有機−無機ハイブリッド高分子組成物とその膜の製造方法
【課題】耐熱性、耐酸化性を共に有する有機−無機ハイブリッド高分子組成物と、この組
成物の自己支持性を有する膜の製造方法を提供する。
【解決手段】無機材料と炭化水素からなる有機−無機ハイブリッド高分子組成物であって
、2個の酸素原子間に長鎖炭化水素基を有するジオール化合物とジルコニウムアルコキシ
ドとによりネットワーク構造を有することを特徴とする。また、有機−無機ハイブリッド
高分子組成物膜の製造方法であって、2個の酸素原子間に長鎖炭化水素基を有するジオー
ル化合物とジルコニウムアルコキシドとからなる液状混合物を層状に展延し、加熱してネ
ットワーク構造を生成することを特徴とする。
成物の自己支持性を有する膜の製造方法を提供する。
【解決手段】無機材料と炭化水素からなる有機−無機ハイブリッド高分子組成物であって
、2個の酸素原子間に長鎖炭化水素基を有するジオール化合物とジルコニウムアルコキシ
ドとによりネットワーク構造を有することを特徴とする。また、有機−無機ハイブリッド
高分子組成物膜の製造方法であって、2個の酸素原子間に長鎖炭化水素基を有するジオー
ル化合物とジルコニウムアルコキシドとからなる液状混合物を層状に展延し、加熱してネ
ットワーク構造を生成することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機材料と炭化水素からなる有機−無機ハイブリッド高分子組成物とその膜
の製造方法に関し、より詳しくはこれらの耐熱性及び耐酸性の向上に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゾル−ゲル法は、結晶もしくは非結晶性のセラミック酸化物やガラスの調製に用いられ
てきた。その方法で得られる物は、等方性、柔軟性及び出発原料である有機及び無機分子
の基(moiety)に由来する機能を有しており、更には、環境負荷の少ない容易な製
造プロセスで低コストに合成することができるという利点を有している。これらの多くは
、種々の有機分子及び無機分子の基(moiety)を、シリコンエトキシドや金属アル
コキシドから得られた無機ケイ素化物の中に包み込む構成を有していた(非特許文献1、
非特許文献2参照)。このような有機−無機ハイブリッド材の工業的利用については、そ
れが持つ優れた性質のゆえに、例えば、光学的特性、半導体特性、電気化学的性質を利用
した実用化が多方面に渡って検討されている。
【0003】
また、本発明者等は、有機−無機のナノハイブリッド巨大分子から成る新しいファミリ
ーの高分子電解質膜を報告している(非特許文献3、非特許文献4参照)。この膜は、ナ
ノサイズのジルコニア若しくはチタニアが、ポリジメチルシロキサン(PDMS)とポリ
テトラメチレンオキシド(PTMO)との柔高分子へ架橋することで、柔軟性及び均質性
を保有している。このジルコニア若しくはチタニア−PTMOハイブリッド膜は、温度に
対する寛容性を示し相当な高温度でも安定であるが、85%リン酸のような酸に対しては
非常に弱い。
【0004】
さらにまた、本発明者等は、ジルコニアとトリ−及びオクタ−メチレングリコールとを
用いたハイブリッド物質とその製造プロセスを報告している(非特許文献4参照)。しか
し、このプロセスにおいては、柔軟な膜や膜応用可能な耐熱性・耐酸性を有するハイブリ
ッド物質は得られていない。新しい薄膜製造技術及びいろいろな分野に応用可能な耐熱性
、耐酸性を有する膜(さらにまた、自己支持性を有する膜)は、現在もなお各種技術分野
から望まれているところである。
【0005】
【非特許文献1】H.−H.Huang,B.Orler,G.L.Wilkes, Macromolecules 20(1987)1322−1330.
【非特許文献2】N.Yamada,I.Yoshinaga,S.Katayam a,J.Applied Physics 85(1999)2423−2427.
【非特許文献3】J.D.Kim,I.Honma,J.Electrochem. Soc.151(2004)A1396−1401.
【非特許文献4】J.D.Kim,I.Honma,Electrochim. A cta 49(2004)3179−3183.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記要望に応えようというものである。すなわち、耐熱性、耐酸化性を共に
有する有機−無機ハイブリッド高分子組成物と、この組成物の自己支持性を有する膜の製
造方法を提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのため、本発明者においては燃料電池用に用いられる高分子電解質膜について鋭意研
究している過程で、この要望に応えられる有機−無機ハイブリッド高分子組成物とその膜
を合成することに成功した。すなわち、無機分子としてジルコニアを選び、有機分子とし
てテトラメチレングリコール、オクタメチレングリコール(OMGとも略す)、ヘキサデ
カンジオール(HDDとも略す)等の炭化水素基含有ジオールを選び、これらを反応させ
てジルコニウムアルコキシドを合成する研究をしていたところ、意外にも2個の酸素原子
間に4個以上の炭素原子を有する炭化水素基含有ジオール(すなわち長鎖炭化水素基を有
するジオール化合物)を使用することにより、優れた耐熱性・耐酸性を有する有機−無機
ハイブリッド高分子組成物と自己支持性膜を得ることができることを知見した。本発明は
、この知見に基づいてなされたものである。
【0008】
(1):無機材料と炭化水素からなる有機−無機ハイブリッド高分子組成物であって、2
個の酸素原子間に長鎖炭化水素基を有するジオール化合物とジルコニウムアルコキシドと
によりネットワーク構造を有することを特徴とする。
【0009】
(2):(1)の有機−無機ハイブリッド高分子組成物において、前記ジオール化合物が
次の(化1)であることを特徴とする。
【化1】
【0010】
(3):(1)の有機−無機ハイブリッド高分子組成物において、前記ジルコニウムアル
コキシドが次の(化2)であることを特徴とする。
【化2】
【0011】
また、(1)の有機−無機ハイブリッド高分子組成物において、前記(化1)で表される
長鎖炭化水素基を有するジオール化合物と、前記(化2)で表されるジルコニウムアルコ
キシドとからなることを特徴とする。
【0012】
(4):(3)の有機−無機ハイブリッド高分子組成物において、前記(化2)で表され
るジルコニウムアルコキシドに対する前記(化1)で表される長鎖炭化水素基を有するジ
オール化合物の配合率が、モル比で1:1〜1:30の範囲であることを特徴とする。
【0013】
(5):(1)〜(4)のいずれか一項の有機−無機ハイブリッド高分子組成物を膜状に
形成する製造方法であって、2個の酸素原子間に長鎖炭化水素基を有するジオール化合物
とジルコニウムアルコキシドとからなる液状混合物を層状に展延し、加熱してネットワー
ク構造を生成することを特徴とする。
【0014】
(6):(5)の有機−無機ハイブリッド高分子組成物膜の製造方法において、前記長鎖
炭化水素基を有するジオール化合物がポリメチレングリコールであり、前記ジルコニウム
アルコキシドが前記(化2)で表されることを特徴とする。
【0015】
(7):(6)の有機−無機ハイブリッド高分子組成物膜の製造方法において、前記液状
混合物におけるジルコニウムアルコキシドに対するポリメチレングリコールの配合率が、
モル比で1:1〜1:30の範囲であることを特徴とする。
【0016】
(8):(6)又は(7)の有機−無機ハイブリッド高分子組成物膜の製造方法において
、前記層状に展延後の加熱条件が、温度範囲1.0×102〜1.8×102℃、加熱時
間1〜3日間であることを特徴とする。
【0017】
ジルコニウムアルコキシドは、反応性に非常に富んでおり、それゆえ、熱縮合反応(t
hermal condensation reaction)により、それは直接に、
トリメチレングリコール、オクタメチレングリコール、ヘキサデカンジオール等の炭化水
素基含有ジオールへ架橋される。有機−無機の接点(境界)は、テトラメチレングリコー
ル、オクタメチレングリコール、ヘキサデカンジオール等の炭化水素基含有ジオールの末
端OH基が反応性ジルコニウムアルコキシドとの間でゾル−ゲルプロセスが進行すること
で形成され、分子スケールのハイブリッドがつくられる。得られたハイブリッド高分子組
成物は、ハイブリッドにおける温度寛容的なジルコニア骨組みが架橋しているゆえに、熱
的にも化学的にも安定である。また、ハイブリッド高分子組成物を合成する際に、ジルコ
ニウムアルコキシドを主たる原材料として使用する限りにおいて、シリコンアルコキシド
及び/またはチタニウムアルコキシドを混合して用いることもできる。
長鎖炭化水素基を有するジオール化合物としては、一般式(化1)で示される2個の酸
素原子間に4個ないし20個の炭素原子を有する炭化水素基含有ジオールが好適に用いら
れる。炭素原子4個未満のジオール類、例えば、トリメチレングリコールを使用した場合
に得られた膜は堅く、耐酸性の不充分であって、ハイブリッド高分子膜として高性能なも
のは得られない。炭化水素基含有ジオールとしては、一般式(化1)にR1およびR2で示
されるような側鎖アルキル基を有するような炭化水素基含有ジオールを用いることができ
る。しかし、あまり側鎖アルキル基が多くなると、ハイブリッド高分子膜の生成が不充分
となったり、生成したハイブリッド高分子膜の耐熱性・耐酸性が低下することが起こるの
で好ましくない。従って、側鎖アルキル基としては2個以下の炭化水素基含有ジオールが
好ましく、R1およびR2が水素基であるポリメチレングリコール類がより好ましい。
【0018】
ジルコニウムアルコキシドに対する長鎖炭化水素基を有するジオール化合物の配合率は、
限定されるものではないが、モル比で1:1〜1:30とすることができる。得られるハ
イブリッド膜の柔軟性、耐酸化性の点からは、長鎖炭化水素基を有するジオール化合物の
配合率が多い方が好ましく、一般式(化1)で示される2個の酸素原子間にある炭素原子
の数によって好ましい配合率は異なるが、炭素原子の数が6個以上の場合、1:2〜1:
30が好ましく、1:4〜1:30がより好ましい。
【0019】
本発明のハイブリッド高分子組成物を膜状に製造する方法により、前記ハイブリッド高
分子組成物の有する耐熱性、耐酸性を維持しながら、自己支持性を有するシート状もしく
はフィルム状にすることが出来た。
ここに、本発明において得られたハイブリッド膜の厚みは、展延する条件により異なる
が、通常は、1〜2000μm、好ましくは10〜1000μmでありうる。
【0020】
前記ジルコニウムアルコキシドと2個の酸素原子間に長鎖炭化水素基を有するジオール
化合物とを含む液状混合物から有機−無機ハイブリッド高分子組成物膜を作製する際、層
状に展延する方法については、特に制限はないが、典型的にはスピンコート、はけ塗り法
、ディップ法が挙げられる。勿論、これ以外の各種塗工方法を採用することができる。ま
た、加熱条件(温度及び時間)は、使用する原材料によって異なるが、通常、好ましくは
1.0×102〜1.8×102℃の温度範囲で1〜3日間、更に好ましくは1.5×1
02〜1.8×102℃の温度で1〜2日間である。これらの温度は、その上限1.8×
102℃を超えると熱重合が進行しすぎて膜は硬くなりかつ透明性がなくなる。下限1.
0×102℃を下回るとゲル状を呈した状態である。また、加熱時間が短いと、反応が十
分進行しないし、これを超えると、膜は硬くなり透明性がだんだん低くなる。
【0021】
このようにして得られたハイブリッド膜は、85%リン酸中、室温で1年以上放置して
も極めて安定であるという、優れた耐酸性性状を有する。
【発明の効果】
【0022】
本発明のジルコニア−炭化水素ハイブリッド膜は耐熱性、耐酸性、柔軟性及び機械特性
に優れた新規な膜である。これらの優れた特性は、自己集合的ジルコニア−炭化水素ハイ
ブリッド膜の複合マトリックスに因っていると考えられる。これらは、光学、電気化学的
デバイス、建築技術及びバイオ適合材の分野で、各種コーティング材又は柔軟剤としての
応用が期待できる。特に、酸を扱う容器や反応容器等の化学機器類のライニング材として
機能しうるものと期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例に用いたジルコニ
ウムn−プロポキシド、ヘキサデカンジオール(純度98%)、オクタメチレングリコー
ル(純度98%)及び参考例に用いたトリメチレングリコール(純度98%)は、いずれ
もアルドリッチ社から入手したものである。
【実施例】
【0024】
実施例1〜5〔ジルコニア−HDD(ヘキサデカンジオール)ハイブリッド膜とその調
製例〕
ゾルを安定化させ、また急速な加水分解を避けるために、ジルコニウムn−プロポキシ
ド[Zr(OCH(CH3)2)4]に予め、アセト酢酸エチルを加えた(ジルコニウム
n−プロポキシド:アセト酢酸エチルは1:40)。ヘキサデカンジオールの溶剤として
はジエチルエーテルを用いた。ジルコニウムn−プロポキシドに対するヘキサデカンジオ
ールのモル比は1:1.5〜1:15の範囲で変動させた。最初に、ジエチルエーテル5
mlにヘキサデカンジオールを溶かし、その中に、上記アセト酢酸エチルを加えたジルコ
ニウムn−プロポキシドを加え両者を混ぜた。複数個の穴(径:3cm、深さ:3mm)
を設けたテフロン(登録商標)製皿のうちの穴2個に上記混合物を入れて満たし、これを
オーブン中、温度150―180℃で2日間、加熱処理した。
加熱(溶融及び熱重合)処理の後に、自己集合的なジルコニア−HDDハイブリッド膜
が得られた。この実施例で得られた膜は、膜厚約500μmで、表1に示すように、堅い
(Rigid)膜と、柔軟な(Flexible)膜が得られた。
この膜を85%リン酸中、室温で1ヶ月間、浸漬したときのその膜の安定性(肉眼的変
化、赤外線吸収スペクトルの変化)を調べた。
表中、○は「安定(変化なし)」、△は「多少の変化あり」、×は「変化あり(分解す
る)」を意味する。表1から分かるように、HDDの使用量(モル比)はジルコニウムn
−プロポキシド1に対して、1.9以上で耐酸性が良好であった。
【0025】
【表1】
【0026】
図1に、得られたジルコニア−HDD膜の推定化学構造を示す。
【0027】
実施例6〜10〔ジルコニア−OMG(オクタメチレングリコール)ハイブリッド膜と
その調製例〕
ヘキサデカンジオールの代わりにオクタメチレングリコールを用い、ジルコニウムn−
プロポキシドに対するオクタメチレングリコールの使用量を(モル比で)1:2.7〜1
:26.5の範囲で変動させたほかは、実施例1と同様に操作し、ジルコニア−オクタメ
チレングリコールハイブリッド膜を得た。表2から分かるように、OMGの使用量(モル
比)はジルコニウムn−プロポキシド1に対して、4.5以上で耐酸性が良好であった。
【0028】
【表2】
【0029】
比較例1〜5〔ジルコニア−TMG(トリメチレングリコール)ハイブリッド膜の調製
例〕
ヘキサデカンジオールの代わりにトリメチレングリコールを用い、ジルコニウムn−プ
ロポキシドに対するトリメチレングリコールの使用量を(モル比で)1:5〜1:50の
範囲で変動させたほかは、実施例1と同様に操作し、ジルコニア−TMG(トリメチレン
グリコール)ハイブリッド膜を得た。表3から分かるように、得られた膜は堅く、耐酸性
はいずれも不良であった。
【0030】
【表3】
【0031】
各種評価試験;
赤外線分析装置は、FT/IR−6200 with ATR PRO 410−S,
JASCOを用いた。熱分析装置は、TG/DTA6200(SII Co.Ltd.)
を用い、窒素雰囲気中、室温から500℃まで、毎分5℃の昇温速度で加熱した。ハイブ
リッド膜の動的粘弾性率及び(エネルギーの)散逸(dissipation)(tan
δ)はEXSTAR6000 動的粘弾性率測定装置(Seiko Instrumen
ts,Inc.)を用い、0.5−10 Hzで、25−250℃の温度範囲で、毎分3
℃の昇温速度で加熱した。
【0032】
赤外線吸収スペクトルによる測定試験;
図2は、本願発明の自己集合性(self−assembled)ジルコニア−HDD
ハイブリッド膜(モル比は1:1.5〜1:15)の赤外線吸収スペクトルである。モノ
マーのHDD(TMGやOMGも)は、νO−H(3400−3387と3330−33
15),νC−H(2923と2846),・C−H(1463),・C−H(1360
と1348),・C−Hと・C−H(728)の各々の振動モードの吸収がある。ジルコ
ニア−HDDハイブリッド膜では、試薬HDDではあったO−Hの吸収が完全に消失し、
代わりに、C=O(1730,1650cm−1),Zr−O−C(1545,1466
−1430cm−1)及びZr−O(632−560cm−1)の新しい吸収が現れてい
る。上記C=Oの吸収はアセト酢酸エチルに起因する。Zr−O及びZr−O−Cの吸収
は、ハイブリッド膜におけるジルコニアの比率が高いほど大きい。大部分のピークは、有
機モノマーの種類やモル比を変えるとシフトするが、これは有機−無機分子の相互作用が
変化するからであり、ジルコニアは、炭化水素モノマーのOH基と反応して、C−O,Z
r−O−C及びZr−Oの吸収ピークを示すのであろう。それゆえ、図1に示すような架
橋構造の自己集合的ジルコニアポリマーハイブリッドを推定している。
【0033】
熱分析試験;
図3に、原料モノマー(アルキレングリコール)であるTMG、OMG及びHDDの熱
分析(TG−DTA)結果を示す(挿入図はDTAの結果である)。また、図4、図7〜
図10に、前記実施例で得られた本願発明のジルコニア−炭化水素ハイブリッド膜(実施
例No.3のジルコニア/HDD膜、実施例No.8のジルコニア/OMG膜)と比較例
No.3のジルコニア/TMG膜についての熱分析(TG−DTA)結果を示した。図3
の挿入図からわかるように、吸熱ピークは試薬OMGについては59−61℃であり、試
薬HDDについては92−93℃である。これら試薬の熱安定性は、炭化水素の鎖長が長
いほど安定であるが、試薬HDDの熱安定性は、約175℃まで上がったのみである。そ
の温度を過ぎると、試薬HDDの分解が始まる。
【0034】
一方、ジルコニア−炭化水素ハイブリッド膜の熱安定性は、図4に示されるようにいろ
いろのモノマーで275−325℃まで大きく高められる。自己集合的ジルコニア−炭化
水素ハイブリッド膜は熱安定性が改善されており、もとの純有機物質よりも約2倍ほど安
定である。それゆえ、本発明のジルコニア−炭化水素ハイブリッド膜は熱安定性が要求さ
れる分野で応用が期待できる。
【0035】
動的粘弾性率測定試験;
図5及び図11に、本願発明のジルコニア−OMGハイブリッド膜(実施例No.10
のジルコニア−OMGハイブリッド膜で、ジルコニア/OMGのモル比は1:26.5)
の動的粘弾性率の測定結果を示し、図6及び図12に、本願発明のジルコニア−HDDハ
イブリッド膜(実施例No.3のジルコニア−HDDハイブリッド膜で、ジルコニア/H
DDのモル比は1:2.6)の動的粘弾性率の測定結果を示した。
【0036】
E”の損失の傾向はtanδの損失の傾向に従うので、この目的のためには、tanδ
と動的粘弾性率E’のみがこのチャートに示されている。25℃での動的粘弾性率E’は
、ジルコニア−OMGハイブリッド膜で比較的高い値(約2×109Pa)を示している
(図5)。また、動的粘弾性率E’は振動数の増加と共に増加している。温度が上昇する
につれて、ハイブリッド膜は、ガラス転移状態を表し、弾性率が徐々に減少し、ついには
ジルコニア−OMGハイブリッド膜で3×107のオーダー、ジルコニア−HDDハイブ
リッド膜で2×108Paのプラトーに達した(図6)。金属(ジルコニウム)酸化物は
、柔軟なポリマーの網で架橋されているので、ハイブリッド膜は架橋可能な分子基(mo
iety)の増加でさらに強くなるのであろう。ハイブリッド膜における無機相の増加は
、有機成分の部分的移動(segmental motion)を制限し、ネットワーク
の強化をもたらし、その結果として、実施例No.3のジルコニア−HDDハイブリッド
膜の150℃以上のゴム領域における弾性率は、実施例No.10のジルコニア−OMG
ハイブリッド膜のそれよりも高いのである。
【0037】
ジルコニア−OMGハイブリッド膜及びジルコニア−HDDハイブリッド膜についての
約51−62℃及び65−71℃における動的粘弾性率E’及びtanδの急速な減少は
、各々、有機炭化水素鎖のガラス転移に起因する。有機炭化水素鎖のガラス転移に関して
は、ジルコニア−HDDハイブリッド膜のほうが、ジルコニア−OMGハイブリッド膜よ
りも動的粘弾性率E’の減少が小さく、tanδのピーク幅は広かった。自己集合的ジル
コニア−炭化水素ハイブリッド膜は通常のポリマー膜と同じような機械特性を示す。
【0038】
自己集合的ジルコニア−炭化水素ハイブリッド膜の耐酸性試験;
自己集合的ジルコニア−炭化水素ハイブリッド膜の耐酸性は、85%リン酸水溶液中で
試験した。自己集合的ジルコニア−炭化水素ハイブリッド膜は、その溶液中で、一週間以
上分解しなかった。例えば、自己集合的ジルコニア−HDDハイブリッド膜(モル比で1
:1.9〜1:3.8、実施例2〜4)は、150℃で7hの処理にも化学的に安定であ
った。
自己集合的ジルコニア−炭化水素ハイブリッド膜の優れた特性は、自己集合的ジルコニ
ア−炭化水素ハイブリッド膜の複合マトリックスに因っていると考えられる。ジルコニア
のほかにも、チタニア−炭化水素ハイブリッド膜も同様な性質を有すると推定される。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のジルコニア−炭化水素ハイブリッド膜は、上述詳述したように耐熱性、耐酸性
、自己支持性を有し、柔軟性及び機械特性に優れた特異な性状を有する新規な膜である。
これらの優れた特性は、自己集合的ジルコニア−炭化水素ハイブリッド膜の複合マトリッ
クスに因っていると考えられる。これらは、光学、電気化学的デバイス、建築技術及びバ
イオ適合材の分野で、各種コーティング材又は柔軟剤としての応用が期待できる。特に、
電気化学デバイスの中でも高温且つ優れた熱的安定性が要求されるポリマー型燃料電池(
PEFC,DMFC)の電解質材料として、また、化学薬品の中でも、酸を扱う容器や反
応容器等の化学機器類のライニング材として機能する等今後大いに利用され、産業の発展
に寄与するものと期待される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本願発明のジルコニア−HDDハイブリッド膜の推定化学構造である。
【図2】本願発明のジルコニア−HDDハイブリッド膜(モル比は1:1.5〜1:15)の赤外線吸収スペクトルである。
【図3】原料モノマー(アルキレングリコール)のTMG、OMG及びHDDの熱分析(TG−DTA)のチャートで、挿入図はDTAのチャートである。
【図4】本願発明のジルコニア−炭化水素ハイブリッド膜2種(ジルコニア/HDD及びジルコニア/OMGハイブリッド膜)と比較のジルコニア/TMGハイブリッド膜熱分析(TG−DTA)のチャートである。
【図5】本願発明のジルコニア−OMGハイブリッド膜(ジルコニア/OMGのモル比は1:26.6)の動的粘弾性率測定のチャートである。
【図6】本願発明のジルコニア−HDDハイブリッド膜(ジルコニア/HDDのモル比は1:2.6)の動的粘弾性率測定のチャートである。
【図7】上記図4の基になったZirconia/TMG=1/8.6の測定データNo.1を示す表である。
【図8】上記図4の基になったZirconia/TMG=1/8.6の測定データNo.2を示す表である。
【図9】上記図4の基になったZirconia/OMG=1/4.5の測定データを示す表である。
【図10】上記図4の基になったZirconia/HDD=1/2.6の測定データを示す表である。
【図11】上記図5の基になった測定データを示す表である。
【図12】上記図6の基になった測定データを示す表である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機材料と炭化水素からなる有機−無機ハイブリッド高分子組成物とその膜
の製造方法に関し、より詳しくはこれらの耐熱性及び耐酸性の向上に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゾル−ゲル法は、結晶もしくは非結晶性のセラミック酸化物やガラスの調製に用いられ
てきた。その方法で得られる物は、等方性、柔軟性及び出発原料である有機及び無機分子
の基(moiety)に由来する機能を有しており、更には、環境負荷の少ない容易な製
造プロセスで低コストに合成することができるという利点を有している。これらの多くは
、種々の有機分子及び無機分子の基(moiety)を、シリコンエトキシドや金属アル
コキシドから得られた無機ケイ素化物の中に包み込む構成を有していた(非特許文献1、
非特許文献2参照)。このような有機−無機ハイブリッド材の工業的利用については、そ
れが持つ優れた性質のゆえに、例えば、光学的特性、半導体特性、電気化学的性質を利用
した実用化が多方面に渡って検討されている。
【0003】
また、本発明者等は、有機−無機のナノハイブリッド巨大分子から成る新しいファミリ
ーの高分子電解質膜を報告している(非特許文献3、非特許文献4参照)。この膜は、ナ
ノサイズのジルコニア若しくはチタニアが、ポリジメチルシロキサン(PDMS)とポリ
テトラメチレンオキシド(PTMO)との柔高分子へ架橋することで、柔軟性及び均質性
を保有している。このジルコニア若しくはチタニア−PTMOハイブリッド膜は、温度に
対する寛容性を示し相当な高温度でも安定であるが、85%リン酸のような酸に対しては
非常に弱い。
【0004】
さらにまた、本発明者等は、ジルコニアとトリ−及びオクタ−メチレングリコールとを
用いたハイブリッド物質とその製造プロセスを報告している(非特許文献4参照)。しか
し、このプロセスにおいては、柔軟な膜や膜応用可能な耐熱性・耐酸性を有するハイブリ
ッド物質は得られていない。新しい薄膜製造技術及びいろいろな分野に応用可能な耐熱性
、耐酸性を有する膜(さらにまた、自己支持性を有する膜)は、現在もなお各種技術分野
から望まれているところである。
【0005】
【非特許文献1】H.−H.Huang,B.Orler,G.L.Wilkes, Macromolecules 20(1987)1322−1330.
【非特許文献2】N.Yamada,I.Yoshinaga,S.Katayam a,J.Applied Physics 85(1999)2423−2427.
【非特許文献3】J.D.Kim,I.Honma,J.Electrochem. Soc.151(2004)A1396−1401.
【非特許文献4】J.D.Kim,I.Honma,Electrochim. A cta 49(2004)3179−3183.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記要望に応えようというものである。すなわち、耐熱性、耐酸化性を共に
有する有機−無機ハイブリッド高分子組成物と、この組成物の自己支持性を有する膜の製
造方法を提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのため、本発明者においては燃料電池用に用いられる高分子電解質膜について鋭意研
究している過程で、この要望に応えられる有機−無機ハイブリッド高分子組成物とその膜
を合成することに成功した。すなわち、無機分子としてジルコニアを選び、有機分子とし
てテトラメチレングリコール、オクタメチレングリコール(OMGとも略す)、ヘキサデ
カンジオール(HDDとも略す)等の炭化水素基含有ジオールを選び、これらを反応させ
てジルコニウムアルコキシドを合成する研究をしていたところ、意外にも2個の酸素原子
間に4個以上の炭素原子を有する炭化水素基含有ジオール(すなわち長鎖炭化水素基を有
するジオール化合物)を使用することにより、優れた耐熱性・耐酸性を有する有機−無機
ハイブリッド高分子組成物と自己支持性膜を得ることができることを知見した。本発明は
、この知見に基づいてなされたものである。
【0008】
(1):無機材料と炭化水素からなる有機−無機ハイブリッド高分子組成物であって、2
個の酸素原子間に長鎖炭化水素基を有するジオール化合物とジルコニウムアルコキシドと
によりネットワーク構造を有することを特徴とする。
【0009】
(2):(1)の有機−無機ハイブリッド高分子組成物において、前記ジオール化合物が
次の(化1)であることを特徴とする。
【化1】
【0010】
(3):(1)の有機−無機ハイブリッド高分子組成物において、前記ジルコニウムアル
コキシドが次の(化2)であることを特徴とする。
【化2】
【0011】
また、(1)の有機−無機ハイブリッド高分子組成物において、前記(化1)で表される
長鎖炭化水素基を有するジオール化合物と、前記(化2)で表されるジルコニウムアルコ
キシドとからなることを特徴とする。
【0012】
(4):(3)の有機−無機ハイブリッド高分子組成物において、前記(化2)で表され
るジルコニウムアルコキシドに対する前記(化1)で表される長鎖炭化水素基を有するジ
オール化合物の配合率が、モル比で1:1〜1:30の範囲であることを特徴とする。
【0013】
(5):(1)〜(4)のいずれか一項の有機−無機ハイブリッド高分子組成物を膜状に
形成する製造方法であって、2個の酸素原子間に長鎖炭化水素基を有するジオール化合物
とジルコニウムアルコキシドとからなる液状混合物を層状に展延し、加熱してネットワー
ク構造を生成することを特徴とする。
【0014】
(6):(5)の有機−無機ハイブリッド高分子組成物膜の製造方法において、前記長鎖
炭化水素基を有するジオール化合物がポリメチレングリコールであり、前記ジルコニウム
アルコキシドが前記(化2)で表されることを特徴とする。
【0015】
(7):(6)の有機−無機ハイブリッド高分子組成物膜の製造方法において、前記液状
混合物におけるジルコニウムアルコキシドに対するポリメチレングリコールの配合率が、
モル比で1:1〜1:30の範囲であることを特徴とする。
【0016】
(8):(6)又は(7)の有機−無機ハイブリッド高分子組成物膜の製造方法において
、前記層状に展延後の加熱条件が、温度範囲1.0×102〜1.8×102℃、加熱時
間1〜3日間であることを特徴とする。
【0017】
ジルコニウムアルコキシドは、反応性に非常に富んでおり、それゆえ、熱縮合反応(t
hermal condensation reaction)により、それは直接に、
トリメチレングリコール、オクタメチレングリコール、ヘキサデカンジオール等の炭化水
素基含有ジオールへ架橋される。有機−無機の接点(境界)は、テトラメチレングリコー
ル、オクタメチレングリコール、ヘキサデカンジオール等の炭化水素基含有ジオールの末
端OH基が反応性ジルコニウムアルコキシドとの間でゾル−ゲルプロセスが進行すること
で形成され、分子スケールのハイブリッドがつくられる。得られたハイブリッド高分子組
成物は、ハイブリッドにおける温度寛容的なジルコニア骨組みが架橋しているゆえに、熱
的にも化学的にも安定である。また、ハイブリッド高分子組成物を合成する際に、ジルコ
ニウムアルコキシドを主たる原材料として使用する限りにおいて、シリコンアルコキシド
及び/またはチタニウムアルコキシドを混合して用いることもできる。
長鎖炭化水素基を有するジオール化合物としては、一般式(化1)で示される2個の酸
素原子間に4個ないし20個の炭素原子を有する炭化水素基含有ジオールが好適に用いら
れる。炭素原子4個未満のジオール類、例えば、トリメチレングリコールを使用した場合
に得られた膜は堅く、耐酸性の不充分であって、ハイブリッド高分子膜として高性能なも
のは得られない。炭化水素基含有ジオールとしては、一般式(化1)にR1およびR2で示
されるような側鎖アルキル基を有するような炭化水素基含有ジオールを用いることができ
る。しかし、あまり側鎖アルキル基が多くなると、ハイブリッド高分子膜の生成が不充分
となったり、生成したハイブリッド高分子膜の耐熱性・耐酸性が低下することが起こるの
で好ましくない。従って、側鎖アルキル基としては2個以下の炭化水素基含有ジオールが
好ましく、R1およびR2が水素基であるポリメチレングリコール類がより好ましい。
【0018】
ジルコニウムアルコキシドに対する長鎖炭化水素基を有するジオール化合物の配合率は、
限定されるものではないが、モル比で1:1〜1:30とすることができる。得られるハ
イブリッド膜の柔軟性、耐酸化性の点からは、長鎖炭化水素基を有するジオール化合物の
配合率が多い方が好ましく、一般式(化1)で示される2個の酸素原子間にある炭素原子
の数によって好ましい配合率は異なるが、炭素原子の数が6個以上の場合、1:2〜1:
30が好ましく、1:4〜1:30がより好ましい。
【0019】
本発明のハイブリッド高分子組成物を膜状に製造する方法により、前記ハイブリッド高
分子組成物の有する耐熱性、耐酸性を維持しながら、自己支持性を有するシート状もしく
はフィルム状にすることが出来た。
ここに、本発明において得られたハイブリッド膜の厚みは、展延する条件により異なる
が、通常は、1〜2000μm、好ましくは10〜1000μmでありうる。
【0020】
前記ジルコニウムアルコキシドと2個の酸素原子間に長鎖炭化水素基を有するジオール
化合物とを含む液状混合物から有機−無機ハイブリッド高分子組成物膜を作製する際、層
状に展延する方法については、特に制限はないが、典型的にはスピンコート、はけ塗り法
、ディップ法が挙げられる。勿論、これ以外の各種塗工方法を採用することができる。ま
た、加熱条件(温度及び時間)は、使用する原材料によって異なるが、通常、好ましくは
1.0×102〜1.8×102℃の温度範囲で1〜3日間、更に好ましくは1.5×1
02〜1.8×102℃の温度で1〜2日間である。これらの温度は、その上限1.8×
102℃を超えると熱重合が進行しすぎて膜は硬くなりかつ透明性がなくなる。下限1.
0×102℃を下回るとゲル状を呈した状態である。また、加熱時間が短いと、反応が十
分進行しないし、これを超えると、膜は硬くなり透明性がだんだん低くなる。
【0021】
このようにして得られたハイブリッド膜は、85%リン酸中、室温で1年以上放置して
も極めて安定であるという、優れた耐酸性性状を有する。
【発明の効果】
【0022】
本発明のジルコニア−炭化水素ハイブリッド膜は耐熱性、耐酸性、柔軟性及び機械特性
に優れた新規な膜である。これらの優れた特性は、自己集合的ジルコニア−炭化水素ハイ
ブリッド膜の複合マトリックスに因っていると考えられる。これらは、光学、電気化学的
デバイス、建築技術及びバイオ適合材の分野で、各種コーティング材又は柔軟剤としての
応用が期待できる。特に、酸を扱う容器や反応容器等の化学機器類のライニング材として
機能しうるものと期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例に用いたジルコニ
ウムn−プロポキシド、ヘキサデカンジオール(純度98%)、オクタメチレングリコー
ル(純度98%)及び参考例に用いたトリメチレングリコール(純度98%)は、いずれ
もアルドリッチ社から入手したものである。
【実施例】
【0024】
実施例1〜5〔ジルコニア−HDD(ヘキサデカンジオール)ハイブリッド膜とその調
製例〕
ゾルを安定化させ、また急速な加水分解を避けるために、ジルコニウムn−プロポキシ
ド[Zr(OCH(CH3)2)4]に予め、アセト酢酸エチルを加えた(ジルコニウム
n−プロポキシド:アセト酢酸エチルは1:40)。ヘキサデカンジオールの溶剤として
はジエチルエーテルを用いた。ジルコニウムn−プロポキシドに対するヘキサデカンジオ
ールのモル比は1:1.5〜1:15の範囲で変動させた。最初に、ジエチルエーテル5
mlにヘキサデカンジオールを溶かし、その中に、上記アセト酢酸エチルを加えたジルコ
ニウムn−プロポキシドを加え両者を混ぜた。複数個の穴(径:3cm、深さ:3mm)
を設けたテフロン(登録商標)製皿のうちの穴2個に上記混合物を入れて満たし、これを
オーブン中、温度150―180℃で2日間、加熱処理した。
加熱(溶融及び熱重合)処理の後に、自己集合的なジルコニア−HDDハイブリッド膜
が得られた。この実施例で得られた膜は、膜厚約500μmで、表1に示すように、堅い
(Rigid)膜と、柔軟な(Flexible)膜が得られた。
この膜を85%リン酸中、室温で1ヶ月間、浸漬したときのその膜の安定性(肉眼的変
化、赤外線吸収スペクトルの変化)を調べた。
表中、○は「安定(変化なし)」、△は「多少の変化あり」、×は「変化あり(分解す
る)」を意味する。表1から分かるように、HDDの使用量(モル比)はジルコニウムn
−プロポキシド1に対して、1.9以上で耐酸性が良好であった。
【0025】
【表1】
【0026】
図1に、得られたジルコニア−HDD膜の推定化学構造を示す。
【0027】
実施例6〜10〔ジルコニア−OMG(オクタメチレングリコール)ハイブリッド膜と
その調製例〕
ヘキサデカンジオールの代わりにオクタメチレングリコールを用い、ジルコニウムn−
プロポキシドに対するオクタメチレングリコールの使用量を(モル比で)1:2.7〜1
:26.5の範囲で変動させたほかは、実施例1と同様に操作し、ジルコニア−オクタメ
チレングリコールハイブリッド膜を得た。表2から分かるように、OMGの使用量(モル
比)はジルコニウムn−プロポキシド1に対して、4.5以上で耐酸性が良好であった。
【0028】
【表2】
【0029】
比較例1〜5〔ジルコニア−TMG(トリメチレングリコール)ハイブリッド膜の調製
例〕
ヘキサデカンジオールの代わりにトリメチレングリコールを用い、ジルコニウムn−プ
ロポキシドに対するトリメチレングリコールの使用量を(モル比で)1:5〜1:50の
範囲で変動させたほかは、実施例1と同様に操作し、ジルコニア−TMG(トリメチレン
グリコール)ハイブリッド膜を得た。表3から分かるように、得られた膜は堅く、耐酸性
はいずれも不良であった。
【0030】
【表3】
【0031】
各種評価試験;
赤外線分析装置は、FT/IR−6200 with ATR PRO 410−S,
JASCOを用いた。熱分析装置は、TG/DTA6200(SII Co.Ltd.)
を用い、窒素雰囲気中、室温から500℃まで、毎分5℃の昇温速度で加熱した。ハイブ
リッド膜の動的粘弾性率及び(エネルギーの)散逸(dissipation)(tan
δ)はEXSTAR6000 動的粘弾性率測定装置(Seiko Instrumen
ts,Inc.)を用い、0.5−10 Hzで、25−250℃の温度範囲で、毎分3
℃の昇温速度で加熱した。
【0032】
赤外線吸収スペクトルによる測定試験;
図2は、本願発明の自己集合性(self−assembled)ジルコニア−HDD
ハイブリッド膜(モル比は1:1.5〜1:15)の赤外線吸収スペクトルである。モノ
マーのHDD(TMGやOMGも)は、νO−H(3400−3387と3330−33
15),νC−H(2923と2846),・C−H(1463),・C−H(1360
と1348),・C−Hと・C−H(728)の各々の振動モードの吸収がある。ジルコ
ニア−HDDハイブリッド膜では、試薬HDDではあったO−Hの吸収が完全に消失し、
代わりに、C=O(1730,1650cm−1),Zr−O−C(1545,1466
−1430cm−1)及びZr−O(632−560cm−1)の新しい吸収が現れてい
る。上記C=Oの吸収はアセト酢酸エチルに起因する。Zr−O及びZr−O−Cの吸収
は、ハイブリッド膜におけるジルコニアの比率が高いほど大きい。大部分のピークは、有
機モノマーの種類やモル比を変えるとシフトするが、これは有機−無機分子の相互作用が
変化するからであり、ジルコニアは、炭化水素モノマーのOH基と反応して、C−O,Z
r−O−C及びZr−Oの吸収ピークを示すのであろう。それゆえ、図1に示すような架
橋構造の自己集合的ジルコニアポリマーハイブリッドを推定している。
【0033】
熱分析試験;
図3に、原料モノマー(アルキレングリコール)であるTMG、OMG及びHDDの熱
分析(TG−DTA)結果を示す(挿入図はDTAの結果である)。また、図4、図7〜
図10に、前記実施例で得られた本願発明のジルコニア−炭化水素ハイブリッド膜(実施
例No.3のジルコニア/HDD膜、実施例No.8のジルコニア/OMG膜)と比較例
No.3のジルコニア/TMG膜についての熱分析(TG−DTA)結果を示した。図3
の挿入図からわかるように、吸熱ピークは試薬OMGについては59−61℃であり、試
薬HDDについては92−93℃である。これら試薬の熱安定性は、炭化水素の鎖長が長
いほど安定であるが、試薬HDDの熱安定性は、約175℃まで上がったのみである。そ
の温度を過ぎると、試薬HDDの分解が始まる。
【0034】
一方、ジルコニア−炭化水素ハイブリッド膜の熱安定性は、図4に示されるようにいろ
いろのモノマーで275−325℃まで大きく高められる。自己集合的ジルコニア−炭化
水素ハイブリッド膜は熱安定性が改善されており、もとの純有機物質よりも約2倍ほど安
定である。それゆえ、本発明のジルコニア−炭化水素ハイブリッド膜は熱安定性が要求さ
れる分野で応用が期待できる。
【0035】
動的粘弾性率測定試験;
図5及び図11に、本願発明のジルコニア−OMGハイブリッド膜(実施例No.10
のジルコニア−OMGハイブリッド膜で、ジルコニア/OMGのモル比は1:26.5)
の動的粘弾性率の測定結果を示し、図6及び図12に、本願発明のジルコニア−HDDハ
イブリッド膜(実施例No.3のジルコニア−HDDハイブリッド膜で、ジルコニア/H
DDのモル比は1:2.6)の動的粘弾性率の測定結果を示した。
【0036】
E”の損失の傾向はtanδの損失の傾向に従うので、この目的のためには、tanδ
と動的粘弾性率E’のみがこのチャートに示されている。25℃での動的粘弾性率E’は
、ジルコニア−OMGハイブリッド膜で比較的高い値(約2×109Pa)を示している
(図5)。また、動的粘弾性率E’は振動数の増加と共に増加している。温度が上昇する
につれて、ハイブリッド膜は、ガラス転移状態を表し、弾性率が徐々に減少し、ついには
ジルコニア−OMGハイブリッド膜で3×107のオーダー、ジルコニア−HDDハイブ
リッド膜で2×108Paのプラトーに達した(図6)。金属(ジルコニウム)酸化物は
、柔軟なポリマーの網で架橋されているので、ハイブリッド膜は架橋可能な分子基(mo
iety)の増加でさらに強くなるのであろう。ハイブリッド膜における無機相の増加は
、有機成分の部分的移動(segmental motion)を制限し、ネットワーク
の強化をもたらし、その結果として、実施例No.3のジルコニア−HDDハイブリッド
膜の150℃以上のゴム領域における弾性率は、実施例No.10のジルコニア−OMG
ハイブリッド膜のそれよりも高いのである。
【0037】
ジルコニア−OMGハイブリッド膜及びジルコニア−HDDハイブリッド膜についての
約51−62℃及び65−71℃における動的粘弾性率E’及びtanδの急速な減少は
、各々、有機炭化水素鎖のガラス転移に起因する。有機炭化水素鎖のガラス転移に関して
は、ジルコニア−HDDハイブリッド膜のほうが、ジルコニア−OMGハイブリッド膜よ
りも動的粘弾性率E’の減少が小さく、tanδのピーク幅は広かった。自己集合的ジル
コニア−炭化水素ハイブリッド膜は通常のポリマー膜と同じような機械特性を示す。
【0038】
自己集合的ジルコニア−炭化水素ハイブリッド膜の耐酸性試験;
自己集合的ジルコニア−炭化水素ハイブリッド膜の耐酸性は、85%リン酸水溶液中で
試験した。自己集合的ジルコニア−炭化水素ハイブリッド膜は、その溶液中で、一週間以
上分解しなかった。例えば、自己集合的ジルコニア−HDDハイブリッド膜(モル比で1
:1.9〜1:3.8、実施例2〜4)は、150℃で7hの処理にも化学的に安定であ
った。
自己集合的ジルコニア−炭化水素ハイブリッド膜の優れた特性は、自己集合的ジルコニ
ア−炭化水素ハイブリッド膜の複合マトリックスに因っていると考えられる。ジルコニア
のほかにも、チタニア−炭化水素ハイブリッド膜も同様な性質を有すると推定される。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のジルコニア−炭化水素ハイブリッド膜は、上述詳述したように耐熱性、耐酸性
、自己支持性を有し、柔軟性及び機械特性に優れた特異な性状を有する新規な膜である。
これらの優れた特性は、自己集合的ジルコニア−炭化水素ハイブリッド膜の複合マトリッ
クスに因っていると考えられる。これらは、光学、電気化学的デバイス、建築技術及びバ
イオ適合材の分野で、各種コーティング材又は柔軟剤としての応用が期待できる。特に、
電気化学デバイスの中でも高温且つ優れた熱的安定性が要求されるポリマー型燃料電池(
PEFC,DMFC)の電解質材料として、また、化学薬品の中でも、酸を扱う容器や反
応容器等の化学機器類のライニング材として機能する等今後大いに利用され、産業の発展
に寄与するものと期待される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本願発明のジルコニア−HDDハイブリッド膜の推定化学構造である。
【図2】本願発明のジルコニア−HDDハイブリッド膜(モル比は1:1.5〜1:15)の赤外線吸収スペクトルである。
【図3】原料モノマー(アルキレングリコール)のTMG、OMG及びHDDの熱分析(TG−DTA)のチャートで、挿入図はDTAのチャートである。
【図4】本願発明のジルコニア−炭化水素ハイブリッド膜2種(ジルコニア/HDD及びジルコニア/OMGハイブリッド膜)と比較のジルコニア/TMGハイブリッド膜熱分析(TG−DTA)のチャートである。
【図5】本願発明のジルコニア−OMGハイブリッド膜(ジルコニア/OMGのモル比は1:26.6)の動的粘弾性率測定のチャートである。
【図6】本願発明のジルコニア−HDDハイブリッド膜(ジルコニア/HDDのモル比は1:2.6)の動的粘弾性率測定のチャートである。
【図7】上記図4の基になったZirconia/TMG=1/8.6の測定データNo.1を示す表である。
【図8】上記図4の基になったZirconia/TMG=1/8.6の測定データNo.2を示す表である。
【図9】上記図4の基になったZirconia/OMG=1/4.5の測定データを示す表である。
【図10】上記図4の基になったZirconia/HDD=1/2.6の測定データを示す表である。
【図11】上記図5の基になった測定データを示す表である。
【図12】上記図6の基になった測定データを示す表である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機材料と炭化水素からなる有機−無機ハイブリッド高分子組成物であって、2個の酸素
原子間に長鎖炭化水素基を有するジオール化合物とジルコニウムアルコキシドとによりネ
ットワーク構造を有することを特徴とする有機−無機ハイブリッド高分子組成物。
【請求項2】
前記ジオール化合物が次の(化1)であることを特徴とする請求項1に記載の有機−無機
ハイブリッド高分子組成物。
【化1】
【請求項3】
前記ジルコニウムアルコキシドが次の(化2)であることを特徴とする請求項1又は2に
記載の有機−無機ハイブリッド高分子組成物。
【化2】
【請求項4】
前記(化2)で表されるジルコニウムアルコキシドに対する前記(化1)で表される長鎖
炭化水素基を有するジオール化合物の配合率が、モル比で1:1〜1:30の範囲である
ことを特徴とする請求項3に記載の有機−無機ハイブリッド高分子組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機−無機ハイブリッド高分子組成物を膜状に形成
する製造方法であって、2個の酸素原子間に長鎖炭化水素基を有するジオール化合物とジ
ルコニウムアルコキシドとからなる液状混合物を層状に展延し、加熱してネットワーク構
造を生成することを特徴とする有機−無機ハイブリッド高分子組成物膜の製造方法。
【請求項6】
前記長鎖炭化水素基を有するジオール化合物がポリメチレングリコールであり、前記ジル
コニウムアルコキシドが前記(化2)で表されることを特徴とする請求項5に記載の有機
−無機ハイブリッド高分子組成物膜の製造方法。
【請求項7】
前記液状混合物におけるジルコニウムアルコキシドに対するポリメチレングリコールの配
合率が、モル比で1:1〜1:30の範囲であることを特徴とする請求項6に記載の有機
−無機ハイブリッド高分子組成物膜の製造方法。
【請求項8】
前記層状に展延後の加熱条件が、温度範囲1.0×102〜1.8×102℃、加熱時間
1〜3日間であることを特徴とする請求項6又は7に記載の有機−無機ハイブリッド高分
子組成物膜の製造方法。
【請求項1】
無機材料と炭化水素からなる有機−無機ハイブリッド高分子組成物であって、2個の酸素
原子間に長鎖炭化水素基を有するジオール化合物とジルコニウムアルコキシドとによりネ
ットワーク構造を有することを特徴とする有機−無機ハイブリッド高分子組成物。
【請求項2】
前記ジオール化合物が次の(化1)であることを特徴とする請求項1に記載の有機−無機
ハイブリッド高分子組成物。
【化1】
【請求項3】
前記ジルコニウムアルコキシドが次の(化2)であることを特徴とする請求項1又は2に
記載の有機−無機ハイブリッド高分子組成物。
【化2】
【請求項4】
前記(化2)で表されるジルコニウムアルコキシドに対する前記(化1)で表される長鎖
炭化水素基を有するジオール化合物の配合率が、モル比で1:1〜1:30の範囲である
ことを特徴とする請求項3に記載の有機−無機ハイブリッド高分子組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機−無機ハイブリッド高分子組成物を膜状に形成
する製造方法であって、2個の酸素原子間に長鎖炭化水素基を有するジオール化合物とジ
ルコニウムアルコキシドとからなる液状混合物を層状に展延し、加熱してネットワーク構
造を生成することを特徴とする有機−無機ハイブリッド高分子組成物膜の製造方法。
【請求項6】
前記長鎖炭化水素基を有するジオール化合物がポリメチレングリコールであり、前記ジル
コニウムアルコキシドが前記(化2)で表されることを特徴とする請求項5に記載の有機
−無機ハイブリッド高分子組成物膜の製造方法。
【請求項7】
前記液状混合物におけるジルコニウムアルコキシドに対するポリメチレングリコールの配
合率が、モル比で1:1〜1:30の範囲であることを特徴とする請求項6に記載の有機
−無機ハイブリッド高分子組成物膜の製造方法。
【請求項8】
前記層状に展延後の加熱条件が、温度範囲1.0×102〜1.8×102℃、加熱時間
1〜3日間であることを特徴とする請求項6又は7に記載の有機−無機ハイブリッド高分
子組成物膜の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−231258(P2007−231258A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−21879(P2007−21879)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】
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