説明

有機エレクトロルミネセンス素子

基板と、基板上に配置され、第1の極性の電荷を注入するための第1の電極と、第1の電極上に配置され、前記第1の極性と反対である、第2の極性の電荷を注入するための第2の電極と、第1および第2の電極間に配置される有機エレクトロルミネセンス層と、高分子分散型液晶(PDLC)の層とを備え、前記PDLCの層は、それ自体に関連付けられた電極と、切替え可能なPDLCセルを形成する駆動回路を有していないた有機エレクトロルミネセンス素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネセンス素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネセンス素子は、例えば国際公開第13148号および米国特許第4539507号から知られている。このような素子の例は、図1および図2に示されている。このような素子は、一般に、基板2と、基板2上に配置され、第1の極性の電荷を注入するための第1の電極4と、第1の電極4上に配置され、前記第1の極性と反対の第2の極性の電荷を注入するための第2の電極6と、第1および第2の電極間に配置される有機発光層8と、第2の電極6上に配置される封止材10とを備える。図1に示す一つの構成では、基板2および第1の電極4が、有機発光層8の放出する光が通過できるように透明である。このような構成は、下面発光有機エレクトロルミネセンス素子として知られている。図2に示す別の構成では、第2の電極6および封止材10が、有機発光層8から放出する光が通過できるように透明である。このような構成は、上面発光有機エレクトロルミネセンス素子として知られている。
【0003】
上記構造の変形例も知られている。第1の電極はアノードでもよく、第2の電極はカソードでもよい。代替として、第1の電極はカソードでもよく、第2の電極はアノードでもよい。電荷の注入および輸送を補助するために、更なる層を電極および有機発光層の間に備えてもよい。有機発光層中の有機材料は、小分子、デンドリマーまたはポリマーを含んでもよく、燐光部分および/または蛍光部分を含んでもよい。該発光層は、発光部分、電子輸送部分および正孔輸送部分を含んだ材料のブレンドを含んでもよい。こうした部分は、単一の分子中または別々の分子中に設けられてもよい。
【0004】
図3(a)および3(b)は、有機エレクトロルミネセンス素子の構造のより複雑な変形例を示す。
【0005】
図3(a)に図示する下面発光素子は、基板12(例えば、ガラス);透明アノード14(例えば、ITO);正孔注入層16(例えば、PEDT);正孔輸送層18(例えば、トリアリールアミン含有ポリマーを含む);発光層20(例えば、エレクトロルミネセンスポリマーを含む);ならびに低仕事関数の電子注入層22(例えば、バリウム)および反射層24(例えば、Al)を備えた反射カソード構造を備える。
【0006】
図3(b)に図示する上面発光素子は、基板26(例えば、ガラス);反射層28(例えば、AlまたはAg合金);アノード30(例えば、ITO);正孔注入層32(例えば、PEDT);正孔輸送層34;発光層36(例えば、エレクトロルミネセンスポリマーを含む);ならびに低仕事関数の電子注入層38(例えば、バリウム)、バッファー層40、例えば、国際公開第2008/029103号に開示されるような酸化タングステン、および透明導電層42(例えば、ITO)を備えた透明カソード構造を備える。
【0007】
上記したタイプの素子の構成を設けることにより、複数の発光画素を備えたディスプレイを形成し得る。画素は、同じタイプにして単色ディスプレイを形成してもよく、異なる色にして多色ディスプレイを形成してもよい。
【0008】
有機エレクトロルミネセンス素子に伴う問題は、有機発光層中の有機発光材料の放出する光の多くが、素子から出てこないことである。その光は、内部反射、キャビティ効果、導波、吸収などにより、素子内で失われる恐れがある。例えば、光は、素子平面に対してある範囲の角度に亘って、エレクトロルミネセンス層から放出されることは理解されよう。浅い角度で素子中の界面にぶつかった光は、内部で反射され得る。素子内の2つの反射界面間には、光キャビティが形成され得る。
【0009】
反射金属層、および屈折率の差が大きい層間(例えば、上面発光構造におけるITO対空気)の界面により、有機エレクトロルミネセンス素子中に生成するキャビティ効果は、乏しい光取出しを起こし得る(しかし他方では、キャビティの最適化により光取出しを増加させることができる)。相殺的干渉モードが生成し得るため、有機エレクトロルミネセンス素子の全体的出力効率が低下し、幾つかの事例では干渉縞が明らかになる。乏しい光取出しを起こす現象は、例えば米国特許第7276848号により詳細に記載されている。
【0010】
図4は、有機エレクトロルミネセンス素子内の界面で反射し得る光の様子を図示している。図4(a)は、図3(a)に図示した前記の下面発光構造に対応する。図4(b)は、図3(b)に図示した前記の上面発光構造に対応する。各層は、明確にするために、図3に使用したものと同じ参照番号で付番してある。
【0011】
図4(a)から分かるように、下面発光素子の場合、反射カソードにぶつかる放射光の通常85%超が、下側方向に反射される。通常約2%が、PEDT/ITO界面から後方反射され、通常約2%が、ITO/ガラス界面から後方反射される。
【0012】
図4(b)から分かるように、上面発光素子の場合、反射アノード層にぶつかる放射光の通常90%超が、上側方向に反射される。通常約2%が、ITO/PEDT界面からも上方へ反射される。しかし、光の0〜85%が、カソード構造中のBa/バッファー界面から後方反射され、通常11%が、素子の上面にあるITO/空気界面から後方反射される。
【0013】
ITO/空気界面における屈折率のミスマッチが、ITO/電子注入電極界面におけるものより大きい事実のために、上面発光構造における追加の損失が発生する。その上、反射アノード層は、下面発光の場合より大きな強度の共鳴モードを形成する。
【0014】
有機エレクトロルミネセンス素子に対する光取出しは、ディスプレイの効率および画質を改善する重要な要素である。有機エレクトロルミネセンス素子の内部効率は、発光材料の新たな設計を介して改善し得るが、発光層から生じる光の実質的部分は、乏しい光取出しにより失い得る。
【0015】
有機エレクトロルミネセンス素子から出てくる光量を増加させる一つの方法は、素子構造に光散乱要素(複数可)を組み込むことによって、素子内での光の内部反射を除去または相当程度減少させ、それにより素子の外部効率を改善することである。
【0016】
有機エレクトロルミネセンス素子に対する光散乱要素またはマイクロレンズアレイの追加などの技法は、光の取出しを改善するために従来技術において実施されてきた。
【0017】
米国特許第5955837号には、無機粒子の層からなる光散乱層、例えばTiO2粒子の単層を備えた有機エレクトロルミネセンス素子が開示されている。
【0018】
米国出願公開第2007/0108900号には、粗面化ガラス表面、透明粒子層、分散無機粒子を含有するポリマー膜、または多重層を含有するコポリマー膜の1つから選択される、光散乱層を備えた有機エレクトロルミネセンス素子が開示されている。
【0019】
米国特許第7276848号には、粗面化表面、無機粒子の層、および分散無機粒子を含有するポリマー膜の1つから選択される、光散乱層を備えた有機エレクトロルミネセンス素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】米国特許第4539507号
【特許文献2】国際公開第2008/029103号
【特許文献3】米国特許第7276848号
【特許文献4】米国特許第5955837号
【特許文献5】米国出願公開第2007/0108900号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の目的は、上記の当該層に対する代替光散乱層を備えた有機エレクトロルミネセンス素子を提供することである。本発明の一実施形態の目的は、製造が容易であって、有機エレクトロルミネセンス素子の他の層に全く損傷を与えずに、有機エレクトロルミネセンス素子の製造に既に利用されている堆積法を用いて、有機エレクトロルミネセンス素子の層を形成するために容易に処理できる、光散乱材料を含んだ有機エレクトロルミネセンス素子を提供することである。本発明の一実施形態の更なる目的は、散乱特性を、容易に選定でき、しかも素子の特定の構造体または使用に望ましい散乱量に従ってその場で調節さえできる、光散乱層を備えた有機エレクトロルミネセンス素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明によれば、高分子分散型液晶(PDLC)でできた光散乱層を備える有機エレクトロルミネセンス素子が提供される。
【0023】
PDLCは公知である。それは、分散状態の液晶液滴をその中に配置したポリマーマトリックスを含む。従来技術では、PDLCは、セルを形成する2個の電極間にPDLCを配置することにより、光シャッターとして使用される。セル両極間に電圧を印加しない場合、液滴内の液晶分子には全体的な配向性がなく、セルに入射する光は、ポリマーマトリックスの屈折率、およびポリマーマトリックスの屈折率とは異なる非配列液晶の屈折率の両方に従って影響されよう。光は、ランダムに配向した液晶分子とポリマーマトリックスとの屈折率の差のために、液滴とポリマーマトリックスとの界面で散乱される。この状態では、セルは不透明または曇って見える。セル両極間に電圧を印加した場合、各液滴内の液晶分子は印加電場に合わせて配列する。印加電場方向の液晶分子の屈折率は、液晶分子の配列により変化する。ポリマーマトリックスおよび液晶材料は、配列状態において、配列方向の液晶の屈折率がポリマーマトリックスとの屈折率と等しくなるように選定される。したがって、配列方向のPDLCに入射した光は、散乱されず、セルは透明または実質的に透明に見える。したがって、こうしたPDLCは、透明状態と不透明状態との間で切り替えできるプライバシーウィンドウとして使用することができる。このようなセルのアドレス可能なアレイが、バックライトを備えれば、従来の液晶ディスプレイと同様にしてディスプレイ装置を形成することができる。光シャッターとして使用するPDLCの切替え可能な光散乱性は、例えば、「Montgomery et. al., "Light scattering from polymer-dispersed liquid crystal films: Droplet size effects", J. Chem. Phys. 69(3), 1991およびWest et. al., "Haze-free polymer dispersed liquid crystals utilizing linear polarizers", Appl. Phys. Lett. 61(17), 1992」で考察されている。
【0024】
PDLC光シャッターセルを有機エレクトロルミネセンスディスプレイ装置に組み込むことも、特開2006−276089号公報から公知である。この文献は、使用中のディスプレイの非発光画素から周辺光が後方反射する問題を対象としている。この問題を解決するために、必要に応じて光を遮断または透過できるように、アドレス可能なPDLCセルが、発光性画素のアレイに隣接して設けられる。しかし、この配置における一欠点は、有機エレクトロルミネセンス画素とは独立にPDLCセルを駆動するために、追加の電極および駆動回路を装置に組み込む必要があり、そのため装置の設計が複雑になることである。
【0025】
本発明は、本出願が配列状態および非配列状態間でPDLCの切替えを必要としない点で、既述したPDLCの使用と異なる。そうではなく、内部反射および/またはキャビティ効果を減らし、そのため装置からの光出力を増すために、光を散乱する実質的に同じ状態に留まるようにPDLCを設ける。
【0026】
上記に鑑みて、本発明の第1の態様によれば、基板と、基板上に配置され、第1の極性の電荷を注入するための第1の電極と、第1の電極上に配置され、前記第1の極性と反対である、第2の極性の電荷を注入するための第2の電極と、第1および第2の電極間に配置される有機エレクトロルミネセンス層と、高分子分散型液晶(PDLC)層とを備え、PDLCの層は、それ自体に関連付けられた電極と、切替え可能なPDLCセルを形成する駆動回路を有していない有機エレクトロルミネセンス素子が提供される。
【0027】
本発明者らは、例えば、背景の項で考察した従来技術の構成に開示されているような分散無機粒子を含有するポリマー膜と同様に、有機エレクトロルミネセンス素子からの光出力を増すために、PDLC層が、光散乱層として使用できることを確認した。PDLC層は、有機エレクトロルミネセンス素子の他の層に全く損傷を起こさず、有機エレクトロルミネセンス素子の製造に既に利用されている堆積法を用いて、有機エレクトロルミネセンス素子の層を形成するように、容易に製造し、簡単に処理することができる。更に、PDLC層の光散乱性は、特定の素子構造体または使用に望ましい散乱量に従って、容易に選定し、その場で調節さえすることができる。
【0028】
PDLC層は、有機エレクトロルミネセンス層が放出する光に対して、透過性または実質的に透過性となるように作製することができる。本発明の実施形態によるPDLC層は、散乱量が、内部反射およびキャビティ効果を低下させるのに十分であり、同時にその層を不透明にする、または曇らせるほど高過ぎないことを保証するように、設計し得る。
【0029】
散乱量が、内部反射およびキャビティ効果を低下させるのに十分であり、同時にその層を不透明にする、または曇らせるほど高過ぎないことを保証する方法が、幾つか可能である。これは、PDLCにより散乱される光の量が、所望の効果を実現するために調節し得る幾つもの異なるパラメーターに敏感であるためである。こうしたパラメーターには、PDLC中の液晶分子の配列度、PDLC層の厚さ、PDLC中の液晶液滴のサイズ、ポリマーマトリックスにおける液晶液滴の体積分率、および特定の配列度に対する液晶液滴とポリマーマトリックスとの屈折率の平均差異が挙げられる。
【0030】
したがって、有機エレクトロルミネセンス層から放出される光を、内部反射およびキャビティ効果を低下させるのに十分な量で散乱させ、同時にその層を不透明にする、または曇らせるほど高過ぎる光の散乱を起こさない所望の機能効果を実現するために、少なくとも以下の可能性およびそれらの組合せが存在する。
【0031】
(1.PDLC層の厚さの調節)
PDLC層は、有機エレクトロルミネセンス層が放出する光に対して透過性または実質的に透過性になるだけの薄さにすることができる。PDLC層は、好ましくは10μm未満、より好ましくは6μm未満、更により好ましくは3μm未満、最も好ましくは2μm未満である。この層は、有機エレクトロルミネセンス層が放出する光の波長に比して薄過ぎるならば、光の散乱が全くまたは殆ど起こらない。可視スペクトル全体に亘って(例えば、赤色、緑色および青色発光画素に対して)効率的な光散乱が必要であれば、PDLC層は、好ましくは厚さが0.7μm以上、最も好ましくは1μm以上(例えば、1〜2μmの範囲)となろう。しかし、本発明のある種の実施形態では、可視スペクトル全体に亘る効率的な光散乱が必ずしも必要ないので、例えば1μm未満、0.7μm未満、更に約0.5μmもの低ささえのより薄いPDLC層を設けることが可能である。このような超薄手PDLC層は、赤色光および緑色光を効率的に散乱することはなかろう。しかし、そうした層は、青色光を依然として散乱することになろう。これは、青色有機エレクトロルミネセンス材料の寿命が、赤色および緑色有機エレクトロルミネセンス材料の寿命より有意に短いので、有機エレクトロルミネセンス素子にとって特に有利である。このように、青色発光画素の寿命は、有機エレクトロルミネセンスディスプレイの寿命に対する制限因子である。超薄手PDLC層を用いて、有機エレクトロルミネセンスディスプレイからの青色光出力を増加させれば、青色画素がより穏やかに駆動され、そのため青色画素の寿命が増加し、そのためディスプレイの寿命も増加することができる。したがって、本発明のある種の実施形態によれば、有機エレクトロルミネセンス素子中にPDLCの超薄層を組み込むことにより、その中に配置された青色発光画素の寿命が増加する。
【0032】
(2.PDLC層における液晶液滴のサイズの調節)
この液滴サイズは、PDLC層が、有機エレクトロルミネセンス層が放出する光に対して透過性または実質的に透過性になるように、十分小さくすることができる。PDLC層内の液晶液滴のサイズは、変化することになろう。液滴のサイズ分布は、製造プロセスに左右されよう。好ましくは液滴の少なくとも50%、より好ましくは液滴の少なくとも70%、更により好ましくは液滴の少なくとも90%が、2μm以下の直径をもつことになろう。層の厚さに関して既に考察したように、有機エレクトロルミネセンス層が放出する光の波長に比して、液滴の直径が小さくなり過ぎるならば、光の散乱が全くまたは殆ど起こらない。可視スペクトル全体に亘って(例えば、赤色、緑色および青色発光画素に対して)効率的な光散乱が必要であれば、液滴直径は、好ましくは0.7μm以上(例えば、液滴の少なくとも50%、70%または90%が1〜2μmの範囲)となろう。しかし、層の厚さに関して既に考察したように、本発明のある種の実施形態では、可視スペクトル全体に亘る効率的な光散乱が必ずしも必要ないので、50%、70%または90%が、例えば1μm未満、0.7μm未満、更に約0.5μmもの低ささえの直径を有する、より小さな液晶液滴のPDLC層を設けることが可能である。このような極小滴PDLC層は、赤色光および緑色光を効率的に散乱することはなかろう。しかし、そうした層は、青色光を依然として散乱すると見込まれ、青色発光画素の寿命を増加させるために使用し得る。
【0033】
1つの配置では、層の厚さおよび液滴のサイズは、液滴の単層を含むPDLC層を形成するように、選択し得る。PDLC層は、例えば、圧縮して、高さより幅が大きい長円形の液滴を形成することにより、非球形液滴を形成するように堆積させることさえし得る。この配置は、より薄いPDLC層を生じることができる。この事例では、先に考察した液滴直径の範囲は、素子の平面における液滴の幅に適用すべきである。
【0034】
(3.PDLC層における液晶液滴の体積分率の調節)
この体積分率は、PDLC層が、有機エレクトロルミネセンス層が放出する光に対して透過性または実質的に透過性になるように、十分小さくすべきである。液晶液滴の体積分率の低下は、一般に光散乱の量を低下させることになろう。体積分率は、内部反射および/またはキャビティ効果を低下させるのに十分な散乱を保証し、同時にその層を不透明にする、または曇らせるほど多過ぎる光の散乱をしないように、選定し得る。PDLCにおける液晶液滴の体積分率の典型的な値は、5〜50%の範囲に入る。
【0035】
(4.液晶とポリマーマトリックス材料との屈折率の差の調節)
液晶とポリマーマトリックス材料との屈折率の差が大きいほど、それだけ多くの散乱が起きよう。屈折率の差が、内部反射および/またはキャビティ効果を低下させるために十分な散乱を保証するのに十分大きく、同時にその層を不透明にする、または曇らせるほど多過ぎる光の散乱をさせないように、材料を選定し得る。通常、光シャッター用途の場合、配列状態の液晶材料の屈折率は、配列方向において、ポリマーマトリックス材料の屈折率と等しい、または実質的に等しいが、非配列状態の液晶材料の屈折率は、ポリマーマトリックスの屈折率と有意に異なる。本発明は光散乱に関するので、このかなり厳密な要件は必要ない。配列状態の液晶材料の屈折率は、ポリマーマトリックス材料の屈折率と異なっていてもよく、例えば、20°における>0.1または>0.2の屈折率の差ができてもよい。同様に、非配列状態の液晶材料とポリマーマトリックスとの屈折率の差は、本発明のある種の実施形態による光シャッター配置の場合と同じ大きさとなる必要はなく、例えば、20°において<0.2または<0.1である(しかし、より薄い膜の場合、屈折率の差はより大きくなるべきである)。このため、本発明で利用し得る液晶材料の範囲は増加することになろう。
【0036】
本発明の実施形態では、液晶分子は、配列および非配列状態間で切替え可能である必要がないので、液晶材料の粘度は、切替え可能とするために相対的に低い粘度を要する光シャッター配置の場合より高くすることができる。やはり、このために、本発明で利用し得る液晶材料の範囲は増加することになろう。製造の方法に応じて、液晶材料の粘度は、適切なサイズの液滴を形成するために、液晶材料のポリマーマトリックス材料からの相分離を可能とするのに十分低いことが必要なこともある。通常、液晶の粘度は、20℃において60〜90cPの範囲に入り得る。
【0037】
液晶分子が、最終素子において切替え可能である必要がないとすれば、1つの可能性に従えば、液晶は20℃において固体にさえなり得る。該PDLCは、適切なサイズの液滴を形成するために、液晶が相分離できるより高い温度で形成し得るものであり、次いで冷却した際、液晶分子の配列状態は、素子の正常な作動条件でPDLC中へ凍結される。一実施形態では、PDLC層は、加熱してその滴を液化し、電極を設けて液滴を配列させ、次いで冷却して配列を適所に凍結し得る。電極は、この層の冷却の前または後に除かれる。
【0038】
有機エレクトロルミネセンス素子は、好ましくは上面発光(透明なカソード)素子であり、PDLC層は、透明なカソード上に設けられる。図4(a)および4(b)に示されるように、本出願人は、内部反射および損失性のキャビティモードによる光損失は、下面発光素子より上面発光素子の方が大きいことを見出した。
【0039】
好ましくは、第1の電極はアノードであり、第2の電極はカソードである。カソードは、低仕事関数(3.5eV未満、好ましくは3eV未満)の金属(例えば、バリウム)または金属化合物(例えば、フッ化リチウム)などの電子注入材料の層を、その上の高仕事関数(>3.5eV、好ましくは>4eV)の金属、例えばアルミニウムなどの金属キャッピング層と共に備えてもよい。電子注入材料の層は、厚さが好ましくは10nm未満、より好ましくは厚さがおよそ5nmである。このようなカソードは、通常反射性となろうが、電子注入層およびキャッピング層が、共に十分に薄い、例えば5〜10nmの範囲に入る場合、カソードは透明になり得る。代替的なカソードは、バリウム層をその上の銀層と共に利用する。こうした層は、各々、厚さが好ましくは10nm未満、より好ましくは、各層の厚さがおよそ5nmである。このカソードは、前記のバリウム/アルミニウム配置より透明である。代替的な更なる透明カソード構造は、電子注入層、および透明な導電性酸化物、とりわけインジウムスズ酸化物(ITO)のキャッピング層を備える。この場合には、好ましくは、ITO層と素子の下側層との間にスパッタバリアー層を設けることにより、前記下側層に対するスパッタ損傷を防止する。適切なスパッタバリアーは、効率的な電子注入も可能にすべきであり、セレン化もしくは硫化金属(例えば、ZnSもしくはZnSe)などの無機層、または有機層、とりわけ金属ドープフラーレン層などのドープ層でもよい。低仕事関数の金属(例えば、アルカリ土類金属)または金属酸化物もしくは金属フッ化物の層などの薄く透明な電子注入層は、素子の有機層(複数可)とスパッタバリアー層との間に設け得る。
【0040】
PDLC散乱層は、有機エレクトロルミネセンス層の発光色に従って調節することができる。フルカラーディスプレイでは、異なる色の画素のために、所望であれば異なるPDLC構造を設けることができる。
【0041】
有機エレクトロルミネセンス層および/またはPDLC層は、好ましくは、例えば、インクジェット印刷またはスピンコーティングにより溶液から堆積される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、下面発光有機エレクトロルミネセンス素子の既知構造を示す図である。
【図2】図2は、上面発光有機エレクトロルミネセンス素子の既知構造を示す図である。
【図3】図3(a)および(b)は、下面発光および上面発光有機エレクトロルミネセンス素子それぞれの更なる既知構造を示す図である。
【図4】図4(a)および(b)は、図3(a)および3(b)にそれぞれ例示した素子内で、内部反射する放出光の様子を例示した図である。
【図5】図5は、本発明の実施形態による、PDLC光散乱層を備えた上面発光有機エレクトロルミネセンス素子を示す図である。
【図6】図6(a)および(b)は、本発明の実施形態に従って、異なる2種のPDLC光散乱層において光が散乱する様子を例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下に、本発明の実施形態を、例示だけのために添付する図面を参照しながら説明する。
【0044】
図5は、本発明の実施形態による、PDLC光散乱層を備えた上面発光有機エレクトロルミネセンス素子を示す。この上面発光素子の構造は、図3(b)および4(b)に例示した構造に類似しており、類似の参照数字は、対応する各層に対して使用した。この素子構造は、基板26(例えば、ガラス)、反射層28(例えば、AlまたはAg合金)、正孔注入層30(例えば、ITO)、正孔注入層32(例えば、PEDT)、正孔輸送層34(例えば、トリアリールアミン含有ポリマーを含む)、発光層36(例えば、エレクトロルミネセンスポリマーを含む)、ならびに低仕事関数の電子注入層38(例えば、Ba)、バッファー層40および透明導電層42(例えば、ITO)を備えた透明カソード構造を備える。
【0045】
図5に例示した配置では、PDLC光散乱層44が、透明導電層42の上に設けられている。
【0046】
図6(a)および6(b)は、本発明の実施形態に従って、異なる2種のPDLC光散乱層において光が散乱する様子を例示する。
【0047】
図6(a)に例示した配置では、PDLCが完全に配列した状態に調節されている。この場合には、配列方向の液晶48の屈折率が、ポリマーマトリックス46の屈折率と等しく、配列方向に放出された光は散乱されないが、他の角度方向に放出された光は散乱すると見込まれるように、ポリマーマトリックス46および液晶材料48を選定し得る。既に記載したように、光は、素子平面に対してある範囲の角度に亘ってエレクトロルミネセンス層から放出される。素子中の界面に浅い角度でぶつかる光は、内部で反射することができる。しかし、PDLCが、素子平面に対して垂直な方向に完全に配列している場合でも、この光は、PDLCにより散乱され、内部反射および/またはキャビティ効果を低減させることになろう。
【0048】
代替として、図6(b)に例示するように、各液滴中の液晶材料48が、ポリマーマトリックス46内で相異なる方向に配向している非配列状態に、PDLCを設けることもなし得る。この配置では、有機エレクトロルミネセンス層から全ての角度方向に放出される光が、散乱されることになろう。
【0049】
上記したような光散乱性を実現するには、ポリマー−液晶混合物は、液晶がポリマーから相分離して、液滴を形成せざるを得ないようなものであることが重要である。これは、例えば、始めに液晶と均一化する前駆体ポリマーを使用することにより、実現することができる。その後、ポリマーの変換または乾燥段階の間に、液晶相が分離し、ポリマー中に分散した個別の液晶液滴が形成される。この技法は、重合相分離(PIPS)の名で知られている。この重合法は、熱(例えば、エポキシ樹脂/硬化剤)またはUV光(例えば、アクリレート)により開始し得る。UV架橋型ポリマーマトリックスは、常温で架橋マトリックスを形成するために利用し得る。
【0050】
具体例として、Norland光学接着剤などのポリマーがポリマーマトリックスとして広く使用される。こうしたものは、通常数百センチポイズの粘度を有し、紫外線で架橋される。SU−8などの架橋性ポリマーは、スピンコーティングが可能なように、高粘度光学接着剤の代替品として使用することができる。
【0051】
PDLC光散乱層を形成するための液相堆積法は、有機エレクトロルミネセンス素子、特に高分子発光素子に使用される液相堆積法に適合するので好ましい。例えば、米国特許第6866887号は、相分離を実現するために蒸発速度を制御したスピンコーティングによる、PDLC膜の形成を記載している。その上、PDLC混合物のインクジェット印刷も、Heilmannにより記載されている(http://www.vtt.fi/liitetiedostot/cluster5_metsa_kemia_ymparisto/IST%20NIP%202005%20Heilmann.pdf)。ここでは、Norland光学接着剤65が、アニソール系インクからインクジェット印刷された。Merck E7およびE8液晶が、使用された。
【0052】
市販の液晶分子および混合物は、広く選択できる。多くの有機結晶材料は、その有機結晶の分散物が液晶ドメインの分散物と類似した尺度である限り、有益になり得る。PDLC層のパターン化は、エッチング、フォトリソグラフィー法パターン化およびインクジェット印刷などの技法を用いて可能になる。
【0053】
本発明を好ましい実施形態に関して特に示し、説明してきたが、添付した特許請求の範囲に規定されるような本発明の範囲から逸脱せずに、形態および詳細の多様な変化をその中でなし得ることは、当業者により理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に配置され、第1の極性の電荷を注入するための第1の電極と、
前記第1の電極上に配置され、前記第1の極性と反対の第2の極性の電荷を注入するための第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に配置される有機エレクトロルミネセンス層と、
高分子分散型液晶(PDLC)の層と、
を備え、
前記PDLCの層は、それ自体に関連付けられた電極と、切替え可能なPDLCセルを形成する駆動回路を有していないことを特徴とする有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項2】
前記PDLCの層は、有機エレクトロルミネセンス層が放出する光を、内部反射および/またはキャビティ効果を低下させるのに十分な程度に散乱するように適合されており、有機エレクトロルミネセンス層が放出する光に対して、透過性または実質的な透過性を有している、請求項1に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項3】
前記PDLCは、前記PDLCの各液滴中の液晶分子が素子平面に垂直な方向に配列している配列状態に設けられている、請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項4】
前記PDLCは、前記PDLCの各液滴中の液晶分子が異なる方向に配向している非配列状態に設けられている、請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項5】
前記PDLCは、前記PDLCの各液滴中の液晶分子がランダム方向に配向している非配列状態に設けられている、請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項6】
前記PDLCの層が、0.5μm〜10μmの厚さを有する、請求項1〜5のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項7】
前記PDLCの層が、0.7μm以上または1μm以上の厚さを有する、請求項6に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項8】
前記PDLCの層の中の液晶液滴の少なくとも50%、70%または90%が、2μm以下の直径を有する、請求項1〜7のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項9】
前記PDLCの層の中の液晶液滴の少なくとも50%、70%または90%が、0.7μm以上または1μm以上の直径を有する、請求項8に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項10】
前記PDLCの層が、0.5μm〜1μmの厚さを有する、請求項1〜5のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項11】
前記PDLCの層の中の液晶液滴の少なくとも50%、70%または90%が、0.5μm〜1μmの直径を有する、請求項10に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項12】
前記有機エレクトロルミネセンス層が、青色発光材料を含む、請求項10または11に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項13】
前記PDLCの層が、液滴の単層を含む、請求項1〜12のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項14】
前記PDLCの層が、素子平面における幅が高さより大きい長円形の液滴を含む、請求項1〜13のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項15】
前記PDLCの層の有する液晶液滴の体積分率が、5%〜50%の範囲である、請求項1〜14のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項16】
前記PDLCの層が、配列方向において異なる屈折率を有するポリマーマトリックス材料および液晶材料を含む、請求項1〜15のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項17】
屈折率の差が、20°で、0.1より大きい、または、0.2より大きい、請求項16に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項18】
前記PDLCの層が、20℃で60cP〜90cPの範囲の粘度を有する液晶材料を含む、請求項1〜17のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項19】
前記PDLCの層が、20℃で固体である液晶材料を含む、請求項1〜17までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項20】
前記PDLCの層が、前記第2の電極上に配置されている、請求項1〜19までのいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項21】
前記有機エレクトロルミネセンス素子が上面発光素子であり、前記第1の電極が反射性アノードを含み、前記第2の電極が透明カソードを含む、請求項1〜20のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−509551(P2012−509551A)
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−520586(P2011−520586)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際出願番号】PCT/GB2009/001881
【国際公開番号】WO2010/013010
【国際公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(597063048)ケンブリッジ ディスプレイ テクノロジー リミテッド (152)
【Fターム(参考)】