説明

有機エレクトロルミネセンス素子及び有機エレクトロルミネセンスディスプレイ

【課題】有機層が高分子材料から構成される層を含む有機EL素子の作製プロセスの簡略化、発光特性のばらつき抑制、並びに、材料管理及び製造装置の簡素化を実現し、かつ充分な発光特性及び寿命特性を得ることができる有機EL素子を提供する。
【解決手段】陽極、陰極、陽極と陰極との間に設けられた発光層を含む有機層、及び、陰極と有機層との間に設けられた電子注入層を備える有機エレクトロルミネセンス素子であって、上記有機層は、高分子材料から構成される層を含み、上記陰極バッファ層は、有機層中の高分子材料から構成される層と接し、かつフッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム及びフッ化バリウムからなる群より選択された少なくとも一つを含む材料から構成される層であり、上記陰極は、ポーリングの電気陰性度が1.30〜1.70の単体を含む材料から構成される層である有機エレクトロルミネセンス素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネセンス素子及び有機エレクトロルミネセンスディスプレイに関する。より詳しくは、ディスプレイに好適に用いることができる有機エレクトロルミネセンス素子及び有機エレクトロルミネセンスディスプレイに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電界発光素子の一種である有機エレクトロルミネセンス素子(以下「有機EL素子」という。)は、自発光性の全固体素子であるため視認性が高く、またブラウン管、プラズマディスプレイ、液晶ディスプレイに比べて素子の厚みを小さくすることができ、更には駆動電力も小さいため、広く応用が期待されている。
【0003】
図6は、従来の有機EL素子の構造を示す概略断面図である。
有機EL素子100は、基板10と、基板10上に設けられた有機層20と、有機層20を狭持するように設けられた陽極11及び陰極55と、陰極55と有機層20との間に設けられた電子注入層54とで構成されている。なお、有機層20は、正孔輸送層12と発光層13とにより構成されている。
【0004】
陽極11は、正孔輸送層12に正孔を注入する機能を有する。正孔輸送層12は、陽極11から注入された正孔の発光層13への輸送効率を向上する機能を有する。陰極55は、電子注入層54に電子を輸送する機能を有する。電子注入層54は、陰極55により輸送された電子の発光層13への注入効率を向上する機能を有する。有機EL素子100では、陽極11から注入された正孔と、陰極55から注入された電子とを発光層13において再結合させることにより励起子を生成させ、その励起子が失活する際の光の放出を利用して発光する仕組みになっている。
【0005】
有機EL素子100において、素子の発光特性を向上させるための重要な課題の一つに、陰極55から有機層20への電子注入効率を向上させることが挙げられる。電子の注入効率を向上させることにより、キャリヤーの正孔と電子との発光層13での再結合確率が向上し、有機EL素子からの光の放出量を向上させることができる。そのため、陰極55から有機層20への電子注入効率を向上させるという観点から、陰極55と有機層20との間に設けられる電子注入層54を構成する材料として、低仕事関数の材料、特に電子注入層54に接する有機層20の最低空分子軌道(LUMO)のエネルギー準位と同程度か、LUMOのエネルギー準位よりも高い仕事関数の材料を選択する。このように電子注入層54を構成する材料として有機層20への電子注入に優れた材料を選択することにより、電子注入層54は陰極55から輸送された電子を有機層20へ効率よく注入することができるので、有機EL素子の発光特性を向上させることができる。
【0006】
例えば、有機層20が低分子材料から構成される層を含む有機EL素子100において、電子注入層54と接する発光層13又は電子輸送層を構成する材料として一般的に用いられるアルミキノリノール錯体(Alq)のLUMOのエネルギー準位は、3.2eV程度である。このとき、電子注入層54を構成する材料として、マグネシウム(Mg、仕事関数φ=3.46eV)やリチウム(Li、φ=2.39eV)等の低仕事関数の単体を含む材料や、マグネシウム:銀合金(Mg:Ag)やアルミニウム:リチウム合金(Al:Li)等の低仕事関数の単体を混合してなる合金を含む材料を用いることにより、発光特性が向上することが知られている。
【0007】
他方、有機層20が高分子材料から構成される層を含む有機EL素子100は、インクジェット法等のウェットプロセス技術を用いることにより、簡易に大型基板へ有機層を形成することができることや有機材料の利用効率が大きいというメリットのため積極的に開発されている。このように有機層20が高分子材料から構成される層を含む有機EL素子100においては、電子注入層54に接する有機層20が高分子材料から構成される層を含む場合、電子注入層54を構成する材料には、カルシウム(Ca、φ=2.76eV)、バリウム(Ba、φ=2.29eV)、セシウム(Cs、φ=1.89eV)等の低仕事関数の単体を含む材料を用いることが一般的である。高分子材料のLUMOは低分子材料に比べて一般的にエネルギー準位が高く、例えば一般的な高分子材料であるポリ(9,9‐ジオクチルフルオレン)のLUMOのエネルギー準位は、2.9eV程度である。そのため、電子注入層54に接する有機層20が高分子材料から構成される層を含む場合には、電子注入層54を構成する材料には、特に仕事関数の低い単体を含む材料を用いる必要がある。
【0008】
しかしながら、このような有機層20が高分子材料から構成される層を含む有機EL素子100の電子注入層54を構成する材料として一般的に用いられるCa、Ba、Cs等の低仕事関数の単体を含む材料は、酸素や水分に対して反応性が非常に高い材料である。すなわち、これらの材料は、大気中に曝露された場合、低仕事関数の単体が大気中の酸素や水分と反応して酸化物や水酸化物等の化合物を生成しやすいため、化学的に安定な材料とはいえない。そのため、有機EL素子100の電子注入層54を構成する材料としてCa、Ba、Cs等の低仕事関数の単体を含む材料を用いることは、有機EL素子100を作製するに際し、以下に述べる点で改善の余地があった。
【0009】
第一に、これらの低仕事関数の単体を含む材料を電子注入層54を構成する材料として用いる場合、電子注入層54は、真空成膜装置を用いて成膜することが一般的である。真空成膜装置のチャンバー内は高真空状態にするが、高真空状態であってもチャンバーには酸素や水分が存在するため、蒸着源に用いる低仕事関数の単体を含む材料は、チャンバー内の酸素や水分と反応し、化合物を生成してしまう。したがって、このような状態で有機層20上に電子注入層54を形成しようとすると、所望の低仕事関数の単体を含む材料ではなく、その化合物を含む材料が有機層20上に形成されてしまう。そのため、実際には、有機層20上に電子注入層54を形成する前に、いったん真空成膜装置のチャンバー内で蒸着源である低仕事関数の単体を含む材料を加熱して、蒸着源から酸素や水分を除去した後に有機層20上に電子注入層54を形成する必要がある。このように低仕事関数の単体を含む材料を電子注入層54として形成するには、作製プロセスが複雑となるという点で改善の余地があった。
【0010】
第二に、上述したように酸素や水分を蒸着源から除去する作業を行っても、酸素や水分が蒸着源から充分に除去することができない場合が生じる。そして、酸素や水分を充分に除去できていない状態で有機層20上に電子注入層54を形成すると、有機層20上に所望の低仕事関数の単体とその化合物との両方を含む材料を電子注入層54として形成してしまう。このとき、低仕事関数の単体とその化合物との割合により、有機EL素子100の発光特性の製造ロットごとによるばらつきが発生することとなる。そのため、一般的に用いられている低仕事関数の単体を含む材料を電子注入層54として形成する場合には、素子の発光特性のばらつきを抑えるのが困難である点で改善の余地があった。
【0011】
第三に、これらの低仕事関数の単体を含む材料は、反応性の高い材料であるため、有機EL素子100作製前の材料管理の段階で酸素濃度や水分濃度の低い雰囲気に保管しなければならなく、材料の管理が複雑である。また、酸素濃度や水分濃度の低い雰囲気で保管した状態から、酸素濃度や水分濃度が高い大気中に曝露させずに真空装置のチャンバー内に低仕事関数の単体の材料を蒸着源として充填しようとすると、真空成膜装置の構造に複雑な機構を必要としてしまう。そのため、電子注入層54を構成する材料として一般的に用いられている低仕事関数の単体を含む材料を用いるには、材料の管理や装置構造が複雑になるという点で改善の余地があった。
【0012】
このように、これまでの有機層20が高分子材料から構成される層を含む有機EL素子100を製造するプロセスでは、電子注入層54を構成する材料として、酸素や水分との反応性が高い単体を含む材料を用いるため、作製プロセスが複雑になり、素子の発光特性のばらつきが発生しやすく、材料の管理や装置構造が複雑になりやすいという点で改善の余地があった。
【0013】
これに対しては、電子注入層を構成する材料として、単体を含む材料ではなく、化合物を含む材料を用いる技術が提案されている。例えば、有機化合物からなる電子輸送層と陰極との間に設けられた電子注入層にアルカリ金属化合物を用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。このような素子構成とすることにより、アルカリ金属化合物は、単体のアルカリ金属に比して化学的に安定であるので、特性の再現性が高く、低印加電圧にて高輝度で連続発光させることができると記載されている。
【0014】
また、有機発光層と陰極との間に、アルカリ土類金属のハロゲン化物、周期律表3A族の金属のハロゲン化物等から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む陰極界面層(電子注入層)を設けることが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。このような素子構成とすることにより、有機層と陰極との密着性が向上し、長期間に渡って安定な発光特性を維持できると記載されている。
【0015】
しかしながら、これらの化合物の多くは、潮解性が高いのが現状である。例えば、酸化リチウム(LiO)は水100gに対して10g溶解するため、大気中の水分を非常に吸収しやすく、取り扱いが非常に困難であるという点で改善の余地があった。
【0016】
また、有機EL素子において、発光特性を向上させる電子注入層を構成する材料として、これまでに化合物等を含む材料等が検討されているものの、発光特性を向上させる陰極を構成する材料については、あまり検討されていない。特に、発光特性を向上させる上で、電子注入層及び陰極を構成する材料に必要な特性については、ほとんど検討が行われていないのが現状である。
【特許文献1】特開平9−17574号公報
【特許文献2】特開平11−26167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、有機層が高分子材料から構成される層を含む有機EL素子の作製プロセスの簡略化、発光特性のばらつき抑制、並びに、材料管理及び製造装置の簡素化を実現し、かつ充分な発光特性及び寿命特性を得ることができる有機EL素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、陽極、陰極、陽極と陰極との間に設けられた発光層を含む有機層、及び、陰極と有機層との間に設けられた電子注入層を備える有機EL素子について種々検討したところ、有機層、電子注入層及び陰極を構成する材料に着目した。そして、まず、有機層が高分子材料から構成される層を含むことにより、有機層の形成にインクジェット法等のウェットプロセス技術を用いることができるため、大型の基板上にも有機層を簡易に形成することができるとともに、有機材料の利用効率の向上を図ることができることを確認した。
【0019】
また、電子注入層がフッ化カルシウム(CaF)、フッ化ストロンチウム(SrF)及びフッ化バリウム(BaF)からなる群より選択された少なくとも一つを含む材料から構成される層であり、陰極が、ポーリングの電気陰性度が1.30〜1.70の単体を含む材料から構成される層であることにより、発光特性及び寿命特性を向上させることができるとともに、有機EL素子の作製プロセスの簡略化、発光特性のばらつき抑制、並びに、材料管理及び製造装置の簡素化を実現することができることを見いだした。更に、CaF、SrF及びBaFからなる群より選択された少なくとも一つを含む材料から構成される層である電子注入層が有機層中の高分子材料から構成される層と接することにより、電子注入層が高分子材料に拡散するのを抑制することができることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0020】
すなわち、本発明は、陽極、陰極、陽極と陰極との間に設けられた発光層を含む有機層、及び、陰極と有機層との間に設けられた電子注入層を備える有機EL素子であって、上記有機層は、高分子材料から構成される層を含み、上記電子注入層は、有機層中の高分子材料から構成される層と接し、かつCaF、SrF及びBaFからなる群より選択された少なくとも一つを含む材料から構成される層であり、上記陰極は、ポーリングの電気陰性度が1.30〜1.70の単体を含む材料から構成される層である有機EL素子である。
以下に本発明を詳述する。
【0021】
本発明の有機EL素子は、陽極、陰極、陽極と陰極との間に設けられた発光層を含む有機層、及び、陰極と有機層との間に設けられた電子注入層を備える。本発明の有機EL素子は、陰極から有機層へ注入された電子と、陽極から有機層へ注入された正孔とを発光層で再結合させることにより、光を発するものである。有機層は、陽極と陰極との間に設けられたものであり、有機材料を含んで構成される限り、無機材料を含んで構成されていてもよいが、主として有機材料からなることが好ましい。これに対し、陰極は、導電性に優れているという観点から、通常は無機材料から構成される。
【0022】
上記有機層は、高分子材料から構成される層を含む。すなわち、有機層は、重合体等の高分子化合物を含む材料から構成された層を少なくとも一つ含むものであり、通常の有機EL素子を構成する有機層である。高分子材料から構成される層は、インクジェット法等のウェットプロセス技術を用いて形成することができるため、大型基板へも簡易に形成することができ、有機材料の利用効率の向上を図ることができる。また、高分子材料は、低分子材料に比べて物理的強度が高いことから、有機層ひいては有機EL素子の物理的強度を向上させることができる。
【0023】
上記高分子材料は、一種類であってもよく、複数の種類であってもよい。また、有機層に含まれる高分子材料から構成される層の数は、1つであってもよく、複数であってもよい。ただし、作製プロセスをより簡略化する観点からは、有機層は、高分子材料から構成される層からなることが好ましい。
【0024】
上記電子注入層は、CaF、SrF及びBaFからなる群より選択された少なくとも一つを含む材料から構成される層である。CaF、SrF及びBaFは、仕事関数が3.0eV以下の化合物であるため、陰極界面における有機材料(特に、高分子材料)への電子注入効率を向上させることができる。また、CaF、SrF及びBaFは、酸素との反応性が低く、水100gに対する溶解度が1g以下の化合物である。したがって、有機EL素子の作製プロセスにおいて、電子注入層を構成する材料が大気中の酸素や水分と化学反応を起こしたり、大気中の水分を吸収したりするのを抑制することができることから、電子注入層を構成する材料を容易に取り扱うことを可能にするとともに、有機EL素子において電子注入層の安定性を向上させることができる。
【0025】
また、CaF、SrF及びBaFは、陰極によって還元されることにより、フッ素が解離してCa、Sr及びBaとなり、本発明の有機EL素子では、電子注入層が有機層中の高分子材料から構成される層と接することから、解離したCa、Sr及びBaは、高分子材料の電子注入層に面した非常に薄い層にドーピングされる。このようにCaF、SrF及びBaFからフッ素が解離し、高分子材料中にCa、Sr及びBaがドーピングされることにより、有機EL素子に電流を流した際、実質的にはCa、Sr及びBaが、有機層中の高分子材料と陰極とのエネルギー障壁を緩和させることで、電子注入を効率的に行う。Ca、Sr及びBaは、仕事関数が低い単体であるため、LUMOのエネルギー準位が低分子材料よりも一般的に高い高分子材料から構成される層に対しても、電子を効率よく注入することができる結果、有機EL素子の発光特性を向上させることができる。
【0026】
更に、Ca、Sr及びBaは、イオン半径が1Å以上である。一般に、電子注入層が低仕事関数の単体の化合物から構成される層である有機EL素子を長時間連続発光させた場合、陰極の還元により化合物から解離した低仕事関数の単体は、有機EL素子にかかる電界により、有機層内を徐々に陽極側に拡散し、有機層内にキャリヤーのトラップサイトや消光サイトを形成する傾向がある。しかしながら、Ca、Sr及びBaは、イオン半径が充分に大きいため、このような拡散を抑制し、発光特性の劣化を抑制することができる結果、有機EL素子の寿命特性を向上させることができる。特に、Sr及びBaは、イオン半径が1.13Å以上で大きいため、寿命特性の向上の観点から、電子注入層は、SrF又はBaFを含む材料から構成される層であることがより好ましい。更に、高分子材料が青色発光材料又は白色発光材料の場合、エネルギーバンドギャップが特に大きいため、LUMOが2.7eV程度である。そのため、高分子材料が青色発光材料又は白色発光材料である場合、電子を有機層に効率よく注入するには、電子注入層は、仕事関数が2.7eV以下の化合物である必要がある。したがって、高分子材料が青色発光材料又は白色発光材料の場合、電子注入層は、特にSrF及びBaFが好ましい。
【0027】
上記陰極は、ポーリングの電気陰性度が1.30〜1.70の単体を含む材料から構成される層である。陰極を構成する材料が、ポーリングの電気陰性度が1.30未満の単体からなる場合には、ポーリングの電気陰性度が1.30未満の単体は、大気中における安定性が不充分であるため、化合物を生成することにより、陰極の導電性を劣化させたり、陰極を電子注入層との界面で剥がれさせたりするおそれがある。また、陰極を構成する材料が、ポーリングの電気陰性度が1.70を超える単体からなる場合には、ポーリングの電気陰性度が1.70を超える単体は還元力が小さいため、電子注入層を構成する材料に含まれるCaF、SrF又はBaFを充分に還元することができなくなり、高分子材料から構成される層に電子が注入しにくくなるおそれがある。すなわち、陰極が、ポーリングの電気陰性度が1.30〜1.70の単体を含む材料から構成されることにより、有機EL素子の発光特性及び寿命特性をより向上させることができる。
【0028】
また、CaF、SrF及びBaFからなる群より選択された少なくとも一つを含む材料から構成される電子注入層が有機層中の高分子材料から構成される層と接することにより、電子注入層が高分子材料に拡散するのを抑制することができる。更に、本発明の有機EL素子によれば、電子注入層及び陰極がともに、大気中において比較的安定な材料から構成されることから、作製プロセスの簡略化、発光特性のばらつき抑制、並びに、材料管理及び製造装置の簡素化を実現することができる。
【0029】
本発明の有機EL素子は、上記陽極、有機層、電子注入層及び陰極を構成要素として有するものである限り、その他の構成要素を有していても有していなくてもよく、特に限定されるものではない。例えば、本発明の有機EL素子における好ましい形態としては、陽極、発光層を含む有機層、電子注入層及び陰極がこの順に積層された構造を有する形態や、陽極、無機正孔注入層、発光層を含む有機層、電子注入層及び陰極がこの順に積層された構造を有する形態が挙げられる。
【0030】
なお、電子注入層を構成する材料は、CaF、SrF及びBaFからなる群より選択された少なくとも一つを含む限り、他の電子注入性に優れた物質や電子輸送性に優れた物質等を含んでいてもよい。ただし、本発明の作用効果をより効果的に得る観点から、電子注入層を構成する材料は、CaF、SrF及びBaFからなる群より選択された少なくとも一つを10wt%以上含むことが好ましく、CaF、SrF及びBaFからなる群より選択された少なくとも一つからなることが特に好ましい。また、電子注入層を構成する材料は、CaF、SrF及びBaFからなる群より選択された少なくとも一つからなることが特に好ましい。
【0031】
また、陰極を構成する材料は、ポーリングの電気陰性度が1.30〜1.70の単体を含む限り、他の物質を含んでいてもよい。ただし、本発明の作用効果をより効果的に得る観点から、陰極を構成する材料は、ポーリングの電気陰性度が1.30〜1.70の単体を10wt%以上含むことが好ましい。更に、本発明の作用効果をより効果的に得る観点から、ポーリングの電気陰性度が1.30〜1.70の単体は、ポーリングの電気陰性度が1.31〜1.65であることがより好ましく、このような単体としては、例えば、(Mg、電気陰性度x=1.31)、アルミニウム(Al、x=1.61)、亜鉛(Zn、x=1.65)が挙げられる。
【0032】
本発明の有機EL素子における好ましい形態について以下に詳しく説明する。
上記陰極を構成する材料は、更に、ポーリングの電気陰性度が1.70よりも大きい単体を含むことが好ましい。ポーリングの電気陰性度が1.70よりも大きい単体は、大気中の酸素や水分と反応しにくく、高い安定性を有している。したがって、これにより、大気中における陰極の安定性をより向上させることができる。
【0033】
上記ポーリングの電気陰性度が1.30〜1.70の単体(「単体A」とする。)とポーリングの電気陰性度が1.70よりも大きい単体(「単体B」とする。)との質量構成比は、(単体A)/(単体B)=0.01〜100であることが好ましい。(単体A)/(単体B)が0.01未満であると、充分に電子注入層を還元することができず、有機層に電子を注入することができないおそれがある。また、(単体A)/(単体B)が100を超えると、陰極の安定性が充分でなくなるおそれがある。なお、本発明の作用効果をより効果的に得る観点から、ポーリングの電気陰性度が1.70よりも大きい単体は、ポーリングの電気陰性度が1.90よりも大きいことがより好ましく、このような単体としては、例えば、銀(Ag、x=1.93)が挙げられる。
【0034】
なお、現状では、高分子有機EL素子において、発光層を溶解しない溶剤に溶解する電子輸送材料が存在しない。したがって、上記高分子材料から構成される層は、発光層であることが好ましい。すなわち、発光層は、高分子材料から構成されることが好ましい。
【0035】
本発明はまた、上記有機EL素子を含んで構成された有機ELディスプレイでもある。本発明の有機ELディスプレイは、規則的に配置された複数の本発明の有機EL素子の発光を用いて表示を行うものである。本発明の有機ELディスプレイによれば、有機層が高分子材料から構成される層を含む有機EL素子を含んで構成されることから、有機層の形成にインクジェット法等のウェットプロセス技術を用いることができるため、大型の有機ELディスプレイを形成するのに好適である。また、本発明の有機ELディスプレイを構成する有機EL素子の電子注入層及び陰極は、ともに大気中において比較的安定な物質を含む材料から構成されることから、有機ELディスプレイの作製プロセスの簡略化、表示特性のばらつき抑制、並びに、材料管理及び製造装置の簡素化を実現することができる。更に、本発明の有機ELディスプレイは、充分な発光特性及び寿命特性を得ることができる有機EL素子を含んで構成されることから、高表示品位及び長寿命の有機ELディスプレイを提供することができる。本発明の有機ELディスプレイの好ましい形態としては、カラー表示を行うことができる観点から、複数色の有機EL素子を含んで構成された形態が挙げられる。
【0036】
本発明は更に、上記有機EL素子の製造方法であって、上記製造方法は、真空蒸着法により電子注入層上に陰極を形成する工程を含む有機EL素子の製造方法でもある。真空蒸着法は、成膜材料を熱して蒸発させることにより膜を形成する方法であるため、成膜される陰極材料の粒子は熱エネルギーを有し、陰極は電子注入層を還元しやすくなる。また、陰極材料の粒子の運動エネルギーは低く、陰極材料の粒子が有機層にまで到達するのを抑制することができることから、有機EL素子の電流リーク欠陥を抑制することができる点で陰極の成膜に好適である。
【発明の効果】
【0037】
本発明の有機EL素子によれば、有機EL素子の作製プロセスの簡略化、発光特性のばらつき抑制、並びに、材料管理及び製造装置の簡素化を実現し、かつ充分な発光特性及び寿命特性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
<実施形態1>
図1は、本発明の実施形態1に係る有機EL素子の一例を示す概略断面図である。
本発明の実施形態1に係る有機EL素子は、図1に示すように、基板10上に、陽極11、正孔輸送層12、高分子材料から構成される発光層13、CaF、SrF及びBaFからなる群より選択された少なくとも一つを含む材料から構成される電子注入層14、及び、ポーリングの電気陰性度が1.30〜1.70の単体を含む材料から構成される陰極15をこの順に積層した構成となっている。
【0039】
(有機層)
本実施形態において、有機層20は、発光層13のみの単層構造でもよく、発光層13と他の機能を有する層との複数の層で構成された積層構造でもよく、例えば下記(1)〜(5)の構成が挙げられる。
(1)発光層
(2)正孔輸送層/発光層
(3)正孔注入層/正孔輸送層/発光層
(4)正孔輸送層/発光層/電子輸送層
(5)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層
なお、本実施形態においては、電子注入層に接する層、すなわち(1)〜(5)の各構成において右端に記載された層は、高分子材料から構成される。
【0040】
(発光層)
発光層は、従来公知の方法で成膜することが可能である。例えば、発光層形成用塗液を用いて、スピンコート法、ドクターブレード法、吐出コート法、スプレーコート法、インクジェット法、凸版印刷法、凹版印刷法、スクリーン印刷法、マイクログラビアコート法等のウェットプロセスで成膜する方法が挙げられる。また、真空蒸着装置を用いた抵抗加熱蒸着法や電子ビーム蒸着法で成膜することが可能である。
【0041】
発光層は、従来公知の発光材料により形成することができる。発光層を構成する材料のうち、発光材料としては、例えば、線状の高分子材料であるポリ(9,9−ジオクチルフルオレン)(PDAF)、ポリスパイロ(PS)、ポリ(2−デシルオキシ−1,4−フェニレン)DO−PPP、ポリ[2,5−ビス−[2−(N,N,N−トリエチルアンモニウム)エトキシ]−1,4−フェニル−アルト−1,4−フェニルレン]ジブロマイド(PPP−NEt3+)、ポリ[2−(2’−エチルヘキシルオキシ)−5−メトキシ−1,4−フェニレンビニレン](MEH−PPV)、ポリ[5−メトキシ−(2−プロパノキシサルフォニド)−1,4−フェニレンビニレン](MPS−PPV)、ポリ[2,5−ビス−(ヘキシルオキシ)−1,4−フェニレン−(1−シアノビニレン)](CN−PPV)等の材料が挙げられる。中でも、ポリフルオレン誘導体、ポリスパイロ誘導体、及び/又は、ポリパラフェニレンビニレン誘導体を含む材料が好ましい。また、多分岐高分子であるデンドリマーを含む材料を用いることも可能である。デンドリマーとしては、例えば、中心部に金属錯体を配置し、枝部に芳香族基を連結したもの等が挙げられる。また、上記高分子発光材料やポリビニルカルバゾール(PVK)等をホストに低分子発光材料をゲストに含有させることも可能である。低分子材料としては、例えば4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)−ビフェニル(DPVBi)等の芳香族ジメチリデェン化合物、5−メチル−2−[2−[4−(5−メチル−2−ベンゾオキサゾリル)フェニル]ビニル]ベンゾオキサゾール等のオキサジアゾール化合物、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5−t−ブチルフェニル−1,2,4−トリアゾール(TAZ)等のトリアゾール誘導体、1,4−ビス(2−メチルスチリル)ベンゼン等のスチリルベンゼン化合物、チオピラジンジオキシド誘導体、ベンゾキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、アントラキノン誘導体、ジフェノキノン誘導体、フルオレノン誘導体等の蛍光性有機材料、アゾメチン亜鉛錯体、(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム錯体(Alq)等の蛍光性有機金属化合物等が挙げられる。また、発光層は、上記発光材料のうち1種の発光材料を用いて形成したり、上記発光材料のうち複数の発光材料を複合して形成したりすることが可能である。更に、発光層を構成する材料には、上記発光材料の他に、例えば、発光アシスト剤、電荷輸送材料、ドナーやアクセプター等の添加剤、レベリング剤、電荷注入材料等を含有させることが可能である。
【0042】
(電子輸送層)
電子輸送層は、従来公知の方法で成膜することが可能である。例えば、電子輸送層形成用塗液を用いて、スピンコート法、ドクターブレード法、吐出コート法、スプレーコート法、インクジェット法、凸版印刷法、凹版印刷法、スクリーン印刷法、マイクログラビアコート法等のウェットプロセスで成膜する方法が挙げられる。また、真空蒸着装置を用いた抵抗加熱蒸着法や電子ビーム蒸着法で成膜することが可能である。
【0043】
電子輸送層は、従来公知の電子輸送材料により形成することができる。電子輸送層を構成する材料のうち、電子輸送材料としては、例えば、ポリ(9,9−ジオクチルフルオレン)(PDAF)、ポリスピロ(PS)、ポリ(2−デシルオキシ−1,4−フェニレン)DO−PPP、ポリ[2,5−ビス−[2−(N,N,N−トリエチルアンモニウム)エトキシ]−1,4−フェニル−アルト−1,4−フェニルレン]ジブロマイド(PPP−NEt3+)、ポリ[2−(2’−エチルヘキシルオキシ)−5−メトキシ−1,4−フェニレンビニレン](MEH−PPV)、ポリ[5−メトキシ−(2−プロパノキシサルフォニド)−1,4−フェニレンビニレン](MPS−PPV)、ポリ[2,5−ビス−(ヘキシルオキシ)−1,4−フェニレン−(1−シアノビニレン)](CN−PPV)等の材料が挙げられる。また、電子輸送層は、上記電子輸送材料のうち1種の電子輸送材料を用いて形成したり、上記電子輸送材料のうち複数の電子輸送材料を複合して形成したりすることが可能である。また、電子輸送層を構成する材料には、上記電子輸送材料の他に、例えば、ドナーやアクセプター等の添加剤、レベリング剤、結着用の樹脂等を含有させることが可能である。
【0044】
(正孔輸送層)
正孔輸送層は、例えば、発光層の形成方法と同様の方法で成膜することができる。正孔輸送層を構成する材料のうち、正孔輸送材料としては、例えば、ポリアニリン、3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンサルフォネート(PEDOT/PSS)、ポリ(トリフェニルアミン誘導体)、ポリビニルカルバゾール(PVCz)等の高分子材料、ポリ(P−フェニレンビニレン)前駆体、ポリ(P−ナフタレンビニレン)前駆体等の高分子材料や、ポルフィリン化合物、N,N’−ビス−(3−メチルフェニル)−N,N’−ビス−(フェニル)−ベンジジン(TPD)、N,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニル−ベンジジン(NPD)等の芳香族第3級アミン化合物、ヒドラゾン化合物、キナクリドン化合物、スチルアミン化合物等の低分子材料等が挙げられる。また、正孔輸送層は、上記正孔輸送材料のうち1種の正孔輸送材料を用いて形成したり、上記正孔輸送材料のうち複数の正孔輸送材料を複合して形成したりすることが可能である。また、正孔輸送層を構成する材料には、上記正孔輸送材料の他に、例えば、ドナーやアクセプター等の添加剤、レベリング剤、結着用の樹脂等を含有させることが可能である。
【0045】
(正孔注入層)
正孔注入層もまた、例えば、発光層の形成方法と同様の方法で成膜することができる。正孔注入層を構成する材料(正孔注入材料)としては、具体的には、例えば、銅フタロシアニン(CuPc)、スターバスト型アミン(例えばm−MTDATA)等が挙げられるが、特に限定されるものではない。また、正孔注入層は、上記正孔注入材料のうち1種の正孔注入材料により形成したり、上記正孔注入材料のうち複数の正孔注入材料を複合して形成したりすることが可能である。また、正孔注入層は、上記正孔注入材料の他に、例えば、ドナーやアクセプター等の添加剤、レベリング剤、結着用の樹脂等を含有させることが可能である。結着用の樹脂としては、例えば、ポリカーボネート、ポリエステル等が挙げられるが、何らこれに限定されるものではない。
【0046】
(基板)
本実施形態に係る有機EL素子は、基板上に作製することができる。基板としては、例えば、ガラス、石英等の無機材料、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のプラスティック材料、若しくは、アルミナ等のセラミックス等の絶縁性材料からなる基板、アルミニウム、鉄等の金属基板にSiOや有機絶縁性材料等の絶縁材料をコートした基板、又は、アルミニウム、鉄等の金属基板の表面を陽極酸化等の方法で絶縁化処理を施した基板等を用いることができるが、何らこれに限定されるものではない。
【0047】
(陽極)
陽極は、有機層に正孔を注入しやすいように、仕事関数が大きい物質を含有する材料から構成されていることが好ましい。仕事関数が大きく正孔注入に好適な物質としては、例えば、インジウム錫酸化物(ITO)(仕事関数φ=5.0eV)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)(φ=5.0eV)等の透明導電性酸化物や、金(Au)(φ=5.1eV)、プラチナ(Pt)(φ=5.65eV)、ニッケル(Ni)(φ=5.15eV)等の金属が挙げられる。また、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、プラチナ(Pt)、ニッケル(Ni)等のような光反射率が大きい物質の上に、有機層への正孔の注入を行いやすい透明導電性酸化物であるITOやIZO等を積層することも可能である。このような積層構造の陽極は、有機層への正孔の注入効率の向上に加えて、陰極側のみから発光を取り出す場合、光取り出し効率を向上させることができるという点でメリットがある。これらの材料は、例えば、スパッタリング法、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法、レーザーアプレーション法等といった従来公知の方法にて成膜することが可能である。
【0048】
(無機正孔注入層)
陽極から有機層に正孔を注入しやすいように、陽極と有機層との間に無機材料の正孔注入層を設けることも可能である。無機材料の正孔注入層として好適な物質としては、例えば、酸化モリブデン(MoO)、酸化バナジウム(V)、酸化タングステン(WO)等が挙げられる。これらの材料は、例えば、スパッタリング法、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法、レーザーアプレーション法等といった従来公知の方法にて成膜することが可能である。
【0049】
(電子注入層及び陰極)
ここで、本実施形態における電子注入層及び陰極のそれぞれを構成する材料について説明する。
本実施形態における電子注入層を構成する材料は、CaF、SrF及びBaFからなる群より選択された少なくとも一つを含む。なお、CaF、SrF及びBaFは、本発明者が見いだした下記(1)〜(4)の技術的知見に基づく条件により、選択されたものである。
【0050】
(1)仕事関数が3.0eV以下の化合物であること。
(2)大気中での酸素や水分との反応性が低いフッ化物であること。
(3)水への溶解度が低い化合物、具体的には、水100gに対して溶解度が1g以下の化合物であること。
(4)イオン半径が充分に大きい(1Å以上)材料の化合物であること。
【0051】
上記(2)及び(3)の条件は、大気中での酸素や水分との化学的な反応や水分の吸収を抑えることにより、有機EL素子の作製プロセスにおいて電子注入材料を容易に扱えるようにし、かつ電子注入層の安定性を高めるために選択されたものである。なお、(2)の条件に関しては、酸化物や塩化物等は、大気中の水分との反応性が高いため、大気中の酸素や水分に化学的に安定なフッ化物を選択した。フッ素は、電気陰性度が3.98と元素の中で最も大きく結合力が強いため、フッ化物は大気中で化学的に安定である。また、(1)及び(4)の条件に関しては、陰極に関する説明で後述する。
【0052】
表1に、仕事関数が小さい代表的な単体、そのハロゲン化物の水100gへの溶解度、及び、イオン半径を示す。なお、表中の仕事関数及びイオン半径の値については、近角聰信、木越邦彦、田沼静一著、「最新元素知識」、改訂版、東京書籍、1985年5月、p.14,30,32,46,48,82,84,118,120を参照した。また、ハロゲン化物の溶解度の値については、中原勝儼著、「無機化合物・錯体辞典」、講談社、1997年6月、p.803,809,813,816,818,820,821を参照した。
【0053】
【表1】

【0054】
表1から、(1)の条件を満たす仕事関数が小さい単体のハロゲン化物であり、(3)の条件を満たすのは、CaF、SrF、BaF及びフッ化リチウム(LiF)である。しかしながら、これらの材料のうち、LiFはイオン半径が小さいため、上記(4)の条件を満たしていない。したがって、本発明における電子注入層に必要な(1)〜(4)の条件を全て充足する材料を表1から選択すると、電子注入層に最適であるのは、CaF、SrF及びBaFであることが分かる。
【0055】
次に、本実施形態における陰極について説明する。本実施形態における陰極を構成する材料は、ポーリングの電気陰性度が1.30〜1.70の単体を含む。ここで、電気陰性度とは、ある分子内でのイオン結合の強さを示しており、数値が小さくなるほど電子との結合力が小さくなり、他の物質を還元する力(還元力)は大きくなる。すなわち、電気陰性度の数値が小さいほど、還元力が大きくなる。
【0056】
電気陰性度が1.70以下の単体は、還元力を有しており、これに接する物質は、還元されやすくなる。したがって、陰極に接した電子注入層を構成する材料に含まれるCaF、SrF及びBaFは、陰極を構成する材料に含まれる電気陰性度が1.70以下の単体によって還元され、フッ素が解離し、Ca、Sr及びBaは、高分子層にドーピングされる。高分子層のうちドーピングされる部分は電子注入層に面した非常に薄い層である。このようにCaF、SrF及びBaFからフッ素が解離することで、有機EL素子に電流を流した際には、陰極から電子を輸送されたCa、Sr及びBaは、陰極とのエネルギー障壁を緩和することができ、高分子層に電子注入することが可能となる。これらのCa、Sr及びBaは、仕事関数が小さい単体であるため、高分子材料から構成される層に電子を効率よく注入することができ、その結果、充分な発光特性を得ることができる。そのため、電子注入層を構成する材料は、仕事関数が小さい単体の化合物を含むことが重要である。
【0057】
ここで、有機材料の分子間距離について説明する。一般的に、低分子材料は、分子の電気双極子が、周りの分子の電気双極子同士と相互作用することによって凝集力(ファンデルワールス力)を生じている。ファンデルワールス力が働く分子間距離は非常に小さいため、低分子材料の分子間距離は非常に小さい。一方、高分子材料は、分子同士の主鎖が絡まるようにして形成されているため、部分的に分子間距離が大きくなる部分が生じる。また、一般的な高分子材料から構成される層を形成する方法は、高分子材料を溶解させた溶液を乾燥させる方法である。乾燥の過程で高分子材料の密度の粗密が発生するため、部分的に高分子材料の分子間距離は大きくなる。これらの理由により、低分子材料の分子間距離は高分子材料に比べて非常に小さい。また、解離したCa、Sr及びBaのイオン半径は充分に大きい。そのため、低分子材料から構成される層上に、本発明と同様にCaF、SrF及びBaFを形成し、陰極を形成しても、Ca、Sr及びBaは、分子間距離の小さく緻密な低分子材料には充分にドーピングされない。したがって、CaF、SrF及びBaFは、有機層と陰極とのエネルギー障壁を緩和しづらくなり、その結果として有機層に効率的に電子が注入しづらくなる。
【0058】
また、有機EL素子を長時間連続発光させた場合、解離した仕事関数が小さい単体は、有機EL素子にかかる電界により、有機層内を徐々に陽極側に拡散していく。仕事関数が小さい単体が有機層内に拡散していくと、拡散した単体がキャリヤーのトラップサイトになったり、消光サイトとなったりしてしまい、発光効率が低下する。そのため、長時間に渡って連続して有機EL素子を発光させながら、発光特性の劣化を小さくするためには、電子注入層を構成する材料としては、有機層にできるだけ拡散しにくいような仕事関数が小さい単体の化合物を含むことが求められる。上述したように、高分子材料の分子間距離は低分子材料に比べて大きい。分子間距離が大きくなるにしたがって、拡散が生じやすくなる。したがって、高分子材料は低分子材料に比べて、単体の拡散が生じやすいため、できるだけ拡散しにくい電子注入材料を選択する必要がある。一般的に、イオン半径が大きいほど拡散しにくいため、電子注入層は、イオン半径が充分に大きい(1Å以上)の単体の化合物であることが重要である。
【0059】
更に、電気陰性度が1.30以上の単体は、電気陰性度が1.30未満の単体と比べて、大気中において比較的安定であり、化合物を生成しにくい。したがって、本実施形態における陰極は、導電性が劣化したり、電子注入層との界面で剥がれたりすることがない。
上記理由により、本実施形態において、電子注入層を構成する材料は、CaF、SrF及びBaFからなる群より選択された少なくとも一つを含み、陰極を構成する材料は、ポーリングの電気陰性度が1.30〜1.70の単体を含む。
【0060】
電子注入層の膜厚は、0.1〜20nmであることが好ましい。電子注入層は、有機層に効率よく電子を注入しなければならない。電子注入層の膜厚が0.1nm未満であると、電子注入層があまりに少ないため、電子注入層としての効果が薄く、高分子材料から構成された層への電子注入が充分に行なわれなくなるおそれがある。また、電子注入層の膜厚が20nmを超えると、電子注入層を構成する材料に含まれるCaF、SrF及びBaFが陰極によって還元されにくくなるおそれがある。その結果、CaF、SrF及びBaFは全て絶縁体であるため、還元されない場合には、高分子材料から構成される層に電子が注入しにくくなるおそれがある。電子注入層は、従来公知の方法にて成膜することが可能である。例えば抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法、レーザーアプレーション法、スパッタリング法等が挙げられる。
【0061】
陰極を構成する材料に含まれるポーリングの電気陰性度が1.30〜1.70の単体としては、例えばマグネシウム(Mg、電気陰性度x=1.31)、アルミニウム(Al、x=1.61)、亜鉛(Zn、x=1.65)、スカンジウム(Sc、x=1.36)、チタン(Ti、x=1.54)、ジルコニウム(Zr、x=1.33)、ニオブ(Nb、x=1.6)、クロム(Cr、x=1.66)、マンガン(Mn、x=1.55)、バナジウム(V、x=1.63)等が挙げられる。これらの材料の成膜には、例えば、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法、レーザーアプレーション法、スパッタリング法等を用いることができる。特に、陰極の形成方法は、真空蒸着法である抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着方法、イオンプレーティング法が好ましい。陰極の形成時の陰極材料の状態は、以下の条件を満たすことが好ましい。
(a)陰極材料の粒子が熱エネルギーを持っている。
(b)陰極材料の粒子の運動エネルギーが低い。
上記(a)の条件は、陰極材料の粒子が熱エネルギーを持つことで、電子注入層を還元しやすくなる。(b)の条件は、陰極材料の粒子の運動エネルギーが高すぎると、陰極形成時に、陰極材料の粒子が有機層にまで到達してしまい、有機EL素子の電流リーク欠陥を引き起こしてしまう。これらの条件を満たす陰極の成膜方法は、真空蒸着法である。真空蒸着法は、成膜材料を熱して蒸発させることにより膜を形成する方法であるため、成膜する粒子は熱エネルギーを有しているが、運動エネルギーは低いので、本発明における陰極の成膜に最適である。
また、複数のターゲット材料を用いた従来公知の方法にて成膜することも可能であり、ターゲット材料に合金を利用することも可能である。
【0062】
また、陰極はインジウム亜鉛酸化物(IZO)、アルミニウム亜鉛酸化物(AZO)、ガリウム亜鉛酸化物(GZO)等の電気陰性度が1.30〜1.70の単体を含む透明導電酸化物でもよい。陰極を透明導電酸化物とすることにより、陰極側から光を取り出すことが可能となる。透明導電酸化物の形成方法は、真空蒸着法である抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着方法、イオンプレーティング法が好ましい。
【0063】
陰極の膜厚は、3〜500nmであることが好ましい。陰極の膜厚が3nm未満であると、陰極の導電性が充分ではなく、電子注入層に電子を輸送することができなくなるおそれがある。また、陰極の膜厚が500nmを超えると、陰極の膜応力が強くなり、陰極が剥離するおそれがある。また、陰極が単体で構成される場合、陰極の膜厚を20nm以下とすれば、陰極側から発光を取り出すことも可能である。また、基板の大型化に伴い陰極の導電性が必要な場合には、陰極上に他の導電材料から構成される層を形成することも可能である。例えば、銀(Ag)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、プラチナ(Pt)、金(Au)等の金属や、ITO、IZO等の導電性酸化物から構成される層が好ましいが、導電性を有していれば、これに何ら限定されるものではない。
【0064】
また、陰極を構成する材料は、更に、ポーリングの電気陰性度が1.70よりも大きい単体を含むことが好ましい。電気陰性度が1.70よりも大きい単体は、大気中の酸素や水分と反応しにくく、安定性が高い。そのため、陰極を構成する材料に電気陰性度が1.70よりも大きい単体を含有させることにより、陰極の大気中における安定性をより向上させることができる。
【0065】
ポーリングの電気陰性度が1.70よりも大きい単体としては、例えば銀(Ag、x=1.93)、ニッケル(Ni、x=1.91)、パラジウム(Pd、x=2.20)、プラチナ(Pt、x=2.28)、インジウム(In、x=1.78)、錫(Sn、x=1.96)、鉄(Fe、x=1.83)、モリブデン(Mo、x=2.16)、銅(Cu、x=1.90)、イリジウム(Ir、x=2.20)、金(Au、x=2.54)等が挙げられるが、これに何ら限定されるものではない。上記陰極の成膜には、ポーリングの電気陰性度が1.30〜1.70の材料とポーリングの電気陰性度が1.70よりも大きい材料との複数の材料を用意して同時に成膜したり、ポーリングの電気陰性度が1.30〜1.70の材料とポーリングの電気陰性度が1.70よりも大きい材料との複合材料を利用して成膜したりすることが可能である。上記陰極を構成する材料は、従来公知の方法にて成膜することが可能であり、例えば抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法、レーザーアプレーション法、スパッタリング法等が挙げられる。
【0066】
本発明の実施形態2及び3に係る有機ELディスプレイは、本発明の有機EL素子を複数備えることにより、情報を表示することが可能である。
【0067】
<実施形態2>
図4(a)は、本発明の実施形態2に係る有機ELディスプレイを示す概略断面図である。
本実施形態に係る有機ELディスプレイ500は、パッシブマトリクス駆動方式のものであり、短冊状に配置された複数列の陽極11上に、正孔輸送層12、発光層13、電子注入層14及び陰極14がこの順に積層された構造を有している。
【0068】
図4(b)は、本発明の実施形態2に係る有機ELディスプレイを基板側から見たときの概略平面図である。
短冊状に配置された複数列の陰極14は、陽極11と直交するように設けられている。本実施形態では、陽極11と陰極14との交点が発光部40となり、複数の発光部40により情報を表示することが可能である。
【0069】
<実施形態3>
図5は、本発明の実施形態3に係る有機ELディスプレイを示す概略断面図である。
本実施形態に係る有機ELディスプレイ600は、アクティブマトリクス駆動方式のものであり、アクティブマトリクス基板200の上に有機EL素子100が形成されている。アクティブマトリクス基板100は、基板21と、基板21上に画素ごとに形成された複数の薄膜トランジスタ(TFT)22と、これらのTFT22を覆う平坦化膜23とを有している。各TFT22は、ゲート電極201と、ゲート電極201上にゲート絶縁膜202を介して形成された島状半導体層203と、島状半導体層203の両端部をそれぞれ覆うように設けられたソース電極204及びドレイン電極205とを有している。すなわち、各TFT22は、ボトムゲート構造を有している。各TFT22は、ゲート電極201がゲート配線24に接続され、ソース電極204がソース配線25に接続されている。平坦化膜23には、各TFT22のドレイン電極205に達するスルーホール26が設けられている。平坦化膜23の上には、有機EL素子100が形成されている。有機EL素子100の陽極11は、透明導電膜より構成され、平坦化膜23上及びスルーホールの内部に堆積された透明導電膜をパターニングすることにより、画素ごとに形成されている。各陽極11は、対応するTFT22のドレイン電極205とスルーホール26を介して接続されている。これらの陽極11は、各陽極11のそれぞれのエッジ部及びスルーホールを覆うように形成された絶縁膜27によって互いに絶縁されている。この陽極11及び絶縁膜27の上に、正孔輸送層12、発光層13、電子注入層14及び陰極14がこの順で積層されている。
【0070】
本発明の実施形態に係る有機ELディスプレイの構成は、上記したものに限定されない。例えば、TFT22はトップゲート構造を有していてもよい。また、有機EL素子100の構成も上記したものに限定されず、様々な構成を適用することができる。更に、アクティブマトリクス駆動方式の有機ELディスプレイには、画素ごとに2個のTFTを必要とする電圧駆動方式を採用してもよいし、画素ごとに4個のTFTを必要とする電流駆動方式を採用してもよい。
【0071】
以下に実施例を掲げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0072】
(実施例1)
本発明の実施例1に係る有機EL素子について図1を用いて説明する。まず、酸素とアルゴンとの混合雰囲気中で、スパッタリング装置を用いて、25mm角の基板10上に、透明導電膜であるインジウムスズ酸化物(ITO)を150nmの厚さで形成した。次に、フォトリゾグラフィー技術を用いて、ITOを幅2mm、長さ25mmのストライプ状にパターニングを行ない、陽極11とした。
【0073】
この陽極11上に、PEDOT−PSS溶液をスピンコート法により塗布し、200℃で10分間乾燥して、正孔輸送層12を形成した。正孔輸送層12の膜厚は、溶液の濃度、及び、スピンコート時の回転数を制御することにより、略70nmとした。次に、高分子材料であるポリフルオレン誘導体の溶液を同様にスピンコート法で塗布し、150℃で10分間乾燥することにより、発光層13を形成した。発光層13の膜厚は、溶液の濃度、及び、スピンコート時の回転数を制御することにより、略70nmの厚さにした。
【0074】
次に、発光層13上に、電子注入層14としてフッ化ストロンチウム(SrF)を抵抗加熱蒸着法にて、陽極11のストライプと直交するように、幅2mm、長さ25mmのストライプ状に3nmの膜厚で形成した。次に、陰極15として、マグネシウム(Mg)を抵抗加熱蒸着法にて、SrF膜上にSrFと同じ形状になるように、幅2mm、長さ25mmのストライプ状に100nmの膜厚で形成した。これにより、発光面が2mm×2mmの有機EL素子100を得た。
【0075】
(実施例2)
陰極15以外は実施例1と同様に有機EL素子を作製し、陰極15にはAlを用い、膜厚は100nmとした。
(実施例3)
陰極15以外は実施例1と同様に有機EL素子を作製し、陰極15にはZnを用い、膜厚は100nmとした。
【0076】
(比較例1)
陰極15以外は実施例1と同様に有機EL素子を作製し、陰極にはAgを用い、膜厚は100nmとした。
(比較例2)
陰極15以外は実施例1と同様に有機EL素子を作製し、陰極にはAuを用い、膜厚は100nmとした。
(比較例3)
陰極15以外は実施例1と同様に有機EL素子を作製し、陰極にはBaを用い、膜厚は100nmとした。
【0077】
<発光輝度の比較>
表2は、実施例1〜3及び比較例1〜3の有機EL素子の駆動電圧が4Vのときの発光輝度、及び、陰極のポーリングの電気陰性度を示したものである。実施例1〜3及び比較例1〜3の有機EL素子は、陰極15以外はすべて同様の素子構成になっている。
【0078】
【表2】

【0079】
表2において、陰極材料のポーリングの電気陰性度が1.30〜1.70である実施例1〜3の有機EL素子は、駆動電圧4Vにおいて充分に発光していることが分かる。これに対し、陰極材料のポーリングの電気陰性度が1.70よりも大きい比較例1〜3の有機EL素子は、実施例1〜3の有機EL素子と比較してほとんど発光していないのが分かる。比較例1及び2の有機EL素子がほとんど発光していないのは、陰極を構成するAgやAuの電気陰性度が1.70よりも大きいため、陰極材料が電子注入層を還元することができず、有機層への電子注入が充分に行われていないためであると考えられる。また、比較例3の有機EL素子が発光していないのは、陰極を構成するBaの電気陰性度が1.30よりも小さいため、安定性が低く、陰極に電流が流れないためであると考えられる。
この測定結果により、本発明の素子構成である陰極材料のポーリングの電気陰性度が1.30〜1.70でなければ、充分な発光特性を得ることができないことが分かる。
【0080】
(実施例4)
電子注入層14及び陰極15以外は、実施例1と同様に有機EL素子を作製した。本実施例では、電子注入層14にはCaFを用い、膜厚は5nmとし、陰極15にはZnを用い、膜厚は100nmとした。同様にして、このような構成の有機EL素子を合計20個作製した。
【0081】
(比較例4)
電子注入層14及び陰極15以外は、実施例1と同様に有機EL素子を作製した。本比較例では、電子注入層にはCaを用い、膜厚は5nmとし、陰極にはZnを用い、膜厚は100nmとした。同様にして、このような構成の有機EL素子を合計20個作製した。
【0082】
(比較例5)
電子注入層14及び陰極15以外は、実施例1と同様に有機EL素子を作製した。本比較例では、電子注入層にはCaClを用い、膜厚は5nmとし、陰極にはZnを用い、膜厚は100nmとした。同様にして、このような構成の有機EL素子を合計20個作製した。
【0083】
<電流効率のばらつき比較>
図2は、実施例4、比較例4及び比較例5の有機EL素子について、輝度1000cd/mでの電流効率(cd/A)をそれぞれ20個ずつ測定し、電流効率の値のばらつきを示したものである。実施例及び比較例の素子構成は、下記の構成となっており、電子注入層を構成する材料のみが異なっている。
(実施例4)陽極/有機層/CaF(電子注入層)/Zn(陰極)
(比較例4)陽極/有機層/Ca(電子注入層)/Zn(陰極)
(比較例5)陽極/有機層/CaCl(電子注入層)/Zn(陰極)
【0084】
図2より、実施例4では、作製した素子のうち75%の電流効率は9.0±0.1cd/Aであり、再現性よく発光特性が得られていることが分かる。これに対し、比較例4では、電流効率は8.2〜9.2cd/Aとなり、実施例4と比較して発光特性にばらつきが多いことが分かる。また、比較例5においても、電流効率は7.8〜9.0cd/Aと発光特性がばらついていることが分かる。これは、実施例4において電子注入層を構成するCaFが、酸素や水分と化学反応を起こさず、また潮解性も低いため、非常に安定な材料で形成されているためである。これに対して、比較例4において電子注入層を構成するCaは、酸素や水分と化学反応を起こしやすく、また、比較例5において電子注入層を構成するCaClは潮解性が非常に高いため、比較例4及び5の有機EL素子は、充分に酸素や水分の脱離することができず、発光特性にばらつきが発生してしまったのだと考えられる。この測定結果より、本発明における素子構成が発光特性のばらつきを抑制するのに優れていることが分かる。
【0085】
(実施例5)
電子注入層14及び陰極15以外は実施例1と同様に有機EL素子を作製し、電子注入層14にはBaFを用い、膜厚は2.5nmとし、陰極15には抵抗加熱蒸着法により、MgとAgとを同時に20:1の割合で共蒸着を行ない、膜厚は100nmとした。
【0086】
(実施例6)
電子注入層14及び陰極15以外は実施例1と同様に有機EL素子を作製し、電子注入層14にはSrFを用い、膜厚は2.5nmとし、陰極15には抵抗加熱蒸着法により、MgとAgとを同時に20:1の割合で共蒸着を行ない、膜厚は100nmとした。
【0087】
(実施例7)
電子注入層14及び陰極15以外は実施例1と同様に有機EL素子を作製し、電子注入層14にはCaFを用い、膜厚は2.5nmとし、陰極15には抵抗加熱蒸着法により、MgとAgとを同時に20:1の割合で共蒸着を行ない、膜厚は100nmとした。
【0088】
(比較例6)
電子注入層14及び陰極15以外は実施例1と同様に有機EL素子を作製し、電子注入層にはLiFを用い、膜厚は2.5nmとし、陰極には抵抗加熱蒸着法によりMgとAgとを同時に20:1の割合で共蒸着を行ない膜厚は100nmとした。
【0089】
<寿命特性の比較>
図3は、実施例5〜7及び比較例6の有機EL素子の寿命特性の評価結果である。
寿命測定は一定電流で輝度1000cd/mから行った。図3より、実施例5の有機EL素子においては、測定開始から時間とともに輝度がなだらかに減少し、輝度半減時間(輝度が500cd/mになるまでの時間)が260時間であった。また、実施例6の有機EL素子においても、測定開始から時間とともに輝度がなだらかに減少し、輝度半減時間が220時間であった。更に、実施例7の有機EL素子においても、測定開始から時間とともに輝度がなだらかに減少し、輝度半減時間が190時間であった。これらに対し、比較例6の有機EL素子においては、測定開始直後、急激に輝度が低下し、輝度半減時間が90時間程度と実施例5と比較して3分の1弱程度であった。これは、比較例6の有機EL素子では、Liのイオン半径が0.74Åと小さいため、Liが発光層を陽極方向へ拡散しやすく、励起子の失活サイトになっていると考えられる。一方、実施例5〜7の有機EL素子では、Ba、Sr及びCaのイオン半径がそれぞれ1.36、1.13及び1.10Åと大きいため、Ba、Sr及びCaの拡散は、比較例6のLiと比較して緩やかに進んでいると考えられる。したがって、本発明における有機ELの素子構成は素子の寿命特性に優れていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の実施形態1に係る有機EL素子の一例を示す概略断面図である。
【図2】実施例4、比較例4及び比較例5の有機EL素子をそれぞれ20個づつ測定し、輝度1000cd/mでの電流効率(cd/A)の値のばらつきを示したものである。
【図3】実施例5〜7及び比較例6の有機EL素子の寿命特性の評価結果である。
【図4】(a)は、本発明の実施形態2に係る有機ELディスプレイを示す概略断面図である。(b)は、本発明の実施形態2に係る有機ELディスプレイを基板側から見たときの概略平面図である。
【図5】本発明の実施形態3に係る有機ELディスプレイを示す概略断面図である。
【図6】従来の有機EL素子を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0091】
10、21:基板
11:陽極
12:正孔輸送層
13:高分子材料から構成される発光層
14:CaF、SrF及びBaFからなる群より選択された少なくとも一つを含む材料から構成される電子注入層
15:ポーリングの電気陰性度が1.30〜1.70の単体を含む材料から構成される陰極
20:有機層
22:薄膜トランジスタ
23:平坦化膜
24:ゲート配線
25:ソース配線
26:スルーホール
27:絶縁膜
30:直流電源
40:発光部
54:電子注入層
55:陰極
100:有機EL素子
201:ゲート電極
202:ゲート絶縁膜
203:島状半導体層
204:ソース電極
205:ドレイン電極
500:パッシブマトリクス駆動方式の有機ELディスプレイ
600:アクティブマトリクス駆動方式の有機ELディスプレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極、陰極、陽極と陰極との間に設けられた発光層を含む有機層、及び、陰極と有機層との間に設けられた電子注入層を備える有機エレクトロルミネセンス素子であって、
該有機層は、高分子材料から構成される層を含み、
該電子注入層は、有機層中の高分子材料から構成される層と接し、かつフッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム及びフッ化バリウムからなる群より選択された少なくとも一つを含む材料から構成される層であり、
該陰極は、ポーリングの電気陰性度が1.30〜1.70の単体を含む材料から構成される層であることを特徴とする有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項2】
前記陰極を構成する材料は、更に、ポーリングの電気陰性度が1.70よりも大きい単体を含むことを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項3】
前記高分子材料から構成される層は、発光層であることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項4】
請求項1記載の有機エレクトロルミネセンス素子を含んで構成されたことを特徴とする有機エレクトロルミネセンスディスプレイ。
【請求項5】
請求項1記載の有機エレクトロルミネセンス素子の製造方法であって、
該製造方法は、真空蒸着法により電子注入層上に陰極を形成する工程を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネセンス素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−78036(P2008−78036A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−257610(P2006−257610)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】