを用いることが考えられる。ナノファイバーにおいては捕捉率の向上のために繊維を厚くすると圧力損失が大きくなりすぎてフィルターとして使用できないので、物理強度付与の目的で、他の基材と組み合わせて使用されることが多い。しかしこのようなナノファイバーと基材の複合体に抗体を担持させようとすると、基材にも抗体が担持されるため、抗体の利用率が悪化するという問題点があった。
【0003】
特許文献1においては、気相雰囲気下で有害物質を除去する抗体を担持した有害物質除去材が開示されており、担体として繊維材料が挙げられているが繊維径についての記載はなく、抗体を繊維に効率的に担持させる手段についての記載もない。
特許文献2には、電界紡糸により生産性高く高分子ウェブを製造する方法が開示されている。高分子の例としてポリビニルアルコールが挙げられており、高分子に有機、無機物の粉末を混合してもよいことが記載されているが、具体的な例は挙げられていない。
【特許文献1】特開2004-313755号公報
【特許文献2】特開2002-201559号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、抗体を担持した繊維を含む有害物質除去材の製造方法であって、該繊維に抗体を効率的に担持させるための有害物質除去材の製造方法、及び該製造方法により得られる有害物質除去材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題の解決のために鋭意研究を行った結果、担体として用いられる繊維の作製時に用いられる高分子水溶液に抗体を溶解することにより、抗体が効率的に担持された繊維が得られることを見出し、この知見のもとに本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は下記[1]〜[5]を提供するものである。
【0006】
[1]水溶性高分子及び抗体を含む水溶液を用いて電界紡糸法により繊維を作製することを含む、有害物質除去材の製造方法。
[2]前記水溶性高分子が、ポリビニルアルコールである、[1]に記載の製造方法。
[3]前記抗体が、鶏卵抗体である、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4][1]〜[3]のいずれか一項に記載の製造方法により得られる有害物質除去材。
[5]前記繊維が繊維径1μm以下の繊維である[4]に記載の有害物質除去材。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、抗体を担持した繊維を含む有害物質除去材の製造方法であって該繊維に抗体を効率的に担持させることができる有害物質除去材の製造方法、及び該製造方法により得られる有害物質除去剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明の製造方法は水溶性高分子及び抗体を溶解した水溶液を用いて電界紡糸法により繊維を作製することを含むことを特徴とする。すなわち、本発明の製造方法は、抗体を担持する担体である繊維の作製のための材料である高分子の溶液に抗体を溶解させることによって、繊維の作製とともに担体である該繊維への抗体の担持を行う。
【0009】
繊維の作製のために用いられる水溶性高分子としては、特に限定されないが、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、カルボキシルメチルセルロース等のセルロース誘導体、デンプン、ゼラチン等が挙げられる。これらは単一で用いてもよく、いずれか1以上の混合物を用いてもよい。水溶性高分子としては、ポリビニルアルコールが好ましい。
【0010】
ポリビニルアルコールとしては、水溶液を作製できれば特に限定されないが、重合度は400〜4000が好ましく、400〜1000がより好ましい。ケン化度は75%以上が好ましく、80%〜95%がより好ましい。また、水酸基・酢酸基以外の変性基をもつ変性ポリビニルアルコールを用いることもできる。変性基としては、スルホン酸基、4級アンモニウム塩、カルボニル基、カルボキシル基、アセトアセチル基等を挙げることができる。
【0011】
ポリアクリル酸としては、水溶液を作製できれば特に限定されないが、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸−マレイン酸共重合体、それらの塩などを挙げることができる。
ポリアクリルアミドとしては、水溶液を作製できれば特に限定されないが、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリイソプロピルアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリヘキシルアクリルアミドなどを挙げることができる。
【0012】
ポリエチレンオキシドとしては、水溶液を作製できれば特に限定されないが、ポリエチレンオキシドおよびその誘導体が挙げられ、ポリエチレンオキシド誘導体としては、エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体、アルキルポリエチレンオキシド、アルキルフェニルポリエチレンオキシドなどが挙げられる。
【0013】
セルロース誘導体としては、水溶液を作製できれば特に限定されないが、カルボキシルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどが挙げられる。
【0014】
デンプンとしては、水溶液を作製できれば特に限定されないが、トウモロコシ、米、小麦粉、豆、ジャガイモ、タピオカ、サツマイモなどから得られるものを用いることができる。また、これらのデンプンをカルボキシルメチル化したものを用いてもよい。
ゼラチンとしては、水溶液を作製できれば特に限定されないが、牛由来、豚由来、魚由来のゼラチンなどを使用することができ、石灰処理ゼラチン、酸処理ゼラチン、フタル化ゼラチンなどのアミノ基修飾ゼラチン、ゼラチン加水分解物、ゼラチン酵素分解物などを挙げることができる。
【0015】
繊維の表面は、数十ナノメートルから数マイクロメートルスケールの微細な凹凸構造を有することも好ましい。凹凸の形状は、繊維方向と平行方向に形成された溝状あるいは筋状の立体形状であってもよいし、繊維方向と垂直すなわち軸に対して同心円状に形成された溝状あるいは筋状の立体形状であってもよく、これらの立体形状は繊維方向と平行方向から垂直方向迄の任意の角度で形成されたものが任意の比率、密度で存在してもよい。公知のセルロースアセテート繊維の紡糸法で得られる試料には、表層のスキン層形成と溶剤乾燥に伴うスキン層の陥没により、繊維断面が不定形の菊型を形成することが知られているが、この凹凸は本発明においても好ましい形態である。
【0016】
ナノメートルからマイクロメートルスケールの微細な凹凸構造は、空孔状および/または突起状であってもよい。平均径にして50nmから1μmの空孔または突起であることが望ましい。これらの空孔や突起は、例えば溶液のキャビテーションや微細分散質を分散させた溶液(例えば硫酸バリウム粒子を分散させたスラリーとの混合)を利用するなどの方法により紡糸工程で形成させたり、アシル基の加水分解や表面酸化処理など方法(例えばアルカリ水溶液により繊維表面をセルロース化したのち、酵素処理により繊維表面にミクロクレーターを発現させたりするなど)により後工程によって形成させたりすることができる。
【0017】
担体として用いられる繊維の平均繊維径は、50μm以下であることが望ましく、10μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることが特に好ましく、100nm以下であることが最も好ましい。なお、本発明の平均繊維径は走査型電子顕微鏡(SEM)の観察画像から任意の300箇所における繊維中の直径を測定し、それを算術平均することによって求めた数値である。
【0018】
本発明の製造方法において繊維は電界紡糸法で作製される。電界紡糸法は、静電紡糸法とも呼ばれ、高分子溶液あるいは高分子融液を紡糸ノズルから押出す際に、紡糸ノズルと対向電極間に0.5〜30KVの高電圧を印加し、ノズル内の誘電体に電荷を蓄積させることにより、静電気的な反発力で微細繊維を製造する方法である。具体的な方法は特に限定されないが、電界紡糸法については、加工技術、2005年、40巻、No.2、101頁、および167頁;Polymer International誌、1995年、36巻、195〜201頁;Polymer Preprints誌、2000年、41(2)号、1193頁;Journal of Macromolecular Science : Physics誌、1997年、B36、169頁;特許第3918179などを参照することができる。
【0019】
本発明の製造方法においては紡糸に用いる高分子を溶解する溶媒としては、水が用いられる。高分子を溶解した溶液には、さらに塩化リチウム、臭化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウムなどの塩を添加してもよい。
【0020】
繊維は、繊維同士は部分的に接着することにより三次元ネットワークを形成している構造をもつものであってもよい。かような構造をとることにより、加工ならびに実用上の機械的耐性を向上させることができ、ひいては有害物質除去材の信頼性をあげることができる。また、抗体の保持特性を上げることができる。繊維同士の接着はSEM等の方法で観察することができる。繊維同士の接着点の密度は、該有害物質除去材の投影表面積に対して1mm角辺り10箇所以上存在することが好ましく、100箇所以上であることがより好ましい。
【0021】
接着点を形成する方法としては、紡糸後に加熱や、接着剤・可塑化溶剤等の添加による接着点形成処理を行ってもよい。
【0022】
本発明の製造方法に用いられる抗体は、特定の有害物質(抗原)に対して特異的に反応(抗原抗体反応)するタンパク質であり、分子サイズが7〜8nmであって、Y字状の分子形態を有する。抗体のY字状分子構造のうち、一対の枝部分をFab、幹部分をFcといい、これらのうち、Fabの部分で有害物質を捕捉する。
【0023】
前記抗体の種類は、捕捉しうる有害物質の種類に対応する。抗体により捕捉される有害物質としては、例えば、細菌、カビ、ウイルス、アレルゲン及びマイコプラズマを挙げることができる。具体的には、細菌としては、例えば、グラム陽性菌であるブドウ球菌属(黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌)、ミクロコッカス菌、炭疽菌、セレウス菌、枯草菌、アクネ菌などや、グラム陰性菌である緑膿菌、セラチア菌、セパシア菌、肺炎球菌、レジオネラ菌、結核菌などを挙げることができる。カビとしては、例えば、アスペルギルス、ペニシリウス、クラドスポリウムなどを挙げることができる。ウイルスとしては、インフルエンザウイルス、コロナウイルス(SARSウイルス)、アデノウイルス、ライノウイルスなどを挙げることができる。アレルゲンとしては、花粉、ダニアレルゲン、ネコアレルゲンなどを挙げることができる。
【0024】
前記抗体の製造方法としては、例えば、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ウサギ等の動物に抗原を投与し、その血液からポリクローナル抗体を精製する方法、抗原を投与した動物の脾臓細胞と培養癌細胞とを細胞融合し、その培養液または融合細胞を植え込んだ動物の体液(腹水等)からモノクローナル抗体を精製する方法、抗体産生遺伝子を導入した遺伝子組み換え細菌、植物細胞、動物細胞の培養液から抗体を精製する方法、ニワトリに抗原を投与して免疫卵を産ませ、卵黄液を殺菌及び噴霧乾燥して得た卵黄粉末から鶏卵抗体を精製する方法を挙げることができる。これらのうちでも、鶏卵から抗体を得る方法は、容易にかつ大量に抗体が得られ、有害物質除去材の低コスト化を図ることができる。
【0025】
抗体フィルターに用いられる抗体は鶏卵抗体であることが好ましい。
【0026】
前記担体に抗体を担持する(固定化する)方法としては、前記高分子に抗体を物理的に吸着させる方法のほか、高分子をγ−アミノプロピルトリエトキシシランなどを用いてシラン化した後、グルタールアルデヒドなどで高分子にアルデヒド基を導入し、アルデヒド基と抗体とを共有結合させる方法、イオン結合により抗体を高分子に固定化する方法、特定の官能基を有する高分子にアルデヒド基を導入し、アルデヒド基と抗体とを共有結合させる方法、特定の官能基を有する高分子に抗体をイオン結合させる方法、特定の官能基を有するポリマーで高分子をコーティングした後にアルデヒド基を導入し、アルデヒド基と抗体とを共有結合させる方法をあげることができる。
【0027】
ここで、前記の特定の官能基としては、NHR基(RはH以外のメチル、エチル、プロピル、ブチルのうちいずれかのアルキル基)、NH2基、C65NH2基、CHO基、COOH基、OH基を挙げることができる。
【0028】
また、前記担体表面の官能基を、BMPA(N-β-Maleimidopropionic acid)などを用いて他の官能基に変換した後、その官能基と抗体とを共有結合させる方法もある(BMPAではSH基がCOOH基に変換される)。
【0029】
更に、前記抗体のFcの部分に選択的に結合する分子(Fcレセプター、プロテインA/Gなど)を担体表面に導入し、それに抗体のFcを結合させる方法もある。この場合、有害物質を捕捉するFabが担体に対して外向きになり、Fabへの有害物質の接触確率が高くなるので、効率よく有害物質を捕捉することができる。
【0030】
前記抗体は、リンカーを介して高分子に担持されていてもよい。この場合、繊維上での抗体の自由度が高くなり、有害物質への接近が容易となるので、高い除去性能を得ることができる。リンカーとしては、二価以上のクロスリンク試薬を挙げることができ、具体的にはマレイミド、NHS(N-Hydroxysuccinimidyl)エステル、イミドエステル、EDC(1-Ethyl-3-[3-dimethylaminopropyl]carbodiimido)、PMPI(N-[p-Maleimidophenyl]isocyanate)があり、標的官能基(SH基、NH2基、COOH基、OH基)に選択的なものと非選択的なものとがある。また、クロスリンク間の距離(スペースアーム)もクロスリンク試薬ごとに異なっており、目的の抗体に応じて0.1nm〜3.5nm程度の範囲で選択することができる。有害物質を効率的に捕捉するという観点からは、リンカーとして抗体のFcに結合するものが好ましい。
【0031】
リンカーを導入する方法としては、抗体にリンカーを結合させておき、それを更に抗体に結合する方法、高分子にリンカーを結合させておき、高分子上のリンカーに抗体を結合させる方法のいずれも可能である。
【0032】
本発明の製造方法においては、抗体を繊維作製のための水溶性高分子水溶液に含ませることにより抗体を担体に担持させる。すなわち、抗体を担持した高分子を用いて繊維を作製する。
この水溶液において水溶性高分子の濃度は1質量%〜50質量%であればよく、3質量%〜40質量%であることが好ましく、5質量%〜30質量%であることがより好ましい。
抗体の濃度は0.1質量%〜30質量%であればよく、0.3質量%〜20質量%であることが好ましく、0.5質量%〜15質量%であることがより好ましい。
上記水溶液において、抗体の含有量は水溶性高分子の含有量に対して0.5質量%〜15質量%程度であることが好ましい。
【0033】
上記の抗体含有水溶性高分子水溶液の作製手順は特に限定されないが、まず抗体を水に溶解し、その後高分子を溶解させることが好ましい。また、抗体を溶解した後の水溶液はろ過することが好ましい。電界紡糸の際に水溶液に沈殿を発生させないようにするためである。ろ過は、孔径0.1〜1μm程度のフィルターで行うことが好ましい。
水溶性高分子水溶液は、さらに安定化剤や、抗菌剤、抗カビ剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0034】
本発明の製造方法により得られる有害物質除去材によって、気相中又は液相中の有害物質の除去が可能である。この有害物質除去材は抗体が気相に面しているドライな環境においても効率よくウイルスや雑菌などの有害物質を除去することができ、空気清浄機用フィルター、マスク、拭き取りシートなどに用いることができる。
【実施例】
【0035】
<抗体フィルター作製>
<担体の作製>
(担体N−1)
セルロースアセテート(アルドリッチ製、全置換度2.4、数平均分子量3万)のアセトン:水(97:3)溶液(25質量%)を60℃に加温し、直径0.1mmのノズルから、紡速500m/mの速度で空気とともに噴出させ不織布を形成し膜厚4mmの不織布を得た。目付量は100g/m2であった。これを300mm×100mmに裁断し、 担体N−1を得た。紡糸筒はヒーターで100℃に加温した。SEMで平均繊維径を測定したところ、8μmであった。
【0036】
(担体N−2)
ケン化度86〜90モル%、重合度500のポリビニルアルコールの水溶液(20質量%)を用い、ナノファイバー製造装置(カトーテック製)を用いて、シリンジ送り速度0.05mm/min、印加電圧15kVで電界紡糸を行った。基材として、担体N−1を用い、ナノファイバー膜厚85μmの不織布N−2を作製した。SEMで平均繊維径を測定したところ、ナノファイバー部の繊維径は80nmであった。
【0037】
<抗体溶解高分子水溶液の調製>
抗原を投与したニワトリが産んだ免疫卵の卵黄液を、噴霧乾燥して乾燥卵黄粉末を得た。次いで、この乾燥卵黄粉末をエタノールで脱脂して脱脂成分を除去した後、減圧下で乾燥し、抗体物質としての脱脂卵黄粉末を得た。この脱脂卵黄粉末を精製してインフルエンザウイルス抗体(IgY抗体)の純度を測定したところ、3質量%であった。次いで、脱脂卵黄粉末をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に懸濁させた。その後孔径0.22μmのフィルターを用いてろ過し、不溶成分を除去して、抗体溶液K−1とした。次いで、抗体溶液K−1にケン化度86〜90モル%、重合度500のポリビニルアルコールを濃度溶解し(20質量%)、抗体溶解高分子水溶液K−2とした。
【0038】
<抗体フィルターの作製>
(抗体フィルターF−1)
ナノファイバー製造装置(カトーテック製)を用いて、抗体溶解高分子水溶液K−2を、シリンジ送り速度0.05mm/min、印加電圧15kVで電界紡糸を行った。基材として、担体N−1を用い、ナノファイバー膜厚85μmの抗体フィルターF−1を作製した。SEMで平均繊維径を測定したところ、ナノファイバー部の繊維径は80nmであった。抗体溶解高分子水溶液K−2の抗体濃度を調整し、抗体担持量0.1mg/m2、1mg/m2、10mg/m2のサンプルを作製した。
【0039】
(抗体フィルターF−2)
抗体溶液K−1に担体N−1を室温で16〜24時間浸漬させ、繊維表面に抗体を付与させた。得られた試料を25℃20%RHの環境下で24時間静置し、次に25℃90%RHの環境下で24時間静置した。この操作を交互に3回ずつ、合計6条件の間で繰返した。抗体溶液K−1の抗体濃度を調整し、抗体担持量0.1mg/m2、1mg/m2、10mg/ m2のサンプルを作製した。
【0040】
(抗体フィルターF−3)
担体N−1を担体N−2に変更した以外は、全て抗体フィルターF−2と同様の方法で、抗体フィルターF−3を作製した。
【0041】
<ウイルス不活性化効率評価>
抗体フィルターF−1〜F−3について、ウイルス不活性化効率評価を行った。
供試ウイルス液は精製インフルエンザウイルスをPBSで10倍希釈したもの(ウイルス濃度20万プラーク/mL)を使用した。前記各サンプルを5cm角に切り、ウイルス噴霧試験装置の中央に取り付け固定した。上流側に設置したネブライザーに供試ウイルス液を入れ、下流側にウイルス回収用装置を取り付けた。エアーコンプレッサーから圧縮空気を送り、ネブライザーの噴霧口から供試ウイルスを噴霧した。マスク下流側には、ゼラチンフィルターを設置し、10L/分の吸引流量で5分間試験装置内空気を吸引し、通過ウイルスミストを捕集した。
試験後、ウイルスを捕集したゼラチンフィルターを回収し、MDCK細胞を用いたTCID50法(50%細胞感染量測定法)により、サンプル通過後のウイルス感染価を求めた。サンプル有り無しでのゼラチンフィルターのウイルス感染価の比較から、各サンプルのウイルスの一過性除去率を算出した。
【0042】
【表1】

【0043】
表1から、本発明の製造方法により得られる有害物質除去材によれば、極めて少量の抗体担持量でもウイルス除去率が高く、効率的に抗体を活用できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性高分子及び抗体を含む水溶液を用いて電界紡糸法により繊維を作製することを含む、有害物質除去材の製造方法。
【請求項2】
前記水溶性高分子が、ポリビニルアルコールである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記抗体が、鶏卵抗体である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法により得られる有害物質除去材。
【請求項5】
前記繊維が繊維径1μm以下の繊維である請求項4に記載の有害物質除去材。

【公開番号】特開2009−91686(P2009−91686A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−263277(P2007−263277)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】